説明

脱臭方法および脱臭装置

【課題】炭化水素と共存する重質硫黄系ガスを除去する脱臭方法および脱臭装置を提供する。
【解決手段】炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含む重質硫黄系ガスと、炭化水素ガスとからなる混合ガスに対し、含まれる酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、水素イオン濃度(pH)が10〜13である洗浄液を前記混合ガスと接触させ、重質硫黄系ガスを酸化性化合物と反応させることにより除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルメルカプタンやメチルエチルスルフィドなどの硫黄系悪臭ガスを含んだ混合ガスの脱臭方法および脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所や油槽所など、石油製品の荷積みを行う現場では、軽質ナフサや原油等の軽質な石油留分からVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)が外部に漏出することがある。VOCには、有機硫黄化合物(主にメルカプタン)が含まれるため悪臭があり、周囲に拡散すると周辺への悪臭の原因となりやすい。
そこで、各種の悪臭除去方法が検討されている。具体的には、ガス状汚染物質を除去するために亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウムを使用する方法(例えば、特許文献1)、下水道処理場で発生する硫化水素を過酸化水素水等の酸化剤とアルカリを含有する水溶液により処理する方法(例えば、特許文献2)、あるいは、次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液の臭気を特定のアルカリ性雰囲気により低減する方法(例えば、特許文献3)などが提案されている。また、触媒による酸化によって臭気成分を除去する方法も提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特表平10−506047号公報
【特許文献2】特開2005−169370号公報
【特許文献3】特開2001−231842号公報
【非特許文献1】普及版 防脱臭技術集成 p57〜p266、p128〜p149((株)エヌ・ティー・エス 2002年12月10日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、次亜塩素酸ナトリウムを使用した浄化方法は記載されているものの、硫黄化合物の臭気成分除去については記載されていない。特許文献2には洗浄液の臭気(塩素臭)を低減する方法が提案されているものの臭気成分除去についてはなんら言及されていない。また、特許文献3では、硫化水素除去に関して述べられており、下水処理、し尿処理で発生する軽質な硫黄化合物、具体的には、硫化水素、メチルメルカプタンやジメチルスルフィドのような軽質硫黄化合物の除去が対象である。
その他、活性炭による吸着法も考えられるが、活性炭では、共存する炭化水素に対して悪臭成分の選択性が低く、また炭化水素濃度が高いと吸着熱により温度が上昇するため適用が困難である。また、非特許文献1のように、触媒による酸化によって臭気成分を除去する方法では、炭化水素濃度が高いと酸化触媒の耐熱性の問題から適用が困難である。
結局、製油所や油槽所などから放出されるVOC起源ガスのように石油系の濃度の高い炭化水素と共存する重質なメルカプタンやスルフィドに関しては、現在のところ有効な除去方法は知られていない。
そこで、本発明は、炭化水素と共存する重質硫黄系ガスを除去する脱臭方法および脱臭装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような脱臭方法および脱臭装置を提供するものである。
(1)炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含む重質硫黄系ガスと、炭化水素ガスとからなる混合ガスから重質硫黄系ガスを除去する脱臭方法であって、前記重質硫黄系ガスを酸化性化合物と反応させることを特徴とする脱臭方法。
(2)上記(1)に記載の脱臭方法において、前記混合ガスと、前記酸化性化合物を含有する洗浄液とを接触させることを特徴とする脱臭方法。
(3)上記(2)に記載の脱臭方法において、前記洗浄液における酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、水素イオン濃度(pH)が10〜13であることを特徴とする脱臭方法。
(4)上記(2)または(3)に記載の脱臭方法において、前記混合ガスと、前記酸化性化合物を含有する洗浄液とを反応塔内で平行流または向流により接触させることを特徴とする脱臭方法。
(5)上記(4)に記載の脱臭方法において、前記反応塔を2つ用い、1塔目の反応塔において、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、pHが10〜12である洗浄液により前記混合ガスを洗浄した後、2塔目の反応塔において、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、pHが11〜13である洗浄液により前記混合ガスを洗浄することを特徴とする脱臭方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の脱臭方法において、前記酸化性化合物が次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする脱臭方法。
(7)炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含む重質硫黄系ガスと、炭化水素ガスとからなる混合ガスから重質硫黄系ガスを除去する脱臭装置であって、前記混合ガスと、前記酸化性化合物を含有する洗浄液とを平行流または向流により接触させる反応塔を備えることを特徴とする脱臭装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の脱臭方法によれば、炭化水素ガス雰囲気中に共存する重質硫黄系ガスを酸化性化合物により効果的に除去することができる。特に、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、水素イオン濃度(pH)が10〜13である洗浄液を用いると極めて効率よく重質硫黄系ガスを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
〔脱臭装置の構成〕
図1は、本実施形態における脱臭装置1の概略図である。脱臭装置1は、反応塔(脱臭塔)10と、VOCガス(炭化水素ガスと重質硫黄系ガスとの混合ガス)を脱臭装置1内に導入するための配管20と、脱臭後のガスを排出する配管30とを備えている。また、脱臭塔10は、気液の接触を行うための多数の充填物を有する処理部11と、酸化性化合物を含有する水溶液である洗浄液を貯留するタンク12と、洗浄液を脱臭塔10の上部に移送する配管13を備えており、配管13の先端には洗浄液を脱臭塔10の上部から散布するための散布機14が付属している。また、配管13の途中にはポンプ13Aが設けられている。
【0008】
処理部11における充填物としては、気液の接触効率の観点より、ラシヒリング(Raschig ring)、レッシングリング(Lessing ring)、あるいはポールリング(Pall ring)などが挙げられる。
また、タンク12に貯留されている洗浄液に含まれる酸化性化合物としては、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。その中でも、汎用性,取り扱いの容易さの点で次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
洗浄液における酸化性化合物の濃度は、500〜3,000質量ppmであることが好ましく、1,000〜2,000質量ppmであることがより好ましい。酸化性化合物の濃度が500質量ppm未満であると、重質硫黄系ガスの酸化が不十分となり吸収効率(脱臭効果)が劣る。また、酸化性化合物の濃度が3,000質量ppmを越えると粘度の上昇による吸収効率の低下があり、運転上の経済性も悪化する。
また、洗浄液中の水素イオン濃度(pH)は、10〜13であることが好ましく、11〜12.5であることがより好ましく、11.5〜12であることがさらに好ましい。洗浄液のpHが10未満であると、重質硫黄系ガスの洗浄液への吸収速度が遅くなり洗浄効率が低下する。また、洗浄液のpHが13を越えても酸化力の低下により洗浄効率が低下する。
【0009】
〔脱臭方法〕
次に、図1の脱臭装置1を用いて、炭化水素ガスと重質硫黄系ガスとからなる混合ガスから脱臭を行う方法を説明する。
本発明における重質硫黄系ガスは、炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含んでいる。このような重質メルカプタンや炭素数3以上の重質スルフィドとしては、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、アミルメルカプタンおよびメチルエチルスルフィドなどが挙げられる。
【0010】
このような重質硫黄系ガスを含んだ混合ガスは、図1に示す配管20から脱臭塔10の下部に導入される。そして、混合ガスは、脱臭塔10を上昇していき、処理部11内の充填物間に生じている空隙を通過する。一方、脱臭塔10の塔底は、洗浄液のタンク12となっており、洗浄液は、ポンプ13Aの作用により配管13を通って、脱臭塔10の上部に導入される。配管13の先端には、散布機14が付属しており、洗浄液は脱臭塔10の上部から処理部11に散布される。
従って、図1からわかるように、落下する洗浄液により、ラシヒリング等の充填物の表面を上昇する重質硫黄系ガスの吸収(脱臭)が行われる。そして、脱臭後のガスは、脱臭塔10の塔頂から配管30を通って排出される。また、洗浄液は、タンク12に戻り、再利用される。
【0011】
なお、次亜塩素酸ナトリウムを含んだ洗浄液による重質硫黄系ガスの吸収除去の機構についてメルカプタンを例として以下に説明する。
メルカプタンは、アルカリ水溶液に一旦溶解後(反応式(1))、酸化反応(反応式(2)、(3))により、スルホン酸塩となり洗浄液中に溶解吸収される。
R-SH + NaOH → R-SNa + HO (1)
2R-SNa + NaClO + HO → R+ NaCl +2NaOH (2)
+5NaClO+4NaOH →2R-SONa + 5HO+7NaCl(3)
【0012】
本発明における混合ガスに含まれる重質硫黄系ガスは、炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含んでいる。このような混合ガスの脱臭は、炭化水素濃度が低い場合には、活性炭吸着法や燃焼法の利用も可能ではあるが効率が低い。特に炭化水素の濃度が0.3容量%以上である高濃度の領域においては、活性炭吸着法の吸着熱の問題や、触媒酸化法の燃焼温度の問題から処理できる最大濃度は燃焼下限の1/5〜1/6が最大濃度といわれている。本発明の脱臭方法は、高濃度の炭化水素ガス雰囲気下においても十分な脱臭効果(重質硫黄系ガスの除去効果)を奏する点で優れている。
【0013】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、脱臭塔10内でガス吸収を行う際に、気液向流接触方式としたが、気液平行流接触方式としてもよい。すなわち、脱臭塔10の上部から洗浄液と混合ガスをともに流す方式でもよい。このような気液平行流方式であると、ガスの流速を上げても洗浄液のフラッディングを起こすことがないため、運転速度を上げることが可能となる。
また、本実施形態では、脱臭塔10は1塔だけであったが、1塔に限らず複数配置し、ガス吸収を直列あるいは並列で行っても良い。例えば、脱臭塔を2つ直列に配置して、1塔目の反応塔において、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、pHが10〜12である洗浄液により前記混合ガスを洗浄した後、2塔目の反応塔において、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、pHが11〜13である洗浄液により混合ガスを洗浄すると各々の反応塔条件が重質スルフィドとメルカプタンの除去に適合するため好適である。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例の内容に何ら限定されるものではない。
具体的には、図1の脱臭装置1を用い、各種条件を設定して炭化水素ガスと重質メルカプタンからなる混合ガスに対して脱臭処理を行った。
(1.脱臭装置1の仕様)
本実施例における脱臭装置1の具体的仕様は以下の通りである。
塔径 :200mm
充填物高さ:1.5m
充填物 :テラレットSII型(月島環境エンジニアリング株式会社製)
【0015】
(2.評価用混合ガス)
(2.1 重質硫黄系ガス用硫黄化合物)
以下の2種類の硫黄化合物を用いた。
・tert-ブチルメルカプタン(tert-CSH)
・tert-アミルメルカプタン(tert-C11SH)
【0016】
(2.2 炭化水素ガス用炭化水素化合物)
以下の炭化水素化合物を用いた。
・プロパン(C
(2.2 評価用混合ガスの調製)
重質硫黄系ガスの濃度が50容量ppm、炭化水素ガスの濃度が10容量%となるように各ガス用原料化合物を窒素ガスと混合した。
なお、参考用として軽質硫黄系ガスについても同様にして混合ガスを調製した。具体的には、メチルメルカプタン(CHSH)およびジメチルサルファイド(CHSを用い、合計4種類の混合ガスを準備した。
【0017】
(3.洗浄液)
酸化性化合物として次亜塩素酸ナトリウムを用い、以下のようなpHおよび濃度の水溶液を各々調製し洗浄液として用いた。
pH:9.5、11.0、12.5
濃度(質量ppm):700、1400、2100
【0018】
(4.評価方法)
前記した4種類の混合ガスについて、図1に示す脱臭装置1の脱臭塔10下部から導入し、処理部11で、塔の上部から散布される洗浄液と向流方式により接触させガス吸収を行わせた。入り口配管20内における(重質)硫黄系ガスの濃度と出口配管30内における(重質)硫黄系ガスの濃度を測定して、((入口ガス濃度−出口ガス濃度)/(入口ガス濃度)×100)とし、洗浄効率(%)とした。
【0019】
(5.評価結果)
図2は、洗浄液のpHと洗浄効率との関係を示したものである。また、図3には、次亜塩素酸濃度と洗浄効率との関係を示した。
これらの結果より、本発明の脱臭方法(脱臭装置)を用いると、吸収除去が容易な軽質硫黄系ガスの系と比較しても、炭化水素ガスと共存する重質硫黄系ガスに対して十分実用的な除去(脱臭)が可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、炭化水素ガスと共存する重質硫黄系ガスの除去方法(脱臭方法)として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態にかかる脱臭装置の概略図。
【図2】本発明の実施例における洗浄液のpHと洗浄効率との関係を示すグラフ。
【図3】本発明の実施例における次亜塩素酸ナトリウムの濃度と洗浄効率との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0022】
1…脱臭装置、10…脱臭塔、11…処理部、12…タンク、13,20,30…配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含む重質硫黄系ガスと、炭化水素ガスとからなる混合ガスから重質硫黄系ガスを除去する脱臭方法であって、
前記重質硫黄系ガスを酸化性化合物と反応させることを特徴とする脱臭方法。
【請求項2】
請求項1に記載の脱臭方法において、
前記混合ガスと、前記酸化性化合物を含有する洗浄液とを接触させることを特徴とする脱臭方法。
【請求項3】
請求項2に記載の脱臭方法において、
前記洗浄液における酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、水素イオン濃度(pH)が10〜13であることを特徴とする脱臭方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の脱臭方法において、
前記混合ガスと、前記酸化性化合物を含有する洗浄液とを反応塔内で平行流または向流により接触させることを特徴とする脱臭方法。
【請求項5】
請求項4に記載の脱臭方法において、
前記反応塔を2つ用い、
1塔目の反応塔において、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、pHが10〜12である洗浄液により前記混合ガスを洗浄した後、
2塔目の反応塔において、酸化性化合物の濃度が500〜3,000質量ppmで、かつ、pHが11〜13である洗浄液により前記混合ガスを洗浄することを特徴とする脱臭方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の脱臭方法において、
前記酸化性化合物が次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする脱臭方法。
【請求項7】
炭素数2以上である重質メルカプタンおよび炭素数3以上の重質スルフィドの少なくともいずれかを含む重質硫黄系ガスと、炭化水素ガスとからなる混合ガスから重質硫黄系ガスを除去する脱臭装置であって、
前記混合ガスと、前記酸化性化合物を含有する洗浄液とを平行流または向流により接触させる反応塔を備えることを特徴とする脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−112955(P2009−112955A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289466(P2007−289466)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000103459)エスオーエンジニアリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】