説明

自動変速機

【課題】フリクションロスを低減できると共に車両への搭載性を向上させることができる自動変速機を提供する。
【解決手段】自動変速機は、4つのプラネタリギヤ機構4〜7と、第1〜第5の5つの連結体Ra−Cc,Ca−Rb,Sb−Cd,Cb−Rc,Sc−Sdと、5つの係合機構C1,C2,B1〜B3とを備える。第3要素Saが入力軸2に連結され、第2連結体Ca−Rbが出力部材3に連結される。第1クラッチC1は第1連結体Ra−Ccと第3連結体Sb−Cdとを、第2クラッチC2は第3要素Saと第4連結体Cb−Rcとを、夫々解除自在に連結する。第1ブレーキB1は第4連結体Cb−Rcを、第2ブレーキB2は第12要素Rdを、第3ブレーキB3は第5連結体Sc−Sdを、変速機ケース1に夫々解除自在に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転を変速機ケース内に配置した複数のプラネタリギヤ機構を介して複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力用の第1プラネタリギヤと変速用の2つのプラネタリギヤと6つの係合機構とを用いて、前進8段の変速を行うことができるようにした自動変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、入力用の第1プラネタリギヤを、第1サンギヤと、第1リングギヤと、互いに噛合すると共に一方が第1サンギヤに噛合し他方が第1リングギヤに噛合する一対の第1ピニオンを自転及び公転自在に軸支する第1キャリアとからなるダブルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成している。
【0004】
第1プラネタリギヤは、第1サンギヤが変速機ケースに固定される固定要素、第1キャリアが入力軸に連結される入力要素、第1リングギヤが入力要素たる第1キャリアの回転速度を減速して出力する出力要素とされている。
【0005】
又、変速用の2つのプラネタリギヤ機構は、第2サンギヤと、第3サンギヤと、第3リングギヤと一体化された第2リングギヤと、互いに噛合すると共に一方が第2サンギヤ及び第2リングギヤに噛合し他方が第3サンギヤに噛合する一対の第2ピニオンを自転及び公転自在に軸支する第2キャリアとからなるラビニヨ型のプラネタリギヤ機構で構成されている。
【0006】
このラビニヨ型のプラネタリギヤ機構は、速度線図(各回転要素の相対速度の比を直線で表すことができる図)においてギヤ比に対応する間隔を存して順に、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素とすると、第1回転要素は第2サンギヤ、第2回転要素は第3キャリアと一体化された第2キャリア、第3回転要素は第3リングギヤと一体化された第2リングギヤ、第4回転要素は第3サンギヤとなる。
【0007】
又、係合機構として、第1プラネタリギヤの出力要素たる第1リングギヤと第3サンギヤから成る第4回転要素とを解除自在に連結する第1湿式多板クラッチと、入力軸と第2キャリアから成る第2回転要素とを解除自在に連結する第2湿式多板クラッチと、出力要素たる第1リングギヤと第2サンギヤから成る第1回転要素とを解除自在に連結する第3湿式多板クラッチと、入力要素たる第1キャリアと第2サンギヤから成る第1回転要素とを解除自在に連結する第4湿式多板クラッチと、第2サンギヤから成る第1回転要素を変速機ケースに解除自在に固定する第1ブレーキと、第2キャリアから成る第2回転要素を変速機ケースに解除自在に固定する第2ブレーキとを備える。
【0008】
以上の構成によれば、第1湿式多板クラッチと第2ブレーキとを係合することで1速段が確立され、第1湿式多板クラッチと第1ブレーキとを係合することで2速段が確立され、第1湿式多板クラッチと第3湿式多板クラッチとを係合することで3速段が確立され、第1湿式多板クラッチと第4湿式多板クラッチとを係合することで4速段が確立される。
【0009】
又、第1湿式多板クラッチと第2湿式多板クラッチとを係合することで5速段が確立され、第2湿式多板クラッチと第4湿式多板クラッチとを係合することで6速段が確立され、第2湿式多板クラッチと第3湿式多板クラッチとを係合することで7速段が確立され、第2湿式多板クラッチと第1ブレーキとを係合することで8速段が確立される。
【0010】
尚、特許文献1の第3湿式多板クラッチでは、ピストンを作動させるための作動油圧室は入力軸の軸線上に配置されているが、ピストンで押圧される複数のクラッチプレートは入力用の第1プラネタリギヤ機構の径方向外方に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−273768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来例のものでは、各変速段において係合する係合機構の数が2つになる。そのため、開放している残りの4つの係合機構の引き摺りによるフリクションロスが大きくなり、自動変速機の効率が悪化する不具合がある。
【0013】
又、クラッチは、変速機ケースに設けられるブレーキと異なり、入力軸上や入力軸を軸支するメインシャフト上などに設けられるものであり、プラネタリギヤの径方向外方に配置することができない。
【0014】
従って、従来例のものでは、3つのプラネタリギヤ機構と4つのクラッチの合計7つの部材が入力軸上又は入力軸を回転自在に軸支するメインシャフト上に配置されることとなり、自動変速機の軸長が長くなって車両(特にFF式の車両)への搭載性が低いという不都合がある。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑み、フリクションロスを低減できると共に車両への搭載性を向上させることができる自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、変速機ケース内に回転自在に軸支されると共に駆動源からの動力により回転される入力軸の回転を、複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機であって、サンギヤ、キャリア及びリングギヤからなる3つの要素を夫々備える第1から第4の4つのプラネタリギヤ機構が設けられ、該第1プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、前記第2プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、前記第3プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第7要素、第8要素及び第9要素とし、前記第4プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第10要素、第11要素及び第12要素として、前記第1要素と前記第8要素とを連結して第1連結体が構成され、前記第2要素と前記第6要素とを連結して第2連結体が構成され、前記第4要素と前記11要素とを連結して第3連結体が構成され、前記第5要素と前記第9要素とを連結して第4連結体が構成され、前記第7要素と前記第10要素とを連結して第5連結体が構成され、前記第3要素が前記入力軸に連結され、前記第2連結体が前記出力部材に連結され、前記第1連結体と前記第3連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、前記第3要素と前記第4連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、前記第4連結体を前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第1ブレーキと、前記第12要素を前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第2ブレーキと、前記第5連結体を前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第3ブレーキとを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、後述する実施形態の説明から明らかなように、前進8段の変速を行うことができると共に、2つのクラッチと3つのブレーキの合計5つの係合機構のうち各変速段において2つの係合機構が係合することになる。そのため、各変速段で開放している係合機構の数は3つになり、従来のように4つの係合機構が開放されるものに比し、開放している係合機構によるフリクションロスを低減でき、自動変速機の伝達効率が向上する。
【0018】
又、入力軸の軸線上には、4つプラネタリギヤ機構と2つのクラッチが配置され、合計6つの部材が配置される。このため、従来品のように、3つのプラネタリギヤ機構と4つのクラッチの合計7つの部材が入力軸の軸線上に配置されるものに比し、自動変速機の軸長を短縮させることができ、車両(特にFF式の車両)への搭載性を向上させることができる。
【0019】
[2]本発明においては、第4連結体が逆転する場合のみ第4連結体と一体的に回転する1ウェイクラッチを設け、1ウェイクラッチを変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切り換え自在な第4ブレーキを設けることが好ましい。
【0020】
これによれば、後述する実施形態の説明から明らかなように、第1ブレーキを比較的容量の小さい湿式多板ブレーキで構成することができ、フリクションロスをより低減させることができる。又、変速段間の変速の制御性を向上させることができる。又、第4ブレーキを開放状態とすることにより、1ウェイクラッチの働きを無効とすることができる。これにより、後進段を確立させることができる。
【0021】
[3]本発明においては、第1ブレーキを、ドグクラッチ、又は、第4連結体の正転を許容し逆転を阻止する逆転阻止状態と、第4連結体の正転を阻止し逆転を許容する正転阻止状態とに切換自在な2ウェイクラッチで構成することもできる。
【0022】
これによれば、後述する実施形態の説明から明らかなように、変速の制御性が向上される。又、第4連結体が第1ブレーキたる2ウェイクラッチにより変速機ケースに固定されていない開放状態となる変速段においては、第1ブレーキたる2ウェイクラッチでフリクションロスが発生しない。このため、自動変速機全体として、よりフリクションロスを低減させることができる。
【0023】
[4]本発明においては、4つのプラネタリギヤ機構を、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で夫々構成することが好ましい。
【0024】
これによれば、プラネタリギヤ機構を、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に一方がサンギヤに噛合し他方がリングギヤに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成した場合に比し、入力軸から出力部材までの動力伝達経路におけるギヤの噛合回数を減少させることができ、伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態の自動変速機の上半分を示すスケルトン図。
【図2】実施形態の自動変速機の第1〜第4プラネタリギヤ機構の各要素の相対速度の比を示す速度線図。
【図3】実施形態の自動変速機の変速段毎における各係合機構の連結・固定状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の自動変速機の実施形態の上半分を示している。この実施形態の自動変速機は、変速機ケース1内に回転自在に軸支した、図外のエンジン等の動力源に連結される入力軸2と、入力軸2と同心に配置された出力ギヤからなる出力部材3とを備えている。出力部材3の回転は、図外のデファレンシャルギヤを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。
【0027】
又、変速機ケース1内には、第1プラネタリギヤ機構4と第2プラネタリギヤ機構5と第3プラネタリギヤ機構6と第4プラネタリギヤ機構7とが入力軸2と同心に配置されている。第1プラネタリギヤ機構4は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSaとリングギヤRaとに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成されている。
【0028】
図2の上から4段目(最下段)に示す第1プラネタリギヤ機構4の速度線図(サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの要素の相対回転速度の比を直線で表すことができる図)を参照して、第1プラネタリギヤ機構4の3つの要素Sa,Ca,Raを、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とすると、第1要素はリングギヤRa、第2要素はキャリアCa、第3要素はサンギヤSaになる。
【0029】
ここで、サンギヤSaとキャリアCa間の間隔とキャリアCaとリングギヤRa間の間隔との比は、第1プラネタリギヤ機構4のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をhとして、h:1に設定される。尚、速度線図において、下の横線と上の横線は夫々回転速度が「0」と「1」(入力軸2と同じ回転速度)であることを示している。
【0030】
第2プラネタリギヤ機構5は、第1プラネタリギヤ機構4と同様に、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSbとリングギヤRbとに噛合するピニオンPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成されている。
【0031】
図2の上から2段目に示す第2プラネタリギヤ機構5の速度線図を参照して、第2プラネタリギヤ機構5の3つの要素Sb,Cb,Rbを、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はサンギヤSb、第5要素はキャリアCb、第6要素はリングギヤRbになる。サンギヤSbとキャリアCb間の間隔とキャリアCbとリングギヤRb間の間隔との比は、第2プラネタリギヤ機構5のギヤ比をiとして、i:1に設定される。
【0032】
第3プラネタリギヤ機構6は、第1及び第2プラネタリギヤ機構4,5と同様に、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤSc及びリングギヤRcに噛合するピニオンPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成される。
【0033】
図2の上から3段目に示す第3プラネタリギヤ機構6の速度線図を参照して、第3プラネタリギヤ機構6の3つの要素Sc,Cc,Rcを、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第7要素、第8要素及び第9要素とすると、第7要素はサンギヤSc、第8要素はキャリアCc、第9要素はリングギヤRcになる。サンギヤScとキャリアCc間の間隔とキャリアCcとリングギヤRc間の間隔との比は、第3プラネタリギヤ機構6のギヤ比をjとして、j:1に設定される。
【0034】
第4プラネタリギヤ機構7は、第1〜第3プラネタリギヤ機構4〜6と同様に、サンギヤSdと、リングギヤRdと、サンギヤSd及びリングギヤRdに噛合するピニオンPdを自転及び公転自在に軸支するキャリアCdとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成される。
【0035】
図2の上から1段目(最上段)に示す第4プラネタリギヤ機構7の速度線図を参照して、第4プラネタリギヤ機構7の3つの要素Sd,Cd,Rdを、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第10要素、第11要素及び第12要素とすると、第10要素はサンギヤSd、第11要素はキャリアCd、第12要素はリングギヤRdになる。サンギヤSdとキャリアCd間の間隔とキャリアCdとリングギヤRd間の間隔との比は、第4プラネタリギヤ機構7のギヤ比をkとして、k:1に設定される。
【0036】
又、実施形態の自動変速機においては、第1プラネタリギヤ機構4のリングギヤRa(第1要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)が連結されて、第1連結体Ra−Ccが構成されている。又、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第2プラネタリギヤ機構5のリングギヤRb(第6要素)とが連結されて、第2連結体Ca−Rbが構成されている。又、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)と第4プラネタリギヤ機構7のキャリアCd(第11要素)とが連結されて、第3連結体Sb−Cdが構成されている。
【0037】
又、第2プラネタリギヤ機構5のキャリアCb(第5要素)と第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第9要素)とが連結されて、第4連結体Cb−Rcが構成されている。又、第3プラネタリギヤ機構6のサンギヤSc(第7要素)と第4プラネタリギヤ機構7のサンギヤSd(第10要素)とが連結されて、第5連結体Sc−Sdが構成されている。又、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第3要素)は入力軸2に連結されている。第2連結体Ca−Rbは出力部材3に連結されている。
【0038】
実施形態の自動変速機では、4つのプラネタリギヤ機構4〜7により、第1連結体Ra−Cc、第2連結体Ca−Rb、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第3要素)、第3連結体Sb−Cd、第4連結体Cb−Rc、第5連結体Sc−Sd、第4プラネタリギヤ機構7のリングギヤRd(第12要素)の合計7つの回転体が構成されている。
【0039】
又、実施形態の自動変速機は、係合機構として、第1と第2の2つの湿式多板クラッチC1,C2と、第1〜第4の4つの湿式多板ブレーキB1〜B4と、1ウェイクラッチF1とを備える。
【0040】
第1湿式多板クラッチC1は、第1連結体Ra−Ccと第3連結体Sb−Cdとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2湿式多板クラッチC2は、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第3要素)と第4連結体Cb−Rcとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0041】
第1湿式多板ブレーキB1は、第4連結体Cb−Rcを変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。第2湿式多板ブレーキB2は、第4プラネタリギヤ機構7のリングギヤRdを変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0042】
第3湿式多板ブレーキB3は、第5連結体Sc−Sdを変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。第4湿式多板ブレーキB4は、1ウェイクラッチF1を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0043】
1ウェイクラッチF1は、第4連結体Cb−Rcが逆転(車両が後進する方向への回転)する場合に、第4連結体Cb−Rcと一体的に回転し、第4連結体Cb−Rcが正転(車両が前進する方向への回転)する場合に、第4連結体Cb−Rcと一体的に回転することなく相対回転自在となるように構成されている。
【0044】
実施形態の自動変速機において、1速段が確立される場合には、第1湿式多板クラッチC1が連結状態とされると共に、第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第1連結体Ra−Ccと第3連結体Sb−Cdとが同一速度で回転する。
【0045】
又、1ウェイクラッチF1が変速機ケース1に固定されると共に、この1ウェイクラッチF1の働きで第4連結体Cb−Rcの逆転が阻止され、第4連結体Cb−Rcの回転速度が「0」になる。そして、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「1st」になって、1速段が確立される。
【0046】
尚、1速段において、第1湿式多板ブレーキB1は開放状態となるが、第4連結体Cb−Rcの回転速度が1ウェイクラッチF1の働きで「0」となるため、第1湿式多板ブレーキB1ではフリクションロスは発生しない。又、1速段において、第1湿式多板ブレーキB1を固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることができる。
【0047】
2速段が確立される場合には、第2湿式多板ブレーキB2及び第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第4プラネタリギヤ機構7のリングギヤRd(第12要素)の回転速度が「0」になると共に、1ウェイクラッチF1の働きで第4連結体Cb−Rcの回転速度も「0」となる。そして、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「2nd」になって、2速段が確立される。
【0048】
尚、2速段においても、1速段の場合と同様に、開放状態となる第1湿式多板ブレーキB1でフリクションロスは発生しない。又、2速段においても、第1湿式多板ブレーキB1を固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることができる。
【0049】
3速段が確立される場合には、第3湿式多板ブレーキB3及び第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第5連結体Sc−Rdの回転速度が「0」になると共に、1ウェイクラッチF1の働きで第4連結体Cb−Rcの回転速度も「0」となって、第3プラネタリギヤ機構6の第7〜第9の各要素Sc,Cc,Rcが相対回転不能なロック状態となる。
【0050】
このため、第1連結体Ra−Ccの回転速度も「0」になり、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「3rd」(1/(h+1))になって、3速段が確立される。
【0051】
尚、3速段においても、1速段及び2速段の場合と同様に、開放状態となる第1湿式多板ブレーキB1でフリクションロスは発生しない。又、3速段においても、第1湿式多板ブレーキB1を固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることができる。
【0052】
4速段が確立される場合には、第2湿式多板ブレーキB2、第3湿式多板ブレーキB3及び第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第5連結体Sc−Sd及び第4プラネタリギヤ機構7のリングギヤRd(第12要素)の回転速度が「0」になって、第4プラネタリギヤ機構7の第10〜第12の各要素Sd,Cd,Rdが相対回転不能なロック状態となる。従って、第3連結体Sb−Cdの回転速度も「0」となり、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「4th」になって、4速段が確立される。
【0053】
5速段が確立される場合には、第1湿式多板クラッチC1が連結状態とされると共に、第3湿式多板ブレーキB3及び第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第1連結体Ra−Ccと第3連結体Sb−Cdとが等速度で回転すると共に、第5連結体Sc−Sdの回転速度が「0」になる。そして、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「5th」になって、5速段が確立される。
【0054】
6速段が確立される場合には、第2湿式多板クラッチC2が連結状態とされると共に、第3湿式多板ブレーキB3及び第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第3要素)と第4連結体Cb−Rcとが同一速度である「1」で回転すると共に、第5連結体Sc−Sdの回転速度が「0」となる。従って、第1連結体Ra−Ccの回転速度がj/(j+1)となり、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「6th」になって、6速段が確立される。
【0055】
7速段が確立される場合には、第1湿式多板クラッチC1及び第2湿式多板クラッチC2が連結状態とされると共に、第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第1連結体Ra−Ccと第3連結体Sb−Cdとが等速度で回転すると共に、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第3要素)と第4連結体Cb−Rcとが同一速度である「1」で回転する。
【0056】
そして、第1プラネタリギヤ機構4及び第2プラネタリギヤ機構5の各要素Sa,Ca,Ra,Sb,Cb,Rbが相対回転不能なロック状態となって「1」で回転し、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が「1」である「7th」になり、7速段が確立される。
【0057】
8速段が確立される場合には、第2湿式多板クラッチC2が連結状態とされると共に、第2湿式多板ブレーキB2及び第4湿式多板ブレーキB4が固定状態とされる。これにより、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第3要素)と第4連結体Cb−Rcとが同一速度である「1」で回転すると共に、第4プラネタリギヤ機構7のリングギヤRd(第12要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す「8th」になって、8速段が確立される。
【0058】
後進段が確立される場合には、第1湿式多板クラッチC1が連結状態とされると共に、第2湿式多板ブレーキB2が固定状態とされる。第4湿式多板ブレーキB4が開放状態とされているため、1ウェイクラッチF1の働きが無効となり、第4連結体Cb−Rcは逆転が許容される状態となる。
【0059】
又、第1連結体Ra−Ccと第3連結体Sb−Cdとが等速度で回転すると共に、第4プラネタリギヤ機構7のリングギヤRd(第12要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3に連結された第2連結体Ca−Rbの回転速度が図2に示す逆転の「Rvs」になって、後進段が確立される。
【0060】
尚、図2中の点線で示す速度線は、4つのプラネタリギヤ機構4〜7のうち動力伝達するプラネタリギヤ機構に追従して他のプラネタリギヤ機構の各要素が回転することを表している。
【0061】
図3(a)は、上述した各変速段と各係合機構たるクラッチC1,C2、ブレーキB1〜B4、1ウェイクラッチF1の状態との関係を纏めて表示した図であり、クラッチC1,C2及びブレーキB1〜B4の欄の「○」は連結状態又は固定状態であることを表している。又、1ウェイクラッチF1の欄の「○」は1ウェイクラッチF1の働きで第4連結体Cb−Rcの回転速度が「0」となっている状態であることを表している。又、第1湿式多板ブレーキB1の欄の「(○)」はエンジンブレーキを効かせる場合には固定状態とすることを表している。
【0062】
又、図3(b)に示すように、第1プラネタリギヤ機構4のギヤ比hを1.666、第2プラネタリギヤ機構5のギヤ比iを1.666、第3プラネタリギヤ機構6のギヤ比jを3.333、第4プラネタリギヤ機構7のギヤ比kを1.666とした場合における各変速段のギヤレシオ(入力軸2の回転速度/出力部材3の回転速度)も図3(a)に示している。これによれば、公比(各変速段間のギヤレシオの比)が適切になると共に、図3(b)に示すレシオレンジ(1速レシオ/8速レシオ)も適切になる。
【0063】
実施形態の自動変速機によれば、前進8段の変速を行うことができる。又、前進4速段から前進8速段においては、2つの湿式多板クラッチC1,C2と4つの湿式多板ブレーキB1〜B4の合計6つの係合機構のうち3つの係合機構が係合することになる。又、前進1速段から前進3速段においては、第1湿式多板ブレーキB1が開放状態であっても、1ウェイクラッチF1の働きで第1プラネタリギヤ機構4のリングギヤRa(第3要素)の回転速度が「0」となるため、第1湿式多板ブレーキB1でフリクションロスが発生しない。
【0064】
そのため、後進段を除く各変速段でフリクションロスが発生する係合機構の数は3つになり、従来のように各変速段で4つの係合機構がフリクションロスを発生させるものに比し、開放している係合機構によるフリクションロスを低減でき、自動変速機の伝達効率が向上する。
【0065】
又、入力軸2(又は入力軸2を回転自在に軸支するメインシャフト(図示省略))の軸線上には、4つプラネタリギヤ機構4〜7と2つの湿式多板クラッチC1,C2の合計6つの部材が配置される。このため、従来品のように、3つのプラネタリギヤ機構と4つの湿式多板クラッチの合計7つの部材が入力軸2の軸線上に配置されるものに比し、自動変速機の軸長を短縮させることができ、車両(特にFF式の車両)への搭載性を向上させることができる。
【0066】
又、第1〜第4の4つのプラネタリギヤ機構4〜7の全てがシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成されているため、各プラネタリギヤ機構4〜7を、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に一方がサンギヤに噛合し他方がリングギヤに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成した場合に比し、入力軸2から出力部材3までの動力伝達経路におけるギヤの噛合回数を減少させることができ、伝達効率を向上させることができる。
【0067】
又、実施形態の自動変速機では、第4湿式多板ブレーキB4と1ウェイクラッチF1とを省略しても、上述した実施形態の効果を得ることができる。この場合、前進1速段から前進3速段においては、第1湿式多板ブレーキB1を固定状態とすればよい。
【0068】
ここで、上述した如く第4湿式多板ブレーキB4と1ウェイクラッチF1とを省略した場合には、3速段から4速段へアップシフトする際には、第1湿式多板ブレーキB1を開放状態に切り換えると共に、第2湿式多板ブレーキB2を固定状態に切り換える必要がある。又、4速段から3速段へダウンシフトする際には、第1湿式多板ブレーキB1を固定状態に切り換えると共に、第2湿式多板ブレーキB2を開放状態に切り換える必要がある。
【0069】
実施形態の自動変速機では、3速段から4速段へアップシフトする際には、第2湿式多板ブレーキB2を固定状態に切り換えるだけでよく、又、4速段から3速段へダウンシフトする際には、第2湿式多板ブレーキB2を開放状態に切り換えるだけでよい。
【0070】
従って、実施形態の自動変速機によれば、第4湿式多板ブレーキB4と1ウェイクラッチF1とを省略して3速段と4速段との間の変速の際に第1と第2の2つの湿式多板ブレーキB1,B2の状態を切り換える必要があるものに比べ、3速段と4速段の間の変速の制御性を向上させることができる。
【0071】
又、実施形態の第1湿式多板ブレーキB1は、1〜3速段でエンジンブレーキを効かせる場合のみ、固定状態に切り換えられるものであるため、比較的容量の小さい湿式多板ブレーキで構成することができる。
【0072】
ここで、湿式多板ブレーキは容量の増加に比例して開放状態のときに発生するフリクションロスが増加するものである。このため、実施形態の自動変速機によれば、比較的容量の大きい湿式多板ブレーキを用いる必要があるものに比し、第4連結体Cb−Rcが正転する4速段から8速段において、第1湿式多板ブレーキB1で発生するフリクションロスを減少させることができ、更なる伝達効率の向上を図ることができる。
【0073】
尚、実施形態では、本発明の第1ブレーキとして第1湿式多板ブレーキB1を用いたが、これに限らず、本発明の第1ブレーキとして、例えば、ドグクラッチやシンクロメッシュ機構等の噛合機構や2ウェイクラッチを用いてもよい。このように構成すれば、第1ブレーキが開放状態となる前進4速段〜8速段において、第1ブレーキでのフリクションロスをより抑制させることができ、自動変速機の伝達効率をより向上させることができる。
【0074】
第1ブレーキとして2ウェイクラッチを用いる場合には、前進段においては、正転(車両が前進する方向への回転)を許容し逆転(車両が後進する方向への回転)を阻止する逆転阻止状態に切り換え、後進段においては、正転を阻止し逆転を許容する正転阻止状態に切り換えればよい。この場合、1ウェイクラッチF1及び第4湿式多板ブレーキB4は省略することができる。
【0075】
これによれば、実施形態の自動変速機の1ウェイクラッチF1を用いた場合と同様の理由により、3速段と4速段の間の変速の制御性を向上させることができる。又、2ウェイクラッチは、第4連結体Cb−Rcの変速機ケース1への固定を解除する開放状態である場合(実施形態では4速段から8速段)でもフリクションロスが発生しない。このため、自動変速機全体として、フリクションロスをより抑制することができる。又、前進1〜3速段において、車両が減速状態にあるときに2ウェイクラッチを正転阻止状態に切り換えれば、エンジンブレーキを効かせることもできる。
【0076】
又、実施形態においては、第1〜第4のプラネタリギヤ機構4〜7をシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成したが、第1〜第4のプラネタリギヤ機構4〜7をダブルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…変速機ケース、2…入力軸、3…出力部材、4…第1プラネタリギヤ機構、Sa…サンギヤ(第3要素)、Ra…リングギヤ(第1要素)、Pa…ピニオン、Ca…キャリア(第2要素)、5…第2プラネタリギヤ機構、Sb…サンギヤ(第4要素)、Rb…リングギヤ(第6要素)、Pb…ピニオン、Cb…キャリア(第5要素)、6…第3プラネタリギヤ機構、Sc…サンギヤ(第7要素)、Rc…リングギヤ(第9要素)、Pc…ピニオン、Cc…キャリア(第8要素)、7…第4プラネタリギヤ機構、Sd…サンギヤ(第10要素)、Rd…リングギヤ(第12要素)、Pd…ピニオン、Cd…キャリア(第11要素)、C1…第1湿式多板クラッチ(第1クラッチ)、C2…第2湿式多板クラッチ(第2クラッチ)、B1…第1湿式多板ブレーキ(第1ブレーキ)、B2…第2湿式多板ブレーキ(第2ブレーキ)、B3…第3湿式多板ブレーキ(第3ブレーキ)、B4…第4湿式多板ブレーキ(第4ブレーキ)、F1…1ウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケース内に回転自在に軸支されると共に駆動源からの動力により回転される入力軸の回転を、複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機であって、
サンギヤ、キャリア及びリングギヤからなる3つの要素を夫々備える第1から第4の4つのプラネタリギヤ機構が設けられ、
該第1プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、
前記第2プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、
前記第3プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第7要素、第8要素及び第9要素とし、
前記第4プラネタリギヤ機構の3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第10要素、第11要素及び第12要素として、
前記第1要素と前記第8要素とを連結して第1連結体が構成され、前記第2要素と前記第6要素とを連結して第2連結体が構成され、前記第4要素と前記11要素とを連結して第3連結体が構成され、前記第5要素と前記第9要素とを連結して第4連結体が構成され、前記第7要素と前記第10要素とを連結して第5連結体が構成され、
前記第3要素が前記入力軸に連結され、前記第2連結体が前記出力部材に連結され、
前記第1連結体と前記第3連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、
前記第3要素と前記第4連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、
前記第4連結体を前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第1ブレーキと、
前記第12要素を前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第2ブレーキと、
前記第5連結体を前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第3ブレーキとを備えることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機において、
前記第4連結体が逆転する場合のみ、前記第4連結体と一体的に回転する1ウェイクラッチが設けられ、
該1ウェイクラッチを前記変速機ケースに固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在な第4ブレーキが設けられていることを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
請求項1記載の自動変速機において、
前記第1ブレーキは、ドグクラッチ、又は、前記第4連結体の正転を許容し逆転を阻止する逆転阻止状態と、前記第4連結体の正転を阻止し逆転を許容する正転阻止状態とに切換自在な2ウェイクラッチで構成されることを特徴とする自動変速機。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の自動変速機において、
前記4つのプラネタリギヤ機構は、サンギヤと、リングギヤと、該サンギヤ及び該リングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成されることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149483(P2011−149483A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10698(P2010−10698)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】