説明

脂肪族ポリエステル樹脂組成物

【課題】成形性、機械強度、耐衝撃性、耐熱性及び寸法安定性に優れ、自動車用内装部品として好適に使用することができる脂肪族ポリエステル樹脂組成物及び樹脂成形部品を提供する。
【解決手段】所定の繰り返し単位を有するポリヒドロキシアルカノエート‐1と、所定の繰り返し単位を有するポリヒドロキシアルカノエート‐2と、バクテリアセルロースと、を含有して成る脂肪族ポリエステル樹脂組成物、および脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いた樹脂成形部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物に係り、更に詳細には、例えば自動車用内装部品として好適に使用することができる成形性、機械強度、耐衝撃性、耐熱性及び寸法安定性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物及び樹脂成形部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ドアトリム基材やピラーガーニッシュ等の自動車用内装部品の射出成形体には、耐熱性を向上させるために、充填材として無機フィラーを含有させた複合構造のものが使用されている。
【0003】
具体的には、自動車用内装部品の樹脂母材として、部品重量低減効果、耐光性及び耐薬品性などに優れ、更にコスト的に有利であることなどから、ポリオレフィン系樹脂が使用されており、また、無機フィラーとして、耐熱性を向上させるためにタルクやガラス繊維などを配合したものが知られている。
【0004】
このようにポリオレフィン系樹脂を使用した自動車用内装部品は、取り扱い易く安価であるため、ドアトリムやピラーガーニッシュなどだけでなく様々な部分に多用されている。
そして、その利便性の良さゆえに、主に使い捨てにされることが多かった。
【0005】
これらは焼却すると紙ゴミなどよりも焼却熱量が高く、焼却炉を傷めてしまうおそれがある一方、埋め立て処理すると自然環境下での分解速度が極めて遅く半永久的に地中に残存するため、地球環境を破壊するという問題がある。
更に、原料が石油由来のものであるため、焼却すると、大気中の二酸化炭素(CO)量が増加し、地球温暖化を招く可能性がある。
【0006】
そこで、近年、植物由来の材料を利用した樹脂製部品が注目されている。
植物由来の樹脂は、焼却しても通常のプラスチックより燃焼熱量が低く、埋め立て処理しても、自然環境下において炭酸ガスと水とに分解されるため、環境に無害な樹脂である。
更に、原料が植物であることから、焼却時に発生するCOが少なくなる利点がある。
【0007】
このような植物由来の樹脂を適用したものとして、ポリ乳酸又は乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなる部品が提案されている(特許文献1参照。)。
【0008】
また、植物由来の樹脂の結晶化を促進させることを目的とした開発についても報告がなされている。
具体的には、結晶化促進として成形後に部品を高温槽内でアニールする方法が提案されている(特許文献2参照。)。
【0009】
更に、植物由来の樹脂の強度を向上させることを目的とした開発についても報告がなされている。
例えば、強度を上げるためには、強化材と樹脂の密着強度を向上させる技術が一般的であり、具体的には、樹脂又は強化材を変性し官能基を持たせることにより、樹脂と強化材の間に水素結合を付与する技術が提案されている(特許文献3参照。)。
【0010】
一方、一般的にポリヒドロキシアルカノエート樹脂は微生物合成法により製造される。近年では菌体内の遺伝子を操作することにより、新規のポリヒドロキシアルカノエート樹脂の作製が進んでいる(特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平9−25345号公報
【特許文献2】特開2003−245971号公報
【特許文献3】特開平6−328048号公報
【特許文献4】特開2004−254668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の熱可塑性ポリマー組成物は、従来のオレフィン系樹脂と比較すると、結晶化度が劣り、十分な耐熱性を有するものではないという問題点があった。
また、耐衝撃性が劣るため、所望の部品性能を発現させるためには、天然繊維などによる補強などが挙げられるが、その場合には、射出成形の用途に適さず、生産性の観点において効率的でない。
更に、石油系エラストマーを配合することにより、期待する衝撃強度に達することが知られているが、従来のオレフィン系樹脂と比較して、CO削減効果が少なく、また部品重量が増加するため、効果的ではない。
【0012】
また、上記特許文献2に記載の部品を高温槽内でアニールする方法では、部品局所における温度勾配が発生し、結晶構造が不均一になり、寸法安定性が損なわれるという問題点があった。
そして、タルクやマイカなどの無機フィラー、天然繊維などの結晶核剤を含有させることにより、結晶化速度を加速させることが可能であるが、所望する成形サイクルを達成させるためには不十分であった。
【0013】
更に、上記特許文献3に記載の変性により水素結合を付与する方法では、自動車用部品として所望する強度を達成することができないという問題点があった。
【0014】
このように、成形サイクルや強度、衝撃強度、耐熱性、寸法安定性の面で現実性のある安価な自動車用内装部品に関する報告については見当たらないのが実情である。
【0015】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形性、機械強度、耐衝撃性、耐熱性及び寸法安定性に優れ、自動車用内装部品として好適に使用することができる脂肪族ポリエステル樹脂組成物及び樹脂成形部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、所定の繰り返し単位を有するポリヒドロキシアルカノエートと、バクテリアセルロースとを含有した複合構成とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、次の一般式(1)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中のR及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は鎖状炭化水素(C2k+1)基及び水素原子又は鎖状炭化水素(C2l+1)基を示し、k及びlは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1〜18の自然数を示し、x及びyは、同一でも異なっていてもよく、重量平均分子量が10万〜500万となるような自然数を示し、2≦y/x<4.0の関係を満たす。)で表される少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート−1と、次の一般式(2)
【0020】
【化4】

【0021】
(式中のR及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は鎖状炭化水素(C2m+1)基及び水素原子又は鎖状炭化水素(C2n+1)基を示し、m及びnは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1〜18の自然数を示し、5≦m<19及び/又は5≦n<19の関係を満たし、x及びyは同一でも異なっていてもよく、重量平均分子量が10万〜500万となるような自然数を示す。)で表される少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート−2と、バクテリアセルロースと、を含有して成ることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の樹脂成形部品は、上記本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所定の繰り返し単位を有するポリヒドロキシアルカノエートと、バクテリアセルロースとを含有した複合構成とすることなどとしたため、成形性、機械強度、耐衝撃性、耐熱性及び寸法安定性に優れ、自動車用内装部品として好適に使用することができる脂肪族ポリエステル樹脂組成物及び樹脂成形部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0025】
上述の如く、本発明の脂肪族ポリエステルは、ポリヒドロキシアルカノエート‐1(PHA‐1)と、ポリヒドロキシアルカノエート‐2(PHA‐2)と、バクテリアセルロースを含有して成る。
【0026】
上記のPHA‐1は、次の一般式(1)
【0027】
【化5】

【0028】
(式中のR及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は鎖状炭化水素(C2k+1)基及び水素原子又は鎖状炭化水素(C2l+1)基を示し、k及びlは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1〜18の自然数を示し、x及びyは、同一でも異なっていてもよく、重量平均分子量が10万〜500万となるような自然数を示し、2≦y/x<4.0の関係を満たす。)で表される少なくとも1種である。
【0029】
また、上記のPHA‐2は、次の一般式(2)
【0030】
【化6】

【0031】
(式中のR及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は鎖状炭化水素(C2m+1)基及び水素原子又は鎖状炭化水素(C2n+1)基を示し、m及びnは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1〜18の自然数を示し、5≦m<19及び5≦n<19のいずれか一方又は双方の関係を満たし、x及びyは同一でも異なっていてもよく、重量平均分子量が10万〜500万となるような自然数を示す。)で表される少なくとも1種である。
【0032】
このような、複合構成とすることにより、より具体的には、上述したような繰り返し単位が規定されたPHA‐1及びPHA‐2と、詳しくは後述するバクテリアセルロースとの複合構成とすることにより、用いるバクテリアセルロースに存在する水酸基とPHA‐1及びPHA‐2(特にPHA‐1)に存在するカルボニル基との間に発現する密着強度(水素結合エネルギーの和)を著しく向上させることができ、成形性、機械強度、耐衝撃性、耐熱性及び寸法安定性に優れた、自動車用内装部品として好適に使用することができる脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
なお、PHA‐1とPHA‐2とバクテリアセルロースを含有して成ると記載しているが、PHA‐1、PHA‐2及びバクテリアセルロースのみを含有して成る脂肪族ポリエステル樹脂組成物が本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0033】
まず、用いるPHA‐1について説明する。
かかるPHA‐1においては、2≦y/x<4.0の関係を満足することが必要である。y/xが2未満の場合やy/xが4以上の場合には、後述する充填材であるバクテリアセルロースとの密着強度が得られず、機械強度が十分なものとならないからである。
【0034】
また、かかるPHA‐1においては、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が所望する性能を満足すれば、その構造について特に限定されるものではない。
【0035】
例えば、R及びRについては、水素原子でも鎖状炭化水素基であってもよく、その場合の炭化水素基は、k及びlがそれぞれ自然数1〜18であって、C2k+1基やC2l+1基と表されるものである。
代表的には、直鎖状炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ペプタデシル基、オクタデシル基などを挙げることができる。
また、分枝鎖状炭化水素基でもよく、例えばイソプロピル基又はイソブチル基などを挙げることもできる。
【0036】
更に、PHA‐1の末端についても、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が所望する性能を満足すれば、その構造について特に限定されるものではないが、例えば、代表的な末端基処理剤であるジメチルホルムアミドやエステル結合を形成するアルコール、カルボン酸類などの有機残基、水素原子、ナトリウムなどの金属原子が結合しており、場合によっては他の成分と末端で架橋している場合もある。
【0037】
次に、用いるPHA‐2について説明する。
かかるPHA‐2においては、5≦m<19及び5≦n<19のいずれか一方又は双方の関係を満足することが必要である。
m及びnの双方が5未満の場合や19以上の場合、更には、mが5未満でありnが19以上の場合、mが19以上でありnが5未満の場合には、衝撃強度が十分なものとならない場合があり、耐熱性の面においても十分なものとならない場合があるからである。
具体的には、mやnが5未満の場合には衝撃強度が劣るものとなる一方、mやnが19以上の場合には耐熱性が劣るものとなる。
また、5≦m,n<19の関係を満足することが好ましい。
【0038】
また、かかるPHA‐2においては、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が所望する性能を満足すれば、その構造について特に限定されるものではない。
【0039】
例えば、R及びRについては、上記の関係を満足すれば、水素原子でも鎖状炭化水素基であってもよく、その場合の炭化水素基は、m及びnがそれぞれ自然数1〜18であって、C2m+1基やC2n+1基と表されるものである。
代表的には、直鎖状炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ペプタデシル基、オクタデシル基などを挙げることができる。
また、分枝鎖状炭化水素基でもよく、例えばイソプロピル基又はイソブチル基などを挙げることもできる。
【0040】
更に、PHA‐2の末端についても、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が所望する性能を満足すれば、その構造について特に限定されるものではないが、例えば、代表的な末端基処理剤であるジメチルホルムアミドやエステル結合を形成するアルコール、カルボン酸類などの有機残基、水素原子、ナトリウムなどの金属原子が結合しており、場合によっては他の成分と末端で架橋している場合もある。
【0041】
また、本発明においては、機械強度をより向上させる観点から、用いるPHA‐1において、2.5≦y/x<3.5の関係を満足することが好ましい。
【0042】
更に、本発明においては、PHA‐1及びPHA‐2の含有比率が2.5:1〜5:1であることが好ましく、3:1〜4:1であることがより好ましい。
このような含有比率とすることにより、更に衝撃強度や耐熱性、機械強度などを向上させることができる。
【0043】
ここで、用いるPHAの代表的な製造方法について説明する。
かかる製造方法は、廃食用油を唯一の炭素源として、水素細菌と混ぜ、水素細菌の菌体内にPHAを産生させ、次に、菌体を回収し、回収した菌体と次亜塩素酸水溶液とを混合して溶菌し、その後、PHAを単離する方法である。
【0044】
具体的には、まず、[1]Ralstonia eutropha、[2]Pseudomonas olecrorans、[3]Poputida、[4]P.aeruginosaなどの水素細菌を定法により培養し、炭素源及び窒素源を制限した培地に交換する。次に、大豆油などの廃食用油を添加し、30℃で所定時間好気性条件下で培養する。
また、単糖類(例えば、果糖など。)やアルキル鎖長の短い有機酸を炭素源として、窒素源を欠乏させた飢餓状態で培養したとき、生分解性プラスチックのPHAを産生することは公知である。
培養中、酸性度(pH)の上昇が観測されるが、特に制限装置(例えば、pHセンサなど。)を使用することなく、通常の回分式でPHAを効率良く産生することができる。
【0045】
培養終了後、自然沈降、ろ過又は遠心分離により菌体を分離する。ろ過方法については重力ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過等のろ過方式を挙げることができる。
次に、分離した菌体に次亜塩素酸水溶液を滴下し、菌体を溶菌させる。この際、次亜塩素酸水溶液に不溶のPHAのみが沈降し、他の菌体由来成分は水溶液中に溶解する。
【0046】
得られたPHAは、自然沈降、ろ過又は遠心分離により単離する。このようにして得られたPHAは、水(蒸留水)やエタノールにより洗浄することによって精製することができる。
【0047】
次に、用いるバクテリアセルロースについて説明する。
一般的に、異物は結晶核剤としての効果があり、結晶化速度はその単位体積当たりの個数に比例する。
用いるバクテリアセルロースは、そのナノサイズの微細構造(代表的には径が10〜50nm程度である。)から、同構成のパルプなどのセルロース繊維を樹脂中に同量混入させた場合と比較して、単位体積当たり10〜1010倍の個数となるために結晶化速度が著しく向上する。
そして、上述したような繰り返し単位が規定されたPHA‐1及びPHA‐2との複合構成とすることにより、用いるバクテリアセルロースに存在する水酸基とPHA‐1及びPHA‐2(特にPHA‐1)に存在するカルボニル基との間に発現する密着強度(水素結合エネルギーの和)を著しく向上させることができる。
【0048】
また、本発明においては、バクテリアセルロースの含有率を0.1%以上〜50%未満とすることが好ましく、1%以上〜20%未満とすることがより好ましく、5%以上〜15%未満とすることが更に好ましい。
バクテリアセルロースの含有率が0.1%未満の場合には、十分な結晶化速度が得られないばかりでなく、十分な機械強度を達成することができない可能性がある。また、含有率が50%以上の場合には、所望する機械強度が十分に確保できないばかりでなく、流動性低下などの製造面において好ましくない。
【0049】
更に、本発明においては、用いるバクテリアセルロースの繊維直径が1nm以上〜1000nm未満であることが好ましく、5nm以上〜100nm未満であることがより好ましい。
バクテリアセルロースの繊維直径が1nm未満や1000nm以上のものは充填材を効率良く製造できず好ましくない。
また、5nm以上〜100nm未満とすると機械強度や耐熱性などの機械物性をより向上させることができ、結晶化速度を向上させるために十分なバクテリアセルロース数を確保することができ、成形性をより向上させることができる。
【0050】
更にまた、本発明においては、用いるバクテリアセルロースのアスペクト比が1以上〜1000未満であることが好ましい。
バクテリアセルロースのアスペクト比が1未満であると、十分な機械強度が確保できない可能性がある。また、1000以上であると、成形性に問題が生じる可能性があり好ましくない。
ここで、「アスペクト比」とは、バクテリアセルロースにおける(繊維長)/(繊維径)のことである。
【0051】
ここで、用いるバクテリアセルロースの代表的な製造方法について説明する。
このようなバクテリアセルロースを産生する微生物は特に限定されないが、アセトバクター・アセチ・サブスピーシス・キシリナム(Acetobacter aceti subsp・xylinum)ATCC10821又は同パストウリアヌス(A・pasteurianus)、同ランセンス(A・rancens)、サルシナ・ベントリクリ(Sarcina vntriculi)、バクテリウム・キシロイデス(Bacterium xyloides)、シュードモナス属細菌、アグロバクテリウム属細菌等でバクテリアセルロースを産生するものを利用することができる。
【0052】
これらの微生物を培養してバクテリアセルロースを生成蓄積させる方法は細菌を培養する一般方法に従えばよい。
即ち、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地に微生物を接種し、静置又はゆるやかに通気撹拌を行なう。
炭素源としては、グルコース、シュクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜等が利用されるが、エタノール、酢酸、クエン酸等も単独又は上記の糖と併用して利用することができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ペプトン等の有機又は無機の窒素源が利用される。
無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が利用される。
有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にはこれらの栄養素を含むペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆蛋白加水分解物等が利用され、生育にアミノ酸等を要求する栄養要求性変異株を用いる場合には、要求される栄養素を更に補添する必要がある。
培養条件も通常でよく、pHを5ないし9そして温度を20ないし40℃に制御しつつ1ないし30日間培養すれば表層にバクテリアセルロースがゲル状に蓄積される。
【0053】
本発明で使用するバクテリアセルロースは、微生物の培養物から単離された精製品のほか、用途に応じて、ある程度不純物を含むものであってもよい。
例えば、培養液中の残糖、塩類、酵母エキス等が微生物セルロースに残留していても差し支えない。また、菌体がある程度含まれていてもよい。
得られたゲルを取り出して必要により水洗する。この水洗水には目的に応じて殺菌剤、前処理剤などの薬剤を添加することができる。
【0054】
なお、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、所望する性能を維持すれば、顔料や酸化防止剤などを適宜添加してもよい。
【0055】
次に、本発明の樹脂成形部品について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の樹脂成形部品は、上記本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いたものである。
例えばドアトリム基材やピラーガーニッシュなどの自動車用内装部品として好適に使用することができるが、これに限定されるものではない。
また、使用態様に応じて、適宜表皮材を付加したり、塗装を施すこともできる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
(PHA‐1の作製)
LB培地で前培養した水素細菌(Ralstonia eutropha)を遠心分離により集菌し、500mlのさかぐちフラスコに300mgの菌体と炭素源及び窒素源を欠いた培地を加え、微量塩類を添加した。更に、唯一の炭素源として、大豆油の廃油を1ml加えて、30℃で3日間振とう培養を行った。
培養終了後、遠心分離によって菌体を分離し、10mlの30%次亜塩素酸水溶液を滴下した。30℃で90分間溶菌させた後、重力ろ過によってPHA‐1を分離した。このようにして得られたPHA‐1を蒸留水とエタノールで洗浄し、減圧乾燥によって精製した。
【0058】
得られたPHA‐1を核磁気共鳴(H‐NMR)、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)及びサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)によって、同定した。
【0059】
その結果、次式(I)
【0060】
【化7】

【0061】
(式中において、y/xは3であり、重量平均分子量(Mw)は100万である。)のPHA‐1が得られた。
【0062】
(PHA‐2の作製)
LB培地で前培養した水素細菌(Pseudomonas olecrorans)を遠心分離により集菌し、500mlのさかぐちフラスコに300mgの菌体と炭素源及び窒素源を欠いた培地を加え、微量塩類を添加した。更に、唯一の炭素源として、大豆油の廃油を1ml加えて、30℃で3日間振とう培養を行った。
培養終了後、遠心分離によって菌体を分離し、10mlの30%次亜塩素酸水溶液を滴下した。30℃で90分間溶菌させた後、重力ろ過によってPHA‐2を分離した。このようにして得られたPHA‐2を蒸留水とエタノールで洗浄し、減圧乾燥によって精製した。
【0063】
得られたPHA‐2を核磁気共鳴(H‐NMR)、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)及びサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)によって、同定した。
【0064】
その結果、次式(II)
【0065】
【化8】

【0066】
(式中において、y/xは0.15であり、重量平均分子量(Mw)は100万である。)のPHA‐2が得られた。
【0067】
(PHA‐3の作製)
LB培地で前培養した水素細菌(Ralstonia eutropha)を遠心分離により集菌し、500mlのさかぐちフラスコに300mgの菌体と炭素源及び窒素源を欠いた培地を加え、微量塩類を添加した。更に、唯一の炭素源として、ごま油の廃油を1ml加えて、30℃で3日間振とう培養を行った。
培養終了後、遠心分離によって菌体を分離し、10mlの30%次亜塩素酸水溶液を滴下した。30℃で90分間溶菌させた後、重力ろ過によってPHA‐3を分離した。このようにして得られたPHA‐3を蒸留水とエタノールで洗浄し、減圧乾燥によって精製した。
【0068】
得られたPHA‐3を核磁気共鳴(H‐NMR)、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)及びサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)によって、同定した。
【0069】
その結果、次式(III)
【0070】
【化9】

【0071】
(式中において、y/xは1であり、重量平均分子量(Mw)は100万である。)のPHA‐3が得られた。
【0072】
(PHA‐4の作製)
LB培地で前培養した水素細菌(Pseudomonas olecrorans)を遠心分離により集菌し、500mlのさかぐちフラスコに300mgの菌体と炭素源及び窒素源を欠いた培地を加え、微量塩類を添加した。更に、唯一の炭素源として、ごま油の廃油を1ml加えて、30℃で3日間振とう培養を行った。
培養終了後、遠心分離によって菌体を分離し、10mlの30%次亜塩素酸水溶液を滴下した。30℃で90分間溶菌させた後、重力ろ過によってPHA‐4を分離した。このようにして得られたPHA‐4を蒸留水とエタノールで洗浄し、減圧乾燥によって精製した。
【0073】
得られたPHA‐4を核磁気共鳴(H‐NMR)、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)及びサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)によって、同定した。
【0074】
その結果、次式(IV)
【0075】
【化10】

【0076】
(式中において、y/xは0.15であり、重量平均分子量(Mw)は100万である。)のPHA‐4が得られた。
【0077】
(実施例1)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が79%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が1%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0078】
(実施例2)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0079】
(実施例3)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が60%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が20%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0080】
(実施例4)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:1nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0081】
(実施例5)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:5nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0082】
(実施例6)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:1)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0083】
(実施例7)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:1000)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0084】
(実施例8)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:100nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0085】
(実施例9)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:1000nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0086】
(比較例1)
樹脂組成物全量基準として、ポリ乳酸(PLA)(Cargill Daw社製、ポリ乳酸樹脂3001D)を含有率が90%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0087】
(比較例2)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、パルプ(αアセルロース含有量90%、平均繊維径25μm、平均繊維長1.8mmのセルロース繊維(日本製紙株式会社製、NDP−T)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0088】
(比較例3)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、タルク(林化成社製:5000SA、充填材径:1μm、充填材アスペクト比:2.5)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0089】
(比較例4)
樹脂組成物全量基準として、上記の(I)式で表されたPHA‐1を含有率が70%と、上記の(IV)式で表されたPHA‐4を含有率が20%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
【0090】
(比較例5)
樹脂組成物全量基準として、上記の(II)式で表されたPHA‐2を含有率が20%と、上記の(III)式で表されたPHA‐3を含有率が70%と、バクテリアセルロース(充填材径:50nm、充填材アスペクト比:10)を含有率が10%となるように混練し、射出成形して、本例の樹脂組成物の射出成形体(ISO TypeA多目的試験片)を得た。
各例の仕様を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
[性能評価]
(成形性評価)
上記各例の成形体の成形サイクル(冷却時間)、又はテストピース取得可否を評価した。
得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の評価は、実施例2の結果を○(基準)として相対評価を行った。△は1.5倍以上〜3倍未満の時間を要するものであり、×は3倍以上の時間を要するもの、又はテストピース取得不可を示す。
【0093】
(機械強度評価)
上記各例の成形体を用い、ISO 527の引張り試験を行い、引張り強度を測定した。
得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の評価は、実施例2の結果を○(基準)として相対評価を行った。△は10%以上〜30%未満引張り強度が低下したもの、×は30%以上引張り強度が低下したものを示す。
【0094】
(耐熱性評価)
上記各例の成形体を用い、ISO 75(0.45MPa)フラットワイズの荷重たわみ温度を測定した。
得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の評価は、実施例2の結果を○(基準)として相対評価を行った。△は10℃以上〜30℃未満荷重たわみ温度が低下したもの、×は30℃以上荷重たわみ温度が低下したものを示す。
【0095】
(衝撃強度評価)
上記各例の成形体を用い、ISO 180 ノッチ有り(ノッチr=0.25mm)のIZOD衝撃強度を測定した。
得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の評価は、実施例2の結果を○(基準)として相対評価を行った。△は10%以上〜50%未満衝撃強度が低下したもの、×は50%以上衝撃強度が低下したものを示す。
【0096】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1〜9は、成形性、機械強度、耐衝撃性、耐熱性に優れていることが分かり、また、寸法安定性も優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中のR及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は鎖状炭化水素(C2k+1)基及び水素原子又は鎖状炭化水素(C2l+1)基を示し、k及びlは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1〜18の自然数を示し、x及びyは、同一でも異なっていてもよく、重量平均分子量が10万〜500万となるような自然数を示し、2≦y/x<4.0の関係を満たす。)で表される少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート‐1と、
次の一般式(2)
【化2】

(式中のR及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は鎖状炭化水素(C2m+1)基及び水素原子又は鎖状炭化水素(C2n+1)基を示し、m及びnは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1〜18の自然数を示し、5≦m<19及び/又は5≦n<19の関係を満たし、x及びyは同一でも異なっていてもよく、重量平均分子量が10万〜500万となるような自然数を示す。)で表される少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート‐2と、
バクテリアセルロースと、
を含有して成ることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
上記式中のx及びyが、2.5≦y/x<3.5の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
上記バクテリアセルロースの含有率が0.1%以上〜50%未満であることを特徴する請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
上記バクテリアセルロースの繊維直径が1nm以上〜1000nm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
上記バクテリアセルロースの繊維直径が5nm以上〜100nm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
上記バクテリアセルロースのアスペクト比が1以上〜1000未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いたことを特徴とする樹脂成形部品。

【公開番号】特開2007−112859(P2007−112859A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303998(P2005−303998)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】