説明

脂質の質と量の全体像を把握する方法

【課題】脂質全の状況を専門家でない患者または健診受診者にも理解しやすい形で提供し健康管理の支援を行う。
【解決手段】レーダーチャートにより脂質の質と量の検査結果を一度に表し、ひと目で脂質全の状況が わかるようにし、総合的に動脈硬化や心筋梗塞のリスクを一目で把握できるようにする。脂質の量的には正常だが質的にリスクが高いという場合や、逆に脂質の量的には若干高いが質的に異常がなくリスクが低い場合などを判断できる様にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
病院や健診センターおよび登録衛生検査所における臨床検査結果報告書などの表記方法に関する分野。
【背景技術】
【0002】
従来よりレーダーチャートは、情報を解かり易く表現する方法として折線グラフや円グラフ、棒グラフなどと同じく広く一般に使われている。
医療分野についても、いろいろな臨床所見や検査結果の統計的表現として、学会発表や報告書などで日常的に使われている。しかしこれらの報告書は医師である専門家向けに報告するものとされ、検査結果の羅列で概ね事足りていた。また個人向けの健診結果報告書の場合についても、多数の測定項目の検査結果がただ数値として羅列されている場合が殆どであった。
【0003】
最近、生活習慣病として高血圧、糖尿病、高脂血症が定着してきている。
高血圧、糖尿病については個人で血圧計や尿糖あるいは血糖検査を自己検査する事が出来るようになってきている。しかし高脂血症については、血液検査で病院の診療や健診検査を受けない限り、高脂血症かどうかは分からない。
【0004】
高脂血症については、健診結果や一般に市販されている医学関係の解説書籍などを見る限り、全て脂質の量を中心に書かれている。非特許文献1の日経メデイカル誌1997年6月号の特集記事には、高脂血症の治療の目的は動脈硬化を予防し心筋梗塞を起さないためになされるものであり、そのためには脂質の量ばかりではなく脂質の質の検査も大切であると記載されている。
【0005】
高脂血症においては、ごく一部の専門の医師の間でのみ脂質の量と質の両面を見て診療に役立てている。この脂質の質を見る検査法は手間と時間がかかることおよびその判定がごく少数の専門医でないと出来ないという問題点があり、特に健診領域にこれらは普及していなかった。
【0006】
また血清の濁り度は、一般的に乳ビ血清または乳ビ血漿とよばれ、病院等の臨床検査室では濁り度+1や+2と目視で表現する方法が採られていた。
【0007】
参考文献
非特許文献1 高脂血症治療の曲がり角、日経メデイカル誌 1997年6月号、60−69
非特許文献2 田代淳他:家族性高コレステロール血症における Midbandの意義、動脈硬化、Vol.15,No.8,1561−1564,1988
非特許文献3 三島康男他:ベザフィブレート徐放錠投与の血清脂質、リポ蛋白電気泳動に及ぼす影響、Therapeutic Research,vol,14,no.10,4489−4497,1993
非特許文献4 三島康男他:簡便なPAG電気泳動キットを用いたLDL粒子サイズの推定、動脈硬化,vol.25,no.1・2,67−70,1997
非特許文献5 平野 勉:新しいSmall,dense LDL定量法、日本臨床検査自動化学会誌、第29巻第2号、81−87、2004年7月26日
特許文献1 特願2003−387226
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、脂質の質と量を1つのレーダーチャートで一緒に表現し個人の脂質の全体像を把握し易くするための方法を提供するものである。脂質の質の検査としては非特許文献1、2、3にあるようなポリアクリルアミドゲルデイスク電気泳動像の分析結果を利用して、リポ蛋白粒子であるVLDL,LDL,HDLやミッドバンドと呼ばれるIDLや小粒子LDLと呼ばれるSmall LDL等を使用する。また脂質の量の検査としては一般的な検査として日常的に使われている総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪等を利用する。また糖尿病は脂質代謝と関連が強く血糖値やヘモグロビンA1Cなども関連検査として利用することも可能である。この脂質や糖質の量の測定法については病院検査関係者や専門者間では余りにもよく知られているのでここでは省略する。
【0009】
肥満度については、肥満を診察している医師の間では最も一般的な指標であるBMI(標準体重、ボデイマス・インデックス、日本肥満学会)を使用する。BMIは、体重/(身長×身長)で表され18.5〜25未満が正常で、25以上は肥満ということになる。逆に18.5未満がやせぎみと言われている。
【0010】
血清の濁り度を表現する方法については、一般的には検査技師の目視により+1や+2と表現されている。これは個人的感覚的な部分が多すぎるので、本願発明ではJIS K−0400−9−10で濁度の指標とされているホルマジン濁度を使用するが、目視判定結果でも同じようなチャートが書ける。
【0011】
これらの従来の脂質の質と量の検査は今まではそれぞれ単独で使われていたが、本願発明ではこれらを関連させたレーダーチャートを用いることで、専門家はもとより、動脈硬化や高脂血症に興味のある一般の人でも簡単に自身の脂質の質と量の状態を知ることができるようになった。
【0012】
レーダーチャートは多変量のデータ解析法であり、結果の解釈に直結するグラフとして統計学では広く一般に使われている。
このレーダーチャートを、脂質の質と量の解析に使用することは、今まで曖味であった脂質の全体像の把握に大きなインパクトを与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明は脂質の質の検査結果と量の検査結果の他、肥満度や血液の濁り度である乳ビ値をそれぞれ変数として選びレーダーチャートを構成させた。
脂質の質の検査としては、ポリアクリルアミドゲルデイスク電気泳動法の結果からリポ蛋白質のミッドバンド(IDLとも言う)および小粒子LDL(Small LDLとも言う)の情報を変数軸として選ぶ。質の検査法として最近発表された非特許文献5によるリポ蛋白沈殿法を変数として取り入れても差し支えない。また、VLDL,LDL,HDLそれぞれもその存在比率は、脂質の正常者と異なる脂質異常者がいるのでそれも変数軸に取り上げることも可能である。
【0014】
脂質の量の検査としては、一般的に使われている総コレステロール値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値を変数に選ぶ。脂質の量の検査法として何種類かのアポ蛋白質を変数の一つとして取り上げても何ら差し支えない。また脂質代謝に関係があるLDLリパーゼなどの酵素の定量値、さらに関連検査として血糖値、ヘモグロビンA1C等の糖質の検査も追加してもよい。
【0015】
各変数の基準の取り方として、まず脂質の量の診断基準として動脈硬化学会で示された値を健常値の上限とする。たとえば上限をそれぞれ総コレステロール値は220mg/dL、LDLコレステロール値は140mg/dLとし、中性脂肪値は150mg/dLとする。またHDLコレステロール値の下限は40mg/dLとする。
肥満度も一般的に専門医の間で推奨されている25を健常の上限とし18.5未満がやせぎみとする。この数字そのものは時代の趨勢で変わることもある。
乳ビ量については、今まで目視で判定していたものをJISで濁度の基準とされたホルマジン濃度を使う。従来の検査技師の主観による目視判定の+1、+2、+3という値を使用しても差し支えない。脂質の臨床検査としては、普通採血は12時間程度の絶食後の採血が望ましいとされ、脂質正常者の血清もしくは血漿は透明であり濁り度はないと言われている。従ってレーダーチャートでは正常基準輪以下にデータは存在しない。
【0016】
脂質の質の判定方法について、通常脂質の正常者には脂質の質の異常は原則無いのが普通であり、質的異常の出現はすなわち正常でないと言うことになる。この異常出現の判定については、非特許文献4に詳しく記載されている。いわゆるミッドバンド(IDLとも言う、大粒子LDLを指すこともある)の中央値のMIインデックスが0.2のグループを指し、小粒子の中央値のMIインデックスが0.41のグループを指しそれぞれの存在%値を変数軸にプロットしてレーダーチャートを構成させる。
小粒子LDLの中央値のMIインデックスが0.35以上では小粒子の可能性があると指摘されていることから、ここに記載した0.2もしくは0.41値は必ずしも固定されたものではない。
【0017】
MIインデックスの名称については、報告した医師により若干意味合いは違う。電気泳動的に荷電量もしくはサイズを現すものとして専門家の間で古くから使われていたRm値とかRf値を使用しても差し支えない。
【0018】
レーダーチャートの正常基準輪に対し、個人の測定値の採りかた方は2通りあり、ここでは基準輪より凸の部分が異常とする方式を採用した。基準輪より内側に凹の部分を異常とするレーダーチャートも想定できる。
【0019】
脂質代謝は血糖の代謝も深い関係にあり、高脂血症においては糖尿病の患者が多数存在する。糖尿病患者の脂質の全体像を掴むには、血糖とヘモグロビンA1Cおよび1・5AGまたはフルクトサミンの定量値をレーダーチャートに加え糖尿病管理に使用することも可能である。
【0020】
脂質の質と量のレーダーチャートの見方としてたとえば図1の場合、(1)〜(5)の脂質の量において正常基準輪(9)を一部越えていても、脂質の質である(6)〜(8)が正常である場合は、心筋梗塞のリスクは低いと判断でき、また逆に(1)〜(5)の脂質の量において正常基準輪(9)以内であったとしても、脂質の質である(6)〜(8)が異常である場合は、心筋梗塞のリスクを否定できないことになる。
【実施例1】
【0021】
図1に8個の変数軸を持ったレーダーチャートを示す。上段に肥満度(1)をとり右回りに総コレステロール(2)を次にLDLコレステロール(3)、(4)にHDLコレステロールを、(5)に中性脂肪、(6)に乳ビ量を(7)に小粒子LDL、(8)にミッドバンド(IDLとも言う)を選んだ。中央の波線の輪(9)は正常者の脂質の全体像いわゆる正常基準輪である。
(2)から(6)までが脂質の量を現し、(7)と(8)が脂質の質を現している。(6)の乳ビ量、(7)の小粒子LDL、(8)のミッドバンド(IDLとも言う)は、正常者では出現しない部分でそれを斜線(10)で示した。(11)の太い実践は、健診患者Aの脂質レーダーチャートの例で、この患者は総コレステロール(1)とLDLコレステロール(2)は若干高いが、脂質の質である小粒子LDL(7)とミッドバンド(8)は正常であり心筋梗塞等のリスクは少ないことを示している。
【実施例2】
【0022】
図2に6個の変数軸を持ったレーダーチャートを示す。上段に総コレステロール(12)を次にLDLコレステロール(13)、(14)にHDLコレステロールを、(15)に中性脂肪、(16)に小粒子LDL、(17)にミッドバンドを選んだ。(18)は正常基準輪である。。(12)から(15)までが脂質の量を現し、(16)と(17)が脂質の質を現している。
(19)が健診患者Bのレーダーチャートによる分析結果であり、脂質の量は正常だが(17)のミッドバンド(IDLともいう)が少し出ており動脈硬化のリスクがあることを示している。
【実施例3】
【0023】
図3に8個の変数軸を持ったレーダーチャートを示す。上段に総コレステロール(20)を次にLDLコレステロール(21)、(22)にHDLコレステロールを、(23)に中性脂肪、(24)に血糖値、(25)にヘモグロビンA1Cを、(26)に小粒子LDL、(27)にミッドバンドを選んだ。
(28)は脂質と糖質の正常基準輪である。(20)から(25)までが脂質および糖質の量を現し、(26)と(27)が脂質の質を現している。
(29)が健診患者Cのレーダーチャートによる分析結果であり、脂質と量および糖尿病指標は正常者を上回っておりリスクが高いことが明白である。
【実施例4】
【0024】
図4に脂質の質について6個の変数軸を持ったレーダーチャートを示す。上段にVLDL(30)を右回りにミッドバンドまたはIDL(31)、LDL(32)、小粒子LDLまたはSmall LDL(33)、HDL(34)、乳ビ(35)をとった。IDL(31)とSmall LDL(33)および乳ビ(35)は正常者には検査結果が存在しないので(36)の正常基準輪の内側は斜線(37)で塗りつぶした。
(38)が健診患者Dのレーダーチャートによる分析結果であり、脂質の質全般にわたって異常を示している。しかし血液の濁りの指標である乳ビ(35)が無い症例である。
【発明の効果】
【0025】
本願発明は非特許文献1に「高脂血症を治療する最大の目的は冠疾患の予防にある。ところが最近、循環器の専門家からの間から、高脂血症患者を治療しても期待したほどの成果があがっていないのではないか。」と特集記事が掲載されてから久しい。専門家さえこのような疑問の声がある現在、一般的な脂質量の測定結果を中心とする検診だけで「心筋梗塞の心配ないです」と果たして言えるかという疑問がある。
【0026】
脂は水に溶けないことは明白で、血液中では必ず粒子状のリポ蛋白質構成成分の1部として存在している。このリポ蛋白質の存在形態すなわち粒子状態を調べるのがいわゆる脂質の質の検査と言うことになる。このリポ蛋白粒子が代謝不良や過剰状態により質的異常を起こし結局、動脈硬化や高脂血症を発症すると言われている。勿論脂質の質だけでなく量的異常は一般的に悪玉・善玉コレステロールとしてよく知られているように、重要な指標であることには異存を挟む余地はない。
【0027】
この重要な脂質の質と量は、同時に見ることこそ価値があり、現在一部の専門家はこの事実を診療に役立てている。何故一部の専門家しか診療に役立っていないかというと、脂質の質の検査はまだ余り普及していないためである。
最近自己の健康は自分で守る自己責任の時代を迎え、たとえ検診の結果であっても、個人の健康状態について真実の姿を知っておくことは、動脈硬化の予防に必ずつながる。今後は患者がもっと積極的に自分の健康維持に注意を払うべきその道具の1つを本願発明は提供することとなる。
【0028】
脂質の質と量の検査結果を、対比させて表記したものは今までになく、例え量的に異常であっても質的に異常が無かったり、量的には健常であっても質的に異常がある場合もある。本願発明の「脂質の質と量の全体像を把握する方法」が普及する事で、高脂血症がより理解されかつ健康に対する認識が高まる。
言い換えるならば、本願発明の普及により、現在行われている脂質の量的異常だけを見て悪玉とか善玉という不完全な常識を打破出来ることになり、患者や一般の人もこれらの真実を認識を新たにし、結果的に適切な高脂血症治療を受けることができ、医療費の増大を防止し、健康の維持に貢献することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】 8個の変数軸を持った脂質のレーダーチャート
【図2】 6個の変数軸を持った脂質のレーダーチャート
【図3】 8個の変数軸を持った脂質と糖質のレーダーチャート
【図4】 6個の変数軸を持った脂質の質のレーダーチャート
【符号の説明】
【0030】
(1)肥満度
(2)総コレステロール値
(3)LDLコレステロール値
(4)HDLコレステロール値
(5)中性脂肪値
(6)乳ビ値
(7)小粒子LDL
(8)ミッドバンド(IDL)
(9)正常基準輪
(10)正常人では出現しない部分
(11)健診患者Aの結果
(12)総コレステロール値
(13)LDLコレステロール値
(14)HDLコレステロール値
(15)中性脂肪値
(16)小粒子LDL
(17)ミッドバンド
(18)正常基準輪
(19)健診患者Bの結果
(20)総コレステロール値
(21)LDLコレステロール値
(22)HDLコレステロール値
(23)中性脂肪値
(24)血糖値
(25)ヘモグロビンA1C
(26)小粒子LDL
(27)ミッドバンド(IDL)
(28)正常基準輪
(29)健診患者Cの結果
(30)VLDL
(31)IDL
(32)LDL
(33)Small LDL
(34)HDL
(35)乳ビ
(36)正常基準輪
(37)患者の検査結果が存在しない部分
(37)健診患者Dの結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質の質と量を1つのレーダーチャートで表記しひと目で脂質全体の状況がわかるようにした事を特長とする脂質の質と量の全体像を把握する方法
【請求項2】
脂質の質の検査結果として、リポ蛋白電気泳動法の分析結果であるVLDLやミッドバンド、LDL、小粒子LDL、HDLの内少なくとも2種類以上をレーダーチャートに取り入れたことを特長とする請求項1の脂質の質と量の全体像を把握する方法
【請求項3】
脂質または糖質の量の検査結果として、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、血糖値、ヘモグロビンA1Cの測定値の内少なくとも2種類以上をレーダーチャートに取り入れたことを特長とする請求項1の脂質の質と量の全体像を把握する方法
【請求項4】
脂質代謝の1つの表現である肥満度をレーダーチャートに取り入れたことを特長とする請求項1の脂質の質と量の全体像を把握する方法
【請求項5】
血液の脂質による濁り度である乳ビ量を目視判定またはホルマジン濃度で表しそれをレーダーチャートに取り入れたことを特長とする請求項1の脂質の質と量の全体像を把握する方法
【請求項6】
脂質の質として、酸化LDLの量または酸化HDLの量をレーダーチャートに取り入れたことを特長とする請求項1の脂質の質と量の全体像を把握する方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−43360(P2006−43360A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247545(P2004−247545)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(504209091)株式会社明日香特殊検査研究所 (2)
【Fターム(参考)】