説明

脱プロピレン塔の運転方法

【課題】プロピレンオキサイド/スチレンモノマー併産プラントにおけるエポキシ化反応工程後の脱プロピレン塔で、蒸留のために消費されていた多大なエネルギーを削減できるような脱プロピレン塔の運転方法を提供すること。
【解決手段】エポキシ化反応工程の反応液を減圧タンクで減圧してプロピレンの気相部と粗反応生成物である液相部とに分離したのち、気相部のプロピレンを脱プロピレン塔の中央側部に供給し、液相部をアルカリ水洗浄工程で洗浄して、油相と水相とに分離し、油相部を脱プロピレン塔の塔頂側部に供給して、塔頂留分としてプロピレンを、塔底留分としてプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物を抜き出す脱プロピレン塔の運転方法であって、アルカリ水洗浄工程から脱プロピレン塔へ供給する前記油相部のうち30〜50質量%分を前記減圧タンクから出た液相部と熱交換したのち脱プロピレン塔の中央側部に供給することを特徴とする脱プロピレン塔の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイド/スチレンモノマー併産プラントにおけるエポキシ化反応工程の反応液からプロピレンを分離する脱プロピレン塔の運転方法に関する。更に詳しくは、該反応液の有する熱量を熱交換によって利用することで、脱プロピレン塔で付加する熱量を削減する脱プロピレン塔の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキサイド/スチレンモノマー併産プラントにおいて、エチルベンゼンハイドロパーオキサイドでプロピレンをエポキシ化してプロピレンオキサイドを得るエポキシ化反応工程の反応液は、減圧タンクで減圧してプロピレンの気相部と粗反応生成物である液相部とに分離したのち、気相部のプロピレンを脱プロピレン塔の中央側部に供給し、液相部はアルカリ水洗浄工程で洗浄処理して、酸や触媒を水相中に分離し、油相部を脱プロピレン塔に供給して、塔頂からプロピレンを、塔底からプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物を抜き出す。
ここで、アルカリ水洗浄処理前のエポキシ化工程反応液の液温は120℃程度であるが、アルカリ水洗浄工程は油相と水相の良好な分離性のためには40℃程度であることを要するため、エポキシ化工程反応液はその温度まで冷却してアルカリ水洗浄工程に供給される。
そして、アルカリ水洗浄処理を経た油相は、40℃という低温のまま、脱プロピレン塔へ供給されているため、脱プロピレン塔では、蒸留のために多大なエネルギーを消費していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来、脱プロピレン塔で、蒸留のために消費されていた多大なエネルギーを削減できるような脱プロピレン塔の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、低温の脱プロピレン塔供給液の一部と高温のエポキシ化工程反応液であるアルカリ水洗浄工程供給液とで熱交換を行い、アルカリ水洗浄工程供給液の冷却で捨てていた熱量を脱プロピレン塔供給液の加温に有効利用することで、脱プロピレン塔の蒸留のために使用されていたエネルギーを削減できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、
プロピレンオキサイド/スチレンモノマー併産プラントにおけるエポキシ化反応工程の反応液を減圧タンクで減圧してプロピレンの気相部と粗反応生成物である液相部とに分離したのち、気相部のプロピレンを脱プロピレン塔の中央側部に供給し、液相部をアルカリ水洗浄工程で洗浄して、油相と水相とに分離し、油相部を脱プロピレン塔の塔頂側部に供給して、塔頂留分としてプロピレンを、塔底留分としてプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物を抜き出す脱プロピレン塔の運転方法であって、アルカリ水洗浄工程から脱プロピレン塔へ供給する前記油相部のうち30〜50質量%分を前記減圧タンクから出た液相部と熱交換したのち脱プロピレン塔の中央側部に供給することを特徴とする脱プロピレン塔の運転方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エポキシ化工程反応液の有する熱量を熱交換によって脱プロピレン塔供給液の加温に有効利用することができ、従来、脱プロピレン塔で、蒸留のために消費されていた多大なエネルギーを削減できるような脱プロピレン塔の運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用する脱プロピレン塔は、充填塔、棚段塔のいずれもが使用できるが、棚段塔の方が好ましく、棚段塔の場合、その段数は特に制限されないが、操作性の点から40〜50段程度、好ましくは44〜45段程度である。
プロピレンオキサイド/スチレンモノマー併産プラントにおけるエポキシ化反応液(1500kPaG程度)を減圧タンクで360kPaG程度に減圧してプロピレンの気相部と反応生成物である液相部(プロピレンオキサイド、エチルベンゼン、メチルベンジルアルコール、アセトフェノン等、およびプロピレン含有)とに分離したのち、気相部のプロピレンは脱プロピレン塔のほぼ中央部の20〜23段目に温度約110〜130℃程度で供給される。一方、液相部のプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物等は約40℃でアルカリ水洗浄処理されたのち、油相とアルカリ水相の二相に分離され、従来は、油相部の全量が脱プロピレン塔の塔頂部へ液温約40℃のまま供給されていた。
なお、該脱プロピレン塔の塔頂圧力は300〜350kPaG程度、差圧25〜30kPa程度、塔頂温度40〜70℃、塔底温度120〜140℃程度で運転される。
【0008】
脱プロピレン塔の塔頂部からはプロピレンガスとそれに同伴されるプロピレンオキサイドと水分が塔頂留分として抜き出される。該塔頂留分はクーラーで冷却されて気相のプロピレンとプロピレンオキサイドを含む水とに分離される。塔底部からはプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物等が取り出され、プロピレンオキサイドの他にエチルベンゼン、メチルベンジルアルコール、アセトフェノン等が塔底留分として抜き出される。
【0009】
本発明は、従来、エポキシ化反応工程の反応液(液相部)を冷却してアルカリ水洗浄処理を行って得た油相の全量を低温のまま脱プロピレン塔に供給していたのを、該油相の一部を、高温のエポキシ化反応工程の反応液と熱交換することにより加温して脱プロピレン塔に送ることを特徴とする。
すなわち、本発明においては、アルカリ水洗浄槽を出た約40℃の油相の30〜50質量%分、より好ましくは35〜45質量%分は、約120℃であるエポキシ化工程反応液と熱交換されて80〜100℃に加温され、脱プロピレン塔の中央部あたり、24〜26段目に供給される。一方、該油相の残り70〜50質量%分は従来通り約40℃のまま脱プロピレン塔の塔頂部へ供給される。
【0010】
かかる量のアルカリ水洗浄槽を出た油相をエポキシ化工程反応液と熱交換して脱プロピレン塔の中央部あたりに供給することにより、プロピレンの分留効果等を悪化させることなく、脱プロピレン塔の塔底において炊き上げのために要していたエネルギー量を削減することが可能となる。
ここで、アルカリ水洗浄槽を出た油相の50質量%分を超える量をエポキシ化工程反応液と熱交換させると、該油相中に含まれるプロピレンが多量に脱プロピレン塔の中央部に供給され、従来の供給位置である塔頂部よりも低い位置である塔中央部においてはプロピレン蒸気の通過量が増加し、脱プロピレン塔全体の差圧が上がるため、塔底における炊き上げを減らす必要があり、脱プロピレン塔の蒸留効率(運転成績)を落とすこととなる。また、塔頂部へ供給される油相の量が減少するため、塔内全体としての液体還流量が減ることとなり、気液分離に使われる液体量が減って分留効果が低下することとなる。
一方、アルカリ水洗浄槽を出た油相の30質量%分未満の量をエポキシ化工程反応液と熱交換させたのでは、上記のような脱プロピレン塔のプロピレン分離効率を悪化させるようなことはほとんどないが、本発明が目的とする脱プロピレン塔におけるエネルギー量削減効果が小さい。
【実施例】
【0011】
次に実施例を用いて本発明を説明する。
比較例1
エポキシ化反応液を減圧タンクで減圧してエポキシ化反応液の12質量%分をプロピレンの気相部とし、残りを粗反応生成物の液相部として分離したのち、気相部の、温度121℃のプロピレンを脱プロピレン塔の中央部22段目側部に供給し、液相部のプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物等はアルカリ水洗浄工程で洗浄したのち、油相とアルカリ水相の二相に分離し、油相部は全量を脱プロピレン塔の塔頂部44段目側部へ温度40℃で供給した(図1参照)。該脱プロピレン塔の塔頂圧力は310kPaG、差圧28kPa程度、塔頂温度56℃、塔底温度124℃程度の運転条件で脱プロピレン塔を運転した。脱プロピレン塔の塔頂部からはプロピレンとそれに同伴されるプロピレンオキサイドと水分を取り出し、該塔頂留分をクーラーで冷却して気相部のプロピレンガスと凝縮されたプロピレンオキサイドを含む水とに分離した。分離されたプロピレンオキサイドを含む水はアルカリ水による洗浄工程へ循環し、塔底部からはプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物等をエポキシ化反応液の93質量%分の割合で抜き出した。
実施例1
エポキシ化反応粗反応生成物の液相部をアルカリ水洗浄工程で洗浄して得た油相を次のように処理した以外は比較例1と同様にして脱プロピレン塔の運転を行った(図2参照)。
すなわち、該油相のうち、45質量%分は温度121℃の減圧タンクを出た液相部と熱交換させ、脱プロピレン塔の中央部25段目側部へ温度90℃で供給した。また、該油相の残り55質量%分は脱プロピレン塔の塔頂部44段目側部へ温度40℃で供給した。なお、該脱プロピレン塔の塔頂圧力は310kPaG、差圧28kPa程度、塔頂温度56℃、塔底温度124℃程度の運転条件で脱プロピレン塔を運転した。脱プロピレン塔はフラッディング現象も見られず極めて安定的に連続運転をすることができた。
そして、脱プロピレン塔の塔底におけるエネルギー使用量は、比較例1よりも30%削減された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の脱プロピレン塔の運転状況を示したフロー図である。
【図2】本発明の脱プロピレン塔の運転状況を示したフロー図である。
【符号の説明】
【0013】
A:減圧タンク
B:アルカリ水洗浄槽
C:熱交換部
D:脱プロピレン塔
E:脱プロピレン塔加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、有機ハイドロパーオキサイドとプロピレンとをエポキシ化反応させてなるエポキシ化反応液を減圧タンクで減圧してプロピレンの気相部と粗反応生成物である液相部とに分離したのち、気相部のプロピレンを脱プロピレン塔の中央側部に供給し、液相部をアルカリ水洗浄工程で洗浄して、油相と水相とに分離し、油相部を脱プロピレン塔の塔頂側部に供給して、塔頂留分としてプロピレンを、塔底留分としてプロピレンオキサイドを含む粗反応生成物を抜き出す脱プロピレン塔の運転方法であって、アルカリ水洗浄工程から脱プロピレン塔へ供給する前記油相部のうち30〜50質量%分を前記減圧タンクから出た液相部と熱交換したのち脱プロピレン塔の中央側部に供給することを特徴とする脱プロピレン塔の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−196962(P2009−196962A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42932(P2008−42932)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(503108115)日本オキシラン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】