説明

膨張タービン

【課題】高速回転する膨張タービンに適した制動機構を提供する。
【解決手段】回転シャフト12の外周上側の互いに対向する2箇所に上側突極26a,26bを形成するとともに、回転シャフト12の外周下側の互いに対向する上側突極26a,26bとは上下方向に重ならない2箇所に下側突極28a,28bを形成する。回転シャフト12の外周に対向した位置にケーシング22を設け、ケーシング22には上側突極26a,26b及び下側突極26a,26b間に磁路を形成するための励磁コイル30を設ける。回転シャフト12の回転と励磁コイル30によって形成される磁路とによって、ケーシング22には渦電流が発生するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流を用いて制動する機構を備えた膨張タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍機の熱効率を向上させるために、膨張タービンが使用されている(例えば特許文献1参照)。こうした極低温用の膨張タービンの回転を制動する方式としては、流体的な制動方式と、電気・磁気的な制動方式とが知られている。このうち、流体的な制動方式としては、ブロア制動によるもの(例えば特許文献2参照)、作動液体によるもの(例えば特許文献3参照)があり、電気・磁気的な制動方式としては、発電機を用いるもの(例えば特許文献4参照)が知られている。
【0003】
また、車両分野等における回転機械の回転を制動する方式として、渦電流による制動を用いるものが知られている(例えば特許文献5参照)。この方式は、静止側(ステータ)に設けたコイルに電流を流して磁界を発生させ、回転しているロータに磁界を作用させることで、ロータ表面に渦電流を発生させる原理を応用したものである。そして、この渦電流と磁束のベクトル積により、回転方向と逆向きの電磁力を発生させることによって、これを制動トルクとして利用するようになっている。
【特許文献1】特開昭60−228708号公報
【特許文献2】特開平6−137101号公報
【特許文献3】特開平8−310356号公報
【特許文献4】特開2001−132410号公報
【特許文献5】特開平1−288636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した従来の膨張タービンの制動方式のうち、ブロワ制動による方式は、機械的な構成であるため制動の働きが確実であるものの、流体の流れが生じて、ガス流れを完全に遮断することができない。このためブロワ側への熱漏れからタービン効率が低下してしまうおそれがあった。
また、発電による制動方式は、高速回転であるため、発電のためのインバータを要し、このインバータで電力を回収して放出する際における制動抵抗や電源回生のための機器が相当複雑化することから、機器の制御も複雑となり高価であった。さらに、発電による制御方式では、モータの回転条件が整わなければ制動力が発揮できないという問題があった。
【0005】
また、上記の膨張タービン分野以外の回転機械の制動方式として、例えば車両分野等で用いられるブレーキパッドの機械摩擦による制動方式が知られている。しかし、膨張タービンのように高速で回転する回転体(ロータ)の制動には、摩擦損失による発熱や接触によるアンバランスの発生など、回転体としてのバランスが崩されるおそれがあるため、その適用は難しい。
【0006】
また、上記の従来の渦電流制動は、ロータに渦電流によるジュール熱が発生するため、ロータ側の発熱が顕著となる。特に非接触支持で高速回転させる場合では、ロータの周りのガス等にて熱を取り除くしか方法がないため、ロータ側の発熱を取り除くことは困難である。さらにロータが径方向に拡げられた形になっているため、このような形は膨張タービンのような高速回転体の制動には不適である。このため、ロータが遠心力に耐え、かつ軸系安定性を増した簡素かつ小型で安価な構成の渦電流制動方式の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みて、ロータ側の発熱を抑え、かつ、制動トルクを得ることができる膨張タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る膨張タービンでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明は、回転シャフトの一端に設けられたタービンインペラに供給されるガスを断熱膨張させる際に、前記タービンインペラが回転する膨張タービンであって、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側と、タービンインペラに対して遠い側には、周方向に磁気抵抗差を形成する磁性部がそれぞれ設けられ、前記回転シャフトの外周に対向した位置には、電流を流すと磁束を発生するコイルを備えるケーシングが設けられ、前記コイルによって前記ケーシングと前記磁性部との間に形成される磁路と、前記回転シャフトの回転とによって、前記ケーシングには渦電流が発生するように構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側とタービンインペラに対して遠い側には、周方向に磁気抵抗差を形成する磁性部がそれぞれ設けられるので、回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側の磁性部とこれに対向するケーシングとの間、タービンインペラに対して遠い側の磁性部とこれに対向するケーシングとの間をそれぞれ繋ぐ磁路が形成される。コイルに電流を流すと磁束の流れは、例えば、ケーシングのタービンインペラに対して遠い側→回転シャフトの外周のタービンインペラに対して遠い側の磁性部→回転シャフト→回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側の磁性部→ケーシングのタービンインペラに対して近い側の順(コイルの巻方向や励磁方向を変えると逆順になる)に発生する。この状態において回転シャフトが回ろうとすると、この回転に伴って磁性部が設けられる回転シャフトの周囲の磁束密度が変化するので、これに応じて磁性部と対向する位置のケーシングの表面に渦電流が発生する。この渦電流が発生することによって、回転シャフトの回転している方向とは逆向きの制動力が発生する。このように、ケーシングで渦電流が発生する構成としたため、回転シャフト側には電気的な発熱はほとんど生じない。
【0010】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記磁性部は、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側に設けられて外側方向に突出した突極と、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して遠い側に設けられて外側方向に突出した突極とからなることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側に設けられて外側方向に突出した突極とこれに対向するケーシングとの間、回転シャフトの外周のタービンインペラに対して遠い側に設けられて外側方向に突出した突極とこれに対向するケーシングとの間において磁路が形成される。コイルに電流を流すと磁束の流れは、例えば、ケーシングのタービンインペラに対して遠い側→タービンインペラに対して遠い側の突極→回転シャフト→タービンインペラに対して近い側の突極→ケーシングのタービンインペラに対して近い側の順(コイルの巻方向や励磁方向を変えると逆順になる)に発生する。この状態において回転シャフトが回ろうとすると、この回転に伴って突極が設けられる回転シャフトの周囲の磁束密度がそれぞれ変化するので、これに応じて突極とこれに対向する位置のケーシングの表面に渦電流が発生する。
【0012】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記磁気抵抗差は、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側と遠い側にそれぞれ設けられた内側方向に窪んだ窪み部により形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、周方向の磁気抵抗差は、回転シャフトの外周の内側方向に窪んだ窪み部によって形成される。
【0014】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記磁性部は、前記回転シャフトの周方向に等間隔に配置された2箇所以上の磁性部であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、2箇所以上の複数の磁性部が、回転シャフトの外周に周方向に等間隔に配置されることから、回転シャフトの回転体としての安定性が高まる。
【0016】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記磁性部は、前記回転シャフトの回転軸方向に重ならないように互い違いに形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、磁性部は、回転軸方向に重ならないように互い違いにずらして設けているので、回転シャフトの回転体としての安定性がさらに高まる。
【0018】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記磁性部は、前記回転シャフトと一体的に形成されることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、回転シャフト及び磁性部が一体的に形成されて一体型の軸となるので、回転シャフトの回転体としての剛性は、回転シャフト及び磁性部を一体的に形成しない場合に比べると高まる。このため、回転シャフトが高速回転する場合に、回転シャフトのバランスが崩れたりするなどの安定性を失うおそれは低くなる。
【0020】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記コイルは、ガスとは隔離した位置に設けられることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、コイルはガスから離して設けられるので、コイルがガスに接触することはなくなる。さらに、コイルを収納する際に、ガス漏れを防止するハーメチックコネクタ等の特殊なコネクタを用いる必要がなくなる。
【0022】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記ケーシング内には冷却水用通路が設けられ、前記冷却水用通路内を水が流通することにより前記ケーシングを水冷する冷却機能を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、ケーシングにおける発熱は、ケーシング内に設けられた冷却水用通路内の水の流れにより排熱されて、ケーシングを水冷方式により冷却する。
【0024】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記コイルは、前記冷却機能に用いる冷却水とは隔離した位置に設けられることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、コイルは冷却水から離して設けられるので、コイルが冷却水に接触することはなくなる。さらに、コイルを収納する際に、水漏れを防止するハーメチックコネクタ等の特殊なコネクタを用いる必要がなくなる。
【0026】
本発明に係る他の膨張タービンは、上記において、前記磁性部は、前記ケーシングの内周面に接近して設けられ、前記磁性部の設けられる前記回転シャフトのタービンインペラに対して近い側と遠い側との間の前記回転シャフトの外周面に対向した前記ケーシングの内周側には、非磁性材からなる薄い円筒状のスリーブが設けられ、前記冷却水用通路は前記スリーブの外側に設けられ、前記コイルは、非磁性材からなるシール部によって前記冷却水用通路とは分離されて前記ケーシングの外側に設けられ、前記コイルに直流電流を流すことにより前記ケーシングと前記磁性部との間に磁路を形成させ、前記回転シャフトの回転に応じて前記ケーシングに渦電流を発生させることで前記回転シャフトの制動がなされる構成とされること
を特徴とする。
【0027】
本発明によれば、コイルに直流電流を流すことによりケーシングに渦電流を発生させて、回転シャフトを制動する。ケーシングの発熱は、冷却水用通路内の冷却水により冷却される。磁束発生用のコイルは、非磁性材からなるシール部によって冷却水用通路内の冷却水やガスとは分離されて設けられる。冷却水用通路は非磁性材からなるスリーブ及びシール部により区画されてケーシング内部に設けられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コイルに電流を流すだけで回転シャフト(ロータ)の制動を容易に行うことができるという信頼性の高い簡易な構成を提供することができる。また、回転シャフト側に電気的な発熱がほとんど生じないので回転体としての安定性は損なわれない。さらに、コイルの取り扱いに関する特別な配慮を不要とすることができ、メンテナンスを容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る膨張タービンの第一の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は第一の実施形態に係る膨張タービン10の全体構成を示す断面図であり、図2は図1のA−A線に沿った断面図であり、図3は図1のB部の概略斜視図である。
【0030】
膨張タービン10は、図1に示すように、上下に延びた磁性材からなる回転シャフト12と、回転シャフト12の下端に設けられたタービンインペラ14とを備える。タービンインペラ14は断熱膨張装置16に内蔵されており、断熱膨張装置16に導入された極低温ガス(例えば温度4〜64Kのガス)を断熱膨張させる際にタービンインペラ14を回転駆動することにより、タービンインペラ14を介して回転シャフト12が軸心Cの周りに回転するようになっている。
【0031】
タービンインペラ14の上側の回転シャフト12の周囲には、断熱材18が設けられており、回転シャフト12の設けられる側からタービンインペラ14の設けられる低温側への入熱を抑制するようになっている。断熱材18の上側には、回転シャフト12の下側部分を回転可能に軸支する下側軸受20が設けられる。下側軸受20の上側には、回転シャフト12の外周を囲うように軸心Cと同軸に導電性の磁性材からなるケーシング22が配置される。ケーシング22の上側には、回転シャフト12の上側を回転可能に軸支する上側軸受24が設けられる。
【0032】
上側軸受24と下側軸受20に挟まれた回転シャフト12の軸方向略中央胴部には、例えば、回転シャフト12の回転軸方向、すなわち上下方向に重ならないように互い違いに上側突極26a、26bと、下側突極28a、28bとがそれぞれ形成される。
【0033】
上側突極26a、26bは、図2、3に示すように、回転シャフト12の上側(タービンインペラ14に対して遠い側)の領域の外周の互いに対向する2箇所に外側方向へ突出して形成される。下側突極28a、28bは、上側突極26a、26bの中央より90度の角度だけ軸心Cの周りにずらした位置の回転シャフト12の下側(タービンインペラ14に対して近い側)の領域の外周の2箇所に外側方向へ突出して形成される。
このようにして、回転シャフト12の外周表面の上側と下側には、周方向に磁気抵抗差をそれぞれ形成するための磁性部としての突極が各々設けられる。
【0034】
ケーシング22の外径側には、励磁コイル30が軸心Cと同軸に設けられる。励磁コイル30は、上側突極26a、26bと、これらと対向する位置のケーシング22の内周の上側表面40との間を繋ぐ磁路を形成するとともに、下側突極28a、28bと、これらと対向する位置のケーシング22の内周の下側表面42との間を繋ぐ磁路を形成するために用いられる。励磁コイル30の周りにはJIS規格におけるSUS304系などの非磁性材で構成されるシール部36が設けられる。
上側突極26a、26bと下側突極28a、28bの間の回転シャフト12の外周面に対向したケーシング22の内周側には、非磁性材からなる薄い円筒状のスリーブ32が軸心Cと同軸に設けられる。
スリーブ32の外周側のケーシング22内部には、冷却水用通路34が設けられる。冷却水用通路34は、ケーシング22と、ケーシング22内周側のスリーブ32と、ケーシング22外側のシール部36とに区画されることによって中空に形成され、冷却水用通路34を水が例えばポンプ(不図示)によって流動することにより、ケーシング22を水冷する冷却機能を構成するようになっている。シール部36は、励磁コイル30が冷却水用通路34の冷却水やガスから接触することを防ぐために設けられている。
【0035】
上記構成の動作を説明する。
励磁コイル30に電流を流すと、励磁コイル30が磁界を発生させ、例えば、ケーシング22内部、ケーシング22の内周の上側表面40、上側突極26a、回転シャフト12、下側突極28a、ケーシング22の内周の下側表面42、ケーシング22内部を繋ぐ経路に磁束の流れが形成される。
この状態において回転シャフト12が回ると、この回転に伴って上側突極26aの設けられる回転シャフト12の周囲の磁束の方向が変化するとともに、下側突極28aの設けられる回転シャフト12の周囲の磁束の方向が変化する。
そうすると、ケーシング22の内周の上側表面40と、内周の下側表面42のそれぞれの表面において磁束の疎密が時々刻々変化する状態が作りだされ、電磁誘導作用によりケーシング22の上側表面40及び下側表面42には渦電流が発生する。この渦電流が発生することによって、回転シャフト12には回転している方向と逆向きの制動力が発生するようになる。
【0036】
ここで、渦電流は、ケーシング22の内周の上側表面40と下側表面42に発生するので、回転シャフト12側には電気損失による発熱はほとんど発生することがない。このため、回転シャフト12の回転安定性を保つことができる。
また、ケーシング22の内周の上側表面40と下側表面42の発熱は、ケーシング22内部に設けられた冷却水用通路34を流れる冷却水により容易に排熱することができる。
さらに、上側突極26a、26bと下側突極28a、28bとを上下方向すなわち回転軸方向に重ならないように互い違いに配置することにより、回転シャフト12の回転体としてのバランスを損なうことがない構成とすることができ、回転シャフト12の上下のそれぞれの外周において、周方向に磁気抵抗差を形成することができる。
【0037】
上記の第一の実施形態において、励磁コイル30は、スリーブ32、冷却水用通路34の外径側であって、極低温ガスや冷却水とは隔離した位置に設けられる。すなわち、励磁コイル30と冷却水用通路34との境界には、シール部36が設けられて、励磁コイル30を冷却水及び極低温ガスとから隔離するようになっている。このように、励磁コイル30は、冷却水にも極低温ガスにも触れないため、特別な対策を講じることが不要となって、汎用的な材料で製造したコイルを使用することができる。
【0038】
このように、励磁コイル30を、極低温ガスや冷却水用通路34からシール部36によって隔離して極低温ガスや冷却水に接触しないケーシング22の外径側に配置したので、励磁コイル30などの電気部品を収納するためのハーメチックコネクタ等の特殊なコネクタを用いずにすみ、普通のコネクタを用いることができる。このため、励磁コイル30の交換や点検などのメンテナンスも容易である。
【0039】
上記の第一の実施形態において、励磁コイル30によって形成される磁路は、直流電流による磁界を用いることができる。このように、直流電流を流すことによって磁路を同一方向に形成し、回転シャフト12に対して制動力を常に作用させることが可能である。また、回転シャフト12へ作用する制動力は、印加する磁束において磁気飽和しない範囲で渦電流の電流値の増加に伴って大きくなる。このため、回転シャフト12へ作用する制動力は、回転シャフト12の回転数、励磁コイル30に印加される電流値、励磁コイル30の巻数のそれぞれの数値の増加に応じて大きくなることになる。したがって、回転シャフト12の回転数や励磁コイル30に印加される電流値に応じて、制動力を変化させることが可能である。
【0040】
また、上記の第一の実施形態において、励磁コイル30の外部に、直流電流を制御する装置(不図示)を設けるようにしてもよく、この装置で電流のON・OFFを制御したり、励磁コイル30へ印加する直流電流の大きさを可変制御することにより、膨張タービン10の制動力のON・OFFや制動力の大きさを可変制御するようにしてもよい。
【0041】
さらに、上記の第一の実施形態において、励磁コイル30に印加する電流値を低く抑えるために、励磁コイル30の巻数を多くした構成を用いるようにしてもよい。このように、励磁コイル30の巻数を多くして印加する電流値を抑える構成とすれば、励磁コイル30に印加する電流電源の容量が小さくてすむという点で有利である。
【0042】
また、上記の第一の実施形態において、渦電流はケーシング22側に発生するようになっており、電気原理上、表皮効果によりこの表面にしか電流が流れない状況となる。このため発熱するのは常にケーシング22の上側表面40及び下側表面42の部分となる。そして、この表面40、42に発生する熱は、ケーシング22内部に設けられた冷却水用通路34内を流れる冷却水により排熱されるようになっている。
ここで、表面40、42からの熱をより効率的に吸収するために、表面40、42近傍に形成される冷却水用通路34の内壁形状は、ケーシング22からスリーブ32に向かってそれぞれ先細のテーパー状に形成されている。これにより、冷却水用通路34の内壁が上側表面40及び下側表面42の近傍に接近するように形成されるので、表面40、42からの熱をより効率的に排熱することができる。
【0043】
さらに、上記の第一の実施形態において、突極26a、26b、28a、28bは回転シャフト12と一体的に形成するのが好ましい。この突極の材質としては、JIS規格におけるSUS430系などの磁気を通す材料を用いることができる。
【0044】
以上のように、上記の第一の実施形態に係る膨張タービン10は、突極26a等を形成した回転シャフト12を設けて、ケーシング22に励磁コイル30を配置して、冷却水を用いる構成である。そして、この励磁コイル30に電流を流すだけで回転シャフト12を容易に制動することができるという簡易な構成であるので、従来の発電による制動方式等に比べるとシステム的信頼性は高い。
【0045】
また、上記の第一の実施形態に係る膨張タービン10では、励磁コイル30に直流電流を印加するだけでよく、冷却水用通路34内に流れる冷却水から排熱のために排水と給水をすればよいという簡易な構成となる。これにより、高速回転をする回転シャフト12には渦電流に伴う発熱はほとんど生じないため、回転体としての剛性を維持しつつその回転を制動することができるため有利である。
【0046】
さらに、上記の第一の実施形態に係る膨張タービン10は、回転シャフト12に突極26a等を形成し、さらに外部に磁路を形成するケーシング22を備えていれば多少の形状の違いは甘受できるようになっていることから、構造上単純な構成で回転シャフト12を制動することができるという有利な効果を奏する。
【0047】
図4に、第一の実施形態に係る膨張タービン10の電磁気解析の結果の一例を示す。これは励磁コイル30に3Aの電流を印加した場合の制動トルク及びケーシング22における発熱量の一例を示した図であり、回転シャフト12の回転速度5万〜10万rpmに対して解析した結果である。これによると、例えば、回転速度5万rpmの場合の制動トルクは電力値換算で約320Wであり、ケーシング22側の発熱量は約270Wであり、回転シャフト12側の発熱量はほとんどゼロである。また、回転速度10万rpmの場合は、制動トルクは電力値換算で約800W、ケーシング22側の発熱量は約640W、回転シャフト12側の発熱量はほとんどゼロとなることが判る。
このように、回転速度の上昇にしたがって、制動トルクとケーシング22側の発熱量は増加し、回転シャフト12側の発熱量は回転速度が変化しても変わらない。
このため、上記の第一の実施形態に係る膨張タービン10は、電流さえ印加していれば、回転速度が上昇しても、その速度に応じて制動力が少しずつ大きくなっていくものであり、常に制動力を作用し続けることができる。
【0048】
上記の第一の実施形態において、上側突極26a,26b及び下側突極26a,26bのようにタービンインペラ14に対して近い側と遠い側の上下各々2箇所に突極を設ける代わりに、少なくとも上下それぞれにおいて1箇所以上の磁性部としての突極を設けることで各周方向に磁気抵抗差を形成するようにしてもよく、いずれにしても本発明と同一の効果を奏することができる。この場合、設けられる突極の数は、回転シャフト12の回転体としての安定性を考慮して、上下それぞれ2箇所以上であることがより好ましい。
【0049】
図5を参照しながら、本発明に係る膨張タービンの第二の実施形態を説明する。
図5は、第二の実施形態に係る膨張タービンの概略斜視図である。図5に示すように、回転シャフト52の外周上側(タービンインペラ14に対して遠い側)に周方向に等間隔に4つの上側突極46が、外周下側(タービンインペラ14に対して近い側)に4つの下側突極48が設けられる。この場合でも、上記の第一の実施形態と同原理にてケーシング22側に渦電流を発生させることにより回転シャフト52の回転を制動することが可能である。なお、この場合、図5に示すように、上下各4つの突極46、48は上下方向に重なるように配置してもよい。
【0050】
図6を参照しながら、本発明に係る膨張タービンの第三の実施形態を説明する。
図6は、第三の実施形態に係る膨張タービンの概略斜視図である。図6に示すように、回転シャフト62の外周上側(タービンインペラ14に対して遠い側)には内側方向に窪んだ4つの上側窪み部56が周方向に等間隔に設けられ、外周下側(タービンインペラ14に対して近い側)には内側方向に窪んだ4つの下側窪み部58が設けられる。この場合、4つの上側窪み部56により回転シャフト62の上側の周方向に磁気抵抗差が形成され、4つの下側窪み部58により下側の周方向に磁気抵抗差が形成される。上下各4つの窪み部56、58に周方向に挟まれた部分には、突出部59が相対的に形成される。この突出部59が磁性部の役割を果たすことで、上記の第一の実施形態と同原理にて窪み部56、58に対向するケーシング22側の表面に渦電流を発生させることにより回転シャフト62の回転を制動することが可能である。なお、この場合、図6に示すように、上下各4つの窪み部56、58は上下方向に重なるように配置してもよい。
【0051】
なお、上述した第一、第二及び第三の実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせあるいは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第一の実施形態に係る膨張タービンの全体構成を示す断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1のB部の概略斜視図である。
【図4】渦電流制動機構の性能解析結果の一例であって回転速度と制動トルク及び発熱量との関係を示した図である。
【図5】第二の実施形態に係る膨張タービンの概略斜視図であり、図3に対応する図である。
【図6】第三の実施形態に係る膨張タービンの概略斜視図であり、図3に対応する図である。
【符号の説明】
【0053】
10…膨張タービン
12,52,62…回転シャフト
14…タービンインペラ
22…ケーシング
26a,26b…上側突極(磁性部、突極)
28a,28b…下側突極(磁性部、突極)
30…励磁コイル(コイル)
32…スリーブ
34…冷却水用通路
36…シール部
56,58…窪み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトの一端に設けられたタービンインペラに供給されるガスを断熱膨張させる際に、前記タービンインペラが回転する膨張タービンであって、
前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側と、タービンインペラに対して遠い側には、周方向に磁気抵抗差を形成する磁性部がそれぞれ設けられ、
前記回転シャフトの外周に対向した位置には、電流を流すと磁束を発生するコイルを備えるケーシングが設けられ、
前記コイルによって前記ケーシングと前記磁性部との間に形成される磁路と、前記回転シャフトの回転とによって、前記ケーシングには渦電流が発生するように構成されることを特徴とする膨張タービン。
【請求項2】
前記磁性部は、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側に設けられて外側方向に突出した突極と、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して遠い側に設けられて外側方向に突出した突極とからなることを特徴とする請求項1に記載の膨張タービン。
【請求項3】
前記磁気抵抗差は、前記回転シャフトの外周のタービンインペラに対して近い側と遠い側にそれぞれ設けられた内側方向に窪んだ窪み部により形成されること
を特徴とする請求項1に記載の膨張タービン。
【請求項4】
前記磁性部は、前記回転シャフトの周方向に等間隔に配置された2箇所以上の磁性部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の膨張タービン。
【請求項5】
前記磁性部は、前記回転シャフトの回転軸方向に重ならないように互い違いに形成されること
を特徴とする請求項4に記載の膨張タービン。
【請求項6】
前記磁性部は、前記回転シャフトと一体的に形成されること
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の膨張タービン。
【請求項7】
前記コイルは、ガスとは隔離した位置に設けられること
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の膨張タービン。
【請求項8】
前記ケーシング内には冷却水用通路が設けられ、前記冷却水用通路内を水が流通することにより前記ケーシングを水冷する冷却機能を備えること
を特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の膨張タービン。
【請求項9】
前記コイルは、前記冷却機能に用いる冷却水とは隔離した位置に設けられること
を特徴とする請求項8に記載の膨張タービン。
【請求項10】
前記磁性部は、前記ケーシングの内周面に接近して設けられ、
前記磁性部の設けられる前記回転シャフトのタービンインペラに対して近い側と遠い側との間の前記回転シャフトの外周面に対向した前記ケーシングの内周側には、非磁性材からなる薄い円筒状のスリーブが設けられ、
前記冷却水用通路は前記スリーブの外側に設けられ、
前記コイルは、非磁性材からなるシール部によって前記冷却水用通路とは分離されて前記ケーシングの外側に設けられ、
前記コイルに直流電流を流すことにより前記ケーシングと前記磁性部との間に磁路を形成させ、前記回転シャフトの回転に応じて前記ケーシングに渦電流を発生させることで前記回転シャフトの制動がなされる構成とされること
を特徴とする請求項8又は請求項9に記載の膨張タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255787(P2008−255787A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95447(P2007−95447)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】