説明

膝裏地用織物

【課題】生地端ほつれが発生しない、着用感が良好な膝裏地用織物を提供する。
【解決手段】トータルカバーファクターが1300〜2000であり、タテのカバーファクター(A)とヨコのカバーファクター(B)の比(A/B)が0.9〜1.5である織物であって、下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の上部端縁側および下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されているか、または耳組織を有していることを特徴とする膝裏地用織物。
ただし、トータルカバーファクター=タテのカバーファクター+ヨコのカバーファクター
タテのカバーファクター=タテ糸繊度(dtex)1/2×タテ糸密度(本/2.54cm)
ヨコのカバーファクター=ヨコ糸繊度(dtex)1/2×ヨコ糸密度(本/2.54cm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンツ(ズボン)などの下衣の膝部の前見頃裏地(以下、膝裏地という)用途の織物に関するものであり、下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の腰側の上部端縁側および膝もしくは足首側の下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されているか、または耳組織を有しているパンツ(ズボン)などの下衣の膝裏地用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の膝裏地用織物製造方法の一例を以下に記述する。まず、幅が約160cmの織物を製織し、加工最終段階で幅が約150cmとなった織物の、両耳近辺と中央の計3カ所を縦方向に、ヒートカッターまたは超音波カッターで切断して、幅が約72〜74cmの織物を2本得る。次に、膝裏地パーツとして、上部の腰側を長辺、下部の膝側を短辺、高さ72〜74cmとする台形に裁断する。このとき、裁断ロスが生じないように、織物の幅方向を台形の高さ方向とし、かつ、台形の向きが交互になるよう裁断する。こうして得られた膝裏地用織物がズボン表地に縫製される際に、下部の膝側は、表地と縫製すると縫い糸がズボン前身頃膝部に現れて見苦しくなるために縫製されない。
【0003】
上記の従来技術によると、膝裏地の下部の膝側にあたる部分は、ヒートカッターまたは超音波カッターで織物の地組織を切断しただけであるため、生地端ほつれが発生しやすいという欠点があった。
【0004】
なお、従来、膝裏地に関するものとして、バイヤスの生地を用いるものが提案されているが(例えば、特許文献1参照)、ほつれが発生しないようにする技術は何ら開示されていない。
【特許文献1】特開2004−27460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決しようとするものであり、ほつれが発生しない、着用感が良好な膝裏地用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を達成するため、下記の構成を採用する。すなわち、
(1)トータルカバーファクターが1300〜2000であり、タテのカバーファクター(A)とヨコのカバーファクター(B)の比(A/B)が0.9〜1.5である織物であって、下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の上部端縁側および下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されているか、または耳組織を有していることを特徴とする膝裏地用織物。
【0007】
ただし、トータルカバーファクター=タテのカバーファクター+ヨコのカバーファクター
タテのカバーファクター=タテ糸繊度(dtex)1/2×タテ糸密度(本/2.54cm)
ヨコのカバーファクター=ヨコ糸繊度(dtex)1/2×ヨコ糸密度(本/2.54cm)
(2)前記エンボス位置が織物端部から0.1〜10cmの幅内にあることを特徴とする前記(1)に記載の膝裏地用織物。
【0008】
(3)前記耳組織の幅が0.1〜5cmであることを特徴とする前記(1)に記載の膝裏地用織物。
【0009】
(4)用いられる繊維のうち少なくとも1種が、ポリエステルマルチフィラメント、セルロースマルチフィラメント、およびポリアミドマルチフィラメントから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【0010】
(5)タテ糸およびヨコ糸が無撚のマルチフィラメントであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【0011】
(6)少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方が有撚のマルチフィラメントであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【0012】
(7)タテ糸が無撚または有撚で、ヨコ糸が仮撚り加工糸のマルチフィラメント糸であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【0013】
(8)少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方が、糸の長手方向に未解撚部分と解撚部分が混在した仮撚り加工糸であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【0014】
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載された膝裏地用織物を用いてなることを特徴とする下衣。
【発明の効果】
【0015】
本発明の膝裏地用織物は、軽量であり、通気性、滑り性に優れ、かつ目づれ、生地端ほつれの生じにくいものであり、ズボン膝裏地に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の膝裏地用織物はトータルカバーファクターが1300〜2000であり、タテのカバーファクター(A)とヨコのカバーファクター(B)の比(A/B)が0.9〜1.5である織物であって、下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の腰側の上部端縁側および膝もしくは足首側の下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されているか、または耳組織を有していることを特徴とする膝裏地用織物である。
【0018】
ただし、トータルカバーファクター=タテのカバーファクター+ヨコのカバーファクターであり、
タテのカバーファクター=タテ糸繊度(dtex)1/2×タテ糸密度(本/2.54cm)
ヨコのカバーファクター=ヨコ糸繊度(dtex)1/2×ヨコ糸密度(本/2.54cm)である。
【0019】
上記の構成を有する本発明の膝裏地用織物は、生地端ほつれが発生しない、着用感が良好なものである。
【0020】
本発明の膝裏地用織物は、トータルカバーファクターが1300未満では目ずれを抑えることが難しくなり、2000を越えると通気性、すべり性、柔軟性に乏しくなり、膝裏地として不適な織物になる。トータルカバーファクターは、さらに好ましくは1450〜1950である。
【0021】
本発明の膝裏地用織物はまた、タテのカバーファクター(A)とヨコのカバーファクター(B)の比(A/B)が0.9〜1.5であることを特徴とする。比(A/B)が0.9未満または1.5を超えると目ずれを抑えることが難しくなる。
【0022】
本発明の膝裏地用織物はまた、下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の腰側の上部端縁側および膝もしくは足首側の下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されているか、または耳組織を有していることを特徴とする。
【0023】
下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の腰側の上部端縁側および膝もしくは足首側の下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されていることによって、または上部側と下部側にあたる部分に耳組織を有することによって、織物端部が保護され、ズボン着脱時の生地と足先の摩擦を原因とする生地端ほつれや、ズボン着用時の生地と膝の摩擦を原因とする生地端ほつれを防ぐことができる。
【0024】
エンボス加工方法としては、凹凸のある文様をつけて生地端のほつれを防ぎ、織物端部を保護できるものであればいずれでもよい。エンボスの文様は織物端部から好ましくは0.1cm以上10cm以下、さらに好ましくは0.1cm以上5cm以下の幅内におさまるように、織物端縁方向に沿ってバンド状、直線状あるいは破線状にエンボス加工を施す。
【0025】
熱固定によるエンボス加工でタテ糸およびヨコ糸を部分的に屈曲させることで、その部分における滑脱抵抗力が上がり、ほつれにくくなるのである。
【0026】
エンボス加工の幅は、0.1cm〜10cmであることが好ましい。エンボス幅が0.1cm未満ではエンボス加工による織物端部の保護性が乏しく、生地端ほつれが発生する場合がある。また、10cmをこえると膝裏地として柔軟性に乏しい傾向がある。
【0027】
また、エンボス加工温度は、凹凸のある文様がつけられる程度の熱固定温度であればよく、構成する繊維のガラス転移点以上融点以下の温度であればよい。
【0028】
本発明においては、エンボス加工を施す代わりに、トータルカバーファクターが1300〜2000であり、タテのカバーファクター(A)とヨコのカバーファクター(B)の比(A/B)が0.9〜1.5である織物であって、ズボンなどの下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の腰側の上部端縁側および膝もしくは足首側の下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿って、耳組織を有している膝裏地用織物であっても良い。
【0029】
耳組織としては、織物耳部を保護し、生地端ほつれを防ぐものであればいずれでもよいが、耳糸に地糸と同じ糸を用いる場合には、オサ羽への通し本数を地部分より多くしたり、織り組織を変えることで耳部を保護する。また、耳糸に、地糸と種類の違う糸を使用する場合には、地糸より丈夫な糸を用いて耳部を保護する。
【0030】
上記織物耳部の耳幅は0.1cm〜5cmであることが好ましく、さらには0.1cm〜2cmであることがより好ましい。耳幅が0.1cm未満では耳組織による織物耳部の保護性が乏しく、生地端ほつれが発生する場合がある。また、5cmをこえると膝裏地として柔軟性に乏しい傾向がある。
【0031】
本発明の膝裏地用織物を構成するタテ糸および/またはヨコ糸は、マルチフィラメント糸であることが好ましい。このマルチフィラメント糸は、ポリエステル繊維が好ましく使用される。ポリエステル繊維を用いると、適度な強度を持ち、熱に強く、減量加工などで風合いを調節し易い織物ができる。また、本発明で用いるマルチフィラメント糸は、セルロース繊維であっても良い。セルロース繊維を用いると、吸湿性、発色性、光沢に優れた織物ができる。また、本発明で用いるマルチフィラメント糸は、ポリアミド繊維であってもよい。ポリアミド繊維を用いると、発色性の良い、やわらかく、かつ強度の強い織物ができる。
【0032】
少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方に用いるマルチフィラメント糸で、膝裏地に適した生地厚の織物を得るためには、タテ糸繊度は33〜84dtex、ヨコ糸繊度は44〜130dtexであることが好ましく、44〜110dtexであることがさらに好ましい。
【0033】
また、少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方に用いるマルチフィラメント糸は、無撚りのマルチフィラメント糸であることが好ましい。無撚りとは、撚糸工程などにおいて追撚を施してない糸のことであり、紡糸工程などのボビン巻き取りによって付与される20T/M程度までの撚りが入った糸を含むものである。上記の糸を用いた織物はすべり性がよく、着用感の良好な膝裏地である。
【0034】
また、少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方が有撚のマルチフィラメント糸であることが好ましい。特に、少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方に、400〜800T/Mの追撚を有するマルチフィラメント糸を用いることが好ましい。該糸を用いた織物は、無撚りのマルチフィラメント糸を用いた膝裏地よりすべり性が若干劣るが、すべり性とドライタッチの両面を兼ね備えた膝裏地である。
【0035】
また、タテ糸が無撚りまたは有撚で、ヨコ糸が仮撚り加工糸のマルチフィラメント糸であることが好ましい。該糸を用いた織物は、暖かみのあるソフトタッチな膝裏地である。
また、少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方が、特開昭55−67025号公報、特開昭55−71830号公報などに記載された方法で作られた、長手方向に解撚部分と未解撚部分が混在したマルチフィラメント糸を用いた織物は、ドライタッチで吸水性に優れた夏用に適した膝裏地である。
【0036】
次に、本発明の膝裏地用織物の製造方法について説明する。
【0037】
まず、織物端部から0.1cm以上10cm以下の幅において、織物端線に沿ってバンド状にエンボス加工を施した膝裏地の製造方法について説明する。
【0038】
図1は、本発明に係る膝裏地用織物の製造方法の一例を示す概略図であり、織物端線に沿ってバンド状にエンボス加工を施した例を示す。
【0039】
染色加工工程において、幅が約150cmの織物を用意し(図1(A)参照)、該織物の幅方向両端部からそれぞれ内側に幅約1.1cm以上13cm以下、および幅方向の中央部を中心として、幅0.2cm以上20cm以下の計3カ所に、織物のタテ方向に、かつ、バンド状に、エンボス加工機を用いてエンボス加工を施す(図1(B)参照)。エンボス加工幅としては、0.1cm〜10cmが好ましく、さらには0.5cm〜3cmがより好ましい。加工最終段階で、ヒートカッターまたは超音波カッターで、上記3カ所a、b、cのエンボス部分1を、織物のタテ方向に、かつ、切断線がエンボス部分から外れないよう真っ直ぐ切断していき(図1(C)参照)、幅が72〜74cmの織物を2本得る(図1(D)参照)。裁断工程においては、腰側にあたる上部端縁側を長辺、膝側または足首側にあたる下部端縁側を短辺として、高さ72〜74cmとする台形に、さらには裁断ロスが生じないように、織物の幅方向を台形の高さ方向とし、かつ、台形の向きが交互になるよう裁断する。こうして得られた台形型の膝裏地用織物をズボン表地に縫製する際に、下部(膝側)は、表地と縫製すると縫い糸がズボン前身頃膝部に現れて見苦しくなるために縫製しないようにする。
【0040】
次に、織物端部から0.1cm以上10cm以下の位置に、端線に沿って直線状あるいは破線状にエンボス加工を施した膝裏地織物の製造方法について説明する。
【0041】
図2は、本発明に係る膝裏地用織物の製造方法の一例を示す概略図であり、織物端線に沿って直線状あるいは破線状にエンボス加工を施した例を示す。
【0042】
染色加工工程において、幅が約150cmの織物を用意し(図2(A)参照)、加工最終段階で、ヒートカッターまたは超音波カッターを用いて、織物幅方向両端から内側に1.0cm以上3.0cm以下の位置と、幅方向中央部の3カ所をタテ方向に切断していく際、左側カッターの右近接の位置と、中央部カッターの左および右近接の位置と、右側カッターの左近接の位置にエンボス加工機を設置し、織物の各切断線から0.1cm以上10cm以下の2の位置に、端縁に沿って直線状あるいは破線状にエンボス加工を施し(図2(B)参照)、幅が約72〜74cmの織物を2本得る(図2(C)参照)。エンボス加工幅としては、0.1〜2cmが好ましく、より好ましくは、0.1〜0.5cmである。裁断工程においては、腰側にあたる上部端縁側を長辺、膝側または足首側にあたる下部端縁側を短辺、高さ72〜74cmとする台形に、さらには裁断ロスが生じないように、織物の幅方向を台形の高さ方向とし、かつ、台形の向きが交互になるよう裁断する(図2(C)参照)。こうして得られた台形型の膝裏地用織物をズボン表地に縫製する際に、下部端縁側は、表地と縫製すると縫い糸がズボン前身頃膝部に現れて見苦しくなるために縫製しないようにする。なお、図2(D)は直線状エンボスとした時の拡大図であり、図2(E)は破線状エンボスとした時の拡大図である。
【0043】
該方法は従来の技術とは異なり、上部の腰側と下部の膝側の両方に織物端部を保護するエンボス加工が施されていることが分かる。
【0044】
本発明の目的は、膝裏地の下部の膝側生地端の保護であり、本来、上部の腰側にエンボスは必要ではないが、上記の方法で膝裏地パーツを裁断するため、ふた幅取り後の織物の、幅方向両端部2カ所にエンボスを設ける必要があり、結果として、膝裏地の上部の腰側にもエンボスが形成されることになる。
【0045】
次に、織物が耳組織を有しており、該織物の耳幅が0.1〜5.0cmである膝裏地の製造方法について説明する。
【0046】
図3は、本発明に係る膝裏地用織物の他の製造方法の一例を示す概略図である。
【0047】
まず、前記した耳組織部分3を左右と中央の3カ所に有する(図3(A)参照)、幅が約150cmの織物を、加工最終段階で、ヒートカッターまたは超音波カッターで3カ所a、b、cの耳部分を、織物のタテ方向に、かつ、切断線が耳部分から外れないよう真っ直ぐ切断していき(図2(B)参照)、幅が約72〜74cmの織物を2本得る(図2(C)参照)。次に、上部の腰側を長辺、下部の膝側を短辺、高さ72〜74cmとする台形に、さらには裁断ロスが生じないように、織物の幅方向を台形の高さ方向とし、かつ、台形の向きが交互になるよう裁断する。こうして得られた台形型の膝裏地用織物をズボン表地に縫製する際に、下部の膝側は、表地と縫製すると縫い糸がズボン前身頃膝部に現れて見苦しくなるために縫製しないようにする。
【0048】
該方法は従来の技術とは異なり、上部端縁側と下部端縁側の両方に織物耳部を保護する耳組織を有することが分かる。
【0049】
本発明の目的は、膝裏地下部の膝側耳部の保護であり、本来、上部の腰側に耳組織は必要ではないが、上記の方法で膝裏地パーツを裁断するため、耳組織を右耳、左耳、中耳の3カ所に設ける必要があり、結果として、膝裏地上部の腰側にも耳組織が形成されることになる。
【0050】
なお、本発明の膝裏地用織物は、平組織、または綾組織であることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【0052】
[実施例1]
タテ糸に56dtex/18フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメント、ヨコ糸に84dtex/36フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメントを用い、タテ密度103本/2.54cm、ヨコ密度78本/2.54cm、全幅160cmの平織物をウォータージェットルームで製織した。該生機を加工工程で染色し、仕上げ加工を施して、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度81本/2.54cm、全幅を150cmとした。該織物を、超音波カッターを用いて、織物の左右両端からそれぞれ内側1.0cm位置と、幅方向に対して中央部位置の計3カ所をタテ方向に真っ直ぐに切断した。同時に、左側カッターの右近接の位置と、中央部カッターの左および右近接の位置と、右側カッターの左近接の位置にエンボス加工機を設置し、加工温度160℃でエンボス加工を施した。エンボス位置は、織物の切断線から、それぞれ織物の内側へ0.3cmの位置とし、エンボス形状は、織物の切断線に沿った破線状とした。該方法で、全幅が74cmで、両端から0.3cmの位置に破線状のエンボスが全長に施された織物を2本得た。次に、該織物の幅方向を高さ(74cm)とし、長辺32cm、短辺25cmの台形に、しかも裁断ロスが生じないよう、台形の向きを交互にしながら裁断していき、上部の腰側、下部の膝側とも織物両端線に沿った横方向に、織物端部から0.3cmの位置に幅0.2cmの破線状のエンボスを有した膝裏地パーツを得た。その後、ズボンの前身頃裏側に縫製する際、下部(膝側、台形の短辺)以外の3辺を表地と縫い合わせた。このときのトータルカバーファクターは1565で、風合いは若干硬いがすべり性に優れており、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0053】
[実施例2]
タテ糸に56dtex/18フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメント、ヨコ糸に84dtex/80フィラメントの無撚りのセルロースマルチフィラメントを用い、タテ密度132本/2.54cm、ヨコ密度83本/2.54cm、全幅165cmの2/1綾織物をウォータージェットルームで製織した。該生機を染色加工工程で染色後、タテ密度145本/2.54cm、ヨコ密度85本/2.54cm、全幅を150cmとした。該織物を、エンボス加工機を用いて、織物の左右両端から幅3cmの範囲と、幅方向の中心部を中心として、幅4cmの範囲に、全長にわたって加工温度160℃でエンボス加工を施した。その後、加工最終段階で、超音波カッターを用いて、両端から内側に1cmの位置と、幅方向の中心位置の計3カ所を、タテ方向に真っ直ぐに切断した。該方法で、全幅が74cmであり、両端からそれぞれ2cmの幅で、全長にわたってエンボスを有した織物を2本得た。以降は実施例1と同様に、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1864で、実施例1よりも若干厚地の、すべり性に優れた、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0054】
[実施例3]
タテ糸に56dtex/24フィラメント、撚り数300t/mのポリエステルマルチフィラメント、ヨコ糸に84dtex/36フィラメントの仮撚り加工したポリエステルマルチフィラメントを用い、タテ密度101本/2.54cm、ヨコ密度83本/2.54cm、全幅160cmの平織物をウォータージェットルームで製織した。該生機を染色加工工程で染色後、タテ密度108本/2.54cm、ヨコ密度86本/2.54cm、全幅を150cmとした。該織物を、エンボス加工機を用いて、織物の両端から幅3cmの範囲と、幅方向の中心部を中心とした幅4cmの範囲に加工温度160℃でエンボス加工を施した。その後、加工最終段階で、超音波カッターを用いて、織物両端から内側に1cmの位置と、幅方向の中心位置の計3カ所を、タテ方向に真っ直ぐに切断した。該方法で、全幅が74cmであり、両端からそれぞれ2cmの幅で全長にわたってエンボスを有した織物を2本得た。以降は実施例1と同様に、加工、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1605で、すべり性は実施例1,2よりも劣るが、タッチがよりソフトであり、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0055】
[実施例4]
タテ糸、およびヨコ糸に、長手方向に解撚部分と未解撚部分が混在した84dtex/36フィラメントのポリエステルマルチフィラメント仮撚糸を用い、タテ密度76本/2.54cm、ヨコ密度77本/2.54cmの平織物をウォータージェットルームで製織した。該生機を加工工程で染色し、仕上げ加工を施して、タテ密度79本/2.54cm、ヨコ密度82本/2.54cm、全幅を150cmとした後、超音波カッターを用いて、左右両端からそれぞれ内側3.0cm位置と、幅方向に対して中央部位置の計3カ所をタテ方向に真っ直ぐに切断した。同時に、左側カッターの右近接の位置と、中央部カッターの左および右近接の位置と、右側カッターの左近接の位置にエンボス加工機を設置し、加工温度160℃でエンボス加工を施した。エンボス位置は、織物の切断線から、それぞれ織物の内側へ0.3cmの位置とし、エンボス形状は、織物の切断線に沿った直線状とした。該方法で、全幅が72cmで、両端から0.3cmの位置に幅0.1cmの直線状のエンボスが全長に施された織物を2本得た。以降は実施例1と同様に、加工、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1896で、ドライタッチで吸水性に優れているため夏用に適しており、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0056】
[実施例5]
タテ糸に56dtex/18フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメント、ヨコ糸に84dtex/36フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメントを用い、タテ密度103本/2.54cm、ヨコ密度78本/2.54cmで、左右の耳幅2.5cm、中央部の耳幅1.5cmの平織物をウォータージェットルームで製織した。地組織ではオサ目にタテ糸を2本入れとし、耳組織では左右部分、中央部分とも、地組織と同一のタテ糸を用いてオサ目に3本入れとした。該生機を加工工程で染色し、仕上げ加工を施して、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度81本/2.54cm、全幅を150cmとした。このときの耳組織部分のタテ密度は165本/2.54cmとなった。該織物を、超音波カッターを用いて、左右耳端からそれぞれ1.8cm位置と、布帛の幅方向に対して中央部位置(中央耳部の中央位置)の計3カ所をタテ方向に、かつ切断線が耳組織部から外れないよう真っ直ぐに切断し、全幅が73.2cmで、左右とも耳幅が約0.7cmの織物を2本得た。以降は実施例1と同様に、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1565で、風合いは若干硬いがすべり性に優れており、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0057】
[実施例6]
タテ糸に56dtex/18フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメント、ヨコ糸に84dtex/36フィラメントの無撚りのポリエステルマルチフィラメントを用い、タテ密度132本/2.54cm、ヨコ密度83本/2.54cmで、左右の耳幅2.5cm、中央部の耳幅1.5cmの2/1綾織物をウォータージェットルームで製織した。地組織ではオサ目にタテ糸3本入れとし、耳組織では左右部分、中央部分とも、地組織と同一のタテ糸を用いてオサ目に4本入れとした。該生機を加工工程で染色し、仕上げ加工を施して、タテ密度145本/2.54cm、ヨコ密度85本/2.54cm、全幅を150cmとした。このときの耳組織部分のタテ密度は193本/2.54cmとなった。以降は実施例5と同様に、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1864で、実施例5よりも若干厚地の、すべり性に優れた、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0058】
[実施例7]
タテ糸に56dtex/24フィラメント、撚り数300t/mのポリエステルマルチフィラメント、ヨコ糸に84dtex/36フィラメントの仮撚り加工したポリエステルマルチフィラメントを用い、タテ密度101本/2.54cm、ヨコ密度83本/2.54cmで、左右の耳幅2.5cm、中央部の耳幅1.5cmの平織物をウォータージェットルームで製織した。地組織ではオサ目にタテ糸2本入れとし、耳組織では左右部分、中央部分とも、地組織と同一のタテ糸を用いてオサ目に3本入れとした。該生機を加工工程で染色し、仕上げ加工を施して、タテ密度108本/2.54cm、ヨコ密度86本/2.54cm、全幅を150cmとした。このときの耳組織部分のタテ密度は162本/2.54cmとなった。以降は実施例5と同様に、加工、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1605で、すべり性は実施例5,6よりも劣るが、タッチがよりソフトであり、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【0059】
[実施例8]
タテ糸、およびヨコ糸に、長手方向に解撚部分と未解撚部分が混在した84dtex/36フィラメントのポリエステルマルチフィラメント仮撚糸を用い、タテ密度76本/2.54cm、ヨコ密度77本/2.54cmで、左右の耳幅2.5cm、中央部の耳幅1.5cmの平織物をウォータージェットルームで製織した。地組織ではオサ目にタテ糸2本入れとし、耳組織では左右部分、中央部分とも、地組織と同一のタテ糸を用いてオサ目に3本入れとした。該生機を加工工程で染色し、仕上げ加工を施して、タテ密度79本/2.54cm、ヨコ密度82本/2.54cm、全幅を150cmとした。このときの耳組織部分のタテ密度は118本/2.54cmとなった。以降は実施例5と同様に、裁断、縫製を行った。このときのトータルカバーファクターは1896で、ドライタッチで吸水性に優れているため夏用に適しており、かつ、膝裏地の膝裾部分において生地端ほつれの発生しない、着用感が良好なものが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る膝裏地用織物の製造方法の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る膝裏地用織物の他の製造方法の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る膝裏地用織物のさらに他の製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0061】
1:バンド状エンボス部
2:直線状または破線状エンボス部
3:耳組織部
a、b、c:切断箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トータルカバーファクターが1300〜2000であり、タテのカバーファクター(A)とヨコのカバーファクター(B)の比(A/B)が0.9〜1.5である織物であって、下衣の膝裏地として縫製されたときに該膝裏地の上部端縁側および下部端縁側が共に、織物端縁方向に沿ってエンボス加工が施されているか、または耳組織を有していることを特徴とする膝裏地用織物。
ただし、トータルカバーファクター=タテのカバーファクター+ヨコのカバーファクター
タテのカバーファクター=タテ糸繊度(dtex)1/2×タテ糸密度(本/2.54cm)
ヨコのカバーファクター=ヨコ糸繊度(dtex)1/2×ヨコ糸密度(本/2.54cm)
【請求項2】
前記エンボス位置が織物端部から0.1〜10cmの幅内にあることを特徴とする請求項1に記載の膝裏地用織物。
【請求項3】
前記耳組織の幅が0.1〜5cmであることを特徴とする請求項1に記載の膝裏地用織物。
【請求項4】
用いられる繊維のうち少なくとも1種が、ポリエステルマルチフィラメント、セルロースマルチフィラメント、およびポリアミドマルチフィラメントから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【請求項5】
タテ糸およびヨコ糸が無撚のマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【請求項6】
少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方が有撚のマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【請求項7】
タテ糸が無撚または有撚で、ヨコ糸が仮撚り加工糸のマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【請求項8】
少なくともタテ糸またはヨコ糸の一方が、糸の長手方向に未解撚部分と解撚部分が混在した仮撚り加工糸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の膝裏地用織物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された膝裏地用織物を用いてなることを特徴とする下衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−291573(P2007−291573A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123075(P2006−123075)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】