説明

脳神経細胞死予防及び/または改善剤

新規で安全な脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤、およびこれを含有することを特徴とするアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤、またはそれを含有する飲食品を提供する。本発明により、水、又は、水主体の混合溶剤により抽出して得られるクコ抽出物を有効成分とする脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤が提供される。本発明の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤はアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、クコ属植物抽出物を有効成分とする脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤、及び当該脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病予防及び/又は改善剤を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
アルツハイマー病は記憶力の低下や認知機能障害を特徴とする痴呆を中心とした臨床症状を持ち、緩やかだが常に進行する進行性の神経細胞変性疾患である。
患者数は全世界で1,000万人以上であり、その有病率は加齢に伴い増加する傾向を示し、その新しい治療および予防法は高齢化が進む現在、特にその開発が望まれている。 病理所見としてはアルツハイマー病に特徴的な老人斑が認められ、その主要構成成分はアミロイドβタンパク質(Αβ)とよばれる約40アミノ酸残基からなる不溶性ペプチドである。このアミロイドβタンパク質(Αβ)はアルツハイマー病における脳の神経細胞死を誘導する物質として重要である。アミロイドβタンパク質はその前駆体タンパク質がβセクレターゼと呼ばれるプロテアーゼで切断され、さらにγセクレターゼで切断されることにより形成される。
神経細胞死の防御によって、有効な治療・改善効果が期待され、Αβの産生にかかわる酵素であるプレセニリン(Αβの産生に必要なプロテアーゼであるγセレクターゼと同一。 文献:Li,Y.M.et al.,Nature,405,689−694,2000参照)の活性阻害薬やβアミロイドを抗原としたワクチン療法(文献:Chen,G.et al.,Nature,408,975−979,2000参照)の可能性も検討されている。また、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、酸化ストレスの病態への関与が挙げられており、生体組織における酸化ストレスは酸化ストレスマーカーであるDNA酸化物の8ハイドロキシ2’デオキシグアノシン(80HdG)やRNA酸化物の8ハイドロキシグアノシン(80HG)が変性疾患脳内に分布することが明らかとなっている(文献:Nunomura,A.et al.,J.Neurosci.,19,1959−1964,1999参照)。また、ヘムオキシダーゼー1は種々の酸化ストレスにより誘導され、アルツハイマー病の脳内でも発現増加していることが報告されており(文献:Smith,M.A.et al.,Am.J.Pathol.,145,42−47,1994参照)、酸化ストレスの病態への関与が示唆されている。また、神経変性疾患での神経細胞死として、アルツハイマー病でのΑβやハンチントン病でのポリグルタミンによる核内封入体、パーキンソン病でのα−シヌクレインなどの異常凝集体もその原因物質として考えられている(文献:Sherman,M.Y.et al.,Neuron,29,15−32,2001参照)。
クコ属(Lycium)植物はナス科の植物であり、Lycium chinensis,Lycium barbarum,Lycium turcomanicum,Lycium potaninii,Lycium dasystemum等の種類が存在している。葉を枸杞葉、果実を枸杞子、根皮を地骨皮とよび、肝機能強化作用、高血圧、動脈硬化、老眼予防等が言われており、カロチン・ビタミン類の他、βシトステロール、リノール酸、ゼアキサンチン、ベタインやフェザリエンが含まれている。薬理効果としてはベタインが脂質代謝および抗脂肪肝に対して効果があることが報告されており、また、水抽出物の肝臓への抗脂肪肝作用が知られている。一方、神経細胞死やアルツハイマー病での神経細胞死に関しては、これまで有機溶媒抽出物による学習能力及び記憶力向上を目的とした組成物に関する報告はあるが(大韓民国公開番号 特2002−0038381)、クコ属植物材料の水溶性画分に神経細胞死またはアルツハイマー病の進行を抑制する活性が存在するという報告はない。
【発明の開示】
本発明は、安全な食品素材またはその抽出物から脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、クコ属植物材料を水、又は、水主体の混合溶剤と接触させることを通じて抽出して得られる抽出物が脳神経細胞死の予防及び/又は改善作用あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の第1は、クコ属(Lycium)植物材料またはそこからの抽出物を有効成分とする脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤に関し、および本発明の第2はクコ属(Lycium)植物材料またはそこからの抽出物を有効成分とするアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤に関する。
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明で使用するクコ属(Lycium)植物の生産方法は特に限定されない。本発明で使用するクコ属植物は、自生したもののみならず、人工的に栽培したものであっても構わない。また、本発明で使用するクコ属植物材料の採取時期や生育年数、栽培方法、栽培期間についても特に制限されない。
本発明で使用するクコ属植物は、多種多様な生産方法によるものの中から一種類だけを選択して使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。好ましくは、枸杞子(クコシ)(Lycium chinensis)植物を使用する。
また、抽出物とは植物体の各種部分(全草、花、葉など)をそのまま或いは粉砕後、抽出溶媒で抽出したものである。また、各々の溶媒抽出物を組み合わせても使用できる。
抽出溶媒としては、水、又は、水主体の混合溶剤を用いることができる。本発明で言う水主体の混合溶剤とは、水を主体(水の割合が約21%以上、好ましくは約31%以上、より好ましくは約41%以上、およびもっとも好ましくは約51%以上)とし、それにアルコール類(例えばエタノール、メタノールの低級アルコール、あるいはグリセリンなどの多価アルコール)などの極性有機溶媒を、単独であるいは2種以上の液を任意に組み合わせたものである。
抽出に使用する水主体の混合溶剤の量はクコ属植物材料に含まれる活性成分の抽出効率向上の点から、水の割合が約51%以上であり、クコ属植物材料に含まれる活性成分を十分に溶解しうる量を用いるのが好ましい。
水を主体として抽出した場合、有機溶媒を主体として抽出する場合と比べ、溶媒としての極性が異なるため抽出される成分も異なる。
抽出溶媒として水を用いる場合、クコ属植物材料に含まれる活性成分の抽出効率向上の点から、熱水を用いるのが好ましい。抽出に使用する熱水の量は、クコ属植物材料に含まれる活性成分を十分に溶解しうる量であることが好ましい。
また、製造方法は前記抽出溶媒の種類を除き、特に限定されるものではないが、通常、常温・常圧下で抽出溶媒を用いて行えばよく、抽出後は濃縮乾固或いは油脂等により溶液状、ペースト状、ゲル状、粉状としてもよい。抽出温度は、例えば約0ないし100℃、約30ないし100℃、または約60ないし100℃であり得る。場合によっては約30〜120℃の条件下で抽出することや、オートクレーブ、二酸化炭素等による超臨界条件での抽出も可能である。
抽出時間は、例えば約30分ないし約10日、約1時間ないし5日、または約2時間ないし1日であり得る。必要であれば、さらに活性炭カラムやイオン交換樹脂等により、任意の操作で精製することもできる。該抽出溶媒の量は、例えばクコ属植物材料1重量部に対して、約1ないし1000重量部、約2ないし100重量部、または約5ないし50重量部であり得る。
本発明における抽出は、採取したクコ属植物材料を洗浄して表面に付着した汚れや生物を除去した後、裁断、ボールミル、超音波処理、ホモジェナイザーなどによってこれを破砕した後に抽出することができる。破砕に先立って風乾や凍結乾燥処理を行ってもよい。破砕したクコ属植物材料は、撹拌しながら熱水などの抽出溶媒で数回繰り返し抽出するのが好ましい。この抽出液は、そのまま脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤として使用することができる。本発明はまた、哺乳動物の該症状を予防及び/または改善するための方法に関する。
本発明の抽出物は、必要に応じて希釈あるいは濃縮して適当な濃度に調節することもできる。さらに、抽出液を噴霧乾燥することによって、粉末状の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤にすることもできる。このように、本発明の抽出物は濃度や形状は特に制限されず、その用途に応じて適宜決定することができる。
本発明の抽出物はクコ属植物材料抽出物以外の成分を含ませた経口又は非経口摂取可能な組成物として使用することも可能である。その組成物はクコの効果を減じない範囲で他の栄養または有効成分を加えた飲食品、あるいは医薬品、化粧品、浴用剤に用いることができる。
本発明の抽出物は、食用に供されているクコ属植物材料の抽出物を活性成分としているため、生体に対する安全性が高い。このため、本発明の抽出物は、医薬品、機能性食品、飲食品、医薬部外品、化粧品、浴用剤などの広範な製品中に含有させることができる。
本発明にしたがって、脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤は、好ましくは、神経変性疾患の予防及び/または改善剤、より好ましくはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤である。神経変性疾患は、限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、ピック病、コルサコフ病および血管または他の発端の前頭もしくは大脳皮質下痴呆を含みうる。
本発明の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤は、抽出物を有効成分とするものであり、抽出液または抽出物そのものでもよいし、それに公知の担体や助剤、飲食物材料、薬剤学的に許容される他の製剤素材などを添加した組成物でもよい。その配合量に関しては特に規定するものではないが、これらの製品における本発明の抽出物の濃度は、所望の効果を奏する範囲内で適宜選択することができる。また、人体に投与する場合の投与量としては、例えば一日あたり約0.01〜50mg/Kg体重として、1回から数回に分けて投与することができる。医薬品にする場合の剤形は、投与目的や投与経路等に応じて、錠剤、カプセル剤、注射剤、点滴剤、散剤、座剤、顆粒剤、軟膏剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、クリーム剤等にすることができる。また、この組成物中には、一般に製剤に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤等の添加物を含有させることができる。結合剤の好適な例としてはグアガム、アラビアゴム末などが挙げられる。賦形剤の好適な例としてはデンプン、トレハロース、デキストリンなどが挙げられる。滑沢剤の好適な例としてはステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。安定剤の好適な例としては油脂、プロピレングリコール、シクロデキストリンなどが挙げられる。乳化剤の好適な例としては、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としてはリン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。
さらに本発明の抽出物は飲食品、化粧品または浴用剤へ含有でき、その含有量としては、例えば飲食品として通常約0.0001〜100重量%、効率的に摂取できる点から約0.1〜100重量%が、浴用剤としては通常約0.0001重量%以上、効率的に配合できる点から、約0.001〜100重量%が好ましい。
本発明の抽出物を化粧品に含有させ、脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤として用いる場合は約0.0001重量%以上、効率的に配合できる点から、約0.01〜20重量%にするのが好ましい。
本発明の抽出物は脳神経細胞死の予防及び/又は改善作用あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善作用を有することから、食品に含ませることによってその食品を脳神経細胞死の予防及び/又は改善あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善を目的とした機能性食品にすることができる。対象となる食品の種類は、抽出物の脳神経細胞死の予防及び/又は改善作用あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善作用が阻害されないものであれば特に限定されない。例えば、ジュース、清涼飲料水、茶などの飲料、パンやもちなどの加工食品、あめなどの菓子類、カップラーメンなどのインスタント食品、バター、サラダ油などの油脂類、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、醤油やみりんなどの調味料、ふりかけ、みそなどの広範な飲食品に含ませることができる。もちろん、抽出物の代わりにクコをそのまま粉砕し、直接食品等に加えて摂取することも可能であり、粉砕物を直接摂取した場合においても、同時に摂取した水分あるいは体内の消化液によりクコ属植物材料の活性成分が抽出されてくることが類推される。
本発明のクコ属植物材料抽出物はアルツハイマー病原因物質であるアミロイドβタンパク質による神経細胞死阻害作用を持つことから、脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤として有用である。
本発明は主に脳神経細胞の酸化ストレスによる神経変性死を予防及び/又は改善することにより、症状の進行を食い止めまたは遅らせて生活の質を向上させることができるものであり、単に一般的に言う学習能力向上或いは記憶力向上を目的とするものではない。
アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパク質は脳の神経細胞に沈着し、ラジカル等を発生させることにより細胞障害および細胞死を引き起こす。また、神経変性疾患の共通メカニズムとして異常タンパク質の蓄積が原因という報告が多く、たとえば、アルツハイマー病のアミロイドβタンパク質、ハンチントン病のポリグルタミンなどがある。
クコ属植物材料抽出液はアミロイドβタンパク質に対する細胞保護作用を有することが、本発明で実施した抗神経細胞死評価により明らかとなった。抗神経細胞死評価は、たとえばヒト神経芽腫細胞株SH−SY5Y細胞へサンプル抽出液を添加後、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパク質を加えて培養後、生細胞数を測定することにより可能である。生細胞数の測定は、たとえば臭化3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2Hテトラゾリウム(MTT)を用いたタンパク質定量法で簡便に測定することができる。抗神経細胞死評価あるいは抗アルツハイマー効果は、上記評価系による培養終了後の生細胞数測定により評価することができる。すなわち、上記操作後の生細胞数は、植物抽出液サンプルに細胞保護作用があった場合、植物抽出液サンプルを加えていないコントロールと比べて多くなる。植物抽出液サンプル処理群の植物抽出液無処理群に対する生細胞数の割合を示す相対生存率が約1.0を上回ることは、その植物抽出液サンプルが脳神経細胞死の予防及び/又は改善作用あるいはアルツハイマー病の予防及び/又は改善作用を持つことを示す。
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒト神経芽細胞株SH−SY5Y細胞を用いた抗神経細胞死評価結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に製造例および実施例、処方例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの製造例および実施例、処方例によって、本発明の範囲は限定的に解釈されるものではない。
(製造例1)
枸杞子(クコシ)(Lycium chinensis)植物材料乾燥重量1gを裁断、破砕した後、水を10ml加え、105℃、15分間オートクレーブを実施した。4℃3000rpmで5分間遠心し、上清を0.22μmフィルターでろ過後、該ろ液を熱水抽出液サンプルとした。
(製造例2)
枸杞子(クコシ)(Lycium chinensis)植物材料乾燥重量1gを裁断、破砕した後、抽出溶媒として10mlの70%エタノールに入れ、直射日光にあたらない暗所に4週間放置した。4℃3000rpmで5分間遠心し、上清を0.22μmフィルターでろ過後、70%エタノール抽出液サンプルとした。
(製造例3)
枸杞子(クコシ)(Lycium chinensis)植物材料の乾燥重量1kgを裁断、破砕した後、水を10L加え、105℃、15分間オートクレーブを実施した。4℃3000rpmで5分間遠心し、上清を0.22μmフィルターでろ過し抽出液を得た。得られた液を濃縮乾固し、固形物約87gを得た。
(実施例1)抗神経細胞死評価
15%FBS、DMEM/Ham’s F−12(1:1mixture)、1%non−essential MEM amino acid、1%ペニシリン(5000μg/ml)−ストレプトマイシン(5000IU/ml)溶液で調製した培地を用い、コラーゲン(100μ/ml)でコートとした96穴プレートへヒト神経芽腫細胞株SH−SY5Y細胞(ATCCCRL−2266)を1.6×10cells/ml濃度で播種した。5%CO下、37℃で一晩培養後、100μlのOPTI−MEM培地(Gibco−BRL社)で洗浄、次に、各ウエルあたり100μlのOPTI−MEM培地へ製造例1で得られた枸杞子の熱水抽出液を所望の濃度になるよう培地で希釈したものを各10%(v/v)で添加する。さらにアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパク質(10−4M)を10μl/well添加した後、3日間培養した。次に20μlのMTT溶液(6mgの臭化3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2Hテトラゾリウム(和光純薬社製)を1mlのPBSに溶解したもの)を各ウエルに添加し、さらに4時間培養を続けた。その後、10%SDS溶液を加えて生成したMTTフォルマザンを溶解し、さらに12時間培養を続けた。細胞により生成したMTTフォルマザンは570nmの吸光度測定により数値化した。この操作は、生存細胞数がタンパク質定量値に比例することを利用したものであり、生存細胞数を定量的に数値化した。植物抽出液サンプル処理群の植物抽出液無処理群に対する生細胞数の割合を相対生存率として表す。結果を図1に示す。
(比較例1)
製造例1で得られた枸杞子植物材料の熱水抽出液の代わりに、製造例2で得られた枸杞子の70%エタノール抽出液を用いた以外は、実施例1と同様に行った。結果を図1に示す。
図1の縦軸はサンプル無添加群の生存細胞数(タンパク質定量値)に対するサンプル添加群の生存細胞数(タンパク質定量値)を示し、相対生存率を表す。すなわち、数値が1.0より大きいものはサンプル無添加群より生存率が高いことを示す。横軸は使用したサンプル濃度を表す。
その結果、熱水抽出液サンプルにおいて10−8〜10−4g/mlの低濃度で細胞保護作用すなわち抗アルツハイマー効果が認められたが、70%エタノール抽出液サンプルには細胞保護作用は認められなかった。
(処方例1)クコ植物材料抽出物含有錠剤の製造
クコ抽出物(製造例2) 45重量部
乳糖 35重量部
結晶セルロース 15重量部
ショ糖脂肪酸エステル 5重量部
上記組成で混合、打錠して、クコ植物材料抽出物を含有する飲食用錠剤を製造した。
(処方例2)クコ植物材料抽出物含有ソフトカプセルの製造
クコ抽出物(製造例2) 40重量部
オリーブ油 55重量部
グリセリン脂肪酸エステル 5重量部
上記組成で混合、粉砕し、ゼラチン製カプセルに充填して、クコ植物材料抽出物を含有す
る飲食用カプセル剤を製造した。
(処方例3)クコ植物材料抽出物含有清涼飲料水の製造
クコ植物材料抽出物(製造例2) 1重量部
液糖 30重量部
クエン酸 0.1重量部
香料 0.5重量部
水 150重量部
上記組成で混合して、クコ植物材料抽出物を含有する清涼飲料水を製造した。
(処方例4)クコ植物材料抽出物含有クラッカーの調製
クコ抽出物(製造例2) 1重量部
薄力粉 120重量部
食塩 1重量部
ベーキングパウダー 2重量部
バター 30重量部
水 40重量部
上記組成で常法によりクコ植物材料抽出物含有クラッカーを調製した。
(処方例5)クコ植物材料抽出物含有ドレッシングの調製
クコ抽出物(製造例2) 10重量部
オリーブ油 80重量部
食酢 60重量部
食塩 3重量部
コショウ 1重量部
レモン水 5重量部
上記組成で常法によりクコ植物材料抽出物含有ドレッシングを調製した。
(処方例6)クコ植物材料抽出物含有チューインガムの調製
クコ抽出物(製造例2) 0.5重量部
ガムベース 20重量部
砂糖 70重量部
香料 0.5重量部
水 適量
上記組成で常法によりクコ植物材料抽出物含有チューインガムを調製した。
(処方例7)クコ植物材料抽出物含有茶の調製
クコ抽植物材料出物(製造例2)適量をお湯に溶解する
【産業上の利用可能性】
本明細書に示したクコ植物材料抽出物は、脳神経細胞死の予防及び/又は改善あるいはアルツハイマーの予防及び/又は改善に有用である。本発明のクコ植物材料抽出物は、安全性が高いうえに簡単な方法で調製することができるため、医薬品、飲食品などへの利用性が高くその応用範囲はきわめて広いものと期待される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クコ属(Lycium)植物材料またはそこからの抽出物を有効成分とする脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤。
【請求項2】
クコ属植物が、枸杞子(クコシ)(Lycium chinensis)である請求項1記載の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤。
【請求項3】
クコ属(Lycium)植物材料からの抽出物がクコを水、又は、水主体の混合溶剤により抽出することによって得られる抽出物である、請求項1または2記載の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤。
【請求項4】
クコ属(Lycium)植物材料またはそこからの抽出物を有効成分とするアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤。
【請求項5】
クコ属植物が、枸杞子(クコシ)(Lycium chinensis)である請求項3記載のアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤。
【請求項6】
クコ属(Lycium)植物抽出物がクコを水、又は、水主体の混合溶剤により抽出することによって得られる抽出物である、請求項4または5記載のアルツハイマー病の予防及び/又は改善剤。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか記載の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいは請求項4〜6いずれか記載のアルツハイマー病予防及び/又は改善剤、並びに飲食用に許容される担体を含む飲食用組成物。
【請求項8】
請求項1〜3いずれか記載の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいは請求項4〜6いずれか記載のアルツハイマー病予防及び/又は改善剤、並びに医薬用に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜3いずれか記載の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいは請求項4〜6いずれか記載のアルツハイマー病予防及び/又は改善剤、並びに化粧品用に許容される担体を含む化粧品組成物。
【請求項10】
クコ属植物材料を、水または水主体の混合溶剤と接触させることを含む、請求項1〜3いずれか記載の脳神経細胞死の予防及び/又は改善剤あるいは請求項4〜6いずれか記載のアルツハイマー病予防及び/又は改剤の製造方法。
【請求項11】
クコ属植物材料を、水または水主体の混合溶剤と接触させることを含む、請求項7ないし9いずれかの組成物の製造方法。
【請求項12】
哺乳動物対象に、有効量の請求項1〜3いずれか剤を投与することを含む、脳神経細胞死を予防及び/または改善するための方法。

【国際公開番号】WO2005/018656
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513257(P2005−513257)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011037
【国際出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】