説明

膵細胞の損失を予防するか、膵細胞を再生するためのゾヌリンのアンタゴニストの使用法

本発明は、糖尿病の治療のための物質および方法を提供する。本発明の物質および方法を用いて、膵臓β細胞の損失を緩徐にするおよび/または予防することができる。さらに、本発明の物質および方法は、膵臓β細胞を再生するのに用いることができる。本発明の実施態様では、本発明は、膵臓β細胞の損失の緩徐化を、それを必要とする被験体において行う方法を提供する。このような方法は、該被験体に、ゾヌリンのアンタゴニストを含む組成物を投与することを含み得る。ゾヌリンのアンタゴニストは、例えば、配列Gly Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号15)を含むペプチドであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の開発は、University of Maryland,Baltimore,Marylandの支援を受けた。本明細書に記載された発明は、National Institutes of Healthからの基金(DK66630およびDK48373)によって支援された。米国政府は、特定の権利を有する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、膵臓β細胞の損失を予防または緩徐化するための物質および方法を提供する。さらに、本発明はまた、細胞、特に膵臓β細胞を再生するための物質および方法も提供する。いくつかの局面では、ゾヌリンのアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)が、本発明の実施において用いられ得る。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
I.腸の密着結合の機能および制御
腸上皮は、外部環境と内部環境との間で最大の界面(2,000,000cm超)を示す。細胞間密着結合(「密着結合」)応答能の維持により、細菌、ウイルス、毒素、食物アレルゲンおよび巨大分子などの潜在的に有害な環境因子の腸のバリアを通る移動が防止される。この応答能は、食物アレルギー、腸内感染症、吸収不良症候群および炎症性腸疾患などの胃腸管に影響する種々の臨床的症状において、非常に危険にさらされる。
【0004】
tjまたは閉鎖帯(以下、「ZO」という)は、吸収性および分泌性上皮の1つの特徴である(Madara,J.Clin.Invest.,83:1089−1094(1989);およびMadara,Textbook of Secretory Diarrhea,Eds.Lebenthalら、Chapter 11,pages 125−138(1990))。尖端と側底区画との間のバリアとして、それらは、イオンおよび水溶性溶質の傍細胞経路を通る受動拡散を選択的に制御する(Gumbiner,Am.J.Physiol,253(Cell Physiol.22):C749−C758(1987))。このバリアは、経細胞経路と関連する経路の活性により生じる任意の勾配を維持する(Diamond,Physicologist,20:10−18(1977))。
【0005】
経上皮コンダクタンスの変動は、通常、傍細胞経路の透過性の変化に起因し得るが、これは、腸細胞原形質膜の抵抗が相対的に高いからである(Madara(1989,1990)、上述)。ZOは、この傍細胞経路において主要なバリアを表し、上皮組織の電気抵抗は、凍結割断電子顕微法で観察されるように、膜貫通タンパク質鎖の数およびZOにおけるそれらの複雑さに依存するように思われる(Madaraら、J.Cell Biol.101:2124−2133(1985))。
【0006】
ZOは、かつては静的構造であるとみなされていたが、実際には動的であり、かつ、種々の発達上の環境(Magnusonら、Dev.Biol,67:214−224(1978);Revelら、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol,40:443−455(1976);およびSchneebergerら、J.Cell.Sci.32:307−324(1978))、生理学的環境(Gilula ら、Dev.Biol,50:142−168(1976);Madaraら、J.Membr.Biol,100:149−164(1987);Mazariegosら、J.Cell Biol,98:1865−1877(1984);およびSardetら、J.Cell Biol,80:96−117(1979)),および病理学的環境(Milksら、J.Cell Biol,103:2729−2738(1986),Nashら、Lab.Invest.,59:531−537(1988);およびShasbyら、Am.J.Physiol,255(Cell Physiol,24:C781−C788(1988))に容易に順応することの多くの証拠が存在する。この順応の根拠となる制御機構はまだ完全には理解されていない。しかしながら、Ca2+の存在下で、ZOのアセンブリは、生化学的イベントの複合体カスケードの引き金となり最終的にZOエレメントの組織化されたネットワークの形成および調節につながる細胞の相互作用の結果であることが明らかであり、その組成は、部分的にしか特徴づけられていない(Diamond,Physicologist,20:10−18(1977))。膜貫通タンパク質鎖の候補であるオクルデン(occuluden)が最近同定された(Furuseら、J.Membr.Biol,87:141−150(1985))。
【0007】
膜接触の基礎をなす細胞質膜下プラークにおいて6つのタンパク質が同定されたが、それらの機能は未だ確立されていない(Diamond、上述)。ZO−1およびZO−2は、洗剤安定複合体中、特徴づけられていない130kDのタンパク質(ZO−3)と共に、ヘテロ二量体として存在する(Gumbinerら、Proc.Natl.Acad.Sci,USA,88:3460−3464(1991))。ほとんどの免疫電子顕微鏡を用いた研究では、ZO−1は、膜接触の真下に正確に位置づけられる(Stevensonら、Molec.Cell Biochem.,83:129−145(1988))。他の二つのタンパク質、シングリン(cingulin)(Citiら、Nature(London)333:272−275、(1988))および7H6抗原(Zhongら、J.Cell Biol.,120:477−483、(1993))は膜からさらに離れて位置しており、そしてまだクローニングされていない。小さなGTP結合タンパク質であるRab13もまた、最近、結合領域に位置づけられた(Zahraouiら、J.Cell Biol.,124:101−115(1994))。他の小さなGTP結合タンパク質が表層細胞骨格を調節すること、すなわち、rhoが局部接触部においてアクチン膜接着を調節すること(Ridleyら、Cell,70:389−399(1992))、およびracが成長因子誘導膜揺動を調節すること(Ridleyら、Cell,70:401−410(1992))が知られている。より特徴づけられた細胞結合部、局部接触部(Guanら、Nature,358:690−692(1992))、および接着結合部(Tsukitaら、J.Cell Biol.,123:1049−1053(1993))のプラークタンパク質の既知の機能との類推に基づいて、tj関連プラークタンパク質は細胞膜を横切る両方向でシグナルを伝達し、表層アクチン細胞骨格への結合を調節することに関与していると仮定されている。
【0008】
上皮がさらされる多くの種々の生理学的および病理学的攻撃に応答するためには、ZOは複雑な調節系の存在を必要とする迅速かつ調和した応答をなし得なければならない。ZOのアセンブリおよび調節に関与する機構を正確に特徴づけすることが、現在活発な研究の領域である。
【0009】
現在、tjの構造的および機能的結合が、アクチン細胞骨格と吸収細胞のtj複合体との間に存在するという一連の証拠が存在する(Gumbinerら、前出;Madaraら、前出;およびDrenchahnら、J.Cell.Biol.,107:1037−1048(1988))。アクチン細胞骨格は、その精密な幾何学模様がアクチン結合タンパク質の大きな構造により調節される微小フィラメントの複雑な網目構造で構成される。アクチン結合タンパク質のリン酸化状態が細胞の原形質膜への細胞骨格結合をどのように調節し得るか、ということについての一例は、ミリストイル化されたアラニンに富むCキナーゼ基質である(本明細書において以降、”MARCKS”とする)。MARCKSは、原形質膜の細胞質面に会合する特定のタンパク質キナーゼC(本明細書において以降、”PKC”とする)の基質である(Aderem,Elsevier Sci.Pub.(UK),438−443(1992))。その非リン酸化形態では、MARCKSは膜アクチンと架橋する。従って、おそらく、MARCKSを介して膜と会合したアクチンの網目構造は比較的剛性である(Hartwigら、Nature,356:618−622(1992))。活性化PKCは、MARCKSをリン酸化し、これは膜から放出される(Rosenら、J.Exp.Med.172:1211−1215(1990);およびThelenら、Nature,351:320−322(1991))。MARCKSに結合したアクチンは、おそらく、膜から空間的に分離され、より可塑性である。MARCKSが脱リン酸化されるとそれは膜に戻り、そこで再びアクチンを架橋する(Hartwigら、前出:およびThelenら、前出)。これらのデータは、F−アクチンネットワークが、アクチン結合タンパク質(MARCKSはその一つである)を含むPKC依存性リン酸化プロセスにより再配置され得ることを示唆する。
【0010】
種々の細胞内媒介物質が、tjの機能および/または構造を変化させることが示されている。両生類胆嚢(Duffeyら、Nature,204:451−452、(1981))の接着結合、金魚(Bakkerら、Am.J.Physiol.、246:G213−G217(1984))およびカレイ(Krasneyら、Fed.Proc.、42:1100(1983))の両方の腸の接着結合は、細胞内cAMPが増大した場合、受動的なイオンの流れに対して増大した抵抗を示す。また、両生類胆嚢をCa2+イオノフォアに曝すと、tj抵抗が増大し、tj構造の変化を誘導するようにみえる(Palantら、Am.J.Physiol.,245:C203−C212(1983))。さらに、ホルボールエステルによるPKCの活性化は、腎臓上皮細胞株(Ellisら、C.Am.J.Physiol.,263(Renal Fluid Electrolyte Physiol.,32:F293−F300(1992))および腸上皮細胞株(Stenson ら、C.Am.J.Physiol.,265(Gastrointest.Liver Physiol.,28:G955−G962(1993))の両方において傍細胞透過性を増加させる。
【0011】
II.閉鎖帯毒素
コレラ毒素(CT)をコードするctxA遺伝子を欠失させることにより構築されるコレラ菌ワクチンの候補のほとんどは、高度の抗体応答を誘発し得るが、それでも半数を超えるそのワクチンは軽度の下痢を発症する(Levineら、Infect.Immun.,56(1):161−167(1988))。CTの不在下で誘導された下痢の程度から、コレラ菌は、ctxA配列を欠失した株になお存在する他の腸毒素因子を産生すると仮定された(Levineら、前出)。その結果、コレラ菌により合成され、後の下痢の原因となる第二の毒素である閉鎖帯毒素(本明細書において以降、”ZOT”とする)が発見された(Fasanoら、Proc.Nat.Acad.Sci.,USA,8:5242−5246(1991))。zot遺伝子は、ctx遺伝子のすぐ隣に位置している。コレラ菌株においてctx遺伝子と共にzot遺伝子が高頻度で存在すること(Johnsonら、J.Clin.Microb.,31(3):732−733(1993);およびKarasawaら、FEBS Microbiology Letters,106:143−146(1993))は、コレラに代表的である急性脱水性下痢の原因としてのZOTの可能な共同的な働きを示唆する。最近、zot遺伝子が、他の腸内病原体でも同定された(Tschape,2nd Asian−Pacific Symposium on Typhoid fever and other Salomellosis,Al(Abstr.)(1994))。
【0012】
ウサギ回腸粘膜で試験した場合に、ZOTは、細胞間tjの構造を調整することによって、腸透過性を増加することが以前に発見されている(Fasanoら、前出)。傍細胞経路の変化の結果、腸粘膜はより透過性となることが発見されている。また、ZOTは、Na−グルコース共役能動輸送には影響せず、細胞傷害性がなく、そして経上皮抵抗を完全に消失させ得ないことも発見された(Fasanoら、前出)。
【0013】
より最近では、ZOTは腸管粘膜中のtjを可逆的に開口し得るので、ZOTは、例えばインスリンなどの治療薬と同時に投与すると、例えば、糖尿病の治療における経腸薬物送達用の経口投与組成物において用いた場合、治療薬を腸に送達し得ることが見出された(特許文献1;特許文献2;特許文献3;および非特許文献1:それぞれはその全体が参照として本明細書中に援用される)。また、ZOTは鼻粘膜中のtjを可逆的に開口し得るので、ZOTは、治療薬と同時投与した場合、治療薬の経鼻吸収を増強し得ることが見出された(特許文献4;その全体が参照として本明細書中に援用される)。
【0014】
特許文献5(その全体が参照として本明細書中に援用される)では、ZOT受容体は、腸株化細胞、すなわちCaCo2細胞から同定および精製された。さらに、特許文献6(その全体が参照として本明細書中に援用される)では、ヒトの腸、心臓および脳組織由来のZOT受容体が同定および精製された。ZOT受容体は、腸および鼻の透過性の制御に関与する傍細胞経路の第一段階を表す。
【0015】
III.ゾヌリン
特許文献7および特許文献8(その全体が参照として本明細書中に援用される)では、ZOTに免疫学的におよび機能的に関係する哺乳動物タンパク質、ならびに哺乳動物の密着結合の生理学的修飾因子として機能する哺乳動物タンパク質が同定および精製された。「ゾヌリン」と呼ばれるこれらの哺乳動物タンパク質は、腸および鼻粘膜のtjを通る、ならびに血液脳関門のtjを通る治療薬の吸収を増強するのに有用である。
【0016】
IV.ゾヌリンのペプチドアンタゴニスト
ゾヌリンのペプチドアンタゴニストは、特許文献9に対応する係属中の米国特許出願第09/127,815号明細書(2006年8月3日出願、その全体が参照として本明細書中に援用される)で初めて同定および記載された。ゾヌリンのペプチドアンタゴニストは、ZOT受容体に結合し得るが、哺乳動物の密着結合の開口を生理学的に調節するように機能しない。ペプチドアンタゴニストは、ZOTおよびゾヌリンのZOT受容体への結合を競合的に阻害し、それによってZOTおよびゾヌリンが哺乳動物の密着結合の開口を生理学的に調節する能力を阻害する。
【0017】
V.糖尿病
一般にインスリン依存性糖尿病または若年性糖尿病と呼ばれるI型糖尿病(TlDM)は、膵臓の自己免疫障害である。患者は膵臓のβ細胞への免疫応答を起こし、この細胞はインスリンの産生に関与する。β細胞が破壊された結果、膵臓はホルモン(インスリン)をもはや産生できない。
【0018】
糖尿病に伴う罹患率および死亡率は深刻である。アメリカ合衆国における糖尿病を有する個人の総数は、15,700,000人である。なかでも、I型糖尿病を有する個人の100%およびII型糖尿病を有する個人の40%は、インスリンの非経口投与に依存する。毎年、糖尿病を有する5に関する直接的な医療コストは、400億ドルを超える。さらに140億ドルが、能力障害、労働損失および若年死亡率に関連する。
【0019】
経口インスリン薬物送達のストラテジーは、多くの研究努力の焦点であり続けるが、小腸がインスリンなどの巨大分子の吸収を防ぐ生理学的性質が原因で、それらの大部分が成功しなかった。
【特許文献1】国際公開第96/37196号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,827,534号明細書
【特許文献3】米国特許第5,665,389号明細書
【特許文献4】米国特許第5,908,825号明細書
【特許文献5】米国特許第5,864,014号明細書
【特許文献6】米国特許第5,912,323号明細書
【特許文献7】米国特許第5,945,510号明細書
【特許文献8】米国特許第5,948,629号明細書
【特許文献9】国際公開第00/07609号パンフレット
【非特許文献1】Fasanoら、J.Clin.Invest,(1997)99:1158−1164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
最近、米国特許出願公開第2005/0067074号明細書は、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストを用いて、糖尿病の発症を防止または遅延することを開示する。この刊行物は、病状悪化の重大かつ初期の段階が傍細胞透過性の変化に存在すること、および糖尿病への進行には傍細胞透過性の増加が必要なことを示唆する。この内在性経路を阻害するゾヌリンのペプチドアンタゴニストは、糖尿病への進行を予防することが示された。この刊行物の開示にもかかわらず、該分野では、例えば、インスリン産生β細胞の再生により、疾患の過程を逆行させることがなお必要とされている。この必要性および他の必要性は、本発明により満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(発明の要旨)
いくつかの実施態様では、本発明は、膵臓β細胞の損失の緩徐化を、それを必要とする被験体において行う方法を提供する。このような方法は、該被験体に、ゾヌリンのアンタゴニストを含む組成物を投与することを含み得る。ゾヌリンのアンタゴニストは、例えば、配列Gly Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号15)を含むペプチドであり得る。膵臓β細胞の損失の緩徐化に用いるための組成物は、ゾヌリンアンタゴニストに加えて、1つまたはそれ以上の成分を含み得る。例えば、組成物は、1つまたはそれ以上の細胞増殖を増強する因子を含み得る。適した因子には、増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない。適した増殖因子の例には、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
いくつかの実施態様では、本発明は、膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法を提供する。このような方法は、該被験体に、ゾヌリンアンタゴニストおよび細胞を投与することを含み得る。ゾヌリンのアンタゴニストは、ペプチド、例えば、配列Gly Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号15)を含むペプチドであり得る。β細胞の再生を促進し得る任意の型の細胞が用いられ得る。いくつかの実施態様では、細胞は、増殖因子を分泌する細胞であり得る。いくつかの実施態様では、細胞は、膵島細胞、例えば、β細胞であり得る。いくつかの実施態様では、細胞は、前駆細胞、例えば、幹細胞であり得る。アンタゴニストおよび細胞の投与のタイミングは、当業者に容易に知られる技術を用いて最適化され得る。いくつかの実施態様では、アンタゴニストおよび細胞は、同時に投与され得るが、他の実施態様では、アンタゴニストおよび細胞は、同時に投与されない。すなわち、アンタゴニストは、細胞が移植される前およびされた後に投与され得る。1つの実施態様では、アンタゴニストは、細胞の前後に投与される。
【0023】
膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、ゾヌリンアンタゴニストおよび細胞を投与することを含む方法は、細胞増殖を増強する因子を投与することをさらに含み得る。適した因子には、増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない。適した増殖因子の例には、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
いくつかの実施態様では、本発明は、膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、β細胞の複製を許容する条件下で、ゾヌリンアンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。ゾヌリンのアンタゴニストは、例えば、配列Gly Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号15)を含むペプチドであり得る。そのような方法は、細胞増殖を増強する因子を投与することをさらに含み得る。適した増殖因子の例には、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
いくつかの実施態様では、本発明は、膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、ゾヌリンアンタゴニストを投与すること、および該被験体に、細胞を移植することを含む、方法を提供する。ゾヌリンのアンタゴニストは、例えば、配列Gly Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号15)を含むペプチドであり得る。移植され得る任意の型の細胞およびβ細胞の再生を促進する因子が用いられ得る。いくつかの実施態様では、細胞は、増殖因子を分泌する細胞を含み得る。いくつかの実施態様では、細胞は膵島細胞であり得、例えば、細胞は、β細胞を含み得る。いくつかの実施態様では、細胞は、例えば、幹細胞などの前駆細胞を含み得る。アンタゴニストの投与および細胞の移植のタイミングは、当業者に容易に知られる技術を用いて最適化され得る。いくつかの実施態様では、アンタゴニストは、細胞の移植と同時に投与され得るが、他の実施態様では、アンタゴニストは、細胞の移植と同時に投与されない。すなわち、アンタゴニストは、細胞が移植される前または後に投与され得る。1つの実施態様では、アンタゴニストは、細胞が移植される前およびされた後の両方で投与される。
【0026】
いくつかの実施態様では、膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、ゾヌリンアンタゴニストを投与すること、および該被験体に細胞を移植することを含む、方法は、細胞増殖を増強する因子を投与することをさらに含み得る。適した因子には、増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない。適した増殖因子の例には、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、因子は、細胞の移植と同時に投与され得るが、他の実施態様では、因子は、細胞の移植と同時に投与されない。すなわち、因子は、細胞が移植される前または後に投与され得る。1つの実施態様では、因子は、細胞が移植される前およびされた後の両方で投与される。
【0027】
本発明は、自己免疫疾患を治療する方法であって、解剖学的障壁(anatomical barrier)の透過性の増加を防止する化合物を投与することを含む、方法を提供する。解剖学的障壁の透過性の増加を防止する化合物は、解剖学的障壁の透過性を増加させる正常な生理学的化合物のアンタゴニストである。自己免疫疾患の処置に適した化合物の例は、ゾヌリンアンタゴニストである。解剖学的障壁の透過性の増加を防止する化合物で治療され得る自己免疫疾患には、セリアック病、原発性胆汁性肝硬変、IgA腎症、ウェゲナー肉芽腫症、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、クローン病、エリテマトーデス、橋本病(甲状腺機能低下)、グレーブス病(過敏性甲状腺)、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳病、水疱性類天疱瘡、デビック症候群、グッドパスチャー症候群、ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)、自己免疫性リンパ増殖性症候群(ALPS)、腫瘍随伴症候群、多腺性自己免疫性症候群(PGA)および円形脱毛症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明のこれらおよび他の目的は、以下に提供する発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
上記で論じたように、種々の実施態様において、本発明は、膵臓β細胞の損失を緩徐化するための、膵臓β細胞の損失を予防するための、および/または膵臓β細胞を再生するための物質および方法であって、とりわけ、そのような緩徐化、予防および/または再生を必要とする被験体に、薬学的に有効量のゾヌリンのアンタゴニストを投与することによる物質および方法を提供する。代表的には、本発明での使用に適したアンタゴニストは、閉鎖帯毒素(ZOT)受容体に結合するが、哺乳動物の密着結合の開口を生理学的に調節しない。いくつかの実施態様では、ゾヌリンのアンタゴニストは、ペプチド類であり得る。用語「アンタゴニスト」は、作動薬(すなわち、ゾヌリン)が引き起こす応答を防止、抑制、減少または逆行させる化合物であると定義される。1つの実施態様では、本発明は、膵臓β細胞の損失を緩徐化するための、膵臓β細胞の損失を予防するための、および/または膵臓β細胞を再生するための物質および方法であって、とりわけ、そのような緩徐化、予防および/または再生を必要とする被験体に、薬学的に有効量のゾヌリンのアンタゴニストを投与することにより、該アンタゴニストは、閉鎖帯毒素(ZOT)受容体に結合するが、哺乳動物の密着結合の開口を生理学的に調節しない物質および方法を提供する。
【0030】
本発明で用いる膵臓β細胞の再生は、膵臓β細胞の数を増加させることを意味する。再生は、1つまたはそれ以上の細胞を被験体に導入(例えば、移植)することを必要とし得る。細胞(例えば、β細胞、幹細胞など)の移植は該分野で公知である。例えば、米国特許第6,703,017号明細書(これは、参照として本明細書中に特別に援用される;特に実施例1〜3)は、膵島産生幹細胞、膵島前駆細胞および膵島様構造の移植を開示する。Soon−Shiongら(Proc Natl Acad Sci USA.90(12):5843−7(1993))は、免疫保護された膵島の注射による糖尿病の長期の逆転を記載する。幹細胞の単離は公知である。例えば、米国特許出願公開第20030082155号明細書(これは、参照として本明細書中に特別に援用される;特に、実施例1〜4)は、ランゲルハンス膵島の幹細胞を単離することおよびそれらの糖尿病の治療における使用を開示する。膵臓β細胞の再生はまた、既に膵臓中に存在するβ細胞が複製し得る条件を提供することを含む。例えば、成体膵臓β細胞は、インビボで増殖する顕著な能力を保持するので、膵臓β細胞は、この増殖を促進する条件を提供することにより再生され得ることが示されている(Dorら、Nature,429:41−46(2002))。
【0031】
本明細書中で用いられるように、被験体は、本発明のアンタゴニストを受容する任意の動物、例えば、哺乳動物である。被験体には、ヒトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
現在の実験は、自己免疫疾患、例えば、I型糖尿病の発症は、3つの因子1)遺伝的素因;2)漏出性解剖学的障壁;および3)反復される環境的傷害に基づくことを示している。本発明の物質および方法を用いて、1つまたはそれ以上の解剖学的障壁の透過性を減少させる1つまたはそれ以上の化合物を投与することにより、自己免疫疾患を治療することが可能である。以下に示すように、解剖学的障壁の透過性を増強する正常な生理学的化合物の活性を拮抗する化合物の投与は、自己免疫疾患を処置するのに用いられ得る。例えば、ゾヌリンは、解剖学的障壁である腸上皮の透過性を増強する正常な生理学的化合物である。ゾヌリンアンタゴニストを投与することにより、解剖学的障壁の透過性が維持または減少され、それによって自己免疫疾患であるI型糖尿病が予防または治療される。
【0033】
漏出性解剖学的障壁が疾患の発症に寄与する自己免疫疾患の1つの例は、I型糖尿病である。理論に束縛されることを望まないが、異常な腸の透過性は、1型糖尿病の病変形成に主要な役割を果たすと考えられている。図8を参照すると、非自己抗原(四角形および三角形)は腸の管腔(1)内に存在し、かつ、ゾヌリン系(2〜3)の調節不全を有する被験体内のtjバリアと交差する(環はゾヌリンであり、細胞上のT形構造はゾヌリン受容体である)。抗原ペプチド類は、APC(4)の表面に存在するHLA受容体に結合する。次いで、これらのペプチド類は、Tリンパ球(5)に提示される。遺伝的に感受性の個体において、異常な免疫応答(体液性および細胞性の両方)(6)は、引き続いて、1型糖尿病(7)に典型的なインスリン欠乏を伴う、ランゲルハンス膵島を主に標的とする自己免疫プロセスにつながる。以下に示す証拠は、解剖学的障壁の透過性を制御することにより、疾患の過程を逆行させ、かつ、損傷した膵島を再生することが可能であることを実証する。
【0034】
従って、本発明は、解剖学的障壁の透過性の増加を防ぐ化合物を投与することによる、自己免疫疾患の治療方法を提供する。解剖学的障壁の透過性の増加を防ぐ化合物は、解剖学的障壁の透過性を増加させる正常な生理学的化合物のアンタゴニストであり得る。自己免疫疾患の治療に適した化合物の例は、ゾヌリンアンタゴニストである。
【0035】
ゾヌリンの任意のアンタゴニストを、本発明の実施に用いることができる。本明細書中で用いられるように、ゾヌリンのアンタゴニストは、ゾヌリン受容体に結合してゾヌリンにより引き起こされる応答を予防する、抑制する、減少させるまたは逆行させる任意の化合物である。例えば、本発明のアンタゴニストは、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストを含み得る。ペプチドアンタゴニストの例には、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド類が挙げられるが、これらに限定されない:
【0036】
【化1】

アンタゴニストがペプチドである場合、任意の長さのペプチドが用いられ得る。一般に、ペプチドアンタゴニストのサイズは、アミノ酸長が、約6〜約100、約6〜約90、約6〜約80、約6〜約70、約6〜約60、約6〜約50、約6〜約40、約6〜約30、約6〜約25、約6〜約20、約6〜約15、約6〜約14、約6〜約13、約6〜約12、約6〜約11、約6〜約10、約6〜約9または約6〜約8の範囲であろう。本発明のペプチドアンタゴニストは、アミノ酸長が、約8〜約100、約8〜約90、約8〜約80、約8〜約70、約8〜約60、約8〜約50、約8〜約40、約8〜約30、約8〜約25、約8〜約20、約8〜約15、約8〜約14、約8〜約13、約8〜約12、約8〜約11または約8〜約10であり得る。本発明のペプチドアンタゴニストは、アミノ酸長が、約10〜約100、約10〜約90、約10〜約80、約10〜約70、約10〜約60、約10〜約50、約10〜約40、約10〜約30、約10〜約25、約10〜約20、約10〜約15、約10〜約14、約10〜約13または約10〜約12であり得る。本発明のペプチドアンタゴニストは、アミノ酸長が、約12〜約100、約12〜約90、約12〜約80、約12〜約70、約12〜約60、約12〜約50、約12〜約40、約12〜約30、約12〜約25、約12〜約20、約12〜約15または約12〜約14であり得る。本発明のペプチドアンタゴニストは、アミノ酸長が、約15〜約100、約15〜約90、約15〜約80、約15〜約70、約15〜約60、約15〜約50、約15〜約40、約15〜約30、約15〜約25、約15〜約20、約19〜約15、約15〜約18または約17〜約15であり得る。
【0037】
ペプチドアンタゴニストは、High Performance Liquid Chromatography of Peptides and Proteins:Separation Analysis and Conformation,Eds.Mantら、C.R.C.Press(1991)に記載されるような周知技術、およびSymphony(Protein Technologies,Inc)などのペプチド合成機を用いて;または、組換えDNA技術(すなわち、ヌクレオチド配列コード化ペプチドが、適切な発現ベクター、例えば、大腸菌または酵母発現ベクターに挿入されて、それぞれの宿主細胞内で発現し、そこから周知技術を用いて精製する)を用いて、化学的に合成および精製することができる。
【0038】
アンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)は、小腸送達用の経口投与組成物として投与することができる。このような小腸送達用の経口投与組成物は、該分野で周知であり、一般に、胃耐性錠剤またはカプセルを含む(Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Eds.Osol,Mack Publishing Co.,Chapter 89(1980);Digenisら、J.Pharm.Sci.,83:915−921(1994);Vantiniら、Clinica Terapeutica,145:445−451(1993);Yoshitomiら、Chem.Pharm.Bull,40:1902−1905(1992);Thomaら、Pharmazie,46:331−336(1991);Morishitaら、Drug Design and Delivery,7:309−319(1991);およびLinら、Pharmaceutical Res.,8:919−924(1991));これらはそれぞれ、その全体が本明細書中で参照として援用される)。本発明の胃耐性錠剤またはカプセルは、好ましくは、腸液に溶解する。
【0039】
錠剤は、例えば、いずれか酢酸フタル酸セルロースまたは酢酸テレフタル酸セルロースのいずれかを添加することにより、胃耐性になる。用語「胃耐性」とは、60分以内に、pHが5未満の胃液中またはpHが5未満の擬似胃液中で、組成物中の総ゾヌリン作動体のうち30重量%未満を遊離する組成物を意味する。
【0040】
カプセルは、アンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)が、硬質または軟質の可溶性容器またはゼラチンのシェルのいずれかにカプセル化された固形剤形である。カプセルの製造に用いられるゼラチンは、コラーゲン性物質から、加水分解により得られる。2つの型のゼラチンが存在する。A型は、ブタの皮膚から酸加工により誘導され、B型は、骨および動物の皮膚から、アルカリ加工により誘導される。硬質カプセルの使用により、単独のアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)またはそれらの組み合わせの処方において、個々の被験体に最良と考えられる正確な投与量レベルの処方における選択が可能になる。硬質カプセルは2つの部分からなるが、一方は他方の部分を覆って完全にアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)を包囲する。これらのカプセルは、アンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)を導入するか、またはアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)を含む胃耐性ビーズを、カプセルの長いほうの端部に入れ、次いでキャップで覆うことにより充填される。硬質カプセルは、主に、ゼラチン、FD&C着色料および時々二酸化チタンなどの不透明化剤から製造される。米国特許は、この目的でのゼラチンが、製造時の分解を防ぐために、0.15%(w/v)の二酸化イオウを含むことを許容する。
【0041】
本発明の文脈において、小腸の送達のための経口投与組成物にはまた、アンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)が胃中の胃液で有意に不活性化されることを防ぎ、それによって、アンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)が活性型で小腸に達することを可能にする水性緩衝化剤を含む液体組成物が挙げられる。発明で用いられるそのような水性緩衝化剤の例には、炭酸水素塩緩衝液(pH5.5〜8.7、好ましくは約pH7.4)が挙げられる。
【0042】
経口投与組成物が液体組成物である場合、安定性の問題を最小化するために、組成物は投与の直前に準備されることが好ましい。この場合、液体組成物は、凍結乾燥したアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)を水性緩衝化剤に溶解することにより準備され得る。
【0043】
代表的には、本明細書中で用いられるゾヌリンのアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)を含む組成物は、薬学的に有効量のアンタゴニストを含む。用いられる薬学的に有効量のアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)は、個体の疾患症状、年齢、性別および体重などの因子によって異なり得る。投与計画は、最適な治療上の応答を提供するように調整され得る。例えば、単独のボーラスが投与され得るか、いくつかの分割用量が経時的に投与され得るか、または、用量は、治療上の状況の緊急事態により指示されるように比例的に減少または増加され得る。投与の安静および投与の均一性のために、投与単位剤形中の非経口的組成物を処方することが特に有利である。本明細書中で用いられる投与単位剤形とは、処置すべき哺乳動物の被験体への単位投与に適した物理的に別々の単位を意味する;各単位は、必要な医薬上の担体との組み合わせで所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位剤形を投与するための詳細は、(a)活性化合物の独特の特徴および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b)そのような活性化合物の個体における感受性の処置のための配合の分野に特有の制限によって指示されるか、またはそれらに直接依存する。
【0044】
一般に、本発明で(例えば、膵臓β細胞の損失を緩徐化するために、膵臓のβ細胞の損失を予防するためにおよび/または膵臓β細胞を再生するために)用いられるアンタゴニスト化合物の量は、約7.5μM〜7.5mM、好ましくは約7.5μM〜0.75mMの範囲内である。そのような最終濃度を、例えば、腸または血液中で達成するために、本発明の単独の投与組成物中のアンタゴニスト(例えば、ペプチドアンタゴニスト)の量は、一般に、被験体の体重1kg当たり、約50ng〜約10μg、約250ng〜約10μg、約500ng〜約10μg、約1μg〜約10μg、約2μg〜約10μg、約3μg〜約10μg、約4μg〜約10μg、約5μg〜約10μg、約50ng〜約5μg、約250ng〜約5μg、約500ng〜約5μg、約1μg〜約5μg、約2μg〜約5μg、約3μg〜約5μg、約4μg〜約5μg、約50ng〜約3μg、約250ng〜約3μg、約500ng〜約3μg、約1μg〜約3μgまたは約2μg〜約3μgであろう。
【0045】
本発明の組成物は、1つまたはそれ以上の薬剤的に許容され得る担体を含み得る。本明細書中で用いられる「薬剤的に許容され得る担体」には、生理学的に適合性の任意かつ全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌薬および抗真菌薬、等張化剤および吸収遅延薬剤などが挙げられる。1つの実施態様では、担体は、非経口投与に適している。担体は、中枢神経系(例えば、脊髄内または脳内)への投与に適し得る。あるいは、担体は、静脈内、腹腔内または筋肉内投与に適し得る。他の実施態様では、担体は、経口投与に適する。薬剤的に許容され得る担体には、無菌の注射用溶液または分散物の即時の調製のための無菌の水溶液または分散物および無菌の粉末が挙げられる。そのような媒体および薬剤の薬学的に活性な物質への使用は、該分野で周知である。任意の通常の媒体または薬剤は、活性化合物と不適合性である場合を除き、その本発明の医薬組成物への使用が意図される。追加の活性化合物もまた組成物に配合することができる。
【0046】
以下の実施例は、例示のみの目的で提供され、決して、本発明の範囲を限定することは意図されない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
ゾヌリンのペプチドアンタゴニスト
ZOT、ヒト腸ゾヌリン(ゾヌリン)およびヒト心臓ゾヌリン(ゾヌリン)が全て、腸(Fasanoら、Gastroenterology,112:839(1997);Fasanoら、J.Clin.Invest.96:710(1995)、および内皮のtjに作用し、かつ、3つ全てが同様の局所的な効果を有し(Fasanoら(1997))、腸内でのZOT受容体の分布と一致する(Fasanoら(1997)、上述;およびFasanoら(1995)、上述)ことを前提として、米国特許出願第09/127,815号明細書(1998年8月3日出願)では、これらの3つの分子が同一の受容体結合部位と相互作用すると仮定した。従って、腸のtjの制御に関与する受容体リガンド相互作用の絶対的構造要件に関する考察を提供するため、ZOTおよびヒトゾヌリンの一次アミノ酸構造の比較を行った。これらの分子のN末端を解析することにより、以下の共通のモチーフが明らかになった(図1で囲まれたアミノ酸残基8〜15):無極性(腸についてGly、脳についてVal)、可変性、無極性、可変性、無極性、極性、可変性、極性(Gly)。8位のGly、12位のValおよび13位のGln(全てはZOT中で高度に保存されている)、ゾヌリン;および腸内の受容体結合機能に重要であると考えられているゾヌリン(図1参照)。同様のことを検証するため、合成オクタペプチドGly Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号15)(FZI/Oと命名、ヒト胎性ゾヌリンのアミノ酸残基8〜15に一致する)を化学的に合成した。
【0048】
次いで、以下に記載するUssingチャンバーに取り付けたウサギ回腸を、単独の、100μgのFZI/O(配列番号15)、100μgのFZI/1(配列番号29)、1.0μgの6xHis−ZOT(米国特許出願第09/127,815号明細書(1998年8月3日出願)の実施例1に記載のように得た)、1.0μgのゾヌリン;(米国特許出願第09/127,815号明細書(1998年8月3日出願)の実施例3に記載のように得た)、または1.0μgのゾヌリン(米国特許出願第09/127,815号明細書(1998年8月3日出願)の実施例3に記載のように得た)に曝露するか;あるいは、100μgのFZI/OまたはFZI/1に20分予備曝露し、このときに、1.0μgの6xHis−ZOT、1.0μgのゾヌリンまたは1.0μgのゾヌリンを添加した。次いで、ΔRtを、Rt=PD/Isc(式中、PDは電位差であり、Iscは短絡電流である)として計算する。結果を図2に示す。
【0049】
図2に示すように、FZI/Oは、Rt(ネガティブコントロールと比較して0.5%)(塗りつぶしたバーを参照されたい)においていかなる有意な変化も誘発しなかった。反対に、FZI/Oでの20分の前処理は、ZOT、ゾヌリンおよびゾヌリンの保持時間への効果を、それぞれ、75%、97%および100%減少させた(白抜きのバーを参照されたい)。また、図2に示すように、この阻害効果は、(ゾヌリンの)8位のGly、12位のValおよび13位のGlnを、対応するゾヌリンのアミノ酸残基(Val、GlyおよびArg、それぞれ、配列番号30を参照されたい)に変えることにより化学的に合成した第2の合成ペプチド(FZI/1、配列番号29)を用いた場合、完全に遮断された(斜線を付したバーを参照されたい)。上記の結果は、ZOTのN末端の残基8および残基15の間にまたがる領域、ならびに標的とする受容体への結合に重要なゾヌリンファミリーが存在し、かつ、8位、12位および13位のアミノ酸残基がこの結合の組織特異性を決定することを実証する。
【0050】
(実施例2)
糖尿病ラットモデル
腸の透過性の変化は、糖尿病の発症に関連する先行する生理学的変化の1つであることが示されている(Meddings,Am.J.Physiol,276:G951−957(1999))。傍細胞輸送および腸の透過性は、完全には解明されていない機構により、細胞内tjによって制御される。
【0051】
ゾヌリンおよびその原核生物類似体であるZOTは、いずれも、tjを調節することによって腸の透過性を変化させる。この実施例では、ゾヌリンが関連するtjの機能障害が糖尿病の病変形成に関与し、かつ、糖尿病は、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストの投与により、予防または発症を遅らせることができることを初めて実証した。
【0052】
最初に、2つの遺伝学的品種、すなわち、BB/Wor糖尿病傾向(DP)ラットおよび糖尿病抵抗性(DR)ラット(Haberら、J.Clin.Invest.,95:832−837(1993))を評価することにより、それらがゾヌリンの腔内分泌および腸の透過性において有意な変化を示すかどうかを決定した。
【0053】
より詳細には、同じ日齢のDPおよびDRラット(20日、50日、75日、および100日を超える日齢)を犠牲にした。ラットを犠牲にした後、25G針を回腸の管腔内に設置し、リンゲル溶液での腸洗浄を行って、腔内ゾヌリンの存在を決定した。ゾヌリン濃度を、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて、以下の通りに評価した:
プラスチックマイクロタイタープレート(Costar,Cambridge,MA)を、ポリクローナルウサギ抗ZOT抗体(米国特許出願第09/127,815号明細書(1998年8月3日出願)の実施例2に記載のように得た)(希釈1:100)を用いて、一晩、4℃にて被覆し、0.05%(v/v)Tween 20を含むPBSで3回洗浄し、次いで、0.1%(v/v)Tween 20を含む300μlのPBSを用いて、15分にわたって室温でインキュベーションすることによりブロックした。次いで、精製したヒト腸ゾヌリン(米国特許出願第09/127,815号明細書(1998年8月3日出願)の実施例3に記載のように得た)を、プレート上に被覆した。
【0054】
検量線は、異なる濃度(0.78ng/ml、1.56ng/ml、3.125ng/ml、6.25ng/ml、12.5ng/ml、25ng/mlおよび50ng/ml)の0.05%(v/v)Tween 20を含むPBS中で、ゾヌリンを希釈することにより得た。
【0055】
100μlの各標準濃度または100μlの腸洗浄試料を、ウェルにピペッティングし、プレート振盪機を用いて、室温で1時間インキュベートした。非結合ゾヌリンを、PBSで洗浄し、ウェルを、100μlのアルカリホスフェートと複合体化した抗ZOT抗体で室温にて1時間、振盪しながらインキュベートした。非結合複合体を、PBSで洗浄し、呈色反応を、最初に0.1Mトリス−HCl(pH7.3)中で1/20000に希釈した100μlのExtra−Avidin(SIGMA,St.Louis,MO)、1.0mMのMgCl、1.0%(w/v)のBSAを15分にわたって添加し、次いで、各ウェルを、1.0mg/mlのp−ニトロフェニル−リン酸基質(SIGMA,St Louis,MO)を含む溶液100μlを用いて37℃で30分インキュベートすることにより、展開した。吸光度を、酵素免疫アッセイリーダーで、405nmにて読み取った。
【0056】
ELISA−サンドイッチ法のアッセイ内およびアッセイ間の精度を評価するために、係数変動(CV)を、異なる濃度のゾヌリンを用いて2つの試料から複製した3つの複製を用いて、連続する3日間にわたって計算した。ELISA−サンドイッチ法のアッセイ間の試験により、9.8%のCVを得た。アッセイ内のCVの試験は、第1日に4.2%、第2日に3.3%、および第3日に2.9%であった。
【0057】
ゾヌリン濃度は、腸洗浄で検出されたタンパク質のng/mgとして表し、曝露された表面積(mm)により正規化された。結果を図3に示す。
【0058】
図3に示すように、腔内ゾヌリンの4倍の増加が、糖尿病傾向ラット(日齢50日)で最初に観察された(第2のバー)。この腔内ゾヌリンの増加は、腸の透過性の増加と相関することが確立された。腔内ゾヌリンの増加は、これらの糖尿病傾向ラットで高いままであり、かつ、最も悪化した糖尿病への進行との相関性が確立された。注目すべきは、糖尿病傾向ラット(日齢100日)が腔内ゾヌリンの増加を有しなかったことである。このラットは糖尿病に進行しなかったので、このことは注目に値する。このラットの血糖値は正常であった。従って、ゾヌリンは、I型糖尿病の病変形成に関連する透過性の変化の原因である。ゾヌリン分泌の増加は、加齢に関連し、かつ、糖尿病の発症を進行させる。
【0059】
次いで、糖尿病がゾヌリンのペプチドアンタゴニストの投与により予防され得ることを実証するために、BB/Worラット(日齢21〜26日)をBiomedical Research Models,Inc.(Rutland,MA)から得、2つのグループ(1グループ当たり5匹)、すなわち、処置群およびコントロール群にランダムに分けた。両方のグループを、ラット固形飼料の標準的な食餌(Harlan Teklab Diet #7012)で維持した。全ての食物および水は、予め加圧滅菌した。毎日、1日の水分摂取量を測定し、100mlの新鮮な水を与えた。処置群には、飲料水に補充した10μg/mlのゾヌリンペプチドアンタゴニスト(配列番号15)を与えた。ラットを、ヘパフィルターのケージに収容した。
【0060】
ラットの糖尿病は、以下の通り診断した:ラットを、週に2回計量した。血糖値を、OneTouch(登録商標)グルコースモニタリングシステム(Johnson & Johnson)を用いて、毎週測定した。各週に、検尿用の試験片を用いて、グルコース(Diastix(登録商標))およびケトン(Ketositx(登録商標))(バイエル)をモニタリングした。血糖値が250mg/dlを超えるラットを、一晩絶食させ、血糖値が200mg/dlを超えるものは糖尿病であると考えた。これらの指針は、Biomedical Research Models,Incにより提供されるデータと一致する。結果を図4に示す。
【0061】
図4に示すように、80%(4/5)のコントロールラットおよび40%(2/5)のゾヌリンのペプチドアンタゴニストで処置したラットは、日齢80日までに糖尿病を発症した。ゾヌリン分泌の変化は、糖尿病の発症と並行した。
【0062】
糖尿病の臨床症状後、ラットを以下の通り犠牲にした:ラットをケタミン麻酔を用いて麻酔し、正中切開により、心臓への接近を可能にした。18G針を心臓に設置すると、瀉血により死亡した。次いで、ゾヌリンアッセイを上記のとおりに行った。糖尿病を発症しなかったラットについては、研究の終点は日齢80日であった。Biomedical Research Models,Inc.によれば、80%の糖尿病傾向ラットは、日齢80日までに糖尿病を発症する。ゾヌリンアッセイの結果を、図5に示す。
【0063】
図5に示すように、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストで処置しなかった糖尿病ラットは、腔内ゾヌリンの増加を有することが観察されたが、このことは、図3に示す結果と一致した。さらに、腔内ゾヌリンは、糖尿病を発症しなかった糖尿病傾向ラット(DP処置)およびコントロールラット(DP未処置)の両方と比較して、糖尿病ラット(DR)において2〜4倍増加した。糖尿病を発症しなかった非糖尿病コントロールラットは、無視できるレベルのゾヌリンを有していたが、このことは、図3に示すゾヌリンのレベルと一致した。さらに、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストで処置したにもかかわらず糖尿病を発症した2つの糖尿病傾向ラットは、首尾よく処置したラットおよび未処置のコントロールラットよりも有意により高い腔内ゾヌリンレベルを示した。ゾヌリンのレベルは、糖尿病への進行に必要な透過性の変化を惹起するのに十分であったが、ZOT/ゾヌリン受容体は、ペプチドアンタゴニストにより効率的にブロックされた。
【0064】
また、糖尿病の臨床症状に引き続いて、犠牲にしたラットの腸組織をUssingチャンバーに取り付けて、エキソビボでの透過性の変化を評価した。
【0065】
より詳細には、犠牲にしたラットから空腸および回腸の部位を単離し、腸内容物をすすぎ落とした。各腸の区域の6つの部位を準備し、Lucite Ussingチャンバー(開口部0.33cm)内に取り付け、電位固定装置(EVC 4000;World Precision Instruments,Saratosa,FL)に接続し、53mMのNaCl、5.0mMのKCl、30.5mMのNaSO、30.5mMのマンニトール、1.69mMのNaPO、0.3mMのNaHPO、1.25mMのCaCl、1.1mMのMgClおよび25mMのNaHCO(pH7.4)を含む新たに調製した緩衝液を有するバスに入れた。バス溶液を、恒温循環ポンプに接続したウォータージャケットを備えたレザバーで37℃に維持し、95%Oおよび5%COで通気した。電位差を測定し、および短絡電流および組織の抵抗を、Fasanoら、Proc.Natl.Acad.Sci,USA,88:5242−5246(1991)に記載のように計算した。結果を図6〜7に示す。
【0066】
エキソビボでのUssingチャンバーを用いた透過性研究で実証されるように、そして図6に示すように、糖尿病に進行した全てのラットは、それらの腸の透過性が増加していた。糖尿病抵抗性(DR)ラットは、傍細胞透過性があまり変化しなかった(第1のバー)。未処置の糖尿病傾向ラット(DP未処置;第2のバー)は、空腸および回腸の傍細胞透過性に有意な増加を有した。より重要なことには、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストで処置した糖尿病傾向ラット(DP処置;第3のバー)は、空腸に限定された小腸の傍細胞透過性に有意な増加を有した。しかしながら、図6に示すように、ゾヌリンペプチドアンタゴニストでの前処理は、遠位回腸におけるこれらの変化を予防する。その結果、病変形成に付随する傍細胞透過性の変化は、回腸に限定される。また、図6に示すように、結腸の透過性には有意な変化はなく、このことは、ゾヌリン受容体分布の領域の分布と一致した。
【0067】
これらの結果を、糖尿病を発症した(DP−D)または発症しなかった(DP−N)未処置の糖尿病傾向ラットの小腸におけるエキソビボでの腸の透過性を比較することにより、さらに確証した(図7)。空腸のRtにおける顕著な変化はDP−DラットとDP−Nラットとの間で観察されなかったが、DP−Dラットの回腸粘膜では、DP−Nラットと比較して顕著により低いRtが観察された(図7)。
【0068】
従って、以下のような結論付けがなされ得る:(1)ペプチドアンタゴニストは、糖尿病の発症に必要とされる透過性の変化を効率的にブロックすることができた;および(2)ペプチドアンタゴニストで処置したこれらのラットにおいて、腔内ゾヌリンのレベルは、糖尿病を発症しなかった処置ラットの3倍高かった。糖尿病を発症した処置ラットのこの集団において、ペプチドアンタゴニストの量は、糖尿病を予防するのに必要な、十分な数のZOT/ゾヌリン受容体をブロックするのに十分ではなかったのであろう。
【0069】
60%の処置ラットは、糖尿病を発症しなかった。このラットの集団において、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストは、糖尿病の発症に必要な腸の透過性の増加を効率的に防止した。図5に示すように、処置ラットは、未処置コントロールに匹敵するレベルの腔内ゾヌリンを有したが、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストが存在したために、小腸の全体の透過性は、糖尿病の進行に必要な病態生理学的変化を惹起するのに十分なほどには変化しなかった。興味深いことに、図5に示すように、糖尿病を発症しなかった1匹のコントロール動物は、無視できるレベルのゾヌリンを有していたが、このことは、ゾヌリンが糖尿病の病変形成で担う役割をさらに支持する。
【0070】
従って、BB/Worラットにおける糖尿病の病変形成の初期現象は、ゾヌリンが媒介する腸の傍細胞透過性の変化に関与する。さらに、ゾヌリンのペプチドアンタゴニストを用いることによるゾヌリンシグナル伝達系の抑制により、糖尿病の発症が予防されるか、または少なくとも遅延される。
【0071】
(実施例3)
β細胞の再生
52〜54日齢の糖尿病傾向ラットの試験群を、ゾヌリンアンタゴニストペプチドAT1001(配列番号15)で処置し、一方、日齢が同じコントロール群は処置しなかった。このとき、アンタゴニストを投与したが、これは、40日目にこれらのラットはゾヌリンレベルの増加を示し、かつ、50日間目に自己免疫性抗体が検出され得るからである。従って、処置は、糖尿病の発症後に開始した。
【0072】
52〜54日齢のBBDP動物を、2つの群に分けた。グループ(n=20)は、飲料水およびHCO中のAT−1001を毎日摂取した。グループ2(n=10)は、飲料水およびHCOを摂取した。動物を、プラセボまたは合成ゾヌリンペプチド阻害剤AT−1001(配列番号15)での処置のいずれかを、それらの水分補給時に摂取するように、処置治療群T0の間に、盲検法でランダム化した。疾患の終点(空腹時血糖が250mg/dlを超える)において、TlDを発症したBBDPラット(プラセボ群において60%の発症率、平均日齢110日間)を安楽死させ、血液および組織試料を回収した。TlDを発症しなかったAT1001処置ラットを、120日齢で再びランダム化し、次の2つの群に分けた:a)休薬治療群およびb)AT−1001での連続した処置;これらは、処置治療群Tlの間に、追加の100日間にわたって行った。血清ゾヌリンおよび自己抗体レベルを、研究の初期およびその終末点においてモニタリングした。水分摂取を毎日モニタリングし、一方、体重増加および血清グルコースレベルを毎週チェックした。空腹時血糖が250mg/dl以上のラットを糖尿病と考え、糖尿病の状態に達してから24時間以内に犠牲にした。
【0073】
未処置のコントロール群において、10匹中6匹のラットが糖尿病を発症したが、処置群では20匹中7匹のみが糖尿病を発症した(図13)。120日後、糖尿病を発症しなかった処置群の半数の処置をやめた。処置をやめた動物のうち1/3が糖尿病を発症したが、処置を続けた動物はいずれも糖尿病を発症しなかった。
【0074】
50〜54日目から処置を開始した動物から膵臓サンプルを取り出し、検査した。組織学的検査の結果を、図9に示し、免疫組織学的検査の結果を、図10に示す。糖尿病を発症した動物において、組織学的検査により、β細胞が破壊されたことが明らかになった(図9、最上部パネル)。対照的に、糖尿病を発症しなかった動物由来のサンプルは、β細胞を含んでおり、β細胞の再生の証拠が観察された(図9、最下部パネル)。
【0075】
組織学的解析で観察された細胞のアイデンティティを検証するため,免疫組織学的検査を行った。膵臓を、抗グルカゴン抗体(これは、グルコン産生δ細胞に特異的である)または抗インスリン抗体(これは、インスリン産生β細胞に特異的である)のいずれかで続けて染色した。この解析の結果を、図10に示す。未処置の膵臓を抗インスリン抗体で染色した場合、シグナルは検出されなかった。これはTlDにおけるβ細胞の破壊と一致した。これらの細胞の抗グルカゴン抗体での染色により、グルカゴン産生δ細胞を同定する。正常な膵島は、膵島の外側がδ細胞を含み、かつ膵島の内側がβ細胞を含む塊形構造を有する。δ細胞の染色パターンは、β細胞の破壊の結果、膵島が破壊されたことを示す(図10AおよびB)。対照的に、処置した動物由来の膵臓は、インスリン産生細胞の存在を示した(図10C)。膵島の構造は、抗グルカゴン抗体での染色パターン(図10D)により示すように、より正常であった。
【0076】
図11および12は、β細胞の再生の証拠を提供する。図11は、TlDを発症した未処置のBBDPラット(パネルAおよびB)およびTlDを発症しなかったAT1001処置したラット(パネルC〜F)の両方から単離した膵臓の免疫組織学的解析の結果を示す。TlDを発症したラット由来の膵島は、インスリン染色(A)および保存されたグルカゴン産生δ細胞のクラスター(B)がない代表的な破壊状態の境界を示す。逆に、AT1001処置した動物は、無傷の膵島(CおよびD)またはインスリンおよびグルカゴン産生細胞の間の境界の不規則性により特徴付けられる膵島炎損傷からの回復の徴候を示した膵島(EおよびF)のいずれかを示す。図12は、パネル11Eおよび11Fのより高い倍率を示す。δ細胞の膵島への浸潤(図12D)は、損傷後のβ細胞の再生の結果として起こる。
【0077】
BBDPラットにおいてそれらの前臨床自己免疫段階でゾヌリン経路をブロックすることにより、205日齢まで、TlDの進行が顕著に減少した(150日後の処置)。TlDの発症率のこの減少は、AT1001処置後の抗グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体の顕著な減少に関連していた(図14)。AT1001処置は、研究の間、血清ゾヌリンレベルに影響しなかった(図15)。AT1001処置をやめた後、33%の動物がTlDを発症した。AT1001処置したBBDPラットは、TlDに典型的な最終段階での膵島の損傷を示した未処置ラットと比較して、正常な膵島組織学、または膵島炎からの回復の徴候を示す膵島のいずれかを示した。これらのデータを組み合わせると、AT1001は、BBDPラットにおいて、自己免疫性プロセスが既に開始されていても、膵島損傷を停止しかつ回復させることが可能であったことが示唆される。
【0078】
本発明を、その特定の実施態様を参照して詳細に説明してきたが、その趣旨および範囲から逸脱することなく、種々の改変および修飾がなされ得ることが当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、ZOTの生物学的に活性な断片(アミノ酸288〜399)のN末端配列を用いて種々のヒト組織およびIgM重鎖から精製されたゾヌリンのN末端配列の比較を示す。
【図2】図2は、ネガティブコントロールと比較した、ZOT、ゾヌリン、ゾヌリンの単独(塗りつぶしたバー)での、またはペプチドアンタゴニストFZI/O(白抜きのバー)との組み合わせでの、またはFZI/1(斜線を付したバー)との組み合わせでの、Ussingチャンバー内に設置したウサギ回腸の組織抵抗性(Rt)への効果を示す。Nは3−5に等しく、はp<0.01に等しい。
【図3】図3は、サンドイッチELISAアッセイを用いて決定された、糖尿病傾向ラットおよび糖尿病抵抗性ラットの両方における腔内ゾヌリンの濃度(ng/ml)を示す。試料は、通常の生理食塩水中で腸を洗浄することにより得られた。それぞれの場合における第1のバーは、糖尿病抵抗性ラット(DR)を示す。第2のバーは、糖尿病傾向動物(DP)を示し、第3のバーは、慢性糖尿病(CD)を有するラットを示す。9%を超える糖尿病傾向ラットは糖尿病にならず、かつ、約9%の糖尿病抵抗性ラットは、糖尿病を発症する。
【図4】図4は、研究に用いたラットのうち、糖尿病に進行したラットの割合を示す。
【図5】図5は、サンドイッチELISAアッセイを用いて決定した、糖尿病ラットにおける腔内ゾヌリンの濃度(ng/ml)を示す。
【図6】図6は、Ussingチャンバーで決定した、糖尿病抵抗性(DR)ラット、未処置の糖尿病傾向ラット(DP未処置;第2のバー)およびゾヌリンのペプチドアンタゴニストで処置した糖尿病傾向ラット(DP処置;第3のバー)の、エキソビボでの腸の透過性を示す。はp<0.05に等しく、**はp<0.05に等しく、DP処置に対してp<0.0001である。
【図7】図7は、糖尿病を発症したまたは発症しなかったかのいずれかの未処置の糖尿病傾向ラットのエキソビボでの小腸の透過性を示す。はp<04に等しい。
【図8】図8は、異常な密着結合の透過性がI型糖尿病の発症および進行においてどのようにして役割をはたすかを示すモデルの模式図での表現である。
【図9】図9は、ゾヌリン阻害剤ATl00lで処置しなかったまたは処置したかのいずれかのBBDPラットの脾臓のヘマトキシリンおよびエオシン染色した切片を示す。膵臓の組織学的解析は、I型糖尿病(TlD)(頂部パネル)を発症した未処置ラットおよびTlDを発症しなかったAT1001処置ラット(底面パネル)の両方から単離した。膵島は、左パネル(倍率10倍)中の矢印で示され、右パネル中、より高い倍率(40倍)で示される。未処置の動物は、TlDに典型的な最終段階の膵島のダメージを明らかにしたが、一方、処置された動物は、膵島炎のない血管周囲の炎症の証拠を示した。
【図10】図10は、未処置またはゾヌリン阻害剤AT1001で処置されたかのいずれかのBBDPラットの膵島染色を示す。TlDを発症した未処置BBDPラット(頂部パネル)およびTlDを発症しなかったAT1001処置ラット(底面パネル)の両方から単離した膵臓の免疫組織学。TlDを発症したラットの膵島は、インスリン染色(A)および保存されたグルカゴン産生δ細胞のクラスター(B)がない典型的な破壊した様相を示した。逆に、AT1001処置した動物は、膵島の核に検出可能なインスリン産生β細胞(C)を有し、かつそれらの縁(D)にグルカゴン産生δ細胞を有する保存された膵島を示した。しかしながら、δ細胞染色は均一ではないようであり、しばしば複数細胞層が見られた(矢印を参照)。倍率10倍。
【図11】図11は、TlDを発症した未処置BBDPラット(パネルAおよびB)およびTlDを発症しなかったAT1001処置ラット(パネルC〜F)の両方から単離した膵臓の免疫組織化学である。TlDを発症したラット由来の膵島は、インスリン染色(A)および保存されたグルカゴン産生δ細胞のクラスター(B)がない典型的な破壊した様相を示した。逆に、AT1001で処置した動物は、損傷を受けていない(CおよびD)か、またはインスリンおよびグルカゴンを産生する細胞(EおよびF)の間の境界の不規則性により特徴付けられる膵島炎損傷からの回復の徴候を示す膵島を示した。これらの知見は、膵島炎の進行の停止と一致する。倍率10倍
【図12】図12は、TlDを発症しなかったAT1001処置したラットから単離した膵臓の免疫組織化学を示す。膵島間および膵島周辺の瘢痕により歪んでみえるこの膵島は、不規則な輪郭を示す。膵島炎損傷からの回復の徴候は可視性であり、インスリン(AおよびC)およびグルカゴン(BおよびD)を産生する細胞(EおよびF)の境界内での不規則性により特徴づけられた。これらの知見は、膵島炎の進行の停止と一致する。
【図13】図13は、自己免疫性糖尿病のAT−1001での処置の研究の結果を示す。図13は、糖尿病のない生存率を、未処置動物(黒塗りの円)対処置動物(黒塗りの四角)を比較した時間の関数として、非糖尿病の動物の割合としてプロットしたグラフである。BB/worDPラットを用い、抗体陽転後に処置を開始した。60%の未処置のラットはTlDを発症したが、AT1001処置した動物は35%のみがTlDに進展した。TlDの平均発症日齢は、プラセボ群で85.4±10.4日であり、処置群で86.0±10.3日間であった。初期研究の期間をT0と命名し、第120日からをT1と命名する。
【図14】図14Aおよび14Bは、自己免疫性糖尿病のAT−1001での処置の研究の結果を示す。図14Aおよび14Bは、処置の間の自己抗体における変化を示す棒グラフである。図14Aは、TlDを発症した動物における抗グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体を示す。図14Bは、TlDを発症した動物における抗GAD抗体を示す。
【図15】図15Aおよび15Bは、自己免疫性糖尿病のAT−1001での処置の研究の結果を示す。図15Aおよび15Bは、処置の間の血清ゾヌリンレベルの変化を示す棒グラフである。図15Aは、TlDを発症した動物におけるゾヌリンレベルを示す。図15Bは、TlDを発症した動物におけるゾヌリンレベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓β細胞の損失の緩徐化を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、ゾヌリンのアンタゴニストを含む組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記組成物が、細胞増殖を増強する因子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記因子が、増殖因子である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記因子が、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、ゾヌリンアンタゴニストおよび細胞を投与することを含む、方法。
【請求項6】
前記細胞が、膵島細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が、β細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、幹細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記アンタゴニストおよび前記細胞が、同時に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記アンタゴニストおよび前記細胞が、同時に投与されない、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
細胞増殖を増強する因子を投与することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記因子が、増殖因子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記因子が、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、β細胞の複製を許容する条件下で、ゾヌリンアンタゴニストを投与することを含む、方法。
【請求項15】
細胞増殖を増強する因子を投与することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記因子が、増殖因子である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記因子が、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
膵臓β細胞の再生を、それを必要とする被験体において行う方法であって、該被験体に、ゾヌリンアンタゴニストを投与すること;および
該被験体に、細胞を移植することを含む、方法。
【請求項19】
前記細胞が、膵島細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、β細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞が、幹細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記アンタゴニストが、前記細胞が移植される前に前記被験体に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記アンタゴニストが、前記細胞が移植された後に前記被験体に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記アンタゴニストが、前記細胞が移植される前およびされた後の両方で前記被験体に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
細胞増殖を増強する因子を投与することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記因子が、増殖因子である、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記因子が、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子−2(BFGF−2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子/分散因子(HGF/SF)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、エキセンディン−4、膵島/十二指腸ホメオボックス−1(IDX−1)、β−セルリン、アクチビンA、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、ガストリンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記因子が、前記細胞が移植される前に前記被験体に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記因子が、前記細胞が移植された後に前記被験体に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記因子が、前記細胞が移植される前およびされた後の両方で前記被験体に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
自己免疫疾患を治療する方法であって、解剖学的障壁の透過性の増加を防止する化合物を投与することを含む、方法。
【請求項32】
前記解剖学的障壁の透過性の増加を防止する化合物が、解剖学的障壁の透過性を増加させる正常な生理学的化合物のアンタゴニストである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物が、ゾヌリンアンタゴニストである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ゾヌリンアンタゴニストが、配列番号15を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記化合物が、配列番号1〜24からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2008−543779(P2008−543779A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515991(P2008−515991)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/022629
【国際公開番号】WO2006/135811
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(301033248)ユニバーシティ オブ メリーランド, ボルチモア (7)
【出願人】(507403861)アルバ セラピューティクス コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】