説明

自動変速機用トルク伝達機構

【課題】自動変速機用トルク伝達機構において、湿式摩擦材の外周に油溜まりが発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができ、更なる燃費向上を実現できること。
【解決手段】自動変速機用トルク伝達機構41においては、セパレータプレート27の外周の外周突出部26以外の部分の半径は、自動変速機ケース8の内周の半径よりも1.45mmだけ小さく設定されており、外周突出部26の半径は、自動変速機ケース8の内周の半径よりも僅かに0.2mmだけ小さく設定されている。これによって、セパレータプレート27の外周と自動変速機ケース8の内周の間に広い間隙が確保されて、湿式摩擦材22の外周に潤滑油が流れるスペースが充分に存在するため、非締結状態において湿式摩擦材22がいずれかの方向に空転したときに、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによって回転トルクを得る湿式摩擦材と、湿式摩擦材の摩擦材基材が接着された面に圧着されることによって回転トルクを伝達するセパレータプレートと、湿式摩擦材及びセパレータプレートを複数枚交互に収容した自動変速機ケースとを具備する自動変速機用トルク伝達機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状のコアプレートに平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材と相手材であるセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の発明においては、セグメントピースのコアプレートとは逆方向のRが付けられた2辺が内周及び外周となるように接着されているため、内周に油溝方向に向かって上がるRが付くとともに、油溝となる間隙の外周開口部の幅が内周開口部の幅よりも大きくなることによって、セグメントタイプ摩擦材の空転によるATFの排出性が大きく向上し、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0007】
更に、特許文献3においては、セグメントタイプ摩擦材において、セグメントピースの外周をコアプレートの外周から離してセグメントピースの引き込み量を大きくすることによって、自動変速機ケースの内周部分との間隔を広くすることによって、非締結時におけるセグメントピースとセパレータプレートの間隙が広くなる部分が生じて、ATFによる引き摺りトルクを低減することができるとしている。
【特許文献1】特開2005−069411号公報
【特許文献2】特開2005−282648号公報
【特許文献3】特開2006−132581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1乃至特許文献3に記載の技術においては、セパレータプレートの大きさについては従来通りとしているため、実機において外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においては、引き摺りトルクを低減する効果がまだまだ小さく、車両における大幅な低燃費化を実現するのは困難であるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、湿式摩擦材の外周に油溜まりが発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができ、更なる燃費向上を実現することができる自動変速機用トルク伝達機構を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る自動変速機用トルク伝達機構は、湿式摩擦材としての平板リング形状のコアプレートに前記平板リング形状に沿ってセグメントピースに切断された摩擦材基材が全周両面若しくは全周片面に接着されて隣り合う前記セグメントピース同士の間隙によって半径方向に複数の油溝が形成されてなるセグメントタイプ摩擦材、または、湿式摩擦材としての平板リング形状のコアプレートの両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材と、前記湿式摩擦材の前記摩擦材基材が接着された面に圧着されることによって前記湿式摩擦材の回転トルクを伝達する外周に複数のスプライン係合用突出部が設けられたセパレータプレートと、前記セパレータプレートの前記複数のスプライン係合用突出部に係合する複数のスプライン溝が内周に軸方向に沿って設けられ、前記湿式摩擦材及び前記セパレータプレートを複数枚交互に収容した自動変速機ケースとを具備する自動変速機用トルク伝達機構であって、前記セパレータプレートの前記複数のスプライン係合用突出部以外の部分の外周の半径は、前記自動変速機ケースの内周の前記複数のスプライン溝以外の部分よりも0.6mm〜5.0mmの範囲で小さく設定されているものである。
【0011】
請求項2の発明に係る自動変速機用トルク伝達機構は、請求項1の構成において、前記セパレータプレートの前記複数のスプライン係合用突出部以外の部分には3箇所以上に略等間隔で幅が5mm〜15mmの範囲内で前記自動変速機ケースの内周の前記複数のスプライン溝以外の部分よりも外周の半径が0.2mm〜0.5mm小さいだけの外周突出部が設けられているものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る自動変速機用トルク伝達機構は、湿式摩擦材としての平板リング形状のコアプレートに平板リング形状に沿ってセグメントピースに切断された摩擦材基材が全周両面若しくは全周片面に接着されて隣り合うセグメントピース同士の間隙によって半径方向に複数の油溝が形成されてなるセグメントタイプ摩擦材、または、湿式摩擦材としての平板リング形状のコアプレートの両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材と、湿式摩擦材の摩擦材基材が接着された面に圧着されることによって湿式摩擦材の回転トルクを伝達する外周に複数のスプライン係合用突出部が設けられたセパレータプレートと、セパレータプレートの複数のスプライン係合用突出部に係合する複数のスプライン溝が内周に軸方向に沿って設けられ、湿式摩擦材及びセパレータプレートを複数枚交互に収容した自動変速機ケースとを具備する自動変速機用トルク伝達機構であって、セパレータプレートの複数のスプライン係合用突出部以外の部分の外周の半径は、自動変速機ケースの内周の複数のスプライン溝以外の部分よりも0.6mm〜5.0mmの範囲で小さく設定されている。
【0013】
かかる構成によって、セパレータプレートの外周と自動変速機ケースの内周の間に広い間隙が確保されて、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが更に充分に存在するため、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときに、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。更に、セパレータプレートの外周が小さくなることによって、セパレータプレートが軽量化されるため、より一層の燃費向上に貢献することができる。
【0014】
このようにして、湿式摩擦材の外周に油溜まりが発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができ、軽量化による効果と相俟って、更なる燃費向上を実現することができる自動変速機用トルク伝達機構となる。
【0015】
請求項2の発明に係る自動変速機用トルク伝達機構においては、セパレータプレートの複数のスプライン係合用突出部以外の部分には3箇所以上に略等間隔で幅が5mm〜15mmの範囲内で自動変速機ケースの内周の複数のスプライン溝以外の部分よりも外周の半径が0.2mm〜0.5mm小さいだけの外周突出部が設けられている。
【0016】
これによって、請求項1に係る発明の効果に加えて、これらの外周突出部は自動変速機ケースの内周の半径よりも外周の半径が0.2mm〜0.5mm小さいだけであり、自動変速機ケースの内径との隙間が小さいため、これらの外周突出部があることによってセパレータプレートの取付けが容易になり、自動変速機用トルク伝達機構の組み立てがし易くなるという作用効果が得られる。
【0017】
なお、外周突出部は3箇所以上であれば何箇所に設けられても良いが、セパレータプレートの外周と自動変速機ケースの内周との間になるべく広い間隙を確保するためには、必要最小限に留めるのが望ましく、3箇所または4箇所に設けられるのが好ましい。同様な理由で、外周突出部の幅も5mm〜15mmの範囲内であれば良いが幅が狭い方が望ましく、5mm〜8mmの範囲内であればより好ましい。
【0018】
このようにして、湿式摩擦材の外周に油溜まりが発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができ、しかも組み立てが容易であり、軽量化による効果と相俟って、更なる燃費向上を実現することができる自動変速機用トルク伝達機構となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構について、図1乃至図7を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明の実施の形態の実施例1に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。図2は本発明の実施の形態の実施例2に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。図3は本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構(実施例1及び実施例2)における回転数に対する引き摺りトルクの大きさを従来例と比較して示す折れ線グラフである。
【0021】
図4は本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構(実施例1及び実施例2)における引き摺りトルクの低減率を示す棒グラフである。図5は本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構におけるD3の大きさに対する引き摺りトルクの大きさを示す折れ線グラフである。図6は本発明の実施の形態の変形例1に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。図7は本発明の実施の形態の変形例2に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。
【0022】
図1に示されるように、本発明の実施の形態の実施例1に係る自動変速機用トルク伝達機構41においては、湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材22は、平板リング形状の鋼板製のコアプレート23に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース24A,24Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝25A,25Bの間隔を空けて並べて貼り付け、コアプレート23の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなる。ここで、セグメントピース24Aの左内周角部及びセグメントピース24Bの右内周角部が切り落とされているため、油溝25Aは内周側が拡がった形状であり、油溝25Bはほぼ直線状の形状を有している。
【0023】
自動変速機用トルク伝達機構41においては、かかるセグメントタイプ摩擦材22と交互に、平板リング形状の鋼板製のセパレータプレート27が組み込まれている。セパレータプレート27の外周には、複数のスプライン係合用突出部27Aが設けられており、これらのスプライン係合用突出部27Aが、自動変速機ケース8の内周に設けられた複数のスプライン溝8Aにそれぞれ係合している。また、セパレータプレート27の外周の4箇所には、略等間隔で(すなわち約90度ごとに)幅8mmの外周突出部26が設けられている。
【0024】
そして、図1に示されるように、実施例1に係る自動変速機用トルク伝達機構41においては、セパレータプレート27の外周の外周突出部26以外の部分の半径は、自動変速機ケース8の内周の半径よりも1.45mmだけ小さく設定されている。これに対して、図1に示されるように、外周突出部26の半径は、自動変速機ケース8の内周の半径よりも僅かに0.2mmだけ小さく設定されている。
【0025】
これによって、セパレータプレート27の外周と自動変速機ケース8の内周の間に広い間隙が確保されて、湿式摩擦材22の外周に潤滑油が流れるスペースが充分に存在するため、非締結状態において湿式摩擦材22がいずれかの方向に空転したときに、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。更に、セパレータプレート27の外周が小さくなることによって、セパレータプレート27が軽量化されるため、より一層の燃費向上に貢献することができる。
【0026】
また、自動変速機ケース8の内周の半径よりも僅かに0.2mmだけ小さく設定された、幅8mmの外周突出部26が設けられていることによって、セパレータプレート27の自動変速機ケース8に対する取付けが容易になり、自動変速機用トルク伝達機構41の組み立てがし易くなるという作用効果が得られる。
【0027】
次に、図2に示されるように、本発明の実施の形態の実施例2に係る自動変速機用トルク伝達機構51においては、湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材22は、上記実施例1と同様に、平板リング形状の鋼板製のコアプレート23に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース24A,24Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝25A,25Bの間隔を空けて並べて貼り付け、コアプレート23の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなる。ここで、セグメントピース24Aの左内周角部及びセグメントピース24Bの右内周角部が切り落とされているため、油溝25Aは内周側が拡がった形状であり、油溝25Bはほぼ直線状の形状を有している。
【0028】
自動変速機用トルク伝達機構51においては、かかるセグメントタイプ摩擦材22と交互に、平板リング形状の鋼板製のセパレータプレート37が組み込まれている。セパレータプレート37の外周には、複数のスプライン係合用突出部37Aが設けられており、これらのスプライン係合用突出部37Aが、自動変速機ケース8の内周に設けられた複数のスプライン溝8Aにそれぞれ係合している。また、セパレータプレート37の外周の4箇所には、略等間隔で(すなわち約90度ごとに)幅8mmの外周突出部36が設けられている。
【0029】
そして、図2に示されるように、実施例2に係る自動変速機用トルク伝達機構51においては、セパレータプレート37の外周の外周突出部36以外の部分の半径は、自動変速機ケース8の内周の半径よりも2.45mmだけ小さく設定されている。これに対して、図2に示されるように、外周突出部36の半径は、自動変速機ケース8の内周の半径よりも僅かに0.2mmだけ小さく設定されている。
【0030】
これによって、セパレータプレート37の外周と自動変速機ケース8の内周の間に広い間隙が確保されて、湿式摩擦材22の外周に潤滑油が流れるスペースが充分にあるため、非締結状態において湿式摩擦材22がいずれかの方向に空転したときに、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。更に、セパレータプレート37の外周が小さくなることによって、セパレータプレート37が軽量化されるため、より一層の燃費向上に貢献することができる。
【0031】
また、自動変速機ケース8の内周の半径よりも僅かに0.2mmだけ小さく設定された、幅8mmの外周突出部36が設けられていることによって、セパレータプレート37の自動変速機ケース8に対する取付けが容易になり、自動変速機用トルク伝達機構51の組み立てがし易くなるという作用効果が得られる。
【0032】
これらの自動変速機用トルク伝達機構41(実施例1),51(実施例2)について、従来の自動変速機用トルク伝達機構と比較して、実際に引き摺りトルクの測定実験を行って、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。
【0033】
試験条件としては、セグメントピース24A,24Bの枚数が片面40枚(両面で80枚)、油溝25A,25Bの幅=2mm、ディスクサイズが外周φ1=184mm,内周φ2=164mmにおいて試験し、ディスク枚数=3枚(したがって、相手材のセパレータプレート27,37は4枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚とした。そして、相対回転数=500〜6000rpm、ATF油温=80℃、ATF油量=2400mL/minで行った。試験の結果を、図3に示す。
【0034】
図3に示されるように、相対回転数が500rpmの時点では実施例1,2と従来例との間には殆ど差がないが、相対回転数が1000rpmの時点では実施例2と従来例との間には既に明確な差が出ており、相対回転数が2000rpmの時点においては、実施例1と従来例との間にも明確な差が出ていて、実施例1,2に係る自動変速機用トルク伝達機構41,51の方が、従来例に係る自動変速機用トルク伝達機構に比べて、引き摺りトルクが小さくなっている。この差は、相対回転数が3000rpm,4000rpm,4500rpmと大きくなるにしたがって、更に大きくなっている。
【0035】
その後も、相対回転数が上がるにしたがって、いずれの自動変速機用トルク伝達機構も引き摺りトルクが大きくなるが、相対回転数が4500rpmから6000rpmまでの範囲において、実施例1,2と従来例との間の差が維持されている。すなわち、従来例に係る自動変速機用トルク伝達機構に比較して、実施例1,2に係る自動変速機用トルク伝達機構41,51の方が、引き摺りトルクが小さくなっている。また、実施例2に係る自動変速機用トルク伝達機構51の方が、実施例1に係る自動変速機用トルク伝達機構41よりも、引き摺りトルクはより小さい。
【0036】
また、図4に示されるように、実施例1,2のいずれにおいても、ATFが外周に溜まり易くなる高回転領域において、引き摺りトルクの低減率がより大きくなっている。そして、図5に示されるように、自動変速機ケース8の内周の複数のスプライン溝8A以外の部分の半径と、セパレータプレート27,37の外周の半径との差をD3[mm]とすると、D3が大きくなるほど引き摺りトルクは小さくなることが分かる。
【0037】
そして、これに加えて、D3が大きくなるほどセパレータプレートの外径は小さくなり、セパレータプレートが軽量化されるため、より一層の燃費向上に貢献することができる。
【0038】
このようにして、本発明の実施の形態の実施例1,2に係る自動変速機用トルク伝達機構41,51においては、湿式摩擦材22の外周に油溜まりが発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができ、更なる燃費向上を実現することができる。
【0039】
次に、本発明の実施の形態の変形例に係る自動変速機用トルク伝達機構について、図6及び図7を参照して説明する。図6及び図7に示されるように、本発明の実施の形態の変形例1及び変形例2に係る自動変速機用トルク伝達機構141,151が、上述した本発明の実施の形態の実施例1,2に係る自動変速機用トルク伝達機構41,51と異なるのは、用いられている湿式摩擦材122がセグメントタイプ摩擦材ではなく、リングタイプ摩擦材である点のみである。
【0040】
すなわち、図6に示される本実施の形態の変形例1に係る自動変速機用トルク伝達機構141においては、湿式摩擦材として、上述した本実施の形態の実施例1と同一のコアプレート23に、リング形状の摩擦材基材109が接着されて、島状部分124A,124Bを残してプレス加工されて半径方向に複数の油溝125A,125Bが形成されてなるリングタイプ摩擦材122が用いられている。
【0041】
また、図7に示される本実施の形態の変形例2に係る自動変速機用トルク伝達機構151においては、湿式摩擦材として、やはり上述した本実施の形態の実施例1と同一のコアプレート23に、リング形状の摩擦材基材109が接着されて、島状部分124A,124Bを残してプレス加工されて半径方向に複数の油溝125A,125Bが形成されてなるリングタイプ摩擦材122が用いられている。
【0042】
したがって、図6に示される本実施の形態の変形例1に係る自動変速機用トルク伝達機構141は、上述した本発明の実施の形態の実施例1と同じだけセパレータプレート27の外径が小さくなっており、図7に示される本実施の形態の変形例2に係る自動変速機用トルク伝達機構151は、上述した本発明の実施の形態の実施例2と同じだけセパレータプレート37の外径が小さくなっているため、従来の自動変速機用トルク伝達機構と比較して、同様の引き摺りトルク低減効果を示すことになる。
【0043】
そして、図6及び図7に示されるように、本発明の実施の形態の変形例1及び変形例2に係る自動変速機用トルク伝達機構141,151においては、上述した本発明の実施の形態の実施例1,2に係る自動変速機用トルク伝達機構41,51とそれぞれ同一のセパレータプレート27,37を用いていることから、セパレータプレートが軽量化されるため、より一層の燃費向上に貢献することができる。
【0044】
このようにして、本発明の実施の形態の変形例1,2に係る自動変速機用トルク伝達機構141,151においては、湿式摩擦材122の外周に油溜まりが発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができ、更なる燃費向上を実現することができる。
【0045】
本実施の形態においては、湿式摩擦材のうちセグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材のプレス型摩擦材のみについて説明したが、同様の油溝を切削加工によって形成したリングタイプの切削加工型摩擦材においても、リングタイプ(プレス型)摩擦材122と同等の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0046】
また、本実施の形態においては、湿式摩擦材として、コアプレート23の両面にセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、コアプレート23の片面のみにセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても良い。
【0047】
更に、本実施の形態においては、湿式摩擦材として、コアプレート23の片面にセグメントピースを40枚ずつ貼り付けた場合、及びリング形状の摩擦材基材を貼り付けて油溝を40本ずつ形成した場合のみについて説明したが、コアプレート23の片面当たりのセグメントピースの枚数は40枚に限られるものではなく、また油溝の数も40本に限られるものではなく、何枚でも何本でも自由に設定することができる。
【0048】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材(セグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材)を始めとする自動変速機用トルク伝達機構のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【0049】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は本発明の実施の形態の実施例1に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態の実施例2に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構(実施例1及び実施例2)における回転数に対する引き摺りトルクの大きさを従来例と比較して示す折れ線グラフである。
【図4】図4は本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構(実施例1及び実施例2)における引き摺りトルクの低減率を示す棒グラフである。
【図5】図5は本発明の実施の形態に係る自動変速機用トルク伝達機構におけるD3の大きさに対する引き摺りトルクの大きさを示す折れ線グラフである。
【図6】図6は本発明の実施の形態の変形例1に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態の変形例2に係る自動変速機用トルク伝達機構の断面の一部を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0051】
8 自動変速機ケース
8A スプライン溝
22,122 湿式摩擦材
23 コアプレート
26,36 外周突出部
27,37 セパレータプレート
27A,37A スプライン係合用突出部
41,51,141,151 自動変速機用トルク伝達機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式摩擦材としての平板リング形状のコアプレートに前記平板リング形状に沿ってセグメントピースに切断された摩擦材基材が全周両面若しくは全周片面に接着されて隣り合う前記セグメントピース同士の間隙によって半径方向に複数の油溝が形成されてなるセグメントタイプ摩擦材、または、湿式摩擦材としての平板リング形状のコアプレートの両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材と、
前記湿式摩擦材の前記摩擦材基材が接着された面に圧着されることによって前記湿式摩擦材の回転トルクを伝達する外周に複数のスプライン係合用突出部が設けられたセパレータプレートと、
前記セパレータプレートの前記複数のスプライン係合用突出部に係合する複数のスプライン溝が内周に軸方向に沿って設けられ、前記湿式摩擦材及び前記セパレータプレートを複数枚交互に収容した自動変速機ケースと、
を具備する自動変速機用トルク伝達機構であって、
前記セパレータプレートの前記複数のスプライン係合用突出部以外の部分の外周の半径は、前記自動変速機ケースの内周の前記複数のスプライン溝以外の部分よりも0.6mm〜5.0mmの範囲で小さく設定されていることを特徴とする自動変速機用トルク伝達機構。
【請求項2】
前記セパレータプレートの前記複数のスプライン係合用突出部以外の部分には3箇所以上に略等間隔で幅が5mm〜15mmの範囲内で前記自動変速機ケースの内周の前記複数のスプライン溝以外の部分よりも外周の半径が0.2mm〜0.5mm小さいだけの外周突出部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機用トルク伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−138903(P2009−138903A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318651(P2007−318651)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】