説明

自動分析装置に用いる検量線作成用化合物

【課題】硫黄・および主要なハロゲン(F、Cl、Br、I)について同時に検量線を作成することのできる新規な検量線作成用化合物を提供する。
【解決手段】ハロゲン化アニリン化合物とハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物のそれぞれの群から選ばれる各1種の化合物をアルカリ性溶媒中で縮合させて合成された4種類のハロゲン(F、Cl、Br、I)と硫黄(S)を含む新規化合物、特にN−(2’−ヨウ化−4−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドの構造を有する検量線作成用の前記化合物。
【効果】本発明の新規な検量線作成用化合物は、高収率・高純度で容易に得ることができ、微量ハロゲン・硫黄分析装置におけるハロゲン・硫黄の一括自動分析法に適用することにより、分析時間が著しく短縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検量線作成用化合物に係り、特に試料中の微量ハロゲンおよび硫黄を迅速に高精度で自動定量分析する際の検量線作成用の新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への意識の高まりから、廃棄物や土壌等の安全性に関心が寄せられており、それらに含有されている元素の中、分析頻度の高いハロゲンおよび硫黄を同時に定量分析する手法が求められている。たとえば、廃棄物固形燃料(RDF)では、廃フィルム系よりも古紙系のものに臭素をはじめとするハロゲンが多く含まれている。また、廃食油から再生した燃料にはハロゲンや硫黄が全く含まれていないが重油には硫黄分が多く含まれている。着色プラスチック材料(PP:ポリプロビレン)には青色の顔料の成分に由来すると考えられるフッ素が含まれている。乾燥土壌(ピート)中は、産地が北海道の火山地域のため火山に由来するものと考えられる硫黄およびフッ素が含まれている。その他飼料添加物や防カビ剤および防菌材にはヨウ素が含まれている。
【0003】
従来の検量線作成標準化合物では、1元素ごとに検量線を作成しなければならず、これらの元素を自動分析するための装置としては種々のものが開発されているが、ハロゲンと硫黄を一括自動分析できる装置に使用する検量線作成用の化合物の合成と標準分析法は未だ一般的に確立されておらず、従来の検量線作成用の標準化合物では、各元素の分析ごとに夫々検量線を作成しなければならず、試料中に各種ハロゲンや硫黄が分析対象として含まれている環境資源・材料などの自動分析には夫々の検量線の作成のために相当な時間を要していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は多種類のハロゲンと硫黄を含み、微量ハロゲン・硫黄自動分析装置用の検量線作成用化合物として利用出来る化合物の合成をすでに試みているが(非特許文献1)、主要な4種の4ハロゲン(F、Cl、Br、I)の全てと硫黄(S)を含む化合物については、その合成に収率や出発原料の選択等に種々の困難を伴い、そのような化合物およびその製造方法自体は未だ知られていない。本発明者等はハロゲン化アニリン化合物とハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物の縮合によるかゝる化合物の合成に成功した。この化合物については検量線作成用化合物としての機能を果たすことが確認され、これを用いて、廃棄物等の各種環境試料の定量分析を行なったところ、これが検量線作成用化合物として有用であることが実証され、本発明を完成するに到った。
【非特許文献1】有機ハロゲンおよび硫黄の一括自動分析における検量線作成用化合物の開発、東京都立産業技術研究所、研究報告第6号(2003)
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はハロゲン化アニリン化合物とハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物のそれぞれの群から選ばれる各1種の化合物をアルカリ性溶媒中で縮合させて合成された4種類のハロゲン(F、Cl、Br、I)と硫黄(S)を含むことを特徴とする化合物ならびにかゝる化合物を前記ハロゲンおよび硫黄の元素分析のために適用する用途を提供する。
【0006】
前記形式の縮合反応は一般に塩基性で進行するものとされているが、本発明においてハロゲン化アニリン化合物とハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物の縮合反応を実施する際には溶媒の選択が極めて重要である。すなわち、無機塩基を溶媒として用いた場合には反応はほとんどの場合実質的に進行せず、また種々の有機溶媒についても夫々の得失があり、ピリジンを用いることがもっとも好ましい結果を与えることが判明した。
【0007】
前記縮合反応は低温では反応が実質的に生起せず、また高温になるほど反応速度は増大するが、副反応が生じやすくなり目的化合物の収率や純度が低下する。出発原料であるハロゲン化ーアニリンとハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物とを氷冷下で混合した後室温で反応させることが最も好ましい。
【0008】
出発原料となるハロゲン化アニリン化合物およびハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物における夫々の核置換ハロゲン原子はそれらの縮合による反応生成物が前記4種類の
F、Cl、Br、およびIを含むものであれば任意の置換位置をとることができ、いずれの場合にも目的とする化合物を生成することができる。しかし反応の収率や反応生成物の純度は出発原料によって異なり、また原料の容易な入手などを考慮すると、2−ヨウ化−4−臭化ーアニリンと3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホニルクロリドを出発原料として用いピリジンの存在下で下記反応式:
【化1】

にしたがって目的とする化合物N−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミド(1)を得ることがもっとも好ましい。
【0009】
このようにして得られた化合物の中でも特にN−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミド(1)は赤外線分光(IR)分析、核磁気共鳴(NMR)分析および融点測定によってその前記構造式との一致や物性等が確認された。さらにN−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドを用いて作成した検量線はその相関係数において直線性が極めて高く、また市販の標準物質を元素分析した際の結果は許容される誤差範囲内にあり、この化合物を検量線作成用化合物として使用できることが確認された。また前記化合物を用いて実際の試料を分析した際にも標準物質を用いた場合と比較して精度がほとんど変わりのないことが判明した。
【0010】
したがって本発明による前記化合物を検量線の作成に用いた場合、F、Cl、Br、IおよびSの検量線を一回の操作で作成することができ、自動分析装置を用いて行われるこれら元素の分析についての所要時間が著しく短縮される。
【0011】
実施例
N−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドの合成
2−ヨウ化−4−臭化−アニリン1.00g(3.37mmol)をピリジン3mlに溶解し、これに対して3−塩化−4−フッ化−ベンゼンスルホニルクロリド1.00g(4.40mmol)をピリジン4mLに溶解した溶液を氷冷下で攪拌しながら約30分にわたって滴下した。滴下後室温で3日間静置し、反応液を1mol/L塩酸溶液中に注ぎ、沈澱物を濾過し、水で洗浄した。沈澱物をカラムクロマトグラフで分離精製後、再結晶を行って精製した。白色結晶(融点133oC)が収率43%で得られた。得られた目的生成物は下記IR,NMR並びに元素分析によって前記構造式を有するN−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドであることが示された。
IR: 3265cm-1
N-H, 1170cm-1 S=O
NMR: 6.75(1H, N-H), 7.20(1H, aromatic), 7.46〜 7.60(3H, aromatic), 7.82 (1H, aromatic), 7.85(1H,
aromatic)
元素分析値 理論値 C:29.38% H:1.44% N:2.86%
分析値 C:29.54% H:1.63% N:2.83%
【0012】
N−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドを用いる検量線の作成
図1にその概略を示す有機ハロゲン硫黄微量分析装置YS−10(ヤナコ機器開発研究所製)を用い前記N−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドによってF,CL,BR,IおよびSについての検量線を同時に作成した。図1に示す装置の燃焼管にN−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドを入れて950oCの高温で燃焼させてガス化し、吸収液(NaHCO+H+ヒドラジン)に吸収させ、イオンクロマトグラフ系のカラム(Shodex Si-90: 4E)に展開液と共に導入して分析したところ、図2に示すようにF、Cl、Br、IおよびSのピークが夫々の位置に存在するイオンクロマトグラムが得られた。
【0013】
尚、この化合物:N−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドにより作成した夫々の元素についての検量線は図3〜図7に示すように相関係数 t において直線性が極めて高く検量線作成用化合物として用いられることが判明した。すなわち t はF、Cl、Br、IおよびSについて夫々0.997、0.999、0.998、0.999および0.999であった。
【0014】
実際の試料の分析
前記のようにして得られたN−(2’−ヨウ化−4’−臭化フェニル)−3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホンアミドによる検量線を用いて各種の実際の試料を分析したところ、表1に示す値(%)が得られ、これら分析値は市販の検量線作成化合物を用いて同一条件で試料を分析した場合の値の差が許容範囲内にあり、こゝで用いた試料は分析の結果ヨウ素を含んでいなかった。
【0015】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の検量線作成用化合物は、高収率・高純度で得ることができ、自動分析装置のハロゲン・硫黄の一括自動分析法に適用することにより分析時間が著しく短縮され、環境資源材料等の分析の実際において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】有機ハロゲン・硫黄同時自動分析装置の概略図である。
【図2】本発明の化合物を用いて得られるイオンクロマトグラムである。
【図3】本発明の化合物を用いて作成された検量線(F)の相関係数を示すグラフである。
【図4】本発明の化合物を用いて作成された検量線(Cl)の相関係数を示すグラフである。
【図5】本発明の化合物を用いて作成された検量線(Br)の相関係数を示すグラフである。
【図6】本発明の化合物を用いて作成された検量線(I)の相関係数を示すグラフである。
【図7】本発明の化合物を用いて作成された検量線(S)の相関係数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化アニリン化合物とハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物のそれぞれの群から選ばれた各一種の化合物をアルカリ性溶媒中で縮合させて合成され同一分子内に4種類のハロゲン(F、Cl、Br、I)と硫黄(S)とを含むことを特徴とする化合物。
【請求項2】
2−ヨウ化−4−臭化ーアニリンと3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホニルクロリドの縮合反応によって得られる下記構造式(1)を有する化合物。
【化1】

【請求項3】
ハロゲン化アニリン化合物とハロゲン化ベンゼンスルホニル化合物のそれぞれの群から選ばれた各一種の化合物をアルカリ性溶媒中で縮合させて合成され同一分子内に4種類のハロゲン(F、Br、Cl、I)と硫黄(S)とを含むことを特徴とする化合物を検量線作成用化合物として自動分析装置における元素分析に使用する用途。
【請求項4】
2−ヨウ化−4−臭化ーアニリンと3−塩化−4−フッ化ベンゼンスルホニルクロリドの縮合反応によって得られる下記構造式(1)を有する化合物を検量線作成用化合物として自動分析装置に使用する用途。
【化2】




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−254420(P2007−254420A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83377(P2006−83377)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(506100967)株式会社 ナックテクノサービス (4)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100082153
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 二郎
【Fターム(参考)】