説明

膜装置

【課題】膜支持板や蓋体に安価な汎用プラスチックを用いても、処理液流路が締め付け圧によって変形することなく、処理液の円滑な流れを確保でき、低コスト化を図ることのできる膜装置を提供すること。
【解決手段】平膜102を膜支持体101の片側又は両側に配設した膜モジュール10を複数並設してなり、前記膜支持体101の少なくとも一端側に処理液取出流路103を有し、該複数の膜モジュール10の処理液取出流路103の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュール10を固定してなる膜装置1において、前記膜支持体101が汎用プラスチックにより形成され、前記処理液取出流路103に該流路の断面積を保持する鋼材からなる補強部材16を設け、電気的防食手段を施したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜装置に関し、詳しくは、処理液流路を確実に確保できる膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膜装置としては、特許文献1、2に記載のものが知られている。特許文献1には、平膜を膜支持体の片側又は両側に配設した膜モジュールを複数並設してなり、前記膜支持体の少なくとも一端側に処理液取出流路を有し、該複数の膜モジュールの処理液取出流路の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュールを固定してなる膜装置が開示されている。
【0003】
また特許文献2、3には、平膜を膜支持体の片側又は両側に配設し、本体と蓋体とからなる膜モジュールを複数並設してなり、該蓋体に処理液取出流路を有し、該複数の膜モジュールの処理液取出流路の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュールを固定してなる膜装置が開示されている。
【特許文献1】特許第2538789号公報
【特許文献2】特開平6−218241号公報
【特許文献3】特開平9−57070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の膜装置において、膜支持板にPVC等の安価なプラスチック材を用いた場合、多数並設した状態で両側から押圧して締め付けた際、その締め付け圧によって処理液流路が変形し、処理液の円滑な流れを阻害してしまう問題がある。
【0005】
また特許文献2、3に記載の膜装置においても、処理液流路を有する蓋体の部位にPVC等の安価なプラスチック材を用いた場合、多数並設した状態で両側から押圧して締め付けた際、その締め付け圧によって処理液流路が変形し、処理液の円滑な流れを阻害してしまう問題がある。
【0006】
このため膜支持板や蓋体は、一般に強度に優れるエンジニアリングプラスチックのような高価な強化樹脂材を用いて形成されているが、かかる材質では膜以上に高価となってしまい、これにより膜装置は高コストなものとなっている。
【0007】
そこで、本発明は、膜支持板や蓋体に安価な汎用プラスチックを用いても、処理液流路が締め付け圧によって変形することなく、処理液の円滑な流れを確保でき、低コスト化を図ることのできる膜装置を提供することを課題とする。
【0008】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)
平膜を膜支持体の片側又は両側に配設した膜モジュールを複数並設してなり、前記膜支持体の少なくとも一端側に処理液取出流路を有し、該複数の膜モジュールの処理液取出流路の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュールを固定してなる膜装置において、
前記膜支持体が汎用プラスチックにより形成され、前記処理液取出流路に該流路の断面積を保持する鋼材からなる補強部材を設け、電気的防食手段を施したことを特徴とする膜装置。
【0011】
(請求項2)
本体と蓋体とからなる膜モジュールを複数並設してなり、該蓋体に処理液取出流路を有し、該複数の膜モジュールの処理液取出流路の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュールを固定してなる膜装置において、
前記蓋体が汎用プラスチックにより形成され、前記処理液取出流路に該流路の断面積を保持する鋼材からなる補強部材を設け、電気的防食手段を施したことを特徴とする膜装置。
【0012】
(請求項3)
前記鋼材が炭素鋼であり、前記電気的防食手段がカソード防食方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の膜装置。
【0013】
(請求項4)
前記鋼材がステンレス鋼であり、前記電気的防食手段がアノード防食方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の膜装置。
【0014】
(請求項5)
前記処理液取出流路が、断面が円形又はスリット状であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の膜装置。
【0015】
(請求項6)
前記電気的防食手段が、前記補強部材を作用極とし、該補強部材に直接又は間接に接触する導電部材を対極となるように導通し、該導電部材を前記補強部材よりも卑な金属で形成することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の膜装置。
【0016】
(請求項7)
前記電気的防食手段が、外部に排出された処理液を貯留する電解室を有し、該電解室に前記金属管よりも卑な金属で形成された対極を浸漬し、作用極となる前記補強部材に負の電位を印加すると共に前記対極に正の電位を印加する電源を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の膜装置。
【0017】
(請求項8)
海水を膜ろ過して得られる処理液を前記電解室で電解し、生成される次亜塩素酸またはその塩を前記膜の洗浄に用いることを特徴とする請求項7記載の膜装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、処理液流路を有する部位の部材に安価な汎用プラスチックを用いても、処理液流路が締め付け圧によって変形することなく、液体の円滑な流れを確保でき、低コスト化を図ることのできる膜装置を提供することができる。即ち、膜ろ過装置、透析装置、電解装置などの膜装置における処理液取出流路の閉塞を防止できるのみならず、電気防食によって鋼材からなる補強部材の腐食を防止できる。このとき鋼材として炭素鋼を使用することにより、加工性、経済性に優れるセルスタックを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の膜装置は、膜ろ過装置、透析装置、電解装置などの各種の膜装置が含まれ、処理液取出流路が締め付け圧によって変形を起こす可能性のあるものであれば特に限定されない。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る膜装置の一例を示す概略構成図である。
【0022】
10は膜モジュールであり、膜支持体101の片側又は両側に平膜102を配設している。以下の説明では両側に配設された例について説明する。
【0023】
膜モジュール10は複数並設されている。図示の例では2つが示されているが、格別限定されず膜面積と処理量によって適宜決められる。
【0024】
103は膜支持体101の少なくとも一端側に形成される処理液取出流路であり、図示の例では下端側に形成されている。
【0025】
複数の膜モジュール10、10は処理液取出流路103の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって(膜モジュール10の面方向(図示左右方向)の両側から)押圧して固定されている。
【0026】
11は複数の膜モジュール10、10を、定間隔をあけて並設させるための枠状のスペーサーである。
【0027】
膜装置には複数の膜支持体101間に原液流路13が設けられ、各膜モジュール10の上下に開口104、105が形成されている。
【0028】
原液槽14から循環ポンプ15の駆動によって膜装置内に原液が供給されると、処理液は平膜102を通過し、処理液取出流路103から外部に排出される。
【0029】
16は処理液取出流路103の補強部材である。補強部材16は炭素鋼製の金属管によって構成される。従って、低コストで形成できる。補強部材16は前記処理液取出流路103が押圧によって形状が変形するのを防止するもので、流路の断面積を保持する役割を果たす。具体的には、鋼材として炭素鋼を用いた金属管を処理液取出流路103に挿通することにより実現できる。
【0030】
このような金属管の設置により、膜支持体101に汎用プラスチックを用いることができ、コスト低減に寄与する。
【0031】
本発明において、鋼材は炭素鋼以外にステンレス鋼を用いることもできる。腐食性の強い流体の膜処理の場合に好適である。
【0032】
本発明では、前記鋼材の腐食を防止する上で、電気的防食手段を有することが重要である。膜装置自体に耐久性を付与するためである。鋼材が炭素鋼である場合には電気的防食手段はカソード防食方式であることが好ましく、また鋼材がステンレス鋼である場合には電気的防食手段はアノード防食方式であることが好ましい。
【0033】
以下に、電気的防食手段の好ましい態様として、炭素鋼に対するカソード防食方式を説明する。
【0034】
具体的には、電解室18を設け、集液管17を介して処理液を導入する。電解室18内には、内部に貯留される処理液内に浸漬するように対極19を設け、電源20から正の電位が印加されるように構成する。この対極19は、金属管16に使用される金属よりも電位が卑な金属によって形成される。
【0035】
作用極となる各金属管16には、電源20からそれぞれ負の電位が印加されるので、金属管16と対極19との間で処理液を介して電荷の移動が可能となり、各金属管16の防食を図ることができる。
【0036】
電源20から各金属管16及び対極19に常時電位を印加しても、防食目的の極めて微弱な電位で済むため、支持板101にエンジニアリングプラスチックのような高価な硬質材を用いる場合に比べれば、支持板101に塩化ビニル樹脂のような安価な材質を使用して低コスト化を図る方がコスト的には安くて済む。
【0037】
図2は、金属管16を防食するための別の態様を示している。図1と同一符号は同一構成であるため詳細な説明は省略する。
【0038】
これは、原液に海水を使用し、海水を膜装置1を介して膜処理する場合に特に好ましい態様であり、各金属管16から排出される処理液(海水)を集液する集液管17の液流路の途中から分岐管21が分岐され、排出された処理液の一部が電解室18に貯留されるようになっている。
【0039】
電解室18内には、内部に貯留される処理液内に浸漬するように対極19が設けられ、電源20から正の電位が印加されるようになっている。この対極19は、金属管16に使用される金属よりも電位が卑な金属によって形成されている。
【0040】
作用極となる各金属管16には、電源20からそれぞれ負の電位が印加されるので、金属管16と対極19との間で処理液を介して電荷の移動が可能となり、各金属管16の防食を図ることができる。
【0041】
また、電解室18内には、海水が電気分解され、
NaCl→Na+Cl
Cl+HO=HClO+H+2e
の反応によって次亜塩素酸またはその塩が生成される。
【0042】
この電解室18内に生成された次亜塩素酸またはその塩は、移送ポンプ22によって取り出され、移送管23を介して原液入口に供給可能とされている。24は移送管23を開閉する開閉弁である。
【0043】
従って、この態様によれば、膜102の洗浄時、原液の供給を停止すると共に開閉弁24を開閉して、電解室18内の次亜塩素酸またはその塩を膜装置内に供給して膜102の洗浄を行うことにより、膜102の殺菌洗浄が容易となる。
【0044】
次に、本発明の他の態様を説明する。
【0045】
図3は、カートリッジ式の膜モジュールを用いた例を示す概略斜視図であり、図4の(A)、(B)は蓋体の要部断面図である。
【0046】
本体150と蓋体151とからなる膜モジュール10が図示しないカートリッジに収納され、それが複数並設されている。なお、図面では便宜上1枚のみが示されている。
【0047】
複数の膜モジュールは図面の矢符の部位を押圧され固定されている。該蓋体151の押圧される部位には処理液取出流路103が設けられ、金属管16が挿通されている。
【0048】
この金属管16は図1に示すように防食処理が施されるが、図面上は省略されている。
【0049】
かかる金属管16の存在によって、蓋体151は汎用プラスチックにより形成でき、コスト低下に寄与する。金属管16の材質は、炭素鋼製である。
【0050】
以上の説明で、処理液取出流路103は、断面が円形の態様に限定されず、スリット状であってもよい。
【0051】
スリット状の場合には、スリットの内側を板状炭素鋼板を用いて補強できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る膜装置の一例を示す概略構成図
【図2】金属管16を防食するための別の態様を示す図
【図3】カートリッジ式の膜モジュールを用いた例を示す概略図
【図4】蓋体の要部断面図
【符号の説明】
【0053】
1:膜装置
10:膜モジュール
11:スペーサー
13:原液流路
14:原液槽
15:循環ポンプ
16:補強部材(金属管)
17:集液管
18:電解室
19:対極
101:膜支持体
102:平膜
103:処理液取出流路
104、105:開口
20:電源
21:分岐管
22:移送ポンプ
23:移送管
24:開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平膜を膜支持体の片側又は両側に配設した膜モジュールを複数並設してなり、前記膜支持体の少なくとも一端側に処理液取出流路を有し、該複数の膜モジュールの処理液取出流路の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュールを固定してなる膜装置において、
前記膜支持体が汎用プラスチックにより形成され、前記処理液取出流路に該流路の断面積を保持する鋼材からなる補強部材を設け、電気的防食手段を施したことを特徴とする膜装置。
【請求項2】
本体と蓋体とからなる膜モジュールを複数並設してなり、該蓋体に処理液取出流路を有し、該複数の膜モジュールの処理液取出流路の部位を膜の並設方向と直交する方向から内方向に向かって押圧して該膜モジュールを固定してなる膜装置において、
前記蓋体が汎用プラスチックにより形成され、前記処理液取出流路に該流路の断面積を保持する鋼材からなる補強部材を設け、電気的防食手段を施したことを特徴とする膜装置。
【請求項3】
前記鋼材が炭素鋼であり、前記電気的防食手段がカソード防食方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の膜装置。
【請求項4】
前記鋼材がステンレス鋼であり、前記電気的防食手段がアノード防食方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の膜装置。
【請求項5】
前記処理液取出流路が、断面が円形又はスリット状であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の膜装置。
【請求項6】
前記電気的防食手段が、前記補強部材を作用極とし、該補強部材に直接又は間接に接触する導電部材を対極となるように導通し、該導電部材を前記補強部材よりも卑な金属で形成することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の膜装置。
【請求項7】
前記電気的防食手段が、外部に排出された処理液を貯留する電解室を有し、該電解室に前記金属管よりも卑な金属で形成された対極を浸漬し、作用極となる前記補強部材に負の電位を印加すると共に前記対極に正の電位を印加する電源を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の膜装置。
【請求項8】
海水を膜ろ過して得られる処理液を前記電解室で電解し、生成される次亜塩素酸またはその塩を前記膜の洗浄に用いることを特徴とする請求項7記載の膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−66556(P2009−66556A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239985(P2007−239985)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】