説明

脂肪族アルデヒド分解微生物

【課題】本発明の目的は、食品や飲料中の香味阻害物質である脂肪族アルデヒドを、飲食品や化粧料用途等として安全な手段で低減する方法を提供することである。
【解決手段】脂肪族アルデヒドを分解するが、バニリンを分解しない細菌株を選別し、菌体や固定化菌体の形、あるいは細胞抽出液、固定化酵素、もしくはこれらの細菌から精製された脂肪族アルデヒド分解酵素標品の形で添加するか、またはそのまま摂取することによって、食品や唾液等に含まれる脂肪族アルデヒドを除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族アルデヒド分解能を有する微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドは様々な物質の香気成分として天然に広く存在する。バニリン等の芳香族アルデヒドは、食品を含む多くの工業製品に香料として添加され、利用されている。また、ビタミンB6化合物の一種であるピリドキサールは、アミノ酸の代謝や神経伝達に用いられる有用な芳香族アルデヒドである。
【0003】
一方、脂肪族アルデヒドは、不快臭の原因となる物質が多く含まれる。例えば、n−ヘキサナールは大豆特有の青豆臭の原因物質の一つであり、ノネナールは加齢臭の原因物質である。
【0004】
脂肪族アルデヒドであるアセトアルデヒドは、低濃度ではフルーツ様の香気を有し、果実及びフルーツジュース、野菜、乳製品、パン等の食品に天然に含まれている。また、茶及びソフトドリンク、ビール、ワイン、蒸留酒等の飲料にも天然に含まれている。しかし、アセトアルデヒドは、場合によっては食品の香味阻害の原因ともなる。たとえば、食品として用いられる加工大豆粉末素材等においては、アセトアルデヒドは、脂肪族アルデヒドであるヘキサナールと並んで青臭み、生臭さの原因とされている(特許文献1)。
【0005】
アセトアルデヒドはまた、ビールや日本酒等の醸造酒、ビール風アルコール飲料、焼酎等の蒸留酒においては青臭さや異臭、変質臭の原因であり、香味阻害物質(オフフレーバー)と呼ばれている。アセトアルデヒドによる異臭等の改善を目的として、発酵条件の検討、タンニン酸など他の物質の添加、または原材料の選択などによって、最終生産物中のアセトアルデヒド量を低減したという報告がある(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0006】
また、酒類におけるアセトアルデヒドは、二日酔いの成分としても知られている。飲酒によって体内に取り込まれたアルコール(エタノール)は、アルコールデヒドロゲナーゼによってアセトアルデヒドに酸化され、アルデヒドデヒドロゲナーゼによって酢酸となり、最終的には二酸化炭素と水に分解されて体外へと放出される。日本人も含め、黄色人種の半分は活性の低いアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼを持つため、飲酒により体内に一過的に蓄積したアセトアルデヒドのため、頭痛や吐き気などの二日酔いの症状を示す人の割合が欧米人と比べて高い。過剰なアセトアルデヒドは、血中に分泌されるとともに呼気によって放出され、唾液中にも蓄積して口臭の原因ともなる。
【0007】
唾液や食品中のアセトアルデヒドを事後的に除去する手段としては、L−システイン(含硫アミノ酸)や大麦青汁などの利用が考えられている(非特許文献1)。これは、L−システインや青汁中のフラボノイドがアセトアルデヒドに付加し、これを不活性化するという事実に基づいて考案された方法である。しかし、L−システインや青汁中のフラボノイドとアセトアルデヒドの複合体形成反応は可逆反応であり、アセトアルデヒドが再生する可能性がある。また、L−システインや青汁自体が特異な味とにおいを有する物質であり、食品や飲料中の香味に与える影響が大きく、実用面での利用は難しい。また、動物や植物などから単離されたアルデヒド分解酵素を添加して、アルデヒドを分解する方法が考えられる。しかし、これらの酵素は一般に基質特異性が低いため、有害な脂肪族アルデヒドと有用な芳香族アルデヒドを共に分解してしまうという欠点をもつ。さらに、既知の多くのアルデヒド分解酵素は補酵素であるNADの存在を必要とするが、コスト面からはNAD非要求性のアルデヒド分解酵素が好ましい。
【0008】
アルデヒド分解酵素として、主にアルデヒドオキシダーゼとアルデヒドデヒドロゲナーゼが存在する。アルデヒドオキシダーゼは酸素を用いてアルデヒドの酸化を触媒し、カルボン酸と過酸化水素を生成する。アルデヒドデヒドロゲナーゼはNADやNADPなどを補酵素としてアルデヒドの酸化を触媒する。例えば、大豆根粒菌であるBradyrhizobium japonicumがn−ヘキサナールを分解できるn−ヘキサナールデヒドロゲナーゼを生産することが報告されている(非特許文献2)。
【0009】
また、酢酸菌を利用して、酒類の不快臭の低減方法、穀類の脱臭方法、および食品の不快臭の低減方法が報告されている(特許文献6、特許文献7、特許文献8。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−129877号公報
【特許文献2】特開2008−113587号公報
【特許文献3】特許3943122号公報
【特許文献4】特許3640946号公報
【特許文献5】特開2000−60531号公報
【特許文献6】特公平8−22220号公報
【特許文献7】特許3025409号公報
【特許文献8】特開昭62−294046号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Salaspuro, V., et al., Int. J. Cancer(2002) 97, 361-364
【非特許文献2】大豆たん白質研究 vol.11. p.67-70, (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、食品や飲料中の香味阻害物質や加齢臭の原因物質である脂肪族アルデヒドを、安全な手段で低減する方法を提供することである。その方法の一つとして、食品微生物や腸内細菌のように人間の体内に天然に存在している菌、または環境中に存在する人間に無害な菌を用いて、微生物発酵により脂肪族アルデヒドを分解除去する方法が考えられるが、これについては、i)食品や飲料の好ましい香気成分であるバニリンなどの他のアルデヒド等には作用しないこと、ii)コスト面からの理由により酸化型補酵素(NAD等)の添加を必要としないこと、を満たすことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、多数の微生物のなかから利用目的に叶った性質をもつ酵素の生産菌を幅広く探索した。その結果、384株のアセトアルデヒド分解菌のコロニーを分離し、その中からアセトアルデヒド分解菌を203株取得した。バニリンを分解する菌体はその203株中64株確認された。酸性条件下(pH3.5)でアルデヒド分解活性を示した菌体は203株中50株であった。それらの結果から、酸性条件下でアセトアルデヒドを完全に分解するがバニリンを分解しなかった16株を選別した。これら16株について16SrRNA配列解析、グラム染色を行い、微生物種を同定した。また、選別した16株の16SrRNAの塩基配列を解析し、BLASTを用いて微生物種の推定を行った。また、AL−5、AL−7、AL−11株から抽出した粗酵素液は、NAD非存在下でもアルデヒドオキシダーゼ活性を示すことを明らかにした。さらに、これらの細菌が、実際に唾液や食品中のアセトアルデヒドを分解する能力を有することを見いだし、さらにはn−ヘキサナールおよびノネナール等の他の脂肪族アルデヒドをも分解する能力を有することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち本発明は、Pseudomonas属菌またはPantoea属菌であって、脂肪族アルデヒド分解能を有し、バニリンに対しては分解能を有しない微生物である。
また本発明は、Pseudomonas属菌またはPantoea属菌であって、pH3.0以上4.0以下の条件下で脂肪族アルデヒド分解能を有し、バニリンに対しては分解能を有しない微生物である。このような微生物は、たとえば酸性環境である胃内や酸性の飲食品中においてもアセトアルデヒド分解活性を示すという利点を有する。
【0015】
また本発明は、Pseudomonas属菌またはPantoea属菌であって、脂肪族アルデヒド分解能を有するがバニリンに対しては分解能を有しない微生物であり、ここで脂肪族アルデヒド分解能がNAD非要求性のものである微生物である。更に、前記微生物であって、NAD非要求性の脂肪族アルデヒド分解能がアセトアルデヒドオキシダーゼによるものである微生物である。
【0016】
本発明はまた、脂肪族アルデヒドを分解するが、バニリンは分解しないPseudomonas sp. FERM ABP-10988、Pantoea sp. FERM ABP-10989、Pantoea sp. FERM ABP-10990株、またはそれらの変異株である。
【0017】
本発明はさらに、上記本発明の微生物を含む組成物、または上記本発明の微生物から調製される菌体破砕液、粗酵素液または精製酵素を含む組成物である。特に、前記組成物は、飲食品、化粧料、洗濯処理剤、または消臭剤である。
【0018】
本発明はまた、上記本発明の微生物を含む口中衛生剤、または上記本発明の微生物から調製される菌体破砕液、粗酵素液または精製酵素を含む口中衛生剤である。
本発明はさらに、上記本発明の微生物を添加することを特徴とする、食品または飲料中の脂肪族アルデヒド低減方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、脂肪族アルデヒドは分解するが、バニリンは分解しない微生物、特にPseudomonas属菌AL−5株(寄託番号FERM ABP−10988)、Pantoea属菌AL−7株(寄託番号FERM ABP−10989)、Pantoea 属菌AL−11株(寄託番号FERM ABP−10990)を提供する。かかる微生物を用いて、好ましい香気成分に影響を与えることなく、食品中の異臭の原因となる脂肪族アルデヒドを低減することができる。特に、本発明により、口臭の原因となる唾液中のアセトアルデヒドを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、AL−5株の16S rDNA配列(全長)を示す。
【図2】図2は、AL−7株の16S rDNA配列(部分)を示す。
【図3】図3は、AL−11株の16S rDNA配列(部分)を示す。
【図4】図4は、16S rDNAを用いたAl−5株の分子系統解析結果を示す。枝の分子付近の数字はブートストラップ値、左下の線はスケールバーを示す。
【図5】図5は、AL−5株の粗酵素を用いたNADの有無による活性変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
脂肪族アルデヒド分解微生物
本発明は、Pseudomonas属またはPantoea属菌であって、脂肪族アルデヒド分解能を有するが、バニリンに対しては分解能を有しない微生物である。
【0022】
それらの要件を満たす菌株は、新たにスクリーニングすることによっても得ることができる。微生物のスクリーニングの一例を示せば、1)公園、森林、田畑などから得られた土壌サンプルを生理食塩水に懸濁し、その上清をアセトアルデヒドを含む選択培地に塗布し、2)生育したコロニーを分離し、アセトアルデヒド分解活性およびバニリン分解活性を評価し、3)アセトアルデヒドを分解するが、バニリンを分解しない細菌株を選別することで得ることができる。この中から、酸性条件下でも活性を示す株や、アセトアルデヒド分解反応にNADを必要としない株をさらに選別して、本発明の微生物を得てもよい。
【0023】
代表的な菌株として、平成20年7月28日付で、特許生物寄託センターに寄託されたPseudomonas属菌AL−5株(寄託番号FERM ABP−10988)、Pantoea属菌AL−7株(寄託番号FERM ABP−10989)、Pantoea 属菌AL−11株(寄託番号FERM ABP−10990)が挙げられる。微生物種の推定および菌学的特性の解析は、たとえば本明細書の実施例2−6の方法によって行うことができる。AL−5株、AL−7株、またはAL−11株の種の同定および菌学的特性解析結果は、本明細書の表1、2、および4−8、および図1−4に示されている。
【0024】
本発明の微生物は、アセトアルデヒドのみならず、他の脂肪族アルデヒド、例えばヘキサナールおよびノネナールをも分解する能力を有する。本発明の微生物は、それら不快臭の原因となる脂肪族アルデヒドを分解することができることから、特に食品分野で有用である。 更に本発明の微生物は、Pseudomonas属またはPantoea属菌であって、脂肪族アルデヒドを分解するが、バニリンは分解しない微生物であれば、野生株、変異株のいずれであってもよい。
【0025】
変異株は、従来からよく用いられている変異剤であるエチルメタンスルホン酸による変異処理、ニトロソグアニジン、メチルメタンスルホン酸などの他の化学物質処理、紫外線照射、あるいは変異剤処理なしで得られる、いわゆる自然突然変異によって取得することも可能である。
【0026】
「バニリンに対しては分解能を有しない」とは、バニリンを全く分解しないか、または弱い分解活性を有するが脂肪族アルデヒド分解に比べて極めて分解活性が弱いことをいう。例えば、脂肪族アルデヒド分解能に比べてバニリンの分解能が1/10程度、このましくは1/50程度である。
【0027】
本発明の微生物の培養に用いる培地としては、Pseudomonas属またはPantoea属菌であって脂肪族アルデヒドを分解できる微生物が、生育できる培地であれば特に制限なく用いることができる。たとえば[ペプトン、5g/l;酵母エキス、2g/l:NaCl、8.5g/l;pH7.0]に調製した培地を用いることができるが、これに限定されない。本発明の微生物の生育に使用する培地は、具体的には本発明の微生物が資化しうる炭素源、たとえばグルコース等、および本発明の微生物が資化しうる窒素源を含有し、窒素源としては有機窒素源、たとえばペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スチープ・リカー等、無機窒素源、たとえば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等を含有することができる。さらに所望により、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオンと硫酸イオン、塩素イオン、リン酸イオン等の陰イオンとからなる塩類を含んでもよい。さらに、ビタミン類、各酸類等の微量要素を含有することもできる。炭素源の濃度は、たとえば0.1%〜10%程度である、窒素源の濃度は、種類により異なるが、たとえば0.01%〜5%程度である。また、無機塩類の濃度は、たとえば0.001%〜1%程度である。好ましくは、脂肪族アルデヒドを分解できない微生物の混入を除く目的で、培地中に脂肪族アルデヒド、例えばアセトアルデヒドを添加する。脂肪族アルデヒドの濃度は適宜決定できるが、0.1%が好ましい。
【0028】
本発明の微生物の菌体は、培養液に懸濁した状態で用いてもよいし、遠心分離等の通常の方法によって培養液から回収または濃縮したものを用いてもよい。回収または濃縮した菌体は、適当な担体に固定化し、固定化菌体として用いることができる。回収または濃縮した菌体は、凍結乾燥等の通常の方法によって粉末状として用いてもよく、その粉末と各種賦形剤とを混合し、散剤、錠剤、カプセル剤等の剤形として用いてもよい。
【0029】
本発明の微生物からの細胞抽出液の調製法は、たとえば、超音波破砕、界面活性剤処理等の通常の方法から、当業者が適宜選択することができる。
また、本発明の微生物から、当業者は通常の知識を用いて酵素抽出画分または脂肪族アルデヒド分解酵素標品を調製することもできる。これらはそのまま用いてもよいし、適当な担体に固定化し、固定化酵素として用いてもよい。
【0030】
本発明微生物を含む組成物
本発明は、本発明の微生物を含む組成物、または本発明の微生物から調製される菌体破砕液、粗酵素液、または精製酵素を含む組成物に関する。特に、前記組成物は、飲食品、化粧料、洗濯処理剤、または消臭剤である。
【0031】
本発明の組成物は、本発明微生物の生菌体、死菌体、固定化菌体、細胞抽出液、またはこれらの微生物から精製された脂肪族アルデヒド分解酵素標品が添加される。より好ましくは、脂肪族アルデヒド分解の際に副成する可能性のある過酸化水素を即座に分解するため、カタラーゼも併せて添加されることが望ましい。また、飲食品、化粧料、洗濯処理剤または消臭剤など、それぞれの組成物に応じて、適宜添加剤、保存料、色素などが添加される。
【0032】
本発明の飲食品は、本発明の微生物を摂取することによって、体内に存在または発生した脂肪族アルデヒドを除去することができる。本発明の効果を有する限りにおいて、甘味料、酸味料、香料、酸化防止剤等を適宜加えても良い。具体的な製品形態としては、トローチ、ガム、キャンデー、錠剤、散剤、ドリンク剤等である。添加物の添加法や、食品または飲料等への加工法は、製品の性質等を考慮しつつ、当業者が適宜選択し、実施することができる。
【0033】
本発明の化粧料は、体臭や加齢臭などの不快臭を抑制する目的で使用される。製品形態としては、例えば石鹸、乳液、ローション、クリーム、シャンプー、コンディショナー、ヘアスプレーである。本発明の消臭剤も、同様に体臭や加齢臭などの不快臭を抑制する目的で使用される。製品形態としては、例えばスプレー、液体状または固形状である。
【0034】
本発明の洗濯処理剤は、体臭や加齢臭などの不快臭を除去する目的で使用される。製品形態としては、例えば洗濯用洗剤、洗濯用石鹸、洗濯仕上げ剤、柔軟剤である。
本発明微生物を含む口中衛生剤
本発明は、本発明の微生物を含む口中衛生剤、または本発明の微生物から調製される菌体破砕液、粗酵素液、または精製酵素を含む口中衛生剤である。
【0035】
本発明の口中衛生剤は、本発明微生物の生菌体、死菌体、固定化菌体、細胞抽出液、またはこれらの微生物から精製された脂肪族アルデヒド分解酵素標品が添加される。好ましくは、脂肪族アルデヒド分解の際に副生する可能性のある過酸化水素を即座に分解するため、カタラーゼも併せて添加される。その他、適宜添加剤等が添加される。本発明の口中衛生剤は、口中に存在または発生した脂肪族アルデヒドを除去することができる。
【0036】
本発明の口中衛生剤には、限定的でない例として、口中清涼剤、口臭予防剤、口臭低減剤、または洗口液などが含まれ、具体的な製品形態は、タブレット状、スプレー状、液体、ペースト状等である。
【0037】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【実施例1】
【0038】
脂肪族アルデヒド分解性・バニリン非分解性細菌の選別
公園や森林、田畑などから、それぞれ1.0g程度153サンプルを採取し、4℃で保存した。土壌サンプル0.1gを生理食塩水10mlに懸濁し、その上清100μlをアセトアルデヒドを含む寒天培地[アセトアルデヒド、1g/l;ペプトン、5g/l;酵母エキス、2g/l:NaCl、8.5g/l;pH7.0;寒天、15g/l]に塗布した。30℃で静止培養後、生育したアセトアルデヒド耐性コロニー(384株)を新しいプレートにひとつずつ区分けして植菌し、再度30℃で静止培養した後、4℃で保管した。
【0039】
アセトアルデヒド分解活性は以下のように評価した。アセトアルデヒド標準反応溶液[アセトアルデヒド、2mM;NAD、2mM;リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、10mM;最終液量、500μl]に単離したコロニーを懸濁し、室温で24時間放置した。反応後、15,000×gで10分間遠心することにより上清を得た。上清50μlと200mM酢酸緩衝液(pH3.5)100μl、0.1%3-methyl-2-benzothiazolone hydrazone(MBTH)溶液40μlを混合し、溶液を50℃で30分間インキュベートした。次に0.6%硫酸アンモニウム鉄(III)/酢酸酸性水溶液[硫酸アンモニウム鉄(III)・12水和物、6g/l;酢酸、50ml/l]190μlを加え、さらに20分間室温で反応させた。アルデヒドが残存する場合、溶液は青く呈色される。反応後水で1mlに希釈し、溶液200μlを96穴マイクロタイタープレートに移し、SpectraMax 340PC (Molecular Devices)により620nmの吸光度を測定した。吸光度を減少させた株をアセトアルデヒド分解菌とした。アセトアルデヒド分解菌のバニリン分解活性の評価方法は、反応溶液をバニリン反応溶液[バニリン、4mM;NAD、4mM;リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、10mM]に変更した点とMBTH溶液の濃度を0.5%にした点、比色後に水で希釈しない点以外はアセトアルデヒド分解活性評価方法と同様である。アセトアルデヒド分解菌のエタノール分解活性も評価した。評価方法は反応溶液をエタノール反応溶液[エタノール、100μl/ml;リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、10mM]に変更した点以外アセトアルデヒド分解活性評価方法と同様である。ただし今回は溶液中にアルデヒドが存在した場合にエタノールが分解されたものとした。
【0040】
アルデヒド分解に対するpHの影響を調べるため、酸性条件下(pH3.5)でのアセトアルデヒド分解活性を評価した。評価方法は反応溶液をアセトアルデヒド酸性反応溶液[アセトアルデヒド、2mM;NAD、2mM;酢酸緩衝液(pH3.5)、10mM]に変更した点以外は上述のアセトアルデヒド分解活性評価方法と同様である。
【0041】
以上の操作を経て、土壌サンプルから384株のアセトアルデヒド分解菌のコロニーを分離し、そのなかからアセトアルデヒド分解菌を203株取得した。バニリンを分解する菌体は203株中64株確認された。酸性条件下(pH3.5)でアルデヒド分解活性を示した菌体は203株中50株であった。上に記載した反応条件でアセトアルデヒドを完全に分解するがバニリンを分解せず、さらに酸性条件下でも活性を示した16株を選別した。
【実施例2】
【0042】
選別菌株の16SrDNA部分配列解析
真正細菌用のユニバーサルプライマー520Fと1400Rを用いて、選別菌株について16SrDNAの一部をコロニーPCRにより増幅した[反応溶液組成:テンプレート、10μl;ExTaq buffer、1×;dNTPs、0.2mM;520F primer(5’−GTGCCAGCMGCCGCCG−3’;M:AorC)、1.0μM;1400R primer(5’−ACGGGCGGTGTGTRC−3’;、R:AorG)、1.0μM;ExTaq DNA polymerase(TaKaRa)、0.5U;最終液量、20μl;反応条件:96℃、1分;(96℃、30秒;55℃、30秒;72℃、1分)×30サイクル]。PCR産物をアガロースゲル電気泳動した後、目的PCR産物(約900bp)をGenElute Agarose Spin Columns(SIGMA)を用いてゲル回収し、精製した。精製PCR産物をTOPO TA Cloning Kit (Invitrogen)を用いてpCR2.1−TOPOvectorにTAクローニングし、大腸菌TOP10(One Shot TOP10 Chemically Competent Cells、Invitrogen)を形質転換した。形質転換体はLB寒天培地 [トリプトン、10g/l;酵母エキス、5g/l;NaCl、10g/l;寒天、15g/l;アンピシリン、50μg/ml;5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside(X−Gal)、80μg/ml]に塗布し、37℃で16時間培養した。生育したコロニーから青/白スクリーニングによりインサートが挿入されたプラスミドを持つコロニーを選別し、2×YT培地[トリプトン、16g/l;酵母エキス、10g/l;NaCl、5g/l;アンピシリン、50μg/ml]で再び14時間培養した。培養後プラスミドを回収し、シークエンス反応を行い、CEQ 2000XL DNA Analysis System (Beckman Coulter)によって塩基配列を解析した。 解析後、NCBI BLASTプログラム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて得られた塩基配列から微生物種の推定を行った(表1)。
【0043】
【表1】

【0044】
AL−5、AL−7、およびAL−11の16SrDNA配列を、図1、2、および3に示す。
【実施例3】
【0045】
グラム染色による選別菌株の同定
実施例2で行った16S rDNA配列解析による分類の確認のためグラム染色をフェイバーG(ニッスイ)を用いて行った。スライドガラスに菌体を塗布し、自然に乾燥させた。乾燥後、火炎固定により菌体を固定した。0.2%ビクトリアブルー溶液で1分間染色した後、流水を塗布面に直接かけないようにスライドガラスの裏側から穏やかに水洗し、2%ピクリン酸エタノール溶液を用いて脱色した。再び穏やかに水洗した後、0.25%サフラニン溶液を用いて1分間染色した。穏やかに水洗し、水分を除いて乾燥させた後、1000倍で顕微鏡観察した。Bacillus cereus(グラム陽性)と大腸菌(グラム陰性)を同時染色し、対照とした。結果を表2に記載した。AL−12は16SrDNA解析によりグラム陽性菌のMicrococcus属と推定されたが、今回行ったグラム染色の結果は陰性であった。グラム染色は培養条件などにより結果が変化することがある。
【0046】
【表2】

【実施例4】
【0047】
粗酵素画分のアセトアルデヒド分解活性の評価
実施例1で選別および同定した菌株から粗酵素画分を分画し、それらのアセトアルデヒド分解活性を詳細に調べた。
【0048】
AL−2、AL−4、AL−5、AL−8、AL−11から細胞抽出液をそれぞれ調製し、それらを陰イオン交換クロマトグラフィーに供して得た分画物についてアルデヒドオキシダーゼ(ALOD)活性を調べた。さらに、活性のメインピークを示した画分をそれぞれ集めて粗酵素液とし、各々のALOD活性のpH依存性およびNAD依存性を調べた。その結果、AL−5、AL−8から調製した粗酵素液はpH4−8の間で安定したALOD活性を示すことがわかった。また、AL−2、AL−4、AL−5、AL−8、AL−11から調製した粗酵素液は、いずれもNAD非存在下で活性を示すことがわかった。
【実施例5】
【0049】
16SrDNA全長配列によるAL−5株の分子系統解析
AL−5株の全長16SrDNAによる分子系統解析を行い、微生物種を推定した。解析に用いた菌体は、Nutrient agar培地(Oxoid、Hampshire、England)を使用し、好気的条件下30℃で24時間培養した。DNA抽出はInstaGene Matrix(BIO RAD、CA、USA)を使用し、プロトコールに従って行った。抽出したDNAを鋳型とし、表3に示したプライマーを使用し、PrimeSTAR HS DNA Polymerase (タカラバイオ、滋賀)でPCR反応を行った。
【0050】
【表3】

【0051】
次に、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems、CA、USA)を用いてシークエンス反応を行い、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System (Applied Biosystems、CA、USA)で塩基配列の解析を行った。解析ソフトはAuto Assembler(Applied Biosystems、CA、USA)、アポロン(テクノスルガ、静岡)、CLUSTAL W、MEGA ver3.1を用いた。そして、アポロンDB細菌基準株データベース(テクノスルガ、静岡)と国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を用いて得られた塩基配列との相同性検索を行った。
【0052】
BLASTを用いた細菌基準株データベースに対する相同性検索の結果、AL−5の16SrDNA塩基配列はPseudomonas由来の16SrDNAに対して高い相同性を示し、相同率99.3%でP.alcaligenes LMG1224株の16SrDNAに対して最も高い相同性を示した。GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索においてもAL−5の16SrDNA塩基配列はPseudomonas由来の16SrDNAに対し高い相同性を示し、基準株ではP.alcaligenes LMG1224株の16SrDNAに対し相同率99.3%、P.otitidis MCC10330株の16SrDNAに対し相同率98.7%の相同性を示した。これらのことから、AL−5はPseudomonasに帰属する可能性が高いと考えられる。そこで、今回の分子系統解析では、比較的近縁と考えられるPseudomonasに属する種の基準株由来の16SrDNAを取得し、分子系統樹を作製した。
【0053】
分子系統解析の結果、AL−5の16SrDNAはP.alcaligenesの16SrDNAと系統枝を形成した(図4)。AL−5の系統枝(分枝)の信頼性を示すブートストラップ値は88%と比較的高いことから、AL−5は既知のPseudomonasに属する種の中ではP.alcaligenesに最も近縁と考えられる。しかし、両者の16SrDNAは完全には一致しておらず、AL−5とP.alcaligenesの系統枝からは両者が別種である可能性も否定できない。よって、今回の分子系統解析の結果からAL−5をP.alcaligenesに近縁なPseudomonas sp.と推定した。
【実施例6】
【0054】
AL−5株の形態観察および生理・生化学的性状試験
AL−5株の形態観察および生理・生化学的性状試験も行なった。形態観察および生理・生化学的性状試験に用いた菌体は、Nutrient agar培地(Oxoid、Hampshire、England)を使用し、30℃で24時間培養した。得られた菌体はフェイバーG「ニッスイ」(日水製薬、東京)を用いてグラム染色を行い、光化学顕微鏡BX50F4(オリンパス、東京)により形態観察を行った。また、BARROWらの方法に基づき、カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、ブドウ糖からの酸/ガス産出、ブドウ糖の酸化/発酵(O/F)についても試験した。さらに、API20NE(bioMerieux、Lyon、France)を用いた試験を行った。また、追加試験としてKing’sB寒天培地での蛍光色素産出、でんぷんの加水分解、カゼインの加水分解、リパーゼ(Tween80)活性、レシチナーゼ活性について試験した。
【0055】
菌体脂肪酸組成分析に用いた菌体は、Trypticase Soy Broth+Granular Agar培地(Becton Dickinson、MD、USA)を使用し、28℃で24時間培養した。得られた菌体からの脂肪酸抽出と測定は、Sherlock Microbial Identification System(Version 5.0) (MIDI、DEIUSA)の菌体脂肪酸組成分析操作マニュアル(Version6)に従い行った。得られた脂肪酸組成はMIS Standard LibrariesのTSBA40のデータベースと照合した。
【0056】
脂肪酸分析の結果、主要脂肪酸としてC18:1ω7c(29.87%)、C16:0 (19.36%)、Sum In Feature 3(C15:0 iso 2OH+C16:1ω7c)(18.22%)が認められた(表4)。MIDIデータベースとの照合の結果、類似した脂肪酸組成を保持する菌種としてP.mendocina(類似度0.168)、P.alcaligenes (類似度0.095)が検索された(表5)。しかし、類似度は低く、MIDIの類似度(S.I.:Similarity Index)の判定基準に従うと、MIDIデータベースには該当する菌種のデータはないと考えられる(S.I.はまったく同一の組成を持つ場合は1.000が与えられ、目安として0.500以上あれば類似していると判断する)。
【0057】
AL−5は運動性を有するグラム陰性桿菌で、グルコースを酸化し、カタラーゼ反応およびオキシダーゼ反応はともに陽性を示した(表6)。API試験において、AL−5はアルギニンジヒドロラーゼ活性を示し、エクスリンを加水分解せず、ゼラチンを加水分解した(表7)。また、AL−5はKing’sB寒天培地で蛍光色素を産出し、カゼインを加水分解せず、レシチナーゼ活性を示さず、リパーゼ(Tween80)活性を示し、カゼインを加水分解した(表7)。
【0058】
これらの性状は、蛍光色素を産出することを除くとP.alcaligenesの一般性状とほぼ類似する。しかし、P.alcaligenesはPseudomonas属の中で蛍光色素非産出種として知られており、加えてAL−5のグルコースを資化する点もP.alcaligenesの性状と異なる。また、今回の試験から得られた生理性状とP.fluorescensやP.putidaなど蛍光色素を産出する種と比較したが、一致する種は見当たらなかった。よって、今回の生理・生化学的性状試験からはAL−5をPseudomonasの新種と判断し、Pseudomonas sp.と推定した。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
AL−5株、AL−7株およびAL−11株は、平成20年7月28日付で特許生物寄託センターにそれぞれPseudomonas属菌FERM ABP−10988、Pantoea属菌FERM ABP−10989、Pantoea属菌FERM ABP−10990として受領された。
【実施例7】
【0064】
AL−5株由来アルデヒド分解酵素活性に対するNADの影響
AL−5粗酵素液の調製
AL−5株は50mlの1%エタノール含有LB培地[トリプトン、10g/l;酵母エキス、5g/l;NaCl,10g/l]で、30℃、24時間180rpmで振とう培養した。培養後、6000×gで15分間遠心し、菌体を回収した。回収した菌体は10mMリン酸カリウム緩衝液(KPB)(pH7.0)20mlに再懸濁し、再び6000×gで15分間遠心し、上清を取り除いた。菌体は回収した量の2倍量の10mM KPB(pH7.0)に再懸濁し、超音波により破砕した。破砕後、20000×gで遠心し、得られた上清を10mM KPB(pH7.0)に対して透析を行った。そして透析により、菌体由来の低分子を取り除いた状態のものを粗酵素液とした。
アルデヒド酸化還元酵素活性に対するNADの影響
酵素反応は酵素反応溶液(2mMアセトアルデヒド;(+2mM NAD);50mM KPB(pH7.0);粗酵素溶液;最終液量250μl)で,30℃24時間反応させた。反応後、上清50mlと200mM酢酸緩衝液(pH3.5)100ml、0.1%3-methyl-2-benzothiazolone hydrazone (MBTH)溶液40mlを混合し、溶液を50℃で30分間インキュベートした。次に0.6%硫酸アンモニウム鉄(III)/酢酸酸性水溶液[硫酸アンモニウム鉄(III)・12水和物,6g/l;酢酸、50ml/l]190mlを加え、さらに20分間室温で反応させた。アルデヒドが残存する場合、溶液は青く呈色される。反応後水で1mlに希釈し、溶液200mlを96穴マイクロタイタープレートに移し、SpectraMax340PC(Molecular Devices)により620nmの吸光度を測定した。NAD非存在下で示した活性をNAD非依存性活性とし、NAD存在下で示した活性からNAD非依存性活性を引いた値をNAD依存性活性とした。
アルデヒド酸化還元酵素活性に対するNADの影響
AL−5の粗酵素液は、NAD非存在下であってもアルデヒド酸化活性を示した。NADの添加により,NAD非存在下よりも高い活性を示した(図5)。この結果からAL−5の粗酵素液中にはNAD非依存性活性を持つ酵素(アセトアルデヒドオキシダーゼ)とNAD依存性活性を持つ酵素(アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ)の両方が存在すると考えられる(図5)。
【実施例8】
【0065】
AL−5株による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
アセトアルデヒド、1ml/l;ペプトン、5g/l;酵母エキス、2g/l:NaCl、8.5g/lを含有する培地(pH7.0、5リットル)にてAL−5株を30℃で2日間しんとう培養した。菌体を遠心分離(6、000rpm、15分間)にて回収し、生理的食塩水にて洗浄した。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に菌体(湿重量、約0.1g)を懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この反応液から遠心分離(6、000rpm、15分間)により菌体を除去し、上清に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例1で述べた方法によって測定したところ、上清にアセトアルデヒドを検出することはできなかった。
【実施例9】
【0066】
AL−5株菌体抽出液による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
実施例7と同様にして培養することにより得られたAL−5株の菌体(菌体湿重量、3.6g)を、氷冷した0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0、10ml)に懸濁し、超音波処理(20kHz、のべ1分間)により破砕した。菌体破砕液を遠心分離(10、000rpm、15分間)にかけ、上清を菌体抽出液として回収した。菌体抽出液にカタラーゼ(米国シグマ社、10mg)を加え、0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)に対して4℃で十分に透析し、粗酵素液とした。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に粗酵素液0.1mlを懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この唾液中に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例1で述べた方法によって測定したところ、アセトアルデヒドを検出することはできなかった。
【実施例10】
【0067】
AL−7株およびAL−11株による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
実施例7と同組成の培地にてAL−7株またはAL−11株を30℃で2日間しんとう培養した。菌体を遠心分離(6,000rpm、15分間)にて回収し、生理的食塩水にて洗浄した。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に菌体(湿重量、各々約0.2g)を懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この反応液から遠心分離(6,000rpm、15分間)により菌体を除去し、上清に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例1で述べた方法によって測定したところ、AL−7株およびAL−11株のいずれの場合においても上清にアセトアルデヒドを検出することはできなかった。
【実施例11】
【0068】
AL−7株およびAL−11株菌体抽出液による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
実施例9と同様にして得られたAL−11株の菌体(菌体湿重量、5.4g)を、氷冷した0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0、10ml)に懸濁し、超音波処理(20kHz、のべ1分間)により破砕した。菌体破砕液を遠心分離(10,000rpm、15分間)にかけ、上清を菌体抽出液として回収した。菌体抽出液にカタラーゼ(米国シグマ社、10mg)を加え、0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)に対して4℃で十分に透析し、粗酵素液とした。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に粗酵素液0.1mlを懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この唾液中に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例1で述べた方法によって測定したところ、アセトアルデヒドを検出することはできなかった。
【実施例12】
【0069】
AL−5株による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
アセトアルデヒド;1ml/l、ペプトン;5g/l、酵母エキス;2g/l、NaCl;8.5g/lを含有する培地(pH7.0、200ml)にてAL−5株を30℃で3日間しんとう培養した。菌体を遠心分離(5000rpm、10分間)にて回収し、生理的食塩水にて洗浄した。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に菌体(湿重量、約0.1g)を懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。反応後、15,000×gで10分間遠心することにより上清を得た。上清450μlを内部標準として100ppmのイソブタノールを50μl加えたガラスバイアルに入れ、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によりアセトアルデヒド濃度を測定した。機器はTekmar7000型ヘッドスペースオートサンプラーと、INNOWAX19091N−233キャピラリーカラム(長さ30m、内径0.25mm、フィルム0.25μm)を装着したVarian CP−3800型ガスクロマトグラフを使用した。その結果,実施例8記載の方法で測定した場合同様、上記測定方法によっても上清にアセトアルデヒドは検出されなかった。
【実施例13】
【0070】
AL−5株菌体抽出液による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
実施例7と同様にして培養することにより得られたAL−5株の菌体(菌体湿重量、7.3g)を、氷冷した0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0、15ml)に懸濁し、超音波処理(20kHz、のべ10分間)により破砕した。菌体破砕液を遠心分離(15000rpm、15分間)にかけ、上清を菌体抽出液として回収した。0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)に対して4℃で十分に透析し、粗酵素液とした。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に粗酵素液0.1mlを懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この唾液中に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例12で述べた方法によって測定したところ、実施例9同様、上清にアセトアルデヒドは検出されなかった。
【実施例14】
【0071】
AL−11株による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
実施例7と同組成の培地にてAL−11株を30℃で3日間しんとう培養した。菌体を遠心分離(5000rpm、10分間)にて回収し、生理的食塩水にて洗浄した。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に菌体(湿重量、各々約0.1g)を懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この反応液から遠心分離(15000rpm、1分間)により菌体を除去し、上清に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例12で述べた方法によって測定したところ、実施例10同様、AL−11株のいずれの場合においても上清にアセトアルデヒドは検出されなかった。
【実施例15】
【0072】
AL−11株菌体抽出液による唾液中アセトアルデヒド分解活性評価
実施例14と同様にして得られたAL−11株の菌体(菌体湿重量、2.0g)を、氷冷した0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0、4ml)に懸濁し、超音波処理(20kHz、のべ10分間)により破砕した。菌体破砕液を遠心分離(15000rpm、15分間)にかけ、上清を菌体抽出液として回収した。0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)に対して4℃で十分に透析し、粗酵素液とした。アセトアルデヒドを2mMとなるように添加した唾液(0.5ml)に粗酵素液0.1mlを懸濁し、37℃で5時間インキュベートした。この唾液中に含まれるアセトアルデヒドの濃度を実施例12で述べた方法によって測定したところ、実施例11同様、上清にアセトアルデヒドは検出されなかった。
【実施例16】
【0073】
AL−5菌体抽出液によるn−ヘキサナールおよび2−ノネナール分解活性評価
実施例13と同様にして得られた粗酵素液をn−ヘキサナールまたは2−ノネナールを2ppmとなるように添加した反応液(0.6ml)に粗酵素液0.03mlを懸濁し、37℃で10分間インキュベートした。この反応液中に含まれるn−ヘキサナールおよび2−ノネナールの濃度を実施例12で述べた方法によって測定したところ、n−ヘキサナールおよび2−ノネナールは検出されなかった。
【実施例17】
【0074】
AL−11菌体抽出液によるn−ヘキサナールおよび2−ノネナール分解活性評価
実施例15と同様にして得られた粗酵素液をn−ヘキサナールまたは2−ノネナールを2ppmとなるように添加した反応液(0.6ml)に粗酵素液0.03mlを懸濁し、37℃で10分間インキュベートした。この反応液中に含まれるn−ヘキサナールおよび2−ノネナールの濃度を実施例12で述べた方法によって測定したところ、n−ヘキサナールおよび2−ノネナールは検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pseudomonas属菌またはPantoea属菌であって、脂肪族アルデヒド分解能を有し、バニリンに対しては分解能を有しない微生物。
【請求項2】
脂肪族アルデヒドが、アセトアルデヒド、ヘキサナールおよび/またはノネナールである、請求項1記載の微生物。
【請求項3】
脂肪族アルデヒドが、アセトアルデヒドである、請求項1記載の微生物。
【請求項4】
pH3.0以上4.0以下の条件下で脂肪族アルデヒド分解能を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の微生物。
【請求項5】
脂肪族アルデヒド分解能がNAD非要求性のものである、請求項1〜4のいずれか一項記載の微生物。
【請求項6】
NAD非要求性の脂肪族アルデヒド分解能が、アセトアルデヒドオキシダーゼによるものである、請求項5記載の微生物。
【請求項7】
微生物がPseudomonas sp.FERM ABP-10988株またはその変異株である、請求項1〜6のいずれか一項記載の微生物。
【請求項8】
微生物がPantoea sp.FERM ABP-10989株またはその変異株である、請求項1〜6のいずれか一項記載の微生物。
【請求項9】
微生物がPantoea sp.FERM ABP-10990株またはその変異株である、請求項1〜6のいずれか一項記載の微生物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項記載の微生物を含む組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項記載の微生物から調製される菌体破砕液、粗酵素液または精製酵素を含む組成物。
【請求項12】
組成物が飲食品、化粧料、洗濯処理剤、または消臭剤である、請求項10または11記載の組成物。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項記載の微生物を含む口中衛生剤。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項記載の微生物から調製される菌体破砕液、粗酵素液、または精製酵素を含む口中衛生剤。
【請求項15】
飲食品に、請求項1〜9のいずれか一項記載の微生物を添加することを特徴とする、食品または飲料中の脂肪族アルデヒド濃度の低減方法。
【請求項16】
脂肪族アルデヒドが、アセトアルデヒド、ヘキサナールおよび/またはノネナールである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
脂肪族アルデヒドが、アセトアルデヒドである、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−57482(P2010−57482A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181062(P2009−181062)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】