説明

膵癌に対するラパチニブとTS−1の併用療法

【課題】膵癌患者が2〜4週間に一度,外来へ通院することで治療が施行でき,しかも効果の高い治療法を提供する。
【解決手段】経口抗癌剤TS−1を4週間投与し.2週間休薬する。同時に経口分子標的治療薬ラパチニブを連日投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,人類において最も治療成績が悪い癌の一つである膵臓癌に対して,極めて有効性の高い,新しい治療方法を開発したものである。
【背景技術】
【0002】
膵癌は悪性腫瘍の中で最も予後が不良であることが知られている。本邦では毎年2万人以上の患者が新発生し,毎年ほほ同数が死亡している。膵癌患者は診断された時点では60%が切除不能であり,切除された患者でも半数が術後1年前後で再発死亡している。このことは,抗癌剤による新しい治療法の開発が,膵癌患者の予後を延長させるために,極めて大きな意義を持っていることを示している。
現在,膵癌に対して世界的に標準薬とされるゲムシタビンは点滴静注薬であり,毎週外来に通院して,検査を含め半日の治療時間が必要である。しかしながら,切除不能膵癌に対するゲムシタビンの延命効果は無治療と比較して2−3ヵ月程度である[非特許文献1]。本邦で膵癌に対して保険認可されているTS−1は経口抗癌剤であり,ゲムシタビンと同等の効果が複数の第II相試験で示されている[非特許文献2]。しかし,TS−1単独治療の延命効果はゲムシタビン単独と同様であり,さらなる治療の向上は何らかの薬剤との併用によらなければならない。
最近は新規抗癌剤として分子標的治療薬が多数開発されている。膵癌に対しても,いくつかの分子標的治療薬がゲムシタビンとの併用で臨床研究された。この結果,ゲムシタビンとの併用で,ゲムシタビン単独よりも予後改善効果を認めたものはEGFR阻害剤のエルロチニブのみである[非特許文献3]。
分子標的治療薬は,癌に高発現しているものを標的として作成されたものである。膵癌にHER2が高発現することが以前より知られていた。われわれも膵癌のうちHER2を高発現しているものの予後が不良であることを最近報告した[非特許文献4]。また,EGRFも膵癌に高発現しているものが多い。われわれは,この両分子を共に標的とするラパチニブが,膵癌に対して効果があるのではないかと考えた。
ラパチニブは本邦において2009年に乳癌に対し保険認可された。欧米でも現在のところ乳癌に対してのみ保険認可されており,他癌種については,頭頚部癌などに対して適応拡大が検討されている。膵癌に対するラパチニブの効果はまだ分かっていないが,アメリカ合衆国でゲムシタビンとの併用効果を検討する臨床研究が1つ行われているところである。
特許電子図書館およびPatolis−IVによる先行特許調査を行っても,TS−1とラパチニブの併用に関する先行技術はなかった。また,学術文献や学会発表抄録についても,TS−1とラパチニブの併用については基礎的研究も臨床研究もなされていなかった。
【0003】
【非特許文献1】Burris HA,Moore MJ,Andersen J,et al.Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first−line therapy for patients with advanced pancreas cancer:A randomized trial.Journal of Clinical Oncology,1997;15:2403−13.
【非特許文献2】Ueno H,Okusaka T,Ikeda M,Takezako Y,Morizane C.An early phase II study of S−1 in patients with metastatic pancreatic cancer.Oncology2005;68:171−8.
【非特許文献3】Moore MJ,Goldstein D,Hamm J,et al.Erlotinib plus gemcitabine compared with gemcitabine alone in patients with advanced pancreatic cancer:a phase III trial or the National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group.Journal of Clinical Oncology2007;25:1960−6.
【非特許文献4】Komoto M,Nakata B,Amano R,et al.HER2 overexpression correlates with survival after curative resection of pancreatic cancer.Cancer Science2009;100:1243−7.
【発明の開示】

【発明者が解決しようとする課題】
【0004】
現在,進行・再発膵癌に対する第一選択の治療は抗癌剤ゲムシタビンの経静脈点滴とされているが,これは週1回,3週投与,1週休薬が必要である。しかし,ゲムシタビンによる治療には次のような問題点があった。
1)膵癌患者は癌の腹腔神経浸潤などにより腹痛,背部痛を訴えることが多く,また食欲不振や全身倦怠感などの症状が強い場合もある。これらの症状により,日常生活に支障を来していることが多い。このような患者に対して,外来治療とはいえ,頻回に,長時間にわたる治療を行うことは,患者の生活の質を高めるためには好ましくない。
2)ゲムシタビン治療の効果は,この抗癌剤が出現する以前の標準治療薬5−FUの持続点滴静注に比べで,有意差はあったとはいえ,それほど高くない。
3)ゲムシタビン治療による主な副作用は,白血球減少,血小板減少,食欲不振,嘔気,食欲不振,間質性肺炎などがあげられる。
本発明は,これらの問題点を解決し,患者の通院回数を減らし,治療拘束時間を短くし,さらに治療効果を高めながら,副作用を軽減するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1)膵癌患者の通院回数減少および治療拘束時間短縮のために,経静脈薬ではなく,経口薬による治療を行う。
2)治療効果を高めるために,すでに膵癌に有効性が確認されている経口抗癌剤TS−1に,経口分子標的薬ラパチニブを併用する。
3)副作用を軽減するために,現在の標準治療薬ゲムシタビンよりも副作用の少ない薬剤TS−1とラパチニブを使用する。
【発明の効果】
【0006】
1)TS−1とラパチニブは,ともに経口抗癌剤であり,2〜4週間に1回の診察,投薬が可能である。また,病院滞在時間も緊急検査の結果待ちを入れても2時間程度にすることができる。すなわち,ゲムシタビンによる点滴静注に比べて,通院回数は2〜3分の一,一回の病院滞在時間を半減できる。すなわち,通院回数×病院滞在時間でみれば4〜6分の一の負担に軽減できる。
2)治療効果はゲムシタビン単独よりも高いことが期待される。
3)副作用はゲムシタビン単独よりも低いことが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
TS−1を単独投与するときは40m/m(投与される患者の体表面積)を1日2回朝食後と夕食後に服用させる。4週間毎日投与して,2週間休薬を繰り返す。
ラパチニブを単独投与するときは1250mg/bodyを一日1回,食前1時間以上前か,食後1時間以降に服用させる。ラパチニブの投与は休薬なく連日行われる。
併用の場合も,それぞれの薬剤は単独投与と同じ投与法,投与量で可能と考えられるが,その投与量については第I相臨床試験により決定される。投与量が決定した後に,第II相臨床試験を行い,膵癌に対する効果を確認する。
2009年現在,TS−1単独,ゲムシタビン単独,TS−1+ゲムシタビン併用の3群間で,膵癌に対する効果を比較する第III相臨床試験が本邦と台湾で行われている。この臨床試験の結果で膵癌に対する標準治療が決定されるが,その治療法とTS−1+ラパチニブの比較を行う第III相臨床試験を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】併用方法
【符号の説明】
【0009】
1はTS−1投与
2はラパチニブ投与

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵癌患者に対し,治療に有効な量のラパチニブ,および,治療に有効な量のTS−1を,ともに経口投与するに際して,抗腫瘍効果増強のために両者を併用することを特徴とする癌の治療方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−116728(P2011−116728A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288337(P2009−288337)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(509349613)
【Fターム(参考)】