説明

脂肪低減剤

【課題】抗肥満剤を提供する。
【解決手段】セイヨウトチノキ抽出物を有効成分とする抗肥満剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は万病の元と謂われるように防止することが重要である。とくに、肥満のひとつとして、近年メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が健康を害する指標として注目されている。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態をいう。内臓脂肪が過剰にたまっていると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすくなってしまう。しかも、「血糖値がちょっと高め」「血圧がちょっと高め」といった、まだ病気とは診断されない予備群でも、併発することで、動脈硬化が急速に進行する。
日本人の三大死因は、がん、心臓病、脳卒中であるが、そのうち心臓病と脳卒中は、動脈硬化が要因となる病気である。メタボリックシンドロームになると、糖尿病、高血圧症、高脂血症の一歩手前の段階でも、これらが内臓脂肪型肥満をベースに複数重なることによって、動脈硬化を進行させ、ひいては心臓病や脳卒中といった命にかかわる病気を急速に招く。メタボリックシンドロームによって引き起こされる病気の発症の危険性は、危険因子の数と大きくかかわっており、危険因子の数が多くなるほど危険度は高まる。例えば心臓病の場合、危険因子がない人の危険度を1とすると、危険因子を1つもっている場合は5.1倍、2つもっている場合は5.8倍、3〜4個もっている場合では危険度は急激に上昇し、35.8倍になる。内臓脂肪は皮下脂肪と比べて、たまりやすく減りやすいという特徴がある。メタボリックシンドロームのベースとなっている内臓脂肪は、ためる原因となっている食べ過ぎや運動不足などの不健康な生活習慣を改善することで減らせるとされている。
肥満対策として、抗肥満剤が注目されており、各種提案されている。
【0003】
セイヨウトチノキに含まれるクマリン類、特にエスクレチンあるいはエスクリンは、化粧料や抗炎症用皮膚外用剤などに配合されている。たとえば、刺激感のクレンジング化粧料(特許文献1:特開2007−161727号公報)、皮膚バリア機能を向上させる皮膚外用剤(特許文献2:特開2007−161612号公報)、抗炎症作用を有する皮膚外用剤(特許文献3:特開2006−28094号公報)、タイプ2ヘルパーT細胞型サイトカイン抑制剤(特許文献4:特開2004−75619号公報)、エラスターゼ阻害作用を有し、皮膚のハリや弾力を保持することのできる皮膚化粧料(特許文献5:特開2003−2820号公報)、退変色防止剤(特許文献6:特開2002−275467号公報)、メラニン産生抑制剤を含有する敏感肌用の美白化粧料(特許文献7:特開2000−273019号公報)が挙げられる。
【0004】
本願発明者は、エスクリン/エスクレチンを含有する抗肥満剤に関する特許出願を行い(特願2009-107250号)、エスクリン/エスクレチン単体の抗肥満効果を確認した。また、その明細書中にエスクリン/エスクレチンを高含有する植物素材としてセイヨウトチノキを挙げ、記載している。
本発明は、セイヨウトチノキの抽出物に、上記エスクリン/エスクレチン単体以上の抗肥満効果を見出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−161727号公報
【特許文献2】特開2007−161612号公報
【特許文献3】特開2006−28094号公報
【特許文献4】特開2004−75619号公報
【特許文献5】特開2003−2820号公報
【特許文献6】特開2002−275467号公報
【特許文献7】特開2000−273019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗肥満剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の主な構成は、次のとおりである。
1.セイヨウトチノキ抽出物を有効成分とする抗肥満剤。
2.抽出物が水及び/又はエタノールを用いて抽出処理して得られる1.に記載された抗肥満剤。
3. セイヨウトチノキ抽出物が、セイヨウトチノキの樹皮からの抽出物であることを特徴とする1.又は2.記載の抗肥満剤。
4. 1.〜3.のいずれかに記載された抗肥満剤を含有する経口用抗肥満医薬。
5. 1.〜3.のいずれかに記載された抗肥満剤を含有する飲食品。
6. 1.〜3.のいずれかに記載された抗肥満剤を含有する動物用経口用抗肥満剤。
7. 1.〜3.のいずれかに記載された抗肥満剤を含有するペットフード。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、食べ物を摂取しても、体重増加を抑制する作用を果たすので、摂食を抑制することなく、肥満を抑制することができる。特に、本発明の抗肥満剤により高カロリーで高脂肪な食事を取っても、体脂肪の蓄積を抑制することができ肥満を防ぐことができる。
セイヨウトチノキ抽出物の摂取によって、エスクリン/エスクレチン単体以上に総コレステロール(TCHO)、遊離脂肪酸(NEFA)ともに低減させることができる。セイヨウトチノキ抽出物は抗肥満剤、医薬、食品添加剤、動物用飼料添加剤などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】セイヨウトチノキ熱水抽出物(BW)及びセイヨウトチノキエタノール抽出物(EtOH)添加高脂肪飼料投与したマウスの体重変化を示すグラフ。
【図2】セイヨウトチノキ熱水抽出物(BW)及びセイヨウトチノキエタノール抽出物(EtOH)添加高脂肪飼料投与したマウスの16週目の脂肪重量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
セイヨウトチノキは、ギリシャ、ブルガリア地方の原産である。マロニエの名で知られ、並木や公園樹としてヨーロッパで重宝されている。セイヨウトチノキのサク果には一面に棘があるが、日本のトチノキの実にはない。学名はAesculus hippocastanumで、トチノキ科トチノキ属である。
薬用として利用される部位は、葉・樹皮・種子で、用途は、収斂止血・下痢止め・去痰剤として使用される。成分はエスクリン/エスクレチンを含有するクマリン配糖体が知られている。
実施例としては、樹皮をエタノールまたは熱水で抽出した抽出物を例示する。
【0011】
本発明は、抗肥満剤、抗肥満医薬、脂肪蓄積抑制剤、食品添加物、食品およびペットフード、動物用医薬として利用することができる。剤型は、公知の方法により助剤とともに任意の形態に製剤化して、経口投与することができる。カプセル剤又は錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液状として投与できる。
投与量は、投与方法と、患者の年齢、病状や一般状態等によって変化し得るが、動物試験の結果より成人では体重1kg当たり通常、1日当たり有効成分として1〜1,000mgが適当である。
【0012】
本発明の抗肥満剤は、一般食品や健康食品に配合することができ、また、食品添加物の成分とすることもできる。配合する食品は特に限定されず、例えば食パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、ドーナツ、ケーキ等のベーカリー食品、うどん、そば、中華麺、焼きそば、パスタ等の麺類、天ぷら、コロッケ等のフライ類、カレー、シチュー、ドレッシング等のソース類、ふりかけ類、かまぼこ等の練り製品、ジュース等の飲料、スナック菓子、米菓、飴、ガム等の菓子類を挙げることができる。
ペットには、犬、猫、ハムスター、リス等の哺乳類の飼料として適している。本発明のペットフードの形態は特に限定されるものではなく、例えばドライタイプ、ウェットタイプ、セミモイストタイプ、ビスケットタイプ、ソーセージタイプ、ジャーキータイプ、粉末、顆粒、カプセルなどが挙げられる。
【0013】
[C57BL/6CrSlcマウスを用いた評価]
高脂肪飼料にセイヨウトチノキ抽出物を配合してC57BL/6CrSlcマウスの体重変化を観察した。
【0014】
<高脂肪飼料調製>
高脂肪飼料は通常の飼育に使用するオリエンタル酵母の粉末飼料(MF粉末飼料)をベースにさらに脂肪成分を添加し、下記に示したような成分で調製した。
【0015】
【表1】

【0016】
<実験動物>
雄性7週齢のC57BL/6CrSlc マウスを計25匹、7日間予備飼育して実験に供する。マウスは予備飼育期間および実験期間を通して室温23±5℃、相対湿度55±15%の飼育室(照明時間12時間)で飼育する。
マウスは5匹/ケージとし、普通飼料(ND)は週2回補充、高脂肪飼料(HFD)はvehicle投与群の1日消費量(2〜3g/mouse/day)と同量をすべての薬物投与群に与え、HFDは毎日補充した。飲料水は水道水を給水瓶で自由に与えた。
【0017】
<セイヨウトチノキ熱水抽出物の試作>
セイヨウトチノキ樹皮部の乾燥粉砕物1kgを15リットルの水に浸漬し、1時間加熱した。次いで、ろ過して残渣を再び15リットルの水で同様に処理した。上記2回の処理により得られた抽出液を、合わせて減圧下に濃縮し、濃縮液を得た。この濃縮液を減圧下で乾燥し、228gのセイヨウトチノキ熱水抽出物を得た。
【0018】
<セイヨウトチノキ90%エタノール抽出物の試作>
セイヨウトチノキ樹皮部の乾燥粉砕物1kgを15リットルの90容量% エタノールに浸漬し、還流下で1時間加熱した。次いで、ろ過して残渣を再び15リットルの90容量% エタノールで同様に処理した。上記2回の処理により得られた抽出液を、合わせて減圧下に濃縮し、濃縮液を得た。この濃縮液を減圧下で乾燥し、180gのセイヨウトチノキ90%エタノール抽出物を得た。
なお、セイヨウトチノキ抽出物に含まれるエスクリン、エスクレチン量を測定したところ表2に示す結果を得た。これは、セイヨウトチノキ熱水抽出物50mg中に含まれるエスクリン量は約10.0mg、エスクレチン量は約0.17mgであり、セイヨウトチノキエタノール抽出物50mg中に含まれるエスクリン量は約9.4mg、エスクレチン量は約0.4mgである。
【0019】
【表2】

【0020】
<投与する薬物>
セイヨウトチノキの熱湯抽出物(BW)、セイヨウトチノキのエタノール抽出物(EtOH)を50mg/kg、一日置きに経口投与した。それぞれの薬物は5% Cremophor(R) ELに溶解し経口投与した。また、vehicle群として薬物を含まない5% Cremophor水溶液を同様に経口投与した。
【0021】
<体重変化測定>
体重計にて体重を測定する。体重測定日は、試験開始日(0週目)後、週に一度測定した(図1)。実験開始後16週経過後に全血を採血後、内臓脂肪量、皮下脂肪量を測定した(図2)。
結果を図1、図2に示す。得られた値はt-検定を行い有意確率(P値)を求めp<0.05の時は*、p<0.01の時は**、p>0.05の時はNSと表記する。
【0022】
(結果)
高脂肪飼料のみを与えたマウスvehicle(HFD)に較べてセイヨウトチノキ熱水抽出物(BW)及びセイヨウトチノキエタノール抽出物(EtOH)添加高脂肪飼料投与したマウスが体重の増加が抑制されていることがわかる。特に、週齢が高くなると体重増は止まり、減少傾向が見られる。
本出願人に係る先願(特願2009-107250号)においては、エスクリン及びエスクレチン添加高脂肪飼料投与(ECL(HFD))したマウスに体重増加抑制が認められたが、この先願にかかる提案ではエスクリン又はエスクレチンを30mg/kg投与した結果として体重増加抑制が確認されている。一方前述のとおり、本発明のセイヨウトチノキ抽出物50mgにはエスクリン量は10mg、エスクレチン量は0.3mgが含まれているのであるから、先願の知見との比較において、本願発明のセイヨウトチノキ抽出物では、エスクリン量換算ではで1/3、エスクレチン量換算では1/100量相当において、体重増加抑制作用を発揮することが確認できたのである。
このことから、セイヨウトチノキ熱水抽出物(BW)及びセイヨウトチノキエタノール抽出物(EtOH)にエスクリン/エスクレチン単体以上の体重抑制効果があることを見出した。
よって、セイヨウトチノキ熱水抽出物(BW)及び/又はセイヨウトチノキエタノール抽出物(EtOH)の継続摂取によって、痩身効果を奏することがわかる。
【0023】
以下に本発明のセイヨウトチノキ抽出エキスを用いた処方例を示す。

処方例1
[カプセル剤]
組成
セイヨウトチノキ抽出エキス(エタノール抽出)…100mg
ミツロウ …10mg
ぶどう種子オイル …110mg
上記成分を混合し、ゼラチンおよびグリセリンを混合したカプセル基剤中に充填し、軟カプセルを得た。

【0024】
処方例2
[錠剤]
組成
セイヨウトチノキ抽出エキス(エタノール抽出)…150mg
セルロース …80mg
デンプン …20mg
ショ糖脂肪酸エステル … 2mg
上記成分を混合、打錠し、錠剤を得た。

【0025】
処方例3
[飲料]
(組 成) (配合;質量%)
果糖ブトウ糖液糖 5.00
クエン酸 10.4
L−アスコルビン酸 0.20
香料 0.02
色素 0.10
セイヨウトチノキ抽出エキス(エタノール抽出) 1.00
水 82.28

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウトチノキ抽出物を有効成分とする抗肥満剤。
【請求項2】
抽出物が水及び/又はエタノールを用いて抽出処理して得られる請求項1に記載された抗肥満剤。
【請求項3】
セイヨウトチノキ抽出物が、セイヨウトチノキの樹皮からの抽出物であることを特徴とする請求項1又は2記載の抗肥満剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された抗肥満剤を含有する経口用抗肥満医薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載された抗肥満剤を含有する飲食品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載された抗肥満剤を含有する動物用経口用抗肥満剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載された抗肥満剤を含有するペットフード。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−11978(P2011−11978A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154458(P2009−154458)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【特許番号】特許第4415063号(P4415063)
【特許公報発行日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】