説明

脱酸素剤、脱酸素剤中間体、脱酸素剤複合体及びその製造方法

【課題】素早い時間で高い脱酸素性能が得られる脱酸素剤を提供すること。
【解決手段】本発明の脱酸素剤は、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませたものである。本発明の脱酸素剤は、前記電解質を0.1〜10質量%含み且つ含水率が5〜70質量%である。前記繊維状物のCSFは、600ml以下であることが好ましい。前記被酸化性金属の有効反応率が75%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の酸素と被酸化性金属との酸化反応を利用した脱酸素剤、脱酸素剤中間体、脱酸素剤複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素と被酸化性金属粉体との酸化反応を利用した脱酸素剤に関する従来技術としては、例えば、下記特許文献1に記載の技術が知られている。
【0003】
この技術は、繊維状物質、鉄粉、水及び電解質からなる混合物を抄紙によりシート状に成形し、そのガーレ式透気度を50000秒/100ml以下としたものである。
【0004】
ところで、この技術で製造された脱酸素剤は、繊維状物質、鉄粉、水及び電解質からなる混合物を抄紙してシート状に成形している。酸化反応助剤となる電解質がスラリー中に添加されているために、スラリーの調製中、供給中及び或いはシート成形中から鉄粉の酸化反応が起こり、得られる脱酸素剤の性能が低下するほか、特に前記スラリーを供給中、時間の経過とともに鉄粉の酸化反応が進み、得られる脱酸素剤の脱酸素性能が時間の経過とともに低下し、一定の性能が得られないなどの問題があった。従って、脱酸素剤の品質保証上、最低限必要とされる脱酸素性能を保証するために、多量の脱酸素剤が必要であった。さらに製造機械に錆を生じ易くなる問題があった。また、得られたシートも酸化が進行するために保存安定性に課題があった。さらに、脱酸素剤の適用分野によっては、素早い時間で高い脱酸素性能が得られる脱酸素性能が望まれている分野もあり、それに対応できる脱酸素剤が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−234544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、素早い時間で高い脱酸素性能が得られる脱酸素剤、脱酸素剤中間体、脱酸素剤複合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませた脱酸素剤であって、前記電解質を0.1〜10質量%含み且つ含水率が5〜70質量%である脱酸素剤を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の脱酸素剤に使用する脱酸素剤中間体であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、前記本発明の脱酸素剤に機能層が設けられている脱酸素剤複合体を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記本発明の脱酸素剤の製造方法であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませる脱酸素剤の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記本発明の脱酸素剤複合体の製造方法であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、前記機能層を設けた後、酸化反応助剤となる電解質を含ませる脱酸素剤複合体の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記本発明の脱酸素剤複合体の製造方法であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませて脱酸素剤を製造した後、該脱酸素剤に前記機能層を設けた脱酸素剤複合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の脱酸素剤によれば、素早い時間で高い脱酸素性能が得られる。また、本発明の脱酸素剤複合体によれば、上記脱酸素剤の有する脱酸素性能に機能層の有する種々の機能を付与することができる。本発明の脱酸素剤及び脱酸素剤複合体の製造方法は、酸化反応助剤となる電解質を含まず、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物からなるスラリーを調製し製造を行うことで、スラリー調製中、供給中及び或いは成形中の被酸化性金属の酸化による脱酸素性能の劣化を最小限に抑えることができ、上記脱酸素剤及び脱酸素剤複合体を好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
【0015】
本発明の脱酸素剤は、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませたものである。本実施形態の脱酸素剤は、脱酸素剤自身の有する水分で被酸化性金属の酸化反応が生じるいわゆる自力反応型の脱酸素剤である。
【0016】
前記脱酸素剤は、前記電解質を0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8質量%、より好ましくは0.3〜6質量%含み、且つ含水率が5〜70質量%、好ましくは7〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
脱酸素剤に含まれる電解質量及び脱酸素剤の含水率が斯かる範囲であると、酸化反応を持続するために必要な水分を十分確保でき、酸化反応が十分に進行する。また、該脱酸素剤に均一に水分を供給することができるため、均一な脱酸素性能を得ることができるとともに脱酸素剤の通気性を損なわないため、素早い時間で高い脱酸素性能が得られる。
【0017】
前記電解質には、従来からこの種の脱酸素剤に通常用いられている電解質を特に制限なく用いることができる。該電解質としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属若しくは重金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。そしてこれらの中でも、導電性、化学的安定性、生産コストに優れる点から塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、第一塩化鉄、第二塩化鉄等の各種塩化物が好ましく用いられる。これらの電解質は、単独で又は二以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
前記被酸化性金属には、従来からこの種の脱酸素剤に通常用いられている被酸化性金属を特に制限無く用いることができる。該被酸化性金属の形態は、取り扱い性、成形性等の観点から粉体、繊維状の形態を有するものを用いることが好ましい。
粉体の形態を有する被酸化性金属としては、例えば、鉄粉、アルミニウム粉、亜鉛粉、マンガン粉、マグネシウム粉、カルシウム粉等が挙げられ、これらの中でも取り扱い性、安全性、製造コストの点から鉄粉が好ましく用いられる。該被酸化性金属には、後述の繊維状物への定着性、反応のコントロールが良好なことから粒径(以下、粒径というときには、粉体の形態における最大長さ、又は動的光散乱法、レーザー回折法等により測定される平均粒径をいう。)が0.1〜300μmのものを用いることが好ましく、粒径が0.1〜150μmものを50質量%以上含有するものを用いることがより好ましい。
また、繊維状の形態を有する被酸化性金属としては、スチール繊維、アルミ繊維、マグネシウム繊維等が挙げられる。これらのなかでも取り扱い性、安全性、製造コストの点からスチール繊維、アルミ繊維等が好ましく用いられる。繊維状の形態を有する被酸化性金属は、成形性や得られる脱酸素剤の機械的強度、表面の平滑性、脱酸素性能の点から繊維長0.1〜50mm、太さ1〜1000μmのものを用いることが好ましい。
【0019】
前記脱酸素剤中の前記被酸化性金属は、有効反応率が75%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。有効反応率が斯かる範囲であると、脱酸素剤製造時のスラリー調製中及び抄造中から被酸化性金属の酸化反応が抑制されているため、包装仕様上必要な脱酸素能力を得るための脱酸素剤を小型・軽量化できるほか、脱酸素剤の原料コストを安くすることができる。ここで有効反応率(%)は、下記式1で表される脱酸素剤中における脱酸素に有効な被酸化性金属の割合を、下記式2で表される原材料段階における被酸化性金属の割合で除した下記式3で求められる値である。なお、該有効反応率の上限値は100%である。
【0020】
脱酸素に有効な被酸化性金属の質量/脱酸素剤の質量=A・・・式1
原材料段階における被酸化性金属の質量/脱酸素剤の質量=B・・・式2
脱酸素剤の有効反応率(%)=(A/B)×100・・・式3
ここで、脱酸素剤の質量は脱酸素剤を窒素雰囲気中で100℃付近まで加熱して、水分を蒸発させた絶乾質量を用いるが、水分を含んだ状態での質量のままでも良い。ただし、式1と式2での脱酸素剤の水分の状態を合わせておく必要がある。
また、上記の包装仕様とは、例えば食品等とともに本願の脱酸素剤をパウチ等の袋に充填して製造された製品の厚みや重量が、脱酸素剤の為に厚すぎたり重過ぎたりすることなく性能を発揮できる、食品保存の為に必要な脱酸素能力のことである。
【0021】
以下に被酸化性金属に鉄粉、保水剤に活性炭、繊維状物に木材パルプを用いた脱酸素剤を例に、熱重量測定法(Thermogravimetry、略称TG)と振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer、略称VSM)を用いて有効反応率を求める方法について説明する。
【0022】
熱重量測定法により、原材料段階での鉄粉の質量比率を求めることができる。脱酸素剤から試料を作成し、この試料をサンプル容器に入れ窒素雰囲気中で室温から徐々に温度を上げていくと、100℃付近で脱酸素剤に含まれていた水分が蒸発し、350℃付近で急激に質量が減少する。この質量減少分は木材パルプ中に含まれるセルロース分解量である。さらに温度を上げて550℃から空気を導入し、1000℃まで加熱すると活性炭及び木材パルプが燃焼し、最終的には酸化鉄と木材パルプに由来する灰分のみサンプル容器に残留する。木材パルプに由来する灰分は木材パルプ単体で熱重量測定法を用いることにより求めることができる。上記、脱酸素剤の場合と同様に加熱することにより、セルロース分解量と木材パルプ由来の灰分の関係を求めることができる。よって酸化鉄の質量はサンプル容器残留分から、セルロース分解量から算出した木材パルプ由来の灰分を引いたものになる。
【0023】
この酸化鉄の質量を元に試料中に含まれていた鉄粉の質量を求めることができる。酸化鉄の質量から原材料の鉄粉の質量を求めるための補正係数は一般的には鉄の酸化反応式より、補正係数が得られるが、通常、原材料メーカーから供給される鉄粉は純鉄100%ではないので、補正係数は実験的に求める。鉄粉の試料をサンプル容器に入れ、600℃まで窒素雰囲気中で絶乾させた後、空気を加えて1000℃まで加熱し、酸化鉄を生成させる。この生成させた酸化鉄の質量と原料の鉄粉の質量との関係から補正係数を求めることができる。この実験によって得られた補正係数を用いて酸化鉄の質量から鉄粉の質量を求めることができ、試料の質量との割合から原材料段階での鉄粉の質量比率(式5)を求めることができる。
【0024】
次に振動試料型磁力計を用いて脱酸素剤中の脱酸素に有効な鉄粉の質量を求める方法について説明する。鉄粉を試料として振動試料型磁力計を用いて外部磁場を印加すると鉄粉が磁化される。鉄粉の磁化量は外部磁場が大きくなると飽和し、この飽和磁化量は鉄粉の試料の質量に比例する。また、この鉄粉の試料に酸素を吸収させると鉄粉が失活(脱酸素
能力を失うこと)していき、飽和磁化量は脱酸素に有効な鉄粉に比例して減少していき、
鉄粉がすべて酸化鉄に変化して脱酸素能力が無くなると飽和磁化量もほとんどゼロになる。よって脱酸素剤の試料の飽和磁化量を測定することにより、脱酸素剤の試料中に含まれる脱酸素に有効な鉄粉の質量を求めることができる。脱酸素に有効な鉄粉の質量を試料の質量で割ると脱酸素剤中における酸素吸収に有効な鉄粉の割合を求めることができる(式4)。脱酸素剤の試料の有効反応率は、下記式4で表される脱酸素剤中における脱酸素に有効な鉄粉の割合を、下記式5で表される原材料段階における鉄粉の割合で除した下記式6で求められる値である。
【0025】
脱酸素に有効な鉄粉の質量/脱酸素剤の試料質量=C・・・式4
原材料段階での鉄粉の質量/脱酸素剤の試料質量=D・・・式5
脱酸素剤の有効反応率(%)=(C/D)×100・・・式6
【0026】
前記脱酸素剤中間体中の前記被酸化性金属の配合量は、10〜98質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましい。被酸化性金属の配合量が斯かる範囲であると、所望の脱酸素性能が得られる。また、前記脱酸素剤中間体を構成する後述の繊維状物、接着成分(凝集剤等)の増加を抑えることができ、硬くならず使用感に優れる。また、得られる脱酸素剤中間体を脱酸素剤としたときに、その表面に被酸化性金属等の酸化皮膜が形成されても通気性が損なわれることがなく、その結果脱酸素剤の内部まで反応が起こり易くなって高い脱酸素性能が得られる。また、酸化反応によって被酸化性金属が膨張・凝結して硬くなり過ぎることがない。また、保水剤による水分供給が十分得られるし、被酸化性金属の脱落も抑えることができる。また、脱酸素剤中間体を形成する後述の繊維状物、接着成分が十分含まれることとなるため、曲げ強度や引張強度等の機械的強度の低下を抑えることができる。ここで、脱酸素剤中間体中の被酸化性金属の配合量は、JIS P8128に準じる灰分試験や前記熱重量測定法で求めることができる。また、例えば、鉄の場合は外部磁場を印加すると磁化が生じる性質を利用して前記振動試料型磁力計を用いて試料型磁化測定試験等により定量することができる。
【0027】
前記保水剤には、従来から脱酸素剤に通常用いられている保水剤を特に制限無く用いることができる。該保水剤は、水分保持剤として働く他に、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能も有している。該保水剤としては、例えば、活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ、カンクリナイト、フローライト等が挙げられ、これらの中でも保水能、酸素供給能、触媒能を有する点から活性炭が好ましく用いられる。該保水剤には、被酸化性金属との有効な接触状態を形成できる点から粒径が0.1〜500μmの粉体状のものを用いることが好ましく、0.1〜200μmのものを50質量%以上含有するものを用いることがより好ましい。保水剤には、上述のような粉体状以外の形態のものを用いることもでき、例えば、活性炭繊維等の繊維状の形態のものを用いることもできる。
【0028】
前記脱酸素剤中間体中の前記保水剤の配合量は、0.5〜60質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましい。保水剤の配合量が斯かる範囲であると、所望の脱酸素効果を得るための被酸化性金属の酸化反応に必要な水分を脱酸素剤中に蓄積できる。また、脱酸素剤中間体の通気性が損なわれず、酸素供給が良好で脱酸素効率に優れる。また、保水剤の脱落の発生も抑えられる。また、脱酸素剤中間体を構成する後述の繊維状物や接着成分が少なくならず、曲げ強度や引張強度等の機械的強度も保たれる。
【0029】
前記繊維状物としては、例えば、天然繊維状物としては植物繊維(コットン、カボック、木材パルプ、非木材パルプ、落花生たんぱく繊維、とうもろこしたんぱく繊維、大豆たんぱく繊維、マンナン繊維、ゴム繊維、麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、椰子、いぐさ、麦わら等)、動物繊維(羊毛、やぎ毛、モヘア、カシミア、アルカパ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ、シルク、羽毛、ダウン、フェザー、アルギン繊維、キチン繊維、ガゼイン繊維等)、鉱物繊維(石綿等)が挙げられ、合成繊維状物としては、例えば、半合成繊維(アセテート、トリアセテート、酸化アセテート、プロミックス、塩化ゴム、塩酸ゴム等)、金属繊維、炭素繊維、無機繊維(例えばガラス繊維、セラミック繊維等)等が挙げられる。また、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、デンプン、ポリビニルアルコール若しくはポリ酢酸ビニル又はこれらの共重合体若しくは変性体等の単繊維、又はこれらの樹脂成分を鞘部に有する芯鞘構造の複合繊維を用いることができる。そしてこれらの中でも、繊維どうしの接着強度が高く、繊維どうしの融着による三次元の網目構造を作り易すく、パルプ繊維の発火点よりも融点が低い点からポリオレフィン、変性ポリエステルが好ましく用いられる。また、枝分かれを有するポリオレフィン等の合成繊維も被酸化性金属や保水剤との定着性が良好なことから好ましく用いられる。これらの繊維は、単独で又は二以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの繊維は、その回収再利用品を用いることもできる。そして、これらの中でも、前記被酸化性金属、前記保水剤の定着性、得られる抄造体の柔軟性、空隙の存在からくる酸素透過性、製造コスト等の点から、木材パルプ、コットンが好ましく用いられる。
【0030】
前記繊維状物は、そのカナディアン・スタンダード・フリーネス(CSF:Canadian Standard Freeness)が、600ml以下であることが好ましく、450ml以下であることがより好ましい。CSFが600ml以下であると、繊維状物と被酸化性金属や保水剤等の成分との定着性が良好であり、所定の配合量を保持できて得られる脱酸素剤が脱酸素性能に優れるものとなる。また、均一な厚みの脱酸素剤中間体が得られる等、成形性も良好となる。また、繊維状物と該成分との定着が良好であるため、該成分の脱落、該成分と該繊維状物との絡み合い、水素結合に由来する結合強度が得られる。このため、曲げ強度や引張強度等の機械的強度が保たれ、加工性も良好となる。
前記繊維状物のCSFは、低い程好ましいが、通常のパルプ繊維のみの抄紙では、繊維状物以外の成分比率が低い場合、CSFが100ml未満であると濾水性が非常に悪く、脱水が困難となって均一な厚みの抄造体が得られなかったり、乾燥時にブリスター破れが生じたりする等の成形不良となったりする。一方、本発明においては、繊維状物以外の成分比率が高いことから、CSFが100ml未満であっても濾水性も良好で均一な厚みの脱酸素剤中間体を得ることができる。また、CSFが低い程、フィブリルが多くなるため、繊維状物と該繊維状物以外の成分との定着性が良好となり、高い強度の脱酸素剤中間体を得ることができる。
繊維状物のCSFの調整は、叩解処理などによって行うことができる。CSFの低い繊維と高い繊維とを混ぜ合わせ、CSFの調整を行っても良い。なお、CSFはJIS P8121(パルプのろ水度試験方法)に示す方法で測定することにより得ることができ、0以上の値を示す繊維状物の水切れの程度を表す指標である。
【0031】
前記繊維状物は、その表面電荷がマイナス(負)であることが好ましい。表面電荷がマイナスに強く帯電するに従い、繊維状物への被酸化性金属や保水剤等の粉体成分の定着性が良好であり、粉体の保持性が高くなり、得られる脱酸素剤の脱酸素性能がより高められる。また、湿式抄紙工程における排水に被酸化性金属や保水剤等の粉体成分が多量に混じることが抑えられ、生産性や環境保全に悪影響を及ぼすことがない。特に、得られる脱酸素剤中間体の歩留まりを一層高める点からは、前記繊維状物は、その電荷量が−2.5×10-6eq/g以下であることが好ましく、電荷量が−4.0×10-6eq/g以下がより好ましい。ここで、繊維状物の電荷量は、コロイド滴定により測定される。また、荷電粒子界面と溶液間のずり面における見掛けの電位であるゼータ電位においても同様であり、これは流動電位法や電気泳動法等により測定される。
【0032】
該繊維状物には、平均繊維長が0.1〜50mmのものを用いることが好ましく、0.2〜20mmのものを用いることがより好ましい。平均繊維長が斯かる範囲であると、得られる脱酸素剤中間体の十分な曲げ強度や引張強度等の機械的強度が得られる。また、紙層が密に形成され過ぎず、脱酸素剤中間体の通気性が損なわれないため、酸素供給が良好となって脱酸素性に優れる。また、脱酸素剤中間体中に該繊維状物が均一に分散し、一様な機械的強度が得られる。また、均一な肉厚の脱酸素剤中間体が得られ、繊維間隔が広くなりすぎず、繊維による前記被酸化性金属や保水剤等の成分の保持能力が得られるため、該成分の脱落が抑えられる。
【0033】
前記脱酸素剤中間体中の前記繊維状物の配合量は、2〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。該配合量が斯かる範囲内であると、被酸化性金属、保水剤の脱落防止効果が得られる。また、脱酸素剤中間体も柔軟なものとなる。また、得られる脱酸素剤中間体中の前記被酸化性金属や保水剤等の成分の比率が低くならず、所望の脱酸素性能が得られる。
【0034】
ここで、各成分の組成比は、例えば熱重量測定法により繊維状物の含有量と被酸化性物質の含有量を求め、これらを総量から差し引いて保水剤の含有量を求めることによって得ることができる。
【0035】
前記脱酸素剤中間体は、前記繊維状物以外の成分を50質量%以上含んでいることが好ましく、70質量%以上含んでいることがより好ましく、80質量%以上含んでいることがさらに好ましい。繊維状物以外の成分が50質量%以上であると、脱酸素性能が良好となる。繊維状物以外の成分は多い程好ましいが、脱酸素剤中間体の加工性を維持するのに必要な強度を得る点から、その上限は、98質量%程度とすることが好ましい。
【0036】
前記脱酸素剤中間体には、後述するように凝集剤が添加されていてもよい。
また、前記脱酸素剤中間体には、必要に応じ、サイズ剤、着色剤、紙力増強剤、歩留向上剤、填料、増粘剤、pHコントロール剤、嵩高剤等の抄紙の際に通常用いられる添加物を特に制限無く添加することができる。該添加物の添加量は、添加する添加物に応じて適宜設定することができる。
【0037】
脱酸素剤を電子レンジ等のマイクロ波加熱装置で使用可能とするためには、例えば、耐磁性の高い珪素、アルミナ等の繊維状物又は粉体を脱酸素剤中間体に添加するのが好ましい。また、製品の外観上、着色が必要な場合には、酸化チタンや炭酸カルシウム、アルミナホワイト等の着色粉体を添加してもよい。さらに酸化反応促進や柔軟性の向上のために、フローライト、イソライト、タルク等の粉体や前記セラミック繊維や合成繊維を添加することもできる。
【0038】
前記脱酸素剤中間体をシート状の形態に形成した場合には、その1枚の厚みは0.08〜1.2mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがより好ましい。厚みが0.08mm以上であると脱酸素性能、機械的強度、前記被酸化性金属や保水剤等の成分の定着性も良好であり、安定した均一の肉厚、組成分布が得ることができる。また、ピンホールの発生等によるシートの破壊等が発生し難く、生産性及び加工性に支障を来すことがない。該厚みが1.2mm以内であると、脱酸素剤中間体の折曲強度の低下も抑えられる。また、脆性破壊を起こし難く、柔らかいシートが得られる。また、生産性においても、紙層形成時間や乾燥時間を短くできて、操業性に優れる。また、脱酸素性能も良好である。また、割れや折れも起こり難いため、加工性に優れる。
【0039】
前記脱酸素剤中間体をシート状の形態に形成した場合には、その1枚の坪量は10〜1000g/m2であることが好ましく、50〜600g/m2であることがより好ましい。該坪量が10g/m2以上であると被酸化性金属等の中でも比重の大きなものを使用する場合等において、特に安定したシートを形成することができる。該坪量が1000g/m2以内であると軽くて使用感も良好である。また、生産性や操業性等も良好となる。
【0040】
前記脱酸素剤中間体をシート状の形態に形成した場合には、その1枚の裂断長は100〜4000mであることが好ましく、200〜3000mであることがより好ましい。該裂断長が100m以上であると、操業時にシートの破断や切断が生じることがなく安定的にシートを形成できる。また、加工時にも同様の理由によって製品加工が良好に行える。また、使用時においても、適度に腰があって使用感に優れる。該裂断長が4000m以内であると、シートを形成する繊維状物、接着成分が多くなりすぎず、柔軟で脱酸素性能に優れるものとなる。ここで、裂断長は、シートから長さ150mm×幅15mmの試験片を切り出した後、JIS P8113に準じ、該試験片をチャック間隔100mmで引っ張り試験機に装着し、引っ張り速度20mm/minで引っ張り試験を行い、下記計算式により算出される値である。
裂断長〔m〕=(1/9.8)×(引張強さ〔N/m〕)×106/(試験片坪量〔g/m2〕)
【0041】
前記脱酸素剤中間体は、脱酸素反応を良好に進行させる点や該能力の向上、また、電解液を添加する際により均一に電解液を含ませることができる点等を考慮すると、坪量100g/m2当たりの透気度が0.1〜1000秒/(6.4cm2・300ml)であることが好ましく、0.1〜500秒/(6.4cm2・300ml)であることがより好ましい。
【0042】
前記脱酸素剤の厚みは、用途、形態(例えば、前記脱酸素剤中間体がシート状の場合には、複数枚重ねて使用する場合等)に応じて適宜設定される。加工性ならびに包装仕様等を考慮すると、0.08〜20mmが好ましく、0.1〜10mmがより好ましい。
【0043】
次に、本発明の脱酸素剤複合体の好ましい実施形態について説明する。
本発明の脱酸素剤複合体は、前記本発明の脱酸素剤に機能層が設けられたものである。
【0044】
前記機能層は、前記脱酸素剤の固形成分の脱落防止、隠蔽、消臭、耐磁、水分バリア若しくは油分バリアの機能又はこれらの機能が複数組み合わされた機能を有している。
【0045】
脱酸素剤の固形成分の脱落防止機能を有する機能層は、脱酸素剤の脱酸素性能を発現させるための通気性は有するが、脱酸素剤に含有されている前記固形成分の脱落による汚染を防ぐものである。斯かる機能を有する機能層は、紙、不織布、有孔樹脂フィルム若しくはこれらの組み合わせた機能層用基材、又は該脱酸素剤に樹脂組成物を塗工し乾燥することによって設けることができる。前記紙としては、紙パルプ、合成パルプまたはそれらの混合物等を湿式および乾式等の製法で製造されたものが好ましい。前記不織布としては、湿式、乾式、スパンボンド等の製法で製造されたものを用いることができる。不織布の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリフッ化オレフィン等の熱可塑性樹脂の繊維からなるものが好ましい。前記有孔樹脂フィルムとしては、不織布の材質と同様に、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリフッ化オレフィン等の熱可塑性樹脂が好ましい。有孔樹脂フィルムには、多数の孔を形成するために前記熱可塑性樹脂に水に不溶又は難溶性の無機又は有機のフィラーが含まれているものが用いられる。該フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、チタン白硫酸バリウム、ゼオライト、珪藻土、活性白土、酸性白土、タルク、ベントナイト、酸化鉄等が好適に用いられる。フィラーの粒度は、細かいほど好ましいが、0.01〜100μm、特に0.1〜50μmが好ましい。前記樹脂組成物としては、澱粉、カルボキシメチルセルロース、グアーガム等の天然樹脂組成物、ポリビニルアルコール系、変性セルロース系、塩化ビニル系、アクリル系、シリコーン系、シリコーンアクリル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、フェノール系、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン系等の合成樹脂の単体若しくは共重合体又はこれらの混合物からなる樹脂組成物が挙げられる。
【0046】
脱酸素剤の隠蔽機能を有する機能層は、脱酸素剤の脱酸素性能を発現させるための通気性は有するが、脱酸素剤の有する色が外部から視認できないように隠蔽するものである。斯かる機能を有する機能層は、白色若しくは有色の顔料を含む、紙、不織布、有孔樹脂フィルム若しくはこれらの組み合わせた機能層用基材、又は該顔料を含む樹脂エマルジョンを塗工し乾燥した層によって設けることができる。顔料としては、白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、アルミナシリケート、クレー、石膏、アルミナホワイト等が挙げられる。有色顔料としては、カーボンブラック、ベンガラ、モリブデートオレンジ、群青等の無機顔料、アゾ系、イソインドリノン系、フタロシアノニン系、キナクリドン系の有機顔料が挙げられる。顔料を含ませた層の外表面側にさらに顔料を含まない無着層を設けて衝撃性や強度、ヒートシール性やタック性を高めることもできる。遮蔽機能を有する機能層に用いられるこれらの紙、不織布、有孔樹脂フィルム及び樹脂エマルジョンには、上記固形成分の脱落防止機能を有する機能層と同様の材質を適宜選択することができる。
【0047】
脱酸素剤の消臭機能を有する機能層は、脱酸素性能を発現させるための通気性は有するが、脱酸素剤から発せられる臭い成分を吸着若しくは分解して消臭するものである。斯かる機能を有する機能層は、消臭剤を含む、紙、不織布、有孔樹脂フィルム若しくはこれらの組み合わせた層、又は樹脂エマルジョンの塗工層によって設けることができる。消臭機能を有する機能層に用いられるこれらの紙、不織布、有孔樹脂フィルム及び樹脂エマルジョンには、上記固形成分の脱落防止機能を有する機能層と同様の材質を適宜選択することができる。消臭剤としては、各種活性炭、珪藻土、各種アルミノ珪酸塩、活性アルミナ、酸化チタン等が挙げられる。活性炭には、前記保水剤に用いられる材質ものを用いることができる。また、活性炭は、含水率が10%以下(JIS K1470)のドライ炭が好ましい。酸添着又はアルカリ添着等の処理を施したものを用いることもできる。アルミノ珪酸塩としては、各種の天然若しくは合成ゼオライトのようなテクト珪酸塩、天然若しくは合成のフィロ珪酸塩を用いることができる。フィロ珪酸塩としては、フィロ珪酸マグネシウム、フィロ珪酸亜鉛、ベントナイト、活性白土、酸性白土等が挙げられる。消臭剤は、基材への分散性等を考慮すると、0.01〜100μm、特に0.1〜50μmの粒径を有するものが好ましい。また、吸着により消臭を発揮する消臭剤は、比表面積が50〜5000m2/gのもの、特に100〜4000m2/gのものが好ましい。
【0048】
脱酸素剤の耐磁機能を有する機能層は、珪素、アルミナ等の耐磁性の繊維状物又は粉体を樹脂中に分散したものや該粉体が繊維状物に担持されたもの等が好適に用いられる。
【0049】
脱酸素剤の水分バリア機能、油分バリア機能を有する機能層は、例えばレトルト食品のような水分の多い食品の保存に脱酸素剤を使用した場合に起こり得る脱酸素剤による食品の汚染防止や食品からの水分による脱酸素剤の汚染防止を行うものである。該水分バリア機能等を有する機能層は、熱可塑性樹脂フィルムでできたものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリフッ化オレフィンなどが好適に用いられる。また熱可塑性樹脂には水難溶性フィラーを含有していてもよい。水難溶性フィラーとは、水に不溶若しくは難溶性の無機物又は有機物である。水難溶性フィラーとしては、たとえばシリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、チタン白硫酸バリウム、ゼオライト、珪藻土、活性白土、酸性白土、タルク、ベントナイト、酸化鉄等が好適に用いられる。なお、当該水分バリア機能等を有する機能層は耐水性、耐油性を有する紙パルプ、合成パルプ、合成繊維またはそれらの混合物等を湿式および乾式等の製法で製造されたものを用いることもできる。
【0050】
前記機能層の厚みは、その有する機能、脱酸素剤複合体の形態に応じて適宜設定される。 加工性、包装仕様等を考慮すると、1〜10000μmが好ましく、10〜1000μmがより好ましい。
【0051】
前記機能層は、前記脱酸素剤の表面に部分的に設けられていてもよく、全面に設けられていてもよい。前記機能層は、後述するように、脱酸素剤の表面に積層、塗工又は含浸によって設けることができる。機能層を積層によって設ける場合には、後述するように、接着層を介して脱酸素剤に積層することが好ましい。
【0052】
前記接着層は、脱酸素剤の脱酸素性能に特に悪影響を及ぼさずに脱酸素剤と機能層とを接着できるものであれば材質、形態に特に制限はないが、通気性を有していることが好ましい。このような通気性を有する接着剤層は、粘着剤や接着剤を筋状、網目状等のパターンで脱酸素剤又は機能層の一方又は両方に塗工してそれらを積層する方法、樹脂繊維、有孔樹脂フィルムの熱溶融性の樹脂材を脱酸素剤又は機能層の一方又は両方に配して熱ラミネートする方法、或いは、熱溶融性の樹脂を脱酸素剤又は機能層の一方又は両方に配して該樹脂を筋状に押し出してこれらをラミネートする方法によって設けることができる。前記粘着剤としては、ウレタン系やアクリル系の粘着剤が好ましい。前記接着剤としては、ホットメルト接着剤やドライラミネーション用の接着剤が好ましい。前記熱溶融性の樹脂材を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。
【0053】
前記脱酸素剤複合体の厚みは、その形態に応じて適宜設定される。加工性や包装仕様を考慮すると、0.08〜30mmが好ましく、0.5〜20mmがより好ましい。
【0054】
次に、本発明の脱酸素剤及び脱酸素剤複合体の製造方法をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
先ず、前記被酸化性金属、前記保水剤、前記繊維状物、及び水を含む原料組成物(スラリー)を調製する。
【0055】
前記原料組成物には、前記凝集剤を添加することが好ましい。
該凝集剤としては、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄等の金属塩からなる無機凝集剤;ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ナトリウム系、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物、ポリ(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル系、カルボキシメチルセルロースナトリウム系、キトサン系、デンプン系、ポリアミドエピクロヒドリン系等の高分子凝集剤;ジメチルジアリルアンモニウムクロライド系若しくはエチレンイミン系のアルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンの縮合物、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物等の有機凝結剤;モンモリロナイト、ベントナイト等の粘土鉱物;コロイダルシリカ等の二酸化珪素若しくはその水和物;タルク等の含水ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。そして、これら凝集剤の中でもシートの表面性、地合い形成、成形性の向上、前記被酸化性金属や保水剤等の成分の定着率、紙力向上の点からアニオン性のコロイダルシリカやベントナイト等とカチオン性のデンプンやポリアクリルアミド等の併用やアニオン性のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とカチオン性のポリアミドエピクロルヒドリン系のカチオン性とアニオン性の薬剤の併用が特に好ましい。上述の組み合わせ以外でも、これらの凝集剤は単独で又は二以上を併用することもできる。
【0056】
前記凝集剤の添加量は、原料組成物の固形分に対して、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜3質量%であることがより好ましい。該添加量が斯かる範囲であると、凝集効果が得られ、抄紙時の前記被酸化性金属や保水剤等の成分の脱落が抑えられる。また、原料組成物が均一になり、肉厚及び組成の均一な抄造体を得ることができる。また、乾燥時に乾燥手段への貼りつき、破れ、焼け、焦げを発生させることもなく、生産性に悪影響を及ぼすこともない。また、原料組成物の電位バランスが保たれ、抄紙時の白水への該成分の脱落量が抑えられる。また、抄造体の酸化反応が進行し、脱酸素特性や強度等の保存安定性が低下する。
【0057】
原料組成物の濃度は、0.05〜15質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。斯かる濃度であると、大量の水を必要とせず、抄造体の成形に時間を要しない。また、原料組成物が均一に分散されるため、得られる抄造体の表面性が良好であり、均一な厚みの抄造体が得られる。
【0058】
次に、前記原料組成物を抄造して抄造体を抄造する。
前記抄造体をシート状の形態に抄造する場合の抄造方法には、例えば、連続抄紙式である円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などを用いた抄紙方法、バッチ方式の抄紙方法である手漉法等が挙げられる。更に、前記原料組成物と、該原料組成物と異なる組成の組成物とを用いた多層抄き合わせによって抄造体を成形することもできる。また、前記原料組成物を抄紙して得られたシートどうしを多層に貼り合わせたり、該シートに該原料組成物と異なる組成を有する組成物から得られたシート状物を貼り合わせることによって、多層のシートを成形することもできる。抄造体をシート状の形態以外に抄造する場合には、従来からパルプモールド法において使用されている湿式抄造方法によって、立体形状を賦形することができる。
【0059】
前記抄造体は、抄紙後における形態を保つ(保形性)点や、機械的強度を維持する点から、含水率(質量含水率、以下同じ。)が70%以下となるまで脱水させることが好ましく、60%以下となるまで脱水させることがより好ましい。抄造後の抄造体の脱水方法は、例えば、吸引による脱水のほか、加圧空気を吹き付けて脱水する方法、加圧ロールや加圧板で加圧して脱水する方法等が挙げられる。
【0060】
本実施形態においては、前記被酸化性金属を含有する抄造体を、積極的に乾燥させて水分を分離することにより、製造工程中における被酸化性金属の酸化抑制、長期の保存安定性に優れた脱酸素剤中間体を得ることが可能となる。さらに、乾燥後の前記繊維状物への被酸化性金属の担持力を高めてその脱落を抑える点に加え、熱溶融成分、熱架橋成分の添加による機械的強度の向上が期待できる点から、前記抄造体の抄造後で前記電解質を含有させる前に該抄造体を乾燥させることが好ましい。ここで乾燥手段として、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等、適宜使用することができる。
【0061】
前記抄造体は加熱乾燥によって乾燥することが生産速度、設備費用等の点で好ましい。この場合、加熱乾燥温度は、60〜300℃であることが好ましく、80〜250℃であることがより好ましい。該乾燥温度が斯かる温度範囲であると、乾燥時間が長くなり過ぎず、水分の乾燥とともに、被酸化性金属の酸化反応が促進されることもない。このため、脱酸素剤の脱酸素性能の低下を引き起こすこともない。また、脱酸素剤中間体の表裏層のみ被酸化性金属の酸化反応が促進されることもなく、うす茶色への変色が抑えられる。また、保水剤等の性能劣化を招くことがなく、脱酸素剤の脱酸素効果の低下を抑えることができる。また、脱酸素剤中間体内部で急激に水分が気化して脱酸素剤中間体の構造が破壊されたりすることもない。
【0062】
乾燥後における脱酸素剤中間体の含水率は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。含水率が20%以下であると長期保存安定性に優れ、例えばシート状に形成し、巻きロール状態で一時保存しておく場合等該ロールの厚み方向で水分の移動が起こり難く、脱酸素性能や機械的強度の変化を抑えることができる。
【0063】
前記抄造体の乾燥方法は、抄造体の形態、乾燥前の抄造体の処理方法、乾燥前の含水率、乾燥後の含水率等に応じて適宜選択することができる。該乾燥方法としては、例えば、加熱構造体(発熱体)との接触、加熱空気や蒸気(過熱蒸気)の吹き付け、真空乾燥、電磁波加熱、通電加熱等の乾燥方法が挙げられる。また、前述の脱水方法と組み合わせて同時に実施することもできる。
【0064】
本実施形態においては、抄造体及び脱酸素剤中間体の成形は、上述のように抄造体及び脱酸素剤中間体に酸化反応助剤となる電解質を含有していないので、通常の空気雰囲気下で成形を行うことができる。このため、製造設備を簡略化することができる。また、必要に応じて、クレープ処理、スリット加工、トリミングを施したり、加工処理により形態を変更する等の加工を施すこともできる。得られた脱酸素剤中間体は、高い強度を有しているので、シート状の形態に形成した場合には、必要に応じ、ロール状に巻き取ることができる。また、脱酸素剤中間体をシート状の形態に形成した場合には、単独若しくは重ねて又は紙、布(織布又は不織布)、樹脂フィルム等の他のシートと重ねて、加圧したり、さらには加圧しエンボス加工やニードルパンチ加工を行うことにより、複数のシートを積層一体化させたり、凹凸状の賦型や孔あけを行うこともできる。また、前記原料組成物に熱可塑性樹脂成分や熱水溶解成分を含有させることにより、ヒートシール加工を施して貼り合わせ等を行い易くすることもできる。
【0065】
前記脱酸素剤中間体には前記機能層を設ける。機能層を設けない脱酸素剤単体の製造工程では、以下の機能層を設ける工程は行わず、後述するように脱酸素剤中間体に電解質を含有させる工程を行う。
【0066】
前記機能層は、脱酸素剤中間体の形態に応じて選択することができる。脱酸素剤中間体をシート状に形成する場合には、ラミネーション加工法、特にウェットラミネーション、ドライラミネーション、押出しラミネーションによって機能層を設けることが好ましい。ラミネーション加工法を採用することによって、脱酸素剤の基材となるシート状の脱酸素剤中間体の抄造工程に合わせて、ウェットラミネーション、ドライラミネーション、押出しラミネーションを選択してインラインで組み込んで、脱酸素剤の表面に必要に応じて接着剤を介して機能層を設けることができる。前述したような前記各機能層を設けるための樹脂組成物を脱酸素剤の表面に塗布、乾燥することによって機能層を設けることもできる。また、前述した樹脂組成物を含浸させることによって、脱酸素剤の表面および内部に機能層を設けることができる。この方法は、シート状以外の形態に脱酸素剤中間体を形成した場合に有効である。例えば、湿潤状態の抄造体又は乾燥状態の脱酸素剤中間体を押出成形、加圧成形、打錠成形等を用い、球状やヌードル状、繊維状等の形状に加工した後に樹脂組成物を含浸することもできる。前述のように前記機能層を設ける前に前記脱酸素剤中間体を加熱乾燥することが好ましいが、機能層を積層又は塗工して設けた後に、加熱乾燥を行うこともできる。
【0067】
次に、前記脱酸素剤中間体に前記電解質を含有させる。この電解質を含有させる工程は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましいが、後述のように電解質をその電解液の含浸により添加する場合には、添加直後の酸化反応がゆるやかなため、通常の空気雰囲気下で該電解質を含有させることもできる。
【0068】
前記脱酸素剤中間体へ前記電解質を含有させる方法は、抄造後における当該脱酸素剤中間体の処理方法、含水率、形態等に応じて適宜設定することができる。該電解質を含有させる方法としては、例えば、前記脱酸素剤中間体に、前記電解質の所定濃度の電解液を含浸させる方法、前記電解質の所定粒径のものを固体のまま添加して脱酸素剤中間体に含有させる方法等が挙げられ、これらの中でも、脱酸素剤中間体に電解質を均一に含有させることができる点、含水率の調整が同時に行える点から、所定濃度の電解液を含浸させる方法が好ましい。
【0069】
電解液は、水又は水とアルコールの混合液に電解質を電解させたものを用いることが好ましい。取り扱い性の点では水のみの電解液が好ましく、自力反応型の脱酸素性能をより高める上では水とアルコールの混合液が好ましい。水とアルコールの混合割合は、水/アルコール(質量比率)で、80〜10%/20〜90%が好ましく、70〜20%/30〜80%がより好ましい。
【0070】
上述のように前記電解質をその電解液で脱酸素剤中間体に含浸させる場合、その含浸方法は、脱酸素剤中間体の形態、含水率に応じて適宜選択することができる。該含浸方法には、該電解液を該脱酸素剤中間体にスプレー塗工する方法、該電解液をシリンジ等で該脱酸素剤中間体の一部分に注入し、前記繊維状物の毛管現象を利用して該脱酸素剤中間体に浸透させる方法、刷毛等で塗工する方法、該電解液に浸漬する方法、グラビアコート法、リバースコート法、ドクターブレード法等が挙げられ、これらの中でも、電解質を均一に分布でき、簡便で、設備コストも比較的少なくて済む点からスプレー塗工する方法が好ましい。また、複雑な形状、層構成の商品においては生産性が向上する点や、最終仕上げを別工程とできることにより生産のフレキシブル性が向上する点、設備が簡便となる点からは、所定濃度の電解液をシリンジ等で注入する方法が好ましい。この電解液を注入する方法は、該脱酸素剤中間体を例えば酸素透過性の収容体等に収容した後に行うこともできる。
【0071】
上述のように脱酸素剤中間体に電解質を含有させた後、必要に応じて含水率を調整し、安定化させて脱酸素剤とすることができる。そして必要に応じ、トリミング、シート状の形態の場合には二枚以上積層化等の処理を施し、所定の大きさに加工することができる。
【0072】
上述のようにして得られた脱酸素剤及び脱酸素剤複合体は、その表面を、酸素透過性を有する被覆層で被覆することが好ましい。該被覆層は、その全面に酸素透過性を有していてもよく、部分的に酸素透過性を有していてもよい。該被覆層には酸素透過性を有するものであればその材質に特に制限はない。該被覆層は、例えば、紙、不織布、多微孔質膜、微細な孔を設けた樹脂フィルム等を脱酸素剤の表面に積層して設けることができる。また、合成樹脂塗料やエマルション塗料等を脱酸素剤に含浸あるいは塗布させて設けることもできる。
【0073】
また、該被覆層の酸素透過性、水蒸気透過性により、脱酸素特性を任意に制御することもできる。酸素透過性の一つの指標としては、酸素透過係数等が用いられる。また水蒸気透過性の一つの指標としては、水蒸気透過係数等が用いられる。例えば、酸素透過係数や水蒸気透過係数の高い被覆層を選定することで、短時間で高い脱酸素特性を有する脱酸素剤を得ることができ、酸素透過係数や水蒸気透過係数の低い被覆層を選定することで、長時間に亘って脱酸素特性の緩やかな脱酸素剤を得ることができる。
【0074】
得られた脱酸素剤及び脱酸素剤複合体は、使用するまでに酸素と接触するのを避けるため、非酸素透過、非水分透過性の包装袋等に収容されて提供される。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の脱酸素剤及び脱酸素剤複合体は、素早い時間で高い脱酸素性能が得られる。また、高い強度を有し、薄くした場合には破れにくく、柔軟性を備えているので、加工性、生産性にも優れている。また、保持できる水分量を幅広く設定できるため、幅広い水分活性の物品にも適用することができる。また、被酸化性金属の含有率を上げたり、電解液の量や濃度を調整することによって、酸素吸収速度を速くすることができるため、フライドポテトやフライドチキンなどの含油性食品を含む含油性の物品の油の酸化劣化による当該物品の品質低下を防ぐことができる。
【0076】
また、上述のように、前記原料組成物中に酸化助剤となる電解質が含まれていないので、懸濁液中でのイオン濃度が低くなることによって、当該原料組成物中における被酸化性金属の分散性が良好となる。そして、原料組成物の調製中において被酸化性金属と繊維状物とを実質的に接触させることにより、繊維状物の表面に被酸化性金属が均一に定着され、得られる脱酸素剤の脱酸素特性が向上する。
例えば、酸化助剤となる電解質が配合された懸濁液中では、該系内の塩濃度が高くなることにより、前記被酸化性金属や前記保水剤等の成分並びに繊維状物の界面の電気二重層が圧縮されるため、該成分と繊維状物との接触が著しく阻害され、繊維状物の表面に該成分が定着することが困難となり、肉厚が薄く且つ該成分が多く充填されたシートを成形することが困難となる。また、上記のような塩濃度が高い系では、凝集剤による定着も同様の理由により非常に困難となり、得られる脱酸素剤の脱酸素特性は著しく劣るものとなる。また、水中の酸素と反応して酸化を引き起こし、脱酸素性能の低下を引き起こす場合がある。さらに、抄造体は、空気中の酸素と反応し易く、長期保存安定性に劣ったり、抄紙機等の成形機、加工機が錆び易くなる場合がある。
【0077】
さらに、電解質を含まない脱酸素剤中間体を予め乾燥成形するために、脱酸素剤中間体の強度を保つことができ、2次加工が容易になる他、裁断用の刃物の錆の発生や摩耗を抑制することができる。また、電解質の含浸においては、脱酸素剤に含有させる電解質量及び脱酸素剤の含水率を容易に制御することができるほか、ある任意の形状にパターン含浸を行うことにより、同一面上において反応する部分としない部分とに分けることができたり、製造工程中における被酸化性金属の酸化を極力抑えることができ、良好な脱酸素特性を有する脱酸素成形体を得ることができる。
【0078】
また、本実施形態の脱酸素剤複合体によれば、前記効果が奏される脱酸素剤に前記機能層の有する種々の機能を付与することができる。
【0079】
本発明は、前記実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0080】
上述の脱酸素剤複合体の製造方法では、脱酸素剤中間体の表面に前記機能層を設けた後に電解質を含ませたが、製造順序はこれに限定されるものではなく、脱酸素剤中間体に電解質を含ませて脱酸素剤を製造してから前記機能層を設けてもよい。また前述した様に、樹脂組成物を含浸することによって、脱酸素剤の表面および内部に機能層を設けることもできる。例えばポリビニルアルコール水溶液を脱酸素剤に含浸させた後に脱酸素剤を必要とする含水率まで加熱乾燥させるとともにポリビニルアルコールを架橋させることにより、脱酸素剤に含まれる鉄粉等の脱落を防ぐ機能をもたせることもできる。
【0081】
本発明の脱酸素剤及び脱酸素剤複合体は、切断する等して所定の形態に成形し、容器に収容物とともに収容して用いることが好ましいが、柔軟性を有しているため脱酸素剤又は脱酸素剤複合体で袋やパウチ等の容器を形成することもできるし、プレス成形して所望の立体形状を賦形して脱酸素機能を備えた容器とすることもできる。また、容器の基材シートに貼り合わせて板紙容器やパウチに成形して用いることもできるし、筒状やボトル状等の中空形状やカートン、トレイ形状等の容器形状といったシート状以外の形態に脱酸素剤中間体を抄造することによって、これらの容器に合わせた形態を有する脱酸素機能を備えた容器を製造することができる。
【0082】
また、本発明の脱酸素剤又は脱酸素剤複合体は製造後に押出成形、加圧成形、打錠成形等を用い、球状やヌードル状、繊維状等の形状に加工することもできる。
【0083】
本発明の脱酸素剤及び脱酸素剤複合体は、食品の鮮度維持、医療用器具等の酸化防止、金属の防錆、寝具、衣類、美術品等の防かび、防虫等の用途に適用することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
下記実施例1及び2、並びに比較例1及び2のようにして脱酸素剤を作製し、その脱酸素性能を調べた。表1に脱酸素剤の組成比率と坪量、表2に原料組成物中の固形分の配合比率と抄造歩留まり、表3に脱酸素剤中の鉄粉の有効反応率、VSMから求められた酸素吸収に寄与する有効鉄粉量及びTGから求められた固形分の組成比率をそれぞれ示した。
【0085】
〔実施例1〕
<原料組成物配合>
繊維状物:パルプ繊維(NBKP、製造者:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Mackenzie」、CSF150ml、)15質量%
被酸化性金属:鉄粉(同和鉄粉鉱業(株)製、商品名「RKH」)75質量%
保水剤:活性炭(日本エンバイロケミカル(株)製、商品名「カルボラフィン」)10質量%
凝集剤:上記原料組成物100質量部に対し、下記カチオン性凝集剤1.0質量部及び下記アニオン性凝集剤0.2質量部
カチオン性凝集剤:ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)製、商品名「WS4020」)
アニオン性凝集剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製、商品名HE1500F、エーテル化度1.45、粘度2500〜3500mPa・s)
水:工業用水、固形分濃度1.25質量%となるまで添加
【0086】
<原料調製条件>
実機による抄造プロセスを想定し、上記スラリーをJISパルパーを用い、JIS P8209に準じて攪拌を行い、支持目盛り1000でストップした。
【0087】
<抄造条件>
上記配合の原料組成物を用い、0.11質量%になるまで希釈し、JIS P8209に準じて幅250×250mmの角形シートマシーン(熊谷理機工業(株)製)を用いて、抄紙して湿潤状態のシート状の抄造体を作製した。
【0088】
<乾燥条件>
KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業(株)製)を用いて、含水率が1質量%以下となるように乾燥を行ってシート状の脱酸素剤中間体を得た。
【0089】
<電解液添加条件>
上記脱酸素剤中間体100質量部に対して下記電解液を55質量部添加して所望の脱酸素剤を得た。得られた脱酸素剤の含水率は表1に示すように35.1質量%であった。
【0090】
<電解液>
電解質:精製塩(NaCl)
水:工業用水
電解液濃度:1質量%
【0091】
【表1】

【0092】
〔実施例2〕
原料調製条件をJISパルパーを用いず、約15秒の手による攪拌で調製した以外は実施例1と同様に脱酸素剤を作製した。
【0093】
〔比較例1〕
<原料組成物配合>
繊維状物:パルプ繊維(NBKP、製造者:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Mackenzie」、CSF150ml、)17質量%
被酸化性金属:鉄粉(同和鉄粉鉱業(株)製、商品名「RKH」)83質量%
凝集剤:上記原料組成物100質量部に対し、下記カチオン性凝集剤1.0質量部及び下記アニオン性凝集剤0.2質量部
カチオン性凝集剤:ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)製、商品名「WS4020」)
アニオン性凝集剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製、商品名HE1500F、エーテル化度1.45、粘度2500〜3500mPa・s)
水:工業用水、固形分濃度1.25質量%となるまで添加
食塩:上記スラリー100質量部に対し、食塩を1.0質量部
【0094】
<原料調製条件>
実機による抄造プロセスを想定し、上記スラリーをJISパルパーを用い、JIS P8209に準じて攪拌を行い、支持目盛り1000でストップした。
【0095】
<抄造条件>
上記配合の原料組成物を用い、0.11質量%になるまで希釈し、JIS P8209に準じて幅250×250mmの角形シートマシーン(熊谷理機工業(株)製)を用いて、抄紙後、圧搾して湿潤状態のシート状の抄造体を作製した。また、希釈水は1質量%のNaCl水溶液を用いた。得られた脱酸素剤の含水率は表1に示すように34.7質量%であった。
【0096】
〔比較例2〕
三菱ガス化学(株)製、商品名エージレスSA(自力反応型、速効タイプ)を用いた。
【0097】
<脱酸素剤の形態>
得られた脱酸素剤は、表1に示すように、その1枚の厚みが0.2〜0.4mm、坪量194〜302g/m2であった。なお、厚みは、JIS P8118に準じ、脱酸素剤の5点以上を測定し、その平均値を厚みとして算出し、坪量は、少なくとも100cm2以上の面積の脱酸素剤重量を測定し、その面積で除すことにより算出した。
【0098】
〔脱酸素剤の脱酸素性能の測定〕
実施例1及び比較例1、2の脱酸素剤10gを、酸素透過性を有する被覆層で被覆しない状態で空気容積5.5リットルのデシケータ中に設置し、該デシケータ中の酸素濃度を測定して脱酸素性能を調べた。酸素濃度は泰榮電器株式会社製酸素モニタOM−25MS01を用いて測定した。それらの結果を図1に示す。
【0099】
〔VSMによる脱酸素剤中の脱酸素に有効な鉄粉量の測定〕
VSMとして東栄工業株式会社製のVSM-P7-15を使用して脱酸素剤中の脱酸素に有効な鉄粉量を測定した。その結果を表3に示す。
【0100】
〔TGによる脱酸素剤の組成比率の測定〕
TGとしてセイコーインスツルメンツ株式会社製高温型示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA−6300及びオートサンプラユニットAST−2を使用して脱酸素剤の組成比率を測定した。また、サンプル容器は1000℃の高温に耐えるように、Pt製φ5mm、高さ5mm品を用いた。その結果を表3に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
図1及び表2、3に示したように、実施例1で得られた脱酸素剤は、反応助剤となる電解質を抄造の段階で含んでいないため、酸化反応が進行せず、鉄粉の有効反応率が高いことが明らかとなった。よって、限界酸素濃度は実施例1では0%になるのに対し、比較例1では6%で飽和する結果となった。さらに、実施例1は保水剤を有しているため、比較例1と比較すると素早い時間で酸素を吸収する能力を有していることがわかった。また、抄造歩留まりにおいても、実施例1は反応助剤となる電解質を抄造の段階で含んでいないため、抄造歩留まりが高く、工業的にも安定かつ高品質、低コストで製造することが可能である。さらに比較例2の保水剤が含まれた市販の粉体型脱酸素剤との比較においても素早い時間で高い脱酸素性能が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施例1及び比較例1、2の脱酸素剤の脱酸素性能を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませた脱酸素剤であって、
前記電解質を0.1〜10質量%含み且つ含水率が5〜70質量%である脱酸素剤。
【請求項2】
前記繊維状物のCSFが600ml以下である請求項1に記載の脱酸素剤。
【請求項3】
前記被酸化性金属の有効反応率が75%以上である請求項1又は2に記載の脱酸素剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の脱酸素剤に使用する脱酸素剤中間体であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の脱酸素剤に機能層が設けられている脱酸素剤複合体。
【請求項6】
前記機能層が接着層を介して積層されている請求項5に記載の脱酸素剤複合体。
【請求項7】
前記機能層が固形成分の脱落防止、隠蔽、消臭、耐磁、水分バリア若しくは油分バリアの機能又はこれらの機能が複数組み合わされた機能を有している請求項5又は6に記載の脱酸素剤複合体。
【請求項8】
請求項1記載の脱酸素剤の製造方法であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませる脱酸素剤の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の脱酸素剤複合体の製造方法であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、前記機能層を設けた後、酸化反応助剤となる電解質を含ませる脱酸素剤複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載の脱酸素剤複合体の製造方法であって、被酸化性金属、保水剤、及び繊維状物を含む抄造体を乾燥してなる脱酸素剤中間体に、酸化反応助剤となる電解質を含ませて脱酸素剤を製造した後、該脱酸素剤に前記機能層を設けた脱酸素剤複合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−144407(P2007−144407A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290484(P2006−290484)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】