説明

自動二輪車のブレーキ装置

【課題】連動ブレーキシステムを搭載した自動二輪車であっても、よりスムーズで自然なブレーキ操作感を得ることができると共に、製造コストを低減することができる自動二輪車のブレーキ装置を提供する。
【解決手段】自動二輪車のブレーキ装置10は、ブレーキペダル14の操作に基づき、後輪側ブレーキキャリパ18と前輪側ブレーキキャリパ16とを連動して駆動制御可能に構成されている。このブレーキ装置10は、ブレーキペダル14の操作による後輪側ブレーキ液圧を検出する液圧検出部70と、液圧検出部70による検出値が所定値以上であるか否かを判定する判定部72と、判定部72で前記検出値が所定値以上と判定された場合に、後輪側ブレーキ液圧の上昇率を前記所定値に達するまでの上昇率より低い値に変更して制御すると共に、前記変更した後の前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される液圧で前輪側ブレーキ液圧を制御する液圧制御部68とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後輪側ブレーキ操作部の操作に基づき後輪側制動部と前輪側制動部とを連動して制御可能な自動二輪車のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のブレーキ装置として、前輪側及び後輪側の一方のブレーキ操作部(ブレーキレバーやブレーキペダル)を操作した場合に、該操作した側の車輪の制動部に液圧を作用させ、これと連動して、操作されない側の車輪の制動部にも所定の液圧を作用させる連動ブレーキシステム(CBS:Combined Brake System)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、連動ブレーキシステムを適用した自動二輪車のブレーキ装置において、前輪側制動部と後輪側制動部との間での制動力配分を制御する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−5580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、連動ブレーキシステムを適用したブレーキ装置では、ブレーキペダルが操作されて後輪側制動部が駆動されるのに連動し、前輪側制動部も駆動された場合、走行状況等によっては、大きな制動力が車両に付与されてしまう場合がある。特にブレーキペダルは、通常、足で踏み込み操作をするため、細かなコントロールが難しく、意図せずに急な操作を行ってしまう場合が考えられる。
【0006】
一方、上記のような問題を解消するために、ブレーキペダルの入力機構の仕様や前輪側ブレーキの物理的な仕様の最適化を図る場合には、車種毎の部品変更等を必要とする可能性があり、製造工数の増加やコスト増加をまねくことが考えられる。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を考慮してなされたものであり、連動ブレーキシステムを搭載した自動二輪車であっても、よりスムーズで自然なブレーキ操作感を得ることができると共に、製造コストを低減することができる自動二輪車のブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置は、後輪側ブレーキ操作部(14)の操作に基づき、後輪側制動部(18)と前輪側制動部(16)とを連動して制御可能な自動二輪車のブレーキ装置において、前記後輪側ブレーキ操作部の操作による後輪側ブレーキ液圧を検出する液圧検出部(70)と、前記液圧検出部による検出値が所定値以上であるか否かを判定する判定部(72)と、前記判定部で前記検出値が所定値以上と判定された場合に、前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率を前記所定値に達するまでの上昇率より低い値に変更して制御すると共に、前記変更した後の前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される液圧で前輪側ブレーキ液圧を制御する液圧制御部(68)とを有することを特徴とする。なお、括弧書きの符号は、本発明の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、本発明がその符号を付けたものに限定して解釈されるものではなく、以下同様である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記液圧制御部は、前記判定部で前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合に、前記前輪側ブレーキ液圧の上昇率を低減する制御を実施することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記液圧制御部は、前記前輪側ブレーキ液圧が前輪ロック液圧を超えないように制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記判定部で前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合に制御される前記前輪側ブレーキ液圧の上昇率は、後輪側ブレーキ液圧の上昇率よりも低く設定されることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記判定部で前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合に、前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される前輪側ブレーキ液圧は、関数又はマップとして予め記憶されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項3記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記前輪ロック液圧は、車輪速度センサで前輪ロック状態を検出し、そのときのブレーキ液圧によって設定されることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記後輪側ブレーキ操作部は、ブレーキペダルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、後輪側ブレーキ操作部の操作に基づき、後輪側制動部と前輪側制動部とを連動して制御可能な自動二輪車のブレーキ装置において、後輪側ブレーキ液圧を検出する液圧検出部による検出値が所定値以上であるか否かを判定する。さらに、前記検出値が所定値以上と判定された場合には、後輪側ブレーキ液圧の上昇率を前記所定値に達するまでの上昇率より低い値に変更して制御すると共に、変更した後の後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される液圧で前輪側ブレーキ液圧を制御する。また、請求項2記載の発明によれば、後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合には、前輪側ブレーキ液圧の上昇率を低減する制御を実施する。
【0016】
従って、例えば、ブレーキペダルで構成される後輪側ブレーキ操作部が急激に操作された場合等であっても、前輪側ブレーキ液圧の上昇率が制限されることから、よりスムーズで自然なブレーキ操作性となる。しかも、従来は車種によって設定する必要があった後輪側ブレーキ操作部の入力機構の仕様(例えば、マスタシリンダ、ペダルレシオ)や各種ブレーキ部品の仕様等を変更せずに、ECUの制御プログラムを設定変更するだけで各種の自動二輪車に搭載することができる。このため簡便且つ汎用性が高く、製品機種の違いや仕様変更等に対しても、制御仕様を変更して最適化するだけで容易に対応することができ、セッティング工数を削減し、搭載コストも低減させることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、前輪側ブレーキ液圧が前輪ロック液圧を超えないように制御することにより、車輪のロックを可及的に抑制することができ、ブレーキコントロール性を一層向上させることができる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき制御される前記前輪側ブレーキ液圧の上昇率が後輪側ブレーキ液圧の上昇率よりも低く設定されることから、よりスムーズで自然なブレーキ操作性を得ることができる。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される前輪側ブレーキ液圧を関数又はマップとして予め記憶しておくことにより、液圧制御部での演算処理が軽減され、前輪側ブレーキ液圧の制御を一層スムーズに行うことができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、前記前輪ロック液圧は、車輪速度センサで前輪ロック状態を検出し、そのときのブレーキ液圧によって設定される。これにより、ブレーキ時の車両状態に一層適した前輪側ブレーキ液圧の制御が可能となる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、前記後輪側ブレーキ操作部が、ハンドブレーキに比べて細かなブレーキコントロールが難しい傾向にあるブレーキペダルであっても、前輪側ブレーキ液圧の上昇率の制御の実行により、よりスムーズで自然なブレーキ操作性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置の構成を示す回路図である。
【図2】昇圧レートフィルタ制御を実行するECUの機能を示すブロック構成図である。
【図3】図3Aは、後輪側の液圧モジュレータによって付与される後輪側ブレーキキャリパの液圧の時間変化を示し、図3Bは、後輪側に連動して駆動される前輪側の液圧モジュレータによって付与される前輪側ブレーキキャリパの液圧の時間変化を示す。
【図4】図4Aは、昇圧レートフィルタ制御を実行した場合の後輪側の液圧モジュレータによって付与される後輪側ブレーキキャリパの液圧の時間変化を示し、図4Bは、後輪側に連動して駆動される前輪側の液圧モジュレータによって付与される前輪側ブレーキキャリパの液圧の時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る自動二輪車のブレーキ装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置10の構成を示す回路図である。本実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置10(以下、「ブレーキ装置10」ともいう)は、いわゆるスーパースポーツ型等の各種自動二輪車に搭載され、運転者(ライダー)によるブレーキレバー12及びブレーキペダル14の操作に応じて、前輪側ブレーキキャリパ16及び後輪側ブレーキキャリパ18を駆動制御し、車両に所定の制動力を付与する装置である。
【0025】
図1に示すように、ブレーキ装置10は、相互に独立した前輪側ブレーキ回路10aと後輪側ブレーキ回路10bとがECU(コントローラ、制御部)20により連係されたものである。
【0026】
ブレーキ装置10におけるブレーキ操作は、前輪側ブレーキ回路10aでは前輪側ブレーキ操作部であるブレーキレバー12により行われ、後輪側ブレーキ回路10bでは後輪側ブレーキ操作部であるブレーキペダル14により行われるが、その他の構成は前輪側ブレーキ回路10aも後輪側ブレーキ回路10bも略同様である。そこで、以下では、基本的に前輪側ブレーキ回路10aについて説明し、後輪側ブレーキ回路10bについては、前輪側ブレーキ回路10aと同一又は同様の構成要素に同一の参照符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0027】
ブレーキ装置10は、前輪側ブレーキ回路10aと後輪側ブレーキ回路10bとにバイワイヤ方式(ブレーキバイワイヤ)を採用している。すなわち、ブレーキ装置10では、ブレーキ操作部であるブレーキレバー12やブレーキペダル14の操作量(本実施形態では液圧)を電気的に検出し、その検出値に基づき液圧モジュレータ22で作り出した液圧により、制動部である前輪側ブレーキキャリパ16や後輪側ブレーキキャリパ18で所定の制動力を発生する。
【0028】
さらに、ブレーキ装置10では、前輪側及び後輪側の一方、例えば後輪側ブレーキ操作部であるブレーキペダル14を操作すると、ECU20の制御下に前輪側及び後輪側の制動部である前輪側ブレーキキャリパ16及び後輪側ブレーキキャリパ18を連動して駆動制御することができる連動ブレーキシステム(CBS)を採用している。具体的には、例えばブレーキペダル14が操作されると、後輪側ブレーキ回路10bでは、ECU20の制御下に、マスターシリンダ24の液圧に基づき、バイワイヤ方式で液圧モジュレータ22が駆動制御されて所定の液圧が後輪側ブレーキキャリパ18に作用すると共に、さらに、前輪側ブレーキ回路10aの液圧モジュレータ22も連動して駆動制御され、所定の液圧が前輪側ブレーキキャリパ16にも作用する。
【0029】
図1に示すように、前輪側ブレーキ回路10a(後輪側ブレーキ回路10b)では、ブレーキ操作部であるブレーキレバー12(ブレーキペダル14)に連動するマスターシリンダ24と、該マスターシリンダ24に対応する前輪側ブレーキキャリパ16(後輪側ブレーキキャリパ18)とが主通路26によって接続されている。主通路26の途中には、液圧モジュレータ22が給排通路28により合流接続されている。
【0030】
主通路26には、給排通路28との合流接続部よりもマスターシリンダ24側に、マスターシリンダ24と前輪側ブレーキキャリパ16とを連通・遮断する常開型の第1電磁開閉弁V1が介装されている。
【0031】
さらに、主通路26には、分岐通路30が接続されており、該分岐通路30には、常閉型の第2電磁開閉弁V2を介して液損シミュレータ32が接続されている。液損シミュレータ32は、第1電磁開閉弁V1が主通路26を閉じた際(図1に示すバイワイヤ作動時)に、ブレーキレバー12の操作量に応じた擬似的な液圧反力をマスターシリンダ24に作用させる機能を有する。第2電磁開閉弁V2は、液損シミュレータ32による反力付与時に分岐通路30を開き、マスターシリンダ24側と液損シミュレータ32とを連通させる。
【0032】
前記液損シミュレータ32は、シリンダ32aにピストン32bが進退自在に収容され、これらシリンダ32aとピストン32b先端面との間に、マスターシリンダ24側から流入した作動液(ブレーキフルード)を受容する液室32cが形成されたものある。ピストン32bの背部側(背圧側)には、例えば特性の異なるコイルスプリングと樹脂スプリングとを直列に配置した反発スプリング32dが設けられている。反発スプリング32dは、ピストン32b、つまりブレーキ操作部であるブレーキレバー12の操作に対して立ち上がりが緩やかで、ストロークエンドにおいて立ち上がりが急な特性の反力を付与することができる。
【0033】
前記分岐通路30には、さらに、第2電磁開閉弁V2を迂回するバイパス通路34が設けられ、該バイパス通路34には液損シミュレータ32側からマスターシリンダ24方向への作動液の流れを許容する逆止弁36が設けられている。
【0034】
前記液圧モジュレータ22は、シリンダ22a内に設けられたピストン22bを、これらシリンダ22aとピストン22bの先端面との間に形成された液圧室22c方向に押圧するカム機構40と、ピストン22bをカム機構40側に常時付勢するリターンスプリング42と、カム機構40を作動させる電動モータ44とを備え、前記液圧室22cが前記給排通路28に連通接続されている。この液圧モジュレータ22は、電動モータ44によりギヤ機構46を介してカム機構40を駆動することで、シリンダ22aの初期位置を基準としてピストン22bを押圧し、又はリターンスプリング42によりピストン22bを戻すことができる。すなわち、液圧モジュレータ22は、液圧室22cの圧力(液圧)を増減して、制動部である前輪側ブレーキキャリパ16(後輪側ブレーキキャリパ18)の制動圧力を増減することができる。
【0035】
前記電動モータ44は、例えば、PWM制御により入力デューティ比(ON時間/ON時間+OFF時間)で決定される電流値を調整することで、カム機構40の回動位置で決定されるピストン22bの位置を電気的に正確且つ簡単に調整し、液圧室22cの圧力を調整することができる。
【0036】
前記給排通路28には、常閉型の第3電磁開閉弁V3が介装されると共に、該第3電磁開閉弁V3を迂回してバイパス通路48が設けられている。バイパス通路48には、液圧モジュレータ22側から制動部である前輪側ブレーキキャリパ16方向への作動液の流れを許容する逆止弁50が設けられている。
【0037】
このような前輪側ブレーキ回路10a(後輪側ブレーキ回路10b)には、第1電磁開閉弁V1を挟んでマスターシリンダ24側である入力側に圧力センサ(P)52が設けられ、前輪側ブレーキキャリパ16側である出力側に圧力センサ(P)54が設けられている。さらに、前記カム機構40の図示しないカム軸には、角度情報フィードバック用の角度センサ(図示せず)が設けられ、前輪側ブレーキキャリパ16の近傍には、車輪速度を検出する車輪速度センサ56が設けられている。
【0038】
ブレーキ装置10には、制御モードを運転者による手動操作で切換えるモード切換えスイッチ58が設けられ、CBS制御を希望する場合は運転者がこれを切換えて選択する。なお、以下はCBS制御が選択された場合の説明である。
【0039】
ECU20は、バッテリ60から電源供給を受け、前記圧力センサ52、54の検出信号、車輪速度センサ56及び前記角度センサの検出信号等に基づいて、第1電磁開閉弁V1、第2電磁開閉弁V2及び第3電磁開閉弁V3を開閉制御すると共に、電動モータ44を駆動制御して液圧モジュレータ22を動作させる制御部である(図1では信号線を破線で示す)。
【0040】
図2に示すように、ECU20は、車輪速度センサ56の検出信号が入力される速度検出部62と、圧力センサ52の検出信号が入力される操作量検出部64と、第1〜第3電磁開閉弁V1〜V3の開閉を制御する電磁弁制御部66と、液圧モジュレータ22(電動モータ44)を駆動制御する液圧制御部68としての機能を有する。速度検出部62は、一方のブレーキ操作部、例えばブレーキペダル14が操作された際の車輪速度センサ56の検出信号を受けて、そのときの前後輪の速度を検出する。操作量検出部64は、前記一方のブレーキ操作部が操作された際の圧力センサ52の検出信号を受けて、ブレーキ操作量等の情報(液圧)を検出する。電磁弁制御部66は、速度検出部62及び操作量検出部64等での検出情報に基づき、前後輪のブレーキ回路10a、10bの第1〜第3電磁開閉弁V1〜V3を適宜開閉制御する。液圧制御部68は、基本的には操作量検出部64の検出情報に基づいて、前輪側及び後輪側の液圧モジュレータ22(電動モータ44)を適宜駆動制御する。
【0041】
従って、ECU20は、ブレーキ装置10をバイワイヤ方式で動作させるのに際し、一方のブレーキ操作部、例えばブレーキペダル14の操作に基づき、そのときの前後輪の速度及びブレーキ操作量等の情報を車輪速度センサ56及び圧力センサ52から速度検出部62及び操作量検出部64で受信すると、電磁弁制御部66によって第1〜第3電磁開閉弁V1〜V3を適宜開閉制御し、さらに、液圧制御部68によって液圧モジュレータ22を適宜駆動制御する。具体的には、電磁弁制御部66からの指令によってブレーキ回路10a、10bの第1電磁開閉弁V1が、図1に示すように主通路26を閉方向に維持され、同時に、第2及び第3電磁開閉弁V2、V3が開方向に維持され、さらに、液圧制御部68によって各液圧モジュレータ22が前輪側ブレーキキャリパ16及び後輪側ブレーキキャリパ18に車両の運転条件やブレーキ操作に応じた液圧を供給する。
【0042】
図2に示すように、ECU20は、さらに、圧力センサ54の検出信号が入力される液圧検出部70と、液圧検出部70での検出値が所定値以上であるか否かを判定する判定部72としての機能も有する。
【0043】
液圧検出部70は、圧力センサ54の検出信号を受けて前輪側ブレーキキャリパ16及び後輪側ブレーキキャリパ18に生じているキャリパ圧(ブレーキ液圧)を検出する。判定部72は、液圧検出部70での検出値、つまり圧力センサ54での検出液圧が所定値以上(所定の上昇率以上)であるか否かを判定し、判定結果を液圧制御部68に出力する。そこで、液圧制御部68には、上記した操作量検出部64の検出情報に基づき液圧モジュレータ22を駆動制御する基本的な機能に加えて、判定部72で前記検出値が所定値以上(所定の上昇率以上)であるとの判定がなされた場合に液圧モジュレータ22を駆動制御して、前輪側ブレーキキャリパ16及び後輪側ブレーキキャリパ18へ付与する液圧を適宜変更制御する機能も含まれる。
【0044】
次に、基本的には以上のように構成される本実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置10について、その制御方法及び作用効果について説明する。
【0045】
先ず、図3A及び図3Bを参照してブレーキ装置10において、ブレーキペダル14が穏やかに且つ慎重に踏み込み操作された場合の通常の連動ブレーキ制御について説明する。
【0046】
図3A及び図3Bは、後輪側ブレーキ操作部であるブレーキペダル14のみを操作した場合のCBS制御によるブレーキ作動状態を示すグラフであり、図3Aは、後輪側の液圧モジュレータ22によって付与される後輪側ブレーキキャリパ18の液圧(後輪側ブレーキキャリパ圧)の時間変化を示し、図3Bは、後輪側に連動して駆動される前輪側の液圧モジュレータ22によって付与される前輪側ブレーキキャリパ16の液圧(前輪側ブレーキキャリパ圧)の時間変化を示している。
【0047】
車両走行中に所定の減速を行うため、運転者が後輪側ブレーキ操作部であるブレーキペダル14を操作すると、ECU20による電子制御により、図1に示すように後輪側ブレーキ回路10bでは、第1電磁開閉弁V1が閉作動され、第2電磁開閉弁V2及び第3電磁開閉弁V3が開作動される。従って、主通路26が第1電磁開閉弁V1の閉作動によってマスターシリンダ24から切り離されると同時に、第2電磁開閉弁V2の開作動によって分岐通路30及び主通路26がマスターシリンダ24と液損シミュレータ32とを導通し、さらに第3電磁開閉弁V3の開作動によって給排通路28及び主通路26が液圧モジュレータ22と後輪側ブレーキキャリパ18とを導通し、バイワイヤ方式での制動が可能となる。同時に、前輪側ブレーキ回路10aにおいても、第1電磁開閉弁V1が閉作動され、第2電磁開閉弁V2及び第3電磁開閉弁V3が開作動され、上記の後輪側ブレーキ回路10bと同様に、バイワイヤ方式での制動が可能となる。
【0048】
そこで、後輪側ブレーキ回路10bの圧力センサ52から操作量検出部64を介してブレーキペダル14の操作量が検出され、液圧制御部68により後輪側の液圧モジュレータ22が駆動制御される。これにより、図3A中の時点t0以降に示すように、後輪側ブレーキキャリパ18に所定の液圧が付与され、後輪側ブレーキキャリパ圧がブレーキペダル14の操作に追従して昇圧される。
【0049】
続いて、予めブレーキ装置10に設定された前後輪のブレーキ力配分に基づき、判定部72において、圧力センサ54及び液圧検出部70によって検出される後輪側ブレーキキャリパ圧が所定値P1を超えたと判定されると(図3A中の時点t1)、液圧制御部68は、前輪側の液圧モジュレータ22を駆動制御する。これにより、前輪側ブレーキキャリパ16にも所定の液圧(前輪側ブレーキキャリパ圧)が付与され(図3B中の時点t1)、前輪側ブレーキキャリパ圧が所定の上昇率で昇圧制御される。
【0050】
ここで、図3Aに示すように、前後輪が連動して制動された時点t1以降の後輪側ブレーキキャリパ圧は、制動開始から所定値P1に到達するまでの上昇率より低い上昇率となるように駆動制御される。
【0051】
通常、スポーツ型の自動二輪車、特にスーパースポーツ型と呼ばれる自動二輪車等では、後輪側ブレーキは主にコーナリング時の速度調整に使用する。ブレーキペダル14の操作と同時に前輪側ブレーキまで制動させてしまうと、車両に強力なブレーキがかかり、運転者の意図しない減速となる場合があるからである。逆に、ブレーキペダル14を強く踏み込んだ場合には、運転者はスピード調整ではなく、停止する意思があると判断される。そこで、この場合には、車両に強力な制動力を付与するため、ブレーキ装置10では、前輪側ブレーキを連動して駆動するCBS制御が実行される(図3A及び図3B中の時点t1参照)。同時に、前後輪ブレーキの制動力配分を理想的な配分とすべく、後輪側ブレーキキャリパ圧は、図3A中の時点t1以降に図示されるように、その上昇率が低減される設定となっている。
【0052】
ところで、一般に、後輪側ブレーキ操作部であるブレーキペダル14は、運転者が足首を動かして足で踏み込み操作される。従って、スーパースポーツ型等の前傾姿勢で乗車する自動二輪車の場合には、操作荷重が大きくなるほど足首を大きく動かす必要があり、細かなコントロールが難しいことがある。特に、荒れた路面等で車両が外乱を受けた場合等には、運転者自身が意図せずに強くブレーキペダル14を踏み込む可能性もある。このような状況では、ブレーキペダル14を穏やかに踏み込み操作した場合(図3A及び図3B参照)とは異なった制動挙動を生じることになる。すなわち、ブレーキペダル14の急激な踏み込み操作等によって後輪側ブレーキキャリパ圧が急上昇し、瞬時に前記所定値P1(図3A参照)を超えた場合には、前輪側ブレーキもそれに連動して作用することから、スムーズなブレーキ操作感が得られない場合がある。
【0053】
そこで、本実施形態に係るブレーキ装置10では、前輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率に制限をかけてブレーキ動作を適切にコントロールする制御(以下、「昇圧レートフィルタ制御(液圧上昇率制限制御)」という)を実行する。
【0054】
図4A及び図4Bは、昇圧レートフィルタ制御を実行した場合のブレーキ作動状態を示すグラフであり、図4Aは、後輪側の液圧モジュレータ22によって付与される後輪側ブレーキキャリパ18の液圧(後輪側ブレーキキャリパ圧)の時間変化を示し、図4Bは、後輪側に連動して駆動される前輪側の液圧モジュレータ22によって付与される前輪側ブレーキキャリパ16の液圧(前輪側ブレーキキャリパ圧)の時間変化を示している。
【0055】
車両走行中に所定の減速を行うため、運転者が後輪側ブレーキ操作部であるブレーキペダル14を操作すると、ECU20による電子制御により、上記した通常の連動ブレーキ制御の場合と同様、図1に示すように、ブレーキ回路10a、10bがバイワイヤ方式での作動状態となる。
【0056】
そこで、後輪側ブレーキ回路10bの圧力センサ52から操作量検出部64を介してブレーキペダル14の操作量が検出され、液圧制御部68により後輪側の液圧モジュレータ22が駆動制御される。これにより、後輪側ブレーキキャリパ18に所定の液圧が付与され(図4A中の時点t0以降)、後輪側ブレーキキャリパ圧がブレーキペダル14の操作に追従して昇圧される。
【0057】
この際、ECU20では、液圧検出部70により、図4A中の時点t0から時点t1までの間の後輪側ブレーキキャリパ圧を後輪側ブレーキ回路10bの圧力センサ54から随時検出している。そして、判定部72では、液圧検出部70での検出値を受けて、連動ブレーキ作動前(図4A中の時点t0から時点t1の間)の後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr0(MPa/sec)を算出すると共に、該上昇率Pr0が所定値Pr1(所定の上昇率Pr1)(図4中の破線参照)以上か否かを判定する。この際、判定部72では、圧力センサ54及び液圧検出部70によって後輪側ブレーキキャリパ圧が所定値P1(図4A参照)を超えたか否かも判定しており、所定値P1を超えた場合に、図3A及び図3Bに示す場合と同様に、液圧制御部68によってCBS制御を実施する。
【0058】
例えば、運転者が悪路等において、ブレーキペダル14を意図せずに急激に踏み込み操作した場合、すなわち、判定部72で前記上昇率Pr0が所定値Pr1以上であると判定された場合(Pr0≧Pr1)において、さらに後輪側ブレーキキャリパ圧が所定値P1を超えると(図4A中の時点t1参照)、液圧制御部68は、時点t1以降での前後輪ブレーキのCBS制御に関し、先ず、図4Aに示すように、後輪側ブレーキキャリパ圧について前記上昇率Pr0より低い値である上昇率Pr2に変更して後輪側の液圧モジュレータ22を駆動制御する。なお、この場合にはブレーキペダル14が急な操作を受けているため、図4Aの時点t1以降に示すように、後輪側ブレーキキャリパ圧はやや変動した挙動を示し易いが、前記変更後の低い上昇率Pr2によって強力すぎる制動が行われることはない。
【0059】
同時に、液圧制御部68では、図4B中の時点t1以降に実線で示すように、前輪側ブレーキキャリパ圧について、前記変更後の後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr2に基づき、より低い上昇率Pr3を設定して前輪側の液圧モジュレータ22を駆動制御する。なお、上昇率Pr3は、後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr2よりも低く設定されている。これにより、前輪側ブレーキキャリパ圧が適度に低減された上昇率Pr3となるように昇圧制御されるため、よりスムーズなブレーキ操作感を得ることができ、ブレーキコントロール性も向上する。
【0060】
すなわち、ブレーキ装置10では、ブレーキペダル14を穏やかに操作した通常のブレーキ制御の場合には(図3A及び図3B参照)、後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率と略同一の上昇率で前輪側ブレーキキャリパ圧を昇圧制御し、これにより、車両に適切な制動力を作用させる。一方、ブレーキペダル14が急激に操作された場合に昇圧レートフィルタ制御が実行されないと、図4Aの後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr2と略同一の上昇率Pr4によって前輪側ブレーキキャリパ圧が昇圧制御されるため(図4B中の時点t1以降に破線で示すグラフ参照)、スムーズなブレーキ操作感が得られない可能性がある。
【0061】
そこで、ブレーキ装置10では、ブレーキペダル14が急激に操作等された場合には、後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr2と略同一の上昇率Pr4(図4B中の破線で示すグラフ参照)よりも低減した上昇率Pr3を設定して、前輪側ブレーキキャリパ圧を昇圧制御する(図4B中の時点t1以降に実線で示すグラフ参照)。すなわち、後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率に対し、より低い上昇率で前輪側ブレーキキャリパ16を昇圧制御することにより、前輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率に制限をかけ、前輪側ブレーキキャリパ圧を緩やかに昇圧させることができる。従って、ブレーキ装置10によれば、ブレーキコントロールやブレーキペダル14の操作性が向上する。なお、後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr2に基づき設定される前輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr3は、例えば、上昇率Pr2との関係の関数やマップ(テーブル)として予め設定し、ECU20に記憶しておいてもよい。そうすると、ECU20での演算処理が軽減され、前輪側ブレーキキャリパ圧の制御を一層スムーズに行うことができる。
【0062】
しかも、上記の昇圧レートフィルタ制御を備えるブレーキ装置10は、従来は車種によって設定する必要があったブレーキペダルの入力機構の仕様(例えば、マスタシリンダ、ペダルレシオ)や各種ブレーキ部品の仕様等を変更せずに、ECU20(又は別構成のメモリ等でもよい)の制御プログラムを設定変更するだけで各種の自動二輪車に搭載することができる。このため簡便且つ汎用性が高く、製品機種の違いや仕様変更等に対しても、制御仕様を変更して最適化するだけで容易に対応することができ、セッティング工数を削減し、搭載コストも低減させることができる。
【0063】
図4Bに示すように、当該昇圧レートフィルタ制御では、例えば、液圧制御部68の設定制御下に、前輪側ブレーキキャリパ圧が前輪側の車輪がロックする液圧である前輪ロック液圧PLを超えないように昇圧制御するとよい。そうすると、車輪のロックを可及的に抑制することができ、ブレーキコントロール性を一層向上させることができる。この場合、前輪ロック液圧PLは、例えば、車輪速度センサ56の検出値によって前輪ロック状態を検出し、そのときの前輪側ブレーキキャリパ圧によって設定するとよい。そうすると、ブレーキ時の車両状態に一層適した前輪側ブレーキキャリパ圧の制御を行うことができる。
【0064】
また、上記では、図4A中の時点t0から時点t1までの間の後輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率Pr0が所定値Pr1以上となった場合に、連動する前輪側ブレーキキャリパ圧をより低減した上昇率Pr3(図4B参照)に設定する昇圧レートフィルタ制御を例示したが、例えば、連動ブレーキ作動時には、前記上昇率Pr0の値に関係なく、常に連動する前輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率に制限を設けた制御方法としてもよい。なお、この場合には、ブレーキペダル14が穏やかに操作された場合(図3A及び図3B参照)に、連動する前輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率がやや低い傾向になる。ところが、穏やかなペダル操作が行われた場合には、前輪側ブレーキキャリパ圧の上昇率は元々低い値に設定されることからその低減量は少なく、通常、運転者も穏やかに減速する意図であることから、車両に付与される制動力が不足することは避けることができる。
【0065】
本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【0066】
例えば、後輪側ブレーキ操作部としては、ブレーキペダル14以外の構造、例えば、レバー式等であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…ブレーキ装置 10a…前輪側ブレーキ回路
10b…後輪側ブレーキ回路 12…ブレーキレバー
14…ブレーキペダル 16…前輪側ブレーキキャリパ
18…後輪側ブレーキキャリパ 20…ECU
22…液圧モジュレータ 44…電動モータ
52、54…圧力センサ 68…液圧制御部
70…液圧検出部 72…判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪側ブレーキ操作部(14)の操作に基づき、後輪側制動部(18)と前輪側制動部(16)とを連動して制御可能な自動二輪車のブレーキ装置において、
前記後輪側ブレーキ操作部の操作による後輪側ブレーキ液圧を検出する液圧検出部(70)と、
前記液圧検出部による検出値が所定値以上であるか否かを判定する判定部(72)と、
前記判定部で前記検出値が所定値以上と判定された場合に、前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率を前記所定値に達するまでの上昇率より低い値に変更して制御すると共に、前記変更した後の前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される液圧で前輪側ブレーキ液圧を制御する液圧制御部(68)と、
を有することを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、前記判定部で前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合に、前記前輪側ブレーキ液圧の上昇率を低減する制御を実施することを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、前記前輪側ブレーキ液圧が前輪ロック液圧を超えないように制御することを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記判定部で前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合に制御される前記前輪側ブレーキ液圧の上昇率は、後輪側ブレーキ液圧の上昇率よりも低く設定されることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記判定部で前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率が所定値以上と判定された場合に、前記後輪側ブレーキ液圧の上昇率に基づき設定される前輪側ブレーキ液圧は、関数又はマップとして予め記憶されていることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項6】
請求項3記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記前輪ロック液圧は、車輪速度センサで前輪ロック状態を検出し、そのときのブレーキ液圧によって設定されることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記後輪側ブレーキ操作部は、ブレーキペダルであることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−31731(P2011−31731A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179555(P2009−179555)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】