説明

能動振動騒音制御装置

【課題】車両が走行する路面状態等の構造物の周辺環境が変化した場合であっても違和感無く騒音低減制御を継続することが可能な能動振動騒音制御装置を提供する。
【解決手段】車室内に複数の加速度センサ10a〜10d、及びこの車室内に波動を加えるアクチュエータ20a、20bを設ける。更に、加速度センサ10a〜10dの出力信号に基づき、車室内の制御空間100における騒音を低減するように、アクチュエータ20a、20bの出力を制御するための、制御指令値算出部32を備える。そして、この制御指令値算出部32は、加速度センサ10a〜10dの出力信号の周波数特性が変動した場合に、制御空間での騒音が所望の周波数特性に近づくようにアクチュエータ20a、20bの出力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の構造体の内部に生じる騒音を、波動を出力することにより低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の車室内において車両の走行に伴い発生する騒音を計測し、その騒音を打ち消すような音波を発生して騒音を低減する騒音制御装置や騒音制御方法が提案されている。例えば、車両の車体の振動を検出するための振動検出手段を複数設け、検出した車体の振動に基づいて車両に設置したスピーカや加振器等のアクチュエータを作動させ、車室内の騒音を低減する騒音制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−292771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された騒音制御装置を用いた場合には、適応フィルタを用いた制御を行うため、制御時の騒音の周波数特性を自在に設計することができない。従って、車両が走行する路面の状況が変化した場合には、所望の周波数帯域での騒音低減制御の効果を十分に得ることができなくなり、騒音の音質変化により乗員に不快感を与えるという虞があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、車両が走行する路面状態等の構造物の周辺環境が変化した場合であっても違和感無く騒音低減制御を継続することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、構造物上に配置され構造物の振動を検出するセンサと、構造物内の空間或いは構造物に波動を加える波動印加手段と、前記センサの出力信号に基づき、前記構造物内の制御空間における騒音を低減するように前記波動印加手段を制御する制御手段とを備える。そして、この制御手段は、前記センサの出力信号の周波数に対応する基準となる騒音が変化した場合に、当該基準となる騒音へ近づくように前記波動印加手段による出力を調整する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、構造物(例えば車両)の周辺環境の変化が発生してセンサ信号の周波数特性が変化した場合であっても、制御手段で使用するパラメータを適宜調整して波動印加手段を駆動するので、違和感無く構造物内部の騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る能動振動騒音制御装置の概略を示す説明図であり(a)は車両全体、(b)はタイヤ周辺を示す。
【図2】本発明に係る能動振動騒音制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、制御指令値算出部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、制御指令値算出部による処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、切り替え指示部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、切り替え指示部による処理手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、コントローラによる処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、コントローラで用いるフィルタ係数を再計算する構成を示すブロック線図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係り、車両が路面Aを走行した場合に生じる騒音の周波数特性図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係り、車両が路面A、Bを走行した場合に生じる騒音の周波数特性図である。
【図11】本発明の第1実施形態に係り、車両が路面Bを走行した場合に生じる騒音の周波数特性図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係り、車両が路面Bを走行した場合に生じる騒音の周波数特性図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、コントローラの詳細な構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、コントローラによる処理手順を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第2実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、コントローラで用いるフィルタ係数を再計算する構成を示すブロック線図である。
【図16】本発明の第3実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、切り替え指示部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第3実施形態に係る能動振動騒音制御装置の、切り替え指示部による処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。車両(構造体)の外部から侵入する車室内騒音の原因は、代表的なものとして、エンジンの振動に起因するエンジン騒音、走行時に路面の凹凸の影響がタイヤから進入することに起因する騒音(以下、ロードノイズと称する)、走行時に空気の気流によって発生する風切音等が存在する。本実施形態では、上記の各騒音の中から主としてロードノイズの低減について説明する。
【0010】
図1は、車両が走行している場合の、路面の凹凸の影響による車体の振動、及びロードノイズの主な伝播経路を模式的に示す説明図であり、図1(a)はフロアパネル110と4個のタイヤ200を示した説明図、図1(b)はタイヤ200の側面図である。
【0011】
図1(a)に示すように、4個のタイヤ200から車体に進入したロードノイズの主成分となる振動は、まず図1(b)に示す車軸120及びサスペンション130の取り付け部(図示省略)からメンバ140と称する剛性の高い梁状の部材に進入する。その後、メンバ140によって囲まれた比較的剛性の低い板状の部材であるフロアパネル110に振動が伝播し、このフロアパネル110が振動する。
【0012】
更に、フロアパネル110の振動により車室内の空気振動が引き起こされ、車室内に共振現象を起こすので、車室内の所定の空間100においてロードノイズが聞こえる。本実施形態では、煩雑さを避けるために運転席の右側耳元近傍の空間100(構造物内の制御空間)のみを騒音低減制御空間として扱う。
【0013】
複数の座席や、複数の耳元空間を制御空間とする場合には適宜設定を変更すればよい。フロアパネル110の他にルーフパネルや窓ガラス(いずれも図示省略)が振動することによっても騒音が発生するが、主にサスペンション130の取り付け部から進入するロードノイズの大部分は、フロアパネル110の振動に起因することが判っている。このため、フロアパネル110の振動に起因するロードノイズを打ち消すように騒音制御を行えば、ロードノイズを低減することができる。
【0014】
本発明では、フロアパネル110にセンサ(後述する加速度センサ10)を配置して、このセンサの出力信号に基づいて車室内騒音の推定を行い、制御指令値生成手段により制御指令値を生成し、この制御指令値に基づいてフロアパネル110に設けたアクチュエータ(波動印加部)により発生した制御音を車室内に入力するという手法を採用する。
【0015】
ここで、本発明ではセンサとしてマイクロフォンを使用せず、加速度センサ10の信号から制御空間100の騒音を推定するという方法を用いている。フロアパネル110、或いはメンバ140に設置した加速度センサ10を用いるため、制御対象としてフロアパネル110に起因するロードノイズを扱う。ここで、加速度センサ10の設置場所としてフロアパネル110、或いはメンバ140を選択したのは、車室内騒音との間のコヒーレンス(定義は後述)が高いからである。
【0016】
なお、フロアパネル110やメンバ140を発生源とする騒音が制御対象としてすべて含まれるため、エンジン騒音の一部や車体底部を流れる空気が発生する風切音についても同様に扱うことができる。
【0017】
また、本発明の効果の範囲はフロアパネル110の振動による騒音低減の範疇にはとどまらず、例えばダッシュパネルやフロントグラス、更に、ルーフパネル(いずれも図示省略)といった同一のメカニズムで発生する車室内の騒音発生源に対しても、本発明を当該部位に対して用いるようにすれば、同様の効果を得ることが可能である。
【0018】
図2は、本発明の第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置の構成を概略的に示す説明図である。図2に示すように、本実施形態に係る能動振動騒音制御装置は、フロアパネル110、及びメンバ140の振動を測定するための、4個の加速度センサ10a、10b、10c、10d(以下、個々を区別する必要が無い場合には「加速度センサ10」と称する)と、フロアパネル110、或いはメンバ140に振動を与える波動印加手段としての2個のアクチュエータ20a、20b(以下、個々を区別する必要が無い場合には「アクチュエータ20」と称する)と、加速度センサ10で検出された加速度信号に基づいて車室内騒音を低減する制御指令値を算出し、アクチュエータ20の制御を行う制御装置本体30を備えている。
【0019】
ここで、本実施形態では、アクチュエータ20の一例としてピエゾアクチュエータ(Piezo-electric actuator)を用いる。また、フロアパネル110やメンバ140に設置する形態を採用せず、ダッシュパネルやフロントグラス、ドアパネル、更にルーフパネルといった部位に設置したアクチュエータを用いることも可能である。更に、車室内に設置したスピーカをアクチュエータとして用いることも可能である。
【0020】
制御装置本体30の入力信号は、各加速度センサ10の出力であり、出力信号はアクチュエータ20に出力する制御指令信号である。
【0021】
アクチュエータ20は、制御空間100での騒音を低減するために十分な数が車体のフロアパネル110の適切な位置に貼り付けられている。
【0022】
加速度センサ10の数は一般に振動源の数より多いことが必要とされる。具体的な加速度センサ10の数、及び設置位置は、次の(1)式で示される各加速度センサ10と制御空間100における騒音の音圧との間のコヒーレンスCxy(ω)が十分高くなるように(例えば0.9以上)決定される。
【数1】

【0023】
本実施形態では、加速度センサの個数を4個(10a、10b、10c、10d)とし、アクチュエータの個数を2個(20a、20b)としている。なお、加速度センサ10、アクチュエータ20の数は、任意の数に適宜設定することができる。
【0024】
上述した(1)式において、Pxy(ω)は、加速度と音圧の間のクロスパワースペクトラム、Pxx(ω)、Pyy(ω)は、それぞれ加速度と音圧のオートパワースペクトラムを示している。また、PHはPのエルミート転置行列を表す。
【0025】
制御装置本体30は、信号増幅用の増幅部31(31a〜31f)と、車室内騒音を低減する制御指令値を算出して出力する制御指令値算出部32とを備える。
【0026】
増幅部31a〜31fは、加速度センサ10がいわゆるチャージタイプである場合には、電荷と電圧との間の変換を行う。
【0027】
図3は、図2に示した制御指令値算出部32の詳細な構成を示すブロック図である。図3に示すように、制御指令値算出部32は、A/D変換部33と、切り替え指示部34と、振動伝播特性モデル70と、コントローラ38、及びD/A変換部39を備えている。
【0028】
A/D変換部33は、加速度センサ10(10a〜10d)で検出され、増幅部31a〜31dで増幅された加速度信号α1、α2、α3、α4をディジタル信号に変換し、減算器35aに出力する。
【0029】
振動伝播特性モデル70は、アクチュエータ20で発生した振動が加速度センサ10まで回り込む場合の伝達関数のモデルを示す。通常はオンラインで処理するためにIIRフィルタの形式でメモリ内に保持される。センサ、アクチュエータが複数設けられる場合には(本実施形態では、4個の加速度センサと2個のアクチュエータ)、その数に応じたフィルタを保持しておく。振動伝播特性モデル70では、制御指令信号uにアクチュエータ20からSPL*(騒音レベル;Sound Pressure Level)までのモデルを乗算することにより、アクチュエータ20が加速度センサ10の設置位置に生成する振動を計算する。
【0030】
減算器35aは、加速度センサ10で検出される加速度信号α1〜α4から、アクチュエータ20が加速度センサ10の設置位置に生成する振動を減算する。この結果得られる信号は、加速度センサ10で検出される振動のうち、車両の外部から進入した成分である信号αd(以下これを「減算信号」と称する)のみとなる。
【0031】
切り替え指示部34は、減算器35aより出力される減算信号αdに基づいて、コントローラ38で、制御指令信号uの演算に用いるパラメータを切り替えるか否かを判断するための切り替え指示信号δを生成してコントローラ38に出力する。そして、切り替え指示信号δがパラメータを切り替えることを示す信号である場合には、この切り替え指示信号δと共に、切り替え後におけるパラメータをコントローラ38に出力する。
【0032】
コントローラ38は、減算器35aより出力される減算信号αdに基づいて、制御空間100での騒音を低減するために、アクチュエータ20へ出力する制御指令信号uを演算する。
【0033】
D/A変換部39は、コントローラ38で演算された制御指令信号uをアナログ信号に変換し、アナログ信号に変換された制御指令信号uを図2に示す増幅部31e、31fに出力する。なお、本実施形態では、制御指令値算出部32をいわゆるCPU上に実装する。
【0034】
次に、図4に示すフローチャートを参照して、制御指令値算出部32における処理手順について説明する。
【0035】
まず、ステップS11では、A/D変換部33でディジタル信号に変換された加速度信号α1〜α4が、減算器35aに入力される。その後、フローはステップS12へ移行する。
【0036】
ステップS12では、1ステップ前にコントローラ38より出力された制御指令信号uに、振動伝播特性モデル70のフィルタを乗算し、乗算により得られた信号が減算器35aに出力される。その後、フローはステップS13に移行する。
【0037】
ステップS13では、減算器35aが、ステップS11の処理で得られた各加速度信号α1〜α4から、ステップS12の処理で得られた信号を減算する。その後、フローはステップS14に移行する。
【0038】
ステップS14では、切り替え指示部34が、コントローラ38で使用するパラメータを切り替えるか否かを判定し、更に、切り替え後のパラメータを演算する処理を実行する。また、パラメータを切り替えると判定した場合には、切り替え後のパラメータを出力する。この処理の詳細については、図6に示すフローチャートを参照して後述する。その後、フローはステップS15へ移行する。
【0039】
ステップS15では、コントローラ38が、減算器35aより出力される減算信号αdと、切り替え指示部34より出力される切り替え指示信号δ及びパラメータを用いて、制御空間100での騒音を小さくするための制御指令信号uを演算する。この処理の詳細については、図7に示すフローチャートを参照して後述する。その後、フローはステップS16へ移行する。
【0040】
ステップS16では、D/A変換部39が、コントローラ38より出力される制御指令信号uをアナログ信号に変換して外部へ出力する。
【0041】
図5は、図3に示した切り替え指示部34の処理の流れ(図4のステップS14の処理)を示すブロック線図である。図5に示すように、切り替え指示部34は、PS(パワースペクトル)計算部51と、PS保持部52と、更新判定部37、及びパラメータ更新部41を備えている。
【0042】
PS計算部51は、図3に示す減算器35aより出力された減算信号αdのパワースペクトルSαを演算する。
【0043】
PS保持部52は、1ステップ以上前に出力された減算信号αdのパワースペクトルSα′を記憶する。更新判定部37にて、減算信号αdが変化したと判定された場合には(センサの出力信号の周波数に対応する基準となる騒音が変動した場合には)、PS計算部51に記憶されているパワースペクトルSα′が新たなデータに上書きされる。減算信号αdが変化しないと判定された場合には(センサの出力信号の周波数に対応する基準となる騒音が変動していない場合には)、前回のデータを保持する。
【0044】
更新判定部37は、PS計算部51より出力される今回のパワースペクトルSαと、PS保持部52より出力される1ステップ以上前のパワースペクトルSα′に基づいて、コントローラ38で使用するパラメータを変更するか否かを判定し、この判定結果をパラメータ更新部41に出力する。
【0045】
パラメータ更新部41では、更新判定部37での判定結果を取得し、パラメータを更新する場合には現在のパワースペクトルSαに基づいて新たなパラメータを構成し、センサの出力信号の周波数に対応する基準となる騒音へ近づくように制御されるように、図3に示すコントローラ38に出力する。他方、パラメータを更新しない場合には、更新しないことを示すフラグ信号をコントローラ38に出力する。
【0046】
次に、図4のステップS14に示した切り替え指示信号の演算処理を、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0047】
ステップS21では、PS計算部51にて、切り替え指示部34に入力された減算信号αdのパワースペクトルSαを演算する。例えば、演算周期毎に入力される減算信号αdに対して、ピリオドグラム法やWelchの方法を用いてパワースペクトルを計算することができる。その後、フローはステップS22へ移行する。
【0048】
ステップS22では、更新判定部37に、ステップS21の処理で演算された今回のパワースペクトルSαと、PS保持部52に保持されている1ステップ以上前のパワースペクトルSα′が入力される。そして、更新判定部37は、2つのパワースペクトルSα、Sα′を対比して、図3に示すコントローラ38で用いるパラメータを更新するか否かを判定する。例えば、所定の周波数帯域において、これら2つのパワースペクトルSαの相関係数を求め、相関係数が所定値以下である場合にはパラメータを更新し、所定値以上である場合にはパラメータを更新しない。即ち、加速度センサ10の出力信号の周波数が変動した場合に、制御空間100での騒音レベルが所望の周波数に近づくように、パラメータを更新する。また、各加速度センサ10の周波数特性と、実際に各加速度センサ10で検出された加速度信号の周波数特性との間の相関係数を求め、この相関係数が所定値以下の場合に、コントローラ38のパラメータの更新を行うようにすれば、パラメータの変更を迅速に行うことができ、騒音レベルの変動抑制することができる。
【0049】
更に、予め保持している推定騒音の周波数特性と、新たに取得した推定騒音の間の相関係数を求め、この相関係数が所定の値以下となった場合に、コントローラ38のパラメータの更新を行うようにすれば、制御を行う周波数帯域全体で一つの指標で判別することができ、パラメータの更新が短縮化され、騒音低減制御の変化による違和感を低減することができる。
【0050】
また、加速度信号は複数存在するので、全ての加速度信号の相関係数について上記の演算を実施する。パラメータを更新する場合には、フローはS24へ移行し、パラメータを更新しない場合には、フローはS23へ移行する。
【0051】
ステップS23では、パラメータ更新部41に、パラメータを更新をしないことを示すフラグ信号が出力される。その後、パラメータ更新部41は、コントローラ38で用いるパラメータを更新せずに、フローを終了する。
【0052】
他方、ステップS24では、PS保持部52に保持するデータの値(1ステップ以上前のパワースペクトルSα′)を、PS計算部51より出力された最新のパワースペクトルSαの値に更新する。その後、フローはS25へ移行する。
【0053】
ステップS25では、パラメータ更新部41は、コントローラ38で用いるパラメータを更新する。本実施形態では、パラメータとしてPS計算部51で得られたパワースペクトルSαの概形を表す伝達関数を用いる。この処理では、PS計算部51で得られたパワースペクトルSαに対して、所定の次数でフィッティングを行った伝達関数を計算する。伝達関数の計算は例えば、「足立、『制御のためのシステム同定』、東京電気大学出版、1996」に記載されている方法を用いることができる。パラメータを更新した場合には、更新したパラメータを図3に示すコントローラ38に出力し、フローを終了する。
【0054】
ここで、上述したステップS22の処理では、相関係数を用いてパラメータを更新するか否かを判定しているので、制御を行う周波数帯域全体で、且つ、1つの指標でこの判定を行うことができ、オンラインでの調整が可能となる。
【0055】
本実施形態では、ステップS25において、パラメータとしてPS計算部51で得られたパワースペクトルSαの概形を表す伝達関数を用いた。それ以外にも、加速度パワースペクトルの概形を予め決めておき、そのピークの周波数と減衰係数のみをパラメータとしておくことも可能である。この場合、現在得られたパワースペクトルデータから、それらのパラメータを推定することにより求めることができる。即ち、加速度センサ10の検出信号に基づいて推定される車室内の騒音のピーク周波数の変動に合わせて、このピーク周波数での騒音低減制御の効果が高まるようにパラメータを設定することができる。この場合には、騒音のピーク周波数の変動に対して追従して騒音低減制御を行うことができる。
【0056】
また、加速度センサ10の検出信号に基づいて推定される車室内の騒音のピーク周波数における騒音レベルの変動に合わせて、このピーク周波数における騒音レベルが変動しないようにパラメータを設定することも可能である。この場合には、騒音のピークレベルに追従して騒音低減制御を行うことができる。
【0057】
更に、パラメータとして、制御帯域に通過帯域を持つ帯域通過フィルタを用いることもできる。この方法により、加速度信号の最大周波数、及び最小周波数が変化したときに制御を行う周波数帯域を変更することができる。この場合、加速度信号のパワースペクトルが所定の値以上である周波数帯域の上限、下限を調べ、その値を帯域通過フィルタの遮断周波数とすることでパラメータとして帯域通過フィルタを更新することができる。即ち、加速度センサ10の検出信号に基づいて推定される車室内の騒音のピーク幅に合わせて、このピーク幅の周波数帯域における騒音レベルが変動しないようにパラメータを設定することができる。この場合には、制御を行うべき騒音のピーク幅が変動したときにも、制御指令値算出部32の制御周波数帯域を変更することができ、効率良く騒音低減制御を行うことができる。
【0058】
また、各加速度センサ10で検出される加速度信号αに基づいて推定された車室内の騒音レベルが、予め設定した最大周波数(所定の騒音レベルよりも高い周波数)と異なる場合に、コントローラ38のパラメータの変更することにより、制御するべき周波数帯域が変動した際に、コントローラ38の制御周波数帯域を変更することができるので、騒音低減制御を効果的に行うことができる。
【0059】
次に、図4のステップS15に示したコントローラ38による制御指令信号uの演算処理について、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0060】
ステップS31では、切り替え指示部34の出力である切り替え指示信号δを入力する。その後、フローはS32へ移行する。
【0061】
ステップS32では、入力された切り替え指示信号δが、パラメータの切り替えを指示する信号であるか否かを判定する。切り替えを指示する信号である場合には、フローはステップS33へ移行し、切り替えを指示する信号でなければ、フローはステップS34へ移行する。
【0062】
ステップS33では、切り替え指示信号δとして入力された新たなパラメータを用いて、後述する手法によりコントローラ38で使用するフィルタを更新する。その後、フローはステップS34へ移行する。
【0063】
ステップS34では、減算器35aより出力される減算信号αdをフィルタリングし、制御指令信号uを演算する。その後、フローはステップS35へ移行する。
【0064】
ステップS35では、ステップS34の処理で得られた制御指令信号uを、D/A変換部39に出力し、その後フローを終了する。
【0065】
図8は、コントローラ38で用いるフィルタを求めるために(上述したステップS33の処理)使用するブロック線図である。図8に示すブロック42(図8ではCと記載)は、設計する制御指令値生成フィルタを示し、ブロック50(図8ではGαと記載)は走行時の減算信号αdから制御空間100での騒音レベル(SPL*)までの伝達関数を表す。また、ブロック60(図8ではGpと記載)はアクチュエータ20へ出力する制御指令信号uから制御空間100での騒音レベル(SPL*)までの伝達関数を表す。
【0066】
図8では信号線を1本の線で記載しているが、加速度や制御空間100、アクチュエータ20が複数存在する場合には、その数に応じた複数本の信号線を表す。更にその場合には、各ブロックは多入力、多出力のブロックである。
【0067】
ブロック45a(図8ではWc3と記載)、及び45b(図8ではWc4と記載)は設計パラメータとして用いる重み関数である。ブロック45aの重み関数Wc3には、走行時に入力される加速度の周波数特性を持たせる。その結果、騒音レベルの大きな周波数で、より騒音低減制御の効果を高めることが可能になる。
【0068】
即ち、各加速度センサ10(10a〜10d)の周波数特性に対応した複数のパラメータを予め保持しておき、各加速度センサ10で実際に検出された加速度信号α(α1〜α4)の周波数特性に最も適合するパラメータを選択して制御指令信号uを演算する構成とすれば、周波数の変化に迅速に対応して騒音レベルを低減することができる。
【0069】
また、ブロック45bの重み関数Wc4は、制御指令信号uの最大電圧を制限するために用いる。この重み関数Wc4の値を増加させると、対応するアクチュエータ20のゲインが減少する。この重み関数Wc4もWc3と同様に周波数特性を持たせることができる。この場合は、ある周波数帯域においてのみゲインを低下させることができる。
【0070】
各ブロック45a、45bの重み関数Wc3、Wc4は、微分方程式やラプラス変換で表現された数学モデルを使用する。このモデリングは、以下のように行えばよい。
【0071】
ブロック60の伝達関数Gpは、アクチュエータ20にホワイトノイズ、或いはインパルス信号を入力し、そのとき得られた乗員位置に応じて定められた制御空間100での音圧信号と入力信号を用いてシステム同定を行うことにより得ることができる。システム同定の方法は、例えば、制御系設計ツールMATLABのツールボックスである「Structural Dynamical Toolbox」や、文献「足立、『制御のためのシステム同定』、東京電機大学出版局、1996」に記載の部分空間同定法を用いればよい。
【0072】
また、ブロック50に示す伝達関数Gαは、走行時の加速度信号と騒音レベルを計測し、上記の方法を用いることで得ることができる。
【0073】
このとき、減算信号αdから騒音レベルSPL*までの伝達関数と、減算信号αdから制御指令信号uまでの伝達関数のノルムを最小化するようなフィルタC(ブロック42)を設計する。設計方法は様々な方法が考えられるが、例えば「細江、荒木、『制御系設計―H∞制御とその応用』、朝倉書店、1994」に記載のH∞制御法やH2制御法を用いれば設計することができる。
【0074】
本実施形態では、ブロック45a、45bに示す2つの重み関数Wc3、Wc4を用いてフィルタCを設計をするが、前記参考文献以外の設計パラメータ(重み関数)を用いて設計しても良い。
【0075】
ブロック50に示す伝達関数Gα、及びブロック60に示す伝達関数Gpを連続時間システムとしてモデリングした場合には、得られたフィルタをタスティン変換等を用いて離散化する。または、各伝達関数Gα、Gpを離散時間システムとしてモデリングし、離散時間システムに対する設計法を用いてディジタルコントローラを設計しても良い。
【0076】
図7に示すステップS33では、路面状態の変化に伴って切り替え指示部34から得られるパラメータ更新信号により、ブロック42のフィルタCが更新される。
【0077】
その更新方法は以下のように行えばよい。まず、パラメータとして変動後の加速度信号のパワースペクトルSαを近似した低次元の伝達関数を用い、この情報が切り替え指示部34からコントローラ38へ出力される。
【0078】
次いで、コントローラ38ではこの情報をブロック45aに示す重み関数Wc3に反映させ、毎ステップでのフィルタリング処理の傍らで、上記の手順により図8に示したブロック42のフィルタCを再計算する。そして、再計算後、割り込み処理によりフィルタCを更新することで、現在の路面状況に適合した騒音低減制御を実現できるようになる。
【0079】
また、加速度センサ10で検出される加速度信号α(α1〜α4)の周波数特性の概形、及び次数を予め規定しておき、そのピークの周波数や減衰係数をパラメータとして用いることにより、そのパラメータ信号の変動に対してブロック42のフィルタCを再設計することも可能である。
【0080】
即ち、各加速度センサ10で検出される加速度信号α(α1〜α4)のピークの周波数、及び減衰係数のうちの少なくとも一方を特徴量とし、この特徴量に対応した複数のパラメータを予め保持しておき、実際に加速度センサ10で検出された加速度信号の特徴量に適合するパラメータを選択することが可能である。この場合には、ピーク周波数と減衰係数に応じて短時間でコントローラ38のパラメータを調整することができ、乗員が感じる騒音を低減することができる。更に、ピークの周波数、減衰係数以外であっても、加速度信号αの特徴量であれば何らかの形でパラメータを選択することが可能である。
【0081】
更に、各加速度センサ10で検出される加速度信号α(α1〜α4)のピークの周波数、及び減衰係数のうちの少なくとも一方を特徴量とし、この特徴量が予め保持している値と異なった場合に、コントローラ38のパラメータを調整すれば、ピークの周波数、或いは減衰係数の変動に対して、騒音低減制御を迅速に対応することができ、不快な騒音の発生を抑制することができる。
【0082】
また、各加速度センサ10で検出される加速度信号α(α1〜α4)に基づいて推定された車室内の騒音のピークの周波数、及び減衰係数のうちの少なくとも一方を特徴量とし、この特徴量が予め保持している値と異なった場合に、コントローラ38のパラメータを調整すれば、推定騒音のピーク周波数、或いは減衰係数の変動に対して、騒音低減制御を迅速に対応することができ、不快な騒音の発生を抑制することができる。
【0083】
こうして、制御指令値を再設計をした場合には、現在得られた周波数特性をもつセンサ信号に対して最適なパラメータを持つコントローラ38を再設計することができる。即ち、各加速度センサ10で検出される加速度信号αの周波数特性を用いて、コントローラ38のパラメータを再設計することにより、より効率良く騒音低減制御を行うことができる。
【0084】
次に、図9〜図12に示す特性図を参照して、本実施形態に係る能動振動騒音制御装置を用いた場合の、騒音レベルの変化について説明する。
【0085】
図9は、車両がある路面(路面Aとする)を走行しているときの、制御空間100での騒音レベルの周波数特性を示す特性図であり、曲線S1は騒音低減制御を行わないときの騒音レベル、曲線S2は騒音低減制御を行った場合の騒音レベルをそれぞれ示す。また、現在の所望の周波数特性は制御周波数帯域でほぼ一定の値になることとする。
【0086】
図10は、車両が前述した路面A、及び路面Aとは異なる路面Bを走行しているときの、制御空間100での騒音レベルの周波数特性を示し、曲線S11は路面A走行時で騒音低減制御を行わない場合(即ち、図9のS1と同様)の騒音レベルであり、曲線S12は路面B走行時で騒音低減制御を行わない場合の騒音レベルの周波数特性を示す。曲線S11,12から理解されるように、路面Bの走行時は、路面Aの走行時と対比して、100〜200Hzの帯域での騒音レベルが低く、反対に、300〜400Hzの帯域での騒音レベルが高い。ここで、車両走行中に、走行する路面が路面Aから路面Bへ変わった場合を考える。
【0087】
図11は、車両が路面Bを走行しているときの制御空間100での騒音レベルの周波数特性を示し、曲線S21は騒音低減制御を行わない場合の騒音レベルを示し、曲線S22は、路面Aに対して設定された制御指令値を用いて(即ち、制御指令値を変更せずに)騒音低減制御を行った場合の騒音レベルを示している。
【0088】
曲線S21,S22から理解されるように、周波数が300〜400Hzの帯域において、十分な騒音低減制御の効果が得られていない。これは、走行路面が路面Aの場合には周波数が100〜200Hzの帯域に入力される加速度信号に比べて、小さい加速度入力であるという仮定の下に、周波数が300〜400Hzでのコントローラ38のパラメータを設計していたが、走行路面が路面Bに変わることで、必要な騒音低減が得られなくなってしまったことに起因する。
【0089】
図12は、車両が路面Bを走行しているときの制御空間100での騒音レベルの周波数特性を示し、曲線S31は、騒音低減制御を行わない場合(即ち、図11の曲線S21と同様)の騒音レベルを示し、曲線S32は、路面Bに対応した制御指令値を用いて騒音低減制御を行った場合の騒音レベルを示している。そして、曲線S41,S42から理解されるように、図11に示した特性図で問題となった周波数300Hz〜400Hzの帯域での騒音低減制御の効果の減少は解決し、所望の周波数帯域(100〜400Hz)で十分な騒音低減制御の効果が得られていることが判る。
【0090】
このようにして、第1実施形態に係る能動振動騒音制御装置では、車両が走行する路面状況の変化や、タイヤや構造部材等の変化に応じて加速度センサ10の出力信号の周波数特性が変化した場合であっても、この周波数に適応するように、コントローラ38のパラメータを適宜調整される。従って、騒音低減制御の効果の変化を少なくすることができ、車両内に存在する人員の不快感を低減することができる。また、加速度センサ10の出力信号の変化に応じて、アクチュエータ20に出力する制御指令信号uを変更することができるので、アクチュエータ20を効率的に使用することができる。更に、その時点で必要な最低限の演算量でアクチュエータ20に出力する制御指令信号uを求めることができるので、コントローラ38を実装する計算機の演算負荷を低減することができる。
【0091】
また、所望の周波数特性を変更することにより、例えば、あるピークを低減したい場合にはそのピークを下げるべく所望の周波数特性を作成すればよい。ピークのレベル、周波数および減衰係数が変動した場合には、その値に追従するようにコントローラ38のパラメータを調整することにより、常に目標とするピークを低減するコントローラ38のパラメータ設定が可能となる。
【0092】
更に、車室内に発生する騒音の制御による騒音の低減量を特徴量とし、この特徴量が所定量減少した場合に、コントローラ38のパラメータを調整するようにすれば、制御空間100における騒音レベルの変動を直接制御を行うタイミングとして用いることができるので、不快な騒音の発生を抑制することができる。
【0093】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る能動振動騒音制御装置は、前述した第1実施形態と対比して、図3に示した制御指令値算出部32に設けられるコントローラ38の構成が相違するのみであるので、以下、図13に示すブロック図を参照して、コントローラ38の構成について説明する。
【0094】
図13に示すように、コントローラ38は、減算信号αdがそれぞれ入力される第1フィルタ42a、第2フィルタ42b、第3フィルタ42cを有しており、更に、各フィルタ42a、42b、42cの出力側に設けられた加算重み乗算部43a、43b、43cを備えている。各フィルタ42a、42b、42cの設計方法については、図15を参照して後述する。
【0095】
加算重み乗算部43aには加算重みρ1が設定され、加算重み乗算部43bには加算重みρ2が設定され、加算重み乗算部43cには加算重みρ3が設定されている。減算信号αdは、複数の信号であるので、各加算重みρ1、ρ2、ρ3はベクトル量であり、各フィルタ42a、42b、42cとの間の乗算は、要素ごとの乗算となる。
【0096】
また、加算重み計算部44を備えており、該加算重み計算部44は切り替え指示信号δに基づいて、各加算重み乗算部43a、43b、43cにおける加算重みρ1、ρ2、ρ3を演算する。
【0097】
各加算重み乗算部43a、43b、43cの出力側には、加算器36が設けられ、該加算器36では、各加算重み乗算部43a、43b、43cで重み付けされた制御指令値の線形和を算出して、制御指令信号uを生成する。
【0098】
加算重み計算部44では、切り替え指示信号δに基づいて、各加算重み乗算部43a、43b、43cにおける加算重みρ1、ρ2、ρ3を計算する。この計算方法については後述する。なお、本実施形態では、3個のフィルタ42a、42b、42cを用い、且つ3個の加算重みρ1、ρ2、ρ3を用いる例について示しているが、これらの個数は3個に限定されるものではない。
【0099】
次に、図13に示したコントローラ38の処理動作を、図14に示すフローチャートを参照して説明する。
【0100】
まず、ステップS41では、減算部35aで得られた減算信号αd(車両の外部から進入した加速度成分)を入力する。その後、フローはステップS42へ移行する。
【0101】
ステップS42では、切り替え指示部34で算出された切り替え指示信号δを入力する。その後、フローはステップS43へ移行する。
【0102】
ステップS43では、上記の切り替え指示信号δに基づいて、加算重み計算部44にて重み関数θを計算し、計算されたθを加算重みρ1、ρ2、ρ3として更新する。その後、フローはステップS44へ移行する。
【0103】
ステップS44では、入力された減算信号αd毎に予め設定している第1フィルタ42a、第2フィルタ42b、第3フィルタ42cの係数を乗算する。即ち、減算信号αdを第1〜第3フィルタでフィルタリングする。その後、フローはステップS45へ移行する。
【0104】
ステップS45では、フィルタリングされた信号に重み関数θに基づいて求められた各加算重みρ1、ρ2、ρ3が乗算され、加算器36で加算される。このとき、減算信号αdがベクトル量である場合には、乗算、加算は要素毎に行われる。その後、フローはステップS46へ移行する。
【0105】
ステップS46では、ステップS45の処理で算出された信号(加算器36の出力信号)を出力し、フローを終了する。
【0106】
図15は、図13に示したコントローラ38に用いる第1〜第3フィルタ42a、42b、42c、及び加算重みρ1〜ρ3を設計するためのブロック線図であり、以下、これらの設計手順について説明する。
【0107】
図15に示すブロック50,42,60,45bについては、図8に示したブロック線図と同様であるので、詳細な説明を省略する。図15に示すブロック45aは、加速度信号の周波数特性を加味する重み関数(Wc3(θ))であり、パラメータθの関数として表される。例えば、周波数特性のピークの周波数や減衰係数をθとして保持しておけばよい。或いは、周波数特性に乗るオフセット成分としてθを定義すれば、次の(2)式で示すことができる。
【0108】
Wc3(θ)=θ×Sα …(2)
このとき、パラメータθは必ずWc3の中にアフィンな形で存在するようにする。その他、加速度信号の特徴量でWc3に対してアフィンな形で存在すればパラメータとして使用することが可能である。こうして作った制御系はLPV(Linear Parameter Variant)システムと呼ばれる。このシステムに対してMATLAB Robust Control toolboxに用意されている関数「hinfgs」を用いることで、パラメータθに依存したゲインスケジュールコントローラC(θ)を求めることができる。一般に、パラメータの動き得る範囲の端点でのコントローラをCiとすると、パラメータがθである場合には、コントローラC(θ)は、次の(3)式で示すことができる。
【数2】

【0109】
ここで、ρはθを線形な形で含む適切な加算重み関数である。従って、(3)式のCiをフィルタ42として用い、ρを加算重み関数として用いることにより、フィルタ42、加算重み乗算部43a〜43c、及び加算器36からなるコントローラを構成することができる。また、θは時々刻々変動するため、そのパラメータθにより加算重みρが求まり、コントローラの加算の割合が変化してオンラインで路面状況に対応した制御を行うことができる。
【0110】
更に、ピークのレベル、周波数及び減衰係数をパラメータとして保持すれば、それらにオンラインで追従して制御を行うことができる。即ち、各加速度センサ10(10a〜10d)で検出される加速度信号α(α1〜α4)のピークの周波数、及び減衰係数のうちの少なくとも一方の特徴量、或いは周波数特性毎に予め保持した複数のパラメータのうち、上記特徴量、或いは周波数特性に近いパラメータの線形和を演算することにより、制御指令信号uを調整し、騒音レベルの変動を抑制することができる。この場合には、予め設定したパラメータの線形和を演算するだけでコントローラ38をオンラインで調整することができ、騒音低減効果を高めることができる。
【0111】
また、移動車両を対象としている場合、パラメータとして速度信号を用い、速度に応じたセンサ信号の変動を予め保持しておけば、速度に追従してオンラインで制御指令信号uを調整することができる。
【0112】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態に係る能動振動騒音制御装置は、前述した第1実施形態と対比して、図3に示した制御指令値算出部32に設けられる切り替え指示部34の構成が相違するのみであるので、以下、図16に示すブロック図を参照して、切り替え指示部34の構成について説明する。第3実施形態に係る切り替え指示部34は、振動低減制御の効果が常に保持されるように、コントローラ38で使用するパラメータを調整する。
【0113】
図16に示すブロック90は、減算信号αdから制御空間100での騒音レベルSPL*までの音響伝播伝達関数のモデル(第1音響伝播特性モデル)であり、ブロック80は、アクチュエータ20の制御指令信号uから制御空間100での騒音レベルSPL*までの音響伝播伝達関数のモデル(第2音響伝播特性モデル)である。また、各モデル90,80の出力信号は、加算器36に出力されて加算される。
【0114】
オーバーオール制御効果計算部53では、加算器36の出力信号のパワースペクトルを計算した後、所定の周波数帯域でのオーバーオール値を計算する。更新判定部37、及びパラメータ更新部41は、第1実施形態で示した図5と同様の機能を備える。
【0115】
次に、図16に示した切り替え指示部34における処理手順を、図17に示すフローチャートを参照して説明する。
【0116】
図17に示すステップS51では、減算器35aより出力される減算信号αdが第1音響伝播特性モデル90に入力され、減算信号αdに第1音響伝播特性モデルが乗算される。その後、フローはステップS52へ移行する。
【0117】
ステップS52では、コントローラ38より出力される1ステップ前の制御指令信号uが第2音響伝播特性モデル80に入力され、制御指令信号uに第2音響伝播特性モデルが乗算される。その後、フローはステップS53へ移行する。
【0118】
ステップS53では、ステップS51の処理、及びステップS52の処理で得られた信号が加算器36で加算され、制御が行われた状態での制御空間100での推定された騒音レベルが計算される。その後、フローはステップS54へ移行する。
【0119】
ステップS54では、推定された騒音レベルから前述した手法を用いてパワースペクトルを計算し、更に、所定の周波数帯域でのオーバーオール騒音レベルが計算される。その後、フローはステップS55へ移行する。
【0120】
ステップS55では、更新判定部37にて、予め設定してあった所定のオーバーオール制御効果が得られているか否かを判定し、パラメータを更新するか否かを判断する。
【0121】
ステップS56において、パラメータの更新を行う場合には、フローはステップS57へ移行し、パラメータの更新を行わない場合には、フローを終了する。
【0122】
ステップS57では、パラメータ更新部41にてコントローラ38で使用するパラメータを更新、出力し、フローを終了する。この更新の方法は、図6のステップS25の処理で示した方法や、第2実施形態に示した方法を用いればよい。
【0123】
このようにして、第3実施形態の能動振動騒音制御装置では、上記の手法を用いることにより、パラメータ更新の規準としてオーバーオール制御効果を用いることができ、安定したオーバーオール制御効果を得ることができる。
【0124】
以上、本発明の能動振動騒音制御装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0125】
例えば、上記した各実施形態では、車両内の騒音を低減する例について説明したが、車両に限定されず、任意の閉空間内の騒音低減制御に用いることができる。また、路面の違いによる加速度信号変動のみならず、例えばスペアタイヤ装着時や車両の振動伝播経路が経年劣化等で変動した場合にも適応可能である。
【0126】
また、上述した各実施形態を組み合わせ、例えば、始めは第2実施形態に示した方法でゲインスケジュールにより調整をするが、その後大幅に路面が変動した場合には第1実施形態の再設計を行うということも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、車両が走行する路面が変化した場合に車両内に生じる騒音を低減する上で極めて有用である。
【符号の説明】
【0128】
10(10a〜10d) 加速度センサ
20(20a、20b) アクチュエータ
30 制御装置本体
31(31a〜31f) 増幅部
32 制御指令値算出部
33 A/D変換部
34 切り替え指示部
35a 減算器
36 加算器
37 更新判定部
38 コントローラ
39 D/A変換部
41 パラメータ更新部
42 フィルタ
42a 第1フィルタ
42b 第2フィルタ
42c 第3フィルタ
43 加算重み乗算部
44 加算重み計算部
45a、45b 重み関数
50 伝達関数(Gα)
51 PS計算部
52 PS保持部
53 オーバーオール制御効果計算部
60 伝達関数(Gp)
70 振動伝播モデル
80 第2音響伝播特性モデル
90 第1音響伝播特性モデル
100 制御空間(所定の空間)
110 フロアパネル
120 車軸
130 サスペンション
140 メンバ
200 タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物上に配置され構造物の振動を検出するセンサと、
構造物内の空間、或いは構造物に波動を加える波動印加手段と、
前記センサの出力信号に基づき、前記構造物内の制御空間における騒音を低減するように前記波動印加手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記センサの出力信号の周波数に対応する基準となる騒音が変動した場合に、当該基準となる騒音へ近づくように前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号に基づいて推定された前記構造物内部の騒音のピーク周波数の変動に合わせて、前記ピーク周波数での騒音低減制御の効果が高まるように、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号に基づいて推定された前記構造物内部の騒音のピーク周波数における騒音レベルの変動に合わせて、前記ピーク周波数における騒音レベルが変化しないように、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号に基づいて推定された前記構造物内部の騒音のピーク幅の変動に合わせて、前記ピーク幅の周波数帯域における騒音レベルが変化しないように、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号の、ピーク周波数及び減衰係数のうち少なくとも一方を特徴量とし、この特徴量に対応した複数のパラメータを予め保持しておき、前記センサの出力信号から取得した前記特徴量に最も適応する前記パラメータを選択して、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号の周波数特性に対応する複数のパラメータを予め保持し、前記センサの出力信号から取得した周波数特性に最も適応するパラメータを選択して、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサ出力の、ピーク周波数及び減衰係数のうち少なくとも一方の特徴量、或いは前記センサ出力の周波数特性ごとに予め保持した複数のパラメータのうち、前記特徴量、または前記周波数特性に近いパラメータの線形和を演算することにより、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号より取得される該出力信号の周波数特性を用いてパラメータを再設計し、再設計したパラメータを用いて前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号のピーク周波数及び減衰係数のうちの少なくとも一方を特徴量とし、この特徴量が予め保持している所定値と異なる場合に、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号の周波数特性を予め保持し、且つ、この周波数特性と、前記センサより新たに取得した出力信号の周波数特性との間の相関係数を求め、この相関係数が所定値以下となった場合に、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、騒音低減制御による前記構造物の内部騒音の低減量を特徴量とし、この特徴量が所定量減少した場合に、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号に基づいて推定される前記構造物の内部騒音のピーク周波数、及び減衰係数のうちのいずれか一方に基づいて得られる数値を特徴量とし、この特徴量が予め保持している所定値と異なる場合に、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、予め保持している前記構造物の内部に生じる推定騒音の周波数特性と、新たに前記センサより取得した出力信号の周波数特性との間の相関関係を求め、この相関係数が所定値以下となった場合に、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記制御手段は、前記センサの出力信号に基づいて推定された前記構造物の内部騒音が、予め設定した最大周波数と異なる場合に、前記波動印加手段による出力を調整することを特徴とする能動振動騒音制御装置。
【請求項15】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の能動振動騒音制御装置において、
前記構造物は移動体であり、前記センサの出力信号の周波数特性変化を、前記移動体の速度変化に基づいて推定することを特徴とする能動振動騒音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−202081(P2010−202081A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51029(P2009−51029)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】