説明

脱ろうプロセス

柑橘油をろ過プロセスにかけることを条件とすることによる柑橘油の脱ろう方法であって、ここで、油は該プロセスの間11℃より低い温度に保たれる多孔質膜表面に沿って流され、該膜が、0.05〜5マイクロメートルの平均孔径を有する、前記方法。本方法により、非常に高度に脱ろうされた柑橘油が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、柑橘油の脱ろう、およびこれを達成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
完成した柑橘類ベース製品中の沈殿物生成を避けるために、天然油を脱ろうすることが望ましく、植物油を脱ろうするための多くの方法が記述されてきた。これらは、市場で入手可能な種々の多孔質膜の1種、典型的には多孔質セラミックスまたはポリマー性膜、を通したろ過を含み、そのような方法は良好な結果を生み出してきた。
【0003】
脱ろうの効率を検査するために業界において実施されている試験の1つは冷却試験であり、ここで脱ろうされた物質の試料を4℃で長時間おくことが可能である(allowed to stand)。標準的な期間はないが、48時間が実用的な時間である。柑橘油の場合、大抵良い結果であるが、必ずしもそうではない。いくつかの場合において、48時間後に、目に見えて混濁液となるか、またはいくらかの沈殿物があり、相当量のろうが残っていることを示す。さらに、試料は、製造直後には48時間試験に合格し得るが、数週間後に試験した場合、それらは不合格になり得る。これは一般的に追加の処理が必要であることを意味し、これにより処理の費用が追加される。さらに、柑橘油で良好な結果が保証できない事実は、全てのプロセスに不確実さをもたらす。
【発明の概要】
【0004】
この問題が、特定の方法により、実質的に、またはもっといえば完全に克服できることが今見出された。したがって、柑橘油をろ過プロセスにかけることによる柑橘油の脱ろう方法が提供され、ここで、油は該プロセスの間11℃より低い温度に保たれる多孔質膜に沿って流され、該膜は、0.05〜5マイクロメートルの平均孔径を有する。
【0005】
また、上記のようなプロセスにより調製される、実質的にろうを含まない柑橘油をさらに提供する。
「柑橘油」により、オレンジ、レモン、ライム、タンジェリン、およびベルガモットなどの、果実類の柑橘科のいずれかから由来する、いずれかの油を意味する。
流れがろ過表面に垂直であって、より通例の、いわゆる「デッドエンド」ろ過法とは対照的に、本ろ過プロセスは、油を多孔質膜表面に沿って流すこと(限定することなく、ポンプによってなど)を伴う。
【0006】
「約11℃」により、この温度が、何が作用し、何が作用しないかの間のはっきりとした境界を表すものではないことを意味する。柑橘油は、物質の複雑な混合物であり、その性質および割合は、給源に依存して、大抵異なる。それゆえ、11℃を超えて良好な結果を与える油もあり得るが、失敗発生率は、11℃に近づくにつれて急に増加し、柑橘油の大部分は11℃を超えると失敗する。したがって、11℃の選択は実際の観察結果を表し、11℃を超えたわずかな温度の変化は、本開示の目的のためには、その範囲内にあると考えられる。
【0007】
適用の物理的および化学的過酷さに耐えられる好適な膜は、当該技術分野ではよく知られていて、容易に入手可能である。いくつかの典型的なタイプは、金属、セラミック、グラファイトまたはポリマー材料の膜を含み、それらは自己支持体でも支持体上に蒸着されていてもよい。後者の型の例は、セラミック支持体上の金属、セラミックおよびポリマー、グラファイト支持体上のジルコニア、ステンレス支持体上の二酸化チタン、または、同一のもしくは異なるポリマー支持体上のポリマーを含む。周知の市販製品は、Doulton USAのFICLフィルターおよびPall Corp.,USAのMembralox(商標)である。
【0008】
全てのかかる膜およびあらゆる関連支持装置は、一般的に、容易な設置および交換のために、モジュール形式で入手可能である。
かかるフィルターとの使用のためのポンプは、当該技術分野に周知であり、好適なポンプは、当該技術分野に公知であって商業的に入手可能な、あらゆるポンプから容易に選択することができる。
【0009】
フィルターを通じて油を流す圧力は、ポンプによって供給されてもよい。これは、膜の供給側または「透過残物(retentate)」側に圧力を生じさせ、これが生成物または「透過物(permeate)」側の圧力より大きい場合、油は膜を通じて流れる。最適な流量を与えるための適切な圧力は、単純な実験によって各ケースにおいて決定されてもよい。
【0010】
平均孔径は、0.05〜5マイクロメートルの間であってよい。特定の例は、0.2〜3ミクロンおよび0.2〜1.4マイクロメートルの間の平均孔径を有する。選択される、いかなる膜材料における好適な多孔率の度合いの提供は、当該技術分野内でよくなされている。
油は、比較的高い直線速度で、膜に沿って流される。当業者は、単純な実験により好適な直線速度を決定することが可能であるが、原則として(しかしながら、決して厳格な拘束ではない)、典型的な直線速度は、1〜7m/秒のいずれか(one of)である。したがって、ポリマー膜についての直線速度は、典型的には、1〜2m/秒であり、セラミック膜では、典型的には、4〜7m/秒で操作される。
【0011】
上記の方法により、上述の48時間試験に、製造後直ちに合格するだけではなく、数日または数ヶ月置いた場合にも同一の試験に合格するであろう、脱ろうされた柑橘油の回収を可能にする。
本方法は、ここで、特定の態様を記載する以下の非限定的な例を参照して、さらに記載される。
【0012】
例1
10倍濃縮オレンジ油のろ過
油は10倍濃縮オレンジ油で、1倍バレンシア油からの蒸留により製造されたものである。濃縮されたオレンジ油は、ピール油から蒸留を通じて大量の(bulk)テルペンを取り除くことにより得られる濃縮製品であり、ここで、所望の香料化合物が濃縮される。
【0013】
使用される膜エレメントはチューブ状で、α−アルミナ支持体上に被膜されたセラミック(α−アルミナ)膜を含んでいた。孔径は0.2μmであった。エレメントは、7mmの内径、10mmの外径、および25cmの長さであった。この膜エレメントは、筐体に収まってろ過モジュールを形成し、該ろ過モジュールは、同様にPall T1−70卓上クロスフロー精密ろ過ユニット(Pall, East Hills, NY, USA)に収まっていた。使用された膜は、Membralox(商標)膜(ex Pall, East Hills, NY, USA)であった。
【0014】
ろ過ユニットは、1ガロンの供給/透過残物ジャケット(jacketed)タンク、可変周波数駆動を備えた循環ポンプ、入口および出口を備えた膜モジュール、モジュール入口および出口圧力計、およびモジュール出口温度計を含んでいた。透過物ライン(permeate line)は、透過物バルブを備え、これにより流れを止めることができる。装置はまた、バックパルスデバイスも備え、これは透過物パルスを、流れの通常方向に反して膜を周期的に通過させて(direct)、膜の付着物を最小化する。
【0015】
2500gの10倍濃縮オレンジ油を供給タンクに加え、次いで、タンクジャケットを通じ、−16℃でプロピレングリコール/水を循環させることにより、油を−10℃まで冷却した。透過物バルブを閉じ、タンクを空気で加圧し、循環ポンプを始動させた。0.90barのモジュール入口圧力および0.70barのモジュール出口圧力を得るように空気圧を調整した。次いで、透過物バルブを開けて、脱ろうされたオレンジ油の回収を開始した。モジュール出口温度は、5℃から11℃の間に保たれ、回収されたろ過油は、48時間ろう冷却試験を受け、合格した。
【0016】
この試験は次の通りに実施された。ろ過された油の試料を、冷蔵庫中、4℃で48時間インキュベートした。次いで、沈殿物の存在がないか、視覚的に試料を検査した。個体が存在せずに油が透明のままであった場合、その油は試験に合格したと考えられた。
ろ過中、膜を通過した油の平均流量は、8リットル/m−時間で、得られた収量は、システムに充填された供給油につき、84.5%(重量/重量)のろ過油であった。
【0017】
例2
温度に依存する、10倍濃縮オレンジ油のろ過
ろ過は、その方法において以下に詳述するいくつかの変更を伴って、例1に記載された装置を利用して実施された。この場合において、ろ過された油が、ろうの不十分な除去により、もはや48時間ろう試験を合格しない温度を決定するために、ポンプからの加熱により油温を上昇させることで、温度を11℃を超えて上昇させることが可能であった。
【0018】
2190gの10倍濃縮オレンジ油を供給タンクに充填し、−13℃のプロピレン/水を使用して0℃まで冷却した。膜モジュール入口圧力は0.85mbarであり、膜モジュール出口圧力は0.65mbarであった。
モジュール出口温度を監視し、モジュール出口温度が8.7℃になったときに、ろ過された油製品の回収を開始し、12℃に到達したときに停止した。システムに充填された供給油につき、87%(重量/重量)収量のろ過油と共に、ろ過中、9リットル/m−時間の平均流量が観測された。
【0019】
ろ過油の試料は、種々のモジュール出口温度におけるろ過の経過を通して回収され、試料は48時間冷却ろう試験を受けた。得られた結果を以下の表に示す:
【0020】
【表1】

【0021】
表から見られるように、11℃以下で回収された全てのろ過試料は、試験に合格し、その試験において、ろ過試料は全て透明であった(沈殿物なし)。残りの試料は、沈殿物が観察されたため、不合格である。
【0022】
以上に記載された態様は、特定の態様であり、開示の範囲において、いかなる限定もするものではないと解釈されることが理解されるであろう。当業者は態様の組合せまたは要素の組み合わせを含む改変を容易に想到できるであろうが、それも開示の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘油をろ過プロセスにかけることによる柑橘油の脱ろう方法であって、ここで、油は該プロセスの間11℃より低い温度に保たれる多孔質膜表面に沿って流され、該膜が、0.05〜5マイクロメートルの平均孔径を有する、前記方法。
【請求項2】
多孔質膜が、セラミック、金属、グラファイトまたはポリマーの少なくとも1種の材料を含む膜クロスフローフィルターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
膜の平均孔径が、0.2〜3マイクロメートルの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
膜の平均孔径が、0.2〜1.4マイクロメートルの間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
膜表面に沿った油の流れが、1〜7m/秒の直線速度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
膜がポリマー性であって、直線速度が1〜2m/秒である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
膜がセラミックであって、直線速度が4〜7m/秒である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により調製される、実質的にろうを含まない柑橘油。

【公表番号】特表2010−539257(P2010−539257A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524328(P2010−524328)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際出願番号】PCT/CH2008/000378
【国際公開番号】WO2009/033306
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】