説明

膵臓前駆細胞の検出、調製及び培養方法

【課題】膵臓細胞の分画を可能とする細胞膜抗原の同定、同定された細胞膜抗原を用いて膵臓細胞を提供する方法、並びに当該細胞膜抗原により分画された細胞を用いた膵島培養法及び膵管形成培養法を提供することを課題とする。
【解決手段】発生過程における膵臓表面抗原としてDlk及びPCLP1を見出した。これらの抗原をマーカーとして使用することにより、簡便に膵臓前駆細胞を分画できることが示された。また本願発明の方法により分画された細胞を利用した膵島及び膵管の3次元構造を構築する新規培養系が開発された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵島を含む膵臓実質前駆細胞及び膵管前駆細胞等の膵臓前駆細胞を細胞表面抗原を利用して検出並びに調製する方法に関する。さらに、本発明は膵臓前駆細胞を含む細胞試料から膵島及び/または膵管を誘導するための培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は消化酵素を含む膵液を腸管に外分泌する腺房と血糖を調節するホルモンを血中に内分泌する膵島、膵液を腸管に放出する膵管によって構成される。腺房は腺構造を形成し、膵島は球状の構造を形成し、それぞれに独立して存在している。腺房では、1種類の細胞がアミラーゼ、リパーゼ、トリプシン等の消化酵素を分泌する。一方、膵島ではα細胞がグルカゴン、β細胞がインスリン、δ細胞がソマトスタチン、及びPP細胞がパンクレアティックポリペプチド(PP)をそれぞれ分泌する。膵島は、中心部にβ細胞が存在し、その周囲をα、δ及びPP細胞が取り囲む特徴的な構造を有しており、この構造はげっ歯類において特に顕著である。この3次元構造が膵島の機能を発揮するのに重要であると考えられている(非特許文献1、2)。以上のように、膵島は腺房と独立しており、ホルモンを内分泌して血糖を調節する。さらに、膵島は血糖を下げるインスリンを分泌する生体内で唯一の組織であり、少数で血糖値制御を行うことができる。
【0003】
膵臓は内胚葉に由来する臓器で、マウスではE9.5頃に前腸(foregut)の内肺葉の特定の部位から背側と腹側に膵臓原基が形成され、後に十二指腸の回転に伴って連結する。その後、背側膵芽が急速に成長して肥大化しながら成熟していると考えられている。膵臓の発生については、適切な培養系が存在しないことによって細胞レベルでの解析が進んでおらず、限られた情報しかない。これまでに胎児組織の免疫染色により、E13.5あたりからグルカゴンが発現し、その後インスリンやアミラーゼ等が発現することが知られている。この段階では分泌蛋白の発現は認められるものの膵臓内に散在しており、腺房や膵島の3次元構造は形成されていない。出生直前に腺房や膵管が形成されていることは知られているが、その詳細は不明である。また免疫組織化学的に、膵島が膵管から発生するという説が古くからある(非特許文献3、4)。これを証明するために膵管部分の培養が試されたが(非特許文献5〜7)、成体膵管からの脱分化や長期培養を伴うため、必ずしも生理的な状態を反映しているとは考えにくい。一方、転写因子のノックアウトマウスの解析やlineage tracing法の結果から、膵臓の発生に必須の転写因子が同定されている。Ngn3 は膵島の前駆細胞(非特許文献8〜10)に、p48は腺房の前駆細胞(非特許文献11〜13)に発現しているとされている。その他、各分化段階に必要な多数の転写因子の発現が知られており、これらを元に細胞系譜についての諸説が提唱されている(非特許文献14〜19)ものの、それらを証明するためには細胞レベルでの解析が必要不可欠である。
【0004】
これまでに細胞レベルでの解析を目的として、成体膵臓の細胞を誘導する試みが行われて来た。新生児の膵臓細胞からグルカゴン産生細胞やインスリン産生細胞を誘導することによって、新生児膵臓細胞の分化能が示されている(非特許文献20)。しかし、すでに膵島が出来上がっている新生児の細胞から長期培養によって細胞を誘導しているため、生理的な現象を反映しているかどうか疑問がある。膵島の再生は膵島細胞の分裂によるものであり、膵島以外の細胞が膵島に分化するものではないことが示唆されている(非特許文献21)。よって、再生は発生とは基本的に異なるメカニズムであると考えられる。新生児膵臓は膵島構造がすでに完全に出来上がっているため、発生ではなく再生の特殊な状態を作り出しているものと考えられる。また、何よりも、この培養系では膵島が形成されていない。膵臓前駆細胞を同定するための新生児膵臓細胞の分画も試みられており、多数の血球系マーカーの発現による分画を行い、増殖能の高さを指標に膵臓前駆細胞としている。さらに得られた画分を上記培養法により培養し、インスリンやグルカゴンの発現を確認している(非特許文献22)。しかしながら、この従来法では、多数の血球系マーカーに加え、陰性マーカーが使用されているため、膵臓前駆細胞の組織内局在を確認することができず、また上記培養法と同様の問題によって多くの疑問が残る。
【0005】
ポドカリキシン様タンパク質1(podocalyxin-like protein 1(PCLP1);MEP1、thrombomucinとも呼ばれる)は、E11.5マウスAorta-Gonad-Mesoderm(AGM)領域に発現していることが見出された細胞表面抗原であり、細胞外領域が高度にグリコシル化された1回膜貫通型糖蛋白質である。PCLP1はN末端の細胞外領域が特徴的な糖鎖修飾を受けることから、シアロムチンファミリーとして分類され、その仲間にはCD34、CD164、CD162、CD43、エンドグリカン等の造血細胞または造血微小環境(血管内皮細胞等)に発現するものが属している。PCLP1は既に以下の生物種において分子同定されており、その他の脊椎動物由来にもPCLP1分子の存在が予想される。
ヒト(非特許文献23)
マウス(非特許文献24)
ラット(Accession No. AB020726)
ウサギ(非特許文献25)
ニワトリ(非特許文献26)
【0006】
PCLP1分子はN末端アミノ酸配列の種間における保存性が低いことが知られている(非特許文献23及び25)。PCLP1分子における相同なアミノ酸残基は、細胞内領域の位置に見出されている。ニワトリにおけるPCLP1カウンターパートもまた造血前駆細胞としての活性が報告されており、ラット、ウサギ、マウス、ヒトにおいて組織局在性が同様であることが報告されていることから種間において同様の局在性及び役割を持った物質であると考えられる。PCLP1を発現する細胞は造血前駆細胞や血管内皮前駆細胞であると考えられている(非特許文献24)。また、PCLP1はがん組織に発現が認められることが多く、未分化な細胞に発現していることが示唆されている。
【0007】
膜蛋白質Dlk(delta-like)は、EGF-likeドメインを6つ持つ、Deltaに相同性を持つ膜蛋白質である。In vitroにおいては脂肪細胞の分化抑制や造血支持能が報告されており、ノックアウトマウスは成長の遅延や肥満が報告されている。東京大学宮島篤教授らにより胎児肝細胞の分化誘導系が構築され(非特許文献27)、胎児肝細胞膜表面に発現する蛋白質が同定されたことにより(非特許文献28)、セルソーターを用いた胎児肝細胞の分画と、分離した細胞の分化誘導によって肝前駆細胞を含む細胞集団を解析することができるようになった。In vitroにおけるこれらの解析結果は、in vivoにおいても確認されており、Dlk陽性細胞の分化能はin vitroでの外的要因による非生理的な性質の改変ではなく、生理条件下での正常な性質であることが示された(非特許文献28)。さらには、Dlk陽性細胞にはラミニンでコートしたプレート上で高い増殖能を示す細胞が存在することも発見され、ラミニン上で継代培養が可能なこの細胞は、肝前駆細胞としての機能を維持しながら自己複製することから、より未分化な幹細胞様の性質を保持していると考えられた(非特許文献29)。この継代細胞はHepatic Progenitor cells Proliferate on Laminin (HPPL)と命名され、膵臓へと転分化できるより未分化な多能性細胞も含まれることも示された(非特許文献29)。dlk遺伝子の発現を利用して未分化肝細胞を検出する方法、並びに、さらには検出された細胞をラミニン上で培養して、肝細胞、胆管上皮細胞及び膵臓細胞へ分化可能な細胞を得る方法も提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2002/103033
【特許文献2】特開2005-312303号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Cabrera O et al. (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103:2334-39
【非特許文献2】Konstantinova I et al. (2007) Cell 129:359-370
【非特許文献3】Pictet RL, Rutter WJ (1972) Development of the embryonic endocrine pancreas. In handbook of physiology. Steiner DF, Frenkel N, Eds. Washington DC, Williams and Wilkins, p.25-66
【非特許文献4】Pictet RL et al. (1972) Dev Biol 29:436-467
【非特許文献5】Githens S (1988) J Pediatr Gastroenterol Nutr 7:486-506
【非特許文献6】Slack JM (1995) Development 121:1569-1580
【非特許文献7】Hao E et al. (2006) Nat Med 12:310-316
【非特許文献8】Schwitzgebel VM et al. (2000) Development 127:3533-3542
【非特許文献9】Gradwohl G et al. (2000) Proc Natl Acad Sci USA 97:1607-1611
【非特許文献10】Gu G et al. (2002) Development 129:2447-2457
【非特許文献11】Cockell M et al. (1989) Mol Cell Biol 9:2464-2476
【非特許文献12】Krapp A et al. (1996) EMBO J 15:4317-4329
【非特許文献13】Kawaguchi Y et al. (2002) Nat Genet 32:128-134
【非特許文献14】Edlund H (1999) Current Opinion in Cell Biology 11:663-668
【非特許文献15】Pedro L Herrera (2002) Int J Dev Biol 46:97-103
【非特許文献16】Wilson ME et al. (2003) Mech Dev 120:65-80
【非特許文献17】Zhang Y-Q et al. (2003) Diabetes Matab Res Rev 19:363-374
【非特許文献18】Gu G et al. (2003) Mechanisms of Development 120:35-43
【非特許文献19】Jensen J (2004) Dev Dyn 229:176-200
【非特許文献20】Suzuki A et al. (2002) Cell Transplant 11:451-453
【非特許文献21】Dor Y et al. (2004) Nature 429:41-6
【非特許文献22】Suzuki A et al. (2004) Diabetes 53:2143-2152
【非特許文献23】Kershaw DB et al. (1997) J Biol Chem 272:15708-15714
【非特許文献24】Hara T et al. (1999) Immunity 11:567-578
【非特許文献25】Kershaw DB et al. (1995) J Biol Chem 270:29439-29446
【非特許文献26】Kelly M et al. (1997) J Cell Biol 138:1395-1407
【非特許文献27】Kamiya A et al. (1999) EMBO J 18:2127-2136
【非特許文献28】Tanimizu et al. (2003) J Cell Sci 116:1775-1786
【非特許文献29】Tanimizu et al. (2004) J Cell Sci 117:6425-6434
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
糖尿病は発症後の治療が困難な、多くの合併症を引き起こす重篤な慢性疾患である。糖尿病に対する治療法の一つとして膵島移植が注目されている。しかし、慢性的なドナー不足は深刻な問題であり、膵島のソースとしてES細胞が注目され、ES細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する報告も多数ある。2006年にノボセル社が正常発生に沿った形でES細胞からインスリン産生細胞を誘導することに成功し、インスリン産生細胞の人為的な分化誘導も現実味を帯びてきていると一般的に考えられている(D’Amour KA et al. (2006) Nat Biotechnol 24:1392-1401)。しかし、論文中に記載されているように、彼らの作成したインスリン産生細胞は未熟な胎児型であり、さらに培養系内に散在しているだけである。したがって、実用化には更なる成熟と移植用細胞の精製や未分化ES細胞の除去が必要である。さらに、膵島移植ですでに明らかになっているように、生体内におけるβ細胞の機能発揮のためには膵島の3次元構造が重要である。これらの問題を解決するためには、膵島の3次元構造をin vitroで形成する培養系が必要である。
細胞膜抗原の発現を指標にした細胞の分離同定法は、器官形成を解明する上でも、またさらに再生医療の臨床的側面から考えても有用である。しかしながら、膵臓細胞を細胞膜抗原の発現で分画する手法は開発されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らの研究室において、肝臓の発生をin vitroで解析する手法を開発し、この手法を利用することによって肝臓の前駆細胞が同定された。さらに、in vitroで行った解析結果がin vivoにおいても確認された。肝臓の前駆細胞が膵臓へと転分化することが観察されたため、膵臓においても肝臓と同様の手法が利用できると推論し、本願発明へと繋がった。
そこで、本願発明ではまず、膵臓の発生過程における細胞表面抗原の発現をデータベース検索し、Dlk及びPCLP1を見出した。そして膵臓においても肝臓と同様に細胞表面抗原の発現を指標に膵島及び膵管の前駆細胞が分離できることが明らかになった。
【0012】
さらに本願発明では、胎児膵臓細胞から成体の膵島と膵管の3次元構造を構築する新規培養系が開発された。最初に構築した培養系(以下、旧培養系)は平面状の線維芽細胞様細胞や外分泌部の上に膵島や膵管を形成したが、改良した培養系(以下、新培養系)は主に線維芽細胞様の細胞層が厚みを持って平面でなく立体になり、その中に膵島や膵管の3次元構造が構築された。従って、旧培養系と比べて新培養系では線維芽細胞様の細胞の割合が大きくなっており、旧培養系においてはインスリン等の発現が増加したにもかかわらず、これよりも膵島数が多い新培養系においてこれらの発現が上昇しなかったと考えられる。凍結切片による培養の断面を観察すると、新培養系では線維芽細胞様の細胞が10倍以上増えていると想像される。膵島数は旧培養系に比べて5倍に増えたが、全体の細胞数が10倍になったと考えれば、全細胞に対する膵島の割合は半分になるため、RT-PCRによる結果とほぼ一致する。さらに新培養系において前駆細胞に発現する遺伝子の発現が培養後に消失していることから、細胞が分化していると考えられる。
【0013】
また、遺伝子発現のデータより、培養によって膵臓3次元構造を構築した細胞はこれらの蛋白質を自ら産生していると考えられ、特に膵島中心部はCペプチド陽性であることから、培地中のインスリン等を吸着(Rajagopal J et al. (2003) Science 299: 363)しているのではないと考えられる。本培養系において、膵島の3次元構造を構築したことに間違いはないが、実際には球状構造物全てが膵島の構造を構築しているわけではない。多くの球状構造物において縁がCK19陽性のシスト(嚢胞/嚢腫)様構造を構築していた。このことを考慮すると、培養によって形成した膵島数が成体の膵島数とほぼ等しくなる。肝臓においてシスト様構造を構成する細胞は未分化であることが示唆されている(Tanimizu N et al. (2007) Mol Biol Cell 18: 1472-1479)ので、膵臓においても未分化な細胞によって構成されている可能性が高い。実際にシスト様構造の一部がインスリン産生細胞に分化しており、シスト様構造からインスリン産生細胞の塊が出芽していることを観察しており、これらが分化して膵島となると考えられる。
【0014】
本培養系では腺房や血管の3次元構造を構築することはなかった。腺房はE16.5で既に3次元構造を構築しており、3次元構造構築能を既に失っている可能性が考えられる。しかしながら、E14.5ではまだ腺房の3次元構造を形成していないにも関わらず、E14.5の培養でも3次元構造は構築されなかった。免疫染色の結果からはE14.5ではまだ腺房の構造が構築されていないことが確認されている。しかし、E14.5で既に腺房が形成されているという報告(非特許文献19;Cano DA et al (2007) Gastroenterology 132: 745-762)もあり、E14.5では既に腺房の3次元構造の決定的な段階が終了している可能性も考えられる。血管は膵臓の外から侵入すると考えられる。これに対し、膵管はE16.5 で既に3次元構造構築しているにも関わらず、E16.5の培養で3次元構造を構築した。腺房や膵島と異なり、膵管は発生段階において3次元構造を構築してから膵臓の肥大化に伴ってダクト(duct)構造を延長し、枝分かれ構造を複雑化していく。このことから、膵管形成細胞には3次元構造構築後も再構築する能力が残っていると考えられる。このように膵島と膵管の3次元構造構築メカニズムは異なることが示唆された。
【0015】
いずれにせよ、従来の方法でインスリン産生細胞への分化誘導やインスリン産生細胞の凝集塊の作成しかできなかったが(非特許文献20、23)、本培養系はβ細胞をα、δ、PP細胞が取り囲む生理的な膵島を形成することができる画期的なものである。本培養系により、in vivoで膵島が形成される以前の膵臓細胞には3次元の膵島構造を構築する能力があるが、すでに膵島が形成された膵臓細胞にはそうした機能はないことが示され、本培養系は発生過程を再現するものであると考えられる。さらに膵島を形成するまでの時間が生体の発生とほぼ同じことからも、本培養系が生理的に正常であることを示唆した。
【0016】
さらに、本願発明では、膵管の3次元構造の構築にも成功した。これまで肝臓における胆管等、他の実質臓器でも外分泌管上皮の3次元構造構築の試みは行われているが、実現した例はない。また、各実質臓器で実質細胞を生み出す幹細胞や前駆細胞がダクト若しくはその付近に存在することが示唆されているが(非特許文献3-7)、決定的な証拠は得られていない。本培養系は膵島と膵管の3次元構造構築を同一のディッシュ内において同一条件下で実現したことにより、膵島発生時における膵管と膵島前駆細胞の相互作用を解析することができる。実際に膵管と膵島の接触は、膵管の一部が膵島へと分化している状況証拠も得られた。このように本培養系はダクトの3次元構造の構築メカニズムやダクトと幹/前駆細胞の関係を分子細胞生物学的に解析する非常に有用なツールである。さらに膵島前駆細胞と膵管前駆細胞を分離する技術をも開発した。この培養系により、そのメカニズムの詳細を解明できると考えられる。
【0017】
本願発明では、膵島と膵管の前駆細胞を分離することに成功した。上記培養系において、膵島前駆細胞は膵島を形成するが、膵島前駆細胞以外の細胞は膵島を形成しないことと、膵管前駆細胞は膵管を形成するが膵島前駆細胞は膵管を形成しなかった。即ち、本培養系では本来分化しない方向へと分化しない。このことから、試験管内での特殊な環境で非生理的に分化を誘導する培養系ではないことが示唆された。発生段階で膵島を形成する以前の細胞しか膵島を形成しなかったことと総合すると、上記培養系が発生段階を正常にたどっていることが強く示唆された。
【0018】
本願発明では、PCLP1及びDlk の2つの細胞表面抗原の発現のみを指標として分離を行っているが、他の細胞表面抗原の発現を組み合わせることで膵臓前駆細胞のさらなる純化も可能であると考えられる。実際にc-kit遺伝子(例えば、ヒト遺伝子:Yarden Y et al. (1987)EMBO J 6:3341-3351)の発現によって更なる純化が可能であることを示唆するデータも得られた。
【0019】
本願発明において、同じ部位から発生する類似した実質臓器である肝臓と膵臓が、似通った分化過程をたどることがわかったことから、これらの起源である腸管に着目した。肝臓や膵臓が腸管から出芽することから、腸管にもこれらの前駆細胞が残っている可能性を考慮し、本願発明の膵島形成培養法にて胎児腸管上皮細胞を培養すると、膵島様構造物が構築された、さらに腸管上皮細胞をFCMによって解析するとPCLP1とDlkを発現する細胞が存在したため、これらの発現を指標に分画し、膵島形成培養法にて培養すると、PCLP1+Dlk+細胞は膵島様構造物を形成するがその他の細胞は形成しなかった。さらに、成体の腸管上皮細胞を培養しても同様の結果を得た。このことから、膵島前駆細胞が成体においても腸管に残っている可能性が示唆された。
【0020】
胎児膵臓細胞から膵島や膵管の3次元構造を構築できる培養系を開発したことにより、ES細胞の分化誘導系と組み合わせることによって、ES細胞から膵島や膵管の3次元構造を構築することも可能になると考えられる。実際に本発明者らはES細胞から膵島様3次元構造物の形成に成功した。
【0021】
近年、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)が開発されたことによって免疫拒絶の問題がクリアされ(Takahashi K et al. (2006) Cell 126: 663-676; Okita K et al. (2007) Nature 448: 313-317; Meissner A. et al (2007) Nat Biotechnol 25: 1177-1181; Blelloch R et al. (2007) Cell Stem Cell 1: 245-247; Nakagawa et al (2008) Nat Biotechnol 26: 101-106; Yu J et al. (2007) Science318: 1917-1920; Takahashi K et al. (2007) Cell 131: 861-872; Park IH et al. (2007) Nature 451: 141-146; Hanna J et al. (2007) Science 318: 1920-1923)、ES細胞と同様に生理的で機能的な膵島を形成できると考えられる。しかし、ES細胞やiPS細胞は特定組織へ分化する過程でテラトーマと呼ばれる腫瘍を生じさせることがあり(Isolation of a pluripotent cell line from early mouse embryos cultured in medium conditioned by teratocarcinoma stem cells, G.R. Martin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78 (1981), pp. 7634-7638.)ES細胞やiPS細胞を特定の組織や臓器にして患者に移植する場合の問題点となっていた。未分化なES細胞やiPS細胞はPCLP-1やDlkを発現していないのに対して、本発明者らの見いだした前駆細胞はこれらの細胞表面抗原を発現していることから、これら細胞表面抗原を用いてテラトーマを形成する可能性のある未分化な細胞を排除することができる。
このことから、近い将来に本培養系によって形成した膵島を、安全な膵島移植のソースとして期待することができる。本発明者らにより行われた実験でも、実際に、ES細胞から膵島様構築物を構築する際に細胞表面抗原の発現を指標に分画することによって未分化なES細胞を取り除ける可能性が示唆された。
【0022】
具体的には、本願発明は以下の〔1〕から〔36〕の発明を提供するものである。
〔1〕細胞におけるDlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現を検出することを含む、膵臓前駆細胞の検出方法。
〔2〕Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現が検出された細胞を膵臓実質前駆細胞と判断する、〔1〕記載の膵臓前駆細胞の検出方法。
〔3〕Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現が検出された細胞について、さらにc-kit遺伝子の発現を検出することを含む、〔1〕記載の膵臓前駆細胞の検出方法。
〔4〕遺伝子発現の検出が、各遺伝子の発現産物を認識する抗体を用いて行われる、〔1〕乃至〔3〕記載の検出方法。
〔5〕次の工程を含む膵島前駆細胞の調製方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離する工程
〔6〕次の工程を含む膵管前駆細胞の調製方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体の少なくとも一方が結合しなかった細胞を膵管前駆細胞として分離する工程
〔7〕細胞を分離する工程(3)がセルソーターを用いて行われる、〔5〕又は〔6〕記載の調製方法。
〔8〕膵臓前駆細胞を含む細胞試料が胎児膵臓細胞、成体膵臓細胞、胎児腸管上皮細胞、成体腸管上皮細胞、胎児肝臓または再生中の肝臓由来の細胞、成体肝臓細胞、幹細胞、ES細胞及びiPS細胞より選択される、〔5〕又は〔6〕記載の調製方法。
〔9〕工程(2)においてさらに抗KIT抗体を添加し、工程(3)において抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体に加えて、抗KIT抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離することを含む、〔5〕記載の調製方法。
〔10〕次の工程を含む膵島の培養方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料を膵島を誘導する条件下で培養する工程
〔11〕次の工程を含む膵島の培養方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離する工程
(4)分離された膵島前駆細胞を、膵島を誘導する条件下で培養する工程
〔12〕次の工程を含む膵管の培養方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体の少なくとも一方が結合しなかった細胞を膵管前駆細胞として分離する工程
(4)分離された膵管前駆細胞を、膵管を誘導する条件下で培養する工程
〔13〕細胞を分離する工程(3)がセルソーターを用いて行われる、〔11〕又は〔12〕記載の培養方法。
〔14〕膵臓前駆細胞を含む細胞試料が胎児膵臓細胞、成体膵臓細胞、胎児腸管上皮細胞、成体腸管上皮細胞、胎児肝臓または再生中の肝臓由来の細胞、成体肝臓細胞、幹細胞、ES細胞及びiPS細胞より選択される、〔10〕乃至〔12〕記載の培養方法。
〔15〕工程(4)における培養が血清、2Me、ニコチンアミド、HEPES、及びゲンタマイシンを添加したDMEM/F12培地で行われる、〔10〕乃至〔12〕記載の培養方法。
〔16〕培地がさらにインスリン、EGF及びGLP-1を含む、〔15〕記載の培養方法。
〔17〕工程(4)における培養中、培地交換を行う〔10〕乃至〔12〕記載の培養方法。
〔18〕〔5〕の方法により調製された膵島前駆細胞。
〔19〕〔6〕の方法により調製された膵管前駆細胞。
〔20〕〔10〕又は〔11〕の方法により培養された膵島。
〔21〕〔12〕の方法により培養された膵管。
〔22〕移植に用いられるものである、〔18〕乃至〔21〕記載の細胞、膵島または膵管。
〔23〕〔18〕記載の細胞、または〔20〕記載の膵島を含む医薬組成物。
〔24〕糖尿病治療に使用されるものである、〔23〕記載の医薬組成物。
〔25〕PCLP1遺伝子及びDlk遺伝子の発現を検出するための試薬を含む、膵臓前駆細胞を検出または調製するためのキット。
〔26〕PCLP1遺伝子及びDlk遺伝子の発現を検出するための試薬が、抗PCLP1抗体及び抗Dlk抗体である、〔25〕記載のキット。
〔27〕さらに、c-kit遺伝子の発現を検出するための試薬を含む、〔25〕記載のキット。
〔28〕c-kit遺伝子の発現を検出するための試薬が、抗KIT抗体である、〔27〕記載のキット。
〔29〕遺伝子発現を検出するための試薬に加えて、細胞培養培地を含む〔25〕乃至〔28〕記載のキット。
〔30〕検出または調製される膵臓前駆細胞が膵島前駆細胞または膵管前駆細胞である、〔25〕乃至〔29〕記載のキット。
〔31〕血清、2Me、ニコチンアミド、HEPES、及びゲンタマイシンを含むDMEM/F12培地からなる、膵島又は膵管培養用培地。
〔32〕さらにインスリン、EGF及びGLP-1を含む、〔31〕記載の培地。
〔33〕次の工程を含む、インスリン産生/分泌の調節作用を有する物質のスクリーニング方法。
(1)〔20〕の膵島を被験物質存在下で培養する工程
(2)膵島からのインスリン産生/分泌レベルを検出する工程
(3)対照と比較して、インスリン産生/分泌レベルを変化させる被験物質を、インスリン産生/分泌を調節する作用を有する物質として同定する工程
【0023】
さらに本発明は、以下の〔34〕から〔36〕の発明を提供するものである。
〔34〕〔18〕記載の細胞、または〔20〕記載の膵島を個体に投与する工程を含む、糖尿病治療のための方法。
〔35〕〔18〕記載の細胞、または〔20〕記載の膵島の糖尿病治療のための医薬組成物の製造における使用。
〔36〕糖尿病治療に使用するための、〔18〕記載の細胞、または〔20〕記載の膵島。
【発明の効果】
【0024】
本願発明において膵島前駆細胞をPCLP1+Dlk+という画分として分離することができた。PCLP1及びDlkをマーカーとして用いた免疫染色により膵島前駆細胞の局在も明らかにすることができた。このような2つの細胞表面抗原の発現のみで細胞を分離することが可能なため、分離操作が簡略化され、その結果として分離時の染色操作等による細胞へのダメージが軽減され、前駆細胞を活きのいい状態で正確に分離することを可能になった。
【0025】
これまで膵臓のみならず、成体の実質臓器の3次元構造構築をin vitroで再現した例はなく、本願発明の培養系は実質臓器の3次元構造を再現する初めての系である。これにより、これまで細胞レベルでの解析が困難であった実質臓器の3次元構造構築のメカニズムを詳細に解析するモデル系として非常に有用である。
【0026】
腸管の細胞にPdx-1を遺伝子導入し、長期培養することによる膵臓への分化が報告されたが(Kojima H et al. (2002) Diabetes 51:1398-1408;Yoshida S et al. (2002) Diabetes 51: 2505-2513)、本願発明では野生型の細胞をそのまま培養するだけであり、正常な状態に近い。2型糖尿病患者の多くは過食による肥満が主な原因となっている。一方、欧米では過食による肥満への対策として腸管の一部を切除する治療が行われている。切除された腸管に対して本願発明の培養法を応用すれば、糖尿病治療に結びつけることができる可能性がある。
【0027】
また、本願発明の方法を利用しES細胞から膵島や膵管の3次元構造を構築する過程を詳細に調べることにより、膵島や膵管の発生について細胞レベルで詳細に理解できると考えられる。上記のES細胞やiPS細胞から膵島や膵管の3次元構造を構築する培養系は、糖尿病、膵管ガン、膵炎等に対する治療薬のスクリーニング、これらの疾病の研究に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】胎児膵臓細胞における細胞表面抗原の発現を調べた結果を示す図である。(a)胎児膵臓におけるPCLP1とDlkの発現をフローサイトメーターによって解析した。(b)胎児膵臓細胞をPCLP1とDlkの発現によって4分画に分け、それぞれの画分の割合(%)を表にした。(c)E14.5、E16.5、E18.5 胎児膵臓の総細胞数をグラフにした。(d) (b)と(c)の結果より、各画分の細胞数を換算してグラフにした。
【図2】E14.5胎児膵臓組織における細胞表面抗原の発現を免疫染色により調べた結果を示す写真である。E14.5の膵臓の凍結切片を作成し、PCLP1及びDlk、アミラーゼ及びインスリン、並びにグルカゴン及びインスリンの組合せで免疫染色した。それぞれの細胞はPCLP1+Dlk+(矢印)、PCLP1+Dlk-(中抜き矢印)、PCLP1-Dlk+(矢頭)で示した。
【図3】E16.5胎児膵臓組織における細胞表面抗原の発現を免疫染色により調べた結果を示す写真である。E16.5の膵臓の凍結切片を作成し、PCLP1及びDlk、アミラーゼ及びインスリン、並びにグルカゴン及びインスリンの組合せで免疫染色した。それぞれの細胞はPCLP1+Dlk+(矢印)、PCLP1+Dlk-(中抜き矢印)、PCLP1-Dlk+(矢頭)で示した。
【図4】E18.5胎児膵臓組織における細胞表面抗原の発現を免疫染色により調べた結果を示す写真である。E18.5の膵臓の凍結切片を作成し、PCLP1及びDlk、アミラーゼ及びインスリン、並びにグルカゴン及びインスリンの組合せで免疫染色した。それぞれの細胞はPCLP1+Dlk+(矢印)、PCLP1+Dlk-(中抜き矢印)、PCLP1-Dlk+(矢頭)で示した。
【図5】分画した細胞の定量PCRによる性状解析を行った結果を示す図である。(a)現在までに報告されている情報から想定される細胞系譜を示した。定量PCRによって得られた、生体におけるNgn3(b)、p48(c)、ネスチン(d)の発現を示した。
【図6】E16.5胎児膵臓のPCLP1+Dlk+画分とその他の画分の性状解析した結果を示す図である。(a)それぞれの画分のコロニー形成能を示した。(b)形成したコロニーの大きさをコロニー内の細胞数で3つに分類し、それぞれのコロニー数をグラフ化した。
【図7】マウス膵臓発生における膵島/腺房の3次元構造構築が起きる時期を特定するために、胎児膵臓の凍結切片を免疫染色した結果を示す写真である。
【図8】胎児膵臓細胞新規培養系の性状解析した結果を示す図および写真である。(a)胎児膵臓細胞新規培養系によって得られたE16.5、E18.5由来膵島様構造物の数を示す。(b)E16.5膵臓細胞の培養前と培養後の膵臓遺伝子の発現を比較した。
【図9】胎児膵臓細胞培養系によって得られた細胞を免疫染色した結果を示す図および写真である。平面部分ではアミラーゼの産生が認められ(左下)、膵島様構造部位は中心部にインスリン、辺縁部にグルカゴンの産生が認められた(右下)。マウス成体の膵島構造(右上)と類似している。
【図10】分画した胎児膵臓細胞の膵島への分化能を示す図および写真である。(a)培養によって形成した膵島様構造物の数を数値化し、グラフにした。(b)得られた培養をインスリンとアミラーゼで免疫染色した。
【図11】STZ投与による糖尿病モデルマウス作成のため、STZの投与量による血糖値の上昇を調べた結果を示す図である。
【図12】細胞移植による高血糖の改善効果を調べるため、移植糖尿病モデルマウスの血糖値を測定した結果を示すグラフである。
【図13】培養系を改善するために検討した培養条件について得られた結果を示す図である。培養条件を左に示した。(a)それぞれの血清を使った培養において形成される膵島数をグラフにした。(b)それぞれの培地条件による膵島形成数をグラフにした。成立しなかった培養は除いてある。
【図14】新規培養系の培養後の位相差顕微鏡写真である。
【図15】新規培養系の性状解析した結果を示す図および写真である。(a)新規培養法によってE14.5、E16.5、E18.5の胎児膵臓細胞を培養し、形成した膵島数をグラフ化した。(b)旧培養系と新規培養系の膵島形成数を比較した。(c)新規培養系(右2レーン)と胎児膵臓(左)、胎児膵臓細胞(左から2番目)のRNAを回収して膵臓特異的な遺伝子についてRT-PCRを行った。
【図16】新規培養系の培養後の凍結切片についての免疫染色結果を示す写真である。
【図17】新規培養系によって形成した膵島細胞の移植による効果を調べた結果を示す図および写真である。(a)培養細胞を移植したことによる血糖の変化をグラフ化した。(b)膵島を移植3ヶ月後の腎臓の凍結切片を免疫染色した写真である。
【図18】マウスiPS細胞の膵島構造への分化誘導を示す写真である。青(Dapi)で核を染色し、赤(Alexa594)でinsulinを染色し、緑でGcg/SST/PP(glucagon, somatostatin, pancreatic polypeptide)を染色する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本願発明者らにより、Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子を発現する細胞が、膵島及び腺房へと分化し得る膵臓実質前駆細胞を含む細胞集団であることが突き止められた。そこで本発明は、細胞におけるDlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現を調べることによって膵臓前駆細胞を検出する方法を提供するものである。さらに、本発明では、c-kit遺伝子の発現を検出することにより膵臓前駆細胞をさらに純化できることが明らかにされた。そこで別の態様として、本発明は、細胞におけるDlk遺伝子、PCLP1遺伝子及びc-kit遺伝子の発現を調べることによって膵臓前駆細胞を検出する方法を提供するものである。本発明の方法において、Dlk、PCLP1及びc-kit遺伝子の発現が検出された細胞(Dlk、PCLP1及びc-kit陽性細胞)は、膵臓実質前駆細胞であると判断・判定される。
【0030】
本発明においてこれらの遺伝子発現が確認される順序は問わないが、c-kit遺伝子の発現は、Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現と同時、又はこれらの遺伝子発現について陽性と判断された細胞について確認することが望ましい。即ち、まずDlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現を判定した後、c-kit遺伝子の発現を確認する。Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現は同時、又は、順番に行ってもよい。また、これら3種の遺伝子発現に加え、必要に応じ、公知の膵臓前駆細胞、膵島前駆細胞、又は膵管前駆細胞等のマーカー遺伝子の発現を調べてもよい。
【0031】
本発明の膵臓前駆細胞を検出する方法は、dlk蛋白質及びPCLP1蛋白質、また必要に応じc-kit遺伝子がコードするKIT蛋白質を細胞表面抗原として有する脊椎動物を対象として実施することができる。
【0032】
本明細書において、「dlk蛋白質」とは、delta-like(dlk)蛋白質及びその相同蛋白質を指し、「Dlk遺伝子」とは該蛋白質をコードする核酸を意味する。dlk蛋白質は、preadipocyte factor 1(pref-1)、zona glomerulosa-specific factor(ZOG)、fetal antigen 1(FA1)等とも称される(Smas CM et al. (1993) Cell 73: 725-734;Laborda J et al. (1993) J Biol Chem 268: 3817-3820;Jensen CH et al. (1994) Eur J Biochem 225:83-92)。Dlk遺伝子は、ヒト(GenBank Accession No. NM_003836及びU15979)、ラット(AB046763及びD84336)及びウシ(AB009278)等でその配列が公知である。
【0033】
一方、本明細書において、「PCLP1蛋白質」は細胞膜に存在する1回膜貫通型糖蛋白質ポドカリキシン様タンパク質1及びその相同蛋白質を指し、「PCLP1遺伝子」は該蛋白質をコードする核酸を意味する。PCLP1はヒト(NM_001018111; NM_005397; U97519)、マウス(NM_013723; BC054530; BC052442; AB028048)、ラット(AB020726)、ウサギ(NM_001082766; U35239)、ニワトリ(非特許文献26)等でその配列が公知である。
【0034】
本明細書において「KIT蛋白質」は、初期造血に重要な役割を果たすレセプター型チロシンキナーゼKIT及びその相同蛋白質を指し、「c-kit遺伝子」は該蛋白質をコードする核酸を意味する。ヒトをはじめ多様な種において、その配列が明らかにされている。(例えば、ヒト遺伝子:Yarden Y et al. (1987)EMBO J 6:3341-3351参照)。
【0035】
従って、本発明の膵臓前駆細胞を検出する方法では、これら公知の配列情報を参考に遺伝子発現を検出することができる。しかしながら、本発明の検出方法の適用対象は、これらDlk遺伝子、PCLP1遺伝子、c-kitの配列が公知の生物種に限定される訳ではない。特定の活性を示す蛋白質をコードする遺伝子配列は、一般に種間で保存されていると考えられており、或る生物種において配列が決定された遺伝子について、該遺伝子又はその一部配列を核酸プローブ/プライマーとして用いたハイブリダイゼーション(Sambrook J et al. (1989) Molecular Cloning 2nd ed. 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. Press等)、及び遺伝子増幅(PCR等)等による周知の手法により該遺伝子がコードする蛋白質と相同の機能を有する蛋白質をコードする遺伝子を他の生物種より単離できることは周知である。そこで、本発明の方法において発現が検出される上記Dlk遺伝子、PCLP1遺伝子、c-kit遺伝子には、本願出願時公知の遺伝子に加えて、このような種間の遺伝子の保存性により、公知の遺伝子配列により検出及び取得可能な未知配列の相同遺伝子が含まれる。
【0036】
本発明の方法において、遺伝子発現は、細胞における遺伝子産物の発現を検出することにより行うことができる。例えば、遺伝子産物としてmRNAの存在を検出することができる。配列公知の核酸の存在を検出するための様々な手法が開発されており、本発明において利用することができる。例えば、各遺伝子の配列情報を元に作成した適当な核酸プローブ、プライマー等を用いて、核酸ハイブリダイゼーションの技術を利用して検出することができる。ノーザンハイブリダイゼーション、RNAプロテクションアッセイ、RT-PCR等の公知の方法を挙げることができる。
【0037】
また、遺伝子産物として細胞において発現している蛋白質を検出することもできる。本発明の方法において発現が検出される遺伝子によりコードされる蛋白質Dlk及びPCLP1は、細胞表面抗原であるため、これらの蛋白質の細胞表面に露出している部分を対象とした検出方法は、細胞に対するダメージが少なく、検出された細胞をさらに分離すること等を目的とした場合、有利であると考えられる。
【0038】
蛋白質の検出は、例えば、該蛋白質を認識する抗体を使用することにより好適に行うことができる。ウエスタンブロット、免疫沈降、免疫組織化学、ELISA、FACS等の方法を挙げることができる。
【0039】
PCLP1、Dlk及びKIT蛋白質を認識する種々の抗体が知られている。また、所望の蛋白質(PCLP1、Dlk又はKIT)を認識できる限り、どのような手法により獲得される抗体であっても、その由来を問わず本発明の方法において使用することができる。ここで、蛋白質を認識するとは、これに限定される訳ではないが、抗体が特定の蛋白質上の抗原に反応して結合することを指す。本発明の方法で使用される抗体は、各マーカーとなる蛋白質のどのような抗原を認識するものであっても良いが、好ましくは細胞表面上に露出されている部位を認識するものである。本発明で使用できる抗体には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方が含まれる。例えば、免疫動物に対して抗原を感作して、該動物より得られる血清等をポリクローナル抗体として使用することができる。また、抗原感作された免疫動物から得られた免疫細胞(脾臓細胞等)又は抗原感作されたリンパ球を、ミエローマ細胞等の永久分裂能を有する細胞と融合することによりハイブリドーマを得、該ハイブリドーマよりモノクローナル抗体を得ても良い。抗体の取得に当たっては、当業者に周知の如何なる方法を採用しても良い。得られた抗体は、一般的な蛋白質の分離・精製法により必要に応じ分離、精製して使用してもよい(Antibodies:A Laboratory Manual, Harlow and David Lane ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988))。
【0040】
ここで「抗体」とは、特異的な抗原と結合する免疫グロブリン分子を指す。本発明の方法で使用される抗体は、抗原との結合能を保持している限り、完全な抗体分子である必要はなく、通常の抗体の一部断片又は修飾された抗体であってもよい。例えば、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)、Fab’断片、F(ab’)2断片、F(ab’)断片、Fv断片、ダイアボディ(Holliger P et al. (1993) Proc Natl Acad Sci USA 90: 6444-6448等)、一本鎖抗体(以下「scFv」;Pluckthun (1994) The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag, NY, pp. 269-315参照)等が、抗体断片として挙げられる。必要に応じ、2以上の種類の抗原認識部位が融合された多種特異性抗体(例えば、二種特異性抗体)を用いてもよい(Milstein C et al. (1983) Nature 305: 537-540; Keler T et al. (1997) Cancer Res 57: 4008-4014; Brennan M et al. (1985) Science 229: 81-83; Kostelny SA et al. (1992) J Immunol 148: 1547-53; Holliger T et al. (1993) Proc Natl Acad Sci USA 90: 6444-6448等)。抗体の修飾に関しては、例えば、抗体をポリエチレングリコール等と結合する手法が公知である。抗体の安定化等を目的として必要に応じ、適当な化学的修飾を施すことができる。さらに抗体をコードする遺伝子配列に改変を加える方法も公知であり、抗体の結合能を増すため、安定性を挙げるため等、目的に応じて遺伝子改変抗体を製造し、本発明の方法において用いてもよい。
【0041】
細胞の抗体による検出は、用いる抗体を直接または間接に標識すること、または、検出用抗体を認識する別の標識された抗体を用いることによって検出してもよい。各抗原に結合する抗体は、異なる標識によってラベルすることが好ましい。様々な抗体を介した蛋白質の検出方法が考案されており、本発明においては周知の如何なる手法を採用してもよい。
【0042】
本発明のDlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現を指標とする膵臓前駆細胞を検出する方法は、膵島前駆細胞及び膵管前駆細胞を調製する方法として応用することもできる。即ち、本発明は膵島前駆細胞及び膵管前駆細胞を調製する方法を提供するものであり、該方法は(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製し、(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加することにより達成することができる。ここで、抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体の両方と結合した細胞は膵島前駆細胞であり、その他の細胞、即ち、Dlk及びPCLP1の両方、またはDlkまたはPCLP1のどちらか一方が検出されなかった細胞は膵管前駆細胞と判定できる。抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体との結合により膵島前駆細胞と判定された細胞集団については、さらに抗KIT抗体との結合性を調べることにより一層純化することができる。必要に応じ、これら3種の抗体に加え、その他の公知の細胞マーカーの発現についても検出するため、それらの細胞マーカーに対する抗体を添加しても良い。
【0043】
本願明細書において膵島または膵管前駆細胞を「調製」するとは、細胞集団中のこれらの細胞の割合を高め、元の細胞集団と比べて、より比率的に多くの該当細胞を含む細胞集団を得ることを意味する。「純化」、「分画」、「単離」、「回収」、「濃縮」等も本願明細書において同様の意味で用いられる。
【0044】
膵臓前駆細胞を含む細胞試料としては、これらに限定される訳ではないが、胎児膵臓細胞、成体膵臓細胞、胎児腸管上皮細胞、成体腸管上皮細胞、胎児肝臓または再生中の肝臓由来の細胞、成体肝臓細胞、種々の幹細胞、ES細胞及びiPS細胞を好適な例として挙げることができる。幹細胞としては、例えば、唾液腺等の消化器系腺組織や、胃等の消化器系臓器、骨髄、臍帯血、及び脂肪組織から得られる幹細胞を挙げることができる。
【0045】
特定の細胞表面抗原を指標として目的の細胞を単離する方法は公知である。例えば、蛍光標識抗体を用いることにより、蛍光シグナルを指標としてセルソーターにより目的の細胞を分離することができる(FACS等)。
【0046】
また、抗体を固定化した磁性粒子に細胞を反応させ、目的細胞を磁性粒子に捕捉させた上で、磁気により磁性粒子を集め、目的とする細胞を回収する方法も公知である。磁性粒子と結合した細胞を分離するためには磁石を始め、マグネティックセルソーター等の装置を用いる方法が知られている(BD IMag-DM Particles試薬, BD IMag-MSC Particles試薬(Becton, Dickinson&Co.);Dynabeads(Invitrogen);MACS製品(ミルテニーバイオテク(株))等)。
その他、プレートに抗体をコートして抗原を発現する細胞を濃縮するパンニング法によっても、細胞を分離することができる。
【0047】
本発明の調製方法の抗体を添加する工程(2)において、各抗体(抗Dlk抗体と抗PCLP1抗体、並びに、場合により抗KIT抗体及び/又はその他の抗体)を添加する順序に、特に決まりはない。抗体を1種類添加し、該抗体の結合が確認された細胞に対し、次の抗体を添加してもよいし、それぞれの種類の抗体が異なる標識によりラベルされている場合には、全ての抗体を同時に添加しても良い。
【0048】
本発明はさらに、膵島前駆細胞及び膵管前駆細胞を提供するものである。これらの前駆細胞は、抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体との結合を指標とした上述の細胞調製方法により調製され得る。調製された膵島前駆細胞(Dlk+PCLP1+細胞)を培養することにより膵島の3次元構造を、また調製された膵管前駆細胞(Dlk+PCLP1+細胞以外)を培養することにより膵管の3次元構造を構築できることも明らかにされた。従って、本発明の細胞調製方法により得られた膵島前駆細胞及び膵管前駆細胞を各々培養し、分化させることにより得られる膵島及び膵管も本発明の一態様である。
【0049】
これらの細胞及び組織は、膵臓の発生機序を解明する助けとなると共に、それらに対する種々の薬剤候補の効果を調べることにより、糖尿病、膵管ガン、膵炎等のこれらの細胞や組織が関わっている疾病に対する薬剤のスクリーニングに役立つと思われる。さらに、膵島前駆細胞及び膵島については、糖尿病モデルマウスへの移植により血糖改善効果を有することが確認された(実施例3.(4)及び(7)参照)。従って、本発明の膵島前駆細胞及び膵島は、糖尿病治療に役立てられると考えられる。移植治療に使用する場合、移植された細胞に対する拒絶反応が抑制されるよう、特定の材料(例えば、出発細胞としてiPS細胞を使用する)を用いたり、移植前に細胞に必要に応じ遺伝的改変を加えたりすることもできる。
【0050】
そこで、別の態様として、本願は、本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島を含む医薬組成物を提供する。このような医薬組成物は、糖尿病等、膵島細胞が関与する疾患の治療、好ましくは移植治療に使用することができる。膵島前駆細胞または膵島に加え、本願発明の医薬組成物は、そのような治療に必要とされる薬学的に許容される担体または溶媒を含むことができる。
【0051】
本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島を医薬組成物として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば必要に応じて、水または他の任意の薬学的に許容される液体で無菌性溶液もしくは懸濁液にすることによって、非経口的に投与されうる注射可能な形態へと調製することができる。例えば、医薬組成物に含まれるべき本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島を、許容される担体または溶媒、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと混合して、薬剤としての使用に必要な一般に許容される単位用量にすることができる。「薬学的に許容される」という用語は、その物質が不活性であり、かつ薬物用の希釈剤またはビヒクルとして使用される従来物質を含むことを示す。適切な賦形剤およびその製剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed. (1980) Mack Publishing Co., ed. Oslo et al.に記載されている。
【0052】
生理食塩水、グルコース、およびアジュバント(D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノールおよびポリアルコール(例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、ならびに非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)またはHCO-50)などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。
【0053】
ゴマ油またはダイズ油を油性液体として用いることができ、これらと共に可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを用いてもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど)、安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、および抗酸化剤を製剤に用いることができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0054】
投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0055】
医薬組成物は、薬学的に有効な量の活性成分(本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島)を含む。化合物の「薬学的に有効な量」とは、本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島が重要な役割を果たしている障害を処置および/または予防するのに十分な量である。薬学的に有効な量の例は、個体(患者)に投与された場合に、例えば血糖値を低下させ、それにより糖尿病によって生じる障害を処置または予防するために必要な量であり得る。
【0056】
本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島のそのような薬学的に有効な量を決定するための査定は、標準的な臨床プロトコールを使用してなされ得る。
【0057】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。本願発明の方法により調整される膵島前駆細胞または膵島を含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0058】
本発明により初めてβ細胞をα、δ、PP細胞が取り囲む生理的な膵島をin vitroで形成することができるようになった。本発明の膵島を培養する方法は、(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程、及び(2)調製された細胞試料を、膵島を誘導する条件下で培養する工程を含むものである。または、上述の本発明の膵島前駆細胞を調製する方法により得られた細胞を、出発材料として膵島へと分化させる培養方法である。即ち、本発明の膵島培養の別の態様は、(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程、(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程、(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離する工程、及び(4)分離された膵島前駆細胞を、膵島を誘導する条件下で培養する工程を含むものである。
【0059】
さらに本発明により膵管の3次元構造を構築する方法も提供された。本発明の膵管を培養する方法は、(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程、(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程、(3)抗Dlk 抗体又は抗PCLP1抗体の少なくとも一方が結合しなかった細胞を膵管前駆細胞として分離する工程、及び(4)分離された膵管前駆細胞を、膵管を誘導する条件下で培養する工程を含むものである。
【0060】
上述の3つの培養方法で使用する膵臓前駆細胞を含む細胞試料としては、上記膵島前駆細胞および膵管前駆細胞を調製する方法において挙げた細胞と同様の細胞を例として挙げることができ、調製法の場合と同じく、本発明はこれらに限定されるものではなく、膵臓前駆細胞が含まれていれさえすればどのような細胞試料であっても良い。当業者であれば、本発明の細胞表面抗原を検出する手法を適用することにより、種々の細胞集団において膵臓前駆細胞が含まれるかどうかを容易に確認することができる。
【0061】
上述の培養方法における抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体への結合を指標とした前駆細胞を分離する工程については、前述した膵島及び膵管の前駆細胞を調製する方法についての説明を参照することができる。即ち、必要に応じ、膵島前駆細胞をさらに純化することを目的として、さらに細胞を抗KIT抗体との結合性に基づいて分類しても、その他の細胞マーカーを採用してもよい。また、同様に、蛍光標識抗体や磁性粒子を利用し、セルソーターを用いて所望の細胞を分離することができる。
【0062】
本明細書の実施例では、Fetal Bovine Serum (JRH 12303-500M)を血清として用いた。この場合、膵臓細胞を培養する培地中の血清濃度を下げる(5%)ことにより細胞剥離が抑制された。そこで本発明の培養方法では、血清濃度を例えば5%前後とすることができる。例えば、1〜10%、好ましくは3〜8%、より好ましくは4〜6%の範囲、または10%、9%、8%、7%、6%または5%以下、1%、2%、3%、4%または5%以上とすることができる。しかしながら、実施例で用いた以外のウシ胎児血清(FCS;FBS)に加え、他の種由来の血清も本発明の方法に使用できることは明らかである。当業者であれば、周知技術または明細書の実施例の記載(特に2.(4)及び3.(5)参照)等を元に、使用する血清の種類に適した濃度を適宜決定することができる。血清に代えて増殖因子のカクテルなど血清代用製品を用いて培養することも可能である。
【0063】
本発明の培養に使用する培地は、血清に加え、2Me、ニコチンアミド、HEPES、ゲンタマイシン、インスリン、EGF及びGLP-1を含むDMEM/F12培地である。これらの成分は、各々、次のような濃度で培地中に添加することができる。2Me:50μM;ニコチンアミド: 10mM;HEPES: 5mM;ゲンタマイシン: 50μg/ml;インスリン: 10nM;EGF: 20ng/ml;GLP-1: 10ng/ml。しかしながら、当然ながらこれらの成分についての濃度は、これに限定される訳でなく、当業者であれば、周知技術または本明細書の実施例の記載(特に2.(4)及び3.(5)参照)等を元に、使用する成分の濃度を適宜決定することができる。また、インスリン、EGF及びGLP-1は必ずしも添加する必要もないことも確認されている。
【0064】
本発明の培養工程においては、必要に応じ、培地交換を行うこともできる。例えば、12〜48時間毎に培地を交換することが出来る。
【0065】
このような本発明の培養方法により形成される膵島及び膵管も本発明に含まれる。形成された膵島及び膵管については、それぞれの組織において特異的に発現されることが知られている成分を産生しているかどうかを調べることにより確認することができる。成分の確認は、例えば免疫染色により行うことができ、免疫染色に当たっては市販の抗体を使用することができる。成体膵島特異的な成分としてはインスリン及びPdx-1(pancreas duodenum homeobox 1)が挙げられる。
【0066】
上述の膵島及び膵管の培養に適した培地も本発明に含まれる。本発明の膵島及び/又は膵管を形成させる培地は、好適には、血清に加え、2Me、ニコチンアミド、HEPES、ゲンタマイシン、インスリン、EGF及びGLP-1を含むDMEM/F12培地である。
【0067】
本発明は、前述の膵臓前駆細胞の検出、及び膵島前駆細胞又は膵管前駆細胞の調製に適した試薬を含むキットにも関する。当該キットは、PCLP1遺伝子及びDlk遺伝子の発現レベルを検出するための試薬を含む。さらにキットは、c-kit遺伝子の発現レベルを検出するための試薬を含んでもよい。これらの試薬は、各遺伝子より転写された核酸産物(例えば、mRNA)を検出するための核酸プローブやプライマーであっても、及び/又は、各遺伝子より翻訳された蛋白質を検出するための抗体であっても良い。これらのプローブ、プライマー及び抗体については、膵臓前駆細胞の検出方法についての説明を参照することができる。
【0068】
本発明のキットは、上述の核酸プローブやプライマー、又は、抗体を用いた細胞の検出・分離に必要とされる成分・装置等を含んでいてもよい。詳細については、膵臓前駆細胞の検出方法についての説明を参照することができる。
【0069】
本発明のキットは、各遺伝子の発現レベルを検出するための試薬に加え、膵臓前駆細胞、膵島前駆細胞、及び/又は膵管前駆細胞の培養に適した培地を含んでいても良い。また、前述の本発明の膵島及び膵管の3次元構造を誘導することができる培地を含んでいても良い。培地は調製された形でキットに含まれていても、又は、使用時に培地を作成できるよう、必要な成分が個別に包装された形でキットに含まれていてもよい。
【0070】
さらに本発明のキットは必要に応じ、キットに含まれる試薬、培地、成分及び装置等の扱いについての説明書、適当な容器、コントロール試薬等、通常のキットに含まれるものを含んでいてもよい。
【0071】
本発明の方法により得られる膵島細胞は、糖尿病モデルマウスへの移植により、長期に亘って生体内において血糖レベルによりインスリン分泌が調節される、機能的な膵島細胞であることが確認された。このような膵島細胞は、移植による糖尿病治療に有用であると共に、in vitroにおける糖尿病治療薬のスクリーニングにも有用であると思われる。そこで、本発明は、(1)本発明の方法により培養された膵島を被験物質存在下で培養する工程、(2)膵島からのインスリン産生/分泌レベルを検出する工程、及び(3)対照と比較して、インスリン産生/分泌レベルを変化させる被験物質を、インスリン産生/分泌を調節する作用を有する物質として同定する工程を含むインスリン産生の調節作用を有する物質のスクリーニング方法を提供するものである。
【0072】
インスリン産生/分泌レベルは、例えば、インスリンに対する抗体を用い免疫学的に測定し、評価・検出することができる。インスリンを認識する抗体は市販されており、また必要に応じ、周知の抗体作成技術により製造することもできる。
【0073】
インスリン産生/分泌レベルを比較する対照としては、例えば、被験物質を加えない条件下で培養した膵島を用いることができる。必要に応じ、対照となる膵島培養培地に対し、被験物質が溶解されている溶液(例えば、生理食塩水等)を、被験物質を添加する場合と同じ容量で添加することもできる。一方、膵島におけるインスリン産生/分泌レベルを変化させることが公知の物資を添加した膵島を対照とした場合には、被験物質と対照の物質との活性の度合を比較評価することができる。
【0074】
本発明のスクリーニング方法において利用することができる被験物質には、精製蛋白質(抗体を含む)、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、RNAライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清、及び合成低分子化合物のライブラリー等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0075】
本発明のスクリーニング方法によって選択されるインスリン産生/分泌の調節作用を有する物質は、インスリンが関与する疾病(糖尿病等)の治療剤の候補化合物となる。即ち、本発明は、本発明のスクリーニングによって選択された物質を有効成分として含有する糖尿病治療薬を提供する。また本発明は、本発明のスクリーニング方法によって選択された化合物の糖尿病治療薬製造における使用に関する。本発明のスクリーニング法により単離される物質を、治療剤として用いる場合には、公知の製剤学的製造法により製剤化して用いることができる。例えば、薬理学上許容される担体または媒体(生理食塩水、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤など)とともに患者に投与する。投与は、物質の性質に応じて、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、静脈内、または経口的に行われる。投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与方法等により変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することができる。
なお、本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
1.材料
(1) マウス
C57BL/6野性型マウスはSLCより購入した。マウスはSPF環境下において12時間ごとの明暗サイクルでエサ・水は自由にアクセスできるように飼育した。また、マウスの扱いは東京大学の動物実験実施規定に沿って行われた。
【0077】
(2) 細胞培養
ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM) [Gibco BRL #12800-082]
DMEM/F12ham [Gibco BRL #11320-033]
ウシ胎児血清 [Gibco BRL #26140-979]
ウシ胎児血清 [JRH#12303-500M]
ニコチンアミド [Sigma#N0636]
2-Me [Wako#FSM1874]
V型コラゲナーゼ [Sigma#C9263]
200 mM L-グルタミン [Gibco BRL #25030-081]
ゼラチン [Sigma#G-1890]
ラミニン [BD#354232]
インスリントランスフェリン-セレニウムX(ITS) [Gibco BRL #51500-056]
プロテアーゼ阻害剤カクテル [Roche#1697498]
トリプシン阻害剤大豆 [Sigma#T6522]
セルストレーナー(70μm) [Falcon #12350]
細胞培養皿(ウェル6個) [Corning #430166]
IV型コラーゲンコートディッシュ [Iwaki#4810-014]
【0078】
(3) 細胞培養検討用血清
Gibco BRL 26140-979
Gibco BRL 16170-078 511116
Gibco BRL 10437-069 1333198
Gibco BRL 26140-061 1287369
JRH 12303-500M 4L0299
JRH 12303-500M 6D0973
JRH 12303-500M 6D0974
JRH 12303-500M 4G0758
Equitech-Bio SFBM30 1489
Equitech-Bio SFBM30 1847
Equitech-Bio SFBM30 1850
CosmoBio SH30397 KQM25242
SIGMA CR1211 066K3395
WAKO SH30396.03 KPJ21975
Biological Industries 04-001-1E 115203
Biological Industries 04-001-1E 115171
Biological Industries 04-001-1E 115388
ジャパンバイオシーラム Chile JBS-5094
ジャパンバイオシーラム Mexico JBS-5145
Bio west S1500 S05495
CCT CC3008-502-S 05090310
【0079】
(4) サイトカイン&ホルモン
内皮細胞増殖因子(endothelial cell growth factor; EGF) [Peprotech #315-09]
肝細胞増殖因子(HGF) [Peprotech #100-39 ]
グルカゴン様ペプチド1(glucagon like protein-1; GLP-1) [Sigma #G3265]
デキサメタゾン(Dex) [Sigma #D1756]
インスリン [Sigma#I9278]
【0080】
(5) 抗体
ビオチン化抗Dlkラットポリクローナル抗体 [自家製]
抗PCLP-1ラットポリクローナル抗体 [MBL #D072-3]
抗PCLP1 PE [MBL #D072-5]
抗FcRラットポリクローナル抗体 [自家製]
抗インスリンモルモットポリクローナル抗体 [Dako #A-0564]
抗グルカゴンウサギポリクローナル抗体 [Dako #A-0565]
抗ソマトスタチンウサギポリクローナル抗体 [Dako #A056601]
抗アミラーゼウサギポリクローナル抗体 [Sigma #A-8273]
抗C-ペプチドヤギポリクローナル抗体 [Linco #4023-01]
抗CK19ウサギポリクローナル抗体 [自家製]
抗モルモットIgG [Inter-Cell #F103-1]
抗ウサギIgG [Vector #I-1000]
抗ヤギIgG [Vector #I-5000]
ビオチン化抗モルモットIgG [Vector #BA-7000]
ストレプトアビジンAlexa 594 [Molecular Probes #S-11227]
抗ウサギIgG Alexa 488 [Molecular Probes #A21206]
抗ラットIgG Alexa 555 [Molecular Probes #A21434]
ストレプトアビジン結合APC [BD #554067]
7AAD [BD #51-68981E]
【0081】
(6) プライマー
Pdx1 センス鎖:5’-TTACAAGCTCGCTGGGATCA-3’ (配列番号:1)
アンチセンス鎖:5’-GTCCCGCTACTACGTTTCTT-3’ (配列番号:2)
PTF1a-p48 センス鎖:5’-AGGAAAGGGAGTGCCCTGCAAG-3’ (配列番号:3)
アンチセンス鎖:5’-GGCCCAGAAGGTCATCATCTGC-3’ (配列番号:4)
ニューロゲニン3 センス鎖:5’-AGTGCTCAGTTCCAATTCCAC-3’ (配列番号:5)
アンチセンス鎖:5’-AAGAAGTCTGAGAACACCAGT-3’ (配列番号:6)
HNF1β センス鎖:5’-GAAAGCAACGGGAGATCCTC-3’ (配列番号:7)
アンチセンス鎖:5’-CCTCCACTAAGGCCTCCCTC-3’ (配列番号:8)
HNF6 センス鎖:5’-CAGCACCTCACGCCCACCTC-3’ (配列番号:9)
アンチセンス鎖:5’-CAGCCACTTCCACATCCTCCG-3’ (配列番号:10)
ネスチン センス鎖:5’-CGACAGGCCACTGAAAAGTT-3’ (配列番号:11)
アンチセンス鎖:5’-GACCCTGCTTCTCCTGCTC-3’ (配列番号:12)
インスリン1 センス鎖:5’-CAGAGACCATCAGCAAGCAG-3’ (配列番号:13)
アンチセンス鎖:5’-CACTTGTGGGTCCTCCACTT-3’ (配列番号:14)
グルカゴン センス鎖:5’-CGACTACAGCAAATACCTCG-3’ (配列番号:15)
アンチセンス鎖:5’-CAGCCAGTTGATGAAGTCC-3’ (配列番号:16)
アミラーゼ センス鎖:5’-CATGACAATCAGCGAGGACA-3’ (配列番号:17)
アンチセンス鎖:5’-CATAAATCCAACAGCCATTTTG-3’ (配列番号:18)
CK7 センス鎖:5’-GGAGATGGCCAACCACAG-3’ (配列番号:19)
アンチセンス鎖:5’-GGCCTGGAGTGTCTCAAACTT-3’ (配列番号:20)
GAPDH センス鎖:5’-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3’ (配列番号:21)
アンチセンス鎖:5’-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3’ (配列番号:22)
その他の一般的な試薬は主に和光の特級試薬を使用した。
【0082】
2.方法
(1) 胎児膵臓細胞の単離
胎生16.5日(E16.5)の胎児膵臓を、周辺組織が混入しないように注意深く分離した。分離した膵臓を氷冷したPBS内に入れ、4℃ 1200 rpmで3分間遠心して上清を捨てた。あらかじめ溶かして濾過し、37℃に暖めておいた2 mg/mlコラゲナーゼV / PBSを加え、37℃で10分間インキュベートした。この間、3分ごとにピペッティングして細胞を分散させた。ここで得られた細胞分散液を70 umのセルストレイナーに通して、未消化な部位や凝集塊などを除去し、DMEM/F12+10% FCSを倍量加えてコラゲナーゼの酵素活性を停止させた。その後上記同様に遠心分離し、ペレットを膵島形成培養用培地(DMEM/F12 ham+5% FCS+ゲンタマイシン+ニコチンアミド+2Me+HEPES)で再び分散させ、細胞数をカウントして以下の実験に用いた。
【0083】
(2) セルソーターを用いたDlk陽性PCLP-1陽性細胞の分離
上記方法によって得られた細胞は、10% FBS,1xITS,10 mMニコチンアミド,20ng/mlインスリン,5 mM L-グルタミンを含んだDMEM/F12培地(膵細胞用培地)に懸濁し、1/50倍量の抗-FcR 抗体を加えて4℃で15分後、1/50倍量のビオチン化抗Dlk抗体を加えて4℃で30分処理した。10倍量の氷冷したPBSで洗浄後、原液のPE抗PCLP1抗体を加えて懸濁し、1/50倍量のストレプトアビジン結合APCを加えて4℃で30分処理した。次に1/50倍量の7AADを加えて懸濁し4℃で15分処理した。10倍量の氷冷したPBSで洗浄後、PBSに懸濁してFACS Vantageにて、死細胞を取り除いた上でDlkとPCLP1の発現を指標に分画した。実験ごとに分画後にFACSにてDlkやPCLP1による分離精度を再解析した結果、他の画分の細胞の混入はほとんど認められなかった。
【0084】
(3) コロニー形成能
セルソーターによって分離した細胞を鈴木らによって開発された膵臓細胞培養用培地を改良した培地 (DMEM/F12+10%FCS+2-Me+ニコチンアミド+HEPES+ゲンタマイシン+デキサメタゾン+ITS-x+EGF+HGF)に懸濁し、100細胞/cm2の細胞密度でゼラチンコートディッシュに播種した。培養5日後に形成したコロニーを位相差顕微鏡において観察し、コロニー数を数えた。さらに、形成したコロニーの大きさをコロニー内の細胞数を指標に分類し、コロニー内に50個以下、51個から100個、101個以上の細胞数が認められたコロニーをそれぞれ小、中、大とした。それぞれのコロニー数を数え、数値化してグラフにした。
【0085】
(4) 膵島形成培養法
上記細胞調製法で得られた細胞を膵島形成培養用培地に懸濁し、培地量を200μl/cm2にて5x104細胞/cm2で播種した。24時間後に20 ng/ml EGF,10 ng/mlインスリン, 10nM,10 ng/ml GLP-1を添加した培地に交換し、以降48時間ごとに培地を交換する。培養5日目あたりでコンフルエントになり、培養10日目あたりでは培養の立体化が見られる。これらを任意のタイミングで回収し、以下の実験に使った。
【0086】
(5) 糖尿病モデルマウスの作成
8週齢のC57BL/6野性型マウスにストレプトゾトシン(STZ)を腹腔に150 mg/kg(体重)で投与し、1週間おきに血糖を計測した。血糖値が400から500 mg/dL程度まで上昇したマウスを糖尿病モデルマウスとした。また、野性型のマウスの血糖値が237.7±5.6mg/dLであるため、300 mg/dLに満たない野性型とほぼ同等の血糖値を示すマウスは血糖の高くないマウスとして使用した。
【0087】
(6) 腎被膜下への移植
胎児膵臓細胞もしくは培養12日目の細胞をコラゲナーゼ処理によって回収し、DMEM/F12+10% FCSを倍量加えて酵素活性を阻害後、遠心分離したペレットをPBSに懸濁して5x105細胞相当を28Gの注射針で糖尿病モデルマウスの腎被膜下に移植した。
【0088】
(7) 血糖測定
マウスの尾静脈にメスで切れ目を入れ、出血した静脈血をヘマトクリット管で回収した後、直ちに簡易血糖測定機(ACCU-Chek Compact)にて血糖を測定した。
【0089】
(8) プレート上での免疫染色
培養をPBSで洗浄し、氷冷した新鮮な4% PFA/PBSで3時間固定した。その後PBSで2回洗浄し、0.02% Triton/PBSで室温30分間処理し、さらにPBSで洗浄した後に15μl/mlヤギ血清、ロバ血清を必要に応じて使い、ブロッキングした。ブロッキングしたサンプルは1次抗体と4℃で一晩反応させた。翌日サンプルをPBSで30分3回洗浄し、2次抗体と4℃で一晩反応させた。再びPBSで30分3回洗浄し、3次抗体と4℃で一晩反応させた。さらにPBSで30分3回洗浄後、DAPIで10分核を染色してPBSで30分3回洗浄し、純水で洗浄後、封入剤(Gel/Mount)を一面に滴下することによって封入した。封入剤を4℃で一晩乾燥後、ニコン製倒立顕微鏡にて観察した。
【0090】
(9) 凍結切片の免疫染色
培養はコラゲナーゼ処理によってシート状に剥がして回収し、氷冷した新鮮な4% PFA/PBSで4℃一晩固定した。胎児膵臓や移植塊は摘出後すぐに氷冷した新鮮な4% PFA/PBSで4℃一晩固定した。その後10%スクロース/PBS、 20% スクロース/PBS、30% スクロース/PBSで順番に置換し、OCT Compoundで包埋して-80℃で保存した。包埋したブロックはミクロトーム (Cryostat) で凍結切片にし、スライドグラスに貼付けた後、風乾して免疫染色を行った。風乾した凍結切片はPBSで5分洗浄後0.02% Triton/PBS処理し、再びPBSで洗浄後15μl/mlヤギ血清、ロバ血清を必要に応じて用いてブロッキングした。ブロッキングしたサンプルは1次抗体と4℃一晩反応させ、PBSで10分3回洗浄後、2次抗体と室温90分反応させた。さらにPBSで10分3回洗浄した後、3次抗体と室温90分反応させ、再びPBSで10分3回洗浄後にDAPIで5分核を染色し、さらにPBSで10分3回洗浄後に純水で洗浄後に封入剤を滴下してカバーグラスによってマウントし、Zeiss製正立顕微鏡で観察した。
【0091】
(10) 顕微鏡観察
蛍光による免疫染色は、プレート上の染色はニコン製倒立顕微鏡で、凍結切片の染色はZeiss製正立顕微鏡で観察した。どちらもMATSUNAMI製デジタルカメラで1色ずつ蛍光強度を撮影し、画像処理ソフト (Aqua cosmos) によって疑似カラーで色をつけた。
【0092】
3.結果
(1) 胎児膵臓前駆細胞の同定と性状解析
細胞表面抗原による細胞の分類は、幹/前駆細胞研究の最も進んでいる血球系の研究で確立された。この手法が実質臓器の一つである肝臓に応用できることが明らかにされ(非特許文献28)、本願発明では膵臓においても同様の手法が応用できると考えた。肝臓での結果を踏まえて、主に肝臓の前駆細胞に発現する分子に注目して、膵臓での細胞表面抗原の発現をデータベース検索した。その結果、胎児肝臓において前駆細胞に発現しているDlkとPCLP1が膵臓においても有意に発現していることが明らかとなった。そこでこれらの分子が肝臓と同様に未分化な膵臓細胞に発現していると仮定して以下の実験を行った。
【0093】
まず、膵臓発生におけるPCLP1およびDlkの発現をフローサイトメーター(FCM)によって解析した(図1a)。その結果、胎児期の膵臓にはPCLP1とDlkが発現していた。PCLP1の発現は出生後に減少し、Dlkの発現は胎児期から成体まで認められた。これらの細胞をPCLP1+Dlk+, PCLP1+Dlk-, PCLP1-Dlk+, PCLP1-Dlk-の4画分に分け、それぞれの画分の割合を数値化した(図1b)。次にそれぞれの胎齢の膵臓から回収できる細胞数(図1c)を元に、上記4画分に含まれる細胞を1個体あたりの細胞数に換算した(図1d)。この細胞調製法によると、1個体あたりの膵臓の全細胞数はE14.5で2.6x105、E16.5で6.9x105、E18.5で1.1x106であり、E14.5からE18.5にかけて、膵臓の細胞数が2日で約2倍のペースで増殖していた(図1c))。この結果とFCMで得られた各画分の割合から、1個体に含まれる各画分の細胞数を算定した(図1d))。PCLP1+Dlk+細胞はE14.5からE16.5にかけて増加したが、E16.5からE18.5にかけてはほとんど増加しなかった。PCLP1+Dlk-細胞は希少な画分で、E14.5からE18.5にかけてコンスタントに増加していた。PCLP1-Dlk+細胞はE14.5からE16.5にかけて約2.5倍に増加したが、E16.5からE18.5にかけてはほとんど変化しなかった。PCLP1-Dlk-細胞はE14.5からE16.5ではわずか増加したのみであるが、E16.5からE18.5では約5倍に増加した。
【0094】
次に、PCLP1やDlkを発現する細胞の膵臓発生過程における局在を調べるために、免疫染色を行った(図2〜4)。胎児膵臓の連続切片を作成して隣接する切片を膵臓に発現する蛋白の抗体で染色することによってPCLP1やDlkを発現する細胞の局在を検討した。E14.5ではPCLP1+Dlk+細胞(図2矢印)やPCLP1+Dlk-細胞(図2中抜き矢印)、PCLP1-Dlk+細胞(図2矢頭)は胎児膵臓内にランダムに散在し、アミラーゼ、インスリン、グルカゴン等を発現する細胞にはPCLP1やDlkの発現は認められなかった。PCLP1-Dlk-細胞はPCLP1+Dlk+細胞やPCLP1+Dlk-細胞から離れた部位に集合し、分化した細胞はこの画分に含まれていた(図2)。以上より、E14.5においては様々な細胞がランダムに散在するが、分化した細胞と分化していない細胞の存在する領域は独立して存在し、PCLP1やDlkの発現は未分化な細胞が存在する部分に存在することが明らかになった。
【0095】
E16.5では、PCLP1+Dlk+細胞はダクト様構造部位(図3矢印)とその周辺部に散在し、PCLP1+Dlk-細胞は大小のダクト (図3中抜き矢印)に、PCLP1-Dlk+細胞はダクト周辺のPCLP1+Dlk+細胞の外側(図3矢頭で囲んだ部分)に、PCLP1-Dlk-細胞はこれらと別の領域でアミラーゼやインスリンを産生するすでに分化している細胞であった(図3中抜き矢印)。こうした免疫染色の結果から、E14.5では分化した細胞と分化していない細胞がある程度ランダムに散在していたが、E16.5では未分化な細胞はダクトとその周辺に存在し、分化した細胞はこれらとは異なる領域に存在することが明らかになった。以下(2)において後述するが、この時期には、腺房、膵島、膵管や血管を形成する細胞がそれぞれに特有の構造を形成し始める時期であり(図3-10)、大規模な細胞の移動が起きていることが考えられる。
【0096】
E18.5では、PCLP1+Dlk+細胞は大小のダクト様構造の周辺部位に存在し(図4矢印)、PCLP1+Dlk-細胞はダクト(図4中抜き矢印)に、PCLP1-Dlk+細胞はPCLP1+Dlk+細胞の周辺に(図4矢頭)存在した。一方、PCLP1-Dlk-細胞は、これらとは別の領域に存在しており、アミラーゼやインスリンを産生していた。このように、腺房、膵島、膵管、血管の3次元構造がすでに出来上がっているE18.5においては、E16.5で認められた分化した細胞の存在する領域と未分化な細胞の存在する領域がさらに明確に隔てられるようになったと考えられる。
【0097】
以上をまとめると、アミラーゼ、グルカゴン、インスリンを発現する細胞はE14.5ですでに存在するが、ランダムに散在しているのと同様に、PCLP1やDlkを発現する細胞は分化した細胞とは異なる箇所でランダムに存在している。E16.5からE18.5までは、膵島、腺房、血管や導管が形成される時期であるが、これらは膵臓内の特定部位に存在し、それらはPCLP1やDlkを発現しない。PCLP1やDlkを発現する細胞はこれらの構造を形成する細胞とは明確に異なる部位に存在している。さらに発生が進み出生後になると、このような分化した細胞が存在しない領域がなくなり、PCLP1やDlkを発現する細胞はダクト周辺もしくは実質と実質の間の狭い箇所に散在するようになった。以上のデータを総合すると、E16.5以前のPCLP1+Dlk+細胞が膵臓幹/前駆細胞である可能性が示唆された。
【0098】
E16.5以前のPCLP1+Dlk+画分に膵臓の幹/前駆細胞が含まれていることを確かめるために、膵臓細胞の分化段階特異的と考えられている遺伝子(図5a)の発現を定量PCRで検討した(図5b〜d)。その結果、腺房の前駆細胞に発現しているPTF1a-p48はE14.5のPCLP1-Dlk+細胞、E16.5のPCLP1-Dlk+細胞、PCLP1-Dlk-細胞にも発現しており(図5c)、膵島の前駆細胞に発現しているNgn3はE14.5のPCLP1-Dlk-細胞に発現していた(図5b)。PTF1a-p48やNgn3は腺房や膵島を形成しているE18.5では発現していないことから、これらを発現する細胞は、未熟であり3次元の膵島構造を形成していないが、すでに腺房や膵島といった実質細胞に運命決定された細胞であることが示唆された。一方、E14.5からE16.5のPCLP1+Dlk+細胞やPCLP1+Dlk-細胞はPTF1a-p48やNgn3を発現していないため、ダクトに運命決定したか、もしくはこの時点でまだ運命決定していない細胞であることが示唆された。免疫染色の結果から、PCLP1+Dlk+細胞やPCLP1+Dlk-細胞はダクトとその周辺に存在しており、アミラーゼやグルカゴン、インスリンを発現する細胞には発現していなかった。また、ダクトとその周辺に存在する膵臓の幹細胞に発現するといわれているネスチン(Zulewski H et al. (2001) Diabetes 50, 521-533)がE14.5のPCLP1+Dlk+,PCLP1+Dlk-細胞やE16.5のPCLP1+Dlk+,PCLP1+Dlk-,PCLP1-Dlk+細胞に発現している(図5d)ことから、今まで膵臓の幹細胞を含むと考えられてきたネスチン陽性細胞は単一の細胞集団ではなく、表面抗原の発現から3つの画分に分けられた。先の免疫染色の結果(図2〜4)から、PCLP1+Dlk+細胞はダクトとその周辺に存在し、PCLP1+Dlk-細胞はダクトのみに存在することから、PCLP1+Dlk-細胞はダクトに運命決定した細胞であり、PCLP1+Dlk+細胞が胎児膵臓の幹/前駆細胞であると考えられる。
【0099】
以上の結果から、E16.5までのPCLP1+Dlk+細胞に胎児膵臓の幹/前駆細胞が含まれており、これまでに想定されていた膵臓幹/前駆細胞を表面抗原であるPCLP1とDlkの発現によってさらに分画し、PCLP1+Dlk+細胞として濃縮することができた。
免疫染色や遺伝子発現の結果より、E16.5以前のPCLP1+Dlk+細胞に膵臓幹/前駆細胞が含まれていることが示唆された。そこで、増殖能を指標に幹/前駆細胞活性を調べるために、E16.5のPCLP1+Dlk+細胞とPCLP1+Dlk+以外の細胞(以下その他の細胞)とのコロニー形成能を比較した(図6)。E16.5胎児膵臓を酵素処理によって単一細胞に分散し、セルソーターを用いてPCLP1+Dlk+細胞とその他の細胞に分画してゼラチンコートディッシュに低密度(100細胞/cm2)で播種し5日間培養した。その結果、E16.5の膵臓において1x103個の細胞あたり、未分画細胞で43.5±3.8個、PCLP-1+Dlk+細胞で74.3±8.3個、その他の細胞で37.9±2.45個のコロニーができた(図6a)。すなわち、PCLP1+Dlk+細胞のコロニー形成能が約2倍高いことが示された。さらに、このコロニーを大(コロニー内の細胞数101個以上)、中(コロニー内の細胞数50個から100個)、小(コロニー内の細胞数50個未満)の3つに分け、上記コロニーの内訳を調べた(図6b)。その結果、PCLP1+Dlk+細胞は大きなコロニーを多数形成したが、その他の細胞は小さいコロニーしか形成しないことから、E16.5膵臓細胞では、増殖能が高い細胞はPCLP1+Dlk+細胞に含まれることが明らかとなった。
以上より、E16.5以前のPCLP1+Dlk+細胞は増殖性の高い膵臓前駆細胞を含むが、E18.5以降ではこれらの細胞が分化していると考えられる。その他の細胞は遺伝子発現と組織学的解析から、それぞれ膵管、外分泌部、内分泌部にすでに運命決定した細胞を含むと考えられる。
【0100】
(2) 新規膵臓細胞培養法の開発
上記のようにE16.5以前のPCLP1+Dlk+細胞が膵臓前駆細胞を含むと考えられたことから、これらを詳細に解析するために新規胎児膵臓培養系の作成に取り組んだ。
まず膵島形成が行われる時期を特定するために、胎児膵臓の凍結切片を作成し、アミラーゼ、インスリン、グルカゴンの免疫染色を行った(図7)。その結果、E14.5ではアミラーゼ、インスリン、グルカゴンを産生する細胞が存在するが、胎児膵臓内に散在していた。E16.5では腺房が形成され始めており、グルカゴンやインスリンを産生する細胞が成体において存在すべき部位の周辺に集まっていたが膵島は形成していなかった。これらの細胞はE18.5において膵島の構造を形成し始めており、出生後には成体と同様の3次元構造をとっていた。以上の結果により、E16.5以前の膵臓には腺房や膵島の3次元構造を構築する能力をもつ前駆細胞が存在している可能性が示唆された。
【0101】
膵島を形成する直前であるE16.5胎児膵臓細胞の膵島への分化能力を検討するために、E16.5胎児膵臓細胞を培養して外分泌部と膵島、膵管を形成させられる培養系を作成した。本培養系ではDMEM/F12に10% FCS, 2Me,ニコチンアミド, HEPES,ITS-x,インスリン,L-グルタミン,ゲンタマイシンを添加した培地を用いて細胞を播種して、細胞播種24時間後にEGF, HGFを加えた培地に交換し、以後48時間ごとに培地を交換した。E16.5胎児膵臓を酵素処理によって単一細胞へ分散してゼラチンコートディッシュに播種すると、単層の付着細胞層ができた。その後、5日目前後で球状の細胞塊が単層の付着細胞の上に形成され、球状の細胞塊は12日目までにさらに大きくなった。この細胞塊は以下に詳述するようにインスリンやグルカゴンを発現しており、機能的な膵島と考えられる。さらにこの培養において形成される膵島様構造物の数を1個体あたりに換算すると、約120個であった (図8a)。これは生体で形成される膵島の数にほぼ匹敵する。以上より、この胎児膵臓培養法は膵島の三次元構造を再現すると考えられる。しかし、同様の培養により、E18.5の膵臓細胞では膵島様構造物が形成されなかった(図8a)。すなわち、この培養法では、E16.5の膵島を形成する前の膵臓細胞は膵島様構造物を構築するが、E18.5以降の膵島がすでに形成された膵臓の細胞では膵島様構造物を形成しない (図8a)。したがって、本培養系は発生過程を忠実に反映しており、発生の分化過程を逆行するものではないことが示唆された。
【0102】
上記の培養法により形成された膵島様構造物の機能を評価するために、培養細胞を回収し、成体膵臓の腺房や膵島で特異的に発現する遺伝子の発現を検討した(図8b)。その結果、培養前に比べ、培養後は成体膵島で特異的に発現するPdx-1やインスリンの発現が上昇し、腺房で特異的に発現するアミラーゼの発現が減少していた。このように本培養法は、未分化なE16.5胎児膵臓細胞を膵島細胞へと分化誘導していると考えられる。さらに、アミラーゼ、インスリン、グルカゴンの免疫染色により (図9)、培養細胞の大部分を占める単層の付着細胞の一部はアミラーゼを産生し、球状の細胞塊は中心部にインスリン、周辺部にグルカゴン産生細胞が存在することが明らかになった。この構造は成体マウス膵臓における膵島の構造に一致している。また、遺伝子発現のデータは、これらの細胞が培地に含まれるインスリンなどを吸着しているのではなく、それぞれの遺伝子を自ら発現していることを示している。
以上の結果より、本培養系は成体膵臓の三次元細胞構築を再現するものと考えられる。
【0103】
(3) 胎児膵臓前駆細胞の機能解析
上述の通りE16.5胎児膵臓細胞を成体膵臓の三次元細胞構築を再現する培養系を作成した。この培養法により、上記で前駆細胞を含むと考えられたE16.5胎児膵臓PCLP1+Dlk+細胞の分化能を、三次元細胞構築を指標として評価した。その結果、膵島様構造を形成するのはPCLP1+Dlk+細胞のみであり、その他の細胞は膵島様構造を作らず、線維芽細胞様の一層の平面構造のみを形成した。膵島様構造を作る頻度を数値化すると(図10)、膵臓全体の培養では1x105細胞あたり19.0±1.7個の膵島が形成されるのに対し、PCLP1+Dlk+細胞の場合は1x105細胞あたり41.3±4.0個形成し、その他の細胞は膵島様構造を全く作らなかった。これらの結果は、膵島を形成する細胞はPCLP1+Dlk+の画分のみに含まれていることを示すものである。さらに、膵島様構造の大きさを比較すると、未分画細胞の培養では直径が125〜150μm、PCLP1+Dlk+細胞の培養では直径が75〜100μmと大きさに差があった。この結果から、PCLP1+Dlk+細胞が膵島を形成し、その他の細胞は膵島の増殖・成熟に何らかの影響を与えていることが示唆された。
【0104】
PCLP1+Dlk+細胞から形成された3次元細胞塊の構造を解析するために、アミラーゼ、インスリンの免疫染色を行った(図10b)。その結果、PCLP1+Dlk+細胞の培養では単層の付着細胞がアミラーゼを、膵島様構造の中心部がインスリンを産生していた。一方、その他の細胞の培養ではアミラーゼやインスリンの産生がほとんど見られなかった。これらの結果より、腺房と膵島を構成する細胞はPCLP1+Dlk+細胞からのみ出現し、その他の細胞からは出現しないことがわかった。さらに、その他の細胞を長期間(1ヶ月以上)培養すると管状構造が出現するが、PCLP1+Dlk+細胞からは管状構造ができなかった。したがって、その他の細胞には膵管などの管状構造を形成する前駆細胞が含まれることが示唆された。さらに、免疫染色と遺伝子発現の結果からPCLP1+Dlk-細胞が膵管などの管状構造を形成する前駆細胞を含むことが示唆された。
【0105】
以上のin vitroの実験結果より、PCLP1+Dlk+細胞は膵臓実質である腺房と膵島(外分泌と内分泌)の幹/前駆細胞であることが示された。さらに、その他の細胞はすでにある程度分化しており、遺伝子発現の結果では腺房や膵島、膵管の前駆細胞であることが示唆されるが、in vitroの実験では膵管と間充織細胞に分化することが示唆された。
【0106】
(4) 糖尿病モデルマウスへの移植によるPCLP1+Dlk+細胞のin vivo機能解析
E16.5胎児膵臓PCLP1+Dlk+細胞の生体内における分化能を解析するために、これらの細胞を糖尿病モデルマウスへ移植することにした。膵島の生体内での機能を調べるためには、糖尿病モデルマウスを作成してその腎被膜下に膵島を移植し、高血糖を改善することを確認するのが最善の策である。そこで、糖尿病モデルマウスを作成するためにストレプトゾトシン(ストレプトゾシン;STZ)を野性型マウスに投与した。その結果、STZは100mg/kg体重以下では効果がないが、それ以上では投与量依存的に高血糖になる割合が増加することがわかった(図11)。しかし個体差が大きく、例えば、150mg/kg体重投与した場合でも効果がないマウスと死亡するマウスが存在した。さらに、季節によってSTZに対する応答性が変動するなど、糖尿病モデルマウスの作成は容易でない。そこで、多数のマウスにSTZを投与し、血糖値が400から500mg/dLになったマウスを高血糖マウス、血糖値が300mg/dL以下のマウスを正常血糖マウスとして以下の実験に供することとした。
【0107】
セルソーターにより分離した胎児膵臓細胞をSTZ投与によって作成された糖尿病モデルマウスの腎皮膜下に移植することにより、血糖改善効果を調べた(図12)。その結果、未分画膵臓細胞とPCLP1+Dlk+細胞は高血糖マウスに対する血糖降下能を示したが、その他の細胞にはそうした機能は認められなかった。一方、PCLP1+Dlk+細胞を正常血糖マウスに移植しても、低血糖を起こさなかったことから、インスリン産生は血糖によって調節されていることが示された。すなわち、PCLP1+Dlk+細胞は生体内において機能的な膵島細胞に分化したものと考えられる。しかしながら、細胞移植による血糖降下作用は1週間程度しか維持されず、移植後2週経過すると元の血糖に戻ってしまった。このことから、一過性ではあるが高血糖を改善したことがわかる。これは胎児由来PCLP1+Dlk+細胞がin vivoで膵島の細胞に分化したものの、生体の環境下で膵島の3次元構造を形成しなかったために膵島としての機能を長期に維持できなかったことが原因であると考えられる。実際にエドモントンプロトコールにおいても、膵島構造を形成していないβ細胞を移植しても血糖降下能が長期に維持しないことがわかっている。
以上PCLP1+Dlk+細胞はin vivoで正常に機能する膵島細胞に分化することが示された。
【0108】
(5) 膵臓細胞培養法の改善
上記培養系は特定のロットの血清を必要とした。ロットを変更すると培地がたちまち黄色くなり、膵島形成とほぼ同時に細胞がディッシュからシート状に剥がれた。そこで、可能な限り多数の血清サンプルを集めて、胎児膵臓細胞を培養したが、集めた24種のいずれにおいても細胞が剥離した。この結果により、上記で用いた血清が特殊であり、血清を変更するだけでは以前と同様の培養系を構築するのは困難であると判断した。血清に含まれる何らかの成分が過剰もしくは不足することによって直接的もしくは間接的に細胞が影響を受けていると考えられる。培養の対象が膵臓であることを考慮し、膵臓が分泌する消化酵素に着目した。すでに胎児膵臓細胞が腺房の外分泌細胞に分化することがわかっていたので、これらが放出する消化酵素によって自己消化が起きている可能性を考え、プロテアーゼ阻害剤のカクテルを培地に添加したところ、有意に細胞剥離が抑制された。そこで、トリプシン阻害剤を添加してみたが、培養は以前と同様に剥離したことから、外分泌細胞に分化した細胞が分泌したトリプシン以外のプロテアーゼによって、自己消化されることによって細胞が剥離した可能性が考えられた。プロテアーゼ活性は血清の添加である程度阻害することができるため血清の濃度を上げたところ、予想に反して血清濃度を上げる(15%, 20%)とさらに細胞剥離が亢進し、逆に血清濃度を下げる(5%)と細胞剥離が抑えられた。この結果から、以前に使用していた血清には胎児膵臓細胞を外分泌細胞へと分化誘導するもしくは外分泌細胞に対してトリプシン以外のプロテアーゼを分泌刺激する何らかの因子が少なかった可能性が考えられる。
【0109】
ここで得られた培養系が血清のロット依存性を持つか調べ、さらに培養系の改良を図るために、細胞剥離と膵島形成頻度を指標に培養系の改善を行った。まず培養系における血清濃度を5%に変更し、集めた血清サンプルを用いて胎児膵臓細胞を培養した。その結果、一部の血清を除いて細胞の剥離は抑えられており、膵島形成頻度は血清によって異なることがわかった(図13a)。比較的膵島形成効率の良い血清の中で、本発明者らが大量にストックしている血清(図13a, Ser20)を採用して以下の実験を行った。次に血清を5%に固定し、再び培地に添加する成分を検討したところ、細胞剥離が無く効率の良い条件が3つに絞られた(図13b,Med-4, 7, 8)。これらをさらに詳細に調べると、Med-4と7はディッシュの端で若干剥離が認められたため、最適条件はMed-8(DMEM/F12+5%FCS+2Me+ニコチンアミド+HEPES+ゲンタマイシン+インスリン+EGF+GLP-1)であると結論付けた。
本培養系は前回の培養系と異なり、線維芽細胞様細胞が立体化してディッシュを全体的に覆っており、その中に膵島様構造物が存在していた(図14)。
【0110】
(6) 改善した培養系の性状解析
上記の培養条件で得られた細胞の性状を解析するために、E14.5, E16.5, E18.5胎児膵臓細胞を培養して、形成した膵島の数を数えた。その結果、生体において膵島が形成する以前であるE14.5とE16.5の膵臓細胞からは膵島が形成したものの、生体においてすでに膵島が形成されたE18.5の膵臓細胞からは膵島が形成されなかった(図15a)。このことから、以前の培養法と同様に正常な発生過程を再現した培養系であると考えられる。E16.5の培養で比較すると(図15b)本培養系は以前の方法にくらべ5倍以上の膵島形成率を得たことになり、これは生体の膵島数より高頻度である。このことから、E16.5の膵臓細胞を膵島へと分化させるためはこの改良した培養系がより適していると考えられる。一方、E14.5の膵臓細胞を培養してもE16.5の膵臓細胞を培養したときよりも膵島形成頻度が低くなっていたことから、生体の発生過程において胎児膵臓細胞は膵島形成能をE14.5以前から徐々に獲得しはじめ、E14.5とE16.5の間にその能力がピークに達すると考えられる。
【0111】
次に本培養系による分化を確認するために、膵臓発生の各段階において特異的に発現する遺伝子の発現をRT-PCRで確認した(図15c)。その結果、培養前後でインスリンやリパーゼ、CK7の発現はほとんど変化しなかったが、グルカゴンやアミラーゼの発現は低下していた。一方、内分泌細胞や外分泌細胞の前駆細胞に特異的に発現するNgn3やPTF1a-p48の発現は著しく減少していた。このことから、本培養系では、前駆細胞が分化して消失していると考えられる。また、本培養系は前回の培養系と異なり、線維芽細胞様の細胞が大部分を占めており、膵島数とともに全体の細胞数も増えているため、見かけ上の発現量は増加していないと考えられる。次に本法で得られた3次元細胞塊の構造を調べるために、免疫染色を行った(図16)。本培養系は立体化した線維芽細胞様の細胞の中に3次元の膵島様構造物が形成されるため、前回の培養のようにそのままディッシュ上で観察することが困難であった。しかし、細胞が剥がれやすいことを利用して、ピペッティングによって培養細胞をシート状に剥がし、凍結切片を作成することによって免疫染色と写真撮影が可能になった。そこで培養細胞を12日後にピペッティングによってシート状に回収し、凍結切片を作成して成体膵臓特異的な蛋白質の抗体で免疫染色することによって評価した。その結果、本培養系は前回の培養系と同様に胎児膵臓細胞から膵島の3次元構造を構築するだけでなく、前回の培養系において長期培養で存在が確認されたダクト構造が今回も再現され、それが膵管の3次元構造を構築していることも確認できた。これらのことから、本培養系は胎児膵臓細胞から膵島と膵管の3次元構造を再現する培養系であることが示唆された。
【0112】
(7) 培養によって形成された膵島の生体内での機能解析
上記培養系において3次元構造を構築した膵島が成体の膵島と同等であることを確認するため、生体内での機能を解析した。
STZの投与によって作成した糖尿病モデルマウス及び血糖の高くないマウスのそれぞれに、腎被膜下に培養によって形成した膵島または培養前の細胞を移植した(図17a)。その結果、培養によって形成した膵島を移植すると長期にわたって有意に血糖を低下させたのに対し、培養前の細胞は血糖を低下させる効果はほとんどなく、一時的であった。さらに、培養によって形成した膵島は、正常範囲の血糖値を示すマウスの血糖を下げすぎないことから、生体の血糖濃度に反応してインスリンを放出する生理的な働きを正しく行っていると考えられる。移植後12週目に腎臓を回収し、凍結切片を作成して移植部位を免疫染色する(図17b)と、腎被膜下には膵島の3次元構造が多数保持されており、腎被膜下で膵島としての機能を果たしていたと考えられる。以上より、本培養系によって胎児膵臓細胞から形成した膵島は、生体内で正常に機能することが明らかとなった。
【0113】
(8) マウスiPS細胞の分化誘導
コラーゲンtype4コート6wellプレートに1x106のiPS細胞をDMEM+10% KSR+55uM 2-Me+50ng/ml Activinで4日間培養後、DMEM+10% KSR+55uM 2-Me+1uM Retinoic acid で4日間培養した。その後、DMEM/F12+55uM 2-Me+1x ITS-x+2mg/ml BSA+10ng/ml FGF basic で3日間培養し、DMEM/F12+55uM 2-Me+1x ITS-x+2mg/ml BSA+10ng/ml FGF basic+10mM Nicotinamideで5〜7日間培養した(図18は5日間培養したもの)。ここで得られた細胞をコラゲナーゼで剥がして、ゼラチンコートプレートに撒き直した。1wellを1wellに撒いた場合と2wellを1wellに撒いた場合、2wellを1wellに撒いた方が、膵島形成頻度が上昇しているように見えた(データ無し)。以降、我々の開発した膵島形成培養法にて14日間培養した結果である。
ここまでの過程全てにおいて毎日培地交換を行った。免疫染色は、上述の「2.方法 (8)プレート上での免疫染色」において胎児膵臓細胞から形成した膵島をプレート上で染色した方法と同様に行った。iPS細胞の維持はTakahashi K et al. (2007) Nat Protocols 2: 3081-3089に記載の方法と同様に行った。
図18は培養中の同じ部位を撮影した結果を示す。青、緑、赤のシグナルをPC上で合成したのがMerge像である。染色方法は、上述の「2.方法 (8)プレート上での免疫染色」において胎児膵臓細胞から形成した膵島をプレート上で染色した方法と同様に行った。Dapiで核を染色し、赤(Alexa594)でinsulinを染めており、緑で示したGcg/SST/PPというのは、glucagon, somatostatin, pancreatic polypeptideの略である。この三つはラットの抗体なので、まとめて一色(Alexa 488)で見ている。結果の解釈としては、インスリンを産生するβ細胞の周りをグルカゴン、ソマトスタチン、パンクレアティックポリペプチドを産生するα、δ、PP細胞が取り囲んでおり、まさにげっ歯類の膵島構造を構築している。図18は代表的な写真だが、このような構造物は培養中に複数見られ、本培養系によってiPS細胞から膵島を形成することに成功したと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるDlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現を検出することを含む、膵臓前駆細胞の検出方法。
【請求項2】
Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現が検出された細胞を膵臓実質前駆細胞と判断する、請求項1記載の膵臓前駆細胞の検出方法。
【請求項3】
Dlk遺伝子及びPCLP1遺伝子の発現が検出された細胞について、さらにc-kit遺伝子の発現を検出することを含む、請求項1記載の膵臓前駆細胞の検出方法。
【請求項4】
遺伝子発現の検出が、各遺伝子の発現産物を認識する抗体を用いて行われる、請求項1乃至3記載の検出方法。
【請求項5】
次の工程を含む膵島前駆細胞の調製方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離する工程
【請求項6】
次の工程を含む膵管前駆細胞の調製方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体の少なくとも一方が結合しなかった細胞を膵管前駆細胞として分離する工程
【請求項7】
細胞を分離する工程(3)がセルソーターを用いて行われる、請求項5又は6記載の調製方法。
【請求項8】
膵臓前駆細胞を含む細胞試料が胎児膵臓細胞、成体膵臓細胞、胎児腸管上皮細胞、成体腸管上皮細胞、胎児肝臓または再生中の肝臓由来の細胞、成体肝臓細胞、幹細胞、ES細胞及びiPS細胞より選択される、請求項5又は6記載の調製方法。
【請求項9】
工程(2)においてさらに抗KIT抗体を添加し、工程(3)において抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体に加えて、抗KIT抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離することを含む、請求項5記載の調製方法。
【請求項10】
次の工程を含む膵島の培養方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料を膵島を誘導する条件下で培養する工程
【請求項11】
次の工程を含む膵島の培養方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体が結合した細胞を膵島前駆細胞として分離する工程
(4)分離された膵島前駆細胞を、膵島を誘導する条件下で培養する工程
【請求項12】
次の工程を含む膵管の培養方法。
(1)膵臓前駆細胞を含む細胞試料を調製する工程
(2)調製された細胞試料に抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体を添加する工程
(3)抗Dlk抗体及び抗PCLP1抗体の少なくとも一方が結合しなかった細胞を膵管前駆細胞として分離する工程
(4)分離された膵管前駆細胞を、膵管を誘導する条件下で培養する工程
【請求項13】
細胞を分離する工程(3)がセルソーターを用いて行われる、請求項11又は12記載の培養方法。
【請求項14】
膵臓前駆細胞を含む細胞試料が胎児膵臓細胞、成体膵臓細胞、胎児腸管上皮細胞、成体腸管上皮細胞、胎児肝臓または再生中の肝臓由来の細胞、成体肝臓細胞、幹細胞、ES細胞及びiPS細胞より選択される、請求項10乃至12記載の培養方法。
【請求項15】
工程(4)における培養が血清、2Me、ニコチンアミド、HEPES、及びゲンタマイシンを添加したDMEM/F12培地で行われる、請求項10乃至12記載の培養方法。
【請求項16】
培地がさらにインスリン、EGF及びGLP-1を含む、請求項15記載の培養方法。
【請求項17】
工程(4)における培養中、培地交換を行う請求項10乃至12記載の培養方法。
【請求項18】
請求項5の方法により調製された膵島前駆細胞。
【請求項19】
請求項6の方法により調製された膵管前駆細胞。
【請求項20】
請求項10又は11の方法により培養された膵島。
【請求項21】
請求項12の方法により培養された膵管。
【請求項22】
移植に用いられるものである、請求項18乃至21記載の細胞、膵島または膵管。
【請求項23】
請求項18記載の細胞、または請求項20記載の膵島を含む医薬組成物。
【請求項24】
糖尿病治療に使用されるものである、請求項23記載の医薬組成物。
【請求項25】
PCLP1遺伝子及びDlk遺伝子の発現を検出するための試薬を含む、膵臓前駆細胞を検出または調製するためのキット。
【請求項26】
PCLP1遺伝子及びDlk遺伝子の発現を検出するための試薬が、抗PCLP1抗体及び抗Dlk抗体である、請求項25記載のキット。
【請求項27】
さらに、c-kit遺伝子の発現を検出するための試薬を含む、請求項25記載のキット。
【請求項28】
c-kit遺伝子の発現を検出するための試薬が、抗KIT抗体である、請求項27記載のキット。
【請求項29】
遺伝子発現を検出するための試薬に加えて、細胞培養培地を含む請求項25乃至28記載のキット。
【請求項30】
検出または調製される膵臓前駆細胞が膵島前駆細胞または膵管前駆細胞である、請求項25乃至29記載のキット。
【請求項31】
血清、2Me、ニコチンアミド、HEPES、及びゲンタマイシンを含むDMEM/F12培地からなる、膵島又は膵管培養用培地。
【請求項32】
さらにインスリン、EGF及びGLP-1を含む、請求項31記載の培地。
【請求項33】
次の工程を含む、インスリン産生/分泌の調節作用を有する物質のスクリーニング方法。
(1)請求項20の膵島を被験物質存在下で培養する工程
(2)膵島からのインスリン産生/分泌レベルを検出する工程
(3)対照と比較して、インスリン産生/分泌レベルを変化させる被験物質を、インスリン産生/分泌を調節する作用を有する物質として同定する工程

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−229455(P2009−229455A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43351(P2009−43351)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(597149892)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】