説明

脂性肌をケアするための化粧品組成物の使用

本発明は、脂性肌をケアするための化粧品組成物におけるクリシンの使用に関する。本発明は、脂性肌を予防又は治療する美容的処理方法であって、クリシンを含有する化粧品組成物を肌に塗布することを含む、美容的処理方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂性肌の問題を予防又は治療するための化粧品組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の3つの主なタイプは、角質層の潤い(hydration)及び角質層の皮脂の生成に応じて、乾燥肌、脂性肌及び混合肌に区別することができる。
【0003】
肌の様々なタイプを知ることにより、各場合に適切な美容的処理を採用することができる。
【0004】
肌は、とりわけ、真皮に位置し、ほぼ常時毛が付随している皮脂腺から成る。足の裏及び手のひらを除き、身体のすべての部分には皮脂腺がある。顔、頭皮又は胸等の或る特定の領域には、より多数の皮脂腺がある(およそ500万)。これらの皮脂腺は、毛管に沿って流れる皮脂を肌の表面へと分泌し、ここで、皮脂が汗と接触して、角質層に潤いを与えると共に、角質層を保護する皮脂膜(hydrolipidic film)を形成する。
【0005】
皮脂腺は、房の形状をした房状腺である。皮脂腺は2つのタイプの細胞が見出される多数の細胞層から成る:腺の周縁に向かって位置し、盛んに分裂する未分化細胞(胚芽層)。これらの細胞は、およそ2週間で中心に移動して分化細胞、脂質合成に必要な酵素機能(enzymatic equipment)を含有する中心の分化細胞(皮脂腺細胞(sebocytes))となる。これらの細胞はもはや分裂しない。これらの細胞は1週間で皮脂が満たされたより大きな成熟細胞に変わり、その中の脂質は、最終的に大きな液胞を構成するように合成又は貯蔵される。
【0006】
ヒトでは、各毛包は、独自のサイクルに従って発達する。すなわち、1つの腺は、別の腺が肥大する一方で、縮退する可能性がある。皮脂腺細胞の再生時間はおよそ3週間である。
【0007】
腺の容量は、胚芽部分(compartment)の増殖活性、皮脂腺細胞の分化に必要な時間、及び各皮脂腺細胞によって合成される皮脂の質によって決まる。
【0008】
皮脂の生成量は、皮脂腺の大きさ及び数に応じて、多少多くなる。分泌が多すぎると、肌の変性につながり、脂性になって外観がてかると共に、組織が厚くなり、毛孔が拡大し、場合によっては黒色面皰を伴う。
【0009】
てかり肌という比較的見た目が良くない特質に加えて、脂性肌は、容易に刺激を受けやすくなる傾向があると共に、化粧のりが非常に悪いことにも留意すべきである。したがって、肌表面の「正常肌」特性を維持するために、皮脂の生成を抑えることが可能な化粧品組成物が必要とされている。従来技術において、脂性肌の問題に対する解決策を与えることが可能な幾つかの化粧品組成物が提案されている。これらの組成物は、皮脂を吸収し、その結果、機械的効果により肌のてかりを消すことができる粉末、又は角栓の排除を促進するための角質溶解薬を含有するものが多い。皮脂腺の毛包拡大に効き目がある収斂性の活性薬剤、又は肌の厚さを低減させるためのエクスフォリアント(exfoliant)活性薬剤も存在する。
【0010】
しかしながら、これらの組成物の有効性が相対的であるのは、それらのほとんどが、皮脂の生成を抑えるのではなく、単にポンプ効果により皮脂を吸収するに過ぎないためである。さらに、これらの組成物のほとんどは、治癒的な効果しか有さず、より長期間、現象を予防することができない。最後に、皮脂の生成の調節に関して有効な活性硫黄は、概して、その不快臭のために、化粧品組成物に使用することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、脂性肌の問題を予防及び治療することができ、且つ脂性肌の徴候ではなく、その原因に作用する、化粧品組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願人は、皮脂の生成に対するクリシンの活性を示した。具体的には、クリシンは、ヒト皮脂腺細胞の増殖を調節し、且つそれらの成熟皮脂生成細胞への分化を遅延させることが可能である。皮脂生成細胞がより少なくなるため、皮脂の生成が少なくなり、結果的に、皮脂腺によって肌表面に出てくる皮脂の量が低減される。すると肌には、もはや脂性肌の見た目の悪い特性がない。クリシンは、長期間、皮脂の生成を調節することが可能であるため、治癒作用及び予防作用の両方を有する。
【0013】
したがって、本発明は、脂性肌のケアで使用するための、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。
【0014】
本発明はまた、脂性肌を調節する、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用、特に、脂性肌を調節する作用物質としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。
【0015】
本発明はまた、皮脂の生成を調節する、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用、特に、皮脂の生成を調節する作用物質としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。
【0016】
本発明はまた、皮脂腺細胞の増殖を調節する、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用、特に、皮脂腺細胞の増殖を調節する作用物質としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。
【0017】
本発明はまた、清浄(purifying)組成物及び/又はてかり消し(mattifying)組成物である、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用、特に、清浄剤及び/又はつや消し剤としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。最終的に本発明は、てかり防止(anti-shine)保護組成物である、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用、特に、てかり防止保護剤としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。
【0018】
クリシンは既に、欧州特許第0980684号明細書で、日焼け止めと組み合わせた抗ウイルス剤として化粧品に使用されている。フリーラジカル捕捉剤としてのクリシンの使用も、仏国特許出願公開第2687572号明細書に記載されている。驚くべきことに、本出願人は、ヒト皮脂腺細胞の分化及び増殖に対するクリシンの調節作用を実証した。
【0019】
5,7−ジヒドロキシフラボンとしても知られるクリシンは、分子量が254.23g/molの分子である。
【0020】
有利には、本発明の文脈で使用することができるクリシンは、化学合成によって得られ、一般に入手可能である。クリシンは淡黄色で、最大含水量が2%であり、分子量が254.23g/molである、無臭の(odour less)粉末である。クリシンは多くの植物に存在するため、天然由来のクリシンも使用することができる。
【0021】
本発明により使用することができるクリシンは、例えば、DKSH Franceという企業から入手することができ、「クリシン」という名称で販売されている。
【0022】
本発明によれば、クリシンは、1つ又は複数の、脂性肌に効き目がある性質を有する他の活性薬剤と共に使用することができる。特に、クリシンは、化粧品組成物又は皮膚用組成物において、ラミウム・アルブム(Lamium album)としても知られている、オドリコソウ(white deadnettle)の抽出物と組み合わせることができる。実際、オドリコソウの硫黄含量は200ppmを超えている。硫黄は、皮脂の生成を調節することが可能であるため、オドリコソウの抽出物、特に、グリコーリック(glycolic)抽出物を使用することにより、不快臭に関する欠点なしに、本発明の化粧品組成物に硫黄を含めることができる。抽出物はまた、オドリコソウの抽出物の硫黄を多く含む画分であってもよいが、当然のことながら、この画分には不快臭がないのが条件である。
【0023】
同様に、クリシンは、化粧品組成物又は皮膚用組成物において、その収斂性が知られているハマメリス・バージニアナ(Hamamelis virginiana)の抽出物、及び/又は皮脂の流れを低減させ、脂性肌のpHを正常化する、塩酸ピリドキシン、すなわち、ビタミンB6、及び/又は収斂活性、並びに認識された殺真菌性及び殺菌性の効能の両方を有する、亜鉛誘導体と組み合わせてもよい。「亜鉛誘導体」という用語は、亜鉛塩、特に、硫酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛を意味するものとする。
【0024】
本発明による組成物は、約0.001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.01重量%のクリシンを含有する。
【0025】
局所塗布する本発明の化粧品組成物は、特に、顔、首又は身体用の化粧品組成物又は皮膚保護組成物、クレンジング組成物、治療組成物又はケア組成物、例えば、デイクリーム、ナイトクリーム、フェイスローション、マスク、起泡性の(foaming)クレンジングゲル、ボディミルク、毛髪用組成物(hair composition)(例えば、頭皮ローション)又はメイキャップ組成物(例えば、ファンデーション、ティントクリーム)を構成し得る。
【0026】
本発明による化粧品組成物は、当業者に既知の1つ又は複数の他の構成成分、例えば、化粧品組成物で使用するための、既知且つ通常の配合剤又は添加剤を含有し得る。非限定的な例として、かかる配合剤及び添加剤は、親水性又は親油性のゲル化剤、軟化剤、染料、可溶化剤、テクシチャリング(texturing)剤、香料、充填剤、皮膜形成活性薬剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、油脂、グリコール、ビタミン類、日焼け止め等であり得る。化粧品に関してそれらを知ることによって、当業者は、所望の性質に応じて、本発明による化粧品組成物にどの配合剤を、どの量で添加するかを理解する。
【0027】
さらに、本発明による化粧品組成物は、化粧品分野の当業者に既知の任意の形態であってもよく、肌に塗布すること以外に特別な製剤学的(galenic)制約はない。したがって、本発明による化粧品組成物は、水性若しくはアルコール性の溶液若しくは懸濁液、又は油性の懸濁液、又はローションタイプ若しくはセラムタイプの溶液若しくは分散液、水相への油相の分散によって得られるミルクタイプの、液体若しくは半液体の稠度を有するエマルション(水中油型エマルション:O/W)又はその逆(油中水型:W/O)、O/W若しくはW/Oのクリームタイプのエマルション又はゲル、ローション又はマスクの形態であり得る。本発明による化粧品製剤は、泡の形態又は代替的にはエアロゾル組成物の形態も想定することができ、加圧噴射剤も含まれる。
【0028】
本発明はまた、脂性肌の問題を予防又は治療する美容的処理方法であって、クリシンを含有する化粧品組成物の肌への塗布を含む、美容的処理方法に関する。
【0029】
本発明はまた、脂性肌の問題を予防又は治療する際に使用するための皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用に関する。
【0030】
以下の実施例は、一方は、培養時のヒト皮脂腺細胞の増殖に対するクリシンの効果の評価に関し、他方は、本発明の主題である組成物に関する。
【0031】
実施例は、以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】平均の同一性に関する検定を示す図である:10−3%のクリシン濃度に関する対応のある観測値。
【図2】平均の同一性に関する検定を示す図である:5×10−3%のクリシン濃度に関する対応のある観測値。
【実施例】
【0033】
I.培養時のヒト皮脂腺細胞の増殖のクリシンによる阻害の評価
A.材料及び方法
1.皮脂腺細胞の培養
ヒト皮脂腺細胞の株(Hs 917.T、ATCC株番号 CRL−7669)を、4.5g/lのD−グルコース及び10%のウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地で培養した。これらの接着細胞は形態が多角形であり、大核を有する。
【0034】
それらは、大きさを増大させながら増殖し、徐々に分化する。
2.皮脂腺細胞の増殖の評価
妥当性の確認された比色試験である、M.T.T.試験(ジメチルチアゾリルジフェニルテトラゾリウム)(Mosmann, J. Immunol. Meth. 1983 65: 55-63に従う)を用いて増殖を評価した。この化合物はミトコンドリアで代謝されて、青いホルマザン結晶を生じ、その量は、ミトコンドリアのコハク酸デヒドロゲナーゼ酵素の活性及び生細胞の数によって直接的に決定される。
【0035】
この結果、増殖を比色法(570nm)で測定する。
3.皮脂腺細胞とクリシンとの接触
最初に、本発明者らは、通常の培養培地と比較して、様々な濃度のクリシンの存在下、皮脂腺細胞の生存度を確かめた(MTT排除試験)。結果から、10−3%及び5×10−3%の濃度で皮脂腺細胞に適用したクリシンは、これらの細胞に対して全く細胞毒性を誘発しなかったことが示される。
【0036】
したがって、増殖を以下の条件によって評価した:
対照培地中の皮脂腺細胞、
クリシンを2つの濃度、10−3%及び5×10−3%で補充した対照培地の存在下で培養した皮脂腺細胞。
【0037】
各条件に関して6連で実施し、培養72時間後に増殖を分析した。
B.結果
培養時のヒト皮脂腺細胞の増殖に対するクリシンの阻害効果を観察する:クリシン濃度が10−3%では−10.5%、濃度が5×10−3%では−18.4%という差異。
【0038】
皮脂腺細胞の増殖を阻害することによって、クリシンは、皮脂の生成を低減させる。肌表面に出てくる皮脂が少なくなるため、肌は「正常肌」の特性を取り戻す。
II.例
以下の例において、クリシンは、化粧品組成物に添加する前に、前もって2%の水及び0.004%のNaOHの溶液(以下、SOLと称する)に可溶化する。
A.脂性肌用クリーム
キサンタンガム 0.10%
グリセロール 5.00%
セテアリルグルコシド 3.00%
モノステアリン酸グリセリルAE 2.00%
10トリグリセリド 10.00%
シリコーンオイル 3.00%
グルコン酸亜鉛 0.02%
塩酸ピリドキシン 0.10%
SOLに可溶化したクリシン 0.0016%
防腐剤 1.00%
香料 0.30%
脱イオン水 十分量(Q.S.) 100%
B.脂性肌用ゲル
グリセロール 3.00%
キサンタンガム 0.20%
エタノール 5.00%
グルコン酸亜鉛 0.02%
塩酸ピリドキシン 0.10%
SOLに可溶化したクリシン 0.0016%
防腐剤 0.50%
可溶化剤 0.50%
香料 0.20%
脱イオン水 十分量 100%
C.脂性肌用ローション
グリコール 2.00%
塩化ナトリウム 1.00%
エタノール 5.00%
グルコン酸亜鉛 0.02%
塩酸ピリドキシン 0.10%
SOLに可溶化したクリシン 0.0016%
防腐剤 0.50%
可溶化剤 0.30%
香料 0.10%
脱イオン水 十分量 100%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂性肌を調節する作用物質としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。
【請求項2】
清浄剤としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。
【請求項3】
てかり消し剤としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。
【請求項4】
てかり防止剤としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。
【請求項5】
皮脂の生成を調節する作用物質としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。
【請求項6】
皮脂腺細胞の増殖を調節する作用物質としての、化粧品組成物における又は皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。
【請求項7】
前記組成物が、約0.001重量%〜1重量%、好ましくは0.001%重量%〜0.01重量%のクリシンを含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物が、ラミウム・アルブムの抽出物、ハマメリス・バージニアナの抽出物、塩酸ピリドキシン及び亜鉛誘導体から選択される少なくとも1つの活性薬剤も含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
クリシンを含有する化粧品組成物を肌に塗布することを含む、脂性肌の問題を予防又は治療する美容的処理方法。
【請求項10】
脂性肌の問題を予防又は治療する際に使用するための皮膚用組成物を製造するためのクリシンの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−505800(P2010−505800A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530911(P2009−530911)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001628
【国際公開番号】WO2008/043900
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(506319064)
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRES CLARINS
【住所又は居所原語表記】4 Rue Berteaux Dumas 92200 NEUILLY SUR SEINE FRANCE
【Fターム(参考)】