説明

膜電極接合体および燃料電池

【課題】触媒利用率および発電効率の向上が高い膜電極接合体を提供する。
【解決手段】実施の形態に係る膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20と、固体高分子電解質膜20の一方の面に設けられたアノード触媒層26、固体高分子電解質膜20の他方の面に設けられたカソード触媒層30とを備える。アノード触媒層26は、固体高分子電解質膜20に接するアノード触媒層26aとアノードガス拡散層28に接するアノード触媒層26bの2層からなる。また、カソード触媒層30は、固体高分子電解質膜20に接するカソード触媒層30aとカソードガス拡散層32に接するカソード触媒層30bの2層からなる。アノード触媒層26aおよびカソード触媒層30aの触媒密度は、0.3g/cm以上1.5g/cm以下であり、アノード触媒層26bおよびカソード触媒層30bの触媒密度は、0.1g/cm以上1.0g/cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素とを電気化学的に反応させることにより発電させる装置である。一般に都市ガスやLPガス、灯油等から水素を生成し、その水素は膜電極接合体のアノード極(燃料極)に燃料として供給され、カソード極に酸素含有ガスが供給されることにより発電する。この反応による生成物は原理的に水であることから環境への負荷が少なく、分散型エネルギーシステムとして、普及が見込まれている。中でも、固体高分子形燃料電池は、運転温度が低く小型軽量化が容易であることから、幅広い用途への適用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の発電セルは、高分子電解質膜と、アノード触媒層と、アノードガス拡散層と、カソード触媒層と、カソードガス拡散層とからなる膜電極接合体を有する。
【0004】
触媒層は、一般的に、白金又は白金合金等が触媒として担持されたカーボン粒子が用いられており、白金は、水素分子の電子放出や、酸素がプロトン及び電子と反応することを促進する働きを有する。しかし、白金は希少金属であり非常に高価であることから、燃料電池の普及にあたり、少ない白金量で高い発電性能を有する燃料電池の開発が望まれている。
【0005】
高分子電解質膜と触媒層との境界では、プロトン移動に伴う水分移動のほか、アノード極側とカソード極側との水分濃度勾配に起因する逆拡散の水分移動も行われている。しかし、水分が過剰となると、触媒層やガス拡散層の腐食を招き、また、水素や酸素のガス拡散が阻害され、燃料電池の電圧降下を招くことから、適切な湿潤と撥水が求められる。
【0006】
膜電極接合体について、様々な技術が提案されている。
【0007】
特許文献1には、電解質と触媒担持体との重量比をほぼ一定に保ちながら、電解質膜側からガス拡散層側にかけて触媒密度が減少するように触媒層を形成する膜電極接合体が開示されている。すなわち、特許文献1に記載の膜電極接合体では、電解質膜側およびガス拡散層側における、高分子電解質の量と触媒の量との割合および触媒層の空孔率を最適化されている。
【0008】
特許文献2には、触媒層毎に粒径が異なる触媒担持カーボンを用いて空孔構造が異なる触媒層を形成する膜触媒接合体が開示されている。特許文献2に記載の膜触媒接合体では、電解質膜に接する触媒層をガス拡散層に接する触媒層に比して触媒層内の空隙の形成度合いを大きくすることで、電解質膜に接する触媒層の保水能力を高め、逆拡散減少により電解質膜のカソード面からアノード面への水分移動を容易にすることが図られている。
【0009】
特許文献3には、白金等を担持した触媒担持カーボンを、電解質膜に最も近い位置に配置される最内層から最も遠い位置に配置される最外層にかけて、触媒層において高分子電解質が占める割合が減少するように形成する膜触媒接合体が開示されている。特許文献3では、高分子電解質に近い最内層により多くの高分子電解質が含まれることとなり、高分子電解質膜と触媒層との境界面で水素イオンの伝導性を向上させることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−56583号公報
【特許文献2】特開2008−186798号公報
【特許文献3】特許第3732213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
少ない白金量で高い発電性能を有する触媒層を得るためには、燃料電池反応に関わる、反応ガス、プロトン、水の物質移動を最適化し、白金の利用率を向上することが必要である。その中で水については、カソード触媒層では、加湿した反応ガスが持ち込む水、発電により生成した水、アノード触媒層から、プロトンとともに拡散する水があり、これらの水分布を最適にする必要がある。加えて起動・停止を繰り返す燃料電池システムは、冷却による水蒸気の凝縮の影響がある。
【0012】
特許文献1には、インク組成を変えずに触媒密度が異なる触媒層を有する膜電極接合体が開示されている。しかし、特許文献1に記載の触媒層は熱転写法により形成されており、精密に密度を変化させることが困難である。また、高分子電解質膜を長時間繰り返し高温化に置くと高分子電解質が劣化するため、発電性能の低下を招くおそれがある。
【0013】
特許文献2では、カーボン自体の粒径を異にして触媒層を形成することにより、プロトン伝導性を向上させようとしているものの、カーボン粒子径により形成される空隙では、十分な逆拡散効果を得ることができない。また、触媒層毎にカーボン粒子径が異なる触媒インクを用意しなくてはならず、生産性の面で課題が残る。
【0014】
特許文献3では、高分子電解質膜と触媒層との境界面で水素イオンの伝導性を向上させるために、高分子電解質膜に接する触媒層に電解質を多く含ませているが、高分子電解質が占める割合が多いと、導電パス及びガス拡散性が低下するとともに、保水性向上によって、生成水の逆拡散を阻害してしまう。
【0015】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒利用率および発電効率の向上が高い膜電極接合体および燃料電池の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある態様は膜電極接合体である。当該膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられたアノード触媒層と、電解質膜の他方の面に設けられたカソード触媒層と、を備え、アノード触媒層およびカソード触媒層のうち少なくとも一方の触媒層は、触媒密度が異なる複数の層からなる積層体であり、積層体のうち、電解質膜側の最内層の触媒密度が0.3g/cm以上1.5g/cm以下であり、積層体のうち、電解質膜とは反対側の最外層の触媒密度が0.1g/cm以上1.0g/cm以下であることを特徴とする。
【0017】
この態様によれば、反応ガス、プロトン、水の物質移動性を両立させ、触媒の利用率、ひいては発電効率を向上させることができる。
【0018】
上記態様の膜電極接合体において、最内層の触媒密度と最外層の触媒密度との比(最内層の触媒密度/最外層の触媒密度)が1より大きくてもよい。
【0019】
また、上記態様の膜電極接合体において、触媒層は、最内層と最外層との間に1層以上の中間層を含み、各層の触媒密度が、最内層から最外層にかけて徐々に減少していてもよい。また、触媒層を形成する触媒は、白金または白金合金を含んでもよい。
【0020】
本発明の他の態様は燃料電池である。当該燃料電池は、上述したいずれかの態様の膜電極接合体と、膜電極接合体のアノード側に配設され、燃料ガスを供給するための流路が設けられたアノード用セパレータと、膜電極接合体のカソード側に配設され、酸化剤ガスを供給するための流路が設けられたカソード用セパレータと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、膜電極接合体および燃料電池における、触媒利用率および発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態に係る燃料電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線上の断面図である。
【図3】カソード触媒層の具体的な触媒インク塗布構造を示す模式図である。
【図4】図4(A)〜(D)は、それぞれ、霧化圧0.05MPa、0.10MPa、0.15MPa、0.40MPaで噴霧した触媒粒子のマイクロスコープ像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0024】
図1は、実施の形態に係る燃料電池10の構造を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のA−A線上の断面図である。燃料電池10は、平板状の膜電極接合体50を備え、この膜電極接合体50の両側にはセパレータ34およびセパレータ36が設けられている。この例では一つの膜電極接合体50のみを示すが、セパレータ34やセパレータ36を介して複数の膜電極接合体50を積層して、燃料電池10が構成されてもよい。
【0025】
膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。アノード22は、アノード触媒層26とアノードガス拡散層28とからなる積層体を有する。一方、カソード24は、カソード触媒層30とカソードガス拡散層32とからなる積層体を有する。アノード触媒層26とカソード触媒層30は、固体高分子電解質膜20を挟んで対向するように設けられている。アノードガス拡散層28は、固体高分子電解質膜20とは反対側のアノード触媒層26の面に設けられている。また、カソードガス拡散層32は、固体高分子電解質膜20とは反対側のカソード触媒層30の面に設けられている。
【0026】
アノード22側に設けられるセパレータ34にはガス流路38が設けられている。燃料供給用のマニホールド(図示せず)から燃料ガスがガス流路38に分配され、ガス流路38を通じて膜電極接合体50に燃料ガスが供給される。同様に、カソード24側に設けられるセパレータ36にはガス流路40が設けられている。酸化剤供給用のマニホールド(図示せず)から酸化剤として空気がガス流路40に分配され、ガス流路40を通じて膜電極接合体50に空気が供給される。
【0027】
固体高分子電解質膜20は、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示し、アノード22およびカソード24の間でプロトンを移動させるイオン交換膜として機能する。固体高分子電解質膜20は、含フッ素重合体や非フッ素重合体等の固体高分子材料によって形成され、例えば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の例として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)などが挙げられる。また、非フッ素重合体の例として、スルホン化された、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0028】
本実施の形態のアノード触媒層26は、固体高分子電解質膜20に接するアノード触媒層26a(最内層)およびアノードガス拡散層28に接するアノード触媒層26b(最外層)の2層からなる積層体である。アノード触媒層26aおよびアノード触媒層26bは、それぞれ、イオン交換樹脂と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン交換樹脂は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン交換樹脂は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒として、たとえば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどの金属、またはこれらの金属の合金が挙げられる。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどがある。
【0029】
アノード触媒層26aの触媒密度とアノード触媒層26bの触媒密度との比(アノード触媒層26a/アノード触媒層26b)は1より大きい。ここで、触媒密度とは、単位体積あたりの触媒および触媒を担持する炭素粒子の質量をいう。言い換えると、アノード触媒層26bの方がアノード触媒層26aに比べて気孔率が大きい。アノード触媒層26aの触媒密度は、0.3g/cm以上1.5g/cm以下であることが好ましく、アノード触媒層26bの触媒密度は、0.1g/cm以上1.0g/cm以下であることが好ましい。アノード触媒層26のより具体的な構造は、後述するカソード触媒層30の構造と同様である。
【0030】
なお、本実施の形態のアノード触媒層26は、アノード触媒層26a、アノード触媒層26bの2層からなるが、アノード触媒層26は、アノード触媒層26aとアノード触媒層26bとの間に1層以上のアノード触媒層をさらに備えてもよい。この場合には、最内層のアノード触媒層26aと最外層のアノード触媒層26bが上述した関係を満たせばよく、アノード触 媒層26aとアノード触媒層26bとの間に設けられるアノード触媒層は特に限定されないが、アノード触媒層26aからアノード触媒層26bに向けて触媒密度が徐々に小さくなっていることが好ましい。
【0031】
アノードガス拡散層28は、アノードガス拡散基材により形成される。アノードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえば、金属板、金属フィルム、導電性高分子、カーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0032】
一方、本実施の形態のカソード触媒層30は、固体高分子電解質膜20に接するカソード触媒層30a(最内層)およびカソードガス拡散層32に接するカソード触媒層30b(最外層)の2層からなる積層体である。カソード触媒層30aおよびカソード触媒層30bは、それぞれ、イオン交換樹脂と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン交換樹脂は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン交換樹脂は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒として、たとえば白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムなどの金属、またはこれらの金属の合金が挙げられる。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどがある。
【0033】
カソード触媒層30aの触媒密度とカソード触媒層30bの触媒密度との比(カソード触媒層30aの触媒密度/カソード触媒層30bの触媒密度)は1より大きい。言い換えると、カソード触媒層30bの方がカソード触媒層30aに比べて気孔率が大きい。カソード触媒層30aの触媒密度は、0.3g/cm以上1.5g/cm以下であることが好ましく、0.4g/cm以上1.5g/cm以下がさらに好ましい。カソード触媒層30bの触媒密度は、0.1g/cm以上1.0g/cm以下であることが好ましく、0.3g/cm以上1.0g/cm以下がさらに好ましい。
【0034】
図3は、カソード触媒層30の触媒インク塗布構造を示す模式図である。
図3(A)に示す例では、カソード触媒層30aに含まれる触媒担持粒子およびカソード触媒層30bに含まれる触媒担持粒子がそれぞれ触媒担持粒子集合体31を形成している。ここで、触媒担持粒子集合体とは、図3(A)に示すように、触媒35が炭素粒子などの担体37に担持された触媒担持粒子(一次粒子)または一次粒子同士が連結した二次粒子が凝集または単独で存在し、電解質により連結状態をなした集合体をいう。カソード触媒層30aに含まれる触媒担持粒子の触媒担持粒子集合体の触媒インク塗布時の粒径は、カソード触媒層30bに含まれる触媒担持粒子の触媒担持粒子集合体の触媒インク塗布時の粒径に比べて小さい。これにより、カソード触媒層30aの気孔率がカソード触媒層30bの気孔率に比べて小さくなり、カソード触媒層30aの触媒密度/カソード触媒層30bの触媒密度>1という関係が得られる。
【0035】
触媒担持粒子集合体の触媒インク塗布時の粒径を変えて触媒層を形成する方法としては、スプレー塗布法が挙げられる。触媒担持粒子集合体の触媒インク塗布時の粒径は、スプレー塗布時に、噴射1回あたりのインクの液量や霧化圧力等を調節する。これにより、触媒担持粒子集合体同士のコンタクトによるマクロな気孔率を変化させることにより変えることができる。図4は、霧化圧を変えて噴霧した触媒粒子のマイクロスコープ像である。より具体的には、PTFEシート状に霧化圧条件を変えて触媒粒子を1回塗布し、マイクロスコープ(×500)による観察を行った。図4の各像において、記載された粒径は、確認できた最大の粒径である。図4に示すように、霧化圧が高くなるほど、触媒粒子の粒径が小さくなる。
【0036】
図3(B)に示す例では、カソード触媒層30aの触媒密度/カソード触媒層30bの触媒密度>1という関係に関しては、図3(A)と同様であるが、カソード触媒層30aに含まれる触媒担持粒子集合体は、図3(A)に示すカソード触媒層30aに比べて触媒密度がより大きくなっており、いわゆるべた塗りの状態である。スクリーン印刷法やダイコート法などのマクロな空隙が形成されにくい手法で比較的高密度の触媒層を形成し、スプレー塗布法により比較的低密度の触媒層を形成することで、効果的にマクロな気孔率を変えることができる。
【0037】
図3(B)に示すカソード触媒層30a、カソード触媒層30bは、たとえば、それぞれ、スクリーン印刷法、スプレー塗布法により形成することができる。
【0038】
図3(C)に示す例では、カソード触媒層30aに含まれる触媒担持粒子およびカソード触媒層30bに含まれる触媒担持粒子がそれぞれ触媒担持粒子集合体を形成している。カソード触媒層30aに含まれる触媒担持粒子集合体の触媒インク塗布時の粒径は、カソード触媒層30bに含まれる触媒担持粒子集合体の触媒インク塗布時の粒径と同等である。この条件下で、カソード触媒層30aの気孔率をカソード触媒層30bの気孔率に比べて小さくする。これにより、(カソード触媒層30aの触媒密度/カソード触媒層30bの触媒密度>1という関係が得られる。
【0039】
図3(C)に示すカソード触媒層30a、カソード触媒層30bは、たとえば、スプレー塗布法により形成することができる。具体的には、カソード触媒層30aを形成する際のスプレー塗布圧をカソード触媒層30bを形成する際のスプレー塗布圧より高くすればよい。
【0040】
なお、本実施の形態のカソード触媒層30は、カソード触媒層30a、カソード触媒層30bの2層からなるが、カソード触媒層30は、カソード触媒層30aとカソード触媒層30bとの間に1層以上のカソード触媒層をさらに備えてもよい。この場合には、最内層のカソード触媒層30aと最外層のカソード触媒層30bが上述した関係を満たせばよく、カソード触媒層30aとカソード触媒層30bとの間に設けられるカソード触媒層は特に限定されないが、カソード触媒層30aからカソード触媒層30bに向けて触媒密度が徐々に小さくなっていることが好ましい。
【0041】
図1および図2に戻り、カソードガス拡散層32は、カソードガス拡散基材により形成される。カソードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえば金属板、金属フィルム、導電性高分子、カーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0042】
以上説明した膜電極接合体およびこれを利用した燃料電池によれば、触媒層を構成する各層毎に触媒インクの組成を変える必要がないため、製造コストを抑制することができる。また、電解質膜からのプロトン伝導性とガス拡散層側からの酸素拡散性を両立させ、一定白金量あたりの発電性能を向上することができる。また、一定の発電性能を発揮するために必要な白金量を低減することができ、ひいては燃料電池の製造コストを低減することができる。
【0043】
なお、上述の実施の形態では、アノード触媒層およびカソード触媒層の両方が複数の触媒層で形成されているが、アノード触媒層およびカソード触媒層のいずれか一方は、従来のような単層の触媒層でもよい。
【0044】
(触媒密度および気孔率測定)
上述したように、触媒層の触媒密度は、触媒層の気孔率を調節することで所望の値に設定することができる。以下、触媒層の触媒密度および気孔率は、触媒層の形成方法により変えることができることを実験で確かめた。
【0045】
<触媒層の形成>
(A)スプレー法
触媒分散溶液を7cm×7cmの大きさの電解質膜上に5cm×5cmの大きさでスプレー塗布し、電解質膜上に形成されている触媒層を得た。MEA形成時の状況を模擬するため、以下の順で下から重ね合わせ120℃1MPaで2分40秒間プレスした。
(ステンレス板、PPSシート、GDL、PTFEシート、触媒層が形成されている電解質膜、PTFEシート、GDL、PPSシート、ステンレス板)
その後、触媒層が形成されていない電解質膜部分をカッティングにより取り除き、触媒層が形成されている電解質膜(大きさ4.5cm×4.5cm)を得た。
(B)バーコート法
バー塗工機を使用して、触媒分散溶液をPTFEシート上に塗布し、PTFEシート上に、触媒層を形成した。この触媒層が塗布されているPTFEシートを5cm×5cmの大きさに打ち抜く。これに7cm×7cmの大きさの電解質膜を重ね合わせてホットプレスすることにより、触媒層を電解質膜に転写し、電解質膜上に形成されている触媒層を得た。なお、ホットプレスは、以下の順で下から重ね合わせ120℃3MPaで5分間プレスした。
(ステンレス板、PPSシート、GDL、触媒層が形成されているPTFEシート、電解質膜、PTFEシート、GDL、PPSシート、ステンレス板)
その後、触媒層が形成されていない電解質膜部分をカッティングにより取り除き、触媒層が形成されている電解質膜(大きさ4.5cm×4.5cm)を得た。
【0046】
各試料を常温、真空条件にて一昼夜乾燥させた後、オートポアIII9420(MICROMERITICS社製)を用いて水銀圧入法により気孔率を測定した。
【0047】
なお、気孔率は、下記の式で表される。
気孔率=粉体の占める全容積−粉体のみの真の体積)/粉体の占める全容積}×100={1−(見掛け密度/粉体粒子の真の密度)}×100
【0048】
スプレーによる低密度触媒層、スプレーによる高密度触媒層、バーコートによる高密度触媒層についてそれぞれ3個の試料を作製および評価した。得られた触媒密度および気孔率の平均値を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例1)
実施例1に係る膜電極接合体の作製方法について説明する。以下、「触媒層」は、アノード触媒層およびカソード触媒層の両方を含む。また、「ガス拡散層」は、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層の両方を含む。
【0051】
<触媒インク調整>
触媒層形成のための触媒インクの分散媒は、高分子電解質を溶解可能または分散可能(高分子電解質の一部が溶解し、他の一部が溶解せずに分散している状態)である液体であればよい。分散媒として、水およびエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール等のアルコールを用いることができる。使用する材料によっては、有機溶媒等を含んでもよい。
【0052】
なお、触媒インクの組成及び調整方法は、前記組成及び調整方法に限定されるものではなく、膜電極接合体に求める特性に応じて変更することができる。
【0053】
<ガス拡散層形成>
バルカンXC72(カーボンブラック)17.3g、テルピネオール(溶媒)130.1g、トリトンx−100(界面活性剤)2.6g、ルブロン微粉末4.32g、PTFE微粉末0.54gをハイブリッドミキサーにて10分間混合した後、ポリイミド樹脂4.42g(固形分比率(カーボンブラック、PTFEおよびポリイミド樹脂の総重量に対するポリイミド樹脂の重量比)で20%)を加え、さらに3分間混合し、微細孔層用ペーストを作製する。その後、作製した微細孔層用ペーストを、撥水処理を行ったカーボン基材に1.92〜2.24mg/cmの範囲で塗布を行う。その後、熱処理炉にて120℃で2時間乾燥を行う。乾燥後、340℃で1時間熱処理を行う。
【0054】
<膜電極接合体形成>
厚さ約50μmの固体高分子電解質膜(ナフィオン)のカソード側に、熱転写法を用いて厚さ10μm、触媒密度1.0g/cmの触媒層(最内層)を形成した後、最内層の上にスプレー法を用いて厚さ17μm、触媒密度0.4g/cmの触媒層(最外層)を積層し、触媒密度比(高分子電解質膜に接する触媒層密度/ガス拡散層に接する触媒層密度)が2.5となる2層からなるカソード触媒層を形成した。一方、固体高分子電解質膜のアノード側に熱転写法を用いて厚さ10μm、触媒密度1.5g/cmのアノード触媒層を形成した。
【0055】
なお、触媒層形成用インクを触媒層を形成する際には、固体高分子電解質膜に対して、直接形成する直接塗布方法であっても間接的に形成する間接塗布方法のいずれを採用することも可能である。塗布方法としては、スクリーン印刷、ダイコート法、インクジェット法、スプレー法等を用いることができる。スプレー吹付によって触媒層を形成する場合、ある層の触媒を形成した後、乾燥工程を経ることなく触媒密度が異なる隣接触媒層の形成を行ってもよい。
【0056】
次に、アノード触媒層およびカソード触媒層の露出面側を一対のガス拡散層で挟み、ホットプレス機を用いて接合した。ホットプレス機による接合の温度、時間、圧力は触媒層に応じて任意で変更することができる。
【0057】
(比較例1)
実施例1と同じ組成の触媒インクを用いて、厚さ約50μmの固体高分子電解質膜のカソード側に、スプレー法を用いて触媒層厚み17μm、触媒密度0.4g/cmのカソード触媒層(最内層)を形成した後、最内層の上に熱転写法を用いて厚さ10μm、触媒密度1.0g/cmの触媒層(最外層)を積層し、触媒密度比が0.4となる2層からなるカソード触媒層を形成した。アノード触媒層は、実施例1と同様な厚さおよび触媒密度とした。その後、実施例1と同様にホットプレスにより、アノード触媒層およびカソード触媒層の露出面にそれぞれガス拡散層を接合した。
【0058】
(比較例2)
実施例1と同じ組成の触媒インクを用いて、厚さ約50μmの固体高分子電解質膜のカソード側に、転写法を用いて触媒層厚み20μm、触媒密度1.0g/cmのカソード触媒層(単層)を形成した。アノード触媒層は、実施例と同様な厚さおよび触媒密度とした。その後、実施例と同様にホットプレスにより、アノード触媒層およびカソード触媒層の露出面にそれぞれガス拡散層を接合した。
【0059】
(比較例3)
実施例1と同じ組成の触媒インクを用いて、厚さ約50μmの固体高分子電解質膜のカソード側に、スプレー法を用いて触媒層厚み35μm、触媒密度0.4g/cmのカソード触媒層(単層)を形成した。アノード触媒層は、実施例と同様な厚さおよび触媒密度とした。その後、実施例と同様にホットプレスにより、アノード触媒層およびカソード触媒層の露出面にそれぞれガス拡散層を接合した。
【0060】
なお、実施例1および比較例1〜3における触媒層の触媒密度は、MEA化後の値である。
【0061】
(発電特性評価)
上記実施例1および比較例1〜3の膜電極接合体を用いてそれぞれ燃料電池セルを組み立て、燃料電池セルのアノード極に、圧力0.5kPa、加湿温度70℃で水素を供給し、カソード極に、圧力0.5kPa、加湿温度70℃で空気を供給し、低電流密度領域と高電流密度領域とにおける発電セル特性を測定した。実施例1と比較例1〜3との発電評価の結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例は、低電流密度領域である100mA/cmにおける出力電圧、および、高電流密度領域である1000mA/cmにおける出力電圧共に比較例1に比べて出力電圧が高く、電解質膜からのプロトン伝導性が律速となる低電流密度領域、および、酸素の拡散が律速となる高電流密度領域において性能が向上していることが確認された。
【0064】
また、低電流密度領域である100mA/cmにおける出力電圧は実施例と比較例2は同等であるが、高電流密度領域である1000mA/cmにおいて、比較例2に比べて実施例の方が出力電圧が高くなっており、低電流密度領域で性能を維持しながら、酸素の拡散が律速となる高電流密度領域において性能が向上していることが確認された。
【0065】
また、高電流密度領域である1000mA/cmにおける出力電圧は実施例と比較例3は同等であるが、低電流密度領域である100mA/cmにおいて、比較例3に比べて実施例の方が出力電圧が高くなっており、高電流密度領域で性能を維持しながら、電解質膜からのプロトン伝導性が律速となる低電流密度領域において性能が向上していることが確認された。
【0066】
以上のことから、実施例は、全電流密度領域において、プロトン伝導性とガス拡散性を両立していると考えられる。
【符号の説明】
【0067】
10 燃料電池、20 固体高分子電解質膜、22 アノード、24 カソード、26,26a,26b アノード触媒層、28 アノードガス拡散層、30,30a,30b カソード触媒層、32 カソードガス拡散層、50 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に設けられたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に設けられたカソード触媒層と、
を備え、
アノード触媒層およびカソード触媒層のうち少なくとも一方の触媒層は、触媒密度が異なる複数の層からなる積層体であり、
前記積層体のうち、電解質側の最内層の触媒密度が0.3g/cm以上1.5g/cm以下であり、
前記積層体のうち、電解質とは反対側の最外層の触媒密度が0.1g/cm以上1.0g/cm以下であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記最内層の触媒密度と前記最外層の触媒密度との比(最内層の触媒密度/最外層の触媒密度)が1より大きい請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記最外層における触媒担持粒子を含む触媒担持粒子集合体の平均粒径が前記最内層における触媒担持粒子を含む触媒担持粒子集合体の平均粒径に比べて大きい請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記触媒層は、前記最内層と前記最外層との間に1層以上の中間層を含み、
各層の触媒密度が、前記最内層から前記最外層にかけて徐々に減少している請求項1乃至3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記触媒層を形成する触媒は、白金または白金合金を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体のアノード側に配設され、燃料ガスを供給するための流路が設けられたアノード用セパレータと、
前記膜電極接合体のカソード側に配設され、酸化剤ガスを供給するための流路が設けられたカソード用セパレータと、
を備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−192593(P2011−192593A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59266(P2010−59266)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】