説明

膜厚計測装置及び方法

【課題】油膜の膜厚をより高い精度で計測することができる膜厚計測装置及び方法を提供する。
【解決手段】膜厚計測装置10は、シリンダライナSのピストンリング摺動面Lに埋設された静電容量センサ11とピストンリングRとの隙間に形成された潤滑油の油膜の静電容量を計測する静電容量計測部13と、ピストンリングRが静電容量センサ11の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求め、ピストンリングRが静電容量センサ11の埋設箇所を通過する際に得られる計測値からその平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて油膜の膜厚を求める膜厚演算部15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚計測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン運転時におけるシリンダ内部の潤滑油の膜厚(油膜の膜厚)を計測する方法の一つとして、静電容量を用いた計測方法が挙げられる。この計測方法は、シリンダライナのピストンリング摺動面にセンサ電極を設け、油膜が形成されているピストンリングとセンサ電極との隙間の静電容量を計測し、この静電容量の計測結果に基づいて油膜の膜厚を計測する方法である。
【0003】
以下の特許文献1には、静電容量を用いた油膜の膜厚を計測する方法の一例が開示されている。具体的には、センサ電極に定電流を供給してセンサ電極とピストンリングとの間隙の静電容量を充電し、充電に伴う充電電圧の変化に基づいて静電容量を検出することにより、高い精度で油膜の膜厚を計測する計測方法が開示されている。また、この特許文献1には、ピストンが下死点に位置するときに得られる静電容量を、ピストンリングがセンサ電極に対向したときに得られる静電容量から差し引いて膜厚を計測することで、センサ電極に接続されるケーブルの静電容量に起因する計測誤差を低減する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジン運転中はエンジンが振動しているため、ピストンリング摺動面に設けられたセンサ電極に接続されるケーブルの振動等に起因してケーブルの静電容量が変動してしまう。すると、ピストンが下死点に位置していたときのケーブルの静電容量を計測しても、ピストンリングがセンサ電極に対向するまでにケーブルの静電容量が変動してしまい、上記の特許文献1に開示された方法を用いて静電容量の差し引きを行っても、ケーブルの静電容量に起因する計測誤差の低減効果がさほど得られない可能性があり、油膜の膜厚の計測精度を向上させる観点からは問題である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、油膜の膜厚をより高い精度で計測することができる膜厚計測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の膜厚計測装置(10、20、30)は、シリンダライナ(S)のピストンリング摺動面(L)に埋設された検出電極(11)とピストンリング(R、R1〜R3)との隙間に形成された潤滑油の油膜の静電容量を計測する静電容量計測部(13)を備えており、当該静電容量計測部の計測値を用いて前記油膜の膜厚を計測する膜厚計測装置において、前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点(m11〜m20)の計測値及び直後の複数点(m21〜m30)の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求め、前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値から当該平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて前記油膜の膜厚を求める膜厚演算部(15、16、24)を備えることを特徴とする。
また、本発明の膜厚計測装置は、前記ピストンリングが、複数設けられており、前記膜厚演算部が、前記複数のピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、前記複数のピストンリングの間隙の部分が前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値を用いて前記平均値を求めることを特徴としている。
また、本発明の膜厚計測装置は、前記ピストンリング摺動面に対する前記ピストンリングの位置を示すクランク回転角を検出するクランク回転角検出部(14)を備えており、前記膜厚演算部は、前記クランク回転角検出部によって検出されたクランク回転角を用いて前記検出電極と前記ピストンリングとの相対的な位置関係を求めることを特徴としている。
上記課題を解決するために、本発明の膜厚計測方法は、シリンダライナ(S)のピストンリング摺動面(L)に埋設された検出電極(11)とピストンリング(R、R1〜R3)との隙間に形成された潤滑油の油膜の静電容量を計測して前記油膜の膜厚を計測する膜厚計測方法において、前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点(m11〜m20)の計測値及び直後の複数点(m21〜m30)の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求める第1ステップと、前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値から当該平均値を差し引いて補正計測値を求める第2ステップと、前記補正計測値に基づいて前記油膜の膜厚を求める第3ステップとを有することを特徴としている。
また、本発明の膜厚計測方法は、前記第1ステップが、複数設けられたピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、前記複数のピストンリングの間隙の部分が前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値を用いて前記平均値を求めるステップであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ピストンリングが検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求め、ピストンリングが検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値からその平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて前記油膜の膜厚を求めており、エンジンの振動等によって生ずるケーブルの静電容量の変動の影響を大幅に排除することができるため、油膜の膜厚をより高い精度で計測することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態による膜厚計測装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】静電容量センサ11の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態において、静電容量計測部13から出力される静電容量信号の一例を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態による膜厚計測方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】センサ電極11aの近傍を説明する図である。
【図6】本発明の第2実施形態による膜厚計測装置の要部構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第2実施形態において、静電容量計測部13から出力される静電容量信号の一例を示す図である。
【図8】本発明の第3実施形態による膜厚計測装置の要部構成を示すブロック図である。
【図9】電気抵抗計測部22の内部構成の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による膜厚計測装置及び方法について詳細に説明する。
【0011】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態による膜厚計測装置の要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、膜厚計測装置10は、静電容量センサ11(検出電極)、同軸ケーブル12、静電容量計測部13、クランク角度検出部14(クランク回転角検出部)、及び膜厚演算部15を備えており、エンジンEにおけるシリンダライナSの内壁面(ピストンリング摺動面L)とピストンPに設けられたピストンリングRとの隙間に形成される潤滑油の油膜の厚さを計測する。尚、ピストンPは、ピストンロッドPR及びクランクシャフトKを介して往復運動が可能である。
【0012】
静電容量センサ11は、ピストンリング摺動面Lと面一となるようにシリンダライナSに絶縁状態で埋設されており、同軸ケーブル12を介して静電容量計測部13に接続されている。図2は、静電容量センサ11の構成を示す断面図である。図2に示す通り、静電容量センサ11は、円筒形状のセンサ電極11aを絶縁材11bで同心円状に被覆し、更に絶縁材11bの外周を導電体のセンサケース11cによって同心円状に被覆した構造である。かかる構造の静電容量センサ11は、ピストンリング摺動面Lに対して面一となるようにセンサ取付孔に埋設されている。
【0013】
静電容量センサ11が備えるセンサ電極11aとピストンPに設けられたピストンリングRとが対向することにより、センサ電極11aとピストンリングRとを一対の電極とし、これらの一対の電極の間に油膜が挟持されたコンデンサが形成される。尚、図2においては、センサ電極11aとピストンリングRとによって挟持される油膜の膜厚をTとしている。
【0014】
以上の静電容量センサ11は、同軸ケーブル12を介して静電容量計測部13に接続されている。具体的には、図2に示す通り、静電容量センサ11のセンサ電極11aは同軸ケーブル12の中心部を貫通する内部導線12aを介して静電容量計測部13に接続され、静電容量センサ11のセンサケース11cは同軸ケーブル12の絶縁体(図示省略)の外周に配設される外部導線12b(編組線)を介して静電容量計測部13の接地部(GND:グランド)に接続される。
【0015】
静電容量計測部13は、静電容量センサ11に対して検出用充電電流を供給する。また、静電容量センサ11とピストンリングRとの間隙に油膜が挟持されることによって形成されるコンデンサの静電容量と上記の検出用充電電流とによって発生する静電容量センサ11の電圧変化に基づいて上記の静電容量を示す電圧信号(静電容量信号)を生成して膜厚演算部15に出力する。
【0016】
クランク角度検出部14は、ロータリエンコーダ等のエンコーダを備えており、クランクシャフトK、即ちクランク軸の回転角度を検出し、その回転角度を示す回転角信号を膜厚演算部15に出力する。尚、クランク軸の回転角とピストンPの位置とは一対一に対応しているため、クランク角度検出部14で検出されるクランク軸の回転角度は、ピストンリング摺動面Lに対するピストンリングRの位置を示すということができる。
【0017】
膜厚演算部15は、静電容量計測部13から出力される静電容量信号に対して所定の信号処理を施すことにより、センサ電極11aとピストンリングRとの隙間に形成された油膜の膜厚Tを算出する。具体的には、静電容量センサ11とピストンリングRとの間隙に油膜が挟持されることによって形成されるコンデンサの静電容量を「C」、真空中の誘電率を「ε」、潤滑油の比誘電率を「ε」、静電容量センサ11の面積(ピストンリングRと対向する面積)を「S」とすると、ピストンリングRと静電容量センサ11との距離、つまり油膜の膜厚Tは以下の(1)式によって表される。つまり、コンデンサの静電容量Cが分かれば、油膜の膜厚Tを以下の(1)式によって求めることができる。
T=ε・ε・S/C …(1)
【0018】
また、膜厚演算部15は、クランク角度検出部14から出力される回転角信号を用いてセンサ電極11aとピストンリングRとの相対的な位置関係を把握している。このため、膜厚演算部15は、静電容量計測部13から出力される静電容量信号が、どの位置にピストンリングRが配置されているときに得られた信号であるかを常時把握している。ここで、膜厚演算部15は、ピストンリングRがセンサ電極11aの埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値、及びその埋設箇所を通過した直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求め、ピストンリングRがセンサ電極11aの埋設箇所を通過する際に得られる計測値から、その平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて、油膜の膜厚を求める。
【0019】
これは、同軸ケーブル12の振動によって同軸ケーブル12の静電容量が変動することによって生ずる膜厚の計測誤差を低減するためである。つまり、油膜の膜厚を計測する直前又は直後に同軸ケーブル12の静電容量を計測することによって、同軸ケーブル12の振動等に起因する計測誤差を低減することとしている。この処理の詳細については後述する。尚、膜厚演算部15で算出された油膜の膜厚Tは、例えば液晶表示装置等の表示装置(図示書略)に表示され、或いはその膜厚Tを示す信号が外部に出力される。
【0020】
次に、上記構成における膜厚計測装置10の動作について説明する。エンジンEの運転時には、クランク角度検出部14によってクランクシャフトKの回転角度が検出されており、一定の回転角度毎(例えば、0.05°毎)にその検出結果を示す回転角信号が膜厚演算部15に出力されている。膜厚演算部15は、クランク角度検出部14から出力される回転角信号を用いてセンサ電極11aとピストンリングRとの相対的な位置関係を求める。
【0021】
また、エンジンEの運転時には、静電容量計測部13から静電容量センサ11に対して検出用充電電流が供給されるとともに、静電容量センサ11から同軸ケーブル12を介して静電容量計測部13に入力される電圧変化に基づいてコンデンサ(静電容量センサ11とピストンリングRとの間隙に油膜が挟持されることによって形成されるコンデンサ)の静電容量を示す電圧信号(静電容量信号)が生成されて膜厚演算部15に出力されている。
【0022】
図3は、本発明の第1実施形態において、静電容量計測部13から出力される静電容量信号の一例を示す図である。尚、図3においては、横軸にクランクシャフトK(クランク軸)の回転角度をとり、縦軸に静電容量信号をとっている。図3に示す通り、静電容量信号は、センサ電極11aとピストンリングRとが対向する位置(回転角度θ1,θ2)においてピーク値をとる。これは、ピストンリングRとセンサ電極11aとが近接状態になり、これらを電極とするコンデンサの容量が増大するためである。これに対し、この位置(回転角度θ1,θ2)を外れると静電容量信号の値が極めて小さくなる。これは、ピストンリングRとセンサ電極11aとが離間してコンデンサの容量が極めて小さくなるためである。
【0023】
前述した通り、膜厚演算部15は、クランク角度検出部14から出力される回転角信号を用いてセンサ電極11aとピストンリングRとの相対的な位置関係を把握している。このため、クランク角度検出部14から出力される回転角信号で示される回転角度が回転角θ1又は回転角度θ2であるときに、静電容量計測部13から出力される静電容量信号を用いれば油膜の膜厚Tを求めることができる。但し、本実施形態では、振動によって同軸ケーブル12の静電容量が変動することによって生ずる膜厚の計測誤差を低減するために、以下の処理を行って油膜の膜厚Tを求めている。
【0024】
図4は、本発明の第1実施形態による膜厚計測方法の一例を示すフローチャートである。尚、図4に示すフローチャートは、ピストンリングRがセンサ電極11aの埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値の平均値を求めて油膜の膜厚を求める処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジンEの運転開始によって開始され、エンジンEの運転中は繰り返し実行される。
【0025】
処理が開始されると、まずクランク角度検出部14から出力される回転角信号に基づいて、ピストンリングRがセンサ電極11aの近傍に位置するか否かが膜厚演算部15によって判断される(ステップS11)。ここで、センサ電極11aの近傍とは、図5に示す通り、静電容量信号が立ち上がる位置(立ち上がり位置Z)の直前の領域Q1をいう。図5は、センサ電極11aの近傍を説明する図である。尚、図5は、図3中の回転角度θ2の付近を横軸方向に拡大した図である。
【0026】
上記の立ち上がり位置Zは、ピストンリングRがセンサ電極11aに近接し、センサ電極11aに対向する位置にピストンリングRの端部の配置が開始される位置である。このため、センサ電極11aの近傍の領域Q1は、ピストンリングRがセンサ電極11aに近接してはいるものの、ピストンリングRがセンサ電極11aに対向するには至っていない状態にある領域であるということができる。この領域Q1は、クランク角度検出部14から回転角信号が出力される周期の10〜20周期程度の角度を占める。尚、回転角度信号の周期が0.05°であるとすると、領域Q1は0.5〜1.0°程度の角度(長さに換算すると数mm程度)を占める。
【0027】
ステップS11の判断結果が「NO」である場合には、ステップS11の判断が繰り返される。これに対し、ステップS11の判断結果が「YES」になると、センサ電極11aの近傍の領域Q1内における複数点の計測値(静電容量計測部13で計測された静電容量信号)が膜厚演算部15で記録される(ステップS12)。具体的には、クランク角度検出部14から回転角信号が出力される時点で静電容量計測部13から出力される静電容量信号が、回転角信号が出力される周期の10〜20周期に亘って記録される。これにより、センサ電極11aの近傍の領域Q1内における複数点(例えば、図5中に示す0.05°刻みの点m11〜m20)における計測値が記録される。
【0028】
次に、クランク角度検出部14から出力される回転角信号に基づいて、ピストンリングRがセンサ電極11aと対向する位置に配置されたか否かが膜厚演算部15によって判断される(ステップS13)。具体的には、クランク角度検出部14から出力される回転角信号で示される回転角度が回転角度θ2になったか否かが判断される。この判断結果が「NO」である場合には、ステップS13の判断が繰り返される。
【0029】
これに対し、クランク角度検出部14から出力される回転角信号で示される回転角度が回転角度θ2になると、ステップS13の判断結果は「YES」になり、ピストンリングRがセンサ電極11aと対向している状態における静電容量信号が膜厚演算部15で計測される(ステップS14)。尚、回転角度θ2のときに計測される静電容量信号をV1とする。
【0030】
以上の処理が終了すると、膜厚演算部15は、ステップS12で記録した計測値の平均値を算出する(ステップS15:第1ステップ)。尚、ここで算出される平均値をV0とする。平均値を算出すると、膜厚演算部15は、ステップS14で計測された静電容量信号V1(ピストンリングRがセンサ電極11aと対向している状態における静電容量信号)からステップS15で算出した平均値を差し引いて補正計測値を求める(ステップS16:第2ステップ)。具体的には、以下の(2)式を用いて補正計測値Vを算出する
V=V1−V0 …(2)
【0031】
以上の処理が終了すると、上記の(2)式を用いて求められた補正計測値Vに基づいて油膜の膜厚が膜厚演算部15によって算出される(ステップS17:第3ステップ)。具体的には、補正計測値Vに基づいて静電容量センサ11とピストンリングRとの間隙に油膜が挟持されることによって形成されるコンデンサの静電容量「C」を求め、この静電容量「C」を前述した(1)式に代入して油膜の膜厚Tを算出する処理が行われる。
【0032】
以上、ピストンリングRがセンサ電極11aの埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値の平均値を求めて油膜の膜厚を求める処理について説明した。しかしながら、ピストンリングRがセンサ電極11aの埋設箇所を通過した直後の複数点(例えば、図5中に示す領域Q2内における0.05°刻みの点m21〜m30)の計測値の平均値を求めて油膜の膜厚を求めることも可能である。かかる方法で油膜の膜厚を求める場合には、まずピストンリングRがセンサ電極11aと対向している状態における静電容量信号が計測され(ステップS13,S14)、次にセンサ電極11aの近傍内の複数点の計測値が記録され(ステップS11,S12)、最後にステップS15〜S17の処理が順に行われる。
【0033】
また、図5に示す例では、立ち上がり位置Zに連続する領域Q1の全体に亘る複数点(点m11〜m20)での計測値を測定する例について説明した。しかしながら、立ち上がり位置Zに近い位置における計測値を用いると平均値の誤差が生じやすくなると考えられるため、立ち上がり位置Zから離間した領域(例えば、図5に示す点m11〜m15が含まれる領域Q1の前半部分)における計測値を用いて平均値を算出しても良い。これは、ピストンリングRがセンサ電極11aの埋設箇所を通過した直後の複数点の計測値の平均値を求める場合も同様である。
【0034】
〔第2実施形態〕
図6は、本発明の第2実施形態による膜厚計測装置の要部構成を示すブロック図である。図6に示す通り、本実施形態の膜厚計測装置20は、図1に示す膜厚計測装置10が備える膜厚演算部15に代えて膜厚演算部16を備えており、リンダライナSの内壁面(ピストンリング摺動面L)とピストンPに設けられた複数のピストンリングR1〜R3との隙間に形成される潤滑油の油膜の厚さを計測する。
【0035】
ピストンPに複数設けられたピストンリングR1〜R3とセンサ電極11aとの関係は、センサ電極11aの径が、ピストンリングR1〜R3の間隙(ピストンリングR1,R2の間隙、ピストンリングR2,R3の間隙)よりも僅かに小さくなるように設定されている。換言すると、ピストンリングR1〜R3の間隙よりも小さい径を有するセンサ電極11aがシリンダライナSに埋設されている。
【0036】
本実施形態の膜厚計測装置20が備える膜厚演算部16は、図1に示す膜厚演算部15と同様に、静電容量計測部13から出力される静電容量信号に対して所定の信号処理を施すことにより、センサ電極11aとピストンリングRとの隙間に形成された油膜の膜厚Tを算出する。具体的には、静電容量計測部13からの静電容量信号に基づいて得られる静電容量を前述した(1)式に代入することによって油膜の膜厚Tを算出する。
【0037】
但し、膜厚演算部16は、ピストンリングR1〜R3がセンサ電極11aの埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値、及びその埋設箇所を通過した直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、ピストンリングR1〜R3の間隙部分がセンサ電極11aの埋設箇所を通過する際に得られる計測値を用いて平均値を求める。そして、ピストンリングR1〜R3の各々がセンサ電極11aの埋設箇所を通過する際に得られる計測値から、その平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて、油膜の膜厚を求める。
【0038】
図7は、本発明の第2実施形態において、静電容量計測部13から出力される静電容量信号の一例を示す図である。尚、図7においては、図3と同様に、横軸にクランクシャフトK(クランク軸)の回転角度をとり、縦軸に静電容量信号をとっている。図7に示す通り、静電容量信号は、センサ電極11aとピストンリングR1〜R3とが対向する位置(回転角度θ11〜θ13,θ21〜θ23)においてピーク値をとる。
【0039】
これに対し、これらの位置(回転角度θ11〜θ13,θ21〜θ23)を外れると、ピストンリングR1〜R3がセンサ電極11aと対向する位置から外れるため、静電容量信号の値が極めて小さくなる。従って、ピストンリングR1〜R3がセンサ電極11aの埋設箇所を通過する直前の領域Q11,Q13(図5中の領域Q1に相当)及びピストンリングR1〜R3がセンサ電極11aの埋設箇所を通過した直前の領域Q12,Q14(図5中の領域Q2に相当)においては、静電容量信号の値が極めて小さくなる。また、センサ電極11aの径は、ピストンリングR1〜R3の間隙よりも小さく形成されているため、静電容量信号がピーク値をとる位置(回転角度θ11〜θ13,θ21〜θ23)の間の領域(図7中の領域Q21〜Q24)においても静電容量信号の値が極めて小さくなる。
【0040】
膜厚演算部16は、図7中における領域Q11内の複数点の計測値及び領域Q12内の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、領域Q21,Q22の少なくとも一方における複数点の計測値を用いて前述した平均値を求めている。尚、図7中における領域Q13内の複数点の計測値及び領域Q14内の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、領域Q23,Q24の少なくとも一方における複数点の計測値を用いて平均値を求めることも可能である。尚、図7中の領域Q21〜Q24内では、必ずしも複数点の計測値を求める必要はなく1点の計測値のみを求めても良い。尚、膜厚計測装置20の動作は、第1実施形態の膜厚測定装置10と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0041】
〔第3実施形態〕
図8は、本発明の第3実施形態による膜厚計測装置の要部構成を示すブロック図である。図8に示す通り、本実施形態の膜厚計測装置30は、図1及び図6に示す静電容量センサ11、同軸ケーブル12、静電容量計測部13、及びクランク角度検出部14に加えて、切替器21、電気抵抗計測部22、A/D(アナログ/ディジタル)変換部23、及び膜厚演算部24を備える。
【0042】
この膜厚計測装置30は、潤滑油が流体潤滑状態にある場合、及び境界潤滑状態にある場合の何れの場合でも、油膜の膜厚を正確に計測することを可能にするものである。ここで、流体潤滑状態とは油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑っている状態をいい、境界潤滑状態とは流体潤滑状態のように十分な厚みの油膜を保持していない状態をいう。本実施形態の膜厚計測装置30は、流体潤滑状態では静電容量計測部13によって静電容量を計測することによって油膜の膜厚を正確に計測し、境界潤滑状態では電気抵抗計測部22によって電気抵抗を計測してシリンダライナSに対するピストンリングR1〜R3の接触状態の評価を可能にするものである。
【0043】
切替器21は、膜厚演算部24の制御の下で、静電容量センサ11と静電容量計測部13又は電気抵抗計測部22との接続を切り替える。電気抵抗計測部22は、静電容量センサ11のセンサ電極11aとピストンリングR1〜R3との隙間に形成された潤滑油の油膜の電気抵抗を計測する。図9は、電気抵抗計測部22の内部構成の一例を示す回路図である。図9に示す通り、電気抵抗計測部22は、電源31、抵抗32,33、及び電圧計34を備える。
【0044】
電源31は、例えば出力電圧が1.5Vである直流電源であり、正極が抵抗32を介して静電容量センサ11のセンサ電極11aに接続され、負極が静電容量センサ11のセンサケース11cに接続される。尚、図9に示す通り、電源31の負極及びセンサケース11cは接地されている。抵抗32は、抵抗値が既知である抵抗(例えば、1kΩ)であり、一端が電源31の正極に接続され、他端がセンサ電極11aに接続される。抵抗33も抵抗値が既知である抵抗(例えば、100Ω)であり、電源31及び抵抗32に対して並列に接続されている。尚、電圧計34は、抵抗33と並列に接続され、抵抗33に現れる電圧降下(センサ電極11aとセンサケース11cとの間に現れる電圧)を測定する。
【0045】
ここで、電源31の出力電圧及び抵抗32,33の抵抗値が既知であるため、電圧計34によって電圧を測定すれば、センサ電極11aとセンサケース11cとの間の電気抵抗を計測することができる。尚、油膜の膜厚Tが薄い場合には電気抵抗計測部22の計測値が小さくなる一方、油膜の膜厚Tが厚い場合には電気抵抗計測部22の計測値が大きくなる。
【0046】
A/D変換部23は、静電容量計測部13から出力される静電容量信号、及び電位抵抗計測部22から出力される電気抵抗信号をディジタル信号に変換する。膜厚演算部24は、静電容量計測部13から出力されてA/D変換部23でディジタル信号に変換された静電容量信号を用いて油膜の膜厚Tを算出する。尚、膜厚演算部24は、第2実施形態で説明した方法と同様の方法を用いて膜厚Tを算出する。
【0047】
また、膜厚演算部24は、電気抵抗計測部22から出力されてA/D変換部23でディジタル信号に変換された電気抵抗信号を用いて油膜の膜厚Tを算出する。例えば、油膜の膜厚Tと電気抵抗計測部22で計測される抵抗値との関係を示すテーブルを予め求めておき、このテーブルと電気抵抗計測部22で計測される抵抗値とを用いて油膜の膜厚Tを求める。また、膜厚演算部24は、切替器21に対して制御信号を出力し、静電容量センサ11と静電容量計測部13又は電気抵抗計測部22との接続の切り替え制御を行う。
【0048】
ここで、膜厚演算部24は、静電容量計測部13から出力されてA/D変換部23でディジタル信号に変換された静電容量信号を用いる場合、及び電気抵抗計測部22から出力されてA/D変換部23でディジタル信号に変換された電気抵抗信号を用いる場合の何れの場合であっても、第1,第2実施形態と同様の平均値や補正計測値を求めてから油圧の膜厚Tを求める。かかる方法で膜厚Tを求めることで、膜厚Tの測定精度を高めることができる。
【0049】
上記構成において、エンジンEの運転中は、通常、膜厚演算部24から出力される制御信号によって、静電容量センサ11と静電容量計測部13とが接続されるように切替器21が制御され、静電容量計測部13から出力されてA/D変換部23でディジタル信号に変換された静電容量信号を用いて、流体潤滑状態にある潤滑油の油膜の膜厚Tが計測される。具体的には、例えば図4に示すフローチャートに従った処理と同様の処理が行われて膜厚Tが計測される。
【0050】
これに対し、ピストンリングR1〜R3の何れかがセンサ電極11aの埋設箇所を通過している最中の膜厚Tが予め設定された値以下になると、膜厚演算部24の制御によって、静電容量センサ11と電気抵抗計測部22とが接続されるように切替器21が切り替えられる。そして、電気抵抗計測部22から出力されてA/D変換部23でディジタル信号に変換された電気抵抗信号を用いて油膜の膜厚Tが計測され、境界潤滑状態にあるシリンダライナSに対するピストンリングR1〜R3の接触状態の評価が行われる。尚、電気抵抗信号を用いる場合にも、例えば図4に示すフローチャートに従った処理と同様の処理が行われて油膜の膜厚Tが計測される。
【0051】
このように、本実施形態では、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑っている流体潤滑状態である場合には、静電容量に基づいてシリンダライナS内部の潤滑油の油膜の膜厚を正確に計測することができる。これに対し、流体潤滑のように十分な厚みの油膜を保持していない境界潤滑状態となってシリンダライナSにピストンリングR1〜R3が部分的に金属接触した場合であっても、電気抵抗計測部22によって計測される電気抵抗に基づいて、その接触状態の評価を正しく行うことが可能になる。
【0052】
以上説明した通り、本発明の第1〜第3実施形態では、ピストンリングR(R1〜R3)がセンサ電極11aの埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値、及びその埋設箇所を通過した直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求め、ピストンリングR(R1〜R3)がセンサ電極11aの埋設箇所を通過する際に得られる計測値から、その平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて油膜の膜厚を求めている。このため、油膜の膜厚をより高い精度で計測することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態による膜厚計測装置及び方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態ではピストンPに1つ又は3つのピストンリングが設けられている例について説明したが、ピストンに設けられるピストンリングの数が制限されることはない。また、上記実施形態では、説明を簡単にするために、シリンダライナSに埋設された静電容量センサ11が1つである例について説明したが、静電容量センサ11の埋設数及び埋設位置は任意である。
【符号の説明】
【0054】
10,20,30 膜厚計測装置
11 静電容量センサ
13 静電容量計測部
14 クランク角度検出部
15,16 膜厚演算部
24 膜厚演算部
L ピストンリング摺動面
R ピストンリング
R1〜R3 ピストンリング
S シリンダライナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナのピストンリング摺動面に埋設された検出電極とピストンリングとの隙間に形成された潤滑油の油膜の静電容量を計測する静電容量計測部を備えており、当該静電容量計測部の計測値を用いて前記油膜の膜厚を計測する膜厚計測装置において、
前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求め、前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値から当該平均値を差し引いて得られる補正計測値に基づいて前記油膜の膜厚を求める膜厚演算部を備えることを特徴とする膜厚計測装置。
【請求項2】
前記ピストンリングは、複数設けられており、
前記膜厚演算部は、前記複数のピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、前記複数のピストンリングの間隙の部分が前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値を用いて前記平均値を求める
ことを特徴とする請求項1記載の膜厚計測装置。
【請求項3】
前記ピストンリング摺動面に対する前記ピストンリングの位置を示すクランク回転角を検出するクランク回転角検出部を備えており、
前記膜厚演算部は、前記クランク回転角検出部によって検出されたクランク回転角を用いて前記検出電極と前記ピストンリングとの相対的な位置関係を求める
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の膜厚計測装置。
【請求項4】
シリンダライナのピストンリング摺動面に埋設された検出電極とピストンリングとの隙間に形成された潤滑油の油膜の静電容量を計測して前記油膜の膜厚を計測する膜厚計測方法において、
前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値の平均値を求める第1ステップと、
前記ピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値から当該平均値を差し引いて補正計測値を求める第2ステップと、
前記補正計測値に基づいて前記油膜の膜厚を求める第3ステップと
を有することを特徴とする膜厚計測方法。
【請求項5】
前記第1ステップは、複数設けられたピストンリングが前記検出電極の埋設箇所を通過する直前の複数点の計測値及び直後の複数点の計測値の少なくとも一方の計測値に加えて、前記複数のピストンリングの間隙の部分が前記検出電極の埋設箇所を通過する際に得られる計測値を用いて前記平均値を求めるステップであることを特徴とする請求項4記載の膜厚計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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