説明

腸内細菌叢改善用組成物

本発明の課題は、良好な腸内細菌叢を維持するための腸内細菌叢改善用組成物を提供することである。本発明は、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有することを特徴とする腸内細菌叢改善用組成物からなる。該組成物は、摂取することにより優れた整腸作用、腸内環境改善作用、及び腸内細菌叢改善作用を奏し、ヒト腸内の健康な菌叢を形成することが可能となる。特に、本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、腸内細菌叢の善玉菌であるビフィズス菌のような乳酸菌を活性化し、実際的な面で、腸内細菌叢の改善、及び良好な細菌叢の維持を図ることが可能となる。本発明において、該組成物は、特に好ましくは、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と、プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させた形態の組成物とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有する腸内細菌叢の善玉菌であるビフィズス菌を増殖させる腸内細菌叢改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内には細菌が常在し、腸内細菌叢を構成している。近年、この腸内細菌叢が人間の健康と重要な係わりをもっていることが認識され、腸内細菌に対する関心が高まっている。ヒトの腸内細菌叢の構成は、環境及び食餌内容が安定であり、かつ宿主が健康である限りほとんど一定している。しかし、この腸内細菌叢の生態系は、宿主の年齢、疾病、微生物感染、ストレス、栄養成分、薬物投与等種々の要因により変動し、時には異常な腸内細菌叢が形成され、宿主の健康に悪い影響を及ぼす原因となる。
【0003】
腸内細菌叢を構成する細菌の中で、例えばビフィズス菌は、ヒトの腸内細菌叢を構成する主要な菌種のひとつであり、腸内の腐敗性細菌や病原菌の生育抑制など、ヒトや動物に対して種々の有益な生理的役割を果たすことが知られている。したがって、ビフィズス菌は腸内細菌叢の中で、いわゆる善玉菌と呼ばれている。このビフィズス菌は、各種の疾病や加齢等に伴ない減少又は消失するため、このような腸内細菌叢を改善するため、腸内のビフィズス菌を増加させる各種の試みがなされている。
【0004】
そのような試みとして各種の食品或いは医薬品、又はビフィズス菌の増殖因子等が開示されている。そのような目的に沿った食品又は医薬品としては、例えばビフィズス菌入りのヨーグルト(特開2002−112703号公報)、ビフィズス菌末(特開2006−280263号公報)等が開示されている。また、ビフィズス菌の増殖因子に関しては、例えば、カカオ豆の有機溶媒抽出残渣を用いるもの(特開平8−196268号公報)、ジャガイモ乾燥物を用いるもの(特開平6−217733号公報)、コーヒーノキ属植物の葉の抽出物を用いるもの(特開平6−125771号公報)、ビフィズス菌増殖性オリゴ糖を用いるもの(特開平3−262460号公報)、夕顔果実から抽出したシラップ状物質を用いるもの(特開平2−135088号公報)、及びウコギ科植物の溶媒抽出物を用いるもの(特開平2−249482号公報)等が開示されている。
【0005】
このように良好な腸内細菌叢を維持するために、ビフィズス菌入り食品や生菌製剤のような形で、乳酸菌を摂取し、腸内細菌叢の改善が図られているが、ビフィズス菌入り食品や生菌製剤に関しては、ビフィズス菌が酸、温度、pH、塩濃度、水分活性、胆汁酸等の各種の環境ストレスに対して弱く、ビフィズス菌のみを摂取しても、腸内での有効な生菌数を維持することが困難であるという問題がある。また、使用される菌種、生菌量、腸内での安定性、消化管での生残性または定着性等に問題が残されているため、従来開発されているビフィズス菌入り食品や生菌製剤のような製品では、必ずしも実際に所望の効果を十分あげることができないという面があった。
【0006】
また、良好な腸内細菌叢を維持するために、ビフィズス菌増殖因子の摂取という方法が提案されているが、ビフィズス菌増殖因子に関しては、実験室レベルでは一定の効果が認められているが、ヒトでの応用では必ずしも一定の効果が得られないことが多い。この原因は、実験室レベルの条件と、実際のヒトの腸内及び外界の微生物学的条件とでは相違があり、また環境条件が複雑に影響するということにもよる。一方、ビフィズス菌増殖因子のうち、天然物からの抽出物などは、それらの製造方法が煩雑であったり、高価であるなどの欠点がある。また、オリゴ糖などのビフィズス菌増殖因子は低分子のものであり、腸内容物の浸透圧を高めるため水分含量が増加し、下痢等の副作用を有するものがあるという問題がある。したがって、ビフィズス菌増殖因子の摂取という方法も、現実的な腸内細菌叢の改善という意味では、必ずしも満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−135088号公報
【特許文献2】特開平2−249482号公報
【特許文献3】特開平3−262460号公報
【特許文献4】特開平6−125771号公報
【特許文献5】特開平6−217733号公報
【特許文献6】特開平8−196268号公報
【特許文献7】特開2002−112703号公報
【特許文献8】特開2006−280263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、良好な腸内細菌叢を維持するための腸内細菌叢改善用組成物を提供すること、腸内細菌叢の善玉菌であるビフィズス菌のような乳酸菌を増殖させ、実際的な面で、腸内細菌叢の改善、及び良好な細菌叢の維持を図ることが可能な腸内細菌叢改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討する中で、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株が、ビフィズス菌のような腸内細菌叢の中で、いわゆる善玉菌と呼ばれている乳酸菌を増殖させることを見い出し、本発明を完成するに至った。Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を摂取することにより、ビフィズス菌のような腸内細菌が減少したヒトの腸内細菌叢の改善を図ることができる。すなわち、本発明は、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有することを特徴とする腸内細菌叢改善用組成物からなり、該組成物は、摂取することにより優れた整腸作用、腸内環境改善作用、及び腸内細菌叢改善作用を奏し、ヒト腸内の健康な菌叢を形成することを可能とする。
【0010】
本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、腸内細菌叢におけるビフィズス菌を増殖させ、腸内細菌叢の総菌数に対するビフィズス菌占有率を上昇させることができる。また、本発明においては、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と、プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させたものを有効成分として含有する腸内細菌叢改善用組成物とすることにより、腸内細菌叢におけるビフィズス菌の菌数の保持と活性化により、腸内細菌叢の善玉菌の増殖を促して、腸内細菌叢の特に効果的な改善を図ることができる。
【0011】
本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、その摂取に際しては、飲食品の形態で調製し、摂取することができ、その好ましい飲食品の形態としては、ヨーグルトを挙げることができる。また、本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、又はドリンク剤のような健康食品の形態で調製することができる。本発明において、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有する腸内細菌叢改善用組成物は、その組成物における乳酸菌の含有量を、1日に摂取する腸内細菌叢改善用組成物の量当たり、4×10個以上となるように調整することが好ましい。
【0012】
すなわち具体的には本発明は、(1)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有することを特徴とする腸内細菌叢改善用組成物や、(2)腸内細菌叢の改善が、善玉菌の増殖であることを特徴とする上記(1)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(3)善玉菌の増殖が、ビフィズス菌の増殖であることを特徴とする上記(2)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(4)腸内細菌叢改善が、腸内細菌叢の総菌数に対するビフィズス菌占有率の上昇であることを特徴とする上記(2)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(5)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と、プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させたものを有効成分として含有することを特徴とする上記(1)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(6)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプロバイオティクスが、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属から選ばれる一種以上の乳酸菌であることを特徴とする上記(5)記載の腸内細菌叢改善用組成物からなる。
【0013】
また本発明は、(7)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプレバイオティクスが、オリゴ糖、食物繊維、酵母細胞壁から選ばれる一種以上のプレバイオティクスであることを特徴とする上記(5)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(8)腸内細菌叢改善用組成物が、飲食品の形態で調製されていることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(9)飲食品が、ヨーグルトであることを特徴とする上記(8)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(10)飲食品が、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、又はドリンク剤の形態で調製されていることを特徴とする上記(8)記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(11)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有する腸内細菌叢改善用組成物において、該乳酸菌の含有量を、1日に摂取する腸内細菌叢改善用組成物の量当たり、4×10個以上となるように調整したことを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか記載の腸内細菌叢改善用組成物や、(12)腸内細菌叢改善用組成物を製造するためのLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(13)善玉菌を増殖させる組成物を製造するためのLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(14)善玉菌の増殖が、ビフィズス菌の増殖であることを特徴とする、請求項13に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(15)善玉菌の増殖が、腸内細菌叢の総菌数に対するビフィズス菌占有率の上昇であることを特徴とする、請求項13に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(16)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と、プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させたものを有効成分として含有することを特徴とする、請求項13に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(17)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプロバイオティクスが、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属から選ばれる一種以上の乳酸菌であることを特徴とする、請求項16に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(18)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプレバイオティクスが、オリゴ糖、食物繊維、酵母細胞壁から選ばれる一種以上のプレバイオティクスであることを特徴とする、請求項16に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(19)善玉菌を増殖させる組成物が、飲食品の形態で調製されていることを特徴とする、請求項13〜18のいずれか記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(20)飲食品が、ヨーグルトであることを特徴とする、請求項19に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(21)飲食品が、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、又はドリンク剤の形態で調製されていることを特徴とする、請求項19に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用や、(22)Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有する善玉菌を増殖させる組成物において、該乳酸菌の含有量を、1日に摂取する善玉菌を増殖させる組成物の量当たり、4×10個以上となるように調整したことを特徴とする、請求項13〜21のいずれか記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、優れた整腸作用、腸内環境改善作用、及び腸内細菌叢改善作用を奏する腸内細菌叢改善用組成物を提供する。本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、摂取することにより、腸内細菌叢の善玉菌であるビフィズス菌のような乳酸菌を増殖させ、実際的な面で、腸内細菌叢の改善、及び良好な細菌叢の保持を図ることを可能とする。特に、ビフィズス菌のような善玉の腸内細菌が減少或いは消失したヒトの腸内に、該乳酸菌を増殖させることが可能となり、健康な腸内細菌叢への改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例において、L. paracasei株 KW3110を含有するヨーグルトの摂取試験のスケジュールを示す図である。
【図2】本発明の実施例において、L. paracasei株 KW3110を含有するヨーグルトの摂取試験におけるアンケートの結果を示す図である。2−aは、該ヨーグルト摂取試験における排便回数(回/週)の結果について、2−bは、該ヨーグルト摂取試験における排便量(見本棒本数/週)の結果について示す図である。
【図3】本発明の実施例において、L. paracasei株 KW3110を含有するヨーグルトの摂取試験のスケジュールを示す図である。
【図4】本発明の実施例において、L. paracasei KW3110株を含有するヨーグルトの摂取試験における腸内フローラの経日変化について、Bifidobacteriumの占有率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有することを特徴とする腸内細菌叢改善用組成物からなる。本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、優れた整腸作用、腸内環境改善作用、及び腸内細菌叢改善作用を奏する。
【0017】
(整腸作用、腸内環境改善作用、及び腸内細菌叢改善作用)
本発明において、整腸作用とは、一般的な意味で、「おなかの調子を整える作用」と理解され、定義される。おなかの調子を整える作用とは、便秘や下痢といった便通異常の改善、腹痛や腹部膨満感および残便感といった腹部不快感の改善、ゴロゴロしたり異常な放屁といった腸の異常な運動など、本人が知覚できる腸の不調が改善されることを指す。また、腸内環境改善作用とは、腸内細菌叢や、腸内細菌により産生される代謝産物およびpHや水分といった理化学的指標が、宿主にとって都合の良い方向に改善されることを指す。腸内細菌叢改善とは、善玉菌の増殖により、腸内細菌叢が宿主にとって都合のよい方向に変動することを指す。
【0018】
(本発明の有効成分である乳酸菌)
本発明において有効成分として用いる、腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌、例えばL. paracasei KW3110株は、L. casei L14株として、日本乳業技術協会から入手することができる。なお、日本乳業技術協会の記載によれば、L14株はL. caseiとの記載があるが、本発明者らがQUALICON社製リボプリンターを用いたRFLP(Restriction Flagment Length Polymorphism )及びAFLP(Amplified Flagment Length Polymorphism )を用いて解析したところ、当該株は、L. paracaseiと判断されたため、本発明においてはL. paracaseiと記載した。本発明で腸内細菌叢改善用組成物の有効成分として使用される、L. paracasei KW3110は、上記のとおり日本乳業技術協会から入手することができるが、更に、特許微生物の寄託のためのブダペスト条約に基く、国際寄託当局である独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、FERM BP−08634として寄託されている。
【0019】
本発明における有効成分である乳酸菌L. paracasei KW3110は、M.R.S.(de Man, Rogosa, Sharpe)培地等の当業者に知られた乳酸菌培養用培地にて適宜培養増殖させた後、生菌で、必要によっては凍結乾燥或いはスプレードライして粉末化し、本発明の飲食品の有効成分として使用することができる。本発明においては、腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌を変異させて、腸内細菌叢改善作用の高い変異株を作製し、用いることができる。菌株の変異手段としては、UV等の公知の変異手段を用いて行うことができる。
【0020】
(併存させるプロバイオティクスとプレバイオティクス)
本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有することを特徴とするが、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株とプロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させた形態の組成物とすることがより好ましい。ここでプロバイオティクスとは、「腸内細菌叢を改善し、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物」のことをいう。本発明において、Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプロバイオティクスとしてはLactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属の乳酸菌が挙げられる。またプレバイオティクスとは、「腸内でのプロバイオティクスの増殖を促進する物質」のことをいう。本発明において、Lactobacillus paracaseiKW3110株又はその変異株と併存させるプレバイオティクスとしてはオリゴ糖、食物繊維、酵母細胞壁などが挙げられる。
【0021】
(本発明の有効成分である乳酸菌の腸内細菌叢改善作用)
腸内細菌叢とは、腸内に存在する細菌の集団(ミクロフローラ)を指す。また、腸内細菌叢改善とは、上記の通り腸内細菌叢が宿主にとって都合のよい方向に変動することを指す。一人のヒトの腸内には100種類、100兆個におよぶ細菌が住みついており、それらが宿主の健康や病気と常に深い関わり合いを持っている。腸内細菌の或るものは病気の原因となる物質をつくるし、或るものはその物質を分解して無毒化する。また、宿主のからだの抵抗力が弱ったときにはそれまで侵入したことのない臓器で感染を起こすものもあれば、宿主の免疫を活性化し抵抗力を強めるものもある。害にも益にもならない中間的なものもある。腸内細菌叢の各菌種の構成比を「バランス」ということがある。
【0022】
ある個体の腸内細菌叢のバランスはかなり安定で、かつ特定の菌種を人為的に完全に除去することはできない。しかし、プロバイオティクスやプレバイオティクスあるいは抗生物質といった極限られた物質の摂取により腸内細菌叢の構成菌種の比率が変動することが知られている。このように、腸内細菌叢のバランスが宿主の健康状態に影響を及ぼすが、それが宿主にとって都合の良い方向に変動したとき「腸内細菌叢が改善した」という。
【0023】
そこで本発明の有効成分である乳酸菌は、生菌のヒト経口摂取により、腸内細菌叢のうち宿主の健康に寄与するビフィズス菌数および、腸内総菌数に対する占有率を有意に上昇させることができる。ビフィズス菌はヒト腸内細菌叢の優勢菌種の一つである。本発明の乳酸菌は腸内細菌叢の優勢菌種の勢力を変え腸内細菌叢のバランスを宿主にとって都合の良い方向へ変動させることができる。
【0024】
(発酵飲食品形態での利用)
本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、飲食品の形態で調製することができる。例えば、有効成分である乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を、飲食品原料に添加して発酵させることにより、発酵飲食品として調製し、用いることができる。本発明の腸内細菌叢改善用組成物を発酵飲食品として用いるには、発酵した製品の段階でその有効成分の有効量を有していればよい。
【0025】
ここで「有効成分の有効量」とは、個々の飲食品において通常喫食される量を摂取した場合に、下記のような範囲で有効成分が摂取されるような含有量をいう。
すなわち、本発明における有効成分の飲食品での有効量の摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、摂取時間、飲食品形態、摂取方法等に依存して決定できる。
【0026】
本発明における有効成分の飲食品での有効量の摂取量を、乳酸菌の菌数で表示すると、1日当たりの摂取量が4×10個以上が好ましく、より好ましくは1日あたり1×1010個以上、更に好ましくは4×1010個以上を摂取することが好ましい。したがって、通常1日あたり摂取される飲食品の量に合わせて、各々の食品あたりの含有させる乳酸菌の菌数が決定される。例えば、発酵飲食品であるヨーグルトとして摂取する場合に、成人1人1日当たり50〜500gの範囲、好ましくは60〜200gの範囲の摂取量となるよう本発明による有効成分を食品に含有させることができる。
【0027】
従来より、乳酸菌を利用した発酵飲食品の分野としては、その活用の態様分類としては、乳製品類、肉類、パン類、飲料、及び野菜類に大別される。これらの乳酸菌を利用した飲食品の製造における乳酸菌又はその一部として、本発明の腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌を用いて、該飲食品に腸内細菌叢改善機能を付与することができる。特に本発明による有効成分を乳製品に含有させる場合には、本発明による有効成分を生菌として乳原料に加えて菌増殖/発酵を行い、ヨーグルト等の発酵乳酸菌飲食品とすることが好ましい。
【0028】
(飲食品配合による利用)
本発明の腸内細菌叢改善用組成物を飲食品の形態で調製する場合の他の実施態様として、有効成分である乳酸菌を飲食品に添加し、乳酸菌による発酵を必要としない形で用いることができる。本発明の腸内細菌叢改善用組成物を飲食品に配合して用いるには、その有効成分の飲食品での有効量の摂取量を飲食品の製造原料段階或いは製造した製品の段階等で添加、配合する。ここで「有効成分の有効量」とは、本願発明の効果を奏するために必要な摂取量であり、その有効量は、上述した通りである。また、この場合、乳酸菌を例えばフリーズドライ(FD)やスプレードライ(SD)を用いて、粉体化して用いるのが好ましい。また、本発明の腸内細菌叢改善作用を有する飲食品は、他の微生物や異物の混入を防ぎ、内容物の品質を保持するために、密封容器詰飲食品の形態で製造されることが好ましい。
【0029】
本発明の腸内細菌叢改善用組成物を飲食品の形態で調製する場合の他の実施態様として、本発明の腸内細菌叢改善用組成物を含有させ、腸内細菌叢改善作用を持たせた、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、或いは病者用食品として調製することができる。また、特に、食品の形態に限定されるものではなく、腸内細菌叢改善作用を持たせた飲料の形態であってもよい。本発明による有効成分は、腸内細菌叢改善作用を有するため、日常摂取する食品や、サプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品等に本発明の有効成分を配合することにより、継続的に摂取可能な腸内細菌叢改善作用を併せ持つ食品として提供することができる。また、本発明の腸内細菌叢改善を有する乳酸菌を、例えば、茶類やドリンク剤或いはタブレットのような飲食品中に配合して用いることができる。また、本発明においては、乳酸菌を用いて製造される或いは乳酸菌を含有する飲料又は食品の乳酸菌の一部、又は全部を本発明の腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌で代替することにより、腸内細菌叢改善作用を有する飲料又は食品とすることができる。
【0030】
本発明における腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌を飲料へ配合する場合に、乳酸菌の配合量は適宜決定することができる。通常、飲料として継続的に摂取することができる量で、乳酸菌のもつ腸内細菌叢改善作用を充分に発揮するための配合量が採用される。本発明における有効成分の飲食品への有効量の投与量または摂取量を、乳酸菌の菌数で表示すると、上述したとおりであるが、例えば1日あたり100gの飲料が摂取されるとすれば、飲料100gあたり4×10個以上の菌数を添加することが好ましい。一方、乳酸菌の添加で、飲料の香味や外観を損なわない範囲を考えると、4×1011個以下が好ましい。更に、1011個以下がより好ましい。したがって、腸内細菌叢改善作用を有し、かつ安定性があり、嗜好性、保存性が高い飲料の乳酸菌の濃度としては、飲料100g当たり、10〜1011個の範囲のものが特に好ましい。なお、乳酸菌の菌体数と乾燥菌体重量の関係については、例えば、L. paracasei KW3110株では、菌体数1012個が乾燥菌体重量1gに相当する。
【0031】
本発明において、本発明の腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌を配合する飲料としては、各種のものを挙げることができるが、それらの飲料の製造に際しては、通常の飲料の処方設計に用いられる糖類、香料、果汁、食品添加物などいずれも使用することが出来る。飲料の製造に関しては、既存の参考書、例えば「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)等を参考にすることができる。
【0032】
更に、製品形態としては、通常飲料の製品形態に使用されている密封容器入り飲料の形態が特に好ましく、該密封容器としては、缶、ビン、PET、紙容器のいずれの形態でもよい。また、容量についても特に制限はないが、一般的に、消費者が日常的に飲料として摂取している量と、配合する乳酸菌の菌数と1日の必要菌数を考慮して、適宜、決定することができる。
【0033】
(飲食品製剤形態での利用)
本発明の腸内細菌叢改善用組成物を飲食品の形態で調製する場合の実施態様として、製剤形態での飲食品の形で調製することができる。製剤形態での飲食品としては、各種のものをあげることができるが、健康食品及び機能性食品としての製剤形態での飲食品として、通常用いられる製剤形態を用いることができる。該製剤形態での飲食品の製造に際しては、常用の食品素材、食品添加物に加え、賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、分散剤、保存剤、湿潤化剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化材、カプセル基剤等の補助剤を用いることができる。該補助剤の具体的な例示をすれば、乳糖、果糖、ブドウ糖、でん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはその塩、アラビアガム、ポリエチレングルコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、プルラン、カラギーナン、デキストリン、還元パラチノース、ソルビトール、キシリトール、ステビア、合成甘味料、クエン酸、アスコルビン酸、酸味料、重曹、ショ糖エステル、植物硬化油脂、塩化カリウム、サフラワー油、ミツロウ、大豆レシチン、香料等が配合できる。このような健康食品、機能性食品の製造に関しては、医薬品製剤の参考書、例えば「日本薬局方解説書(製剤総則)」(廣川書店)等を参考にすることができる。
【0034】
本発明において、特に、健康食品および機能性食品に適した製剤形態での飲食品の形状として、タブレット状、カプセル状、顆粒状、粉末状、懸濁液状、乳化液状のものを例示することができる。タブレット状健康食品及び機能性食品の製造法を具体的に例示すれば、本発明の腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌を配合した処方物を一定の形状に圧縮して製造するか、または水またはアルコールのような溶媒で湿潤させた練合物を、一定の形状にするか若しくは一定の型に流し込んで成型して製造したものがあげられる。カプセル状健康食品および機能性食品の製造法を具体的に例示すれば、本発明の腸内細菌叢改善作用を有する乳酸菌を配合した処方物を液状、懸濁状、のり状、粉末状または顆粒上などの形でカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成型して製造したもので、硬カプセル剤および軟カプセル剤等があげられる。
【0035】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(試験デザイン)
以下のヒト試験は、本人の同意のもと、ヘルシンキ宣言に則って行なわれた。被験者は、便通が正常で通常排便が毎日ある健康な日本人成人男女9名とした。男女比は、男性2名女性7名であった。被験者のバックグラウンドは、年齢は27.1±6.8歳(平均±標準偏差)、BMIは21.6±1.9(平均±標準偏差)であった。試験開始時および終了時に、医師による問診を受けた。本試験のスケジュールを図1に示す。
【0037】
試験期間は28日間とし、Day7−Day−1をL. paracasei KW3110株を生菌として4×10cfu/g以上含むヨーグルト(以下KWヨーグルトと記載する)を摂取しない“事前観察期”;Day0−Day6をKWヨーグルトを1日に100g摂取する“100g摂取期”;Day7−Day13をKWヨーグルトを摂取しない“休止期”;Day14−Day20をヨーグルトを1日に10g摂取する“10g摂取期”とした。試験期間中、KWヨーグルト以外のヨーグルト・乳酸菌飲料・オリゴ糖・食物繊維・納豆といった腸内フローラに影響を及ぼす食品及び消化管に作用する医薬品の摂取が制限された。糞便サンプルは、Day1−Day5及びDay13−Day19の内、Day2,Day16および排便のなかった日を除き被験者全員から毎日1回採取した。100g中のヨーグルトの成分を表1に示した。
【0038】
【表1】


【0039】
(糞便サンプルの処理)
糞便は、採取後アネロパック嫌気を用いて嫌気状態で冷蔵保管され、24h以内に培養法による菌叢解析に供された。また、糞便は−20℃に保管され定量PCR法といった分子生物学的方法による菌叢解析に供された。
【0040】
本実施例において培養法は、光岡らの方法に準じた。すなわち、糞便を均質化した後、寒天0.09%添加滅菌生理食塩水に懸濁、段階希釈し、平板培地に塗布し、各細菌数を測定した。検索対象とする細菌は総嫌気性菌、総好気性菌、Bifidobacterium 、Lactobacillusとし、総嫌気性菌にはEG寒天培地およびBL寒天培地を、総好気性菌にはTS寒天培地を、BifidobacteriumにはBL寒天培地及びTOSプロピオン酸寒天培地を、LactobacillusにはLBS寒天培地を用いた。総菌数は、総嫌気性菌数と総好気性菌数の和とした。Bifidobacteriumの占有率は、培養法における総菌数に対するBifidobacteriumの比率とした。
【0041】
(DNA抽出)
本実施例においてDNA抽出は、懸濁した糞便試料は、2mlをExtraction buffer(100mM Tris,50mM EDTA,pH9.0)にて3回洗浄後、上清を除きペレット状態にし、DNA抽出を行った。また、定量PCR用標準試料は、GAM培地(ニッスイ社)で培養したBifidobacterium longum JCM1217株、M.R.S.培地(Oxoid社)で培養したLactobacillus gasseri JCM1131、L.paracasei KW3110株を顕微鏡下にて細胞数をカウントした後、集菌しDNAを抽出した。DNA抽出はFastDNA SPIN Kit for soil (Qbiogene社)を取り扱い説明書に従って行った。
【0042】
(定量PCR)
定量PCRはすべて、LightCycler (Roche社)を用いて行った。15μLのMaster Mix(Takara社SYBR(R)Premix Ex TaqTM (Perfect Real Time) 1x Master Mix、各プライマー0.2μM、0.1μg/μL BSA)に鋳型DNA溶液を5μL添加して、20μL PCR反応液を調製した。試料中の各種腸内細菌の検出に用いたプライマーの参照文献および具体的なDNA配列は以下のとおりである。
また定量に必要な検量線の作成は、先に述べた定量PCR用標準試料DNA溶液を段階希釈したものを用いた。
【0043】
Bifidobacteriumの定量は、Applied and Environmental Microbiology, 68:5445-5451を参照し、g-Bifid-F:5-CTC CTG GAA ACG GGT GG-3;g-Bifid-R:5-GGT GTT CTT CCC GAT ATC TAC A-3を用いた。Lactobacillusの定量は、Journal of Microbiological Methods, 51:313-321を参照し、LactoF:5-TGGAAACAGRTGCTAATACCG-3;LactoR:5-CCATTGTGGAAGATTCCC-3を用いた。L.paracaseiの定量はLetters in Applied Microbiology,29:90−92を参照し、PARA:5-CACCGAGATTCAACATGG-3;Y2:5-CCCACTGCTGCCTCCCGTAGGAGT-3を用いた。
【0044】
PCR反応条件は94℃ 10秒でプレインキュベートした後、各プライマーに応じた解離・アニーリング・伸長条件にて40サイクル行い、伸長反応の最後にSYBR Green蛍光を測定した。各サイクル温度条件は、Bifidobacteriumの定量は95℃ 15秒、55℃ 10秒、72℃ 25秒とし、Lactobacillusの定量は95℃ 15秒、60℃ 20秒、72℃ 20秒とし、L.paracaseiの定量は95℃ 15秒、45℃ 10秒、72℃ 25秒とした。PCR産物の特異性は解離曲線解析を行うことで確認した。解離曲線解析条件は、PCR増幅反応後、反応液を95℃ 0秒にてインキュベートし、50℃を10秒保った後SYBR Green蛍光を連続的に測定しながら0.2℃/秒にて緩やかに95℃まで温度を上げた。定量解析、解離曲線解析ともに、LightCycler Software version 5.32にて行った。観測日をDay−1、Day0、Day1、Day3、Day5、Day13、Day18とし、この観測日に糞便サンプルの欠損の少なかった被験者6名を対象とした。腸内細菌の菌数は、糞便湿重量1g中の数とした。
【0045】
(Lactobacillus paracaseiの検出)
Lactobacillus paracaseiの糞便からの検出は、培養法とコロニーPCR法(RAPD−PCR法)を組み合わせて用いた。すなわち、培養法のLBS寒天培地に生育したLactobacillus コロニーからコロニー形態ごとに遺伝子を採取し、L. paracasei特異的プライマーによりRAPD−PCR法で検出した。プライマー配列は、PARA:5-CACCGAGATTCAACATGG-3;Y2:5-CCCACTGCTGCCTCCCGTAGGAGT-3のようであった。増幅された産物は1.0%アガロースゲルで電気泳動し解析した。
【0046】
(アンケートと統計解析)
被験者は、毎日アンケート形式で、排便回数・糞便の大きさといった排便の状態、制限された食品や医薬品の摂取状況、食生活や体調を記録した。便の大きさは、2cmφ×5cmのモデルと比較した。またデータは期ごとに合計した。総菌数、総嫌気性菌数、総好気性菌数、Bifidobacterium、 Lactobacillus、 L. paracasei、排便回数、排便量、の比較は、対応のあるWilcoxon符号付順位和検定を用いて行った。糞便からのLactobacillus paracasei検出率はχ2検定を用いた。p<0.05を有意差があると判断した。
統計ソフトは、SPSS 11.0 Jを用いた。
【0047】
(試験結果)
培養法およびコロニーPCR法(以下、培養法と略す。)によるL. paracaseiの検出結果および定量PCR法によるL. paracaseiの検出結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
培養法によると、9名中8名はDay−1でL. paracaseiは検出されず、100g摂取期中で106.92−7.42cfu/gで検出された。残り1名ではDay−1で102.60cfu/gでL. paracaseiが検出され、Day1で107.08cfu/gで検出された。9名全員では、Day1で101.65cfu/g、100g摂取期を通して106.96−7.36cfu/gのL. paracaseiが検出された。9名中8名はDay13でL. paracaseiは検出されず、10g摂取期中を通して104.70−7.01cfu/gのL. paracaseiが検出された。Day−1でL. paracaseiが検出された被験者と同じ1名では、Day13で103.08cfu/g、10g摂取期中を通して104.01−6.25cfu/gのL. paracaseiが検出された。9名全員ではDay13で102.12cfu/g、10g摂取期を通して104.66−6.96cfu/gのL. paracaseiが検出された。
【0050】
定量PCR法によると、培養法のDay−1でL. paracaseiを検出した1名を含む6名全員から事前観察期のDay−1で検出されず、100g摂取期を通して6名全員から108.79−9.34cells/gのL. paracaseiが検出された。また、3名はDay13でL. paracaseiが検出されず、Day 18で108.17cells/gのL. paracaseiが検出された。他の3名はDay13で105.07cells/gのL. paracaseiが検出され、Day18で108.17cells/gのL. paracaseiが検出された。6名全員では、Day13で104.77cells/gのL. paracaseiが検出され、Day18で108.39cells/gのL. paracaseiが検出された。
【0051】
L. paracasei KW3110株を多量に含むKWヨーグルトを摂取した100g摂取期以降にL. paracaseiが急激に高い菌数で検出されるようになったことから、100g摂取期、10g摂取期、及び定量PCR法により休止期に検出されたL. paracaseiは、L. paracasei KW3110株であると考えられた。これに伴い、100g摂取期、10g摂取期、および定量PCR法により休止期に検出されたL. paracaseiとして検出されたものをL. paracasei KW3110株として記載する。
【0052】
なお、L. paracasei KW3110株の検出菌数において、培養法と定量PCR法で約10cells/g程度の差があり、検出率でも差がある。これらの原因としては、主に3つの可能性が考えられ、1つ目は培養法における選択培地の選択圧、2つ目は培養法における優勢または非優勢菌種の検出感度の差、3つ目は定量PCRにおける死菌の検出である。腸内フローラの経日変化の結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
培養法において、100g摂取期でLactobacillus はDay−1に比べてDay0、Day3、Day4、Day5で有意に増加し、BifidobacteriumはDay−1に比べてDay3と、Day5で有意に増加した。10g摂取期においては、LactobacillusはDay13に比べてDay17と、Day18で有意に増加し、Bifidobacteriumでは平均値は100g摂取期と同様に上昇した。
定量PCR法で、LactobacillusはDay−1に比べてDay0−Day5で有意な差はないが、増加傾向であった。Day13とDay18も同様であった。BifidobacteriumはDay−1に比べてDay0,Day1,Day3,Day5で有意差はなかったが、平均値は上昇した。Day13とDay18も同様であった。
【0055】
アンケートの結果を、図2に示した。排便回数(図2−a)、排便量(図2−b)共に100g摂取期で、有意な差ではなかったが、事前観察期、休止期、10g摂取期と比較して平均値は高かった。
【実施例2】
【0056】
(試験デザイン)
被験者は、便通が便秘傾向である健康な日本人成人女性10名とした。被験者のバックグラウンドは、年齢は22.90±3.57歳(平均±標準偏差)、BMIは20.55±2.75(平均±標準偏差)であった。試験開始時および終了時に、医師による問診を受けた。本試験のスケジュールを図3に示す。試験期間は21日間とし、Day−7−Day−1をKWヨーグルトを摂取しない”事前観察期”とした。Day0−Day13をKWヨーグルトを1日に100g摂取する”摂取期”とし、その内Day0−Day6を第1週、Day7−Day13を第2週とした。試験期間中、KWヨーグルト以外のヨーグルト・乳酸菌飲料・オリゴ糖・食物繊維・納豆といった腸内フローラに影響を及ぼす食品および、消化管に作用する医薬品の摂取が制限された。糞便サンプルは、事前観察期にはDay−3−Day−1の間に、摂取期第1週にはDay4−Day6の間に、摂取期第2週にはDay11−Day13の間に、それぞれ1回合計3回採取した。
【0057】
(糞便サンプルの処理)
糞便は、採取後アネロパック嫌気を用いて嫌気状態で冷蔵保管され、24h以内に培養法による菌叢解析に供された。また、糞便は−20℃に保管され分子生物学的方法として定量PCR法による菌叢解析に供された。本実施例において培養法は、実施例1と同様に光岡らの方法に準じた。検索対象とする細菌は総嫌気性菌、総好気性菌、Bifidobacterium、Lactobacillusとし、総嫌気性菌にはEG寒天培地およびBL寒天培地を、総好気性菌にはTS寒天培地を、BifidobacteriumにはBL寒天培地およびTOSプロピオン酸寒天培地を、LactobacillusにはLBS寒天培地を用いた。総菌数は、総嫌気性菌数と総好気性菌数の和とした。
【0058】
本実施例において定量PCRは、実施例1における定量PCRと同一の条件で行なった。採取した全ての糞便サンプルを対象とした。腸内細菌の菌数は、糞便湿重量1g中の数とした。
【0059】
(Lactobacillus paracaseiの検出)
Lactobacillus paracaseiの糞便からの検出は、実施例1と同様に培養法とコロニーPCR法(RAPD−PCR法)を組み合わせて用いた。増幅された産物は1.0%アガロースゲルで電気泳動し解析した。
【0060】
(アンケートと統計解析)
被験者は、毎日アンケート形式で、排便回数・糞便の大きさ・排便時の感覚・便の色・便の形状といった排便の状態、制限された食品や医薬品の摂取状況、食生活や体調を記録した。便の大きさは、2cmφ×5cmのモデルと比較した。排便時の感覚は、感覚を4段階でスコア化した。便の色および便の形状は見本シートと比較した。便の色はJIS標準色票光沢版から5Y8/12(黄色)、2.5Y7/12(薄い黄土色)、10YR5/8(黄土色)、7.5YR4/6(茶色)、5Y4/4(こげ茶色)、2.5GY4/3(黒に近いこげ茶色)の6段階でスコア化した。便の形状は、コロコロ状、カチカチ状、バナナ状、半練状、泥状、水状の6段階でスコア化した。排便回数と便の大きさは、事前観察期および摂取期各週の総和を算出した。排便時の感覚、便の色、便の形状はスコアを事前観察期および摂取期各週毎に平均した。
【0061】
総菌数、総嫌気性菌数、総好気性菌数、Bifidobacterium、Lactobacillus、Clostridium、L. paracasei、排便回数、糞便の大きさ、排便時の感覚、糞便の色、糞便の形状の各期ごとの比較は、対応のあるWilcoxon符号付順位和検定を用いて行った。糞便からのL. paracasei検出率はχ検定を用いた。p<0.05を有意差があると判断した。統計ソフトは、SPSS 11.0 Jを用いた。
【0062】
(試験結果)
培養法およびコロニーPCR法(以下、培養法と略す。)によるL. paracaseiの検出結果及び定量PCR法によるL. paracaseiの検出結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
培養法によると、L. paracasei菌数は事前観察期では検出されず、摂取期第1週で107.96cfu/gで、摂取期第2週で107.92cfu/gで検出された。摂取期第1週と摂取期第2週では事前観察期に比べて有意な差があった。定量PCR法によると、L. paracasei菌数は、事前観察期では105.57cells/gで、摂取期第1週で109.39cells/gで、摂取期第2週で109.36cells/gで検出された。摂取期第1週と摂取期第2週では事前観察期に比べて有意な差があった。なお、事前観察期では3名の被験者からL. paracaseiが検出された。この3名のL. paracasei菌数の平均は事前観察期で105.57cells/g、摂取期第1週で109.48cells/g、摂取期第2週で109.48cells/gだった。それ以外の7名のL. paracasei菌数の平均は、摂取期第1週で109.34cells/g、摂取期第2週で109.30cells/gだった。被験者全員の平均では、摂取期第1週および摂取期第2週のL. paracasei菌数は、事前観察期のそれに対して6000倍以上だった。このように、培養法・定量PCR法に共通して、摂取期第1週と摂取期第2週におけるL. paracaseiは事前観察期と比較して極めて高い菌数で検出されており、経口摂取したKWヨーグルトに多量に含まれるL. paracasei KW3110株が検出されているものと考えられた。
【0065】
これに伴い、摂取期第1週と摂取期第2週に検出されたL. paracaseiとして検出されたものをL. paracasei KW3110株として記載する。培養法によると、L. paracasei KW3110株検出率は、摂取期第1週で50%、摂取期第2週で100%となった。一方、事前観察期で0%であると考えられた。摂取期第1週と摂取期第2週では事前観察期に比べて有意な差があった。定量PCR法によると、L. paracasei KW3110株検出率は、摂取期第1週で100%、摂取期第2週で100%となった。腸内フローラの経日変化の結果を、表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
培養法において、Lactobacillusは事前観察期に比べて摂取期第1週と摂取期第2週で有意に増加した。摂取期第1週と摂取期第2週では平均値はほぼ同水準で有意な差はなかった。Bifidobacteriumは、事前観察期に比べて摂取期第2週で、また摂取期第1週に比べて摂取期第2週で有意に増加した。事前観察期に比べて摂取期第1週では増加する傾向(p=0.066)があった。総菌数は、事前観察期に比べて摂取期第2週で、また摂取期第1週に比べて摂取期第2週で有意に増加した。総嫌気性菌数は、摂取期第1週に比べて摂取期第2週で有意に増加した。
【0068】
定量PCR法によると、Lactobacillusは事前観察期に比べて摂取期第1週と摂取期第2週で有意に増加した。摂取期第1週と摂取期第2週では平均値はほぼ同水準で有意な差はなかった。Bifidobacteriumは、事前観察期に比べて摂取期第1週と摂取期第2週で有意に増加した。摂取期第1週と摂取期第2週では有意な差はなかった。図4に示したように、Bifidobacteriumの占有率は、事前観察期に比べて摂取期第2週で有意に上昇した。
事前観察期に比べて摂取期第1週では上昇する傾向(p=0.053)があった。
【0069】
次にアンケート結果を表6に示す。排便回数は、被験者全員では有意差はないが増加傾向にあった。事前観察期で排便回数が4回/週以下だった被験者は5名だったが、これらの被験者では、排便回数の平均値は上昇した。便の大きさは、有意差はないが増加傾向にあった。排便1回当りの便の大きさは、事前観察期に比べて摂取期第1週で有意に増加した。排便時の感覚は、事前観察期に比べて摂取期第1週で有意に改善した。
【0070】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有することを特徴とする腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項2】
腸内細菌叢の改善が、善玉菌の増殖であることを特徴とする請求項1記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項3】
善玉菌の増殖が、ビフィズス菌の増殖であることを特徴とする請求項2記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項4】
腸内細菌叢改善が、腸内細菌叢の総菌数に対するビフィズス菌占有率の上昇であることを特徴とする請求項2記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項5】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と、プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させたものを有効成分として含有することを特徴とする請求項1記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項6】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプロバイオティクスが、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属から選ばれる一種以上の乳酸菌であることを特徴とする請求項5記載の腸内細菌叢
改善用組成物。
【請求項7】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプレバイオティクスが、オリゴ糖、食物繊維、酵母細胞壁から選ばれる一種以上のプレバイオティクスであることを特徴とする請求項5記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項8】
腸内細菌叢改善用組成物が、飲食品の形態で調製されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項9】
飲食品が、ヨーグルトであることを特徴とする請求項8記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項10】
飲食品が、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、又はドリンク剤の形態で調製されていることを特徴とする請求項8記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項11】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有する腸内細菌叢改善用組成物において、該乳酸菌の含有量を、1日に摂取する腸内細菌叢改善用組成物の量当たり、4×10個以上となるように調整したことを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項12】
腸内細菌叢改善用組成物を製造するためのLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項13】
善玉菌を増殖させる組成物を製造するためのLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項14】
善玉菌の増殖が、ビフィズス菌の増殖であることを特徴とする、請求項13に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項15】
善玉菌の増殖が、腸内細菌叢の総菌数に対するビフィズス菌占有率の上昇であることを特徴とする、請求項13に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項16】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と、プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを併存させたものを有効成分として含有することを特徴とする、請求項13に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項17】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプロバイオティクスが、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属から選ばれる一種以上の乳酸菌であることを特徴とする、請求項16に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項18】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株と併存させるプレバイオティクスが、オリゴ糖、食物繊維、酵母細胞壁から選ばれる一種以上のプレバイオティクスであることを特徴とする、請求項16に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項19】
善玉菌を増殖させる組成物が、飲食品の形態で調製されていることを特徴とする、請求項13〜18のいずれか記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項20】
飲食品が、ヨーグルトであることを特徴とする、請求項19に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項21】
飲食品が、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、又はドリンク剤の形態で調製されていることを特徴とする、請求項19に記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。
【請求項22】
Lactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株を有効成分として含有する善玉菌を増殖させる組成物において、該乳酸菌の含有量を、1日に摂取する善玉菌を増殖させる組成物の量当たり、4×10個以上となるように調整したことを特徴とする、請求項13〜21のいずれか記載のLactobacillus paracasei KW3110株又はその変異株の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−521136(P2010−521136A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538537(P2009−538537)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/JP2008/000603
【国際公開番号】WO2008/114503
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】