説明

膀胱癌の尿検出のための方法

本発明は、膀胱癌の診断、より具体的には転移性膀胱癌の尿サンプルにおける検出に関する。本発明の検出方法によって、この目的のためにデザインされたDNAチップの利用を介して、検出された腫瘍のグレードを決定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱癌の診断、より詳細には、転移性タイプの膀胱癌(TCC:移行上皮癌)の尿検出に関する。
【背景技術】
【0002】
転移性の癌は、約70%〜90%の上皮膀胱腫瘍を含んでなる転移性上皮性腫瘍で見られる。これらは、形態上の大きな変異性を特徴とし、予後を予測することはしばしば困難である。
【0003】
組織構造に関しては、尿路上皮腫瘍は、乳頭又は非乳頭型であり、高又は低悪性度(組織学的グレード)を有し、且つ浸潤性又は非浸潤性であり、そして各病変はこれらの3つの形態上の特徴の併合された結果である。
【0004】
膀胱の尿路上皮腫瘍に関して複数の分類が存在する。これまで最も一般的に使用されてきた分類はWHOのものであり、1974年まで遡る。これにより転移性上皮癌は、良性(外方増殖性乳頭腫, 内反性乳頭腫)又は悪性(グレード1 , 2及び3の転移性上皮癌)として分類される。1998年に、解剖病理学者、泌尿器科医、癌専門医及び生物学者を交えた複数の会議に従って、合意の上、尿路上皮腫瘍の分類が確立されそして認められた。それが、現在使用されている新たな分類である(Epstein J. I., Am. J. Surg. Pathol. (1998), 22: 1435-1448)。以前のWHO分類と若干異なるが、これの方が尿路上皮腫瘍の生物学及び進行的潜在性(evolutive potential)により一致するという利点を有する。
【0005】
この分類に従って、異なる細胞形態上の基準によれば、膀胱腫瘍はG1〜G3の「グレード」によって分類される。グレードが高いほど、細胞の外観上は分化が少なく、且つ悪性度はより高い。
【0006】
腫瘍はまた、これらの表面の特徴(pTa 及びT1)又は筋肉中の侵襲性(T2〜T4)に従って分類される。低グレードの腫瘍は通常非侵襲性であるか、又は表層に浸潤しており(ステージTa及びT1)、一方高グレードの腫瘍はより悪性度が高く、しばしばT1又はより進行したステージで検出される。
【0007】
腫瘍細胞のグレードの決定は、どの治療方法を使用すべきか決定することに役立つので、臨床医に対して決定的な重要性を有する。
【0008】
浸潤性グレード3の腫瘍が存在すると膀胱及びその付属腺の全切除が必要である一方で、最低グレード/ステージの腫瘍(Ta 及びT1)は、異なる治療アプローチ、例えば化学療法、免疫療法又はBCG治療によって、一般的に臓器が無傷のままの局所的治療が可能である。
【0009】
低グレードの、非侵襲性腫瘍を患う患者は、一般的に予後は良好であるが、癌の再発のリスクはほぼ70%程度なので定期的に経過観察が必要である。従って、患者は治療に従って、最初の2年間は3ヶ月に1回、その後は6ヶ月に1回定期的にモニターが必要であり、そして再発の場合にはモニターすることは腫瘍の進行を把握する上で非常に重要となる。
【0010】
さらに、T1腫瘍は30〜35%の場合でグレードT2に進行する一方で、低グレードTa腫瘍はたった10〜15%の場合にのみ筋肉に浸潤する。高グレード腫瘍はより急速に進行し、患者は急速にグレードT2に達し、そして次の2年の経過内に遠隔転移がしばしば形成される。
【0011】
現在、組織診、腫瘍の直接的な内視鏡可視化、又は手術を含む、侵襲性の臨床検査のみによって、腫瘍細胞のグレードを決定するための信頼性のある診断、及び適切な治療を行うことが可能である。
【0012】
さらに、内視鏡検査は時折信頼性がなく、解釈することが困難である。組織診に続く細胞診断に関しては、腫瘍の50%の検出の失敗に終わるので、信頼性はあまり良好でないことが様々な研究により示されている(Boman, H., 等, 2002, J. Urol., 167 (1): 80-83)。集団内、特に50歳以上の人における膀胱癌の高有病率の理由で、そして患者の診断及び快適さいずれをも改善することを目的として、膀胱癌の非侵襲的且つ間接的な検出の開発に、かなりの研究努力が注がれてきた。
【0013】
この点に関して、いくつかの研究チームが、従来の腫瘍マーカータンパク質を使用して尿サンプルによって泌尿器系腫瘍を検出しようと試みた。
【0014】
それにもかかわらず、これまでのところ、これらのタンパク質の検出は、タンパク質の起源及び腫瘍の進行ステージに関して信頼性があるほどに十分特異的であるかは分かっていない。1999年に、アメリカのチームは、尿に含まれるマイクロサテライトDNA配列を分析することによって膀胱癌の進行を追跡できる可能性を記載した(Steiner 等 (1997) Nature Medicine 3: 621-624)。繰り返しの、非翻訳領域のミトコンドリアDNAの複数の配列の変異を増幅及び測定することにあるこの検出方法は、通常これらの配列が癌細胞で改変されることを観察することに基づいている。
【0015】
しかしながら、この技術は腫瘍のグレードの決定を効率的に可能とするものではない限り、完全に満足できるわけではない。
【0016】
他の分子法は、患者の尿に存在するDNAに適用される遺伝子マーカー、例えば、腫瘍抑制遺伝子中の局所性変異を増幅又は検出することを試みるPCR方法に基づいている。しかしながら、これらの方法は、ヒトゲノムのサイズ及び変異性の点から見て、開発が容易でない20〜40個のヌクレオチドを含んでなる特異的なイニシエーターが必要である。さらに、腫瘍細胞のDNAが尿中で正常な細胞DNAと共に混合されるとすぐに、目的の増幅は正常な細胞DNAによって生じる増幅によって遮蔽されてしまう。
【0017】
転移性膀胱癌の種々の周知の遺伝子マーカーを採用することが困難なことを受けて、本発明者は、TCC細胞で頻繁に見られる複数の遺伝子異常の同時検出に基づく革新的なアプローチの使用を好む。
【0018】
この目的のために、彼らは転移性膀胱癌で見られる主たる遺伝子異常をリストに記載し、続いて腫瘍細胞のグレードの最も代表的なものを選択した。このアプローチにおいて、彼らは、腫瘍細胞の核型分析に典型的に起因する、染色体に対する物理的変化から成る遺伝子異常、例えば倍数性又は欠損を得た(privileged)。続いて、彼らは患者の尿に含有されるDNA中で選択される遺伝子異常の存在又は不存在の同時検出を可能にする革新的な手順を開発した。
【0019】
より詳細には、発明者は(尿サンプルから抽出した総DNAに対して、アレイに基づく染色体ハイブリッド形成比較分析技術を使用して)顕著な蛍光シグナルを供している25人の染色体遺伝子座の特異的なアレイを選択した。
【0020】
これまで、同レベルの特異度及び感度を提供し、且つ低及び高グレードの腫瘍を明瞭に区別することもまた可能である尿サンプルに基づくテストは、利用可能となっていない(Budman Ll.等/., 2008 CLMJ 2(3):212-221)。
【発明の概要】
【0021】
本発明の方法は、膀胱の外科的検査の必要はなく、一方でこれらの腫瘍細胞のグレードの良好な提示を提供しながら、膀胱の転移性癌細胞の存在を診断する驚くべき能力を備える。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、通常の臨床基準による、実施例において分析された腫瘍の分類を示す。
【図2】図2は、内視鏡検査及び細胞検査を使用して得られた結果に応じて、実施例において尿を分析した患者の分類を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の詳細な説明
本願の目的は、膀胱癌の検出、より詳細には膀胱癌の尿検出のための方法を提供することである。
【0024】
この検出は、患者の尿中のDNAの総量の標識、及び遺伝子異常によって潜在的に影響を受ける可能性のある遺伝子座に含まれる染色体配列の、このDNAにおける検出を介して得られる。
【0025】
本発明のリファレンスDNAであるこれらの染色体配列は、これらが属する染色体遺伝子座の欠損の場合には欠損している、又は例えばトリソミーの場合のように重複されている可能性がある。
【0026】
膀胱癌における腫瘍細胞は、しばしば、腫瘍細胞の特徴をある程度まで示す染色体再構成の原因となる。しかしながら、この染色体の再構成によって影響を受ける領域は、潜在的に非常に多く、且つ可変である。実際には、特に腫瘍抑制遺伝子をコードする又は細胞周期制御に関与する遺伝子座は、より体系的に改変されるにもかかわらず、染色体中及び染色体間の組み換えが、常に同様というわけではない相同領域間に生じる場合に、染色体異常は生じる。
【0027】
第一の実施形態によれば、本発明の目的の1つは、1又は複数の次のステップを含んでなることを特徴とする、患者における膀胱癌のインビトロ(in-vitro)での検出のための方法を提供することである。
【0028】
第一ステップ(A)において、患者から採取された尿サンプル中に含まれるDNAは、当業者に周知の多数の方法の1つを使用して抽出される。上述のように、本発明は患者の尿に基づいて膀胱癌の状態を好都合に決定することができる。従って、DNAはある程度膀胱に存在する細胞に由来するので、この方法はDNAが残存状態にある尿サンプル中に含有されるこのDNAを濃縮しなければならない。DNAはそれほど脆弱な物質ではないので、分析のための尿サンプルを保存するための措置を徹底的に取る必要はない。従って、サンプルは患者の家で採取することができる。抽出したDNAは、腫瘍細胞から生じるものか否かにかかわらず、尿中に存在する全体的な修復可能なDNAを含有するという意味で完全である。
【0029】
次のステップ(B)において、ステップ(i)で抽出したDNAを、好適には超音波処理によって、大部分は500塩基対(bp)以上、好適には800bp以上、より好適には1000〜5000bpのサイズを有するDNA断片へと断片化する。また、DNAは酵素、例えば制限酵素によって消化することができる。
【0030】
次のステップ(C)において、標識されたDNAのプールを形成するために、得られたDNA断片を第一標識剤によって均一に標識する。従って、これは尿から抽出した標識された全DNAである。「均一に」は、同一のサイズの2つの異なるDNA断片が同様の強度で標識されるように、標識が非特有の態様で生じることを意味する。このような標識を得るために、好適にはフルオロフォアに結合されたヌクレオチドを使用し、これは複製段階過程中にDNA中に導入される。このインビトロ(in-vitro)での酵素による複製段階では、好適にはDNAプール中で利用可能な標識されたDNA断片の複製数を増加することができる。標識されたDNAプールは、ランダムカットを有する断片を選択的に含んでなる。
【0031】
次のステップ(D)において、少なくとも1つの一定分量(aliquot)は標識されたDNAプールから形成され、そして当該一定分量は状況に応じて標識されたDNAプール全体を形成することができる。続いて各一定分量を、1つ、好適には複数のリファレンスDNAと接触させ、そしてこれらのリファレンスDNAのそれぞれは、遺伝子異常によって影響を受けそうである染色体の遺伝子座中に含まれる異なるDNA配列に対応する。当該遺伝子異常は、好適には膀胱癌の特異的な進行ステージと、より詳細には上述したようなステージと相関がある。リファレンスDNAは、例えば、科学文献から抜粋されるデータ又は組織診の分析結果に従って選択することができる。
【0032】
本発明によれば、リファレンスDNAは、ヒトゲノム配列から構成されたBAC(細菌人工染色体)又はYAC(酵母人工染色体)クローン中でクローン化されたもの等、1,000〜200,000塩基対(bp)の長さで、好適には2,000〜180,000bpの長さで、さらに好適には5,000〜160,000bpの長さでヒト染色体のDNA配列を含んでなる。このようなBACクローンは、ヒトゲノムに関する公的にアクセス可能なデータベース、例えばCNBI又はUCSC等に記載される。
【0033】
従って、単独のマーカー、特に遺伝子増幅テスト(PCR, TMA, 等)を実施することができる短い遺伝子配列に対応するマーカーに基づいて、膀胱癌を診断することは困難であることが証明されている一方で、本発明の検出方法は一般的に600bp以上であるDNA配列を使用した検出方法に基づく。本発明者は、配列が、表1で参照される通り、1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22から選択されるヒト染色体の遺伝子座内に含まれるリファレンスDNAを使用することが好適であることを証明した。好適には、本発明に関する方法は、ヒト染色体に存在する次の遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22全てに含まれるDNA配列を含んでなるリファレンスDNAに関係する。
【0034】
本発明によれば、標識されたDNA断片及びリファレンスDNAの間の接触は、特異的なハイブリッド形成を可能にする条件下で、好適にはストリンジェント(stringent)な条件下、例えば本願の実施例部分に記載の条件下で実施される。
【0035】
ステップ(D)と並行して、ステップ(E)は、膀胱癌を患わない1又は複数の個人から採取されたコントロールDNAプールを調製することにある。理想的には、このDNAは、ヒト個体群からランダムに選択された、癌の影響を受けていない複数の個人から採取された尿サンプルに由来する。市販の調製されたヒトリファレンスDNAを使用することもまた可能である。患者の尿から抽出したDNAの場合のように、コントロールDNAは、第二の、好適には蛍光マーカーによって均一に標識される。このマーカーは、好適には患者のDNAを標識するために使用されるものとは異なる。
【0036】
ステップ(D)のように、一定分量の標識されたコントロールDNAは、ステップ(D)において使用されるものと同一である、選択されたリファレンスDNAと接触させる。この接触操作は、ステップ(D)で使用されるような同様のハイブリッド形成条件下で、別々に又は共に、実行することができる。接触操作が共に実行される場合には、これは、患者のDNAとコントロールDNAのどちらも、好適には同時に、同一のリファレンスDNAと接触させることを意味する。
【0037】
次のステップ(F)において、ステップ(D)及び(E)においてリファレンスDNAと特異的なハイブリッド形成がされなかった標識DNA断片は、除去される。この非ハイブリッド形成DNAの洗浄ステップは、特に格段の困難性はなく、当業者に周知の手順に従って実施される。
【0038】
次のステップ(G)において、選択された各リファレンスDNAとハイブリッド形成された標識断片によって生成されるシグナル強度が測定される。シグナルのタイプ及び強度は、使用されるマーカーのタイプ次第である。例えばシアニン3及び5の場合のように、使用される第一及び第二のマーカーが同等の強度を有する場合、患者のDNAとコントロールDNAとの間で認められる変異は、各リファレンスDNAに位置するハイブリッド形成されたDNA断片の量に直接関係する。
【0039】
次のステップ(H)において、患者のDNA及びコントロールDNAから記録されたシグナル間の偏差は、各リファレンスDNAに関して測定される。
【0040】
本発明の好適な実施形態によれば、ステップ(C)において患者から採取されたDNA断片は、第一マーカーを使用して標識されているもの及び第二マーカーを使用して標識されている第二のものを有する2つのプールに分けられる。ステップ(D)由来のコントロールDNA断片もまた、2つのプール、第一マーカーを使用されて標識されたもの及び第二マーカーを使用されて標識された第二のものに分けられる。この手順では、シグナル偏差の交差測定(cross-determination)は、第一マーカーで、続いて第二マーカーで測定される。コントロールDNAと患者のDNAとの間で認められる偏差が同位である場合には、どのマーカーが使用されたかを問わず、これは顕著な偏差を示す。
【0041】
次のステップ(I)において、患者の癌のステージは前ステップにおいて認められる偏差に由来する。従って、本発明によれば、得られた偏差の数値が大きければ大きいほど、膀胱癌の検出はより正確である。さらに、特に腫瘍のグレードを示す複数の遺伝子座が同時に使用される場合に、偏差は関与する腫瘍のステージの定性的な指標を提供する。
【0042】
また、遺伝子座が腫瘍細胞の悪性度の極めて代表的なマーカーとみなされる場合には、この遺伝子座由来の結果を確認するために、複数のリファレンスDNAは同一の遺伝子座から選択することができる。
【0043】
従って、本発明の方法は、ステップ(I)において、複数のリファレンスDNAを比較することができ、そして引き起こされた遺伝子異常の広範囲の表を確立することができる。このステップ中において続いて、例えば、所定のステージにおける腫瘍に関して、選択された遺伝子座における遺伝子異常を発見する可能性を考慮するために、各リファレンスDNAに関して得られた結果を重視することが有効であることが分かる。従って、同一の遺伝子座上の異常を検出するために複数のリファレンスDNAが使用される場合には、他の代表遺伝子座と比べてその重要性を考慮しながら、リファレンスDNAに関して得られた偏差を重視することもまた可能である。この重視、又は異なる遺伝子座間の相関を設定するための定数の使用は、ステップ(H)中に集積されたデータに基づいて「理論段階」を決定することができるアルゴリズムをデザインするために、使用することができる。
【0044】
上述の方法は、
(i)患者から採取された尿サンプル中に含有されるDNAを抽出するステップ;
(ii)ステップ(i)において抽出したDNAを断片化するステップ;
(iii)標識DNAのプールを形成するために、得られたDNA断片を標識剤で均一に標識するステップ;
(iv)少なくとも1つの一定分量を標識DNAのプールから形成し、各一定分量を一組のリファレンスDNAと接触させるステップであって、当該接触が、標識DNA断片のリファレンスDNAとの特異的なハイブリッド形成を可能にする条件下で実施されるステップであって;
リファレンスDNAが、ヒト染色体に存在する次の遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22全てに含まれるDNA配列を含んでなるステップ;
(v)リファレンスDNAと特異的なハイブリッド形成がされていない標識DNA断片を除去するステップ;
(vi)選択された各リファレンスDNAとハイブリッド形成された、標識された断片によって生成されたシグナル強度を測定するステップ;
(vii)得られたシグナルの、健康な患者由来のコントロールDNAにより得られたシグナルとの比較による偏差を、各リファレンスDNAに関して測定するステップ;
(viii)認められた偏差から患者の癌ステージを導き出すステップ、
を含んでなることを特徴とする、患者におけるインビトロ(in-vitro)での膀胱癌の検出のための方法として要約することができる。
【0045】
好適には本発明のリファレンスDNAによってカバーされる遺伝子座は、表1に要約される。リファレンスDNAは、NCBIによって言及されているように、対応する配列中に含まれる1又は複数の配列(各染色体のゲノム配列上の開始位置及び末端位)に相当する。
【0046】
【表1】

【0047】
関連の遺伝子座の特徴は、次の通りさらに定義できる。
3p:癌の多数の形態に関与する複数の候補遺伝子を有する領域。
4:腫瘍の開始よりも進行においてより関与する領域。他の癌病理に関してターゲットとされる腫瘍抑制遺伝子は、この領域に記載されている。
5p12−p13:腫瘍悪性度、特に転移拡散に関与する領域。
【0048】
6q:筋肉に浸潤している高グレードの腫瘍に関与する領域。遺伝子M6P/IGF2Rは、6q26−q27の遺伝子座における遺伝的指標として注目される。
8p:腫瘍抑制遺伝子:EXTL3、WRN及びPRLTSを含む、高グレードの浸潤性腫瘍中で頻繁に削除される領域(特に8p21 -pter)。
9p又は9全体:早期に頻繁に影響を受ける領域。p16/MTS1/CDKN2A/INK4A及びp15/MTS2/CDKN2B遺伝子は、細胞周期の進行において強力なキナーゼ阻害剤である。この後で考察するように、pTasにおいて頻繁に影響を受けるので、p16は癌抑制遺伝子である。INK4Aは、特にp53の制御点に作用するかもしれない。
【0049】
10q又は10全体:多くの他の癌(リンパ腫, 前立腺, 結腸)に関与する、最小の10q11−q21及び10q24−q25領域。この領域には、多数の腫瘍抑制遺伝子が含まれる。10q欠損は、不適当な予後につながる要因となる可能性がある。
11p:腫瘍悪性度、テトラプロイディーへ向う可能性のある第一の閾値に対応する領域。欠損は、転移抑制遺伝子であるKAI1遺伝子(11p11.2)の発現に影響を与える可能性がある。EXT2、WT1、TSG101及びTSSC5遺伝子はまた、他の癌に関与する。
【0050】
13q14:癌の進行したグレード及びステージ中のRB1に対応する領域、なおRBはP53と協調する。RBの不活化は、S期の開始を制御することによって腫瘍の進行を促進する。q14遺伝子座以外の他の遺伝子が関与する可能性があり、従って通常検出される欠損よりさらに広域の欠損を説明する。
14q22−qter:腫瘍の進行と関係があると思われる領域。欠損は、不均衡な転座によって生じる可能性がある。少なくとも1つの腫瘍抑制遺伝子は、この遺伝子座に存在する。
【0051】
16q:腫瘍の進行と関係がある領域。CDH1はEカドヘリンをコードし、これにより欠損は腫瘍細胞の臨床及び生物上の悪性をもたらすこととなる。他の遺伝子は、細胞の増殖を通常抑制するHカドヘリンをコードする。
17:後のステージで生じる欠落又は変異される領域であり、腫瘍の開始よりも進行と関係がある。17p13.1におけるp53の欠損は、P53タンパク質の制御の欠如に起因する遺伝子の変化の数の増加につながる。17p13.1におけるHIC1遺伝子もまた関与する。
【0052】
18q12又は18全体:筋肉に浸潤している腫瘍において典型的に改変される領域(T2又はそれ以上)。Smad4/DPC4及びSmad2/MADR2/hMAD2/JU18−1は、これらを不活性化することによってRB及びp15に作用する。
1q22−q25:TaとT1との間の転位に対応する増幅された領域。P73はしばしば過剰に発現され、従ってこの領域中の複製によって潜在的に改変される。
【0053】
3q23−q24−q25−q26−qter:関与が証明されていないにもかかわらず、変異を起こしやすいと知られている領域。
イソクロム(lsochrome)5p(5p 増加及び関連した5q 減少):癌原遺伝子の活性化によって改変された筋肉浸潤腫瘍中の領域。
6p22:癌原遺伝子の存在する可能性に起因して腫瘍の浸潤と関係し得る、増幅された領域。
7:EGF(上皮増殖因子)受容体をコードしている、7p14−p21においてERBB1/EGFR遺伝子を含む領域であって、細胞の増殖の一因となる領域。7q31において、cmet遺伝子は、他の成長受容体、HGF/SF(肝細胞増殖因子 / 散乱係数)をコードする。これらの領域は、無秩序な腫瘍の細胞増殖に関与するように見える。
【0054】
8q:8q22−q23領域における癌遺伝子の存在を介して、Ta−TI転位及び浸潤、そして特に転移腫瘍に向かう進行に頻繁に関与する領域。
10q22−q23:めったに増幅されず、そしてより一般的には欠落される領域(上記を参照)。
11:細胞周期への移行を制御する、CCND1遺伝子を有する少なくとも11q13バンドの増幅。CCND1は、多くの癌において活性化されるが、癌の進行とほとんど相関がないようである。この増幅は、早期の癌増殖ステージとの関連性を伴うであろう。
12q15:MDM2遺伝子を含む領域であって、その活性化部位を遮蔽することによってその機能を抑制するために、複数の腫瘍中のp53と相互に作用する領域。
【0055】
13q33−q34:膀胱腫瘍において時折確認される、起こり得るトリソミー13は、おそらく癌原遺伝子を含むこの領域の複製に繋がる可能性がある。
17q:17q21においてERBB2遺伝子を含む、通常重複される領域。この異常は、進行したグレード及びステージにおいてより一般的である、又は再発と関係がある。
【0056】
18q11:複数の珍しく且つ顕著な増幅で認識される領域。
20:ほとんどの場合、20q遺伝子座に限定される共通領域。家族型の癌原遺伝子は、20q11−q12遺伝子座に存在する。20q13において、STKIS/BTAKは染色体不安定性を誘発するタンパク質をコードする。
【0057】
本発明の好適な態様によれば、インビトロ(in-vitro)における膀胱癌の検出方法は、次の遺伝子座:1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、9p、9q、10q、11p、14q22−qter、17p、18q12、19及び22の1つ、複数、又は全てに基づく患者の尿細胞のDNAの倍数性に対するテストを含む。
【0058】
本発明の別の実施形態によれば、当該方法は、1又は複数の次の遺伝子座:
【0059】
【化1】

に対する、患者の尿細胞におけるDNA倍数性のテストを含む。
本発明のさらなる態様には、腫瘍のグレード及び悪性度を測定するための、上記の25遺伝子座から採取された1又は複数のリファレンスDNAの使用が含まれる。
【0060】
好適には、方法の実施に対して有効である異なるリファレンスDNAの数は、2〜500、好適には10〜400、さらに好適には50〜400である。
【0061】
この点において、本発明はまた、より詳細には、表面に互いに異なる複数のリファレンスDNAのディポジット(deposit)を含んでなることを特徴とする、膀胱癌の尿検出に有効である、DNAマイクロアレイ又はチップに関するものであり、これらのディポジットはそれぞれ上記の1又は複数の遺伝子座に含まれる配列に対応する。好適にはスライドガラスである、このDNAマイクロアレイ又はチップによって、減少された表面積を通して本発明の方法を実施し、従って上記の遺伝子座の1つ、複数、又は全てに関して、健常なDNAの正常な2倍体状態と、患者のDNAの一倍体又は倍数体状態とを同時に比較することができる。
【0062】
本発明の膀胱癌の検出のためのこのようなDNAマイクロアレイは、好適には表面に10〜1000個のリファレンスDNAのディポジットを含んでなることを特徴とし、当該リファレンスDNAは、ヒト染色体の上記のあらゆる遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22に含まれる配列を含んでなる。選択的には、各リファレンスDNAのディポジットは、ヒト染色体の上記の遺伝子座に含まれる配列を含んでなる。
【0063】
前記の方法によれば、本発明のDNAマイクロアレイは理想的には、10〜1000個、好適には10〜400個のDNA、より好適には300〜400個のその表面上の上記の定義されるリファレンスDNAのディポジットを含んでなる。ディポジットの数は、バックグランドノイズ(background noise)を減少するために、ゲノムワイド分析に対するゲノムマイクロアレイと比較して減少される。この数は、発明者によって、膀胱癌の検出に対するテスト感受性を改善するのに最適であると見なされている。
【0064】
DNAチップは、周知の核DNA配列、例えば本発明のリファレンスDNAが配置される、板ガラス、シリコン又はプラスチック基板を意味する。
【0065】
好適には、本発明によれば、DNAチップ上に配置されるリファレンスDNAは、膀胱癌に関係する染色体異常が記載される遺伝子座、より好適には本願において記載される遺伝子座の1つ、複数、又は全てにおいてのみ含まれるDNA配列を含んでなる。
【0066】
本発明はまた、1又は複数の次のエレメント:
ガラス基板に取り付けられる、好適にはDNAチップ又はマイクロアレイの形態での、前述の通りの本発明の1又は複数のリファレンスDNA;
健康な患者から採取されたDNAコントロールサンプル;
前述の通りの全DNAマーカー試薬;及び
患者のDNAの2倍体状態と分析のためのコントロールDNAの正常な2倍体状態とを比較することができるソフトウエアプログラム、を含むキットに関する。
【0067】
このようなキットは、好適には本発明の方法を実施するために必要なチューブ、フラスコ及び試薬全てを収めるようなボックスの中にパックされる。
【0068】
本発明のさらなる特徴及び利点は、次の非限定的な実施例において提供される。
【実施例】
【0069】
I−スライドガラスの調製
公開データベ−ス(UCSC及びNCBI)を利用して、表1に収載された選択マーカーを一連のBACクローン(ヒトゲノム由来のDNA部分)を網羅するために選択した。これらのクローンの位置は、ゲノム中のDNA配列の正確な位置を確認するために、クローン化されたDNAの2つの末端の配列決定によって確認した。これらの各クローンは、本発明で示唆するように、リファレンスDNAを形成する。選択されたクローン全体は、合計341個のBACクローンとなるマーカーとして選択される染色体の遺伝子座全てを網羅する。
【0070】
DNAは、repliG技術(Qiagen, Germany)を使用してBACから抽出し増幅した。各DNAをPCRプレートで341ウェルを形成するように置き、それぞれ10μgの精製したDNAを含有する。バイオロボティクロボット(Biorobotic robot)及び4ニードルによって、DNAをスライドガラス上に非常に少量置いた。アレイゲノムによって作製されたデザインは、予防措置として、双子実験(twin experiment)を実施することができる2つのハイブリッド形成領域を包含する。各DNAを、5つの独立した測定を得るために、各ハイブリッド形成領域にランダムに5回置く。
【0071】
続いてDNAを、3〜6ヶ月間保存することができるスライドガラス上に化学的に固定した。
【0072】
II−遺伝子プロファイル
凍結腫瘍を採取した。市販のキットを使用して、これらの腫瘍の染色体DNAを抽出した。「低グレード」と見なす腫瘍は、ステージpTa/G2にある。「高グレード」とみなす腫瘍は、少なくともステージpTa/G3、pT1及びpT2にある。腫瘍は、標準の臨床基準に従って分類される(図2)。
【0073】
凍結腫瘍から抽出したDNAは、蛍光光度法によって定量化する(QuBit system, Invitrogen)。診断方法の実施のためにコントロールサンプルとして使用するヒトゲノムDNAは、市販のDNAである(promega, human genomics DNA)。
【0074】
III−リファレンスDNAを用いたDNA標識及びハイブリッド形成
DNA全体の標識
1. 超音波処理器(Elmasonic sonicator)を12〜13秒間使用して、2.3μgのコントロールDNAを、55μlのエッペンドルフチューブ中で超音波処理によって断片化した。
2. DNAが正確に断片化され、且つほとんどの断片が600bp以上のサイズを有することを確認するために、この方法によって調製した200〜300ngのDNAを、0.8%アガロースゲル上の電気泳動によってチェックした。
3. 断片を微小カラム中で精製した(NucleospinExtract II)。
4. Cy5及びCy3フルオロフォアで標識するために、25μl(~1μg)の一定分量の精製したDNA及びコントロールDNAを遠心分離チューブ中に置いた。
5. 20μlのランダムな配列のプライマー(チューブ1 , Enzo Kit)を各チューブに添加し、続いてボルテックスし遠心分離した。
6. チューブをウォーターバス中で99℃で10分間温めた。
7. チューブを氷中に5分間置き、続いて短時間遠心分離しそして氷中に戻した。
8. シアニンで標識したヌクレオチドの5μlの混合物を、各チューブ(チューブ 2又は3, Enzo Kit)に添加した。
9. 1μlのクレノウ酵素断片(チューブ4, Enzo Kit)をさらに添加した。
10. 混合物を、37℃で3時間30分間ヒートブロック中でインキュベートした。
11. 5μlのストップバッファ(チューブ5, Enzo Kit)を添加し、その後チューブを氷上に置いた。
【0075】
標識DNAの洗浄
12. 200μlのNTバッファ per 100μlのDNAをチューブに添加した。
13. 各チューブの内容物をカラムに移動し、続いて11,000gで1分間遠心分離した。
14. 600μlのNT3洗浄バッファを、各カラム中に置き、続いて11,000gで1分間遠心分離した。
15. カラムを、11,000gで2分間遠心分離した。
16. 51μlの滅菌水を1分間カラムの上層に置いた。
17. カラムを11,000gで1分間遠心分離し、続いて溶解された標識DNAをチューブ中で回収した。
【0076】
ハイブリッド形成前のDNAの調製
18. 50μlのCot−1DNA(Roche)を各チューブに添加した。
19. 0.3Mの酢酸ナトリウム(pH 5-8)を使用して、体積を200μlに調節した。
20. 300μlの凍結エタノールを添加した。
21. 混合物をボルテックスし、続いて暗所で70℃で15分間インキュベートした。
22. チューブを4〜8℃で11,000gで15分間遠心分離した。
23. 真空ポンプを使用して浮遊物を除去した。
【0077】
スライドガラス上でのBACの調製
BACクローンの形態でのDNAを、ガラス板上に脱水形態で置き、続いてUV光(350 mJ)に感受性のある架橋反応剤を使用して固定した。
【0078】
標識DNA/リファレンスDNA(BAC)のハイブリッド形成
24. ポイント23で回収した残存物を5μlのddH2Oに添加した。
25. 10μlの50μg/μlのtRNA酵母(Invitrogen, Cat #15401 -011)と混合物を攪拌し95℃まで5分間温めた。
26. 700℃まで予熱した15μlのハイブリッド形成バッファ(Ambion Slide Hyb Buffer #3)を添加した。
27. 混合物を30秒間勢い良く攪拌し、13,000rpmで30秒間遠心分離した。
28. 混合物を37℃まで30分間温めた。
29. スライドガラスを混合物で完全にカバーした。
30. マイクロアレイをカバーするために、クリーンなリフタースリップリーフ(Lifterslip leaf)(24 x 32 インチ)(Erie Scientific, Cat #25X601-2- 4789)をスライドガラス上に置いた。
31. シールを加湿するために、20μlの水を添加した。
32. 閉じたハイブリッド形成チャンバー(Hybridization chamber, Corning, Cat #2551)を55℃で16時間ウォーターバス中に浸漬した。
【0079】
ハイブリッド形成後の洗浄
33. ガラス板を、50℃で0.1%SDS 0.1 X SSCの第一溶液中でインキュベートした。
続いてマイクロアレイを次の洗浄溶液中に(各溶液中で,攪拌中45秒間及び攪拌なしに45秒間)置いた:
a)0.1X SSC、0.1% SDS;
b)0.1X SSC、0.1% SDS;
c)0.1X SSC;
d)0.1X SSC;
34. スライドガラスを、0.1 X SSC溶液で満たされた標識ボックス、続いて100%エタノールで満たされた他のボックス中に室温で浸漬した(CML, Cat# BVITRI-PPL25L)。
35. 続いてスライドガラスを円錐の50mlチューブ中に置き、続いて乾燥のために数秒間遠心分離した。
36. スライドガラスを暗所に保存した。
【0080】
標識シグナル強度に従って調節された感度を有する蛍光スキャナー(GENEPIX 4000B)を使用して、スライドガラスを分析した。
染料スワップモード(dye swap mode)でプロファイルを図表で可視化するための、(ARRAYGENOMICSによって開発された)画像解析ソフトウエア BacMagic+を使用して、結果を分析した。各DNAに関して、テキストファイルはBacMagic+によってエクスポートされ且つフォーマットされ、seeGHソフトウエアで使用することができた。欠損及び増加を、BacMagic+において染料スワップ対称性の可視化に基づいてアノテートした。
【0081】
各群に対してseeGHを使用して、検出された異常及びこれらの頻度の全体的なイメージを導き出すためにアノテートを編集した。核型表(karyotype table)と同様であるこれらの図において、標識は異常(赤=減少, 緑=増加)及びこれらの位置を表す。標識のサイズは、患者プールにおけるこれらの検出頻度を表す。
【0082】
図2を分析しながら、グレード及びステージに従って、各腫瘍群の典型的なプロファイルの作成が可能であり、続いて腫瘍群の典型的なプロファイルと比較することができる。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
この概要から、pTaG2は、より高いグレードのものより改変がずっと少ないように見える。異常の一部は、低グレード腫瘍の特徴があるように見える。文献に記載されるように、9の欠損もまたここで確認され、密接に開始と関係し、ほとんどpTaと関係があるように見える。本ケースでは、3q及び5pの増加はまた、低グレードの特徴のように見える(ここで、5qの増加はないので、これは高いグレードに関して記載したようなイソ(iso)5pではない)。
【0086】
高グレードの増加異常は、徐々に出現する:8q、1q、11q並びに16及び18、これらはT2ステージ又はそれ以上のステージでより頻繁に生じるように見える。
【0087】
高グレードに関する減少異常は、6q、11p、及び13、並びに18qであり、従って後者の事象は腫瘍の進行において遅れて生じるように見える。
【0088】
IV−感度及び特異度の算出及び定義
感度:病気の患者を検出する能力。
真陽性
真陽性+偽陰性
特異度:いずれの対象が健康かを決定するためのテスト能力。
真陰性
真陰性+偽陽性
【0089】
発明者に周知の腫瘍の使用により、テストの感度の算出が可能である。これにより、評価する低グレード及び高グレードの腫瘍を検出するために本技術を使用することができるであろう。低グレード腫瘍は検出が比較的容易なので、両群は、算出で分離される。定期テスト、例えば尿細胞診断は、初期においてはこれらの癌のたった50%しか検出しない。
【0090】
現行のテストは、以下の表4に示すように、科学文献(Sources:膀胱癌の検出及び監視(surveillance)のためのバイオマーカー, McGiII University Health Centre, Montreal, Quebecの泌尿器学部の、Lome I. Budman, MSc, Wassim Kassouf, M. D., 及びJordan R. Steinberg, MD)において算出されるように、(これらの値は各研究に従って変化するので、極小及び極大で表わされる)これらの感度及び特異度を特徴とする。
【0091】
【表4】

【0092】
感度は所定の数のマーカーに関して測定される。これらの各々に関して、感度値を算出することができる。明らかに、1つの遺伝子マーカーのみで信頼性のある解決へとつなげることは不可能である。しかしながら、25個のマーカーの組合せは、表5及び6における概要評価によって示されるように、相当妥当であるように思われる。
【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
低グレード群に分類されている10個の異常は、まだ浸潤性を有していない腫瘍の開始期におけるモデルとしてよい。
【0096】
一般的に、腫瘍が浸潤性を有していないが高グレードの場合、又は既にT1又はT2ステージ或いはそれ以上のステージにある場合、本発明のマーカー上で検出される異常の数は増加する。
【0097】
高グレードに関して、当該方法は染色体1、7、8、11、13、14、17、及び18の重要性を裏付ける。
【0098】
しかしながら、(一部の研究における細胞診断又はNMP22の場合のように)別個に考慮される各マーカーの感度は36%を超えないことに注目すべきである。
【0099】
他方で、低グレードに関しても、発明者によって選択される本発明のための全遺伝子マーカーのプーリング(pooling)は、非常に良好な感度を提供する(本発明単独で得られた結果は、一定の研究で使用されるlmmunoCyt/uCyt+ 及び細胞診断の組合せと同等に満足できるものである)。
【0100】
同様に、(正常なサンプル、又は内視鏡検査及び経過観察結果が陰性の患者の尿から抽出したDNAに関して算出された)特異度は100%に達する。
【0101】
V−尿での検証
診断又は経過観察で、患者から尿サンプルを採取した。
【0102】
定期的な内視鏡検査を実施した。続いて図2に示すように、患者をグループ分けした。
【0103】
当該方法を凍結腫瘍に対するもの(参照、パートII)と同様に実施した。
【0104】
結果を、BacMagic+ソフトウエアを使用して、プロファイルを図表で可視化するために染料スワップモードで分析した。各DNAに関して、テキストファイルはBacMagic+によってエクスポートされそしてフォーマットされ、これによりseeGHソフトウエアによって使用することができる。欠損及び増加は、BacMagic+において染料スワップ対称性の可視化に基づいてアノテートした。
【0105】
seeGHを使用して、各群に関して、検出された異常及びこの頻度の全体的なイメージを導き出すために、アノテーションを編集した。核型の表と同様であるこれらの図において、標識は、異常(赤=減少, 緑=増加)及びこれらの位置を示す。標識のサイズは、患者プールにおけるこれらの検出頻度を表す。
【0106】
より高次の尿路系の腫瘍に関しては、検出される異常の概要評価を導き出すことが可能である(表7及び8)。
【0107】
【表7】

【0108】
【表8】

【0109】
内視鏡検査陽性の患者に関しては、膀胱癌を特徴とする異常は、本明細書に収載される変異で認識される。
【0110】
さらに、これらの検出された腫瘍のグレードを決定するために、異常分布表を使用する。
【0111】
膀胱腫瘍に関して、検出された変異の概要評価を導き出すことによっても、これはまた実施される。
【0112】
【表9】

【0113】
【表10】

【0114】
表9及び10に収載された結果は、多くの特徴的な異常が内視鏡検査陽性の患者で検出されることを示す。しかしながら、内視鏡検査で疑わしいものは変異があまり明らかとならなかった。内視鏡検査診断が十分に確定されなかった患者においては、経過観察によって不意に悪化したことが示された。従って、内視鏡検査で疑わしいものは、6ヶ月間の経過観察に達する前に、発明者のテストによって明確になると思われる。
【0115】
内視鏡検査が陰性の患者並びに12ヶ月間の経過観察で既に何も明らかとならなかった人は、テスト領域に関して陽性を示さないこともまた留意すべきである。(少数のクローンだけが変異を示したが、これらはテストすることを目的とする領域でなく、スライド上にスポットが形成されたクローンの多型変異に相当した。これらのクローンは、変動性質があり且つセントロメア付近に位置するため、現在のスライドの今後のバージョンで、抑制しなければならないであろう。)
【0116】
内視鏡検査で陽性であった患者の尿から抽出した各DNAにその都度分析を実施する場合には、低グレードと高グレードとを組み合わせる本発明の概要表が適用されてよい。
【0117】
特異的な実施例:
DNA 34016:内視鏡検査陽性のUUTT。低グレードを示す9p及び9qの欠損が検出された。
【0118】
発明者の泌尿器科医のパートナーは、テスト後に組織診を実施した。グレード1又は2を決定した。
【0119】
DNA 33276:内視鏡検査陽性のUUTT。多数の異常(合計で8個)が検出され、このうち9q、11p、8p及び1q22−q2は、高グレードの特徴である。組織診に続いて、グレードG3を確認した。
DNA32479:内視鏡検査で膀胱腫瘍が疑われたものであって、6月後の経過観察で陽性のもの:19の増加だけが検出された。この少数の異常及び19の増加の不確定の影響によって、発明者はこの腫瘍を低グレードと関連付けることができる。組織診はグレードG1/G2を示した。
【0120】
内視鏡検査が陽性であった場合には、この試験中に尿テストをしたほとんどの患者で組織診を実施した。BCAテストを実施した場合には、組織診の結果は利用できなかった。従って、このテストを盲検モードで実施した。その結果は、以下の表11に示されるように膀胱癌に関して要約することができる。
【0121】
【表11】

【0122】
組織診の結果が明確である患者全てに対して、腫瘍のグレードを予測することが可能であったことは注目すべきである。さらに、場合によっては、改変マーカーのより正確な分析によって腫瘍の悪性度の特徴、その転移可能性及び潜在的な進行に関する情報が提供される。さらに、生検は非常に制限的であったので分析できなかったが、一方で本発明はこれらの腫瘍のグレードに関して明瞭な結果を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における膀胱癌のインビトロ(in-vitro)での検出のための方法であって、
(i)患者から採取された尿サンプルに含有されるDNAを抽出するステップ;
(ii)ステップ(i)で抽出されたDNAを断片化するステップ;
(iii)標識されたDNAプールを形成するために、得られたDNA断片を標識剤で均一に標識するステップ;
(iv)標識されたDNAプールから少なくとも1つの一定分量を形成し、各一定分量を一組のリファレンスDNAと接触させるステップであって、標識されたDNA断片をリファレンスDNAと特異的にハイブリッド形成することができる条件下で当該接触が実施され;リファレンスDNAが、ヒト染色体に存在する次の各遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22に含まれるDNA配列を含んでなるステップ;
(v)リファレンスDNAと特異的なハイブリッド形成がされていない標識されたDNA断片を除去するステップ;
(vi)選択された各リファレンスDNAとハイブリッド形成された、標識された断片によって生成されたシグナル強度を測定するステップ;
(vii)得られた当該シグナルの、健康な患者由来のコントロールDNAで得られたシグナルとの比較による偏差を、各リファレンスDNAに関して測定するステップ;
(viii)認められた偏差から患者の癌ステージを導き出すステップ、
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記リファレンスDNAが、ヒト染色体の遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22、の全てに含まれる配列を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リファレンスDNAが、1,000〜200,000bp(塩基対)、好適には2,000〜180,000bp、より好適には5,000〜160,000塩基対の長さのヒト染色体のDNA配列から成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リファレンスDNAが、ヒトゲノムのBACクローンから成ることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記尿DNAの抽出断片及び健康な患者由来の前記コントロールDNAを標識するために、第一及び第二マーカーがそれぞれ使用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一及び第二マーカーが、異なる波長、好適にはCy3及びCy5で発光する蛍光マーカーであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(viii)における前記腫瘍細胞のグレードが、リファレンスDNAに関して認められる偏差に応じて決定されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記リファレンスDNAが、標識されたDNA断片とのハイブリッド形成に先立ち、マイクロアレイ上に別々にディポジットされることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(iii)で患者から採取された前記DNA断片が、一方が第一マーカーで、そして他方が第二マーカーで標識された2つのプールに分けられ、ステップ(vii)のコントロールDNAもまた、一方が第一マーカーで、そして他方が第二マーカーで標識された2つのプールに分けられ、従って標識された各プール間でシグナル偏差の交差測定がステップ(vii)において実施されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
表面に10〜1000個のリファレンスDNAのディポジットを含んでなり、当該リファレンスDNAがヒト染色体の遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22の全てに含まれる配列を含んでなることを特徴とする膀胱癌の検出のための、DNAマイクロアレイ。
【請求項11】
膀胱癌のインビトロ(in-vitro)での尿検出のために使用されることを特徴とする、請求項10に記載のDNAマイクロアレイ。
【請求項12】
表面上に10〜400個、好適には300〜400個の前記リファレンスDNAのディポジットを含んでなることを特徴とする、請求項10又は11に記載のDNAマイクロアレイ。
【請求項13】
各リファレンスDNAの前記ディポジットが、ヒト染色体の次の遺伝子座:1p、3q、8q22qter、20、5p12−p13、9p、9q、18q12、1q22−q24、5p、6q22、7、11q13、12q15、13q、15、16、17q、6q25−q27、7q、8p、10q、11p、14q22−qter、17p、19及び22に含まれる配列を含んでなることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載のDNAマイクロアレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−508590(P2012−508590A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543869(P2011−543869)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054987
【国際公開番号】WO2010/055467
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(511114863)
【Fターム(参考)】