説明

膜を洗浄する方法及びそのための化学物質

本発明の精密濾過膜または限外濾過膜の洗浄方法は、精密濾過膜または限外濾過膜とヒドロキシルラジカルとを接触させる工程を含んで成る。本発明の方法は、バイオファウリングまたは有機物ファウリングが生じたヘイラーなどの耐酸化性膜に特に適している。例えば、ヒドロキシルラジカルは、酸性条件下にて遷移金属(例えば、モリブデン、クロム、コバルト、銅またはタングステンなどであるが、より好ましくは鉄である)のイオン水溶液と過酸化水素とから生成させる。本発明の方法は、中空繊維膜に特に適しており、反応に際して生じる酸素気泡によって、垂直な中空繊維膜の壁内へと液体が流入してルーメン上部から水が押し出されると共に、精密濾過膜または限外濾過膜上にフィルターケーキが存在する場合、酸素気泡によって、そのようなフィルターケーキが破壊されるように溶液が自己攪拌されることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を洗浄する方法およびそのための組成物に関する。より詳細には、本発明は、ポリマーから成る精密濾過膜および限外濾過膜をヒドロキシルラジカルを用いて洗浄する方法、及びそのような洗浄に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーから成る精密濾過膜および限外濾過膜は、水濾過に広く用いられている。一般的に使用される多孔質の精密濾過膜および限外濾過膜は、典型的には中空繊維の形態を有しており、注封によって束状にされる。束状の精密濾過膜および限外濾過膜は、モジュールに設けられ、モジュールが更に列状に配置される。これにより、所定の体積に対する膜の表面積が最大限となり、「設置面積」が比較的小さい装置でも多くの水が処理される。
【0003】
ある運転モードでは、汚染された供給水が、中空繊維の外側にのみ接するようにモジュールに導入される。水を膜に通す際、必要に応じて汚染水を加圧する。ポリマーから成る中空繊維膜を水が通過する際、水は繊維のルーメン(lumen)内に入り込んだ後、そのルーメンから水が出ていくことになり、汚染物質が中空繊維膜の外側に残存することになる。
【0004】
かかる汚染物質はフィルターに蓄積されるため、膜の透過率は全体的に減じられる。従って、一定の圧力下では膜を通過する水の体積が減少したり、あるいは、所定の膜処理量を維持するのに必要とされる圧力が増加してしまう。いずれにせよ、水が膜処理で浄化されなくなったり、あるいは、膜の一体性が破壊され得る圧力で操作する必要がある等、状況としては望ましくない。このような観点から膜は洗浄を必要とする。
【0005】
汚染物質の量が多い場合、定期的に逆洗を実施して汚染物質が除去される。即ち、水流れとは逆方向となるように中空繊維膜のルーメン内へとガスまたは濾液を強制的に流すと、ガスによって汚染物質が膜孔から周囲の水中へと押し出される。汚染物質を含んだ水は静置池または静置タンクへと送られることになる。所望の場合、機械的な攪拌等の他の形態で膜を洗浄することもできる。
【0006】
しかしながら、このような機械的洗浄法およびガスを用いた逆洗は十分に有効であるとはいえない。つまり、時間の経過に伴って、機械洗浄法およびガスを用いた逆洗では容易に除去されないファウリング物質に起因して洗浄効率が徐々に減少してしまう。濾過される材料(多くの場合、地上水および地下水)の性質に起因して、膜バイオリアクター等で生じるファウリング物質の多くは、実質的には生物関連物質および/または有機物質である。従って、付加的な洗浄工程が必要とされる。
【0007】
生物関連物質または有機物質のファウリングが生じたポリマーの精密濾過膜および限外濾過膜は、一般的に、次亜塩素酸ナトリウム(塩素)、過酸化水素、および(それらよりも使用頻度が低いが)オゾン等の酸化力を有する洗浄剤を用いて洗浄される。
【0008】
塩素は最も広く用いられている洗浄剤であるが、水処理用として広く使用するには望ましくない。水処理システムにおける塩素添加は、発癌性の塩素系有機副生成物を生じる原因となることが知られている。つまり、塩素添加によって生じる副生成物は有害であり環境廃棄問題を引き起こし得る。塩素ガス自体も、不快な臭いがするので、周辺住民の健康を脅かすものである。
【0009】
過酸化水素の使用は、有害で環境的に望ましくない塩素系副生成物の問題を回避することができるものの、洗浄剤としては塩素よりも効果が劣るものである。
【0010】
オゾンは、塩素または過酸化水素よりも優れた洗浄剤であり、塩素の使用に伴う安全問題/環境問題の多くを回避することができる。しかしながら、オゾンは、より強い酸化力を有するので、塩素または過酸化物による酸化に対して耐性を有する膜(例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等から成る膜)を劣化させ得る。
【0011】
尚、オゾンおよび塩素は、トリハロメタン等の物質を生成する反応が生じる点で問題を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上述の従来技術の問題の少なくとも1つを克服または軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の説明
第1の態様において、本発明は、精密濾過膜または限外濾過膜とヒドロキシルラジカルとを接触させる工程を含んで成る精密濾過膜または限外濾過膜の洗浄方法を供する。
【0014】
精密濾過膜または限外濾過膜は、いずれの適当な耐酸化性材料(または酸化防止材料)から形成されているものである。例えば、精密濾過膜または限外濾過膜の耐酸化性材料は、制限するわけではないが、フッ化ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンの幾つか又は全てを十分に又は部分的に含んだハロゲン化モノマーから成るホモポリマー、コポリマーおよびターポリマーなどである。精密濾過膜または限外濾過膜に特に好ましいブレンドまたはコポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(即ち、PVdF)から得られるものであり、あるいは、クロロトリフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー、即ち、ECTFE(ヘイラー(Halar))、アクリルエステル等の1種類以上のモノマーを含んだクロロトリフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー、およびポリスルホンである。
【0015】
ヒドロキシルラジカルは、酸性化した過酸化水素および酸性化した有機ペルオキシ酸(例えば過酢酸)から生成する方法、過酸化水素と有機ペルオキシ酸とを組み合せて生成する方法、過酸化水素に紫外線を照射して生成する方法、およびpH2〜9にて過酸化水素とオゾンとを組み合せて生成する方法(紫外線照射に付してもよいし、付さなくてもよい)から成る群から選択される1種類以上の方法から生成することができる。
【0016】
本発明の好ましい態様の1つは、酸性条件下で遷移金属イオンの水溶液と過酸化水素とを組み合せることによってヒドロキシルラジカルを生成させ、それによって、耐酸化性膜にヒドロキシルラジカルを供して洗浄する。
【0017】
好ましくは、遷移金属イオンは、鉄(II)および/または鉄(III)である。好ましくは、酸性条件は、pH2〜6のpH値である。
【0018】
遷移金属としては、鉄以外の金属も用いることができる。例えば、モリブデン、クロム、コバルト、銅またはタングステンが好ましい。容易に還元/酸化され得る水溶性金属イオンまたは錯体(もしくは錯塩)を、本発明の洗浄方法の触媒系として用いることができる。遷移金属イオン同士の組合せを用いたり、種々の原料を用いたりしてもよく、更には、必要に応じて付加的なイオンまたは化学種を添加してもよい。
【0019】
遷移金属は単独で添加したり、あるいは、キレート化剤または他の錯化剤と共に錯体(錯塩)として添加したりしてもよい。
【0020】
ヒドロキシルラジカルは強力な酸化剤であるので、ヒドロキシルラジカルを用いると、濾過(特にバイオファウリングおよび/または有機物ファウリングが多く生じる水濾過)に用いられる膜からファウリングを効果的に除去できる。
【0021】
PVdF等のポリマー膜の多くが、ヒドロキシルラジカルに対して良好な耐性を有することを見出した。PVdF等の多くのポリマー膜が、ヒドロキシルラジカルに対して良好な耐性を有していることは驚くべきことである。なぜなら、PVdF等のポリマー膜というものはオゾンに対して安定性をあまり有していないので、ヒドロキシルラジカルはファウリングが生じた膜から有機物を除去する点でオゾンよりも強力な酸化剤であり、PVdF等のポリマー膜はヒドロキシルラジカルに対して安定性を有していないと考えられるからである。特定の理論に拘束されるものではないが、ヒドロキシルラジカルに対して良好な耐性を有することは、ヒドロキシルラジカルのライフタイム(または存続期間)が短いことに起因しているものと考えられる。
【0022】
1つの好ましい態様において、ヒドロキシルラジカルの溶液は、低いpHにおいて過酸化水素と、M(n+)および/またはM(n+1)+(例えば、鉄(II)および/または鉄(III)系)の水溶液とから調製される。M(n+)および/またはM(n+1)+は、その2種の化学種の間で適当な平衡状態を形成することになる。例えば、第一鉄または第二鉄のいずれを用いても同様の触媒系が得られる。現実的には、例えば、金属が鉄である場合、鉄(II)の化学種を用いて反応を開始させることが好ましい。なぜなら、鉄(II)の化学種は、対応する鉄(III)の化学種よりも可溶性を有している傾向があるからである。従って、鉄(II)の溶液から出発すると、鉄(III)塩の不溶解に関連した問題が減じられることになる。
【0023】
本発明は、鉄(II)および鉄(III)に関して説明するものの、かかる説明は、ヒドロキシルラジカルが生じる何れの系に適用されることを理解されよう。
【0024】
本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系によってヒドロキシルラジカルを調製する一般的なスキームを以下にて説明する。鉄(II)と過酸化水素との反応または鉄(III)と過酸化水素との反応のいずれを用いても、対応する他方の鉄の化学種を発生させることができる。全体的に見れば、系では鉄が触媒的作用を有することになり、反応に対して他の影響がなければpHが維持され得ることになる。しかしながら、膜洗浄に際しては、有機物ファウリングとして生じた有機酸が分解することに起因して、反応中にpHが減少することが予想される。

Fe2++H Fe3++OH+HO
Fe3++H Fe2+OOH+H

全体的には:
2HO+HOOOH
【発明の効果】
【0025】
ヒドロキシルラジカルは強力な酸化体である。ヒドロキシルラジカルは、塩素の2倍以上の酸化力を有しており、その酸化力ではFに次ぐものである。ヒドロキシルラジカルを用いると、有機汚染物質が破壊され、水の毒性が減じられ、水の臭いおよび水の色が制御される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
膜とヒドロキシルラジカルとの接触は、単独で行ったり、あるいは、他の洗浄溶液もしくは洗浄法と組み合わせて行ってもよい。種々の方法が考えられる。
【0027】
例えば、膜をヒドロキシルラジカル溶液に浸漬させてもよい。あるいは、ヒドロキシルラジカル溶液が膜を通るように、ヒドロキシルラジカル溶液を通過させる又は循環させてもよい。洗浄工程は、洗浄が促進されるように、曝気工程または紫外線をヒドロキシルラジカル溶液に照射する工程を含んでいてもよい。
【0028】
更に、一旦使用された洗浄液は回収してもよい。鉄(II)/鉄(III)系は触媒的作用を有しており、新しい過酸化水素を加えることによって(必要であれば適当なpH調整を行う)、洗浄プロセスを再度行うことができる。
【0029】
レドックス触媒/過酸化物/H試薬は種々の方法で用いることができる。レドックス触媒/過酸化物/H試薬の各々の組成物は、繊維膜の周囲に存在する水に直接加えられる。その際、レドックス触媒/過酸化物/H試薬の各々の組成物を一緒(または一体的)にして加えたり、あるいは、それぞれ別々に加えてもよい。別法にて、例えば、鉄(II)/鉄(III)触媒をレドックス触媒/過酸化物/H系に用いる場合、濾過される供給水から鉄イオンを得ることができる。洗浄効率に必要とされる鉄濃度によっては、供給水に元々含まれている鉄で十分であり、鉄(II)または鉄(III)を更に供給しなくてもよい場合がある。これは、例えば、ある工業プロセスまたは鉱業プロセスの場合に当てはまることである。ただし、反応効率を増加させるべく、特別に鉄イオンを供給水に加えて鉄濃度を増加させてもよい。
【0030】
別法にて、本発明は、濾過水に存在する鉄の化学種を利用できる。塩化第二鉄(鉄(III))は、濾過に先立って残留分を沈殿させる凝集剤として一般的に用いられている。従って、塩化第二鉄(鉄(III))によって浄化された供給水をフィルターに通すことができる。また、塩化第二鉄は、濾過工程中または濾過工程後にリンを除去するのに用いられ得る。従って、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系の形成には、処理前または処理後の水に存在する鉄触媒を利用できる。
【0031】
水を浄化するために、鉄(II)または鉄(III)を適当な濃度で供給水を加えてもよい。沈降処理後、鉄(II)および/または鉄(III)を含んだ浄化された水が得られる。得られた水は膜に供給され、pHが約4に減じられ、過酸化物が加えられる。あるいは、得られた水を膜に供給する前に、pHを減じ、過酸化物を加えてもよい。本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系は一回だけ膜に通してよい。または、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系と膜とを接触させ、ある時間静置させてもよい。更には、膜もしくは膜システムを通るように本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系を循環させてもよい。接触時間は、所定の洗浄レベルが達成されるように選択される。尚、所定の洗浄レベルは、圧力降下によって把握される。または、所定の洗浄レベルは、ヒドロキシルラジカルが所定のレベル(かかるレベルより低いと、洗浄速度が現実的でなくなる)になることによって把握される。必要に応じて、ヒドロキシルラジカルが消費された後に残存する鉄(II)/鉄(III)は、約pH4(所望の場合)となるようにpH調整し、更なる過酸化水素を再添加することによって、再使用できる。
【0032】
一旦使用された触媒鉄は、洗浄溶液から回収することができる。かかる回収においては、再使用すべく洗浄溶液を全て回収したり、あるいは、洗浄溶液のpHを上げて鉄を凝集させ、凝集した鉄を分離してもよい。ある場合では、水性鉄(II)イオンの溶液を曝気して、溶液を全体的に酸化して鉄(III)を含んだものにする必要がある。これによって、鉄回収工程の効率が90%以上にまで改善される。
【0033】
別法にて、濾過性能を向上させ、濾液の質を高めるために、洗浄溶液の触媒として使用した鉄(II)/鉄(III)系を他の方法で水濾過法プロセスに再使用することができる。例えば、洗浄溶液の触媒として使用した鉄(II)/鉄(III)系を濾過プロセスの凝集剤として使用して、膜に供給される供給液の質を向上させることができる。これは、凝集などの物理的な分離によって為されたり、あるいは、溶存している他の化学種(例えばリン酸塩)との化学反応によって為されたりする。例えば、鉄は、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系の触媒として用いることができる。その場合、過酸化物が消費された洗浄溶液は、供給水または濾液を凝集処理する際に用いる鉄の供給源として用いることができる。過酸化物が消費された洗浄溶液は、更に処理に付してもよく、あるいは、更なる処理に付すことなく使用してもよい。例を1つ挙げると、鉄(II)/鉄(III)を含んだ使用済み洗浄系に対して新たな供給水を加える。濾過に先立って、pHを上げ(または中和処理を行い)、鉄を凝集させることによって、きれいな供給水が得られる。
【0034】
本発明のCIP溶液は、その全てをリサイクルすることができるので、廃棄物を減じることができる。
【0035】
本発明は、地上水の濾過処理(または地表水の濾過処理)、地下水の濾過処理、脱塩処理に用いることができ、あるいは、流出物および膜バイオリアクターを2次的もしくは3次的に処理するのに用いることができる。
【0036】
ヒドロキシルラジカルに基づく洗浄(例えば、本発明のレドックス触媒/過酸化物/Hに基づく洗浄)は、既存のシステムおよび処理プロセスに用いて、供給液または濾液の質を向上させることができたり、濾過プロセス自体の効率を向上させることができる。そのようなヒドロキシルラジカルに基づく洗浄は、バッチ式で行ったり、あるいは、連続式で行ってよく、例えば、膜において所定濃度のヒドロキシルラジカルを生成するために、膜における鉄濃度または膜の直ぐ上流側の鉄濃度が測定され、pHが調整され、必要に応じて過酸化物が供される。本発明の洗浄法は、定置洗浄(CIP)の用途に特に適している。本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系で処理された精密濾過膜および限外濾過膜は、水濾過に使用されてファウリングが生じた状態から良好に再生される。
【0037】
本発明の方法で得られる更なる利点は、垂直の中空繊維膜を使用した場合、自己循環システムが供されることである。大部分の用途では、中空繊維膜が垂直方向に用いられる。膜を通るように循環させることによって、洗浄度が向上する。このような循環は、洗浄溶液をポンプで送液することによって通常行われている。本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系で処理される中空繊維モジュールでは、洗浄溶液は、膜を通過して流れた後、膜のルーメンの上部(典型的には水レベルよりも10cm上方に位置するルーメン上部)から排出されることになる。このように排出されるのは、ルーメン内で酸素気泡が形成され、その酸素気泡によって水が押し出されるからである。発生する酸素に起因する連続的な押出し作用および上昇する酸素気泡によって、膜壁内へと流入してルーメンの上部から水が押し出される連続的な液体流れが形成される。酸素の発生によって自然に形成される流れの速度は0.01〜50lmhであり、以下で説明する洗浄に最も好ましい濃度範囲では約0.2L/m・hr(lmh)である。
【0038】
更に、反応に際して酸素気泡が発生するが、酸素気泡が発生すると、洗浄溶液が自発的に攪拌され、洗浄溶液が連続的に更新されるので膜洗浄にとって特に有利である。ガスの発生によって、膜表面に存在するフィルターケーキが破壊されることになる。酸素の発生は、本発明の洗浄方法を相乗効果で(synergistically)向上させるものと考えられる。
【0039】
本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系によって供される浄化の程度としては、実際には、泡立ちが少ないことが証明されている。生物学的プロセスが用いられている膜バイオリアクターでは、微生物が不安定となり得、発泡が多くなってしまう場合がある。しかしながら、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系では、CIPに際して発泡は多くない。特定の理論に拘束されるものではないが、他の洗浄と比べて微生物に加えられる乱れがそれほど激しくないので、微生物の安定化に時間をあまり要さないことに起因しているものと考えられる。
【0040】
洗浄形態(例えば、鉄凝集剤を再利用したり、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系と膜とを接触させるべく静置処理に付したり、あるいは、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系が膜を通るように本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系を一回膜に通過させるたり若しくは循環させたりする等の形態)に関係なく、鉄(II)または鉄(III)の濃度は、同様の幅広い条件を有しており、必要な試薬量の観点から最も好ましくなるように規定されている。
【0041】
廃水の源および本発明の他の要素によっては、塩素およびオゾンは、トリハロメタンなどの不要な化合物を発生させる。本発明の洗浄方法では、トリハロメタンなどが容易に生じないようになっている。それどころか、本発明の洗浄方法は、トリハロメタンなどが存在する場合、そのようなトリハロメタンなどを破壊(または分解)する。
【0042】
典型的には、鉄濃度が300ppm未満のものを用いることができる。15〜20ppmほどの低い鉄濃度が有効であるものの、必要とされる反応時間がより長くなる(例えば24時間を超えるものとなる)。FeSOの好ましい濃度は50〜5000ppmであり、より好ましくは300〜1200ppmである。接触時間は、濾過される供給水の種類に応じて変わる。典型的な洗浄では、接触時間は0.5〜24時間であり、より好ましくは2〜4時間である。
【0043】
過酸化物の濃度は、好ましくは100〜20000ppmであり、より好ましくは400〜10000ppmであり、更に好ましくは1000〜5000ppmである。
【0044】
Fe:Hの比は、好ましくは1:4〜1:7.5であり、より好ましくは1:5〜1:25である。
【0045】
pHは好ましくは2〜6であり、より好ましくは3〜5である。有機物/無機物の「2つ」の洗浄が望ましい場合では、より低いpH値を用いてもよい。2つの洗浄は、あるCIPで必要とされる。2つの洗浄は、無機物ファウリング(または無機汚染物)を除去する酸性洗浄(無機酸による洗浄、または、一般的にはクエン酸等の有機酸による洗浄)と、有機物ファウリング(または有機汚染物)を除去する塩素洗浄との双方を含んでいる。本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系の使用は、単一のプロセスによって酸性洗浄および酸化洗浄の2つを行うことができるので利点を有する。
【0046】
本発明の典型的なレドックス触媒/過酸化物/H系は、pH2において0.12重量%のFeSO濃度を有しており、5000〜9000ppmの過酸化物濃度を有している。
【0047】
の添加速度は、洗浄に際してH当量を加えることで十分である。例えば、4時間で4000ppmのH濃度を得る場合では、1時間当りHを約1000ppm加えることになる。
【0048】
硫酸水素ナトリウム(NaHSO)は、pH制御に用いることができる。NaOHを作用させた硫酸を用いて(硫酸とNaOHとを用いて)、所望のpH値を達成してもよい。塩化物イオンが存在していてもよく、例えばFeClおよびHClの形態で存在していてもよい。pHがより低い場合、HClが気体として発生し得る。
【0049】
pHが所定の範囲内となるのであれば、いずれの種類の酸を用いてもよい。硫酸/硝酸の組合せ、または、硫酸/硫酸水素ナトリウムの組合せが好ましい。pH制御剤としてクエン酸も好ましい。
【0050】
図1には、塩素洗浄と、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系による洗浄との比較を示している。図1は定置洗浄(CIP)を示しているが、塩素洗浄よりも有利な効果が、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系から得られることが分かる。実施した2つの洗浄の操作条件は次の通りである。
【0051】
塩素洗浄
1.500ppmの塩素で30分間洗浄した
2.液体による逆洗を2分間実施した
3.1500ppmの塩素に浸漬させ、断続的な曝気(10分毎に30秒間の曝気、8m/hr)を3時間行った
4.液体による逆洗を2分間実施した
5.排水して再起動した
【0052】
本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系による洗浄
1.断続的な曝気(10秒毎に300秒間の曝気、8m/hr)を行って水道水で15分間洗浄した
2.濾液タンクを水道水、8LのHSO/FeSO溶液(HSO:0.1%、FeSO:0.12%)および5.6Lの過酸化物(〜0.5%)で満たした(pH=2.60)
3.過酸化物は、一定の攪拌を伴ってゆっくりと濾液タンクに加えた
4.曝気を行うことなく、膜をタンク内に仕込んで4時間の浸漬に付した。
5.排水して、ユニットを再起動した
【0053】
使用済みの膜が洗浄されることによって、典型的な廃液供給水を濾過することが可能となった。初期の透過率は、約150lmh/barであった。使用に際しては膜の透過率が予測された通り低下し始め、最終的には、塩素洗浄を行う直前では約120lmh/barとなった。塩素洗浄によって透過率が初期レベルまで回復したものの、使用を再開すると透過率が再び約120lmh/barにまで低下した。この時点において、本発明の洗浄方法を実施した。膜の透過率は、運転開始時の透過率よりも相当良くなり、約200lmh/barとほぼ「新品」と同様な数値となった。従って、本発明の方法は、健康問題または廃棄処理問題を回避しつつ、塩素洗浄よりも相当に好ましい洗浄効果を有するものであることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、塩素洗浄と、本発明のレドックス触媒/過酸化物/H系による洗浄との比較を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密濾過膜または限外濾過膜を洗浄する方法であって、精密濾過膜または限外濾過膜とヒドロキシルラジカルとを接触させる工程を含んで成る洗浄方法。
【請求項2】
バイオファウリングおよび/または有機物ファウリングを精密濾過膜または限外濾過膜から除去する、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
精密濾過膜または限外濾過膜が耐酸化性膜である、請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
精密濾過膜または限外濾過膜が、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、クロロトリフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー、クロロトリフルオロエチレンとエチレンおよび1種以上の他のモノマーとのコポリマー、または、ポリスルホンから形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の洗浄方法。
【請求項5】
クロロトリフルオロエチレンとエチレンとのブレンドがヘイラーである、請求項4に記載の洗浄方法。
【請求項6】
酸性化した過酸化水素、酸性化した有機ペルオキシ酸、または、酸性化した過酸化水素と酸性化された有機ペルオキシ酸との組合せからヒドロキシルラジカルを生成する、請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項7】
有機ペルオキシ酸が過酢酸である、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
酸性化した過酸化水素からヒドロキシルラジカルを生成する、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項9】
過酸化水素を紫外線で処理することによってヒドロキシルラジカルを生成する、請求項8に記載の洗浄方法。
【請求項10】
過酸化水素とオゾンとの組合せによってヒドロキシルラジカルを生成する、請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項11】
酸性条件下において遷移金属(M)イオンの水溶液と過酸化水素とからヒドロキシルラジカルを生成する、請求項1〜9のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項12】
酸性条件下において、キレート化剤を含む錯体として存在する遷移金属(M)イオンの水溶液と過酸化水素とからヒドロキシルラジカルを生成する、請求項1〜9のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項13】
キレート化剤がクエン酸である、請求項12に記載の洗浄方法。
【請求項14】
低いpHにおいてM(n+)および/またはM(n+1)+の水溶液過酸化水素からヒドロキシルラジカルの溶液を調製する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
酸性条件がpH2〜6のpH値である、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
遷移金属が鉄である、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
遷移金属が、モリブデン、クロム、コバルト、銅またはタングステンである、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
遷移金属が、容易に還元/酸化される水性金属イオンまたは錯体である、請求項11〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
(n+)および/またはM(n+1)+が 鉄(II)および/または鉄(III)系である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
鉄(II)および/または鉄(III)系溶液が、第一鉄または第二鉄の化学種から調製される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
遷移金属が触媒的作用を有する、請求項11〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
ヒドロキシルラジカルを含んだ溶液に、精密濾過膜または限外濾過膜を浸漬させる、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
ヒドロキシルラジカルを含んだ溶液が精密濾過膜または限外濾過膜を通るように、ヒドロキシルラジカルを含んだ溶液を通過させる又は循環させる、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
曝気工程を更に含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
洗浄が助力されるように、ヒドロキシルラジカルを含んだ溶液に紫外線を照射することを更に含む、請求項22〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
遷移金属成分、過酸化物成分およびH成分を、精密濾過膜または限外濾過膜の周囲の水に一緒に添加する、請求項11〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
遷移金属成分、過酸化物成分およびH成分を、精密濾過膜または限外濾過膜の周囲の水にそれぞれ別々に直接添加する、請求項11〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
遷移金属が、精密濾過膜または限外濾過膜に送られる供給水に由来するものである、請求項11〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
精密濾過膜または限外濾過膜に送られる供給水に対して鉄(II)または鉄(III)を適当な濃度で加え、供給水を静置処理および沈降処理に付して浄化しており、
沈降処理の後、鉄(II)および/または鉄(III)を含んだ浄化された水を精密濾過膜または限外濾過膜に導入し、pH値を略pH4にまで減じて過酸化物を添加して膜洗浄を実施する、請求項11〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
精密濾過膜または限外濾過膜に送られる供給水に対して鉄(II)または鉄(III)を適当な濃度で加え、供給水を静置処理および沈降処理に付して浄化しており、
沈降処理の後、鉄(II)および/または鉄(III)を含んだ浄化された水のpH値を減じて略pH4にし、過酸化物を添加して得られる溶液を、精密濾過膜または限外濾過膜に導入して膜洗浄を実施する、請求項11〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
酸性化した鉄(II)溶液または鉄(III)溶液と過酸化物とを膜洗浄に用い、膜洗浄の後、鉄(II)または鉄(III)を含んだ使用済みの洗浄溶液を更に水濾過に用いる、請求項11〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
鉄(II)または鉄(III)を含んだ使用済み洗浄溶液を新たな供給水に加える、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
鉄(II)または鉄(III)を含んだ使用済み洗浄溶液をリンの除去に用いる、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
鉄(II)または鉄(III)を含んだ使用済み洗浄溶液を凝集剤として用いる、請求項31〜33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
所定の洗浄レベルが得られるように、精密濾過膜または限外濾過膜とヒドロキシルラジカルとの接触時間を選択する、請求項1〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
所定の膜間圧の降下によって所定の洗浄レベルを把握する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
所定のヒドロキシルラジカル濃度によって所定の洗浄レベルを把握する、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
バッチ式で行う、請求項1〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
連続式で行う、請求項1〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
精密濾過膜または限外濾過膜が中空糸繊維膜である、請求項1〜39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
反応に際して生じる酸素気泡によって、液体を垂直な中空糸繊維膜の壁内へと移動させ、ルーメンの上部から水を押し出す、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
酸素気泡が、ヒドロキシルラジカルを含んだ溶液を自発的に攪拌するように作用し、および/または、精密濾過膜または限外濾過膜の表面にフィルターケーキが存在する場合、そのフィルターケーキを破壊するように作用する、請求項1〜41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
膜バイオリアクターで用いる、請求項1〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
トリハロメタン等が存在する場合、かかるトリハロメタン等を分解する、請求項1〜43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
15〜5000ppm濃度の遷移金属イオンを用いる、請求項11〜44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
300〜1200ppm濃度の遷移金属イオンを用いる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
精密濾過膜または限外濾過膜とヒドロキシルラジカルとの接触時間が0.5〜24時間である、請求項1〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
精密濾過膜または限外濾過膜とヒドロキシルラジカルとの接触時間が2〜4時間である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
過酸化物濃度が100〜20000ppmである、請求項6〜48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
過酸化物濃度が400〜10000ppmである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
過酸化物濃度が1000〜5000ppmである、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
遷移金属:Hの比が、1:4〜1:7.5である、請求項11〜51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
遷移金属:Hの比が、1:5〜1:25である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
遷移金属/過酸化物/H系が、pH2にて0.12重量%のFeSO初期濃度および5000ppm〜9000ppmの過酸化物濃度を有する、請求項11〜53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
pH制御に硫酸水素ナトリウムを用いる、請求項1〜54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
pH制御にクエン酸を用いる、請求項1〜54のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
NaOHを作用させた硫酸によってpH制御を行う、請求項1〜54のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−508093(P2008−508093A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524134(P2007−524134)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001157
【国際公開番号】WO2006/012691
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(501121646)ユー・エス・フィルター・ウェイストウォーター・グループ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】U.S. Filter Wastewater Group, Inc.
【Fターム(参考)】