説明

自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造

【課題】自動二輪車用パワーユニットにアシストモータを備えてハイブリッド化する場合において、パワーユニットの大幅な変更や、内燃機関からのアシストモータの突出が抑えられ、小型化や部品レイアウトの簡略化等が可能となる自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造を提供する。
【解決手段】減速機構6を備えクランク軸51を横置きして自動二輪車に搭載された自動二輪車用パワーユニットにおいて、自動二輪車用パワーユニットは、クランク軸からの回転動力を遮断・継続可能に、動力伝達軸61,62を介して後輪に伝達するクラッチ64を、クランク軸の後方の左右一方側に備え、クランク軸の後方の左右他方側の、側面視でクラッチと重なる位置に、アシスト動力を動力伝達軸に伝達するアシストモータ70を備えたことを特徴とする自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機構を備え、クランク軸を横置きして自動二輪車に搭載される自動二輪車用パワーユニットにおける、アシストモータの配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車用パワーユニットは減速機構を含む駆動系と内燃機関とを一体に備えることから、アシストモータを加えてハイブリッド化を行おうとする場合には、大きなアシストモータの配置が制約され、パワーユニットの大幅な変更が避けがたい。
【0003】
例えば、下記特許文献1に示されるものでは、アシストモータが内燃機関のシリンダブロックの後方に配置され、巻き掛け伝動機構によってクランクシャフトにアシスト動力を伝達している。そのため、アシスト動力の伝動系が大掛かりとなり、パワーユニット全体が大きく成りがちであるとともに、シリンダ部の冷却水入り口や配管の変更が必要になる等の解決課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−269253号公報(図1、図4、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術に鑑み、自動二輪車用パワーユニットにアシストモータを備えてハイブリッド化する場合において、パワーユニットの大幅な変更や、内燃機関からのアシストモータの突出が抑えられ、小型化や部品レイアウトの簡略化等が可能となる自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、減速機構を備えクランク軸を横置きして自動二輪車に搭載された自動二輪車用パワーユニットにおいて、同自動二輪車用パワーユニットは、前記クランク軸からの回転動力を遮断・継続可能に、動力伝達軸を介して後輪に伝達するクラッチを、前記クランク軸の後方の左右一方側に備え、前記クランク軸の後方の左右他方側の、側面視で前記クラッチと重なる位置に、アシスト動力を前記動力伝達軸に伝達するアシストモータを備えたことを特徴とする自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、前記減速機構のメインシャフトがパワーユニットケースを貫通して側方に突出し、前記アシストモータのモータ軸とスプライン嵌合されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、ACジェネレータが前記クランク軸の左右他方側に設けられ、前記アシストモータと前記ACジェネレータが共通のカバーで覆われ、前記アシストモータの収容室がACジェネレータ室と共用されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、後輪駆動用スプロケットが前記クランク軸の後方の左右他方側に設けられ、前記後輪駆動用スプロケットのスプロケットカバーと前記アシストモータのモータベースとが一体に形成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、前記クランク軸の左右他方側の最も外側のクランクウエブより外側に、前記アシストモータが配置されたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、前記自動二輪車用パワーユニットのバランサ軸が、前記クラッチの他方側となる左右他方側に突出し、前記アシストモータのモータ軸とギヤ係合されたことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、ACジェネレータが前記クランク軸の左右他方側に設けられ、前記アシストモータと前記ACジェネレータが共通のカバーで覆われ、前記アシストモータの収容室がACジェネレータ室と併設されたことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項6または請求項7に記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造において、前記バランサ軸のバランサウエイトに、前記モータ軸とギヤ係合するモータ被動ギヤが形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造によれば、クランク軸の後方の左右他方側の、側面視でクラッチと重なる位置に、アシスト動力を動力伝達軸に伝達するアシストモータを備えたので、自動二輪車用パワーユニットにアシスト用モータを備えてハイブリッド化する場合において、従来、車幅方向の突出が少ないクランク軸の後方で且つクラッチの他方側においてアシストモータを設置することとなり、パワーユニットの大幅な変更や、内燃機関からのアシストモータの突出が抑えられ、小型化や部品レイアウトの簡略化等が可能となる。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、パワーユニットケースの側部において、アシストモータが直結されるので、アシスト動力の伝動系が簡略となり、部品構成が単純化され、パワーユニット全体が大きくなることが抑制される。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明の効果に加え、ACジェネレータとアシストモータがパワーユニットケースの同じ側に並ぶ配置となるので、構成が簡略化され、スペースの有効利用と部品レイアウトの簡略化が可能となる。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項2または請求項3の発明の効果に加え、部品点数を削減できる。
【0018】
請求項5の発明によれば、請求項2ないし請求項4のいずれかの発明の効果に加え、クランクウエブの回転域をかわすことができるので、アシストモータの外径を大きく取れて、アシストモータの強力化が容易となる。
【0019】
請求項6の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、バランサ軸の左右他方側の端部周囲のデッドスペースにアシストモータを設置できるので、スペースの有効活用が図られて、パワーユニット全体が大きくなることが抑制される。
【0020】
請求項7の発明によれば、請求項6の発明の効果に加え、ACジェネレータとアシストモータがパワーユニットケースの同じ側に並ぶ配置となるので、構成が簡略化され、スペースの有効利用と部品レイアウトの簡略化が可能となる。
【0021】
請求項8の発明によれば、請求項6または請求項7の発明の効果に加え、部品点数の削減とスペースの削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態1に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る自動二輪車用パワーユニットの左側面図である。
【図3】図2中、III−III矢視による自動二輪車用パワーユニットの断面展開図である。
【図4】本発明の実施形態2に係る自動二輪車の左側面図である。
【図5】図5中、V−V矢視による自動二輪車用パワーユニットの断面展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態1に係る自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造を、図1から図3に基づき説明する。
なお、本明細書の説明および特許請求の範囲における前後左右上下等の向きは、本実施形態に係る自動二輪車用パワーユニット(以下、単に「パワーユニット」という)を、自動二輪車に取り付けた状態での車両の向きに従うものとする。図中、矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、それぞれ示す。
なお、そのことは、後述の実施形態2に係る記載において同様である。
【0024】
図1に示されるように、本発明の実施形態1に係る自動二輪車1の車体フレーム2はパワーユニット3が搭載される前部フレーム21と、前部フレーム21の後部に結合される後部フレーム22とで構成される。前部フレーム21がその前端に備えるヘッドパイプ23には前輪4を軸支するフロントフォーク10が操向可能に支承され、フロントフォーク10の上部にはステアリングハンドル11が連結されている。
【0025】
パワーユニット3は、内燃機関5と減速機構6を備え、クランク軸51を横置きして、前部フレーム21に支持されている。内燃機関5は4ストロークサイクル直列4気筒内燃機関であり、パワ−ユニットケース30の前方上部にやや前傾してシリンダブロック52、シリンダヘッド53、シリンダヘッドカバー54を積み上げるように締結して構成され、クランクケースとなるパワ−ユニットケース30においてクランク軸51が支持されるとともに、減速機構6と係合している。
【0026】
パワ−ユニットケース30の後部に組み込まれている減速機構6は、クランク軸51と平行に配置されたメイン軸61とカウンタ軸62を備え、カウンタ軸62はパワーユニット3の出力軸として、その左端部をパワ−ユニットケース30から貫通突出させて、駆動スプロケット(本発明の「後輪駆動用スプロケット」)63が装着されている。
なお後述のように(図3参照)、メイン軸61にはその右端部61bに多板式のクラッチ64が装着されるとともに、左端部61aにはアシストモータ70が装着されている。
【0027】
前部フレーム21の後部に、後輪7を軸支するリヤフォーク12の前端部がピボット軸13を介して上下揺動可能に枢支されている。リヤフォーク12の後端部には、後輪軸7aを介して後輪7が回転可能に支持されている。リヤフォーク12の中央部と前部フレーム21の後端部との間に、図示しないリヤクッションが装着されている。
【0028】
パワーユニット3の出力軸であるカウンタ軸62から出力される動力は、チェーン伝動手段14を介して後輪7に伝達される。チェーン伝動手段14はカウンタ軸62に固定された駆動スプロケット63と後輪7に固定された従動スプロケット15とそれら両スプロケットに巻きかけられる無端チェーン16とで構成され、自動二輪車1の左側に配置される。
【0029】
パワーユニット3の上方には、前部フレーム21と後部フレーム22の前部とで支持される燃料タンク17が配置され、燃料タンク17とパワーユニット3との間にエアクリーナ18が配置され、パワーユニット3の前方にはラジエータ19が配置されている。
【0030】
内燃機関5のシリンダヘッド53の前部に接続される排気管55は、パワーユニット3の前側からパワーユニット3の下方を経て、排気マフラ56に接続されている。後部フレーム22には運転者用シート20Aと同乗者用シート20Bが設けてある。車体はカウル24で覆われている。
【0031】
図2に示されるように、パワ−ユニットケース30は、クランク軸51を軸支して、上下割りに構成され、上側ケース30Aの上には、シリンダブロック52とシリンダヘッド53が順に重ねられて幾らか前方に傾いて立設され、締結されている。シリンダヘッド53の上にはシリンダヘッドカバー54が被せられる。
一方、下側ケース30Bの下にはオイルパン31が取り付けられる。
【0032】
図3に示されるように、上側ケース30Aと下側ケース30Bの各ジャーナル壁32が、クランク軸51のジャーナル部51aを主軸受50を介して上下から挟むようにして支持してクランク軸51を回転自在に軸支する。
内燃機関5は、4つのシリンダ57を直列に配列して一体に成形された直列4気筒であるので、クランク軸51は5つのジャーナル部51aを有し、上側ケース30Aと下側ケース30Bの上下それぞれ5つのジャーナル壁32によりクランク軸51は回転自在に支持される。
【0033】
上側ケース30Aと下側ケース30Bは、互いの割り面を合せてボルトにより一体に締結されている。
クランク軸51の隣合うジャーナル部51aの間には、左右をウエブ部(本発明の「クランクウエブ」)51bに挟まれて、クランクピン51cが一体に形成されている。
上側ケース30Aに一体に締結されるシリンダブロック52の4つのシリンダ57には、ピストン58が往復摺動可能に嵌合され、ピストン58はコンロッド59を介してクランク軸51のクランクピン51cに連結される。
【0034】
シリンダヘッド53には、シリンダ57毎に、ピストン58に対向して形成される燃焼室33と、燃焼室33に開口して1対の吸気弁34により開閉される吸気ポート35が後方へ延出し、1対の排気弁36により開閉される排気ポート37が前方に延出し、さらに燃焼室33に臨む点火プラグ38が装着される。
なお、吸気ポート35の上流側吸気通路管35aにはスロットルボディ39が連結されて、その上流に図示しないが、吸気管が連結され、エアクリーナ18に接続している。排気ポート37の下流側開口には排気管55が連結される。(図1参照)
【0035】
各吸気弁34および各排気弁36は、シリンダヘッド53に回転可能に軸支される吸気カム軸40および排気カム軸41によりクランク軸51の回転に同期して開閉駆動される。
そのために、各カム軸40、41は、右端部にカムスプロケット42、43が嵌着され、クランク軸51の右端部近傍に嵌着される駆動スプロケット44とカムスプロケット42、43の間にタイミングチェーン45が掛け渡され(図3参照)、クランク軸51の半分の回転速度で回転駆動される。
シリンダブロック52とシリンダヘッド53の右端部には、タイミングチェーン45を配設するためのカムチェーン室52a、53aが形成されている(図3参照)。
【0036】
他方、図3に示されるように、パワーユニットケース30の左側壁をなす最も左側のジャーナル壁32(x)から左方へ突出したクランク軸51の左端部51dには、ACジェネレータ46のアウタロータ46aが嵌着され、ACジェネレータ46に左方から被せられる発電機カバー(本発明の「カバー」)47にACジェネレータ46の発電コイルを備えたインナステータ46bが支持されてアウタロータ46a内に配置される。
【0037】
パワーユニットケース30内のクランク軸51より後方には減速機構6が配設されている。
減速機構6は、常時噛合い式の歯車変速機であり、クランク軸51の後方で斜め上方位置にメイン軸61が上側ケース30Aに軸受65を介して回転自在に軸支され、クランク軸51の後方で上側ケース30Aと下側ケース30Bの割り面に挟まれてカウンタ軸62が軸受66を介して回転自在に軸支され、クランク軸51と平行なメイン軸61とカウンタ軸62にそれぞれ装着される変速ギヤ群61g、62gが互いに対となるギヤどうしを噛合しており、軸にスプライン嵌合しシフタとなるギヤの変速操作機構による移動によって変速がなされる。
【0038】
メイン軸61の右端部には多板式のクラッチ64が設けられ、クラッチ64のクラッチアウタ64aに共に回転するように支持されるプライマリドリブンギヤ67Bとクランク軸51の右から数えて2番目のクランクウエブ51bに形成されたプライマリドライブギヤ67Aが噛合して1次減速機構が構成されている。
クラッチ64の出力側であるクラッチインナ64bがメイン軸61にスプライン嵌合しており、よってクランク軸51の回転が1次減速機構67A、67Bおよびクラッチ64を介して減速機構6のメイン軸61に伝達される。
【0039】
なお、クランク軸51の回転動力は、クランク軸51側のプライマリドライブギヤ67A、クラッチ64側のプライマリドリブンギヤ67Bを介してクラッチ64に伝達されるが、クラッチ64は、減速機構6のギヤ切換え中にはクランク軸51の回転動力を切断して減速機構6に伝達せず、減速機構6のギヤ切換えが終了するとともに回転動力を接続して、クランク軸51の回転動力を減速機構6に伝達するように構成されている。
【0040】
そして、メイン軸61の回転は、変速ギヤ群61g、62gの噛合いを介してカウンタ軸62に伝達される。
カウンタ軸62は、パワーユニット3の出力軸でもあり、パワーユニットケース30を左側方に貫通して外部に突出させた左端部に駆動スプロケット63が嵌着され、後輪7の従動スプロケット15との間に無端チェーン16が掛け渡され2次減速機構が構成され、この2次減速機構を介して動力が後輪7に伝達される(図1参照)。
すなわち、メイン軸61とカウンタ軸62は、ともに動力伝達軸を構成する。
【0041】
また、パワーユニットケース30の上側ケース30Aには、パワーユニットケース30の左側壁をなす最も左側のジャーナル壁32(x)と左右略同位置になるようにアシストモータ70のモータベース71が、メイン軸61の右端部61bに設けられたクラッチと側面視で重なる範囲に、最も左側のジャーナル壁32(x)から延在して設けられている。
モータベース71は、メイン軸61の左端部61aの左方を覆うとともに、メイン軸61と同芯位置にモータ軸72の軸芯を揃えて、アシストモータ70のモータ軸72の右端側をベアリング73を介して軸支している。
【0042】
図3に示されるように、本実施形態のパワーユニット3においては、クランク軸51の左端部51dがパワーユニットケース30の左側壁をなす最も左側のジャーナル壁32(x)を貫通して左側方に突出して、その左端部51dにACジェネレータ46を取り付けている。
そして、ACジェネレータ46の発電機カバー47は、アシストモータ70のモータ軸72を覆う範囲まで延長して形成されており、モータ軸72の左端側をベアリング74を介して軸支している。
【0043】
モータ軸72には、アシストモータ70の磁石を備えたインナロータ70aが嵌着され、発電機カバー47の内面、すなわち右面には、アシストモータ70の発電コイルを備えたアウタステータ70bがインナロータ70aの外周を囲むように配置されて支持され、アシストモータ70が構成される。
したがって、アシストモータ70は、側面視でクラッチ64と重なる位置に備えられ、ACジェネレータ46と共通のカバーとして発電機カバーに覆われ、アシストモータ70の収容室75は、ACジェネレータ室46cと共用となる。
【0044】
モータベース71にベアリング73を介して軸支されたモータ軸72の右端側には、スプライン嵌合部76が備えられ、メイン軸61の左端部61aとスプライン嵌合しており、アシストモータ70は、動力伝達軸としてのメイン軸61と同軸芯に直結している。
したがって、アシストモータ70の駆動によって、パワーユニット3は、アシスト動力が得られる。
なお、この嵌合部76に代えて、既知のジョイント構造によりモータ軸72を結合しても良い。
【0045】
すなわち、本実施形態のアシストモータ70の配置構造では、自動二輪車用のパワーユニットをハイブリッド化する場合に、クランク軸51の後方の左方側の、側面視でクラッチ64と重なる位置に、アシスト動力をメイン軸61に伝達するアシストモータ70を備えたので、従来、車幅方向の突出が少ないクランク軸51の後方で且つクラッチ64の左方側においてアシストモータ70を設置することとなり、パワーユニット3の大幅な変更や、内燃機関5からのアシストモータ70の突出が抑えられ、小型化や部品レイアウトの簡略化等が可能となる。
【0046】
また、パワーユニットケース30の左側部において、アシストモータ70が動力伝達軸としてのメイン軸61に直結されるので、アシスト動力の伝動系が簡略となり、部品構成が単純化され、パワーユニット3全体が大きくなることが抑制される。
また、アシストモータ70とACジェネレータ46が同じくパワーユニットケース30の左側に並ぶ配置となるので、アシストモータ70とACジェネレータ46が共通の発電機カバー47で覆われ、アシストモータ70の収容室75がACジェネレータ室46cと共用され、構成が簡略化され、スペースの有効利用と部品レイアウトの簡略化が可能となる。
【0047】
そしてさらに、本実施形態では、図2、図3に示されるように、駆動スプロケット44がクランク軸51の後方の左方側に設けられ、駆動スプロケット44のスプロケットカバー48がアシストモータ70のモータベース71から延設されて一体に形成されており、部品点数を削減できる。
また、図3に示されるように、クランク軸51の左方側の最も外側のウエブ部51bより外側に、アシストモータ70が配置されているので、ウエブ部51bの回転域をかわすことができ、アシストモータ70の外径を大きく取れて、アシストモータ70の強力化が容易である。
【0048】
次に、本発明の実施形態2に係る自動二輪車用パワーユニット(以下、単に「パワーユニット」という)のアシストモータ配置構造を、図4と図5に基づき説明する。
【0049】
図4に示されるように、実施形態2に係る自動二輪車101は、車体フレーム110にヘッドパイプ111を取付け、ヘッドパイプ111に操舵可能にフロントフォーク112を取付け、フロントフォーク112のトップブリッジ113にステアリングハンドル114を取付け、トップブリッジ113とボトムブリッジ115との間の前方にヘッドライト116及び左右のフロントウインカ117を配置している。
【0050】
フロントフォーク112の下部には、フロントフェンダ118及び前輪119を取付け、ヘッドパイプ111から車体フレーム110のメインフレーム120を後方へ延ばすとともに車体フレーム111のダウンチューブ121を斜め下から後方へ延ばし、これらメインフレーム120とダウンチューブ121との間にパワーユニット104を配置している。
【0051】
メインフレーム120には燃料タンク122を載せ、メインフレーム120から図示しないシートレールを後方へ延ばし、シートレールにシート(タンデムシート)124を取付け、ダウンチューブ121からシートレールにサブフレーム125を延ばしている。
車体フレーム110の後下部からは、ピボット126を介してリヤスイングアーム127を延ばし、リヤスイングアーム127の後端に後輪128を回転自在に取付け、リヤスイングアーム127の後部と車体フレーム110との間にリヤクッション129を渡している。
【0052】
図中、130、131はパワーユニット104の内燃機関105から延出した排気管を示す。132はラジエータ、133は排気管130、131に接続したマフラ、134はリヤフェンダ、123はリヤフェンダ134の支持ステーである。135はリヤウインカ、136はテールランプである。
また、137はスロットルボディであり、その右側(図示背後)にエアクリーナ138が設けられている。
なお、タンデムシート124は、運転者が腰掛ける運転者用シート124Aと、この運転者用シート124Aに対して一段高く形成された同乗者用シート124Bとからなる。
【0053】
図4に示されるように、本実施形態のパワーユニット104は、パワーユニットケース140に内燃機関105と減速機構106を備え、クランク軸150を横置きにして、車体フレーム110に支持されている。
内燃機関105は、パワーユニットケース140の前部上面から前部バンク151及び後部バンク152を車両前後方向のV字状に上方に突出させた4ストロークサイクルV型2気筒内燃機関であり、クランクケースとなるパワ−ユニットケース140においてクランク軸150が車幅方向に配向して支持されるとともに、減速機構106と係合している。
パワ−ユニットケース140の後部に組み込まれている減速機構106は、クランク軸150と平行に配置されたメイン軸161とカウンタ軸162と、アイドル軸(本発明の「バランサ軸」)180を備えている。
【0054】
図5は、図4中、V−V矢視による、本実施形態のパワーユニット104の断面展開図であり、パワーユニット104は、両バンク151、152のシリンダブロック153、153に連なる共通のパワーユニットケース140と、パワーユニットケース140の右側端に多数のボルト141、141…により接合される右サイドカバー142と、右サイドカバー142の外端に多数のボルト143、143…により接合されるクラッチカバー144と、パワーユニットケース140左側端に多数のボルト145、145…により接合される左サイドカバー146とを備えている。
【0055】
パワーユニットケース140は、左右のケース半体140A、140Bを多数のボルト147、147…により結合して構成され、両ケース半体140A、140Bの側壁にクランク軸150の両端部がプレーンベアリング148、148を介して支承される。
クランク軸150は、両バンク151、152内のピストン154、154にコンロッド155、155を介して連接される。
また両ケース半体140A、140Bには、クランク軸150と平行に配置されるメイン軸161とカウンタ軸162の各両端部が、それぞれボールベアリングまたはニードルベアリング156、156′;157、157′を介して支承され、メイン軸161とカウンタ軸162間に図示しない多段の変速ギヤ列が設けられる。
【0056】
図5に示されるように、クランク軸150及びメイン軸161の各右端部は、右ケース半体140Bから右サイドカバー142側に突出しており、クランク軸150とメイン軸161の右端部間は、トルクダンパ158、1次減速装置159及びクラッチ160を介して連結される。
また、カウンタ軸162の左端部は、左ケース半体140Aから左サイドカバー146側に突出しており、これに一対のベベルギヤ163、163′を介して連結されて出力端を自動二輪車の後方に向け、後輪128に回転動力を伝達する駆動軸164がべベルギヤケース190に支承される。
【0057】
クランク軸150の右端部には、パワーユニットケース140側から順に、前部バンク151の動弁用調時伝動装置165の駆動スプロケット166、1次減速装置159の駆動ギヤ(プライマリドライブギヤ)167及びトルクダンパ158が順次設けられ、トルクダンパ158は、クランク軸150と駆動ギヤ167の間の回転トルクの急激な変動を吸収する。
【0058】
1次減速装置159は、駆動ギヤ167と、パワーユニットケース140にボールベアリング183を介して回転自在に支承されるアイドル軸180にスプライン結合されて駆動ギヤ167に噛合する第1アイドルギヤ181と、第1アイドルギヤ181の外側に隣接してアイドル軸180にスプライン結合され、第1アイドルギヤ181より小径の第2アイドルギヤ182と、メイン軸161にニードルベアリング168を介し回転自在に支承されて第2アイドルギヤ182に噛合する被動ギヤ(プライマリドリブンギヤ)169とからなっている。
【0059】
被動ギヤ169は、クラッチ160における有底円筒状のクラッチアウタ160aの内端壁に固着される。したがって、1次減速装置159は、クランク軸150からトルクダンパ158に伝達される回転を減速してクラッチ160に伝達することができる。
そして、クラッチ160の出力側であるクラッチインナ160bがメイン軸161にスプライン嵌合しており、クランク軸150の回転がクラッチ160を介して減速機構106のメイン軸161に伝達される。
【0060】
なお、クラッチ160は、減速機構106のギヤ切換え中にはクランク軸51の回転動力を切断して減速機構106に伝達せず、減速機構106のギヤ切換えが終了するとともに回転動力を接続して、クランク軸150の回転動力を減速機構160に伝達するように構成されている。
【0061】
減速機構160において、メイン軸161の回転は、図示しない多段の変速ギヤ列により変速されてカウンタ軸162に伝達され、駆動軸164を介して後輪128に伝達される。
したがって、アイドル軸180、メイン軸161、カウンタ軸162はともに、クランク軸150からの回転動力を伝達する動力伝達軸である。
【0062】
クランク軸150の左端部は、パワーユニットケース140の左ケース半体140Aを貫通して突出し、ACジェネレータ149が設けられており、その左側は左サイドカバー(本発明の「カバー」)146で覆われ、ACジェネレータ室149aが形成されている。
【0063】
アイドル軸(本発明の「バランサ軸」)180の左端部180aは、パワーユニットケース140の左ケース半体140Aを貫通して突出し、バランサウエイト184が嵌着されている。
バランサウエイト184は、アイドル軸180と同芯の円形外周部184aを有するとともに、周方向において一方に偏在した軸方向膨出部184bを備え、円形外周部184aにはモータ被動ギヤ185が形成されている。
すなわち、バランサウエイト184は、円形外周部184aによってギヤを形成するとともに、軸方向膨出部184bの質量によって、バランサ機能を奏するものとなっている。
【0064】
アイドル軸180の左端部180aの左方には、間隔を空けてアイドル軸180と直角方向に配向したモータベース171が、左ケース半体140Aに取り付けられており、モータベース171は、側面視でクラッチ160と重なる範囲に、延在して設けられている。
モータベース171は、アイドル軸180の左端部180aの左方を覆うとともに、アイドル軸180と平行にアシストモータ170のモータ軸172の軸芯を配向して、モータ軸172の右端側をベアリング173を介して軸支している。
【0065】
図5に示されるように、本実施形態のパワーユニット104においては、クランク軸150の左端部がパワーユニットケース140の左ケース半体140Aを貫通して左側方に突出して、その左端部にACジェネレータ149を取り付けている。
そして、ACジェネレータ149の左側は左サイドカバー(本発明の「カバー」)146で覆われ、左サイドカバー146は、アシストモータ170のモータ軸172を覆う範囲まで延長して形成されており、モータ軸172の左端側をベアリング174を介して軸支している。
【0066】
モータ軸172には、アシストモータ170の磁石を備えたインナロータ170aが嵌着され、左サイドカバー146の内面、すなわち右面には、アシストモータ170の発電コイルを備えたアウタステータ170bがインナロータ170aの外周を囲むように配置されて支持され、アシストモータ170が構成される。
したがって、アシストモータ170は、側面視でクラッチ160と重なる位置に備えられ、ACジェネレータ149と共通のカバーとして左サイドカバー146に覆われ、アシストモータ170の収容室175は、ACジェネレータ室149aと併設される。
【0067】
モータベース171にベアリング173を介して軸支され、モータベース171より右方に突出したモータ軸172の右端側には、モータ駆動ギヤ176が取り付けられ、アイドル軸180のモータ被動ギヤ185と噛合っている。
したがって、アシストモータ170の駆動によって、動力伝動軸としてのアイドル軸180を介してパワーユニット104は、アシスト動力が得られる。
【0068】
すなわち、本実施形態のアシストモータ170の配置構造では、自動二輪車用のパワーユニットをハイブリッド化する場合に、クランク軸150の後方の左方側の、側面視でクラッチ160と重なる位置に、アシスト動力をアイドル軸180に伝達するアシストモータ170を備えたので、従来、車幅方向の突出が少ないクランク軸150の後方で且つクラッチ160の左方側においてアシストモータ170を設置することとなり、パワーユニット104の大幅な変更や、内燃機関105からのアシストモータ170の突出が抑えられ、小型化や部品レイアウトの簡略化等が可能となる。
また、パワーユニット104のバランサ軸180が、右側のクラッチ160の左方側に突出し、アシストモータ170のモータ軸180とギヤ係合されたので、バランサ軸180の左端部180a周囲のデッドスペースにアシストモータ170を設置できるため、スペースの有効活用が図られて、パワーユニット104全体が大きくなることが抑制される。
【0069】
また、ACジェネレータ149がクランク軸150の左方側に設けられ、ACジェネレータ149とアシストモータ170がパワーユニットケース140の同じ側に並ぶ配置となるため、アシストモータ170とACジェネレータ149が共通のカバーとして左サイドカバー146で覆われ、アシストモータ170の収容室175がACジェネレータ室149aと併設され、構成が簡略化され、スペースの有効利用と部品レイアウトの簡略化が可能となる。
【0070】
また、バランサ軸180のバランサウエイト184に、モータ軸172とギヤ係合するモータ被動ギヤ185が形成されたので、部品点数の削減とスペースの削減が可能となる。
【0071】
以上、本発明の二つの実施形態につき説明したが、本発明の態様が上記実施形態1、2に限定されず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、5…内燃機関、6…減速機構、7…後輪、30…パワーユニットケース、30A…上側ケース、30B…下側ケース、32…ジャーナル壁、32(x)…最も左側のジャーナル壁、46…ACジェネレータ、46c…ACジェネレータ室、47…発電機カバー(カバー)、48…スプロケットカバー、51…クランク軸、51a…ジャーナル部、51b…ウエブ部(クランクウエブ)、61…メイン軸(動力伝達軸)、62…カウンタ軸(動力伝達軸)、63…駆動スプロケット(後輪駆動用スプロケット)、64…クラッチ、67A…プライマリドライブギヤ、67B…プライマリドリブンギヤ、70…アシストモータ、70a…インナロータ、70b…アウタステータ、71…モータベース、72…モータ軸、75…収容室、76…スプライン嵌合部、101…自動二輪車、104…パワーユニット(自動二輪車用パワーユニット)、105…内燃機関、106…減速機構、110…車体フレーム、128…後輪、140…パワーユニットケース、140A…左ケース半体、140B…右ケース半体、142…右サイドカバー、146…左サイドカバー、149…ACジェネレータ、149a…ACジェネレータ室、150…クランク軸、158…トルクダンパ、159…1次減速装置、160…クラッチ、161…メイン軸、162…カウンタ軸、167…駆動ギヤ(プライマリドライブギヤ)、169…被動ギヤ(プライマリドリブンギヤ)、170…アシストモータ、170a…インナロータ、170b…アウタステータ、171…モータベース、172…モータ軸、175…収容室、176…モータ駆動ギヤ、180…アイドル軸(バランサ軸)、181…第1アイドルギヤ、182…第2アイドルギヤ、184…バランサウエイト、185…モータ被動ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機構(6、106)を備えクランク軸(51、150)を横置きして自動二輪車(1、101)に搭載された自動二輪車用パワーユニット(3、104)において、
同自動二輪車用パワーユニット(3、104)は、前記クランク軸(51、150)からの回転動力を遮断・継続可能に、動力伝達軸(61,62、180,161,162)を介して後輪(7、128)に伝達するクラッチ(64、160)を、前記クランク軸(51、150)の後方の左右一方側に備え、
前記クランク軸(51、150)の後方の左右他方側の、側面視で前記クラッチ(64、160)と重なる位置に、アシスト動力を前記動力伝達軸(61,62、180,161,162)に伝達するアシストモータ(70、170)を備えたことを特徴とする自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項2】
前記減速機構(5)のメインシャフト(61)がパワーユニットケース(30)を貫通して側方に突出し、前記アシストモータ(70)のモータ軸(72)とスプライン嵌合されたことを特徴とする請求項1記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項3】
ACジェネレータ(46)が前記クランク軸(51)の左右他方側に設けられ、
前記アシストモータ(70)と前記ACジェネレータ(46)が共通のカバー(47)で覆われ、前記アシストモータ(70)の収容室(75)がACジェネレータ室(46c)と共用されたことを特徴とする請求項2記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項4】
後輪駆動用スプロケット(63)が前記クランク軸(51)の後方の左右他方側に設けられ、前記後輪駆動用スプロケット(63)のスプロケットカバー(48)と前記アシストモータ(70)のモータベース(71)とが一体に形成されたことを特徴とする請求項2または請求項3記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項5】
前記クランク軸(51)の左右他方側の最も外側のクランクウエブ(51b)より外側に、前記アシストモータ(70)が配置されたことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項6】
前記自動二輪車用パワーユニット(104)のバランサ軸(180)が、前記クラッチ(160)の他方側となる左右他方側に突出し、前記アシストモータ(170)のモータ軸(172)とギヤ係合されたことを特徴とする請求項1記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項7】
ACジェネレータ(149)が前記クランク軸(150)の左右他方側に設けられ、
前記アシストモータ(170)と前記ACジェネレータ(149)が共通のカバー(146)で覆われ、前記アシストモータ(170)の収容室(175)がACジェネレータ室(149a)と併設されたことを特徴とする請求項6記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。
【請求項8】
前記バランサ軸(180)のバランサウエイト(184)に、前記モータ軸(172)とギヤ係合するモータ被動ギヤ(185)が形成されたことを特徴とする請求項6または請求項7記載の自動二輪車用パワーユニットのアシストモータ配置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228982(P2012−228982A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99372(P2011−99372)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】