説明

膜の調製方法

膜、および、弱酸性または弱塩基性基を有する膜を調製するための方法であって、以下の段階:(i)硬化性組成物を支持体に施用し;(ii)該組成物を30秒未満にわたり硬化して膜を形成し;そして(iii)所望により膜を支持体から取り外す;ここにおいて、該硬化性組成物は、少なくとも2つのアクリル基を有する架橋剤を含む、を含む、前記方法。該膜は、逆電気透析により電気を生産するのにとりわけ有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜、それらの調製方法、およびそのような膜の例えば逆透析における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化および高い化石燃料価格は、再生可能エネルギー源への関心に拍車をかけてきた。もっとも一般的な再生可能エネルギー源は、風力および太陽エネルギーである。タービンを用いて風力を得ることが次第に一般的になってきているが、タービンは目障りであり、弱風下および非常に風が強い日には効果がないと考える人が多い。太陽エネルギーも天候に左右され、半球から遠い国々ではとりわけ効率的ではない。
【0003】
逆電気透析(RED)を用いて海水および淡水から電力を発生させる原理は、1954年にR.PlattleによりNatureで初めて述べられた。70年代にアメリカおよびイスラエルで実験結果が得られた。米国特許公報第4171409号は、この分野における技術革新の初期の例である。オランダのKEMAは“ブルーエネルギー(blue energy)”という名の下で2002年にREDに関する研究を再開し、2004年のDutch Innovation Awardを“Energy and Environment”部門で獲得した。オランダでは淡水/汽水と塩水が非常に接近した状態で豊富に供給されるため、この技術に対する関心がとりわけ高い。
【0004】
REDを用いての電気の生産は、Turek et alによる学術論文Desalination 205(2007)67−74で論じられている。逆透析(RED)の名は、それが従来の透析の逆であるという事実に由来する−電気を用いて海水を脱塩する代わりに、塩水をより塩分の低い水と(典型的には海水を淡水または汽水と)混合することにより電気を発生させる。Djugolecki et al,J.of Membrane Science,319(2008)214−222では、REDにもっとも重要な膜の性質について論じられている。
【0005】
REDでは2つのタイプの膜が用いられる。すなわち、正イオンに対し選択的に透過性を示すものと、負イオンに対し選択的に透過性を示すものである。2つのそのような膜の間で淡水から単離されている塩水は正イオンと負イオンの両方を失い、これらは、膜を通って淡水中に流入する。この電荷分離により、電気エネルギーとして直接利用することができる電位差が生じる。得られる電圧は、スタック中の膜の数、膜を跨いでのイオン濃度の差、内部抵抗および電極特性などの因子に依存する。アニオン性およびカチオン性膜を含む逆電気透析ユニットを通る淡水/汽水および塩分の高い海水の経路と、ナトリウムおよび塩化物イオンの流れとを略図で示すフローチャートを、図1として添付する。図1において、FおよびSは、それぞれ淡水/汽水および塩水の流れを表す。AおよびCはそれぞれアノードおよびカソードを表す。ClおよびNaは、それぞれ膜を通る塩化物およびナトリウムイオンの通過を表す。
【0006】
潜在的利益があるにもかかわらず、エネルギーを発生させるためのREDの商業的使用に対する著しい障害は、必要なアニオン性およびカチオン性膜の価格が高いことである。これまで、膜の価格が、kWhの最終価格が高くなる主要因であった。Turekは、海水/淡水のREDによるエネルギー発生を商業的に実現可能にするのに必要なレベルまで膜の原価を下げることに関する見通しを、良好ではないと結論づけた。したがって、膜の原価引き下げは、ブルーエネルギーの商業的実現に対し著しい障害になっている。Turekの論文以来、化石燃料の原価は劇的に上昇した。
【0007】
米国特許公報第4923611号には、従来の電気透析(逆電気透析に相対するもの)のためのイオン交換膜の調製方法が記載されている。該方法は緩慢でエネルギー集約的であり、膜を硬化するのに16時間および80℃の温度を要していた。同様に、米国特許公報第4587269号および第5203982号で用いられている方法では、80℃で17時間かかっていた。
【0008】
英国特許第860405号には、選択透過性膜を例えば不特定期間にわたる電子ビーム硬化により作製するための方法が記載されている。
英国特許第1163686号には、不均一なイオン交換膜の調製について記載されている。硬化は緩慢で、大量のエネルギーが消費されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許公報第4171409号
【特許文献2】米国特許公報第4923611号
【特許文献3】米国特許公報第4587269号
【特許文献4】米国特許公報第5203982号
【特許文献5】英国特許第860405号
【特許文献6】英国特許第1163686号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Desalination 205(2007)67−74
【非特許文献2】J.of Membrane Science,319(2008)214−222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、とりわけREDでの使用およびブルーエネルギーの発生のための膜を提供するための原価効率が高い方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点に従って、弱酸性または弱塩基性基を有する膜を調製するための方法であって、以下の段階:
(i)硬化性組成物を支持体に施用し;
(ii)該組成物を30秒未満にわたり硬化して膜を形成し;そして
(iii)所望により膜を支持体から取り外す;
ここにおいて、該硬化性組成物は、少なくとも2つのアクリル基を有する架橋剤を含む、
を含む、前記方法を提供する。
【0013】
これまで、膜は一般に、しばしば多くの段階を有する緩慢でエネルギー集約的なプロセスで作製されてきた。本発明により、長期間にわたり連続的に実施して膜を比較的安価に大量生産することができる単純なプロセスで、膜を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、アニオン性およびカチオン性膜を含む逆電気透析ユニットを通る淡水/汽水および塩分の高い海水の経路と、ナトリウムおよび塩化物イオンの流れとを略図で示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
膜は、好ましくはアニオン交換膜またはカチオン交換膜である。
膜の厚さは、取り外さない場合は支持体を含めて、好ましくは200μm未満、より好ましくは10〜150μm、もっとも好ましくは20〜100μmである。
【0016】
膜は、膜ならびに得られる膜と接触し続けている任意の多孔質支持体および任意の多孔質補強材料の全乾燥重量に基づき、好ましくは少なくとも0.3meq/g、より好ましくは少なくとも0.5meq/g、特に1.0meq/gを超える、イオン交換容量を有する。イオン交換容量は、以下の実施例の節に記載するような滴定により測定することができる。
【0017】
膜は、乾燥膜の面積に基づき、好ましくは少なくとも20meq/m、より好ましくは少なくとも30meq/m、特に少なくとも40meq/mの電荷密度を有する。電荷密度は、イオン交換容量について上記したように測定することができる。
【0018】
膜は、好ましくは75%を超え、より好ましくは80%を超え、特に85%を超え、実に90%を超える、Clなどの小さなアニオンに対する選択透過性を有する。膜は、好ましくは75%を超え、より好ましくは80%を超え、特に85%を超え、実に90%を超える、Naなどの小さなカチオンに対する選択透過性を有する。
【0019】
膜は、好ましくは10オーム/cm未満、より好ましくは5オーム/cm未満、もっとも好ましくは3オーム/cm未満の電気抵抗を有する。膜は、好ましくは50%未満、より好ましくは20%未満、もっとも好ましくは10%未満の、水中での膨潤を示す。膨潤度は、硬化段階で適切なパラメーターを選択することにより制御することができる。
【0020】
膜の吸水量は、乾燥膜の重量に基づき、好ましくは50%未満、より好ましくは40%未満、特に30%未満である。
電気抵抗、選択透過性および水中での膨潤%は、Membrane Science,319(2008)の217〜218頁にDjugolecki et alにより記載されている方法により測定することができる。
【0021】
典型的には膜は実質的に非孔質であり、例えば、細孔は標準的な走査型電子顕微鏡(SEM)の検出限界より小さい。したがって、Jeol JSM−6335F電界放射型SEMを用いると(2kVの加速電圧を印加、作動距離4mm、絞り4、試料は厚さ1.5nmのPtでコーティング、倍率は×100000倍、視野の傾斜3°)、平均細孔サイズは一般に5nmより小さい。
【0022】
膜に存在する弱酸性または弱塩基性基は、硬化性組成物中に包含される共重合性物質に由来することが好ましい。例えば、膜に存在する弱酸性または弱塩基性基は、硬化性組成物中に、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有する架橋剤を包含させることにより、好都合に得ることができる。あるいは、膜中の弱酸性または弱塩基性基は、1つのアクリル基と、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基とを有する硬化性化合物を、硬化性組成物中に包含させることにより、得ることができる。
【0023】
一態様において、硬化性組成物は、2つのアクリル基と、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基とを有する架橋剤を含み、該組成物は、アクリル基を1つ有する硬化性化合物を含まない。
【0024】
アクリル基を1つ(すなわち1つだけ)有する硬化性化合物が硬化性組成物中に存在すると、有用な程度の柔軟性を膜に付与することができる。アクリル基を1つ有する硬化性化合物は、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有することが好ましい。
【0025】
好ましい態様において、該組成物は、(a)1つのアクリル基と、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基とを有する硬化性化合物;および(b)2つのアクリル基を有し、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基を含まない架橋剤、を含む。
【0026】
硬化性組成物は、当然ながら、具体的に上記したものに加えて、さらなる成分を含有していてもよい。例えば、硬化性組成物は、1以上のさらなる架橋剤および/または1以上のさらなる硬化性化合物を所望により含み、これらはいずれも、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基を含まない。そのようなさらなる試剤および/または化合物の存在は、膜上の弱酸性または弱塩基性基の総数を特定の目標量に低減するのに有用であることができる。
【0027】
架橋剤または硬化性化合物が、弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基を有する場合、該方法は、そのような基を弱酸性または弱塩基性基に例えば縮合またはエーテル化反応により転化させるさらなる段階を含むことが好ましい。好ましい縮合反応は求核置換反応であり、例えば、膜は不安定な原子または基(例えばハロゲン化物)を有することができ、これが弱酸性または弱塩基性基を有する求核性化合物と反応すると、小さな分子(例えばハロゲン化水素)が排除され、望ましい弱酸性または塩基性基を有する膜が生じる。加水分解反応の例は、膜が、エステル基を有する側鎖を持ち、該側鎖が酸性基に加水分解される場合である。架橋剤は、好ましくは3つ、またはより好ましくは2つのアクリル基を有する。とりわけ好ましい態様において、架橋剤はアクリル基を2つ有し、硬化性化合物はアクリル基を1つ有する。
【0028】
前記硬化性化合物は、アクリル基を1つ(そして1つだけ)有する。
アクリル基は、式HC=CH−C(=O)−のものである。好ましいアクリル基はアクリレート(HC=CH−C(=O)−O−)およびアクリルアミド(HC=CH−C(=O)−N<)基である。
【0029】
弱酸性または弱塩基性硬化性化合物を使用すると、逆電気透析に有用な膜が生じることが見いだされている。さらに、そのような膜は、穏やかなプロセス条件下(例えば、周囲温度において、両極端のpHを用いることなく)で調製することができる。
【0030】
硬化性組成物は、実質的に水を含まない(例えば、5重量%未満、より好ましくは1重量%未満)ことが好ましい。これは、これにより、得られる膜を乾燥する時間と費用が回避されるためである。組成物を作製するのに用いる成分中に微量の水が存在する可能性を排除することは不可能なので(それらは完全に乾燥すると思われないので)、‘実質的に’という用語を用いる。
【0031】
弱酸性および弱塩基性硬化性化合物の使用は、組成物中に水を包含させる必要性を回避するという利点を有し、これにより、プロセスにおけるエネルギー集約的乾燥段階の必要性が回避または低減される。
【0032】
組成物が実質的に水を含まない場合、典型的には組成物の成分を、それらがすべて支持体への施用温度において液体であるように、または、該温度において液体でないあらゆる成分が組成物の残りのものに溶解するように、選択する。特定の理論のいずれかに結びつけようとするわけではないが、アクリル基を含む化合物を組成物中に使用することは、本発明で観察される迅速な硬化速度の達成に重要であると考えられる。メタクリルまたはビニルベンゼン化合物を用いていた上記従来技術では、本発明の場合と比べ、硬化時間が遙かに長く、重合条件がよりエネルギー集約的であったため、得られた膜の1mあたりの原価が著しく増大していた。
【0033】
限定された膨潤度を有する膜(吸水量50%未満)を達成するためには、架橋密度は低すぎるべきではない。これは、多官能性架橋剤を使用することによるか、官能基があまり遠くに離れていない二官能性架橋剤を使用することにより、例えば、限定された分子量の化合物を用いることにより、達成することができる。一態様において、組成物中に存在する架橋剤はすべて、アクリル基1つあたり多くても350の分子量しか有さない。
【0034】
硬化性組成物はメタクリル化合物(例えばメタクリレートおよびメタクリルアミド化合物)を実質的に含まないことが好ましい、すなわち、該組成物は、アクリル基を含まず1以上のメタクリル基を含む化合物を多くても10重量%しか含まない。
【0035】
硬化性組成物は、少なくとも2つのアクリル基を含む1以上の架橋剤を含むことができる。硬化性組成物が、少なくとも2つのアクリル基を含む1より多くの架橋剤を含む場合、そのような架橋剤のどれも弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有することができないか、そのような架橋剤の1以上が、前記基から選択される1以上の基を有することができる。
【0036】
硬化性組成物は、アクリル基を1つ有する硬化性化合物を含まないか、該硬化性化合物を1以上含むことができる。硬化性組成物は以下を含むことが好ましい:
(a)2つのアクリル基を含む架橋剤(1以上)を合計10〜99部;
(b)アクリル基を1つ有する硬化性化合物を合計10〜99部、ここにおいて、該部数のうち少なくとも10部は、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有する;
(c)2より多くのアクリル基を含む架橋剤(1以上)を合計0〜50部;および
(d)合計0〜10部のメタクリル化合物;および
(e)合計0.01〜5部の光開始剤(1以上);
ここにおいて、部はすべて重量に基づく。
【0037】
成分(a)は、硬化性組成物中に、好ましくは30〜90部、より好ましくは35〜85部、さらに特に40〜60部の量で存在し、ここにおいて、部はすべて重量に基づく。
成分(b)はアクリル基を1つ(例えば、HC=CHCO−またはHC=CHCONH−基を1つ)しか有さないので、架橋することができない。しかしながら、硬化性組成物中に存在する他の成分と反応することができる。成分(b)は、得られる膜に望ましい程度の柔軟性をもたらすことができる。それはまた、弱酸性または弱塩基性基の存在により、異なる電荷のイオンを膜が識別するのを補助する。
【0038】
一般に、成分(a)は、膜に強度をもたらすが、柔軟性を低下させる可能性がある。
2以上のアクリル基を含む架橋剤(1以上)を含有する硬化性組成物は、時折いくぶん剛性を示す可能性があり、場合によっては、このことが、得られる膜の機械的性質に悪影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、アクリル基を1つだけ有する硬化性化合物が多すぎると、構造が非常に緩い膜が生じる可能性がある。また、アクリル基を1つだけ有する硬化性化合物を大量に用いると硬化の効率が低下する可能性があり、硬化を完了するのにかかる時間が増大し、硬化に不利な条件が必要になる可能性がある。これらの因子を念頭に置くと、成分(b)の部数は、好ましくは10〜90、より好ましくは30〜70、特に40〜60重量部である。
【0039】
成分(c)の存在も、膜に強度をもたらすことができる。3以上の架橋性基の存在はまた、得られる膜中に三次元ポリマー網状構造が形成するのを促進する。しかしながら、成分(c)が多すぎると剛性構造が生じる可能性があり、膜が柔軟でなくなる可能性がある。これらの因子を念頭に置くと、成分(c)の部数は、重量に基づき、好ましくは0〜30、より好ましくは0〜10である。
【0040】
成分(d)は少量存在していてもよいが、メタクリル化合物はしばしば硬化速度を遅くし、しがたって、プロセスの効率を低下させる。したがって、硬化性組成物は、合計で好ましくは0〜10部、より好ましくは0〜5部、特に0〜2部、さらに特に0部のメタクリル化合物を含む。
【0041】
硬化性組成物は他の成分、例えば、界面活性剤、粘度向上剤、表面張力調整剤、殺生剤または他の構成成分を含有することができる。
上記因子を考慮に入れると、硬化性組成物は以下を含むことが好ましい:
(a)2つのアクリル基を含む架橋剤(1以上)を合計40〜60部;
(b)アクリル基を1つ有する硬化性化合物を合計40〜60部、ここにおいて、該部数のうち少なくとも10部は、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有する;
(c)2より多くのアクリル基を含む架橋剤(1以上)を合計0〜10部;および
(d)合計0〜5部のメタクリル化合物;および
(e)合計0.01〜5部の光開始剤(1以上);
ここにおいて、部はすべて重量に基づく。
【0042】
上記組成物中の(a)、(b)、(c)、(d)および(e)の部数は、合計100になることが好ましい。これは、他の異なる成分の存在を無視するものではなく、上記成分の互いに対する比率を与えるに過ぎない。アクリル基を有する架橋剤および硬化性化合物は、特に重合をもたらすのにUV光を用いる場合に重合速度が速いため好ましい。アクリル基を有する特に好ましい架橋剤および硬化性化合物はエポキシアクリレート化合物であり、これは一般に、非エポキシアクリレート基よりさらに反応性が高い。アクリル基を有する多くの架橋剤および硬化性化合物は、商業的供給源から容易に入手することもできる。
【0043】
膜の網状構造は、架橋性化合物の識別点(identity)およびそれらの官能性、例えば、それらが1分子あたりに含有する架橋性基の数により、かなりの程度まで決定される。
アクリル基を1つ有する適した硬化性化合物の例としては、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ジメチルアミノプロピルアクリルアミドは弱塩基性基を含む。
【0044】
2つのアクリル基を含む適した架橋剤(1以上)の例としては、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ビスフェノール−Aエポキシアクリレート、ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、プロパンジオールエトキシレートジアクリレート、ブタンジオールエトキシレートジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、および、ポリエチレングリコールと他の構成単位、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスルホンとのコポリマーのジアクリレート、ならびにこれらの組合わせが挙げられる。
【0045】
組成物は、実質的にジビニルベンゼンを含まないことが好ましい。
組成物は、実質的にスチレンを含まないことが好ましい。
2より多くのアクリル基を含む適した架橋剤(1以上)の例としては、グリセロールエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、ペンタエリトリトールエトキシレートテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエトキシレートテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールエトキシレートヘキサアクリレート、およびこれらの組合わせが挙げられる。
【0046】
アクリレート、ジアクリレート、および高級アクリレートには、タイプIの光開始剤が好ましい。タイプIの光開始剤の例は、国際公開WO2007/018425号、14頁23行〜15頁26行に記載されているとおりであり、これを本明細書中で参考として援用する。特に好ましい光開始剤としては、アルファ−ヒドロキシアルキルフェノン、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−tert−ブチル−)フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−[4’−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよびオリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}プロパノン]、ならびに、アルファ−アミノアルキルフェノン、アルファ−スルホニルアルキルフェノン、ならびに、アシルホスフィンオキシド、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド、エチル−2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネートおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0047】
光開始剤と硬化性組成物の残りのものとの比率は、重量に基づき、好ましくは0.0001〜0.2対1、より好ましくは0.001〜0.1対1である。
段階(i)および(ii)は、10〜60℃の温度で実施することが好ましい。より高い温度を用いてもよいが、製造原価が高くなる可能性があるので好ましくない。
【0048】
段階(ii)での硬化は、好ましくは電磁放射線を用いて、ラジカル重合により実施することが好ましい。放射線源は、組成物を硬化するのに必要な放射線の波長および強度をもたらす任意の放射線源であることができる。硬化用のUV光源の典型例は、Fusion UV Systemsにより供給されている出力600ワット/インチ(240W/cm)を有するH−電球であり、これは、約220nm、255nm、300nm、310nm、365nm、405nm、435nm、550nmおよび580nmに発光極大を有する。あるいはV−電球およびD−電球であり、これらは異なる発光スペクトルを有し、主要な発光はそれぞれ350〜450nmおよび400nmを超えるところにある。
【0049】
光開始剤が硬化性組成物に包含されていない場合、組成物は、電子ビーム暴露により、例えば50〜300keVの暴露を用いて、硬化することができる。硬化は、プラズマまたはコロナ暴露により達成することもできる。
【0050】
硬化速度は、アミン相乗剤を硬化性組成物に包含させることにより上昇させることができる。適したアミン相乗剤は、例えば、遊離アルキルアミン、例えば、トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン;芳香族アミン、例えば、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、ならびに、ポリアリルアミンおよびその誘導体のようなポリマーアミンである。エチレン不飽和アミン(例えばアクリル化アミン)のような硬化性アミン相乗剤が好ましい。これは、該相乗剤が、硬化により膜中に組み入れられる能力を有するので、使用により生じる臭気がより少ないためであり、そしてまた、該相乗剤が、最終的な膜に有用であることができる弱塩基性基を含有することができるためである。アミン相乗剤の量は、組成物中の重合性化合物の重量に基づき、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜3重量%である。
【0051】
所望の場合、湿潤剤として、または表面張力を調整するために、界面活性剤または界面活性剤の組合わせを組成物中に包含させてもよい。放射線硬化性界面活性剤などの市販の界面活性剤を利用することができる。該組成物での使用に適した界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびそれらの組合わせが挙げられる。
【0052】
好ましい界面活性剤は、国際公開WO2007/018425号、20頁15行〜22頁6行に記載されているとおりであり、これを本明細書中で参考として援用する。フッ素系界面活性剤、特にZonyl(登録商標)FSN(E.I.Du Pontにより生産されている)が、とりわけ好ましい。
【0053】
イオン透過性は、膜の膨潤性による影響および可塑化による影響を受ける可能性がある。可塑化により、化合物は膜に浸透して可塑剤として働く。膨潤度は、架橋性化合物のタイプおよび比率、架橋の程度(暴露線量、光開始剤のタイプおよび量)、および他の構成成分により、制御することができる。
【0054】
一態様では、少なくとも2つの硬化性組成物を支持体層上に(同時または連続して)コーティングする。したがって、コーティングは、1回より多く、各コーティング段階の間に硬化を実施するか実施しないかのいずれかで、実施することができる。結果として、少なくとも1つの最上層と、最上層より支持体に近い少なくとも1つの最下層とを含む、複合膜を形成することができる。この態様では、最上層と最下層があらゆる介在層と一緒になって膜を構成し、多孔質支持体が、得られる複合膜に強度をもたらす。
【0055】
硬化性組成物に包含されていてもよい他の添加剤は、達成すべき目的に従って、酸、pH調整剤、防腐剤、粘度調整剤、安定剤、分散剤、抑制剤、消泡剤、有機/無機塩、アニオン性、カチオン性、非イオン性および/または両性界面活性剤などである。
【0056】
本発明の方法は、所望の場合、さらなる段階、例えば膜の洗浄および/または乾燥を、含有することができる。組成物が、弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基を有する硬化性化合物を含む場合、該方法はさらに、弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基を弱酸性または弱塩基性基に転化させる段階を含むことができる。
【0057】
好ましい弱酸性基は、カルボキシ基およびホスファト基である。これらの基は、遊離酸または塩の形、好ましくは遊離酸の形にあることができる。弱酸性基を有するアクリレート化合物の例としては、アクリル酸、ベータカルボキシエチルアクリレート、ホスホノメチル化アクリルアミドが挙げられる。弱酸性基を有するアクリルアミド化合物の例としては、カルボキシ−n−プロピルアクリルアミドおよび(2−カルボキシエチル)アクリルアミドが挙げられる。
【0058】
好ましい弱塩基性基は第二アミンおよび第三アミン基である。そのような第二および第三アミン基はあらゆる形にあることができ、例えば、それらは環状または非環状であることができる。環状第二および第三アミン基は、例えば、イミダゾール、インダゾール、インドール、トリアゾール、テトラゾール、ピロール、ピラジン、ピラゾール、ピロリジノン、トリアジン、ピリジン、ピリジノン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、オキサゾールおよびオキサジアゾールに見いだされる。弱塩基性基を有するアクリレート化合物の例としては、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレート、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレートおよびジメチルアミノプロピルアクリレートが挙げられる。弱塩基性基を有するアクリルアミド化合物の例としては、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、例えば、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびブチルアミノエチルアクリレートが挙げられる。
【0059】
弱酸性基に転化しうる基としては、加水分解性エステル基が挙げられる。
弱塩基性基に転化しうる基としては、ハロアルキル基(例えば、クロロメチル、ブロモメチル、3−ブロモプロピルなど)が挙げられる。ハロアルキル基は、アミンと反応して弱塩基性基をもたらすことができる。弱塩基性基に転化しうる基を有する化合物の例としては、メチル2−(ブロモメチル)アクリレート、エチル2−(ブロモメチル)アクリレート、tert−ブチルα−(ブロモメチル)アクリレート、イソボルニルa−(ブロモメチル)アクリレート、2−ブロモエチルアクリレート、2−クロロエチルアクリレート、3−ブロモプロピルアクリレート、3−クロロプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルアクリレートおよび2−クロロシクロヘキシルアクリレートが挙げられる。
【0060】
しかしながら、硬化性組成物は、1以上のアクリル基と、弱酸性基および弱塩基性基から選択される1以上の置換基とを有する、1以上の硬化性化合物を含むことが好ましい。
膜は固定された支持体層を用いてバッチ式で調製することが可能であるが、本発明の利益を十分に得るためには、移動する支持体層を用いて連続式で膜を調製することが遙かに好ましい。支持体は、連続的に巻き戻されるロールの形にあることができ、または、支持体は、連続的に動かされるベルト上に載っていることができる(または、これらの方法の組み合わせ)。そのような技術を用いると、硬化性組成物を連続式で支持体に施用することができ、または、それを大規模なバッチ式で施用することができる。
【0061】
硬化性組成物は、任意の適した方法、例えば、カーテンコーティング、押し出しコーティング、エアナイフコーティング、スライドコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、ロッドバーコーティングまたは噴霧コーティングにより、多孔質支持体層に施用することができる。多層のコーティングは、同時または連続して行うことができる。多層の同時コーティングには、カーテンコーティング、スライドコーティング、スロットダイコーティングおよび押し出しコーティングが好ましい。
【0062】
したがって、好ましい方法では、硬化性組成物を、移動している支持体に連続的に、より好ましくは、硬化性組成物施用ステーションと、該組成物を硬化するための照射源と、膜収集ステーションと、支持体を硬化性組成物施用ステーションから照射源および膜収集ステーションに移動させるための手段とを含む製造ユニットにより、施用する。
【0063】
硬化性組成物施用ステーションは照射源に対し上流の位置に置くことができ、照射源は複合膜収集ステーションに対し上流の位置に置かれる。
高速コーティング機による施用に十分な流動性を有する硬化性組成物をもたらすために、硬化性組成物は、好ましくは35℃で測定して4000mPa.s未満、より好ましくは35℃で測定して1〜1000mPa.sの粘度を有する。硬化性組成物の粘度は、35℃で測定して1〜500mPa.sであることが、もっとも好ましい。スライドビードコーティングのようなコーティング法の場合、好ましい粘度は、35℃で測定して1〜100mPa.sである。
【0064】
適したコーティング技術を用いると、硬化性組成物を、15m/minを超える速度、例えば、20m/minを超える速度で移動する支持体に施用することができ、または、さらに高速、例えば、60m/min、120m/min、もしくは最高400m/minに達することができる。
【0065】
特に支持体を膜に残して機械的強度をもたらすことを意図する場合、硬化性組成物を支持体の表面に施用する前に、この支持体を、例えば支持体の湿潤性および付着力を改善するために、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理などに付してもよい。
【0066】
硬化中に、架橋剤(1以上)が重合してポリマーを形成する。硬化は、30秒以内に膜を形成するのに十分な迅速さで硬化が起こるという条件で、任意の適した手段、例えば、照射および/または加熱によりもたらすことができる。所望の場合、仕上げに続いてさらなる硬化を施用してもよいが、これは一般に必要ない。
【0067】
硬化は、熱的に(例えば赤外線を照射することにより)、または組成物に紫外線または電子ビームを照射することにより、達成することが好ましい。
熱硬化の場合、硬化性組成物は、1以上の熱反応性ラジカル開始剤を含むことが好ましい。該開始剤は、硬化性組成物中の硬化性および架橋性成分100部あたり0.01〜5部の量で存在することが好ましく、ここにおいて、すべての部は重量に基づく。
【0068】
熱反応性ラジカル開始剤の例としては、有機過酸化物、例えば、過酸化エチルおよび/または過酸化ベンジル;メチルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、ベンゾインなどのアシロイン;ある種のアゾ化合物、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルおよび/またはγ,γ’−アゾビス(γ−シアノ吉草酸);過硫酸塩;過酢酸エステル、例えば、過酢酸メチルおよび/または過酢酸tert−ブチル;過シュウ酸エステル(peroxalate)、例えば、過シュウ酸ジメチルおよび/または過シュウ酸ジ(tert−ブチル);ジメチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド、およびメチルエチルケトンペルオキシドなどのケトンペルオキシドが挙げられる。約30℃〜約150℃の範囲の温度が赤外線硬化で一般に採用される。約40℃〜約110℃の範囲の温度が、より多く用いられる。
【0069】
組成物の硬化は、組成物を支持体層に施用して好ましくは60秒以内、より好ましくは15秒以内、特に5秒以内、もっとも好ましくは3秒以内に開始する。
硬化は、組成物に好ましくは10秒未満、より好ましくは5秒未満、特に3秒未満、さらに特に2秒未満にわたり照射することにより達成する。連続法では照射を連続的に行い、硬化性組成物が照射ビームを通過して移動する速度が、硬化時間の期間を主として決定する。
【0070】
強度の高いUV光を硬化に用いる場合、かなりの量の熱が生じる可能性がある。したがって、過熱を防ぐために、冷却用空気をランプおよび/または支持体/膜に施用してもよい。しばしば、著しい線量のIR光がUVビームと一緒に照射される。一態様では、硬化を、IR反射性石英プレートに通してフィルタリングしたUV光を用いる照射により実施する。
【0071】
硬化では紫外線を用いることが好ましい。適した波長は、組成物中に包含される任意の光開始剤の吸収波長と波長が適合するという条件で、例えばUV−A(400〜>320nm)、UV−B(320〜>280nm)、UV−C(280〜200nm)である。
【0072】
適した紫外線源は、水銀アーク灯、炭素アーク灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、旋回流プラズマアーク灯、金属ハロゲン化物灯、キセノン灯、タングステン灯、ハロゲン灯、レーザーおよび紫外線発光ダイオードである。中圧または高圧水銀蒸気タイプの紫外線発光ランプがとりわけ好ましい。これに加えて、ランプの発光スペクトルを改変するために、金属ハロゲン化物などの添加剤が存在していてもよい。大抵の場合、200〜450nmに発光極大を有するランプがとりわけ適している。
【0073】
照射源のエネルギー出力は、好ましくは20〜1000W/cm、好ましくは40〜500W/cmであるが、所望の暴露線量を実現することができるならば、これより高いまたは低いことができる。暴露強度は、膜の最終構造に影響を及ぼす硬化度を制御するために用いることができるパラメーターの一つである。暴露線量は、High Energy UV Radiometer(EIT−Instrument MarketsからのUV Power PuckTM)により、該装置で示されたUV−B範囲で測定して、好ましくは少なくとも40mJ/cm、より好ましくは40〜600mJ/cm、もっとも好ましくは70〜220mJ/cmである。暴露時間は自由に選ぶことができるが、短いことが好ましく、典型的には2秒未満である。
【0074】
速いコーティング速度において所望の線量に到達させるためには、硬化性組成物が1より多くのランプに暴露されるように、1より多くのUVランプが必要である可能性がある。2以上のランプを施用する場合、すべてのランプが同等の線量をもたらすことができ、または各ランプが個々の設定を有することができる。例えば、第1のランプは、第2もしくは後続するランプより高い線量をもたらすことができ、または第1のランプの暴露強度はより低くてもよい。
【0075】
光開始剤は硬化性組成物中に包含されていることができ、通常、硬化で紫外線または可視光線を用いる場合は必須である。適した光開始剤は当分野で公知のもの、例えば、ラジカルタイプ、カチオンタイプまたはアニオンタイプの光開始剤である。
【0076】
とりわけ良好な機械的強度を有する本発明の膜を提供するために、多くの技術を用いることができる。例えば、支持体を多孔質支持体であるように選択することができ、硬化後もなお、この多孔質支持体をそのまま組成物と接触させ続けることができる。あるいは、または加えて、本方法は、硬化前に硬化性組成物を多孔質補強材料と接触させる追加的段階を含むことができる(例えば、硬化性組成物を多孔質補強材料に施用することができ、および/または補強材料を硬化性組成物に施用することができる)。この目的に適した支持体および補強材料は多孔質であり、例えばそれらは、合成織布または合成不織布、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミドおよびそれらのコポリマーであるか、あるいは、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルミド(polyethermide)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル1−ペンテン)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレンおよびそれらのコポリマーに基づく多孔質膜であることができる。市販の多孔質支持体および補強材料は、例えば、Freudenberg Filtration Technologies(Novatexx材料)およびSefar AGから市販されている。硬化前に多孔質補強材料を硬化性組成物に施用する態様では、多孔質補強材料が、硬化に用いられる波長の照射を通過させることができるものであり、および/または、硬化性組成物が、段階(iii)で硬化されるように、多孔質補強材料に浸透することができるものであることが好ましい。
【0077】
支持体は親水性を有することが好ましい。意外なことに、弱塩基性または弱酸性基(例えば、第三アミノ、カルボキシルおよびホスファト基)を有するイオン交換膜は、選択透過性および導電率に関して良好な性質を示すことができると同時に、本方法により製造するのに過度に高価ではない。
【0078】
本発明の膜は、特にブルーエネルギーを発生させるために、逆電気透析で使用することを主として意図している。しかしながら、該膜は、例えば、電気透析および浄水への適用において、他の用途を有することが予想される。
【0079】
支持体は、薄いフィルムの形にある硬化性組成物を硬化源に運ぶ機能を有することができる。
組成物は、テトラアルキル(tetralkyl)置換第四アンモニウム基を有する化合物を含まないことが好ましい。
【0080】
組成物は、スルホ基を有する化合物を含まないことが好ましい。
上記のことを念頭に置くと、本発明に従った好ましい方法は、アニオンまたはカチオン交換膜を調製するものであり、以下の段階を含む:
(i)硬化性組成物を支持体に施用し;
(ii)所望により補強材料と硬化性組成物を接触させ:
(iii)該組成物を3秒未満にわたり硬化して膜を形成し、ここにおいて、該膜は、該膜と、硬化した組成物と接触し続けることを意図した任意の支持体および補強材料との乾燥重量に基づき、少なくとも0.3meq/gのイオン交換容量を有する;そして
(iv)所望により膜を支持体から取り外す;
ここにおいて、硬化性組成物は、本発明の第1の観点に関し先に定義したとおりである。
【0081】
本発明の第2の観点に従って、弱酸性または弱塩基性基を有し、イオン交換または逆電気透析での使用に適したポリマー膜を提供する。ここにおいて、該膜は、本発明の第1の観点に関して先に定義したような硬化性組成物の重合を含む方法により得られている。
【0082】
硬化性組成物に関する優先傾向は、本発明の第1の観点に関し記載したとおりである。
本発明の第2の観点に従った膜は、弱酸性および/または弱塩基性基を有する膜を必要とする他の用途に用いることもできる。
【0083】
本発明の第2の観点に従った膜は、本発明の第1の観点に関し上記した性質を有することが好ましい。
本発明の第2の観点に従った膜は、本発明の第1の観点に従った方法により得ることが好ましい。
【0084】
本発明の第3の観点に従って、本発明の第2の観点に従った膜の発電を目的とした使用を提供する。
本発明の第4の観点に従って、少なくとも1つのアノード、少なくとも1つのカソード、および本発明の第2の観点に従った1以上のイオン交換膜を含む電気透析または逆電気透析ユニットを提供する。さらに、該ユニットは、比較的塩分の高い水の流れを本発明に従った膜の第1の側面に沿って提供するための入口と、より塩分が低い流水を該膜の第2の側面に沿って提供するための入口とを含むことが好ましく、これにより、イオンは該膜の第1の側面から第2の側面に通過する。該ユニットのイオン交換膜の1以上が、弱酸性基を有する本発明の第2の観点に従った膜と、弱塩基性基を有する本発明の第2の観点に従った膜を含むことが好ましい。
【0085】
好ましい態様において、該ユニットは、本発明の第2の観点に従った膜を少なくとも100枚、より好ましくは少なくとも500枚含む。あるいは、弱酸性または弱塩基性基を有する本発明に従った連続的な第1の膜をコンサーティーナ(concertina)状(すなわちジグザグ)に折り畳むことができ、弱塩基性または弱酸性基(すなわち、第1の膜と反対の電荷)を有する第2の膜を前記折り畳んだ部分の間に挿入して、複数の流路を形成することができる。ここにおいて、流体は該流路に沿って通過することができ、該流路はアニオン性およびカチオン性膜を側壁として一つおきに有する。第2の膜は、本発明の第2の観点に関し定義したとおりであることが好ましい。
【0086】
ここで、本発明を限定的ではない実施例により例示する。実施例において、部および百分率はすべて、特記しない限り重量に基づく。
実施例では、以下の性質を以下に記載する方法により測定した:
本発明の方法により作製した膜のイオン交換容量は、以下のように滴定により測定した:
該方法により生じた膜(湿潤重量0.7g)をNaCl溶液(3モル、150cm)中で15時間にわたり攪拌した。得られた膜を水で十分にすすいだ後、NaSO溶液(1.5モル、50cm)中で少なくとも1時間攪拌した。NaSO溶液(50cm)を2回取り替え、3つの溶液を250mLのフラスコ中で組み合わせた。この溶液を、MetrohmからのTitroprocessor 682で複合銀電極(6.0404.100)を用いて、AgNO溶液(0.1000モル)で滴定した。
【0087】
以下の設定を用いた:
滴定速度 1.00mL/min
予想(Anticipation) 10
EP基準(EP crit) 3
膜の乾燥重量は、30℃の真空オーブン中で24〜48時間乾燥することにより決定した。
【0088】
選択透過性は、静的膜電位測定を用いることにより測定した。2つの電解槽(cell)は、調査中の膜により隔てられている。測定前に、膜を0.5M NaCl溶液中で少なくとも16時間にわたり平衡化した。異なるNaCl濃度を有する2つの流れを、調査中の膜の相対する側の電解槽に通した。一方の流れは0.1M NaCl(Sigma Aldrichから、最低99.5%の純度)の濃度を有し、他方の流れは0.5M NaClであった。流量は0.74リットル/minであった。2つのダブルジャンクション型Ag/AgCl参照電極(スイスのMetrohm AGから)を、各電解槽に挿入した毛細管に接続し、膜を横切る電位差を測定するのに用いた。膜の有効面積は3.14cmであり、温度は25℃であった。
【0089】
定常状態に到達したときに、膜電位を測定した(ΔVmeas)。
膜の選択透過性(α(%))を以下の式に従って算出した:
α(%)=ΔVmeas/ΔVtheor×100%。
【0090】
理論膜電位(ΔVtheor)は、ネルンストの式を用いて算出した選択透過性100%の膜の電位である。
電気抵抗は、J.of Membrane Science,319(2008)の217〜218頁にDjugolecki et alにより記載されている方法により、以下の修正を加えて測定した:
・補助膜は日本の徳山曹達からのものであった;
・膜の有効面積は3.14cmであった;
・用いたポンプはCole−PalmerからのMasterflex easyload IIであった;
・毛細管には3M KClを満たした;
・参照電極はMetrohmからのものであった;そして
・電解槽1、2、5および6には0.5M NaSOを入れた。
【0091】
EbecrylTM 3703は、2つのアクリル基を含むアミン変性ビスフェノール−Aエポキシアクリレート架橋剤であり、UCB Chemicalsから得た。EbecrylTMはUCB Chemicalsの商標である。
【0092】
DMAPAMは、1つのアクリル基と弱塩基性基とを有する硬化性化合物であるジメチルアミノプロピルアクリルアミドであり、日本のKohjin Chemicalsから得た。
【0093】
“SR”で始まる構成成分はすべて、フランスのSartomerからのものであった。
CD536は、Sartomerからのジオキサングリコールジアクリレート(Mw=256)である。アクリル酸はSigma Aldrichから得た。
【0094】
IrgacureTM 500は、Cibaから得た光開始剤である。
IrgacureTM 819DWは、Cibaからの水性光開始剤分散物である。
IrgacureTM 1870は、Cibaからの光開始剤である。
【0095】
IrgacureTM はCibaの商標である。
AdditolTM ITXはCytecからの光開始剤である。
Zonyl(登録商標)FSN100は、Dupontからの非イオン性フッ素系界面活性剤である。
【0096】
Novatexx 2473は、重量が30g/m、厚さが0.12mmで、200Paにおいて2500L/m/sの通気性を有する不織ポリエチレン/ポリプロピレン材料であり、Freudenberg Filtration Technologiesからのものである。
【実施例】
【0097】
実施例1
硬化性組成物(“CC1”)を、表1に示す構成成分を混合することにより調製した:
【0098】
【表1】

【0099】
段階(i)−支持体への硬化性組成物の施用
硬化性組成物CC1を、150マイクロメートルの厚さまで支持体(ポリエチレン層でコーティングされた紙押出物)に施用した。
【0100】
この実施例では、補強材料(織られたSEFAR)をCC1の層に施用し、150マイクロメートルロッド/ナイフ塗布機を用いて平らにした。
段階(ii)−硬化
D−電球を取り付け、速度15m/min、100%強度で作動させたFusion UV SystemsからのLight Hammer LH6を用いて、段階(i)の生産物を硬化することにより、膜を調製した(単一パス)。硬化時間は0.8秒であった。
【0101】
得られた膜を支持体から取り外し、pH 4.3に緩衝化した0.5M NaCl溶液中で少なくとも12時間保存した。
結果:
上記方法により測定した得られた膜の選択透過性(α(%))は、89.5%であることが見いだされた。
実施例2〜11:架橋剤の変動
さらなる硬化性組成物(CC2〜CC11)を、表2に示す構成成分を混合することにより調製した。CC2〜CC10は架橋剤を2つ含有し、CC11は架橋剤を1つ含有していた。CC9およびCC10は、39.7重量%のアクリレート架橋剤に加えて、32.5重量%のジメタクリレート架橋剤を含有していた。
【0102】
【表2】

【0103】
段階(i)および(ii)−支持体への施用および硬化
硬化性組成物CC2〜CC11を支持体に施用し、実施例1に記載した方法とまったく同じように硬化したが、CC9およびCC10は硬化が遅かったので、これらは5回にわたりUV光に2秒間暴露した。得られた膜を支持体から取り外した。
結果
得られた膜の選択透過性を、上記方法を用いて測定した。結果は表3に示すとおりである:
【0104】
【表3】

【0105】
実施例9で生産した膜は乾燥中に分解した。実施例9で生産した膜が乾燥中に分解し、実施例10で生産した膜の選択透過性が低いことは、メタクリレートを含有する組成物が、メタクリレートを含ませないで作製した他の実施例ほど速く硬化しなかったことを示している。
実施例12〜14
さらなる硬化性組成物CC12〜CC14を、表4に示す配合に従って調製した:
【0106】
【表4】

【0107】
織られたSefarの代わりにNovatexx 2473を用い、余剰の硬化性組成物を4ミクロンのバーを用いて除去した点を除き、実施例1で上記した方法を用いて硬化性組成物CC12〜CC14から膜を調製した(i.s.o.150)。
【0108】
硬化性組成物CC12〜CC14から調製した膜の選択透過性およびイオン交換容量を、上記方法を用いて測定し、以下の表5に示すとおりであることを見いだした。
【0109】
【表5】

【0110】
実施例15〜19
硬化性組成物(CC15〜CC19)を、表6に示す構成成分を混合することにより調製した。
【0111】
【表6】

【0112】
段階(i)−支持体への硬化性組成物の施用
調査中の硬化性組成物(CC15〜CC19のいずれか1つ)を支持体(補強材料としてNovatexx 2473を担っている未処理PE紙)に150ミクロンのバーロッドを用いて施用し、これにより、補強材料の細孔を硬化性組成物で満たした。余剰の硬化性組成物は、4ミクロンのバーコーターを用いて除去した。
段階(ii)−硬化
D−電球を取り付け、速度20m/min、100%強度で作動させたFusion UV SystemsからのLight Hammer LH6を用いて、段階(i)の生産物を硬化することにより、膜を調製した(各パス間2秒間隔で3回のパス)。各パスでの硬化時間は0.4秒で、硬化時間は合計1.2秒であった。
【0113】
得られた膜を支持体から取り外し、pH 4.3に緩衝化した0.5M NaCl溶液中で保存した。
CC15〜CC19から調製した膜は、表7に示す性質を有していた:
【0114】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱酸性または弱塩基性基を有する膜を調製するための方法であって、以下の段階:
(i)硬化性組成物を支持体に施用し;
(ii)該組成物を30秒未満にわたり硬化して膜を形成し;そして
(iii)所望により膜を支持体から取り外す;
ここにおいて、該硬化性組成物は、少なくとも2つのアクリル基を有する架橋剤を含む、
を含む、前記方法。
【請求項2】
硬化性組成物がさらに、アクリル基を1つ有する硬化性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記架橋剤または前記硬化性化合物または前記架橋剤および前記硬化性化合物の両方が、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
さらなる架橋剤またはさらなる硬化性化合物またはさらなる架橋剤およびさらなる硬化性化合物の両方を含み、これらがいずれも、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基を含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記弱酸性基がカルボキシおよび/またはホスファト基から選択され、前記弱塩基性基が第二および第三アミノ基から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
硬化性組成物がメタクリル化合物を実質的に含まない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
膜が、膜の乾燥重量に基づき少なくとも0.3meq/gのイオン交換容量を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
15m/minを超える速度で移動する支持体に硬化性組成物を施用する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
硬化性組成物を、移動している支持体または多孔質補強材料に、硬化性組成物施用ステーションと、該組成物を硬化するための照射源と、膜収集ステーションと、支持体または多孔質補強材料を硬化性組成物施用ステーションから照射源および膜収集ステーションに移動させるための手段とを含む製造ユニットにより、連続的に施用する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
硬化を硬化性組成物に3秒未満にわたり照射することにより実施し、弱酸性基がカルボキシおよび/またはホスファト基であり、弱塩基性基が第二アミンまたは第三アミン基であり、組成物がメタクリレートおよびメタクリルアミドを実質的に含まず、膜が膜の乾燥重量に基づき少なくとも0.3meq/gのイオン交換容量を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
膜が不透水性である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
弱酸性または弱塩基性基を有し、交換または逆電気透析での使用に適したポリマー膜であって、該膜が、請求項1〜6のいずれか一項で定義した硬化性組成物の重合を含む方法により得られている、前記ポリマー膜。
【請求項13】
請求項12に記載の膜の発電における使用。
【請求項14】
請求項12に記載のイオン交換膜を1以上含む、電気透析または逆電気透析ユニット。
【請求項15】
硬化性組成物が以下を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の膜の調製方法:
(i)2つのアクリル基を含む架橋剤(1以上)を合計10〜99部;
(ii)アクリル基を1つ有する硬化性化合物を合計10〜99部、ここにおいて、該部数のうち少なくとも10部は、弱酸性基、弱塩基性基、および弱酸性または弱塩基性基に転化しうる基から選択される1以上の基を有する;
(iii)2より多くのアクリル基を含む架橋剤(1以上)を合計0〜50部;および
(iv)合計0〜10部のメタクリル化合物;および
(v)合計0.01〜5部の光開始剤(1以上);
ここにおいて、部はすべて重量に基づく。

【図1】
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【公表番号】特表2011−528391(P2011−528391A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517998(P2011−517998)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050702
【国際公開番号】WO2010/007399
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】