説明

腫瘍増殖制御のための新規組成物

本発明は、ソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体を発現する腫瘍の治療のための、脱メチル化剤およびHDAC阻害剤の群から選択される少なくとも1つの化合物、ならびにソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストの少なくとも1つを含む、薬学的組成物を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の分野に、より具体的には、腫瘍治療に、より具体的には、ソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体を発現する腫瘍の治療に関する。
【0002】
哺乳動物細胞において、ゲノムDNA中のおよそ35〜5%のシトシン残基は、5−メチルシトシンとして存在する(Ehrlichら, 1982, Nucl. Acids Res. 10:2709−2721)。シトシンのこの修飾は、DNA複製後に行われ、そしてメチル・ドナーとしてS−アデノシル−メチオニンを用い、DNAメチルトランスフェラーゼによって触媒される。およそ70%〜80%の5−メチルシトシン残基が、CpG配列中に見られる(Bird, 1986, Nature 321:209−213)。この配列がゲノム中に高頻度で見られる際、CpGアイランドと称される。非メチル化CpGアイランドはハウスキーピング遺伝子と関連し、一方、多くの組織特異的遺伝子のアイランドは、発現される組織を除いて、メチル化されている(YevinおよびRazin, 1993, DNA Methylation: Molecular Biology and Biological Significance.中 Birkhauer Verlag, バーゼル, p. 523−568)。DNAのこのメチル化は、胚発生中、真核細胞において、異なる遺伝子の発現の制御に重要な役割を果たすと提唱されてきた。この仮説と一致して、DNAメチル化の阻害は、哺乳動物細胞において、分化を誘導することが見いだされてきた(JonesおよびTaylor, 1980, Cell 20:85−93)。
【0003】
遺伝子の制御領域におけるDNAのメチル化は、該遺伝子の転写を阻害可能である。これはおそらく、DNAらせんの主溝内に5−メチルシトシンが侵入して、これが転写因子の結合に干渉することによって引き起こされる。
【0004】
通常、正常組織と比較して、癌で、DNAメチル化の3つの主な変化が生じる。まず、癌細胞は、ゲノム全般の低メチル化を示し、これは染色体不安定性(Edenら, 2003, Science 300:455; Gaudetら, 2003, Science 300:489−492)、ならびに通常はサイレンシングされている反復DNA要素の活性化(Walshら, 1998, Nat. Genet. 20, 116−117)と関連づけられている。
【0005】
第二に、CpGアイランドの新規メチル化が、腫瘍発展を通じて生じうる。腫瘍においては、正常組織と比較して、異常にメチル化されたCpGアイランドが平均600あると概算されるが、これは、腫瘍タイプ間および特定の組織学的サブタイプ内で非常に多様でありうる。さらに、多数の腫瘍タイプでメチル化されるCpGアイランドがある一方、他のCpGアイランドは、特定の腫瘍タイプでのみメチル化されるように、メチル化はランダムに起こるのではない(Costello, J.F.ら, 2000, Nat. Genet. 24:132−138; Esteller, M., Herman, J.G., 2002, J. Pathol. 196:1−7)。これは、特定の遺伝子でのCpGアイランドのメチル化が、癌細胞に増殖または生存上の利点を与え、そしてしたがって、調べている腫瘍タイプにおける、遺伝子サイレンシングの選択圧に応じて、メチル化のパターンが生じるというモデルと一致する。
【0006】
第三に、DNA中のメチル化シトシン、5−メチルシトシンは、シトシンからウラシルへの脱アミン化よりもはるかに高い率で、チミンを形成する自発的脱アミン化を経ることが可能である(Shenら, 1994, Nucl. Acids Res. 22:972−976)。5−メチルシトシンの脱アミン化が修復されなければ、CからTの転移突然変異を生じるであろう。これは、コード領域中に見いだされうるが、多くの腫瘍サプレッサー遺伝子はまた、プロモーター領域中のCpGアイランドの異常なメチル化によっても不活性化されうる。DNAの異常なメチル化が腫瘍形成中に行われる分子機構は明らかではない。親鎖中の相補的CpGを伴わずに、新生するDNA鎖中のCpGアイランドをメチル化することによって、DNAメチルトランスフェラーゼが、誤りを犯すことも可能である。異常なメチル化が、これらの部位がメチル化されないように保護するCpG結合タンパク質を除去したためであることもまた、可能である。機構がどのようなものであれ、異常なメチル化の頻度は、正常哺乳動物細胞においては、まれな事象である。
【0007】
上記に基づいて、2’−デオキシシチジンの誘導体などの、メチル化を阻害する化合物(5−アザ−2’−デオキシシチジン(DAC、デシタビン)、5−アザシチジン(5−アザC)、アラビノシル−5−アザシトシン(ファザラビン)およびジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC))が、腫瘍抑制遺伝子を含む後成的にサイレンシングされた遺伝子の発現を活性化しうるため、これらは抗腫瘍特性を有すると提唱されてきている。さらに、これらの脱メチル化剤は、シスプラチン、エピルビシンおよびテモロゾミド(temolozomide)を含む、ある範囲の化学療法剤に対する感受性を回復しうる(Plumb, J.A.ら, 2000, Cancer Res. 60:6039−6044; Strathdee, G.ら, 1999, Oncogene 18:2335−2341)。特異的ターゲットに対して現在開発中である、多くの他の新規療法剤と同様、脱メチル化剤は、腫瘍細胞において、異常にメチル化されている腫瘍サプレッサーおよび細胞周期遺伝子の抑制を特異的に逆転させることによって、腫瘍増殖を阻害し、そしてしたがって非特異的な慣用的化学療法よりも副作用がより少ないと期待される(Issa, J.P., 2003, Curr. Opin. Oncol. 15:446−451)。デシタビン、ならびにアムサクリン、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシンン、インターフェロン・アルファ、レチノイン酸、トポテカンおよびテモゾロミドを含む、多様な臨床的に重要な細胞傷害剤の相乗的細胞傷害性が、in vitroおよびin vivoで報告されてきている(Frost, P.ら, 1990, Cancer Res. 50:4572−4577; Kritzら, 1996, Am. J. Hematol. 51(2):要約; Colomboら, 1986 Cancer Treat. Rep. 70(12): 要約; Momparler, R.L.ら, 1990, Cancer Lett. 54:21−28; Anzaiら, 1992, Cancer Res. 52(8): 要約; Doreら, 1992, Anticancer Drugs 3(3): 要約; Schwartsmannら, 1997, Leukemia 11(補遺1): 要約; Willemzeら, 1997, Leukemia 11(補遺1): 要約; Plumbら、上記)。Rubinfeld, J.ら(WO 2002/067681)によって、脱メチル化剤およびすべての既知の抗腫瘍薬剤の併用が請求されているが、立証されてはいない。
【0008】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC阻害剤)を通じて、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を遮断することによってもまた、後成的サイレンシングが阻害されうる。上述のようなDNA中のシトシン残基のメチル化の次に、アセチル基の除去が遺伝子サイレンシングの主な機構である。
【0009】
複製独立プロセスによる細胞周期全体でのヒストンの沈着は、あらかじめ存在したヌクレオソームがほどけて、そしてそのヒストンが放出されることを暗示する。転写プロセスは、クロマチン・ファイバーの局所アンフォールディングおよび「開いた」クロマチン立体配置を生じることが知られる。細菌ポリメラーゼでのヌクレオソーム・テンプレートの転写は、in vitroで、DNAからヒストン八量体を置換することなく、起こることも可能であるが、in vivoアッセイによって、真核生物の核では、測定可能な量の転写依存性ヒストン置換が起こることが立証された。実際、in vitroであっても、RNAポリメラーゼIIは、生理学的条件下で、実質的に、ヌクレオソームDNAを転写不能である。転写は、ポリメラーゼがヌクレオソームDNAを通過するために、ヒストン−DNA接触が破壊されることを必要とする。ヒストン八量体がDNAとのある程度の接触を解放して、そして他の接触を維持する場合、転写はヒストン置換を伴わずに起こりうるが、ある程度の頻度で、すべての接触が解放されうる。その結果、ヒストン八量体は、単純にはがれ落ちるであろう。さらに、局在性リモデリング因子が作用する際に、ヌクレオソーム構造を破壊するであろう。ヌクレオソームが破壊される際にヒストン置換が時々起こるならば、in vitroおよびin vivo観察を一致させることも可能である。圧縮されたクロマチン・ファイバー(すなわち、「閉じた」クロマチン)中のヌクレオソームに対する制約は、ヒストン置換を制限するであろう。
【0010】
ある範囲の生物由来のヘテロクロマチン・ドメインと関連する低アセチル化、特にヒストンH3およびH4の低アセチル化が、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)で最も詳細に研究されてきている。テロメアおよびHML/HMR遺伝子座でのサイレント状態を確立し、そして維持するのに必要な、多くのシスおよびトランス作用因子が同定されてきている。これらの研究は、低アセチル化ヒストンの必要性を立証してきた。サイレンシングは、特定のDNA結合タンパク質との相互作用によって補充される多タンパク質、ヌクレオソーム結合性SIR(1−4)複合体によって仲介される。Sir3およびSir4は、低アセチル化状態のヒストンH3およびH4のN末端テールと特異的に相互作用する。ヒストンのN末端テールは、酵母の増殖に、個々に必要とはされないが、これらはサイレンシングに本質的な役割を果たし、H3のアミノ酸4〜20およびH4のアミノ酸16〜29が必要である。特定のsir3アレルは、ヒストンH4テール突然変異のサイレンシング欠陥を抑制可能であり、そしてSir3およびSir4は、in vitroで、ヒストンH3およびH4のアミノ末端に結合可能であり、直接の相互作用が示唆される。異なるヒストン・アセチル化アイソフォームに対する抗体を用いた最近の研究によって、テロメアおよびHML/HMRヘテロクロマチン中のヒストンが、すべての修飾部位で、低アセチル化されていることが示されている。
【0011】
HDAC阻害剤は、細胞培養に該薬剤を添加した最初の24時間中にヒストン・アセチル化に影響を及ぼし、通常は、最初の16時間以内にピークとなる(正確な時間は、細胞株、化合物等に応じる)。この効果は、薬剤を含まない新鮮な培地中で細胞を増殖させることによって逆転させることも可能である。遺伝子発現プロフィール上の変化もまた、処理の最初の24時間の間であるようであり、この際にヒストンが高アセチル化される。すべての既知のHDAC阻害剤が、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤p21WAF1のmRNAおよびタンパク質レベル両方での増加、ならびに細胞周期停止を引き起こす。これらは、類似の機構によって(例えば、すべてのHDACにおいて非常に保存されている、HDAC触媒ポケットへの、アセチル−リジン残基のアクセスを遮断することによって)作用するが、これらの物質は、顕著に異なる効果を有する:同じ細胞株において、いくつかの化合物の作用を観察すると、多様な遺伝子発現パターンが見いだされ、そして細胞周期停止は、G2/M(最も頻繁)またはG/Sで生じうる。
【0012】
神経内分泌腫瘍において、ならびに乳癌、前立腺癌および結腸癌などの未分化上皮腫瘍において、ソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体が腫瘍細胞表面で発現されている(Reubi, J.C.およびLandolt, A.M., 1989, J. Clin. Endocrinol. Metab. 68:844−850; Chanson, P.ら, 1993, Ann. Intern. Med. 119:236−240; De Bruin, T.W.A., 1992, J. Clin. Endocrinol. Met. 75:1310−1317; De Herder, W.W., 1994, Am. J. Med. 96:305−312; Reubi, J.C.ら, 1990, Metabolism 39(補遺2):78−81; Lamberts, S.W.J., 1991, Endocr. Rev. 12:450−482; Lemmer, K.ら, 2002, Life Sci. 71:667−678)。ソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体陽性腫瘍患者において、これらのGタンパク質共役型受容体は、それぞれ、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストでの治療のターゲットとなるであろうが、これは、こうした類似体およびアゴニストが腫瘍細胞によるホルモンおよび生物活性ペプチドの産生を阻害する結果、関連する重度の臨床的総体症状のよりよい制御を生じるためである。ソマトスタチン類似体およびドーパミン・アゴニストが、いくつかの実験モデルにおいて、腫瘍細胞増殖を阻害する(Lambertsら、1991、上記; Schally, A.V., 1988, Cancer Res. 48:6977−6985; Lamberts, S.J.W.ら, 1996, New. Eng. J. Med. 334:246−254)一方、こうした腫瘍増殖阻害効果は、臨床的には観察されないか、またはまれにしか観察されない(Hejna, M.ら, 2002,“The clinical role of somatostatin analogues as antineoplastic agents: much ado about nothing?” Annals of Oncology 13: 653−668)。何らかの効果がある場合、ドーパミン・アゴニストは、主に、タンパク質合成を阻害し、そして細胞体積を減少させることによって、腫瘍退行を引き起こす(McNichol, A.M.ら, 2005, Acta Neurochir. 147(7):2005−2007)。ソマトスタチン類似体に関して、下垂体における成長ホルモン産生性腫瘍の退行が記載されてきている(WO 00/75186; US 5,538,739)が、治療を停止すると、しばしば、腫瘍体積の迅速な増加が導かれ、したがって、潜在的な増殖阻害効果は否定される。ソマトスタチン類似体がヒトにおいて有効でないようであるのはなぜか、いくつかのありうる理由が提供されてきている(Lamberts, S.W.J.ら, 2002, Trends Endocrinol. Metabol. 13:451−457):(i)大部分のヒト癌は、間質組織および上皮腫瘍細胞の異なるクローンの混合物を含み、これらはソマトスタチン受容体(sst)を均一に発現しない。これは、大部分の場合、すべての腫瘍細胞上にsstを均一に発現する、動物における大部分の単クローン性の腫瘍モデルとはまったく対照的である;(ii)ヒト乳癌、前立腺癌および結腸癌の一部でのsst発現は、しばしば、腫瘍分化の喪失の指標である。一般的に、神経内分泌細胞分化を伴うこれらの未分化腫瘍は、その発展段階で劣った予後を有する;(3)腫瘍学における新規臨床試験の性質のため、しばしば、研究に含まれるのは、主に、疾患開始末期の患者である。さらに、以前の化学療法がsstの数を減少させうる予備的証拠がある;そして(iv)これまでに、臨床試験において適用されたsst特異的類似体が、使用すべき最高の化合物であるかどうかは不明なままである。
【0013】
発明の概要
本発明者らはここで、驚くべきことに、ソマトスタチン類似体、ドーパミン・アゴニストまたはソマトスタチン−ドーパミン・キメラ分子(ソマトスタチンおよびドーパミンD2受容体の両方を同時にターゲットとする)と、脱メチル化剤との併用が、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストの単剤治療の療法的有効性に伴う問題を克服し、そしてソマトスタチン類似体、ドーパミン・アゴニストまたはソマトスタチン−ドーパミン・キメラ分子と、脱メチル化剤の併用治療が、それぞれ、ソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体を発現する腫瘍の有効療法を提供することを見いだした。後成的サイレンシングは、DNAメチル化によってのみでなく、ヒストン脱アセチル化によっても引き起こされるため、HDAC阻害剤の、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストとの併用、あるいはソマトスタチン−ドーパミン・キメラ分子との併用での、匹敵する相乗効果が想定される。
【0014】
したがって、本発明は、脱メチル化剤またはHDAC阻害剤の少なくとも1つ、およびソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストの少なくとも1つを含む、薬学的組成物、ならびにソマトスタチンまたはドーパミン受容体を発現する腫瘍の治療用の前記薬学的組成物の使用を含む。
【0015】
発明の詳細な説明
導入部分に記載した問題のため、腫瘍増殖および発展の制御のためにソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストを用いる多くの試みは、失敗したか、または予期したようには成功しなかった。本発明者らが試験してきた仮説の1つは、これらの化合物で適切な腫瘍増殖制御を得るのに失敗したのは、腫瘍遺伝子、特にソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体の活性化を介した腫瘍増殖阻害効果に関与する遺伝子の高メチル化のためであったというものである。したがって、本発明者らは、実験セクションに報告するような実験を設定し、そして驚くべきことに、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニスト、またはソマトスタチン−ドーパミン・キメラ分子と、デシタビンなどの脱メチル化剤の併用治療が、ソマトスタチン類似体、ドーパミン・アゴニストまたはソマトスタチン−ドーパミン・キメラ分子の有効性を劇的に増加させることを観察した。観察された強力な相乗的腫瘍増殖阻害効果は、少なくとも部分的に、DNA断片化(アポトーシス)の増加のためであると考えられる。
【0016】
本発明で適用可能な、いくつかの脱メチル化剤が当該技術分野に知られる。1つの主な群は、2’−デオキシシチジンの誘導体によって形成され、このうち、5−アザ−2’−デオキシシチジン(デシタビン)が、現在最も使用されている。デシタビンおよび天然ヌクレオシド、デオキシシチジンの間の構造的相違は、シトシン環の5位の炭素原子に比較して、この位に窒素が存在することである。デシタビンの2つの異性体型が区別可能であり、このうち、β−アノマーが活性型である。デカビチン(decabitine)は、多数の薬理学的特性を所持する。分子レベルでは、DNAへの取り込みのため、該薬剤はS期依存性である。細胞レベルでは、デシタビンは、細胞分化を誘導し、そして血液学的毒性を発揮することも可能である。in vivoで短い半減期を有するにも関わらず、デシタビンは、優れた組織分布を有する。
【0017】
デシタビンの最も顕著な機能は、DNAメチル化を特異的にそして強力に阻害する能力である。細胞内部で、デシタビンは、主に、細胞のS期中に合成される、デオキシシチジン・キナーゼによって、まず活性型に変換される。三リン酸型に変換された後、デシタビンは、複製中のDNAに、天然基質dCTPと類似の速度で取り込まれる(BouchardおよびMonparler, 1983, Mol. Pharmacol. 24:109−114)。メチル化の特定の部位での5−メチルシトシンのデシタビンでの置換は、おそらく、酵素およびデシタビン間に共有結合が形成されるため、DNAメチルトランスフェラーゼの不可逆的な不活性化を生じる。DNAメチル化に必要な酵素であるDNAメチルトランスフェラーゼを特異的に阻害することによって、腫瘍遺伝子の異常なメチル化が防止可能である。
【0018】
研究者らはまた、脱メチル化剤での処理が、腫瘍細胞表面上のソマトスタチンおよびドーパミン受容体の発現を増加させることも見いだした(データ未提示)。
【0019】
現在、天然存在および合成HDAC阻害剤に、製薬会社が興味を持っており、これは、これらが癌および他のヒト病変に対して使用される大きな可能性があるためである。HDAC阻害剤の生化学的構造は、非常に不均一であり、バルプロエートのような単純な化合物から、MS−275(ベンズアミド)のようなより精巧な設計に渡る。全体として、HDAC阻害剤は、すべてのHDACに対して、広い範囲の活性を示すが、いくつかの例外が知られる。以下のような化学的性質および阻害機構にしたがって、これらの化合物を分類してもよい。
【0020】
1.ヒドロキサム酸。これはおそらく、HDAC阻害剤の最も広範囲のセットである。これらの物質の一般構造は、ヒドロキサム酸部分がHDAC触媒ポケットの底部の陽イオンをキレートするのを可能にする疎水性リンカーからなり、一方、分子のかさばった部分は、チューブのキャップとして作用する。この群の化学物質の大部分は、非常に強力である(in vitroでナノモルからマイクロモル濃度で機能する)が、クラスI/II HDACの可逆的阻害剤である。これらの化合物の中に、本発明者らは、この分野の研究における参照物質として広く用いられるTSA(トリコスタチンA)を見いだしている。しかし、患者への毒性および特定のHDACに対する特異性の欠如が、他の物質を検索する動機となってきた。SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸)またはScriptaidの単純なものから、NVP−LAQ−82425およびPXD−101を含む、Novartis(スイス・バーゼル)などの製薬会社によって開発された最新薬剤に渡る、多くの合成薬剤の設計が、TSA構造によって着想されてきており、試験され(in vitro、in vivoおよびいくつかの場合、臨床試験で)、そして許容されうる成功度を有することが示された、広い範囲の構築ブロックの組み合わせがある。
【0021】
2.カルボン酸。この群には、いくつかの薬剤しかない:ブタン酸、バルプロ酸および4−フェニルブタン酸。ヒドロキサム酸よりもはるかにより強力でなく(阻害は、in vitroではミリモル濃度で起こり、そしてin vivoでは非常に高用量で起こる)、そして多面的な効果であるにもかかわらず、これらは現在、最もよく研究されているHDAC阻害剤の1つである:バルプロ酸およびフェニルブチレートは、すでに、それぞれ、癲癇およびいくつかの癌を治療する際に使用するために認可されており、一方、ブタン酸(またはそのプロドラッグ型、例えばピバロイルオキシメチルブチレート)は、臨床試験中である。
【0022】
3.ベンズアミド。MS−275およびその誘導体のいくつかは、in vitroで、マイクロモル濃度で、HDACを阻害するが、その機構は明らかには理解されていない。ジアミノフェニル基が阻害性の振る舞いに非常に重要であると考えられる;おそらく、両方のアミノ官能性が、触媒部位中の金属イオンをキレートする。MS−275およびN−アセチルジナリンが、臨床試験中である。
【0023】
4.エポキシド。これらの化学物質は、結合ポケットにおいて、エポキシド部分と亜鉛陽イオンまたはアミノ酸の反応(共有結合を形成する)を通じて、HDACを捕捉すると推定される。しかし、エポキシド官能性の不安定性が、有意なin vivo活性を防止し、このため、これらは薬理学的にほとんど興味を持たれない。このセットの化合物中の唯一のHDAC阻害剤は、デピューデシン(depeudecin)、トラポキシンAなどの、有意なin vitro活性を持つ、いくつかの天然産物である。トラポキシンは、少なくとも1つの非タンパク質生成アミノ酸を持つ環状テトラペプチドであり、そしてその構造は、新規ヒドロキサム酸に基づくHDAC阻害剤設計のモデルとして用いられてきている。
【0024】
5.その他。先の群のベンズアミド同様、デプシペプチドFK228(真菌代謝産物)もまた、臨床試験中であるが、古典的なHDACをin vitroで阻害する機構は未知のままである。1つの仮説は、細胞または生物内部のジスルフィド架橋が還元され、そして次いで、4−メルカプト−ブト−1−エニル残基がHDAC触媒ポケット内部に適合して、他の阻害剤のものと類似の方式で、Zn2+をキレートすることを提唱する。培養細胞中では、ナノモル濃度で、ヒストン高アセチル化および増殖停止を誘導可能である。アピシジンAは、別の真菌代謝産物であり、原生動物からヒトまでの多くの生物において、マイクロモル濃度で、HDACを阻害することが可能である。化学的には、該物質は、アルキルケトン残基を所持する環状テトラペプチドである。ケトン基は、触媒性Zn2+をキレートすると提唱され、脂肪族鎖がスペーサーとして働き、そしてペプチド環の残りが「キャップ」である。アピシジンBおよびC(やはり天然産物)は、同じ構造を有し、アピシジンAと1残基異なる。実際、アピシジンのペプチド性の性質から、アミノ酸を変化させることによって、類似体の化学合成(固相方法論を使用するものを含む)を容易に設計することが可能であり、それによって、より強く、そしてより特異的なHDAC阻害剤の検索が容易になる。トラポキシン(上記を参照されたい)もまた、アピシジンと緊密に関連する、環状テトラペプチドである。しかし、2群の物質間の主な相違は、前者が、アルキルケトン官能性でなく、エポキシケトン官能性を所持することであり、このため、該化合物は、生理学的条件下で、はるかにより安定でない。
【0025】
これはおそらく、ソマトスタチン受容体またはドーパミン受容体の活性化の結果として作用する腫瘍抑制性遺伝子の、高メチル化および/または脱アセチル化、そしてそれによる不活性化が、ソマトスタチン、ドーパミンおよび/またはその類似体またはアゴニストの適用によって起こる、事象の正常なカスケードを防止することを意味する。この高メチル化および/または脱アセチル化効果にもかかわらず、抗腫瘍療法にこれらの化合物を用いることがなお可能であるためには、少しでも活性を観察するのに、非常に高用量のこれらの化合物が必要であろう。しかし、本発明では、強い相乗効果のため、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストおよび脱メチル化剤および/またはHDAC阻害剤の両方に関して、より低い用量が使用可能である。これは、正常組織に対して負の効果を有しうる、これらの化合物の副作用を最小限にするため、好適である。脱メチル化剤が、腫瘍細胞表面でのソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体の発現を増加させるようであるという事実によって、相乗効果が増進されさえする。
【0026】
導入部分に論じるように、ソマトスタチン類似体のかなりの数が当該技術分野に知られる。これらは、ソマトスタチン自体(ソマトスタチン−14およびソマトスタチン−28など)またはコルチスタチン(コルチスタチン−14、コルチスタチン−17、コルチスタチン−29)の誘導体を含む。薬学的に好ましいソマトスタチン類似体は、オクトレオチド、バプレオチド、ランレオチド、CH275、CH−288、BIM−23926、BIM−23206、BIM−23056、BIM−23268、BIM−23052、BIM−23244、L−およびD−Tyr(8)CYN154806、ならびに近年開発された非ペプチドL−779,976、L−803,087およびL−817,818である(Olias, G.ら, 2004, J. Neurochem. 89:1057−1091)。
【0027】
ドーパミン・アゴニストとして、周知のアマンタジン、ブロモクリプチン、カベルゴリン、キナゴリド、リスリド、ペルゴリド、ロピニロール、プラミプレキソール(pramiprexole)およびラサギリンを用いてもよい。ごく最近、ソマトスタチン−ドーパミン・ハイブリッドまたはキメラ分子が合成されてきており、例えば、すべて、ソマトスタチンおよびドーパミン受容体の両方に高アフィニティーを示す、BIM−23A387(Saveanu, A.ら, 2002, J. Clin. Endocrin. Metab. 87:5545−5552)、BIM−23A758、BIM−23A760、BIM−23A761およびBIM−23A765(Jaquet, P.ら, 2005, Eur. J. Endocrinol. 153: 135−141)、ならびに大部分のソマトスタチン受容体サブタイプに高アフィニティーで結合する、「普遍的な」ソマトスタチン・リガンドSOM−320(Bruns, C.ら, 2002, Eur. J. Endocrinol. 146:707−716)およびKE−108(Reubi, J.C.ら, 2002, Eur. J. Pharmacol. 456:45−49)がある。SOM−230およびKE−108は、適切な半減期特性を有する。ドーパミン−ソマトスタチン・ハイブリッド分子および普遍的ソマトスタチン類似体は、本発明において、特に好ましい。
【0028】
上述の化合物は、通常、単剤療法で投与される方式で投与されるであろう。これは、これらを、固形または液体型で(錠剤、ロゼンジ、顆粒、粉末、サシェー、カプセル、座薬、エマルジョン、溶液、リニメント剤、チンキ、ゲル等として)、あるいは遅延放出配合物を介して(脂質、リポソームまたは移植物などのキャリアー中またはキャリアー上、プロドラッグ型または緩慢代謝誘導体等で)、単一用量として、または反復投薬として、投与してもよいことを意味する。
【0029】
ドーパミン・アゴニストに関しては、これは、本発明の方法および組成物で用いられる他の化合物との併用投与が容易であるため、他の投薬型(ゲル、液体、スプレー、注射液等)および他の投与経路(皮下、筋内、臀筋内、静脈内、局所送達を介して(例えば移植によって)、経皮等)もまた可能であるが、これらが、好ましくは、錠剤型で経口投与されることを意味する。タンパク質性ソマトスタチン類似体は、好ましくは注射を介して投与される。オクトレオチドは、好ましくは、皮下注射または深部臀筋内注射として投与される(オクトレオチド−LAR)一方、ランレオチドは、好ましくは、筋内または皮下注射として投与される(ランレオチド−オートゲル)。
【0030】
HDACの投与経路は、用いる化合物の種類に応じ、そして好ましくは経口であるか、または注射による。上に論じる脱メチル化剤に関しては、類似のアプローチが適している。
【0031】
適用を要する用量は、上記薬剤の通常の投与で用いる用量および投与スキームに由来してもよいが、本発明の併用の相乗効果のため、より少量の薬剤(単数または複数)で開始することが勧められる。したがって、上記の所定の物質の各々に関して、先行技術から適切な投与スキームを得て、そして適切であるように、新規相乗効果にしたがって適応させてもよい。
【0032】
ドーパミン・アゴニスト、ブロモクリプチンの典型的な用量は、経口投与(錠剤)によって、毎日2.5〜40mgである。同様に、カベルゴリンに関しては、1回または2回の用量で投与される、0.5〜4.5mg/週の経口用量が適切である。オクトレオチドは、好ましくは注射によって投与され;8〜12時間ごとに、皮下注射によって、0.05〜0.5mgの用量で投与してもよいし、またはオクトレオチド−LARに関しては、10〜40mgの用量で、深部臀筋内注射によって、4週間ごとに1回投与してもよい。長期活性ランレオチドを、1〜2週間ごとに、30mg筋内注射によって投与してもよく、またはランレオチド−オートゲルに関しては、60〜120mgの用量で、深部皮下注射を通じて、3〜4週間ごとに投与してもよい。これらは、本発明で使用可能ないくつかの化合物に関して適用可能な、多様な用量および投与経路の制限されない例に過ぎない。当業者は、上述のこれらの化合物および他の化合物に適した用量および投与経路を選択する知識および技術を有するであろう。
【0033】
脱メチル化剤および/またはHDAC阻害剤を、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストと同時に投与してもよいし、またはこれらを別個に投与してもよい。本明細書において、表現「薬学的組成物」は、上に論じるような薬剤の2以上の組成物の慣用的な意味を有することも可能である;が、薬剤を別個に、例えば異なる時間間隔で投与するが、薬剤の併用が療法効果を提供する、治療のための用量も含むこともまた意味する。特に、ソマトスタチン類似体は、好ましくはデポ注射(数日または数週間有効である)として投与されるため、脱メチル化剤(単数または複数)および/またはHDAC阻害剤(単数または複数)の同時経口投与スキームが想定可能である。しかしまた、これらを緩慢放出配合物として投与して、患者の不快感を最小限にし、そして/またはノンコンプライアンスを最小限にすることもまた可能である。好ましくは、脱メチル化剤および/またはHDAC阻害剤は、ソマトスタチン類似体および/またはドーパミン・アゴニストの投与前に投与される。この方式で、ソマトスタチンおよび/またはドーパミンをシグナル伝達し、そしてその効果を発揮する細胞機構(受容体(単数または複数)、シグナル伝達カスケード等)の機能する形での用意が達成される。研究者らは、AZA(デシタビン)で1日間、前処理するとすでに、DNA断片化(アポトーシス)または細胞増殖に対して、ソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストまたはソマトスタチン−ドーパミン・キメラ分子での、増進された相乗的活性が誘導されることを見いだした。
【0034】
本発明にしたがった治療は、基本的に、2つの構成要素(1つの構成要素は、脱メチル化剤およびHDAC阻害剤の群より選択され、第二の構成要素は、ソマトスタチン類似体およびドーパミン・アゴニストの群より選択される)を含むが、好ましい態様において、組成物または治療は、3つまたは4つの構成要素を含む。3つの構成要素の系では、組成物は、少なくとも1つの脱メチル化剤、少なくとも1つのHDAC阻害剤、ならびにソマトスタチン類似体およびドーパミン・アゴニストの群より選択される、少なくとも1つの構成要素を含む。2つまたは3つの構成要素の系において、ソマトスタチン類似体およびドーパミン・アゴニストの群より選択される構成要素は、好適には、BIM−23A387、BIM−23A758、BIM−23A760、BIM−23A761またはBIM−23A765などのソマトスタチン−ドーパミン・キメラリガンド、あるいはSOM−320またはKE−108などの普遍的ソマトスタチン類似体である。4つの構成要素の系では、組成物または治療は、少なくとも1つの脱メチル化剤、少なくとも1つのHDAC阻害剤、少なくとも1つのソマトスタチン類似体および少なくとも1つのドーパミン・アゴニストを含む。
【0035】
組成物の次に、上述のような治療法もまた、本発明の一部である。示すように、こうした治療法は、少なくとも1つの脱メチル化剤または少なくとも1つのHDAC阻害剤、および少なくとも1つのソマトスタチン類似体または少なくとも1つのドーパミン・アゴニストまたは少なくとも1つのソマトスタチン−ドーパミン・キメラリガンドまたは少なくとも1つの普遍的ソマトスタチン類似体の同時または連続投与を含んでもよい。連続する場合、すなわち非同時投与を適用する場合、他の化合物の投与前に、脱メチル化剤および/またはHDAC阻害剤を投与することが好ましい。好ましくは、脱メチル化剤および/またはHDCA阻害剤での治療は、ソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストの投与の数日前(少なくとも1日)から最大2週間前に開始する。
【0036】
本発明の組成物を、表面上にソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体を発現する腫瘍を有する患者において、腫瘍の療法に用いてもよい。多くの腫瘍が、両受容体の少なくとも一方を含むことが見いだされてきており、そして一般的に、両受容体が一緒に発現される。本発明の組成物を用いた療法に適しているであろう腫瘍は、下垂体腺腫、膵島腫瘍、インスリノーマ、カルチノイド、褐色細胞腫、傍神経節腫(paragaglioma)、甲状腺髄様癌などの神経内分泌腫瘍;乳房、腎臓、結腸、膵臓、前立腺または卵巣腫瘍などの腺癌;髄膜腫などの脳腫瘍;ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫ならびに急性および慢性白血病などの血液学的悪性病変;肝細胞癌のような他の悪性病変を含み、そして組成物はまた、サルコイドーシスおよび関節リウマチなどの、慢性免疫疾患においても有用であろう。
【0037】
腫瘍増殖と戦う利点に加えて、本発明の組成物はまた、腫瘍からの過剰なホルモン分泌も防止し、それによって、これらの腫瘍を持つ患者が経験するホルモン過剰によって誘導される多面的効果も減少させるであろう。
【0038】
実施例
方法
細胞株および培養条件
ヒト膵臓カルチノイドBON細胞をTownsend博士(The University of Texas Medical Branch、米国テキサス州ガルベストン)から得た。5%COを含有する、37℃の加湿インキュベーター中で、細胞を培養した。培地は、10%FCS、ペニシリン(1x105U/l)、ファンギゾン(0.5mg/l)およびl−グルタミン(2mmol/l)を補充した、ダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)およびF12K培地の1:1混合物からなった。定期的に、細胞がマイコプラズマ不含であることを確認した。トリプシンEDTA10%で細胞を採取し、そして培地中に再懸濁した。プレーティング前に、標準的血球計算板を用いて、細胞を顕微鏡的に計数した。トリパンブルー染色を用いて、細胞生存度を評価し、これは常に95%を超えていた。培地および補充物を、GIBCO Bio−cult Europe(Invtrogen、オランダ・ブレダ)から得た。
【0039】
細胞増殖アッセイ
トリプシン処理後、細胞を1mlの培地中、0.4〜2x104細胞/ウェルの密度で、24ウェルプレートにプレーティングした。次いで、プレートを37℃、5%COインキュベーター中に入れた。3日後、用量曲線反応実験において、異なる濃度の5−アザ−2’−デオキシシチジン(0、10−5M、10−6M、10−7M、10−8Mおよび10−9M)を含有するか、あるいはソマトスタチン類似体、オクトレオチド(10−8M)またはドーパミン・アゴニスト、カベルゴリン(10−8M)を含むまたは含まない、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5x10−8M)を含有する1ml/ウェル培地で、細胞培地を交換した。5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびオクトレオチドまたはカベルゴリンの併用を評価する実験においては、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5x10−8M)での前処理を24時間行った。
【0040】
プレートを37℃および5%COでさらにインキュベーションした。処理の3日後および6日後、DNA測定のため、細胞を採取した。6日のプレートは、3日後に培地を新しくして、そして化合物を再び添加した。各処理を4つ一組で行った。先に記載されるように(Hofland LJ, van Koetsveld PM, Lamberts SW. Percoll density gradient centrifugation of rat pituitary tumor cells: a study of functional heterogeneity within and between tumors with respect to growth rates, prolactin production and responsiveness to the somatostatin analog SMS 201−995. Eur J Cancer 1990;26:37−44.)、ビスベンズイミド蛍光色素(HoechstTM 33258)(Boehring Diagnostics、カリフォルニア州ラホヤ)を用いて、細胞数を表す総DNA含有量の測定を行った。
【0041】
アポトーシス・アッセイ(DNA断片化)
トリプシン処理後、1.5〜2x10細胞/ウェルの密度で、BON細胞を24ウェルプレートにプレーティングした。これらのプレートを37℃、5%COインキュベーター中に入れた。3日後、用量曲線反応実験における、異なる濃度の5−アザ−2’−デオキシシチジン(10−5M、10−6M、10−7M、10−8Mおよび10−9M)、あるいはソマトスタチン類似体、オクトレオチド(10−8M)またはドーパミン・アゴニスト、カベルゴリン(10−8M)を含むまたは含まない、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5x10−8M)の存在下または非存在下(対照群)で、細胞培地を新しくした。5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびオクトレオチド、カベルゴリンまたは新規ソマトスタチン類似体BIM−23206、BIM−23926、およびソマトスタチン−ドーパミン・キメラBIM−23A765の併用を評価する実験においては、5−アザ−2’−デオキシシチジン(5x10−8M)での前処理を24時間行った。
【0042】
各処理を4つ一組で行った。さらに3日間インキュベーションした後、商業的に入手可能なELISAキット(Cell Death Detection ELISAPlus、Roche Diagnostic GmbH、ドイツ・ペンツベルグ)を用いて、アポトーシスを評価した。このアッセイは、それぞれDNAおよびヒストンに対して向けられるマウス・モノクローナル抗体を用いた、定量的サンドイッチ−酵素−イムノアッセイ原理に基づく。これは、アポトーシスに典型的な、細胞溶解物の細胞質分画中のモノ−およびオリゴ−ヌクレオソームの特異的測定を可能にする。製造者に供給される標準的なプロトコルを用いた。簡潔には、吸引によって培地を注意深く除去し、100μlの溶解緩衝液(Cell Death Detection ELISAPlusアッセイとともに提供される)中で細胞をインキュベーションした。細胞溶解後、ストレプトアビジンでコーティングした96ウェルプレート中で、抗DNAおよび抗ヒストン抗体とともに、溶液を2時間インキュベーションした。洗浄後、405nmでの分光光度検出のため、免疫複合体に結合したペルオキシダーゼを2,2’−アジノ−ジ[3−エチルベンズチアゾリン・スルホネート](発色基質)で探査して、プレートに結合したヌクレオソームの量を定量化した。対照ウェルの平均吸光度に対する、処理ウェルの平均吸光度の比によって、相対的アポトーシスを決定した。
【0043】
結果
細胞増殖に対するオクトレオチドおよびカベルゴリンの効果
オクトレオチド(10−8M)またはカベルゴリン(10−8M)との3日間または6日間のインキュベーション中、細胞数を反映するDNA含有量として測定すると、BONカルチノイド細胞増殖に対する両薬剤の統計的に有意な効果はなかった。各々、2回の独立の実験の平均±SEMを表す、図1Aおよび2Aは、インキュベーション6日後のオクトレオチドまたはカベルゴリンの効果を示す。
【0044】
細胞増殖に対する5−アザ−2’−デオキシシチジンの効果
5−アザ−2’−デオキシシチジンとの3日間または6日間のインキュベーション中、時間および用量依存方式で、BONカルチノイド細胞増殖は、有意に阻害された(データ未提示)。6日間のインキュベーション後、5−アザ−2’−デオキシシチジンの腫瘍細胞増殖阻害効果のIC25値は、およそ5x10−8Mであった。図1Aおよび2Aは、低用量の5−アザ−2’−デオキシシチジン(5x10−8M)が、BONカルチノイド細胞増殖を有意に阻害したことを示す(対照に対して、p<0.001)。
【0045】
細胞増殖に対する5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびオクトレオチドまたはカベルゴリンの併用処理の効果
インキュベーション6日後、5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびオクトレオチド(10−8M)またはカベルゴリン(10−8M)の併用処理によって、5−アザ−2’−デオキシシチジン単独の効果と比較して、細胞増殖に対して、BONカルチノイド細胞成長の、統計的に有意なより高い阻害が誘導された(それぞれp<0.05およびp<0.01)。
【0046】
アポトーシス(DNA断片化)に対するオクトレオチドおよびカベルゴリンの効果
オクトレオチド(10−8M)またはカベルゴリン(10−8M)との3日間のインキュベーション中、BONカルチノイド細胞において、DNA断片化として測定すると、アポトーシスに対する両薬剤の統計的に有意な効果はなかった。2回の独立の実験の平均±SEMを表す、図1Bおよび2Bは、DNA断片化の誘導に対する、オクトレオチドまたはカベルゴリンの効果を示す。ソマトスタチン類似体BIM−23926およびBIM−23206、ならびにソマトスタチン−ドーパミン・キメラBIM−23A765単独での処理に関して、同様の結果を得た。
【0047】
アポトーシス(DNA断片化)に対する5−アザ−2’−デオキシシチジンの効果
5−アザ−2’−デオキシシチジンとの3日間のインキュベーションによって、用量依存方式で、BONカルチノイド細胞におけるDNA断片化が有意に誘導された(データ未提示)。3日間のインキュベーション後、5−アザ−2’−デオキシシチジンのアポトーシス誘導効果のEC25値は、およそ5x10−8Mであった。図1Bおよび2Bは、低用量の5−アザ−2’−デオキシシチジン(5x10−8M)が、BONカルチノイド細胞において、ほぼ100%のDNA断片化を有意に誘導したことを示す(対照に対して、p<0.001)。
【0048】
アポトーシス(DNA断片化)に対する5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびオクトレオチドまたはカベルゴリンでの併用処理の効果
図1Bおよび2Bは、5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびオクトレオチド(10−8M)またはカベルゴリン(10−8M)の併用処理が、3日後、5−アザ−2’−デオキシシチジン単独の効果と比較して、BONカルチノイド細胞におけるDNA断片化の、統計的に有意なより高い誘導を誘導したことを示す(それぞれp<0.05およびp<0.001)。
【0049】
アポトーシスに対する5−アザ−2’−デオキシシチジン、ならびに新規ソマトスタチン類似体BIM−23926およびBIM−23206での併用処理の効果
図3は、ソマトスタチン類似体を単独で投与すると、ヒトBONカルチノイド細胞のアポトーシス(DNA断片化)にはまったく効果がないことを示す。しかし、新規類似体のいずれかと一緒にAZAを投与すると、AZA単独の中程度の効果から、劇的な増加が観察された。
【0050】
アポトーシスに対する5−アザ−2’−デオキシシチジンおよびソマトスタチン−ドーパミン・キメラBIM−23A765での併用処理の効果
図4は、ソマトスタチン−ドーパミン・キメラを単独で投与すると、ヒトBONカルチノイド細胞のアポトーシス(DNA断片化)にはまったく効果がないことを示す。しかし、BIM−23A765と一緒にAZAを投与すると、AZA単独の中程度の効果から、劇的な増加が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】パネルAは、ヒトBONカルチノイド腫瘍細胞における細胞増殖に対する、AZA(デシタビン)、オクトレオチド、および両方の併用の効果を示す。パネルBは、BON細胞におけるDNA断片化(アポトーシス)に対するこれらの化合物の効果を示す。
【図2】AZAおよびカベルゴリンに関して、図1と同様である。
【図3】ヒトBONカルチノイド細胞のDNA断片化に対する、AZA(5nM)およびソマトスタチン類似体BIM−23926(sst1選択的)およびBIM−23206(sst5選択的)(どちらも10nM)の相乗効果。値は、2回の独立の実験の平均を表す。
【図4】ヒトBONカルチノイド細胞のDNA断片化に対する、AZA(5nM)およびソマトスタチン−ドーパミン・キメラBIM−23A765(10nM;sst2+sst5+D2選択的アゴニスト)の相乗効果。値は、2回の独立の実験の平均を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱メチル化剤またはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の少なくとも1つ、およびソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストの少なくとも1つを含む、薬学的組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの脱メチル化剤、少なくとも1つのHDAC阻害剤、およびソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストの少なくとも1つを含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの脱メチル化剤、少なくとも1つのHDAC阻害剤、少なくとも1つのソマトスタチン類似体および少なくとも1つのドーパミン・アゴニストを含む、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの脱メチル化剤が、5−アザ−2’−デオキシシチジン(DAC、デシタビン)、5−アザシチジン(5−アザC)、アラビノシル−5−アザシトシン(ファザラビン)およびジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC)からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか記載の薬学的組成物。
【請求項4】
少なくとも1つのHDAC阻害剤が、ヒドロキサム酸(hydroxaminic acids)(トリコスタチンA、SAHA、NVP−LAQ−82425、PXD−101など)、カルボン酸(ブタン酸、バルプロ酸、4−フェノキシブタン酸など)、ベンズアミド(N−アセチルジナリン(acetyldinaline)、MS−275およびその誘導体など)、エポキシド(デピューディシン(depeudicin)、トラポキシンAなど)、FK228、アピシジンA、BおよびCからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか記載の薬学的組成物。
【請求項5】
少なくとも1つのソマトスタチン類似体が、ソマトスタチン−14、ソマトスタチン−28、コルチスタチン−14、コルチスタチン−17、コルチスタチン−29、オクトレオチド、バプレオチド、ランレオチド、CH275、CH−288、BIM−23056、BIM−23206、BIM−23268、BIM−23926、BIM−23052、BIM−23244、BIM−23A758、BIM−23A760、BIM−232A761、BIM−23A765、L−およびD−Tyr(8)CYN154806、L−779,976、L−803,087、L−817,818、BIM23A387、SOM−320ならびにKE−108からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか記載の薬学的組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのドーパミン・アゴニストが、アマンタジン、ブロモクリプチン、カベルゴリン、キナゴリド、リスリド、ペルゴリド、ロピニロール、プラミプレキソール(pramiprexole)、ラサギリン、BIM23A387、BIM−23A758、BIM−23A760、BIM−232A761およびBIM−23A765からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか記載の薬学的組成物。
【請求項7】
ソマトスタチンおよび/またはドーパミン受容体を表面上に発現する腫瘍の治療のための、あるいはサルコイドーシス、関節リウマチなどの、慢性免疫疾患の治療のための、請求項1〜6のいずれか記載の薬学的組成物の使用。
【請求項8】
前記腫瘍が、下垂体腺腫、膵島腫瘍、インスリノーマ、カルチノイド、褐色細胞腫、傍神経節腫(paragaglioma)、甲状腺髄様癌などの神経内分泌腫瘍;乳房、腎臓、結腸、膵臓、前立腺または卵巣腫瘍などの腺癌;髄膜腫などの脳腫瘍;ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫ならびに急性および慢性白血病などの血液学的悪性病変;肝細胞癌のような他の悪性病変である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
腫瘍または慢性免疫疾患の治療用の薬剤の製造のための、少なくとも1つの脱メチル化剤、およびソマトスタチン類似体またはドーパミン・アゴニストの少なくとも1つの組成物の使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか記載の薬学的組成物の投与によって、癌を治療するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−532346(P2009−532346A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502707(P2009−502707)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050136
【国際公開番号】WO2007/114697
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(507340131)イラスマス・ユニバーシティ・メディカル・センター・ロッテルダム (2)
【Fターム(参考)】