説明

脳機能改善剤

【課題】
安全性が高く、優れた脳機能改善効果を有する脳機能改善剤および該脳機能改善剤を含有する飲食品あるいは医薬品を提供する。
【解決手段】
エルゴステロールペルオキシドを含有する脳機能改善剤及び前記脳機能改善剤を含有する飲食品あるいは医薬品とすることにより、脳機能の改善を促進して、例えば、空間的学習障害の改善などに有効であり、脳機能改善などを目的とする各種の飲食品あるいは医薬品などに利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴステロールペルオキシド(Ergosterol peroxide、以下、EPOと略す。)を含有する脳機能改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EPOは、酸化ステロール型ステロイドの一種であり、自然界においては、種々のきのこ類、酵母類、地衣類、海綿などに含まれている。EPOは、発見当初は細胞毒性活性を有する成分と考えられていたが、近年の研究において、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗微生物作用、抗炎症作用、ホスホリパーゼA2阻害、DNAトポイソメラーゼ阻害、スルファターゼ阻害、アルドースレダクターゼ阻害、抗アテローム性動脈硬化症、免疫抑制作用、抗補体活性、ヒトT細胞活性化阻害、アポトーシス誘導能などの生理活性を有することが明らかになってきている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
最近、これら生理活性を利用した用途開発、例えば、食品用変色防止・酸化防止剤(例えば、特許文献1参照)、発癌防止剤(例えば、特許文献2参照)、アポトーシス誘導能を有する食品又は食品素材(例えば、特許文献3参照)、破骨細胞の分化・増殖阻害剤(例えば、特許文献4参照)などの種々の食品、医薬品等への用途開発が進んでいる。
しかしながら、EPOが脳機能改善効果を有することは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−183266号公報
【特許文献2】特開2006−22017号公報
【特許文献3】特開2005−73502号公報
【特許文献4】特開2008−127378号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Biol.Pharm.Bull.,31,949(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安全性が高く、優れた脳機能改善効果を有する脳機能改善剤および該脳機能改善剤を含有する飲食品、医薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来までの検討により、EPOには神経成長因子産生促進や神経突起進展作用があることを明らかにしており(特願2008−292309号)、さらに鋭意研究を重ねた結果、EPOが高い脳機能改善作用を有することを初めて見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)エルゴステロールペルオキシドを含有する脳機能改善剤。
(2)(1)記載の脳機能改善剤を含有する飲食品あるいは医薬品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脳機能改善剤は、安全性が高く、優れた脳機能改善効果を有する。そのため、脳機能の改善を促進して、例えば、空間的学習障害の改善等に有効であり、脳機能改善等を目的とする各種の飲食品、医薬品などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】モリス水迷路試験におけるプラットホームまでの到達時間(潜時)の測定結果を示すものである。
【図2】モリス水迷路試験における4分割の各エリアの滞在時間の測定結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における脳機能改善剤は、エルゴステロールペルオキシド(EPO)を含有する。ここで、EPOとは、5α,8α−Epidoxyergosta−6,22−dien−3β−olをいう。
【0011】
本発明におけるEPOは、きのこ類、酵母類、地衣類、海綿などの天然素材に多く含まれており、これらから抽出することにより入手可能であることから、安全性に優れるものである。従って、EPOを含有する本発明の脳機能改善剤は、安全性に優れ、かつ、効果的に脳機能改善を促進するという利点がある。
【0012】
EPOを抽出可能なきのこ類としては、例えば、ヒラタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、シイタケ属、シロタモギタケ属、シメジ属、ハナビラタケ属、マンネンタケ属、ハラタケ属、スギタケ属、シュタケ属、アンズタケ属、チチタケ属、コウタケ属、コフキサルノコシカケ属、冬虫夏草属、クリタケ属、コツブタケ属、ツヤウチワタケ属、カイガラタケ属、トンビマイタケ属、キコブタケ属、シカタケ属、カワラタケ属、アミガサタケ属、ヤマドリタケ属、アイカワタケ属、ヌメリイグチ属、イグチ属、キツネノカラカサタケ属、キシメジ属に属する一種または二種以上のきのこの子実体もしくは菌糸体が挙げられる。
【0013】
具体的には、ヒラタケ属に属するきのことしては、例えば、ヒラタケ、エリンギ、ウスヒラタケ、タモギタケ、トキイロヒラタケ、ヒマラヤヒラタケなどが挙げられる。サンゴハリタケ属に属するきのことしては、例えば、サンゴハリタケ、サンゴハリタケモドキ、ヤマブシタケ、フサハリタケなどが挙げられる。エノキタケ属に属するきのことしては、例えば、エノキタケなどが挙げられる。マイタケ属に属するきのことしては、例えば、マイタケ、シロマイタケ、アンニンコウなどが挙げられる。シイタケ属に属するきのことしては、例えば、シイタケなどが挙げられる。ハラタケ属に属するきのことしては、例えば、ウスキモリノカサ、ザラエノハラタケ、ツクリタケ、ヒメマツタケなどが挙げられる。シロタモギタケ属に属するきのことしては、例えば、ブナシメジ、シロタモギタケなどが挙げられる。シメジ属に属するきのことしては、例えば、シャカシメジ、ハタケシメジ、オシロイシメジ、ホンシメジ、スミゾメシメジなどが挙げられる。スギタケ属に属するきのことしては、例えば、ナメコ、スギタケ、スギタケモドキ、ハナガサタケ、ヌメリスギタケモドキ、アカツムタケ、ヤケアトツムタケ、チャナメツクタケ、シロナメツムタケなどが挙げられる。ハナビラタケ属に属するきのことしては、例えば、ハナビラタケが挙げられる。マンネンタケ属に属するきのことしては、例えば、マンネンタケ、霊芝(赤、黄、紫、黒)、ツガノマンネンタケ、マゴジャクシなどが挙げられる。シュタケ属に属するきのことしては、例えば、シュタケ、ヒイロタケなどが挙げられる。アンズタケ属に属するきのことしては、例えば、アンズタケ、トキイロラッパタケ、ヒナアンズタケ、ベニウスタケなどが挙げられる。チチタケ属に属するきのことしては、例えば、チチタケ、ハツタケ、カラハツタケ、クロチチタケなどが挙げられる。コウタケ属に属するきのことしては、例えば、コウタケ、ケロウジなどが挙げられる。コフキサルノコシカケ属に属するきのことしては、例えば、コフキサルノコシカケが挙げられる。冬虫夏草属に属するきのことしては、例えば、サナギタケ、セミタケ、ハナサナギタケなどが挙げられる。クリタケ属に属するきのことしては、例えば、クリタケ、ニガクリタケなどが挙げられる。コツブタケ属に属するきのことしては、例えば、コツブタケなどが挙げられる。ツヤウチワタケ属に属するきのことしては、例えば、ウチワタケ、ツヤウチワタケなどが挙げられる。カイガラタケ属に属するきのことしては、例えば、カイガラタケなどが挙げられる。トンビマイタケ属に属するきのことしては、例えば、トンビマイタケなどが挙げられる。キコブタケ属に属するきのことしては、例えば、キコブタケ、メシマコブなどが挙げられる。シカタケ属に属するきのことしては、例えば、ベニクスノキタケなどが挙げられる。カワラタケ属に属するきのことしては、例えば、カワラタケなどが挙げられる。アミガサタケ属に属するきのことしては、例えば、アミガサタケ、トガリアミガサタケ、アシブトアミガサタケなどが挙げられる。ヤマドリタケ属に属するきのことしては、例えば、ヤマドリタケ、ヤマドリタケモドキ、ムラサキヤマドリタケ、イロガワリ、などが挙げられる。アイカワタケ属に属するきのことしては、例えば、マスタケ、アイカワタケなどが挙げられる。ヌメリイグチ属に属するきのことしては、例えば、ヌメリイグチ、シロヌメリイグチ、アミタケなどが挙げられる。イグチ属に属するきのことしては、例えば、ニセイロガワリなどが挙げられる。キツネノカラカサタケ属に属するきのことしては、例えば、アメリカキツネノカラカサなどが挙げられる。キシメジ属に属するきのことしては、例えば、キシメジ、マツタケ、ムレワシメジなどが挙げられる。
【0014】
その中でも、効率よくEPOを抽出する観点から、特にEPOを多量に含有する、ヒラタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、シイタケ属、シロタモギタケ属、シメジ属、ハナビラタケ属、マンネンタケ属に属する一種または二種以上のきのこが好ましく、いっそう好ましくは、ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、シイタケ、エノキタケ、ハナビラタケ、ヤマブシタケ、マイタケ、マンネンタケからなる群より選ばれた一種または二種以上のきのこを好適に用いることができる。
【0015】
また、前記の天然のきのこ類だけでなく、人工栽培されたきのこ、あるいは天然又は人工栽培きのこの廃棄部分を用いることによって、EPOの製造コストをさらに安価にすることができるため、好ましい。
【0016】
きのこ類からのEPOの抽出方法としては、例えば、前記きのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することが好ましい。前記きのこ類の水溶化とは、きのこ類を構成する種々の構成体、例えば、セルロース、α−グルカン、β−グルカン、キシログルカン、キチンなどの少なくとも一部を水溶化させることをいい、EPOの抽出率の観点から、水溶化処理によるきのこ類の減量率が、きのこ類100質量%に対して、5〜95質量%が好ましく、より好ましくは30〜90質量%であり、いっそう好ましくは40〜80質量%である。
【0017】
前記きのこ類の水溶化方法としては、きのこ類の構成成分の一部を水溶化するものであれば特に限定されないが、例えば、発酵(自己消化)処理、各種酵素による分解処理(酵素処理)、熱水処理、酸処理などの水溶化方法が挙げられる。
【0018】
水溶化のための酵素分解処理に用いられる酵素としては、前記水溶化が可能な酵素であれば特に限定されないが、例えば、前記きのこ類自身に含まれている酵素(自己消化系酵素)に加え、水溶化処理効率の観点から、グルカナーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼなどが好適に用いられる。これらの中でも、特にそれらの食品加工用酵素を用いることは、抽出画分から得られたEPOを食品、医薬品などの分野に用いる上で安全性の観点から、より好ましい。
【0019】
水溶化のための酸処理に用いられる酸としては、前記水溶化が可能な酸であれば特に限定されないが、例えば、酢酸、塩酸、乳酸、硫酸、りん酸などが好適に用いられる。
【0020】
以上のように、例えば、前記のきのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することにより得ることができる。
【0021】
抽出方法で用いる有機溶媒は、一般的に植物成分の抽出に用いられている有機溶媒であれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどの親水性有機溶媒や、クロロホルムなどの親油性有機溶媒を用いることができる。必要に応じて、水と有機溶媒を併用することもできる。特に、エタノール、アセトンが、食品などとして利用する上で好ましい。
【0022】
本発明における脳機能改善剤は、EPOとして成人1日あたりの摂取量が0.1〜1000mgとなるように摂取することが好ましく、さらに1〜100mgが好ましく、5〜50mgが一層好ましい。なお、成人1日あたりの摂取量が0.1mg未満であると、前記の脳機能改善効果などのEPOが本来有している効果が低くなる場合がある。一方、成人1日あたりの摂取量が1000mgを超えると、脳機能改善効果に対して原料コストが高くなる場合がある。
【0023】
本発明における脳機能改善剤中、EPOの含有量は特に限定されないが、脳機能改善効果との関係から、乾燥固形分として0.1〜100質量%であることが好ましく、0.5〜100質量%であることがより好ましく、1〜100質量%であることがいっそう好ましい。EPOの含有量が多いほど、単位乾燥固形分当たりの脳機能改善効果が高くなり、好ましい。
【0024】
本発明の脳機能改善剤は、EPO以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等の成分を、必要に応じて含有していてもよい。
【0025】
また、本発明の脳機能改善剤を、既存の飲料又は食品に含有させることにより飲食品とし、経口投与に付してもよい。EPOを飲料又は食品に添加する場合においては、その配合量は、EPOとして成人1日あたりの摂取量が0.1〜1000mgとなるように該食品に対して添加するのが好ましく、さらに1〜100mgが好ましく、5〜50mgが一層好ましい。例えば、該食品の1日摂取量が20gであればEPOは0.0005〜5質量%という割合で添加するのが好ましく、さらに0.005〜0.5質量%という割合で添加するのが好ましく、0.025〜0.25質量%という割合で添加するのが一層好ましい。なお、成人1日あたりの摂取量が0.1mg未満であると、前記の脳機能改善効果などのEPOが本来有している効果が低くなる場合がある。一方、成人1日あたりの摂取量が1000mgを超えると、脳機能改善効果に対して原料コストが高くなる場合がある。
【0026】
本発明における食品(飲料を含む)の例としては、具体的には、次のものを挙げることができる。例えば、グレープフルーツ、オレンジ、レモン等の柑橘類及びこれらを含む果汁;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス等の野菜及びこれらを含む野菜汁及び野菜ジュース;ソース、醤油、味噌、うま味調味料及び唐辛子等の調味料;豆乳、豆乳などの大豆食品;クリーム、ドレッシング、マヨネーズ及びマーガリン等の乳化食品;魚肉、すり身及び魚卵等の水産加工食品;ピーナツ等のナッツ類;納豆等の発酵商品;肉類及び食肉加工品;ビール、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、発酵茶、半発酵茶、清涼飲料、及び機能性飲料等の飲料;漬物類;めん類;粉末スープを含むスープ類;チーズ、牛乳等の乳製品類;パン・ケーキ類;スナック菓子、チューインガム、チョコレートなどの菓子類;キャンディー類;美容飲食品を含む健康食品等が挙げられる。
【0027】
本発明における医薬品を摂取する方法としては、特に限定されないが、経口投与により摂取することが好ましい。経口投与するためには、例えば、本発明の脳機能改善剤を添加した後、公知慣用の方法により、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ゲル状、ペースト状、乳状、懸濁状、液状等の経口投与に適した形態に成形すればよい。また、本発明の脳機能改善剤には、味質の改善を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で糖類、糖アルコール類、塩類、油脂類、アミノ酸類、有機酸類、果汁、野菜汁、香料、アルコール類、グリセリン等を含有することができる。
【0028】
本発明の医薬品としてEPOを添加する場合には、その含有量は、摂取する対象者の年齢、体重などにより変わり得るが、EPO換算で成人1日あたり、0.1〜1000mg服用できるように含有するものが好ましく、さらに1〜100mgが好ましく、5〜50mgが一層好ましい。
【0029】
本発明の脳機能改善剤は、ヒトに対してだけではなく、動物に対しても、高い脳機能改善効果を発現しうるものである。従って、本発明の脳機能改善剤は動物の飼料に含有され、経口投与に付されてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
<きのこ類由来の脳機能改善剤の取得>
エリンギ子実体凍結乾燥粉末100.0gに1Lのイオン交換水を添加し、35℃に調整したインキュベータ内で16時間保温、自己消化系水溶化処理を行なった。自己消化系水溶化処理後、固液分離により固形分(残渣)を回収し、イオン交換水にて十分に洗浄した後、残渣を再び、イオン交換水1Lに懸濁し、続いて、オートクレーブ装置を用いて、121℃、20分の熱水水溶化処理を行なった。熱水水溶化処理後、固液分離により固形分(残渣)を回収し、洗浄した後、再度、同条件で熱水水溶化処理を行なった。熱水水溶化処理後、固液分離により固形分(残渣)を回収し、洗浄した後、真空乾燥、粉砕を行ない、真空乾燥粉末22.9gを得た(水溶化処理減量率:約77.1質量%)。全量をソックスレー抽出装置にかけ、ヘキサン500mLにて8時間抽出を行ない、ヘキサン可溶画分を除去した。残渣を風乾の後、引き続き、ソックスレー抽出装置にかけ、アセトン500mLにて8時間抽出を行ない、アセトン可溶画分を回収し、ロータリーエバポレータにてアセトンを溜去し、EPO画分1.36gを得た。前記EPO画分1.26gをヘキサン/酢酸エチル(3:2)3mLに溶解し、シリカゲル60カラム(φ20mm×250mm、80mL)にアプライした。ヘキサン/酢酸エチル(3:2)80mLで洗浄の後、ヘキサン/酢酸エチル(1:1)200mLを通し、10mLずつ分画分取を行なった。TLCにてEPOを含む画分を回収し、ロータリーエバポレータにて溶媒を除去し、きのこ類由来EPO粗精製品109.7mgを得た。
【0032】
<EPOの定量>
実施例1で得られたEPO画分及びきのこ類由来EPO粗精製品をそれぞれエタノールに再溶解し50mg/mLの濃度に調整した。TLCプレート(メルク製、シリカゲル60HPTLC)を適当な大きさに切り、再溶解したEPO画分及び由来EPO粗精製品を20μLずつアプライした。EPO標準品については、0.1、0.5、1.0mg/mLの濃度に調整したエタノール溶液を、同様に20μLずつアプライした。風乾の後、n−ヘキサン/酢酸エチル(2:1)の展開溶媒にて展開した。風乾の後、15%りんタングステン酸エタノール溶液を均一に噴霧し、加熱によりスポットを発色させた。発色したプレートをスキャナで取り込み、標品より得られたスポット濃さより、サンプルのEPO濃度を「JustTLC(SWEDAY製、画像解析ソフトウェア)」を用いて定量したところ、前記のEPO画分及びきのこ類由来EPO粗精製品は、EPOとしてそれぞれ、6.5mg(純度約6.5質量%)、81.0mgを含有(純度約81質量%)することが分かった。
【0033】
<脳機能改善効果1>
実施例1で得られたきのこ類由来EPO粗精製品について、スコポラミン投与による空間学習・記憶障害の改善作用をモリス水迷路試験により観察した。実験動物にはICR系雄性マウス(7週齢、体重25〜30g。10匹/群。日本クレアより購入)を用いた。表1にしたがい、実施例2として、きのこ由来EPO粗精製品18.6mgを0.5質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(ナカライテスク製、以下、CMCと略す。)1mlに懸濁したものを、比較例1、2として0.5質量%CMCのみを、毎回、試験開始1時間前に、100μL/30g−体重ずつ強制経口投与した。その30分後、実施例2及び比較例2においては、スコポラミン臭化水素酸塩(1mg/Kg−体重。ナカライテスク製)を腹腔内投与した。試験では、円形プール(径120cm、深さ40cm)を用い、プラットホーム(径10cm、水深1cm)までの到達時間(潜時)を計測した。潜時の計測は4日間連続で行ない、5日目にはプラットホームを取り除いた状態で60秒間遊泳させ、プール全面を4分割して、プラットホームのあったエリア(T)、左側(L)、右側(R)、対称エリア(O)での滞在時間をそれぞれ計測した。結果を図1、図2に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
図1、2より明らかなように、本発明のきのこ由来EPO粗精製物の投与は、スコポラミン投与により誘発される空間的学習障害の改善に有効である。
【0036】
<脳機能改善効果2>
実施例1で得られたきのこ類由来EPO粗精製品について、スコポラミン投与による空間学習・記憶障害の改善作用を8方向放射状迷路試験により観察した。実験動物にはWistar系雄性ラット(7〜10週齢、体重180〜240g。10匹/群。日本クレアより購入)を用いた。表2にしたがい、実施例3として、きのこ類由来EPO粗精製品6.2mgを0.5質量%CMC1mLに懸濁したものを、比較例3として、0.5質量%CMCのみを、毎回、試験開始1時間前に、1mL/100g−体重ずつ強制経口投与した。その30分後、スコポラミン臭化水素酸塩(0.5mg/Kg−体重)を腹腔内投与した。試験では、8方向放射状迷路を用い、8本のアームのうち一定の4本のアームの先端に飼料ペレットを置き、空間認知によりラットにペレットの位置を学習させた。記憶障害の指標として、総エラー数(TE:total error)、参照記憶エラー数(RME:reference memory error=長期記憶の指標(ペレットの無いアームに間違って入る回数))および作業記憶エラー数(WME:working memory error=短期記憶力の指標(既にペレットを回収したアームに間違って再び入る回数))を用いた。結果を表3に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表3より明らかなように、本発明のきのこ類由来EPO粗精製物の投与は、スコポラミン投与により誘発される空間的学習障害の改善に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴステロールペルオキシドを含有する脳機能改善剤。
【請求項2】
請求項1記載の脳機能改善剤を含有する飲食品。
【請求項3】
請求項1記載の脳機能改善剤を含有する医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236184(P2011−236184A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111275(P2010−111275)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】