説明

膜厚測定方法

【課題】簡易な構成で、高精度かつ短時間の薄膜の膜厚測定と異常値検出を可能とする薄膜の膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】X線回折装置を用いて、評価試料の最上層の膜厚を測定する方法であって、X線回折装置以外の膜厚測定方法を用いて、標準試料の膜厚基準値を測定する基準値測定ステップと、前記標準試料のX線回折強度分布から検出された特徴量と、前記膜厚基準値とを対応付けた校正情報10をあらかじめ生成する校正情報生成ステップと、評価試料のX線回折強度分布を取得する分布取得ステップS100と、前記分布取得ステップS100で取得されたX線回折強度分布から特徴量を検出する特徴量検出ステップS101と、前記特徴量検出ステップS101で検出された特徴量と、前記校正情報10とから前記評価試料の最上層の膜厚を算出する膜厚算出ステップS106とを備えたことを特徴とする膜厚測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定方法に関し、特に多層膜構造を形成する半導体の膜厚を高速、高精度に測定する膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SOI基板やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)製造において、半導体基板の張り合わせ技術に注目が集まっている。この張り合わせ技術では、結晶面方位(100)を有するシリコンおよび結晶面方位(110)を有するシリコンを直接、もしくは絶縁層を介して張り合わせるHOT(Hybrid Crystal Orientation Technology)基板を用いたCMOS開発が活発になっている。このように、異なる材料を多層構造に形成する基板技術においては多層膜の膜厚が重要な品質管理特性となっている。
【0003】
従来、膜厚測定の方法としては、分光エンプソメトリ法や反射分光法が挙げられる。これらの方法では、薄膜の結晶構造や表面状態によって反射光、透過光、屈折光の状態がおのおの変化するため、薄膜への入射光の波長と出射光の屈折率、透過率および反射率との関係から相関式や相関係数を算出する必要があり、膜厚測定にかなりの時間を要することが問題となっていた。また、透過型電子顕微鏡(Transmittance Electro Microscopy)を用いる場合、測定試料を破壊しなければならない。更に、上記の方法では、主に波長1000nm以下の光源を用いて測定を行う。しかし、多層膜の測定対象膜厚が1μm以上となる厚い膜を測定する場合、770nm以下の可視光域の吸収係数が大きいため、測定が困難となる。この問題に対し、X線回折法を使用する測定方法が公知であるが、薄膜の結晶構造に凹凸があり平滑でないことから、十分な膜厚測定精度を得られるX線回折強度を検出することが困難であるため、特許文献1、2、3に示される技術が開示されている。
【0004】
特許文献1では、測定精度上十分なX線回折強度を得るために、4種類のX線を用いてそれぞれのX線回折強度を測定し、相補的に測定値を算出することにより、膜厚の測定対象レンジを幅広く取ることを可能とする技術が開示されている。また、特許文献2では、薄膜上に平坦化層を形成した後に、X線回折法により平坦化層を含めた薄膜の膜厚を測定し、平坦化層の膜厚分補正するという技術が開示されている。また、特許文献3では、薄膜によるX線回折強度を検出するX線検出器を所定の角度範囲にわたって走査することによって、結晶構造により発生する測定精度不足を解消するという技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−27550号公報
【特許文献2】特開平5−256636号公報
【特許文献3】特開平5−113322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、4種類のX線を使用すると言う点で構成が複雑となり、コストアップとなる。また、特許文献2においては、膜厚測定のために平坦化層を形成してしまうと、上に重ねて膜形成を行うことが不可能となる。また、特許文献3においては、統計的な近似式を求めることから、かなりの測定時間を要する。このように、従来開示されているこれらの技術では、複雑な構成で大きなコストアップを必要としたり、かなり膜厚の測定時間が長くなったり、測定時間が長いためにX線の照射量が変動してしまい、測定精度が低下するというように、膜厚測定を実行するためのコスト、測定時間および測定精度をすべて満足する薄膜の測定方法がないという問題があった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、多層構造を形成する半導体基板上の薄膜の膜厚測定にあたって簡易な構成で、高速かつ高精度の薄膜の膜厚測定を可能とする膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し目的を達成するために、本発明にかかる膜厚測定方法は下記の通り構成されている。
【0009】
(1)本発明にかかる膜厚測定方法は、X線回折装置を用いて、多層膜構造を有する評価試料の最上層の膜厚を測定する方法であって、X線回折装置以外の膜厚測定方法を用いて、標準試料の膜厚基準値を測定する基準値測定ステップと、前記標準試料へのX線照射角度を走査してX線回折強度分布を取得し該X線回折強度分布から検出された特徴量と、前記標準試料の前記膜厚基準値とを対応付けた校正情報をあらかじめ生成する校正情報生成ステップと、評価試料へのX線照射角度を走査してX線回折強度分布を取得する分布取得ステップと、前記分布取得ステップで取得されたX線回折強度分布から特徴量を検出する特徴量検出ステップと、前記特徴量検出ステップで検出された特徴量と、前記校正情報とから前記評価試料の最上層の膜厚を算出する膜厚算出ステップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
(2)上記(1)に記載の膜厚測定方法において、前記特徴量は、前記X線回折強度分布の最大値もしくは積分値のうちいずれかであることが望ましい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に記載の膜厚測定方法において、前記膜厚基準値は、透過型電子顕微鏡もしくは分光エンプソメトリ法のうちいずれかにより測定された膜厚であることが望ましい。
【0012】
(4)上記(1)ないし(3)に記載の膜厚測定方法において、前記標準試料は、前記X線回折装置内に保持されることが望ましい。
【0013】
(5)上記(1)ないし(4)に記載の膜厚測定方法において、前記標準試料および前記評価試料は、HOT(Hybrid Crystal Orientation Technology)基板、もしくはSOI(Silicon On Insulator)基板のうちいずれかであって、前記最上層は、シリコン(Si)の(100)、もしくは(110)のうちいずれかの結晶面方位を有することが望ましい。
【0014】
(6)上記(1)ないし(5)に記載の膜厚測定方法において、前記評価試料に照射される前のX線強度を検出し、該X線強度により前記特徴量検出ステップで検出された特徴量を補正することが望ましい。
【0015】
(7)上記(1)ないし(6)に記載の膜厚測定方法において、前記最上層の膜厚は、10nm以上であることが望ましい。
【0016】
(8)上記(2)に記載の膜厚測定方法において、前記分布取得ステップで取得された前記評価試料のX線回折強度分布から角度半値幅もしくは角度立ち上がり幅のうちいずれかを検出し前記評価試料の結晶性を評価することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
多層構造を形成する薄膜のX線回折強度分布から決定された特徴量と、透過型電子顕微鏡(TEM)もしくは分光エンプソメトリ法による膜厚基準値とを対応付けた校正情報を記憶し、膜厚測定時にX線回折強度分布から得られた特徴量と校正情報から膜厚を算出することにより、簡易な構成で、高速かつ高精度の膜厚測定と異常値検出を可能とする薄膜の膜厚測定方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明にかかる薄膜の膜厚測定方法についての実施の形態につき、添付図面に基づき説明する。
【0019】
(第一の実施の形態)
以下、第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法について詳細に説明する。図1は、第一の実施の形態にかかるX線回折装置1の光学系概要図である。X線回折装置1は、半導体基板上に形成した評価試料の膜厚を測定する装置であり、X線源2と、モノクロメータ3と、試料4と、シンチレーションカウンタ5と、スリット6と、スリット7と、アブソーバ8と、試料回転モータ9とを備えている。
【0020】
X線源2は、基板上の評価試料にX線を放射する光源である。例えば、X線発生源のターゲットは銅(Cu)を使用する。モノクロメータ3は、X線源2から放射されたX線を単一波長に分光する分光器であり、例えば、分光結晶等が使用される。
【0021】
試料4は、膜厚測定対象の評価試料である。試料4は、例えば、多層膜の結晶構造を有するシリコン(以下、Siと記載する)、もしくはゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)等の半導体を対象とする。第一の実施の形態においては、結晶面方位(110)、(220)および(440)のSiを膜厚測定対象として実施の形態を説明している。第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法は、試料4の最上層の膜厚が10nm以上でより有効となる。
【0022】
試料回転モータ9は、試料4に照射されるX線の照射角度を走査するための駆動モータである。試料4のX線回折強度の測定時に、試料4に対するX線の照射角度が広範囲に渡って走査するように、試料4を図1のA方向に回転駆動する。試料4へのX線照射角度を走査(オメガスキャン)することにより、X線の照射方向に対する試料4の結晶面方位の向きを変更し、X線の照射角度依存性を把握するデータが得られる。このデータをX線回折強度分布と称する。X線回折強度分布を定量化することが、試料4の最上層の結晶構造を把握し評価試料の膜厚測定につながる。
【0023】
シンチレーションカウンタ5は、試料4によるX線回折強度を検出するために、X線の放射量を計測するものである。シンチレーションカウンタ5は、X線のような微弱な電気信号を捉えるのに使用される検出器であり、例えば、X線に反応する蛍光物質と、蛍光物質から発生された微弱な光電子を検出する光電子増倍管と、から構成される。
【0024】
スリット6、7は、X線源2から放射されたX線を集束させた状態で試料4に照射させるための光学部材である。
【0025】
アブソーバ8は、シンチレーションカウンタ5でX線の回折強度を測定する前に、シンチレーションカウンタ5に入射するX線を測定レンジ上適切な範囲内に減衰させる強度調節機能を有する。多くの場合、アルミ箔が使用される。
【0026】
図2は、第一の実施の形態にかかるX線回折装置1のブロック図である。図2において、X線回折装置1は、上述のシンチレーションカウンタ5に加えて、コリレーションテーブル10と、コリレーション部11と、データ算出部12と、データ出力部13と、測定制御部14とを備えている。
【0027】
コリレーション部11は、コリレーションテーブル10に記述される校正情報を管理するものであり、コリレーションテーブル10からX線回折強度分布の最大値と膜厚基準値を対応付けた校正情報を読み出す、もしくは校正情報を記述するコリレーションテーブル10をあらかじめ生成する機能を有する。コリレーションテーブル10の生成に関しては、測定操作者が手動で校正情報を入力する構成、もしくは測定の基準となる標準試料のX線回折強度分布を取得し自動作成する構成のいずれでもよい。
【0028】
データ算出部12は、X線回折強度分布の最大値と膜厚基準値を対応付けた校正情報と、シンチレーションカウンタ5から入力されたX線回折強度分布の最大値から、評価試料の膜厚を算出する数値演算機能を有する。具体的な構成としては、主にCPU(Central Processing Unit)と演算プログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)等を有する。
【0029】
データ出力部13は、データ算出部12で算出された評価試料の膜厚をディスプレイ表示、もしくはプリント出力するためのデータ出力機能を有する。
【0030】
測定制御部14は、シンチレーションカウンタ5、コリレーション部11、データ算出部12、データ出力部13に動作指示を出し、X線回折装置1全体の動作を制御する機能を有する。具体的な構成としては、主にCPU(Central Processing Unit)と動作制御プログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)等を有し、上記各要部の信号制御を担うものである。なお、測定制御部14が、コリレーション部11およびデータ算出部12の代わりに、それらの情報読み出し機能および数値演算機能を代行するような構成でもかまわない。この場合、コリレーション部11およびデータ算出部12は不要となる。
【0031】
コリレーションテーブル10は、標準試料のX線回折強度分布の最大値と、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと記載する)もしくは分光エンプソメトリ法による膜厚基準値を対応付けた校正情報を異なる結晶構造毎にあらかじめ記憶しているルックアップテーブルである。図3は、第一の実施の形態にかかるX線回折装置1のコリレーションテーブル10の記憶構造を示す説明図である。コリレーションテーブル10は、データNO.と、X線回折強度分布の最大値と、膜厚基準値とをテーブル内に備えている。また、コリレーションテーブル10の具体的な記憶媒体は、所定の記憶容量を有するDRAM(Direct Random Access Memory)もしくはハードディスク等である。
【0032】
以下、コリレーションテーブル作成方法を詳細に説明する。標準試料へのX線照射角度を走査してX線回折強度分布を取得し該X線回折強度分布から最大値を検出する。一方、膜厚基準値は、TEMもしくは分光エンプソメトリ法を用いて測定する。なお、TEMによる膜厚測定の場合、標準試料の断面画像上10ポイント程度膜厚を測定し、位置バラツキを軽減するように平均値を求める。また、分光エンプソメトリ法は、直線偏光を標準試料に斜め入射させることで楕円偏光された反射光を得て楕円偏光の形状を解析することにより、標準試料の膜厚基準値を測定する方法である。
【0033】
上記標準試料は、例えば、膜厚が10〜5000nmの間で変化している最上層(活性層)Si(110)および775nmの厚さを有する基板Si(100)からなる直接貼り合わせによるHOT基板を準備する。これら基板の最上層のSi(110)結晶面と、その下層に位置するSi(220)結晶面もしくはSi(440)結晶面によるX線回折強度分布を採取する。一方、膜厚は、TEMによる膜厚基準値を用いる。図4は、最上層Si結晶面のX線回折強度分布の最大値とTEMによる断面膜厚測定値の関係を示すグラフである。図4において、横軸は各Si結晶面のX線回折強度分布の最大値を示しており、縦軸は同一Si結晶面のTEMによる断面膜厚測定値を示している。マーク(△)は、Si(440)結晶面のアブソーバなし条件のデータを示している。また、マーク(○)は、Si(220)結晶面のアブソーバあり条件のデータを示している。また、マーク(□)は、Si(220)結晶面のアブソーバなし条件のデータを示している。
【0034】
図5は、図4に示すグラフ横軸のX線回折強度の低い領域を拡大して示したグラフである。X線の吸収により、最上層の膜厚が厚くなるにつれて、その曲線の傾きが変化する。しかし、例えば最上層が1μmのような厚い評価試料に関しては、X線入射角度が大きくX線が基板深くまで到達するSi(440)結晶面回折を用いれば、高い線形性の曲線に基づいて膜厚算出が可能であり、高い測定精度が期待できる。また、アブソーバ8をX線光路中に設けたことにより、アブソーバあり条件のマーク(○)は、アブソーバなし条件のマーク(□)を図5の横軸方向に減衰させたデータとなる。アブソーバ8なし条件のマーク(□)ではオーバーレンジとなっているデータもあるが、アブソーバ8あり条件のマーク(○)では多くのデータがグラフレンジ内に入ってきている。一方、結晶面方位(440)薄膜では、アブソーバ8無し条件でもX線回折強度が比較的低いため、多くのデータがレンジ内に入っている。このように、測定対象の結晶面の特性に応じてアブソーバ8の使用もしくは不使用を使い分け、膜厚の測定条件を最適化する。このように、図4および図5のグラフから所定数のデータを抜き出し上述のコリレーションテーブル10を作成する。
【0035】
以下、X線回折強度による膜厚測定手順を詳細に説明する。図6は、第一の実施の形態にかかる膜厚測定手順を示すフローチャートである。最初に、コリレーション部11は、シンチレーションカウンタ5からX線回折強度を入力しX線回折強度分布を取得する(ステップS100)。コリレーション部11は、X線回折強度分布から最大値Imaxを検出する(ステップS101)。コリレーション部11はコリレーションテーブル10内で最大値Imaxを検索する(ステップS102)。検索の結果、最大値Imaxに一致する値があれば(ステップS103:Yes)、コリレーション部11はコリレーションテーブル10上の膜厚値読み出しを指示する(ステップS104)。
【0036】
一方、最大値Imaxに一致する値がなければ(ステップS103:No)、コリレーション部11はコリレーションテーブル10上の値からI1<最大値Imax<I2となるデータ補間値I1、I2を読み出し、データ算出部12に送信する(ステップS105)。データ算出部12は、データ補間値I1、I2と最大値Imaxから膜厚値Dを算出しデータ出力部13に送信する(ステップS106)。データ出力部13は、膜厚値Dをデータ表示もしくはプリント出力する(ステップS107)。
【0037】
なお、ステップS106における膜厚値Dの算出に関しては、例えば、従来公知の線形補間、最小二乗法、多次元回帰等の算出方法が考えられるが、いかなる方法を用いても第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法の技術の可否に影響するものではない。ここで、算出例として線形補間を用いれば、下記の(1)式に従って膜厚値Dが算出可能である。但し、X線回折強度I1、I2の時、コリレーションテーブル10上の膜厚基準値をそれぞれD1、D2とする。
D=(D1−D2)・Imax/(I1−I2) (1)
【0038】
【表1】

以下、上述のごとくX線回折強度分布の最大値から算出される測定膜厚と、TEMによる膜厚基準値との測定値を比較すると、表1のようになる。表1は、図4および図5に図示したSi(440)結晶面のアブソーバなし条件、Si(220)結晶面のアブソーバあり条件、Si(220)結晶面のアブソーバなし条件の3種のデータを表記している。表1に示すように、各結晶面の測定膜厚とTEMによる膜厚基準値の誤差は±3%以下であり、高精度の膜厚測定を可能とすることを実証している。また、上述した膜厚の測定には、複雑な解析が不要であるため1ポイント10秒以下の短時間で測定可能であり、評価試料の面内100ポイント測定で約10分という高速測定を可能とする。
【0039】
評価試料が上述のコリレーションテーブル10作成に使用したごとく比較的結晶の乱れがない結晶構造を有している場合、上述の膜厚測定方法により高精度の膜厚測定が可能となる。しかし、積層欠陥がある場合や一部領域に凹凸が存在する結晶構造の場合、膜厚測定上異常値が発生する可能性がある。第一の実施の形態においては、図6のステップS100で取得されたX線回折強度分布から試料4の角度半値幅もしくは角度立ち上がり幅のうちいずれかを用いて上述のような膜厚測定の異常値を検出することが可能である。
【0040】
以下、膜厚測定の異常値検出に関する実施例1を詳細に説明する。図7は、異なる結晶面2種の膜厚測定の異常値検出に関する実施例1を説明するグラフである。結晶面1は、比較的結晶の乱れがなく、ある所定の角度にX線回折強度ピークを有する。一方、結晶面2は、結晶面1よりも結晶の乱れがあるため結晶面1よりも小さなX線回折強度ピークを有する。このような結晶面1と結晶面2に対して最大値による膜厚測定を行った場合、結晶面2は実際の膜厚とは異なる異常値となる。結晶面2は、結晶面1のX線回折強度分布の角度半値幅0.043よりも広い半値幅0.048を有する。従って、図7に示す実施例1の場合、X線回折強度分布の角度半値幅により異常値を検出すれば膜厚測定法としてより有効である。
【0041】
また、膜厚測定の異常値検出に関する実施例2を詳細に説明する。図8は、異なる結晶面2種の膜厚測定の異常値検出に関する実施例2を説明するグラフである。結晶面3は、比較的結晶の乱れがなく、ある所定の角度にX線回折強度ピークを有する。一方、結晶面4は、結晶面1と同等のX線回折強度ピークを有するが、ピークへの立ち上がりが急激である。このような結晶面3と結晶面4に対して最大値による膜厚測定を行った場合、結晶面4は実際の膜厚とは異なる異常値となる。結晶面4は、結晶面3のX線回折強度分布の角度立ち上がり幅F1よりも狭い立ち上がり幅F2を有する。従って、図8に示す実施例2の場合、X線回折強度分布の角度立ち上がり幅により異常値を検出すれば膜厚測定法としてより有効である。
【0042】
上述したように、第一の実施の形態にかかるX線回折装置1によれば、結晶面1、結晶面2、結晶面3もしくは結晶面4のように異なる結晶面を有する評価試料の膜厚を測定する場合、評価試料のX線回折強度分布から角度半値幅、もしくは角度立ち上がり幅のうちいずれかを検出することにより、膜厚測定の異常値を検出することが可能となる。このような膜厚測定の異常値検出は、特に製造ラインにおいて製品の異常を検出するようなケースで有効である。
【0043】
以上述べたように、第一の実施の形態によれば、複数の標準試料によるX線回折強度分布の最大値と、TEMもしくは分光エンプソメトリ法による膜厚基準値とを対応付けたコリレーションテーブルを記憶し、評価試料のX線回折強度分布から最大値、角度半値幅もしくは角度立ち上がり幅を検出することにより、簡易な構成で、高速かつ高精度の膜厚測定と異常値検出を可能とする膜厚測定方法を提供する。
【0044】
(第二の実施の形態)
以下、第二の実施の形態を詳細に説明する。第二の実施の形態が、第一の実施の形態と異なる点は、コリレーションテーブル15に記憶される特徴量である。コリレーションテーブル15は、X線照射角度を走査されたX線回折強度分布の積分値と、前述のTEMによる膜厚基準値とを対応付けた校正情報を記憶しているルックアップテーブルである。なお、コリレーションテーブル15以外の構成要素については、第一の実施の形態にかかるX線回折装置と同様であるため、説明を省略する。
【0045】
図9は、第二の実施の形態にかかるX線回折装置16のブロック図である。図9において、X線回折装置16は、コリレーションテーブル15を備えており、その他の構成要素およびその動作は第一の実施の形態と同様であり、説明を省略する。図10は、第二の実施の形態にかかるコリレーションテーブル15の記憶構造を示す説明図である。コリレーションテーブル15は、標準試料のX線回折強度分布の積分値とTEMによる膜厚基準値を対応付けた校正情報を異なる結晶面毎に記憶している。コリレーションテーブル15からデータを読み出し、膜厚値を算出する動作は、第一の実施の形態にかかるX線回折装置1と同様の測定手順であるため、説明を省略する。
【0046】
まず、評価試料として、例えば、膜厚が300nm程度の最上層Si(110)および775nmの厚さを有する基板Si(100)からなる直接貼り合わせによるHOT基板(結晶面6)を準備する。このHOT基板最上層の表層約100nmには、HOT基板作成時に挿入された積層欠陥が多く存在する。このような試料を測定する場合、積層欠陥による最上層に歪みが生じており、この結晶の乱れがX線回折強度のピークの低下を引き起こす。上記HOT基板に対して1200℃、1時間、アルゴン(Ar)雰囲気という処理を施し、結晶面6の積層欠陥を除去した試料を準備した(結晶面5)。図11は、第二の実施の形態にかかるX線回折装置16において角度走査したX線回折強度分布を示すグラフである。図11は、2種の結晶面に対するX線照射角度とX線回折強度の関係を示している。結晶面5は、比較的結晶の乱れがなく、ある所定の角度にX線回折強度ピークを有する。一方、結晶面6は、結晶面5よりも最上層に歪みが多いため結晶面5よりも小さなX線回折強度ピークを有する。結晶面5と結晶面6の膜厚を測定する場合、X線回折強度分布から検出した積分値G1、G2を特徴量とする。積分値を採用することにより、図11のように結晶構造の異なる結晶面5と結晶面6の膜厚を測定する場合においても、積層欠陥の影響を考慮した高精度の膜厚測定が可能となる。
【0047】
以上述べたように、第二の実施の形態によれば、複数の標準試料のX線回折強度分布から検出した積分値と、TEMもしくは分光エンプソメトリ法による膜厚基準値とのコリレーションテーブルを記憶し、評価試料のX線回折強度分布から検出した積分値とコリレーションテーブルから膜厚値を算出することにより、簡易な構成で、積層欠陥の影響を考慮した高速かつ高精度の膜厚測定を可能とする膜厚測定方法を提供する。
【0048】
(第三の実施の形態)
以下、第三の実施の形態を詳細に説明する。第三の実施の形態が、第一の実施の形態と異なる点は、試料支持台21が備えられ、試料支持台21上に試料4と校正用基板22が備え付けられている点である。図12は、第三の実施の形態にかかるX線回折装置20の光学系概要図である。X線回折装置20は、半導体基板上に形成した評価試料の膜厚測定を行う装置であり、X線源2と、モノクロメータ3と、試料4と、シンチレーションカウンタ5と、スリット6と、スリット7と、アブソーバ8と、試料回転モータ9と、試料支持台21と、校正用基板22を備えている。第一の実施の形態と同じ符号は同じ構成要素を示し、詳細の説明を省略する。
【0049】
試料支持台21は、試料4と、校正用基板22を保持しており、校正時には校正用基板22をX線照射光路に、測定時には試料4をX線照射光路に、B方向に移動する構成となっている。また、校正用基板22は、X線回折装置20内に設置される前に、X線回折強度分布の最大値とTEMによる膜厚基準値をあらかじめ測定された結晶構造既知の試料である。第三の実施の形態においては、校正用基板22は、HOT(Hybrid Crystal Orientation Technology)基板、もしくはSOI(Silicon On Insulator)基板のうちいずれかであって、その最上層は、シリコン(Si)の(100)、もしくは(110)のうちいずれかの結晶面方位を含んでいれば、膜厚測定を含む結晶性の評価に有効である。なお、その場合、試料4は、校正用基板22と同様の基板を使用することが好ましい。
【0050】
図13は、第三の実施の形態にかかるX線回折装置20のブロック図である。図13において、X線回折装置20は、シンチレーションカウンタ5と、コリレーションテーブル23と、コリレーション部24と、データ算出部25と、データ出力部26と、測定制御部27とを備えている。
【0051】
また、測定制御部27は、測定制御部14と同様であり、シンチレーションカウンタ5、コリレーション部24、データ算出部25、データ出力部26に動作指示を出し、X線回折装置20全体の動作を制御する機能を有する。具体的な構成としては、主にCPU(Central Processing Unit)と動作制御プログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)等を有し、上記各要部の信号制御を担うものである。
【0052】
コリレーション部24は、コリレーション部11と同様であり、コリレーションテーブル23に記憶されたX線回折強度分布の最大値と膜厚基準値を対応付けた校正情報を読み出す、もしくは校正情報を記述するコリレーションテーブル23をあらかじめ生成する機能を有する。コリレーションテーブル23の生成に関しては、測定操作者が手動で校正用基板22と標準試料の校正情報を入力する構成、もしくは校正用基板22と標準試料のX線回折強度分布を取得し自動作成する構成のいずれでもよい。データ算出部25は、データ算出部12と同様であり、測定対象の試料4の膜厚を算出する機能を有する。データ出力部26は、データ出力部13と同様であり、データ算出部25で算出された試料4の膜厚をディスプレイ表示、もしくはプリント出力する。
【0053】
コリレーションテーブル23は、X線回折強度分布の最大値とTEMによる膜厚基準値とを対応付けた校正情報を記憶しているルックアップテーブルである。図14は、第三の実施の形態にかかるX線回折装置20のコリレーションテーブル23の記憶構造を示す説明図である。さらに、コリレーションテーブル23は、X線回折装置20内に設置された校正用基板22のX線回折強度分布の最大値とTEMによる膜厚基準値を対応付けて記憶している。図14において、NO.1は校正用基板22のデータ(Imem、Tmem)である。具体的な記憶媒体としては、所定の容量を有するDRAM(Direct Random Access Memory)等で構成される。
【0054】
以下、第三の実施の形態にかかるX線回折装置20の膜厚測定手順を詳細に説明する。図15は、第三の実施の形態にかかるX線回折装置20の膜厚測定手順を示すフローチャートである。最初に、コリレーション部24はシンチレーションカウンタ5から校正用基板22のX線回折強度を入力しX線回折強度分布を取得する(ステップS200)。コリレーション部24は校正用基板22のX線回折強度分布から最大値Icorを検出する(ステップS201)。コリレーション部24はコリレーションテーブル23上の記憶値Imemと最大値Icorから補正項Imem/Icorを算出して記憶する(ステップS202)。
【0055】
続いて、コリレーション部24はシンチレーションカウンタ5から試料4のX線回折強度を入力しX線回折強度分布を取得する(ステップS203)。コリレーション部24は試料4のX線回折強度分布から最大値Imaxを検出する(ステップS204)。適正値Imax・(Imem/Icor)を算出する(ステップS205)。コリレーション部24はコリレーションテーブル23内で適正値Imax・(Imem/Icor)を検索する(ステップS206)。検索の結果、適正値Imax・(Imem/Icor)に一致する値があれば(ステップS206:Yes)、コリレーション部24はコリレーションテーブル23上の膜厚値読み出しを指示する(ステップS207)。
【0056】
一方、適正値Imax・(Imem/Icor)に一致する値がなければ(ステップS206:No)、コリレーション部24はコリレーションテーブル23上の値からI3<Imax・(Imem/Icor)<I4となるデータ補間値I3、I4を読み出し、データ算出部25に送信する(ステップS208)。データ算出部25は、データ補間値I3、I4とImax・(Imem/Icor)から膜厚値Dを算出しデータ出力部26に送信する(ステップS209)。データ出力部26は、膜厚値Dをデータ表示もしくはプリント出力する(ステップS210)。
【0057】
なお、ステップS209における膜厚値Dの算出に関しては、第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法と同様の考え方に補正項Imem/Icorを加えて、膜厚Dを算出可能である。第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法と同様、算出方法にいかなる方法を用いても第三の実施の形態にかかる膜厚測定方法の技術の可否に影響するものではない。
【0058】
ここで、第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法と同様、算出例として線形補間を用いれば、第一の実施の形態にかかる数式(1)を下記(2)式のように変形する。但し、X線回折強度I3、I4は、I3<Imax・(Imem/Icor)<I4となるコリレーションテーブル23上の値である。I3、I4に対応付けられたコリレーションテーブル23上の膜厚値をそれぞれD3、D4とする。
D=(D3−D4)・Imax・(Imem/Icor)/(I3−I4) (2)
なお、第三の実施の形態においては、校正用基板22が1枚の構成を詳細に説明したが、1枚に限定するものではない。複数枚の校正用基板を装置内に備え、さらに測定精度を向上する構成も可能である。
【0059】
また、シンチレーションカウンタ5から入力したX線回折強度分布を上述の補正項Imem/Icorで補正し、補正されたX線回折強度分布から角度半値幅、もしくは角度立ち上がり幅を検出することにより、第一の実施の形態と同様の異常値検出機能を提供することが可能となる。
【0060】
以上述べたように、第三の実施の形態によれば、校正用基板を含む複数の標準試料におけるX線回折強度分布の最大値とTEMによる膜厚基準値を対応付けたコリレーションテーブルを記憶した上で、測定時に校正用基板のX線回折強度分布の最大値から補正項を算出し評価試料のX線回折強度分布の最大値、補正項およびコリレーションテーブルから膜厚値を算出することにより、様々な評価試料に対して簡易な構成で、X線源およびX線検出器の変動による測定誤差を低減し高速かつ高精度の膜厚測定と異常値検出を可能とする膜厚測定方法を提供する。
【0061】
(第四の実施の形態)
以下、第四の実施の形態にかかる膜厚測定方法を詳細に説明する。第四の実施の形態にかかるX線回折装置30が第一の実施の形態と異なる点は、試料4にX線が照射される前の光路にX線モニタセンサ31が備えられている点である。第四の実施の形態においては、試料4に照射される前のX線強度を検出し、該X線強度により試料4のX線回折強度分布から検出された最大値を補正する。
【0062】
図16は、第四の実施の形態にかかるX線回折装置30の光学系概略図である。図16において、X線回折装置30は、半導体基板上に形成した評価試料の膜厚測定を行う装置であり、X線モニタセンサ31と、X線源2と、モノクロメータ3と、試料4と、シンチレーションカウンタ5と、スリット6と、スリット7と、アブソーバ8と、試料回転モータ9とを備えている。X線モニタセンサ31は、試料4にX線が照射される前の光路上に設けられており、試料4へ照射される前のX線直接強度を検出するものである。X線モニタセンサ31は、例えば、X線計数比例管、半導体計数管、シンチレーションカウンタを使用する。第一の実施の形態と同じ符号は同じ要素を示し、詳細の説明を省略する。
【0063】
図17は、第四の実施の形態にかかるX線回折装置30のブロック図である。図17において、X線回折装置30は、シンチレーションカウンタ5と、X線モニタセンサ31と、コリレーションテーブル32と、コリレーション部33と、データ算出部34と、データ出力部35と、測定制御部36とを備えている。
【0064】
コリレーションテーブル32は、コリレーションテーブル10と同様であり、X線回折強度分布の最大値とTEMもしくは分光エンプソメトリ法による膜厚基準値とを対応付けた校正情報を記憶しているルックアップテーブルである。具体的な記憶媒体としては、所定の容量を有するDRAM(Direct Random Access Memory)等で構成される。
【0065】
図18は、第四の実施の形態にかかるX線回折装置30のコリレーションテーブル32の記憶構造を示す説明図である。コリレーションテーブル32は、コリレーションテーブル10と同様、X線回折強度分布の最大値と膜厚値が対応付けて記憶されており、更にこれらの測定を行った際のX線直接強度Xmemが記憶されている。
【0066】
コリレーション部33は、コリレーション部11と同様であり、コリレーションテーブル32に記憶されたX線回折強度分布の最大値と膜厚基準値を対応付けた校正情報を読み出す、もしくは校正情報を記述するコリレーションテーブル32をあらかじめ生成する機能を有する。コリレーションテーブル32の生成に関しては、測定操作者が手動で校正情報を入力する構成、もしくは測定の基準となる標準試料のX線回折強度分布を取得し自動作成する構成のいずれでもよい。データ算出部34は、データ算出部12と同様であり、測定対象の評価試料の膜厚を算出する機能を有する。データ出力部35は、データ出力部13と同様であり、データ算出部34で算出された評価試料の膜厚をディスプレイ表示、もしくはプリント出力する機能を有する。
【0067】
また、測定制御部36は、測定制御部14と同様であり、シンチレーションカウンタ5、X線モニタセンサ31、コリレーション部33、データ算出部34、データ出力部35に動作指示を出し、X線回折装置30全体の動作を制御する機能を有する。具体的な構成としては、主にCPU(Central Processing Unit)と動作制御プログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)等を有し、上記各要部の信号制御を担うものである。
【0068】
以下、第四の実施の形態にかかる膜厚測定手順を詳細に説明する。図19は、第四の実施の形態にかかる膜厚測定手順を示すフローチャートである。最初に、コリレーション部33は、X線モニタセンサ31から試料4にX線が照射される前のX線直接強度Xmeaを入力する(ステップS300)。コリレーション部33は、コリレーションテーブル32に記憶されたX線直接強度XmemとXmeaから、補正項Xmem/Xmeaを算出する(ステップS301)。コリレーション部33は、補正項Xmem/Xmeaを記憶する(ステップS302)。
【0069】
続いて、コリレーション部33は、シンチレーションカウンタ5から試料4のX線回折強度を入力しX線回折強度分布を取得する(ステップS303)。コリレーション部33は、X線回折強度分布から最大値Imaxを検出する(ステップS304)。コリレーション部33は、適正値Imax・(Xmem/Xmea)を算出する(ステップS305)。コリレーション部33は、適正値Imax・(Xmem/Xmea)をコリレーションテーブル32で検索する(ステップS306)。検索の結果、適正値Imax・(Xmem/Xmea)に一致する値があれば(ステップS307:Yes)、コリレーション部33はコリレーションテーブル32上の膜厚値読み出しを指示する(ステップS308)。
【0070】
一方、適正値Imax・(Xmem/Xmea)に一致する値がなければ(ステップS307:No)、コリレーション部33はコリレーションテーブル32上の値からI5<Imax・(Xmem/Xmea)<I6となるデータ補間値I5、I6を読み出し、データ算出部34に送信する(ステップS309)。データ算出部34は、データ補間値I5、I6と適正値Imax・(Xmem/Xmea)から膜厚値Dを算出しデータ出力部35に送信する(ステップS310)。データ出力部35は、膜厚値Dをデータ表示もしくはプリント出力する(ステップS311)。
【0071】
なお、ステップS310における膜厚値Dの算出に関しては、第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法と同様の考え方に補正項Xmem/Xmeaを加えて、膜厚Dを算出可能である。第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法と同様、算出方法にいかなる方法を用いても第四の実施の形態にかかる膜厚測定方法の技術の可否に影響するものではない。
【0072】
ここで、第一の実施の形態にかかる膜厚測定方法と同様、算出方法事例として線形補間を用いれば、第一の実施の形態にかかる数式(1)を下記(3)式のように変形する。但し、X線回折強度I5、I6は、I5<Imax・(Xmem/Xmea)<I6となる。I5、I6に対応付けられたコリレーションテーブル32上の膜厚値をそれぞれD5、D6とする。
D=(D5−D6)・Imax・(Xmem/Xmea)/(I5−I6) (3)
【0073】
以上のように膜厚を測定した結果、第四の実施の形態を導入する前に比べて、測定精度が大きく改善する。ここで、膜厚200nmの最上層Si(110)および775nmの厚さを有する基板Si(100)からなる直接貼り合わせによるHOT基板を準備した。このHOT基板の最上層Si(110)結晶面と、その下層のSi(220)結晶面に対するX線回折強度分布を取得し最大値を検出する一方、HOT基板照射前のX線強度を検出した。検出したX線強度によって、HOT基板のX線回折強度補正なしと補正ありの2条件で2時間おきに計16回(全30時間)の測定を行った。図20は、第四の実施の形態にかかる膜厚測定方法の改善効果を示すグラフである。横軸は、膜厚測定の経過時間であり、縦軸はX線強度の平均値からの差を示す。X線源2から放射されるX線は、温度の変動に敏感である。従って、X線強度補正なしの場合、最大4%程度の平均値からの差に対し、X線強度補正ありの場合、±1%以下の平均値からの差に改善される。これは、X線源2のターゲット試料への電子線の衝突や、試料およびモノクロメータ内部の熱振動の状態が温度の変動により変化するからである。
【0074】
また、シンチレーションカウンタ5から入力したX線回折強度分布を上述のX線直接強度による補正項Xmem/Xmeaで補正し、補正されたX線回折強度分布から角度半値幅、もしくは角度立ち上がり幅を検出することにより、第一の実施の形態と同様の異常値検出機能を提供することが可能となる。
【0075】
以上述べたように、第四の実施の形態によれば、評価試料に照射される前のX線直接強度と、コリレーションテーブル作成時に記憶された標準試料照射前のX線直接強度から補正項を算出し評価試料のX線回折強度分布の最大値、補正項およびコリレーションテーブルから膜厚値を算出することにより、結晶構造の異なる評価試料に対して簡易な構成で、X線放射量の変動による誤差を低減し高速かつ高精度の膜厚測定と異常値検出を可能とする膜厚測定方法を提供する。
【0076】
なお、第一の実施の形態〜第四の実施の形態においては、あらかじめ選定したX線回折強度分布の特徴量と膜厚基準値を対応付けてルックアップテーブルに記憶し、測定時にデータ補間により膜厚値を算出する構成として詳細を説明した。ルックアップテーブルの記憶容量を大きくすれば、データの間隔を密にすることができるので、前述のようなデータ補間が不要となることはいうまでもない。
【0077】
また、第一の実施の形態〜第四の実施の形態においては、特徴量と膜厚基準値の校正情報をルックアップテーブルに記憶することとして実施の形態を説明したが、特徴量と膜厚基準値の校正情報からあらかじめ多次元回帰、双曲線回帰、対数回帰もしくは指数回帰による回帰式を求め、回帰式の形式と係数を校正関数として記憶し、測定時に校正関数により膜厚値を算出する構成としても同様の効果が得られる。また、最小二乗法を用いて校正関数を求めても同様の効果が得られる。これら膜厚値算出の方法が、本発明にかかる膜厚測定方法の技術の可否に影響するものではない。
【0078】
また、本発明にかかるX線回折装置で実行可能な膜厚測定プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0079】
また、本発明にかかる膜厚測定方法で実行可能な膜厚測定プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本発明にかかる膜厚測定方法で実行可能な膜厚測定プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するよう構成しても良い。
【0080】
また、上述した実施の形態で用いることが可能な膜厚測定プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0081】
上述した全ての実施の形態で用いることが可能な膜厚測定方法を実行可能な膜厚測定プログラムは、上述した各部( コリレーション部、コリレーションテーブル、データ算出部、データ出力部、測定制御部 )を含むモジュール構成となっている。また、実際のハードウェアとしては、CPUがコンピュータで読み取り可能な記録媒体から膜厚測定プログラムを読み出して実行することにより、上記各部が主記憶装置上にロードされ、コリレーション部、コリレーションテーブル、データ算出部、データ出力部、測定制御部が主記憶装置上に生成されるようになっている。その後、本発明にかかる膜厚測定方法の演算処理を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第一の実施の形態にかかるX線回折装置1の光学系概要図。
【図2】第一の実施の形態にかかるX線回折装置1のブロック図。
【図3】第一の実施の形態にかかるX線回折装置1のコリレーションテーブル10の記憶構造を示す説明図。
【図4】Si薄膜のX線回折強度分布の最大値とTEMによる断面膜厚測定値の関係を示すグラフ。
【図5】図4に示すグラフの測定値の低い領域を拡大して示したグラフ。
【図6】第一の実施の形態にかかる膜厚測定手順を示すフローチャート。
【図7】異なる結晶面2種の膜厚測定の異常値検出に関する実施例1を説明するグラフ。
【図8】異なる結晶面2種の膜厚測定の異常値検出に関する実施例2を説明するグラフ。
【図9】第二の実施の形態にかかるX線回折装置16のブロック図。
【図10】第二の実施の形態にかかるコリレーションテーブル15の記憶構造を示す説明図。
【図11】第二の実施の形態にかかるX線回折装置16において角度走査したX線回折強度分布を示すグラフ。
【図12】第三の実施の形態にかかるX線回折装置20の光学系概要図。
【図13】第三の実施の形態にかかるX線回折装置20のブロック図。
【図14】第三の実施の形態にかかるX線回折装置20のコリレーションテーブル23の記憶構造を示す説明図。
【図15】第三の実施の形態にかかるX線回折装置20の膜厚測定手順を示すフローチャート。
【図16】第四の実施の形態にかかるX線回折装置30の光学系概略図。
【図17】第四の実施の形態にかかるX線回折装置30のブロック図。
【図18】第四の実施の形態にかかるX線回折装置30のコリレーションテーブル32の記憶構造を示す説明図。
【図19】第四の実施の形態にかかる膜厚測定手順を示すフローチャート。
【図20】第四の実施の形態にかかる膜厚測定方法の改善効果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0083】
1 X線回折装置
2 X線源
3 モノクロメータ
4 試料
5 シンチレーションカウンタ
6 スリット
7 スリット
8 アブソーバ
10 コリレーションテーブル
11 コリレーション部
12 データ算出部
13 データ出力部
14 測定制御部
15 コリレーションテーブル
20 X線回折装置
21 試料支持台
22 校正用基板
23 コリレーションテーブル
24 コリレーション部
25 データ算出部
26 データ出力部
27 測定制御部
30 X線回折装置
31 X線モニタセンサ
32 コリレーションテーブル
33 コリレーション部
34 データ算出部
35 データ出力部
36 測定制御部
A 試料回動方向
B 試料支持台の移動方向
Imax X線回折強度分布の最大値
Icor 校正用基板に対するX線回折強度分布の最大値
Imem 校正用基板に対するX線回折強度の記憶値
Xmea 測定時におけるX線直接強度の検出値
Xmem コリレーションテーブル32作成時におけるX線直接強度の検出値
I1 コリレーションテーブル10上で小さい方のImax近似値
I2 コリレーションテーブル10上で大きい方のImax近似値
I3 コリレーションテーブル23上で小さい方のImax近似値
I4 コリレーションテーブル23上で大きい方のImax近似値
I5 コリレーションテーブル32上で小さい方のImax近似値
I6 コリレーションテーブル32上で大きい方のImax近似値
D1 コリレーションテーブル10上でI1に対応する膜厚値
D2 コリレーションテーブル10上でI2に対応する膜厚値
D3 コリレーションテーブル23上でI3に対応する膜厚値
D4 コリレーションテーブル23上でI4に対応する膜厚値
D5 コリレーションテーブル32上でI5に対応する膜厚値
D6 コリレーションテーブル32上でI6に対応する膜厚値
D 評価試料の膜厚測定値
F1 結晶面3のX線回折強度分布の角度立ち上がり幅
F2 結晶面4のX線回折強度分布の角度立ち上がり幅
G1 結晶面5のX線回折強度分布の積分値
G2 結晶面6のX線回折強度分布の積分値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折装置を用いて、多層膜構造を有する評価試料の最上層の膜厚を測定する方法であって、
X線回折装置以外の膜厚測定方法を用いて、標準試料の膜厚基準値を測定する基準値測定ステップと、
前記標準試料へのX線照射角度を走査してX線回折強度分布を取得し該X線回折強度分布から検出された特徴量と、前記標準試料の前記膜厚基準値とを対応付けた校正情報をあらかじめ生成する校正情報生成ステップと、
評価試料へのX線照射角度を走査してX線回折強度分布を取得する分布取得ステップと、
前記分布取得ステップで取得されたX線回折強度分布から特徴量を検出する特徴量検出ステップと、
前記特徴量検出ステップで検出された特徴量と、前記校正情報とから前記評価試料の最上層の膜厚を算出する膜厚算出ステップとを備えたことを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
前記特徴量は、前記X線回折強度分布の最大値もしくは積分値のうちいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記膜厚基準値は、透過型電子顕微鏡もしくは分光エンプソメトリ法のうちいずれかにより測定された膜厚であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記標準試料は、前記X線回折装置内に保持されることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記標準試料および前記評価試料は、HOT(Hybrid Crystal Orientation Technology)基板、もしくはSOI(Silicon On Insulator)基板のうちいずれかであって、
前記最上層は、シリコン(Si)の(100)、もしくは(110)のうちいずれかの結晶面方位を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
前記評価試料に照射される前のX線強度を検出し、該X線強度により前記特徴量検出ステップで検出された特徴量を補正することを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
前記最上層の膜厚は、10nm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項6いずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項8】
前記分布取得ステップで取得された前記評価試料のX線回折強度分布から角度半値幅もしくは角度立ち上がり幅のうちいずれかを検出し前記評価試料の結晶性を評価することを特徴とする請求項2に記載の膜厚測定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−14432(P2010−14432A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172467(P2008−172467)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】