説明

能動遮音装置、能動遮音パネル及び能動遮音方法

【課題】制御スピルオーバを発現させることなく、広い周波数帯域の音に対して優れた遮音性能を発揮することのできる能動遮音装置を提供する。
【解決手段】能動遮音装置を、音源側と受音側を隔てるためのパネルと、音源から発せられた音を検知するためのセンサと、センサの検知した音に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいてパネルの所定箇所を加振することによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータとを備えたものとし、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータを配した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源側と受音側との間に配されたパネルの所定箇所を、音源から発せられた音に応じて加振することにより、パネルの透過音を抑制する能動遮音装置と、この能動遮音装置に用いる能動遮音パネルに関する。また、この能動遮音装置や能動遮音パネルを利用した能動遮音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パネルの透過音を抑制するために、そのパネルを鉄や鉛などの比重の大きな材料で形成して振動しにくくすることが行われている。しかし、このようにパネルを重い材料で形成すると、そのパネルを組み込む建築物や乗り物や機器の軽量化が困難になるために、近年、パネルの重量を増大させることなく、そのパネルを透過してくる音を抑える技術が注目されるようになってきている。
【0003】
なかでも、図1に示すように、音源側と受音側を隔てるためのパネルと、音源から発せられた音を検知するためのセンサと、センサの検知した音に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいてパネルの所定箇所を振動させる(加振する)ことによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータと、を用いてパネルの透過音を抑制する「能動遮音制御」と呼ばれる技術に関する研究が多数行われるようになってきている。
【0004】
例えば、Fullerは、周辺を固定した円形のパネルの透過音を1つ又は2つのアクチュエータを用いて抑制する能動遮音制御について検討を行い、能動遮音制御が透過音の抑制に対して大きな効果が得られることを計算により示している(非特許文献1を参照)。また、猿渡らは、パネル(平板)の透過音の抑制を目的として、そのパネルの振動の抑制を行う能動遮音制御について検討を行っている(非特許文献2,3を参照)。
【0005】
ところが、これらの能動遮音制御においては、アクチュエータの数や配置によって透過音の抑制効果が複雑に変化するため、所望の抑制効果を得るためには、音源の種類などを考慮しながらパネルの加振方法を試行錯誤により決定する必要があった。
【0006】
これに対して、Johnsonらは、透過音の支配因子である放射モードに着目し、1次の放射モードと低周波数で等価である体積速度をセンシングし、体積速度を低減することによって透過音を抑制する能動遮音制御技術を提案している(非特許文献4を参照)。
【0007】
この非特許文献4には、特定の周波数において能動遮音制御による制御効果が得られなくなる現象(「制御スピルオーバ」と呼ばれる。)が発現することが記載されている。この制御スピルオーバは、圧電フィルムを用いた分布定数型センサや、アクチュエータによって構成する体積速度センサや体積速度アクチュエータを実現することができれば防ぐことができるとされている。Henrioulleらは、実際に圧電フィルムを用いて、上記Johnsonらの方法を実験的に検討している(非特許文献5を参照)。
【0008】
しかしながら、圧電フィルムを用いたアクチュエータは、パネルを振動させる力が弱いため、このようなアクチュエータを組み込んだ能動遮音制御技術は、現状では実用化が困難である。
【0009】
これらのほかにも、能動遮音制御技術を応用した能動遮音装置や能動遮音方法は、これまでに数多く提案されているが(例えば特許文献1〜7を参照)、制御スピルオーバの発現を抑え、広い周波数帯域の音に対して優れた遮音性能を発揮できるものは見当たらなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平05−289678号公報
【特許文献2】特開平06−149272号公報
【特許文献3】特開平07−056580号公報
【特許文献4】特開平07−210174号公報
【特許文献5】特開平08−314471号公報
【特許文献6】特開平10−254458号公報
【特許文献7】特開2004−036299号公報
【非特許文献1】Fuller, C.R., Active control of sound transmission/ radiation from elastic plates by vibration inputs: I. Analysis, Journal of Sound and Vibration, Vol. 136, No. 1 (1990), pp. 1-15.
【非特許文献2】猿渡克巳・背戸一登,“アクティブ遮音のための平板の振動制御法”,日本機械学会論文集C編,60-579,3769-3775 (1994).
【非特許文献3】猿渡克巳・宮田太陽・背戸一登,“アクティブ遮音の研究(平板の騒音制御)”,日本機械学会論文集C編,61-590,3916-3922 (1995).
【非特許文献4】Johnson, M.E., Elliott, S.J.: Active control of sound radiation using volume velocity cancellation, J. Acoust. Soc. Am. 98(4), 2174-2186 (1995)
【非特許文献5】Henrioulle, K., Sas, P.: Experimental validation of a collocated PVDF volume velocity sensor/actuator pair, J. Sound Vib. 265, 489-506 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、制御スピルオーバを発現させることなく、広い周波数帯域の音に対して優れた遮音性能を発揮することができるだけでなく、実用化も容易な能動遮音装置を提供するものである。また、この能動遮音装置に用いるのに適した能動遮音パネルを提供することも本発明の目的である。さらに、この能動遮音装置や能動遮音パネルを利用した能動遮音方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.1 能動遮音制御の理論
上記課題を解決するために、まず、能動遮音制御の理論的な解析を行った。図2に、能動遮音制御の計算モデルを示す。以下においては、図2に示すように、音源側と受音側を隔てるパネルとして無限バフル中に埋め込まれた薄肉平板を想定し、このパネルに対して音(平面音波)が垂直に入射する場合について検討を行う。この場合において、パネルの運動方程式は、下記式1によって表される。
【数1】

【0013】
また、パネルの振動速度(v(r)とする。)は、N次振動モードまで考慮すると、モード展開式により、下記式2で表される。
【数2】

【0014】
このとき、上記式1は、下記式5で表すことができる。
【数3】

【0015】
以上により、上記式4の速度モードベクトルvは、下記式11により求めることができる。
【数4】

【0016】
このとき、透過音の音響パワー(WTとする。)は、パネル上のインテンシティを積分することにより、最終的に下記式14で表すことができる。
【数5】

【0017】
ここで、パワーマトリックスAは、実対称行列であるから、対角化が可能であり、下記式16の形で表すことができる。
【数6】

【0018】
したがって、透過音の音響パワーWTは、下記式17で表すことができる。
【数7】

【0019】
上記式18より、パネルの振動速度v(r)は、下記式19で表される。
【数8】

【0020】
上記式17により、透過音の音響パワーWTは、放射効率に相当するパワーマトリックスAの固有値λiによって重み付けされた放射モード振幅uiの二乗和で表されることが分かる。
【0021】
1.2 非制御時の透過音の音響パワー
続いて、非制御時の透過音の音響パワーについて、放射モードの観点から考察を行う。本明細書において、「非制御時」とは、アクチュエータがパネルに配されておらず、パネルがアクチュエータによって加振されていないときのことをいう。これに対し、アクチュエータがパネルに配されており、パネルがアクチュエータによって加振されているときのことを「制御時」と呼ぶ。
【0022】
以下においては、振幅pIの音がパネルに対して垂直に入射した場合について検討する。表1に、対象となったパネルの諸元を示す。また、表2に、対象となったパネルの振動モードを示す。
【表1】

【表2】

【0023】
図3は、100Hzにおける1次から3次までの放射モードの形状を示した図である。図3の放射モードの形状は、[奇数,奇数]次振動モードの9次までを考慮して計算した結果である。垂直入射の場合には、入射音による音圧がパネル上で均一となることから、 [奇数,奇数]次振動モードのみが加振されるため、[奇数,奇数]次振動モードによって構成される放射モードしか透過音に影響しない。図3をみると、1次の放射モードは、パネルの全体がピストン運動するような形状をしており、2次の放射モードと3次の放射モードは、パネルのエッジ部分が振動するような形状をしていることが分かる。1次の放射モードは、低周波数帯域においてはパネルの体積速度と等価になる。
【0024】
図4は、音の周波数と非制御時の音響透過損失(R[dB]とする。)との関係を示したグラフである。音響透過損失R[dB]は、下記式21を用いて計算により求めた。
【数9】

【0025】
図5は、音の周波数と、非制御時における1次から3次までの放射モードの音響パワー、及び全透過音の音響パワーとの関係を示したグラフである。図5をみると、約800Hz以下の低周波数帯域では、1次の放射モードの音響パワーが他次の放射モードの音響パワーと比較して圧倒的に大きく、全透過音の音響パワーにおいて支配的であることが分かる。これは、波長が比較的長い低周波数帯域においては、高次の放射モードの放射効率が低くなるためである。この結果から、低周波数帯域の透過音を抑制するには、1次の放射モード、つまり体積速度を低減すればよいことが分かる。
【0026】
また、図5をみると、低周波数帯域においては、パネルが共振する共振周波数よりも僅かに低い特定周波数において、透過音の音響パワーが極小となる現象が発現していることが分かる。この現象は、「反共振」と呼ばれ、前記特定周波数では、1次の放射モードによる音響パワーが減少するために生じると説明できる。全てのアクチュエータがパネルに対して同じ制御力feを加えるとき、制御時の1次の放射モード(u1とする。)は、上記式18より、下記式22で表すことができる。
【数10】

【0027】
上記式22から分かるように、アクチュエータの加振力による1次放射モードの大きさ(u1cの絶対値)は、モードの連成によって特定の周波数で0に近い値となる場合がある。このとき、アクチュエータによる制御効果が得られなくなる制御スピルオーバが発現する。
【0028】
モードの連成は全てのモード間で発生するが、低周波数帯域においては、1次の放射モードにおいて基本振動モード([1,1]次振動モード)の寄与が最も大きいため、透過音に影響する連成が発生するのは、基本振動モード([1,1]次振動モード)と高次振動モード([1,3]次振動モード、[3,1]次振動モードなど)とが組み合わさる場合である。
【0029】
図6は、パネルをその反共振周波数(反共振が発現する周波数)である159.5Hzと277.5Hzで振動させたときの振動分布を示した図である。パネルは、その諸元が上記表1で示されるものを用いた。これらの反共振周波数においては、パネルの中心部分と周辺部分とが逆位相で振動するため、パネルに節線が形成される。このような振動分布となることで、パネルの中心部分と周辺部分で発生する音とが相殺され、音の放射効率が低下する。このため、透過音が減少すると考えることができる。
【0030】
ところで、ここまでは、パネルの周縁を単純支持(変位のみを拘束する支持)した場合について検討したが、反共振は、一般の有限パネルにおいても発現する。図7は、音の周波数と、パネルの周縁を単純支持した場合の音響透過損失R[dB]、及びパネルの周縁を固定支持(変位及び回転を拘束する支持)した場合の音響透過損失R[dB]との関係を示したグラフである。音響透過損失R[dB]は、上記式21を用いて計算により求めた。パネルは、その諸元が上記表1で示されるものを用いた。
【0031】
図7をみると、パネルの周縁を固定支持した場合には、パネルの周縁を単純支持した場合よりもパネルの固有振動数が高くなるため、音響透過損失R[dB]が極大となる周波数や、極小となる周波数が、高周波数側へシフトしていることが分かる。しかし、低周波数帯域で音響透過損失R[dB]が極大となる反共振が発現することは、パネルの周縁を単純支持した場合も、パネルの周縁を固定支持した場合も同様であることが分かる。
【0032】
また、ここまでは、パネルが長方形である場合について検討したが、反共振は、他の形状のパネルにおいても発現する。図8は、パネルとして採用しうる形状の一例を示した図である。また、図9は、音の周波数と、図8に示す形状のパネルを用いた場合における非制御時の音響透過損失R[dB]との関係を示したグラフである。パネルの諸元は、その縦の長さaと横の長さb以外は、上記表1と同じである。音響透過損失R[dB]は、上記式21を用いて計算により求めた。図9をみると、パネルの形状にかかわらず、低周波数帯域で音響透過損失が極大となる反共振が発現することが分かる。
【0033】
1.3 制御時の透過音の音響パワー
続いて、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させてある特定の反共振周波数(ωaとする。)で反共振させた際に節線となる節線予定線(Laとする。)上にアクチュエータを配する場合について考える。以下においては、1次振動モードとj次振動モードにより反共振する際の反共振周波数を反共振周波数ωaとしている。
【0034】
反共振周波数ωaにおいては、基本振動モード(1次振動モード)と連成する特定の振動モード(j次振動モード)の影響が大きいことから、ここでは、それ以外の振動モードの影響を無視できる。このとき、非制御時の体積速度Vは下記式23で表すことができる。
【数11】

【0035】
このとき、入射音によるモード加振力FIは、下記式24で表される。
【数12】

【0036】
したがって、上記式23と上記式24から、体積速度Vとモード加振力Fの関係として、下記式25が得られる。
【数13】

【0037】
反共振周波数ωaでは、1次の放射モードが極小となるため、低周波数で1次の放射モードと等価になる体積速度Vも極小となる。したがって、反共振周波数ωaでは、下記式26が得られる。
【数14】

【0038】
すなわち、体積速度Vは、1次速度モード振幅vI1とj次速度モード振幅vIjと1次振動モード加振力FI1とj次振動モード加振力FIjとが下記式27を満たすときに非常に小さくなり、反共振が発現するといえる。
【数15】

【0039】
次に、アクチュエータによる加振力について考える。同じ加振力を発生するM個のアクチュエータ(ポイントアクチュエータ)の加振力は、下記式28で表すことができる。
【数16】

【0040】
このとき、上記式10は、下記式29で表すことができる。
【数17】

【0041】
このとき、上記式29より、下記式31が得られる。
【数18】

【0042】
ここでは、全てのアクチュエータが節線予定線La上に配されている場合について考えているので、下記式32が成立する。
【数19】

【0043】
したがって、上記式31は、下記式33となる。
【数20】

【0044】
ここでも、基本振動モード([1,1]次振動モード)と連成する特定の振動モード(j次振動モード)の影響が大きいと考え、これらのみを考慮すると、下記式34が得られる。
【数21】

【0045】
したがって、上記式27と上記式34から、下記式35が得られる。
【数22】

【0046】
このように、パネルが反共振周波数ωaで反共振する際に節線となる節線予定線La上にアクチュエータを配することで、反共振に関与している2つの振動モードのモード加振力の比を、入射音波によるモード加振力の比に一致させることができる。すなわち、入射音による加振力と等価な加振力をアクチュエータからパネルへ加えることができる。
【0047】
以上のことから、本発明者らは、音源側と受音側を隔てるためのパネルと、音源から発せられた音又はパネルの振動を検知するためのセンサと、センサの検知した音又は振動に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいてパネルの所定箇所を加振することによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータとを備えた能動遮音装置であって、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータが配されていることを特徴とする能動遮音装置を提案するに至った。
【0048】
これにより、広い周波数帯域の音(特に防音材では遮音することが困難な低周波数帯域の音)に対して優れた遮音性能を発揮することのできる能動遮音装置を得ることが可能になる。
【0049】
本発明の能動遮音装置は、パネルとセンサと制御手段とアクチュエータと他の必要なものとがセットになった状態で出荷される場合だけでなく、アクチュエータ付きパネル(能動遮音パネル)として出荷される場合も想定される。
【0050】
すなわち、音源側と受音側を隔てるためのパネルの所定箇所に、パネルを加振することによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータを取り付けた能動遮音パネルであって、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータが配されていることを特徴とする能動遮音パネルである。この場合には、パネルとアクチュエータ以外のものは、能動遮音パネルの購入者が適宜選択できる。
【0051】
この能動遮音パネルのパネルには、アクチュエータだけでなく、他の機器や部品を取り付けることもできる。例えば、アクチュエータに加えて、音源から発せられた音又はパネルの振動を検知するためのセンサをパネルに取り付けた状態で出荷することも想定される。この場合には、パネルの振動を検知するものをセンサとして採用すると好ましい。具体的には、センサとしてPVDFフィルムなどの圧電フィルムをパネルに貼り付けて出荷することが想定される。現在市販されているPVDFフィルムなどの圧電フィルムは、発生力が弱いため、アクチュエータとして実用するには問題が多いが、センサとしての実用は十分可能である。
【0052】
このように、パネルとセンサとを一体化することにより、能動遮音パネルの施工時に、センサを設置する手間を削減することができる。また、パネルから離れた位置にセンサを設置することが困難な状況であっても、能動遮音制御を行うことが可能になる。さらに、センサとして音を検知するものを使用した場合には、能動遮音パネルの施工箇所周辺の雑音が能動遮音制御に悪影響を及ぼすことも考えられるが、圧電フィルムのように、センサとしてパネルの振動を検知するものを使用することにより、雑音が能動遮音制御に悪影響を及ぼさないようにすることもできる。
【0053】
さらにまた、センサとしてPVDFフィルムなどの圧電フィルムをパネルに貼り付けることにより、透過音の音響パワー(透過音響パワー)と等価である1次の放射モードを直接的に検知することが可能になるため、能動遮音制御の制御効果を十分に発揮させることが可能になる。これに対し、マイクロホンなど、音を検知するものをセンサとして用い、後述するフィードフォワード制御を行う場合には、本来、透過音響パワーを最小化する必要があるにもかかわらず、センサが配された場所での音圧を最小化する制御となるため、条件によっては制御効果が半減することがある。
【0054】
また、能動遮音パネルは、アクチュエータとセンサに加えて、センサの検知した音又は振動に応じて制御信号を発する制御手段をパネルに取り付けた状態で出荷することも想定される。この構成は、PVDFフィルムなどの圧電フィルムをセンサとして用い、後述するフィードバック制御を行う場合において特に現実味を帯びてくる。フィードバック制御の場合には、音源の信号を参照する必要がないため、アクチュエータとセンサだけでなく、制御手段もパネルに一体化して、それ自体で独立して能動遮音制御を行うことのできる能動遮音パネルも比較的容易に実現できると考えられるからである。
【0055】
続いて、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaよりも高い別の反共振周波数(ωbとする。)で反共振させた際に節線となる節線予定線(Laとする。)上にアクチュエータを配する場合について考える。以下においては、1次振動モードとk次振動モード(kはjよりも大きな整数)による反共振の反共振周波数を反共振ωbとしている。この場合には、上記式35を求めたのと同様の手順により、下記式36が得られる。
【数23】

【0056】
さらに、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となる節線予定線Laと、反共振周波数ωaよりも高い別の反共振周波数ωbで反共振させた際に節線となる節線予定線Lbとの交点にアクチュエータを配した場合について考える。この場合には、上記式35と上記式36により、下記式37が得られる。
【数24】

【0057】
このように、節線予定線Laと節線予定線Lbとの交点にアクチュエータを配することで、3つの振動モードに対するアクチュエータによるモード加振力を、入射音波によるモード加振力に一致させることができる。
【0058】
また、上記式22から分かるように、パネルに入射した音によるモード加振力FIと、アクチュエータによるモード加振力Fcとを一致させることができれば、制御スピルオーバを生じさせることなく、広い周波数帯域で1次放射モードを効率的に抑制することができる。
【0059】
全ての振動モードについて、モード加振力FIとモード加振力Fcとを一致させることは困難であるが、全透過音に対して大きな影響を及ぼす低次の振動モードの項を一致させることができれば、低周波数帯域においても十分な制御効果を得ることができると考えられる。
【0060】
以上のことから、本発明者は、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線Laと、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωb(>ωa)で反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線Lbとの交点のうち、少なくとも1点にアクチュエータを配することが好ましいとの結論に至った。
【0061】
これにより、広い周波数帯域の音に対して、アクチュエータによる制御効果を奏させることが可能になる。
【0062】
ところが、反共振周波数における節線予定線上にアクチュエータを配しただけでは、必ずしも大きな制御効果が得られるとは限らない。例えば、パネルをその反共振周波数である159.5Hzで振動させる際に節線となる節線予定線上の1点にアクチュエータを配した場合について考えると、[1,1]次振動モードと[1,3]次振動モードにおいては、パネルに入射した平面音波によるモード加振力FIと、アクチュエータによるモード加振力FCとが等しくなるため、1次放射モードは抑制できる。しかし、同時に、非制御時には透過音に対して大きな影響を及ぼさなかった[奇数,偶数]次振動モード、[偶数,奇数]次振動モード、[偶数,偶数]次振動モードが励振されて別の放射モードの寄与が大きくなるため、その制御効果は限定的になってしまう。
【0063】
以下においては、長方形のパネルにおける [奇数,偶数]次振動モード、[偶数,奇数]次振動モード及び[偶数,偶数]次振動モードのように、パネルの輪郭線と節線とで区画されるエリアの総数が偶数であり、ある同一位相で振動するエリアの数と、該エリアとは逆の同一位相で振動するエリアとの数とが一致する次数の振動モードのことを「相殺型振動モード」と呼ぶことがある。
【0064】
これに対し、例えば長方形のパネルにおける[奇数,奇数]次振動モードのように、パネルの輪郭線と節線とで区画されるエリアの総数が奇数であり、ある同一位相で振動するエリアの数と、該エリアとは逆の同一位相で振動するエリアとの数とが異なる次数の振動モードのことを「非相殺型振動モード」と呼ぶことがある。
【0065】
相殺型振動モードでは、パネルにおける音の吸込みと吐出しとが略等しくなるために、1次放射モードに殆ど影響を及ぼさない傾向があるのに対して、非相殺型振動モードでは、パネルにおける音の吸込みと吐出しとが等しくならず、1次放射モードに大きな影響を及ぼす傾向がある。
【0066】
以上のことから、本発明者は、節線予定線La上の点のうち、低次の相殺型振動モードの節線と重なる点にアクチュエータを配すると好ましいとの結論に至った。これにより、非制御時には透過音に対して大きな影響を及ぼさなかった低次の相殺型振動モードが制御時に励振されにくくすることが可能になる。
【0067】
このとき選択する相殺型振動モードの次数(全ての相殺型振動モードのうち、固有周波数の低い方から数えた順番)は、反共振周波数ωaでの反共振を連成する非相殺型振動モードの次数に依存する。より具体的には、反共振周波数ωaでの反共振を連成する非相殺型振動モードのうち、固有振動数が最も高い非相殺型振動モードの共振周波数と略同じ周波数帯域に固有振動数を持つ相殺型振動モードよりも次数が低い相殺型振動モードを選択する。
【0068】
例えば、その諸元が上記表1で表される横長(本明細書においては、その縦の長さa(パネルのx軸方向(図1を参照)の長さ)よりも、その横の長さb(パネルのy軸方向(図1を参照)の長さ)が長いことを、「横長」と呼んでいる。)の長方形のパネルを用い、その振動モードが上記表2で表される場合であって、1次の非相殺型振動モード(固有振動数46.3Hzの[1,1]次振動モード)と、2次の非相殺型振動モード(固有振動数169.8Hzの[1,3]次振動モード)との連成によって反共振する際の反共振周波数を反共振周波数ωaとして選択した場合には、[1,3]次振動モードの固有振動数である169.8Hzに近いか、若しくはそれ以下の固有振動数を持つ、1次の相殺型振動モード(固有振動数92.6Hzの[1,2]次振動モード)、2次の相殺型振動モード(固有振動数138.9Hzの[2,1]次振動モード)、3次の相殺型振動モード(固有振動数185.2Hzの[2,2]次振動モード)を考慮するとよい。
【0069】
しかし、複数の相殺型振動モードの節線間の位置関係や節線予定線Laと相殺型振動モードの節線との位置関係、さらにアクチュエータのコストや設置スペースなどを考慮すると、問題となる全ての低次の相殺型振動モードの節線上にアクチュエータを配することは困難である。このような場合には、パネルの対称性を利用して、相殺型振動モードを励振しない方法が考えられる。すなわち、パネルを点対称形状又は線対称形状を有するものとし、節線予定線La上の点のうち、パネルの中心に対して点対称又は該中心を通る直線に対して線対称な位置にある少なくとも2点にアクチュエータを配置する方法である。
【0070】
例えば、図11の配置Aにおいてアクチュエータが配される点には、2次の相殺型振動モード([2,1]次振動モード)の節線と、3次の相殺型振動モード([2,2]次振動モード)の節線が通っているものの、1次の相殺型振動モード([1,2]次振動モード)の節線は通っていない。しかし、2つのアクチュエータは、x軸(パネルの中心を原点とする。)に対して線対称な位置に配されているので、同じ力で加振することで、1次の相殺型振動モードの励振を防ぐことも可能となっている。
【0071】
このように、アクチュエータの配置に工夫を施すことによって、非制御時には透過音に対して大きな影響を及ぼさなかった相殺型振動モード(特に低次の相殺型振動モード)が制御時に励振されないようにすることができる。したがって、能動遮音装置の遮音性能をさらに向上させることが可能になる。
【0072】
ところで、パネルに対して音が斜めに入射(斜入射)する場合には、パネルに対して音が垂直に入射(垂直入射)する場合には励振されなかった相殺型振動モードが透過音に大きな影響を及ぼすようになる。
【0073】
したがって、パネルの損失係数ηは、できるだけ大きくすると好ましい。これにより、斜入射の場合においても相殺型振動モードが励振されにくくすることができるので、パネルに対する音の入射方向にかかわらず、優れた遮音性能を得ることが可能になる。具体的には、パネルの損失係数ηは、0.05以上であると好ましい。
【0074】
また、音源側と受音側との境界面の面積が広い場合には、パネルの面積を広くする必要があるが、この場合には、周波数の高い音に対して制御効果が得られにくくなる。パネルの面積が広くなればなるほど、パネルの固有周波数が低下するため、アクチュエータによる制御効果が得られる周波数帯域が低周波数側へシフトするからである。
【0075】
したがって、パネルの面積を広くする必要がある場合には、パネルを複数の小パネルに分割し、それぞれの小パネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータを配することが好ましい。これにより、音源側と受音側との境界面の面積が広い場合であっても、周波数が高い音を遮音することが可能になる。
【発明の効果】
【0076】
以上のように、本発明によって、制御スピルオーバを発現させることなく、広い周波数帯域の音に対して優れた遮音性能を発揮することができるだけでなく、実用化も容易な能動遮音装置を提供することが可能になる。また、この能動遮音装置に好適に用いることのできる能動遮音パネルを提供することも可能になる。さらに、この能動遮音装置を利用した能動遮音方法を提供することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
2 本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様
本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様を、図面を用いて詳細に説明する。図10は、本発明の能動遮音装置の一例を示した図である。
【0078】
本実施態様の能動遮音装置は、図10に示すように、音源側と受音側を隔てるためのパネルと、音源から発せられた音を検知するためのセンサと、センサの検知した音に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいてパネルの所定箇所を加振することによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータとを備えたものとなっている。本実施態様の能動遮音装置において、パネルは、その諸元が上記表1のものを用いている。
【0079】
2.1 センサ
センサとしては、音源の発した音を検知できるものや、パネルの振動を検知できるものなどが例示される。音源の発した音を検知するセンサとしては、マイクロホンが例示される。また、パネルの振動を検知するセンサとしては、加速度ピックアップやPVDFフィルムなどの圧電素子が例示される。本実施態様の能動遮音装置において、センサにはマイクロホンを用いている。
【0080】
センサの場所は、特に限定されない。センサは、音源側に配してもよいし、受音側に配して(又はパネルに密着させて)もよい。前者の場合には、パネルに入射する入射音をセンサで検知し、その音を制御手段にフィードフォワードし、制御手段の発した制御信号に基づいてアクチュエータでパネルの振動を制御することになる。このような制御は、「フィードフォワード制御」と呼ばれる。
【0081】
これに対し、後者の場合には、パネルを透過した音やパネルの振動をセンサで検知し、その音や振動を制御手段にフィードバックし、制御手段の発した制御信号に基づいてアクチュエータでパネルの振動を制御することになる。このような制御は、「フィードバック制御」と呼ばれる。
【0082】
本発明の能動遮音装置は、フィードフォワード制御とフィードバック制御のいずれにおいても有効なものである。本実施態様の能動遮音装置においては、説明の便宜上、フィードフォワード制御する場合について説明している。
【0083】
2.2 制御手段
制御手段は、センサの検知した音に応じて制御信号を発することができるものであれば特に限定されない。制御手段としては、デジタル信号処理装置などが例示される。本実施態様の能動遮音装置においては、DSPボードとD/AボードとA/Dボードとからなるデジタル信号処理装置を制御手段として用いている。
【0084】
制御手段の制御アルゴリズムは、能動遮音制御に用いられている各種のものを用いることができる。制御手段の制御アルゴリズムとしては、「Filtered-X LMSアルゴリズム」や、「Phase corrected filtered error LMS アルゴリズム」や、「最適アルゴリズム」や、「H∞制御アルゴリズム」などが例示される。本実施態様の能動遮音装置においては、「Filtered-X LMSアルゴリズム」を採用している。
【0085】
2.3 アクチュエータ
アクチュエータの種類は、特に限定されないが、通常、パネルにおける特定点を局所的に加振することのできるポイントアクチュエータが用いられる。本実施態様の能動遮音装置においては、アクチュエータとして、ボイスコイル型のポイントアクチュエータを用いている。
【0086】
アクチュエータの配置は、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点に配していれば特に限定されない。例えば、図11に示す配置A〜Cを採用することができる。図11は、本発明の能動遮音装置におけるアクチュエータの配置の仕方を説明する図である。
【0087】
図11に示した配置A〜Cのうち、配置Aは、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωa(159.5Hzとする。)で反共振させた際に節線となるパネルにおける2本の節線予定線Laのそれぞれの中点にそれぞれアクチュエータを配したものとなっている。非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωb(277.5Hzとする。)で反共振させた際に節線となるパネルにおける2本の節線予定線Lbは節線予定線Laの中点を通っていない。
【0088】
また、配置Bは、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωa(159.5Hzとする。)で反共振させた際に節線となるパネルにおける2本の節線予定線Laと、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωb(277.5Hzとする。)で反共振させた際に節線となるパネルにおける2本の節線予定線Lbとの4つの交点のうち1つにアクチュエータを配したものとなっている。
【0089】
さらに、配置Cは、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωa(159.5Hzとする。)で反共振させた際に節線となるパネルにおける2本の節線予定線Laと、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωb(277.5Hzとする。)で反共振させた際に節線となるパネルにおける2本の節線予定線Lbとの4つの交点の全てにアクチュエータを配したものとなっている。
【0090】
アクチュエータの配置を決定する際に、複数存在する反共振周波数のうち、どれを反共振周波数ωaや反共振周波数ωbとして選択するかは特に限定されない。しかし、低周波数帯域の音に対する制御効果を考慮すると、できるだけ低次の非相殺型振動モード間の連成によって反共振する際の反共振周波数を選択すると好ましい。
【0091】
というのも、既に述べた通り、低周波数帯域においては、1次の放射モードによる透過音響パワーが、他次の放射モードによる透過音響パワーよりも圧倒的に大きく、全透過音響パワーにおいて支配的であるが、この1次の放射モードにおいては、当該放射モードを構成する非相殺型振動モードの次数が低ければ低いほどその振動モードの寄与が大きくなる傾向があるからである。
【0092】
このとき選択する非相殺型振動モードの次数(全ての非相殺型振動モードのうち、固有周波数の低い方から数えた順番)は、特に限定されないが、通常、10次以下とされる。非相殺型振動モードの次数は、好ましくは5次以下であり、さらに好ましくは3次以下(例えば、パネルが横長の長方形である場合においては、1次([1,1]次)、2次([1,3]次)又は3次([3,1]次))である。
【0093】
本実施態様の能動遮音装置のように、パネルが横長の長方形である場合には、1次の非相殺型の振動モード([1,1]次振動モード)と2次の非相殺型振動モード([1,3]次振動モード)との連成によって反共振する際の反共振周波数を反共振周波数ωaとして選択し、1次の非相殺型の振動モード([1,1]次振動モード)と3次の非相殺型振動モード([3,1]次振動モード)との連成によって反共振する際の反共振周波数を反共振周波数ωbとして選択すると最適である。
【0094】
図11における配置A〜Cも、[1,1]次振動モードと [1,3]次振動モードとの連成によって反共振する際の反共振周波数(159.5Hz)を反共振周波数ωaとして採用し、 [1,1]次振動モードと [3,1]次振動モードとの連成によって反共振する際の反共振周波数(277.5Hz)を反共振周波数ωbとして採用している。
【0095】
ところで、配置A〜Cのうち、配置Aと配置Cは、パネルの中心に対して点対称であるとともに該中心を通る直線に対して線対称な位置にアクチュエータが配されている。加振力及び加振方向の等しいアクチュエータをこのように配置することで、非制御時には透過音に対して大きな影響を及ぼさなかった放射効率の低い低次の相殺型振動モードが、制御時に励振されにくくすることが可能になる。
【0096】
このような配置は、パネルが長方形以外の形状であっても、パネルが点対称形状や線対称形状を有していれば可能である。例えば、図8に示すように、パネルが(a)円形、(b)長丸形、(c)六角形、(d)鼓形である場合においても、パネルの中心に対して点対称又は該中心を通る直線に対して線対称な位置にアクチュエータを配することで、相殺型振動モードが制御時に励振されにくくすることが可能である。
【0097】
これに対し、図8の(e)に示すように、パネルが不整形であり、点対称形状と線対称形状のいずれも有さない場合には、有限要素法によるモード解析や実験モード解析などを事前に行って放射モードの形状を求め、放射効率の低い低次の相殺型振動モードが励振されないような位置にアクチュエータを配すればよい。
【0098】
反共振周波数ωa, ωbとして採用しうる反共振周波数や、節線予定線La,Lbとして採用しうる節線予定線は、パネルの境界条件が明確な場合には、論理的に決定することができるものの、実際には、境界条件などが不明確であるため、理論的に決定することが困難であることが予想される。このような場合には、実験的に反共振周波数と節線予定線を見つる方法が考えられる。反共振周波数と節線予定線を実験的に見つける具体的な手順を以下に述べる。
【0099】
まず、音をパネルに対して垂直に入射して透過音響パワーを計測し、その透過音響パワーが極小となる周波数を求める。その周波数よりも僅かに高い周波数で音響透過パワーが極大となれば、その透過音響パワーが極小となった周波数が反共振周波数である。一般に、反共振周波数は、複数存在するが、これら複数の反共振周波数のうち、どれを反共振周波数ωa, ωbとして採用するかは、上述した通りである。
【0100】
次に、見つけた反共振周波数ωa, ωbにおけるパネルの振動分布を振動加速度センサ、レーザードップラー振動計により計測し、パネルにおける振動しない点を見つける。パネルの振動分布は、音響ホログラフィ装置を用いて透過音から求めることもできる。この振動しない点の集合が反共振周波数ωa, ωbにおける節線予定線La,Lbとなる。振動しない点は、実可動解析を行うことによっても見つけることができる。
【0101】
2.4 パネル
パネルの種類は、音源の種類や、能動遮音装置を設置する環境などを考慮して適宜決定される。遮音性や耐久性などを考慮して、アルミニウムなどの金属板がパネルに採用されることが多い。本実施態様の能動遮音装置においても、上記表1に示すアルミニウム板をパネルとして用いている。
【0102】
パネルの面積は、制御効果を得たい音の周波数などを考慮して適宜決定される。一般に、パネルの面積が広くなればなるほど、制御効果の得られる周波数帯域は低周波数側へシフトし、パネルの面積が狭くなればなるほど、制御効果の得られる周波数帯域は高周波数側へシフトする。このため、パネルの面積が広くなると、比較的高い周波数帯域の音を遮音しにくくなる。
【0103】
したがって、遮音を行おうとする部分の面積が広いなど、パネルの面積を広くしなければならないような事情があり、かつ高い周波数の音も遮音する必要があるような場合には、パネルの厚さhを厚くする、パネルを剛性の高い材料で形成するなど、パネルの固有振動数を高くする対策を講じる必要がある。
【0104】
また、パネルを複数の小パネルに分割し、それぞれの小パネルにおける節線予定線Laや節線予定線Lbにアクチュエータを配することも好ましい。図21は、パネルを複数の小パネルに分割して、それぞれの小パネルにアクチュエータを配した状態を示した図である。これにより、パネルを厚くすることができない、パネルの剛性を高くすることができないなど、特殊な事情があっても、比較的高い周波数の音を抑制することが可能になる。
【0105】
小パネルの形状は、特に限定されないが、通常、四角形、三角形、正六角形など、敷き詰めることが可能な形状とされる。これにより、音源側と受音側との境界面を小パネルで隙間無く埋めることが可能になる。それぞれの小パネルは、異なる形状であってもよいが、この場合には、能動遮音装置の設置にかかる手間が増大するばかりか、節線予定線Laや節線予定線Lbの位置が小パネルごとに異なるために、アクチュエータの取り付けにかかる手間も増大する。このため、音源側と受音側との境界面が不整形であるなどの特殊な事情が無い限りは、それぞれの小パネルは、通常、同一形状とされる。
【0106】
パネルを複数の小パネルに分割する場合には、センサと制御手段をそれぞれの小パネルごとに1個ずつ、或いは複数個ずつ設けてもよい。しかし、この場合には、能動遮音装置の製造コストが大幅に増加するおそれがある。このため、音源側と受音側との境界面が広く、小パネルの位置によって入射音の性質が大きく異なるなどの特殊な事情が無い限り、センサと制御手段は、通常、全部の小パネルで1個ずつとされる。
【0107】
3 応用例
本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法の具体的な応用例は特に限定されない。音源側と受音側の間にパネルを配することが可能な様々な場面に応用することができる。以下において、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を使用するのに適した応用例をいくつか紹介する。
【0108】
3.1 応用例1
本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法は、外部の音を低減して内部を静寂に保つための防音ボックスに応用できる。図26は、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を防音ボックスに応用した例を示した図である。図26では、防音ボックスの内部に走査型プローブ顕微鏡(SPM)を収容している。このほか、エンジンやコンプレッサーなどが発する音が外部へ漏れないようにするための防音ボックスにも応用できる。
【0109】
3.2 応用例2
本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法は、建築物にも応用できる。図27は、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を建築物における部屋と部屋とを仕切る壁に応用した例を示した図である。図28は、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を建築物における外壁に応用した例を示した図である。このほか、ドア、窓、天井、床などにも応用できる。
【0110】
3.3 応用例3
本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法は、乗り物にも応用できる。図29は、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を航空機に応用した例を示した図である。このほか、鉄道車両や自動車などにも応用できる。
【実施例】
【0111】
4 計算による遮音性能の検証
続いて、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法の遮音性能について、計算による検証を行った。以下において、パネルの寸法や材料、アクチュエータの種類、制御手段の制御アルゴリズムなどの条件は、特に言及しない限り、「2 本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様」で採用したものと同じである。
【0112】
4.1 アクチュエータの配置による影響
まず、アクチュエータを図11の配置A〜Cに配して制御を行った場合と、アクチュエータを配さなかった場合(非制御時)のそれぞれについて、音響透過損失を計算により求めてみた。ここでは、理想的に得られる制御効果について検討するため、透過音響パワーを最小化する最適フィードフォワード制御則が適用されたときの音響透過損失について計算を行った。
【0113】
図12に、アクチュエータを図11の配置A〜Cで配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合と、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合の音響透過損失の計算結果を示す。図12を見ると、配置Aと配置Cの場合ともに、非制御時の場合と比較して、広い周波数帯域で非常に大きな制御効果が得られることが分かる。また、配置Aと配置Cを比較すると、配置Cの方が高周波数帯域まで制御効果が得られていることも分かる。
【0114】
これは、配置Aの場合、アクチュエータによる加振力とパネルに入射した音の加振力とが等しくなるのは、[1,1]次振動モード及び[1,3]次振動モードの2つの振動モードだけであるのに対して、配置Cの場合、 [1,1]次振動モード及び[1,3]次振動モードのほか、 [3,1]次振動モードでも、アクチュエータによる加振力とパネルに入射した音の加振力とが等しくなるからである。
【0115】
一方、配置Bの計算結果を見ると、非制御時の場合と比較して、一定の制御効果は得られるものの、配置Aや配置Cと比較して、その制御効果は限定的なものとなっている。これは、本来、低周波数帯域では放射効率が低く透過音に対する影響の小さかった相殺型振動モードが励振されたためである。
【0116】
4.2 計算による本発明と従来技術との比較
続いて、本発明の能動遮音装置と、従来の能動遮音装置との比較を行うため、図13に示す配置C〜Gで同様の計算を行った。図13は、パネルに対するアクチュエータの配置を示した図である。
【0117】
配置Cは、図11に示す配置Cと同じである(本発明4点制御)。
【0118】
配置Dは、パネルの中心((x座標,y座標)として (0,0))にアクチュエータを配したものとなっている(従来1点制御)。
【0119】
配置Eは、パネルの周縁(配置Cよりも外側)の4点( (x座標,y座標)として(-a/3,-b/3),(-a/3,b/3),(a/3,-b/3),(a/3,b/3))にアクチュエータを配したものとなっている(従来4点制御)。4つのアクチュエータの加振力と加振方向は全て等しい。
【0120】
配置Fは、等間隔に配された16点((x座標,y座標)として(-3a/8,-3b/8),(-3a/8,-b/8),(-3a/8,b/8),(-3a/8,3b/8),(-a/8,-3b/8),(-a/8,-b/8),(-a/8,b/8),(-a/8,3b/8),(a/8,-3b/8),(a/8,-b/8),(a/8,b/8),(a/8,3b/8),(3a/8,-3b/8),(3a/8,-b/8),(3a/8,b/8),(3a/8,3b/8))にアクチュエータを配したものとなっている(従来16点制御)。16個のアクチュエータの加振力と加振方向は全て等しい。
【0121】
配置Gは、6点((x座標,y座標)として(-a/6,-b/3),(-a/6,0),(-a/6,b/3),(a/6,-b/3),(a/6,0),(a/6,b/3))にアクチュエータを配したものとなっている。6個のアクチュエータの加振力は全て等しいが、(-a/6,-b/3),(-a/6,b/3), (a/6,-b/3),(a/6,b/3))に配された4個のアクチュエータの加振方向と、(-a/6,0),(a/6,0)に配された2個のアクチュエータの加振方向は逆となっている。配置Gは、低周波数帯域においては、近似的に[1,3]次振動モードの励振が可能である。
【0122】
図14は、音の周波数と、アクチュエータを図13の配置C〜Gで配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合の音響透過損失、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【0123】
図14を見ると、周波数が100Hz以下の帯域においては、非制御時の場合と比較して、配置C〜Gの全ての場合で、顕著な制御効果が得られていることが分かる。しかし、周波数がそれよりも高くなると、配置D〜Fでは、制御効果が得られない周波数があることが分かる。また、配置Gは、周波数が100Hz以下の帯域においては、配置D〜Fと比較して制御効果は劣っているものの、比較的広い周波数帯域に亘って一定の制御効果が得られていることが分かる。
【0124】
これに対して、配置Cでは、略全ての周波数帯域において、配置D〜Gよりも優れた制御効果が得られていることが分かる。配置Cにおいても、制御効果が落ち込む周波数は存在するが、その周波数は反共振周波数と一致しているため、問題とはならない。反共振周波数においては、アクチュエータによる制御効果が得られなくても、パネルは優れた遮音性能を発揮するからである。
【0125】
以上の結果から、本発明が、低周波数帯域の広範囲に亘って非常に顕著な制御効果が得られることが分かった。
【0126】
図15は、音の周波数と、アクチュエータを図13の配置C〜Gで配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合のパネルの二乗平均速度(振動速度vの二乗平均)、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合におけるパネルの二乗平均速度とを示したグラフである。また、図16は、音の周波数と、アクチュエータを図13の配置C〜Gで配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合の放射効率、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合の放射効率との関係を示したグラフである。
【0127】
図15を見ると、配置Cでは、非制御時の場合と比較して、低周波数帯域において振動速度vが大きく低下していることが分かる。これに対して、配置D〜Gでは、低周波数帯域においても、非制御時の場合よりも振動速度vが増加する周波数があることが分かる。また、図16を見ると、配置Cでは、非制御時や配置D〜Gと比較して、広い周波数帯域において、放射効率が低下していることが分かる。
【0128】
以上の結果から、配置Cでは、パネルの振動と放射効率の両方が抑制され、本発明によって大きな制御効果が得られることが分かった。
【0129】
4.3 パネルの材料による影響
続いて、パネルの材料が、アクチュエータの制御効果に対してどのような影響を及ぼすのかについて、検証を行った。この検証を行うため、まず、パネルの厚さhを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させ、音響透過損失がそれぞれの厚さhにおいてどのような値となるのかを計算により求めた。
【0130】
図17は、音の周波数と、パネルの厚さhを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の非制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。また、図18は、音の周波数と、パネルの厚さhを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【0131】
図18を見ると、厚さhを大きくしていくことによって、制御効果が得られる周波数帯域が高周波数側へシフトすることが分かる。この現象は、以下のように説明することができる。
【0132】
既に述べたとおり、配置Cでは、[1,1]次振動モード、[1,3]次振動モード及び[3,1]次振動モードにおいて、アクチュエータによる加振力と、パネルに入射する入射音による加振力とを等しくすることが可能であった。すなわち、制御効果が得られる周波数帯域は、これら低次の非相殺型振動モードが透過音に対して大きな影響を及ぼす周波数帯域ということになる。つまり、概ね[3,1]次振動モードの共振周波数以下の領域で制御効果が得られる。したがって、パネルを厚くすることで、パネルの共振周波数が上昇し、制御効果が得られる周波数帯域も高周波数側へシフトしたと考えられる。
【0133】
また、パネルを厚くすると、パネルの単位面積当たりの質量(面密度)も上昇することから、全体的に音響透過損失が上昇している。パネルのヤング率Eを高くした場合、パネルの剛性が増大するために、共振周波数が上昇し、パネルを厚くした場合と同様に、制御効果が得られる周波数帯域が高周波数側へシフトする。パネルの密度ρSを小さくした場合には、パネルの面密度が小さくなって全体的に音響透過損失が低下するとともに、モード質量も低下することから、共振周波数が上昇する。
【0134】
以上のことから、パネルを厚くすると、制御効果が得られる周波数帯域が高周波数側へシフトすることが確認できた。また、パネルの材料を変えることで、制御効果が得られる周波数帯域が変化することも分かった。
【0135】
4.4 パネルの寸法による影響の検証
続いて、パネルの面積が、アクチュエータの制御効果に対してどのような影響を及ぼすのかについて、検証を行った。図19は、音の周波数と、大型のパネル(縦の長さaが0.8m、横の長さbが1.1314m)の厚さhを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の非制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。また、図20は、音の周波数と、大型のパネル(縦の長さaが0.8m、横の長さbが1.1314m)の厚さhを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【0136】
図18と図20を見比べると、パネルの面積が広くなると、制御効果が得られる周波数帯域が低周波数側へシフトすることが分かる。これは、パネルの面積が広くなったことによる固有振動数の低下が原因である。パネルが横長の長方形である場合には、既に述べたとおり、概ね[3,1]次振動モードの共振周波数以下の周波数帯域で制御効果が得られる。したがって、パネルの面積が広くなり、固有振動数が低くなると、制御効果が得られる周波数も低下するというわけである。
【0137】
以上のことから、パネルの面積を広くしながらも、高い周波数まで制御効果を得るためには、パネルを厚くする,比剛性が高い材料を用いるなど板の固有振動数を高くすればよい。パネルを厚くできない場合は、図21に示すようにパネルを小面積に分割し、それぞれの小パネルを制御する方法が考えられる。
【0138】
4.5 斜入射の場合
ここまでは、パネルに対して音が垂直に入射(垂直入射)する場合について検討してきたが、以下においては、パネルに対して音が斜めに入射(斜入射)する場合について検討する。
【0139】
斜入射の場合には、垂直入射の場合に励振されなかった振動モードが透過音に影響を及ぼすようになるため、アクチュエータによる制御効果が低下することが考えられる。例えば、パネルが長方形であると、垂直入射の場合には、[奇数,奇数]次振動モードのみしか励振されないのに対して、斜入射の場合には、[奇数,偶数]次振動モード、[偶数,奇数]次振動モード又は[偶数,偶数]次振動モードが励振されるようになる。
【0140】
この影響を調べるため、斜入射の場合に音響透過損失を計算により求めた。図22は、音の周波数と、パネルに対する音の入射角度を0°(垂直入射),15°,30°,60°と変えた場合の制御時における音響透過損失、及びパネルに音を垂直入射させた場合の非制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【0141】
図22を見ると、パネルに対する音の入射角度が大きくなればなるほど、音響透過損失が低下することが分かる。しかし、アクチュエータによる制御効果は、垂直入射の場合よりは低下するものの、低周波数帯域においては十分に奏されていることも分かる。これは、パネルの寸法よりも音の波長が長くなる低い周波数においては、斜入射した場合であっても、パネル上での音圧がほぼ均一となるため、条件が垂直入射の場合に近くなるからである。
【0142】
斜入射の場合に問題となるのは、相殺型振動モードの固有振動数近傍で制御効果が低下することである。これは、本発明は、1次の放射モードを抑制するようなアクチュエータの配置となっているため、非相殺型振動モード以外の振動モード(相殺型振動モード)による放射モードを制御できなくなるからである。
【0143】
この問題を改善するため、パネルの制振性を向上させる方法を考えた。図23は、パネルに対して入射角度30°で入射する音の周波数と、パネルの損失係数ηを0.01,0.05,0.1,0.2,0.5と変化させた場合の音響透過損失との関係を示したグラフである。
【0144】
図23を見ると、パネルの損失係数ηを大きくしてパネルの制振性を向上させることで、相殺型振動モードの固有振動数近傍での制御効果の落ち込みが改善されることが分かる。相殺型振動モードは放射効率が低いため、固有振動数近傍においてのみ透過音に影響を及ぼす。したがって、これらの振動モードの共振を抑えることにより、斜入射の場合に相殺型振動モードの固有振動数近傍で制御効果が低下する問題を改善できる。
【0145】
また、図23の結果から、斜入射の場合において広い周波数帯域で制御効果を得ようとすると、パネルの損失係数ηを0.05以上とすることが好ましいと考えられる。
【0146】
このほか、パネルの制振性を向上させるためには、パネル自体を制振性が高い材料によって製作する、制振材料をパネルに貼付する、制振材料を2枚のパネルに挟む積層構造とする、支持部で振動を吸収する、パネルに振動ピックアップやアクチュエータを用いて制振性を向上させるアクティブ振動制御を行う、などの対策が考えられる。
【0147】
5 実験による遮音性能の検証
続いて、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法の遮音性能について、実験による検証を行った。以下において、パネルの寸法や材料、アクチュエータの種類、制御手段の制御アルゴリズムなどの条件は、特に言及しない限り、「2 本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様」で採用したものと同じである。
【0148】
図24は、実験に用いた実験設備の概要を示した図である。本実験は、図24に示すように、音源側となる部屋と、受音側となる部屋とをパネルで仕切ることによって行った。パネルは、その諸元が上記表1で表されるアルミニウム板に、厚さ1mmの制振材を貼り付けた複層板を用いた。パネルは、その周縁をナイフエッジで挟み込み、単純支持した。パネルの所定箇所にはアクチュエータを取り付けた。アクチュエータには、ボイスコイル型のポイントアクチュエータを用いた。アクチュエータの配置は、図11の配置Cと同様である。
【0149】
また、音源側の部屋には、音源となるスピーカを配した。スピーカは、パネルに対向する壁面に4つ配置した。パネルからスピーカまでの距離は2.0mである。音源側となる部屋の各壁面には、厚さ500 mmの吸音くさびを取り付け、パネルに対して音が垂直に入射するようにした。
【0150】
一方、受音側の部屋には、パネルを透過する音を検知するためのセンサと、後述する音響パワーW0及び透過音響パワーWTを測定するための音響パワー測定手段と、音響パワー測定手段を移動可能に支持するための支持手段とを配した。センサには、マイクロホンを用いた。このセンサは、パネルから2.5mの位置に設置した。音響パワー測定手段には、インテンシティプローブを用いた。音響パワーW0及び透過音響パワーWTの測定は1/12オクターブバンドで行った。受音側の部屋は、無響室とした。
【0151】
さらに、音源と、アクチュエータと、センサは、外部に配した制御手段に接続した。制御手段には、DSPボードとD/AボードとA/Dボードとからなるデジタル信号処理装置を用いた。制御手段のサンプリング周波数は3kHz、タップ数は1000である。制御手段の制御アルゴリズムは、「Filtered-X LMSアルゴリズム」とし、マイクロホンが設置された位置での音圧が最小となるように適応制御を行うようにした。実験には、1.6kHz以下のホワイトノイズを用いた。
【0152】
さらにまた、遮音性能を評価する指標としては、上記式21で定義される音響透過損失R[dB]ではなく、下記式38で定義される挿入損失IL[dB]を採用した。これは、入射音響パワーを実験的に求めることが困難であり、垂直入射時の音響透過損失R[dB]の測定が困難であるからである。
【数25】

【0153】
以上の実験設備を用いて、下記手順に従って実験を行った。
[1] パネルを取り付けていない状態で、音源側から受音側へ到達する音響パワーW0を測定する。
[2] アクチュエータを配したパネルで音源側と受音側とを仕切り、受音側へ透過してくる透過音響パワーWTを測定する。
[3] 挿入損失IL[dB]を上記式38によって求める。
【0154】
図25は、音の周波数と、図24の実験設備を用いて測定した制御時の挿入損失IL[dB]、及び非制御時の挿入損失IL[dB]との関係を示したグラフである。図25を見ると、本実験においては、計算で得られたほどの優れた結果が得られていないことが分かる。これは、実験では、パネル周辺の遮音性能が低いためと考えられる。しかし、それでもなお、制御時には、低周波数帯域の広い範囲において、挿入損失IL[dB]が10dB以上向上していることが分かる。以上のことから、本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法が優れた遮音性能を発揮するということが、実験によって実証された。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】従来行われている能動遮音制御の一例を示した図である。
【図2】能動遮音制御の計算モデルを示した図である。
【図3】100Hzにおける1次から3次までの放射モードの形状を示した図である。
【図4】音の周波数と非制御時の音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図5】音の周波数と、非制御時における1次から3次までの放射モードの音響パワー、及び全透過音の音響パワーとの関係を示したグラフである。
【図6】パネルをその反共振周波数である159.5Hzと277.5Hzで振動させたときの振動分布を示した図である。
【図7】音の周波数と、パネルの周縁を単純支持した場合の音響透過損失、及びパネルの周縁を固定支持した場合の音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図8】パネルとして採用しうる形状の一例を示した図である。
【図9】音の周波数と、図8に示す形状のパネルを用いた場合における非制御時の音響透過損失R[dB]との関係を示したグラフである。
【図10】本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様を示した図である。
【図11】図10に示した能動遮音装置におけるアクチュエータの配置を説明する図である。
【図12】音の周波数と、アクチュエータを図11の配置A〜Cで配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合の音響透過損失、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合の音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図13】パネルに対するアクチュエータの配置を示した図である。
【図14】音の周波数と、アクチュエータを図13の配置で配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合の音響透過損失、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図15】音の周波数と、アクチュエータを図13の配置で配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合のパネルの二乗平均速度、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合におけるパネルの二乗平均速度とを示したグラフである。
【図16】音の周波数と、アクチュエータを図13の配置C〜Gで配したパネルに対して音を垂直に入射させた場合の放射効率、及び非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させた場合の放射効率との関係を示したグラフである。
【図17】音の周波数と、パネルの厚さを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の非制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図18】音の周波数と、パネルの厚さを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図19】音の周波数と、大型のパネルの厚さを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の非制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図20】音の周波数と、大型のパネルの厚さを1mm,2mm,3mm,5mmと変化させた場合の制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図21】パネルを複数の小パネルに分割して、それぞれの小パネルにアクチュエータを配した状態を示した図である。
【図22】音の周波数と、パネルに対する音の入射角度を0°(垂直入射),15°,30°,60°と変えた場合の制御時における音響透過損失、及びパネルに音を垂直入射させた場合の非制御時における音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図23】パネルに対して入射角度30°で入射する音の周波数と、パネルの損失係数ηを0.01,0.05,0.1,0.2,0.5と変化させた場合の音響透過損失との関係を示したグラフである。
【図24】実験に用いた実験設備の概要を示した図である。
【図25】音の周波数と、図24の実験設備を用いて測定した制御時の挿入損失IL[dB]、及び非制御時の挿入損失IL[dB]との関係を示したグラフである。
【図26】本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を防音ボックスに応用した例を示した図である。
【図27】本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を建築物における部屋と部屋とを仕切る壁に応用した例を示した図である。
【図28】本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を建築物における外壁に応用した例を示した図である。
【図29】本発明の能動遮音装置及び能動遮音方法を航空機に応用した例を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源側と受音側を隔てるためのパネルと、音源から発せられた音又はパネルの振動を検知するためのセンサと、センサの検知した音又は振動に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいてパネルの所定箇所を加振することによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータとを備えた能動遮音装置であって、
非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータが配されていることを特徴とする能動遮音装置。
【請求項2】
節線予定線La上の点のうち、低次の相殺型振動モードの節線と重なる点にアクチュエータが配された請求項1記載の能動遮音装置。
【請求項3】
パネルが点対称形状又は線対称形状を有し、節線予定線La上の点のうち、パネルの中心に対して点対称又は該中心を通る直線に対して線対称な位置にある少なくとも2点にアクチュエータが配された請求項1記載の能動遮音装置。
【請求項4】
非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線Laと、非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωb(>ωa)で反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線Lbとの交点のうち、少なくとも1点にアクチュエータが配された請求項1記載の能動遮音装置。
【請求項5】
パネルの損失係数が0.05以上である請求項1記載の能動遮音装置。
【請求項6】
パネルが複数の小パネルに分割され、それぞれの小パネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータが配された請求項1記載の能動遮音装置。
【請求項7】
音源側と受音側を隔てるためのパネルの所定箇所に、パネルを加振することによりパネルの透過音を抑制するアクチュエータを取り付けた能動遮音パネルであって、
非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータが配されていることを特徴とする能動遮音パネル。
【請求項8】
音源側と受音側を隔てるためのパネルと、音源から発せられた音又はパネルの振動を検知するためのセンサと、センサの検知した音又は振動に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいてパネルの所定箇所を加振するアクチュエータとを用いて、パネルの透過音を抑制する能動遮音方法であって、
非制御時のパネルに対して音を垂直に入射させて反共振周波数ωaで反共振させた際に節線となるパネルにおける節線予定線La上の少なくとも1点にアクチュエータを配することを特徴とする能動遮音方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−60985(P2010−60985A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228120(P2008−228120)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】