説明

脂質代謝調整剤

【課題】肝臓の脂肪酸合成系酵素群の発現を抑制し、活性を低下させ、トリアシルグリセロールおよびコレステロール量を減少させる脂質代謝調整剤を提供する。本発明は、肥満、脂肪肝の予防または改善に有用な脂質代謝調整剤として、医薬品、食品産業のほか、動物飼料産業、などに広く利用される。
【解決手段】炭素数20〜36の高級脂肪族アルコールを有効成分として含有し、脂肪酸合成系酵素の発現を低下させることを特徴とする脂質代謝調整剤。脂肪酸合成系酵素が、脂肪酸シンターゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ATP−クエン酸−リアーゼ、リンゴ酸酵素、ピルビン酸キナーゼ、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼである脂質代謝調整剤。高級脂肪族アルコールの平均粒径が1〜150μmであり、粉末状である脂質代謝調整剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数20〜36の高級脂肪族アルコールを有効成分として含む脂質代謝調整剤に関する。詳しくは、肝臓の脂肪酸合成系酵素群の発現を抑制し、活性を低下させ、トリアシルグリセロールおよびコレステロール量を減少させる脂質代謝調整剤に関する。本発明は、肥満、脂肪肝の予防または改善に有用な脂質代謝調整剤として、医薬品、食品産業のほか、動物飼料産業、などに広く利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
肝臓の働きは、栄養過多または運動不足によるエネルギー消費の低下時に、グルコースから脂肪酸を合成し、トリアシルグリセロールの形で中性脂肪として蓄積する。肥満は、このような脂肪が過剰蓄積する病態であり、この状態になると糖尿病,高脂血症,循環器疾患,関節炎、脂肪肝などいわゆる成人病が合併して多く見られることになる。したがって、脂肪合成能を阻害し脂肪蓄積を軽減することによってこれら病態の治療および予防が可能であると考えられる。
脂肪酸合成阻害剤としては、FA−4248(特許文献1)、1−フェニルピロリドン誘導体(特許文献2)、リグナン類化合物(特許文献3)等が知られている。しかし、これらの化合物は微生物の代謝物であり、投与方法によっては副作用が問題となり、長期的な使用には適していなかった。
【0003】
高級脂肪族アルコールは、天然界においては、高級脂肪酸とエステル結合した化合物として存在している。高級脂肪族アルコールは、抗ストレス(特許文献4)、高コレステロール症の改善(特許文献5)が報告され天然由来の副作用のない安全な機能素材として注目されつつある。
高級脂肪族アルコールの抗高コレステロール症効果において、その作用機序としてコレステロール合成経路の律速反応であるHMG−CoA還元酵素の発現抑制が推察されているが(非特許文献1)、脂肪酸合成を抑制することは見出されていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−198687号公報
【特許文献2】WO94/0667公報
【特許文献3】特開平3−27319号公報
【特許文献4】特開2004−292355号公報
【特許文献5】特開平06−192072号公報
【非特許文献1】Medical Hypotheses (2002) 59(3), 268-279
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、前記の問題点に鑑み鋭意検討した結果、高級脂肪族アルコールが、肝臓中の脂肪酸合成経路における酵素群の発現を低下し、酵素の活性を抑制することを見いだし、更には、肝臓中のトリアシルグリセロールおよびコレステロール量を低下することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、次の(1)〜(3)である。
(1)炭素数20〜36の高級脂肪族アルコールを有効成分として含有し、脂肪酸合成系酵素の発現を低下させることを特徴とする脂質代謝調整剤である。
(2)脂肪酸合成系酵素が、脂肪酸シンターゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ATP−クエン酸−リアーゼ、リンゴ酸酵素、ピルビン酸キナーゼ、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼである前記(1)の脂質代謝調整剤である。
(3)高級脂肪族アルコールの平均粒径が1〜150μmであり、粉末状である前記(1)または(2)の脂質代謝調整剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高級脂肪族アルコールを有効成分として含有する脂質調整剤によれば、肝臓中の脂肪酸合成経路における酵素群の発現を低下し、酵素の活性を抑制することができる。そして、肝臓中のトリアシルグリセロールおよびコレステロール量を低下することができるので、肥満の抑制、または肥満から引き起こされる糖尿病,高脂血症,循環器疾患,関節炎、脂肪肝などいわゆる成人病などの予防または改善に有効である脂質代謝調整剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の高級脂肪族アルコールは、天然ワックスより分離精製される。天然ワックスとしては、炭素数20〜36の高級脂肪族アルコールを構成成分とする天然ワックスであれば特に限定されないが、動物、植物、微生物由来のワックスが挙げられ、好ましくは高含量の長鎖アルコールを構成成分として有するワックスが挙げられる。例えば、植物起源のワックスとしては、米糠ワックス(ライスワックス)、さとうきびワックス、カルナウバワックス、カンデリラワックス、ホホバ油、木ろうなどが挙げられる。また、動物起源のワックスとしては、ビーズワックス(蜜蝋)、マッコウ鯨油、羊毛脂などが挙げられる。これらから選ばれた少なくとも1種を用いることができ、高級脂肪族アルコール(C20〜36)を多く含む、米糠ワックス(ライスワックス)、さとうきびワックス、カンデリラワックス、木ろう、カルナウバワックス、蜜蝋などが好ましい。また、米糠ワックス、さとうきびワックスは、米や米油、砂糖の生産の副産物として大量に発生するため、安価で入手しやすいため、特に好ましい。したがって、本発明で得られる高級脂肪族アルコールとしては、前記のワックスを分解して得られるもので、通常炭素数20〜36の1価および2価の飽和アルコールが挙げられる。具体的には、例えば、エイコサノール(C20、炭素数を示す。以降、同じ)、ドコサノール(C22)、テトラコサノール(C24)、ヘキサコサノール(C26)、オクタコサノール(C28)、ノナコサノール(C29)、ミリシルアルコール(C30)、メリシルアルコール(C31)、ラクセリルアルコール(C32)、セロメリシルアルコール(C33)、テトラトリアコンタノール(C34)、ヘプタトリアコンタノール(C35)、ヘキサトリアコンタノール(C36)、エイコサン1,2−ジオール、ドコサン1,2−ジオール、テトラコサン1,2−ジオール、ドコサン1,3−ジオール、トリコサン1,3−ジオール、テトラコサン1,3−ジオールなどが挙げられる。
これらは、製精し純品として使用できるし、また、これを混合して使用することができる。天然由来の高級アルコール混合物は、そのままで本発明に使用できるので、実施に適している。
代表的な天然由来の組成を表1にまとめる。
【0009】
【表1】

この中でも米糠から得られる高級アルコール混合物は、原料の入手が容易かつ安価なので、本発明の使用に適している。
【0010】
かかる高級脂肪族アルコールは、天然ワックスの加水分解反応等により得ることができる。反応方法は、アルカリ触媒等を用いた化学反応法、リパーゼ等の油脂加水分解酵素を用いた生化学反応法のいずれでもよい。分解生成物である高級脂肪族アルコールの一般的な精製方法は、ヘキサン、アセトン、エタノール等の有機溶剤、または中鎖トリグリセライド(MCT油)等の食品素材を用いて抽出する方法が挙げられるが、本発明にかかる高級脂肪族アルコールの抽出はいずれでもよい。また、高級脂肪族アルコール分子内の水酸基に、一度、エチル基、メチル基等を修飾し、蒸留により分離した後、修飾基を除去する方法もあるが、本発明にかかる高級脂肪族アルコールは、いずれの方法で得られたものでもよい。
【0011】
本発明の脂質代謝調整剤は、かかる高級脂肪族アルコールを有効成分とするものである。本発明の脂肪代謝調整剤は、医薬品又は飲食物とすることが好ましい。医薬品としては経口投与剤が好ましい。経口投与剤とする場合には、その形態に特に制限はなく、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。これらの医薬品は、高級脂肪族アルコールの他に、必要に応じて医薬品の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。
【0012】
飲食物としては、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品が挙げられる。具体的には、高級脂肪族アルコールを配合した調理油、錠剤、顆粒剤、ドレッシング類、マヨネーズ類、合成クリーム類、チョコレートやポテトチップス等の菓子類等が挙げられる。かかる飲食物は、上記高級脂肪族アルコールの他に、飲食物の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加し、常法に従って製造することができる。
本発明の脂質代謝調整剤の、高級脂肪族アルコールの含有量は、0.001〜100質量%であることが好ましい。医薬品として用いる場合は、30〜90質量%が好ましい。飲食物として用いる場合は、0.001〜80質量%が好ましい。
投与量は、高級脂肪族アルコールの効果を有効に発現させるために、成人1人当たり、高級脂肪族アルコールとして、1mg〜10g、好ましくは5mg〜1gを1日1〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0013】
本発明の脂質代謝調整剤において、高級脂肪族アルコールは平均粒径が1〜150μmの粉末状であることが好ましい。平均粒径が150μmを超えると経口による吸収効率が悪くなる。
【0014】
本発明に係る脂肪酸合成系酵素とは、生体内の脂肪酸量を調整するものであり、グルコースから脂肪酸の合成する経路及びトリグリセリド合成の初期反応を指す。すなわち、本発明に係る脂肪酸合成系酵素とは、脂肪酸シンターゼ(FAS)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)、ATP−クエン酸−リアーゼ(ACL)、リンゴ酸酵素(ME)、ピルビン酸キナーゼ(PK)、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(G3PAT)である。
【0015】
脂肪酸シンターゼ(FAS)は、アセチルCoAとマロニルCoAからNADPHを補酵素として脂肪酸を合成する酵素である。
【0016】
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)は、ペント−スリン酸回路の酵素であり、グルコース−6−リン酸とNADPからNADPHと6−ホスホグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。この反応で生成したNADPHは、脂肪酸シンターゼ(FAS)の補酵素として供給される。
【0017】
ATP−クエン酸−リアーゼ(ACL)は、クエン酸をATPとCoAにより開裂して、アセチルCoA、オキサロ酢酸、ADPと正リン酸を生成する反応を触媒する酵素である。この反応により得られたアセチルCoAは、脂肪酸シンターゼ(FAS)に係る反応に供給される。
【0018】
リンゴ酸酵素(ME)は、L-リンゴ酸をNADまたはNADP存在下で脱炭酸し、ピルビン酸を生成する反応を触媒する。この反応は、トリカルボン酸輸送系に係る酵素である。脂肪酸シンターゼ(FAS)で触媒される反応は、サイトソルで行われる。トリカルボン酸輸送系は、ミトコンドリアからサイトソルへアセチルCoAを輸送し、脂肪酸シンターゼ(FAS)に係る反応にアセチルCoAを供給する。
【0019】
ピルビン酸キナーゼ(PK)は、ADPとホスホエノールピルビン酸から、ATPとピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素で、グルコースの解糖系に関する酵素である。この反応から得られたピルビン酸は、トリカルボン酸輸送系に取り込まれる。
【0020】
グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(G3PAT)は、グリセロール3リン酸とアシルCoAからリゾホスファチジン酸を生成する反応を触媒する酵素である。脂肪酸合成系酵素群により生成された脂肪酸は、アシルCoAシンテターゼによりアシルCoAとなり、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(G3PAT)に触媒される反応に取り込まれる。この反応は、トリグリセロール合成の初期反応であり、脂肪酸量の消費に関する。
【実施例】
【0021】
以下、比較例、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
(動物実験1)
比較例1
雄の4週齢SDラット(体重132〜156g)を用いて、1週間の予備飼育後、1群7匹にて下記の試験食を投与し、3週間飼育した。飼育中、試験食、水は自由摂食とした。
コントロール食群:カゼイン(和光純薬(株)製)20質量%、パーム油(日本油脂(株)製)10質量%、コーンスターチ15質量%、セルロース2質量%、ビタミンミックス(日本農産(株)製「AIN−76TMビタミン混合組成」)1質量%、ミネラルミックス(日本農産(株)製「AIN−76TMミネラル混合組成」)3.5質量%、DL−メチオニン(和光純薬(株)製)0.3質量%、コリン酒石酸水素塩(和光純薬(株)製)0.2質量%、スクロース(大日本明治製糖(株)製「グラニュー糖」)48質量%。
【0023】
実施例1〜3
高級脂肪族アルコール添加食群は、高級脂肪族アルコールの添加量を、コントロール食のスクロース量から差し引き下記の試験食を調整した。
雄の4週齢SDラット(体重132〜156g)を用いて、1週間の予備飼育後、1群7匹にて下記の試験食を投与し、3週間飼育した。飼育中、試験食、水は自由摂食とした。
(1)実施例1(0.5%添加食群):高級脂肪族アルコール(日本油脂(株)製「オクタコサノール12−O」)0.5質量%、スクロース(同上)47.5質量%、その他の成分はコントロール食群に同じとした。
(2)実施例2(1.0%添加食群):高級脂肪族アルコール(同上)1.0質量%、スクロース(同上)47.0質量%、その他の成分はコントロール食群に同じとした。
(3)実施例3(2.0%添加食群):高級脂肪族アルコール(同上)2.0質量%、スクロース(同上)46.0質量%、その他の成分はコントロール食群に同じとした。
【0024】
なお、添加した高級脂肪族アルコールの組成は、テトラコサノール(C24)7.4質量%、ヘキサコサノール(C26)8.4質量%、オクタコサノール(C28)14.8質量%、ミリシルアルコール(C30)23.5質量%、ラクセリルアルコール(C32)14.9質量%、テトラトリアコンタノール(C34)8.6質量%、ヘプタトリアコンタノール(C35)2.4質量%、残りはその他の高級脂肪族アルコール類である。高級脂肪族アルコール組成は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。前処理として、トリメチルシリル化し、ガスクロマトグラフィー条件は下記の通り行った。
「ガスクロマトグラフィー条件」
カラム:DB−1(Length:30m、ID:0.32mm、Film:0.25μm、J&Wサイエンティフィック社製)
昇温条件:150℃→(10℃/分)→320℃→(20分)→320℃
カラム流量:2.7mL/分
検出器:FID、検出器温度:320℃、注入口温度:320℃
キャリアーガス:ヘリウム
【0025】
高級脂肪族アルコールの形状は微粉末であり、100メッシュの篩を通過させ、平均粒径は71.3μm((株)島津製作所製、レーザー回折式粒度分布分析装置:SALA−2100)のものを使用した。
【0026】
表2に、実施例、比較例における、飼育の結果を示す。
【0027】
【表2】

【0028】
実験食投与時の摂食量は、比較例1(コントロール食群);457±18(g/3週間、±標準誤差)、実施例1(0.5%添加食群);430±9、実施例2(1.0%添加食群);441±9、実施例3(2.0%添加食群);441±20であり、各群間で有意な差異は認められなかった。飼育開始時と終了時の体重増加量は、比較例1(コントロール食群);190±7(g増加/3週間、±標準誤差)、実施例1(0.5%添加食群);179±5、実施例2(1.0%添加食群);183±8、実施例3(2.0%添加食群);179±9であり、各群間で有意な差異は認められなかった。
表1から、本発明の高級脂肪族アルコールを主成分とする脂質代謝調整剤を長期にわたり投与しても、体重、摂食量、肝臓重量等に特に異常は見られず、本発明の脂質代謝調整剤は安全性が高いことが確認された。
【0029】
次に、本発明の高級脂肪族アルコールを主成分とする脂質代謝調整剤の脂肪酸合成系酵素の発現、活性について検討した。
(mRNAの発現量)
肝臓の約1.5gをGTC溶液(4Mグアニジンチオシアネート,25mMクエン酸ナトリウム,0.5%N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム,0.1Mメルカプトエタノール)15mLに入れ、ポリトロン式ホモジナイザーにより組織を破砕し、AGPC法により、RNAを抽出した。各RNAサンプルの精製度はOD比(260nm/280nm)1.6〜1.8であった。抽出は、実施例2(1.0%投与群)および比較例1(コントロール食群)について行った。各群において、ラット個体のRNA濃度が等量となるように混合し、DNAチップ(アジレント社製「ラット用20,500遺伝子」)による発現量の解析を行った。結果を表3にまとめた。
【0030】
(脂肪酸合成系酵素の活性)
肝臓の約1.3gを切り取り、約10mLの0.25Mスクロース,3mMTris−HCl,1mMEDTA(pH7.2)緩衝液に入れ、速やかにホモジナイズした。ホモジナイズした抽出液を8,000×gで遠心し、更に上清を200,000×gで超遠心した。超遠心の上清を用いて、脂肪酸シンターゼ(FAS)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)、ATP−クエン酸−リアーゼ(ACL)、リンゴ酸酵素(ME)、ピルビン酸キナーゼ(PK)の活性を測定した。超遠心の沈殿物を用いて、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(G3PAT)の活性を測定した。ローリー法により、上清及び沈殿物の総蛋白質重量をそれぞれ測定し、酵素活性値を総蛋白質重量当りで表した。
【0031】
(1)脂肪酸シンターゼ(FAS)測定法;アッセイは、恒温セル室付きの分光光度計を用いて行った。アッセイ溶液は、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0),0.2mMEDTA,0.3mMNADPH,0.05mMアセチルCoA,0.2mMマロニルCoA,2.0質量%酵素測定サンプルで行った(総容量1mL、反応温度30℃)。測定波長は340nmで行い、NADPHの酸化反応を測定した(測定時間150秒間)。具体的な測定操作は、マロニルCoA以外のアッセイ溶液を調製し、ブランクを測定後、反応開始剤としてマロニルCoAを投入し、素早く撹拌して、測定を開始した。ブランクを差し引いた反応曲線から、活性を算出した。
【0032】
(2)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)測定法;FAS活性測定と同様の操作を行った。アッセイ溶液は、0.16MTris−HCl(pH7.6),30mMMgCl2,3.3mMグルコース6―リン酸,1.2mMNADP,0.5unitホスホグルコン酸デヒドラターゼ,2.0質量%酵素測定サンプルで行った。測定波長は340nmで、NADPの還元反応を測定した(反応時間180秒間)。反応開始剤は、グルコース6−リン酸溶液とした。
【0033】
(3)ATP−クエン酸−リアーゼ(ACL)測定法;FAS活性測定と同様の操作を行った。アッセイ溶液は、0.2MTris−HCl(pH8.4),10mMMgCl2,10mM2−メルカプトエタノール,20mMクエン酸カリウム,0.2mMCoA,10mMATP,0.2mMNADH,0.2unitリンゴ酸デヒドロゲナーゼ,2.0質量%酵素測定サンプルで行った。測定波長は340nmで、NADHの酸化反応を測定した(反応時間150秒間)。反応開始剤は、CoA溶液とした。
【0034】
(4)リンゴ酸酵素(ME)測定法;FAS活性測定と同様の操作を行った。アッセイ溶液は、64mMトリエタノールアミン緩衝液(pH7.4),4mMMgCl2,1.2mMNADP,1.2mMリンゴ酸,1.0質量%酵素測定サンプルで行った。測定波長は340nmで、NADPの還元反応を測定した(反応時間180秒間)。反応開始剤は、リンゴ酸溶液とした。
【0035】
(5)ピルビン酸キナーゼ(PK)測定法;FAS活性測定と同様の操作を行った。アッセイ溶液は、0.2MTris−HCl緩衝液(pH8.0),20mMMgCl2,0.2M塩化カリウム,0.2mMNADH,0.8mMADP,3mMホスホエノイルピルビン酸,6unit乳酸デヒドロゲナーゼ,1.0質量%酵素測定サンプルで行った。測定波長は340nmで、NADHの酸化反応を測定した(反応時間120秒間)。反応開始剤は、ホスホエノイルピルビン酸溶液とした。
【0036】
(6)グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(G3PAT)測定法;超遠心で得られた沈殿物を2mLの0.25Mスクロース,3mMTris−HCl,1mMEDTA(pH7.2)緩衝液に分散し、酵素液として測定に用いた。測定は、放射性試薬[U−14C]グリセロール3リン酸を基質として添加し、反応生成物をカウントした。アッセイ溶液は、75mMTris−HCl(pH7.4)、4mMMgCl2、2mg/mLアルブミン、75μMパルミトイルCoA、300μM[U−14C]グリセロール3リン酸(5000dpm/nmol)、8mMフッ化カリウム、酵素液(総蛋白量約100μg)で行った。反応条件は、37℃、30分間とした。反応終了後、クロロホルム:メタノール(1:2)で反応生成物を抽出した。
【0037】
これらの酵素活性の結果を表4にまとめた。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
表3の結果から、本発明の高級脂肪族アルコールを主成分とする脂質代謝調整剤により、脂肪酸合成系酵素の発現が抑制されることがわかる。
表4の結果から、本発明の高級脂肪族アルコールを主成分とする脂質代謝調整剤により、脂肪酸合成系酵素群の活性が低下することがわかる。
【0041】
次に、本発明の高級脂肪族アルコールを主成分とする脂質代謝調整剤による、肝臓中のトリアシルグリセロール量、コレステロール量における効果を検討した。本発明に係る酵素群の活性が低下すると、肝臓中のトリアシルグリセロールの蓄積が抑制される。これに従い、末梢組織へのトリアシルグリセロールの輸送を低下し、脂肪蓄積予防となる。
【0042】
また、本発明に係る酵素群のATP−クエン酸リアーゼ、リンゴ酸酵素、ピルビン酸キナーゼは、脂肪酸合成の中間生成物であるアセチルCoAの合成に関する酵素である。アセチルCoAは脂肪酸合成経路やコレステロール合成経路など種々の脂質代謝経路へと派生している。本発明の酵素群の活性低下により、肝臓中のコレステロール量の蓄積も抑制される。
【0043】
ホルチ法により肝臓脂質を抽出し、トリアシルグリセロール、コレステロールを測定した。脂質抽出(ホルチ法)、トリアシルグリセロール測定、コレステロール測定は下記の通り行った。
【0044】
(1)ホルチ法;冷凍した肝臓0.5gを8mLのメタノールに入れ、ポリトロン型ホモジナイザーですりつぶし、50mL容メスフラスコに移した。7mLのメタノールと30mLのクロロホルムを数回に分けてホモジナイザー、容器を洗浄し、全て抽出液と混合した。抽出液を40℃で30分間加温した。室温へ戻した後、クロロホルム/メタノール(2:1、V/V(体積/体積比)。以降、同様に表示する。)溶液で50mLに定容した。抽出液を濾過(アドバンテック社製「濾紙No.2」)し、ろ液を定量した。ろ液の約20%(V/V)の精製水を加え、静かに撹拌後、一晩静置して、2層に分離した。上層の水層部を捨て、下層のクロロホルム層にメタノールを加えて40mLとした。これを抽出液として、トリアシルグリセロール測定、コレステロール測定に用いた。
【0045】
(2)トリアシルグリセロール測定法;2mLの抽出液を10mL容スピンチューブに入れ、窒素下で乾燥した。5mLのクロロホルム、0.4gのSilic Acid 100Mesh(和光純薬(株)製)を加え、強く撹拌した。3000rpmで5分間遠心し、上層1mLを別の試験管に移した。ここで、トリアシルグリセロールの標準液として、トリオレイン(和光純薬(株)製)125μg/mL・クロロホルム/メタノール(2:1、V/V)溶液を用意し、以下、同様の操作を行い、検量線を作成した。抽出液、標準液それぞれを窒素下で乾燥した。2mLのイソプロパーノール/精製水(9:1、V/V)、0.6mLの水酸化カリウム(5g/100mLイソプロパーノール/精製水(40:60))溶液を加え、65℃で20分間加温後、室温に戻した。1mLの3mMNaIO4溶液(溶媒;イソプロパノール/1N酢酸(20:80、V/V))を加え、強く撹拌した。0.5mLのアセチルアセトン溶液(0.75mLのアセチルアセトン、2.5mLのイソプロパノール、100mLの2M酢酸アンモニウムの混合溶液)を加え、強く撹拌し、50℃で30分間加温した。室温に戻して、405nmの吸光度を測定し、検量線よりトリアシルグリセロール含量を算出した。結果を表5に示した。
【0046】
(3)コレステロール測定法;1.2mLの抽出液を試験管にとり、窒素下で乾燥した。1mLのエタノール、0.2mLの4N水酸化カリウムを加え、強く撹拌後、65℃で20分間加温した。1mLの精製水を添加後、約3mLのヘキサンで3回抽出した。ヘキサン層を別のチューブに移し、3回分を混合した。ここで、サンプルとは別にコレステロール標準液(和光純薬(株)製、50μg/2mLクロロホルム/メタノール(2:1、V/V))を用意し、以下、同様の操作を行い、検量線を作成した。サンプル溶液、標準液をそれぞれ窒素下で乾燥し、0.125mLのブタノールを加えて強く撹拌した。240nmの吸光度を測定した(OD1)。再度、試験管へ戻し、25μLのコレステロール酸化酵素溶液(東洋紡(株)製、0.5unit/25μL;0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.7),0.5mL/LTritonX−100)を加え撹拌し、37℃で1時間インキュベートした。室温に戻した後、240nmの吸光度を測定した(OD2)。ΔOD(OD2−OD1)の値を用いて、検量線を作成し、抽出液中のコレステロール含量を算出した。結果は、表5に示した。
【0047】
【表5】

【0048】
表5より、本発明の高級脂肪族アルコールを主成分とする脂質代謝調整剤により、肝臓中のトリアシルグリセロール量およびコレステロール量が減少することがわかる。これらの結果から、本発明の脂質代謝調整剤により脂質代謝の調整が可能であることがわかった。
【0049】
(動物実験2)
比較例2
肥満モデルラットである「Zuckerラット(雄性、7週齢)」(「Crj:(ZUC)−fa/fa」、日本チャールスリバー(株))を用いて、1群7頭とし(平均体重297.6g)、1週間の予備飼育後、AIN−76標準飼料(日本農産工業(株)製)を投与して8週間飼育した。飼育中、試験食、水は自由摂食とした。飼育環境は、温度25℃、湿度55%、12時間の明暗サイクルで飼育した。
【0050】
AIN−76標準飼料の組成は、カゼイン:20%、DL−メチオニン:0.3%、コーンスターチ:15%、コーン油:5%、スクロース:50%、セルロース:5%、AIN−76ミネラルミックス(日本農産工業(株)製):3.5%、AIN−76ビタミンミックス(日本農産工業(株)製):1%、重酒石酸コリン:0.2%である。
【0051】
実施例4〜6
高級脂肪族アルコール添加食群については、試験食をAIN−76:99質量%、高級脂肪族アルコール混合物1%とし、それ以外の条件は比較例2と同条件とした。
(1)実施例4
米糠由来の高級脂肪族アルコール混合物は、「ニッサンオクタコサノール12−O(日本油脂(株)製)」を使用した。平均粒径を動物実験1と同様に求めた結果、71μmであった。
(2)実施例5
サトウキビ由来の高級脂肪族アルコール混合物は、「サトウキビ由来ポリコサノール(フィトファーマ(株)製)」を使用した。平均粒径は83μmであった。
(3)実施例6
蜜蝋由来の高級脂肪族アルコール混合物は、「脱臭精製蜜蝋高酸((株)セラリカ野田製)」をケン化分解し、MCT油により抽出後、晶析、エタノール洗浄により精製したものを使用した。平均粒径は76μmであった。
【0052】
実施例4〜6に用いた高級脂肪族アルコールの脂肪鎖組成は、動物実験1と同様にガスクロマトグラフィーにより求めた。これらの結果は、表6にまとめた。
【0053】
【表6】

【0054】
実験食投与時の摂食量は、比較例2;1722±55(g/8週間、±標準誤差)、実施例4;1714±39、実施例5;1735±37、実施例6;1734±30であり、各群間で有意な差異は認められなかった。
飼育開始時と終了時の体重増加量は、比較例2;277±15(g増加/8週間、±標準誤差)、実施例4;274±13、実施例5;286±14、実施例6;283±10であり、各群間で有意な差異は認められなかった。II型糖尿病モデルラットの特徴とする肥満は認められるが、高級脂肪族アルコールの摂取による変化はなく、副作用はない。
【0055】
次に、動物実験1と同様にして、肝臓中の脂肪酸合成系酵素群の活性測定を行った。結果を表7にまとめた。
【0056】
【表7】

【0057】
次に、動物実験1と同様にして、肝臓中のトリアシルグリセロール含量及びコレステロール含量を測定した。結果を表8にまとめた。
【0058】
【表8】

【0059】
表6、表7、表8より、肥満モデルラットにおいても肝臓中の脂肪酸合成系酵素群の活性が抑制され、トリアシルグリセロール含量及びコレステロール含量が低下することが確認された。また、脂肪組成の異なるサトウキビ由来、米糠由来、蜜蝋由来の高級脂肪族アルコール組成の異なる素材を用いても、同様の効果を得られることから、特定の高級脂肪族アルコール組成によらないことがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数20〜36の高級脂肪族アルコールを有効成分として含有し、脂肪酸合成系酵素の発現を低下させることを特徴とする脂質代謝調整剤。
【請求項2】
脂肪酸合成系酵素が、脂肪酸シンターゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ATP−クエン酸−リアーゼ、リンゴ酸酵素、ピルビン酸キナーゼ、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼである請求項1に記載の脂質代謝調整剤。
【請求項3】
高級脂肪族アルコールの平均粒径が1〜150μmであり、粉末状である請求項1または2に記載の脂質代謝調整剤。

【公開番号】特開2006−282655(P2006−282655A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24516(P2006−24516)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【Fターム(参考)】