説明

脱硝装置

【課題】薬剤を加水分解して発生させたアンモニアにより窒素酸化物を還元する脱硝装置において、アンモニアの発生量制御の応答性を向上する。
【解決手段】加水分解によりアンモニアと二酸化炭素を発生する薬剤の水溶液を加熱して加水分解させる加水分解装置7を備え、加水分解装置7で発生させたアンモニアを排ガスに添加して触媒存在下で前記排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置1において、加水分解装置7で発生した二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素検出器15が設けられ、二酸化炭素検出器15の検出値に基づいて加水分解装置7における加熱温度を制御してアンモニアの発生量を調整することで、アンモニアの発生量制御の応答性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝装置に係り、特に、薬剤を加水分解してアンモニアを発生させ、このアンモニアを利用して窒素酸化物を還元する脱硝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、加水分解によりアンモニアと二酸化炭素を発生する薬剤、例えば、尿素の水溶液を触媒存在下で加熱して加水分解させ、この加水分解により発生したアンモニアを排ガスに添加して脱硝触媒存在下で排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置が提案されている。しかしながら、特許文献1には、加水分解によるアンモニアの発生量を調整することは記載されていない。
【0003】
一方、特許文献2には、加水分解によるアンモニアの発生量を調整可能な加水分解装置を備えた脱硝装置が提案されている。同文献によれば、尿素と加熱した水蒸気を接触させて尿素を加水分解してアンモニアを発生させ、この発生したアンモニアの濃度の検出値に基づいて尿素に接触させる水蒸気の加熱温度を制御し、加水分解で発生させるアンモニアの濃度を設定濃度に調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−57258号公報
【特許文献2】特開平4−358521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術は、加水分解におけるアンモニアの発生量制御の応答性について考慮していない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、薬剤を加水分解して発生させたアンモニアにより窒素酸化物を還元する脱硝装置において、アンモニアの発生量制御の応答性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、加水分解によるアンモニア発生量の制御の応答性を向上するために鋭意研究した結果、加水分解により発生した二酸化炭素濃度に基づいてアンモニア発生量を制御することで、制御の応答性が向上できることを知見した。例えば、薬剤として尿素を例に採り説明すると、(式1)及び(式2)に示す反応が組み合わされ、(式3)に示す尿素の加水分解反応が生じる。
(NHCO → NH + HNCO・・・(式1)
HNCO + HO → NH + CO・・・(式2)
(NHCO + HO → 2NH + CO(式3)
そして、本発明の発明者らは、尿素の加水分解反応において、(式2)示す反応の反応条件が敏感であることを知見し、(式2)に示す反応を制御することで、アンモニアの発生量制御の応答性を向上できることを見出した。
【0008】
これらの知見に基づいて、上記課題を解決するため、本発明の脱硝装置は、加水分解によりアンモニアと二酸化炭素を発生する薬剤の水溶液を加熱して加水分解させる加水分解装置を備え、加水分解装置で発生させたアンモニアを排ガスに添加して触媒存在下で排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置において、加水分解装置で発生した二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素検出器が設けられ、二酸化炭素検出器の検出値に基づいて加水分解装置における加熱温度を制御してアンモニアの発生量を調整することを特徴とする。
【0009】
これによれば、(式2)で発生した二酸化炭素を検出し、この検出値に基づいて反応条件の加熱温度を制御するから、反応条件が敏感な(式2)の反応を制御でき、加水分解反応の制御の応答性を向上できる。例えば、脱硝装置に必要なアンモニア量に対応する二酸化炭素濃度を設定し、この設定値よりも検出値が低ければ加熱温度を上げて(式2)の反応を促進させ、設定値よりも検出値が高ければ加熱温度を下げて(式2)の反応を抑えるように制御する。すなわち、アンモニアの発生量と二酸化炭素の発生量は相関するから、二酸化炭素の発生量を制御することでアンモニアの発生量を制御できる。なお、特許文献2のようなアンモニア濃度の検出値に基づく制御は、検出したアンモニアが(式1)と(式2)のどちらで発生したアンモニアであるかを区別できないので、アンモニア濃度に基づいて加熱温度を制御しても、反応条件が敏感な(式2)の反応を制御できない。
【0010】
なお、本発明の薬剤としては、メラミン、ビウレット、シアヌル酸、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなど、尿素のように加水分解によりアンモニアと二酸化炭素が発生する化合物を用いることができる。
【0011】
また、脱硝装置の入口側又は出口側の少なくとも一方の窒素酸化物濃度を検出し、検出した窒素酸化物濃度と二酸化炭素濃度に基づいて加水分解装置における加熱温度を制御することができる。これによれば、排ガスを発生する装置の運転状態の変動により、排ガス中の窒素酸化物濃度が変動した場合、その変動に対応してアンモニアの発生量を調整できるので、窒素酸化物に対して過不足なくアンモニアを添加できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薬剤を加水分解して発生させたアンモニアにより窒素酸化物を還元する脱硝装置において、アンモニアの発生量制御の応答性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の脱硝装置の概略構成図である。
【図2】尿素水を加水分解する際の温度と圧力条件を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
(実施形態)
図1に示すように、本実施形態の脱硝装置1は、窒素酸化物を含有する排ガス、例えば、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料を燃焼するボイラ又は内燃機関が排出された燃焼排ガスが導入されるようになっている。脱硝装置1は、導入された排ガスにアンモニアを添加するノズル3と、ノズル3の排ガスの流れ方向後流に設けられた脱硝触媒層5と、ノズル3に接続された加水分解装置7を備えている。ノズル3は、複数の噴出孔が形成され、脱硝装置1内にアンモニアを均一に噴出できるようになっている。脱硝触媒層5は、アンモニアにより窒素酸化物を還元する反応を促進する周知の触媒により形成されている。
【0015】
加水分解装置7は、加水分解によりアンモニアと二酸化炭素を発生する薬剤、例えば、尿素の水溶液がポンプ11で溶解層9から供給されるようになっている。加水分解装置7内には、尿素水溶液を加熱するヒータ13が設けられている。これにより、加水分解装置7に供給された尿素水溶液がヒータ13により加熱され、尿素が加水分解するようになっている。加水分解反応により発生したアンモニアは、弁19を備える配管を介してノズル3に供給されるようになっている。
【0016】
次に、本発明の特徴構成を説明する。ノズル3と加水分解装置7を接続する配管の途中には、二酸化炭素濃度を検出する検出器15が設けられている。検出器15は、加水分解装置7で発生したアンモニアに含まれる二酸化炭素の濃度を検出するようになっている。さらに、検出器15は、検出した二酸化炭素濃度に基づいてヒータ13の加熱温度を制御できるようになっている。
【0017】
また、脱硝装置1の入口側と出口側には、排ガス中の窒素酸化物濃度を検出する検出器17,18が設けられている。検出器17,18は、排ガス中の窒素酸化物濃度に基づいて弁19の開度を調整して、ノズル3へのアンモニアの供給量を制御できるようなっている。
【0018】
このように構成される脱硝装置1の動作を説明する。脱硝装置1に導入された排ガスには、ノズル3からアンモニアが添加される。アンモニアが添加されて排ガスは、脱硝触媒層5に導入される。これにより、脱硝触媒存在下で、排ガス中の窒素酸化物がアンモニアにより窒素に還元され脱硝される。窒素酸化物が還元された排ガスは、脱硝装置1から排出され、図示していない排ガス浄化装置により浄化処理された後、煙突21から大気中に放出される。
【0019】
次に、本実施形態の特徴動作を説明する。加水分解装置7に供給された尿素水溶液をヒータ13により加熱する。この際、加熱温度が高過ぎると、尿素水溶液が沸騰してノズル3に供給されるアンモニアが減少し、また、ミスト状の尿素水溶液がアンモニアガスに同伴してノズル3に供給され、脱硝装置1の後流側の機器が閉塞するおそれがある。一方、加熱温度が低過ぎると、尿素水溶液中の水の蒸発量が減るから、尿素水溶液の濃度が薄くなりアンモニアの発生量が低下する。そのため、ヒータ13の加熱温度は、図2の理想運転曲線に示すとおり、同一の圧力条件において尿素水溶液の蒸発温度よりも低く、かつ、水の蒸発量が設定範囲になるよう加熱温度に設定される。
【0020】
このヒータ13の加熱により尿素が加水分解される。尿素の加水分解反応は、熱分解により尿素((NHCO)がアンモニア(NH)とシアン酸(HNCO)に分解する反応(上述した(式1)の反応)と、加水分解によりシアン酸(HNCO)と水(HO)が反応して、アンモニア(NH)と二酸化炭素(CO)が生成する反応(上述した(式2)の反応)が生じる。そして、(式1)で生成したアンモニアと(式2)で生成したアンモニア及び二酸化炭素の混合ガスがノズル3に供給される。この混合ガスが検出器15を通過する際、混合ガス中の二酸化炭素濃度が検出される。尿素の加水分解反応は吸熱反応なので、検出器15の検出値が設定値よりも低ければヒータ13の加熱温度を上げて、加水分解反応を促進させ、検出値が設定値よりも低ければ、ヒータ13の加熱温度を下げて加水分解反応を抑えるように制御する。これにより、反応条件が敏感な(式2)の加水分解反応を制御できるから、加水分解反応の制御の応答性を向上できる。なお、(式1)の反応は熱分解反応で吸熱反応、(式2)の反応は加水分解反応で発熱反応である。そして、(式1)の吸熱反応は、尿素を加熱すれば反応を進行させることが可能であるが、(式2)の発熱反応は、単に加熱すればよいわけでなく、反応温度を適切な温度に制御する必要があるから、(式2)の反応条件は敏感になる。
【0021】
また、脱硝装置1出口側の窒素酸化物濃度を所定値以下になるように、検出器18で検出した脱硝装置1出口側の窒素酸化物濃度に基づいて弁19の開度を調整しノズル3へのアンモニア供給量を制御する。さらに、検出器17で検出した脱硝装置1入口側の窒素酸化物濃度に基づいて弁19の開度を調整し、アンモニア供給量をフィードフォワード制御する。これにより、排ガス中の窒素酸化物濃度が変動した場合、その変動に応じてアンモニアを過不足なく供給できる。
【0022】
これによれば、加水分解装置7で発生した二酸化炭素濃度に基づいて、ヒータ13の加熱温度を制御して、反応条件が敏感な(式2)の反応を制御できるから、加水分解反応の応答性を向上でき、アンモニアの発生量を安定化できる。
【0023】
また、高圧ガス容器に貯蔵したアンモニアをノズルに供給する従来の脱硝装置は、高圧ガス取締法の適用を受け、輸送及び貯蔵に関して十分なん注意が必要であった。しかし、本実施形態の脱硝装置は、アンモニアに比べて取り扱いが容易な尿素を用いるので、薬剤の輸送及び貯蔵を容易にできる。
【0024】
なお、アンモニアを発生させる薬剤は、尿素に限定されず、メラミン、ビウレット、シアヌル酸、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなど、尿素のように加水分解によりアンモニアと二酸化炭素が発生する化合物を用いることができる。
【0025】
また、排ガス中の窒素酸化物濃度が変動した場合、脱硝に必要なアンモニア量が変わるので、排ガス中の窒素酸化物濃度に基づいてアンモニアの発生量を調整する。この場合、脱硝装置1出口側の窒素酸化物濃度に基づくフィードバック制御、脱硝装置1入口側の窒素酸化物濃度に基づくフィードフォワード制御、或いは、フィードバック制御とフィードフォワード制御を組み合わせた制御のいずれかと、検出器15で検出した二酸化炭素濃度に基づいて、ヒータ13の加熱温度を制御してアンモニアの発生量を調整することができる。これによれば、例えば、排ガス中の窒素酸化物濃度が増加して、脱硝に必要なアンモニア量が増加した場合、必要なアンモニアを迅速に供給できるので、脱硝装置1からの窒素酸化物のリークを抑制できる。
【0026】
また、尿素を加水分解する触媒層を加水分解装置7内に設け、尿素の加水分解を促進することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 脱硝装置
5 脱硝触媒層
7 加水分解装置
13 ヒータ
15 検出器
17 検出器
18 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解によりアンモニアと二酸化炭素を発生する薬剤の水溶液を加熱して加水分解させる加水分解装置を備え、該加水分解装置で発生させたアンモニアを排ガスに添加して触媒存在下で前記排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置において、
前記加水分解装置で発生した二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素検出器が設けられ、該二酸化炭素検出器の検出値に基づいて前記加水分解装置における加熱温度を制御して前記アンモニアの発生量を調整することを特徴とする脱硝装置。
【請求項2】
請求項1に記載の脱硝装置において、
前記脱硝装置の入口側又は出口側の少なくとも一方の窒素酸化物濃度を検出する窒素酸化物検出器が設けられ、該窒素酸化物検出器の検出値と前記二酸化炭素検出器の検出値に基づいて前記加水分解装置における加熱温度を制御して前記アンモニアの発生量を調整することを特徴とする脱硝装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−55823(P2012−55823A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201037(P2010−201037)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】