説明

自動変速機のレンジ切替装置

【課題】バイワイヤ方式のレンジ切替装置10において、ディテント部材51に過大な負荷をかけることのない比較的簡易な形態でありながら、レンジ切り替え制御上の零点位置を精度良く学習できるようにする。
【解決手段】制御装置40は、パーキングレンジPの谷56に係合部57が係合している状態から、当該谷56の一方斜面上の所定範囲内に係合部57を配置させて、その停止位置の情報Vcを取得するとともに、当該変位過程におけるアクチュエータ60の実駆動量を取得する処理(S2〜S7)と、この処理で取得した実駆動量と同じ駆動量で、アクチュエータ60を前記と逆向きに駆動することにより谷56の他方斜面上に係合部57を配置させて、その停止位置の情報Vdを取得する処理(S8,S9)と、前記取得した二つの停止位置情報Vc,Vdに基づいて谷56の底位置を算出して、この算出値を前記零点位置とする処理(S10)とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される自動変速機のレンジ切り替えをアクチュエータで行うバイワイヤ方式のレンジ切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両用の自動変速機では、例えば車両の運転席付近に設置されるシフトレバーを運転者が操作することにより、パーキングレンジ(P),リバースレンジ(R),ニュートラルレンジ(N),ドライブレンジ(D)等の中から、選択されたシフトレンジを成立させるように構成されている(例えば特許文献1,2参照。)。
【0003】
近年では、いわゆるバイワイヤ方式のレンジ切替装置が考えられており、運転者がシフトレバーを操作すると、シフトレバーで選択されたレンジポジションをセンサ等で検出し、この検出信号に基づいてシフトレンジ切替用の油圧制御装置の一構成要素であるマニュアルバルブの状態やパーキング機構の状態を変更するようになっている。
【0004】
ここで、バイワイヤ方式のレンジ切替装置は、マニュアルバルブのスプールやパーキング機構のパーキングロッドを段階的に押し引きして位置決めするためのディテント機構と、ディテント機構を駆動するためのアクチュエータと、アクチュエータを制御する制御装置とを含んでいる。
【0005】
前記ディテント機構は、前記アクチュエータにより傾動されることで前記スプールやパーキングロッドを押し引きするディテントプレートと、ディテント部材の停止姿勢を保持するディテントスプリングとを含む。
【0006】
前記ディテントプレートには、その傾動中心にアクチュエータの出力軸に連結される支軸が一体的に取り付けられており、また、ディテントプレートの回転角毎に対応する複数の谷および当該谷間の山からなる波形部が設けられている。
【0007】
前記ディテントスプリングは、その自由端側に前記波形部のいずれかの谷に係合される係合部としてのディテントローラが設けられている。このディテントスプリングは、ディテントローラを谷に係合すると、当該係合状態を保つように弾性力をディテントプレートに付与する。
【0008】
アクチュエータは、電動式のモータ等と、このモータの出力を減速して出力軸に伝える減速機構とを備えている。このようなアクチュエータは、一般的に、モータのロータから出力軸までの間に回転方向の遊び(バックラッシや組立誤差等)が存在している。また、アクチュエータの出力軸とディテントプレートの支軸との連結をスプライン嵌合とするような場合には、当該連結部分にバックラッシが存在するため、アクチュエータからディテントプレートまでの動力伝達経路には、アクチュエータの内部遊びと前記連結遊びとが存在する。
【0009】
ここで、参考までに、シフトレバーでパーキングレンジPが選択された場合には、ディテントプレートが所定角度傾動され、このディテントプレートの傾きに連動して、パーキング機構のパーキングロッドを例えば奥へ押して、自動変速機のアウトプットシャフトを回転不可能なロック状態とするようになっている。
【0010】
また、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDが選択された場合には、ディテントプレートが所定角度傾動され、このディテントプレートの傾きに連動して、パーキングロッドを例えば手前に引っ張って自動変速機のアウトプットシャフトを回転可能なアンロック状態にするとともに、マニュアルバルブのスプールを軸方向に変位させることによって、自動変速機の変速機構部に備えるクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素を係合または解放させることにより、要求のレンジを成立させるようになっている。
【0011】
なお、上記いずれの状況でも、ディテントプレートが停止されると、ディテントプレートの波形部のいずれかの谷に、ディテントローラが係合されることになって、ディテントプレートの姿勢が位置決め保持される。
【0012】
ところで、上述したようなレンジ切替装置は、一般的に、アクチュエータからディテントプレートまでの動力伝達経路に存在する遊びによって、ディテントプレートを傾動させる際に、アクチュエータのモータの目標回転角とディテントプレートの実際の回転角とにずれが生じるために、レンジ切り替え制御上の零点位置(基準位置)がばらつくことがある。
【0013】
そこで、前記の零点位置を例えば工場出荷時やバッテリ外し後の再装着時等において、学習することが容易に考えられるが、その場合、学習を行う頻度が少ないために、不十分である。
【0014】
これに対し、レンジ切り替え回数が所定以上になると、レンジ切り替え制御上の基準位置(零点)を検出する技術が提案されている(例えば特許文献3参照。)。
【0015】
この従来例は、パーキングレンジと非パーキングレンジとの二ポジションの切り替えを行う構成であって、ディテントプレートのパーキングレンジ溝のP壁位置をレンジ切り替え制御上の基準位置(零点)としている。
【0016】
そして、前記従来例において基準位置を検出する手法としては、パーキングレンジ谷にディテントスプリングのころ(ディテントローラに相当)を係合させている状態において、このころをパーキングレンジ谷のP壁に押し付けるようにアクチュエータを駆動し、停止位置でのP壁位置を検出するようにしている。
【0017】
なお、前記押し付けによりP壁に撓みが発生することを考慮し、前記検出値に撓み量または撓み角を加味するように補正し、P壁位置の検出精度を高めるようにしている。
【特許文献1】特開平5−99326号公報
【特許文献2】特開平5−203042号公報
【特許文献3】特開2004−308752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記特許文献3に係る従来例は、基本的に二つのポジション(パーキングレンジと非パーキングレンジ)の切り替えを行う構成を前提としていて、本発明のように少なくとも三つ以上のポジションの切り替えを行う構成とは発明の前提が相違している。
【0019】
但し、特許文献3に係る従来例にも、三つ以上のポジションの切り替えを行うものにも適用できる旨の記載がある。
【0020】
しかしながら、三つ以上のポジション切り替えの場合には、パーキングレンジ谷にディテントスプリングのころを吸い込ませるための付勢力を強くすることが要求されるが、その場合にはパーキングレンジから他のレンジに切り替える際に、パーキングレンジ谷からころを比較的簡易に外せるようにする必要がある。
【0021】
そのために、前記三つ以上のポジション切り替えの場合に用いるモータは、二つのポジション切り替えの場合に用いるモータに比べて、発生トルク容量を大きいものとする必要がある。
【0022】
このようなモータを用いていると、基準位置を検出するにあたって、P壁にディテントスプリングのころを押し付ける際に、モータの発生トルクが過剰となり、P壁を破損するおそれがある。
【0023】
この他、モータの発生トルクは、季節等、雰囲気温度の高低に応じて変化することは避けられない。言うまでも無いが、モータの発生トルクは、雰囲気温度が低い場合、高い場合に比べて増加する。そのため、前記のP壁押し付けを行う際、モータ周辺の雰囲気温度が低い場合には、モータの発生トルクが過剰となり、P壁に対する押圧力が必要以上に強くなってしまい、P壁を破損しやすくなることが懸念される。また、破損に至らなくても零点学習のためのレンジ山(ディテントプレートの波形部の山)のころ登り量が発生トルクの変化により、ばらついてしまうことが懸念される。
【0024】
本発明は、例えば車両に搭載される自動変速機のレンジ切り替えをアクチュエータで行うバイワイヤ方式のレンジ切替装置において、ディテント部材に過大な負荷をかけることのない比較的簡易な形態でありながら、レンジ切り替え制御上の零点位置を精度良く学習できるようにし、レンジ切り替えの信頼性を向上可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、自動変速機のレンジ切り替え用のバルブを変位させるディテント部材と、ディテント部材を位置決めするための位置決め部材と、前記ディテント部材を変位させるアクチュエータと、このアクチュエータを制御する制御装置とを含む、バイワイヤ方式のレンジ切替装置であって、前記ディテント部材は、三つ以上の谷および当該各谷間の山からなる波形部を有し、前記位置決め部材は、前記いずれかの谷に係合される係合部を有しかつ当該係合部を谷底へ吸い込むよう付勢するものであり、前記制御装置は、前記いずれか一端側の谷に係合部が係合している状態から、当該谷の一方斜面上の所定範囲内に前記係合部を配置させるまでディテント部材を変位させて、このディテント部材の停止位置の情報を取得するとともに、当該変位過程における前記アクチュエータの実駆動量を取得する第1情報収集処理と、前記ディテント部材の停止後、前記第1情報収集処理で取得した実駆動量と同じ駆動量で、アクチュエータを前記と逆向きに駆動することにより前記谷の他方斜面上に係合部を配置させるようディテント部材を変位させて、前記アクチュエータが駆動停止した時点における前記ディテント部材の停止位置情報を取得する第2情報収集処理と、前記両情報収集処理で取得した二つの停止位置情報に基づいて前記谷の底位置を算出して、この算出値をディテント部材の変位制御上の零点とする設定処理とを行う、ことを特徴としている。
【0026】
この構成では、一端側の谷の一方斜面上に係合部を配置させるようにディテント部材を一方向へ変位(例えば傾動)させることによって前記アクチュエータからディテント部材までの動力伝達経路に存在する遊びを一方向へ詰めておいて、そのときのアクチュエータの駆動量と同じ駆動量でもって前記と逆に前記谷の他方斜面上に係合部を配置させることによって前記遊びを他方向へ詰めるようにしている。
【0027】
これにより、両斜面上で係合部が停止したときの位置情報の中央が遊びの中央位置となるので、この中央の位置情報を前記一端側の谷における底の位置とし、その位置を学習するようにしている。
【0028】
このように、従来例のようなP壁押し付けのような形態に比べてディテント部材に過大な負荷をかけることがなく、また、撓み補正といった誤差要因を省くことが可能になるから、比較的簡易な形態でありながら、レンジ切り替え制御上の零点位置を精度良く学習することが可能になる。
【0029】
しかも、上記零点位置の学習を例えば車両の使用毎等、定期的に行うようにすれば、レンジ切替装置の使用経過に関係なく、レンジ切り替え時のディテント部材の動作制御を長期にわたって精度良く行うことが可能になる等、レンジ切り替えの信頼性向上に貢献できるようになる。
【0030】
また、本発明は、自動変速機のレンジ切り替え用バルブを変位させるディテント部材と、ディテント部材を位置決めするための位置決め部材と、前記ディテント部材を変位させるアクチュエータと、このアクチュエータを制御する制御装置とを含む、バイワイヤ方式のレンジ切替装置であって、前記ディテント部材は、三つ以上の谷および当該各谷間の山からなる波形部を有し、前記位置決め部材は、前記いずれかの谷に係合される係合部を有しかつ当該係合部を谷底へ吸い込むよう付勢するものであり、前記制御装置は、前記ディテント部材の一端側のパーキングレンジに対応する谷を前記係合部に係合させた状態での当該谷の底をレンジ切り替え制御上の零点位置とし、当該零点位置からその他の各谷の底位置まで変位させるのに必要なディテント部材の変位量情報が記憶される記憶手段と、レンジ切り替え要求に応答して、目標となる谷に前記係合部に係合させるための変位量情報を前記記憶手段から取り出し、当該変位量情報に基づき前記アクチュエータを制御する実行手段と、パーキングレンジが成立している状態での適宜タイミングにおいて前記零点を学習する学習手段とを含み、前記学習手段は、前記パーキングレンジに対応する谷に係合部が係合している状態から、当該谷の一方斜面上の所定範囲内に前記係合部に配置させるまでディテント部材を変位させて、このディテント部材の停止位置の情報を取得するとともに、当該変位過程における前記アクチュエータの実駆動量を取得する第1情報収集処理と、前記ディテント部材の停止後、前記第1情報収集処理で取得した実駆動量と同じ駆動量で、アクチュエータを前記と逆向きに駆動することにより前記谷の他方斜面上に係合部を配置させるようディテント部材を変位させて、前記アクチュエータが駆動停止した時点における前記ディテント部材の停止位置情報を取得する第2情報収集処理と、前記両情報収集処理で取得した二つの停止位置情報に基づいて前記パーキングに対応する谷の底位置を算出して、この算出値を前記記憶手段に記憶してある零点として書き換える設定処理とを行う、ことを特徴としている。
【0031】
このように、レンジ切り替えを行うための手段を特定することにより、レンジ切替装置の構成を明確にしている。
【0032】
好ましくは、前記レンジ切替装置において、前記アクチュエータは、必要に応じて前記ディテント部材を傾動させるもので、回転動力を発生する電動式のモータと、このモータで発生した回転動力を減速して前記ディテント部材の支軸に同軸かつ一体回転可能にスプライン嵌合により連結される出力軸から出力させる減速機構と、前記アクチュエータの出力軸の回転角をそれに対応する電圧値として検出出力する出力角検出手段を含む、構成とすることができる。その場合には、前記第1情報収集処理で取得するアクチュエータの実駆動量は、前記モータへの通電開始時点から停止時点までにおける前記モータへの通電量の積算値とされ、前記両情報収集処理で取得する停止位置情報は、前記出力角検出手段で検出出力される実電圧値とされる。
【0033】
このように、ディテント部材の変位形態、アクチュエータで発生する動力形態、ならびに取得する情報の形態等を特定することにより、レンジ切替装置の構成を明確にしている。
【0034】
好ましくは、前記モータは、適宜のデューティー比のパルス波により制御される、ものとすることができる。
【0035】
このように、モータへの通電形態を特定すれば、情報収集処理にてディテント部材を停止させた位置で保持されるようになるから、停止位置での位置情報を容易に取得することが可能になる他、第1情報収集処理にてモータへの通電量の積算値を容易に取得することが可能になる等、各処理の簡易化につながる。
【0036】
好ましくは、前記ディテント部材のレンジ切り替えの零点基準となる谷の形状は、その底を中心として左右対称とされ、前記設定処理では、前記二つの停止位置情報の中央位置を算出する、ものとすることができる。
【0037】
この構成によれば、仮に、アクチュエータで回転動力を発生してディテント部材を傾動させる構成とする場合において、各谷の底を中心とした一方の斜面上での停止位置で取得する情報を出力角検出手段からの出力電圧値Vc、他方の斜面上での停止位置で取得する情報を出力角検出手段からの出力電圧値Vdとしたとき、前記両電圧値Vc,Vdの中央位置が谷の底位置、つまり零点位置となる。このように、零点位置は、(Vd−Vc)÷2といった簡単な計算式で求めることが可能になる。
【0038】
好ましくは、前記第1情報収集処理の実行開始タイミングは、自動変速機が搭載される車両のイグニッションスイッチがオンされたときとされる。
【0039】
このように、零点学習を、従来例のように工場出荷時のみでなく、比較的頻繁に行わせるようにすれば、レンジ切替装置の使用経過に関係なく、レンジ切り替え時のディテント部材の動作制御を長期にわたって精度良く行うことが可能になる等、レンジ切り替えの信頼性向上に貢献できるようになる。
【0040】
好ましくは、前記制御装置は、零点学習中にレンジ切り替え要求を受けたときに、前記学習を中断して、既に設定されている零点を基準として要求レンジへの切り替えを行う、構成とすることができる。
【0041】
この場合、零点学習よりレンジ切り替え要求を優先するから、レンジ切り替え要求に対する応答性が良好となり、運転者にレンジ切り替えのもたつき感を与えずに済む。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る自動変速機のレンジ切替装置は、ディテント部材に過大な負荷をかけることのない比較的簡易な形態でありながら、撓み補正量の経年変化や雰囲気温度変化によるモータ発生トルク変化の影響を受けない。これは、零点補正の際にディテント部材を両側へ変位させることで発生トルク変化によるレンジ山(ディテント部材の波形部の山)の係合部の登り量のばらつきを相殺しているためであり、これにより、レンジ切り替え制御上の零点位置を精度良く学習することが可能になる。したがって、レンジ切り替え時のディテント部材の動作制御を長期にわたって精度良く行うことが可能になる等、レンジ切り替えの信頼性を向上可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の最良の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。まず、図1から図11に、本発明に係る自動変速機のレンジ切替装置の一実施形態を示している。
【0044】
ここで、本発明の特徴を適用した部分の説明に先立ち、レンジ切替装置の概略構成について、図1から図8を参照して説明する。
【0045】
これらの図において、1は自動変速機、10はレンジ切替装置である。
【0046】
自動車等の車両に搭載される自動変速機1は、例えば車両運転席近傍に設置されるパーキングスイッチ11やシフトレバー12等を運転者が手動操作することに応答して、例えばパーキングレンジP,リバースレンジR,ニュートラルレンジN,ドライブレンジD等を成立するようになっている。この自動変速機1の動作は、ECT_ECU(Electronic Controlled automatic Transmission-Electronic Control Unit)2によって制御される。
【0047】
図2を参照して、パーキングスイッチ11やシフトレバー12の形態を説明する。
【0048】
パーキングスイッチ11は、人的な押動操作の度に、パーキングレンジPに対応する信号と、非パーキングレンジNPに対応する信号とを交互に出力するものであって、例えば運転席近傍に設置されるシフト台9の所定位置に設置されている。
【0049】
シフトレバー12は、シフト台9においてパーキングスイッチ11の近傍に設置されており、人的な傾動操作を受けることに伴い、シフトセンサ13から適宜の信号(ニュートラルレンジNに対応する信号、リバースレンジRに対応する信号、ドライブレンジDに対応する信号等)を出力させるようになっている。
【0050】
このシフトレバー12は、いわゆるモーメンタリータイプとされていて、図2に示すように、シフト台9のシフトゲート9a内におけるホームポジションHを起点にしてニュートラルポジションN、リバースポジションR、ドライブポジションD、エンジンブレーキポジションBへと傾動操作可能になっているとともに、ホームポジションHから、ニュートラルポジションN、リバースポジションR、ドライブポジションD、エンジンブレーキポジションBに傾動操作した後は、自動的にホームポジションHに戻るようになっている。
【0051】
なお、シフトセンサ13は、シフトレバー12がホームポジションHから横方向一方に倒されてニュートラルポジションNに傾動操作されたときにニュートラルレンジNに対応する信号を出力し、また、ニュートラルポジションNから前方向のリバースポジションRに向けて傾動操作されたときにリバースレンジRに対応する信号を出力し、さらに、ニュートラルポジションNから後方向のドライブポジションDに向けて傾動操作されたときにドライブレンジDに対応する信号を出力し、そして、ホームポジションHから後方向のエンジンブレーキポジションBに向けて傾動操作されたときにエンジンブレーキを効かせるための信号を出力するようになっている。
【0052】
レンジ切替装置10は、いわゆるバイワイヤ方式と呼ばれるものであり、運転者によりパーキングスイッチ11あるいはシフトレバー12等が手動操作されることにより要求されたシフトレンジ(P,R,N,D)を成立させるために、自動変速機1の油圧制御装置4の一構成要素であるマニュアルバルブ20およびパーキング機構30を作動させるものであって、図1に示すように、主として、SBW_ECU(Shift by Wire-Electronic Control Unit)40と、ディテント機構50と、アクチュエータ60とを含んで構成されている。
【0053】
マニュアルバルブ20は、自動変速機1に備える各種のブレーキやクラッチの係合動作を制御する油圧制御装置4の構成要素の一つである。
【0054】
なお、油圧制御装置4は、一般的に公知であるが、前記マニュアルバルブ20の他に、前記各種のブレーキやクラッチの係合動作を制御する複数のリニアソレノイドバルブを備えており、シフトレバー12の操作に応答してマニュアルバルブ20が作動されて前記各リニアソレノイドバルブに対する作動油供給経路が変更されることによって、前記操作に対応するレンジを成立するものである。
【0055】
このマニュアルバルブ20は、一般的に公知のスプールバルブタイプであり、主として、バルブボディ21と、スプール22とを含んだ構成になっている。
【0056】
バルブボディ21は、自動変速機1のケース内の適宜場所に固定されかつ適宜の給油ポートや排出ポートを有している。スプール22は、バルブボディ21に軸方向変位可能に収納されている。
【0057】
パーキング機構30は、図3に示すように、自動変速機1のアウトプットシャフト3を回転不可能なロック状態あるいは回転可能なアンロック状態に切り替えるもので、主として、パーキングギア31と、パーキングロックポール32と、パーキングロッド33とを含んだ構成になっている。
【0058】
パーキングギア31は、自動変速機1のアウトプットシャフト3に一体回転可能に外装固定されている。
【0059】
パーキングロックポール32は、パーキングギア31の近傍に一端側を支点として傾動自在となるように配置されている。このパーキングロックポール32の長手方向途中には、パーキングギア31の歯間に係入または離脱可能とされる爪32aが設けられている。なお、パーキングロックポール32は、図示省略のばねによってパーキングギア31から引き離される方向に常時付勢されている。
【0060】
パーキングロッド33は、自動変速機1のアウトプットシャフト3と略平行に前端側または後端側に変位されるように配置されている。
【0061】
このパーキングロッド33の前端は、下記するディテントプレート51に連結されていて、このディテントプレート51の傾動動作によって押し引きされる。
【0062】
また、パーキングロッド33の後端には、パーキングロックポール32を傾動させるためのテーパコーン37が設けられている。このテーパコーン37は、コイルスプリング38によりパーキングギア31側へ押圧されている。このコイルスプリング38は、パーキングロッド33に外装されており、その一端がパーキングロッド33に係止固定されている止め輪39によって受け止められている。
【0063】
SBW_ECU40は、レンジ切替装置10の動作を制御するものであって、詳細に図示していないが、一般的なECUと同様に、CPU、ROM、RAMならびにバックアップRAM等を含んだ構成であり、図示していないエンジン制御用のENG_ECUや自動変速機1制御用のECT_ECU2と、互いに必要な情報を双方向で送受信可能に接続されている。そして、ECT_ECU2とSBW_ECU40とが、必要に応じて自動変速機1を要求の変速段に切り替える変速処理を実行する。
【0064】
このSBW_ECU40には、図1に示すように、主として、イグニッションスイッチ8、パーキングスイッチ11、シフトセンサ13、ロータ角検出手段14、出力角検出手段15等が図示していない入力インタフェースを介して接続されているとともに、アクチュエータ60のモータ61等が図示していない出力インタフェースを介して接続されている。
【0065】
この実施形態では、SBW_ECU40に接続される構成要素について本発明の特徴に関連するもののみにして、本発明の特徴に直接的に関連しないものについての記載や説明を割愛している。
【0066】
なお、ロータ角検出手段14および出力角検出手段15は、従来公知の構成(例えば特開2006−322553号公報参照)であるので、詳細な図示や説明を割愛し、簡単に説明する。
【0067】
ロータ角検出手段14は、モータ61のロータの回転角を検出するものであって、ロータの外周に設置される磁石あるいはロータの外周に交互に反対の極性で磁化される磁極と、磁気検出用のホールICとで構成され、ロータの回転量に応じた数のパルスを出力するデジタルエンコーダである。
【0068】
出力角検出手段15は、アクチュエータ60の出力軸63の回転角を検出するものであって、出力軸63の外面側の所定回転角範囲に設置されかつ円周方向一方へ向けて断面積が漸増する磁石と、リニア出力ホールICとで構成され、出力軸63の回転角に応じた前記磁石の磁力を検出し、その検出磁力に応じたリニアなアナログ信号(電圧)を出力するアナログ磁気センサである。このアナログ磁気センサとしては、例えばニュートラルスイッチ(NSW)等と呼ばれるものとされる。
【0069】
ディテント機構50は、マニュアルバルブ20のスプール22やパーキング機構30のパーキングロッド33を段階的に押し引きして位置決めするものであって、主として、ディテントプレート51と、支軸(マニュアルシャフトとも言う)52と、ディテントスプリング53とを含んだ構成になっている。
【0070】
ディテントプレート51は、アクチュエータ60により傾動されることでマニュアルバルブ20のスプール22やパーキング機構30のパーキングロッド33を押し引きするものである。
【0071】
このディテントプレート51は、外形が扇形に形成されており、その傾動中心となる領域には、当該ディテントプレート51と別体の支軸52が貫通する状態で一体回転可能に固定されるようになっている。
【0072】
具体的に、ディテントプレート51と支軸52との連結は、例えばディテントプレート51の傾動支点部分に円筒ボス部(図示省略)を設けるとともに、この円筒ボス部の内孔に支軸52を嵌合し、例えばスプリングピン等(図示省略)を打ち込むことにより連結する形態になっているが、その他の形態でもよい。
【0073】
これにより、支軸52が回転されると、それと一体にディテントプレート51が回転(または傾動)するようになる。なお、ディテントプレート51と支軸52とを一体に形成してもよい。
【0074】
支軸52の軸方向一端側は、アクチュエータ60の出力軸63に同軸かつ一体回転可能に連結されており、また、支軸52の軸方向他端は、図示していないが、例えば自動変速機ケース1a等に回動可能に支持される。
【0075】
このディテントプレート51の支軸52とアクチュエータ60の出力軸63との連結は、例えばスプライン嵌合とされている。つまり、支軸52の一端側外周には、オススプライン(符号省略)が設けられており、また、アクチュエータ60の出力軸63には、その内径側の横穴部分の内周面にメススプライン(符号省略)が設けられている。これにより、アクチュエータ60でもって支軸52を正逆両方向に所定角度回転駆動すると、ディテントプレート51が傾動されるようになるのである。
【0076】
そして、ディテントプレート51の所定位置には、マニュアルバルブ20のスプール22の前端が連結されているとともに、パーキング機構30のパーキングロッド33の前端が連結されている。これにより、ディテントプレート51を傾動させると、マニュアルバルブ20のスプール22が軸方向に変位させられるとともに、パーキングロッド33が軸方向に変位させられるようになる。
【0077】
なお、ディテントプレート51に対するスプール22の連結形態については、ディテントプレート51の所定位置に支軸52と平行に取り付けられるピン58を、スプール22の外端部分に設けられている二枚の円板の間に介装させるようにしている。
【0078】
また、ディテントプレート51に対するパーキングロッド33の連結形態としては、ディテントプレート51の長手方向一端側に設けられる貫通孔59に、パーキングロッド33の先端屈曲部を挿入してから、この先端屈曲部に図示省略のスナップリングや係止ピン等を装着したり、あるいは先端屈曲部を塑性変形したりすることによって抜け止め固定するようになっている。
【0079】
このディテントプレート51は、シフトレバー12により選択されるシフトレンジ(例えばパーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジNならびにドライブレンジD)に対応して例えば四段階に傾動されて、その傾動姿勢に応じてマニュアルバルブ20のスプール22を軸方向に四段階に変位させるようになっている。
【0080】
そのために、ディテントプレート51の上端側には、波形部54が設けられている。波形部54の山の部分に符号55を、谷の部分に符号56を付している。
【0081】
この波形部54は、シフトレバー12における四段階のシフトレンジ(パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジNならびにドライブレンジD)に対応する数(四つ)の谷56を有している。そして、図2に示すように、ディテントプレート51において四つの谷56の近傍には、「P,R,N,D」というマークが付記されている。
【0082】
このようなディテントプレート51においては、図7に示すように、パーキングレンジPに対応する谷56の底YPの回転角θPをレンジ切り替え制御上の零点位置(基準位置)とするとともに、パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDに対応する各谷56の底YP,YR,YN,YD間における中心角θP-R,θR-N,θN-Dを設計上の定数値とし、これらの定数値が予めSBW_ECU40のバックアップRAM等に記憶されている。
【0083】
ディテントスプリング53は、ディテントプレート51の四段階の傾動姿勢を個別に位置決め保持するもので、可撓性を有する帯状の板ばねからなり、その先端の二股部分に、係合部としてのディテントローラ57を回動可能に支持させた構成になっている。
【0084】
なお、ディテントローラ57は、詳細に図示していないが、中空形状であり、その中心孔に支軸が挿通され、この支軸の軸方向両端がディテントスプリング53の二股部分に固定されている。
【0085】
このディテントスプリング53の一端側は、この実施形態においてマニュアルバルブ20のバルブボディ21等に固定されている。また、ディテントローラ57は、ディテントプレート51の波形部54におけるいずれかの谷56に係合されるものであるが、その状態において、ディテントスプリング53そのものが若干弾性変形して反った姿勢となるように設置することによって、ディテントスプリング53の弾性復元力でもってディテントローラ57を谷56の底に押し付けるように作用させて、係合状態を強くする形態としている。
【0086】
但し、ディテントスプリング53のディテントローラ57を谷56に係合した状態において、ディテントスプリング53そのものを略真っ直ぐな自然姿勢とするように設置することも可能である。
【0087】
アクチュエータ60は、ディテント機構50を駆動するものであって、詳細に図示していないが、回転動力発生部としての電動式のモータ61と、減速機構62と、出力軸63とを、ケース64内に収納した構成になっている。このアクチュエータ60は、例えば自動変速機1のケース1a(図4のみ記載)にボルト等で着脱可能に取り付けられる、外付けタイプとされている。
【0088】
モータ61は、例えば永久磁石を用いないブラシレスのSR(スイッチトリラクタンス)モータとされ、図示していないが、回転自在に支持されるロータと、このロータの回転中心と同軸上に配置されるステータとで構成される。
【0089】
減速機構62は、詳細に図示していないが、例えば、サイクロイドギヤを用いる機構や、複数の歯車を組み合わせた歯車機構や、遊星歯車機構等のいずれかとされる。この減速機構62の入力部材(図示省略)は、モータ61のロータ(図示省略)に連結されており、また、減速機構62の出力部材(図示省略)に、出力軸63が一体に設けられている。
【0090】
ケース64の所定範囲には、図4に示すように、出力軸63の端部を外部に露呈するための筒形ボス部66が設けられている。この筒形ボス部66に対して出力軸63が非接触とされていて、出力軸63が回転自在になっている。筒形ボス部66の開口から出力軸63が外部に露呈している。
【0091】
次に、上述した構成のレンジ切替装置10の基本的な動作を説明する。
【0092】
そもそも、運転者がパーキングスイッチ11またはシフトレバー12を手動操作することにより、自動変速機1のパーキングレンジ(P),リバースレンジ(R),ニュートラルレンジ(N),ドライブレンジ(D)等のいずれかが選択されると、SBW_ECU40は、パーキングスイッチ11やシフトセンサ13からの出力に基づき前記選択されたレンジポジションを認識する。
【0093】
SBW_ECU40は、前記認識した結果に応じて、アクチュエータ60の出力軸63を正回転または逆回転させるよう駆動し、支軸52およびディテントプレート51を適宜、回転(傾動)させる。詳しくは、SBW_ECU40は、レンジ切り替え要求に応答して、要求レンジに対応する目標回転角(目標パルスカウント値)を設定して、モータ61への通電を開始し、ロータ角検出手段14の検出出力つまりモータ61のロータの検出回転角(実パルスカウント値)が前記目標回転角と一致する位置で停止させるようにモータ61をフィードバック制御する。
【0094】
このとき、ディテントプレート51の波形部54の山55がディテントローラ57に当接することによってディテントスプリング53が一旦上向きに弾性変形されて、ディテントローラ57が波形部54における次の谷(56)に係合することになり、ディテントプレート51がディテントスプリング53の弾性復元力(付勢力)により位置決め保持される。
【0095】
このディテントプレート51の傾動によりマニュアルバルブ20のスプール22が軸方向にスライドされ、マニュアルバルブ20が「P」,「R」,「N」,「D」のうちの選択されたレンジポジションへと切り替えられる。これにより、油圧制御装置4が適宜に駆動されて自動変速機1における適宜の変速段を成立することになる。
【0096】
なお、SBW_ECU40は、出力角検出手段15から出力される実電圧値を読み込んで、その実電圧値に基づいて現在の出力軸63の回転角(マニュアルバルブ20の操作量)、つまり、現在のレンジ(実レンジ)がパーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDのいずれであるかを認識し、この認識した現在のレンジ(実レンジ)と要求レンジ(目標レンジ)とを対比することによりレンジ切り替えが正常に行われたか否かを判断する。この出力角検出手段15の出力電圧値VP,VR,VN,VDは、図8に示すように、予め、パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDの回転角θP,θR,θN,θDと対応付けられており、この対応関係のマップが、予めSBW_ECU40のバックアップRAM等に記憶されている。
【0097】
そして、パーキングレンジPが選択された場合には、マニュアルバルブ20が「P」ポジションに切り替えられるとともに、パーキング機構30のパーキングロッド33が軸方向にスライドされ、パーキングロックポール32の爪32aをパーキングギア31に係合させるようになる。これにより、自動変速機1のアウトプットシャフト3が回転不可能なロック状態にされる。
【0098】
また、パーキングレンジPの位置からそれ以外のレンジが選択された場合には、SBW_ECU40は、アクチュエータ60を駆動することにより、支軸52を所定方向に所定角度回転させることにより、ディテントプレート51が傾動されることになり、それに伴いパーキングロッド33およびテーパコーン37が前記と逆向きに軸方向にスライドされて、テーパコーン37によるパーキングロックポール32の押し上げ力を解除する。
【0099】
これにより、パーキングロックポール32が下向きに下がって、その爪32aがパーキングギア31の歯間から抜け出るので、アウトプットシャフト3が回転可能なアンロック状態にされる。それと同時に、マニュアルバルブ20のスプール22が目標の位置に変位されて、油圧制御装置4において適宜の作動油供給経路を作成する。
【0100】
ところで、上述したレンジ切替装置10において、アクチュエータ60のモータ61からディテントプレート51までの動力伝達経路に回転方向の遊び(バックラッシや組立誤差等)が存在していると、ディテントプレート51の姿勢変更過程でアクチュエータ60の駆動力を受けずにディテントプレート51が自走する現象が発生する。この自走現象の他の表現としては、ディテントローラ57が谷56の底に吸い込まれる現象とも言われる。
【0101】
このような現象について、図5および図6を参照して説明する。
【0102】
仮に、ディテントプレート51をパーキングレンジPからリバースレンジRへ切り替えるために、1レンジ分傾動させる場合、まず、図5に示すように、ディテントローラ57がディテントプレート51の波形部54の谷56(P)から山55へ上るとき、アクチュエータ60のモータ61を駆動開始してから、当該モータ61からディテントプレート51までの動力伝達経路に存在する回転方向の遊びαを詰めるまでの間は、モータ61からディテントプレート51にモータ61の駆動力(トルク)が伝達されない。
【0103】
図5の実線で示すように、前記遊びαが詰まってモータ61の駆動力がディテントプレート51に伝達されると、ディテントプレート51が傾動されてディテントローラ57が谷56(P)から山55を上り始める。この上り過程では、ディテントローラ57が図5中の−F方向に押されるために、ディテントスプリング53が弾性変形して、弾性復元力が蓄積されることになる。
【0104】
この後、図6に示すように、ディテントローラ57が波形部54の山55を越えて要求レンジに対応する谷56(R)に係入し始めるときに、前記蓄積されたディテントスプリング53の弾性復元力Fによってディテントローラ57が谷側に押さえ込まれることになる。このディテントローラ57からの付勢力によってディテントプレート51が図6中の実線から一点鎖線で示すように傾動方向前方へ押されることになる。その間、モータ61の駆動力がディテントプレート51に伝達されないので、前記詰められた遊びαが再度広がって、ディテントローラ57が要求レンジに対応する谷56を滑り落ちるようになる。
【0105】
この現象をディテントプレート51の「自走」、あるいはディテントローラ57の「吸い込み」等と呼んでおり、その間、ディテントプレート51の回転角変化が、モータ61のロータの回転角変化より先行するので、再度、図6の一点鎖線で示すように、前記詰められた遊びαが広がりながら、ディテントローラ57が要求レンジ(R)に対応する谷56の底に係合することになる。
【0106】
参考までに、ディテントプレート51をP→D方向へ傾動させる過程でディテントプレート51が自走し始める自走開始位置から、ディテントプレート51をD→P方向へ傾動させる過程でディテントプレート51が自走し始める自走開始位置までの範囲を、吸い込み範囲と言うことにする。前記自走開始位置とは、要するに、谷56がディテントローラ57に係合し始める位置とも言える。
【0107】
ここで、本発明の特徴を適用した部分について、図7から図11を参照して詳細に説明する。
【0108】
この実施形態では、そもそも、レンジ切り替え制御上の零点位置(基準位置)を、パーキングレンジPに対応する谷56にディテントローラ57が係合している状態での底YPの位置とするように規定している。
【0109】
ところが、モータ61からディテントプレート51の支軸52までの動力伝達経路に不可避的に存在している遊びαについては、個体差や経年摩耗等によってばらつきがある。しかも、パーキングレンジPが成立している状態において、前記遊びαの関係によっては、ディテントプレート51の支軸52に対してモータ61のロータがパーキングレンジP側またはドライブレンジD側のどちら側に片寄っているのか不明である。
【0110】
この片寄りによってレンジ切り替え制御上の零点位置がばらつくために、レンジ切り替え要求を受けて、ディテントプレート51をパーキングレンジP側に傾動させる場合と、ドライブレンジD側に傾動させる場合とで、傾動量が不足する場合と過剰になる場合とが発生する。そのために、目標となる谷56にディテントローラ57を正確に係合させることができなくなって、結果的にマニュアルバルブ20やパーキング機構30に対するレンジ切り替え動作を正確に行えなくなることが懸念される。
【0111】
そこで、この実施形態のレンジ切替装置10では、レンジ切り替え制御上の零点位置(基準位置)を学習するとともに、当該学習の形態を工夫しているので、以下で詳細に説明する。
【0112】
まず、この実施形態でのディテントプレート51の波形部54における各谷56の形状については、図7に示すように、各谷底YP,YR,YN,YDを中心とする両側を対称にした形状とされている。言い換えると、各谷56の底を中心とした両側の斜面については、傾き角および斜面長さが同じになっている。
【0113】
前記の谷底YP,YR,YN,YDとは、谷56の最深位置のことである。また、以下の説明では、各谷56において底YP,YR,YN,YDを中心にしてパーキングレンジ側端壁51a寄りの斜面をパーキングレンジ側斜面と呼び、ドライブレンジ側端壁51b寄りの斜面をドライブレンジ側斜面と呼ぶことにする。
【0114】
要するに、SBW_ECU40は、パーキングレンジPが成立している状態において適宜のタイミングで、ディテントプレート51をそのパーキングレンジ側端壁51aをディテントローラ57に接近させる側に適宜傾動させることにより谷56のパーキングレンジ側斜面上の所定範囲にディテントプレート51を停止させて、その位置において出力角検出手段15で検出出力される実電圧値Vcを取得するとともに、その間に要したモータ61に対する通電量VTを取得する第1情報収集処理と、前記と逆向きに前記の駆動量VTと同じ量だけ、ディテントプレート51をそのドライブレンジ側端壁51bをディテントローラ57に接近させる側に傾動させることによりディテントプレート51がドライブレンジ側斜面の所定範囲に停止した位置において出力角検出手段15で検出出力される実電圧値Vdを取得する第2情報収集処理と、これらの往復傾動動作によって取得した二つの電圧値Vc,Vdの中央値を、パーキングレンジPに対応する谷56の底YPに対応する電圧値Vpとし、この電圧値Vpを、レンジ切り替え制御上の零点位置として学習する設定処理とを行うようにしている。
【0115】
具体的に、SBW_ECU40による前記零点学習に関する手順や動作について、図9から図11を参照して説明する。
【0116】
図9に示すフローチャートは、例えば車両のイグニッションスイッチ8がオンされたとき等に、エントリーされる。
【0117】
ステップS1では、零点学習を行う条件が成立しているか否か、つまり現在のレンジがパーキングレンジPであるか否かを判定する。この判定は、レンジセンサ13からの入力情報に基づいて行うことができる。
【0118】
パーキングレンジP以外の場合、つまりリバースレンジR、ニュートラルレンジNあるいはドライブレンジDの場合には、零点学習を行う条件が成立していないので、前記ステップS1で否定判定して、このフローチャートから抜ける。
【0119】
しかし、パーキングレンジPである場合には、零点学習を行う条件が成立しているので、前記ステップS1で肯定判定して、続くステップS2〜S6に移行する。
【0120】
このステップS2〜S6では、要するに、パーキングレンジPに対応する谷56のパーキングレンジ側斜面における所定の目標停止範囲内にディテントローラ57を停止させるようにしている。
【0121】
つまり、ステップS2では、モータ61に予め規定した目標通電量を通電してディテントプレート51を一回転方向(パーキングレンジ側端壁51aをディテントローラ57に接近させる方向)へ傾動させる。このモータ61への通電は、デューティー制御とする。
【0122】
なお、前記目標通電量は、パーキングレンジ側斜面における目標停止範囲内にディテントローラ57を停止させるのに必要なディテントプレート51の回転角に基づいて設定され、固定値として予めSBW_ECU40のバックアップRAM等に記憶されている。この目標通電量は、実験等により経験的に特定するのが好ましい。
【0123】
前記目標停止範囲について説明する。前記目標停止範囲の上限値(パーキングレンジ側斜面において谷底に近い側)は、動力伝達経路の遊びαの設計値の平均の1/2を詰めるための見込み値とされる。この見込み値は、図10に示すように、出力角検出手段15の出力電圧値Vbで表される。
【0124】
一方、前記目標停止範囲の下限値は、図10の一点鎖線で示すように、パーキングレンジ側斜面においてドライブレンジ側斜面と同勾配(図10の細線LH参照)になる領域の山側で、かつディテントローラ57がパーキングレンジ側端壁51aに非接触となる位置に配置されたときにおけるディテントプレート51の回転角とされる。この回転角は、出力角検出手段15の出力電圧値Vaで表される。このVb,Vaが、前記SBW_ECU40のバックアップRAM等に予め記憶する固定値とされる。
【0125】
そして、前記ステップS2によるモータ61への通電に伴い、例えば図10の実線から二点鎖線で示すように、ディテントローラ57がディテントプレート51のパーキングレンジPに対応する谷56の底YPからパーキングレンジ側斜面を上って適宜の位置で停止することになる。この停止した位置において出力角検出手段15により検出出力される実電圧値(実回転角)をVcとする。
【0126】
この停止位置は、実際の遊びαの状態によって異なるが、例えばVcが、目標停止範囲に相当するVa−Vb間に収まる場合と、目標停止範囲の上限値Vbより大きい場合(Vbに相当する位置に到達しない場合)と、目標停止範囲の下限値Vaより小さい場合(Vaに相当する位置を越える場合)とが起こりうる。
【0127】
そこで、ステップS3において、Vc<Vbであるか否かを判定する。要するに、このステップS3では、前記ステップS2の初期駆動でもってディテントローラ57がパーキングレンジ側斜面においてVcに相当する最低高さ位置を越える位置まで上ったのか否かを調べているのである。なお、図10において、パーキングレンジ側斜面の低い側から高い側へ向かう程、出力角検出手段15の出力電圧値は、図8に示すように小さい数値になる。
【0128】
ここで、Vc≧Vbの場合は、前記最低高さ位置を越えていないことを意味するので、前記ステップS3で否定判定して、ステップS4でモータ61への通電量(パルス数)をアップして、前記ステップS2へ戻る。
【0129】
一方、Vc<Vbの場合には、前記ステップS2の初期駆動でもって前記最低高さ位置を越えたか、あるいは前記ステップS3,S4の繰り返しによる駆動量の増加でもって前記最低高さ位置を越えたことを意味するので、前記ステップS3で肯定判定して、続くステップS5に移行する。
【0130】
このステップS5では、Vc>Vaであるか否かを判定する。要するに、このステップS5では、前記ステップS2の初期駆動でもってディテントローラ57がパーキングレンジ側斜面のVaに相当する最高高さ位置を越える位置まで上ったのか否かを調べているのである。
【0131】
ここで、Vc≦Vaの場合は、前記最高高さ位置を越えたことを意味するので、前記ステップS5で否定判定して、続くステップS6でモータ61への通電量(パルス数)をダウンして、前記ステップS2へ戻る。
【0132】
一方、Vc>Vaの場合には、前記ステップS2の初期駆動でもって前記最高高さ位置を越えていないか、あるいは前記ステップS5,S6の繰り返しによる駆動量の減少でもって前記最高高さ位置の手前に戻されたことを意味するので、前記ステップS5で肯定判定して、続くステップS7に移行する。
【0133】
このステップS7では、パーキングレンジ側斜面において目標停止範囲Vb−Vaに相当する領域にディテントローラ57が停止したときの実電圧値Vcを取得して、SBW_ECU40のRAM等に一時的に保存するとともに、Vcが範囲Vb−Va内に収まるまでに要したモータ61の通電量VTを取得し、SBW_ECU40のRAM等に一時的に保存する。このモータ61への通電量VTは、初期通電量(パルス数)に前記ステップS4でのアップ分(パルス数)や前記ステップS6のダウン分(パルス数)等を加減算することにより求められる。
【0134】
この後、ステップS8において、モータ61を前記ステップS2の初期駆動のときと逆向きに駆動するのであるが、このときには、前記ステップS7で保存した通電量VTと同じ量だけ、モータ61を逆回転させるよう通電する。
【0135】
これにより、パーキングレンジ側斜面において目標停止範囲Vb−Vaに相当する領域に停止しているディテントローラ57は、図11の実線から二点鎖線で示すように、ディテントスプリング53の付勢力つまり自走作用(あるいは吸い込み作用)によってパーキングレンジ側斜面を滑り落ちる。その間は、モータ61にディテントプレート51から反力が作用しない状態であるために、モータ61からディテントプレート51へ駆動力(トルク)が伝達されない。そして、ディテントローラ57がパーキングレンジPに対応する谷56の底YPを通過してドライブレンジ側斜面に到達すると、モータ61にディテントプレート51から反力が作用する状態になるので、モータ61の駆動力がディテントプレート51へ伝達されることになって、図11の二点鎖線から一点鎖線で示すように、ドライブレンジ側斜面をディテントローラ57が上ることになって、動力伝達経路の遊びαが前記初期駆動時と逆向きに詰まり始めることになる。
【0136】
そして、モータ61への通電が終了すると、図11の一点鎖線で示すように、ドライブレンジ側斜面上の適宜高さ位置でディテントローラ57が停止することになる。なお、この停止位置は、パーキングレンジ側斜面上においてディテントローラ57が停止したときの高さ位置と同じ高さ位置になる。ここでの高さ位置とは、図11の細線LMで示すように、ディテントローラ57と斜面との当接位置としている。
【0137】
続くステップS9では、前記ドライブレンジ側斜面上で停止した時点において出力角検出手段15で検出出力される実電圧値(回転角)Vdを取得し、SBW_ECU40のRAM等に一時的に保存する。
【0138】
この後、ステップS10において、前記ステップS8,S9で取得した電圧値Vc,Vdを下記計算式(1)に代入することにより、実電圧値Vc,Vdの中央値、つまりパーキングレンジPに対応する谷56の底YPの電圧値を算出し、この算出値をSBW_ECU40のバックアップRAMに保存してあるディテントプレート51の回転角の零点位置(制御上の零点位置)として書き換える。こうしてから、このフローチャートを抜ける。
【0139】
(Vd−Vc)÷2・・・(1)
なお、以上の説明では、ディテントプレート51の谷56を不動としてディテントローラ57が移動しているような表現をすることにより、説明をわかりやすくしているが、実際には、ディテントローラ57は不動でディテントプレート51の谷56の位置が変化する。
【0140】
また、上述したアクチュエータ60に備えるモータ61の発生トルクは、季節等、モータ61周辺の雰囲気温度の高低に応じて変化することは避けられない。例えばモータ61の発生トルクは、雰囲気温度が高い場合、低い場合に比べて低下する。そのため、前記の零点学習を実行する際、モータ61の雰囲気温度が高い場合には、前記したディテントローラ57の斜面上り量が小さくなり、モータ61の雰囲気温度が低い場合には、前記したディテントローラ57の斜面上り量が大きくなる等、変化するものの、上述した情報収集の形態であればパーキングレンジ側斜面での上り量とドライブレンジ側斜面での上り量とがモータ61周辺の雰囲気温度の高低に関係なく、常に略同じになる。したがって、上述したように出力角検出手段15で検出する実電圧値Vc,Vdの中央値を、谷56の底YPに対応する電圧値VPとする手法であれば、モータ61周辺の雰囲気温度の高低に関係なく、零点位置を正確に学習できるようになる。
【0141】
ところで、上述した動作説明から明らかなように、ステップS2〜S7が請求項に記載の第1情報収集処理に、また、ステップS8,S9が請求項に記載の第2情報収集処理に、さらに、ステップS10が請求項に記載の設定処理にそれぞれ相当している。
【0142】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した実施形態では、車両のイグニッションスイッチ8がオンされる度に、レンジ切り替え制御上の零点位置を学習するようにしているから、従来例のように工場出荷時やバッテリ外し後の再装着時に零点学習する場合に比べて、レンジ切替装置10の使用経過に伴う零点位置の変化を頻繁に吸収することができる。
【0143】
しかも、レンジ切り替え制御上の零点位置を学習するにあたって、上述したような情報収集処理および設定処理を行うようにしているから、従来例のようなP壁押し付けのような形態に比べてディテントプレート51に過大な負荷をかけることがなく、また、撓み補正といった手間を省くことが可能になるから、比較的簡易な形態でありながら、レンジ切り替え制御上の零点位置を精度良く学習することが可能になる。
【0144】
これらのことから、レンジ切り替え時のディテントプレート51の動作制御を長期にわたって精度良く行うことが可能になる等、レンジ切り替えの信頼性向上に貢献できるようになる。
【0145】
なお、本発明は、前記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下、本発明の他の実施形態を例に挙げる。
【0146】
(1)前記各実施形態で説明したレンジ切替装置10は、フロントエンジン・リアドライブ(FR)形式やフロントエンジン・フロントドライブ(FF)形式やその他の方式の自動変速機に組み込まれて使用される。また、前記自動変速機は有段式あるいは無段式に限られない。さらに、自動変速機に限らず、トルクコンバータを用いない手動式変速機にも組み込むことが可能である。
【0147】
(2)上記実施形態では、ディテントプレート51を傾動するタイプとした場合を例に挙げている。しかし、ディテントプレート51を直線的に変位させるタイプとする場合も本発明に含まれる。その場合、アクチュエータ60の駆動源としては、直動型シリンダとすることも可能であり、また、電動式のモータとする場合には、回転動力を直線動力に変換するための機構を、モータとディテントプレート51の支軸52との間に介装する必要がある。
【0148】
(3)上記実施形態では、ディテントプレート51の零点学習を実行を開始するタイミングとして、パーキングレンジPになっている状態で、車両のイグニッションスイッチ8をオンしたときに特定していた。しかし、本発明は、要するに、パーキングレンジPになっている状態であれば、零点学習の実行開始タイミングは限定されるものでなく、任意とすることができる。
【0149】
(4)上記実施形態では、説明をわかりやすくするために、ディテントプレート51の波形部54の谷56を底中心の左右対称形状とした例を挙げている。しかし、波形部54の谷56の形状については、特に限定されるものでなく、底中心の左右非対称形状であっても、本発明を適用することが可能である。その場合においても、上記実施形態と略同様の作用、効果が得られる。
【0150】
例えばディテントプレート51の谷56を底中心の左右非対称形状とする場合について、図12および図13を参照して説明する。
【0151】
まず、図13に示すように、谷56において底YPを中心としたパーキングレンジ側斜面に比べて、ドライブレンジ側斜面の傾き角θeを小さくして斜面長さEを大きくしている。なお、図13では、図11に示した左右対称形状の谷56の場合のドライブレンジ側斜面を破線で示している。
【0152】
この実施形態の場合の零点学習は、上述した実施形態と基本的に同様であるが、上記実施形態で説明した図9のフローチャートにおけるステップS9の処理を次のように変更する。
【0153】
つまり、図12の一点鎖線で示すように、ドライブレンジ側斜面の所定高さ位置でディテントローラ57が停止したときに出力角検出手段15から検出出力される電圧値Veを取得する。なお、図12において、ドライブレンジ側斜面の低い側から高い側へ向かう程、出力角検出手段15の出力電圧値は、図8に示すように大きい数値になる。
【0154】
そして、このように谷56を左右非対称形状とする実施形態の場合において、二つの停止位置情報である電圧値Vc,Veで谷56の底YPの位置を算出する計算式として、上記実施形態で説明した簡易な計算式(1)を利用するには、前記取得した停止位置情報Veを、下記計算式(2)を用いて補正すればよい。この補正は、単純に、左右非対称形状の谷56におけるドライブレンジ側斜面の傾き角θeを、左右対称形状の谷56におけるドライブレンジ側斜面の傾き角θdに合わせるようにしているだけである。
【0155】
(Ve−V0)×k+V0・・・(2)
但し、V0は、谷56の底YPでの出力角検出手段15の設計上の出力電圧値である。また、係数k=(Dcosθd)÷(Ecosθe)とされる。
【0156】
このように補正した停止位置情報Veを、簡易な計算式(1)でのVdに置き換えて代入することによって、零点を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明に係る自動変速機のレンジ切替装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1のレンジ切替装置に用いるシフトレバーのレンジ切り替えパターンを示す斜視図である。
【図3】図1のレンジ切替装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【図4】図1のアクチュエータの出力軸とディテントプレートの支軸との連結部分を断面にして示す側面図である。
【図5】図2のディテントプレートの自走作用の発生理由を説明するための図で、ディテントプレートの傾動過程でディテントローラが上りとなるときの様子を示している。
【図6】図2のディテントプレートの自走作用の発生理由を説明するための図で、ディテントプレートの傾動過程でディテントローラが下りとなるときの様子を示している。
【図7】図3に示すディテントプレートの側面図である。
【図8】図7に示すディテントプレートのレンジ毎の回転角と出力角検出手段の出力電圧との関係を示すグラフである。
【図9】本発明における学習処理に関する説明に用いるフローチャートである。
【図10】図1に示すSBW_ECUによる零点学習時の第1情報収集処理の様子を説明するための図である。
【図11】図1に示すSBW_ECUによる零点学習時の第2情報収集処理の様子を説明するための図である。
【図12】本発明に係るレンジ切替装置に用いるディテントプレートの波形部の他実施形態で、零点学習時の動作説明に用いる図である。
【図13】図12の他実施形態で、ドライブレンジ側斜面における停止位置情報の補正方法の説明に用いる図である。
【符号の説明】
【0158】
1 自動変速機
8 イグニッションスイッチ
10 レンジ切替装置
11 パーキングスイッチ
12 シフトレバー
13 シフトセンサ
14 ロータ角検出手段
15 出力角検出手段
20 マニュアルバルブ
22 マニュアルバルブのスプール
30 パーキング機構
31 パーキングギア
32 パーキングロックポール
32a パーキングロックポールの爪
33 パーキングロッド
40 SBW_ECU(制御装置に相当)
50 ディテント機構
51 ディテントプレート(ディテント部材に相当)
52 ディテントプレートの支軸
53 ディテントスプリング(位置決め部材に相当)
54 ディテントプレートの波形部
55 波形部の山
56 波形部の谷
57 ディテントローラ(係合部に相当)
60 アクチュエータ
61 アクチュエータのモータ
62 アクチュエータの減速機構
63 アクチュエータの出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機のレンジ切り替え用のバルブを変位させるディテント部材と、ディテント部材を位置決めするための位置決め部材と、前記ディテント部材を変位させるアクチュエータと、このアクチュエータを制御する制御装置とを含む、バイワイヤ方式のレンジ切替装置であって、
前記ディテント部材は、三つ以上の谷および当該各谷間の山からなる波形部を有し、前記位置決め部材は、前記いずれかの谷に係合される係合部を有しかつ当該係合部を谷底へ吸い込むよう付勢するものであり、
前記制御装置は、前記いずれか一端側の谷に係合部が係合している状態から、当該谷の一方斜面上の所定範囲内に前記係合部を配置させるまでディテント部材を変位させて、このディテント部材の停止位置の情報を取得するとともに、当該変位過程における前記アクチュエータの実駆動量を取得する第1情報収集処理と、
前記ディテント部材の停止後、前記第1情報収集処理で取得した実駆動量と同じ駆動量で、アクチュエータを前記と逆向きに駆動することにより前記谷の他方斜面上に係合部を配置させるようディテント部材を変位させて、前記アクチュエータが駆動停止した時点における前記ディテント部材の停止位置情報を取得する第2情報収集処理と、
前記両情報収集処理で取得した二つの停止位置情報に基づいて前記谷の底位置を算出して、この算出値をディテント部材の変位制御上の零点とする設定処理とを行う、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項2】
自動変速機のレンジ切り替え用バルブを変位させるディテント部材と、ディテント部材を位置決めするための位置決め部材と、前記ディテント部材を変位させるアクチュエータと、このアクチュエータを制御する制御装置とを含む、バイワイヤ方式のレンジ切替装置であって、
前記ディテント部材は、三つ以上の谷および当該各谷間の山からなる波形部を有し、前記位置決め部材は、前記いずれかの谷に係合される係合部を有しかつ当該係合部を谷底へ吸い込むよう付勢するものであり、
前記制御装置は、前記ディテント部材の一端側のパーキングレンジに対応する谷を前記係合部に係合させた状態での当該谷の底をレンジ切り替え制御上の零点位置とし、当該零点位置からその他の各谷の底位置まで変位させるのに必要なディテント部材の変位量情報が記憶される記憶手段と、
レンジ切り替え要求に応答して、目標となる谷に前記係合部に係合させるための変位量情報を前記記憶手段から取り出し、当該変位量情報に基づき前記アクチュエータを制御する実行手段と、
パーキングレンジが成立している状態での適宜タイミングにおいて前記零点を学習する学習手段とを含み、
前記学習手段は、前記パーキングレンジに対応する谷に係合部が係合している状態から、当該谷の一方斜面上の所定範囲内に前記係合部に配置させるまでディテント部材を変位させて、このディテント部材の停止位置の情報を取得するとともに、当該変位過程における前記アクチュエータの実駆動量を取得する第1情報収集処理と、
前記ディテント部材の停止後、前記第1情報収集処理で取得した実駆動量と同じ駆動量で、アクチュエータを前記と逆向きに駆動することにより前記谷の他方斜面上に係合部を配置させるようディテント部材を変位させて、前記アクチュエータが駆動停止した時点における前記ディテント部材の停止位置情報を取得する第2情報収集処理と、
前記両情報収集処理で取得した二つの停止位置情報に基づいて前記パーキングに対応する谷の底位置を算出して、この算出値を前記記憶手段に記憶してある零点として書き換える設定処理とを行う、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記アクチュエータは、必要に応じて前記ディテント部材を傾動させるもので、回転動力を発生する電動式のモータと、このモータで発生した回転動力を減速して前記ディテント部材の支軸に同軸かつ一体回転可能にスプライン嵌合により連結される出力軸から出力させる減速機構と、前記アクチュエータの出力軸の回転角をそれに対応する電圧値として検出出力する出力角検出手段を含み、
前記第1情報収集処理で取得するアクチュエータの実駆動量は、前記モータへの通電開始時点から停止時点までにおける前記モータへの通電量の積算値とされ、
前記両情報収集処理で取得する停止位置情報は、前記出力角検出手段で検出出力される実電圧値とされる、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記モータは、適宜のデューティー比のパルス波により制御される、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記ディテント部材の各谷の形状は、その底を中心として左右対称とされ、
前記設定処理では、前記二つの停止位置情報の中央位置を算出する、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記第1情報収集処理の実行開始タイミングは、自動変速機が搭載される車両のイグニッションスイッチがオンされたときとされる、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記制御装置は、零点学習中にレンジ切り替え要求を受けたときに、前記学習を中断して、既に設定されている零点を基準として要求レンジへの切り替えを行う、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−144794(P2009−144794A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321634(P2007−321634)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】