説明

脱水器およびスラリーの脱水法

【課題】建設汚泥等を簡単に脱水して再資源化できるようにする。
【解決手段】植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートを容器の材料とした脱水器である。使用するモルタルまたはコンクリートは,10Kg/m3以上の植物繊維がセメントマトリックス中に分散しており,これにより毛細管現象による水吸引性能を有するものである。スラリーの脱水方法の発明としては,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートからなる容器内にスラリーを収容し,該容器そのものを固液分離器として水分を容器外に流出させかつ固形分を容器内に残留させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,植物繊維を配合したセメントまたはモルタルが毛細管現象に似た水吸引性・保水性等を示すことを利用したスラリー(汚泥等)の脱水器および脱水法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の建設現場で発生する排泥土や流動化土等は一般に「泥土」と呼ばれ,このうち廃棄物処理法によって規定されている産業廃棄物は「建設汚泥」と呼ばれる。これらの泥土や建設汚泥を再資源化するにはいくつかの処理法があるが,それの脱水処理は,減量化や安定処理などの前処理として不可欠である。脱水方法には,遠心分離機やベルトプレス機等を用いる機械力による脱水法,濾過器やシックナー等の重力を利用する自然式脱水法,脱水助剤を添加混合して凝集を促進させる化学的方法,乾燥による水分蒸発方法などがある。
【0003】
特許文献1には汚泥の天日乾燥を促進するために,綿布等の毛細管現象をもつ膜体の一端を槽内の汚泥内に浸漬し,他端を槽の側壁の外側につり下げる方法を開示しており,汚泥中の水分が該綿布に吸い上げられて槽の外側に移行して下降する間に,日射や風による蒸発を受けて槽内の汚泥の乾燥が促進されるとされている。特許文献2には,ポーラスコンクリート(骨材粒度を限定して連続的な空隙を形成した透水性コンクリート)からなる透水性部材を貯留槽の底部と側部に敷設し,この透水性部材の内面側に透水シートを添設することにより,貯留槽内の泥水を該透水シートでろ別し,その水分を槽外に排出するようにした泥水の処理装置が記載されている。特許文献3には,植物繊維を配合した保水性コンクリートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−11960号公報
【特許文献2】特開平2−229508号公報
【特許文献3】特開2002−173353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
汚泥等の非沈降性スラリーの脱水法として,乾燥による水分蒸発法や重力を利用する自然式脱水法等は最も単純な方式であるが,その効率が一般に悪い。特許文献1のように綿布等による毛細管現象を利用して蒸発を促進する方法はそれなり効果を期待できるが,その効果が天候に左右される点や作業性の点でも,工業的に有利な脱水法とまでは言えない。特許文献2のようにポーラスコンクリートを用いる方法では,ポーラスコンクリートは透水性を有するが保水性・吸水性が悪く,汚泥などの微粒子を水から固液分離する能力は一般に有していない。このために濾材としての透水シートを別途使用することが必要であり,この透水シートの目詰りの問題が常に付きまとうので,やはり効率のよい固液分離は期待できない。
【0006】
したがって本発明は,汚泥等の非沈降性スラリーを効率よく自然に脱水できる方法を提供しようとするものであり,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートが毛細管現象の如き水吸引性・保水性を示すことを利用して,この課題を達成しようとするものである。なお,特許文献3には植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートが記載されているが,この特許文献3には汚泥等のスラリー等の固液分離に関する技術の開示はない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートを容器の材料とした脱水器を提供する。使用するモルタルまたはコンクリートは,10Kg/m3以上の植物繊維がセメントマトリックス中に分散しており,これにより毛細管現象による水吸引性能を有するものである。また,モルタルまたはコンクリートはMgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを結合材としたものが好ましい。骨材成分としては軽量骨材を使用することもできる。この脱水器を大型にする場合にはそのモルタルまたはコンクリート中に配筋するのがよく,その場合,配筋を熱の伝達手段に利用して脱水器を加熱することができる。
【0008】
さらに本発明によれば,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートからなる容器内にスラリーを収容し,該容器そのものを固液分離器として水分を容器外に流出させかつ固形分を容器内に残留させるスラリーの脱水法を提供する。スラリーとしては,汚泥,汚水,ヘドロ,浚渫土砂,ダム堆砂,流動化土,湖沼や貯水池等の閉鎖性水域で発生する微細生物の群体,またはこれに類する各種の建設土木分野で発生する泥状物,或いは各種プラントから発生する泥状の産業廃棄物,さらには濃塩水,砂糖原液,澱粉原液,野菜スラリー,魚介類スラリー,またはこれに類する食品分野で発生する泥状物であることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従う脱水器は,放置しておいても自然にスラリー中の水を抜き出す作用があり,機械的動力を全く要することなく粘稠なスラリーや懸濁液であってもその中の水だけを抜き出すことができる。したがって一般汚泥や各種の建設土木分野で発生する泥状物を動力や機械を用いることなく脱水することができ,これらの再資源化が省エネルギー的および省設備的に簡易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に従う脱水器の例を示す略断面図である。
【図2】本発明に従う脱水器の他の例を示す略断面図である。
【図3】本発明に従う脱水器のさらに他の例を示す略断面図である。
【図4】本発明に従う脱水器を用いた汚泥処理設備の例を示す略工程図である。
【図5】本発明の脱水器を用いた場合のスラリーの経過挙動を示す図である。
【図6】本発明の脱水器を用いた場合のスラリーの経過挙動を示す図である。
【図7】本発明の脱水器を用いた場合の粘稠なスラリーの経過挙動を示す図である。
【図8】本発明の脱水器を用いた場合の粘稠なスラリーの経過挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリート(植物繊維入りセメント系硬化体と言う)は,セメントマトリックス中に分散した植物繊維が毛細管の作用を果たして水を吸引するようになる。このため,例えば植物繊維入りセメント系硬化体のパネルを,その下端を水中に浸漬した状態で立てかけておくと,水面から2〜3m高さまで水を吸い上げることができ,パネル全体が水で湿潤した状態になる。逆に,該パネルの上縁に水を供給すると,パネルの内部に水の通路が形成されつつ下方に流下し,パネルの外へ流れ出る。
【0012】
本発明は,植物繊維入りセメント系硬化体が有するこのような性質を利用して汚泥等のスラリーを自然に固液分離する点に特徴がある。すなわち,スラリー中の水分を植物繊維入りセメント系硬化体内に自然に吸引分散させ,最終的にはこれを該硬化体から放散させることによって,スラリーの脱水を図る。
【0013】
図1に本発明に従うスラリー脱水器の要部を示した。その構成は極めて単純なもので,汚泥等のスラリー1を収容する容器2を構成する材料として,植物繊維入りセメント系硬化体3を用いたものである。図1の例では,箱型の容器2を構成する壁部と底部の材料が植物繊維入りセメント系硬化体3で出来ている。換言すれば,植物繊維入り生モルタルを箱型に打設し,これを硬化することによって箱型の容器2を形成したものである。
【0014】
この容器2内にスラリー1が装入されると,容器2の壁および底部を構成している植物繊維入りセメント系硬化体3にその水分が吸引され,その一部は壁部を上昇し,他部は底部および壁部を下降する。植物繊維入りセメント系硬化体3の内部を通過して下降する水分は,その量が多いときにはその過剰分は実線矢印4で示すように容器2の外に流下するが,スラリー1内の水分量が減ればやがてその流下は止む。しかし,植物繊維入りセメント系硬化体3が前記のように水を吸引する作用を有するので,吸引される水の一部は容器の壁部を上昇しその外表面から破線矢印5で示すように大気中に蒸発放散され,他部も容器の壁部および底部に拡散浸透してその外表面から大気中に蒸発放散される。
【0015】
このように,比較的水分量の多いスラリー1を容器2内に装入した場合には,容器2を構成している植物繊維入りセメント系硬化体3が濾材としての機能を果たして,過剰の水分を容器2の外に流出させる。やがてスラリー1内の水分が低下してこの濾別作用が止んだ後でも,或いは比較的水分量の低いスラリー1を容器2内に装入した場合でも,植物繊維入りセメント系硬化体3がスラリー1内の水を吸引してこれを容器2の材料全体に拡散分散させる作用を供する。この結果,水の表面積が非常に大きくなり,大気中への蒸発が促進される。植物繊維入りセメント系硬化体3の外表面から水の蒸発が起きると,毛細管現象によりさらにスラリー1内の水を該硬化体3内に吸引する力が働く。このようにして,スラリー1内の水は容器2の壁面および底面を通じて大気中に蒸発を続け,容器2内には固形分濃度の高いケーキが残留するようになる。
【0016】
図2は,水の蒸発面積をさらに拡大するために,植物繊維入りセメント系硬化体の放散板6を容器2内に取付けた例を示したもので,この放散板6の下縁に接するようにスラリー1を装入することにより,スラリー1中の水分は容器2の壁や底の外表面に拡散されるのみならず,放散板6内を上昇してその外表面に拡散し,大気中に蒸発するので,蒸発が促進される。放散板6は板状体のみならず杭状等の柱状の形状を有するものであってもよい。
【0017】
水の蒸発をさらに促進するために,植物繊維入りセメント系硬化体からなる容器2の壁部や底部の外表面の面積を増大させることも望ましい。すなわち,それらの外表面に凹凸を設けたり,波形に形成したり,溝を設ける等として表面積を増大させることにより,水の蒸発面積を増やすことにより,水の拡散蒸発をさらに促進させることができる。
【0018】
容器2の壁面や底部の強度を補強するために植物繊維入りセメント系硬化体内に鉄筋を配することも可能である。また,容器2の内外,若しくは壁内にヒーターを配置し,これらのヒーターに通電することによって,水の拡散蒸発をさらに促進することも可能である。
【0019】
本発明の脱水器では,容器2内のスラリー1は,それと接する容器2の内壁から壁内に水が吸引されることにより,脱水する。このため,スラリー1と接する容器2の内壁は耐久性が高く且つスラリー中の微粒子は通さないが水を通す透水性を有することが必要である。本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体はこの要件を十分に満たし且つどのような形状にも打設が可能である点で形状融通性がある。
【0020】
植物繊維入りセメント系硬化体は,通常のセメント系硬化体ではあり得ないような水の浸透性質並びに毛細管現象を示す点で特異な材料である。すなわち,上方から下方に向けて水が自然に浸透・流下する性質を有することに加えて,水が上方に向けて上昇するような毛細管現象を示す。普通コンクリートはこのような水の浸透・流下の性質を一般には持たない。また,従来のポーラスコンクリートでは大きな空隙を有し,この空隙が水の抜ける通路となっているが,そのコンクリートマトリックス自身は,普通コンクリートと同様に水が浸透・流下する性質を持たないと言える。
【0021】
このような水の浸透・流下や毛細管現象による水の汲み上げ挙動は,硬化体マトリックス中に植物繊維を適量配合することによって得ることができる。すなわち,セメント等の結合材および骨材のほかに,適量の植物繊維を配合することによってこのような性質が得られる。使用する植物繊維としては,長さが2〜50mm,径が0.01〜1.0mm程度のものが好適であり,配合量としては,植物繊維の種類によってその適正な範囲は異なるが,10〜80Kg/m3好ましくは20〜60Kg/m3の範囲とするのがよく,植物繊維の配合量が多いほどこのような性能は高まる。この理由としては,植物繊維それ自身が水を吸水する性質を有することのほかに,硬化体マトリックス中に植物繊維が分散されることにより,水が浸透するような微細な細孔が硬化体マトリックス全体に分布するようになるからであろうと考えられる。しかし,あまり植物繊維の配合量が多いと,骨材・結合材間の接合強度を劣化させることにもなるので,80Kg/m3以下,好ましくは60Kg/m3以下とするのがよい。練り混ぜに際しては,例えばセメントペーストに植物繊維を先練りし,植物繊維入りセメントペーストを骨材と練り混ぜる方法が好ましい。
【0022】
植物繊維としては,麻,綿,籾,藁,椰子殻,樹皮等の少なくとも1種を原料とすることができる。植物繊維の使用にあたっては,よくほぐした状態で使用するのがよい。植物繊維の性質上,その繊維一本一本の径や長さ,さらには表面状態や形状(針状か板状かなど)はランダムであるが,要するところ,その植物繊維の性質に応じてコンクリート中によく分散できるような寸法形状とすればよい。麻を用いる場合には,ほぼ長さが2〜12mmで,径が0.2〜0.7mm程度の麻を練り混ぜ中の材料に少しづつ投入して分散させればよい。そのさい,水を混入する前の空練りを60秒以上行うことが好ましい。
【0023】
練り混ぜにさいしては,コンクリート用分散剤を使用して植物繊維の分散を促進させることも好ましい。使用できる分散剤には各種のものがあるが,例えば高性能減水剤や高性能AE減水剤などが挙げられる。
【0024】
使用する結合材として,セメント系では普通セメントが使用できるが,低pH(低アルカリ)セメントを使用すると,低pHの植物繊維入り調合物が得られ,低pHの本発明に従う脱水器を作ることができる。低pHセメントとしては,MgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを使用できる。このような低pHセメントとしては,例えば特開2001−200252号公報に記載された軽焼マグネシアを主成分とする土壌硬化剤組成物が挙げられる。またこれに相当する低pHセメントは商品名マグホワイトとして市場で入手できる。また,高炉スラグ微粉末,フライアッシュ,シリカヒュームなどをセメントの一部と置換して,またはセメントと併用して配合することもできる。
【0025】
骨材成分としては通常の細骨材および粗骨材を使用できる。場合によっては,粗骨材を使用せずいわゆるモルタル配合の脱水器とすることも可能である。骨材成分として黒土等の土質材料を使用することもできる。軽量骨材,すなわち軽量細骨材および/または軽量粗骨材を使用して,植物繊維配合の軽量脱水器とすることもできる。
【0026】
本発明の脱水器を作るための,代表的な植物繊維入り生モルタルの材料配合例を挙げると,普通セメントを使用した場合には,例えば,
普通ポルトランドセメント:600Kg/m3±200Kg/m3
粗骨材(最大寸法20mm) :650Kg/m3± 50Kg/m3
細骨材 :700Kg/m3±100Kg/m3
水 :240Kg/m3± 40Kg/m3
植物短繊維(綿の場合) : 35Kg/m3± 10Kg/m3
混和剤として,
高性能減水剤(例えば(株)エヌエムビー製の商品名8000ES):6Kg/m3±2Kg/m3
を例示できる。
これによって気乾比重=1.9±0.2,湿潤比重=2.1±0.2の硬化体とすることができる。この硬化体は,圧縮強度300kgf/cm2 ±50kgf/cm2,曲げ強度45kgf/cm2±10kgf/cm2の強度を有することができる。
【0027】
また,低pHセメントを使用する場合には,例えば
低pHセメント(商品名マグホワイト):500Kg/m3±50Kg/m3
黒土 :500Kg/m3±50Kg/m3
砂 :400Kg/m3±40Kg/m3
水 :420Kg/m3±40Kg/m3
植物短繊維(綿の場合) :20Kg/m3±5Kg/m3
混和剤として,
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100A):5Kg/m3±1Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100B):3Kg/m3±1Kg/m3
を例示できる。
これによって気乾比重=1.5±0.2,湿潤比重=2.1±0.2の硬化体とすることができる。この硬化体は,圧縮強度300kgf/cm2±50kgf/cm2,曲げ強度45kgf/cm2±10kgf/cm2で,単位吸水率が30%±10%程度の吸水性を示す硬化体となる。
【0028】
また,この低pHセメントを使用する場合において,黒土や砂の全部または一部を軽量骨材例えばパーライトやバーミキュライトを使用すると,軽量で高い吸水率のものが得られる。
【0029】
このような軽量骨材(パーライト,バーミキュライト,セオライト等)を用いた配合例を挙げると次のとおりである。
低pHセメント(商品名マグホワイト):140Kg/m3±20Kg/m3
軽量骨材 :100Kg/m3±20Kg/m3
砕砂 :150Kg/m3±20Kg/m3
水 :450Kg/m3±20Kg/m3
植物短繊維(綿の場合) :10Kg/m3±2Kg/m3
混和剤として,
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100A):5Kg/m3±1Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100B):5Kg/m3±1Kg/m3
低pHセメント用反応材:15Kg/m3±5Kg/m3
を例示できる。
これによって例えば,気乾比重=1.1±0.2,湿潤比重=1.5±0.2のように軽量となり,吸水率も40%±5%程度にまで高めることができる。
【0030】
このようにして得られる濾過性および水吸引性を示す硬化体は,その供試体に水を浸透させた場合,例えば供試体の上面に供試体の上面積と同じ面積の底のない水槽を形成し,この水槽に40cm高さの水を入れて,供試体中に水を浸透させた場合,前記の低pHセメントを結合材としたものでは水は供試体中を40〜60cm/日の速度で浸透してゆく。例えば18時間で水深40cmの水が全て供試体中に浸透する。
【0031】
これを透水係数を用いて表すと,本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体の透水係数は0.0001〜0.0005cm/sec程度であり,より具体的には,普通セメントを用いた場合には0.0001〜0.0003cm/sec程度,低pHセメントを用いた場合には0.0004〜0.0005cm/secの程度となる。ちなみに,植物繊維を配合しない普通セメントモルタルの硬化体の透水係数は3×10-5cm/sec〜6×10-5cm/sec程度である。なお,従来のポーラスコンクリートの本来の機能は,上方からの水が下方への簡単に抜けるという空隙性にあり,このために透水係数は3.0〜5.0cm/secと高い。しかし,そのセメントマトリックス自体は,普通コンクリートの場合と同様に,水が浸透するような性質は殆どない。
【0032】
本発明に従う脱水器は,特に低pHセメントを用いた植物繊維入りセメント系硬化体からなる脱水器は,これを廃棄する場合には粉砕すれば土壌への回帰が可能である。したがって埋戻しができる点でも有利である。
【0033】
本発明に従う脱水器を比較的大型にする場合には,容器壁部および底部を形成している植物繊維入りセメント系硬化体に鉄筋を配することによって強度を高めることができる。この場合,植物繊維入りセメント系硬化体中に配した鉄筋を熱の伝達材として利用し,脱水器の加熱にこれを利用することができる。その例を図3に示した。
【0034】
図3において,7は植物繊維入りセメント系硬化体3の中に配した鉄筋を示しており,その鉄筋7の一部8を硬化体3の外部に露出させる。この露出した鉄筋8を熱源9によって加熱する。熱源9は特に限定されないが電気ヒーターが好適である。植物繊維入りセメント系硬化体3内の鉄筋7が,露出した鉄筋8と連結しており,この露出した鉄筋8が熱源9によって加熱されると,その熱は硬化体3内の鉄筋8に伝達して硬化体3が加熱される。その結果,植物繊維入りセメント系硬化体3内を浸透している水が加熱され,容器2の表面からの水の蒸発が促進される。
【0035】
図4は,本発明に従う脱水器を用いて建設汚泥を再資源化する場合の施設例を示したものである。この施設では,植物繊維入りセメント系硬化体を用いて作製した本発明の脱水器2を多数備えており,これを循環使用する。施設に搬入された汚泥は空の脱水器2に装填される。汚泥を装入した脱水器は脱水処理場10に運び込まれ,ここで所定の時間養生されることにより,前述のように汚泥中の水分は脱水器の表面から放出される。この処理を終えて固形分が残存した脱水器は処理場10から取り出され,脱型機11にセットされる。ここで脱水器2が反転され,固形分が脱型される。ついで,脱型された固形分は再資源化用に搬出される。
【0036】
脱水処理場10は屋根付きの単なる建屋であり,脱水のための機械的動力は殆ど不要である。僅かに通気のためのフアンや,場合によっては温風を送り込むための設備を必要に応じて備えるだけでよく,設備費用は極めて低廉でよい。なお,脱型のあとの脱水器については,その空となったものをそのまま装填に繰り返し使用してもよいが,固形分を脱型したあとの脱水器の内面に固形分が付着している場合には,これを掻き落としたり,水流や空気流を噴射して清浄にすることもできる。植物繊維入りセメント系硬化体の表面は,通常の濾材等とは異なり,目詰りが生ずるようなことは実質的に起きず,表面に付着したものは機械的な掻き落としや噴流による洗い落としで簡単に新たな表面に再生できる点で,他の素材のものにはない有利な性質を有している。なお,図4の施設では,建設汚泥に限らず,微粒子が水に懸濁した工場廃棄物その他のスラリーであっても,同様の処理を行うことができる。
【0037】
このように本発明によれば,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートからなる容器内にスラリーを収容し,該容器そのものを固液分離器として水分を容器外に流出させかつ固形分を容器内に残留させる非常に効率のよいスラリーの脱水法が提供される。
【0038】
本発明者らは本発明に従う脱水器の脱水挙動を実験室的に調べた。その代表的な例を以下に挙げる。
【0039】
〔試験1〕
下記に示す配合のコンクリートA〜Cを練り混ぜ,いずれも型を用いて内径64cmで深さ10cmの円柱状の容器に打設した。容器の壁部の肉厚と底部の肉厚いずれも6cmである。
【0040】
コンクリートAの配合
普通ポルトランドセメント:600Kg/m3
粗骨材(砕石:最大粒径20mm):650Kg/m3
細骨材(川砂):700Kg/m3
水:240Kg/m3
【0041】
コンクリートBの配合
低pHセメント(商品名マグホワイト):500Kg/m3
黒土:500Kg/m3
砂:400Kg/m3
水:420Kg/m3
植物繊維(綿):20Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100A):5Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100B):3Kg/m3
【0042】
コンクリートCの配合
低pHセメント(商品名マグホワイト):140Kg/m3
軽量骨材:100Kg/m3
砕砂:150Kg/m3
水:450Kg/m3
植物繊維(綿):10Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100A):5Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100B):3Kg/m3
低pHセメント用反応材:15Kg/m3
【0043】
コンクリートBとCを用いた容器については,容器の肉厚内にピッチ幅が約1cmの碁盤目状の目をもつ金網1枚を埋め込み,この金網から容器の外に通ずる導線を引き出し,この導線をヒータで加熱するようにして,容器の全体を約45〜50℃に加温できるようにしたものと,金網を埋め込まず加温なしのものを作製した。加温なしの容器を以下にB(加温無),C(加温無),加温有りの容器をB(加温有),C(加温有)と表示する。コンクリートAの配合の容器については容器Aと表示する。
【0044】
小麦粉1Kgを水1.5Kgに練り混ぜたスラリーを各々の容器A,B(加温無),B(加温有),C(加温無),C(加温有)に装填し,外気中(5月中旬)に7日間放置し,その挙動を観察した。なお,各容器の底部を仮受け材を用いて台座より約10cm浮かし,容器の下部を通気自由としておいた。
【0045】
測定結果を図5および図6に示した。図5〜6図に見られるように,容器Aでは7日経過しても変化は現れず,スラリー表面からの蒸発による水位の低下だけが見られたに過ぎなかった。これに対して容器B(加温無)では5日目に水分が無くなってスラリーは固形化した。7日目に内容物の重量を測定したところ1320gであった。したがって,1500gの水のうち1180gが脱水されたことになる。同様に,容器C(加温無)では,3日目に水分が無くなってスラリーは固形化した。7日目に内容物の重量を測定したところ1250gであった。したがって,1500gの水のうち1250gが脱水されたことになる。
【0046】
このように,植物繊維入りセメント系硬化体を用いた容器BとCでは,スラリー中の水を吸引して蒸発散させる作用があり,これによって,粘稠なスラリーから自然に水だけを抜き出すことができる。これに対して植物繊維無のセメント系硬化体ではこのような水抜きの効果は示さない。
【0047】
熱を加えた容器BとCでは,水の蒸発散作用が促進され,容器B(加温有)では2日目に,容器C(加温有)では1日間で水分が無くなってスラリーは固形化した。前者では3日目に,後者では2日目に内容物の重量を測定したところ,それぞれ994g,989gであり,水は完全に無くなっており,乾燥した粉体が得られた。
【0048】
〔試験2〕
スラリーとして,江戸川放水路から採取したトビハゼが生息しているシルト分の多い底土を用いた以外は,試験1を繰り返した。試験に供した該スラリーの懸濁物は75μm以下のシルト分が55%,75超え〜148μmが20%,それ以上が25%からなり,含水量は35%であり,非常に粘性の高いものである。試験結果を,試験1の場合と同じように,図7および図8に示した。
【0049】
図7〜8に見られるように,容器Aでは16日経過しても変化は現れず,スラリー表面からの蒸発による僅かな水位の低下だけが見られに過ぎなかった。これに対して容器B(加温無)では8日目に水分が無くなってスラリーは固形化した。16日目に内容物の重量を測定したところ720gであった。したがって,350gの水のうち220gが脱水されたことになる。同様に,容器C(加温無)では,6日目に水分が無くなってスラリーは固形化した。16日目に内容物の重量を測定したところ715gであった。したがって,350gの水のうち285gが脱水されたことになる。
【0050】
このように,植物繊維入りセメント系硬化体を用いた容器BとCでは,非常に粘性が高く且つ微粒子が懸濁したスラリーであっても,水を吸引して蒸発散させる作用があり,これによって,非常に粘稠なスラリーから自然に水だけを抜き出すことができる。これに対して植物繊維無のセメント系硬化体ではこのような水抜きの効果は示さない。
【0051】
熱を加えた容器BとCでは,水の蒸発散作用が促進され,容器B(加温有)では4日目に,容器C(加温有)では3日間で水分が無くなってスラリーは固形化した。前者では8日目に,後者では6日目に内容物の重量を測定したところ,それぞれ648g,647gであり,水は完全に無くなっており,乾燥した粉体が得られた。
【0052】
このように,本発明に従う脱水器は,放置しておいても自然にスラリー中の水を抜き出す作用があり,機械的動力を全く要することなく粘稠なスラリーや懸濁液であってもその中の水だけを抜き出すことができる。したがって一般汚泥はもとより,各種の汚水,ヘドロ,浚渫土砂,ダム堆砂,流動化土,湖沼や貯水池等の閉鎖性水域で発生する微細生物の群体,またはこれに類する各種の建設土木分野で発生する泥状物を動力や機械を用いることなく脱水することができ,これらの再資源化が容易になる。同様に,濃塩水,砂糖原液,澱粉原液,野菜スラリー,魚介類スラリー,またはこれに類する食品分野で発生する泥状物であっても,自然乾燥に比べて極めて効率よく脱水することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 スラリー
2 容器
3 植物繊維入りセメント系硬化体
6 植物繊維入りセメント系硬化体からなる放散板
7 鉄筋
9 熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートを容器の材料とした脱水器。
【請求項2】
モルタルまたはコンクリートは,10Kg/m3以上の植物繊維がセメントマトリックス中に分散しており,これにより毛細管現象による水吸引性能を有する請求項1に記載の脱水器。
【請求項3】
モルタルまたはコンクリートは,骨材成分として軽量骨材を使用したものである請求項1または2に記載の脱水器。
【請求項4】
モルタルまたはコンクリートはMgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを結合材としたものである請求項1,2または3に記載の脱水器。
【請求項5】
モルタルまたはコンクリートは,配筋によって補強されており,この配筋に熱が付与される請求項1ないし4のいずれかに記載の脱水器。
【請求項6】
植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートからなる容器内にスラリーを収容し,該容器そのものを固液分離器として水分を容器外に流出させかつ固形分を容器内に残留させるスラリーの脱水法。
【請求項7】
スラリーは,汚泥,汚水,ヘドロ,浚渫土砂,ダム堆砂,流動化土,水域で発生する微細生物の群体,またはこれに類する各種の建設土木分野で発生する泥状物である請求項6に記載の脱水法。
【請求項8】
スラリーは,各種プラントから発生する泥状の産業廃棄物である請求項6に記載の脱水法。
【請求項9】
スラリーは,濃塩水,砂糖原液,澱粉原液,野菜スラリー,魚介類スラリー,またはこれに類する食品分野で発生する泥状物である請求項6に記載の脱水法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−20103(P2011−20103A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169608(P2009−169608)
【出願日】平成21年7月18日(2009.7.18)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】