説明

膜損傷検知方法

【課題】膜破断を検知する方法を提供する。
【解決手段】膜の少なくとも片面を液体に接触させる膜湿潤工程と、前記膜湿潤工程に引き続き前記膜の片面を気体で加圧し、前記膜の両面間の差圧を検出して前記膜の損傷を検知する差圧計測工程を実施する膜損傷検知方法において、前記差圧計測工程は、前記膜の片側に気体を注入して加圧する空気注入工程と、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に膜損傷の有無を一次判断し膜破断ありと判断された場合は、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程と、前記一次判断工程に引き続き、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信する二次判断工程を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜を用いた水処理において、膜の損傷を検知する分野に属する。
【背景技術】
【0002】
浄水分野において、原水中の微生物、懸濁物質を除去する膜ろ過システムとして、ろ過膜にUF(限外ろ過)膜、MF(精密ろ過)膜を用いたシステムがある。これらは、従来の凝集沈殿・砂ろ過・塩素消毒で除去することができない、クリプトスポリジウムなどの病原性微生物の除去に非常に有効なシステムである。
現在、膜ろ過システムは、病原性微生物の除去を主目的に浄水分野に普及し始めているため、膜が破れた場合、確実にその異常を検出する技術が必要である。
【0003】
膜の破断を検知する装置および方法として以下のことが知られている。
一次側の圧力降下を測定して拡散流量を求める方法が知られている(非特許文献1)。主な流れは、以下の手順である。
・ 試験フィルタの細孔を試験液で満たした後、一次側および二次側の試験液を排出し、全ての弁を閉じる。
【0004】
・ 流入側の弁と、二次側の弁を開く。すなわち、二次側は大気開放する。
・ 試験用ガスを減圧弁まで送る。
・ 減圧弁でフィルタのバブルポイント以下の圧力に調節した試験用ガスを一次側に供給する。
・ 一次側の圧力を測定する精密圧力計と連通させ、圧力を微調整する。
【0005】
・ 一次側の弁を閉じ、所定の時間保持する。
・ (6)の間に降下した圧力を前記精密圧力計で測定し、拡散流量を算出する。
【非特許文献1】JIS K3833−1990 附属書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の膜損傷検知方法は、以下の問題がある。
非特許文献1の方法に従い機械で自動処理した場合は、試験フィルタの破損が大きいと、(4),(5)の段階で1次側の圧力が上昇せず、(6)以降の処理に進まないという問題点がある。膜に大きな損傷がある場合、損傷部から大量の空気が低圧部に流れるため、一次側と二次側の圧力差が大きくならないことがある(図5)。
【0007】
膜の損傷の検出下限を低くするために、エアフロー試験や圧力保持試験は、膜の内側と外側の圧力差を100kPa前後にする必要があるため、差圧があることを前提とする従来の方法では、試験不能となる問題点があった。
また、(1)にて試験液を排水するため、排水に時間がかかるという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、第一の発明は、膜の少なくとも片面を液体に接触させる膜湿潤工程と、前記膜湿潤工程に引き続き前記膜の片面を気体で加圧し、前記膜の両面間の差圧を検出して前記膜の損傷を検知する差圧計測工程を実施する膜損傷検知方法において、前記差圧計測工程は、前記膜の片側に気体を注入して加圧する空気注入工程と、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に膜損傷の有無を一次判断し膜破断ありと判断された場合は、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程と、前記一次判断工程に引き続き、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信する二次判断工程を実行する(請求項1)。
【0009】
また、第二の発明は、請求項1に記載の膜損傷検知方法において、前記一次判断工程は、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了することを特徴とする(請求項2)。
また、第三の発明は、請求項1に記載の膜損傷検知方法において、前記一次判断工程は、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後にろ液の流速が予め定めた流速閾値より大きい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する(請求項3)。
【0010】
また、第四の発明は、請求項1に記載の膜損傷検知方法において、前記一次判断工程は、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に積算流出水量が予め定めた積算流出水量閾値より大きい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する(請求項4)。
また、第五の発明は、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の膜損傷検知方法において、前記膜湿潤工程は、前記膜の2次側を液体で満水する(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1,2,3,4に記載の発明によれば、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇しない場合であっても、膜損傷を速やかに検知でき、膜損傷信号を発信できる。
また、請求項5に記載の発明によれば、非特許文献1で行われている試験液を排水する時間を省略でき、膜損傷検知を短時間化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
加圧する側は、原水側およびろ過水側のいずれの側から行っても膜損傷検知をすることができる。以下では、原水を供給する側を加圧側とした事例を説明する。
本発明に関するろ過装置の構成図を図1に示す。通常のろ過運転では、原水はろ過ポンプ2によって原水注入弁3から膜モジュール1に入り、膜でろ過されたろ過水はバルブ4を通ってろ過水タンク5に排水される。ろ過水はろ過水タンク5に一時蓄えられた後、オーバーフローした分が図示しないろ過水供給先へ送られる。
【0013】
膜の逆洗時は、ろ過水タンク5内の水を逆洗ポンプ6によって逆洗弁7を通り、膜を逆洗した後、ドレン弁14から排水される。
膜損傷検知方法は、次の手順で行う。通常、ろ過運転や逆洗を繰り返してろ過処理を行う中、逆洗の後に膜損傷検知を行うことが望ましい。
まず、膜の少なくとも片面を液体に接触させる膜湿潤工程を実施する。そして、膜湿潤工程に引き続く前記差圧計測工程は、前記膜の片側に気体を注入して加圧する空気注入工程と、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に膜損傷の有無を一次判断し膜破断ありと判断された場合は、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程と、前記一次判断工程に引き続き、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信する二次判断工程を実行することが望ましい。
【0014】
より詳細には、以下の実施例のごとく行う。
【実施例1】
【0015】
最初に、膜の一次側(中空糸膜内側)の水をドレン弁14から排水する。このとき、中空糸膜の原水側の全ての水を除くことはできず、中空糸膜の内側に多くの原水が残留する。通常は、膜モジュールがろ過水で濡れている状態から膜損傷検知操作を行うため、上記膜湿潤工程をあえて行わなくてもよいが、新品の膜モジュールの膜損傷を検査する時は、ろ過を行って、膜モジュールを水で濡らしてから膜損傷検知操作を行う。
【0016】
その後、空気注入工程を行う。すなわち、コンプレッサー8で加圧された空気を、減圧弁9を用いて圧力を100kPaに調整した後、空気注入弁10を開け、膜モジュール1に注入する。加圧側に残留していた水は、この空気に押され、中空糸膜でろ過されてろ過側へ流出する。このろ過水は、試験用排水弁15から排水される。このとき、試験用配水管16を水で満水状態とすることが望ましい。
【0017】
空気注入工程と並行して、空気注入工程開始時から所定時間後に差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程を実施する。前記一次判断工程で、空気注入工程開始時から所定時間後に差圧が予め定めた差圧閾値以上の場合には、二次判断工程に移行する。前記差圧閾値としては、例えば、90kPaとする。
【0018】
二次判断工程では、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた前記差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信し、一方、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた前記差圧閾値以上の場合は膜損傷なしの信号を発信する。
【実施例2】
【0019】
最初に、膜の一次側(中空糸膜内側)の水をドレン弁14から排水する。このとき、中空糸膜の原水側の全ての水を除くことはできず、中空糸膜の内側に多くの原水が残留する。通常は、膜モジュールがろ過水で濡れている状態から膜損傷検知操作を行うため、上記膜湿潤工程をあえて行わなくてもよいが、新品の膜モジュールの膜損傷を検査する時は、ろ過を行って、膜モジュールを水で濡らしてから膜損傷検知操作を行う。
【0020】
その後、空気注入工程を行う。すなわち、コンプレッサー8で加圧された空気を、減圧弁9を用いて圧力を100kPaに調整した後、空気注入弁10を開け、膜モジュール1に注入する。加圧側に残留していた水は、この空気に押され、中空糸膜でろ過されてろ過側へ流出する。このろ過水は、試験用排水弁15から排水される。このとき、試験用配水管16を水で満水状態とすることが望ましい。
【0021】
空気注入工程と並行して、空気注入工程開始時から所定時間後にろ液の流速が予め定めた流速閾値より大きい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程を実施する。前記一次判断工程で、空気注入工程開始時から所定時間後にろ液の流速が予め定めた流速閾値以下の場合には、二次判断工程に移行する。前記流速閾値としては、例えば、1L/minとする。
【0022】
二次判断工程では、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた前記差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信し、一方、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた前記差圧閾値以上の場合は膜損傷なしの信号を発信する。
【実施例3】
【0023】
最初に、膜の一次側(中空糸膜内側)の水をドレン弁14から排水する。このとき、中空糸膜の原水側の全ての水を除くことはできず、中空糸膜の内側に多くの原水が残留する。通常は、膜モジュールがろ過水で濡れている状態から膜損傷検知操作を行うため、上記膜湿潤工程をあえて行わなくてもよいが、新品の膜モジュールの膜損傷を検査する時は、ろ過を行って、膜モジュールを水で濡らしてから膜損傷検知操作を行う。
【0024】
その後、空気注入工程を行う。すなわち、コンプレッサー8で加圧された空気を、減圧弁9を用いて圧力を100kPaに調整した後、空気注入弁10を開け、膜モジュール1に注入する。加圧側に残留していた水は、この空気に押され、中空糸膜でろ過されてろ過側へ流出する。このろ過水は、試験用排水弁15から排水される。このとき、試験用配水管16を水で満水状態とすることが望ましい。
【0025】
空気注入工程と並行して、空気注入工程開始時から所定時間後に積算流出水量が予め定めた積算流出水量閾値より大きい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程を実施する。前記一次判断工程で、空気注入工程開始時から所定時間後に積算流出水量が予め定めた積算流出水量閾値以下場合には、二次判断工程に移行する。前記積算流出水量閾値としては、膜モジュール1の原水側および前記原水側に連通した配管の総容積より大きく、かつ、膜モジュール1の全体および前記原水側に連通した配管の総容積以下とするのが望ましい。
【0026】
二次判断工程では、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた前記差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信し、一方、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた前記差圧閾値以上の場合は膜損傷なしの信号を発信する。
以下、膜の損傷がない場合(図5)と損傷がある場合(図6)の各測定結果について説明する。図5および図6は、空気の注入開始時からの加圧側圧力、ろ過水側の圧力、試験用排水弁15から流出するろ過水流速の時間経過による変化を示したものである。
【0027】
図5において、加圧開始から60秒まで、加圧側とろ過水側の圧力がほぼ同じであった。この時、原水側に残留した原水が加圧空気に押されてろ過されていた。すなわち、一次側(加圧側)に残留している原水を加圧空気で押して膜を透過させ、二次側(ろ過水側)に流出する際、一次側に原水が残留している間は、加圧側とろ過水側には差圧がほとんど生じない。その後、ろ過水流速が高い間は、加圧側圧力が一定であり、ろ過水側圧力は徐々に低下している。そして、ろ過水流速がゼロになる約200秒後には、加圧側とろ過水側には所定の圧力差約90kPaが生じている。
【0028】
一方、図6では、240秒を経過しても加圧側とろ過水側の圧力に大きな差が生じない。そして、ろ過水流速も2L/min程度持続している。
したがって、図5と図6を比較すれば、圧力がほぼ安定する240秒以降に、差圧またはろ過水流速のいずれかを測定することにより、膜損傷検知を行うことができることがわかる。また、図6において、ろ過水流速がゼロにならず継続して水が流れていることから、ろ過水側の積算流出水量を測定することでも膜損傷検知を行うことができる。
【0029】
なお、図6では480秒でろ過水側の水が全て押し出されたため、測定を中止している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に関するろ過装置の構成図
【図2】膜破断検知方法の一例を示した工程図
【図3】膜破断検知方法の一例を示した工程図
【図4】膜破断検知方法の一例を示した工程図
【図5】正常膜における挙動を表すグラフ
【図6】破断膜における挙動を表すグラフ
【符号の説明】
【0031】
1 膜モジュール
2 原水ポンプ
3 原水注入弁
4 処理水排水弁
5 ろ過水タンク
6 逆洗ポンプ
7 逆洗弁
8 コンプレッサー
9 減圧弁
10 空気注入弁
11 空気注入管
12 空気用流量計(空気流量によるエアフロー試験装置の場合に設置)
13 大気開放弁
14 ドレン弁
15 試験用排水弁
16 試験用排水管
17 水用流量計(水流量によるエアフロー試験装置の場合に設置)
18 試験用排水口
19 加圧側圧力計
20 ろ過水側圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜の少なくとも片面を液体に接触させる膜湿潤工程と、前記膜湿潤工程に引き続き前記膜の片面を気体で加圧し、前記膜の両面間の差圧を検出して前記膜の損傷を検知する差圧計測工程を実施する膜損傷検知方法において、
前記差圧計測工程は、前記膜の片側に気体を注入して加圧する空気注入工程と、
前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に膜損傷の有無を一次判断し膜破断ありと判断された場合は、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了する一次判断工程と、
前記一次判断工程に引き続き、加圧側がバブルポイントより低い所定圧力まで上昇した時から所定時間後に前記差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合は膜損傷ありの信号を発信する二次判断工程を実行することを特徴とする膜損傷検知方法。
【請求項2】
前記一次判断工程は、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に差圧が予め定めた差圧閾値より小さい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了することを特徴とする請求項1に記載の膜損傷検知方法。
【請求項3】
前記一次判断工程は、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後にろ液の流速が予め定めた流速閾値より大きい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了することを特徴とする請求項1に記載の膜損傷検知方法。
【請求項4】
前記一次判断工程は、前記空気注入工程と並行して、前記空気注入工程開始時から所定時間後に積算流出水量が予め定めた積算流出水量閾値より大きい場合には、膜損傷ありの信号を発信し、直ちに差圧計測工程を終了することを特徴とする請求項1に記載の膜損傷検知方法。
【請求項5】
前記膜湿潤工程は、前記膜の2次側を液体で満水することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の膜損傷検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−253888(P2008−253888A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96554(P2007−96554)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】