説明

膜構造体を有する熱放射検出用デバイス、このデバイスの製造方法および使用方法

本発明は、熱放射検出用デバイスに関し、このデバイスは、熱放射を電気信号に変換するための少なくとも1つの熱検出器要素が上に配置された少なくとも1つの膜と、膜を支持するとともに、電気信号を読み出す少なくとも1つの読出し回路を支持するための少なくとも1つの回路支持体とを含み、検出器要素と読出し回路は、膜を貫通する電気接点によって電気的に一緒に接続される。さらに、以下の方法ステップを用いてこのデバイスを製造する方法が提供される。a)検出器要素および少なくとも1つの電気貫通接続部を有する膜を用意するとともに回路支持体を用意し、b)膜と回路支持体を、膜を貫通する電気接点によって検出器要素と読出し回路が電気的に一緒に接続されるようにして一緒にする。製造作業は、ウェハ・レベルで実施されることが好ましく、機能化されたシリコン基板が互いに積み重ねられ、互いに堅固に接合され、次いで個別の要素に分割される。検出器要素は、集電検出器要素を含むことが好ましい。このデバイスには、動き検出器、存在検出器、および熱画像カメラでの応用が見出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱放射を電気信号に変換するための少なくとも1つの熱検出要素を有する熱放射検出用デバイスに関する。このデバイスに加えて、このデバイスの製造方法、およびこのデバイスの使用方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
熱放射を検出するデバイスが、例えばドイツ特許出願公開第10004216A1号により知られている。このデバイスはパイロ検出器と記載されている。この検出器要素は、集電検出器要素である。これは、2つの電極層を含む層構造体を有し、集電感応材料を有する集電層がその電極層の間に配置されている。この材料は、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)である。この電極は、例えば白金を含み、あるいは熱吸収クロム/ニッケル合金である。
【0003】
熱検出器要素は、シリコンでできた検出器支持体(シリコン・ウェハ)に接続される。検出器要素と検出器支持体の間の電気的および熱的絶縁を行うために、検出器要素と検出器支持体の間に絶縁層が配置される。この絶縁層は、排気された空洞を有し、検出器要素の領域、空洞の支持体層、ならびにこの支持体層および空洞の上のカバーを覆って延びる。支持体層はポリシリコンを含む。カバーは、ボロンリン・シリケート・ガラス(BPSG)でできている。検出器要素によって生成された電気信号を読み出し、処理し、かつ/またはさらに転送するために、読出し回路が検出器支持体に組み込まれる。この読出し回路は、CMOS(相補形金属酸化膜半導体)技術の応用によって生成される。
【0004】
熱放射を検出する比較可能なデバイスが、ドイツ特許出願公開第19525071A1号により知られている。その熱検出器要素もまた、上記のような集電検出器要素である。この検出器要素は、多層検出器支持体上に配置される。検出器要素は、その電極層の一方で、検出器支持体のシリコン層に付けられる。このシリコン層は、検出器支持体の電気絶縁膜上に配置される。この膜は、例えば三重の層、すなわちSi34/SiO2/Si34を含む。再び、この膜が検出器基板のシリコン基板に付けられる。このシリコン基板は、すべての実際的な用途のために集電検出器要素の面積と一致する面積がある放射窓(検出窓)を有する。この放射窓は、シリコン基板の開口である。そのために、基板の支持体材料(シリコン)は膜に至るまで除去される。熱放射は、放射窓を通って検出器要素に達し、評価できる電気信号をそこで生成する。その点に関し、膜は、熱放射を伝達する適切な手段を提供することが顕著である。検出器要素に対して横にずれたシリコン層内に、電気信号の読出し回路が集積化される。検出器支持体はまた、読出し回路の回路支持体としても機能する。
【0005】
既知の検出器の場合では、複数の検出器要素が設けられることがある(検出器要素アレイ)。そうした状況では、検出器要素のそれぞれからの電気信号が別々に読み出されることになる。通常、検出器要素それぞれの電極層との電気的接触は、ボンディング・ワイヤによって行われる。しかし、このことは、検出器要素の配線にかなりのスペースが必要とされ、その結果、検出器要素の集積密度(検出器支持体の単位面積当たりの検出器要素の数)が限定され相対的に低くなることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第10004216A1号
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第19525071A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術と比較してスペース要求が少ない熱放射検出用小型デバイスを明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するための熱放射検出用デバイスを説明する。このデバイスは、熱放射を電気信号に変換するための少なくとも1つの熱検出器要素が上に配置された少なくとも1つの膜と、膜を支持するとともに、電気信号を読み出す少なくとも1つの読出し回路を支持するための少なくとも1つの回路支持体とを、膜を貫通して検出器要素と読出し回路が電気的に一緒に接続されるように含む。
【0009】
さらに、この課題を解決するための、このデバイスを製造する以下の方法ステップを伴う方法を説明する。a)検出器要素および少なくとも1つの電気貫通接続部を有する膜を用意するとともに、回路支持体を用意し、b)膜と読出し回路支持体を、膜を貫通する電気接点によって検出器要素と読出し回路が一緒に接続されるようにして組み立てる。
【0010】
検出器支持体として機能する膜は、1層または複数の膜を含む。この場合に、複数の無機材料または有機材料を使用することができる。例えば、この膜の層は、二酸化シリコン(SiO2)または窒化シリコン(Si34)で作製することができる。さらに、いくつかの上記の層からなる複合構造体も考えられる。これらの材料からなる層の特別な利点は、それらの電気的および熱的絶縁特性にある。これらの材料は、電気および熱の絶縁体として機能する。
【0011】
本発明によれば、膜および回路支持体を含む小型で省スペースの多層構造体を実現することができる。その評価回路は、例えばCMOS技術によって、回路支持体内に直接集積することができる。回路支持体が、検出器要素と接続するワイヤを1本だけしか提供しないことも考えられる。このワイヤは検出器要素を、回路支持体内に配置された内部ASIC(特定用途向け集積回路)と、または外部ASICと電気的に接続する。外部ASICはボンディングすることができる。外部ASICとの接触が「フリップチップ」技術(下記参照)を用いて行われるならば有利である。
【0012】
検出されるべき熱放射は、1μmよりも長い波長を有する。この波長は、5〜15μmの範囲から選択されることが好ましい。熱検出器要素は、例えばゼーベック効果に基づく。熱検出器要素は集電検出器要素が好ましい。最初に説明したように、集電検出器要素は、集電感応材料を備えた集電層を、どちらかの面に電極材料を付けて含む。集電感応材料は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO3)またはジルコン酸鉛などのセラミックである。考えられる代替物として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの強誘電性ポリマーがある。電極層の電極材料は、例えば白金または白金合金とすることができる。クロム−ニッケル電極もまた、それが導電性酸化物の電極であるので考えられる。一般に、検出器要素は、縁部の長さが25μm〜200μmである長方形の領域を有する。
【0013】
特定の一実施形態によれば、回路支持体および膜は、膜と回路支持体の間に、膜および回路支持体と境界を接し、回路側に位置する少なくとも1つの空洞があるように、互いに配置される。この空洞は、回路支持体と膜を互いに熱的に分離する。
【0014】
特定の一実施形態では、検出器要素を遮蔽するために少なくとも1つのカバーが設けられる。回路支持体、膜およびカバーはスタックの形に配置され、膜が回路支持体とカバーの間に位置する。カバーは、検出器要素を有害な環境の影響から保護する。典型的な環境の影響には、例えばほこり、湿気、腐食性化学物質があり、これらは検出器要素の構成要素を冒し、あるいは検出器要素の機能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0015】
別の実施形態によれば、膜およびカバーは、膜とカバーの間に、カバー側に位置する少なくとも1つの空洞があるように、互いに配置される。このカバー側の空洞は、膜または膜上の検出器要素とカバーとを互いに熱的に分離する働きをする。
【0016】
熱的分離の程度を改善するために、回路側および/またはカバー側の空洞は排気されることがあり、あるいは排気することができる。その場合に、各空洞は互いに独立して排気することができる。回路側の空洞とカバー側の空洞は、膜の開口を通じて一緒になるように接続されることが好ましい。この開口は、例えば膜内のスリットである。その場合、一方の空洞の排気が自動的に他方の排気にもなる。
【0017】
熱放射を検出するのに用いられる作用とは関係なく、すべての場合で熱放射が、関連した作用を取り除く検出器要素を形成している熱感応材料によって、吸収される必要がある。この吸収は、熱感応材料によって直接行われる。しかし、熱放射が検出器要素の電極または電極層によって吸収されることも考えられる。さらに、熱放射が検出器要素に直近の吸収物によって吸収され、その後、このようにして捕捉された熱量が対流または伝導によって熱感応材料まで移されることもまたありうる。この吸収物はエネルギー伝達器として働く。例えば、吸収物は、コーティングの形で検出器要素に直接塗布される。
【0018】
熱放射検出用デバイスは、熱放射が検出器要素に直接当たるように設計されることが好ましい。それを考慮して、特定の一実施形態では、膜、回路支持体、および/またはカバーは、熱放射が検出器要素に照射することができるようにする特別な伝達性能を備えた少なくとも1つの放射窓を有する。この放射窓は、カバー、検出器支持体、および/または回路支持体に組み込まれる。検出器要素と放射窓は、検出器要素の照射が、検出器支持体に対し後ろ向きにされた検出器要素の前面で行われ(前面放射)、かつ/または検出器要素の方に向けられた検出器要素の後面から行われるように(後面照射)、互いに配置される。放射窓は、検出器要素の方向に特別な伝達能力を有する。その伝達率は可能な限り高く、例えば、少なくとも50%、具体的には70%からほぼ95%に達する。
【0019】
好ましい任意の材料を回路支持体またはカバー用に使用することができる。半導体材料で、例えば元素のゲルマニウム、または異なる半導体化合物は、電気回路または構成要素の集積化の可能性があるので特に適している。特定の一実施形態によれば、回路支持体および/またはカバーはシリコンを含む。それぞれの場合で、シリコン基板がカバーとして、かつ/または回路支持体として使用される。CMOS技術を使用して、選択された構造および機能を基板に組み込むことができる。シリコンは熱放射に対する吸収係数が低いので、さらに放射窓も非常に容易にシリコン基板に組み込むことができる。すなわちシリコン基板自体が放射窓を形成する。対応する機能をシリコン基板内に適切に配置することによって、熱放射が検出器要素に当たることが、妨げられないで、すなわち影がない状態で可能になる。
【0020】
伝達性能は、放射窓がつくられる材料の吸収係数だけでは決まらない。別の決定要因は、放射窓の厚さである。放射窓が、検出器支持体または回路支持体の薄くした領域を形成するならば有利である。特定の一実施形態では、検出器要素は、カバーの開口に対向するように配置される。このカバーの開口は、カバーの厚さが相対的に薄い領域である。この領域では、カバーの厚さは、例えば材料の除去により特に薄くなる。カバーの開口は、カバーに組み込まれた放射窓を形成し、この窓を通って熱放射が検出器要素に当たる。検出器要素は、カバーの開口からいくらか遠ざけることが好ましい。カバーの開口は、膜とカバーの間でカバー側に配置された空洞の構成要素部である。
【0021】
特定の一実施形態では、膜と回路支持体、および/または膜とカバー、および/または貫通接続と回路支持体、および/または貫通接続とカバーは、恒久材接合部、特に密閉形恒久材接合部によって一緒になるように堅固に結合される。堅固な接合を実現するために、恒久材接合部が製作される。膜と回路支持体の間の堅固な接合は、膜の貫通電気接点と回路支持体の間に恒久材接合部を製作することによって実現される。膜とカバーの間の堅固な接合は、膜とカバーの間に恒久材接合部を製作することによって実現される。
【0022】
デバイスのそれぞれ異なる構成要素間の恒久材接合部は、同時に、または連続的に製作することができる。恒久材接合部は、排気することができる空洞(カバー側配置、またはスイッチ側配置)が形成されるようにして設計される。空洞内に見出されるデバイスの構成要素、例えばカバー側配置空洞内の検出器要素は、密閉形恒久材接合部によって環境から保護される。周囲の環境とで物質の交換が起こる可能性がない。これによりデバイスは、侵略的な環境中で使用できるようになる。
【0023】
それぞれの恒久材接合部は、好ましい材料、例えば接着剤で形成することができる。恒久材接合部を所定の場所に入れるのと同時に、電極層と読出し回路の間に導電接続部を挿入することが特に有利である。そのために、特定の一実施形態では、恒久材接合部は導電材料を有する。これは特に、膜に組み込まれた貫通電気接点と、回路支持体または回路支持体に集積された読出し回路との間の恒久材接合部に関連する。しかし、導電機能を有する恒久材接合部は、それがカバーと膜または膜上の検出器要素との間に配置された場合、検出器要素の配線構成要素がカバー内に組み込まれるならば有利なことがある。
【0024】
恒久材接合部の製作のためにあるのが、いわゆる「フリップチップ」技術である。これによって、構築および接続の技術に関連するアセンブリ方法(AVT)が理解され、何にもましてエレクトロニクスの分野で、ハウジングのない形態の半導体マイクロチップまたは集積回路とで接点を製作するのに効果的であることが実証されている。フリップチップ技術を用いて、接続ワイヤが全くないチップが、活性接触面を下方(回路支持体)に向けて基板上に直接実装される。恒久的な固定は、導電材料でできたいわゆる「バンプ」を用いて行われる。このため、リード長が非常に短かくなる。これは本発明で使用され、小型デバイスの構築ということになる。さらに、リード長が非常に短かい結果、読み出されるべき電気信号に干渉する、望ましくない分散誘導および分散容量の影響が最小限まで低減される。この影響が、相対的に少数の検出器要素が接続されるべき場合に特に有利に作用する。さらに、フリップチップ技術の助けにより、いくつかの電気接続を同時に行うことができ、その結果、コストおよび時間が極めて大幅に節減されることになる。
【0025】
「フリップチップ」技術を実施し、結果として恒久材接合部の製作を実施するのに別の技法を用いることもできる。特定の一実施形態では、接着、ハンダおよび/またはボンディングの各方法を含む群のうちの1つを選択して使用することができる。その場合、接着接合または共晶接合の両方が考えられる。ハンダ付けの場合では、ハンダ・バンプ(ハンダ球)が、支持体フィーチャの一方または両方、あるいは一緒に結合されるべきデバイスの構成要素に付けられる。列記したこれらの方法は、接着と比べて好ましい。というのは、接着が使用された場合には有機物質(溶剤、接着材料など)のガス放出が起こりうるからである。特に空洞の排気に関連して、これは念頭においておくべき要素である。それでもやはり、接着剤の使用に頼ることが必要、あるいは有利なこともある。
【0026】
接着剤を使用する場合は、いくつかの異なるオプションが利用可能である。すなわち接着は、導電性ではない接着剤を使用することによって行うことができる。その場合、バンプは、適切な支持体フィーチャの接触領域に付けられる。バンプは、例えばアルミニウムまたは金を含む。接着剤の層が付けられた後、適切な要素が接着剤層の上に配置される。それが乾燥すると、接着剤が収縮して電気接点を形成する。
【0027】
同様に、等方性の導電接着剤を使用することができる。導電接着材料は、支持体フィーチャの接触面に付けられる。次に、接触領域を備えたこの物は、接着剤が与えられた各箇所に配置される。接着剤は熱で、または紫外線放射を使用することで硬化させることができ、それによって導電材料接合部が作製されることになる。
【0028】
別法として、異方性導電接着剤を使用することもできる。異方性導電接着剤は、導電性粒子の含有量が少ない非導電接着剤を含む接合材料である。この異方性導電接着剤は、支持体フィーチャ(回路支持体、膜)の接触領域の上に配置される。導電性粒子は、その含有量が少ないために、接着剤が塗布された後では互いに接触しない。導電接触は行われない。対象物が所定の場所に配置されると、その非導電接着剤が、支持体フィーチャの接触領域と塗布物の接触領域との間の粒子が一緒になるまで圧縮され、それによって、これらの接触領域の間に導電結合部が生成される。
【0029】
膜を用意するために、具体的には以下の、d)犠牲材料を使用して犠牲支持体要素を用意する方法ステップと、c)犠牲支持体要素の表面の一部に膜を配置するとともに、この膜と、膜を支持するための膜支持体要素とを一緒にする方法ステップと、e)膜が少なくとも部分的に解放されるように犠牲材料を除去する方法ステップとが実施される。犠牲支持体要素はシリコンを含むことが好ましい。膜支持体要素は、例えば膜の一時的な支持体として働く。しかし、膜支持体要素は、後で検出器要素のカバーとして使用することができる。犠牲支持体の上に膜を配置すること、および膜と膜支持体フィーチャが一緒になるようにすることは、同時に、または連続して行うことができる。これに関し、材料の除去は、例えばシリコンの反対面を膜に至るまで腐食して取り去ることを意味する。さらに膜は、回路支持体に接続された貫通接続部を備える膜支持体上に残る。
【0030】
貫通接続部を生成することは、様々な方法ステップを用いて実現することができる。特定の一実施形態では、以下の別の方法ステップが、犠牲支持体の上に膜を配置する前、あるいは犠牲支持体の上に膜を配置した後に実施される。f)膜にドリルで孔を開けること、およびg)電気的接触が行われるように、その孔を導電材料で充填すること。
【0031】
この方法の特定の一実施形態によれば、カバー側の空洞、および/または回路側の空洞は、堅固な接続を行う間、かつ/または行った後に排気される。例えば、スタックの各構成要素間の恒久材接合部の製作は、真空のもとで行われる。各空洞は、恒久材接合部の形成とともに排気される。空洞がまず形成され、後で排気されることもまた考えられる。ここで、各空洞は連続して、または同時に排気できることに留意されたい。同時排気の場合に各空洞は、等圧にして接続することができる。これは、スタック内の2つの空洞で圧力が同じであり、各空洞が、例えば膜の孔で接続されていることを意味する。
【0032】
デバイスは、単一の検出器要素を有することができる。しかし、存在検出器として、または特に熱感応カメラとして使用されるデバイスに関しては、複数の検出器要素が設けられることが望ましく、また必要でさえある。したがって、特定の一実施形態では、複数の検出器要素を備えた少なくとも1つのアレイが用意される。これは、1つの検出器要素がアレイ内の1つのピクセルであることを意味する。この検出器アレイは、例えば、検出器要素の縦の段になった配列および/または細胞状の配列によって特徴付けられる。細胞状または縦の段になった配列の場合では、検出器要素は、特定の方向に1次元で分布する。縦の段になった配列と細胞状配列の場合では、その分布は2次元的なものになる。その検出器アレイは、例えば240×320の個別要素を含む。これは、比較的低い解像度規格のQVGAに対応する。検出器要素の領域型分布を選択することもまた考えられる。放射窓は、各検出器要素ごとに設けることができる。しかし、デバイスがいくつかの検出器要素またはすべての検出器要素に対して単一の放射窓を有することが有利である。こうすると、デバイスの製造を簡単にすることができる。
【0033】
別の実施形態によれば、デバイスはケーシングを有する。膜と回路支持体の堅固な付着により、また膜とカバーの堅固な付着によりスタックが得られ、その周りにはケーシングが配置される。このケーシングは、有害な環境の影響、例えば湿気から、また機械的損傷からもスタックおよびその構成要素部品を保護する。ここで保証されるべき1つの要点は、検出器要素の上にくる放射にケーシングが悪影響を及ぼさないことである。そのために、熱放射の高い伝達率を可能にする放射窓がケーシングに組み込まれる。
【0034】
ケーシングは、任意の選択された材料でできたハウジングを含むことができる。このハウジングは、キャスティング・コンパウンドであることが好ましい。このケーシングを得るために、射出成形法または成形法の群のうちの1つを用いることができる。これらの方法は、コストの理由で特に有利である。この方法は、架橋していない、または部分的に架橋した合成材料をスタックに加えることを含む。次に、この合成材料は熱誘導され、あるいは紫外光に露光することによって硬化される。放射窓を組み込むために、例えばマスクが使用され、これは、合成材料が所定の場所に置かれてから、またはその材料が硬化された後に除去される。これは、例えば、ばね留め挿入物を装着した移動金型を使用して実施される。合成材料が所定の場所に置かれて硬化された後にケーシング内に残る熱放射に対し高い伝達率を有する材料から製作された放射窓を使用することもまた考えられる。
【0035】
説明した方法は、熱放射検出用の単一デバイスを製造するのに用いることができる。しかし、複数のデバイスが同時に並行して製造されるならば有利である。したがって、特定の一実施形態では、熱放射検出用のいくつかのデバイスがウェハ・レベルで製造される。製造が完了したときに、デバイスまたはスタックが分離される。ウェハは、回路支持体に、場合によりカバーに使用され、特に、上述のように一緒にされるいくつかの関連する構成要素および機能をそれぞれが備えるシリコン・ウェハに使用される。スタックは、好ましくはケーシングを付ける前に互いに分離される。この分離または分割は、例えば鋸引き、腐食、または同様な方法によって行われる。分離が完了すると、ケーシングがデバイスの各スタックに付けられる。
【0036】
本発明の別の態様によれば、このデバイスは動き検出器、存在検出器として使用され、かつ/または熱画像カメラとして使用される。動き報知器では、単一の検出器要素を備えたデバイスが適切なことがある。存在報知器では、デバイスに複数の検出器要素が装着されることがある。熱画像カメラでは、デバイスは、多数の検出器要素、例えば(QVGA規格に適合するのに)240×320の検出器要素を必要とする。これは、簡単で省スペースの配線技法を検出器要素に用いることによって実現することができる。
【0037】
要約すると、本発明について以下の利点を特定することができる。
・熱放射検出用デバイスが小型である。
・サンドイッチ構造により、いくつかの検出器要素を省スペースで接続することができる。
・検出器要素の電極と、その割り当てられた読取り回路または読取り要素との間の電気リード線が短かい。検出器要素の検出能力に影響を及ぼす干渉を招く誘導性および容量性効果が、ボンディングされたワイヤと比べて明らかに低減される。
・接触を行う方法によって、高度の並行化を製造作業に導入することが可能である。
・密閉恒久材接合部により、排気することができてデバイスの感度を改善し検出器要素を保護することになる空洞へのアクセスが簡単である。
【0038】
いくつかの実施形態および添付の図を参照して、熱放射検出用デバイスを以下に提示する。図は概略的なものであり、原寸に比例していない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】熱放射検出用デバイスの断面図である。
【図2】検出器支持体上の検出器要素の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
熱放射の検出用デバイス1は、熱放射を電気信号に変換するための検出器要素111からなる検出器アレイ110付きの膜11を備えたスタック10と、電気信号を読み出すための読出し回路121付きの回路支持体12と、検出器要素を覆うための少なくとも1つのカバー13とを有し、膜およびカバーは、検出器支持体の検出器要素とカバーの間に、検出器支持体およびカバーと境界を接する空洞14がスタック内でカバー側にあるように互いに配置され、回路支持体および検出器支持体は、検出器支持体と回路支持体の間で、回路支持体および検出器支持体と境界を接する少なくとも1つの空洞15が回路側にあり、この空洞が排気されるように互いに配置される。これらの空洞は、膜のスリットで一緒になるように接続される。
【0041】
検出器要素は、2つの電極層112と、電極層の間に配置された集電層113とを有する薄い層構造体の集電検出器要素である(図3)。集電層は、集電感応性の約1μm厚のPZTの層である。電極層は、白金および約20nm厚のクロムニッケル合金でできている。
【0042】
膜は、Si34/SiO2/Si34の三重の層である。読出し回路が検出器要素の回路支持体に組み込まれる。
【0043】
回路支持体およびカバーはシリコン基板を含む。検出器要素は、第1のスタック空洞内に、カバー内の図示していない開口に対向するように配置される。開口の領域内に共通放射窓17が配置され、この窓を通して放射が検出器要素に当たる。放射は前面から通過する。
【0044】
膜、カバー、検出器支持体、および回路支持体は、すべて密閉恒久材接合部16によって一緒になるように堅固に接合される。第1の実施形態によれば、恒久材接合部はハンダ材料を含む。各支持体(シリコン基板)は、一緒になるようにハンダ付けされる。別法として、恒久材接合部はボンディングによって生成される。
【0045】
電気接続部123が、回路支持体と膜の間に作製されるべき検出器要素に用意される。電気信号は、配線または読出し回路を用いて検出器要素から読み出される。カバーと膜の間の恒久材接合部はまた、導電材料も含む。ここでそれぞれの場合に、電気絶縁要素161が設けられることに注意されたい。
【0046】
膜を設けるために以下のステップが実施される。シリコンでできた犠牲支持体を準備すること、貫通接続部を有する膜を犠牲支持体の表面の一部分に配置すること、および膜が少なくとも部分的に解放されるように犠牲材料を除去すること。シリコンを除去するために、それを裏面から膜まで腐食し取り去る。こうすることにより貫通接続部を有する膜が残され、この貫通接続部は、次に回路支持体に接続される。
【0047】
貫通接続部は、選択された一連の方法ステップによって生成することができる。特定の一実施形態によれば、膜を犠牲支持体上に配置する前、あるいは膜を犠牲支持体上に配置した後に、以下の方法ステップが実施される。f)膜にドリルで孔を開け、g)その孔を電気的貫通接続部が有効になるように導電材料で充填する。
【0048】
恒久材接合部の製作中に、生成される空洞中に負圧が発生するように真空が加えられる。スタック内の空洞は、それらが形成される間に排気される。別法として、スタック内の空洞は、恒久材接合部が生成された後に排気される。
【0049】
スタックが生成されると、それにケーシング20が設けられる。非架橋合成材料が、スプレー・キャスティング技法によってスタックに塗布され、その後それが架橋する。別法として、成形技法を用いることができる。その場合、カバー内の放射窓が空いたままであること、すなわち窓が覆い尽くされていないことを保証するように注意しなければならない。
【0050】
このデバイスを製造するために、検出器アレイを有する膜、読出し回路を有する回路支持体、およびカバーが用意され、一緒になるように上記と同様に堅固に接続される。製造の次の段階がウェハ・レベルで実施される。シリコン・ウェハには、いくつかの適切な機能(読出し回路、および場合によってカバー開口)が設けられる。膜およびカバーを有する回路支持体は、ウェハ・レベルで準備される。これら機能化された各シリコン・ウェハは、一緒になるように上記と同様に堅固に接続される。いくつかの個別スタックを含むウェハ・スタックが生成される。接続作業が終了した後、各個別スタックは、ウェハ・スタックを鋸引きすることによって分離され、次に、それらのそれぞれにケーシングが設けられる。
【0051】
このデバイスには、動き検出器または存在検出器での応用が見出される。熱画像カメラに応用する場合には、複数のスタックが用意され、あるいはそれぞれのデバイスが1つのスタックを有する複数のデバイスが用意される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱放射を検出するデバイス(1)であって、
前記熱放射を電気信号に変換するための少なくとも1つの熱検出器要素(111)が上に配置された少なくとも1つの膜(11)と、
前記膜を支持するとともに、前記電気信号を読み出す少なくとも1つの読出し回路(121)を支持するための少なくとも1つの回路支持体(12)とを、前記検出器要素と前記読出し回路が電気貫通接続部(120)によって前記膜を貫通して電気的に接続されるように備える、デバイス。
【請求項2】
前記回路支持体および前記膜が、前記膜と前記回路支持体の間に、前記回路支持体および前記膜と境界を接する少なくとも1つの空洞(15)があるように互いに配置される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記検出器要素を遮蔽するための少なくとも1つのカバー(13)が設けられ、
前記回路支持体、前記膜、および前記カバーが、前記回路支持体と前記カバーの間に前記膜が配置されるようにスタックの形で配置される、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記膜および前記カバーが、前記膜と前記カバーの間の前記カバー側に少なくとも1つの空洞(14)が設けられるように互いに配置される、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記回路側に面する前記空洞、および/または前記カバー側に面する空洞が排気され、または排気ができる、請求項2から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記回路側空洞と前記カバー側空洞が、一緒になるように膜の開口(114)によって接続される、請求項4または5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記膜、前記回路支持体、および/または前記カバーが、特定の伝達能力を有する少なくとも1つの放射窓(17)を熱放射用に有し、それによって前記熱放射が前記検出器要素を放射加熱することができる、請求項4から6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記回路支持体および/または前記カバーがシリコンを含む、請求項1から7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記検出器要素が、カバー開口に対向するように配置される、請求項4から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記膜と前記回路支持体、および/または前記膜と前記カバー、および/または前記貫通接続部と前記カバーが、一緒になるように恒久材接合部(16)によって堅固に接合される、請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記恒久材接合部が導電材料を有する、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
複数の検出器要素を有する少なくとも1つの検出器アレイが設けられる、請求項1から11のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスがケーシング(20)を有する、請求項1から12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記ケーシングがキャスティング材料を含む、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記請求項のいずれかに記載のデバイスを製造する方法であって、以下の
a)前記検出器要素および少なくとも1つの貫通電気接点を有する前記膜を用意するとともに、前記回路支持体を準備する方法ステップと、
b)前記膜と前記回路支持体を、前記膜を貫通する電気接点によって前記検出器要素と前記読出し回路が電気的に一緒に接続されるようにして一緒にする方法ステップとを含む、方法。
【請求項16】
以下の
d)犠牲材料を使用して犠牲支持体を用意する方法ステップと、
c)前記犠牲支持体の表面の一部分に膜を配置するとともに、前記膜と膜支持体を一緒にする方法ステップと、
e)前記膜が少なくとも部分的に解放されるように犠牲材料を除去する方法ステップとが実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記膜が前記犠牲支持体上に配置される前、あるいは前記膜が前記犠牲支持体上に配置された後に、以下の
f)前記膜にドリルで孔を開ける方法ステップと、
g)前記孔を、前記貫通電気接点がもたらされるように導電材料で充填する方法ステップが実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
以下の、
h)恒久材接合部を用いて、前記膜を貫通する前記電気接点と前記回路支持体の間で前記膜と前記回路支持体を堅固に接合する方法ステップを含む、請求項15から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
以下の、
i)前記膜とカバーを、前記膜と前記カバーの間に恒久材接合部を生成することによって堅固に接合する方法ステップを伴う、請求項15から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記恒久材接合部が、接着剤、ハンダ材料および/またはボンディング材料を含む群のうちの1つを選択することによって生成される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記堅固な接合の間、かつ/または後に、前記回路側空洞および/またはカバー側空洞が排気される、請求項18から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
スタック(10)が、前記膜と前記回路支持体との前記堅固な接合によって、また前記膜と前記カバーとの前記堅固な接合によって形成され、ケーシング(20)が前記スタックに配置される、請求項19から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記ケーシングを配置するために、射出成形または成形を含む群から選択された方法が実施される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
いくつかの熱放射検出用デバイスがウェハ・レベルで製造され、その製造が完了したときに前記デバイスが互いに分離される、請求項15から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記デバイスの動き検出器、存在検出器および/または熱画像カメラとしての使用。

【図2】
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【図1】
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【公表番号】特表2010−528300(P2010−528300A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509728(P2010−509728)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004246
【国際公開番号】WO2008/145353
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509328283)
【氏名又は名称原語表記】PYREOS LTD.
【住所又は居所原語表記】West Mains Road EH9 3JF,Edinburgh United Kingdom
【Fターム(参考)】