説明

脂肪酸不飽和化酵素ファミリーのメンバーであるFAD4、FAD5、FAD5−2およびFAD6、ならびにそれらの使用方法

【課題】新規な不飽和脂肪酸組成物を与える脂肪酸不飽和化酵素ファミリーのメンバーをコードする単離された核酸分子とその利用法の提供。
【解決手段】不飽和化酵素の核酸分子を含む組換え発現ベクター、発現ベクターが導入された宿主細胞。脂肪種子作物であるアマ(Linum sp.)やカラシナ(Brassica sp.)の形質転換体では、不飽和化の進行した新規な脂肪酸組成物の生成が確認できた。不飽和脂肪酸組成としては、GLA18:3(6,9,12)、SDA18:4(6,9,12,15)、AA20:4(5,8,11,14)、EPA20:5(5,8,11,14,17)、DPA22:5(4,7,10,13,16)及びDHA22:6(4,7,10,13,16,19)などが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2000年9月28日に提出された米国特許仮出願第60/236,303号、および2001年6月12日に提出された米国特許仮出願第60/297,562号に対する優先権を主張するものであり、それらのすべての内容は全体が参照として本明細書に組み入れられる。それらに引用されたすべての参考文献のすべての内容も明示的に参照として組み入れられ、本出願の一部であることを意図している。
【0002】
発明の背景
脂肪酸は長鎖炭化水素側基を有するカルボン酸であり、多くの生物プロセスに根本的な役割を果たしている。脂肪酸は自然下で遊離していることは稀であり、実際には脂質の主成分としてエステル化されている。脂質/脂肪酸はエネルギー源であり(例えば、β酸化)、生物的または生化学的な情報を処理するために不可欠な細胞膜と一体化した構成要素でもある。
【0003】
脂肪酸は飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の2群に分けることができ、後者はシス配置した1つまたは複数の炭素二重結合を含む。不飽和脂肪酸は、非ヘム鉄酵素のクラスに属する末端不飽和化酵素によって生成される。これらの酵素のそれぞれは、他の2つのタンパク質、すなわちシトクロムb5およびNADHシトクロムb5レダクターゼを含む電子伝達系の部分である。特に、この種の酵素は脂肪酸分子の炭素原子間の二重結合の形成を触媒する。ヒトおよび他の哺乳動物では、不飽和脂肪酸に特定の二重結合を形成するために必要なこれらの不飽和化酵素の範囲が限られている。このため、ヒトはある種の脂肪酸を食物から摂取する必要がある。このような必須脂肪酸には、例えば、リノール酸(C18:2);リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)がある。これに対して、昆虫および植物は、はるかに広範囲にわたる不飽和脂肪酸およびその誘導体を合成することができる。
【0004】
ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6(4,7,10,13,16,19))などの長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)は、哺乳動物のさまざまな組織およびオルガネラ(神経、網膜、脳および免疫細胞)の細胞膜に不可欠な成分である。例えば、脳のリン脂質では脂肪酸の30%以上が22:6(n-3)および20:4(n-6)である(Crawford, M.A.ら(1997)Am. J. Clin. Nutr. 66:1032S〜1041S)。網膜では、DHAが、光受容細胞の感光部分である桿状体細胞外節の全脂肪酸の60%以上を占めている(Giusto, N.M.ら(2000)Prog. Lipid Res. 39:315〜391)。臨床試験により、DHAは乳児における脳の成長および発達、ならびに成人における正常な脳機能の維持に不可欠であることが示されている(Martinetz, M.(1992)J. Pediatr. 120:S129〜S138)。DHAはシグナル伝達過程に関与する光受容器の機能、ロドプシン活性化、ならびに桿体および錐体の発生にも大きな影響を及ぼす(Giusto, N.M.ら(2000)Prog. Lipid Res. 39:315〜391)。加えて、高血圧、関節炎、アテローム性動脈硬化、抑うつ症、血栓症および癌などの疾患に対してDHAに何らかの好ましい効果があることもわかっている(Horrocks, L.A.およびYeo, Y.K.(1999)Pharmacol. Res. 40:211〜215)。したがって、脂肪酸が食事によって適切に供給されることが、ヒトが健康を維持するには重要である。特に乳児、若齢小児および高齢者は、これらの脂肪酸を体内で効率的に合成することができず、食物によって補う必要があるため、これらを食事から十分に摂取することが重要である(Spector,A.A.(1999)Lipids 34:S1〜S3)。
【0005】
DHAは、メチル末端に最も近い二重結合の位置によれば、n-3系の脂肪酸である。これは、不飽和化および伸長の段階が交互に生じることによって合成される。DHAの生合成は18:3(9,12,15)に始まり、Δ6不飽和化によって18:4(6,9,12,15)となった後に伸長によって20:4(8,11,14,17)となり、さらにΔ5不飽和化によって20:5(5,8,11,14,17)となる。この点以降の生合成に関しては若干の議論がある。従来の見解は、20:5(5,8,11,14,17)が伸長して22:5(7,10,13,16,19)となった後に、最終的なΔ4不飽和化によって22:6(4,7,10,13,16,19)となるというものである(Horrobin, D.F.(1992)Prog. Lipid Res. 31:163〜194)。しかし、シュプレッヒャー(Sprecher)らは最近、Δ4不飽和化酵素は関係せず、ペルオキシソーム内での限定的なβ酸化により2回連続して伸長し、Δ6不飽和化および二炭素短縮が伴ったDHA生合成の別経路を提唱している(Sprecher, H.ら(1995)J. Lipid Res. 36:2471〜2477;Sprecher, H.ら(1999)Lipids 34:S153〜S156)。
【0006】
DHAの生成は、それがヒトの健康に対して有益な効果を及ぼすため重要である。現在、DHAの主な源は魚類および藻類である。魚油はこの脂肪酸の主要かつ伝統的な源であるが、これは販売される時点までに通常は酸化されている。さらに、魚油の供給は変動性が大きい上にその原料が水産資源の減少に伴って危険に晒されており、一方、藻類原料は収穫量が少なく抽出コストが高いために高価である。
【0007】
EPAおよびAAはいずれもΔ5必須脂肪酸である。これらはヒトおよび動物にとって独特な種類の食物および飼料成分を構成している。EPAはn-3系に属し、アシル鎖に5つの二重結合があり、海産物に認められるほか、北大西洋産の油分の多い魚類に豊富に存在する。AAはn-6系に属し、4つの二重結合がある。ω-3位に二重結合がないため、AAはEPAにみられるものとは異なる性質を有する。AAから生成されるエイコサノイドには強い炎症作用および血小板凝集作用があるが、一方、EPAに由来するものには抗炎症性および血小板凝集抑制作用がある。AAは肉、魚および卵などのいくつかの食物から得られるが、その濃度は低い。
【0008】
γ-リノレン酸(GLA)は、哺乳動物に認められるもう1つの必須脂肪酸である。GLAは超長鎖n-6脂肪酸および種々の活性分子の代謝中間体である。哺乳動物では、長鎖多価不飽和脂肪酸の形成はΔ6不飽和化が律速段階である。加齢、ストレス、糖尿病、湿疹およびいくつかの感染症などの多くの生理的および病的な状態で、Δ6不飽和化の段階が抑制されていることが示されている。加えて、GLAは酸化およびある種の疾患、例えば癌または炎症に伴う急速な細胞分裂によって容易に代謝される。このため、GLAの食事補給によってこれらの疾患のリスクを低下させることができる。臨床試験により、GLAの食事補給がアトピー性湿疹、月経前症候群、糖尿病、高コレステロール血症、ならびに炎症性疾患および心血管疾患などのいくつかの病的状態の治療に有効なことが示されている。
【0009】
GLAの主な源は、サクラソウ(Oenothera biennis)、ルリチシャ(Borago officinalis L.)、クロフサスグリ(Ribes nigrum)などの植物、ならびにモルティエラ属(Mortierella sp.)、ムコール属(Mucor sp.)およびシアノバクテリア(Cyanobacteria)などの微生物からの油である。しかし、これらのGLA源は、入手しやすさの変動の大きさおよび抽出工程に伴うコストのため、食事補給のためには理想的でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Crawford, M.A.ら(1997)Am. J. Clin. Nutr. 66:1032S〜1041S
【非特許文献2】Giusto, N.M.ら(2000)Prog. Lipid Res. 39:315〜391
【非特許文献3】Martinetz, M.(1992)J. Pediatr. 120:S129〜S138
【非特許文献4】Horrocks, L.A.およびYeo, Y.K.(1999)Pharmacol. Res. 40:211〜215
【非特許文献5】Spector,A.A.(1999)Lipids 34:S1〜S3
【非特許文献6】Horrobin, D.F.(1992)Prog. Lipid Res. 31:163〜194
【非特許文献7】Sprecher, H.ら(1995)J. Lipid Res. 36:2471〜2477
【非特許文献8】Sprecher, H.ら(1999)Lipids 34:S153〜S156
【発明の概要】
【0011】
脂肪酸の生合成は植物および微生物の主な活動である。しかし、ヒトが必須脂肪酸、例えば、長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)を合成する能力は限られている。バイオテクノロジーは長い間、植物および微生物における脂肪酸産生プロセスを操作するための効率的な手法と考えられてきた。これはコスト効果が高く再生可能であり、ほとんど副作用を伴わない。そこで、特殊な脂肪酸および医薬用ポリペプチドを含むさまざまな化合物の、植物、動物および微生物細胞の操作による生産を目的として、膨大な産業的取り組みがなされている。このため、バイオテクノロジーは、不飽和脂肪酸、特にLCPUFAを、これらの脂肪酸から最大の治療的価値が得られるような安全でコスト効果の高い様式で生産するために興味深い経路である。
【0012】
本発明は、少なくとも一部には、新規な不飽和化酵素をコードする核酸分子のファミリーの発見に基づく。特に、本発明者らは、長鎖多価不飽和脂肪酸DHA(ドコサヘキサエン酸、22:6、n-3)およびDPA(ドコサペンタエン酸、22:5、n-6)の生合成に関与するFad4(Δ4不飽和化酵素)、Fad5およびFad5-2(Δ5不飽和化酵素)ならびにFad6(Δ6不飽和化酵素)を同定した;より詳細には、Fad4は22:5(n-3)および22:4(n-6)を不飽和化してDHAおよびDPAを生じさせる;Fad5およびFad5-2は20:4(n-3)および20:3(n6)を不飽和化してEPAおよびAAを生じさせる;Fad6は18:2(n-6)および18:3(n-3)を不飽和化してGLA(γ-リノレン酸)およびSDA(ステアリドン酸)を生じさせる。
【0013】
1つの態様において、本発明は、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5または配列番号:7に示したヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、単離された核酸分子を特徴とする。
【0014】
さらに他の態様において、本発明は、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5または配列番号:7に示したヌクレオチド配列と実質的に同一な(例えば、同一性が70%の)ヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子を特徴とする。本発明はさらに、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5または配列番号:7に示したヌクレオチド配列の少なくとも30個の連続したヌクレオチドを含む、単離された核酸分子を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列と実質的に同一な(例えば、同一性が50%の)アミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、単離された核酸分子を特徴とする。また、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドの対立遺伝子バリアント(allelic variant)をコードする核酸分子も特徴とする。完全長ポリペプチドをコードする単離された核酸分子に加えて、本発明は、本発明の完全長ポリペプチドの断片、例えば生物活性断片(例えば、配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む断片)をコードする核酸分子も特徴とする。さらに他の態様において、本発明は、本明細書に記載の単離された核酸分子と相補的な、またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、核酸分子も特徴とする。
【0015】
1つの関連した局面において、本発明は、本明細書に記載の単離された核酸分子(例えば、不飽和化酵素をコードする核酸分子)を含むベクターを提供する。また、このようなベクターを含む宿主細胞(例えば、不飽和化酵素の核酸分子およびポリペプチドの生産に適したベクターを含む宿主細胞)も特徴とする。
【0016】
もう1つの局面において、本発明は、単離された不飽和化酵素ポリペプチドおよび/またはその生物活性断片を特徴とする。範例となる態様は、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列との同一性が少なくとも50%であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5または配列番号:7に示したヌクレオチド配列との同一性が少なくとも70%であるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるポリペプチドを特徴とする。また、本明細書に記載の完全長ポリペプチドの断片(例えば、配列番号:2、4、6または8に示した配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む断片)、さらには配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドの対立遺伝子バリアントも特徴とする。
【0017】
1つの態様において、不飽和化酵素ポリペプチドまたはその断片は、不飽和化酵素活性を有する。もう1つの態様において、不飽和化酵素ポリペプチドまたはその断片は、N末端ヘム結合モチーフ、例えば、前端(front-end)不飽和化酵素に認められるシトクロムb5様ドメインを有する。もう1つの態様において、不飽和化酵素ポリペプチドまたはその断片は、すべてのミクロソーム不飽和化酵素に認められる保存的ヒスチジンモチーフを少なくとも2つ、好ましくは約3つ有し、選択的には不飽和化酵素活性を有する。1つの好ましい態様において、不飽和化酵素ポリペプチドまたはその断片は、約3つのヒスチジンモチーフを有する。
【0018】
不飽和化酵素遺伝子を含む構築物は、DHA、EPA、AA、SDAおよびGLAなどのLCPUFAを産生しうる細胞を作製するために、植物、動物および微生物を含む任意の発現系で用いることができる。本発明の不飽和化酵素を発現させるために用いられる植物の例には、特に、脂肪種子作物、例えばアマ(アマ属)、ナタネ(アブラナ属)、ダイズ(ダイズ属(Glycine and Soja sp.))、ヒマワリ(ヒマワリ属)、ワタ(ワタ属)、トウモロコシ(Zea mays)、オリーブ(モクセイ科)、ベニバナ(ベニバナ属)、カカオ(Theobroma cacao)およびラッカセイ(ラッカセイ属)などからの植物体および植物種子が含まれる。
【0019】
1つの関連した局面において、本発明は、LCPUFAまたは他の所要の不飽和脂肪酸化合物が産生されるように不飽和脂肪酸の生合成経路が操作された細胞、例えば、植物細胞、動物細胞および/または微生物細胞を用いて、不飽和脂肪酸、例えば、LCPUFA、および不飽和脂肪酸の生合成経路の他の重要な化合物を生産する、新たな改善された方法を提供する。
【0020】
本発明の新たな改善された方法は、不飽和脂肪酸(例えば、DHA)が産生される(例えば、より高いレベルで産生される)ように操作された、不飽和脂肪酸生合成経路の少なくとも1つの脂肪酸不飽和化酵素を有する細胞における、不飽和脂肪酸の生産方法を含む。例えば、本発明は、不飽和脂肪酸、例えばLCPUFA、例えばDHAが産生されるように、少なくとも1つの単離された不飽和化酵素の核酸分子、例えば、上記のFad4、Fad5、Fad5-2および/もしくはFad6またはそれらの一部を含む細胞における、不飽和脂肪酸(例えば、DHA)の生産方法を特徴とする。このような方法はさらに、LCPUFAを回収する段階を含む。
【0021】
もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸、例えばLCPUFA、例えばDHAの生産方法であって、本明細書に定義した少なくとも1つの不飽和化酵素標的分子を、少なくとも1つの単離された不飽和化酵素ポリペプチド、例えば、上記のFad4、Fad5、Fad5-2および/もしくはFad6またはそれらの一部と、不飽和脂肪酸、例えばLCPUFA、例えばDHAが産生される条件下で接触させることを含む方法を提供する。このような方法はさらに、LCPUFAを回収する段階を含む。
【0022】
上記の核酸、タンパク質およびベクターは、本発明の方法において特に有用である。特に、本発明は、不飽和脂肪酸の産生(例えば、DHAの産生)を増大させる方法であって、不飽和化酵素の核酸、例えばFad4、Fad5、Fad5-2および/またはFad6を含む組換え植物、動物および/または微生物を、脂肪酸の産生が増大する条件下で培養することを含む方法を特徴とする。
【0023】
もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を産生しうる植物の作製方法を特徴とする。このような方法は、細胞、例えば植物細胞に、脂肪酸分子における二重結合の形成を触媒する活性を有するタンパク質をコードする単離された核酸分子を導入することを含む。
【0024】
もう1つの態様において、本発明は、脂肪酸の産生を調節するための方法であって、脂肪酸の産生の調節が起こるように、二重結合の形成を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする単離された核酸分子を含む細胞を培養することを含む方法を特徴とする。
【0025】
もう1つの態様において、本発明は、本明細書に記載の不飽和脂肪酸、核酸またはポリペプチドを含む組成物を含む。本発明の組成物は、この種の脂肪酸を産生しうる上記のような細胞、および選択的には、薬学的に許容される担体も含みうる。
【0026】
もう1つの態様において、本発明の組成物は、栄養補助食品(dietary supplement)として、例えば動物飼料中に、または機能性食品(neutraceutical)として用いられる。本発明の組成物は障害を有する患者を治療するためにも用いられ、これは患者が治療されるように組成物を投与することを含む。このような方法に含まれる障害には、例えば、ストレス、糖尿病、癌、炎症性疾患および心血管疾患が含まれる。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲によって明らかになると考えられる。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも一部には、本明細書において「不飽和化酵素(desaturases)」または「不飽和化酵素(desaturase)」核酸分子およびタンパク質分子(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2およびFad6)と互換的に称する、新規な脂肪酸不飽和化酵素ファミリーのメンバーの発見に基づく。これらの新規分子は脂肪酸不飽和化酵素ファミリーに属し、LCPUFAを産生する生物、例えば、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium)、ピティウム・イレギュラレ(Pythium irregulare)、スキゾキトリウム(Schizochytrium)およびクリテコジニウム(Crythecodinium)において発現される。
【0029】
本明細書で用いる「脂肪酸」という用語は当技術分野で知られており、これには長鎖炭化水素を主体とするカルボン酸が含まれる。脂肪酸は、グリセリドを含む多くの脂質の構成要素である。よくみられる天然の脂肪酸の大部分は、偶数個の炭素原子(16または18)を有するモノカルボン酸であり、飽和型のものも不飽和型のものもある。「不飽和」脂肪酸は、炭素原子間にシス二重結合を含む。本発明に含まれる不飽和脂肪酸には、例えば、DHA、GLAおよびSDAが含まれる。「多価不飽和」脂肪酸は、複数の二重結合を含み、二重結合がメチレンで中断された系(-CH=CH-CH2-CH=CH-)として配置している。
【0030】
本明細書では脂肪酸を、コロンの前の数字が脂肪酸中の炭素原子の数を示し、コロンの後の数字が、存在する二重結合の数を示す番号方式によって記載する。不飽和脂肪酸の場合には、この後の括弧内に二重結合の位置を示す数字が入る。括弧内の各数字は、二重結合によって連結した2つの炭素元素のうち番号の少ない方のことである。例えば、オレイン酸は18:1(9)と記載でき、リノール酸は18:2(9、12)と記載できるが、これは18個の炭素があって、それぞれ炭素9に二重結合が1つ、炭素9および12の2箇所に二重結合があることを意味する。
【0031】
不飽和脂肪酸の生成、すなわち不飽和脂肪酸の生合成経路における調節段階は、膜会合型脂肪酸不飽和化酵素、例えばFad4、Fad5、Fad5-2および/またはFad6によって触媒される。特に、この種の酵素は脂肪酸分子の炭素原子間の二重結合の形成を触媒する。本明細書で用いる「不飽和脂肪酸の生合成経路」という用語は、インビボまたはインビトロでの不飽和脂肪酸の合成につながる一連の化学反応のことを指す。このような経路は、不飽和脂肪酸が生成され、最終的には長鎖多価不飽和脂肪酸が生成される、一連の不飽和化および伸長の段階を含む。このような不飽和脂肪酸には、GLA 18:3(6,9,12)、SDA 18:4(6,9,12,15)、AA 20:4(5,8,11,14)、EPA 20:5(5,8,11,14,17)、DPA 22:5(4,7,10,13,16)およびDHA 22:6(4,7,10,13,16,19)が含まれうる。
【0032】
不飽和化酵素は、ヘム結合モチーフおよび/または約3つの保存的ヒスチジンモチーフを含みうるが、さらに別のドメインが存在してもよい。脂肪酸不飽和化酵素ファミリーのメンバーは、飽和脂肪酸を、不飽和脂肪酸、例えば、哺乳動物のさまざまな組織およびオルガネラ(神経、網膜、脳および免疫細胞)の細胞膜の成分である長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)に変換する。LCPUFAの例には、例えばドコサヘキサエン酸(DHA、22:6(4,7,10,13,16,19))が含まれる。臨床試験により、DHAは乳児における脳の成長および発達、ならびに成人における正常な脳機能の維持に不可欠であることが示されている(Martinetz, M.(1992)J. Pediatr. 120:S129〜S138)。DHAはシグナル伝達過程に関与する光受容器の機能、ロドプシン活性化、ならびに桿体および錐体の発生にも影響を及ぼす(Giusto, N.M.ら(2000)Prog. Lipid Res. 39:315〜391)。加えて、高血圧、関節炎、アテローム性動脈硬化、抑うつ症、血栓症および癌などの疾患に対してDHAに何らかの好ましい効果があることもわかっている(Horrocks, L.A.およびYeo, Y.K.(1999)Pharmacol. Res. 40:211〜215)。このため、不飽和化酵素分子を用いて、成長、増殖または分化の調節異常を特徴とする疾患の治療に有用なLCPUFAを生産することが可能である。このような疾患には、癌、例えば上皮癌、肉腫または白血病;腫瘍血管新生および転移;骨異形成;肝疾患;骨髄異形成症候群;ならびに造血疾患および/または骨髄増殖性疾患が含まれる。血管新生と関係し、このため不飽和化酵素と関連のある疾患である他の疾患には、遺伝性出血性末梢血管拡張症1型、進行性骨化性線維異形成症、特発性間質性肺線維症およびクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群が含まれる。
【0033】
「ファミリー」という用語は、本発明のタンパク質および核酸分子を言及する場合、共通の構造ドメインまたはモチーフを有し、本明細書に定義した十分なアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の相同性を有する、2つまたはそれ以上のタンパク質または核酸分子のことを意味するものとする。このようなファミリーのメンバーは天然のものでも天然でないものでもよく、同一の種に由来するものでも異なる種に由来するものでもよい。例えば、ファミリーは、ヒト由来の第1の蛋白質のほかにヒト由来の明らかに異なる第2の蛋白質を含むことができ、または非ヒト由来の相同体を含むこともできる。ファミリーのメンバーは共通の機能的特徴も有しうる。
【0034】
例えば、本発明の不飽和化酵素タンパク質のファミリーは、シトクロムb5ヘム結合モチーフを1つ含む。本明細書で用いる「ヘム結合モチーフ」とは、前端(front-end)不飽和化酵素に認められるシトクロムb5様ドメインのN末端に伸びた部分のことを指す。
【0035】
もう1つの態様において、不飽和化酵素ファミリーのタンパク質のメンバーは、タンパク質中に「ヒスチジンモチーフ」、好ましくは、約3つまたは4つのヒスチジンモチーフを含む。本明細書で用いる「ヒスチジンモチーフ」という用語は、少なくとも約2つのヒスチジンアミノ酸残基、好ましくは約3つまたは4つのヒスチジンアミノ酸残基を有するタンパク質ドメインのことを指し、これはすべてのミクロソーム不飽和化酵素において第3の保存的ヒスチジンモチーフとして認められることが一般的である。
【0036】
シトクロムb5ヘム結合モチーフおよびヒスチジンモチーフの例には、図3および6に示した、配列番号:2のアミノ酸残基41〜44、182〜186、216〜223および453〜462、配列番号:4のアミノ酸残基40〜43、171〜175、207〜213および375〜384、配列番号:6のアミノ酸残基40〜45、171〜176、208〜213および395〜400、ならびに配列番号:8のアミノ酸残基42〜47、178〜183、215〜220および400〜405が含まれる。
【0037】
単離された本発明の不飽和化酵素タンパク質は、配列番号:2、4、6もしくは8のアミノ酸配列と十分に相同なアミノ酸配列を有する、または配列番号:1、3、5、もしくは7と十分に相同なヌクレオチド配列によってコードされる。本明細書で用いる「十分に相同な」という用語は、第1および第2のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列が共通の構造ドメインもしくはモチーフおよび/または共通の機能的活性を有するような形で、第2のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と十分なまたは最小限の数の同一または同等なアミノ酸残基(例えば、類似した側鎖をもつアミノ酸残基)またはヌクレオチドを含む、第1のアミノ酸またはヌクレオチド配列のことを指す。例えば、ドメインのアミノ酸配列全体にわたって少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性または同一性を有する共通の構造ドメインを有し、少なくとも1つ、好ましくは2つの構造ドメインまたはモチーフを含むアミノ酸配列またはヌクレオチド配列は、本明細書において十分に相同であると定義される。さらに、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性または同一性を有し、共通の機能的活性を有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列も、本明細書において十分に相同であると定義される。
【0038】
1つの好ましい態様において、不飽和化酵素タンパク質は、以下のドメインまたはモチーフ:ヘム結合モチーフおよび/またはヒスチジンモチーフ、の少なくとも1つまたは複数を含み、配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列との相同性または同一性が少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であるアミノ酸配列を有する。さらにもう1つの好ましい態様において、不飽和化酵素タンパク質は、以下のドメイン:ヘム結合モチーフおよび/またはヒスチジンモチーフ、の少なくとも1つまたは複数を含み、配列番号:1、3、5または7のヌクレオチド配列を含む核酸分子の相補物とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる。もう1つの好ましい態様において、不飽和化酵素タンパク質は、少なくとも1つのヘム結合モチーフおよび/または少なくとも約3つのヒスチジンモチーフを含み、不飽和化酵素活性を有する。
【0039】
本明細書で互換的に用いられる「不飽和化酵素活性」「不飽和化酵素の生物活性」または「不飽和化酵素の機能的活性」には、不飽和化酵素タンパク質、ポリペプチドまたは核酸分子により、不飽和化酵素反応性細胞または不飽和化酵素の基質に対して発揮または媒介される、標準的な技法に従ってインビボまたはインビトロで決定される活性が含まれる。1つの態様において、不飽和化酵素活性は、不飽和化酵素標的分子との会合などの直接的活性である。本明細書で用いる「標的分子」または「結合パートナー」とは、不飽和化酵素タンパク質が自然下で結合または相互作用して不飽和化酵素を介した機能が実現されるような分子、例えば、不飽和脂肪酸の合成に関与する中間体脂肪酸などの分子のことである。不飽和化酵素の直接的活性には、不飽和脂肪酸分子を生成させる、脂肪酸分子の炭素原子間の二重結合の形成も含まれる。
【0040】
単離されたヤブレツボカビ属Δ4不飽和化酵素Fad4のcDNAのヌクレオチド配列、およびFad4 cDNAによってコードされる予想されるアミノ酸配列を、図1ならびにそれぞれ配列番号:1および2に示している。ヤブレツボカビ属Fad4遺伝子(オープンリーディングフレーム)は約1560ヌクレオチド長であり、分子量が約59.1kDで長さが約519アミノ酸残基のタンパク質をコードする。
【0041】
ヤブレツボカビ属Δ5不飽和化酵素Fad5のcDNAヌクレオチド配列、およびFad5 cDNAによってコードされる予想されるアミノ酸配列を、図2ならびにそれぞれ配列番号:3および4に示している。ヤブレツボカビ属Fad5遺伝子は約1320ヌクレオチド長であり、分子量が約49.8kDで長さが約439アミノ酸残基のタンパク質をコードする。
【0042】
ピティウム・イレギュラレΔ5不飽和化酵素Fad5-2のcDNAのヌクレオチド配列、およびFad5-2 cDNAによってコードされる予想されるアミノ酸配列を、図4ならびにそれぞれ配列番号5および6に示している。ピティウム・イレギュラレFad5-2遺伝子は約1371ヌクレオチド長であり、約456アミノ酸残基長のタンパク質をコードする。
【0043】
ピティウム・イレギュラレΔ6不飽和化酵素Fad6のcDNAのヌクレオチド配列、およびFad6 cDNAによってコードされる予想されるアミノ酸配列を、図5ならびにそれぞれ配列番号:7および8に示している。ピティウム・イレギュラレFad6遺伝子は約1383ヌクレオチド長であり、約460アミノ酸残基長のタンパク質をコードする。
【0044】
本発明のさまざまな局面について、以下の小節でさらに詳細に述べる。
【0045】
I.単離された核酸分子
本発明の1つの局面は、不飽和化酵素タンパク質またはその生物活性断片をコードする単離された核酸分子、さらには不飽和化酵素をコードする核酸分子(例えば、不飽和化酵素mRNA)を同定するためのハイブリダイゼーションプローブとして用いるのに十分な核酸断片、および不飽和化酵素核酸分子の増幅または変異のためのPCRプライマーとして用いられる断片に関する。本発明で用いる「核酸分子」という用語は、DNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)およびRNA分子(例えばmRNA)、ならびにヌクレオチド類似体を用いて作製されたDNAまたはRNA類似体を含むものとする。核酸分子は一本鎖でも二本鎖でもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0046】
「単離された核酸分子」という用語には、その画分の天然の源に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子が含まれる。例えば、ゲノムDNAに関して、「単離された」という用語は、そのゲノムDNAと自然下で付随している染色体から分離された核酸分子を含む。「単離された」核酸は、その核酸分子の由来である生物のゲノムDNA中でその核酸分子と自然下で隣接している配列(すなわち、その核酸の5'および3'末端に位置する配列)を含まないことが好ましい。例えば、種々の態様において、単離された不飽和化酵素核酸分子が含みうるのは、その核酸の由来である細胞のゲノムDNA中でその核酸と自然下で隣接するヌクレオチド配列の約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満である。さらに、cDNA分子などの「単離された」核酸分子は、組換え法によって作製された場合にはその他の細胞材料もしくは培地を実質的に含まず、または化学合成された場合には前駆化学物質もしくはその他の化学物質を実質的に含まないと考えられる。
【0047】
本発明の核酸分子、例えば、配列番号:1、3、5、7のヌクレオチド配列を有する核酸分子またはそれらの一部は、標準的な分子生物学の技法および本明細書で提供する配列情報を用いて単離することができる。本明細書に記載する核酸配列の全体または一部をハイブリダイゼーションプローブとして用いることにより、不飽和化酵素の核酸分子を、標準的なハイブリダイゼーション法およびクローニング法(例えば、Sambrookら編、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されたもの)を用いて単離することができる。
【0048】
さらに、配列番号:1、3、5または7のすべてまたは一部を含む核酸分子を、配列番号:1、3、5または7の配列に基づいて設計した合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって単離することもできる。
【0049】
本発明の核酸は、標準的なPCR増幅法に従い、テンプレートとしてのcDNA、mRNAまたはゲノムDNA、および適切なオリヌクレオチドプライマーを用いて増幅しうる。このようにして増幅された核酸は、適切なベクター中にクローニングして、DNAシークエンシングによって特徴を分析することが可能である。さらに、例えば自動DNA合成装置を用いるなどの標準的な合成法により、不飽和化酵素ヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドを合成することもできる。
【0050】
もう1つの態様において、核酸分子は、配列番号:1、3、5または7に示したヌクレオチド配列からなる。
【0051】
さらにもう1つの態様において、本発明の単離された核酸分子には、配列番号:1、3、5もしくは7に示したヌクレオチド配列またはこれらのいずれかのヌクレオチド配列の一部の相補物が含まれる。配列番号:1、3、5もしくは7に示したヌクレオチド配列に対して相補的な核酸分子とは、配列番号:1、3、5もしくは7に示したヌクレオチド配列とハイブリダイズし、それによって安定な二重鎖を形成しうる程度に、配列番号:1、3、5もしくは7に示したヌクレオチド配列に対して十分に相補的なもののことである。
【0052】
さらにもう1つの態様において、本発明の単離された核酸分子には、配列番号:1、3、5もしくは7に示したヌクレオチド配列(例えば、ヌクレオチド配列の全長に対する)またはこれらのヌクレオチド配列のいずれかの一部もしくは相補物に対する同一性が、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であるヌクレオチド配列が含まれる。1つの態様において、本発明の核酸分子は、少なくとも(または最大で)50〜100、100〜250、250〜500、500〜750、750〜1000、1000〜1250、1250〜1500、1500〜1750、1750〜2000、2000〜2250、2250〜2500、2500〜2750、2750〜3000、3250〜3500、3500〜3750ヌクレオチド長またはそれ以上であって、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号:1、3、5または7の核酸分子の相補物とハイブリダイズする、ヌクレオチド配列を含む。
【0053】
さらに、本発明の核酸分子は、配列番号:1、3、5または7の核酸分子の一部のみ、例えば、プローブもしくはプライマーとして用いうる断片、または不飽和化酵素タンパク質の一部、例えば不飽和化酵素タンパク質の生物活性部分をコードする断片などを含みうる。不飽和化酵素遺伝子のクローニングによって決定されたヌクレオチド配列により、不飽和化酵素ファミリーの他のメンバーならびに他の種由来の不飽和化酵素相同体の同定および/またはクローニングに用いるために設計されたプローブおよびプライマーの作製が可能となる。プローブ/プライマー(例えば、オリゴヌクレオチド)は一般に、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは一般に、配列番号:1、3、5もしくは7のセンス配列の、配列番号:1、3、5もしくは7のアンチセンス配列の、または配列番号:1、3、5もしくは7の天然の対立遺伝子バリアントもしくは変異体(mutant)の、少なくとも約12または15個、好ましくは約20または25個、より好ましくは約30、35、40、45、50、55、60、65または75個の連続したヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ヌクレオチド配列の領域を含む。
【0054】
プローブまたはプライマーの例は、少なくとも(または最大で)12または15、20または25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75ヌクレオチド長またはそれ以上である、および/または、本明細書に記載の単離された核酸分子の連続したヌクレオチドを含む。また、プローブまたはプライマー配列の内部に1、2、3、4、5、6、7、8、9または10塩基の違いがある点を除き、本明細書に記載の単離された核酸分子の隣接または連続したヌクレオチドを含むプローブまたはプライマーも、本発明の範囲に含まれる。不飽和化酵素のヌクレオチド配列に基づくプライマーは、同じまたは相同なタンパク質をコードする転写物またはゲノム配列を検出する(例えば、特異的に検出する)ために用いることができる。好ましい態様において、プローブはさらに、それに結びついた標識基を含み、例えば標識基は、放射性同位体、蛍光化合物、酵素または酵素補因子などであってよい。もう1つの態様では、プライマーのセットを提供する。例えば、不飽和化酵素配列の選択した領域、例えば、本明細書に記載のドメイン、領域、部位または他の配列を増幅するために用いうる、PCRにおける使用に適したプライマーのセットを提供する。プライマーは、長さが少なくとも5、10または50塩基対であって、100または200塩基対未満であるべきである。プライマーは、本明細書に開示する配列または天然バリアントの配列と比較して同一である、または違いが1、2、3、4、5、6、7、8、9または10塩基以下であるべきである。このようなプローブは、不飽和化酵素mRNAレベルの検出、またはゲノムの不飽和化酵素遺伝子が変異もしくは欠失しているか否かの判定といった、対象からの細胞の試料における不飽和化酵素をコードする核酸のレベルの測定などにより、不飽和化酵素タンパク質を誤発現(misexpress)する細胞または組織を同定するための診断検査キットの一部として用いることができる。
【0055】
「不飽和化酵素タンパク質の生物活性部分」をコードする核酸断片は、不飽和化酵素の生物活性(不飽和化酵素タンパク質の生物活性は本明細書で説明している)を有するポリペプチドをコードする配列番号:1、3、5または7のヌクレオチド配列の部分を単離し、不飽和化酵素タンパク質のコード部分を発現させて(例えば、インビトロでの組換え発現による)、不飽和化酵素タンパク質のコード部分の活性を評価することによって調製することができる。1つの範例となる態様において、核酸分子は少なくとも50〜100、100〜250、250〜500、500〜700、750〜1000、1000〜1250、1250〜1500、1500〜1750、1750〜2000、2000〜2250、2250〜2500、2500〜2750、2750〜3000、3250〜3500、3500〜3750ヌクレオチド長またはそれ以上であり、(本明細書に記載の)不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードする。
【0056】
本発明はさらに、遺伝暗号の縮重のために配列番号:1、3、5または7に示したヌクレオチド配列とは異なり、このため配列番号:1、3、5または7に示したヌクレオチド配列によってコードされるものと同じ不飽和化酵素タンパク質をコードする核酸分子も含む。もう1つの態様において、本発明の単離された核酸分子は、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列との違いが少なくとも1アミノ酸残基であるが5、10、20、50または100アミノ酸残基は上回らないアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。さらにもう1つの態様において、核酸分子はヒトの不飽和化酵素のアミノ酸配列をコードする。この比較のために整列化が必要な場合には、最大の相同性が得られるように配列を整列化する必要がある。
【0057】
核酸バリアントは、対立遺伝子バリアント(同じ遺伝子座)、ホモログ(異なる遺伝子)およびオルソログ(異なる生物)などの天然のものでもよく、天然でないものでもよい。非天然型バリアントは、ポリヌクレオチド、細胞または生物体に対して適用されるものを含む変異誘発法によって作製可能である。バリアントはヌクレオチドの置換、欠失、逆位および挿入を含みうる。変異はコード領域および非コード領域の一方にあってもよく、両方にあってもよい。変異によって(コードされると比較して)保存的および非保存的なアミノ酸置換のいずれが生じてもよい。
【0058】
対立遺伝子バリアントは、例えば、不飽和化酵素タンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらす、集団(例えば、ヒト集団)内のDNA配列多型に起因する。不飽和化酵素遺伝子におけるこのような遺伝的多型性は、天然の対立遺伝子変異のために集団内の個体間にも存在しうる。
【0059】
本明細書で用いる「遺伝子」および「組換え遺伝子」という用語は、不飽和化酵素タンパク質、例えば脂肪種子の不飽和化酵素タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、さらに非コード調節配列およびイントロンも含みうる、核酸分子のことを指す。
【0060】
したがって、1つの態様において、本発明は、配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然の対立遺伝子バリアントをコードする単離された核酸分子であって、配列番号:1、3、5または7を含む核酸分子の相補物と、例えばストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする核酸分子を特徴とする。
【0061】
不飽和化酵素、例えばFad4、Fad5、Fad5-2またはFad6の対立遺伝子バリアントには、機能的および非機能的な不飽和化酵素タンパク質の両方が含まれる。機能的な対立遺伝子バリアントとは、例えば、(i)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子(例えば、22:5(n-3)などの脂肪酸)と相互作用する能力;および/または(ii)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子における炭素原子間に二重結合を形成する能力を維持している、不飽和化酵素タンパク質の天然のアミノ酸配列バリアントのことである。本発明の核酸分子およびタンパク質分子によって生成される脂肪酸は、加齢、ストレス、糖尿病、癌、炎症性疾患(例えば、関節炎、湿疹)および心血管疾患などの障害の治療にも有用である。機能的な対立遺伝子バリアントは一般に、配列番号:2、4、6もしくは8の1つもしくは複数のアミノ酸の保存的置換、またはタンパク質の重大でない領域における重大でない残基の置換、欠失もしくは挿入のみを含むと考えられる。
【0062】
非機能的な対立遺伝子バリアントとは、例えば、(i)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子(例えば、22:5(n-3)などの中間体脂肪酸)と相互作用する能力;および/または(ii)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子における炭素原子間に二重結合を形成する能力をもたない、不飽和化酵素タンパク質、例えばFad4、Fad5、Fad5-2またはFad6の天然のアミノ酸配列バリアントのことである。非機能的な対立遺伝子バリアントは一般に、配列番号:2、4、6もしくは8のアミノ酸配列の非保存的な置換、欠失もしくは挿入もしくは早期切断、またはタンパク質の重大残基もしくは重大領域における置換、挿入もしくは欠失を含むと考えられる。
【0063】
本発明はさらに、オルソログ(例えば、不飽和化酵素タンパク質のヒトオルソログ)を提供する。ヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレの不飽和化酵素タンパク質のオルソログは、他の生物から単離されたタンパク質であり、非ヒト不飽和化酵素タンパク質と同じ、不飽和化酵素の基質または標的分子との結合機構、二重結合形成機構、乳児における脳の成長および発達を調節する機構、成人における正常な脳機能の維持機構、シグナル伝達過程に関与する光受容器の機能に影響を及ぼす能力、ロドプシン活性化に影響を及ぼす能力、桿体および/もしくは錐体の発生機構、ならびに/または細胞の成長および/もしくは増殖を調節する機構を有する。ヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレの不飽和化酵素タンパク質のオルソログは、配列番号:2、4、6または8と実質的に相同なアミノ酸配列を含むものとして容易に同定しうる。
【0064】
さらに、不飽和化酵素ファミリーの他のメンバーをコードし、このため配列番号:1、3、5または7の不飽和化酵素配列とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子も、本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、別の不飽和化酵素cDNAを、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6のヌクレオチド配列に基づいて同定することができる。さらに、異なる種に由来する不飽和化酵素タンパク質をコードし、このため配列番号:1、3、5または7の不飽和化酵素配列とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子も、本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、スキゾキトリウム(Schizochytrium)またはクリテコジニウム(Crythecodinium)の不飽和化酵素cDNAを、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6のヌクレオチド配列に基づいて同定しうる。
【0065】
本発明の不飽和化酵素cDNAの天然の対立遺伝子バリアントおよびホモログに対応する核酸分子は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標準的なハイブリダイゼーション法に従って本明細書に開示するcDNAまたはそれらの一部をハイブリダイゼーションプローブとして用いて、本明細書に開示する不飽和化酵素核酸とのそれらの相同性に基づいて単離することができる。
【0066】
オルソログ、ホモログおよび対立遺伝子バリアントは、当技術分野で知られた方法を用いて同定可能である(例えば、本発明の単離された核酸分子に対する、例えば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下での、ハイブリダイゼーションによる)。1つの態様において、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも15、20、25、30ヌクレオチド長またはそれ以上であり、配列番号:1、3、5または7のヌクレオチド配列を含む核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。他の態様において、核酸は少なくとも50〜100、100〜250、250〜500、500〜700、750〜1000、1000〜1250、1250〜1500、1500〜1750、1750〜2000、2000〜2250、2250〜2500、2500〜2750、2750〜3000、3250〜3500、3500〜3750ヌクレオチド長またはそれ以上である。
【0067】
本明細書で用いる「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、互いに高度の同一性または相同性があるヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズした状態を保つようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する条件を説明することを意図している。好ましくは、条件は互いの同一性が少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約85%または90%である配列が互いにハイブリダイズした状態を保つものである。このようなストリンジェントな条件は当業者に周知であり、「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、アウスユーベル(Ausubel)ら編、John Wiley & Sons, Inc.(1995)、第2、4および6節に記載がある。このほかのストリンジェントな条件は、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、サムブルック(Sambrook)ら、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY(1989)、第7、9および11章に記載されている。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的な一例は、約65〜70℃の4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でハイブリダイゼーション(または、約42〜50℃の4×SSC+50%ホルムアミド中でのハイブリダイゼーション)を行い、続いて約65〜70℃の1×SSC中で1回または複数回の洗浄を行うことを含む。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的な一例は、約65〜70℃の1×SSC中でハイブリダイゼーション(または、約42〜50℃の1×SSC+50%ホルムアミド中でのハイブリダイゼーション)を行い、続いて約65〜70℃の0.3×SSC中で1回または複数回の洗浄を行うことを含む。ストリンジェンシーを低くしたハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的な一例は、約50〜60℃の4×SSC中でハイブリダイゼーション(または、約40〜45℃の6×SSC+50%ホルムアミド中でのハイブリダイゼーション)を行い、続いて約50〜60℃の2×SSC中で1回または複数回の洗浄を行うことを含む。上に挙げた値の中間の範囲、例えば、65〜70℃または42〜50℃でのものも本発明に含まれるものとする。SSPE(1×SSPEは0.15M NaCl、10mM NaH2PO4および1.25mM EDTA、pH 7.4である)を、SSC(1×SSCは0.15M NaClおよび15mMクエン酸ナトリウムである)の代わりにハイブリダイゼーションバッファーおよび洗浄バッファーに用いることができる;洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後にそれぞれ15分間行う。50塩基対未満であると予想されるハイブリッドに関するハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融点(Tm)よりも約5〜10℃低い必要があり、ここでTmは以下の式に従って決定される。長さが18塩基対未満のハイブリッドに関しては、Tm(℃)=2(A+T塩基の数)+4(G+C塩基の数)である。長さが18〜49塩基対のハイブリッドに関しては、Tm(℃)=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)であり、ここでNはハイブリッド中の塩基の数であり、[Na+]はハイブリダイゼーションバッファー中のナトリウムイオンの濃度である(1×SSCの場合の[Na+]=0.165M)。また、膜、例えばニトロセルロースまたはナイロン膜に対する核酸分子の特異的ハイブリダイゼーションを減少させるために、ブロッキング剤(例えば、BSAまたはサケもしくはニシン精子キャリアーDNA)、界面活性剤(例えば、SDS)、キレート剤(例えば、EDTA)、フィコール(Ficoll)、PVPなどを非制限的に含む別の試薬を、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄バッファーに添加してもよいことも当業者は認識していると考えられる。特に、ナイロン膜を用いる場合、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の好ましい非制限的な一例は、約65℃の0.25〜0.5M NaH2PO4、7%SDS中でのハイブリダイゼーションに続き、65℃の0.02M NaH2PO4、1%SDS(例えば、ChurchおよびGilbert(1984)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:1991〜1995を参照)または0.2×SSC、1%SDSで、1回または複数回の洗浄を行うというものである。
【0068】
配列番号:1、3、5または7の配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする本発明の単離された核酸分子は、天然の核酸分子に対応することが好ましい。本明細書で用いる「天然の」核酸分子とは、自然界にみられるヌクレオチド配列を有する(例えば、天然型タンパク質をコードする)RNAまたはDNA分子のことを指す。
【0069】
集団内に存在する可能性のある不飽和化酵素配列の天然の対立遺伝子バリアントに加えて、当業者はさらに、配列番号:1、3、5または7のヌクレオチド配列に変異によって変化を導入し、それにより、不飽和化酵素タンパク質の生物活性を変化させることなく、コードされる不飽和化酵素タンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらしうることを理解すると考えられる。例えば、配列番号:1、3、5または7の配列中の「非必須」アミノ酸残基の箇所に保存的アミノ酸置換をもたらすヌクレオチド置換を作製することができる。「非必須」アミノ酸残基とは、生物活性を変化させることなく、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6の野生型配列(例えば、配列番号:2、4、6または8の配列)からの変更が可能な残基のことであり、これに対して「必須」アミノ酸残基は生物活性に必要なものである。例えば、本発明の不飽和化酵素タンパク質の間で保存されているアミノ酸残基、例えばヘム結合モチーフまたはヒスチジンモチーフに存在するものは、特に変更不能であると予想される。さらに、本発明の不飽和化酵素タンパク質と脂肪酸不飽和化酵素ファミリーの他のメンバーとの間で保存されている別のアミノ酸配列も変更不能である可能性が高い。
【0070】
したがって、本発明のもう1つの局面は、活性のために必須でないアミノ酸残基に変化を含む不飽和化酵素タンパク質をコードする核酸分子に関する。このような不飽和化酵素タンパク質は、アミノ酸配列の点で配列番号:2、4、6または8とは異なるが、生物活性は保っている。1つの態様において、単離された核酸分子は、配列番号:2、4、6または8に対する、例えば配列番号:2、4、6または8の全長に対する相同性が、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0071】
配列番号:2、4、6または8のタンパク質と相同な不飽和化酵素タンパク質をコードする単離された核酸分子は、コードされるタンパク質に1つまたは複数のアミノ酸置換、付加または欠失が導入されるように、配列番号:1、3、5または7のヌクレオチド配列に1つまたは複数のヌクレオチド置換、付加または欠失を導入することによって作製しうる。変異(mutation)は、位置指定変異誘発、PCRを介した変異誘発(PCR-mediated mutagenesis)などの標準的な技法により、配列番号:1、3、5または7に導入することができる。保存的アミノ酸置換を1つまたは複数の予想される非必須アミノ酸残基の箇所に作製することが好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基が類似した側鎖を有するアミノ残残基によって置換されるものをいう。類似したアミノ酸残基を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。このため、不飽和化酵素における予想される非必須アミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基によって置換することが好ましい。または、もう1つの態様においては、飽和変異誘発法(saturation mutagenesis)などによって、不飽和化酵素のコード配列の全体または一部にわたってランダムに変異を導入することもでき、その結果得られた変異体を、活性を保持している変異体を同定するために不飽和化酵素生物活性に関してスクリーニングすることもできる。配列番号:1、3、5または7の変異誘発の後には、コードされるタンパク質を組換え法によって発現させ、タンパク質の活性を決定することができる。
【0072】
1つの好ましい態様では、変異型不飽和化酵素タンパク質を、(i)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子(例えば、DHAなどの脂肪酸)と相互作用する能力;および/または(ii)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子における炭素原子間に二重結合を形成する能力に関してアッセイすることができる。
【0073】
II.単離された不飽和化酵素タンパク質
本発明の1つの局面は、単離されたまたは組換え型の不飽和化酵素タンパク質およびポリペプチド、ならびにそれらの生物活性部分に関する。1つの態様では、標準的なタンパク質精製法を用いる適切な精製方式により、細胞または組織源から天然型の不飽和化酵素タンパク質を単離することができる。もう1つの態様では、組換えDNA法によって不飽和化酵素タンパク質が産生される。組換え体の発現の代わりに、標準的なペプチド合成法を用いて不飽和化酵素タンパク質またはポリペプチドを化学合成することもできる。
【0074】
「単離された」または「精製された」タンパク質またはその生物活性部分は、不飽和化酵素タンパク質の由来である細胞もしくは組織源からの細胞材料もしくは他の混入タンパク質を実質的に含まず、または化学合成された場合には前駆化学物質もしくはその他の化学物質を実質的に含まない。「細胞材料を実質的に含まない」という表現には、タンパク質が、それが単離または組換えによって産生された細胞の細胞成分から分離されている不飽和化酵素タンパク質の調製物が含まれる。1つの態様において、「細胞材料を実質的に含まない」という表現には、不飽和化酵素でないタンパク質(本明細書では「混入タンパク質」とも称する)が(乾燥重量で)約80%、70%、60%、50%、40%または30%未満である、より好ましくは不飽和化酵素でないタンパク質が約20%未満である、さらにより好ましくは不飽和化酵素でないタンパク質が約10%未満である、最も好ましくは不飽和化酵素でないタンパク質が約5%未満である、不飽和化酵素タンパク質の調製物が含まれる。不飽和化酵素タンパク質またはそれらの生物活性部分が組換えによって産生される場合には、それは培地も実質的に含まないこと、すなわち培地がタンパク質調製物の容積の約20%未満である、より好ましくは約10%未満である、最も好ましくは5%未満であることが好ましい。
【0075】
「前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まない」という表現には、タンパク質が、タンパク質の合成にかかわる前駆化学物質または他の化学物質から分離されている不飽和化酵素タンパク質の調製物が含まれる。1つの態様において、「前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まない」という表現には、前駆化学物質または不飽和化酵素でない化学物質が(乾燥重量で)約30%未満である、より好ましくは前駆化学物質または不飽和化酵素でない化学物質が約20%未満である、さらにより好ましくは前駆化学物質または不飽和化酵素でない化学物質が約10%未満である、最も好ましくは前駆化学物質または不飽和化酵素でない化学物質が約5%未満である、不飽和化酵素タンパク質の調製物が含まれる。本発明のタンパク質は、対応する天然のタンパク質とは異なる形態、および/または少なくともいくつかの細胞成分が付随したままの形態であってもよいことが理解される必要がある。例えば、タンパク質に細胞膜が付随していてもよい。
【0076】
本明細書で用いる場合、不飽和化酵素タンパク質の「生物活性部分」には、不飽和化酵素分子と不飽和化酵素でない分子(例えば、脂肪酸などの不飽和化酵素基質)との間の相互作用に関与する、不飽和化酵素タンパク質の断片が含まれる。不飽和化酵素タンパク質の生物活性断片には、不飽和化酵素のアミノ酸配列と実質的に相同なまたはそれに由来するアミノ酸配列、例えば、不飽和化酵素タンパク質の活性の少なくとも1つを示すのに十分なアミノ酸残基を含む配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列、を含むペプチドが含まれる。生物活性部分は、不飽和化酵素タンパク質の活性;すなわち(i)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子(例えば、DHAなどの脂肪酸)と相互作用する能力;および/または(ii)不飽和化酵素の基質もしくは標的分子における炭素原子間に二重結合を形成する能力、の少なくとも1つを有するドメインまたはモチーフを含むことが一般的である。不飽和化酵素タンパク質の生物活性部分は、例えば、10、25、50、75、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200アミノ酸長またはそれ以上であるポリペプチドでありうる。
【0077】
1つの態様において、不飽和化酵素タンパク質の生物活性部分は、ヘム結合モチーフおよび/または少なくとも1つのヒスチジンモチーフ、好ましくは約3つのヒスチジンモチーフを含む。さらに、タンパク質の他の領域が欠失したその他の生物活性部分を組換え法によって調製し、天然型の不飽和化酵素タンパク質の機能的活性の1つまたは複数に関して評価することもできる。
【0078】
1つの好ましい態様において、不飽和化酵素タンパク質は、配列番号:2、4、6または8に示したアミノ酸配列を有する。他の態様において、不飽和化酵素タンパク質は配列番号:2、4、6または8と実質的に同一であり、配列番号:2、4、6または8のタンパク質の機能的活性を保持しているが、上の小節Iで詳細に述べたように、天然の対立遺伝子変異または変異誘発のためにアミノ酸配列が異なっている。もう1つの態様において、不飽和化酵素タンパク質は、配列番号:2、4、6または8との同一性が少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であるアミノ酸配列を含むタンパク質である。
【0079】
もう1つの態様において、本発明は、配列番号:1、3、5もしくは7のヌクレオチド配列またはそれらの相補物との同一性が少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であるヌクレオチド配列からなる核酸分子によってコードされる、不飽和化酵素タンパク質を特徴とする。本発明はさらに、配列番号:1、3、5もしくは7のヌクレオチド配列またはそれらの相補物を含む核酸分子の相補物とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなる核酸分子によってコードされる、不飽和化酵素タンパク質を特徴とする。
【0080】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の一致率(percent identity)を決定するには、最適な比較がなされるように配列を整列化する(例えば、最適な整列化が得られるように、第1および第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較のために非相同配列を無視することができる)。1つの好ましい態様において、比較のために整列化する参照配列(reference sequence)の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%であり、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、80%または90%である(例えば、第2の配列を519個のアミノ酸残基を有する配列番号:2のFad4アミノ酸配列と整列化する場合には、少なくとも156個、好ましくは少なくとも208個、より好ましくは少なくとも260個、さらにより好ましくは少なくとも311個、さらにより好ましくは少なくとも363、415または467個のアミノ酸残基を整列化する;第2の配列を439個のアミノ酸残基を有する配列番号:4のFad5アミノ酸配列と整列化する場合には、少なくとも132個、好ましくは少なくとも176個、より好ましくは少なくとも220個、さらにより好ましくは少なくとも263個、さらにより好ましくは少なくとも307、351または395個のアミノ酸残基を整列化する;第2の配列を456個のアミノ酸残基を有する配列番号:6のFad5-2アミノ酸配列と整列化する場合には、少なくとも137個、好ましくは少なくとも182個、より好ましくは少なくとも228個、さらにより好ましくは少なくとも273個、さらにより好ましくは少なくとも319、365または419個のアミノ酸残基を整列化する;第2の配列を460個のアミノ酸残基を有する配列番号:8のFad6アミノ酸配列と整列化する場合には、少なくとも138個、好ましくは少なくとも184個、より好ましくは少なくとも230個、さらにより好ましくは少なくとも276個、さらにより好ましくは少なくとも322、368または414個のアミノ酸残基を整列化する)。続いて、対応するアミノ酸の位置またはヌクレオチドの位置でアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列のある位置を、第2の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドが占めている場合には、2つの分子はその位置で同一である(本明細書で用いる場合、アミノ酸または核酸の「同一性(identity)」は、アミノ酸または核酸の「相同性(homology)」と同義である)。2つの配列間の一致率は、2つの配列の最適な整列化を行うために導入する必要のあるギャップの数および各ギャップの長さを考慮に入れた上で2つの配列が共有する同一な位置の数の関数である。
【0081】
配列の比較および2つの配列間の一致率の決定は、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。1つの好ましい態様では、2つのアミノ酸配列の間の一致率を、GCGソフトウエアパッケージ中のGAPプログラム(http://www.gcg.comで入手可能)に組み込まれているニードルマン(Needleman)およびブンシュ(Wunsch)(J. Mol. Biol. 48:444〜453(1970))のアルゴリズムを用い、ブロッサム62行列(Blossum 62 matrix)またはPAM250行列、およびギャップ加重(gap weight)として16、14、12、10、8、6または4、長さ加重(length weight)として1、2、3、4、5または6を用いて決定する。さらにもう1つの好ましい態様では、2つのヌクレオチド配列の間の一致率を、GCGソフトウエアパッケージ中のGAPプログラム(http://www.gcg.comで入手可能)を用い、NWSgapdna.CMP行列、およびギャップ加重(gap weight)として40、50、60、70または80、長さ加重(length weight)として1、2、3、4、5または6を用いて決定する。GAPプログラムと組み合わせて用いるためのパラメーターの好ましい非制限的な一例は、ブロッサム(Blossum)62スコア行列、ギャップペナルティ(gap penalty)12、ギャップ伸長ペナルティ(gap extend penalty)4およびフレームシフトギャップペナルティ(frameshift gap penalty)5の組み合わせを含む。
【0082】
もう1つの態様において、2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の間の一致率は、ALIGNプログラム(バージョン2.0またはバージョン2.0U)に組み込まれているマイヤーズ(Meyers)およびミラー(Miller)のアルゴリズム(Comput. Appl. Biosci.、4:11〜17(1988))を用い、PAM120加重残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ(gap length penalty)12およびギャップ長ペナルティ(gap penalty)4を用いて決定することができる。
【0083】
本発明の核酸配列およびタンパク質配列をさらに「クエリー配列(query sequence)」として用いて、例えば、ファミリーの他のメンバーまたは関係のある配列を同定するために、公開データベースに対する検索を行うことができる。この種の検索は、アルツシュール(Altschul)ら(1990)J. Mol. Biol. 215:403〜10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて行うことができる。本発明の不飽和化酵素核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得るためには、BLASTヌクレオチド検索を、スコア=100、ワード長(wordlength)=12としたNBLASTプログラムを用いて実行するとよい。本発明の不飽和化酵素タンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得るためには、BLASTのタンパク質検索を、スコア=50、ワード長=3としたXBLASTプログラムを用いて実行するとよい。比較用のギャップが入ったアライメントを得るためには、アルツシュールら(1997)Nucleic Acids Res. 25:3389〜3402に記載されたギャップBLAST(Gapped BLAST)を用いるとよい。BLASTおよびギャップBLASTプログラムを用いる際には、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照。
【0084】
III.不飽和脂肪酸の生産方法
本発明は、不飽和脂肪酸、例えば、DHA(ドコサヘキサエン酸、22:6(n-6))、DPA(ドコサペンタエン酸、22:5(n-6))、AA(アラキドン酸、20:4(n-6))およびEPA(エイコサペンタエン酸、20:5(n-3))などのLCPUFAを生産する、新たな改善された方法を提供する。
【0085】
A.組換え細胞および細胞培養のための方法
本発明はさらに、本明細書に記載の遺伝子産物、好ましくはFad4、Fad5、Fad5-2およびFad6遺伝子産物をコードする核酸配列を含む、組換えベクターを提供する。組換えベクターという用語には、天然型のベクターまたはプラスミドに含まれるものよりも多い、少ないまたは異なる核酸配列を含むように変更、改変または操作されたベクター(例えば、プラスミド)が含まれる。1つの態様において、組換えベクターは、調節配列と機能的に結合した、少なくとも1つの脂肪酸不飽和化酵素をコードする核酸配列を含む。「調節配列と機能的に結合した」という語句は、(例えば、ベクターを宿主細胞内に導入した場合に)関心対象のヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現(例えば、増強した、増大した、構成的な、基礎的な、減弱した、低下した、または抑制した発現)、好ましくはヌクレオチド配列によってコードされる遺伝子産物の発現を可能とする様式で結合していることを意味する。ベクターの例は本明細書でさらに詳細に述べるほか、例えば、フラスコッティ(Frascotti)ら、米国特許第5,721,137号にも記載されており、その内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0086】
「調節配列」という用語には、他の(非調節性)核酸配列の発現に影響を及ぼす(例えば、修飾または調節する)核酸配列が含まれる。1つの態様において、調節配列は、調節配列および関心対象の遺伝子が自然下にある場合に観察されるのと同様もしくは同一な、関心対象の特定の遺伝子に対する位置および/または向き、例えば、天然の位置および/または向きで、組換えベクター中に含まれる。例えば、関心対象の遺伝子(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6遺伝子)を、天然の生物体でその遺伝子に付随または隣接している調節配列と機能的に結合させて(例えば、「天然の」Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6調節配列と(例えば、「天然の」Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6プロモーターと)機能的に結合させて)、組換えベクターに含めることができる。または、関心対象の遺伝子(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6遺伝子)を、天然の生物体において別の(例えば、異なる)遺伝子に付随または隣接している調節配列と機能的に結合させて、組換えベクターに含めることもできる。例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6遺伝子を、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6のものでない調節配列と機能的に結合させてベクター中に含めることができる。または、関心対象の遺伝子(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6遺伝子)を、別の生物由来の調節配列と機能的に結合させてベクター中に含めることもできる。例えば、他の微生物由来の調節配列(例えば、他の細菌の調節配列、バクテリオファージの調節配列など)を、関心対象の遺伝子と機能的に結合させることができる。
【0087】
好ましい調節配列には、プロモーター、エンハンサー、終結シグナルおよび他の発現制御因子(例えば、転写されたmRNAにおける、転写および/または翻訳調節タンパク質の結合部位)が含まれる。このような調節配列は、例えば、サムブルック(Sambrook, J.)、フリッチュ(Fritsh, E. F.)およびマニアティス(Maniatis, T.)、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されている。調節配列には、細胞におけるヌクレオチド配列の構成的発現を指令するもの(例えば、構成性プロモーターおよび強力な構成性プロモーター)、細胞におけるヌクレオチド配列の誘導性発現を指令するもの(例えば、誘導性プロモーター、例えばキシロース誘導性プロモーター)および細胞におけるヌクレオチド配列の発現を減弱または抑制するもの(例えば、減弱シグナルまたはリプレッサー配列)が含まれる。調節配列の除去または欠失によって関心対象の遺伝子の発現を調節することも本発明の範囲に含まれる。例えば、関心対象の遺伝子の発現が増強されるように、転写の負の調節に関与する配列を除去することができる。
【0088】
1つの態様において、本発明の組換えベクターは、プロモーターまたはプロモーター配列と機能的に結合した、少なくとも1つの遺伝子産物(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6)をコードする核酸分子を含む。
【0089】
さらにもう1つの態様において、本発明の組換えベクターは、1つまたは複数の終結配列(例えば、転写終結配列)を含む。「終結配列」という用語には、mRNAの転写を終結させる働きをする調節配列が含まれる。終結配列(または縦列転写終結配列)はさらに、例えばヌクレアーゼに対して、mRNAを安定化する働きをすることもある(例えば、mRNAに構造物を付加することによる)。
【0090】
さらにもう1つの態様において、本発明の組換えベクターは、抗生物質耐性配列を含む。「抗生物質耐性配列」という用語には、宿主生物に対して抗生物質に対する耐性を向上させる、または付与する配列が含まれる。1つの態様において、抗生物質耐性配列は、cat(クロラムフェニコール耐性)、tet(テトラサイクリン耐性)配列、erm(エリスロマイシン耐性)配列、neo(ネオマイシン耐性)配列およびspec(スペクチノマイシン耐性)配列からなる群より選択される。本発明の組換えベクターはさらに、相同組換え配列(例えば、宿主生物の染色体への関心対象の遺伝子の組換え導入を可能とするように設計された配列)を含みうる。例えば、amyE配列は、宿主染色体への組換え導入のための相同標的として用いることができる。
【0091】
「操作された細胞」という用語には、不飽和脂肪酸が産生されるように、細胞が少なくとも1つの脂肪酸不飽和化酵素、例えばFad4、Fad5、Fad5-2および/またはFad6を有するように操作された(例えば、遺伝的工学による操作を受けた)細胞が含まれる。このような微生物の改変または操作は、生合成経路の調節解除(deregulation)および/または少なくとも1つの生合成酵素の過剰発現を非制限的に含む、本明細書に記載の任意の方法によるものであってよい。「操作された」酵素(例えば、「操作された」生合成酵素)には、例えば、対応する野生型または天然型の酵素と比べて、酵素の少なくとも1つの上流もしくは下流前駆物質、基質または産物が変更または改変されるように、その発現または産生が変更または改変された酵素が含まれる。
【0092】
「過剰発現された」または「過剰発現」という用語には、細胞の操作前または操作されていない同等の細胞における発現よりも大きいレベルでの、遺伝子産物(例えば、脂肪酸不飽和化酵素)の発現が含まれる。1つの態様においては、細胞の操作前または操作されていない同等の細胞における発現よりも大きいレベルで遺伝子産物を過剰発現するように、細胞の遺伝子操作を行うこと(例えば、遺伝子工学による操作を行うこと)ができる。遺伝子操作には、特定の遺伝子の発現と関連のある調節配列もしくは部位を変更もしくは改変すること(例えば、強力なプロモーター、誘導性プロモーターまたは複数のプロモーターを付加することによる、または発現が構成的となるように調節配列を除去することによる)、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、特定の遺伝子に隣接するリボソーム結合部位もしくは転写終結因子などの核酸配列を変更すること、特定の遺伝子のコピー数を増やすこと、特定の遺伝子の転写および/もしくは特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写活性化因子など)を改変すること、または当技術分野で慣例的な、特定の遺伝子の発現の調節解除を行う任意の他の従来の手段(例えばリプレッサータンパク質の発現を阻止するためのアンチセンス核酸分子の使用を非制限的に含む)が非制限的に含まれうる。
【0093】
もう1つの態様において、細胞の操作前または操作されていない同等の細胞における発現よりも大きいレベルで遺伝子産物を過剰発現するように、細胞を物理的または環境的に操作することができる。例えば、転写および/または翻訳が増強または増加するように、細胞を、特定の遺伝子の転写および/または特定の遺伝子産物の翻訳を増加させることが知られたまたは疑われる作用物質(agent)で処理する、またはその存在下で培養することができる。または、転写および/または翻訳が増強または増加するように、細胞を、特定の遺伝子の転写および/または特定の遺伝子産物の転写を増加させるように選択した温度で培養することもできる。
【0094】
「調節解除された(deregulated)」または「調節解除(deregulation)」という用語には、細胞における生合成酵素のレベルまたは活性が変更または改変されるような、細胞における生合成経路中の酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子の変更または改変が含まれる。好ましくは、遺伝子産物が増強または増加するように、生合成経路中の酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を変更または改変する。「調節解除された経路」という語句には、複数の生合成酵素のレベルまたは活性が変更または改変されるような、生合成経路中の酵素をコードする複数の遺伝子の変更または改変が含まれうる。細胞における経路を「調節解除する」(例えば、所定の生合成経路中の複数の遺伝子を同時に調節解除する)能力は、複数の酵素(例えば、2種または3種の生合成酵素)が、「オペロン」と呼ばれる連続した遺伝物質の断片上に互いに隣接して存在する遺伝子によってコードされるという細胞の特定の現象によって生じる。
【0095】
「オペロン」という用語には、1つまたは複数の、好ましくは少なくとも2つの構造遺伝子(例えば、酵素、例えば生合成酵素をコードする遺伝子)に付随してプロモーターおよびおそらくは調節因子を含む、遺伝子発現の協調的な構成単位が含まれる。構造遺伝子の発現は、例えば、調節タンパク質の調節因子との結合により、または転写の抗転写終結により、協調的に調節されうる。複数の構造遺伝子が転写されて、構造タンパク<A NAME="~7"></A>質のすべてをコードする単一のmRNAが生じることがある。オペロンに含まれる遺伝子が協調的に調節されるため、単一のプロモーターおよび/または調節因子の変更または改変が、オペロンによってコードされる各遺伝子産物の変更または改変を引き起こしうる。調節因子の変更または改変には、内因性プロモーターおよび/もしくは調節因子の除去、強力なプロモーター、誘導性プロモーターもしくは複数のプロモーターの付加、または遺伝子産物の発現が改変されるような調節配列の除去、オペロンの染色体位置の改変、オペロンに隣接するもしくはオペロンの内部にあるリボソーム結合部位などの核酸配列の変更、オペロンのコピー数の増大、オペロンの転写および/もしくはオペロンの遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写活性化因子など)の改変、または当技術分野で慣例的な、遺伝子の発現の調節解除を行う任意の他の従来の手段(例えばリプレッサータンパク質の発現を阻止するためのアンチセンス核酸分子の使用を非制限的に含む)が非制限的に含まれうる。調節解除には、例えば、フィードバック耐性のある、または比活性がより高いもしくは低い酵素を得るために、1つまたは複数の遺伝子のコード領域を変更することも含まれうる。
【0096】
特に好ましい本発明の「組換え」細胞は、植物由来の遺伝子もしくは遺伝子産物または微生物由来の遺伝子もしくは遺伝子産物を過剰発現するように遺伝子工学による操作を受けたものである。「植物由来の」「微生物由来の」または「に由来する」という用語には、例えば、微生物もしくは植物、例えば、脂肪種子植物に天然に認められる遺伝子、または遺伝子産物(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6)、または植物遺伝子もしくは微生物からの遺伝子によってコードされるもの(例えば、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5または配列番号:7によりコードされるもの)が含まれる。
【0097】
本発明の方法は、少なくとも1つの脂肪酸不飽和化酵素を過剰発現する組換え細胞を特徴とする。1つの態様において、本発明の組換え細胞は、ヤブレツボカビ属(Thrauschytrium sp.)の脂肪酸不飽和化酵素(例えば、ヤブレツボカビ属Δ4または5不飽和化酵素(Fad4またはFad5遺伝子産物))を過剰発現するように遺伝子工学による操作を受けている(例えば、配列番号:2もしくは4のアミノ酸配列を有する、または配列番号:1もしくは3の核酸配列によってコードされる脂肪酸不飽和化酵素)の少なくとも1つを過剰発現するように操作されている)。
【0098】
もう1つの態様において、本発明の組換え細胞は、ピティウム・イレギュラレA5またはΔ6不飽和化酵素(Fad5-2またはFad6遺伝子産物)(例えば、配列番号:6もしくは8のアミノ酸配列を有する、または配列番号:5もしくは7のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる脂肪酸不飽和化酵素)を過剰発現するように遺伝子工学による操作を受けている。
【0099】
もう1つの態様において、本発明は、脂肪酸不飽和化酵素の核酸配列(例えば、配列番号:1、3、5または7に示した脂肪酸不飽和化酵素の核酸配列)を含むベクターによる形質転換を受けた細胞(例えば、微生物細胞)を特徴とする。
【0100】
本発明のもう1つの局面は、脂肪酸の生産を調節する方法であって、脂肪酸の産生の調節が起こるように(例えば、不飽和脂肪酸の産生が増強されるように)、本発明の核酸分子(例えば、不飽和化酵素)による形質転換を受けた細胞を培養することを含む方法を特徴とする。脂肪酸の産生を調節するために、本発明の核酸分子(例えば、Fad4、Fad5、Fad5-2およびFad6)による形質転換を受けた細胞を培養する方法を、本明細書では「生体内変化(biotransformation)」と称する。生体内変化過程には、本明細書に記載の組換え細胞および/または不飽和化酵素を利用しうる。「生体内変化過程」という用語を、本明細書では「生物学的変換過程(bioconversion process)」とも称し、これには、脂肪酸不飽和化酵素の上流にある任意の化合物(例えば、基質、中間体または産物)の、脂肪酸不飽和化酵素の下流にある化合物(例えば、基質、中間体または産物)、特に不飽和脂肪酸への生成(例えば、転換(transformation)または変換(conversion))がもたらされる生物過程が含まれる。1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸の生産のための生体内変化過程であって、少なくとも1つの脂肪酸不飽和化酵素を過剰発現する細胞を、少なくとも1つの適切な基質と、不飽和脂肪酸が生成される条件下で接触させること、および選択的には、脂肪酸を回収することを含む過程を特徴とする。1つの好ましい態様において、本発明は、不飽和脂肪酸の生産のための生体内変化過程であって、Fad4、Fad5、Fad5-2またはFad6を過剰発現する細胞を、適切な基質(例えば、中間体脂肪酸)と、不飽和脂肪酸(例えば、DHA、SDAまたはGLA)が生成される条件下で接触させること、および選択的には、不飽和脂肪酸を回収することを含む方法を特徴とする。不飽和化脂肪酸が生成される条件には、不飽和脂肪酸の望まれる生産が得られる任意の条件が含まれうる。
【0101】
生体内変化反応に用いられる細胞および/または酵素は、意図する機能(例えば、希望する脂肪酸の生産)を遂行することを可能とする形態にある。細胞は全細胞でもよく、望まれる最終結果を得るために必要な細胞の部分のみでもよい。細胞には、懸濁化(例えば、緩衝液または培地などの適切な溶液中に)、すすぎ洗い(例えば、細胞を培養した培地をすすぎ洗いして除く)、アセトン乾燥、固定化(例えば、ポリアクリルアミドゲルもしくはk-カラゲナンによる、または合成支持体、例えばビーズ、マトリックスなどに対して)、固定、架橋または透過化処理(例えば、膜および/または壁を透過化し、化合物、例えば基質、中間体または産物が前記の膜または壁をより容易に通過できるようにする)を行うことが可能である。細胞の種類は、本発明の方法において用いうる任意の細胞、例えば、植物、動物または微生物の細胞であってよい。
【0102】
本発明の1つの重要な局面は、希望する化合物(例えば、希望する不飽和脂肪酸)が産生されるように、組換え植物を育成すること、または本明細書に記載の組換え微生物を培養することを含む。「培養すること」という用語には、本発明の生きた微生物を維持および/または成長させること(例えば、培養物または菌株を維持および/または成長させること)が含まれる。1つの態様では、本発明の微生物を液体培地中で培養する。もう1つの態様では、本発明の微生物を固形培地中または半固形培地中で培養する。1つの好ましい態様では、本発明の微生物を、微生物の維持および/または成長に必須または有益な栄養分(例えば、炭素源または炭素基質、例えば 豆類または穀類の飼料、デンプン、糖、糖アルコール、炭化水素、油、脂肪、脂肪酸、有機酸およびアルコールなどの複合糖質;窒素源、例えば、穀類、豆類および塊茎に由来する植物タンパク質、ペプトン、ペプチドおよびアミノ酸、肉、乳などの動物性源に由来するタンパク質、ペプチドおよびアミノ酸、ならびにペプトン、肉エキスおよびカゼイン加水分解物などの動物性副産物;尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムおよびリン酸アンモニウムなどの無機窒素源;リンの源、例えば、リン酸、そのナトリウム塩およびカリウム塩;微量元素、例えば、マグネシウム、鉄、マンガン、カルシウム、銅、亜鉛、ホウ素、モリブデンおよび/またはコバルトの塩;さらにはアミノ酸、ビタミン、成長促進物質などの発育因子)を含む培地(例えば、滅菌液体培地)中で培養する。
【0103】
本発明の微生物は、制御されたpHで培養することが好ましい。「制御されたpH」という用語には、希望する産物(例えば、不飽和脂肪酸)の産生が起こる任意のpHが含まれる。1つの態様では、微生物を約pH 7で培養する。もう1つの態様では、微生物をpH 6.0〜8.5で培養する。望ましいpHは、当業者に知られた任意のさまざまな方法によって維持しうる。
【0104】
また、本発明の微生物は、制御された曝気(aeration)下で培養することが好ましい。「制御された曝気」という用語には、希望する産物(例えば、不飽和脂肪酸)の産生が起こるのに十分な曝気(例えば、酸素)が含まれる。1つの態様において、曝気は、培養物中の酸素レベルを調節することにより、例えば、培地中に溶解した酸素の量を調節することによって調整される。培養物の曝気は、培養物を攪拌することによって調整することが好ましい。攪拌はプロペラもしくは類似の機械的攪拌装置により、発育容器(例えば、発酵槽)の回転もしくは振盪により、またはさまざまなポンプ装置によって供給しうる。換気をさらに、無菌空気または酸素を培地(例えば、発酵混合物)に通すことによって調整してもよい。また、本発明の微生物は過剰な泡立ちを起こさずに培養することが好ましい(例えば、泡止め剤の添加による)。
【0105】
さらに、本発明の植物または微生物を、制御された温度で培養することもできる。「制御された温度」には、希望する産物(例えば、不飽和脂肪酸)の産生が起こる任意の温度が含まれる。1つの態様において、制御された温度には、15℃〜95℃の間の温度が含まれる。もう1つの態様において、制御された温度には、15℃〜70℃の間の温度が含まれる。好ましい温度は、20℃〜55℃の間、より好ましくは30℃〜45℃の間、または30℃〜50℃の間である。
【0106】
微生物は液体培地中で培養する(例えば、維持および/または成長させる)ことができ、好ましくは、静置培養、試験管培養、振盪培養(例えば、回転振盪培養、フラスコ振盪培養など)、曝気攪拌培養または発酵などの従来の培養法により、連続的または間欠的に培養する。1つの好ましい態様においては、微生物を振盪フラスコ内で培養する。より好ましい1つの態様では、微生物を発酵槽の中で培養する(例えば、発酵工程)。本発明の発酵工程には、バッチ法、流加培養法および連続発酵法が非制限的に含まれる。「バッチ工程」または「バッチ発酵」という用語は、培地、栄養分、補充性添加物などの組成物を発酵の開始時に設定し、発酵中には変更を行わない閉鎖系のことを指すが、培地の過度の酸性化および/または微生物の死滅を防ぐためにpHおよび酸素濃度などの因子を制御するようにしてもよい。「流加培養工程」または「流加培養」発酵という用語は、発酵の進行とともに1つまたは複数の基質または補充物を添加すること(例えば、段階的または連続的に添加する)を除いて、バッチ発酵と同じである。「連続工程」または「連続発酵」という用語は、規定の発酵培地を連続的に発酵槽に添加し、好ましくは希望する産物(例えば、不飽和脂肪酸)を回収するために、同じ量の使用済みまたは「馴化」培地を同時に除去する系のことを指す。このような工程はさまざまなものが開発されており、当技術分野で周知である。
【0107】
「希望する化合物(例えば、不飽和脂肪酸、例えばDHA)が産生されるような条件下で培養すること」という表現は、希望する化合物の産生を得るため、または産生される特定の化合物の所要の収量を得るために適切または十分である条件(例えば、温度、圧力、pH、継続時間など)の下で、植物または微生物を維持および/または成長させることを含む。例えば、所要の量の不飽和脂肪酸(例えば、DHA)が産生されるのに十分な時間にわたって培養を継続する。好ましくは、不飽和脂肪酸の最大限の産生に実質的に到達するのに十分な時間にわたって培養を継続する。1つの態様では、培養を約12〜24時間にわたって継続する。もう1つの態様では、培養を約24〜36時間、36〜48時間、48〜72時間、72〜96時間、96〜120時間、120〜144時間にわたり、または144時間よりも長く継続する。もう1つの態様では、不飽和脂肪酸が産生収量に到達するのに十分な時間にわたって培養を継続し、例えば、少なくとも約15〜20g/Lの不飽和脂肪酸が産生されるように、少なくとも約20〜25g/Lの不飽和脂肪酸が産生されるように、少なくとも約25〜30g/Lの不飽和脂肪酸が産生されるように、少なくとも約30〜35g/Lの不飽和脂肪酸が産生されるように、少なくとも約35〜40g/Lの不飽和脂肪酸(例えば、少なくとも約37g/Lの不飽和脂肪酸)が産生されるように、または少なくとも約40〜50g/Lの不飽和脂肪酸が産生されるように、細胞を培養する。さらにもう1つの態様においては、不飽和脂肪酸の好ましい収量、例えば上記の範囲内の収量が、約24時間、約36時間、約48時間、約72時間または約96時間で産生されるような条件下で、微生物を培養する。
【0108】
不飽和脂肪酸の生産においては、本発明の培養細胞を、補充性脂肪酸生合成基質の存在下で培養することがさらに望ましいと思われる。「補充性脂肪酸生合成基質」という用語には、細胞と接触させた場合または細胞の培地中に含めた場合に、不飽和脂肪酸の生合成を増強または増大させる働きをする作用物質または化合物が含まれる。本発明の補充性脂肪酸生合成基質は、濃溶液または懸濁液(例えば、水または緩衝液などの適した溶媒中にあるもの)の形態で、または固体の形態で(例えば、粉末の形態で)添加してよい。さらに、本発明の補充性脂肪酸生合成基質は、単一のアリコートとして、所定の時間にわたって連続的または間欠的に添加することができる。
【0109】
本発明の方法はさらに、希望する化合物(例えば、不飽和脂肪酸)を回収する段階を含みうる。希望する化合物を「回収すること」という用語には、培地から化合物を抽出、採取、単離または精製することが含まれる。化合物の回収は、従来の樹脂(例えば、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂、非イオン系吸着樹脂など)による処理、従来の吸着剤(例えば、活性炭、ケイ酸、シリカゲル、セルロース、アルミナなど)による処理、pHの変更、溶媒抽出(例えば、アルコール、酢酸エチル、ヘキサンなどの従来の溶媒による)、透析、濾過、濃縮、結晶化、再結晶化、pH調整、凍結乾燥などを非制限的に含む、当技術分野で知られた任意の従来の単離法または精製法に従って行うことができる。例えば、最初に微生物を培養物から除去することにより、化合物を培地から回収する。続いて、不要な無機陽イオンおよび関心対象の不飽和脂肪酸(例えば、DHA)よりも酸性度の強い有機酸を除去するために、培地を陽イオン交換樹脂中またはその上に通過させる。
【0110】
結果として得られた調製物が他の成分を実質的に含まないように(例えば、培地の成分および/または発酵副産物を含まないように)、本発明の希望する化合物を「抽出」「単離」または「精製」することが好ましい。「他の成分を実質的に含まない」という表現には、化合物が、それが産生された培養物の培地成分または発酵副産物から分離されている(例えば、精製または部分精製された)、希望する化合物の調製物が含まれる。1つの態様において、調製物は、希望する化合物を(乾燥重量にして)約80%よりも多く有し(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約20%である)、より好ましくは、希望する化合物を約90%よりも多く有し(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約10%未満である)、さらにより好ましくは、希望する化合物を約95%よりも多く有し(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約5%未満である)、最も好ましくは希望する化合物を約98〜99%よりも多く有する(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約1〜2%未満である)。希望する化合物が塩へと誘導体化された不飽和脂肪酸である場合には、化合物はさらに、塩の形成に伴う混入化学物質を含まない(例えば、実質的に含まない)ことが好ましい。希望する化合物がアルコールへと誘導体化された不飽和脂肪酸である場合には、化合物はさらに、アルコールの形成に伴う混入化学物質を含まない(例えば、実質的に含まない)ことが好ましい。
【0111】
1つの代替的な態様では、例えば、植物または微生物が生物的に無害(例えば、安全)な場合には、希望する不飽和脂肪酸を植物または微生物から精製しない。例えば、植物または培養物(または培養上清)の全体を産物の源として(例えば、粗産物として)用いることができる。1つの態様においては、植物または培養物(または培養上清)上清を改変せずに用いる。もう1つの態様では、植物または培養物(または培養上清)を濃縮する。さらにもう1つの態様では、植物または培養物(または培養上清)を粉砕、乾燥または凍結乾燥する。
【0112】
B.高収量生産法
本発明の1つの特に好ましい態様は、不飽和脂肪酸、例えばDHAを生産するための高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が著しく高収量で産生される条件下で培養することを含む方法である。「高収量生産法」、例えば、希望する化合物の生産のための(例えば、不飽和脂肪酸の生産のための)高収量生産法という用語には、同等の生産法に関する通常のレベルよりも高いまたは上のレベルで希望する化合物の生産が得られる方法が含まれる。高収量生産法により、著しい高収量で希望する化合物の生産が得られることが好ましい。「著しい高収量」という用語には、同等の生産法に関する通常のレベルよりも十分に高いまたは上の、例えば、希望する産物の商業生産(例えば、商業的に実現可能なコストでの産物の生産)のために十分なレベルの高さである、生産または収量のレベルが含まれる。1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産するための高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が2g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産するための高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が10g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産するための高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が20g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。さらにもう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産するための高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が30g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。さらにもう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産するための高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が40g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。
【0113】
本発明はさらに、希望する化合物を生産するための(例えば、不飽和脂肪酸を生産するための)高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、十分に高いレベルの化合物が商業的に望ましい期間内に産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。1つの範例となる態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産する高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が36時間で15〜20g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産する高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が48時間で25〜30g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産する高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が72時間で35〜40g/Lを上回るレベル、例えば、72時間で37g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。もう1つの態様において、本発明は、不飽和脂肪酸を生産する高収量生産法であって、操作された植物または微生物を、不飽和脂肪酸が60時間で30〜40g/Lを上回るレベル、例えば、60時間で30、35または40g/Lを上回るレベルで産生される条件下で培養することを含む方法を特徴とする。本明細書に挙げた範囲内に含まれる、および/またはその中間にある値および範囲も、本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、60時間で少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38および39g/Lのレベルでの不飽和脂肪酸の産生は、60時間で30〜40g/Lという範囲に含まれる。もう1つの例として、30〜35g/Lまたは35〜40g/Lという範囲は、60時間で30〜40g/Lという範囲に含まれるものとする。さらに、当業者は、例えば「60時間で30〜40g/L」の産生レベルを達成するために操作された微生物を培養することには、微生物をさらに長い期間(例えば、60時間よりも長い期間)にわたって培養し、選択的には不飽和脂肪酸のさらに高い収量での産生を得ることが含まれることを理解すると考えられる。
【0114】
IV.組成物
本発明の不飽和化酵素核酸分子、タンパク質およびそれらの断片は、組成物に組み入れることが可能な不飽和脂肪酸を生産するために用いることができる。本発明の組成物には、例えば、動物飼料として用いるための組成物、機能性食品(例えば、栄養補助食品)として用いるための組成物、および投与のために適した薬学的組成物が含まれる。
【0115】
このような薬学的組成物は一般に、不飽和脂肪酸および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」という用語は、薬学的投与に適合しうる任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張液および吸収遅延剤などを含むものとする。薬学的活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野で周知である。従来の媒体または薬剤が活性化合物と不適合性である場合を除き、組成物におけるその使用が考慮される。補足的な活性化合物を組成物に組み入れることも可能である。
【0116】
本発明の薬学的組成物は、その意図する投与経路と適合しうるように製剤化される。投与経路の例には、静脈内、皮内、皮下、経口(吸入など)、経皮(局所)、経粘膜および直腸内投与などの避腸的なものが含まれる。避腸的、皮内または皮下適用のために用いられる溶液または懸濁液は以下の成分を含みうる:注射用水、食塩液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈液;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌薬;アスコルビン酸または重硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸鉛、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝液;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調整するための薬剤。pHは塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基によって調整しうる。非経口製剤は、アンプル、ディスポーザルシリンジまたはガラスもしくはプラスチック製の多回投与用バイアル中に封入することができる。
【0117】
注射用に適した薬学的組成物には、滅菌水性溶液(水溶性の場合)または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の要時調合用製剤(extemporaneous preparation)のための滅菌粉末が含まれる。静脈内投与のために適した担体には、生理食塩水、滅菌精製水、Cremophor EL(商標)(BASF;Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が含まれる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、シリンジ注入が容易に行える程度に流動的である必要がある。それは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用から保護される必要がある。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびその適した混合物などを含む溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用、分散液の場合には必要な粒子径の維持、および界面活性剤の使用によって維持しうる。微生物の作用の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの種々の抗菌薬および抗真菌薬によって実現しうる。多くの場合には、例えば糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコ−ル、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが好ましいと考えられる。注射用組成物の持続的吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの、吸収を遅延させる薬剤を組成物中に含めることによって達成しうる。
【0118】
滅菌注射用溶液は、適切な溶媒中に、必要に応じて上記に列挙した成分の1つまたは組み合わせとともに、必要な量の活性化合物(例えば、本発明の核酸分子およびタンパク質分子によって生産されるLCPUFA、またはその断片)を組み入れ、その後で滅菌濾過を行うことによって調製しうる。一般に、分散液は、基本的な分散媒、および上記に列挙したものからの必要な他の成分を含む滅菌媒体中に活性化合物を含めることによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、好ましい調製の方法は、活性成分の粉末に加えて、その前に滅菌濾過された溶液からの望ましい任意の付加的な成分が得られる真空乾燥および凍結乾燥である。
【0119】
経口用組成物は一般に不活性希釈液または可食担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入すること、または圧縮して錠剤にすることができる。経口治療的投与の目的には、活性化合物を賦形剤とともに組み入れ、錠剤、トローチ剤またはカプセル剤の形態で用いることができる。液体担体中の化合物が経口的に適用され、咀嚼および喀出または嚥下される口内洗浄剤として用いるための液体担体を用いて経口用組成物を調製することもできる。組成物の一部として薬学的に適合性のある結合剤および/または添加材料を含めることが可能である。錠剤、丸剤、トローチ剤などは以下の成分、または同様の性状をもつ化合物の任意のものを含みうる:微結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステローテス(Sterotes)などの潤滑剤;コロイド二酸化ケイ素などのグライダント;ショ糖またはサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチルもしくはオレンジ香料などの着香料。
【0120】
吸入による投与のためには、化合物を、二酸化炭素などのガスなどの適した噴霧剤を含む加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからのエアロゾル噴霧の形態で送達させる。
【0121】
全身投与を経粘膜的または経皮的手段によって行うこともできる。経粘膜的または経皮的投与のためには、透過させようとする障壁に適した浸透剤が製剤中に用いられる。このような浸透剤は当技術分野で一般に知られており、例えば、経粘膜的投与のためには、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜的投与は鼻スプレーまたは坐薬の使用によって実施しうる。経皮的投与のためには、活性化合物を、当技術分野で一般的に知られた軟膏、膏薬、ゲルまたはクリーム剤の形態に製剤化する。
【0122】
また、直腸内送達のための坐薬(例えば、カカオ脂およびその他のグリセリド類などの従来の坐薬用基材)または停留浣腸の形態として化合物を製剤化することもできる。
【0123】
1つの態様では、活性化合物を、インプラントおよびマイクロカプセル化された送達系を含む放出制御型製剤などの、化合物を身体からの迅速排出から保護すると思われる担体とともに調製する。エチレンビニルアセテート、重合無水物(polyanhydride)、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステルおよびポリ乳酸などの生分解性で生体適合性のある重合体を用いることもできる。このような製剤の調製のための方法は当技術分野で明らかであると思われる。アルザ社(Alza Corporation)およびノバファーマシューティカルズ社(Nova Pharmaceuticals)から材料を購入することもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を備えた、感染細胞を標的とするリポソームを含む)を薬学的に許容される担体として用いることも可能である。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に記載されているような当業者に周知の方法に従って調製しうる。
【0124】
投与の簡便性および投与量の均一性のためには、経口用または非経口用組成物を単位用量剤形(unit dosage form)として製剤化することが特に有利である。本明細書で用いる単位用量剤形とは、治療しようとする対象に対する単位用量として適した物理的に離散的な単位のことを指し、各単位は必要な医薬担体とともに望ましい治療効果を生じるように計算された規定量の活性化合物を含む。本発明の単位用量剤形に関する仕様は、活性化合物に特有な特徴および達成しようとする特定の治療効果、ならびに個体の治療のためのこのような活性化合物の調合の技術分野に内在する制限によって規定されるとともに、それらに直接依存する。
【0125】
このような化合物の毒性および治療的有効性は、培養された細胞または実験動物のいずれかを用いる標準的な製薬学的手順によってLD50(集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を求めることによって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量の比が治療係数であり、それはLD50/ED50の比として表現しうる。大きな治療係数を示す化合物が好ましい。有害な副作用を示す化合物を用いてもよいが、このような化合物を罹患組織に指向させる送達系を設計するためには、非罹患細胞に対する障害をできるだけ少なくし、それによって副作用を軽減するように注意する必要がある。
【0126】
細胞培養アッセイ法および動物試験によって得られたデータを、ヒトで使用するための用量の範囲を設定するために用いることができる。このような化合物の用量は、ほとんどまたは全く毒性がなく、ED50を含む循環血中濃度の範囲内にあることが好ましい。採用する剤形および用いる投与経路に応じて、この範囲内で用量を変更することができる。本発明の方法に用いる任意の化合物に関して、治療的有効量を細胞培養アッセイ法によってまず推定することができる。細胞培養物で決定されたIC50(すなわち、症状の半値抑制が得られる被験化合物の濃度)を含む流血中血漿中濃度が達成される用量を動物モデルに処方してもよい。このような情報は、ヒトでの有用な用量をより正確に決定するために用いることができる。血漿中濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0127】
本明細書に定義する、蛋白質またはポリペプチドの治療的有効量(すなわち、有効量)は、約0.001〜30mg/kg体重の範囲、好ましくは約0.01〜25mg/kg体重、より好ましくは約0.1〜20mg/kg体重、さらにより好ましくは約1〜10mg/kg、2〜9mg/kg、3〜8mg/kg、4〜7mg/kgまたは5〜6mg/kg体重の範囲である。当業者は、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の全般的健康状態および/または年齢、ならびに他に存在する疾患を非制限的に含むある種の要因が、対象を有効に治療するために必要な投与量に影響を及ぼす可能性があることを理解すると考えられる。さらに、治療的有効量のタンパク質、ポリペプチドまたは抗体による対象の治療は、単一の治療を含むこともでき、または好ましくは一連の治療を含むこともできる。
【0128】
1つの好ましい例においては、約0.1〜20mg/kg体重の範囲の抗体、タンパク質またはポリペプチドにより、週に1回、約1〜10週間、好ましくは2〜8週間、より好ましくは約3〜7週、さらにより好ましくは約4、5または6週間にわたって対象をLCPUFAで治療する。治療に用いる抗体、タンパク質またはポリペプチドの有効量が個々の治療の経過に伴って増加または減少する可能性があることも理解されると考えられる。投与量の変化が起こる可能性もあり、それは本明細書に記載の診断アッセイ法の結果から明らかになる。
【0129】
薬学的組成物は、投与のための指示とともに容器、包みまたはディスペンサー中に含めることができる。
【0130】
以下の実施例によって本発明をさらに例示するが、これは制限的なものとみなされるべきではない。本明細書ならびに図面の全体を通じて引用されるすべての参考文献、特許および公表された特許出願の内容は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0131】
実施例
材料:ヤブレツボカビ属ATCC 21685およびピティウム・イレギュラレは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American type culture collection)(12301 Parklawn Drive、Rockville、Maryland、20852 USA)から購入し、培地中(Weete, J.D.ら(1997)Lipids 32:839〜845)にて24℃で7日間増殖させた。これに続いて、バイオマスを遠心処理によって回収し、RNAの単離に用いた。
【0132】
実施例1:構築およびcDNAライブラリーのスクリーニング
以上の材料から、キュウ(Qiu)およびエリクソン(Erickson)(Qiu, X.およびEriekson, L.(1994)Plant Mol. Biol. Repr. 12:209〜214)に従って全RNAを単離した。cDNAライブラリーを全RNAから構築した。第1鎖cDNAはギブコ社(Gibco-BRL)のスーパースクリプトII(superscript II)逆転写酵素によって合成した。第2鎖cDNAはストラタジーン(Stratagene)社のDNAポリメラーゼIによって合成した。サイズ分画の後に、1kbを上回るcDNA挿入物をλ Uni-Zap XRベクター(Stratagene)中に連結した。続いて、この組換えDNAをギガパックIIIゴールド(Gigapack III gold) パッケージング抽出物(Stratagene)を用いてパッケージ化し、NZYプレートに播いた。この結果得られたライブラリーは5×106種の独立したクローンを示した。cDNAライブラリーのスクリーニングは標準的な方法(Sambrook, J、Fritseh, E.F.、Maniatis, T.(1989)「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning - A laboratory manual)」(Cold Spring Harbor、New York、USA)に従って行った。
【0133】
実施例2:RT-PCR
スーパースクリプトII(superscript II)逆転写酵素(Gibco-BRL)によって全RNAから一本鎖cDNAを合成し、2つの縮重プライマー(順方向プライマー:

および逆方向プライマー:

)を用いるPCR反応のためのテンプレートとして用いた。PCR増幅は、94℃ 1分間、55℃ 1.5分間および72℃ 2分間を35サイクルを行った後の72℃ 10分間の伸長段階からなる。800bp〜1000bpの増幅産物をアガロースゲルから単離し、キット(Qiaex IIゲル精製、Qiagen)によって精製した後にTAクローニングベクターpCR(登録商標)2.1(Invitrogen)中にクローニングした。続いて、クローニングした挿入物の配列を、プリズム・ダイデオキシ・ターミネーター・サイクルシークエンシング・システム(PRISM DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencing System)(Perkin Elmer/Applied Biosysterns)によって決定した。
【0134】
実施例3:FAD4、FAD5、FAD5-2およびFAD6の酵母における発現
Fad4、Fad5、Fad5-2およびFad6のオープンリーディングフレームを、プレシジョンプラス(Precision Plus)酵素(Stratagene)を用いるPCRによって増幅し、TAクローニングベクター(pCR(登録商標)2.1、Invitrogen)中にクローニングした。PCR産物が最初のcDNAと同一であることをシークエンシングによって確認した後に、断片をBarnHI-EcoRI二重消化によって遊離させ、酵母発現ベクターpYES2(Invitrogen)中の誘導性プロモーターGAL1の制御下に挿入した。
【0135】
酢酸リチウム法を用いて、酵母Invsc2株(Invitrogen)をこの発現構築物によって形質転換し、ウラシルを含まない最少培地上で形質転換体を選択した(Gietz, D.ら(1992)Nucleic Acids Res. 20:1425;Covello, P.S.およびReed, D.W.(1996)Plant Physiol. 111:223〜226)。
【0136】
ウラシルを含まず、グルコースを含む最少培地上で28℃にて形質転換体をまず増殖させた。一晩培養した後に、細胞を遠心沈降させ、洗浄した上で蒸留水中に再懸濁した。2%ガラクトースを含み、さらに0.1%タージトールの存在下で0.3mMの基質脂肪酸を含む最少培地または含まない最少培地を、酵母形質転換体の細胞浮遊液に接種し、20℃で3日間インキュベートし、その後に15℃でさらに3日間インキュベートした。
【0137】
実施例4:脂肪酸分析
ヤブレツボカビ、ピティウム・イレギュラレおよび酵母細胞を採取し、蒸留水で2回洗った。続いて2mLメタノール性KOH(7.5%w/v KOH、95%メタノール中)を材料に添加し、12mlガラス培養試験管に密封した混合物を80℃に2時間加熱した。0.5mLの水を添加し、非鹸化性脂質を除去するために試料を2mLヘキサンで2回抽出した。続いて、残った水相を1mL 6N HClの添加によって酸性化し、2mLヘキサンで2回抽出した。ヘキサン相を一緒にして、窒素流の下で乾燥させた。2mLの3Nメタノール性HCl(SUPELCO、Supelco Park、Bellefonte、PA 16823-0048)を添加し、混合物を80℃で2時間加熱した。室温に冷ました後に、1mLの0.9%NaClを添加し、混合物を2mLヘキサンで2回抽出した。一緒にしたヘキサンを窒素流の下で蒸発させた。その結果得られた脂肪酸メチルエステル(FAME)を、コベロ(Covello)およびリード(Reed)(Covello, P.S.およびReed, D.W.(1996)Plant Physiol. 111:223〜226)に従って、GCおよびGC-MSにより分析した。
【0138】
GC/MS分析は、マスリンクス(Masslynx)バージョン2.0ソフトウエアにより制御され、GC 8000シリーズのガスクロマトグラフィー装置と接続されたフィソンズ(Fisons)VG TRIO 2000質量分析計(VG Analytical、UK)を用いて、標準的なEIモードで行った。温度プログラム下で180℃に1分間おいた後に4C/分の速度で240℃にして15分間保ったDB-23カラム(30M×内径0.25mm、膜厚0.25Ilm、J&W Scientific、Folsom、CA)を、FAME分析に用いた。
【0139】
実施例5:カラシナおよびアマ(LINUM USITATISSIMUM)の形質転換ならびに外因性脂肪酸処理
カラシナ(B. juncea)およびアマの5〜6日齢実生の胚軸を、種々のプロモーターの制御下にある完全長cDNAを有するバイナリーベクターの宿主であるアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を接種するための体外培養組織として用いた。20日齢のトランスジェニック実生を外因性脂肪酸処理に用いた。実生を葉、茎および根の3つの部分に分けた。それぞれを切断して小片にし、24ウェルタイタープレートに入れた。各ウェルに2mLの0.05%基質ナトリウム塩(NuCheck Prep Inc.、Elysian、MN)を添加した。次にプレートをゆっくりと振盪しながら24℃で4時間インキュベートした。インキュベーションの後に、植物組織を水で3回洗って脂肪酸分析に用いた。
【0140】
実施例6:ヤブレツボカビ属の脂肪酸プロファイル
ヤブレツボカビおよびピティウム・イレギュラレは、DHA、AA、EPAおよびDPAなどのLCPUFAを産生する能力があることから、科学界で最近関心を集めている。図23および24はそれぞれヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレの7日培養物から単離した脂質の脂肪酸組成を示している。表に示した通り、これらの微生物は、n-3およびn-6系の両方の、18炭素Δ6脂肪酸(γ-リノレン酸およびステアリドン酸)から22炭素Δ4脂肪酸(DHAおよびDPA)までの広範囲にわたる多価不飽和脂肪酸を含む。これらの生物、特にヤブレツボカビ属は、DHAおよびDPAの生合成に必要な不飽和化酵素および伸長酵素のすべてのセットを含むように思われる。この菌株には、プレチャー(Precher)経路におけるDHAおよびDPAの合成の前駆物質と提唱されている24炭素多価不飽和脂肪酸が存在しない(Voss, A.ら(1991)J. Biol. Chem. 266:19995〜20000;Mohammed, B.S.ら(1997)Biochem. J. 326:425〜430)。ヤブレツボカビ属では、24炭素脂肪酸はDHAおよびDPAなどの22炭素Δ4脂肪酸のインビボ合成に関与しないと思われる。
【0141】
実施例7:「前端」不飽和化酵素をコードするcDNAの同定
ヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレにおいてLCFUFAの生合成に関与する不飽和化酵素をコードする遺伝子を同定するために、PCRを用いるクローニング法を適用した。前端不飽和化酵素中のcyt b5様ドメインのN末端伸長部分のヘム結合モチーフ、およびすべてのミクロソーム不飽和化酵素中の第3の保存的ヒスチジンモチーフをそれぞれ標的とするように2つの縮重プライマーを設計した。この設計の背景にある根拠は、ヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレにおけるEPAおよびDHAの生合成に関与する不飽和化酵素に、他の前端不飽和化酵素と類似した一次構造、すなわち不飽和化酵素中のcyt b5様ドメインのN末端伸長部分があるはずというものである。ヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレから、N末端にcyt b5様ドメインを含む融合タンパク質をコードする4つのcDNA断片が同定された。
【0142】
完全長cDNAクローンを同定するために、4つの挿入物をプローブとして用いて、ヤブレツボカビ属およびピティウム・イレギュラレのcDNAライブラリーのスクリーニングを行ったところ、各群で複数のcDNAクローンが同定された。これらの全クローンのシークエンシングにより、4つの完全長cDNAが同定され、Fad4、Fad5、Fad5-2およびFad6と命名された。Fad4のオープンリーディングフレームは1560bpであり、分子量が59.1kDaの519アミノ酸をコードする(図1)。Fad5は1230bp長であり、分子量が49.8kDaの439アミノ酸をコードする(図2)。ヤブレツボカビ属由来のこれらの2つの配列を比較したところ、推定されるタンパク質の間のアミノ酸同一性は16%に過ぎなかった。詳細な分析により、Fad4がFad5よりも80アミノ酸長く、それが第2および第3の保存的ヒスチジンモチーフの間に存在することが明らかになった(図3)。ピティウム・イレギュラレ由来のFad5-2のオープンリーディングフレームは1371bpであり、456アミノ酸をコードする(図4)。ピティウム・イレギュラレ由来のFad6は1383bp長であり、460アミノ酸をコードする(図5)。ピティウム・イレギュラレ由来の2つの配列の比較により、推定されるタンパク質の間の類似性は39%を上回ることが示された(図6)。
【0143】
タンパク質データベースのBLASTP(商標)検索により、4つのタンパク質、Fad4、Fad5、Fad5-2およびFad6のそれぞれに関して以下のヒットが判明した:
Fad4(519アミノ酸残基)
Blastp nr
【表1】

Fad 5(439アミノ酸残基)
Blastp nr
【表2】

Fad5-2(456アミノ酸残基)
Blastp nr
【表3】

Fad 6(459アミノ酸残基)
Blastp nr
【表4】

【0144】
実施例8:FAD4、FAD5、Fad5-2およびFAD6の酵母における発現
Fad4の機能を確かめるために、完全長cDNAを誘導性プロモーターの制御下で酵母Invsc2株にて発現させた。図7は、培地に22:5(7,10,13,16,19)を補充することにより、Fad4 cDNAを含む酵母細胞がベクター対照と比較して別の脂肪酸を有したことを示している。ピークの保持時間はDHA標準物質と同一であった。遊離脂肪酸のLC/MS分析により、負イオンエレクトロスプレー法でDHA標準物質と同一な脱プロトン化分子イオン(m/z=279)が生じたことが示された。さらに、FAMEのGC/MS分析により、ピークのスペクトルがDHA標準物質のものと同一であることも示された(図8)。これらの結果は、Fad4が、22:5(7,10,13,16,19)基質の4位に二重結合を導入してΔ4不飽和化脂肪酸DHA(22:6(4,7,10,13,16,19)を生成しうる、Δ4脂肪酸不飽和化酵素であることを示している。
【0145】
Fad4の基質特異性をさらに調べるために、18:2(9,12)、18:3(9,12,15)、20:3(8,11,14)および22:4(7,10,13,16)を含む種々の基質を別個に酵母形質転換体に与えた。その結果から、Fad4が22:4(7,10,13,16)を基質として用いて(図9)、別のΔ4不飽和化脂肪酸であるDPA(22:5(4,7,10,13,16)も生成しうることが示された(図10)。検討した残りの脂肪酸は有効な基質ではなかった。
【0146】
Fad5およびFad5-2の機能を確かめるために、出芽酵母(S. cerevisiae) Invsc2株に対して、ガラクトース誘導性プロモーターの制御下にあるFad5およびFad5-2のオープンリーディングフレームをそれぞれ含むプラスミドによる形質転換を行った。ホモ-γ-リノレン酸(HGLA、20:3-8,11,14)を含む培地中で酵母形質転換体にガラクトースによる誘導を行ったところ、形質転換体に蓄積するFAMEのクロマトグラムに、対照と比較して別のピークが観察された(図11)。このクロマトグラムと標準物質のものとの比較により、この脂肪酸の保持時間がアラキドン酸標準物質(AA、20:4-5,8,11,14)と同一であることが判明した。この産物の位置化学をさらに確認するために、FAMEをGC/MSにより分析した。図12は、この新たな脂肪酸およびAA標準物質の質量スペクトルが同一であることを示している。これらの結果は、酵母ではFad5およびFad5-2がHGLA(20:3-8,11,13)をAA(20:4-5,8,11,14)に変換することを示している。Fad5-2の基質特異性をさらに調べるために、Fad5-2を含むプラスミドを、Δ9不飽和化酵素遺伝子であるole1が破壊されている別の酵母株であるAMY-2αに導入した。この菌株はモノ不飽和脂肪酸を補充しなければ最少培地中で増殖することができない。この実験で、この菌株はFad5-2の基質ではない17:1(10Z)を補充した最少培地で増殖したため、種々の基質、特に一不飽和脂肪酸に対する酵素の特異性を検討することにした。16:1(9Z)、18:1(9Z)、18:1(11Z)、18:1(11E)、18:1(12E)、18:1(15Z)、18:2(9Z,12Z)、18:3(9Z,12Z,15Z)、20:2(11Z,14Z)および20:3(11Z,14Z,17Z)を含む、考えられるさまざまな基質を検討した。その結果、Fad5-2がΔ9エチレン性およびΔ11エチン性二重結合を有する不飽和脂肪酸、ならびにΔ8エチレン性二重結合(20:3-8,11,14)を有する脂肪酸を不飽和化しうることが示された。図13に示した通り、Fad5-2は18:1(9Z)および18:1(11Z)基質の両方を、対応するΔ5不飽和化脂肪酸である18:2-5,9(保持時間10.34分)および18:1-5,11(保持時間10.44分)のそれぞれに効率的に変換した。また、Fad5-2は18:1(11E)および18:1(12E)などのトランス型脂肪酸も不飽和化した。
【0147】
図25は、酵母AMY-2αで検討した、Fad5-2の脂肪酸基質に対する基質選好性を比較したものである。基質および蓄積した産物の相対的割合は、酵素の基質選好性の有用な指標である。図25に示した通り、Fad5-2は、20:3(8Z,11Z,14Z)、20:3(11Z,14Z,17Z)および20:2(11Z,14Z)などの20炭素を有する脂肪酸を基質として選好する。一方、より短鎖の脂肪酸は、酵母におけるこの酵素の基質としては相対的に弱かった。
【0148】
Fad6の機能をさらに確かめるために、出芽酵母(S. cerevisiae)宿主Invsc2株に対して、ガラクトース誘導性プロモーターGAL1の制御下にあるFad6のオープンリーディングフレームを含むプラスミドによる形質転換を行った。リノール酸を含む培地中で酵母形質転換体にガラクトースによる誘導を行ったところ、形質転換体に蓄積するFAMEのクロマトグラムに、対照と比較して別のピークが観察された(図14)。このクロマトグラムと標準物質のものとの比較により、この脂肪酸の保持時間がγ-リノレン酸(GLA、18:3-6,9,12)標準物質と同一であることが判明した。産物の位置選択性をさらに検討するために、発現株からの脂肪酸のジエチルアミン誘導体をGC-MSにより分析した。図15は、この新たなピークが、Δ6、Δ9およびΔ12位に3つの二重結合がある真のGLAであることを示している。nおよびn+1炭素の主断片に12Dの違いがあることは、炭素n+1およびn+2の間に二重結合があることの指標となる。このため、156および168、196および208、ならびに236および248の断片は、それぞれΔ6、Δ9およびΔ12位に二重結合があることを意味する。これらの結果は、Fad6が酵母においてリノール酸(18:2)をGLAに変換するΔ6不飽和化酵素であることを示している。
【0149】
実施例9:FAD4のカラシナにおける発現
ヤブレツボカビFad4が脂肪種子作物において機能するか否かを明らかにするために、構成性プロモーターの制御下にあるFad4を含む構築物によってカラシナの形質転換を行った。8種の独立したトランスジェニック植物が得られた。カラシナには利用しうるΔ4脂肪酸不飽和化酵素基質がない。このため、この植物におけるトランスジェニック酵素の活性を検討するためには、22:5(n-3)基質を外因的に供給する必要がある。この実験では、野生型およびトランスジェニック体の両方にドコサペンタエン酸ナトリウムの水溶液を与えた。外因的に供給した基質はいずれの種類の植物の根、茎および葉によっても直ちに取り込まれるが、DHAに変換されるのはトランスジェニック体のみであることが明らかになった。葉でのDHAの産生レベルは根および茎よりも高かった。葉では、外因性基質が全脂肪酸の10〜20%のレベルまで取り込まれ、Δ4不飽和化脂肪酸(22:6、n-3)が全脂肪酸の3〜6%の範囲として産生された(図16)。これらの結果は、ヤブレツボカビ由来のΔ4脂肪酸不飽和化酵素が脂肪種子作物において機能することを示している。
【0150】
実施例10:Fad5-2のカラシナにおける発現
Fad5-2が脂肪種子作物で機能するか否か、およびその発現が成長および発育に影響を及ぼすか否かを明らかにするために、カラシナに対して、構成性プロモーター(タンデム型カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター)の後ろにFad5-2 cDNAを含むバイナリーベクターによる形質転換を行った。6種の独立した一次トランスジェニック植物が得られ、異なる組織由来の脂質の脂肪酸プロファイルを決定した。図17は、T1系統の3週齢実生植物の脂肪酸組成を示している。野生型と比べて、すべてのトランスジェニック植物組織は4つの新たなピークを含む変化した脂肪酸プロファイルを有し、これらは4種の異なるΔ5非不飽和化ポリメチレン中断型脂肪酸(Δ5-UPIFA)、具体的にはタキソール(taxoleic)酸(18:2-5,9);エフェドレン(ephedrenic)酸(18:2-5,11);ピノレン(pinolenic)酸(18:3-5,9,12)およびコニフェロン酸(coniferonic acid)(18:4-5,9,12,15)と同定された。このように、カラシナは酵母と同様に、P.イレギュラレΔ5不飽和化酵素を機能的に発現し、内因性基質18:1-9;18:1-11;18:2-9,12および18:3-9,12,15を対応するΔ5不飽和化脂肪酸に変換することができる。根はΔ5-UPIFAの産生量が最も多く、全脂肪酸の20%を占め、これに続いて茎では6%、葉では5%であった(図17)。
【0151】
カラシナには利用しうるホモ-γ-リノレン酸(20:3-8,11,14)基質はない。このため、トランスジェニック植物がAAを産生しうるか否かを検討するために、基質20:3(8,11,14)を外因的に供給した。この実験では、野生型およびトランスジェニック体の両方にホモ-γ-リノレン酸ナトリウムの水溶液を与えた。外因的に供給した基質はトランスジェニック植物の根、茎および葉によって直ちに取り込まれる、植物内部でAAに変換されることが明らかになった(図18)。
【0152】
Δ5-UPIFAは植物のすべての部分に蓄積したが、トランスジェニックカラシナの成長および発育に対する表現型効果は観察されなかった。葉、茎および根などの植物組織の成長および発育は、対応する野生型と区別できなかった。
【0153】
種子においてΔ5不飽和化脂肪酸を産生させるために、カラシナに対して、異種性種子特異的プロモーター(アブラナのナピンプロモーター)の後ろにFad5-2 cDNAを含む構築物による形質転換を行った。トランスジェニック種子の脂肪酸分析により、トランスジェニック体のガスクロマトグラムには、野生型対照と比べて2つの新たな脂肪酸が生じていることが示された(図19)。それらはタキソール酸(18:2-5,9)およびピノレン酸(18:3-5,9,12)と同定された。これらの脂肪酸を合わせると種子脂肪酸の9.4%であった。非形質転換対照と比較して、Δ5-UPIFAの蓄積はオレイン酸含有量に有意な影響を及ぼさなかった。
【0154】
実施例11:Fad5-2のアマにおける発現
アマ種子においてΔ5不飽和化脂肪酸を産生させるために、2つの種子特異的プロモーター、すなわち異種性のアブラナナピンプロモーターおよびアマ内因性プロモーターの制御下にあるFad5-2により、アマの形質転換を行った。図26に示す通り、ナピンプロモーターを含むトランスジェニック植物は、1種類のΔ5不飽和化脂肪酸、すなわちタキソール酸を種子において全脂肪酸の1%のレベルで産生した。一方、アマニ特異的プロモーターを含むトランスジェニック植物は3種類のΔ5不飽和化脂肪酸:タキソール酸、ピノレン酸およびコニフェロン酸を産生した。これらのうち、タキソール酸(18:2-5,9)の存在量が最も多く、選んだ系統(FN-10-1)における全脂肪酸の9%を占め、次いでコニフェロン酸およびピノレン酸の順であった。驚いたことに、トランスジェニック種子におけるΔ5不飽和化脂肪酸の蓄積は他の脂肪酸の組成、特にオレイン酸レベルに大きな影響を及ぼした。異なるプロモーターの制御下でFad5-2不飽和化酵素を発現する2種類のトランスジェニック植物のいずれにおいても、Δ5-UPIFAの蓄積に伴ってオレイン酸は著しく増加した。ナピン特異的およびアマ種子特異的プロモーターを有するトランスジェニック植物におけるオレイン酸の含有量はそれぞれ全脂肪酸の平均44.7%および24.3%に達し、これに対して非形質転換対照は17.4%であった。
【0155】
実施例12:FAD6のアマにおける発現
アマ種子においてΔ6不飽和化脂肪酸を産生させるために、2つの品種のアマに対して、異種性種子特異的プロモーター(アブラナのナピンプロモーター)の制御下にあるFad6 cDNAを含む構築物による形質転換を行った。品種Iのアマ(Normandy種)は伝統的な産業用脂肪種子作物であり、これに対して品種II(Solin種)は、品種Iの化学的変異誘発に由来する食用脂肪種子作物である。合計12種のトランスジェニック植物を作製した。トランスジェニック体の大半は、保持時間がGLAおよびSDAのものに対応する2つの新規脂肪酸を示し、それらは全脂肪酸の0.1〜4.3%を占めた(図27)。ソリン(Solin)種のトランスジェニック体におけるGLAレベルはSDAのものよりも高かったが、ノルマンディー(Normandy)種のトランスジェニック体におけるGLAレベルはSDAのものよりも低かった。これは、ソリン種のアマニにおける主要な脂肪酸がリノール酸であり、ノルマンディー種の種子における主要な脂肪酸がリノレン酸であることから理解しうる。
【0156】
実施例13:FAD6のカラシナにおける発現
カラシナ種子においてΔ6不飽和化脂肪酸を産生させるために、カラシナに対して、アマの形質転換に用いたのと同じ構築物、すなわち、アブラナのナピンプロモーターの制御下にFad6がある構築物による形質転換を行った。15種の独立したトランスジェニック植物が得られた。トランスジェニック種子の脂肪酸分析により、大部分のトランスジェニック体のガスクロマトグラムには、野生型対照と比べて3種の新たな脂肪酸が生じていることが示された(図20)。この3種の脂肪酸は18:2(6,9)および18:3(6,9,12)および18:4(6,9,12,15)と同定された。カラシナはアマと同様に、P.イレギュラレ由来のFad6を機能的に発現し、内因性基質18:1(9)、18:2(9,12)および18:3(6,9,12)の6位に二重結合を導入して、トランスジェニック種子において対応する3種のΔ6脂肪酸の産生をもたらすことが可能である。トランスジェニック種子で産生される3種の新たな脂肪酸のうち、最も存在量が多いのはGLAであり、トランスジェニック種子におけるレベルは全脂肪酸の30%〜38%である。次に存在量の多い成分はSDAであり、これは複数のトランスジェニックにおいて全脂肪酸の3〜10%を占めている(図21)。
【0157】
トランスジェニック種子の脂肪酸組成を図22に示している。Δ6不飽和化脂肪酸の高レベル産生が、2つの主要な脂肪酸であるリノール酸およびリノレン酸を代償にしていることが明らかである。トランスジェニック体におけるオレイン酸およびステアリン酸の割合は野生型対照よりも幾分低いが、有意差はなかった。トランスジェニック体におけるリノール酸の含有量は著しく減少していた。形質転換されていない野生型では、リノール酸が種子内の全脂肪酸の40%以上を占める。トランスジェニック体では、そのレベルは10%未満に低下した。トランスジェニック体におけるリノール酸の減少と比較すると、トランスジェニック体におけるリノレン酸の減少の著しさは落ちるが、それでも有意であった。形質転換されていない野生型では、リノレン酸は種子内の全脂肪酸の10%以上を占めるが、トランスジェニック体ではそのレベルが5%未満に低下した。トランスジェニック種子で著しく減少した2種類の脂肪酸はΔ6不飽和化酵素の基質であり、この減少は対応する2つのΔ6不飽和化脂肪酸の産生を代償としたものである。
【0158】
等価物
当業者は、定型的な範囲の実験により、本明細書に記載された特定の態様の等価物を認識する、または確認しうると考えられる。このような等価物は特許請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium sp.)由来のFad4のDNA配列およびタンパク質配列を示している;(A)オープンリーディングフレームのcDNA配列(配列番号:1);および(B)翻訳されたタンパク質配列(配列番号:2)。
【図2】ヤブレツボカビ属由来のFad5のDNA配列およびタンパク質配列を示している;(A)オープンリーディングフレームのcDNA配列(配列番号:3);および(B)翻訳されたタンパク質配列(配列番号:4)。
【図3】ヤブレツボカビ属由来のFad4およびFad5タンパク質配列(それぞれ配列番号:2および4)の比較を示している。縦線はアミノ酸の一致を示す。シトクロムb5ヘム結合モチーフおよびヒスチジンリッチモチーフなどの保存的モチーフを強調している。2つの矢印は、2つの縮重プライマーの結合位置を示している。
【図4】ピチウム・イレギュラレ(Pythium irregulare)由来のFad5-2のDNA配列およびタンパク質配列を示している;(A)オープンリーディングフレームのcDNA配列(配列番号:5);および(B)翻訳されたタンパク質配列(配列番号:6)。
【図5】ピチウム・イレギュラレ由来のFad6DNA配列およびタンパク質配列を示している;(A)オープンリーディングフレームのcDNA配列(配列番号:7);および(B)翻訳されたタンパク質配列(配列番号:8)。
【図6】ピチウム・イレギュラレ由来のFad5-2およびFad6タンパク質配列(それぞれ配列番号:6および8)の比較を示している。縦線はアミノ酸の一致を示す。シトクロムb5ヘム結合モチーフおよびヒスチジンリッチモチーフなどの保存的モチーフを強調している。2つの矢印は、2つの縮重プライマーの結合位置を示している。
【図7】Fad4を外因性基質22:5(n-3)とともに発現している酵母Invsc2株由来の脂肪酸メチルエステル(FAME)に対するガスクロマトグラフィー(GC)分析を示している。
【図8】図7中の新たなピークのFAMEに対するガスクロマトグラフィー/質量分析(MS)分析を示している;(A)Fad4産物;(B)DHA(22:6、n-3)標準物質。
【図9】Fad4を外因性基質 22:4(n-6)とともに発現している酵母Invsc2株由来のFAMEに対するGC分析である。
【図10】図9中の新たなピークのFAMEに対するGC/MS分析である;(A)Fad4産物;(B)DPA(22:5、n-6)標準物質。
【図11】Fad5を外因性基質 20:3(n-6)とともに発現している酵母Invsc2株由来のFAMEに対するGC分析である。
【図12】図11中の新たなピークのFAMEに対するGC/MS分析である;(A)Fad5産物;(B)AA(20:4-5,8,11,14)標準物質。
【図13】Fad5-2をそれぞれ外因性基質18:1-9(上の図)および18:1-11(下の図)とともに発現している酵母AMY2α株由来のFAMEに対するGC分析である。
【図14】Fad6を外因性基質18:2(9,12)とともに発現している酵母Invsc2株由来のFAMEに対するGC分析である。
【図15】図14による新たなピークの誘導体に対するMS分析である。新たな脂肪酸のジエチルアミドの構造を、このアミド部分を含むイオンに関するm/z値とともに示している。m/zが156/168、196/208および236/248である3対のイオンはそれぞれΔ6、Δ9およびΔ12位に二重結合がある指標となる。
【図16】35Sプロモーターの制御下にあるFad4を、外因的に供給した基質22:5(n-3)とともに発現しているカラシナ(Brassica juncea)の葉由来のFAMEに対するGC分析である。
【図17】35Sプロモーターの制御下にあるFad5-2を有する、1つのトランスジェニックT1系統の植物組織(葉、茎および根)の脂肪酸組成を示している。脂肪酸レベルは、カラシナ(B. juncea)の全脂肪酸に占める重量百分率として示している。
【図18】Fad5-2を外因性基質ホモ-γ-リノレン酸(HGLA、20:3-8,11,14)とともに発現しているカラシナの根FAMEに対するGC分析である。
【図19】ナピンプロモーターの制御下にあるFad5-2を発現しているカラシナの種子から調製したFAMEに対するGC分析である。
【図20】Fad6を発現しているカラシナ由来の種子FAMEに対するGC分析である。3つの新たなピークは、トランスジェニック種子に3種のΔ6不飽和化脂肪酸があることを示している。
【図21】カラシナのFad6トランスジェニック種子に蓄積しているGLA(γ-リノレン酸)およびSDA(ステアリドン酸)の重量百分率を示している。
【図22】Fad6を発現している5種のトランスジェニック系統由来の種子脂質の脂肪酸組成を示している;SA=ステアリン酸;OA=オレイン酸;LA=リノール酸;GLA=γ-リノレン酸;ALA=α-リノレン酸;SDA=ステアリドン酸。
【図23】ヤブレツボカビ属の脂肪酸プロファイルを示した表である。
【図24】ピティウム・イレギュラレ(Pythium irregulare)の脂肪酸プロファイルを示した表である。
【図25】酵母AMY-2α/pFad5-2株における外因性脂肪酸の変換を示した表である。
【図26】ナピン(Napin)プロモーターおよびアマニ特異的(Cln)プロモーターの制御下にあるFad5-2を発現しているトランスジェニックアマニにおけるΔ5-不飽和化ポリメチレン中断型脂肪酸(Δ5-UPIFA)の蓄積を示した表である。脂肪酸レベルは全脂肪酸に占める重量百分率として示している。
【図27】ナピンプロモーターの制御下にあるFad6を発現しているトランスジェニックアマニ(ソリン(Solin)種およびノルマンディー(Normandy)種)におけるΔ6不飽和化脂肪酸の蓄積を示した表である。脂肪酸レベルは全脂肪酸に占める重量百分率として示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される、単離された核酸分子:
(a)配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5または配列番号:7に示したヌクレオチド配列を含む核酸分子;
(b)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6または配列番号:8に示したアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;および
(c)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6または配列番号:8に示したアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然の対立遺伝子バリアントをコードする核酸分子。
【請求項2】
以下からなる群より選択される、単離された核酸分子:
(a)配列番号:1、3、5、7のヌクレオチド配列またはそれらの相補物との同一性が少なくとも70%であるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
(b)配列番号:1、3、5、7のヌクレオチド配列またはそれらの相補物を含む核酸の少なくとも30ヌクレオチドの断片を含む核酸分子;
(c)配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも約50%であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;および
(d)配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む断片である、配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードする核酸分子。
【請求項3】
請求項1または2記載の核酸分子の相補物とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、単離された核酸分子。
【請求項4】
請求項1または2記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項5】
発現ベクターである、請求項4記載のベクター。
【請求項6】
請求項5記載の発現ベクターをトランスフェクトした宿主細胞。
【請求項7】
植物細胞、微生物細胞および動物細胞からなる群より選択される、請求項6記載の宿主細胞。
【請求項8】
植物細胞が、アマ(アマ属(Linum sp.))、ナタネ(アブラナ属(Brassica sp.))、ダイズ(ダイズ属(Glycine and Soja sp.))、ヒマワリ(ヒマワリ属(Helianthus sp.))、ワタ(ワタ属(Gossypium sp.))、トウモロコシ(ズィー・メイス(Zea mays))、オリーブ(モクセイ科(Olea sp.))、ベニバナ(ベニバナ属(Carthamus sp.))、カカオ(テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao))およびラッカセイ(ラッカセイ属(Arachis sp.))からなる群より選択される脂肪種子作物から得られる細胞である、請求項7記載の宿主細胞。
【請求項9】
微生物細胞が、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium)、ピティウム・イレギュラレ(Pythium irregulare)、スキゾキトリウム(Schizochytrium)およびクリテコジニウム(Crythecodinium)からなる群より選択される、請求項8記載の宿主細胞。
【請求項10】
ポリペプチドを産生させるために請求項6記載の宿主細胞を培養する段階を含む、ポリペプチドの生産方法。
【請求項11】
以下からなる群より選択される、単離されたポリペプチド:
(a)配列番号:2、4、6または8の少なくとも10個の連続したアミノ酸を含む断片である、配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片;
(b)配列番号:1、3、5または7からなる核酸分子の相補物とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドである、配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然の対立遺伝子バリアント;
(c)配列番号:1、3、5または7のヌクレオチド配列を含む核酸との同一性が少なくとも70%であるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるポリペプチド;および
(d)配列番号:2、4、6または8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも60%であるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項12】
配列番号:2、4、6または8記載のアミノ酸配列を含む、請求項11記載の単離されたポリペプチド。
【請求項13】
不飽和脂肪酸の生産方法であって、請求項1または2記載の単離された核酸分子による細胞のトランスフェクションおよび形質転換を行う段階、ならびに不飽和脂肪酸が産生される条件下で細胞を培養または栽培する段階を含む方法。
【請求項14】
細胞が植物細胞、動物細胞および微生物細胞からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
植物が脂肪種子作物から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
脂肪種子作物が、アマ(アマ属)、ナタネ(アブラナ属)、ダイズ(ダイズ属(Glycine and Soja sp.))、ヒマワリ(ヒマワリ属)、ワタ(ワタ属)、トウモロコシ(Zea mays)、オリーブ(モクセイ科)、ベニバナ(ベニバナ属)、カカオ(Theobroma cacao)およびラッカセイ(ラッカセイ属)からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
不飽和脂肪酸を回収する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項18】
不飽和脂肪酸が、GLA 18:3(6,9,12)、SDA 18:4(6,9,12,15)、AA 20:4(5,8,11,14)、EPA 20:5(5,8,11,14,17)、DPA 22:5(4,7,10,13,16)およびDHA 22:6(4,7,10,13,16,19)からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項19】
不飽和脂肪酸の生産方法であって、少なくとも1つの不飽和化酵素標的分子を含む組成物を、請求項11または12記載の少なくとも1つの単離されたポリペプチドと、不飽和脂肪酸が生成される条件下で接触させる段階を含む方法。
【請求項20】
不飽和脂肪酸を回収する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
不飽和脂肪酸が、GLA 18:3(6,9,12)、SDA 18:4(6,9,12,15)、AA 20:4(5,8,11,14)、EPA 20:5(5,8,11,14,17)、DPA 22:5(4,7,10,13,16)およびDHA 22:6(4,7,10,13,16,19)からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
不飽和脂肪酸を産生しうる細胞の作製方法であって、脂肪酸アシル鎖における二重結合の形成を触媒する活性を有する不飽和化酵素をコードする核酸分子である、請求項1または2記載の核酸分子を該細胞に導入する段階を含む方法。
【請求項23】
細胞が、植物細胞、動物細胞および微生物細胞からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
植物細胞が脂肪種子植物由来の細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
脂肪種子植物が、アマ(アマ属)、ナタネ(アブラナ属)、ダイズ(ダイズ属(Glycine and Soja sp.))、ヒマワリ(ヒマワリ属)、ワタ(ワタ属)、トウモロコシ(Zea mays)、オリーブ(モクセイ科)、ベニバナ(ベニバナ属)、カカオ(Theobroma cacao)およびラッカセイ(ラッカセイ属)である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
不飽和脂肪酸が、GLA 18:3(6,9,12)、SDA 18:4(6,9,12,15)、AA 20:4(5,8,11,14)、EPA 20:5(5,8,11,14,17)、DPA 22:5(4,7,10,13,16)およびDHA 22:6(4,7,10,13,16,19)からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項27】
不飽和脂肪酸の生産を調節するための方法であって、不飽和脂肪酸の産生の調節が起こるように請求項6記載の細胞を培養する段階を含む方法。
【請求項28】
不飽和脂肪酸の産生が増強される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
不飽和脂肪酸が、GLA 18:3(6,9,12)、SDA 18:4(6,9,12,15)、AA 20:4(5,8,11,14)、EPA 20:5(5,8,11,14,17)、DPA 22:5(4,7,10,13,16)およびDHA 22:6(4,7,10,13,16,19)からなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項30】
産生された不飽和脂肪酸を回収する段階をさらに含む、請求項27記載の方法。
【請求項31】
不飽和脂肪酸の大規模生産のための方法であって、不飽和脂肪酸が産生されるように請求項6記載の細胞を培養する段階を含む方法。
【請求項32】
不飽和脂肪酸の産生が増強される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
不飽和脂肪酸が、GLA 18:3(6,9,12)、SDA 18:4(6,9,12,15)、AA 20:4(5,8,11,14)、EPA 20:5(5,8,11,14,17)、DPA 22:5(4,7,10,13,16)およびDHA 22:6(4,7,10,13,16,19)からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項34】
産生された不飽和脂肪酸を回収する段階をさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項35】
請求項11または12記載のポリペプチドを含む組成物。
【請求項36】
請求項13記載の方法によって生産されたポリペプチドを含む組成物。
【請求項37】
請求項19記載の方法によって生産されたポリペプチドを含む組成物。
【請求項38】
請求項22記載の方法によって作製された細胞を含む組成物。
【請求項39】
動物飼料中に用いられる、請求項35記載の組成物。
【請求項40】
動物飼料中に用いられる、請求項36記載の組成物。
【請求項41】
栄養補助食品として用いられる、請求項36記載の組成物。
【請求項42】
ヒトまたは動物の食事を補うための方法であって、請求項35記載の組成物を投与する段階を含む方法。
【請求項43】
障害を有する患者の治療方法であって、患者が治療されるように請求項35記載の組成物を投与する段階を含む方法。
【請求項44】
障害が、ストレス、糖尿病、癌、炎症性疾患および心血管疾患からなる群より選択される、請求項43記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2009−148297(P2009−148297A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76067(P2009−76067)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【分割の表示】特願2006−151242(P2006−151242)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(503117885)バイオリジナル フード アンド サイエンス コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】