説明

脱水素反応装置システムの運転方法

所定体積の脱水素化触媒を含有する脱水素反応装置を運転および停止するための方法が記載される。脱水素化反応条件下で運転される脱水素化反応装置への脱水素化原料の導入を停止した後、スチームを含む第1の冷却流体が、脱水素化反応装置に含有される脱水素化触媒を第2の温度に冷却するために十分な第1の期間、反応装置に導入される。第1の冷却流体の導入が停止され、続いて、第2の冷却流体の導入が、脱水素化反応装置に含有される脱水素化触媒を、脱水素化触媒の取り扱い、および、脱水素化反応装置からの脱水素化触媒の取り出しを可能にする第3の温度に冷却するために十分な第2の期間にわたって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱水素反応装置システムの運転方法に関連する。本発明はまた、スチレン製造のために使用される運転中の脱水素反応装置システムを停止する方法にも関連する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素脱水素反応装置システムの運転では、多くの場合、様々な理由のために、例えば、プロセスユニットの保守などのために、または、この反応装置システムの脱水素化触媒を取り出し、交換するために、運転中の脱水素化プロセスユニットを停止する必要がある。エチルベンゼンからスチレンへの脱水素化において酸化鉄系触媒を使用するスチレンプロセスユニットでは、反応装置システムの停止は、典型的には、反応装置システムに含有される酸化鉄系触媒をこの取り出しの前に冷却するための手順を必要とする。
【0003】
反応装置触媒を冷却するための1つの一般的な方法は、この温度を好適に下げるために十分な期間にわたって高温の触媒床の全体にスチームを通すことである。しかしながら、触媒冷却のためのスチームのこの使用は、触媒床の触媒粒子の望ましくない塊状化を生じさせることが見出されている。触媒の塊状化問題を解決するために、スチームを最初に使用して、触媒床の温度を、著しい量の触媒粒子塊状化が生じる温度よりも高い特定の温度に下げ、続いて、スチームの使用を窒素の使用で置き換える改変された冷却手順の使用が提案されている。窒素は、反応装置システムからの触媒の取り出しを可能にする温度レベルへの触媒床の冷却を完全にするために使用される。
【0004】
この改変された冷却手順は、脱水素化反応装置の触媒床を冷却するためにスチーム含有流体の流れのみを使用する冷却手順を上回る様々な現実的利点を提供する一方で、冷却手順に伴う問題のすべてを依然として解消していない。例えば、窒素は、スチームが有するよりも著しく低い熱容量を有するので、触媒冷却流体としての窒素の使用では、反応装置の触媒床を冷却するために、スチームの場合よりも多くの時間が要求されることが避けられない。また、この改変された冷却手順では、触媒塊状化の問題が完全には解決されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、運転中の脱水素化反応装置システムを停止するための新しい方法を提供することが本発明の1つの目的であり、この場合、運転中の脱水素化反応装置システムでは、このような方法により、先行技術の他の脱水素化反応装置停止手順に伴う触媒塊状化の問題のいくつかが軽減される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、1つの発明は、脱水素化原料を脱水素化反応条件下で脱水素化触媒と接触させて、第1の温度にある脱水素化触媒を提供することを含む一工程の冷却手順である。脱水素化原料と脱水素化触媒との接触が停止され、続いて、脱水素化触媒は、二酸化炭素を含む二酸化炭素含有冷却ガスと接触させられる。この接触は、脱水素化触媒の温度を下げて、第1の温度よりも低い温度を有する冷却された脱水素化触媒を提供するために十分な期間にわたって行われる。次に、脱水素化触媒と二酸化炭素含有冷却ガスとの接触が停止される。
【0007】
この発明の1つの実施態様において、反応域を規定し、脱水素化触媒を反応域に含有する脱水素化反応装置を含む脱水素化反応装置システムが提供される。脱水素化原料が、脱水素化触媒が第1の温度であるように脱水素化反応条件のもとで運転される脱水素化反応装置に導入される。次いで、前記脱水素化反応装置への脱水素化原料の導入が停止され、次いで、二酸化炭素を含む二酸化炭素含有冷却ガスが、第1の温度よりも低い温度を有する冷却された脱水素化触媒を提供するために十分な期間、脱水素化反応装置に導入される。この後、脱水素化反応装置への二酸化炭素含有冷却ガスの導入が停止される。
【0008】
別の発明では、脱水素化原料を脱水素化反応条件下で脱水素化触媒と接触させ、これにより、第1の温度にある脱水素化触媒を提供することを含む方法が含まれる。この後、脱水素化原料と脱水素化触媒との接触が停止される。次いで、脱水素化触媒は、スチームを含む第1の冷却ガスとの接触が、脱水素化触媒の温度を、第1の温度よりも低いが、第1の冷却ガスの凝縮温度よりも高い第2の温度に下げるために十分な期間行われる。この後、脱水素化触媒と第1の冷却ガスとの接触が停止される。次いで、脱水素化触媒は、大きな割合の二酸化炭素を含む第2の冷却ガスとの接触が、脱水素化触媒の温度を、第2の温度よりも低い第3の温度に下げるために十分な期間行われる。
【0009】
この発明の別の実施態様では、脱水素化反応装置システムを運転する方法が含まれる。この方法では、反応域を規定し、脱水素化触媒を反応域に含有する脱水素化反応装置を含む脱水素化反応装置システムが提供される。脱水素化原料が、脱水素化触媒が第1の温度であるように脱水素化反応条件のもとで運転される脱水素化反応装置に導入される。この後、脱水素化反応装置への脱水素化原料の導入が停止される。次いで、スチームを含む第1の冷却ガスが、脱水素化触媒の温度を、第1の温度よりも低いが、第1の冷却ガスの凝縮温度よりも高い第2の温度に下げるために十分な期間、脱水素化反応装置に導入される。この後、前記脱水素化反応装置への第1の冷却ガスの導入が停止される。次いで、大きな割合の二酸化炭素を含む第2の冷却ガスが、脱水素化触媒の温度を第2の温度よりも低い第3の温度に下げるために十分な第2の期間、脱水素化反応装置に導入される。
【0010】
本発明の他の目的および利点が下記の詳細な説明および添付された請求項から明らかになる。
【0011】
本発明の方法は、脱水素化システムの脱水素化触媒に対する取り扱い、または、脱水素化システムの脱水素化触媒の脱水素化反応装置システムからの取り出しを可能にするという目的のために運転中の脱水素化反応装置システムを停止するための特に好都合な手順である。脱水素化反応装置システムは、一般には、原料を受け取るための反応装置入口と、反応装置流出物を放出するための反応装置出口とを有する脱水素化反応装置反応槽を含む。脱水素化反応装置反応槽は脱水素化反応域を規定し、通常的には一緒に充填されて、脱水素化触媒床を形成する脱水素化触媒粒子を含有することができる。
【0012】
脱水素化反応装置システムの脱水素化触媒は、炭化水素の脱水素化において好適に使用することができる任意の知られている鉄系触媒または酸化鉄系触媒が可能である。このような脱水素化触媒には、酸化鉄を含むこのような触媒が含まれる。脱水素化触媒の酸化鉄は任意の形態が可能であり、任意の供給源から、または、酸化鉄系脱水素化触媒において使用される好適な酸化鉄物質を提供する任意の方法によって得ることができる。1つの特に望ましい酸化鉄系脱水素化触媒は酸化カリウムおよび酸化鉄を含む。
【0013】
酸化鉄系脱水素化触媒の酸化鉄は、例えば、黄色酸化鉄(針鉄鉱、FeOOH)、黒色酸化鉄(磁鉄鉱、Fe)および赤色酸化鉄(赤鉄鉱、Fe)(合成赤鉄鉱を含む)、または再生された酸化鉄などの鉄酸化物のいずれか1つまたは2つ以上を含む様々な形態が可能であるか、または、酸化カリウムと組み合わせて、カリウムフェライト(KFe)を形成させることができ、または、酸化カリウムと組み合わせて、(KO)・(Feの式によって表されるような鉄およびカリウムの両方を含有する相の1つまたは2つ以上を形成させることができる。
【0014】
典型的な鉄系脱水素化触媒は、Feとして計算された場合、10重量パーセントから100重量パーセントの鉄と、KOとして計算された場合、40重量パーセントまでのカリウムとを含む。鉄系脱水素化触媒はさらに、通常的には酸化物の形態である1つまたは複数の助触媒金属を含むことができる。このような助触媒金属は、Sc、Y、La、Mo、W、Cs、Rb、Ca、Mg、V、Cr、Co、Ni、Mn、Cu、Zn、Cd、Al、Sn、Bi、希土類、および、これらのいずれか2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。これらの助触媒金属の中で、Ca、Mg、Mo、W、Ce、La、Cu、Cr、V、および、これらの2つ以上の混合物からなる群から選択される助触媒金属が好ましい。最も好ましいものは、Ca、Mg、W、MoおよびCeである。
【0015】
本発明の方法またはプロセスの脱水素化触媒として好適に使用することができる典型的な鉄系脱水素化触媒の様々な説明を、米国特許出願公開第2003/0144566号A1、米国特許第5,689,023号、米国特許第5,376,613号、米国特許第4,804,799号、米国特許第4,758,543号、米国特許第6,551,958号B1および欧州特許第0,794,004号B1をはじめとする特許刊行物に見出すことができる(このような特許刊行物のすべてが参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0016】
酸化鉄系触媒は、当業者に知られている任意の方法によって調製される。酸化カリウムおよび酸化鉄を含む酸化鉄系脱水素化触媒は、一般には、鉄含有化合物およびカリウム含有化合物の構成成分を混ぜ合わせ、これらの構成成分を成形して、粒子を形成し、粒子を焼成することによって調製することができる。助触媒金属を含有する化合物もまた、鉄含有構成成分およびカリウム含有構成成分と混ぜ合わせることができる。
【0017】
触媒構成成分は、押し出し成形物、ペレット、錠剤、球体、ピル、サドル型、三葉体(trilobe)および四葉体(tetralobe)などの粒子にすることができる。鉄系脱水素化触媒を作製する1つの好ましい方法は、触媒構成成分を水または可塑剤または両方と一緒に混合し、押し出し成形可能なペーストを形成し、押し出し成形可能なペーストから押し出し成形物を形成することである。この後、押し出し成形物を乾燥し、焼成する。焼成は、好ましくは、空気などの酸化性雰囲気において、上は1200℃までの温度で、しかし、好ましくは500℃から1100℃の温度で、最も好ましくは700℃から1050℃の温度で行われる。
【0018】
本発明の方法では、脱水素化触媒が脱水素化反応条件下で脱水素化原料と接触させられ、これにより、脱水素化触媒の温度が、脱水素化温度である第1の温度に上げられる。より具体的には、脱水素化原料が、脱水素化触媒床と接触させられる脱水素化反応装置に導入される。脱水素化反応装置は原料導入工程の期間中は脱水素化反応条件下で運転されており、この結果、脱水素化触媒床の温度が、脱水素化温度、すなわち、第1の温度に上げられる。
【0019】
脱水素化反応装置または脱水素化反応装置システムは2つ以上の脱水素化反応装置または反応域を含むことができることが認識される。2つ以上の脱水素化反応装置が使用される場合、脱水素化反応装置は連続して、または並行して運転され得るか、または、互いに独立して、または、同じもしくは異なるプロセス条件のもとで運転され得る。
【0020】
脱水素化原料は任意の好適な原料が可能であり、より具体的には、脱水素化原料は脱水素化可能な任意の炭化水素を含むことができる。脱水素化可能な炭化水素の例には、イソプロペン類に脱水素化することができるイソアミレン類、および、ブタジエンに脱水素化することができるブテン類が含まれる。好ましい脱水素化原料は、スチレンに脱水素化することができるエチルベンゼンを含む。脱水素化原料はまた、希釈剤をはじめとする他の成分を含むことができる。エチルベンゼンが、スチレンを形成させるために脱水素化される原料構成成分であるとき、スチームを原料希釈物として使用することが一般的である。
【0021】
脱水素化条件には、約500℃から約1000℃(好ましくは525℃から750℃、最も好ましくは550℃から700℃)の範囲にある脱水素化反応装置入口温度を含むことができる。従って、脱水素化触媒床の第1の温度は約500℃から約1000℃(より具体的には525℃から750℃、最も具体的には550℃から700℃)の範囲であり得る。
【0022】
しかしながら、エチルベンゼンをスチレンに脱水素化することにおいて、反応は吸熱性であることが認識されている。このような脱水素化反応が行われるとき、脱水素化反応は等温的または断熱的のいずれかで行うことができる。脱水素化反応が断熱的に行われる場合、脱水素化触媒床全体の温度は、脱水素化反応装置入口と脱水素化反応装置出口との間で、150℃も下がり得る。しかし、より典型的には、温度は10℃から120℃下がり得る。
【0023】
反応圧力は比較的低く、真空圧から、上は約25psia(約0.17MPa・a)までの範囲であり得る。液空間速度(LHSV)は約0.01hr−1から約10hr−1の範囲が可能であり、好ましくは0.1hr−1から2hr−1の範囲が可能である。本明細書中で使用される用語「液空間速度」は、触媒床の体積または触媒床の総体積(2つ以上の触媒床が存在する場合)によって除される、標準状態(すなわち、0℃および1barの絶対圧)で測定された脱水素化原料(例えば、エチルベンゼン)の液体体積流速として定義される。スチレンがエチルベンゼンの脱水素化によって製造されているとき、スチームを希釈剤として、通常的にはスチーム対エチルベンゼンのモル比が0.1から20の範囲で使用することが一般には望ましい。スチームはまた、他の脱水素化可能な炭化水素と一緒に希釈剤として使用することができる。
【0024】
脱水素化反応装置システムを停止するために、脱水素化原料と脱水素化触媒との接触が停止される。この停止のとき、反応装置の触媒床の脱水素化触媒粒子は、脱水素化原料導入の停止の直前に存在する反応装置温度条件に近い第1の温度にある。
【0025】
典型的な脱水素化反応装置システムにおいて、脱水素化反応装置反応槽に含有される脱水素化触媒の体積はかなり大きい。例えば、商業的サイズの脱水素化反応装置は、反応装置反応槽あたり、上は約100トンから400トンまたはそれ以上の触媒を含有し得ることがあり、一方、酸化鉄系脱水素化触媒の典型的な床については、触媒床体積は、反応装置反応槽あたり、約100立方メートルから、上は約400立方メートルの範囲にある。高温でのこの大量の触媒を、この取り扱いおよび脱水素化反応装置からの取り出しを可能にするために、好ましくは周囲温度に近い温度に冷却しなければならない。また、触媒の体積が大きいことのために、冷却流体が、冷却時間を商業的に妥当な期間に早めるために触媒全体に通される。ほとんどの商業的操作では、最大限の製造物生産を行うために、保守および触媒交換の期間中におけるプロセスユニットの停止時間を最小限に抑えることが望ましい。
【0026】
スチームは、この運転の後で脱水素化触媒床を冷却するために使用される典型的な冷却流体である。しかし、スチームが、特定のレベルよりも低く脱水素化触媒床の温度を冷却するために使用される場合、望ましくない触媒塊状化を引き起こす様々な反応が脱水素化触媒床の内部で生じ得ることが見出されている。カリウムフェライト相を有する鉄系触媒を含む脱水素化触媒床におけるスチームの存在は、カリウムフェライト相(例えば、KFeおよび他のカリウムフェライト)の分解を促進させて、水酸化カリウム(KOH)および酸化鉄(例えば、赤鉄鉱(Fe)および磁鉄鉱(Fe)など)を形成させる傾向を有し得る。スチームが、酸化鉄が存在する触媒床のより冷却された区域で凝結する場合、酸化鉄は水和物を形成して、水和鉄(FeOOH)を形成する傾向がある。水酸化カリウム(これは、360℃を超えて、この沸点までは液体である)および水和した酸化鉄の組合せは、粘性の粘着性混合物を触媒ペレット表面および触媒ペレット間で形成する傾向がある。スチームまたは水分をこの後、脱水素化触媒床から除くと、脱水素化触媒床の触媒ペレットと結合し、触媒ペレットを硬い塊状物に固め、これにより、脱水素化反応装置反応槽からの触媒の取り出しおよび取り扱いを困難にし、時間のかかるものにすることを助ける酸化カリウムへの水酸化カリウムの変換がもたらされ得る。
【0027】
スチームの凝結および水和鉄の形成に伴う様々な問題のいくつかを解決するために、スチームの使用を、より低い温度での冷却のために窒素ガスで置き換える改変された停止手順が提案されている。しかしながら、窒素の使用は一連のこれ自身の問題を有している。窒素ガスは、スチームが有するよりも著しく低い熱容量を有する。従って、この使用では、スチームが使用されるときよりも大量のガスおよび多くの時間が冷却手順のために要求される。この上、水酸化カリウムがこの内部に点在する触媒床における窒素雰囲気は、考えられることではあるが、酸化カリウム(KO)および水への水酸化カリウムの脱水を促進させる傾向がある。触媒床における酸化カリウムの存在は、触媒粒子を塊状化するセメントとして作用する。
【0028】
本発明の方法は、触媒床の冷却のためにスチームの使用に伴うか、または、触媒床の冷却のために窒素との組合せでのスチームの使用に伴う上記の問題いくつかを解決する、脱水素化触媒床を含有する運転中の脱水素化反応装置システムを停止するための手順である。脱水素化条件化で運転されている脱水素化反応装置への脱水素化原料の導入を停止させた後の最初の工程は、スチームを第1の冷却流体(すなわち、ガス)として脱水素化反応装置に導入し、これにより、脱水素化触媒を第1の冷却流体と接触させることである。スチームを含む第1の冷却流体は、脱水素化触媒床の脱水素化触媒の温度を、第1の温度よりも低い第2の温度に下げるために十分な期間、脱水素化触媒床と接触させられる。
【0029】
スチームの入手性および比較的低いコスト、ならびに、熱移動媒体としての有利な性質のために、この第1の冷却流体を用いて、冷却流体としてのスチームの使用に伴う本明細書中上記で記された様々な問題のいくつかを招くことなく許容され得るように第2の温度と第1の温度との間での最大の温度差を達成することが望ましい。従って、脱水素化反応装置および触媒床の内部の温度を第1の冷却期間中において第1の冷却流体の凝縮温度よりも低く下げないことが重要である。従って、一般には、第1の冷却流体は、好ましくはわずかに過熱されるスチームを含み、また、スチームは高温の脱水素化触媒床を通過するので、スチームはさらなる過熱を受ける。第1の冷却流体は一般には主要量のスチームを含み、通常の場合には90重量パーセントを超えるスチームを含み、好ましくは、95重量パーセントを超えるスチームを含み、最も好ましくは、99重量パーセントを超えるスチームを含む。
【0030】
典型的には、スチームは、約10ポンド/平方インチ絶対圧(psia)(約0.07MPa・a)から、上は500psia(約3.4MPa・a)またはそれ以上の範囲である様々な圧力で第1の冷却流体として利用可能である。一般に、冷却流体としての使用のために利用可能なスチームは飽和スチームまたは過熱スチームである。しかし、最初は、スチームは高温の脱水素化触媒床を通過し、この場合、第1の冷却期間が始まるとき、脱水素化触媒床は500℃を超える温度であるので、スチームは熱をもらい、さらなる過熱を受ける。脱水素化反応装置反応槽内の冷却圧は、一般に、大気圧未満から、上は40psia(約0.28MPa・a)またはそれ以上の範囲であり、これらの冷却圧については、脱水素化触媒温度を約350℃以上(好ましくは380℃以上、最も好ましくは400℃以上)の第1の冷却期間中の第2の温度に下げることが最も良い。従って、第2の温度は、上記で記載されたように脱水素化触媒床の第1の温度よりも低く、第1の温度のすぐ低温側から約350℃までの範囲が可能であり、好ましくは、500℃未満から380℃までの範囲が可能であり、最も好ましくは、500℃未満から400℃までの範囲が可能である。反応装置出口における第1の冷却流体の温度が脱水素化触媒の第2の温度を反映する。
【0031】
脱水素化触媒床の温度が、反応装置出口における第1の冷却流体の温度によって反映されるように、所望する第2の温度に下げられると、第1の冷却流体を脱水素化反応装置反応槽に導入し、脱水素化触媒と接触させることが停止される。
【0032】
脱水素化反応装置への第1の冷却流体の導入を停止した後の工程において、第2の冷却流体(すなわち、ガス)が脱水素化反応装置に導入され、これにより、脱水素化触媒を第2の冷却流体と接触させる。第2の冷却流体は二酸化炭素を含む。二酸化炭素の使用は、他の冷却流体(例えば、スチームおよび窒素など)の使用に伴う上記問題のいくつかを軽減することが見出される。また、二酸化炭素は窒素よりも大きい熱容量を有しており、このことは二酸化炭素を熱除去媒体として窒素よりも望ましいものにする。
【0033】
表1には、様々な気体の熱容量が示される。二酸化炭素は、窒素および水が有するよりも著しく大きい熱容量を有することが、表1に示された値から認められる。
【0034】
【表1】

【0035】
第2の冷却流体は、酸素、一酸化炭素、水(スチームまたは液体のいずれかとして)および他の望ましくない成分をほとんど含有しないか、または含有してもほんの微量であることが望ましい。しかし、第2の冷却流体は、二酸化炭素を含有することに加えて、この残る割合までの窒素を含むことができる。従って、第2の冷却流体は、この一定割合の二酸化炭素と、この残る割合の窒素とを含むことができる。
【0036】
二酸化炭素を含有する第2の冷却流体を使用することから生じる、脱水素化触媒床における酸化カリウムの低下した形成の利点のいくつかを得るために、第2の冷却流体における二酸化炭素の下限濃度は第2の冷却流体の総体積の20体積パーセントまたは25体積パーセントさえも超えなければならない。第2の冷却流体における二酸化炭素の濃度が大きくなればなるほど、低下した酸化カリウム形成から生じる利益が大きくなる。
【0037】
第2の冷却流体における窒素の量は、上は、二酸化炭素でない残る体積までの範囲であり得る。従って、第2の冷却流体の窒素濃度は、上は70体積パーセントまたは80体積パーセントまでの範囲であり得る。
【0038】
スチームと同等である熱除去能力(すなわち、熱容量)を有するために、第2の冷却流体は、約30体積パーセントを超える二酸化炭素の濃度を有しなければならない。しかしながら、第2の冷却流体の二酸化炭素濃度が第2の冷却流体の総体積の50体積パーセントを超えることが好ましく、最も好ましくは、二酸化炭素濃度は75体積パーセントを超える。二酸化炭素でない、第2の冷却流体の残る割合までが、窒素を含むことができる。この大きい熱容量のために、第2の冷却流体におけるより高濃度の二酸化炭素は、脱水素化触媒床からのより良好な熱除去をもたらすことが認識されている。従って、第2の冷却流体はまた、90体積パーセントまたは95体積パーセントさえも超える二酸化炭素を含むことができる。第2の冷却流体の望ましくない成分が、0.5体積パーセント未満の量で、好ましくは0.2体積パーセント未満の量で、最も好ましくは0.1体積パーセント未満の量で存在し得る。
【0039】
第2の冷却流体は、脱水素化触媒床の脱水素化触媒の温度を第2の温度よりも低い第3の温度に下げるために十分な期間、脱水素化触媒床と接触させられる。第3の温度は、冷却された脱水素化触媒の取り扱いを可能にするために十分に低くなければならず、一般には周囲温度条件に近い。従って、脱水素化触媒の第3の温度は、この取り扱いおよび脱水素化反応装置からの取り出しを可能にするために50℃未満でなければならない。しかしながら、脱水素化触媒の第3の温度は40℃未満(好ましくは35℃未満または30℃未満)であることがより良好である。実用的な観点から、脱水素化触媒の第3の温度は大気温度を下回らない。反応装置出口における第2の冷却流体の温度が脱水素化触媒の第3の温度を反映する。
【0040】
脱水素化触媒床の温度が、反応装置出口における第2の冷却流体の温度によって反映されるように、所望する第3の温度に下げられると、第2の冷却流体を脱水素化反応装置反応槽に導入して、脱水素化触媒と接触させることが停止される。低下した第3の温度は、脱水素化触媒の取り扱いおよび脱水素化装置からの脱水素化触媒の容易な取り出しを可能にするために十分に低い。二酸化炭素を含有する冷却流体の使用はまた、より速い冷却期間をもたらし、また、この使用は、望ましくない触媒塊状化に伴う水酸化カリウムおよび酸化カリウムの形成の代わりに脱水素化触媒床における炭酸カリウムの形成をもたらし得る。
【0041】
脱水素化触媒を冷却するための本発明による別の方法では、二酸化炭素を含有する冷却流体を冷却流体として使用し、スチームを冷却流体として使用しない一工程の冷却手順が含まれる。冷却流体としてのスチームの使用を排除することによって、スチームを冷却流体として使用することに伴う様々な問題および危険性が排除される。また、二酸化炭素を含有する冷却流体が著しく高い濃度の二酸化炭素を有するならば、触媒冷却速度を、実際には、スチームが冷却のために使用されるときの触媒冷却速度よりも増大させることができる。
【0042】
本発明による一工程冷却手順では、脱水素化原料を脱水素化条件下で脱水素化触媒と接触させて、第1の温度にある脱水素化触媒を提供することが含まれる。脱水素化原料と脱水素化触媒との接触が停止され、続いて、脱水素化触媒が、二酸化炭素を含む二酸化炭素含有冷却流体と接触させられる。この接触は、脱水素化触媒の温度を低下させて、第1の温度よりも低い温度を有する冷却された脱水素化触媒を提供するために十分な期間にわたって行われる。次いで、この後、脱水素化触媒と二酸化炭素含有冷却流体との接触が停止される。
【0043】
スチームを冷却流体として使用しない触媒冷却手順の別の実施態様では、反応域を規定し、脱水素化触媒を反応域に含有する脱水素化反応装置を含む脱水素化反応装置システムが提供される。脱水素化原料が、脱水素化触媒が第1の温度であるように脱水素化反応条件のもとで運転される脱水素化反応装置に導入される。次いで、前記脱水素化反応装置への脱水素化原料の導入が停止され、次いで、二酸化炭素を含む二酸化炭素含有冷却流体が、第1の温度よりも低い温度を有する冷却された脱水素化触媒を提供するために十分な期間、脱水素化反応装置に導入される。この後、脱水素化反応装置への二酸化炭素含有冷却流体の導入が停止される。
【0044】
この一工程冷却手順において使用される二酸化炭素含有冷却流体は、第2の冷却流体について上記で記載されたのと同じ性質および組成を有することができる。冷却された脱水素化触媒の温度に関して、取り扱いおよび脱水素化反応装置からの取り出しを可能にするために、温度は、一般に、50℃未満でなければならない。しかしながら、温度が40℃未満(好ましくは35℃未満または30℃未満)であることがより良好である。実用的な観点から、温度は大気温度を下回らない。
【0045】
様々な妥当な変化、改変および適合化を、本発明の範囲から逸脱することなく、記載された開示および添付された請求項の範囲内で行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水素化原料を脱水素化反応条件下で脱水素化触媒と接触させ、これにより、第1の温度にある前記脱水素化触媒を提供すること;
前記脱水素化原料と前記脱水素化触媒との接触を停止すること;
前記脱水素化触媒と、スチームを含む第1の冷却ガスとの接触を、前記脱水素化触媒の温度を、前記第1の温度よりも低いが、前記第1の冷却ガスの凝縮温度よりも高い第2の温度に下げるために十分な第1の期間にわたって行うこと;
前記脱水素化触媒と前記第1の冷却ガスとの接触を停止すること;および
前記脱水素化触媒を、前記脱水素化触媒の温度を、前記第2の温度よりも低い第3の温度に下げるために十分な第2の期間、二酸化炭素を含む第2の冷却ガスと接触させること
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の温度が約500℃から約1000℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の冷却ガスが主にスチームを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の温度が、前記第1の温度よりも低い温度から350℃までの範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の冷却ガスがさらに大きな割合の二酸化炭素を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第3の温度が前記第2の温度よりも低い、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第3の温度が50℃未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第2の冷却ガスの二酸化炭素の前記大きな割合が95体積パーセントよりも大きい、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脱水素化触媒を前記脱水素化反応装置から取り出すこと
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
反応域を規定し、脱水素化触媒を前記反応域に含有する脱水素化反応装置を含む脱水素化反応装置システムを提供すること;
脱水素化原料を、前記脱水素化触媒が第1の温度であるような水素化反応条件のもとで運転される前記脱水素化反応装置に導入すること;
前記脱水素化反応装置への前記脱水素化原料の導入を停止すること;
スチームを含む第1の冷却ガスを、前記脱水素化触媒の温度を、前記第1の温度よりも低いが、前記第1の冷却ガスの凝縮温度よりも高い第2の温度に下げるために十分な第1の期間、前記脱水素化反応装置に導入すること;
前記脱水素化反応装置への前記第1の冷却ガスの導入を停止すること;および
大きな割合の二酸化炭素を含む第2の冷却ガスを、前記脱水素化触媒の温度を、前記第2の温度よりも低い第3の温度に下げるために十分な第2の期間、前記脱水素化反応装置に導入すること
を含む、脱水素化反応装置システムを運転する方法。
【請求項11】
前記脱水素化触媒を前記脱水素化反応装置から取り出すこと
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の温度が約500℃から約1000℃の範囲である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第1の冷却ガスが主にスチームを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の温度が、前記第1の温度よりも低い温度から350℃までの範囲である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の冷却ガスが大きな割合の二酸化炭素を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第3の温度が前記第2の温度よりも低い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第3の温度が50℃未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第2の冷却ガスの二酸化炭素の前記大きな割合が95体積パーセントよりも大きい、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
脱水素化原料を脱水素化反応条件下で脱水素化触媒と接触させ、これにより、第1の温度にある前記脱水素化触媒を提供すること;
前記脱水素化原料と前記脱水素化触媒との接触を停止すること;
前記脱水素化触媒を、前記脱水素化触媒の温度を下げて、前記第1の温度よりも低い温度を有する冷却された脱水素化触媒を提供するために十分な第1の期間、二酸化炭素を含む二酸化炭素含有冷却ガスと接触させること;および
前記脱水素化触媒と前記二酸化炭素含有冷却ガスとの接触を停止すること
を含む方法。
【請求項20】
前記第1の温度が約500℃から約1000℃の範囲である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記二酸化炭素含有冷却ガスが少なくとも25体積パーセントの二酸化炭素を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記温度が、前記冷却された脱水素化触媒の取り扱いを可能にするために十分に低い、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記冷却された脱水素化触媒の前記温度が50℃未満である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記二酸化炭素含有冷却ガスが少なくとも50体積パーセントの二酸化炭素を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記冷却された脱水素化触媒の前記温度が40℃未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記二酸化炭素含有冷却ガスが95体積パーセントを超える二酸化炭素を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
反応域を規定し、脱水素化触媒を前記反応域に含有する脱水素化反応装置を含む脱水素化反応装置システムを提供すること;
脱水素化原料を、前記脱水素化触媒が第1の温度にあるような脱水素化反応条件のもとで運転される前記脱水素化反応装置に導入すること;
前記脱水素化反応装置への前記脱水素化原料の導入を停止すること;
二酸化炭素を含む二酸化炭素含有冷却ガスを、前記第1の温度よりも低い温度を有する冷却された脱水素化触媒を提供するために十分な期間、前記脱水素化反応装置に導入すること;および
前記脱水素化反応装置への前記二酸化炭素含有冷却ガスの導入を停止すること
を含む、脱水素化反応装置システムを運転する方法。
【請求項28】
前記冷却された脱水素化触媒を前記脱水素化反応装置から取り出すこと
をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の温度が約500℃から約1000℃の範囲である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記二酸化炭素含有冷却ガスが少なくとも25体積パーセントの二酸化炭素を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記温度が、前記冷却された脱水素化触媒の取り扱いを可能にするために十分に低い、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記冷却された脱水素化触媒の前記温度が50℃未満である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記二酸化炭素含有冷却ガスが少なくとも50体積パーセントの二酸化炭素を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記冷却された脱水素化触媒の前記温度が40℃未満である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記二酸化炭素含有冷却ガスが95体積パーセントを超える二酸化炭素を含む、請求項34に記載の方法。

【公表番号】特表2007−510534(P2007−510534A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535588(P2006−535588)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/033614
【国際公開番号】WO2005/037738
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】