説明

腫瘍の治療

【課題】腫瘍の治療方法の提供。
【解決手段】化学療法剤と、その化学療法剤によって発現がアップレギュレートされる遺伝子産物のアンタゴニストとを投与する方法。化学療法剤がCPT-11又は5-FUであり、アンタゴニストが、抗体、抗体断片、免疫抱合体、ペプチド、非ペプチド有機小分子、アンチセンス分子、及びオリゴヌクレオチドデコイからなる群から選択される。CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48/(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);アンチロイコプロテナーゼ(受託番号X04470);アクアポリン(受託番号N74607);アネキシン8(受託番号X16662);ニューロメディンU(受託番号X76029);マスピン(受託番号U04313)などの遺伝子からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(発明の分野)
本発明は腫瘍の治療に関する。特に、本発明は、化学療法剤と該化学療法剤により発現がアップレギュレートされる遺伝子産物のアンタゴニストの投与を組み合わせる、癌を含む腫瘍を治療するための改善された方法に関する。本発明は更に腫瘍の診断及び分類、並びに腫瘍治療の結果、及び特定の治療法に対する患者の応答の予後のための方法及び手段に関する。
【0002】
(関連技術の説明)
結腸直腸癌は合衆国だけで死亡者が毎年50000人を超える、西洋諸国における癌死亡率の主要な原因である(Greenlee等 Cancer statistics, 2001, CA Cancer J. Clin. 51:15-36)。結腸直腸癌と診断された患者のおよそ50%が、原発性腫瘍の外科的切除によって成功裏に治療されている。残りの患者は、5年生存率が原発性病巣の浸潤及び転移のために急激に落ちる進行疾患と診断され、又は手術後に進行疾患に進む(Adjei, A.A. (1999), Br. J. Clin. Pharmacol. 48:265-277)。これらの患者は全身療法の候補であり、手術後に補助療法において又は手術に不適格な患者に対して苦痛緩和療法として施される。過去40年の間、5−フルオロウラシル(5-FU)が結腸直腸癌の治療のための一次療法となっていた。5-FUは、しばしば、5-FUによるチミジル酸生成酵素の阻害を亢進するロイコボリンのような薬剤と併用して使用される(Poon等 (1991) J. Clin. Oncol. 9, 1967-1972)。しかしながら、チミジル酸生成酵素の阻害だけでは結腸直腸癌での効果に関して限界に近づいていると思われる(Ragnhammer等 (2001) Acta Oncol 40, 282-308)。より最近は、イリノテカン(CPT-11)が、5-FUをベースとした治療が失敗した患者に対して効果があることが証明され、引き続いて5-FUとの併用療法で試験された(Saltz等 (2000) JV. Engl. J. Med. 343, 905-914)。5-FU/ロイコボリン+CPT-11は進行した結腸直腸癌における一次療法として現在推奨されている。
【0003】
合衆国における女性の癌の最も一般的な群は乳癌であり、これは、その病理が異なり標準的な治療法には異なって反応する、数種の区別される亜類型を含む複雑な病気である。幾つかのグループは様々な乳癌タイプを分類し又は臨床的結果を予測するために遺伝子発現研究を実施している(Golub等 (1999) Science 286:531-537;Bhattachrjae等 (2001) Proc. Nαtl. Acαd. ScL USA 98:13790- 13795;Chen-Hsiang等 (2001), Bioinformαtics 17 (Suppl. 1):S316-S322;Ramaswamy等 (2001) Proc. Nαtl Acαd. ScL USA 98:15149-15154 (2001);Martin等 (2000) Cancer Res. 60:2232-2238;West等 (2001) Proc. Natl. Acad. ScL USA 98:11462-11467);Sorlie等 (2001) Proc. Natl. Acad. ScL USA 98:10869-10874;Yan等, Cancer Res. 61:8375-8380 (2001);Van De Vivjer等 (2002), New England Journal of Medicine 347: 1999-2009;Ahr等, (2002) Lancet 359:131-2; van't Veer等 (2002) Nature 415:530-6;Dowsett及びEllis (2003) Am. J. CHn. Oncol. 25:S34-9を参照)。5-FUでの治療は乳癌株化細胞及び5-FU耐性結腸直腸癌株化細胞中のある種の遺伝子を転写的に活性化させると報告されている(Maxwell等 (2003) Cancer Res. 63 :4602-4606)。
【0004】
(発明の概要)
本発明は、標準的なケア化学療法への曝露後の正常細胞と癌細胞の間の遺伝子発現の差を、癌の新しい併用療法を提供するために利用することができるという認識に少なくとも部分的に基づいている。例えば、薬物治療後に癌細胞において優先的に誘導される細胞表面抗原は、その薬剤と併用して使用される例えば治療用抗体又は小分子のようなアンタゴニストのための標的となるかも知れない。また、薬剤処置癌細胞が関与する遺伝子プログラムの理解は、効能及び予後のための新しいマーカー並びに薬物作用の機序の更なる理解をもたらしうる。
【0005】
一側面では、本発明は、腫瘍と診断された患者に、有効量の化学療法剤と、該化学療法剤によって対応の正常細胞と比較して該腫瘍において発現が選択的にアップレギュレートされることが測定された遺伝子によってコードされる遺伝子産物のアンタゴニストとを投与することを含む方法に関する。
他の側面では、本発明は、腫瘍細胞の増殖を阻害する方法において、
(a)化学療法剤によって正常細胞と比較して上記腫瘍細胞において選択的にアップレギュレートされた少なくとも一の遺伝子の存在を確認し;
(b)上記腫瘍細胞を、化学療法剤と選択的にアップレギュレートされた遺伝子の少なくとも一のアンタゴニストで処置することを含む方法に関する。
【0006】
また他の側面では、有効量の化学療法剤と、該化学療法剤によって対応の正常細胞と比較して腫瘍細胞において発現が選択的にアップレギュレートされる遺伝子によってコードされる遺伝子産物のアンタゴニストとを含有する治療用組成物に関する。
更に他の側面では、本発明は、
(a)化学療法剤での治療の前と後で、対応の正常細胞と比較して、腫瘍と診断された患者における一又は複数の遺伝子の発現レベル又はその発現産物を測定し;
(b)発現が化学療法剤での処置によって選択的に誘導された遺伝子のアンタゴニストと化学療法剤での併用治療に対して良好に応答する見込みがあるとその患者を同定することを含む予後方法に関する。
全ての側面において、腫瘍は好ましくは癌であり、例えば、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、又は脳腫瘍である。
【0007】
化学療法剤は、例えば癌のような腫瘍の治療のために現在使用されているか又は将来開発される任意の分子でありうる。化学療法剤には、限定するものではないが、アルキル化剤;スルホン酸アルキル類;アジリジン類;エチレンイミン類;メチラメラミン類;ナイトロジェンマスタード;ニトロソ尿素(nitrosureas);抗代謝産物;葉酸類似体;プリン類似体;ピリミジン類似体;アンドロゲン類;抗副腎剤;葉酸リプレニッシャー(replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidamine);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダモール(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリニック酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン(razoxane);シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2'';-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカーバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン;クロランブシル;ゲンシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ類似体;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イフォスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン(Navelbine);ノバントロン(novantrone);テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);カンプトテシン-11(CPT-11);トポイソメラーゼインヒビターRFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン;カペシタビン(capecitabine);抗ホルモン剤;及びその製薬的に許容可能な塩、酸又は誘導体が含まれる。
【0008】
全ての側面において、好ましい化学療法剤はCPT-11又は5-FUである。
全ての側面において、アンタゴニストには、例えば、抗体、ペプチド、非ペプチド有機小分子、アンチセンス分子、及びオリゴヌクレオチドデコイが含まれ、抗体(抗体断片を含む)及び非ペプチド有機小分子が好ましい。抗体はヒト化(キメラ抗体を含む)、又は例えばヒトでありうる。アンタゴニストは遺伝子産物に結合可能か又は相互作用等しうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】CPT-11によって誘導された細胞表面タンパク質をコードするmRNA転写物(表I)。A.CPT-11又は生理食塩水を投与されたマウスにおいて増殖された異種移植腫瘍からのRNAのリアルタイムPCR分析。6つの転写物の相対量は、各グループからの3つの腫瘍において測定し、任意に1に設定したS1に対する倍数変化としてプロットした。サイクル閾値(Ct)をGAPDH(白色の棒)及びアクチン(黒色の棒)に対して正規化した。B.48時間の間の10μMのCPT-11の添加後のLY6D/E48mRNA誘導の時間過程。倍数変化はビヒクルコントロールに対するものである。転写物はPC3及び293細胞株では検出されなかった(ND)。
【図2】マイクロアレイ分析によって同定されたmRNA転写物のリアルタイムPCR分析。CPT-11によって誘導された遺伝子の幾つかの相対発現レベル(表I)を、Colo205及びDLD-1腫瘍から抽出したRNAを使用する平行分析において比較した。サイクル閾値をGAPDH(白色の棒)及びアクチン(黒色の棒)の双方に対して正規化し、倍数増加を、1の値に設定したS1に対するものとした。
【図3】ヒト腫瘍異種移植片において誘導されるものと相同のマウス腸転写物の発現。シグナル強度はCPT-11(黒色の棒)又は生理食塩水コントロール(白色の棒)で処置したマウスからの3つの独立したヒト腫瘍異種移植片から抽出したRNAのオリゴヌクレオチドアレイ分析によって標準偏差を介して提示される。示された転写物は倍数変化アルゴリズムによって決定された(表I)ヒトアレイ(上パネル)上で最も高く最も一致した誘導を受け、またマウスアレイ上のホモログによってもまた表された(下)ものである。
【図4】インビトロでのCPT-11によるColo205細胞中でのE48/Ly−6D遺伝子発現の誘導。培養したColo205細胞を、示した濃度のCPT-11と共に2日間インキュベートした後、E48/Ly−6Dに特異的なモノクローナル抗体を用いて、免疫蛍光染色(A)又は蛍光標識細胞分取(B)を実施した。E48/Ly−6Dに対する免疫蛍光染色は抗体15A5(緑色)を用いて実施し、細胞は核を局在化するためにDAPI(青色)で対比染色した。蛍光標識細胞分取はE48/Ly−6Dに対する2つの独立のモノクローナル抗体(15A5及び17H7)、E48上に存在しないエピトープに対するコントロール抗体(GD)及び二次(2°)抗体のみで実施した。
【図5】インビボでの腫瘍増殖に対するCPT-11及び抗LY6D/E48−vc−MMAEの効果。マウスにcolo205ヒト結腸直腸癌細胞を播種した。触診可能な腫瘍が出現した後に、動物に、示されたスケジュールに従って、80mg/kgのCPT-11を3用量、単独で、又はネガティブコントロールとして3mg/kgの抗LY6D/E48−vc−MMAE又は抗IL8−vc−MMAEと併用して投与した。
【図6】抗LY6D/E48免疫コンジュゲートと併用したCPT-11の抗腫瘍活性。A.Colo205ヒト腫瘍異種移植片を有するヌードマウスに80mg/kgのCPT-11を3用量(白抜きの矢印)プラス3mg/kgの抗LY6D/E48−vc−MMAE又はコントロール免疫コンジュゲート抗IL8−vc−MMAE何れかを4用量(塗り潰した矢印)投与した。第三のグループにはCPT-11プラスMAbビヒクル(PBS)を投与した。B.免疫コンジュゲート及びPBSコントロールを、CPT-11なしの状態で投与した。
【図7】Colo205ヒト腫瘍異種移植片のH&E染色。腫瘍異種移植片をホルマリン/エタノールに固定し、切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。CT-11(右)又は生理食塩水(左)を投与したマウスの腫瘍の例を示す。
【図8】正常な腸に対する遺伝子発現データの分散プロット。2Dプロットとして提示された、生理食塩水(Y軸)又はCPT-11(X軸)で処置された腫瘍保有マウスの正常な腸から抽出されたRNAで得られたオリゴヌクレオチドアレイデータ。Mu74Av2マウスチップセット上の全てのプローブに対するシグナル強度をlog10尺度でプロットした。殆どのプロットは対角になり、これは、CPT-11での処置に差がないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(好適な実施態様の詳細な説明)
A.定義
特に特段の定義をしない限り、ここで使用される技術的及び科学的用語は、この発明が属する分野の当業者が通常理解するところと同じ意味を持つ。Singleton等, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版, J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)、及びMarch, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 第4版, J. Wiley & Sons (New York, NY 1992)は、当業者に本出願において使用される用語の多くに対する一般的なガイドを与える。
当業者は、本発明の実施に使用することができるであろう、ここに記載のものと同様もしくは等価な多くの方法及び材料が分かるであろう。実際、本発明は記載された方法及び材料に決して限定されるものではない。本発明の目的のために、次の用語を以下に定義する。
「マイクロアレイ」は、基質上の、ハイブリダイズ可能なアレイ要素、好ましくはポリヌクレオチドプローブの秩序だった配置を意味する。
【0011】
単数又は複数で使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、一般に任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味し、これは未修飾RNA又はDNA又は修飾RNA又はDNAでもよい。よって、例えば、ここで定義されるポリヌクレオチドには、限定するものではないが、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域を含むDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、及び一本鎖及び二本鎖領域を含むRNA、一本鎖であってもよく、又はより典型的には二本鎖であっても又は一本鎖又は二本鎖領域を含んでもよいDNA及びRNAを含む混成分子が含まれる。またここで使用される「ポリヌクレオチド」という用語はRNA又はDNA又はRNAとDNAの双方を含む三本鎖領域を意味する。そのような領域のストランドは同じ分子由来でも又は異なった分子由来でもよい。その領域は一又は複数の分子の全てを含みうるが、より典型的には幾らかの分子の領域のみを含む。三本ヘリックス領域の分子の一つがしばしばオリゴヌクレオチドである。「ポリヌクレオチド」という用語は特にcDNAsを含む。その用語には、一又は複数の修飾塩基を含むDNAs(cDNAsを含む)及びRNAsが含まれる。よって、安定性又は他の理由のために修飾された骨格を持つDNAs又はRNAsは、その用語がここで意図するところの「ポリヌクレオチド」である。更に、イノシンのような希な塩基又はトリチウム化塩基のような修飾された塩基を含むDNAs又はRNAsはここで定義される「ポリヌクレオチド」という用語内に含まれる。一般に、「ポリヌクレオチド」という用語は未修飾のポリヌクレオチドの全ての化学的、酵素的及び/又は代謝的に修飾された形態並びに単純細胞及び複雑型細胞を含む細胞及びウイルスに特徴的なDNA及びRNAの化学的形態を包含する。
【0012】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、限定するものではないが、一本鎖デオキシリボヌクレオチド、一本鎖又は二本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッド及び二本鎖DNAを含む比較的短いポリヌクレオチドを意味する。一本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチドのようなオリゴヌクレオチドは、例えば市販されている自動オリゴヌクレオチド合成機を使用して、化学的方法によってしばしば合成される。しかしながら、オリゴヌクレオチドは、インビトロ組換えDNA媒介法を含む様々な他の方法によって、及び細胞及び生物中でのDNAの発現によって、作製することができる。
【0013】
「差次的に発現された遺伝子」、「差次的遺伝子発現」という用語及びその同義語は、交換可能に使用され、正常な又はコントロール患者でのその発現と比較して、疾患、特に乳癌のような癌に罹患している患者においてより高いか又はより低いレベルまで発現が活性化される遺伝子を意味する。その用語はまた発現が同じ疾患の異なった段階でより高いか又はより低いレベルにある遺伝子を含む。その用語はまたある種の治療薬に対して有意に感受性又は耐性である患者において発現がより高いか又はより低い遺伝子を含む。差次的に発現された遺伝子は核酸レベル又はタンパク質レベルで活性化されるか又は阻害されうるか、あるいは選択的スプライシングを受けて異なったポリペプチド産物になりうることがまた理解される。そのような差異は例えばポリペプチドのmRNAレベル、表面発現、分泌又は他の分割の変化によって裏付けられうる。差次的遺伝子発現は、正常な被験者と疾患、特に癌に罹患している患者との間で、あるいは同じ疾患の様々な段階の間で異なる、二又はそれ以上の遺伝子又はその遺伝子産物間での発現の比較、又は二又はそれ以上の遺伝子又はその遺伝子産物間での発現の比の比較、又は更には同じ遺伝子の二つの異なってプロセシングされた産物の比較を含む。差次的発現は、例えば正常細胞及び疾患細胞の間、又は異なった疾患事象又は疾患段階を被った細胞間、又はある種の治療薬に有意に感受性であるか耐性である細胞の中で、遺伝子又はその発現産物における時間的又は細胞性発現パターンの定量的な差異並びに定性的な差異の双方を含む。本発明の目的に対して、「差次的遺伝子発現」は、正常な被験者と疾患の患者における、又は疾患の患者の疾患の進行の様々な段階における、又はある種の治療薬に対して差次的に感受性である患者における所与の遺伝子の発現において少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約4倍、より好ましくは少なくとも約6倍、最も好ましくは少なくとも約10倍の差があるときに、存在すると考えられる。
【0014】
「選択的にアップレギュレートされる」という用語は、同一の治療患者において、対応する正常組織では有意な誘導は検出されないのに、与えられた治療によって腫瘍中で少なくとも2倍誘導される遺伝子を意味するためにここでは使用される。
ここで使用される「腫瘍」という用語は、悪性であれ良性であれ、全ての新生物細胞成長及び増殖、及び全ての前癌状態及び癌性細胞及び組織を意味する。
「癌」及び「癌性」という用語は、典型的には調節されない細胞成長によって特徴付けられる哺乳動物における生理学的状態を指すか記述する。癌の例には、限定されるものではないが、乳癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、及び脳腫瘍が含まれる。
【0015】
癌の病理には、患者の健康と妥協するあらゆる現象が含まれる。これには、限定するものではないが、異常な又は制御できない細胞増殖、転移、周辺細胞の正常な機能の妨害、異常なレベルでのサイトカイン又は他の分泌産物の放出、炎症又は免疫学的応答の抑制又は悪化、新生組織形成、前悪性、悪性、例えばリンパ節のような周囲の又は遠い組織又は器官の浸潤等々が含まれる。
「治療」という用語は、治療的処置及び予防的又は防止的療法の両方を意味し、標的とする病的状態又は疾患の防止又は遅延(減少)を目的とする。治療が必要なものとは、既に疾患に罹っているもの、並びに疾患に罹りやすいもの又は疾患が防止されるべきものを含む。腫瘍(例えば癌)の治療において、治療剤とは、腫瘍細胞の病変を直接減少し得、又は腫瘍細胞を、他の治療剤、例えば放射線療法及び/又は化学療法による治療により感受性にするものでありうる。
【0016】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びシクロスホスファミド(CYTOXAN(登録商標))のようなアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのようなスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)のようなアジリジン類;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;ナイトロジェンマスタード、例えばクロランブシル、クロロナファジン(chlornaphazine)、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード;ニトロスレアス(nitrosureas)、例えばカルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばアクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン(mitomycins)、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin)などの抗生物質;メトトレキセート及び5-フルオロウラシル(5-FU)のような抗代謝産物;デノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate)のような葉酸類似体;フルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンのようなプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine)のようなピリミジン類似体;カルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone)のようなアンドロゲン類;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンのような抗副腎剤;フロリン酸(frolinic acid)のような葉酸リプレニッシャー(replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidamine);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダモール(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK.R(登録商標);ラゾキサン(razoxane);シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン類、例えばパクリタキセル(タキソール(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ)及びドキセタキセル(タキソテア(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France);クロランブシル;ゲンシタビン(gemcitabine);6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;シスプラチン及びカルボプラチンのようなプラチナ類似体;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イフォスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン(navelbine);ノバントロン(novantrone);テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);カンプトテシン-11(CPT-11);トポイソメラーゼインヒビターRFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン(esperamicin);カペシタビン(capecitabine);並びに上述したものの製薬的に許容可能な塩、酸又は誘導体が含まれる。また、この定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン(raloxifene)、4(5)-イミダゾール類を阻害するアロマターゼ、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストーン(onapristone)、及びトレミフェン(Fareston)などを含む抗エストロゲン;及びフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリンなどを含む抗アンドロゲン;並びに上記のものの製薬的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体が含まれる。
【0017】
ここで使用される場合の「増殖阻害剤」とは、インビトロ又はインビボの何れかにおいて、例えば癌のような腫瘍細胞の増殖を阻害する化合物又は組成物を意味するものである。よって、増殖阻害剤とは、S期における腫瘍細胞の割合を有意に低減させるものである。増殖阻害剤の例には、(S期以外の場所において)細胞分裂周期の進行をブロックする薬剤、例えばG1停止及びM期停止を誘発する薬剤が含まれる。古典的なM期ブロッカーには、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキソール(登録商標)、及びトポIIインヒビター、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンが含まれる。G1を停止させるこれらの薬剤、例えばDNAアルキル化剤、例えばタモキシフェン、プレドニソン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル(5-FU)、及びアラ-CがS期停止へ波及する。更なる情報は、Murakami等により「Cell cycle regulation, oncogene, and antineoplastic drugs」と題されたThe Molecular Basis of Cancer、Mendelsohn及びIsrael編、第1章(WB Saunders;Philadelphia, 1995)、特に13頁に見出すことができる。
【0018】
「ネオアジュバント療法」は一次(主な)療法の前に与えられる補助又はアジュバント療法である。ネオアジュバント療法には、例えば化学療法、放射線療法、及びホルモン療法が含まれる。よって、化学療法は、腫瘍を小さくして、手術をより効果的にするために、又はそれまでは手術不能であった腫瘍の場合には手術を可能にするために、手術の前に施すことができる。
薬剤投与に言及する場合の「フロントローディング(front loading)」とは、最初に多くの投与量にした後、同じかより少ない量を間隔をおいて投与することを意味する。初期のより多い用量は、動物又はヒト患者の血清薬物濃度を、効果がある標的血清濃度までより急速に増加させることを意味する。フロントローディングによる薬剤デリバリーは例えば静脈内又は皮下的に、注入又はボーラス投与することによる初期及び維持用量の送達を含む。
「抗体」(Abs)と「免疫グロブリン」(Igs)は同じ構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体は特定の抗原に対して結合特異性を示すものであるが、免疫グロブリンは、抗体と抗原特異性を欠く他の抗体様分子の両方を含む。後の種類のポリペプチドは、例えばリンパ系によって低レベルで、また骨髄腫によって増加したレベルで、産生される。
【0019】
「天然抗体」及び「天然免疫グロブリン」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド架橋を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(V)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを有し;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。それは、共に軽鎖及び重鎖の可変ドメインにある相補性決定領域(CDRs)又は高頻度可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、大きくベータ-シート構造とり、β-シート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、CDRsにより連結された4つのFR領域をそれぞれ含んでいる。各鎖のCDRは、FRにより近接して結合せしめられ、他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, NIH Publ. No.91-3242, Vol.I, 647-669頁(1991)参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、抗体依存性細胞毒性への抗体の関与といった種々のエフェクター機能を示す。
【0020】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれ、各々単一の抗原結合部位を持つ2つの同一な抗原結合断片と、容易に結晶化する能力を反映した名称の残りの「Fc」断片を生成する。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有するが、交差結合抗原であり得るF(ab')断片が生成される。
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含む最小抗体断片である。この領域は、緊密に非共有的に結合した一つの重鎖と一つの軽鎖の二量体からなる。この配置では、V−V二量体の表面における抗原結合部位を決定するために各可変領域の3つのCDRが相互作用する。集合的には、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原特異的な3つのCDRしか含まないFvの半分)でさえも抗原を認識し結合する能力を持つが、結合部位全体よりは親和性が低い。
また、Fab断片は軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含む。Fab断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端における数個の残基の付加によりFab断片と相違する。Fab’-SHは、ここにおいて、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を持つFab'の記号である。F(ab')抗体断片は、元々、それらの間にヒンジシステインを持つFab'断片の対として生成された。抗体断片の他の化学的結合もまた知られている。
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる一つ又は二つの明らかに異なる型に分類できる。
【0021】
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、免疫グロブリンは異なるクラスに分けられる。免疫グロブリンの5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらの幾つかは、更にサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に分けられる。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、各々α、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元配置は良く知られている。
「抗体」という用語は最も広義に使用され、特に無傷のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの無傷の抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片も含む。
「抗体断片」には、無傷の抗体の一部、好ましくは無傷の抗体の抗原結合又は可変領域が含まれる。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')及びFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体(Zapata等, Polypeptide Eng. 8(10):1057-1062[1995]);単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0022】
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量で存在しうる自然に生じる可能な突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、一つの抗原部位に対している。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含む通常の(ポリクローナル)抗体と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成される点で有利である。「モノクローナル」との修飾詞は、実質的に均一な抗体集団から得られているという抗体の特徴を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、Kohler等, Nature 256, 495 (1975)に最初に開示されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは例えば組換えDNA法によって作ることができる(例えば、米国特許第4816567号参照)。また「モノクローナル抗体」は、例えばClackson等, Nature 352:624-628(1991)、及びMarks等, J. Mol. Biol. 222:581-597(1991)に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリから単離することもできる。
ここで、モノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種由来の抗体あるいは特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか相同であり、鎖の残りの部分が他の種由来の抗体あるいは他の抗体クラスあるいはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びにそれが所望の生物的活性を有する限りそれら抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号; Morrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855[1984])。
【0023】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型とは、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖あるいはそれらの断片(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')あるいは抗体の他の抗原結合サブ配列)であって、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むものである。大部分においてヒト化抗体はレシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、マウス、ラット又はウサギのような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入されたCDRもしくはフレームワーク配列にも見出されない残基を含んでもよい。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練し、最適化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいはほとんど全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいはほとんど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、最適には免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含んでなる。更なる詳細は、Jones等, Nature 321, 522-525(1986);Reichman等, Nature 332, 323-329(1988)及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596(1992)を参照のこと。ヒト化抗体は、抗体の抗原結合領域が、関心のある抗原でマカクザルを免疫化することにより生産された抗体から由来する霊長類化(PRIMATIZEDTM)抗体を含む。
「単鎖Fv」すなわち「sFv」抗体断片は、抗体のV及びVドメインを含有するもので、これらのドメインはポリペプチド単鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドは、sFvが抗原結合に対する所望の構造を形成できるようにするポリペプチドリンカーをVとVドメインの間に更に含んでいる。sFvの概説は、例えば、Plueckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp.269-315(1994)を参照のこと。
【0024】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を意味するもので、断片は軽鎖可変ドメイン(V)に結合した重鎖可変ドメイン(V)を同じポリペプチド鎖(V-V)に含有する。同じ鎖上での二つのドメイン間の対合が許されないほど短いリンカーを使用することにより、ドメインが、他の鎖の相補的ドメインとの対合を強いられ、二つの抗原結合部位をつくりだす。ダイアボディは、例えば、欧州特許出願公開第404097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に更に十分に記載されている。
「単離された」抗体とは、自然環境の成分から、同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境における汚染成分は、抗体に対する診断又は治療用途と干渉する物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様では、抗体は、(1)ラウリー(Lowry)法により測定して抗体の95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、N末端あるいは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに充分な程度に;あるいは(3)クーマシーブルーあるいは好ましくは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEにより均一性が得られるまで、精製される。抗体の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、単離された抗体には、組換え細胞内のインシトゥー抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0025】
「治療」とは、治療的処置及び予防又は防止処置の両方を意味する。治療の必要があるものには、既に羅患しているもの、並びに疾患が予防されるべきものが含まれる。
治療の目的とされる「哺乳動物」とは、ヒト、高等の霊長類、齧歯類、家庭及び農場用動物、及び動物園、スポーツ又はペット用動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等を含む、哺乳動物に分類されるあらゆる動物を意味する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
ここで使用される「アンタゴニスト」という用語は、標的ポリペプチドの生物学的機能を阻害する能力を有する分子を意味する。従って、「アンタゴニスト」という用語は標的ポリペプチドの生物学的役割の意味で定義される。ここでの好適なアンタゴニストは標的と特異的に相互作用(例えば結合)するが、標的ポリペプチドがメンバーであるシグナル伝達経路の他のメンバーと相互作用することによって標的ポリペプチドの生物学的活性を阻害する分子もまた特にこの定義に含められる。アンタゴニストによって阻害される好適な生物学的活性は腫瘍の発生、生長、又は広がりに関連している。ここで定義されるアンタゴニストには、限定するものではないが、抗体、抗体断片、ペプチド、非ペプチド小分子、アンチセンス分子及びオリゴヌクレオチドデコイが含まれる。
【0026】
B. 詳細な説明
本発明の実施には、特記しない限り、当業者の技量内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、及び生化学の一般的な技術を用いる。そのような技術は文献、例えば、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2版 (Sambrook等, 1989);"Oligonucleotide Synthesis" (MJ. Gait編, 1984);"Animal Cell Culture" (R.I. Freshney編, 1987);"Methods in Enzymology" (Academic Press, Inc.);"Handbook of Experimental Immunology", 4版(D.M. Weir & CC. Blackwell編, Blackwell Science Inc., 1987);"Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells" (J.M. Miller及びM.P. Calos, eds., 1987);"Current Protocols in Molecular Biology" (F.M. Ausubel等編, 1987);及び"PCR: The Polymerase Chain Reaction", (Mullis等編, 1994)に十分に説明されている。
【0027】
遺伝子発現プロファイリング法
本発明は与えられた化学療法剤を用いた治療の前と後における腫瘍試料と対応する正常な試料について実施した遺伝子発現解析の結果を利用する。
遺伝子発現プロファイリングの方法には、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション解析に基づく方法、ポリヌクレオチドの配列解析に基づく方法、及びプロテオミクスベース法が含まれる。試料中のmRNA発現を定量化するために、当該分野で最も広く用いられている方法には、ノーザンブロット及びインサイツハイブリダイゼーション(Parker及びBarnes, Methods in Molecular Biology 106: 247-283(1999);リボヌクレアーゼ保護アッセイ(Hod, Biotechniques 13: 852-854(1992);及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)(Weis等, Trends in Genetics 8: 263-264(1992))が含まれる。あるいは、DNA二重鎖、RNA二重鎖、及びDNA-RNAハイブリッド二重鎖又はDNA-タンパク質二重鎖を含む特定の二重鎖を認識できる抗体を用いてもよい。配列決定ベースの遺伝子発現解析の代表的な方法には、連続遺伝子発現解析(SAGE)及び網羅的パラレルシグネーチャシークエンシング(massively parallel signature sequencing)(MPSS)による遺伝子発現解析が含まれる。
【0028】
差次的遺伝子発現はしばしばマイクロアレイ技術を用いて研究されている。よって、化学療法剤での治療前と治療後における腫瘍細胞中の遺伝子の発現プロファイルを、マイクロアレイ技術を用いて測定することができる。この方法では、(cDNA及びオリゴヌクレオチドを含む)対象のポリヌクレオチド配列をマイクロチップ基板上へプレーティングし、又はアレイ化する。ついで、アレイ化した配列を、対象の細胞又は組織由来の特異的DNAプローブとハイブリダイズさせる。mRNAの供給源は、例えばヒト腫瘍又は腫瘍細胞株及び対応する正常組織又は細胞株から単離される全RNAでありうる。
マイクロアレイは異なった形式をとりうる。よって、例えばcDNA(典型的には約500−5000塩基長)を、ロボットスポッティングによりガラスのような固体表面上に固定化、標的セットに別個に又は混合物として曝露することができる。「伝統的に」DNAマイクロアレイと呼ばれるこの方法は例えばR. Ekins及びF.W. Chu (1999) Trends in Biotechnology, 17:217-218に記載されている。
他の形式では、オリゴヌクレオチド(典型的には約20−80マーのオリゴ)又はペプチド核酸(PNA)プローブのアレイを、インサイツ(オンチップ)でかオンチップ固定化が続く一般的合成法によって合成する。そのアレイを標識試料DNAに曝露し、ハイブリダイズし、相補配列の同一性/存在量を決定する。一般にオリゴヌクレオチドマイクロアレイと呼ばれるこの形式はAffimetrixから入手可能であり、そこでは、商標GeneChip(登録商標)の下でそのフォトリソグラフィー的に製造された製品が販売されている。
【0029】
他の一般的に使用される遺伝子発現プロファイリング法は逆転写酵素PCR(RT-PCR)である。RNAはPCRの鋳型とはならないので、RT-PCRによる遺伝子発現プロファイリングにおける最初の段階は、RNA鋳型のcDNAへの逆転写であり、PCR反応におけるその指数関数的増幅が続く。二つの最も広く用いられている逆転写酵素はトリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV-RT)とマウス白血球ウイルス逆転写酵素(MMLV-RT)である。逆転写段階は、発現プロファイリングの環境及び目的に依存し、典型的には、特異的プライマー、ランダムヘキサマー、又はオリゴ-dTプライマーを使用してプライムされる。
PCR段階では、種々の熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを使用することができるが、典型的には、5'-3' ヌクレアーゼ活性を有するが3'-5' プルーフリーディングエンドヌクレアーゼ活性を欠くTaq DNAポリメラーゼを用いる。よって、TaqMan(登録商標)PCRでは、典型的には、Taq又はTthポリメラーゼの5’-ヌクレアーゼ活性を用いて、その標的アンプリコンに結合したハイブリダイゼーションプローブを加水分解するが、5’ヌクレアーゼ活性と同等の任意の酵素を用いることができる。PCR反応に典型的なアンプリコンを生成するために二つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。三番目のオリゴヌクレオチド、又はプローブを、二つのPCRプライマー間に位置するヌクレオチド配列を検出するために設計する。このプローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素によって伸長せず、レポーター蛍光色素及び消光蛍光色素で標識される。このレポーター色素の如何なるレーザー誘導放射も、プローブ上でこの二つの色素が近接して位置している場合には、消光色素によって消光する。増幅反応の間、Taq DNAポリメラーゼ酵素は、テンプレート依存形式でプローブを切断する。この結果生じたプローブ断片は溶液中で解離し、遊離したレポーター色素からのシグナルは、二番目のフルオロフォアの消光効果とは無関係である。新しい分子が合成される度にレポーター色素の一分子が遊離し、消光しないレポーター色素の検出がデータの定量的な解釈の基礎を提供することになる。
【0030】
TaqMan(登録商標)RT-PCRは、例えば、ABI PRIZM7700TM Sequence Detection SystemTM(Perkin-Elmer-Applied Biosystems, フォスターシティー, カリフォルニア, アメリカ合衆国)、又はLightcycler(Roche Molecular Biochemicals, マンハイム, ドイツ)等の商業的に入手可能な装置を使用して実施することができる。5'-ヌクレアーゼアッセイのデータは、Ct又は閾値サイクルとして最初に表される。上で論じたように、蛍光値は毎サイクルの間に記録され、増幅反応においてそのポイントまでに増幅した産物の総量を表す。蛍光シグナルが統計的に有意であるとして最初に記録された点が閾値サイクル(Ct)である。エラー及び試料と試料の間の変動による影響を最小限にするために、通常は内部標準を使用してRT-PCRを実施する。理想的な内部標準は、異なる組織間では比較的一定のレベルで発現し、実験上の処理によって影響を受けない。遺伝子発現のパターンを規準化するために頻繁に使用されるRNAは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)及びβ-アクチンのmRNAである。
【0031】
リアルタイム定量PCRは二重標識蛍光発生プローブ(つまりTaqMan(登録商標)プローブ)を通してのPCR産物の蓄積を測定する。リアルタイムPCRは、各標的配列に対する内部競合体が規準化に対して使用される定量競合PCRと、試料内に含まれる規準化遺伝子、又はRT-PCRのためのハウスキーピング遺伝子を使用する定量競合PCRの双方と適合性がある。更なる詳細については、例えば、Held等 (1996) Genome Research 6:986-994を参照のこと。
遺伝子発現プロファイリングの他の方法には、例えば、Sequenom社によって開発されたMassARRAY法 (San Diego, CA) (例えばDing及びCantor, (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:3059-3064を参照); ディファレンシャルディスプレイ法(Liang及びPardee, (1992) Science 257:967-971);増幅断片長多型法(iAFLP)(Kawamoto等, (1999) Genome Res. 12:1305-1312);BeadArrayTM法(Illumina, San Diego, CA; Oliphant等, Discovery of Markers for Disease (Supplement to Biotechniques), June 2002;Ferguson等, (2000) Analytical Chemistry 72:5618);遺伝子発現検出のためのビーズアレイ法(BeadsArray for Detection of Gene Expression(BADGE))で、遺伝子発現のための迅速なアッセイ(Yang等, (2001) Genome Res. 11:1888-1898)において市販のLuminex100LabMAPシステム及び複数カラーコードミクロスフィア(Luminex Corp., Austin, TX)を使用するもの;及び高適用範囲の発現プロファイリング(high coverage expression profiling (HiCEP))解析法(Fukumura等, (2003) Nucl. Acids. Res. 31(16) e94)が含まれる。
免疫組織化学ベースの方法では、抗体又は抗血清、好ましくはポリクローナル抗血清、最も好ましくは各マーカーに特異的なモノクローナル抗体が発現を検出するために使用される。抗体は、例えば放射性標識、蛍光標識、ハプテン標識、例えばビオチン、又は酵素、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼでの抗体自体の直接標識化によって検出することができる。あるいは、未標識の一次抗体を、一次抗体に特異的なモノクローナル抗体、抗血清又はポリクローナル抗血清を含む標識二次抗体と併用して使用する。免疫組織化学プロトコルとキットは当該分野においてよく知られており市販されている。
【0032】
本発明の一つの目的は、化学療法剤(例えば細胞毒性剤)にさらされたときに腫瘍細胞中で選択的に活性化される細胞表面分子の同定であるので、単独又は遺伝子発現解析と併用するプロテオミクス法は、ポリペプチド存在量の変化をモニターするのに特に適している。「プロテオーム」という用語は、ある時点における試料(例えば組織、生物、又は細胞培養物)中に存在するタンパク質の総計として定義される。プロテオミクスには、とりわけ、試料中のタンパク質発現の全体的変化の研究が含まれる(また「発現プロテオミクス」とも称される)。プロテオミクスには典型的には次の工程が含まれる:(1)2−Dゲル電気泳動法(2−D PAGE)による試料中の個々のタンパク質の分離;(2)例えば質量スペクトル又はN末端配列決定による、ゲルから回収された個々のタンパク質の同定、及び(3)バイオインフォマティクスを使用するデータ解析。プロテオミクス法は遺伝子発現プロファイリングの他の方法に対する貴重な補足法であり、本発明の細胞表面分子を検出するために、単独で又は他の方法との併用で使用できる。
【0033】
癌の化学療法
癌の化学療法剤での治療の目的は、患者を治癒し、あるいは少なくとも疾患の進行を遅延させ、生存率を増加させ、癌の再発の可能性を減少させ、症状を調節し、及び/または生活の質を維持又は改善することである。化学療法は癌のタイプに応じて変化し、固形腫瘍の場合には、原発性腫瘍の外科的除去の前及び/または後で実施することができる。ある種の癌に対しては、幾つかの一般に受け入れられている標準療法が存在するが、他のものの治療はまだ標準化されていない。
化学療法剤の例は既に列挙しており、一般にその作用機序に従って分類することができる。ある化学療法剤はDNA及びRNAを直接損傷する。DNAの複製を乱すことによって、そのような化学療法剤は複製を完全に停止させるか、又はナンセンスDNAまたはRNAの産生をもたらす。この範疇には、例えばシスプラチン(Platinol(登録商標))、ダウノルビシン(Cerubidine(登録商標))、ドキソルビシン(アドリアマイシン(登録商標))、及びエトポシデ(VePesid(登録商標))が含まれる。癌化学療法剤の他の群はヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの形成を妨害し、RNA合成及び細胞複製をブロックする。このクラスの薬剤の例には、メトトレキセート(アビトレキセート(登録商標))、メルカプトプリン(Purinethol(登録商標))、フルオロウラシル(Adrucil(登録商標))、及びヒドロキシ尿素(Hydrea(登録商標))が含まれる。化学療法剤の第三のクラスは紡錘体の合成又は破壊をなし、結果として細胞分裂を妨げる。このクラスの薬剤の例には、ビンブラスチン(Velban(登録商標))、ビンクリスチン(Oncovin(登録商標))及びタキセン類、例えばパクリタキセル(タキソール(登録商標))、及びトセタキセル(tocetaxel)(タキソテール(登録商標))が含まれる。例えば化学療法剤の化学構造に基づく他の分類もまた可能である。
【0034】
乳癌に対しては、ドキソルビシン(アドリアマイシン(登録商標))が大半に最も効果的な化学療法単剤であると考えられている。また、5-FUは数十年の間、臨床で使用されており、乳癌に対する多くの併用療法の拠り所である。乳癌の治療に一般的に使用される他の化学療法剤には、例えば、アントラサイクリン類、タキサン誘導体、及び様々な併用療法剤、例えばCMF(シクロホスファミド−メトトレキセート−フルオロウラシル)化学療法剤が含まれる。殆どの患者は腫瘍の外科的除去の直後に化学療法を施される。このアプローチは一般的にアジュバント療法と言われている。しかしながら、化学療法剤は、いわゆるネオアジュバント療法として、手術前にも投与することができる。ネオアジュバント化学療法の使用は進行型で手術が不能な乳癌の治療から始まっているが、他のタイプの癌の治療にも受け入れられるようになった。ネオアジュバント化学療法の効果は幾つかの臨床試験において試験されている。多施設国立外科アジュバント乳房・腸プロジェクト(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project) B-18 (NSAB B-18)治験(Fisher等, J. Clin. Oncology 15:2002-2004 (1997);Fisher等, J. Clin. Oncology 16:2672-2685 (1998))において、ネオアジュバント療法は、アドリアマイシンとシクロホスファミドの併用(「ACレジメン」)で実施された。他の臨床治験では、ネオアジュバント療法は、5-フルオロウラシル(5-FU)、エピルビシン及びシクロホスファミドの組み合わせ(「FECレジメン」)を使用して投与された(van Der Hage等, J. Clin. Oncol. 19:4224-4237 (2001))。他の臨床治験ではまたタキサン含有ネオアジュバント療法レジメンを使用している。例えばHolmes等, J. Natl. Cancer Inst. 83:1797-1805 (1991)及びMoliterni等, Seminars in Oncology, 24:S17-10-S-17-14 (1999)を参照のこと。乳癌のネオアジュバント療法についての更なる情報については、Cleator等, Endocrine-Related Cancer 9:183-195 (2002)を参照のこと。
単独又は併用で投与される5-FU、CPT-11(イリノテカン)、及びオキサリプラチンは進行性結腸直腸癌(CRC)の治療に効果的であることが実証されている(例えばGrothey等 (2004) J. Clin. Oncol. 22:1209-15を参照)。
非小細胞肺癌(NSCLC)は、ビノレルビン、シスプラチン及び場合によってはパクリタキセルの併用療法に良好に応答することが示されている(例えばRodriguez等 (2004) Am. J. Clin. Oncol. 27:299-303を参照)。
他のタイプの癌の治療のための化学療法レジメンもまた当業者にはよく知られている。
本発明のアプローチは、治療される腫瘍の遺伝子発現パターンに対するこれら治療の任意のものの効果を決定するために一般に適用可能であり、それにより、より効果的な併用療法が達成されるアンタゴニストを同定することが可能になる。
【0035】
アンタゴニスト
標的ポリペプチドのアンタゴニストを同定する際の最初の段階は、典型的には、標的ポリペプチドに選択的に結合する化合物を同定するためのインビトロスクリーニングである。レセプター結合は、その各天然源から単離されたか、又は組換えDNA技術及び/または化学合成によって産生された標的ポリペプチドを使用して試験することができる。候補化合物の結合親和性は、直接結合(例えばSchoemaker等, J. Pharmacol. Exp. Ther., 285:61-69 (1983)参照)によって、又は間接的な、例えば競合的な、結合によって試験することができる。競合結合実験では、標的ポリペプチドに結合した他の化合物の50%を置換するのに必要な化合物の濃度(IC50)が通常は結合親和性の尺度として使用される。試験化合物が選択的にかつ高親和性で標的に結合し、最初の化合物を置換すれば、それはアンタゴニストとして同定される。細胞ベースのアッセイを同様な形で使用することができる。
アンタゴニストの好適な群には、標的ポリペプチドに特異的に結合する抗体が含まれる。抗体の「結合親和性」は、例えば平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)又はラジオイムノアッセイ(RIA)、あるいは動態学(例えばBIACORETM分析)によって決定することができる。また、抗体には、その「効力」又は薬理学的活性及び治療剤としての潜在的な効果を評価するために、他の「生物学的活性アッセイ」を施すことができる。そのようなアッセイは当該分野で知られており、標的高原及び抗体の意図された用途に依存している。
【0036】
抗体
抗体を産生するための技術は当該分野においてよく知られている。
(1)抗体の調製
(i)抗原の調製
場合によっては他の分子に抱合されていてもよい可溶性抗原又はその断片を、抗体を産生するための免疫原として使用することができる。例えばレセプターのような膜貫通型分子では、これらの断片(例えばレセプターの細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。あるいは、膜貫通型分子を発現する細胞を免疫原として使用することができる。このような細胞は天然源(例えば癌細胞株)から引き出すことができ、あるいは膜貫通型分子を発現する組換え技術により形質転換した細胞であってもよい。抗体を調製するために有用な他の抗原及びその型は当業者には明らかであろう。
【0037】
(ii)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による抱合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOClを用いて抱合させることが有用である。
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合体として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0038】
(iii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、あるいは組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスター又はマカクザルを上述したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を産生するか又は産生することのできるリンパ球を誘導する。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103(Academic Press, 1986))。
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠くならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン(HAT培地)を含有するであろう。
【0039】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫株化細胞は、マウス骨髄腫系、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ロックビル、メリーランド、USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものである。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫株化細胞もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
【0040】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103(Academic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から好適に分離される。
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)即座に分離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび分離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体の組み換え体作成は以下に更に詳しく記載する。
【0041】
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリから分離することができる。Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリを使用したマウス及びヒト抗体の分離を記述している。続く刊行物は、鎖混合による高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることで修飾できる。
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0042】
(iv)ヒト化及びヒト抗体
ヒト化抗体は、非ヒトである供給源からその中に導入された一又は複数のアミノ酸残基を有している。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的には齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の該当する配列を置換することによりウィンターと共同研究者の方法(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988);Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。従って、このような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の該当する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾らかのCDR残基及び場合によっては幾らかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット法」によれば、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリ全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta等, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0043】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムは購入可能である。これら表示を見ることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のありそうな役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。Jakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993); Bruggerman等, Year in Immuno., 7:33 (1993);及びDuchosal等, Nature 355:258(1992)を参照のこと。ヒト抗体は、ファージディスプレーライブラリから取り出すこともできる(Hoogenboom等, J.Mol.Biol., 227:381(1991);Marks等, J.Mol.Biol. 222:581-597(1991);Vaughan等, Nature Biotech 14:309(1996))。
【0044】
(v)抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導された(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照のこと)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab')断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号を参照のこと。
【0045】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる抗原に対する結合特異性を有する。このような分子は通常は二つの抗原を結合させるのみであるが(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)、三重特異性抗体のような更なる特異性を持つ抗体もここで使用される場合この表現に包含される。よって、化学療法剤によって発現がアップレギュレートされる二つの細胞表面分子に結合する二重特異性抗体が特に含められる。
二重特異性抗体を作成する方法は当該分野において既知である。全長二重特異性抗体の伝統的な組換え産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの鎖は異なる特異性を持っている(Millstein等, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が国際公開第 93/08829号及びTraunecker等,EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
異なったアプローチ法によると、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を、免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常部との融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが望ましい。免疫グロブリン重鎖の融合と、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時トランスフェクトする。これにより、作成に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率を提供する態様で、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又は、その比率が特に重要性を持たないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0046】
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び他方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)で構成される。二重特異性分子の半分しか免疫グロブリン軽鎖がないことで容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を作製する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照のこと。
国際公開第96/27011号に記載された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
二重特異性抗体は、架橋した又は「ヘテロコンジュゲート」抗体もまた含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの抗体の一方はアビジンに結合され、他方はビオチンに結合され得る。そのような抗体は、例えば、不要の細胞に対する免疫系細胞をターゲティングするため(米国特許第4676980号)、及びHIV感染の治療のために提案された(国際公開第91/00360号、同第92/200373号、及び欧州特許出願公開第03089号)。ヘテロコンジュゲート抗体は、あらゆる簡便な架橋法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当該分野において良く知られており、幾つかの架橋技術と共に米国特許第4676980号に開示されている。
【0047】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) は無傷の抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
最近の進歩により、大腸菌からのFab'-SH断片の直接の回収が容易になり、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby等,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役を受けて二重特異性抗体を形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、正常なヒトT細胞及びErbB2レセプターを過剰発現する細胞に結合可能で、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞障害性リンパ球の細胞溶解活性の誘因となる。
【0048】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelny等, J.Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させる。抗体ホモダイマーをヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、ついで再酸化して抗体ヘテロダイマーを形成する。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(V)に重鎖可変ドメイン(V)を結合してなる。従って、一つの断片のV及びVドメインは他の断片の相補的V及びVドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用により二重特異性抗体断片を製造する他の方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol. 152:5368 (1994)を参照のこと。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
【0049】
(vii)エフェクター機能の設計
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、例えば癌の治療における抗体の効能を増強することが望ましい場合がある。例えば、システイン残基をFc領域に導入して、この領域における鎖間ジスルフィド結合の形成を許容することができる。このようにして産生されたホモダイマー抗体は改善されたインターナリゼーション能力及び/又は増加した補体媒介細胞死滅及び抗体依存性細胞障害活性(ADCC)を有しうる。Caron等, J.Exp.Med. 176:1191-1195 (1992)及びShopes,B. J.Immunol. 148:2918-2922 (1992)を参照のこと。抗腫瘍活性が高められたホモダイマー抗体は、Wolff等, Cancer Research 53:2560-2565(1993)に記載されているようなヘテロ二官能性架橋剤を使用して調製することもできる。別法として、二重Fc領域を有し、よって増強された補体溶解及びADCC能を有しうる抗体を設計することができる。Stevenson等, Anti-Cancer Drug Design 3:219-230 (1989)を参照のこと。
【0050】
(viii)免疫コンジュゲート
また本発明はここで記載され、細胞障害剤、例えば化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物由来の酵素活性毒又はそれらの断片)、又は放射性同位元素(すなわち、放射性コンジュゲート)に抱合した抗体を含有する免疫コンジュゲートに関する。
このような免疫コンジュゲートの生成に有用な化学療法剤は上述している。使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。様々な放射性核種も放射性コンジュゲート抗体の産生に利用できる。具体例には212Bi、133I、131In、90Y及び186Reが含まれる。
【0051】
抗体と細胞障害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta等, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)は抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照のこと。
他の実施態様では、腫瘍の事前ターゲティングに利用するために、「レセプター」(例えばストレプトアビジン)に抗体をコンジュゲートする。ここで抗体-レセプターコンジュゲートを患者に投与し、続いてキレート剤を使用し、循環から未結合コンジュゲートを除去し、細胞障害剤(例えば放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートする「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0052】
(ix)免疫リポソーム
抗体は免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含むリポソームは、例えばEpstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688(1985);Hwang等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030(1980);及び米国特許第4485045号及び同第4544545号に記載されているように、当該分野において既知の方法により調製される。循環時間が増したリポソームは米国特許第5013556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG-誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは孔径が定められたフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab'断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martin等,J. Biol. Chem. 257:286-288(1982)に記載されているようにしてリポソームにコンジュゲートすることができる。場合によっては、化学療法剤(例えばドキソルビシン)はリポソーム内に包含される。Gabizon等, J. National Cancer Inst. 81(19)1484(1989)を参照のこと。
【0053】
(x)抗体依存性酵素媒介性プロドラッグ治療法(ADEPT)
また、本発明の抗体は、プロドラッグ(例えばペプチジル化学療法剤、国際公開第81/01145号を参照)を活性な抗癌剤に転化させるプロドラッグ活性化酵素に抗体をコンジュゲートさせることにより、ADEPTにおいて使用することができる。例えば国際公開第88/07378及び米国特許第4975278号を参照のこと。
ADEPTに有用な免疫コンジュゲートの酵素成分には、より活性な細胞毒形態に転化するように、プロドラッグに作用し得る任意の酵素が含まれる。
限定するものではないが、この発明の方法に有用な酵素には、ホスファート含有プロドラッグを遊離の薬剤に転化するのに有用なアルカリ性ホスファターゼ;スルファート含有プロドラッグを遊離の薬剤に転化するのに有用なアリールスルファターゼ;非毒性5-フルオロシトシンを抗癌剤5-フルオロウラシルに転化するのに有用なシトシンデアミナーゼ;プロテアーゼ、例えばセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、サブチリシン、カルボキシペプチダーゼ及びカテプシン(例えば、カテプシンB及びL)で、ペプチド含有プロドラッグを遊離の薬剤に転化するのに有用なもの;D-アミノ酸置換基を含有するプロドラッグの転化に有用なD-アラニルカルボキシペプチダーゼ;炭水化物切断酵素、例えばグリコシル化プロドラッグを遊離の薬剤に転化するのに有用なノイラミニダーゼ及びβガラクトシダーゼ;βラクタムで誘導体化された薬剤を遊離の薬剤に転化させるのに有用なβラクタマーゼ;及びペニシリンアミダーゼ、例えばそれぞれフェノキシアセチル又はフェニルアセチル基で、それらのアミン性窒素において誘導体化された薬剤を遊離の薬剤に転化するのに有用なペニシリンVアミダーゼ又はペニシリンGアミダーゼが含まれる。あるいは、「アブザイム」としてもまた知られている酵素活性を有する抗体を、遊離の活性薬剤に本発明のプロドラッグを転化させるために使用することもできる(例えば、Massey, Nature 328:457-458(1987)を参照)。抗体-アブザイムコンジュゲートは、ここで記載されているようにして、腫瘍細胞個体群にアブザイムを送達するために調製することができる。
【0054】
(xi)抗体-サルベージレセプター結合エピトープ融合
本発明のある実施態様では、例えば腫瘍浸透性を増大させるために無傷の抗体よりも抗体断片を使用することが望ましい。この場合、その血清半減期を増大させるために抗体断片を改変することが望ましい。これは、例えば、抗体断片にサルベージレセプター結合エピトープを導入することにより(例えば、抗体断片中の適当な領域の突然変異により、あるいはついで抗体断片の何れかの末端又は中央に、例えばDNA又はペプチド合成により融合されるペプチドタグ内にエピトープを導入することにより)、達成できる。
エピトープを結合するサルベージレセプターは、好ましくは、Fcドメインの一又は二つのループからの一又は複数のアミノ酸残基が抗体断片の類似位置に移される領域を構成する。更により好ましくは、Fcドメインの一又は二つのループの3又はそれ以上の残基が移される。更に好ましくは、エピトープはFc領域(例えばIgGの)のCH2ドメインから取上げられ、抗体のCH1、CH3、又はV領域、あるいは一以上のそのような領域に移される。別法として、エピトープをFc領域のCH2ドメインから取上げ、抗体断片のC領域又はV領域、又は両方に移す。例えば、1998年4月14日発行の米国特許第5739277号。
【0055】
(xii)共有結合修飾
抗体の共有結合修飾は本発明の範囲内に含まれる。それらは、化学合成により、又は適用可能ならば抗体の酵素的もしくは化学的開裂により製造し得る。他のタイプの抗体の共有結合修飾は、抗体の標的とするアミノ酸残基を、選択した側鎖又はNもしくはC末端残基と反応できる有機の誘導体化剤と反応させることにより、分子中に導入される。
抗体上に存在する炭水化物部分の除去は化学的に又は酵素的になすことができる。化学的脱グリコシル化には化合物トリフルオロメタンスルホン酸、又は同等の化合物への抗体の曝露を必要とする。この処理により、抗体を無傷なまま残しながら、結合糖(N−アセチルグルコサミン又はN−アセチルガラクトサミン)以外の殆どの又は全ての糖類が切断される。化学的な脱グリコシル化は、Hakimudine等, Arch. Biochem. Biophys. 259:52(1987)又はEdge等, Anal.Biochem., 118:131(1981)に記載されている。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakura等、Meth. Enzymol. 138:350(1987)に記載されているような様々なエンド型又はエキソ型グリコシダーゼの使用によって達成することができる。
抗体の共有結合修飾の他のタイプは、米国特許第4640835号;同第4496689号;同第4301144号;同第4670417号;同第4791192号又は同第4179337号に記載されているようにして、様々な非タンパク様ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルキレンの一つに抗体を結合させることからなる。
【0056】
(2)抗体の組換え生産
本発明の抗体は、例えば組換えDNA法の技術によって製造することができる。
ここに記載のベクターにDNAをクローニングあるいは発現させるために適切な宿主細胞は、上に記載された原核生物、酵母菌、又は高等真核生物細胞である。この目的のための適切な原核生物には、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物、例えば大腸菌、例えばE. coli、エンテロバクター、エルビニア(Erwinia)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ、例えば、ネズミチフス菌、セラチア、例えば、セラチア・マルセサンス(Serratia marcescans) 、及び赤痢菌、並びに桿菌、例えばバチルス・ブチリス(B. subtilis)及びバチルス・リチェニフォルミス(B. licheniformis)(例えば、1989年4月12日発行のDD266710に記載されたバチルス・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス、例えば緑膿菌及びストレプトマイセスなどの腸内細菌科を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は、大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の株、例えば大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)も適している。これらの例は限定ではなく例示である。
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物が、抗体コード化ベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、シゾサッカロミセスプロンブ(Schizosaccharomyces prombe);クルベロミセスホスツ(Kluveromyces hosts)、例えばケーラクチス(K. lactis)、ケーフラギリス(K. fragilis)(ATCC12424)、ケーブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC16045)、ケーウィケラミイ(K. wickeramii)(ATCC24178)、ケーワルチイ(K. waltii)(ATCC56500)、ケードロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC36906)、ケーテモトレランス(K. themotolerans)及びケーマルキシアナス(K. marxianus);ヤロウィア(yarrowia)(EP 402,226);ピッチャパストリス(Pichia pastoris)(欧州特許出願公開第183070号);カンジダ;トリコデルマレーシア(reesia)(欧州特許出願公開第244234号);アカパンカビ;シュワニオマイセス(Schwanniomyces)、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス(occidentalis);及び糸状真菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム(Tolypocladium);及びコウジ菌、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビなどの他の多くの属、種及び株が通常利用可能であり、ここで有用である。
【0057】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例には植物及び昆虫細胞が含まれる。宿主からの多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。形質移入のための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここでウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質移入に使用できる。綿花、コーン、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、及びタバコのような植物細胞培養を宿主として利用することができる。
しかしながら、脊椎動物細胞におけるものが最も興味深く、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株 (COS-7、ATCC CRL1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サルの腎細胞 (CVI ATCC CCL70);アフリカミドリザルの腎細胞(VERO−76, ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL2);イヌ腎細胞 (MDCK, ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞 (BRL 3A, ATCC CRL1442);ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL75);ヒト肝細胞 (Hep G2, HB8065);マウス乳房腫瘍細胞 (MMT 060562, ATTC CCL51);TRI細胞(Mother等, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。
【0058】
宿主細胞は、抗体産生のため、当該分野でよく知られている発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅するために適当に修飾された常套的栄養培地で培養する。
本発明の抗体を産生するために用いられる宿主細胞は様々な培地において培養することができる。例えばハム(Ham)のF10(Sigma)、最小必須培地((MEM) Sigma)、RPMI−1640(Sigma)及びダルベッコの改変イーグル培地((DMEM), Sigma)のような市販の培地が宿主細胞の培養に適している。更に、Ham等, Meth. Enz., 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem., 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同第4657866;同第4927762;同第4560655;又は同第5122469号;国際公開第90/03430号;同第87/00195号;米国再発行特許第30985号に記載された任意の培地を宿主細胞の培養培地として用いることができる。これらの培地は何れも、ホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM薬)、微量元素(通常最終濃度がマイクロモル範囲で存在する無機化合物と定義される)、及びグルコース又は同等のエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含めることができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について従来用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0059】
組換え技術を使用する場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔内に生成されるか、又は培地に直接分泌され得る。抗体が細胞内に生成される場合、第1段階として、粒状屑、宿主細胞又は溶菌断片を、例えば遠心分離又は限外濾過によって取り除く。Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992)は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順について記載している。簡単に述べると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフロリド(PMSF)の存在下で、30分以上かけて解凍する。細胞屑は遠心分離により除去することができる。抗体が培地へ分泌されている場合、そのような発現系からの上清は、一般的には、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過ユニットを用いて最初に濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記の任意の工程に含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性の汚染物の成長を防止してもよい。
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、ここでアフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は抗体に存在する任意の免疫グロブリンFc領域のアイソタイプ及び種に依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体を精製するのに用いることができる(Lindmark等, J. Immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 15671575 (1986))。アフィニティーリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他の材料も使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム)上でのヘパリンSEPHAROSETMクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などの他のタンパク質精製技術も、回収される抗体変異体に応じて利用可能である。
【0060】
医薬製剤
ここでの化学療法剤は典型的には現在の臨床業務において使用される投薬量及び投与経路に従って投与される。例えば、5-フルオロウラシル(5-FU、Adrucil(登録商標))は、乳癌、肛門、食道、膵臓及び胃癌を含む胃腸の癌、頭頸部癌、肝臓癌、及び卵巣癌の治療のための臨床に使用され、典型的には静脈内ボーラス注射又は持続注入として投与される。時間とスケジュールは癌のタイプ及び段階、患者の治療歴及び全体的状態、及び担当医師によって典型的に考慮される他の因子に依存して変わる。持続注入として投与する場合、典型的な投薬スケジュールは1300mg/mでの毎週の持続注入であり、これは治療の間に変更されうる。
抗腫瘍剤イリノテカン塩酸三水和物(CPT-11、Camptosar、PNU-101440E;(S)-[1,4’-ビピペリジン]-1’-カルボン酸、4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ-1H-ピラノ[3’,4':6,7]インドリジノ(1,2-b)キノリン-9-イルエステル,一塩酸塩,三水和物;C3338・HCl・3HO)は天然産物カンプトテシンの半合成誘導体である(Kunimoto等(1987) Cancer Res. 47:5944-5947;Sawada等 (1991) Chem. Pharm. Bull. 39:1446-1454)。CPT-11は、5-フルオロウラシルベースの治療の後に疾患が再発し又は進行した大腸又は直腸の転移性癌の患者の治療に対して米国食品医薬品局によって承認されている。CPT-11の推奨される出発投薬量は週一回90分かけて125mg/m静脈内投与を4週間の後、2週間の休みか、又は3週毎に350mg/mを一回投与するかの何れかである。初期用量後の変更は個々の患者の耐性に基づいている。
【0061】
本発明のアンタゴニストを投与するために使用される製剤、投薬量及び治療プロトコルは、特定のアンタゴニスト、癌のタイプと段階、及び典型的には臨床業務で考慮される他の要因に応じて変化し、当業者によって直ぐに決定され得る。アンタゴニストが抗体である場合、治療用製剤は、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で、任意的な製薬上許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と、所望の精製度を有する抗体とを混合することにより調製され保存される(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16版, A. Osol,編 (1980))。許容できる担体、賦形剤又は安定剤は、用いる投与量及び濃度ではレシピエントに対して無毒性であり、リン酸、クエン酸及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存料(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン類、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖類、二糖類又は他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖類;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0062】
製剤は、治療される特定の効能に必要な一以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有し得る。例えば、免疫抑制剤を更に提供することが望ましい。そのような分子は、好適には、意図した目的に有効な量で組合せて存在する。
また活性成分は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences 16版, A. Osol編(1980)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されていなくてはならない。これは、滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成される。
【0063】
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の適切な例には、抗体変異体を含む固体疎水性重合体の半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルム又はマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタマートの共重合体、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸共重合体、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸等の重合体は100日以上分子を放出できるが、特定のヒドロゲルはより短い時間タンパク質を放出する。カプセル化抗体は、長時間体内に残存すると、37℃の水分に曝されることで変性又は凝集し、生物学的活性の喪失や免疫原生の変化のおそれがある。関連する機構に応じて安定性を得るための合理的な処置を案出できる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換による分子間S-S結合であることが分かったら、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分量を調整し、適当な添加物を使用し、特定の重合体マトリックス組成物を開発することで安定化を達成することができる。
製剤は、既知の方法に従って、例えばボーラスとしてもしくは一定時間にわたる持続注入により、静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液包内、クモ膜下腔内、経口、局所的、又は吸入経路により、抗体での治療を必要とする哺乳動物、好ましくはヒトに投与される。好適な実施態様では、製剤は静脈内投与によって哺乳動物に投与される。そのような目的のために、製剤は例えばシリンジ又はIVラインによって注入されうる。
【0064】
抗体の適切な投薬量(「治療的に有効な量」)は例えば治療される症状、症状の重症度及び過程、抗体を予防目的で投与するのか治療目的で投与するのか、過去の治療、患者の臨床歴及び抗体への応答性、使用される抗体のタイプ、及び担当医師の裁量に依存するであろう。抗体は一度に又は一連の処置にわたって患者に適切に投与され、診断開始から任意の時点で患者に投与されうる。抗体は、単独の治療法として又は問題の症状を治療するのに有用な他の薬剤又は治療法と併用して投与することができる。
一般的な提案では、投与される抗体の治療的有効量は、一回であれ複数回の投与であれ、約0.1から約50mg/kg(患者体重)の範囲であり、抗体の典型的な範囲は例えば毎日の投与で約0.3から約20mg/kg、より好ましくは約0.3から約15mg/kgである。しかしながら、他の投薬レジメンも有用でありうる。この治療の進行状態は一般的な技術によって容易にモニターされる。
本発明はまた一又は複数の化学療法剤と、そのような化学療法剤によって選択的にアップレギュレートされる遺伝子又は遺伝子群の一又は複数のアンタゴニストの治療用混合物を含む。そのような治療用混合物を含有する製剤は、上で検討したような、当該分野で知られている方法と成分を使用して調製することができる。同様に、投薬量は上で検討した範囲内であると予想されるが、ある併用例では、活性成分の有効用量は単独で使用される場合の同活性成分の用量よりも低い場合がある。
「併用」投与は、混合物としての投与、別個の製剤を用いる同時の投与、及び任意の順での逐次的投与を含む。
本発明の方法は、外科的処置、放射線、及び/又は任意のタイプの抗癌剤の投与を含む他の治療選択肢と組み合わせることができる。
本発明の更なる詳細は次の非限定的な実施例によって例証する。
【0065】
実施例
イリノテカン(CPT-11)でのヒト結腸直腸腫瘍異種移植片の治療は扁平上皮細胞により正常に発現される遺伝子を活性化する
この研究は標準的なケア化学療法剤イリノテカンへのインビボ曝露後にヒト結腸直腸腺癌によって急性に発現される遺伝子転写物を同定するために設計された。Colo205及びDLD−1異種移植片をそれぞれp53野生型(wt)及びp53変異型腫瘍モデルとして使用し、同じ動物から切除された正常なマウス大腸組織によって発現される遺伝子もまた分析された。限定するものではないが、扁平上皮細胞により正常に発現される遺伝子を含む数多くの転写物の発現レベルを、腫瘍の薬剤治療によって再現可能に変えた。
【0066】
材料と方法
細胞株 − Colo205、HCT116、HT29(それぞれATCC番号CCL222、CCL221、CCL247、HTB38)はヒト結腸直腸腺癌細胞株である。293はヒト不死化胚腎臓細胞株(ATCC CRL1573)である。PC-3はヒト前立腺腺癌細胞株(ATCC CRL1435)であり、HT1080はヒト線維肉腫細胞株(ATCC CCL−121)である。PC-3安定細胞株を、LY6D/E48のNH2末端gDエピトープタグ型をコードするCMV動作性ベクター又は空ベクターで形質移入することを(Effectene, Qiagen)により産生させ、400μg/mlのG418(Geneticin, Life Technologies, Inc.)中で選択した。増殖条件はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC, Manassas, VA)のガイドラインに従った。全ての細胞株に対して、CPT11処置を、示した時点に対して10cm皿で行った。細胞を収集し、RNeasyキット(Qiagen, Hilden, Germany)を使用してRNAを調製した。TaqMan(登録商標)リアルタイム定量PCR分析を以下に記載しているようにして実施した。
【0067】
ヒト腫瘍異種移植片の増殖と処置 − 雌ヌードマウス(Charles River Laboratories, Hollister CA)を、実験用動物のケアと使用に対するガイドに従って維持し、Colo205ヒト結腸直腸癌細胞を収集し、HBSSに再懸濁させ、6−8週齢のマウスの側腹部に皮下注射した(5×10細胞/側腹部)。腫瘍を二週間成長させ、その時点で0.1mlのCPT-11(80mg/kgマウス)又は0.1mlの生理食塩水コントロールを、各動物に4日の間隔で3回連続して腹腔内(IP)投与した。CPT-11又は生理食塩水の最終用量の24時間後に、腫瘍を動物から切除した。0.23、0.18、及び0.50グラムの質量のCPT-11処置動物からの3つの腫瘍と、0.23、0.36及び0.38グラムの質量の生理食塩水コントロールからの3つをそれぞれ半分に分けた。各腫瘍の半分を、次のRNA抽出のために液体窒素で即座に凍結させ、他の半分を10%の中性バッファーホルマリンに一晩固定し、ついで24時間後に、切除、顕微鏡分析及びインサイツハイブリダイゼーションによる分析のために70%エタノール中に移した。DLD-1結腸直腸細胞株の腫瘍異種移植片を本質的に同じ形で処置し、調製した。切除の時点でのDLD-1結腸直腸腫瘍異種移植片の質量は、生理食塩水コントロールに対して0.24、0.10及び0.21であり、CPT-11処置腫瘍に対して0.21、0.1及び0.12であった。
インビボ効果研究のために、マウスの右背側部領域に皮下的に5百万細胞/マウスのColo205細胞を、わずか0.2mlsの容積で、接種した。腫瘍が約100−200mmの平均腫瘍体積に達したとき、マウスを8から10匹のマウスの処置グループに分け、それぞれ次の処置を始めた。全てのIV注射は尾静脈に行った。
グループ:
ビヒクル(PBS)のみ − IV、0.1mlsの体積、1×/週を4週間。
抗E48−vc−MMAEのみ − 4mg/kg、IV、0.1mlsの体積、1×/週を4週間。
抗IL8−vc−MMAEのみ −4mg/kg、IV、0.1mlsの体積、1×/週を4週間。
ビヒクル(PBS) + CPT-11 − IV、0.1mlsの体積、1×/週を4週間+CPT-11、80mg/kg、IP、0.2mlsの体積、0、4及び8日のみ処置。
抗IL8−vc−MMAE + CPT-11 − 3mg/kg、IV、0.1mlsの体積、1×/週を4週間 + CPT-11、80mg/kg、IP、0.2mlsの体積、0、4及び8日のみ処置。
抗E48−vc−MMAE − 3 mg/kg、IV、0.1mlsの体積、1×/週を4週間 + CPT-11、80mg/kg、IP、0.2mlsの体積、0、4及び8日のみ処置。
8週間の間又は腫瘍が潰瘍を生じるか又は1000mmより多い体積に達するまで、毎週二回クリッパーによって腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm)は、a × b × 0.5(ここで、a及びbはそれぞれ腫瘍の長径及び短径である)として計算した。
【0068】
腫瘍RNAの調製と分析 − 腫瘍異種移植片標本を3.5mlの溶解バッファー(4Mのチオシアン酸グアニジン、25mMのクエン酸ナトリウム、0.5%のN-ラウリルサルコシン、0.7%の2-メルカプトエタノール)中でホモジェナイズし、1.5mlの5.7M塩化セシウム、50mMのEDTA(pH8.0)溶液に層状に重ねた。150000×gで一晩遠心分離した後、RNAペレットを乾燥させ、水に再懸濁させ、RNA調製物の完全性をアガロースゲル上での18S及び28SリボソームRNAの可視化によってモニターし、良好な品質であることを見出した。
【0069】
オリゴヌクレオチドアレイ分析 − 腫瘍標本から精製したおよそ10μgの全RNAを、AffymetrixヒトゲノムU95遺伝子チップ(登録商標)セットでのオリゴヌクレオチドアレイ分析に必要なプローブの調製のための出発材料とした。プローブは過去に記載されたプロトコル(Wodicka等 (1997) Nat. Biotechnol. 15:1359-1367)に従って、また製造者の推奨に従って、調製した。ハイブリダイゼーション後、アレイを洗浄し、ストレプトアビジン-フィコエリトリンで染色した後、遺伝子アレイスキャナー(Aglient Technologies)でスキャンした。Affymetrixデータ解析ソフトウェアパッケージ(Micro Analysis Suite バージョン4)において与えられたデフォルトパラメータを、平均差と呼ばれるシグナル強度を決定する際に適用した。サンプルの正規化はグローバルスケーリング(Affymetrixの「発現解析技術マニュアル」に記載)を使用して行い、1500の標的強度を用いて、平均差発現値を決定した。CPT-11で処置された腫瘍から取り出されたプローブを用いて得られた平均差は、各遺伝子の喚起に対しての倍数差値を得るために生理食塩水コントロール腫瘍から調製したプローブから得られた平均差に対してベースライン化した。倍数差値は、3つのCPT-11処置サンプルの各々を3つのコントロールサンプルの各々と比較して、各遺伝子の喚起に対して9の可能な倍数差値を得ることにより決定した。9対毎の比較のそれぞれに対する倍数差と標準偏差を伴う平均を表Iに列挙した各遺伝子セットに対して提供した。正常なマウス大腸組織をまた実験及びコントロール動物から切除し、抽出したRNAを、ヒト腫瘍異種移植片に対して本質的に記載したようなAffymetrixのMu74Av2チップセットでの分析にかけた。表IIに提示されたマウスデータは示された遺伝子に対する平均倍数差と標準偏差だけを列挙する。
【0070】
リアルタイムPCR(TaqMan(登録商標)) − RT-PCR分析に使用したRNA源はオリゴヌクレオチドアレイ分析のためのプローブの調製に使用したものと同じであった。定量逆転写酵素PCR(RT-PCR)を、Perkin−Elmer、Applied BiosystemsからのTaqMan(登録商標)アッセイ試薬を用いて実施した。50μlのRT-PCR反応物は5μlの10×TaqManバッファーA、300μMの各dNTP、5mMのMgCl、10単位のRNaseインヒビター、12.5単位のMuLV逆転写酵素、1.25単位のAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼ、200nMのプローブ、500nMのプライマー及び100ngのRNAからなっていた。反応条件は、48℃で10分間の逆転写、95℃で10分間の脱変性、及び25秒間の95℃と1分間の65℃の40回の熱サイクルからなっていた。反応産物は、4-アガロースゲル(Invitrogen)で分析した。対象の各遺伝子の倍数誘導は、ΔΔCt法を使用して決定し、結果を、各図においてGAPDH及びアクチン双方に対して提示した。次の特定のプローブ及びプライマーを使用した。MFGE8(Acc#U58516):順方向プライマー:GGTACCATGTGCCACAACTG(配列番号1)、逆方向プライマー:GAGGCAACCAGGGAGACA(配列番号2)、及びプローブ:CCCCTGTCCCCAAGAACACTTCC(配列番号3);GPCl(Acc#X54232):順方向プライマー:GCTGTCCTGAACCGACTGA(配列番号4)、逆方向プライマー:GGGACGGTGATGAAAAGC(配列番号5)、及びプローブ:AGCAGCACTAAGCGGCCTCCC(配列番号6);AQP3(Acc#N74607):順方向プライマー:CTGGCAGCTCCTCCATGT(配列番号7)、逆方向プライマー:CCCATCTGTGCCATAAGGA(配列番号8)、及びプローブ:AAGCCCTGGAAACATACACACCC(配列番号9);CDH17(Acc#83228):順方向プライマー:CCTACTCTGCAAACCTTGGTAA(配列番号10)、逆方向プライマー:TGTATGCATGGCAGGTAGTG(配列番号11)、及びプローブ:AAATCTGGCCAGCTGACTGGTTCC(配列番号12);Ly6D/E48(Acc#Y12642):順方向プライマー:GGGGATTCCACACCTCTCT(配列番号13);逆方向プライマー:CCAAGTCATCAGCATTCCAT(配列番号14);及びプローブ:CCAGACTTTCGGGGAAGCCCTC(配列番号15);及びLy6E/SCA−2(Acc#U66711):順方向プライマー:CAGCTGCATGCACTTCAA(配列番号16);逆方向プライマー: AGGACTGGCTGGATTTGG(配列番号17);及びプローブ:CCTAGACCCGGAAGTGGCAGAAAC(配列番号18)。
【0071】
インサイツハイブリダイゼーション − 全てのアンチセンス及びセンス33P標識リボプローブはcDNAライブラリーから取り出したPCR産物から産生した。ペリプラキンに対するアンチセンス及びセンスリボプローブは633bp長であり、それぞれ上方5'GACTGGACAACTGGGATGC3' (配列番号19)及び下方5'GACTCCAGCCACCAGGTTTAT3' (配列番号20)の配列を含むオリゴヌクレオチドで準備した。アクアポリン-3に対するアンチセンス及びセンスリボプローブは425bp長であり、それぞれ上方 5'CAAGCTGCCCATCTACACCCT3' (配列番号21)及び下方5'GCTGGCCGGTCGTGAA3'(配列番号22)の配列を含むオリゴヌクレオチドで準備した。アンチロイコプロテナーゼに対するアンチセンス及びセンスリボプローブは378bp長であり、それぞれ上方5'TGCCCAGTGCCTTAGATACAA3'(配列番号23)及び下方5'CCCCAAAGGATATCAGTG3’(配列番号24)を含むオリゴヌクレオチドで準備した。ハイブリダイゼーション実験は以前に記載されているようにして(Holcomb等 (2000) EMBO J. 4046-4055)、実施した。
【0072】
抗E48モノクローナル抗体と抗E48−val−cit−MMAE免疫コンジュゲートの調製。 BALB/cマウス(Charles River Laboratories, Wilmington, DE)を一週間に2回5用量で足蹠からバキュロウイルス誘導ヒス8タグLY6D/E48タンパク質で免疫し、Ribiアジュバント(Corixia; Hamilton, MT)に希釈した。高血清力価を示すリンパ節由来のB細胞を5匹のマウスから集め、マウス骨髄腫細胞(X63.Ag8.653;ATCCから入手可能)と融合させた。10−14日後、gDタグE48を安定に発現するPC-3細胞でのフローサイトメトリーと直接のエライザによって抗体産生について上清をスクリーニングした。陽性のものを2回サブクローニングして単クローン性を達成した。大規模な精製抗体の産生に対しては、ハイブリドーマ細胞を、プリスチンプライムBalb/cマウスに腹腔内注射した。腹水をプールし、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー(Pharmacia Fast Protein Liquid Chromatography; Pharmacia, Uppsala, Sweden)によって精製した。
フローサイトメトリーに対しては、細胞を90%集密度まで増殖させ、PBS中2mMのEDTAを使用してプレートから除去した。細胞を洗浄し、FACSバッファー(1%BSAを含むPBS)に再懸濁させ、抗LY6D/E48モノクローナル抗体15A5又は17H7あるいは抗gD抗体(ジェネンテック社)と共に60分間、その後、PEに抱合した抗マウス二次抗体と共に60分、インキュベートした。分析はFACSスキャンで実施した。
抗E48抗体とコントロール抗IL8抗体のMMAEとの抱合は、他に記載されているように(Doronina, 2003: Nat Biotechnol 21;778-84)Seattle Genetics Inc.によって実施された。
【0073】
結果
ヌードマウスにcolo205結腸直腸癌細胞を接種し、腫瘍を2週間の期間にわたって確立させた。このとき、CPT-11又は生理食塩水の腹腔内注射を4日毎に施し、三回目の注射の24時間後に、腫瘍と正常組織を切除した。このときの腫瘍の平均質量はおよそ300mgであり、コントロールと薬剤処置グループの間で有意な差はなかった。
細胞レベルでのmRNA転写物の誘導を調べるために、CPT-11又は生理食塩水コントロールで処置された腫瘍から得られた切片についてインサイツハイブリダイゼーションを実施した。H&E染色によって、CPT-11で処置されたColo205及びDLD-1腫瘍の細胞は僅かに膨張したように見え、核は生理食塩水処置コントロールに対して大きくなっていた(図7)。しかしながら、細胞は殆どが生細胞であったが、アポトーシス体の数が増加したのはほんの僅かであった。これは、全体の肉眼観察と一致しており、切除の時点で腫瘍体積に減少はないことを示している。
生理食塩水処置腫瘍の3つとCPT-11処置腫瘍の3つから精製したRNAについて、転写物発現に対するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析を施した。各コントロール腫瘍と比較した各薬剤処置腫瘍に対する倍数変化値は、U95Av2チップにおいてアップレギュレートされていると同定されたチップ43転写物について提示する(表I)。100%の一致は、9の可能な対比較物の全てが、示された転写物のアップレギュレーションに対して陽性であったが、89%が8/9の比較物が陽性である等々を示している。この研究においては、少なくとも6/9の可能な比較で陽性であった転写物に焦点を当てた。コントロールに対して3種のCPT-11処置腫瘍全てにおいて有意なアップレギュレーションを受け、リアルタイムPCRで同定され確認された転写物には、乳脂肪球皮膜-EGF因子8タンパク質(MFGE8)、グリピカン-1(GPC1)、アクアポリン-3(AQP3)、カドヘリン-17(CDH17)、E48抗原(LY6D)及びLY6DホモログSCA-2(LY6E)が含まれていた(図1A)。これらのなかで、LY6D/E48が最も一致して強い誘導を示しており、潜在的な抗体標的として更なる研究のために選択した。
【0074】
第二の方法による発現データを正当化するために、U95Av2チップで陽性となった20の転写物を選択し、その相対的発現レベルを、マイクロアレイ分析に用いた6つの同じRNAサンプルを使用して、リアルタイムPCR(TaqMan)によって調べた。この方法によって、20の転写物の全てが有意にアップレギュレートされていることが確認された。ある与えられた転写物のアップレギュレーションの程度は二つの方法間で幾分変わるが、マイクロアレイデータの全体的フィデリティーはリアルタイムPCR分析の結果によって強く裏付けられている。
CPT-11によって誘導される遺伝子の幾らかの相対的発現レベルはColo205及びDLD-1腫瘍から抽出したRNAを使用する平行分析において比較した。変動する度合いで、遺伝子の殆どは双方の腫瘍タイプのCPT-11処置によって誘導された(図2)。ペリプレキンとアンチロイコプロテナーゼは共にコントロールDLD-1腫瘍によって強く発現されたが、Colo205腫瘍に対して観察されたものより低い度合でSPT-11によって誘導された。これに対して、ガレクチン-7mRNAは処置又はコントロールDLD-1腫瘍の双方で検出することができなかったが、Colo205には存在しておりCPT-11によって誘導された。ケラチン23及びE48の活性化はCPT-11に応答して双方の腫瘍タイプにおいて生じたが、これらの二つの転写物は、Colo205コントロール腫瘍に対してDLD-1コントロール腫瘍においておよそ100倍低かった。ニューロメディンU、アネキシンVIII、トランスグルタミナーゼ、アクアポリン-3及びマスピンは全てSPT-11によって誘導され、Colo205及びDLD-1腫瘍において同程度のレベルで発現された。
【0075】
インサイツハイブリダイゼーションの結果は、CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子がヒト腫瘍細胞によって発現され、潜在的に腫瘍異種移植片に浸潤しうるマウス間質細胞によっては発現されないことを実証している。更に、CPT-11でインビトロ処置されたColo205及びDLD-1細胞において、また、表Iに列挙された遺伝子の幾らかのアップレギュレーションが観察された(データは示さず)。上に記載したように、インビトロでCPT-11に対する堅牢な応答を示した遺伝子のなかで、LY6D/E48抗原をコードするものがあった。この抗原は頭頸部癌においてアップレギュレートされることが報告されており、この疾患における抗体ベース療法の標的として提案されている(Brankenhoff等 (1995) Cancer Immunol. Immunother. 40:191-200)。
CPT-11によるLY6D/E48の誘導が細胞自律性であるかどうかを決定するために、LY6D/E48転写物のレベルを、10μMのCPT-11の添加後に培養したColo205細胞において測定した。薬剤のこの相対的に高い濃度は、より活性な部分SN-38へのカルボキシエステラーゼによるCPT-11の非効率的な転化のため(Oosterhoff等, MoI Cancer Ther. 2:765-71 (2003))インビトロで必要とされる。LY6D/E48転写物は処置後24時間以内に増加し、48時間で更に亢進された(図1B)。Colo205はCPT-11によるLY6D/E48の活性化に関して異常に感受性の細胞株であったと思われる。従って、更なる細胞株を調査した。LU6D/E48転写物は、ヒト胚腎臓細胞株293においてではなくヒト前立腺癌PC3細胞においてCPT-11の不存在又は存在下で検出することはできなかった。しかしながら、Colo205に加えて、3種の結腸直腸癌細胞株DLD-1、HCT116及びHT29と線維肉腫細胞株HT1080はCPT-11に応答してLY6D/E48mRNAを過剰発現した(図1C)。
【0076】
化学療法剤によって誘導される腫瘍細胞表面タンパク質のターゲティングにおける重要な仮定は、その薬剤が正常組織において標的をまた誘導しないことである。これを調べるために、CPT-11又は生理食塩水コントロールが投与された腫瘍を持つマウスから正常な腸を切除し、マウス特異的チップでのオリゴヌクレオチドアレイ分析を実施した。対応するマウス転写物に対して特異的なプライマーを用いて、リアルタイムPCRを実施し、SPRR3及びアクアポリン-3を例外として、マウスホモログの全てがマウス大腸からのRNAにおいて容易に検出された。しかしながら、これらの遺伝子の発現の差は、CPT-11処置マウスからの正常な大腸組織を、コントロールグループからのものと比較したときには検出されなかった(データは示さず)。CPT-11に応答して発現の有意な変化を受けた全てのマウスを同定するために、マウス特異的オリゴヌクレオチドアレイMu74Av2を使用してオリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析を実施した。CPT-11での動物の処置により、大腸における少数の遺伝子の活性化が生じたが、それらはヒト腫瘍異種移植片において誘導されたものの殆どとは関係していなかった(表II)。正常な大腸において誘導された遺伝子の多くは組織損傷に対する急性の免疫学的反応を反映しているように思われる。例えば、Ig可変鎖転写物はリンパ系細胞に高度に特異的であり、おそらくは腸に存在する免疫細胞から発している。微生物防御の目的のために腸パネート細胞によって発現されるクリプチジン(cryptidin)遺伝子(Ayabe等 (2002) J. Biol. Chem. 277:5219-5228)の幾らかがCPT-11で処置された3匹の動物の内2匹において活性化されたことが更に見出された。これらの結果は、結腸直腸腫瘍細胞及び正常な大腸細胞がDNA損傷剤に非常に異なった形で応答することを示唆している。
【0077】
より詳細な分析は、メタロチオネイン(MTIG)とは離れて、CPT-11によって腫瘍に誘導された転写物の何れも正常なマウスの腸において誘導されなかったことを示している(図2、表I及びII)。リアルタイムPCRによる個々のマウス転写物の更なる分析はこの応答の欠如にまた一致している(データは示さず)。驚いたことに、全Mu74A遺伝子チップに対して生理食塩水対CPT-11の二次元マトリックスプロットによって裏付けられているように(図8)、CPT-11での処置に応答した遺伝子発現の変化には全く不応であった。にもかかわらず、生理学的ストレスの証拠は、解毒(シトクロムp450、メタロチオネイン)、微生物防御(デフェンシン)及び免疫学的反応(免疫グロブリン)に関与するタンパク質を広くコードしているので、誘導された遺伝子から明らかであった(表II)。
【0078】
LY6D/E48に対するモノクローナル抗体を得るために、マウスを精製組換えタンパク質で免疫化した。LY6D/E48を安定に発現する形質移入細胞に対して強い特異的反応性を有する免疫グロブリンを生じるハイブリドーマを同定した。Colo205細胞をインビトロで増加した濃度のCPT-11にさらすと、蛍光標識細胞分取によって測定されるシグナルの強度は用量依存的な形で増加した(図4B)。また、シグナル強度と無傷の細胞の免疫蛍光顕微鏡法によって観察された反応性細胞の割合は薬剤投与によって増加した(図4A)。
細胞表面タンパク質をコードする遺伝子の誘導を、癌標的療法において用いることができるかどうかを決定するために、腫瘍増殖に対する薬剤コンジュゲート抗LY6D/E48モノクローナル抗体の効果を試験した。Colo205細胞をヌードマウスに接種し、CPT-11を、腫瘍がおよそ200mmに達したときに投与した。CPT-11は単独で、又は抗LY6D/E48−vc−MMAE又はネガティブコントロールとして抗IL8−vc−MMAEとの併用で投与した。CPT-11単独では腫瘍の増殖速度を一過性に減少させたが、最後の投与後に再増殖が速い速度で生じた。しかしながら、抗IL8−vc−MMAEではなく抗LY6D/E48−vc−MMAEとの併用では、顕著に長い時間の間、腫瘍増殖は遅くなった(図5、図6A)。CPT-11+抗LY6D/E48−vc−MMAEコンジュゲートを投与された動物では、8匹のうち6匹が完全な応答を示し、残りの動物では最小の腫瘍質量が8週まで続いた。抗LY6D/E48−vc−MMAEコンジュゲートはCPT-11同時投与のないコントロールMAbコンジュゲート又はビヒクルに比例して如何なる抗腫瘍活性も示さなかった(図6B)。これらの結果は、CPT-11とCPT-11によって誘導される抗原に対する抗体薬剤コンジュゲートとの間の相乗活性を示している。
【0079】
検討
結腸直腸癌に対する現在の化学療法レジメンは代謝拮抗剤とDNAの複製について誤りを生じさせるDNA損傷剤の同時投与を含む(Tebbutt 等 (2002) Eur. J. Cancer 38:1000-1015)。これらの薬剤の治療上の指数は癌細胞の増殖の相対的な増加速度と、おそらくは損傷を修復又は排除する癌細胞の能力の障害に関連していると思われる。これらの薬剤に対する腫瘍の応答は広く変化し、それらの投与後に、薬剤耐性腫瘍がしばしば生じる。腫瘍細胞が化学療法剤に反応する様式を詳細に理解すると、より効果的な治療法の開発に役立つ。しかし、最近治療された患者からの腫瘍標本は容易には得られないので、遺伝子の発現レベルで薬剤治療に対する応答をモニターすることは難しい。この実施例において提供した実験では、マウスにおいてヒト腫瘍を成長させ、薬剤処置後直ぐに生じる遺伝子発現の変化を評価することにより、臨床状況に近づけた。これらの研究からの信用のおける知見は、ある種の結腸直腸癌、特に野生型p53のものは、扁平上皮細胞によって引き起こされるものに類似する健全な遺伝子発現プログラムを生じることである。
【0080】
示した実施例は、薬剤に対するより劇的な応答が生じる前にCPT-11によって急性に活性化される遺伝子を、腫瘍容積の変化によって測定することで同定するために設定した。腫瘍切除時には、非常に成長しうる腫瘍細胞と腫瘍の容積は、生理食塩水で処理した対照と比較して減少しなかった。
CPT-11に応答して大腸腫瘍異種移植片に観察された遺伝子発現に特異的な変化は正常マウス大腸では観察されなかった。遺伝子発現における顕著な変化としてこの組織に生じたと思われる薬剤への曝露はCPT-11処置動物では明らかであった。我々の結果は、正常な大腸組織は遺伝子毒性傷害に対する過激な応答が和らげられる一方、癌細胞は遺伝子誘導のレベルで劇的で迅速な応答を起こすことを示唆している。一次治療に対する正常細胞と癌細胞間の差次的応答を用いて、効能が向上した新規な併用療法を提供する。特に、一次化学療法薬とその一次化学療法薬での治療の結果として癌細胞に差次的に誘導される遺伝子のアンタゴニストでの併用療法は癌治療の効果を改善することが期待される。よって、例えば、一次治療剤によって癌細胞に選択的に誘導される標的に対する抗体又は小分子は薬剤併用の治療的指標を改善することが期待される。
特定の側面では、ここに提示された結果は、CPT-11に応答して様々な癌細胞株において一般的にアップレギュレートされているLY6D/E48が、その誘導薬剤と共に使用される場合の免疫コンジュゲートに対して効果的な標的であることを証明している。
【0081】
明細書において引用された全ての文献は出典明示によってここに明示的に援用される。本発明はある実施態様を参照することによって説明したが、それらに限定されるものではない。実際、ここに示し記載したものに加えて本発明の様々な変更例が、上の明細書から当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲に入る。
【0082】
表I. CPT-11に曝露されたColo205腫瘍異種移植片において誘導された転写物。3匹の腫瘍を有するマウスのそれぞれをCPT-11又は生理食塩水コントロールで処置し、6RNA調製物全てについてオリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析を実施した。各コントロールと比較した各CPT-11処置サンプルにおける転写物に対する倍数変化を計算し、9の可能な比較物に対する平均倍数変化(Avg fold)を、ポジティブな倍数変化を生じる比較物の割合(一致割合(%))と共に提示した。

【0083】
表II.
CPT-11に曝露された腸fマウスにおいて誘導された転写物。3匹の腫瘍を有するマウスのそれぞれをCPT-11又は生理食塩水コントロールで処置し、6RNA調製物全てについてオリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析を実施した。各コントロールに対する各CPT-11処置サンプルにおける転写物に対する倍数変化を計算し、9の可能な比較物に対する平均倍数変化(Avg fold)を、ポジティブな倍数変化を生じる比較物の割合(一致割合(%))と共に提示した。

【0084】
(実施態様)
1. 腫瘍と診断された患者に、有効量の化学療法剤と、該化学療法剤によって対応の正常細胞と比較して上記腫瘍において発現が選択的にアップレギュレートされることが測定された遺伝子によってコードされる遺伝子産物のアンタゴニストとを投与することを含む方法。
2. 腫瘍が癌である請求項1に記載の方法。
3. 上記患者がヒトである請求項2に記載の方法。
4. 上記癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、脳腫瘍、及び皮膚癌からなる群から選択される請求項3に記載の方法。
5. 上記癌が肺癌である請求項4に記載の方法。
6. 上記癌が乳癌である請求項4に記載の方法。
7. 上記癌が結腸直腸癌である請求項4に記載の方法。
8. 上記結腸直腸癌が腺癌である請求項7に記載の方法。
9. 上記癌が扁平上皮細胞癌である請求項4に記載の方法。
10. 化学療法剤が、アルキル化剤;スルホン酸アルキル類;アジリジン類;エチレンイミン類;メチラメラミン類;ナイトロジェンマスタード;ニトロソ尿素(nitrosureas);抗代謝産物;葉酸類似体;プリン類似体;ピリミジン類似体;アンドロゲン類;抗副腎剤;葉酸リプレニッシャー(replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン;エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリニック酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テニュアゾン酸;トリアジコン(triaziquone);2,2',2'';-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカーバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン;クロランブシル;ゲンシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ類似体;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イフォスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;カンプトテシン-11(CPT-11、イリノテカン);トポイソメラーゼインヒビターRFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン;カペシタビン;抗ホルモン剤;及びその製薬的に許容可能な塩、酸又は誘導体からなる群から選択される請求項3に記載の方法。
11. 化学療法剤がCPT-11又は5-FUである請求項10に記載の方法。
12. 化学療法剤がCPT-11である請求項11に記載の方法。
13. 上記癌が結腸直腸癌である請求項12に記載の方法。
14. 上記大腸癌が転移性腺癌である請求項13に記載の方法。
15. アンタゴニストが、抗体、抗体断片、免疫抱合体、ペプチド、非ペプチド有機小分子、アンチセンス分子、及びオリゴヌクレオチドデコイからなる群から選択される請求項3に記載の方法。
16. アンタゴニストが上記遺伝子産物に結合する請求項15に記載の方法。
17. アンタゴニストが抗体である請求項16に記載の方法。
18. 抗体が抗体断片である請求項16に記載の方法。
19. 抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、線形抗体、一本鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
20. アンタゴニストが免疫抱合体である請求項16に記載の方法。
21. アンタゴニストが、LY6D/E48モノクローナル抗体を含む免疫抱合体である請求項20に記載の方法。
22. 免疫抱合体がLY6D/E48−MMAE免疫抱合体である請求項21に記載の方法。
23. 抗体がヒト化型である請求項17に記載の方法。
24. 抗体がヒト型である請求項17に記載の方法。
25. CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が表Iに列挙された遺伝子の一又は複数である請求項12に記載の方法。
26. CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48/(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);アンチロイコプロテナーゼ(受託番号X04470);アクアポリン(受託番号N74607);アネキシン8(受託番号X16662);ニューロメディンU(受託番号X76029);マスピン(受託番号U04313);アクアポリン3(受託番号AA630981);ケラチン23(受託番号AI961431);est(受託番号AI769930);SPRR3(受託番号AI278521);S1OO型タンパク質(受託番号AI963434);及びガレクチン−7に類似した発現パターンを持つ遺伝子からなる群から選択される請求項25に記載の方法。
27. ガレクチン−7に類似した発現パターンを持つ遺伝子が、ケラチン10;ケラチン1;ケラチノサイト(keritinocyte)分化関連タンパク質;GSPT2;プラコフィリン;ロリクリン;est GB AI739528;ケラチン14;est GB W73855;プロフィラグリン;C4.4a;デスモコリン3;ケラチン5;LY6D/E48;HNK−1スルホトランスフェラーゼ;マスピン;Unigene cluster Hs.201446;毛細血管拡張性運動失調症グループD関連タンパク質;及びアネキシンVIIIからなる群から選択される請求項26に記載の方法。
28. CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);マスピン(受託番号U04313);及びアクアポリン3(受託番号AA630981)からなる群から選択される請求項27に記載の方法。
29. CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48(受託番号Y12642)又はガレクチン−7(受託番号AA010777)である請求項28に記載の方法。
30. CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48であり、アンタゴニストが抗LY6D/E48抗体、抗体断片又は免疫抱合体である請求項29に記載の方法。
31. 腫瘍細胞の増殖を阻害する方法において、
(a)化学療法剤によって正常細胞と比較して上記腫瘍細胞において選択的にアップレギュレートされる少なくとも一の遺伝子の存在を確認し;
(b)上記腫瘍細胞を、上記化学療法剤と上記遺伝子の少なくとも一のアンタゴニストで処置することを含む方法。
32. 上記腫瘍細胞が固形腫瘍の細胞である請求項31に記載の方法。
33. 上記固形腫瘍が癌である請求項32に記載の方法。
34. 上記癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、及び脳腫瘍からなる群から選択される請求項33に記載の方法。
35. 上記アンタゴニストが抗体、抗体断片又は免疫抱合体である請求項24に記載の方法。
36. 上記治療が同時併用である請求項35に記載の方法。
37. 上記治療が逐次的である請求項35に記載の方法。
38. 上記細胞が最初に化学療法剤で治療され、ついで上記抗体、抗体断片又は免疫抱合体で治療される請求項35に記載の方法。
39. 上記化学療法剤が、上記抗体、抗体断片又は免疫抱合体での治療と同時に継続する請求項35に記載の方法。
40. 有効量の化学療法剤と、該化学療法剤によって対応の正常細胞と比較して腫瘍細胞において発現が選択的にアップレギュレートされる遺伝子によってコードされる遺伝子産物のアンタゴニストとを含有する治療用組成物。
41. 上記化学療法剤が5-FU又はCPT-11である請求項40に記載の組成物。
42. 化学療法剤がCPT-11である請求項41に記載の組成物。
43. 上記腫瘍が結腸直腸癌である請求項42に記載の組成物。
44. 上記腫瘍が結腸直腸腺癌である請求項43に記載の組成物。
45. 上記遺伝子が、LY6D/E48(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);マスピン(受託番号U04313);及びアクアポリン3(受託番号AA630981)からなる群から選択される請求項44に記載の組成物。
46. 上記アンタゴニストが抗体、抗体断片又は免疫抱合体である請求項45に記載の組成物。
47. 上記アンタゴニストが非ペプチド小分子である請求項45に記載の組成物。
48. (a)CPT-11での治療の前と後で、対応の正常細胞と比較して、腺癌と診断された患者の腫瘍細胞におけるLY6D/E48(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);マスピン(受託番号U04313);及びアクアポリン3(受託番号AA630981)からなる群から選択される一又は複数の遺伝子の発現レベルを測定し;
(b)CPT-11と、発現がCPT-11での処置によって選択的に誘導された遺伝子のアンタゴニストとの併用治療に対して良好に応答する見込みがあると上記患者を同定することを含む予後方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍と診断された患者に、有効量の化学療法剤と、該化学療法剤によって対応の正常細胞と比較して上記腫瘍において発現が選択的にアップレギュレートされることが測定された遺伝子によってコードされる遺伝子産物のアンタゴニストとを投与することを含む方法。
【請求項2】
腫瘍が癌である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記患者がヒトである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、脳腫瘍、及び皮膚癌からなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記癌が肺癌である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記癌が乳癌である請求項4に記載の方法。
【請求項7】
上記癌が結腸直腸癌である請求項4に記載の方法。
【請求項8】
上記結腸直腸癌が腺癌である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記癌が扁平上皮細胞癌である請求項4に記載の方法。
【請求項10】
化学療法剤が、アルキル化剤;スルホン酸アルキル類;アジリジン類;エチレンイミン類;メチラメラミン類;ナイトロジェンマスタード;ニトロソ尿素(nitrosureas);抗代謝産物;葉酸類似体;プリン類似体;ピリミジン類似体;アンドロゲン類;抗副腎剤;葉酸リプレニッシャー(replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン;エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリニック酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テニュアゾン酸;トリアジコン(triaziquone);2,2',2'';-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカーバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン;クロランブシル;ゲンシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ類似体;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イフォスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;カンプトテシン-11(CPT-11、イリノテカン);トポイソメラーゼインヒビターRFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン;カペシタビン;抗ホルモン剤;及びその製薬的に許容可能な塩、酸又は誘導体からなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項11】
化学療法剤がCPT-11又は5-FUである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化学療法剤がCPT-11である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記癌が結腸直腸癌である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記大腸癌が転移性腺癌である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アンタゴニストが、抗体、抗体断片、免疫抱合体、ペプチド、非ペプチド有機小分子、アンチセンス分子、及びオリゴヌクレオチドデコイからなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項16】
アンタゴニストが上記遺伝子産物に結合する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
アンタゴニストが抗体である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
抗体が抗体断片である請求項16に記載の方法。
【請求項19】
抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、線形抗体、一本鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項20】
アンタゴニストが免疫抱合体である請求項16に記載の方法。
【請求項21】
アンタゴニストが、LY6D/E48モノクローナル抗体を含む免疫抱合体である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
免疫抱合体がLY6D/E48−MMAE免疫抱合体である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
抗体がヒト化型である請求項17に記載の方法。
【請求項24】
抗体がヒト型である請求項17に記載の方法。
【請求項25】
CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が表Iに列挙された遺伝子の一又は複数である請求項12に記載の方法。
【請求項26】
CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48/(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);アンチロイコプロテナーゼ(受託番号X04470);アクアポリン(受託番号N74607);アネキシン8(受託番号X16662);ニューロメディンU(受託番号X76029);マスピン(受託番号U04313);アクアポリン3(受託番号AA630981);ケラチン23(受託番号AI961431);est(受託番号AI769930);SPRR3(受託番号AI278521);S1OO型タンパク質(受託番号AI963434);及びガレクチン−7に類似した発現パターンを持つ遺伝子からなる群から選択される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ガレクチン−7に類似した発現パターンを持つ遺伝子が、ケラチン10;ケラチン1;ケラチノサイト(keritinocyte)分化関連タンパク質;GSPT2;プラコフィリン;ロリクリン;est GB AI739528;ケラチン14;est GB W73855;プロフィラグリン;C4.4a;デスモコリン3;ケラチン5;LY6D/E48;HNK−1スルホトランスフェラーゼ;マスピン;Unigene cluster Hs.201446;毛細血管拡張性運動失調症グループD関連タンパク質;及びアネキシンVIIIからなる群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);マスピン(受託番号U04313);及びアクアポリン3(受託番号AA630981)からなる群から選択される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48(受託番号Y12642)又はガレクチン−7(受託番号AA010777)である請求項28に記載の方法。
【請求項30】
CPT-11によってアップレギュレートされる遺伝子が、LY6D/E48であり、アンタゴニストが抗LY6D/E48抗体、抗体断片又は免疫抱合体である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
腫瘍細胞の増殖を阻害する方法において、
(a)化学療法剤によって正常細胞と比較して上記腫瘍細胞において選択的にアップレギュレートされる少なくとも一の遺伝子の存在を確認し;
(b)上記腫瘍細胞を、上記化学療法剤と上記遺伝子の少なくとも一のアンタゴニストで処置することを含む方法。
【請求項32】
上記腫瘍細胞が固形腫瘍の細胞である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
上記固形腫瘍が癌である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
上記癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、及び脳腫瘍からなる群から選択される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
上記アンタゴニストが抗体、抗体断片又は免疫抱合体である請求項24に記載の方法。
【請求項36】
上記治療が同時併用である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
上記治療が逐次的である請求項35に記載の方法。
【請求項38】
上記細胞が最初に化学療法剤で治療され、ついで上記抗体、抗体断片又は免疫抱合体で治療される請求項35に記載の方法。
【請求項39】
上記化学療法剤が、上記抗体、抗体断片又は免疫抱合体での治療と同時に継続する請求項35に記載の方法。
【請求項40】
有効量の化学療法剤と、該化学療法剤によって対応の正常細胞と比較して腫瘍細胞において発現が選択的にアップレギュレートされる遺伝子によってコードされる遺伝子産物のアンタゴニストとを含有する治療用組成物。
【請求項41】
上記化学療法剤が5-FU又はCPT-11である請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
化学療法剤がCPT-11である請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
上記腫瘍が結腸直腸癌である請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
上記腫瘍が結腸直腸腺癌である請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
上記遺伝子が、LY6D/E48(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);マスピン(受託番号U04313);及びアクアポリン3(受託番号AA630981)からなる群から選択される請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
上記アンタゴニストが抗体、抗体断片又は免疫抱合体である請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
上記アンタゴニストが非ペプチド小分子である請求項45に記載の組成物。
【請求項48】
(a)CPT-11での治療の前と後で、対応の正常細胞と比較して、腺癌と診断された患者の腫瘍細胞におけるLY6D/E48(受託番号Y12642);ガレクチン−7(受託番号AA010777);ペリプラキン(受託番号AF001691);マスピン(受託番号U04313);及びアクアポリン3(受託番号AA630981)からなる群から選択される一又は複数の遺伝子の発現レベルを測定し;
(b)CPT-11と、発現がCPT-11での処置によって選択的に誘導された遺伝子のアンタゴニストとの併用治療に対して良好に応答する見込みがあると上記患者を同定することを含む予後方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−144538(P2012−144538A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−40759(P2012−40759)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2007−516758(P2007−516758)の分割
【原出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】