説明

膜の検査方法および検査装置

【課題】白色で光を散乱する性質を有する膜の表面に存在する液滴を精度よく検出できる検査方法および検査装置を提供する。
【解決手段】多孔質基材上に形成された多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液が付与され、その後余剰の分離機能膜製膜溶液が除去されてなる膜の多孔質樹脂層側表面に、光を照射するとともに該光の反射光を受光撮像し、該多孔質樹脂層側表面から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する膜の検査方法であって、撮像視野幅に垂直な方向に関して、複数方向から光を照射してそれぞれの主光線が多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するようにするとともに、それら複数の主光線の軸が、所定の曲率半径を有する多孔質樹脂層側表面から突出する仮想液滴の表面において、撮像軸とそれぞれ正反射の関係になるように光を照射し、かつ、受光撮像した反射光に基づいて欠点液滴の有無を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質基材と多孔質樹脂層からなる非対称膜上に分離機能膜製膜溶液を付与して複合膜を形成する際に、膜欠点を引き起こすことになる分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する方法や装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な水不足・水質悪化などの水環境問題の深刻化に伴い、浄水場などにおける飲料水の製造や海水・かん水の淡水化に分離膜を用いたプロセスが普及しつつある。かかるプロセスにおいては、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜などが用いられているが、例えばナノ濾過膜、逆浸透膜としては、多孔質基材および多孔質樹脂層からなる支持膜と、分離機能膜とから構成される複合膜といわれる分離膜が多用されている。
【0003】
このような構成の分離膜を製造する方法としては、特許文献1に記載されるような方法を例示することができる。すなわち、タフタなどの織編物や不織布などの多孔質基材の表面に、ポリスルホン溶液を塗布して多孔質樹脂層を形成して支持膜を得、その後、当該微多孔性支持膜上にアミン水溶液を付与して酸クロライド溶液などで処理することで実質的に分離機能を司る分離機能膜を形成する。
【0004】
このとき、分離機能膜製膜溶液を付与した後は、乾燥機による乾燥やエアブロー、吸引等で表面に残存する余剰の分離機能膜製膜溶液を除去するが、まれに除去不足で分離機能膜製膜溶液が部分的に凸状に突出するように残存してしまう、すなわち液滴として表面に突出するように残ってしまうことがある。この突出した液滴は、凝固されることでその箇所自体が分離性能を発揮しない欠点部になるのは勿論のこと、製膜された分離膜を搬送するために把持することで、その液滴の部分から欠点が広がるおそれがある。そのため、膜表面に突出して存在する液滴を酸クロライド溶液などで処理する前に検知し、対策を講ずることが望まれている。
【0005】
ここで、比較的平滑なシート状物における凹凸を検出する方法としては、特許文献2〜5に記載されているような方法が挙げられる。具体的に、特許文献2には、撮像装置と照明装置をシート状物の法線方向に対し同じ側に配置することで膜正常部からの正反射成分を受光しないようにしつつ欠点での散乱光を受光し、欠点部分のコントラスト(正常部と欠点部の受光量差)を大きくして微細な凹凸欠点を検出する方法が記載されている。特許文献3には、不織布等の線状体が組織を構成するシート体の欠点検出方法として、シート体からの反射散乱光と透過散乱光を同時に受光して光量の和の分布変化からキズや孔開き等の欠点を検査する方法および装置が開示されている。特許文献4、5には、鋼板や磁気シートなど、不透明のシート体表面に生じる微小凹凸キズや線状キズの検出方法として、照明装置と撮像装置をそれぞれ特定の角度に配置し、照明装置よりライン状光を照射して撮像装置の受光する正常部表面からの正反射成分を抑え、欠点部分からの反射散乱光を効率よく受光する検査装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記したような膜は、一般的に微多孔性支持膜が不透明白色であり光を散乱させる性質を有する上に、凸状に突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴の表面では、当該液滴が一般的に透明であるために光が鏡面反射する。そのため、特許文献2〜5に開示されている方法で膜表面に突出して存在する液滴を検出しようとしても、欠点部と正常部とのコントラストが不十分になり、かかる液滴を十分に検知できない場合がある。
【0007】
すなわち、特許文献2に開示されている欠点検査装置を用いて不透明かつ光を散乱させる性質を有する膜を検査する場合、実際に撮像している膜表面に凸状欠点がなくても、撮像装置には膜正常部からの散乱光成分に加え欠点部からの散乱光成分が入射することがある。そのため、凸状欠点がある膜表面を撮像したときに凸状欠点からの正反射光成分が撮像手段に入射していたとても、コントラストが不十分になり、欠点を見逃す可能性がある。
【0008】
また、特許文献3に開示されている欠点検査装置を用いて不透明かつ光を散乱させる性質を有する膜を検査する場合は、凹凸を有する不織布などの多孔質基材側表面と多孔質樹脂層側表面との両面から照明を照射する。そのため、多孔質樹脂層側表面に凸状欠点部が存在する部分とその他の部分とのコントラストが不十分で十分な検出精度が得られない可能性がある。
【0009】
さらに、特許文献4および5に開示されている欠点検査装置を用いて不透明かつ光を散乱させる性質を有する膜の欠点を検査する場合、撮像装置は、凸状欠点部で、該欠点部からの正反射乱光に加え正常部からの散乱光も受光するため、コントラストが低下し、正常部と欠点部の判別が困難になる可能性がある。
【0010】
また、特許文献6には、はんだ付け後のプリント基板など、表面に傾斜面が含まれる対象物の傾斜状態を、当該対象物がカメラの視野に対してどの位置にある場合であっても正しく判別することを目的とした方法が開示されている。具体的には、波長が異なる光を照射する複数の照明装置を検査対象物に対して円弧状に配列するとともに、垂直な方向から該対象物を撮像するようにカラーカメラを配置し、カメラが撮像した画像から受光した波長を分析し、対象物の表面状態を検査する方法が記載されている。
【0011】
この文献に記載の方法で不透明かつ光を散乱させる性質を有する膜を検査する場合、膜の正常部では、照明装置からの光が散乱反射し、そのうちカメラの方向に向かう光のみがカメラで受光されることになるが、照明装置が複数設けられるので、正常部でカメラが受光する光量は、各照明装置からの散乱光の総量となる。一方、凸状に突出している欠点液滴の表面では、当該液滴が一般的に透明であるため、光は鏡面反射する。したがって、欠点液滴の部分では、ある一つの照明装置からの光が正反射し、カメラは、当該一つの照明装置からの光の正反射光と、その他の照明装置からの光の散乱光との総量を受光することになる。ここで、欠点液適表面では、正反射光を受光する分、カメラが受光する合計光量は正常部よりも多くなるが、正常部であっても、その他の照明装置からの散乱光の総量も受光するので、欠点部と正常部における受光量の差が小さく、コントラストが不十分になり、欠点を見逃す可能性がある。
【0012】
これに対して、特許文献7には、不透明かつ光を散乱させる性質を有する膜の凹凸欠点を検査する方法として、ライン状の照明装置と撮像装置とを、照射域と膜表面の法線とを含む平面に対して同じ側で、かつ撮像装置の撮像軸と膜表面とのなす角度が、ライン状照明の照射軸と膜表面とのなす角度より大きくなるよう配置する方法が開示されている。この方法では、ライン状の照明装置から照射された光は膜表面で散乱反射するが、撮像装置と反対方向に反射する光が多く、膜表面に凹凸欠点が無い場合、撮像装置に入射する光は少ない。一方、膜表面に凹凸欠点が発生すると、膜表面には、撮像装置から見て上り斜面が存在することになり、この斜面によってライン状の照明装置から照射された光が撮像装置に多く入射する。これによって膜表面の凹凸欠点を検出することができる。
【0013】
しかし、特許文献7の方法を上述したような膜表面に残存する液滴の検査に用いた場合、ライン状の照明装置から出射された光と撮像装置の撮像軸が正反射の関係となるのは液滴表面のごく微小領域のみである。そのため、例えば、数百μmの液滴であっても、撮像装置に反射光が入射する液滴表面の領域は数十μm程度であるので撮像装置に十分な光が入射せず、検出に十分なコントラストが得られない。したがって、液滴を高精度に検出することは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−152818号公報
【特許文献2】特開2002−5845号公報
【特許文献3】特開平8−50105号公報
【特許文献4】特開2006−242886号公報
【特許文献5】特開2006−258662号公報
【特許文献6】特開2008−216228号公報
【特許文献7】特開2009−042076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、白色で光を散乱する性質を有する膜の表面に存在する液滴を精度よく検出できる検査方法および検査装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、次のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1)多孔質基材上に形成された多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液が付与され、その後余剰の分離機能膜製膜溶液が除去されてなる膜の多孔質樹脂層側表面に、光を照射するとともに該光の反射光を受光撮像し、該多孔質樹脂層側表面から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する膜の検査方法であって、撮像視野幅に垂直な方向に関して、複数方向から光を照射してそれぞれの主光線が多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するようにするとともに、それら複数の主光線の軸が、所定の曲率半径を有する多孔質樹脂層側表面から突出する仮想液滴の表面において、撮像軸とそれぞれ正反射の関係になるように光を照射し、かつ、受光撮像した反射光に基づいて欠点液滴の有無を判断することを特徴とする膜の検査方法。
(2)膜を搬送しながら光を照射し、かつ、該光の反射光を受光撮像する、前記(1)に記載の膜の検査方法。
(3)多孔質基材の表面に樹脂を付与して多孔質樹脂層を形成する工程(A)と、多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液を付与する工程(B)と、余剰の分離機能膜製膜溶液を除去する工程(C)と、前記(1)または(2)に記載の検査方法を用いて多孔質樹脂層側表面から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する工程(D)とを含み、工程(D)の結果に基づいて工程(C)の条件を制御することを特徴とする膜の製造方法。
(4)工程(A)においてはポリスルホン樹脂を付与して多孔質樹脂層を形成し、工程(B)においては分離機能膜製膜溶液としてアミン水溶液を付与する、前記(3)に記載の膜の製造方法。
(5)多孔質基材上の多孔質樹脂層から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する膜の検査装置であって、膜の多孔質樹脂層側に配置される複数の光照射手段と、膜の多孔質樹脂層側に、撮像軸が該多孔質樹脂層に対して略垂直になるように配置される撮像手段と、撮像手段の信号に基づいて欠点液滴の有無を判断する信号処理手段とを備え、複数の光照射手段は、それぞれの主光線が互いに撮像視野幅に垂直な方向に関して多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するように、かつ、それら複数の主光線の軸が、所定の曲率半径を有する多孔質樹脂層側表面から突出する仮想液滴の表面において撮像軸と正反射の関係になるように、配置されることを特徴とする膜の検査装置。
(6)信号処理手段が、撮像手段の信号に基づいて撮像した液滴の曲率または直径を求める算出手段を備えている、前記(5)に記載の膜の検査装置。
(7)撮像手段および光照射手段に対する膜の相対的な位置を撮像手段の撮像視野幅に垂直な方向に変化させる搬送手段を有し、かつ、撮像手段が複数の受光素子を一方向に配列したラインセンサカメラである、前記(5)または(6)に記載の膜の検査装置。
(8)多孔質基材供給手段と、多孔質基材の表面に多孔質樹脂を付与する樹脂供給手段と、多孔質基材の表面に塗布された多孔質樹脂を凝固して多孔質樹脂層を形成する凝固浴と、多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液を付与する製膜溶液供給手段と、多孔質樹脂層の表面に付与された余剰の分離機能膜製膜溶液を除去する除去手段と、前記(5)〜(7)のいずれかに記載の検査装置とを備えていることを特徴とする膜の製造装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来は十分に検出できなかった、白色で光を散乱する性質を有する膜の表面に存在する液滴を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における表面検査装置を示した模式図である。
【図2】液滴表面での正反射の様子を示した模式図である。
【図3】本発明の表面検査装置の光学系における膜表面での反射の様子を示した模式図である。
【図4】本発明の表面検査装置の光学系における液滴表面での反射の様子を示した模式図である。
【図5】複数の光照射手段の主光線の軸を膜表面の一点に集中させた場合における、膜表面での散乱の様子を示した模式図である。
【図6】指向性が高い光照射手段を用いた場合の膜表面での散乱の様子を示した模式図である。
【図7】指向性が低い光照射手段を用いた場合の膜表面での散乱の様子を示した模式図である。
【図8】本発明の表面検査装置で検出した液滴の撮像画像である。
【図9】特許文献1に記載の検査装置で液滴を検出した場合の液滴の撮像画像である。
【図10】特許文献2に記載の検査装置の光学系を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明における光学系を示した模式図である。
【0020】
図1に示す膜の検査装置は、複数の光照射手段10(10a〜10c)と、撮像手段20と、撮像手段20に電気的に接続され該撮像手段20の信号に基づいて欠点液滴の有無を判断する信号処理手段30とを備えており、これらを、検査対象となる、多孔質基材の表面に不透明白色の多孔質樹脂層を有する膜に対して、次のように配置する。
【0021】
まず、撮像手段20は、膜40の多孔質樹脂層側に配置するとともに、撮像軸21が膜40の多孔質樹脂層に対して略垂直になるように配置する。ここで、略垂直とは、撮像軸21が多孔質樹脂層の法線と完全に一致する場合はもちろん、撮像軸21が多孔質樹脂層の法線に対して±10°の範囲内になるような場合をも含む。また、連続走行している膜を検査する場合は、撮像手段20を、撮像視野幅方向が膜の走行方向に対して直交するように配置することが好ましい。なお、本発明における「撮像視野幅」とは、受光素子が1列に配列されたラインセンサカメラの場合、受光素子配列方向を視野幅方向とする。受光素子が2次元に配列されたエリアセンサカメラの場合は縦、横どちらを視野幅方向となるように配置してもよい。
【0022】
一方、複数の光照射手段10(10a〜10c)は、膜40の多孔質樹脂層側に配置し、それぞれの主光線11(11a〜11c)が互いに、撮像手段20の撮像視野幅に垂直な方向に関して、多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するように配置する。このとき同時に、図2に示すように、それら複数の主光線11(11a〜11c)の軸(すなわち照射軸)が、所定の曲率半径を有する仮想液滴50の表面において、撮像軸と正反射の関係になるように配置する。
【0023】
すなわち、撮像手段20としてラインセンサカメラを用いる場合には、例えば、膜を紙面右から左方向にX1、X2、X3(図示しない)の位置を順に通過するように走行させ、膜40がX1の位置に搬送された時点では、仮想液滴50の表面50X1の部分で、撮像軸21と主光線11aの軸とが正反射の関係となるようにする。同様に、膜40がX2の位置に搬送された時点では、仮想液滴50の表面50X2の部分で撮像軸21と主光線11bの軸とが、またX3の位置に搬送された時点では、仮想液滴50の表面50X3の部分で撮像軸21と主光線11cの軸とが、それぞれ正反射の関係となるようにする。
【0024】
また、撮像手段20としてエリアセンサカメラを用いる場合には、その位置関係を相対的に変化させる必要は必ずしもなく、複数の光照射手段10の照射軸それぞれが、仮想液滴50に対して異なる位置で正反射の関係となるように配置すればよい。
【0025】
しかしながら、膜を搬送したりして、膜と、光照射手段・撮像手段との位置関係を相対的に変化させる場合には、液滴表面を撮像する面積が増えることにより、液滴がどのような位置にあっても正反射光を必ず受光することができるため、欠点液滴の検出精度をさらに高くすることができる。
【0026】
なお、ここでいう「所定の曲率半径」は、基本的に、欠点と判断すべき最小の液滴の大きさのことを意味し、それは経験から判断して設定すべきである。その具体的な値は、対象物によっても異なるが、たとえば織編物や不織布などの多孔質基材の表面にポリスルホン溶液を塗布して多孔質樹脂層を形成し、その上にアミン水溶液を一旦付与し、乾燥、エアブロー、吸引等で除去したような膜を検査対象とする場合には、50〜500μm程度の大きさの液滴をここでいう仮想液滴として設定すればよい。そして、その仮想液滴表面において、複数の光照射手段による照射軸(すなわち、主光線の軸)それぞれと撮像軸とが正反射の関係になるようにすればよい。
【0027】
本発明においては、このように、複数の光照射手段の主光線の軸をずらしているので、膜正常部(液滴の突出していない、不透明白色の多孔質樹脂層表面)から撮像手段に入射する光の量を低減することができる。すなわち膜正常部では、図3に示すように、複数の光照射手段10a〜10cの主光線から外れた光、すなわち、主光線に比べて弱い光が膜表面で拡散し、撮像軸21の方向の光のみが撮像されるため、撮像装置20が受光する光は、それぞれの反射光60a〜60cを足し合わせた光60となる。したがって、膜正常部では全体的に撮像手段に入射する光の量を低く抑えることができる。同時に、本発明においては、複数の光照射手段10のそれぞれの照射軸と撮像手段の撮像軸とが、欠点と認識すべき所定の曲率半径を有する仮想液滴の表面において正反射の関係になっているので、欠点と認識すべき液滴が膜表面に存在している場合には、図4に示すように、必ず、撮像手段に各光照射手段からの光の正反射光が入射する。このように、本発明においては、欠点と認識すべき部分と正常部とで撮像手段による受光量の差が大きくなり、膜表面に存在する液滴を精度よく検知することができる。
【0028】
なお、図3(b)〜(d)は、各光照射手段10からの光が、膜表面で散乱し撮像手段に入射する様子を個別に示したものであり、それをまとめたものが図3(a)である。図3(b)の70は、光照射手段から照射される光の配光分布を示しており、80は膜表面での散乱反射分布を示している。また、図4(a)〜(c)は、各光照射手段10からの光が、それぞれ、仮想液滴50の表面50X1〜50X3の部分で正反射し撮像手段に入射する様子を個別に示したものである。撮像手段は、液滴の表面50X1〜50X3のいずれかの部分での正反射光を受光するので、正常部での受光量(図3(a))より受光量が格段に多い。
【0029】
ここで、複数の光照射手段の主光線をずらさず、各主光線軸と撮像軸とが膜表面で一致するように複数の光照射手段を配置した場合を図5に示す。この光学系で不透明かつ光を散乱させる性質を有する膜を検査する場合、凸状に突出している欠点液滴の表面では、撮像手段が、一つの光照射手段からの光の正反射光と、その他の光照射手段からの光の散乱光との総量を受光する。一方、正常部においても、撮像手段は、各光照射手段10a〜10bの主光線の散乱光の総和を受光することになり、撮像手段が受光する光の総和60も大きい。したがって、欠点部と正常部における受光量の差が小さく、コントラストが不十分になり、この方法では液滴を精度良く検出することができない。
【0030】
本発明において、個々の光照射手段10としては、撮像手段20の撮像視野幅方向に光を照射する照明装置が好ましい。光照射手段10は膜40の表面に対して斜め方向から光を照射することになる。そのため、光照射手段10は、撮像手段20の撮像視野幅方向に伸びたライン状で指向性の高い光、すなわち、広がり角度が10°以内で光を膜に照射するものが好ましい。指向性の高い光照射手段を用いることで、膜40の正常部からの散乱光が撮像手段20に入射するのを防ぐことができる。その仕組みを図6および図7を用いて説明する。
【0031】
図6は、指向性の高い光照射手段を使用した場合の反射光の散乱分布を示した模式図、図7は、指向性の低い光照射手段を使用した場合の反射光の散乱分布を示した模式図である。図中、4は反射光中の正反射成分を示し、5は反射光中の散乱成分を示している。指向性の高い光照射手段を使用した場合、図6に示すように、光照射手段10から照射された光の分布がほとんど広がることなく膜表面に達するため、膜の正常部からの反射光中の散乱成分の広がりを小さくすることができる。一方、指向性の低い照明装置を使用した場合、図7に示すように、光照射手段10から照射された光の分布が広がった状態で膜表面に達するため、膜表面からの反射光中の散乱成分が大きくなり、散乱成分を撮像装置が受光するため、欠点部と正常部とのコントラストを十分に得ることができず、欠点の検出が困難になる。
【0032】
指向性の高い光照射手段としては、たとえば、光源としてハロゲン光源やメタルハライド光源を用い、光源からの光を光ファイバを通じて石英ガラスやプラスチック等を材料とするロッド端部から入射し、ロッドの円周面から光を照射するものを用いることができる。
【0033】
撮像手段20としては、特に限定するものではないが、受光素子が1次元に配列されたラインセンサカメラや、受光素子が2次元に配列されたエリアセンサカメラを用いることができる。かかる撮像手段の分解能は、検出したい液滴のサイズに応じて適宜設定することができる。例えば、撮像手段にラインセンサカメラを使用した場合、撮像視野幅方向の1画素あたりの分解能を50μm、それに直交する方向の1画素あたりの分解能を30μm程度とすることができる。
【0034】
そして、信号処理手段30は、画像処理装置を含み、撮像装置20の信号に基づいて画像を出力するものを例示できる。そして、かかる画像から液滴の曲率や直径、幅、長さ、面積等を算出し、欠点液滴であるか否かを判断するものであることが好ましい。なお、信号処理手段30は、電気的に撮像手段20に接続されていれば、どこに配置してもよい。また、画像処理装置の構成についても特に限定されるものではなく、電子回路を用いて信号を変換して処理を行うものでも、パソコン内のプログラムによって処理を行うものでもよい。
【0035】
また、本発明においては、上述したように、膜と、光照射手段・撮像手段との位置関係を相対的に変化させることが好ましい。したがって、図1に示す膜の検査装置には、たとえば、撮像手段20および光照射手段10に対する膜40の相対的な位置を、撮像手段20の撮像視野幅に垂直な方向に変化させる搬送手段を設ける。こうすることで、膜を搬送しながら連続的に検査することができる。なお、このように膜を連続的に搬送しながら検査する場合には、複数の受光素子を一方向に配列したラインセンサカメラを撮像手段20として用いることが好ましい。ラインセンサカメラの画素数は、一般的にエリアセンサカメラの縦あるいは横方向の画素数より多いので、同一幅を検査する場合、ラインセンサカメラを使用することによりエリアセンサカメラよりカメラ台数を少なくすることができるので、検査装置のコストの点で有利である。
【0036】
以上のような構成の検査装置を用いて、不透明白色の多孔質樹脂層上に残存する透明の分離機能膜製膜溶液の液滴の存否を検査するにあたっては、たとえば次にように行う。
【0037】
分離膜は、例えばタフタなどの織編物や不織布などの多孔質基材の表面にポリスルホン溶液などの樹脂を塗布して多孔質樹脂層を形成して支持膜を得、その後、当該支持膜上にアミン水溶液を付与し、酸クロライド溶液などで処理することで実質的に分離機能を司る分離機能膜を形成することで製造される。したがって、図1に示す膜の検査装置を、例えば、アミン水溶液の付与工程と酸クロライド溶液による処理工程との間の、搬送される膜の多孔質樹脂層側に対向するように配置する。なお、撮像手段20の撮像視野幅が搬送方向と直交するように配置する。
【0038】
そして、膜を搬送しながら多孔質樹脂層側表面に複数の光照射手段10から光を照射し、それら光の反射光を撮像手段20で受光撮像する。このとき、膜正常部(液滴の突出していない、不透明白色の多孔質樹脂層表面)では、複数の光照射手段10からの光が膜表面で拡散し、各光照射手段からの光の拡散光のうち撮像手段に向いている光のみが撮像手段に入射するが、複数の光照射手段10は、それぞれの主光線が互いに、撮像手段20の撮像視野幅に垂直な方向に関して、多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するように配置されているので、図3に示すように、すべての光照射手段からの光の拡散光が集中して撮像手段に向かうということがない。したがって、膜正常部では全体的に撮像手段に入射する光の量が低く抑えられる。
【0039】
一方、多孔質樹脂層上に欠点と認識すべき分離機能膜製膜溶液の液滴が残存している場合、本発明においては、複数の光照射手段10のそれぞれの照射軸と撮像手段の撮像軸とが、欠点と認識すべき所定の曲率半径を有する仮想液滴の表面において正反射の関係になっているので、図4に示すように、複数の光照射手段10からの光の正反射光のいずれかが必ず撮像手段20に入射する。したがって、本発明においては、欠点と認識すべき部分と正常部とで撮像手段による受光量の差が大きくなり、膜表面に存在する欠点液滴の存否を精度良く判断することができる。
【0040】
分離機能膜製膜溶液の欠点液滴は、アミン水溶液の付与工程後に余分な水溶液を除去する工程(例えば乾燥機を用いて水溶液を蒸発乾燥したり、エアで水溶液を吹き飛ばしたり、吸引により水溶液を除去する工程)で水溶液を除去しきれずに発生すると考えられる。したがって、上述のようにして欠点液滴を検出した場合には、例えば乾燥機、ブロワー、吸引機の温度、向き、風量を制御するなど、多孔質樹脂層形成工程の各種条件を制御すればよい。このように欠点検出結果を分離機能膜の製造工程にフィードバックすることで、膜欠点の発生を防ぐことができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
多孔質基材の表面にポリスルホン溶液を塗布して多孔質樹脂層を形成し、その後、当該多孔質樹脂層上にアミン水溶液を付与・酸クロライド溶液で処理することで分離機能膜を形成して分離膜を得る製膜ラインにおいて、アミン水溶液付与工程の直後に、図1に示す構成で検査装置を設置し、連続走行する分離膜を検査した。
【0042】
製膜ラインに設置した検査機は、撮像手段20として、7450個の受光素子が1次元に配列されたラインセンサカメラを備え、3つの光照射手段10a、10b、10cとして、複数の光ファイバの出射端がライン状に並べられたライン型光ファイバライトガイドをそれぞれ備えており、かつ、該光ファイバの出射端には、指向性を上げるためシリンドリカルレンズを装着した。
【0043】
3つの光ファイバライトガイドは、主光線軸と多孔質樹脂層表面とのなす角度をそれぞれ10°、30°、50°となるよう、また、それぞれの主光線軸と多孔質樹脂層表面とが交わる点とラインセンサカメラの撮像軸と分離膜表面とが交わる点との距離が、それぞれ170μm、750μm、2170μmとなるように配置した。すなわち、撮像視野幅に垂直な方向に関して、3つの光照射手段の主光線が多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するようにするとともに、それら3つの主光線軸が、500μmの仮想液滴表面において、撮像軸とそれぞれ正反射の関係になるように配置した。
【0044】
また、撮像手段20は、走行方向の分解能が25μmとなるように撮像条件を設定した。
【0045】
以上のような条件で分離膜を走行させながら検査した結果、直径約500μmの欠点液滴を検出することができた。液滴欠点検出画像を図8に示す。
【0046】
[比較例1]
実施例1で検査した分離膜に存在した欠点液滴と同等の大きさの液滴を多孔質樹脂層上に擬似的に形成し、特許文献2に記載の光学系(図10)で検査した以外は実施例1と同様にした。
【0047】
そのときの膜の多孔質樹脂層側の液滴の撮像画像を図9に示す。樹脂層の表面と液滴の濃淡値の差が小さく、また濃淡値の差がある部分の面積も小さく、液滴の検出精度が低い。
【0048】
[まとめ]
図8と図9を比較すると、図8の方が欠点部のコントラストがはっきりしていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は分離膜に限らず、不透明で反射光を散乱させる平面体の検査に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
4 膜表面での正反射光成分
5 膜表面での散乱反射成分
10 光照射手段
10a ある位置の光照射手段
10b 別の位置の光照射手段
10c さらに別の位置の光照射手段
11 光照射手段の主光線
11a 光照射手段10aの主光線
11b 光照射手段10bの主光線
11c 光照射手段10cの主光線
20 撮像手段
21 撮像軸
40 膜
50 仮想液滴
50X1 仮想液滴50の表面のある部分
50X2 仮想液滴50の表面の別の部分
50X3 仮想液滴50の表面のさらに別の部分
60 撮像装置に入射する光の総和
60a 光照射手段10aからの光照射で撮像手段に入射する光の量
60b 光照射手段10bからの光照射で撮像手段に入射する光の量
60c 光照射手段10cからの光照射で撮像手段に入射する光の量
70 光照射手段の光照射分布
80 膜表面での散乱反射分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材上に形成された多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液が付与され、その後余剰の分離機能膜製膜溶液が除去されてなる膜の多孔質樹脂層側表面に、光を照射するとともに該光の反射光を受光撮像し、該多孔質樹脂層側表面から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する膜の検査方法であって、撮像視野幅に垂直な方向に関して、複数方向から光を照射してそれぞれの主光線が多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するようにするとともに、それら複数の主光線の軸が、所定の曲率半径を有する多孔質樹脂層側表面から突出する仮想液滴の表面において、撮像軸とそれぞれ正反射の関係になるように光を照射し、かつ、受光撮像した反射光に基づいて欠点液滴の有無を判断することを特徴とする膜の検査方法。
【請求項2】
膜を搬送しながら光を照射し、かつ、該光の反射光を受光撮像する、請求項1に記載の膜の検査方法。
【請求項3】
多孔質基材の表面に樹脂を付与して多孔質樹脂層を形成する工程(A)と、多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液を付与する工程(B)と、余剰の分離機能膜製膜溶液を除去する工程(C)と、請求項1または2に記載の検査方法を用いて多孔質樹脂層側表面から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する工程(D)とを含み、工程(D)の結果に基づいて工程(C)の条件を制御することを特徴とする膜の製造方法。
【請求項4】
工程(A)においてはポリスルホン樹脂を付与して多孔質樹脂層を形成し、工程(B)においては分離機能膜製膜溶液としてアミン水溶液を付与する、請求項3に記載の膜の製造方法。
【請求項5】
多孔質基材上の多孔質樹脂層から突出している分離機能膜製膜溶液の欠点液滴を検出する膜の検査装置であって、膜の多孔質樹脂層側に配置される複数の光照射手段と、膜の多孔質樹脂層側に、撮像軸が該多孔質樹脂層に対して略垂直になるように配置される撮像手段と、撮像手段の信号に基づいて欠点液滴の有無を判断する信号処理手段とを備え、複数の光照射手段は、それぞれの主光線が互いに撮像視野幅に垂直な方向に関して多孔質樹脂層側表面の異なる位置を照射するように、かつ、それら複数の主光線の軸が、所定の曲率半径を有する多孔質樹脂層側表面から突出する仮想液滴の表面において撮像軸と正反射の関係になるように、配置されることを特徴とする膜の検査装置。
【請求項6】
信号処理手段が、撮像手段の信号に基づいて撮像した液滴の曲率または直径を求める算出手段を備えている、請求項5に記載の膜の検査装置。
【請求項7】
撮像手段および光照射手段に対する膜の相対的な位置を撮像手段の撮像視野幅に垂直な方向に変化させる搬送手段を有し、かつ、撮像手段が複数の受光素子を一方向に配列したラインセンサカメラである、請求項5または6に記載の膜の検査装置。
【請求項8】
多孔質基材供給手段と、多孔質基材の表面に多孔質樹脂を付与する樹脂供給手段と、多孔質基材の表面に塗布された多孔質樹脂を凝固して多孔質樹脂層を形成する凝固浴と、多孔質樹脂層の表面に分離機能膜製膜溶液を付与する製膜溶液供給手段と、多孔質樹脂層の表面に付与された余剰の分離機能膜製膜溶液を除去する除去手段と、請求項5〜7のいずれかに記載の検査装置とを備えていることを特徴とする膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−163891(P2011−163891A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26234(P2010−26234)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】