説明

自動二輪車における伝動ケースのブリーザ構造

【課題】エンジンとともにパワーユニットを構成する伝動装置が、前記エンジンの出力を変速する変速機ならびに該変速機の出力を減速して後輪に伝達する歯車減速機構から成り、前記変速機を収容する変速機室と、前記歯車減速機構を収容するとともに下部にはオイルが貯留される減速機室とが、エンジン本体に連設されて後輪の側方に延設される伝動ケース内に形成される自動二輪車において、減速機室に通じるブリーザ出口への泥水の浸入を確実に防止する。
【解決手段】減速機室内の上部に通じるようにして伝動ケース71に一端を接続せしめたブリーザチューブ114が、伝動ケース71の上部に沿って前方に延出され、ブリーザチューブ114の他端が上方に向けて開口される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとともにパワーユニットを構成する伝動装置が、前記エンジンの出力を変速する変速機ならびに該変速機の出力を減速して後輪に伝達する歯車減速機構から成り、前記変速機を収容する変速機室と、前記歯車減速機構を収容するとともに下部にはオイルが貯留される減速機室とが、エンジン本体に連設されて後輪の側方に延設される伝動ケース内に形成される自動二輪車に関し、特に、伝動ケース内の減速機室からブリーザガスを導出するためのブリーザ構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
このような自動二輪車のパワーユニットは、たとえば特許文献1で既に知られており、このものでは、減速機室内のオイル温度上昇による室内ガスの熱膨張時にブリーザガスを伝動ケース外に排出するためのブリーザ通路が、伝動ケースに設けられている。
【特許文献1】特許第2742080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが上記特許文献1で開示されたものでは、ブリーザ通路の出口が地面に近い位置で下向きに開口しているので、自動二輪車の走行によって撥ね上げられる泥水の量によっては、ブリーザ通路の出口に泥が付着するのを完全には防止し得ない。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、減速機室に通じるブリーザ出口への泥水の浸入を確実に防止し得るようにした自動二輪車における伝動ケースのブリーザ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、エンジンとともにパワーユニットを構成する伝動装置が、前記エンジンの出力を変速する変速機ならびに該変速機の出力を減速して後輪に伝達する歯車減速機構から成り、前記変速機を収容する変速機室と、前記歯車減速機構を収容するとともに下部にはオイルが貯留される減速機室とが、エンジン本体に連設されて後輪の側方に延設される伝動ケース内に形成される自動二輪車において、前記減速機室内の上部に通じて前記伝動ケースに一端を接続せしめたブリーザチューブが、前記伝動ケースの上部に沿って前方に延出され、ブリーザチューブの他端が上方に向けて開口されることを特徴とする。
【0006】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記パワーユニットの上方にエアクリーナが配置され、前記ブリーザチューブの他端部が、該エアクリーナのクリーナケースに設けられたブリーザ出口カバーで外側方から覆われるようにして該ブリーザ出口カバーに保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、伝動ケースの減速機室内に一端が連なるブリーザチューブの他端が、伝動ケースよりも上方で上向きに開口するので、自動二輪車の走行に伴って撥ね上げられる泥水がブリーザチューブ内に浸入することを確実に防止することができる。しかもブリーザチューブが伝動ケースに沿って前方に延出することにより、ブリーザチューブ内の通路を長くしてオイルの重力分離を促進することができ、ブリーザチューブの他端開口部にオイルが付着、堆積することを防止することができる。
【0008】
また請求項2記載の発明によれば、クリーナケースに設けられるブリーザ出口カバーで縁の他端部を保持するので、ブリーザチューブの他端部を保持するための専用部品が不要であり、部品点数を低減することができるとともに、ブリーザチューブの他端部を外側方から覆うことで外観性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0010】
図1〜図16は本発明の一実施例を示すものであり、図1はスクータ型車両の側面図、図2は図1の要部拡大図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図2の要部拡大図、図5はラジエータカバーを外した状態での図4に対応した側面図、図6は排気浄化装置の斜視図、図7は図4の7矢視図、図8は無段変速機の被動プーリ付近を拡大して示す横断面図、図9はエアクリーナの拡大左側面図、図10は図9の10矢視図、図11は図9の11−11線拡大断面図、図12は図11の12−12線断面図、図13は図4の13−13線断面図、図14はエンジン本体を図5の14−14線に沿って示すとともに水循環経路を示すためにラジエータを直立させて示す断面図、図15は図13の15−15線矢視方向から見たファンカバーの一部切欠き側面図、図16は図15の16矢視図である。
【0011】
なお以下の説明で、前後および左右とはスクータ型車両の走行方向を基準にして言うものである。
【0012】
先ず図1において、自動二輪車であるスクータ型車両の車体フレーム21は、前輪WFを軸支するフロントフォーク24を操向可能に支承するヘッドパイプ25から前下がりに延びてステップフロア26を支持する前部フレーム22と、前部フレーム22の後部から後上がりに延びて乗員用シート27を支持する後部フレーム23とから成る。車体フレーム21には、後輪WRを軸支するとともに該後輪WRを駆動するパワーユニットPが懸架リンク28を介して上下揺動可能に懸架され、後部フレーム23およびパワーユニットP間には、パワーユニットPの上下揺動を緩衝するリヤクッション29が設けられる。
【0013】
図2および図3において、パワーユニットPのエンジンEは、クランクケース31と、前傾姿勢でクランクケース31の前端に結合されるシリンダブロック32と、シリンダブロック32の前端に結合されるシリンダヘッド33とを、エンジン本体30として備える。
【0014】
左右方向に延びる軸線を有するクランクシャフト35はクランクケース31に回転自在に支承され、シリンダブロック32が備えるシリンダボア36に摺動可能に嵌合されるピストン37がコネクティングロッド38およびクランクピン39を介してクランクシャフト35に連接され、シリンダヘッド33には点火プラグ40が取付けられるとともに、デコンプ手段34が付設されたカムシャフト65を備える動弁機構41が配設され、動弁機構41を覆うヘッドカバー42がシリンダヘッド33の前端に結合される。
【0015】
クランクケース31は、シリンダボア36の軸線を含む鉛直面で左右に分割される左側および右側ケース半体31L,31Rが相互に結合されて成るものであり、クランクシャフト35は左側および右側ケース半体31L,31Rを回転自在に貫通し、両ケース半体31L,31Rおよびクランクシャフト35間にはボールベアリング43,44がそれぞれ介装される。
【0016】
図4および図5を併せて参照して、前記パワーユニットPの上方にはエアクリーナ45が配置されており、シリンダヘッド33の上部側面に設けられる吸気ポート46(図14参照)に、前記エアクリーナ45が気化器47および吸気管48を介して接続される。またシリンダヘッド33の下部側面には排気ポート49が設けられており、該排気ポート49に上流端を接続せしめた排気管50が、シリンダヘッド33から下向きに延びてパワーユニットPの前部下方を通って後方に延出され、後輪WRの右側方に配置される排気マフラー51に前記排気管50の下流端が接続される。
【0017】
図6を併せて参照して、前記排気ポート49から排出される排ガスは二次空気を排ガス中に導入せしめる排気浄化装置54により浄化されるものであり、該排気浄化装置54は、前方に向けて開口した吸い込み管55を有して後部フレーム23に支持されるレゾネータ56と、前記吸い込み管55の途中に管路57を介して接続される二次空気用エアクリーナ58と、吸気負圧に応じて空気流量を制御するようにして二次空気用エアクリーナ58に接続される二次空気制御弁59と、該二次空気制御弁59側からの流通だけを許容するようにして二次空気制御弁59に接続されるリード弁60と、リード弁60からの空気を導くようにしてリード弁60に上流端が接続されるゴム製のホース61と、該ホース61に上流端が接続される金属製の接続管62とを有し、前記二次空気制御弁59に吸気負圧を導く負圧取り出し管路63が吸気管48に接続される。
【0018】
図7において、前記接続管62の下流端は、排気ポート49に通じるようにしてシリンダヘッド33に設けられた通路69に通じるようにしてシリンダヘッド33に接続される。しかも接続管62の一部には略U字状に屈曲したU字状部62aが形成されており、このU字状部62aは、側面視で前記シリンダヘッド33の下部側面および排気管50間に配置される。しかも前記U字状部62aは、図7で明示するように、該U字状部62aの一部がシリンダヘッド33の下部側面および排気管50間に位置するように配置されている。
【0019】
再び図3において、クランクケース31における左側ケース半体31Lおよびクランクシャフト35間に介装されるボールベアリング43の外方でクランクシャフト35に駆動スプロケット64が固定されており、前記動弁機構41が備えるカムシャフト65には被動スプロケット66が固定され、駆動スプロケット64および被動スプロケット66には無端状のタイミングチェーン67が巻き掛けられる。而して左側ケース半体31L、シリンダブロック32およびシリンダヘッド33には、前記タイミングチェーン67を走行させるためのチェーン通路68が設けられる。
【0020】
また左側ケース半体31Lには、エンジンEと協働してパワーユニットPを構成する伝動装置Tを収納する伝動ケース71が、後輪WRの左側方に延出されるようにして連設される。
【0021】
この伝動ケース71は、クランクシャフト35の軸線に沿って前記シリンダブロック32の外側面よりも張り出すとともに後方に延びるようにしてクランクケース31のうち左側ケース半体31Lに一体に設けられる内側ケース72と、内側ケース72に左側から結合される外側ケース73と、前記内側ケース72の右側後部に結合される減速歯車ケース74とで構成され、内側ケース72および外側ケース73間にはドライ空間である変速機室75が形成され、内側ケース72および減速歯車ケース74間には変速機室75とは隔絶した減速機室76がその内部にオイルを貯留するようにして形成され、後輪WRの車軸77は、伝動ケース71における内側ケース72の後部および減速歯車ケース74に回転自在に支承される。
【0022】
前記伝動装置Tは、変速機室75に収納されるVベルト式の無段変速機78と、無段変速機78および前記車軸77間に設けられて前記減速機室76に収納される歯車減速機構79とから成るものである。
【0023】
駆動スプロケット64の外方で前記クランクシャフト35は左側ケース半体31Lを液密にかつ回転自在に貫通して変速機室75に突入されるものであり、無段変速機78は、変速機室75内でクランクシャフト35の一端部に装着される駆動プーリ80と、クランクシャフト35と平行な軸線を有して伝動ケース71に回転自在に支承される被動軸81に遠心クラッチ82を介して装着される被動プーリ83と、駆動プーリ80および被動プーリ83に巻掛けられる無端状のVベルト84とを備える。
【0024】
駆動プーリ80は、クランクシャフト35の一端側に固定される固定プーリ半体85と、固定プーリ半体85よりも軸方向内方側でクランクシャフト35に軸方向摺動可能に装着される可動プーリ半体86とで構成され、両プーリ半体85,86間に形成されるV字状の環状溝87にVベルト84が巻き掛けられる。また可動プーリ半体86の背面側でクランクシャフト35にはランププレート88が固着され、可動プーリ半体86およびランププレート88間には複数のウエイトローラ89…が浮動状態で収容される。而してクランクシャフト35の回転数が増大すると、遠心力を受けるウエイトローラ89…がクランクシャフト35の半径方向外方に移動して可動プーリ半体86を固定プーリ半体85に近接させる。それにより両プーリ半体85,86へのVベルト84の接触半径が大きくなる。
【0025】
被動軸81は内側ケース72を液密にかつ回転自在に貫通するものであり、被動軸81の一端部はボールベアリング90を介して外側ケース73に回転自在に支承され、被動軸81の他端部はボールベアリング91を介して減速歯車ケース74に回転自在に支承され、被動軸81の中間部はボールベアリング92を介して内側ケース72に回転自在に支承される。
【0026】
図8において、前記被動軸81の一端部には円筒状のブッシュ93が装着されるものであり、このブッシュ93は、多孔質の焼結合金から成るものであり、オイルが含浸せしめられる。しかもブッシュ93はボールベアリング90の内輪90aに圧入され、ボールベアリング90の外輪90bは外側ケース73に設けられた軸受ハウジング73aに嵌合、固定される。
【0027】
一方、被動プーリ83は、相対回転を可能として被動軸81を同軸に囲繞する内筒96と、軸線まわりの相対回動ならびに軸線方向の相対移動を可能として内筒96を摺動可能に嵌合せしめる外筒97と、内筒96に固定される固定プーリ半体98と、該固定プーリ半体98に対向して外筒97に固定される可動プーリ半体99と、該可動プーリ半体99および固定プーリ半体98間の相対回転位相差に応じて両プーリ半体98,99間に軸方向の分力を作用せしめるようにして内筒96および外筒97間に設けられるトルクカム機構100と、可動プーリ半体99を固定プーリ半体98側に向けて弾発付勢するコイルスプリング101とを備え、固定プーリ半体98および可動プーリ半体99間に形成されるV字状の環状溝102にVベルト84が巻き掛けられる。また内筒96および被動軸81間には、エンジン回転数が設定回転数を超えるのに伴って動力伝達状態となる遠心クラッチ82が設けられる。
【0028】
而して被動プーリ83における固定プーリ半体98および可動プーリ半体99間の間隔は、前記トルクカム機構100によって生じる軸方向の力と、コイルスプリング101によって生じる軸方向の弾性力と、固定プーリ半体98および可動プーリ半体99間の間隔をあける方向に作用するVベルト84からの力とのバランスにより決定され、駆動プーリ80において可動プーリ半体86を固定プーリ半体85に近接させることによりVベルト84の駆動プーリ80への巻き掛け半径が大きくなると、Vベルト84の被動プーリ83への巻き掛け半径が小さくなる。
【0029】
減速機室76に収納される歯車減速機構79は、被動軸81に設けられる第1歯車103と、被動軸81および車軸77と平行にして内側ケース72および減速歯車ケース74に回転自在に支承される中間軸107に設けられて第1歯車103に噛合する第2歯車104と、中間軸107に設けられる第3歯車105と、第3歯車105に噛合して車軸77に設けられる第4歯車106とから成る。
【0030】
伝動ケース71における外側ケース73にはキック軸108が回転自在に支承されており、該キック軸108の外端にキックペダル(図示せず)が設けられる。また前記外側ケース73の内面側で、キック軸108およびクランクシャフト35間には、キックペダルの踏込み操作に応じたキック軸108の動力をクランクシャフト35に伝達可能としたキック式始動装置109が設けられる。
【0031】
駆動プーリ80における固定プーリ半体85の外面には放射状に配置される複数のフィン110…が突設されており、固定プーリ半体85は送風ファンとしても機能する。一方、外側ケース73の前部には接続管部111が設けられており、この接続管部111に接続されるダクト(図示せず)が接続管部111から上方に向けて延出される。而して送風ファンとして機能する固定プーリ半体85の回転に応じて変速機室75内の空気は、前記接続管部111および前記ダクトを介して外部に排出される。
【0032】
ところで伝動ケース71に形成されて歯車減速機構79を収納する減速機室76内の下部には、歯車減速機構79を構成する第1〜第4歯車103〜106の一部を浸して潤滑を果たすべきオイルが貯留されるものであり、オイル温度の上昇に伴う減速機室76内のガスの熱膨張時にブリーザガスを外部に排出すべく、減速機室76内の上部に通じる導出管部113が伝動ケース71における歯車減速ケース74の上部に設けられ、この導出管部113に、ブリーザチューブ114の一端が接続される。すなわちブリーザチューブ114の一端は減速機室76内の上部に通じて歯車減速ケース74に接続される。
【0033】
前記ブリーザチューブ114は、伝動ケース71の上部に沿ってわずかに前上がりに傾斜しつつ車体フレーム21の前方側に延出されるものであり、伝動ケース71の上部には、ブリーザチューブ114の中間部を保持するクランプ部材115が取付けられる。またブリーザチューブ114の他端は、エアクリーナ45に対応する部分で上方に立ち上がり、上方に向けて開口される。
【0034】
図9および図10において、エアクリーナ45のクリーナケース116は、結合面を車体フレーム21の幅方向に沿わせて相互に結合される前部ケース部材117および後部ケース部材118と、前部および後部ケース部材117,118の右側に結合されるカバー部材119とから成り、クリーナケース116内を未浄化室および浄化室に区画するクリーナエレメント120を保持するエレメント支持枠121が前部および後部ケース部材117,118間に挟持される。
【0035】
また前部および後部ケース部材117,118とカバー部材119との間には吸入室122が形成されており、この吸入室122の前端は吸入口122aとして前方に開口する。また吸入室122の後部を未浄化室に連通させるダクト123が後部ケース部材118のカバー部材119側の側壁に取付けられ、浄化室内には、気化器47に接続される接続管124の上流端が突入される。
【0036】
図11および図12を併せて参照して、クリーナケース116におけるカバー部材119には、ブリーザチューブ114の他端部を外側方から覆うようにしてブリーザ出口カバー119aが一体に設けられており、このブリーザ出口カバー119aに、ブリーザチューブ114の他端部が保持される。
【0037】
すなわちブリーザ出口カバー119aの内面には、横断面形状を矩形状として上端を閉じた保持筒部125が上下に延びるようにして一体に設けられ、ブリーザチューブ114の他端部は保持筒部125内に挿入される。しかも保持筒部125の内面には、ブリーザチューブ114の外面の周方向に等間隔をあけた4箇所を弾発接触させる4つの突部126,126…が突設されており、ブリーザチューブ114の他端部を保持筒部125内に挿入することで、ブリーザチューブ114の他端部が弾発的に保持される。また保持筒部125に連設された支持壁部128には、前記保持筒部125に挿入される部分の手前で前記ブリーザチューブ114を挿通、保持する略U字状の保持溝127が設けられており、保持溝127で保持されたブリーザチューブ114の他端部は略L字状に屈曲しつつ保持筒部125に挿入、保持される。
【0038】
図13を併せて参照して、前記クランクケース31のうち右側ケース半体31Rには、クランクシャフト35を無端状に囲繞する支持筒部129が一体に突設され、該支持筒部129の外端には、右側ケース半体31Rとの間に伝動室130を形成する右カバー131が結合され、クランクシャフト35は右カバー131を液密にかつ回転自在に貫通する。
【0039】
右カバー131よりも外方には、右カバー131に固定されるステータ132と、該ステータ132を囲繞するようにしてクランクシャフト35に固定されるアウターロータ133とを備える発電機134が配設されており、該発電機134よりも外方でクランクシャフト35にはファン135が固定される。このファン135は、複数のボルト156…で発電機134のアウターロータ133に締結される基部135aの外周部に複数の羽根135b,135b…が一体に設けられて成るものである。
【0040】
さらに図14を併せて参照して、前記伝動室130内で右側ケース半体31Rにはオイルポンプ112が取付けられるものであり、該オイルポンプ112のポンプハウジング136は、右側ケース半体31Rに当接する端板137と、該端板137を右側ケース半体31Rとの間に挟んで右側ケース半体31Rに締結されるポンプカバー138とで構成されるものであり、ポンプハウジング136内には、インナーロータ139およびアウターロータ140が収納される。またインナーロータ139に相対回転不能に連結されるポンプ軸141がポンプカバー138および右カバー131で回転自在に支承される。
【0041】
前記ポンプ軸141には、被動歯車142がピン143を介して相対回転不能に装着されており、この被動歯車142に噛合する駆動歯車144がクランクシャフト35に圧入等によって固着される。また前記ポンプ軸141には駆動スプロケット145が圧入等によって固着されており、冷却水ポンプ148のポンプ軸149にピン150によって相対回転不能に装着される被動スプロケット146および前記駆動スプロケット145に無端状のチェーン147が巻き掛けられる。
【0042】
前記冷却水ポンプ148のポンプハウジング151は、前記右カバー131に一体に形成されるハウジング主部152にポンプカバー153が締結されて成るものであり、ポンプハウジング151で形成されるポンプ室155内に配置されるインペラー154が、ハウジング主部152で液密にかつ回転自在に支承される前記ポンプ軸141に固定される。
【0043】
ところで、エンジン本体30のシリンダブロック32およびシリンダヘッド33には冷却水ジャケット158が形成されており、前記ポンプハウジング151のうちハウジング主部152に設けられた吐出口159は、シリンダブロック32に設けられた冷却水ジャケット158の入口158aに接続管160を介して接続される。而して接続管160の一端部は前記冷却水ジャケット158の入口158aに液密に嵌合されるものであり、ハウジング主部152を一体に有する右カバー131をクランクケース31の右側ケース半体31Rに締結する際に、前記接続管160の他端部が前記吐出口159に液密に嵌合されることになる。
【0044】
図13に示すように、クランクシャフト35に固定されたファン135は、クランクケース31の右側ケース半体31Rに締結されるファンカバー161で囲まれるものであり、前記ファン135で吸引する冷却風によって冷却されるようにしてファン135の外方に配置されるラジエータ162が前記ファンカバー161に複数のボルト163…で取付けられる。
【0045】
ラジエータ162は、水平方向に平行に並ぶ上部タンク164および下部タンク165がラジエータコア166で連結されて成るものであり、前記ファン135の外端回転軌跡にほぼ対応した円形のルーバ167を有してラジエータ162を外側方から覆うラジエータカバー168が、ラジエータコア166にルーバ167を対向させて前記ファンカバー161に取付けられる。
【0046】
またラジエータカバー168の下部には、シリンダヘッド33から下向きに延びてパワーユニットPにおけるエンジン本体30の下方を通って後方に延出される排気管50の少なくとも一部、この実施例では排気管50の上半部を外側方から覆う排気管カバー部168aが一体に設けられる。
【0047】
ところでファン135の回転によって前記ルーバ167およびラジエータコア166を通過して吸引された空気は、ファンカバー161内でスクロール流を形成するものであり、図15で示すように、ファンカバー161の下部には、矢印169で示すスクロール流に直交する平面に配置される排風口170が、前方斜め下方に向けて開口するようにして形成される。このような排風口170の形成によって、ファンカバー161内でのスクロール流が乱されることなく整流されることになり、それによりルーバ167を空気が流通する際に生じる風切り音を抑制することができる。
【0048】
また前記排風口170から排出された空気流には、ファンカバー161の外周に沿って上方に向かう側の力が作用しているが、ファンカバー161の上方にはエアクリーナ45が配置されており、該エアクリーナ45は前方に向けて開口した吸入口122aを有している。そのためラジエータコア166を通過して温められた空気をエアクリーナ45が吸い込んでしまう可能性がある。しかるに、前記排風口170の上方でファンカバー161の上部には、排風口170からファンカバー161の外周に沿って上昇した空気がエアクリーナ45側に向かうのを阻止すべく、図16で示すように、たとえば上下に間隔をあけた2つの遮蔽壁171,172が、上述の上昇空気流に対向するようにして突設されている。なお図16では、遮蔽壁171,172を明確に示すために、それらの遮蔽壁171,172には網かけ処理が施されている。
【0049】
このような遮蔽壁171,172により、エアクリーナ45は温められてファンカバー161から排出される空気を吸い込むことなく、温められていない新鮮な空気を吸い込むことができるようになる。
【0050】
エンジン本体30におけるシリンダブロック32の側方には、冷却水ジャケット158から排出される冷却水のラジエータ162への流量を制御するサーモスタット175が配置されるものであり、このサーモスタット175が、冷却水ポンプ148におけるポンプハウジング151のポンプカバー153に、該ポンプカバー153に設けられる吸入口176に通じるようにして取付けられる。
【0051】
しかも前記サーモスタット175は、前記ラジエータ162の前方で該ラジエータ162のラジエータコア166と、車体フレーム21の幅方向に沿って略同一位置となるように配置されており、このサーモスタット175は、前記ラジエータ162とともにラジエータカバー168で外側方から覆われる。
【0052】
図14で示すように、吸気ポート46の近傍でシリンダヘッド33の右側面には、冷却水ジャケット158の出口158bに通じる接続管177が設けられており、この接続管177には冷却水ホース178の上流端が接続される。また冷却水ホース178の下流端はT字状の継手179に接続されており、該継手179に上流端が接続される冷却水ホース180がラジエータ162における上部タンク164に接続される。さらに前記継手179およびサーモスタット175間は、冷却水ジャケット158からの冷却水をサーモスタット175側に導くバイパス用冷却水ホース181で接続され、ラジエータ162の下部タンク165およびサーモスタット175間は冷却水ホース182で接続される。
【0053】
次にこの実施例の作用について説明すると、パワーユニットPをエンジンEとともに構成する伝動装置Tの構成要素である被動軸81の一端部は、ドライ空間である変速機室75に臨む外側ケース73に、多孔質の焼結合金から成るとともにオイルを含浸せしめて前記被動軸81に装着される円筒状のブッシュ93およびボールベアリング90を介して回転自在に支承されており、前記ブッシュ93は、ボールベアリング90の内輪90aに圧入されている。
【0054】
したがって潤滑のためにブッシュ93に面倒な加工を施すことが不要であり、また被動軸81の一端支持部の潤滑性が向上し、特別な軸受材料や潤滑油を用いることなく、長寿命の低廉な支持構造を実現することができる。しかもボールベアリング90および被動軸81間にブッシュ93が介装されることで、ボールベアリング90に被動軸81を直接嵌め合わせるのに比べて、摩擦による被動軸81の摩耗を低減することができ、ブッシュ93の摩耗時にはこれを簡単に交換することができるので、この点でも低コストとなる。
【0055】
またボールベアリング90の外輪90bは、外側ケース73の軸受ハウジング73aに嵌合、固定されるものであり、被動軸81およびボールベアリング90間にブッシュ93が介装されることによってボールベアリング90の外径を比較的大きくすることが可能であり、そのボールベアリング90を嵌合、固定する外側ケース73にかかる面圧を低減することができる。
【0056】
ところで、エンジンEととともにパワーユニットPを構成する伝動装置Tは、エンジンEの出力を変速する無段変速機78ならびに該無段変速機78の出力を減速して後輪WRに伝達する歯車減速機構79から成るものであり、エンジン本体30に連設されて後輪WRの側方に延設される伝動ケース71内には、無段変速機78を収容する変速機室75と、歯車減速機構79を収容するとともに下部にはオイルが貯留される減速機室76とが形成されるのであるが、減速機室76内の上部に通じるようにして伝動ケース71における減速歯車ケース74の上部に設けられた導出管部113に一端を接続せしめたブリーザチューブ114が、伝動ケース71の上部に沿って前方に延出され、ブリーザチューブ114の他端は上方に向けて開口される。
【0057】
したがってスクータ型車両の走行に伴って撥ね上げられる泥水がブリーザチューブ114内に浸入することを確実に防止することができ、しかもブリーザチューブ114が伝動ケース71に沿って前方に延出することにより、ブリーザチューブ114内の通路を長くしてオイルの重力分離を促進することができ、ブリーザチューブ114の他端開口部にオイルが付着、堆積することを防止することができる。
【0058】
またパワーユニットPの上方にはエアクリーナ45が配置されており、ブリーザチューブ114の他端部が、該エアクリーナ45のクリーナケース116に設けられたブリーザ出口カバー119aで外側方から覆われるようにして該ブリーザ出口カバー119aに保持されるので、ブリーザチューブ114の他端部を保持するための専用部品が不要であり、部品点数を低減することができるとともに、ブリーザチューブ114の他端部を外側方から覆うことで外観性を高めることができる。
【0059】
またエンジンEが備えるシリンダヘッド33の下部側面に排気ポート49が設けられその排気ポート49に上流端を接続せしめた排気管50がシリンダヘッド33から下向きに延びてエンジン本体30の下方を通って後方に延出されており、排ガス浄化を図るための二次空気を導くホース61が金属製の接続管62を介して排気ポート49に接続されるのであるが、接続管62の一部には略U字状に屈曲したU字状部62aが形成され、該U字状部62aが側面視でシリンダヘッド33の下部側面および排気管50間に配置されている。
【0060】
このためU字状部62aの形成によって接続管62の長さを調整することが可能であり、シリンダヘッド33の下部側面および排気管50間の空きスペースを有効に利用して長くした接続管62を配置することができる。しかもU字状部62aはシリンダヘッド33の下方に配置されるものであり、この実施例のように、パワーユニットPの上方にエアクリーナ45が配置されていても、U字状部62aからの放熱がエアクリーナ45側に影響を及ぼすのをシリンダヘッド33で遮ることが可能であり、温められた空気をエアクリーナ45が吸い込んでしまうのを防止することができる。
【0061】
またU字状部62aの一部がシリンダヘッド33および排気管50間に配置されるので、接続管62におけるU字状部62aを充分に長く設定して接続管62の上流端の温度を充分に低下させるとともに、U字状部62aの一部を排気管50からの放熱で温めることで、加温された二次空気を排気ポート49に供給して排ガス浄化性能を高めることができる。
【0062】
さらに冷却水ジャケット158を有するエンジン本体30の右側方に、ラジエータ162と、冷却水ジャケット158から排出される冷却水のラジエータ162への流量を制御するサーモスタット175とが配置されており、ラジエータ162と、車体フレーム21の幅方向に沿ってラジエータ162が備えるラジエータコア165と略同一位置に配置されるサーモスタット175とが、共通なラジエータカバー168で外側方から覆われているので、ラジエータ162およびサーモスタット175を外側方から覆うにあたり、部品点数および組付け工数を低減することができる。
【0063】
またシリンダヘッド33に接続される排気管50がエンジン本体30の下方を通って後方に延出されており、ラジエータカバー168には、排気管50の少なくとも一部を外側方から覆う排気管カバー部168aが一体に設けられるので、ラジエータ162およびサーモスタット175に加えて、エンジン本体30の下方の排気管50の少なくとも一部をラジエータカバー168で外側方から覆うようにして、部品点数をより低減することができる。
【0064】
さらに冷却水ポンプ148がエンジン本体30に取付けられており、この冷却水ポンプ148のポンプハウジング151におけるポンプカバー153にサーモスタット175が取付けられるので、車体フレーム21の幅方向に沿ってラジエータコア166と略同一位置に在るサーモスタット175およびエンジン本体30間のスペースを有効に利用して冷却水ポンプ148を配置することができ、エンジンEまわりのレイアウトをコンパクト化することができる。
【0065】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】スクータ型車両の側面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図2の要部拡大図である。
【図5】ラジエータカバーを外した状態での図4に対応した側面図である。
【図6】排気浄化装置の斜視図である。
【図7】図4の7矢視図である。
【図8】無段変速機の被動プーリ付近を拡大して示す横断面図である。
【図9】エアクリーナの拡大左側面図である。
【図10】図9の10矢視図である。
【図11】図9の11−11線拡大断面図である。
【図12】図11の12−12線断面図である。
【図13】図4の13−13線断面図である。
【図14】エンジン本体を図5の14−14線に沿って示すとともに水循環経路を示すためにラジエータを直立させて示す断面図である。
【図15】図13の15−15線矢視方向から見たファンカバーの一部切欠き側面図である。
【図16】図15の16矢視図である。
【符号の説明】
【0067】
30・・・エンジン本体
45・・・エアクリーナ
71・・・伝動ケース
75・・・変速機室
76・・・減速機室
78・・・変速機
79・・・歯車減速機
114・・・ブリーザチューブ
116・・・クリーナケース
119a・・・ブリーザ出口カバー
E・・・エンジン
P・・・パワーユニット
T・・・伝動装置
WR・・・後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)ととともにパワーユニット(P)を構成する伝動装置(T)が、前記エンジン(E)の出力を変速する変速機(78)ならびに該変速機(78)の出力を減速して後輪(WR)に伝達する歯車減速機構(79)から成り、前記変速機(78)を収容する変速機室(75)と、前記歯車減速機構(79)を収容するとともに下部にはオイルが貯留される減速機室(76)とが、エンジン本体(30)に連設されて後輪(WR)の側方に延設される伝動ケース(71)内に形成される自動二輪車において、前記減速機室(76)内の上部に通じるようにして伝動ケース(71)に一端を接続せしめたブリーザチューブ(114)が、前記伝動ケース(71)の上部に沿って前方に延出され、ブリーザチューブ(114)の他端が上方に向けて開口されることを特徴とする自動二輪車における伝動ケースのブリーザ構造。
【請求項2】
前記パワーユニット(P)の上方にエアクリーナ(45)が配置され、前記ブリーザチューブ(114)の他端部が、該エアクリーナ(45)のクリーナケース(116)に設けられたブリーザ出口カバー(119a)で外側方から覆われるようにして該ブリーザ出口カバー(119a)に保持されることを特徴とする請求項1記載の自動二輪車における伝動ケースのブリーザ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−132413(P2007−132413A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325195(P2005−325195)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】