説明

脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルム

【課題】 光弾性定数が低く、また位相差値の波長分散が小さく、かつ耐熱性の高い光学用フィルムを提供する。
【解決手段】 下記式(1)
【化1】


(1)
で表される糖質から製造可能なエーテルジオール残基、および下記式(2)
−O−(C2m)−O− (2)
(ただしmは2〜12の整数)
で表されるジオール残基を含み、当該エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65〜98重量%を占め、かつガラス転移温度が90℃以上である脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルムに関するものである。本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートは光学弾性定数が小さく、また本発明の光学用フィルムは位相差値の波長分散が小さいという特徴を有しており、例えば液晶表示装置の位相差板や基板として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の技術進歩は著しく携帯電話やパソコンからテレビまで幅広い分野で使用されている。液晶表示装置では従来から用いられてきたTN(ツイストネマチック)モードのほかに、最近ではVA(垂直配向)モードの素子構成が主流となりつつあるが、該モードにおいて視野角補償に用いられる位相差フィルムにはコントラストの点から波長分散の小さいものが求められている(特許文献1参照)。またテレビのように大型化が進んだ現在では額縁故障の問題、すなわちパネル組み立て後の応力発生による光漏れが問題となっており、その点から液晶表示装置に使われる光学用フィルムには光弾性定数が低いものが求められているのが現状である。ビスフェノールAをジオール成分とする芳香族ポリカーボネートではこれらの要求特性を満足するのは難しく、これまでその改善が検討されてきた。例えばモノマーに脂環族ジオールを用いて芳香族成分のない脂肪族ポリカーボネートとする試みは数多くなされてきたが、多くの場合ガラス転移温度(Tg)、すなわち耐熱性に劣るため光学フィルム用途としては適用困難である。耐熱性に優れた脂肪族ポリカーボネートとしては、脂環族構造を有するものが提案されている(特許文献2参照)。実施例からはTgの高いポリカーボネートが得られているが、モノマーの合成、入手が難しく実用面からは課題が多い。
【0003】
【特許文献1】特開2004−62023号公報
【特許文献2】特開平5−339395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものである。すなわち本発明は光弾性定数が低い脂肪族ポリカーボネートから、位相差値の波長分散が小さく、かつ耐熱性の高い光学用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、先に特定の脂環族構造のジオールを含む新規な脂肪族ポリカーボネートを提案している(PCT/JP2004/0086)。該脂肪族ポリカーボネートは耐熱性が高くかつ実用性の高いモノマーを用いることが特徴である。
【0006】
我々はかかる脂肪族ポリカーボネートからなるフィルムを検討した結果、該脂肪族ポリカーボネートは光学弾性率が低く、それから得られるフィルムは位相差値の波長分散が小さく、液晶表示装置の位相差板、基板などの光学用途に適することを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、糖質由来のエーテルジオール残基および脂肪族ジオール残基を含み、当該エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65〜98重量%を占め、かつガラス転移温度が90℃以上である脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルムであり、脂肪族ジオール残基として好ましくは、エチレンジオール残基、1,3−プロパンジオール残基、1,4−ブタンジオール残基、1,5−ペンタンジオール残基、および1,6−ヘキサンジオール残基であり、エーテルジオール残基として好ましくはイソソルビド残基である。また本発明の光学用フィルムの光弾性定数は40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、位相差値の波長分散については下記式(3)を満足することが好ましい。
1.010<R(450)/R(550)<1.070 (3)
(式中、R(450)、R(550)はそれぞれ波長450nm、550nmにおけるフィルム面内の位相差値である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートは光弾性定数が小さく、本発明の光学用フィルムは透明性が高く、位相差値の波長分散が小さいという特徴を有しており、液晶表示装置の位相差板などに適用する光学用フィルムとして大変有用であり、本発明の光学用フィルムにより、視野角特性に優れかつ安定性に優れた位相差フィルムを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートとは、下記式(1)
【化1】

(1)
で表されるエーテルジオール残基、および下記式(2)
−O−(C2m)−O− (2)
(ただしmは2〜12の整数)
で表されるジオール残基を含んでなり、エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65〜98重量%を占め、かつガラス転移温度(Tg)が90℃以上であるポリカーボネートである。Tgは100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上である。またエーテルジオール残基は全ジオール残基中、80〜98重量%を占めることが好ましい。
【0010】
すなわち本発明のポリカーボネートは、式(4)
【化2】

(4)
の繰り返し単位部分と式(5)
【化3】

(5)
(ただしmは2〜12の整数)
の繰り返し単位部分とを有する。
【0011】
エーテルジオール残基の含有量が65重量%よりも少なくなると、得られる樹脂のガラス転移温度が下がり、また重合度も上がりにくくなりフィルムとして靭性不足になりがちであり好ましくない。一方エーテルジオールの含有量が98重量%よりも多いと、溶融粘度が非常に高くなり重合進行やその後の成型加工が困難になる。
【0012】
本発明の脂肪族ポリカーボネートにおいて、上記式(2)で表されるジオール残基として、具体的にはエチレングリコール残基、1,3−プロパンジオール残基、1,4−ブタンジオール残基、1,5−ペンタンジオール残基、および1,6−ヘキサンジオール残基を好ましく挙げることが出来る。かかるジオール残基は1種類でも良いし、組み合わせて用いても良い。
【0013】
また本発明ではエーテルジオール残基および上記式(2)で表されるジオール残基の他に、光学的な物性を損なわない範囲でその他のジオール残基を含んでも良い。かかるその他のジオールとしてはシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなど脂環式アルキレンジオール類、ジメタノールベンゼン、ジエタノールベンゼンなどの芳香族ジオール、ビスフェノールAなどのビスフェノール類などを挙げることができる。その場合、上記式(2)のジオール残基100重量部に対し、その他のジオール残基は合計で50重量部以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の脂肪族ポリカーボネートの重合度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒中、濃度1.2g/dL、30℃で測定した還元粘度(ηsp/c)で0.1〜10dL/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.45〜8dL/g、さらに好ましくは0.65〜5dL/gである。還元粘度が0.1dL/gよりも小さいとフィルムの靭性が保たれず、また10dL/gよりも大きいとポリマーおよびフィルムの製造面で困難となる。
【0015】
本発明で用いる脂肪族ポリカーボネートでは、下記式(6)
【化4】

(6)
で表されるエーテルジオールがモノマー成分の一つであるが、かかる構造のエーテルジオールとしてより具体的には、それぞれ立体異性体の関係にある下記式(7)、(8)および(9)で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。
【0016】
【化5】

(7)
【0017】
【化6】

(8)
【0018】
【化7】

(9)
【0019】
これらのエーテルジオールは糖質由来であり、自然界のバイオマスからも得られる物質であり、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるD−グルコースを水添した後、脱水することにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。かかるエーテルジオールの中でも本発明では、イソソルビド残基を含んでなるポリカーボネートが好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、樹脂特性において優れている。
【0020】
本発明で用いる脂肪族ポリカーボネートがイソソルビド残基を含有する場合、イソソルビド残基が全ジオール残基中、65〜98重量%を占めることが好ましく、80〜98重量%を占めることがより好ましい。
【0021】
本発明で用いる脂肪族ポリカーボネートを製造する方法として、式(6)のエーテルジオール、式(2)のジオール、および炭酸ジエステルとから溶融重合法により重合する方法を好ましく挙げることが出来る。
【0022】
かかる溶融重合の際に用いる炭酸ジエステルとして、具体的にはジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等を挙げることが出来るが、なかでも反応性、コスト面からジフェニルカーボネートが好ましい。
【0023】
溶融重合反応は、好ましくは重合触媒の存在下、原料であるジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、減圧下で280℃以下の温度で加熱しながら撹拌して、生成するフェノールを留出させる。反応系は窒素などの、原料、反応混合物および反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。
【0024】
反応初期に常圧で加熱反応させることが好ましい。これはオリゴマー化反応を進行させ、反応後期に減圧してフェノール等の芳香族アルコールまたは脂肪族アルコールを留去する際、未反応のモノマーが留出してモルバランスが崩れ、重合度が低下することを防ぐためである。本発明にかかわる製造方法においては芳香族アルコールまたは脂肪族アルコールを適宜系(反応器)から除去することにより反応を進めることができる。そのためには、減圧することが効果的であり、好ましい。
【0025】
重合温度としては、180℃以上280℃以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは230〜260℃の範囲である。エーテルジオールの分解を抑え着色が少なくする観点からは出来るだけ低温にすることが好ましいが、重合反応を適切に進める為にはある程度温度を高くする必要がある。
【0026】
かかる重合の際の重合触媒としては(i)含窒素塩基性化合物、(ii)アルカリ金属化合物および(iii)アルカリ土類金属化合物などの公知のものが挙げられる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよいが、(i)と(ii)、(i)と(iii)あるいは(i)と(ii)と(iii)の組み合わせで併用することが好ましい場合が多い。
【0027】
具体的には(i)含窒素塩基性化合物として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、2−メチルイミダゾール、テトラメチルアンモニウムボロハイドライドなどを挙げることが出来る。
【0028】
(ii)アルカリ金属化合物の具体的な例として、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、りん酸水素ニナトリウム、ビスフェノールAのニナトリウム塩、ニカリウム塩、ニリチウム塩、フェノールのニナトリウム塩、ニカリウム塩、ニリチウム塩などが挙げられる。
【0029】
(iii)アルカリ土類金属化合物の具体的な例として、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムなどを挙げることが出来る。
【0030】
本発明で用いる脂環族ポリカーボネートには、必要に応じて各種の添加剤を添加してもよく、例えば熱安定化剤、安定化助剤、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、重金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0031】
本発明の光学用フィルムの製造方法としては、ポリカーボネートを溶媒に溶解させた樹脂溶液を用いる溶液キャスト法、ポリカーボネートをそのまま溶融させて流延する溶融製膜法が挙げられる。
【0032】
本発明の脂肪族ポリカーボネートは有機溶媒に対する溶解性は良好であり、溶液キャスト法を好ましく用いることが出来る。かかる際の溶媒としては、汎用性、製造コスト面からハロゲン系溶媒、中でも塩化メチレンを用いることが最も好ましく、溶液組成物としては塩化メチレンを60重量%以上含有する溶媒15〜90重量部に対して脂肪族ポリカーボネート10重量部を溶解させたものが好ましい。溶媒量が90重量部以上と多いと膜厚が厚くかつ表面平滑性に優れたキャストフィルムが得られにくいことがあり、また溶媒量が15重量部以下と少ない場合は溶液粘度が高すぎてフィルム製造が困難となることがある。溶媒として塩化メチレン以外にも必要に応じて製膜性を妨げない範囲で他の溶媒を加えてもよく、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、トルエン、キシレンなどのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられる。
【0033】
本発明では、かかる脂肪族ポリカーボネートの樹脂溶液組成物(ドープ)を支持基板上に流延した後、加熱して溶媒を蒸発させることによりフィルムを得ることが出来る。支持基板としてガラス基板、ステンレスやフェロタイプなどの金属基板、PETなどのプラスチック基板などを使用し、ドクターブレードなどでドープを均一に支持基板上に流延させる。工業的にはダイからドープをベルト状もしくはドラム状の支持基板上に連続して押し出す方法が一般的である。
【0034】
支持基板上に流延したドープは発泡が起きないよう低温から徐々に加熱乾燥していくことが好ましく、加熱して大部分の溶媒を除去して自立性のあるフィルムとしてから支持基板から剥離し、さらにフィルム両面から加熱乾燥して残りの溶媒を除去することが好ましい。基板から剥離した後の乾燥工程では、熱収縮による寸法変化によりフィルムに応力がかかる可能性が高いため、液晶表示装置に用いる光学用フィルムのように精密な光学特性のコントロールが必要とされる製膜においては、乾燥温度、フィルムの固定条件などに留意して行うことが必要である。一般には剥離後の乾燥においては用いるポリカーボネートの(Tg−100℃)〜Tgの範囲で段階的に昇温しながら乾燥する方法をとることが好ましい。Tg以上で乾燥するとフィルムの熱変形が起こり好ましくなく、(Tg−100℃)以下では乾燥温度が著しく遅くなるため好ましくない。
【0035】
溶液キャスト法で得るフィルム中の残留溶媒量は2重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。2重量%以上と残留溶媒量が多いとフィルムのガラス転移点の低下が著しくなり好ましくない。
【0036】
溶融製膜法によりフィルムを作成する場合には、一般にTダイから融液を押し出して製膜される。製膜温度は、ポリカーボネートの分子量、Tg、溶融流動特性などから決められるが、180℃〜350℃の範囲であり、200℃〜320℃の範囲がより好ましい。温度が低すぎると粘度が高くなりポリマーの配向、応力歪みが残りやすいことがあり、逆に温度が高すぎるのも熱劣化、着色、Tダイからのダイライン(筋)などの問題がおきやすくなることがある。
【0037】
かくして得られる未延伸フィルムの膜厚は特に制限はなく目的に応じて決められるが、フィルムの製造面、靭性などの物性、コスト面などから10〜300μmが好ましく、より好ましくは20〜200μmである。
【0038】
本発明の光学用フィルムとしては、該未延伸フィルムを1軸延伸または2軸延伸など公知の延伸方法によりポリマーを配向させたものも好適である。かかる延伸により例えば液晶表示装置の位相差フィルムとして用いることが出来る。延伸温度はポリマーのTg近傍の、通常(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の範囲で行われ、延伸倍率は縦一軸延伸の場合、通常1.02倍〜3倍である。延伸フィルムの膜厚としては20〜200μmの範囲であることが好ましい。
【0039】
本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートは、光弾性定数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは30×10−12Pa−1以下である。光弾性定数が40×10−12Pa−1以上と高い場合には、該光学用フィルムを張り合わせる際の張力によって位相差が発現したり、他の材料との寸法安定性の違いから生じる応力により位相差が生じやすく、その結果光漏れ、コントラストの低下などの現象が生じて長期的な安定性に劣る場合がある。
【0040】
また本発明の光学用フィルムは、その位相差値の波長分散が下記式(3)
1.010<R(450)/R(550)<1.070 (3)
を満足することが好ましく、より好ましくは下記式(10)である。
1.010<R(450)/R(550)<1.060 (10)
ここでR(450)、R(550)はそれぞれ波長450nm、550nmにおけるフィルム面内の位相差値である。このような位相差値の波長分散が小さい位相差フィルムを用いると、特に液晶表示装置のVA(垂直配向)モードにおいて、視野角特性、コントラストに優れたものが得られる。またかかる場合位相差値としては、R(550)が10nm〜200nmであることが好ましく、より好ましくはR(550)が10nm〜100nmである。
【0041】
本発明の光学用フィルムは芳香族ポリカーボネートに比べて透明性に優れており、全光線透過率は88%以上であり、90%以上であることが好ましい。またヘイズ値は5%以下でありより好ましくは3%以下である。
【0042】
本発明の光学用フィルムは1枚単独で用いてもよいし、2枚以上積層して用いてもよい。また他の素材からなる光学用フィルムと組み合わせて用いてもよい。偏光板の保護膜として用いてもよいし、また液晶表示装置の透明基板として用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお参考例、実施例および比較例中の物性測定は以下のようにして行ったものである。
1)ポリマーの還元粘度(ηsp/c)
フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒からなる濃度1.2g/dLの溶液を用い、30℃で測定した。
2)ガラス転移温度(Tg)
Dupont社製910示差走査熱量計を用い、窒素ガス気流下、毎分20℃の昇温速度で測定した。
3)フィルム中の残留溶媒量
フィルムを230℃で6時間加熱乾燥した前後の重量変化から算出した。
4)フィルムの膜厚
アンリツ社製の電子マイクロ膜厚計で測定した。
5)フィルムの全光線透過率およびヘイズ値
日本電色工業(株)製濁度計NDH−2000型を用いて測定した。
6)光弾性定数
日本分光(株)製分光エリプソメーター「M150」を用い、フィルムに応力をかけた状態で位相差値を求めることにより算出した。
7)位相差値およびその波長分散
日本分光(株)製分光エリプソメーター「M150」により測定した。位相差値はフィルム面に対して垂直入射光線に対する位相差値を測定した。
【0044】
[参考例1:脂肪族ポリカーボネートの製造]
イソソルビド23.38gと1,6−ヘキサンジオール4.73gとジフェニルカーボネート42.84gとを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.82mg(ジオール成分1モルに対して1×10−4モル)、および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩を27.2μg(ジオール成分1モルに対して0.5×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
【0045】
撹拌下、反応槽内を13.3×10−3MPaに減圧し、生成するフェノールを留去しながら20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで25分間反応させ、さらに、215℃に昇温して10分間反応させた。
【0046】
ついで徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に250℃まで昇温し、最終的に250℃,6.66×10−5MPaで1時間反応させて重合反応を終了した。得られたポリマーの還元粘度は1.139dL/g、ガラス転移温度は123℃であった。
【0047】
[参考例2:脂肪族ポリカーボネートの製造]
ジオールとしてイソソルビド23.38gと1,3−プロパンジオール3.04gを用いた他は参考例1と同様にしてポリカーボネートの溶融重合を行った。得られたポリマーの還元粘度は0.902dL/g、ガラス転移温度は144℃であった。
【0048】
[実施例1]
参考例1で得られたイソソルビド残基と1,6−ヘキサンジオール残基からなる脂肪族ポリカーボネートを塩化メチレンに溶解させ、濃度18wt%の溶液を得た。該溶液をステンレス基板上にキャストして温度40℃で20分、温度60℃で30分加熱乾燥後、フィルムを基板から剥離してさらにフィルム周囲をゆるく固定して60℃で30分、80℃で30分、100℃で1時間、120℃で1時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1および表2に示す。
【0049】
[実施例2]
参考例2で得られたイソソルビド残基と1,3−プロパンジオール残基からなる脂肪族ポリカーボネートを塩化メチレンに溶解させ、濃度18wt%の溶液を得た。該溶液をステンレス基板上にキャストして温度40℃で20分、温度60℃で30分加熱乾燥後、フィルムを基板から剥離してさらにフィルム周囲をゆるく固定して60℃で30分、80℃で30分、100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1および表2に示す。
【0050】
[実施例3〜4]
実施例1で得た未延伸のポリカーボネートフィルムを、延伸機を用いて延伸温度120℃で2通りの延伸倍率にて1軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの位相差値およびその波長分散の物性を表2に示す。
【0051】
[実施例5]
実施例2で得た未延伸のポリカーボネートフィルムを、実施例3と同様に延伸機を用いて延伸温度140℃で1軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの位相差値およびその波長分散の物性を表2に示す。
【0052】
[比較例1]
ビスフェノールAからなるポリカーボネートである帝人化成製パンライトC−1400を用いて、実施例2と同様にして塩化メチレン溶液からキャストフィルムを得た。このフィルムの物性を表1および表2に示す。本発明の脂肪族ポリカーボネートと比べて光弾性定数が高く、また位相差値の波長分散が大きいことが分かる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光学用フィルムにより、視野角特性に優れかつ安定性に優れた位相差フィルムを提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(1)
で表される糖質から製造可能なエーテルジオール残基、および下記式(2)
−O−(C2m)−O− (2)
(ただしmは2〜12の整数)
で表されるジオール残基を含み、当該エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65〜98重量%を占め、かつガラス転移温度が90℃以上である脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルム。
【請求項2】
式(2)で表されるジオールの残基がエチレンジオール残基、1,3−プロパンジオール残基、1,4−ブタンジオール残基、1,5−ペンタンジオール残基、および1,6−ヘキサンジオール残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の残基であることを特徴とする請求項1に記載の光学用フィルム。
【請求項3】
エーテルジオール残基がイソソルビド残基である請求項1または2に記載の光学用フィルム。
【請求項4】
脂肪族ポリカーボネートの光学弾性定数が40×10−12Pa−1以下である請求項1〜3のいずれかに記載の光学用フィルム。
【請求項5】
下記式(3)を満足する請求項1〜4のいずれかに記載の光学用フィルム。
1.010<R(450)/R(550)<1.070 (3)
(式中、R(450)、R(550)はそれぞれ波長450nm、550nmにおけるフィルム面内の位相差値である。)

【公開番号】特開2006−28441(P2006−28441A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212776(P2004−212776)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】