説明

自動変速機における回転軸の支持構造

【課題】自動変速機の変速機ケース100で回動可能に支持されているマニュアルシャフト10の位置決めをより簡便に行えるようにする。
【解決手段】外周に設けたリング溝15に挿入したロケートピン70により軸方向の移動が規制された状態で自動変速機の変速機ケース100で回動可能に支持されたマニュアルシャフト10の支持構造であって、変速機ケース100の支持部101において、ロケートピン70を挿入するロケートピン穴106を、パーキング機構50のサポートアクチュエータ53を支持部101に固定するボルト55のボルト穴105の延長上においてボルト穴105と連通させて設けて、ロケートピン穴106にロケートピン70を挿入したのち、サポートアクチュエータ53を変速機ケース100の支持部101にボルト55で固定するだけで、マニュアルシャフト10の位置決めが行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機における回転軸の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の変速機ケースで回動可能に支持されている回転軸として、例えばシフトレバーの操作に連動して回動するマニュアルシャフトがある。
このマニュアルシャフトを変速機ケースで回動可能に支持する支持構造は、種々提案されており、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1に開示された支持構造では、マニュアルシャフトは、変速機ケースの上部に設けたシャフト挿通穴と、下部に設けたシャフト受け穴とに挿通されて、変速機ケースに対して回動可能に支持されており、マニュアルシャフトの軸方向の位置決めは、シャフト受け穴内で、マニュアルシャフトに設けた溝にパイロット付きの位置決めボルトを係合させることで行っていた。
【特許文献1】特許第3673064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、マニュアルシャフトの位置決め時には、位置決めボルトを、変速機ケースからシャフト受け穴にかけて形成したネジ穴に締め付ける工程を必要とするため、工数がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、自動変速機の変速機ケースで回動可能に支持されているマニュアルシャフトのような回転軸の位置決めをより簡便に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自動変速機の変速機ケースで回動可能に支持された回転軸の支持構造であって、回転軸は、外周に設けた溝に挿入した位置決めピンにより、軸方向の移動が規制されており、変速機ケースでは、位置決めピンを挿入するピン挿入穴が、回転軸の支持構造部品以外の構成部品を固定するボルトのボルト穴の延長上に設けられており、ピン挿入穴とボルト穴とが連通している構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピン挿入穴に位置決めピンを挿入して回転軸の位置決めを行ったのち、回転軸の支持構造部品以外の構成部品を変速機ケースにボルトで固定するだけで、位置決めピンの取り付けが完了する。
よって、従来の位置決めボルトを用いる場合のように、変速機ケースに位置決め専用ボルト取り付け穴の加工及び、ボルトが不要となり変速機ケースのレイアウトの自由度が増す。更には、ボルトの締め付け工程を必要しないので、位置決めが簡便に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明にかかる回転軸の支持構造の実施形態を、シフトレバーの操作により回動するマニュアルシャフトの支持構造を例に挙げて説明する。
図1は、自動変速機の変速機ケースをトルクコンバータ側から見た図である。図2は、図1のX−X線断面図であり、図3は、図1を上方から見た部分切り欠き図である。
【0009】
マニュアルシャフト10は、自動変速機の変速機ケース100を上下に貫通して設けられている。
図2に示すように、変速機ケース100の上部には、シャフト挿通穴102を有する支持部101が設けられており、変速機ケース100の内部と下部にも、シャフト挿通穴103、104が設けられている。
【0010】
マニュアルシャフト10は、一端側から他端まで単一径を有しており、変速機ケース100の各シャフト挿通穴102、103、104に挿通された状態で回動可能に支持されている。
【0011】
変速機ケース100の下部から突出するマニュアルシャフト10の他端部には、雄ねじ11が設けられており、この雄ねじ11には、ボルト12が締め付けられている。
変速機ケース100内の支持部101よりも下側の位置では、後記するパーキング機構のマニュアルプレート51が固定されている。
また、変速機ケース100の上部には、オイルシール107が設けられている。
【0012】
シャフト挿通穴102内に位置するマニュアルシャフト10の外周面には、後記するロケートピン70の外径と略整合する幅の溝15が、周方向の全周に亘って形成されている(以下、この溝15をリング溝15と標記する)。
【0013】
変速機ケース100の上部から突出するマニュアルシャフト10の一端側には、レンジセレクトレバー20とインヒビタスイッチ30が固定されている。
レンジセレクトレバー20の基端部21には、マニュアルシャフト10の雄ねじ13を挿通する支持穴21aが設けられており、レンジセレクトレバー20は、支持穴21aを挿通させた雄ねじ13にナット14を締め込むことにより、マニュアルシャフト10に固定されている。
レンジセレクトレバー20の他端部22は、図示しないリンケージを介して、シフトレバーと連結しており、レンジセレクトレバー20は、運転者によるシフトレバーの操作に連動して操作されて、マニュアルシャフト10を回動させる。
【0014】
インヒビタスイッチ30は、変速機ケース100にボルト31で固定されており、内部の回動部材が、マニュアルシャフト10と一体に回動して接点を切り替えるようになっている。
【0015】
支持部101には、パーキング機構50のサポートアクチュエータ53の一端が、ボルト55で固定されている。
図1に示すように、パーキング機構50は、パーキングポール54の係合部54aを、自動変速機の出力軸に設けたパーキングギヤ110に対して係脱させて、出力軸の回転・停止を行うものである。
【0016】
図3に示すように、このパーキング機構50では、シフトレバーの操作に連動してマニュアルシャフト10が回動すると、マニュアルシャフト10に取り付けられたマニュアルプレート51が、パーキングロッド52を、図中矢印Aで示す方向に進退移動させる。
そして、Pレンジ位置(駐車位置)が選択された場合に、パーキングポール54の作動部54bとサポートアクチュエータ53との間(図1参照)に、パーキングロッド52のカム52aを挿入して、パーキングポール54を、支持軸57周りに、図中矢印Bで示す反時計回り方向に回動させて、係合部54aをパーキングギヤ110に係合させる。
【0017】
図1および図3に示すように、サポートアクチュエータ53の長手方向の一端および他端には、厚み方向に貫通するボルト穴53a、53bが設けられており、サポートアクチュエータ53は、ボルト穴53a、53bに挿通したボルト55、56により、変速機ケース100および支持部101に固定されている。
【0018】
図4の(a)は、変速機ケース100の支持部101近傍の拡大断面図であり、(b)は、(a)におけるY−Y線断面を変速機ケース100の側方から見た図である。図5は、図4の(b)におけるZ−Z線断面図である。
【0019】
図4の(a)に示すように、変速機ケース100の支持部101には、ボルト55が螺入されるボルト穴105と、マニュアルシャフト10の軸方向の移動を規制するロケートピン70が挿入されるロケートピン穴106とが設けられている。
ロケートピン穴106は、ボルト穴105の延長線上において、ボルト穴105に対して同軸に設けられている。これらボルト穴105およびロケートピン穴106は、それぞれマニュアルシャフト10の長手方向に対して直交する方向(図中左右方向)に沿って形成されており、互いに連通している。
【0020】
ロケートピン穴106に挿入されるロケートピン70は、先端側をマニュアルシャフト10のリング溝15に挿入して、マニュアルシャフト10の軸方向の移動を規制するものである。
ロケートピン70は、略円柱形状を有しており、先端70c側は、ロケートピン穴106への挿入を容易にするために縮径されている。
【0021】
ボルト穴105の内周面には、ボルト55の外周面の雄ねじ55aと螺合する雌ねじ105aが形成されており、ボルト55の先端面55bは、ボルト穴105の長手方向における中央部よりもロケートピン穴106側に位置している。
ボルト55の先端面55bは、平坦面とされており、ロケートピン70がマニュアルシャフト10から離れる方向へ移動した際に、ロケートピン70の後端70aと当設する。
【0022】
ロケートピン穴106は、ボルト穴105よりも小さい内径の基端部106aと、この基端部106aの先に形成されて、基端部106aよりも小さい内径であってロケートピン70の外径Wとほぼ整合する内径の先端部106bとから構成される。
図4の(b)に示すように、ロケートピン穴106の長さL2は、ロケートピン70の長さL1よりも短く設定されており、ロケートピン穴106の奥まで挿入されたロケートピン70の後端70aが、ボルト55の先端面55bから所定距離h離れた位置に配置されるようにされている。
【0023】
ここで、所定距離hは、ボルト55の先端面55bとロケートピン70の後端70aとが干渉して、ボルト穴105へのボルト55の締め付けが阻害されない長さであって、ロケートピン70がマニュアルシャフト10から離れる方向へ移動してボルト55に当接した際に、ロケートピン70の先端70c側がマニュアルシャフト10のリング溝15から外れない長さに設定されている。
【0024】
マニュアルシャフト10の軸方向から見た場合において、ロケートピン穴106は、先端部106bがマニュアルシャフト10の回転中心Oよりも径方向外側にオフセットした位置を通過するように設けられている。
【0025】
この際、ロケートピン穴106の中心線Lが、マニュアルシャフト10の外周面10aに対して略接線となる方向に沿うようにロケートピン穴106を形成して、ロケートピン穴106が、マニュアルシャフト10が挿通されるシャフト挿通穴102の周縁の一部と交差するようにしている。
このようにすることで、図4(b)および図5に示すように、ロケートピン穴106に挿入したロケートピン70の周縁70bが、マニュアルシャフト10のリング溝15の底部15a近傍に位置して、ロケートピン70が、リング溝15と確実に係合するようになる。
【0026】
かかる構成の支持構造によると、支持部101のロケートピン穴106に挿入したロケートピン70が、マニュアルシャフト10のリング溝15と係合して、マニュアルシャフト10の軸方向の移動が規制されるので、マニュアルシャフト10が変速機ケース100から抜けることを防止できる。
さらに、ロケートピン70が挿入されるロケートピン穴106は、ボルト穴105の延長線上において、ボルト穴105に連通して同軸に設けられているので、ロケートピン穴106に挿入されたロケートピン70は、マニュアルシャフト10から離れる方向への移動が、ボルト穴105に螺入したボルト55により規制される。
【0027】
以上の通り、自動変速機の変速機ケース100で回動可能に支持されたマニュアルシャフト10の支持構造であって、マニュアルシャフト10は、外周に設けたリング溝15に挿入したロケートピン70により、軸方向の移動が規制されており、変速機ケース100の支持部101では、ロケートピン70を挿入するロケートピン穴106が、サポートアクチュエータ53を支持部101に固定するボルト55のボルト穴105の延長上に設けられており、ロケートピン穴106とボルト穴105とが連通している構成とした。
これにより、ロケートピン穴106にロケートピン70を挿入してマニュアルシャフト10の位置決めを行ったのち、サポートアクチュエータ53を変速機ケース100の支持部101にボルト55で固定するだけで、ロケートピン70の取り付けが完了する。
よって、従来の位置決めボルトを用いる場合のようにボルトの締め付け工程を必要しないので、位置決めが簡便に行えるようになる。
さらに、サポートアクチュエータ53の固定に用いられるボルト55が、ロケートピン70の抜け止めとしても機能するので、従来の位置決めボルトを廃止して、従来よりも簡単な構成で位置決めが行える。
したがって、工程の削減と位置決めボルトの廃止が達成されるので、コストダウンに寄与することができる。
さらに、ロケートピン穴106の位置は、従来の位置決めボルトを用いる場合のネジ穴のように変速機ケース内の奥まったところではなく、変速機ケースの上部側であるので、マニュアルシャフト10の位置決めを行う際の操作がより容易に行えるようになる。
【0028】
また、マニュアルシャフト10は、変速機ケース100に形成されたシャフト挿通穴102、103、104に挿通して回動可能に設けられており、ロケートピン穴106は、シャフト挿通穴102を軸方向からみて、シャフト挿通穴102の周縁の一部と交差して設けられており、ロケートピン70は、当該ロケートピン70の周縁70bをリング溝15内に位置させた状態で配置されている構成とした。
図4の(b)を参照して、ロケートピン穴106の中心線Lがマニュアルシャフト10の回転中心Oを通るようにロケートピン穴106を形成すると、ロケートピン70の先端が、リング溝15の底部15aに当接することがある。
かかる場合、マニュアルシャフト10がロケートピン70により押されて、マニュアルシャフト10の回動が阻害されるおそれがある。
上記の実施形態では、ロケートピン穴106をシャフト挿通穴102の略接線方向に延出形成して、ロケートピン70の周縁70bがリング溝15内に位置するようにしており、ロケートピン70の先端がリング溝15の底部15aに当接することがない。よって、ロケートピン70が、マニュアルシャフト10の回動を阻害するフリクション要素となることがない。
【0029】
前記実施形態では、サポートアクチュエータ53を支持部101に固定するボルト55と、ロケートピン70とは別体に構成したが、ボルト55の先端にロケートピン70を固定して、これらを一体に形成するようにしても良い。
かかる場合、部品点数を削減して、コストダウンに寄与することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態にかかる回転軸の支持構造を説明する図である。
【図2】回転軸の支持構造を説明するための断面図である。
【図3】回転軸の支持構造を説明するための断面図である。
【図4】回転軸の支持構造を説明するための部分拡大図である。
【図5】回転軸の支持構造を説明するための拡大断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 マニュアルシャフト(回転軸)
15 リング溝(溝)
20 レンジセレクトレバー
30 インヒビタスイッチ
50 パーキング機構
53 サポートアクチュエータ
55 ボルト
70 ロケートピン(位置決めピン)
100 変速機ケース
101 支持部
102 シャフト挿通穴(挿通穴)
103、104 シャフト挿通穴
105 ボルト穴
106 ロケートピン穴(ピン挿入穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の変速機ケースで回動可能に支持された回転軸の支持構造であって、
前記回転軸は、外周に設けた溝に挿入した位置決めピンにより、軸方向の移動が規制されており、
前記変速機ケースでは、前記位置決めピンを挿入するピン挿入穴が、前記回転軸の支持構造部品以外の構成部品を固定するボルトのボルト穴の延長上に設けられており、前記ピン挿入穴と前記ボルト穴とは連通していることを特徴とする自動変速機における回転軸の支持構造。
【請求項2】
前記回転軸は、前記変速機ケースに形成された挿通穴に挿通して設けられており、
前記ピン挿入穴は、前記挿通穴を前記回転軸の軸方向から見て、前記軸挿通穴の周縁の一部と交差して設けられており、
前記位置決めピンは、当該位置決めピンの周縁を前記溝内に位置させて配置されることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機における回転軸の支持構造。
【請求項3】
前記ボルトと前記位置決めピンとは一体に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動変速機における回転軸の支持構造。
【請求項4】
前記回転軸はシフトレバーの操作に連動して回動するマニュアルシャフトであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の自動変速機における回転軸の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−236201(P2009−236201A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82304(P2008−82304)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】