説明

脂質由来ビスホスホン酸

式(I)のビスホスホン酸誘導体を開示する。式中、R1はH、OH、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ヒドロキシアルキル、C1−C6アミノアルキルまたはC1−C6ハロゲンアルキルであり、Xは、1〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、(CH3m-(OCR3HCH2)n-(O)o-であってR3がH若しくはCH3、mが0〜6の整数、nが1〜10の整数で好ましくは1〜6、oが0若しくは1、-(CR4HCH2O)p-であってR4がH若しくはCH3及びpが1〜10の整数で好ましくは1〜6、または(CH3)q-(OCR5HCH2)r-(O)s-(CH3)t-であってR5がH若しくはCH3、qが0〜6の整数、rが1〜10の整数で好ましくは1〜6、sが0若しくは1、tが1〜6の整数、であるか、または存在せず、R2は、式(II)のラジカル、8〜22個の炭素原子を有する脂肪アルキルラジカル若しくは脂肪酸ラジカルである。本発明に係る化合物は、リポソームの調製や動物及びヒトの疾患の治療に有用な薬剤の製造に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステリル‐3‐ヒドロキシ‐ビスホスホン酸誘導体、その可溶性塩または水和物、その薬理学的に活性な複合体に関し、さらに疾患の治療に本発明に係る化合物を使用する方法に加えてその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術。
ホスホン酸誘導体とその技術的適用。
ホスホン酸は、安定した炭素‐リン結合を有する1またはいくつかのC-PO(OH)2基を有する有機成分である。ホスホネート(phosphonate)は、二価及び三価の金属イオンにとって有効なキレート剤である。ほとんどのホスホネート(phosphonate)は、EDTA、NTA及びDTPAのようなアミノカルボキシレートと非常に似ている。さらに、これらは結晶成長と腐食を非常に有効に阻害する。
【0003】
これらの特性から、上記化合物は、多くの技術的工業的分野で使用されている。工業上の応用で最も重要な分野には、冷却水、脱塩システムへの使用、さらには石油分野では腐食を阻害するためにも使用されている。紙、パルプ分野の製造業に加えて繊維産業でも、ホスホネートは漂白剤の安定剤として使用される。ホスホネートは、過酸化物を失活させるキレート剤として作用する。ホスホネートの環境分野の使用例には、グリフォサート(glyphosate)(N‐ホスホノメチルグリシン)や非選択的除草剤があり、生化学的カスケード(cascade)を阻害することで植物の増殖を制御する。
【0004】
ポリホスフェイト(polyphosphates)とは、高エネルギーリン酸結合(energy‐rich phosphoanhydridebonds)(酸素結合)で結合したオルトホスフェイト(orthophosphates)基のポリマーを表す。ポリホスフェイト(polyphosphates)(ポリ‐P) は、人間の体内で合成され、ほとんどすべての細胞中に存在する。ポリ‐Pは、骨を形成する骨芽細胞において、最も大きい割合を有する。ポリ‐Pは身体の部位に応じた多くの機能を有している。ポリ‐Pは高エネルギーホスフェイト(energy‐rich phosphates)を蓄え、カルシウムまたは他の二価の陽イオンと錯体を形成する。ポリ‐Pはアミノ酸の対イオンとして、またはアデニレートヌクレオチドの細胞内レベルの調節弁として機能する。
【0005】
ポリ‐Pは、しばしば歯磨き粉にも使用される。なぜなら、ポリ‐Pは虫歯の形成を妨ぐと考えられるからである。これは、ポリ‐Pの、ヒドロキシルアパタイト(hydroxyl apatite)を石化する能力及びその溶解性に加えて酸性も低減させる能力に基づく。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ビスホスホネート(bisphosphonates)のグループは、カルシウム代謝に関連する異なった骨疾患や病気の治療に使用する。
【0007】
ビスホスホネート(bisphosphonates)はピロリン酸塩(pyrophosphate)の類似体であり、酸素結合が異なった側鎖を有する炭素原子により置換されたものである。このP‐C‐P基は酵素的加水分解に対する耐性を有するため、ビスホスホネートは体内で代謝されない。ビスホスホネートは3つの生成物に分類することができる。これらは、分子中に置換可能な部分が2箇所ある異なった側鎖によって水素原子が置換される点に差異がある。アルキル側鎖が第1の生成物を特徴付ける(例えばエチドロネート(etidronate))。ビスホスホネート(bisphosphonate)の第2の生成物は、末端にアミノ基を有するアミノビスホスホネート(amino bisphosphonate)からなる(例えば、アレンドロネート(alendronate))。環を有する側鎖が、第3の生成物の典型である(例えばゾレンドロネート(zolendronate))。
【0008】
ホスホネートの医療における応用。
骨シンチグラフィでは、ホスホネートは診断用薬として使用される。いくつかの異なったマーキングをしたホスホネートを、放射性マーカーとして使用する。この例としては、99mTCでマーキングしたホスホネートまたは188Re‐錯体がある。その結果、骨髄炎、骨新生物、関節炎または骨梗塞のような疾患の存在、位置、程度を骨格中で目に見えるようにすることができる。
【0009】
ビスホスホネートの最も重要な薬理学的効果は骨吸収の抑制である。ピロリン酸塩のように、ビスホスホネートは、骨の主要成分であるヒドロキシルアパタイトへの高い親和性を有し、その分解に加えて増加を妨げる。さらに、ビスホスホネートは破骨細胞を失活させる。これは破骨細胞のアポトーシスの原因となる。通常、破骨細胞は造骨細胞、骨芽細胞と協力して、既存の骨を再構築する。ビスホスホネートは高い破骨細胞の活性を有する骨領域を狙い、造骨細胞の活性と破骨細胞の活性との間を通常状態に回復させるのに寄与する。
【0010】
ビスホスホネートは、骨疾患の治療に使用され、通常は、パジェット病(Paget disease)、高カルシウム血症、骨粗しょう症及び新生物の場合に使用される。
【0011】
このグループの更なる利点としては、癌細胞のアポトーシスに効果的であるということである。従って、癌の治療(例えば、乳癌、前立腺癌からの転移または多様な骨髄腫の場合)に重要な役割を果たす。
【0012】
非環式ヌクレオシドの(acyclic nucleosidic)ホスホネートを含有する誘導体(例えばシドホビルまたはテノホビル)は、DNAウイルスとレトロウイルスが原因の多数の疾患に効果的である。非環式ヌクレオシドの(acyclic nucleosidic)ホスホネート(ANPs)は、一つのホスホネートが脂肪族鎖の部分においてエーテル結合を介してプリン又はピリミジンと結合している類似体である。これら類似体は細胞中でリン酸化されるとすぐに、核酸合成により自然に生じたヌクレオチドと競合する。この結果、感染細胞におけるウイルスの複製が、減少または妨げられることとなる。
【0013】
ANPsの抗ウイルス能は、獣医の医薬としても利用される。これらANPsはネコ免疫不全ウイルス(FIV)の阻害剤の効能がある。FIVは、形態学的、物理的及び生化学的特性についてHIウイルスに類似している。
【0014】
有効成分のホーミング(homing)への応用/ホーミングリガンド(homing ligands)。
ビスホスホネートがヒドロキシルアパタイトに対して大きな親和性を有していることから、骨の薬理学的に活性な物質についてホーミングに応用するための適合性を試験した。この例には、骨への高い親和性を有するビスホスホネートと骨増殖を刺激する能力を有する増殖因子(例えば、牛血清アルブミン)との結合がある。ラジオアイソトープ、抗腫瘍薬、抗炎症薬もまた、これらホーミングリガンドと結合する。
【0015】
「活性成分のホーミングへの応用」という表現には、時間をコントロールした放出、組織特異的な使用、防御、生体内での作用の延長及び活性成分の毒性の低減が可能な物質なども含む。例えば、ポリマー、ナノ粒子、ミクロスフェア(microsphere)、ミセル、たんぱく質のキャリアシステム、DNA複合体及びリポソーム(liposome)といった多くのキャリアシステム(carrier system)は、異なった分子の循環時間を延ばし、異なった分子を作用の必要な場所に運び、異なった分子の血しょう内での分解を防ぐのに使用される。リポソームは、過去、いろいろな適応で活性成分のキャリアとして利用されていた。リポソームは、コロイドであり、(リン)脂質二重層を主成分とした小胞構造を有している。リポソームは、その構造的特性から、疎水性の分子に加えて親水性の分子も封入できる。さらに、リボゾームは生物学的に分解され、本質的に毒性を有しない。なぜなら、リポソームは天然の生体分子で構成されているからである。
【0016】
活性成分キャリアとしてのリポソームの限定要因には、静脈に投与した後、肝臓とひ臓内のマクロファージ(銅細胞(copper cell))によるリポソームの分解がある。リポソーム摂取のスピードと程度は、リポソーム膜の剛性、リボゾームのサイズ及び用量に依存する。リポソーム表面の修飾により、マクロファージによる好ましくない分解を減らすことができる。外膜にPEGユニットが結合することで、循環時間が著しく長くなった(長時間循環リポソーム(long-circulating liposomes))。もう一つの方法として、ホーミング分子(homing molecules)をリポソーム二重層に加えて、作用場所に応じた特殊構造とする方法がある。例えば、免疫リポソーム(immuno liposome)(ホーミングリガンドである共有結合した抗体を、表面に有するリポソーム)がある。これには、長時間循環の特性も有する。
【0017】
受動的ホーミングの適応(Passive Homing Application)。
長時間循環リポソームは、透過性内皮細胞を有する組織に蓄積される傾向にある。これら「ホーミング適応の受動的性質」は、腫瘍組織に関するホーミングの適応に大変有用である。なぜなら、リポソームは、ほとんどの腫瘍中の血管を明らかに透過できるからである。さらに、腫瘍中のリンパ組織は通常十分には発達していないので、溢出したリポソームは腫瘍組織の間質腔(interstitial space)内にとどまる傾向がある。
【0018】
長時間循環リポソームは、しばしば癌の治療薬(例えば、ドキソルビシン(doxorubicin)、シスプラチウム(cisplatinum)、ビンクリスチン(vincristine)、カンホテシン(camphotecin))のキャリアとして使用される。
【0019】
コレステロール(cholesterol)。
その構造を見ると、コレステロールは、細胞膜の重要な成分である。コレステロールは細胞膜の物理的特性、特に膜の流動性に影響を与える。コレステロールは、製薬業で非常に頻繁に使用される。特にリポソームの成分として使用される。コレステロールは膜をより硬くする特性を有する。コレステロールの添加により、膜は広範囲の温度において秩序だった流動状態となる。さらに、新たに合成されたコレステロール誘導体を使用することについても、すでに早くから研究されている。
【0020】
前記の成分は、活性を有する含有物を投与することで前記疾患の治療に多くの効果を発揮する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る化合物は、式(I)に記載したビスホスホン酸とビスホスホン酸の誘導体である。
【0022】
【化3】

【0023】
[上記式中、
R1は、H、OH、C1‐C6アルキル、C1‐C6アルコキシ、C1‐C6ヒドロキシアルキル、C1‐C6アミノアルキルまたはC1‐C6ハロゲンアルキルであり、
Xは、1〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、(CH3m-(OCR3HCH2)n-(O)o-であってR3がH若しくはCH3、mが0若しくは1〜6の整数、nが1〜10の整数であり好ましくは1〜6の整数、oが0若しくは1、-(CR4HCH2O)p-であってR4がH若しくはCH3、pが1〜10の整数であり好ましくは1〜6の整数、(CH3)q-(OCR5HCH2)r-(O)s-(CH3)t-であってR5がH若しくはCH3、qが0若しくは1〜6の整数、rが1〜10の整数であり好ましくは1〜6の整数、sは0若しくは1、tは1〜6の整数、であるか、または存在せず、
Rは、式(II)のグループまたは8〜22個の炭素原子を有する脂肪アルキル基(fatty alkyl group)若しくは脂肪酸基(fatty acid group)である]
【0024】
【化4】

【0025】
さらに、本発明に係る化合物には、上記式(I)の化合物の生理学的に許容できる誘導体、特に、塩及びトリメチルシリル(trimethyl silyl)誘導体である。
【0026】
本発明に係る化合物は、とくにリポソームの製造、動物とヒトの治療に使用する薬剤の製造に適している。
【0027】
本発明に係るビスホスホン酸の化合物は酸の形態であり、塩またはトリメチルシリル(trimethyl silyl)誘導体の形態でもよい。トリメチルシリル誘導体では、リン原子に結合したOH基の少なくとも一つは、トリメチルシリル基で置換されている。塩の形態としては、すべての生理学的に許容できる塩を使用することができ、特に、アルカリ性の塩、アルカリ土類の塩及びアンモニウム塩が好ましい。
【0028】
特に好ましい式(I)の化合物は、RがOH、Rが一般式(II)、つまりコレステリル‐3‐ヒドロキシ‐ビスホスホン酸であり、その可溶性塩でもよく、さらにはスペーサー分子(spacer molecule)を有していてもいなくてもよい。Rが脂肪アルキル基の場合には、この脂肪アルキル基は、ドデシルカルボン酸またはパルミチン酸から誘導されたもののような12〜18個の炭素原子を有する脂肪アルキル基から選択されるのが好ましい。つまり、式(I)の化合物が、ドデシルビスホスホン酸(dodecyl bisphosphonic acid)またはパルミチンビスホスホン酸(palmitic bisphosphonicacid)から選択されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る化合物の特徴には、多様に応用できる点がある。例えば、技術的及び工業的な用途における二価及び三価の金属イオンのキレート剤として、技術的及び工業的な用途における耐食剤として、製薬の際の活性成分として、活性成分運搬の補助として、または診断用薬として応用できる。
【0030】
製薬的に/薬理学的に活性な物質は、癌治療薬、ウイルス増殖抑止薬、抗生物質、抗真菌薬、抗炎症薬、骨組織刺激剤(bone tissue-stimulating agent)または骨組織抑制物質(bone tissue-suppressing substance)といった活性成分から選択することができる。ただし、これらですべてを網羅しているわけではない。抗生物質は、特に、アミノグリコシド(aminoglycoside)、ペニシリン(penicilline)、セファロスポリン(cephalosporine)、テトラサイクリン(tetracycline)、マクロライド(macrolide)、リンコマイシン(lincosamide)、フルオロキノロン(fluoroquinolone)、ストレプトグラミン(streptogramine)、ニトロイミダゾール(nitroimidazole)アゾール(azole)、ポリエン(polyene)、ポリペプチド抗生物質、オリゴヌクレオチド抗生物質、特に、ゲンタマイシン(gentamycine)、アミカシン(amikacine)またはトブラマイシン(tobramycine)、ナフシリン(nafcilline)またはピペラシリン(piperacilline)、セフェピメ(cefepime)またはセフロキシム(cefuroxime)、テトラサイクリンまたはドキシサイクリン(doxycycline)、エリスロマイシン(erythromycine)、クラリスロマイシン(clarithromycine)またはアジスロマイシン(azithromycine)、クリンダマイシン(clindamycine)、シプロフロキサシン(ciprofloxacine)またはモキシフロキサシン(moxifloxacine)、ダルフォプリスチン(dalfopristine)またはキヌプリスチン(quinupristine)、メトロニダゾール(metronidazole)、ミコナゾール(miconazole)またはケトコナゾール(ketoconazole)、アンホテリシンB(amphotericine B)、バンコマイシン(vancomycine)またはバシトラシン(bacitracine)が好ましい。癌治療薬の例として は、葉酸拮抗薬(folic acid antagonist)、アルキル化剤(alkylating agent)、代謝拮抗物質(antimetabolite)、プリンアンタゴニスト(purine antagonist)、ピリミジンアンタゴニスト(pyrimidine antagonist)、植物性アルカロイド(plant-derived alkaloid)、アントラサイクリン(anthracycline)、ホモネアンタゴニスト(homone antagonist)、アロマターゼ阻害薬(aromatase inhibitor)、ビスホスホネートまたはアンチセンス・オリゴヌクレオチドがある。
【0031】
さらに、製薬的に活性な物質は、スルファメトキサゾール(sulfamethoxazole)またはスルファジアジン(sulfadiazine)、シスプラチン(cisplatin)またはプロカルバジン(procarbazine)、メトトレキサート(methotrexate)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、フルオロウラシル(fluorouracil)またはシタラビン(cytarabine)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンクリスチン(vincristine)、エトポシド(etoposide)またはパクリタキセル(paclitaxel)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicine)、ピラルビシン(pirarubicine)またはダウノルビシン(daunorubicine)、ゴセレリン(gosereline)またはアミノグルテチミド(aminoglutethimide)、エチドロネート(etidronate)、パミドロネート(pamidronate)、リセドロネート(risedronate)またはクロドロネート(clodronate)
【0032】
更なる実施態様として、本発明に係るビスホスホン酸は、例えば共有結合したフルオロウラシルやシトシンアラビノシドなどを有する、いわゆる相補的に結合した分子(duplex molecule)の存在下でも使用できる。
【0033】
本発明に係る化合物は、骨組織への親和性に特徴があるため、診断用薬の運搬に加えて活性成分の運搬の補助にも適している。これらの実施態様では、本発明に係る化合物を、活性剤(活性成分)及び/または診断用薬と結合させて、これら物質のキャリア用の材料(carrier material)として使用する。治療上の活性成分には、例えばヒト及び動物の骨組織及び骨髄に使用される骨肉腫の治療薬がある。
【0034】
他の実施態様として、本発明に係る化合物とその誘導体を、二価の陽イオンの運搬分子として、特に、カルシウム代謝疾患の治療のためにカルシウムイオンのホーミングリガンド(homing ligand)として使用する。
【0035】
本発明のさらなる実施態様としては、癌細胞の骨への転移の治療のために本発明に係るビスホスホン酸とその誘導体を使用することに関するものがある。
【0036】
製薬上の使用においては、本発明に係る化合物は、従来のキャリア用の材料(carrier material)、及び必要に応じて添加物を加えた組成物の形態で使用するのが好ましい。
【0037】
本発明の更なる目的は、式(I)の化合物の製造方法であり、その方法は、式IIIの化合物(R2-X-COOHまたはその反応性誘導体)を、従来技術によりビスホスホン酸またはトリス(トリメチルシリル)ホスファイト(tris(trimethylsilyl)phosphite)と反応させ、生成した化合物を、直接単離するか、加水分解によりホスホン酸に変える、というものである。さらに生理学的に許容できる塩は、適当な塩と反応させることにより生成する。
【0038】
本発明の他の実施態様として、式Iの本発明に係る化合物は、適当な複合体の存在下、組成物の形態で使用してもよい。この複合体は、リポソーム、ナノ粒子、ナノスフェア(nanosphere)、ナノカプセル(nanocapsule)、ミセルまたはポリマーのシステムから選択できる。エンベロープ材料(enveloping material)であるウロン酸(uronic acid)誘導体または他のエンベロープ材料を含有するリン脂質の混合物と組み合わせた一般式(I)の化合物またはその誘導体は、各成分の量、種類、濃度を任意とし、使用目的に応じて選択する態様で使用するのが好ましい。ウロン酸誘導体として、例えば、パルミチル‐D‐グルクロニドまたはガラクトシル‐D‐グルクロニドを0.1〜25mol%の濃度で使用する。一つの実施態様として、本発明に係るビスホスホン酸誘導体を、エンベロープ物質であるウロン酸誘導体で修飾した長時間循環リポソームと結合させる。
【0039】
リン脂質の組み合わせとしては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、これらの天然の、半合成の、若しくは合成の形態のセラミド、ステアリルアミン、またはコレステロールなどがあり、ジパルミトイルホスファチジルコリンとジミリストイルホスファチジルグリセロールを含有したリン脂質混合物が、特に好ましい。ポリマーの組み合わせとしては、ポリビニルピロリドンまたはポリエチレンオキサイドなどがある。
【0040】
上述した組成物には、1またはいくつかの上記活性物質を適当な濃度で含めてもよい。これらの活性物質は、既に上記した製薬上の活性物質及び診断用薬の他に、さらに殺菌剤(disinfection agent)、化学薬品(chemical)、磁性粒子(magnetic particle)から選択してもよい。
【0041】
さらに、本発明の目的は、リポソーム組成物の製造方法に関する。パルミチル‐D‐グルクロニド、リン脂質、ビスホスホン酸またはこれらの誘導体といった各成分の未加工の混合物と、それぞれの活性物質または活性物質の組み合わせを、超音波、高圧押出しまたは高圧ホモジェナイゼーションを用いて、混合する。リポソーム製品は、平均粒径30〜1000nmであることが好ましい。
【0042】
本発明に係るリポソーム組成物は、水分散液(aqueous dispersion)または凍結乾燥体(lyophilisate)の状態であることが好ましい。これらの組成物は、特に、注射用または吸入用製剤として製造するのに適している。上記製剤には、通常、1またはいくつかの活性物質を含有している。例えば、上記の癌治療薬、抗生物質またはアンチセンスオリゴヌクレオチドなどがある。
【0043】
本発明の更なる目的は、ヒトと動物の疾患の治療に用いる薬剤を製造するために、式Iの化合物を使用することである。静脈注射、経口またはその他の適当な方法により、上記化合物を投与できる。
【実施例1】
【0044】
実施例。
実施例1: コレステリル‐3‐ヒドロキシ‐ビスホスホン酸(cholesteryl-3-hydroxy-bisphosphonic acid)の調製。
塩化コレステリル(cholesteryl chloride)を、対応するグリニャール化合物(Grignard compound)を経てカルボン酸へと変化させた(収率:35%)。次に、この生成物を、塩化オキサリル(oxalyl chloride)の存在下、酸塩化物(acid chloride)に変えた(収率:95%)。
【0045】
酸塩化物6.5g(0.015mol)を150mlのTHFに溶解させた。窒素ガスの雰囲気下、ゆっくりと13.4g(0.045mol) のO(OSiMe3)3を0℃にて添加した。この混合物を室温にて3時間攪拌した。次に0.5ml(0.03mol)の水を加え、真空下90℃にて揮発性成分を取り除いた。この固体を酢酸エチル(ethyl acetate)に溶解し、還流にて1時間加熱した。次に、ろ過をして、残渣の固体をヘキサンで2度洗浄した。この生成物を真空下(0.001トール(torr))で乾燥させた(収率:81%)。コレステリル‐3‐ヒドロキシ‐ビスホスホン酸:MS分子イオン m/z561[M+H]+31P‐NMR 21.6ppm。
【実施例2】
【0046】
実施例2:ドデシルビスホスホン酸(dodecyl bisphosphonicacid)を含有した空のリポソーム。大豆ホスファチジルコリン、コレステロール、パルミチル‐D‐グルクロニド及びドデシルビスホスホン酸を含有したリポソーム(モル比;1.0:0.3:0.1:0.1(100mg/ml))を超音波の手段を用いて製造した。粒径は120±40nmであった。粒径は光子相関分光法(photon correlation spectroscopy)により測定した(光散乱(light scattering))。
【実施例3】
【0047】
実施例3:パルミチルビスホスホン酸(palmityl bisphosphonicacid)を含有した空のリポソーム。大豆ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、パルミチル‐D‐グルクロニド及びパルミチルビスホスホン酸を含有したリポソーム(モル比;1.0:0.2:0.1:0.1(100mg/ml))を超音波の手段を用いて製造した。粒径は120±40nmであった。粒径は光子相関分光法(photon correlation spectroscopy)により測定した(光散乱(light scattering))。
【実施例4】
【0048】
実施例4:コレステリル‐3‐ヒドロキシ‐ビスホスホン酸(cholesteryl-3-hydroxy-bisphosphonic acid)を含有した空のリポソーム。大豆ホスファチジルコリン、コレステロール、パルミチル‐D‐グルクロニド及びコレステリル‐3‐ヒドロキシ‐ビスホスホン酸を含有したリポソーム(モル比;0.5:0.14:0.05:0.03(50mg/ml))を超音波と高圧ろ過(high-pressure filtration)の手段を用いて製造した。粒径は120±40nmであった。粒径は光子相関分光法(photon correlation spectroscopy)により測定した(光散乱(light scattering))。
【実施例5】
【0049】
実施例5:ステロイドと酸の間のスペーサーである、オキシエチレン(oxyethylene)部を有するコレステリルビスホスホン酸。使用する溶媒は、全て十分に乾燥させ、ジオール(エチレングリコール、トリエチレングリコール)を水素化カルシウムを用いて蒸留した。この反応は乾燥させた窒素ガスの雰囲気下で行った。
【0050】
1)コレステリルトルエン‐p‐スルホネート(Cholesteryl toluene-p-sulfonate)。250mlのピリジン中のコレステロールの溶液30g(77.6mmol)に、22.2g(116.4mmol)のトルエン‐p‐スルホニルクロライドを加えた。この反応混合物を24時間室温で攪拌した。次に、200mlの氷水をゆっくり加えた。生成した黄色い沈殿物をろ過し、エタノールで洗浄した(3回×70ml)。これにより、95%の収率(39.9g)で白色粉末の製品を得た。
【0051】
2)コレステリル‐ヒドロキシエチルエーテル。ジオキサン中の1mmolのコレステリルトルエン‐p‐スルホネートの溶液と200mmolのエチレングリコールまたはトリエチレングリコールを2.5時間、還流にて加熱した。真空中で溶媒を除去した後、残った油分をジエチルエーテル中に溶かし、水で洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムにて脱水した後、ろ過し、真空中で溶媒を除去した。コレステリル‐ヒドロキシエチルエーテルの場合には、固形の残留物をヘキサンで洗浄した。86%の収率で白色の粉末を得た。コレステリル‐3.6‐ジオキサオクタン‐1‐オールの場合には、シリカゲルを用いた精製工程が必要となる。黄色の不純物をヘキサンで洗い流した。製品をジクロロメタン:メタノールが90:10である混合液で洗い流し、真空中で溶媒を除去した。生成した残留物が、目的の製品であり、収率は74%であった。
【0052】
3)コレステリルオキシエチレンカルボン酸(cholesteryl oxyethylene carboxylic acid) 。1.1mmolのnBuLi(ヘキサン中の1.4M溶液)を、−78℃にてTHF中のコレステロールとヒドロキシエチルエーテル溶液に加えた。この反応混合物を10分間攪拌し、ブロモ酢酸リチウムを大過剰に加えた。20分後、この溶液を室温まで加熱した。室温にて16時間経過後、この混合液を60℃にて3時間保持した。溶媒を真空中で除去し、ジエチルエーテルを加えてから、有機相を数回水で洗浄し、真空中で乾燥させた。2‐(コレステリルオキシ)酢酸を収率85%で単離した;[2‐(コレステリルオキシ)エトキシ]酢酸をヘキサンからの再結晶後、収率60%で単離した;{2‐[(コレステリル‐3.6‐ジオキサオクタン‐1‐オール)オキシ]エトキシ}酢酸を、収率70%で単離した。これは、エーテル:ペンタンが1:1の混合液中の未加工の製品の溶液をシリカゲルカラムに通し、ジクロロメタン:メタノールが5:1の混合液で洗い流したものである。
【0053】
4)対応するビスホスホン酸の合成。上記3)のカルボン酸をジクロロメタン中で塩化オキサリルにより酸塩化物(acid chloride)に変えた。次に、さらなる精製をすることなく、この酸塩化物をエーテル中のトリス(トリメチルシリル)ホスファイトと反応させた。次に、生成したトリメチルシリル化したビスホスホン酸エステルの酸加水分解により、目的とする遊離ビスホスホン酸が収率80〜95%にて生成した。
【0054】
【化5】

2‐(コレステリルオキシ)酢酸由来。
【0055】
2‐(2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17‐テトラデカヒドロ‐10,13‐ジメチル‐17‐(6‐メチルへプタン‐2‐イル)‐1H‐シクロペンタ[a]フェナントレン‐3‐イルオキシ)‐1‐ヒドロキシ‐1‐ホスホノ)エチルホスホン酸;C29H52O8P2(590.31);NMR:1H(DMSO-d6):0.3-2.7ppm(m,43H),3.3ppm(1H),4.2ppm(m,2H),5.4ppm(broad,1H),10.2ppm(broad,5H);31P(DMSO-d6):18.8ppm(t,J=11.99Hz)。
【0056】
【化6】

[2‐(コレステリルオキシ)エトキシ]酢酸由来。
【0057】
2‐(2‐(2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14.15.16.17‐テトラデカヒドロ‐10,13‐ジメチル‐17‐(6‐メチルヘプタン‐2‐イル)‐1H‐シクロペンタ[a] フェナントレン‐3‐イルオキシ)エトキシ)‐1‐ヒドロキシ‐1‐ホスホノ)エチルホスホン酸;C31H56O9P2(634.3);NMR:1H(DMSO-d6):0.59-2.53ppm(m,43H),3.28ppm(m,1H),3.72ppm(m,4H),4.17ppm(m,2H),5.37ppm(m,1H),10.4ppm(broad,5H);31P(DMSO-d6):20.1ppm(t,J=13.87Hz)。
【0058】
【化7】


{2‐[(コレステリル‐3,6‐ジオキサオクタン‐1‐オール)オキシ]エトキシ}酢酸由来。
【0059】
2‐(2‐(2‐(2‐(2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17‐テトラデカヒドロ‐10,13‐ジメチル‐17‐(6‐メチルヘプタン‐2‐イル)‐1H‐シクロペンタ[a] フェナントレン‐3‐イルオキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシ)‐1‐ヒドロキシ‐1‐ホスホノ)エチルホスホン酸;C35H64O11P2(722.39);NMR:1H(DMSO-d6):0.20-2.39ppm(m,43H),3.3ppm(m,1H),3.49ppm(m,12H),5.28ppm(broad,1H),3.82ppm(t,2H,J=10.99Hz),10.8ppm(broad,5H);31P(DMSO-d6)18.8ppm(t,J=10.9Hz)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[上記式中、
R1は、H、OH、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ヒドロキシアルキル、C1−C6アミノアルキルまたはC1−C6ハロゲンアルキルであり、
Xは、1〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、(CH3m-(OCR3HCH2)n-(O)o-であってR3がH若しくはCH3、mが0若しくは1〜6の整数、nが1〜10の整数及びoが0若しくは1、-(CR4HCH2O)p-であってR4がH若しくはCH3及びpが1〜10の整数、(CH3)q-(OCR5HCH2)r-(O)s-(CH3)t-であってR5がH若しくはCH3、qが0若しくは1〜6の整数、rが1〜10の整数、sが0若しくは1、tが1〜6の整数、であるか、または存在せず、
R2は、式
【化2】

で示される化合物または8〜22個の炭素原子を有する脂肪アルキル基若しくは脂肪酸基である]
で示されるビスホスホン酸及びその生理学的に許容できる誘導体。
【請求項2】
前記Xの前記n、前記p及び前記rの少なくとも一つが1〜6の整数であることを特徴とする請求項1記載のビスホスホン酸及びその生理学的に許容できる誘導体。
【請求項3】
塩及びトリメチルシリル誘導体であることを特徴とする請求項1または2記載の生理学的に許容できる誘導体。
【請求項4】
前記R1がOH、前記R2が一般式(II)に相当するグループであることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のビスホスホン酸及びその生理学的に許容できる誘導体。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1項に記載のビスホスホン酸及びその生理学的に許容できる誘導体を、技術的及び工業的な用途における二価及び三価の金属イオンのキレート剤若しくは運搬剤、技術的及び工業的な用途における耐食剤、製薬の際の活性成分、活性成分運搬の補助または診断用薬として用いる方法。
【請求項6】
前記一般式(I)の化合物及びその生理学的に許容できる誘導体が、活性成分または診断用薬と結合していることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記活性成分または前記診断用薬が、癌治療薬、ウイルス増殖抑止薬、抗生物質、抗真菌薬、抗炎症薬、骨組織刺激物質及び骨組織抑制物質からなる群から選択された薬剤であることを特徴とする請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし4の何れか1項に記載のビスホスホン酸及びその生理学的に許容できる誘導体を、リポソーム、ナノ粒子、ナノスフェア、ナノカプセル、ミセルまたはポリマーのシステムからなる群から選択された複合物と組み合わせるか、または該複合物の成分とする請求項5ないし7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
式IIIの化合物(R2-X-COOHまたはその反応誘導体)を、従来技術によりビスホスホン酸またはトリス(トリメチルシリル)ホスファイトと反応させて、生成させた化合物を直接単離するか、または加水分解により遊離ホスホン酸に変換する式(I)の化合物及びその生理学的に許容できる誘導体の製造方法。
【請求項10】
一般式(I)の化合物、その生理学的に許容できる誘導体、リン脂質及び/またはウロン酸誘導体を含有する前記リポソーム組成物。
【請求項11】
前記ウロン酸誘導体としてパルミチル‐D‐グルクロニド及び/またはガラクトシル‐D‐グルクロニドの濃度が、0.1〜25mol%であることを特徴とする請求項10記載のリポソーム組成物。
【請求項12】
前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、これらの天然の、半合成の、及び合成のセラミド、ステアリルアミン並びにコレステロールからなる群から選択された化合物であることを特徴とする請求項10または11記載のリポソーム組成物。
【請求項13】
水分散液または凍結乾燥体として存在することを特徴とする、請求項10ないし12の何れか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項14】
パルミチル‐D‐グルクロニド、リン脂質、ビスホスホン酸または式(I)のこれらの誘導体のような各成分の未加工混合物、及び、各活性物質または該活性物質の組み合わせを、超音波、高圧押出しまたは高圧ホモジェナイゼーションにより互いに混合する請求項10ないし13の何れか1項に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項10ないし13の何れか1項に記載のリポソーム組成物を、ヒトと動物の疾患の治療用の薬剤の製造に用いる方法。

【公表番号】特表2007−518746(P2007−518746A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549859(P2006−549859)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000095
【国際公開番号】WO2005/070952
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506246542)エムツェーエス マイクロ キャリアー システムズ ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】MCS MICRO CARRIER SYSTEMS GMBH
【Fターム(参考)】