説明

膜厚測定装置及び薄膜形成装置

【課題】 薄膜の膜厚を正確に測定する。
【解決手段】 循環装置17は、制御部18の制御下において冷却液循環路部15を介してエチレングリコール等の流体を循環装置17及び膜厚モニター12間で循環させることによって、膜厚モニター12を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL素子が備える陰極の膜厚を測定するための膜厚測定装置、及びこのような陰極を形成する際に用いられる薄膜形成装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)素子では、基板上に配線や素子と共に形成された一の電極上に、少なくとも一層の有機化合物からなる有機薄膜たる発光層が成膜され、更にこの上に、他の電極が成膜される。各電極から発光層へ電荷を効率良く注入するために、各電極膜と発光層との間に電荷注入層が形成されている場合もある。例えば有機EL素子では、アルカリ金属を用いて形成された陰極、或いは陰極及び有機EL層間に形成された電子注入層によって、素子の駆動時に印加される電圧の低減、及び駆動時に素子に入力される電力を効率良く利用して輝度を高める技術も開示されている。
【0003】
このような陰極或いは電子注入層等の薄膜は、物理的蒸着法の一例である真空蒸着法を用いてアルカリ金属を蒸着させることによって形成される場合が多く、陰極或いは電子注入層の膜厚を測定するためには、従来水晶振動子が用いられていた。水晶振動子を用いた膜厚測定方法の測定原理は、真空蒸着装置内で素子にアルカリ金属を蒸着させる際に、例えば蒸着装置内に配置された水晶振動子にアルカリ金属を蒸着させ、この水晶振動子に付着したアルカリ金属の重量変化に基づいて素子に形成された薄膜の膜厚を間接的に測定する。水晶振動子にアルカリ金属を付着させる際には、水晶振動子に吸着したアルカリ金属が気化しないように、冷却水によって水晶振動子を冷却する。
【0004】
ここで、アルカリ金属は揮発性が他の金属より高いため、アルカリ金属の原子を水晶振動子に安定して吸着させることが困難である。そこで、アルカリ金属等の揮発性の高い金属によって形成された薄膜の膜厚を正確に測定するために、水晶振動子を用いた膜厚測定法に代えて、原子吸光法を用いた膜厚測定法が採用される場合もある。(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
【非特許文献1】AMD Application Note Vol1.1,SAES Getters Japan Co.,Ltd.,May,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示された技術によれば、従来から用いられていた水晶振動子を用いた膜厚測定装置に代えて、原子吸光法による膜厚測定を実施可能な測定装置を新たに購入することになり、その分膜厚測定装置を製造工程中で用いることによって製造される、例えば有機EL素子の製造コストの増大を招く問題点がある。加えて、原子吸光法による膜厚測定を実施可能な装置を蒸着装置とは別に設置することになり、測定装置を設置するためのスペースを新たに設けることになる。したがって、製造ラインのレイアウト変更、及び膜厚測定装置の設置場所が制限される等の製造工程上の問題点も生じる。また、このような問題点を考慮した上で、従来から用いられてきた水晶振動子による膜厚測定を行った場合、冷却水を用いて水晶振動子を冷却するだけでは十分に低い温度に水晶振動子の温度を保つことが困難であり、水晶振動子に一旦付着したアルカリ金属等の蒸着材料が容易に揮発してしまい、膜厚を正確に測定できない技術的問題点がある。
【0007】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、アルカリ金属等の揮発し易い蒸着材料を用いて形成される陰極或いは電子注入層等の薄膜の膜厚を正確に測定できる膜厚測定装置及び薄膜形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る膜厚測定装置は上記課題を解決するために、被蒸着対象に物理的蒸着法を用いて薄膜形成材料を蒸着させることによって形成された薄膜の膜厚を測定するための膜厚測定装置であって、前記薄膜形成材料が蒸着される被蒸着面を有しており、前記薄膜形成材料が前記被蒸着対象に蒸着される際に前記被蒸着面に蒸着された前記薄膜形成材料の重量変化に基づいて前記膜厚を測定する膜厚測定手段と、水に比べて高い冷却作用を有する流体を前記膜厚測定手段に供給すると共に、前記膜厚測定手段から熱エネルギーを吸収した前記流体を前記膜厚測定手段から還流させ、前記還流された流体から前記熱エネルギーを逃がした後、前記熱エネルギーが逃がされた流体を前記膜厚測定手段に供給することによって前記膜厚測定手段を冷却する冷却手段とを備える。
【0009】
本発明に係る膜厚測定装置によれば、膜厚測定手段は、例えばチャンバー内に配置された基板等の被蒸着対象と共に同一チャンバー内に配置されており、真空蒸着法或いはスパッタリング法等の物理的蒸着法を用いて被蒸着対象に薄膜が形成される際に、膜厚測定手段が有する被蒸着面にも薄膜形成材料が蒸着される。膜厚測定手段は、被蒸着面に蒸着された薄膜形成材料の重量変化に基づいて被蒸着対象に蒸着された薄膜の膜厚を間接的に測定する。尚、本発明の「蒸着」とは、真空蒸着法において薄膜形成材料を蒸着させる際の文字通りの蒸着という意味に限定されるものではなく、スパッタリング法等の物理的蒸着法の概念に含まれる各薄膜形成法において薄膜形成材料を被蒸着対象に蒸着させる、即ち吸着させるという広い意味での蒸着という意味を含むことに留意されたい。
【0010】
このような膜厚測定手段は冷却手段によって冷却されるため、薄膜の膜厚を測定する際にその温度が十分に低い温度に保たれており、例えば被蒸着面に蒸着されたアルカリ金属等の薄膜形成材料が被蒸着面から揮発してしまうことを低減できる。より具体的には、冷却手段は、水に比べて高い冷却作用を有する流体を膜厚測定手段に供給することによって膜厚測定手段を冷却し、膜厚測定手段が有する被蒸着面から薄膜形成材料が気化することを低減する。ここで、「水に比べて高い冷却作用を有する流体」とは、例えば吸熱特性及び放熱特性が水に比べて優れた液体或いは気体を意味し、例えばエチレングリコール等の液体が流体として用いられる。冷却手段は、このような流体を膜厚測定手段に供給すると共に、膜厚測定手段から熱エネルギーを吸収した流体を還流させることによって、冷却手段及び膜厚測定手段間で流体を循環させる。冷却手段は、膜厚測定手段から還流された流体から熱エネルギーを逃がした後、この流体を膜厚測定手段に供給することによって、熱エネルギーが逃がされた流体、即ち冷却された流体を膜厚測定手段に供給し、流体を再利用しながら効率良く膜厚測定手段を冷却する。したがって、冷却手段によれば、水に比べて効率良く膜厚測定手段を冷却できることに加え、流体を常時冷却しながら膜厚測定手段に供給できるため、効果的に膜厚測定手段を冷却することが可能である。
【0011】
以上のように本発明に係る膜厚測定装置によれば、一旦被蒸着面に蒸着された薄膜形成材料が気化することを低減できるため、被蒸着対象に形成される薄膜の膜厚を正確に測定できる。したがって、原子吸光法によって膜厚を測定するための装置を用いることなく、正確に薄膜の膜厚を測定できる。加えて、本発明に係る膜厚測定装置は、装置単独で移動可能であるため、例えば製造工程において膜厚測定装置を設置するための広いスペースを確保することなく、真空蒸着装置等の薄膜形成装置に取り付けるだけで簡単に薄膜の膜厚を測定できる。
【0012】
本発明に係る膜厚測定装置の一の態様では、前記冷却手段は、循環装置及び循環路部を備えており、前記循環装置は、前記循環路部を介して前記循環装置及び前記膜厚測定手段間で前記流体を循環させてもよい。
【0013】
この態様によれば、例えばポンプ等の循環装置によって循環路部を介して流体を冷却手段及び膜厚測定手段間で流体を循環させることが可能である。
【0014】
本発明に係る膜厚測定装置の他の態様では、前記膜厚測定手段は、水晶振動子を有するセンサー部を備えており、前記センサー部は、前記重量変化に応じて変動する前記水晶振動子の共振周波数のシフト量に基づいて前記膜厚を算出してもよい。
【0015】
この態様によれば、例えば被蒸着面は水晶振動子の表面であり、水晶振動子はその表面に蒸着された薄膜形成材料の重量変化に応じて共振周波数がシフトする。センサー部は、例えば水晶振動子の共振周波数のシフト量を検出する検出手段を備えており、検出された共振周波数のシフト量に応じて、被蒸着面に蒸着された薄膜形成材料の重量変化を算出する。これにより、センサー部は被蒸着対象に形成された薄膜の膜厚を間接的に測定できる。尚、センサー部は、例えば別途設けられた制御部と電気的に接続されていてもよく、この制御部がセンサー部で検出された薄膜形成材料の重量変化に関するデータをセンサー部から受け取り、膜厚を算出してもよい。また、制御部は、センサー部だけでなく、冷却手段及び膜厚測定手段の動作を制御する機能を有していてもよい。
【0016】
この態様では、前記循環路部は、前記流体を前記センサー部に供給するための供給路部と、前記センサー部の周辺部に接するように延設された延設部と、前記熱エネルギーを吸収した流体を前記循環装置に還流するための還流路部とを備えており、前記流体は、前記供給路部、前記延設部及び前記還流路部を流れると共に、前記延設部において前記周辺部を介して前記熱エネルギーを前記センサー部から吸収してもよい。
【0017】
この態様によれば、流体は、周辺部に接する延設部を介してセンサー部から効率良く熱エネルギーを吸収できる。より具体的には、例えば延設部が周辺部に接していることによって、センサー部から流体に熱エネルギーを伝導させる面積を増大させることができる。加えて、流体は供給路部、延設部及び還流部を流れているため、常時冷却された流体がセンサー部の周辺を流れ、熱エネルギーを吸収していく。これにより、センサー部から効率良く熱エネルギーを逃がすことができ、水晶振動子の温度上昇を低減でき、被蒸着面に一旦蒸着された薄膜形成材料が気化することを低減でき、且つ共振周波数のシフト量に温度変化による誤差が加わることを低減できる。
【0018】
本発明に係る薄膜形成装置は上記課題を解決するために、被蒸着対象に物理的蒸着法を用いて薄膜形成材料を蒸着させることによって形成された薄膜の膜厚を測定しつつ、前記薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記薄膜形成材料を前記被蒸着対象に蒸着させる蒸着手段と、前記薄膜形成材料が蒸着される被蒸着面を有しており、前記薄膜形成材料が前記被蒸着対象に蒸着される際に前記被蒸着面に蒸着された前記薄膜形成材料の重量変化に基づいて前記膜厚を測定する膜厚測定手段と、水に比べて高い冷却作用を有する流体を前記膜厚測定手段に供給すると共に、前記膜厚測定手段から熱エネルギーを吸収した前記流体を前記膜厚測定手段から還流させ、前記還流された流体から前記熱エネルギーを逃がした後、前記熱エネルギーが逃がされた流体を前記膜厚測定手段に供給することによって前記膜厚測定手段を冷却する冷却手段とを備える。
【0019】
本発明に係る薄膜形成装置によれば、上述の膜厚測定装置と同様に被蒸着対象に形成された薄膜の膜厚を正確に測定しながら、薄膜を形成できる。
【0020】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態は、本発明の膜厚測定装置を薄膜形成装置の一例である真空蒸着装置に適用したものである。尚、本実施形態では、真空蒸着装置を有機EL素子の製造工程に用いる場合を例に挙げてその構成を説明する。
【0022】
図1は、第1実施形態に係る真空蒸着装置を図式的に示した図である。
【0023】
図1において、本実施形態に係る真空蒸着装置10は、チャンバー11、本発明の「蒸着手段」の一例である蒸着ユニット14、膜厚測定装置1を構成する膜厚モニター12、冷却液循環路部15及び循環装置17、並びに膜厚モニター12を支持する支持部16、制御部18、及びポンプ19を備えている。
【0024】
チャンバー11は、本発明の「被蒸着対象」の一例である基板S1に、本発明の「薄膜形成材料」の一例であるアルカリ金属を陰極として、或いは電子注入層として蒸着するための真空槽である。基板S1には、例えば陽極から発光層である有機EL層までが形成されている。チャンバー11内には、膜厚モニター12、膜厚モニター12を支持する支持部16、及び蒸着ユニット14が配設されている。チャンバー11内の雰囲気は、ポンプ19によって調整される。より具体的には、例えば、薄膜形成時には基板S1をチャンバー11内に投入し、ポンプ19によってチャンバー11のガスを排気する。チャンバー11内の真空度が1.0×10−4[Pa]になった状態で、例えば、抵抗加熱蒸着法によって蒸着ユニット14からアルカリ金属を気化させる。
【0025】
基板S1は、有機EL層の表面が蒸着ユニット14に臨むようにチャンバー11に投入される。尚、基板S1は、電子注入効率及び電子輸送性の少なくとも一方を高めるために設けられる電子注入層、或いは陰極に限定されるものではなく、アルカリ金属等の揮発し易い金属、即ち沸点温度が低い金属が蒸着されるものであれば、有機EL素子を形成する場合に限定されるものではない。また、真空蒸着装置10を用いて有機薄膜を形成することも可能である。このような場合でも、膜厚測定装置1によれば、有機薄膜の膜厚を正確に測定できる。
【0026】
蒸着ユニット14は、アルカリ金属を加熱し、アルカリ金属を基板S1及び膜厚モニター12に蒸着させる。アルカリ金属は、例えば、セシウム(Cs)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)等である。これらアルカリ金属は、膜厚モニター12を冷却しなければ一旦膜厚モニター12に蒸着させても、薄膜形成時に温度が上昇するチャンバー11内で容易に昇華してしまう金属である。
【0027】
蒸着ユニット14は、チャンバー11内に投入された基板S1と対向するように配置されている。蒸着ユニット14から気化したアルカリ金属のガスは、蒸着ユニット14から基板S1及び膜厚モニター12に向かって移動し、基板S1及び膜厚モニター12に蒸着される。尚、アルカリ金属を基板S1に均一に蒸着するために、例えば、基板S1の中心から蒸着ユニット14をオフセットさせた状態で基板S1を回転させることによって、基板S1に均一に成膜することも可能である。アルカリ金属が均一に基板S1に付着するように、基板S1及び蒸着ユニット14の距離を調整してもよい。
【0028】
膜厚モニター12は、後に詳細に説明するように水晶振動子及びセンサー部を備えている。膜厚モニター12は、本発明の「被蒸着面」の一例である水晶振動子の表面に蒸着されるアルカリ金属の重量変化に基づいて水晶振動子の表面に蒸着されたアルカリ金属の膜厚を測定する。膜厚モニター12が備える水晶振動子は、その表面に付着したアルカリ金属の重量変化に応じて共振周波数がシフトするため、この共振周波数のシフト量に応じて水晶振動子に蒸着された薄膜の膜厚が算出される。アルカリ金属は、基板S1に蒸着されると共に水晶振動子にも蒸着されるため、膜厚モニター12に蒸着されたアルカリ金属の重量変化を測定することによって、基板S1に形成された薄膜の膜厚が間接的に測定される。より具体的には、膜厚モニター12は、水晶振動子に蒸着されたアルカリ金属の重量変化と、該重量変化に対する水晶振動子の共振振動数との対応を示すテーブルに基づいてアルカリ金属の膜厚を算出する。このようにして算出された計測されたアルカリ金属の膜厚が、基板S1に形成された薄膜の膜厚と等しいことになる。膜厚モニター12で基板S1に形成された薄膜の膜厚を測定しながら蒸着を行うことにより、基板S1に形成される薄膜の膜厚を制御することができる。
【0029】
尚、本実施形態では、本発明に係る「薄膜形成装置」の一例として真空蒸着装置を挙げているが、本発明に係る「薄膜形成装置」を、物理的蒸着法の一例であるスパッタリング法を用いて薄膜を形成するスパッタリング装置にも適用可能であることは言うまでもない。
【0030】
また、膜厚モニター12が備える水晶振動子の表面には、アルカリ金属が蒸着される前に予めアルカリ金属を固定するための金属固定材が蒸着されていてもよい。アルカリ金属はこの金属固定材と反応し、水晶振動子の表面に固定される。金属固定材に固定されたアルカリ金属は、殆ど再昇華することなく、水晶振動子の表面に固定される。
【0031】
循環装置17は、制御部18の制御下において冷却液循環路部15を介してエチレングリコール等の流体を循環装置17及び膜厚モニター12間で循環させ、膜厚モニター12を冷却する。循環装置17は、例えば不図示のポンプを備えており、冷却液循環路部15を構成する供給路部15aを介してエチレングリコールを膜厚モニター12に供給し、膜厚モニター12から熱エネルギーを吸収したエチレングリコールを還流路部15bを介して循環装置17に還流させる。循環装置17は、還流されたエチレングリコールから熱エネルギーを逃がした後、このエチレングリコールを膜厚モニター12に供給することによって、熱エネルギーが逃がされたエチレングリコール、即ち冷却されたエチレングリコールを再度膜厚モニター12に供給し、エチレングリコールを再利用しながら効率良く膜厚モニター12を冷却する。したがって、膜厚測定装置1によれば、膜厚モニター12の動作時に、冷却されたエチレングリコール等の冷却液を常時膜厚モニター12に供給しながら基板S1に形成された電子注入層或いは陰極等の薄膜の膜厚を測定できる。膜厚モニター12は、循環装置17及び循環路部15を介して循環される冷却液によって冷却されるため、膜厚モニター12は、薄膜の膜厚を測定する際にその温度が十分に低い温度に保たれている。したがって、被蒸着面に蒸着されたアルカリ金属等の薄膜形成材料が被蒸着面から揮発してしまうことを低減でき、温度上昇によって水晶振動子の共振周波数がシフトすることを低減でき、基板S1に形成された薄膜の膜厚を正確に測定できる。
【0032】
尚、膜厚モニター12を冷却するために用いられる流体は、エチレングリコール等の液体に限定されるものではなく、水より冷却作用が高いものであれば液体でもよいし、気体でもよい。
【0033】
制御部18は、蒸着ユニット14、循環装置17、及び膜厚モニター12の動作を制御する。尚、制御部18は、ポンプ19の制御、及び基板S1をチャンバー11内に搬送する際の搬送装置の制御を行うことも可能である。また、制御部18は膜厚モニター12に蒸着されたアルカリ金属等の薄膜形成材料の重量変化に基づいて基板S1に形成された薄膜の膜厚を算出してもよい。
【0034】
次に、図2を参照しながら、膜厚モニター12の詳細な構成を説明する。図2は膜厚モニター12の詳細な構成を示した図であり、図2(a)は膜厚モニター12を正面から見た正面図であり、図2(b)は膜厚モニター12を側面側から見た側面図である。
【0035】
図2(a)及び(b)において、膜厚モニター12は、水晶振動子21を備えたセンサー部22、及びケーブル23を備えている。
【0036】
センサー部22は、水晶振動子21の共振周波数のシフト量に応じて水晶振動子21の表面21aに蒸着された薄膜形成材料の重量変化を検知する。センサー部22は、表面21aに蒸着された薄膜形成材料の重量変化に関するデータをケーブル23を介して制御部18に送る。これにより、基板S1に形成された薄膜の膜厚が算出される。尚、センサ部22が薄膜形成材料の重量変化に基いて基板S1に形成された薄膜の膜厚を算出し、その算出された膜厚に関するデータをケーブル23を介して制御部18に送信してもよい。
【0037】
冷却液循環路部15に含まれる延設部15cは、平面的に見て円形を有するセンサー部22の周辺部に接するようにセンサー部2に巻回されており、その両端は供給路部15a及び還流路部15bに接続されている。したがって、冷却液循環路部15は、延設部15cによってセンサー部22に接する面積が大きくとられていることになる。供給路部15a、延設部15c、及び還流路部15bの形状は管状であり、これら供給路部15a、延設部15c、及び還流路部15b内に延びる中空部をエチレングリコール等の流体が流れる。エチレングリコール等の冷却用の流体は、循環装置17から供給路部15a、延設部15c及び還流路部15bの順に流れ、センサー部22に巻回された延設部15c内を流れる際に、センサー部22の周辺部から効率良く熱エネルギーを吸収する。即ち、延設部15cがセンサー部22の周辺部に接していることによって、センサー部22からエチレングリコール等の流体に熱エネルギーが効率良く伝導され、水晶振動子21の温度上昇を低減できる。これにより、水晶振動子21の表面21aから薄膜形成材料であるアルカリ金属が気化することを低減できる。加えて、水晶振動子21における共振周波数のシフト量に温度変化による誤差が加わることを低減でき、基板S1に形成された薄膜の膜厚を正確に測定できる。
【0038】
このように、本実施形態の膜厚測定装置1によれば、膜厚モニター12が備える被蒸着面からアルカリ金属等の薄膜形成材料が気化することを低減でき、基板S1に形成された電子注入層或いは陰極等の薄膜の膜厚を正確に測定できる。真空蒸着装置10は、基板S1に形成された薄膜の膜厚を膜厚測定装置1によって測定しつつ、薄膜形成材料を蒸着ユニット14から気化させる薄膜形成材料の量を調整することによって、狙いの膜厚を有するように電子注入層或いは陰極を形成できる。加えて、膜厚測定装置1は、真空蒸着装置10から着脱自在に設置可能であるため、例えば製造工程において膜厚測定装置を設置するための広いスペースを確保することなく、真空蒸着装置等の薄膜形成装置に取り付けるだけで簡単に薄膜の膜厚を測定できる。また、水晶振動子を用いて膜厚を測定できるため、原子吸光法を用いた膜厚測定装置を購入するためのコストを削減でき、その分真空蒸着装置を用いて形成される有機EL素子等の製品の製造コストを低減することが可能である。
【0039】
尚、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う膜厚測定装置、及び膜厚形成装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0040】
次に、図3を参照しながら、本発明に係る薄膜形成装置を用いて形成された有機EL装置の構成の一例を説明する。
【0041】
図3において、有機EL装置10は、基板1、基板1上に形成された有機EL素子72、駆動用トランジスタ74、バンク部47及び封止部20を備えている。尚、有機EL素子72は、図中下側に光を出射するボトムエミッション型の有機EL素子であるが、図中上側に光を出射するトップエミッション型の有機EL素子を備えた有機EL装置でも本発明の有機EL素子は適用可能である。
【0042】
基板1は、例えば、ガラス基板等で構成されており、有機EL素子72が図中下側に出射する光を透過させる。駆動用トランジスタ74及びスイッチング用トランジスタ76は、基板1における有機EL素子72の下側の領域を避けるように形成されている。基板1は、基板1上に有機EL素子72が形成されているだけでなく、図1に示す走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150の各種回路を備えている。このような回路は、基板1における画素領域110の周辺領域に設けられる。
【0043】
有機EL素子72は、図中下側から順に陽極34、正孔注入/輸送層51、有機EL層50、電子注入層52、及び陰極49を備えて構成されている。
【0044】
陽極34は、基板1上に順次形成されたゲート絶縁層2、層間絶縁膜41、保護層45、及び第1バンク部47aのうち第1バンク部47aに埋め込まれるように形成されている。陽極34は、例えば、有機EL層50から出射された光を図中下側に透過するようにITO等の透明材料で形成された透明電極である。
【0045】
正孔注入/輸送層51は、PEDOT及びPSSの混合物からなる塗布材料をスピンコート法を用いて画素領域110全体に渡って塗布することによって形成されている。
【0046】
有機EL層50は、スピンコート法を用いて有機EL材料を正孔注入/輸送層51及び塗膜55上に渡って塗布することによって形成されていてもよい。このような有機EL材料としては、例えば(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、またはこれらの高分子材料にルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープした材料を用いることをできる。上述の薄膜形成装置を用いて低分子の有機EL材料を蒸着させることによって形成されていてもよい。
【0047】
電子注入層52は、上述の薄膜形成装置を用いてカルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)等の仕事関数の低いアルカリ金属材料或いはアルカリ土類金属材料を有機EL層50上に蒸着させることによって形成されている。電子注入層52によれば、電流駆動型の有機EL層50に電子を効率良く注入でき、有機EL層50の発光効率を高めることが可能である。
【0048】
陰極49は、第2バンク部47bの表面及び電子注入層52の表面を被うように形成されている。陰極49は、基板1上に形成された各有機EL素子72で共通とされる共通電極であり、例えば蒸着法を用いて形成されたAl等の金属薄膜である。陰極49は、基板1上で平面的に見て画素領域110全体に渡って物理的に接続された電極、即ち一枚の連続した電極として延在されている。尚、陰極49も上述の薄膜形成装置を用いて形成できる。
【0049】
上述の薄膜形成装置を用いて、有機EL層50及び電子注入層52を形成することによって、これら各層の膜厚を精密に制御できるので、均一な表示特性を有する有機EL装置を製造できる。
【0050】
駆動用トランジスタ74のソース電極74sは、不図示の電源供給線に電気的に接続されており、ドレイン電極74dは陽極34に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74は、不図示のデータ線を介してゲート電極3aに供給されるデータ信号に応じてオンオフされ、駆動電流を有機EL素子72に供給する。このような素子を含む回路は、有機EL素子50から基板1側に出射される光を遮らないように、有機EL素子50の下側を避けるように設けられている。
【0051】
半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び不図示の走査線は、ゲート絶縁層2上に形成されている。このような走査線の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。
【0052】
走査線や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。層間絶縁層41上には、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される、データ線114及び電源供給線117、更には駆動用トランジスタ74のソース電極74sが形成されている。層間絶縁層41には、層間絶縁層41の表面から層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。電源供給線117及びドレイン電極74dは、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線及びドレイン電極74dを埋め込んで、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiNx)ないしシリコン酸化膜(SiOx)が形成されている。保護層45上には、例えばシリコン酸化膜よりなる第1バンク部47aが形成され、更に第1バンク部47a上に第2バンク部47bが形成されている。第1バンク部47a及び第2バンク部47bによって、画素部における有機EL層50の形成領域である凹部62が規定されている。封止板20は、水分が有機EL装置10の外部から有機EL層50に浸入することを防止する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る薄装置を用いて形成された有機EL装置によれば、高品位の画像を表示できる。
【0054】
したがって、このような有機EL装置を具備してなる電子機器によれば、高品位の表示が可能な、投射型表示装置、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ−直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器を実現できる。また、本発明に係る電子機器として、例えば電子ペーパなどの電気泳動装置等も実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態の薄膜形成装置の構成を図式的に示した図である。
【図2】センサー部の詳細な構成を示した図である。
【図3】本実施形態に係る薄膜形成装置を用いて製造された有機EL装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・膜厚測定装置、10・・・薄膜形成装置、12・・・膜厚モニタ−、17・・・循環装置、15・・・循環路部、21・・・水晶振動子、22・・・センサー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被蒸着対象に物理的蒸着法を用いて薄膜形成材料を蒸着させることによって形成された薄膜の膜厚を測定するための膜厚測定装置であって、
前記薄膜形成材料が蒸着される被蒸着面を有しており、前記薄膜形成材料が前記被蒸着対象に蒸着される際に前記被蒸着面に蒸着された前記薄膜形成材料の重量変化に基づいて前記膜厚を測定する膜厚測定手段と、
水に比べて高い冷却作用を有する流体を前記膜厚測定手段に供給すると共に、前記膜厚測定手段から熱エネルギーを吸収した前記流体を前記膜厚測定手段から還流させ、前記還流された流体から前記熱エネルギーを逃がした後、前記熱エネルギーが逃がされた流体を前記膜厚測定手段に供給することによって前記膜厚測定手段を冷却する冷却手段とを備えたこと
を特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、循環装置及び循環路部を備えており、
前記循環装置は、前記循環路部を介して前記循環装置及び前記膜厚測定手段間で前記流体を循環させること
を特徴とする請求項1に記載の膜厚測定装置。
【請求項3】
前記膜厚測定手段は、水晶振動子を有するセンサー部を備えており、
前記センサー部は、前記重量変化に応じて変動する前記水晶振動子の共振周波数のシフト量に基づいて前記膜厚を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の膜厚測定装置。
【請求項4】
前記循環路部は、前記流体を前記センサー部に供給するための供給路部と、前記センサー部の周辺部に接するように延設された延設部と、前記熱エネルギーを吸収した流体を前記循環装置に還流するための還流路部とを備えており、
前記流体は、前記供給路部、前記延設部及び前記還流路部を流れると共に、前記延設部において前記周辺部を介して前記熱エネルギーを前記センサー部から吸収すること
を特徴とする請求項3に記載の膜厚測定装置。
【請求項5】
被蒸着対象に物理的蒸着法を用いて薄膜形成材料を蒸着させることによって形成された薄膜の膜厚を測定しつつ、前記薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記薄膜形成材料を前記被蒸着対象に蒸着させる蒸着手段と、
前記薄膜形成材料が蒸着される被蒸着面を有しており、前記薄膜形成材料が前記被蒸着対象に蒸着される際に前記被蒸着面に蒸着された前記薄膜形成材料の重量変化に基づいて前記膜厚を測定する膜厚測定手段と、
水に比べて高い冷却作用を有する流体を前記膜厚測定手段に供給すると共に、前記膜厚測定手段から熱エネルギーを吸収した前記流体を前記膜厚測定手段から還流させ、前記還流された流体から前記熱エネルギーを逃がした後、前記熱エネルギーが逃がされた流体を前記膜厚測定手段に供給することによって前記膜厚測定手段を冷却する冷却手段とを備えたこと
を特徴とする薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77419(P2007−77419A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263447(P2005−263447)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】