説明

脱臭材

【課題】 バインダへの親和性が低い金属酸化物を基材に担持させた脱臭材においては、バインダの量が過剰となると金属酸化物の表面がバインダに覆われ、金属酸化物による臭気物質の分解作用が著しく低下する。一方、バインダの量が過小となると、担持性が低下し、金属酸化物が容易に脱離してしまう。
【解決手段】 金属酸化物5、6はバインダ層4から脱臭材の通気路2内に突出して担持されるとともに、金属酸化物及びバインダ層の表面をシリカ粒子7で被覆することにより、金属酸化物5、6はシリカ粒子7の粒子間に形成される空隙を介して、空気中に含まれる臭気物質の分解を行うことが可能となるとともに、金属酸化物5、6の担持性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ等で使用され、悪臭の原因となる臭気物質を分解除去する脱臭材に関する。
【背景技術】
【0002】
温水洗浄便座、空気清浄機、冷蔵庫等の多くの家庭用機器に、悪臭を放つ臭気物質を分解除去する脱臭材が搭載されている。家庭内に存在し悪臭を放つ臭気物質としては、アンモニア、硫化水素、メチルカプタン等がある。
【0003】
これらの悪臭を取り除く脱臭材として、ハニカム基材の表面に、二酸化マンガン、銅酸化物、鉄酸化物等の金属酸化物をバインダによって担持させたものが知られている。担持された金属酸化物は分解を発揮し、臭気物質を分解することで悪臭を除去することができる(例えば、特開平10−314283号参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−314283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ホプカライト触媒と呼ばれる上記金属酸化物は、有機バインダへの親和性が低く、担持し難いという問題がある。したがって、金属酸化物を脱臭材の基材表面に有機バインダで担持させたとしても、臭気物質を含む空気が基材表面を通過する際に、担持されている金属酸化物が脱離して下流に飛散したり、脱臭材の輸送中に加わる振動などで金属酸化物が脱離し、その結果、脱臭性能が著しく低下するといった問題があった。
【0006】
この問題への対策として、有機バインダを増量し、金属酸化物の基材表面への担持性を向上させる方法が考えられる。しかしこの場合、増量された有機バインダで金属酸化物の表面が覆われ、臭気物質を含む空気との接触が妨げられてその分解作用が阻害され、やはり脱臭性能が低下するという新たな問題が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、触媒である金属酸化物の分解作用を阻害することなく、基材からの金属酸化物の脱離を防止し、安定した脱臭性能を発揮できる脱臭材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、空気中に含まれる臭気物質を分解することで脱臭を行う脱臭材において、基材の表面に有機バインダからなるバインダ層を介して担持された二酸化マンガン、銅酸化物及び鉄酸化物のうち少なくとも1種類からなる金属酸化物と、を備え、金属酸化物はバインダ層から突出して担持されるとともに、金属酸化物及びバインダ層の表面を被覆するシリカ粒子を有し、金属酸化物の表面に被覆されたシリカ粒子は粒子間に空隙を形成していることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、二酸化マンガン、銅酸化物及び鉄酸化物のうち少なくとも1種類からなる金属酸化物は、有機バインダからなるバインダ層に完全に覆われることなく、バインダ層から通気路内に突出した状態で担持される。したがって、空気中に含まれる臭気物質と金属酸化物とが接触しやすい形態となっており、臭気物質の分解には好適なものである。しかし、これら金属酸化物は有機バインダへの親和性が低く、また、バインダ層は金属酸化物の一部分しか担持していないため、このようなバインダ層のみでは、金属酸化物の脱離を生じるおそれがある。
【0010】
そこで本発明では、さらに、金属酸化物及びバインダ層の表面をシリカ粒子で被覆しているため、金属酸化物の担持性を向上させ、脱離を防止している。金属酸化物の表面がシリカ粒子で被覆されるものの、そのシリカ粒子は粒子間に空隙を形成している。したがって、金属酸化物はその空隙を介して空気中に含まれる臭気物質の分解を行うことが可能である。すなわち本発明は、金属酸化物の担持性と分解作用を高い次元で両立し、安定した脱臭性能を発揮するものである。
【0011】
また有機バインダはカルボキシメチルセルロースからなり、基材が臭気物質を捕捉する吸着剤を含むよう構成しても良い
【0012】
これにより、通気路を通過する空気中に含まれる臭気物質や、金属酸化物が臭気物質を分解して生成される物質を吸着剤で捕捉し、脱臭性能を向上させることができる。有機バインダとして使用されるカルボキシメチルセルロースは空気の透過性が高く、この場合においても、シリカ粒子間の空隙を及びバインダ層を介した臭気物質の吸着が可能であり、吸着作用が阻害されることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は本発明に係る脱臭材1の一例を模式的に表すものである。この脱臭材1は、断面が矩形の通気路2が多数形成されるよう、基材がハニカム状となっている。各通気路2に図1の矢印の方向に低い通気抵抗で空気を通過させ、空気中に含まれる臭気物質を分解し、脱臭するものである。
【0015】
図2は通気路2の壁面の断面を模式的に表すものである。セピオライトで形成された基材3の表面に、バインダ層4によって二酸化マンガン5及び酸化銅6が担持されている。二酸化マンガン5及び酸化銅6は、バインダ層4から通気路内に突出して担持されている。
【0016】
さらにバインダ層4、二酸化マンガン5及び酸化銅6の表面に、シリカ粒子7を被覆している。
【0017】
このような脱臭材を製造する上では、二酸化マンガン5及び酸化銅6の表面は、常に活性状態にしておく必要がある点に注意すべきである。
【0018】
すなわち、基材3に二酸化マンガン5及び酸化銅6を担持する際に、これら金属酸化物が容易に脱離しないよう適量のバインダを用いることが必要となるが、そのバインダの量が過剰となると、金属酸化物の表面がバインダに覆われ、臭気物質の分解効果が著しく低下してしまう。
【0019】
また、逆に、二酸化マンガン5及び酸化銅6の活性状態を十分保つために、バインダの量が過少となると、担持性が低下し、これら金属酸化物が容易に脱離する。したがって、やはり脱臭材の性能低下を招くことになる。
【0020】
本発明に係る脱臭材はこれらの課題を解決できる構成をなしている。具体的には、温水洗浄便座に搭載する比較的小型の脱臭材(幅54mm×高さ30mm×奥行44mm)を、以下のような工程を経て得ることができた。
【0021】
(工程1)
まず、380cell/inch2 でセル壁厚み0.2mmのハニカム基材をセピオライトで形成した。湿式の押出成形機でハニカム状に形成後、乾燥、焼成、加工を行うことで形成している。
【0022】
(工程2)
次に、このハニカム状基材を、金属酸化物、カルボキシメチルセルロース(CMCダイセル1170;ダイセル化学工業(株)製、以下CMCと記す)の有機バインダ、及び水からなる溶液に60秒間浸漬させた。金属酸化物は二酸化マンガン80重量%と酸化銅20重量%から構成され、この溶液は、金属酸化物、CMC、水の重量割合を100:3.3:400に調整している。
【0023】
このとき、金属酸化物の重量に対するバインダの重量の比は、1/100乃至5/100程度とすることが好ましい。この比を1/100より小さく設定すると、担持力が不十分となって金属酸化物を基材に担持できなくなり、脱離するおそれがある。一方、この比を5/100より大きく設定すると、金属酸化物がバインダ層に覆われ、分解性能が顕著に低下するためである。
【0024】
また、金属酸化物の種類は、分解対象となる臭気物質に応じて適宜選択すればよい。例えば二酸化マンガンと酸化銅に替えて、若しくはこれらに加えて、鉄酸化物を用いてもよい。
【0025】
その後、ハニカム状基材を溶液より取り出し、約100℃で3時間乾燥させて、基材表面に金属酸化物を担持させた。
【0026】
(工程3)
さらに、二酸化マンガン及び酸化銅を担持させたハニカム状基材を、コロイダルシリカ(スノーテックス20;日産化学工業(株)製)2wt%の水溶液に約10秒間浸漬させた。その後、水溶液より取り出したハニカム状基材を、再度約100℃で3時間乾燥させることで、二酸化マンガン、酸化銅及びバインダ層上を、粒径が約20nmのシリカ粒子で被覆した。
【0027】
以上の工程1〜3を経て得られる本発明に係る脱臭材の優位性を検証すべく、複数の比較試料を作成して比較試験を実施した。
【0028】
比較試験では、本発明に係る脱臭材を試料1とし、その比較対象として、工程1、2のみを経て作成した脱臭材を試料2とした。この試料2は、工程2で基材表面に形成されるバインダの量を試料1と同程度としている。
【0029】
さらに、工程1を経て得られた基材を使用し、工程2でバインダを試料1の2倍使用して、二酸化マンガン及び酸化銅を担持させた脱臭材を試料3とした。すなわち試料3では、工程2における溶液の金属酸化物、CMC、水の重量割合を100:6.6:400に調整した。この試料3も工程3を経ておらず、金属酸化物及びバインダ層の表面はシリカ粒子によって被覆されていない。
【0030】
これら試料1〜3を使用し、臭気物質の除去率を評価する次のような性能比較試験を実施した。
【0031】
温度20℃湿度60%に管理された環境下で、測定治具に装着された各試料に空気を通過させた。通過させる空気中には、臭気物質として硫化水素5ppm及びメチルメルカプタン5ppmを混合させた。空気は200L/minの流速で各試料を通過させ、所定の時間毎に各試料の入口側の空気と出口側から空気を採取した。採取した空気をガスクロマトグラフィー法により分析し、入口側と出口側から採取した空気における臭気物質の濃度差から、各試料による臭気物質の除去率を算出した。
【0032】
試料1〜3による硫化水素とメチルメルカプタンの除去率の試験結果をそれぞれ図3、図4に示す。これから明らかなように、本発明の脱臭材に係る試料1と試料2の悪臭除去率の差は殆どみられない。したがって、二酸化マンガン及び酸化銅及びバインダ層の表面をシリカ粒子で被覆しても、臭気物質の除去性能に殆ど影響を与えないことが明確となった。これは被覆しているシリカ粒子間に空隙が形成されており、その空隙を介して二酸化マンガン及び酸化銅が、空気中に含まれる臭気物質の分解を行ったためと考えられる。
【0033】
バインダの量を試料1の2倍とし、二酸化マンガン及び酸化銅の担持性を向上させた試料3については、試料1、試料2に比べ、極端に分解性能が劣っていることがわかる。これはバインダの量が過剰であり、二酸化マンガン及び酸化銅がバインダに被覆されてしまい、空気中の臭気物質を分解することができない状態になっているものと考えられる。
【0034】
また、試料3は除去率が経時的に低下していることがわかる。これは、バインダの量を試料1の2倍とすることで、二酸化マンガンおよび酸化銅がバインダに被覆されてしまい、試料1および試料2に比べ、空気中の臭気物質を分解することができる二酸化マンガン及び酸化銅の有効量が少なくなり、金属酸化物の分解性能が劣化する程度が早くなったことが要因と考えられる。
【0035】
次に、各試料を加振する振動試験の結果について説明する。
【0036】
振動試験機に試料1〜3を25個ずつ固定して加振した。振動試験の振動条件設定は、振動加速度を0.59G、振動時間は垂直方向が40分、水平方向が40分の合計80分とした。また、振動数範囲は3〜200Hz(ランダム)とし、JIS_Z0232_2004に準拠した条件で加振した。加振終了後、試料1~3のハニカム基材より脱離していたバインダ、二酸化マンガン及び酸化銅を収集し、重量を計測した。試験結果の比較を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の脱臭材に係る試料1では、二酸化マンガン及び酸化銅の脱離が全くみられなかったのに対し、比較例である試料2については著しい脱離を生じていた。
【0039】
また、比較例の試料3は、バインダの使用量を試料1の2倍としているため、試料2に比べ二酸化マンガン及び酸化銅の脱離がかなり低減されているものの、本発明の脱臭材に係る試料1のレベルを達成することはできなかった。
【0040】
このことから、二酸化マンガン及び酸化銅及びバインダ層をシリカ粒子で覆うことで、基材表面から脱離しやすい両金属酸化物の担持性を向上させ、脱離を防止できる効果があることがわかった。
【0041】
以上のように本発明によれば、シリカ粒子の被覆により、金属酸化物の分解作用を阻害することなく、担持性を向上させることができる。本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えばハニカム基材の材料にセピオライトだけでなく、活性炭も混合させ、活性炭の吸着作用を脱臭に利用するなど、種々の工夫を施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態における脱臭材を示す模式図
【図2】本発明の実施形態における脱臭材の通気路の断面を示す模式図
【図3】試料1〜3による硫化水素の除去率の経時変化を示す図
【図4】試料1〜3によるメチルメルカプタンの除去率の経時変化を示す図
【符号の説明】
【0043】
1…脱臭材
2…通気路
3…基材
4…バインダ層
5…二酸化マンガン
6…酸化銅
7…シリカ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に含まれる臭気物質を分解することで脱臭を行う脱臭材において、基材の表面に有機バインダからなるバインダ層を介して担持された二酸化マンガン、銅酸化物及び鉄酸化物のうち少なくとも1種類からなる金属酸化物と、を備え、前記金属酸化物は前記バインダ層から突出して担持されるとともに、前記金属酸化物及びバインダ層の表面を被覆するシリカ粒子を有し、前記金属酸化物の表面に被覆された該シリカ粒子は粒子間に空隙を形成していることを特徴とする脱臭材。
【請求項2】
前記有機バインダはカルボキシメチルセルロースからなり、前記基材が臭気物質を捕捉する吸着剤を含むことを特徴とする脱臭材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−259545(P2008−259545A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102335(P2007−102335)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】