説明

膨張弁

【課題】冷凍サイクルの冷媒を減圧するとともに冷媒流量を制御する膨張弁の騒音低減を図る。
【解決手段】膨張弁の弁本体30には、高圧の冷媒が送り込まれる入口ポート321と出口ポート331が設けられ、弁室25には弁孔32aの関度を制御する弁部材32bが設けられている。入口ポート321には気泡細分化部材として機能する整流部材100が設けられる。高圧冷媒中に含まれる気泡は細分化整流されて弁本体30内を通過し、気泡の破裂に起因する騒音が低減化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷凍サイクルに用いられる感温機構内蔵型の膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等に用いる冷凍サイクルについては、設置スペースや配線を省略するために、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温機構内蔵型の温度膨張弁が使用されている。
【0003】
図6は、従来の感温機構内蔵型の膨張弁の一例を示す断面図であって、角柱形状を有する弁本体30には、コンデンサ5で凝縮し、レシーバ6を通過した高圧の液冷媒の通路となる第1の通路32と、エバポレ−タ8の冷媒出口からコンプレッサ4の冷媒入口へ供給される気相冷媒が流れる第2の通路34とが上下に相互に離間して形成されている。なお、11は配管である。
【0004】
入口通路32には、液冷媒を導入する入口ポート321と、この入口ポート321に連通する弁室35と、この弁室35に設けられた弁孔32aと、この弁孔32aで膨張した冷媒を外部に向けて導出する出口ポート331とが設けられている。弁孔32aの入口には弁座が形成されていて、この弁座に対向して弁部材32bが配置されており、弁部材32bは圧縮コイルばね32cにより弁座に向かって付勢されている。弁室35の下端は弁本体30の底面に開口しており、弁本体30に螺着されたプラグ37によって密閉されている。
【0005】
弁本体30の上端には、弁部材32bを駆動するための弁部材駆動装置36が装着されている。弁部材駆動装置36は、ダイヤフラム36aにより内部空間を上下2つの圧力作動室36b、36cに仕切られた圧力作動ハウジング36dを有している。圧力作動ハウジング36dは、弁孔32aの中心線に対して同心的に形成された均圧孔36eを介して第2の通路34に連通している。
【0006】
弁本体30内には、ダイヤフラム36aの下面から弁孔32aまで延びた弁部材駆動棒36fが配置されている。弁部材駆動棒36fは、弁本体30における第1の通路32と第2の通路34の間の隔壁に設けた摺動案内孔により上下方向に摺動自在に案内されていて、下端を弁部材32bに当接させている。なお、上記隔壁には第1の通路32と第2の通路34の間で冷媒が漏れるのを防止する密封部材36gが装着されている。
【0007】
圧力作動ハウジング36dの上方の圧力作動室36b中には公知のダイヤフラム駆動流体が充填されていて、このダイヤフラム駆動流体には、第2の通路34や均圧孔36e内に位置する弁部材駆動棒36f及びダイヤフラム36aを介して、第2の通路34を流れる気相冷媒の熱が伝達される。上方の圧力作動室36b中のダイヤフラム駆動流体は上記伝達された熱に対応してガス化し、そのガス圧力がダイヤフラム36aの上面に作用する。ダイヤフラム36aは、その上面に作用するダイヤフラム駆動流体の圧力とダイヤフラム36aの下面に負荷される圧力との差に応じて上下に変位する。ダイヤフラム36aの中心部の上下への変位は、受け部材36h及び弁部材駆動棒36fを介して弁部材32bに伝達され、弁部材32bを弁孔32aの弁座に対して接近または離間させる。この結果、エバポレータ8に向かう冷媒流量が制御される。この種の膨張弁は、例えば下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−138292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この種の膨張弁にあっては、コンプレッサ4の起動時にエバポレータ8からコンプレッサ4側に冷媒ガスを戻す第2の通路34内の冷媒ガスがコンプレッサ8に吸引されて急激な圧力低下が発生し、第2の通路34と弁部材駆動装置36の圧力作動室36bとの圧力差が大きくなり、弁部材32bが弁孔32aを急速に全開する。これにより、第1の通路32を通って弁室35に導入される高圧冷媒中に多数の気泡が発生し、この気泡が破裂することにより耳障りな騒音が発生する。
本発明の目的は、上述した不具合を解消する膨張弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の膨張弁は、コンデンサで凝縮した高圧の冷媒を導入する入口ポート、該入口ポートに連通する弁室、該弁室に設けられた弁孔、該弁孔で膨張した冷媒を外部に向けて導出する出口ポート及びエバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒が通過する通路を有する弁本体と、前記弁孔を開閉する弁部材と、該弁部材を駆動して前記弁孔の開度を制御する弁部材駆動装置とを備えた膨張弁であって、前記入口ポート又は前記出口ポート若しくは前記入口ポート及び前記出口ポートに気泡細分化部材を設けたことを特徴とする。
【0011】
そして、気泡細分化部材は、例えば多孔質部材や多数の貫通孔を有する整流部材で構成することができる。
【0012】
多孔質部材としては、例えば、柱状の骨格が三次元に連なることにより形成された連続気孔を持つ金属体を用いることができる。その場合、圧損の増大を抑制するために、多孔質部材の気孔率が90%以上であることが好ましい。また、多孔質部材を用いる場合には、異物による目詰まりと圧損の増大を防ぐために、多孔質部材の上流側にストレーナを設けることが好ましい。そのようなストレーナとしては、例えば、網状のシートを円錐状に形成するとともにその開口端側にフランジを形成したものとすることができ、この場合、入口ポートに圧入されるリング状の押さえ部材でフランジを気泡細分化部材との間に挟み込むことで、入口ポートに作業性良く固定することができる。
【0013】
なお、騒音を効果的に低減するために、入口ポートに設けられる気泡細分化部材の孔の径を0.4mm乃至1.0mmにするのが好ましく、圧損の増大を抑制するために、出口ポートに設けられる気泡細分化部材の孔の径を0.4mm乃至2.0mmにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の膨張弁は、入口ポート又は出口ポート若しくは入口ポート及び出口ポートに気泡細分化部材を設けてあるので、弁本体内を通過する高圧の冷媒中の気泡が細分化され、気泡の破裂に起因する騒音の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は右側面図、(c)は左側面図。
【図2】図1の膨張弁の整流部材の拡大断面図。
【図3】本発明の他の実施例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は右側面図、(c)は左側面図。
【図4】本発明の更に他の実施例を示す正面断面図。
【図5】図4の要部の拡大図。
【図6】従来の膨張弁の概略構成の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1において、弁本体30には、冷媒の通路と平行に延びる1対の貫通孔50が設けられており、この貫通孔50は、膨張弁を他の機器にとりつけるために利用される。その他の構造で、先に説明した従来のものと同一の部位には同一の符号を付して再度の説明は省略する。
【0017】
本発明の膨張弁にあっては、高圧の冷媒が導入される入口ポート321の奥の弁室35に通ずる開口部に気泡細分化部材として機能する整流部材100が挿入装着されている。この整流部材100は、例えばプラスチックで形成され、図2(a)に示すように、大径部110と小径部120とを有する段付の円盤状に形成されている。整流部材100には、軸方向に延びる多数の貫通孔130が設けられている。図に示す実施例にあっては、中心部に設けられる1個の貫通孔130及びこれと同心の円周上に設けられる8個の貫通孔130の合計9個の貫通孔130を有する。貫通孔130の孔径寸法Dは、0.4mmから1.0mmの間に設定される。
この整流部材100を備えることにより、特にコンプレッサの起動時に冷媒中に多く発生する気泡が細分化されるとともに、整流されて弁室35内に導入されるので、気泡の破裂に起因する騒音の発生を低減することができる。
【0018】
また、本実施例では、弁孔32aを通過してエバポレータ側に向かう冷媒の出口ポート331側にも整流部材200が装着されている。
この整流部材200は、例えばプラスチックで形成され、図2(b)に示すように、大径部210と小径部220を有する段付の円盤状に形成されている。図に示す実施例にあっては、中心部に設けられる1個の貫通孔230及びこれと同心の円周上に設けられる8個の貫通孔230の合計9個の貫通孔230を有する。貫通孔230の孔径寸法Dは、0.4mmから2.0mmの間に設定される。なお、圧力損失の増大を抑制するために、貫通孔230の径は整流部材100の貫通孔130の径よりも大きくすることが好ましい。
この整流部材200を備えることにより、冷媒が弁孔32aを通過することで大径化した気泡が細分化されるとともに整流されてエバポレータ側へ向かうので、気泡の破裂に起因する騒音の低減を図ることができる。
【0019】
本発明の膨張弁は、気泡細分化部材として機能する整流部材を入口ポート321側又は出口ポート331側に選択的に設けるか、又は両ポート321、331に設けることにより効果的に騒音の低減を図ることができる。
【0020】
図3に示す実施例にあっては、入口ポート321に装着される気泡細分化部材400が円盤状の多孔質金属体で構成されている。多孔質金属体は、ニッケル等の粉末状の金属を焼結して製造され、三角柱状の骨格が三次元に連なることにより形成された連続気孔を持っており、高い気孔率(90%以上)を有している。このような多孔質金属体としては、例えば住友電気工業株式会社製のセルメット(登録商標)を用いることができる。なお、気泡細部化部材400は気孔径が0.4mmから1.0mmの間のものを使用するのが好ましく、本実施例では、気孔径0.9mm、セル数27〜33個/インチ、比表面積1250m2/m3のものを使用している。この気泡細分化部材400を備えることにより、特にコンプレッサの起動時に冷媒中に多く発生する気泡が細分化されて弁室35に送り込まれるので、気泡の破裂に起因する騒音の低減を図ることができる。
【0021】
また、本実施例では、出口ポート331側にも気泡細部化部材400と同様の構成を有する気泡細分化部材500が装着されている。この気泡細分化部材500は、気孔径が0.4mmから2.0mmの間の多孔質金属材料で構成される。なお、圧力損失の増大を抑制するために、気泡細分化部材500の気孔径は気泡細部化部材400の気孔径よりも大きくすることが好ましい。
この気泡細分化部材500を装備することにより、冷媒が弁孔32aを通過することで大径化した気泡が細分化されてエバポレータ側へ向かうので、気泡の破裂に起因する騒音の低減を図ることができる。
【0022】
図4に示す実施例にあっては、入口ポート321側に装着されている多孔質金属体から成る気泡細分化部材630の上流側にストレーナ600が設けられている。このストレーナ600は、プラスチックや金属等からなる網状のシートを成形してなるもので、図5に示すように、円錐状の本体部610と、その開口端側に形成されたフランジ612とを備えており、入口ポート321に圧入されるリング状の押さえ部材620によりフランジ612を気泡細分化部材630との間に挟み込むことにより固定されている。これにより、冷媒中の異物による多孔質金属体630の目詰まり及び圧損の増大を抑制することができる。
【0023】
以上、本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に種々の改変を施すことができる。
【符号の説明】
【0024】
30 弁本体
32 第1の通路
32a 弁孔
32b 弁部材
321 入口ポート
331 出口ポート
34 第2の通路
35 弁室
36 弁部材駆動装置
100 整流部材
130 貫通孔
200 整流部材
230 貫通孔
400 多孔質金属体
500 多孔質金属体
600 ストレーナ
620 固定部材
630 多孔質金属体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサで凝縮した高圧の冷媒を導入する入口ポート、該入口ポートに連通する弁室、該弁室に設けられた弁孔、該弁孔で膨張した冷媒を外部に向けて導出する出口ポート及びエバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒が通過する通路を有する弁本体と、前記弁孔を開閉する弁部材と、前記弁部材を駆動して前記弁孔の開度を制御する弁部材駆動装置とを備えた膨張弁であって、前記入口ポートに気泡細分化部材を設けたことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
コンデンサで凝縮した高圧の冷媒を導入する入口ポート、該入口ポートに連通する弁室、該弁室に設けられた弁孔、該弁孔で膨張した冷媒を外部に向けて導出する出口ポート及びエバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒が通過する通路を有する弁本体と、前記弁孔を開閉する弁部材と、前記弁部材を駆動して前記弁孔の開度を制御する弁部材駆動装置とを備える膨張弁であって、前記出口ポートに気泡細分化部材を設けたことを特徴とする膨張弁。
【請求項3】
コンデンサで凝縮した高圧の冷媒を導入する入口ポート、該入口ポートに連通する弁室、該弁室に設けられた弁孔、該弁孔で膨張した冷媒を外部に向けて導出する出口ポート及びエバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒が通過する通路を有する弁本体と、前記弁孔を開閉する弁部材と、前記弁部材を駆動して前記弁孔の開度を制御する弁部材駆動装置とを備えた膨張弁であって、前記入口ポート及び前記出口ポートに気泡細分化部材を設けたことを特徴とする膨張弁。
【請求項4】
前記気泡細分化部材が多孔質部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の膨張弁。
【請求項5】
前記多孔質部材は柱状の骨格が三次元に連なることにより形成された連続気孔を持つ金属体であることを特徴とする請求項4記載の膨張弁。
【請求項6】
前記気泡細分化部材の気孔率が90%以上であることを特徴とする請求項5記載の膨張弁。
【請求項7】
前記入口ポートに設けられる気泡細分化部材の上流側にストレーナを設けたことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の膨張弁。
【請求項8】
前記ストレーナは、網状のシートを円錐状に形成するとともにその開口端側にフランジを形成したものであり、前記入口ポートに圧入されるリング状の押さえ部材で前記フランジを前記気泡細分化部材との間に挟み込むことにより前記入口ポート内に固定されることを特徴とする請求項7記載の膨張弁。
【請求項9】
前記気泡細分化部材が多数の貫通孔を有する整流部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の膨張弁。
【請求項10】
前記入口ポートに設けられる気泡細分化部材の孔の径が0.4mm乃至1.0mmであることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8及び9のいずれかに記載の膨張弁。
【請求項11】
前記出口ポートに設けられる気泡細分化部材の孔の径が0.4mm乃至2.0mmであることを特徴とする請求項2乃至10のいずれかに記載の膨張弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−133139(P2011−133139A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291154(P2009−291154)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】