説明

自動玉揚げ動作方法

【課題】自動の玉揚げ動作の実行において、糸出し動作が失敗したにも拘わらず、糸掛け動作が継続して行なわれると、無駄に空ボビンが供給されて除去作業を作業者に強いることになる。
【解決手段】クレードルよりパッケージ付きボビンを取出す玉出し動作工程1000と、糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を捕捉する糸出し動作工程2000と、クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰する糸掛け動作工程3000と、を備え、糸出し動作工程で糸の捕捉に失敗した場合、糸掛け動作工程3000の代わりに、モータを逆転させて糸掛け動作工程3000を経ることなく初期状態に復帰させる逆転復帰工程4000を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸出し装置と、クレードルを備える巻取装置と、を備える相手装置に対して、単一のモータにより連動して駆動される、ボビン移載装置と、エア吸引式糸捕捉装置と、クレードル操作装置と、を備える玉揚げ装置により行なう、自動玉揚げ動作方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸出し装置と巻取装置とを備える繊維機械において、満巻の巻糸パッケージの取出しと、交換用の空ボビンの供給や、その空ボビンへの糸掛けを自動で行なう装置(自動玉揚げ装置)を備えるものが知られている。例えば、特許文献1に開示される技術である。
【0003】
特許文献1に開示される繊維機械は紡績機であり、ドラフト装置や空気噴射ノズル(空気式精紡手段)よりなる糸出し装置や、クレードルを備える巻取装置が備えられている。
この紡績機には、紡績ユニットが多数並設されると共に、これらの紡績ユニットの並設方向に沿って移動する玉揚げ台車が備えられており、この玉揚げ台車により玉揚げ動作が行われる。
【特許文献1】特開2001−254235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の自動玉揚げ動作方法においては、この玉揚げ動作方法が循環過程(サイクル)に構成されているために、成功・失敗に拘わらず、そのサイクルが必ず実行されるものとなっていた。
ここで、玉揚げ動作方法は、満巻パッケージの玉出し動作、新たな糸の糸出し動作、交換後の空ボビンへ糸出しされた糸を糸掛けする糸掛け動作、の一連動作を実行するものとなっている。
このため、糸出し動作に失敗しても、玉揚げ動作が中断されることなく、糸掛け動作が実行されて、空のボビンが巻取装置に供給されるものとなっていた。この空のボビンをほっておくと、後に玉揚げ動作が成功した場合には、満巻パッケージと同様の順路で移載されてしまうため、事前に作業者が手動で取除いてやる必要があった。
【0005】
また、糸掛け動作にはそれなりの時間を要するものである。糸出し動作に失敗したにも拘わらず糸掛け動作が行なわれるとなると、その分の時間が無駄になってしまう。
特に、複数の相手装置(例えば一錘用の紡績装置)に対して、一台の玉揚げ装置でサービスする構成とした繊維機械の場合は、ある特定の相手装置に玉揚げ装置が拘束される時間が増えるにつれて、繊維機械全体の生産効率の低下に繋がってしまう。
【0006】
つまり、解決しようとする問題点は、自動の玉揚げ動作の実行において、糸出し動作が失敗したにも拘わらず、糸掛け動作が継続して行なわれると、無駄に空ボビンが供給されて除去作業を作業者に強いる点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、
糸出し装置と、クレードルを備える巻取装置と、を備える相手装置に対して、玉揚げ装置により行なう、自動玉揚げ動作方法であって、
前記クレードルよりパッケージ付きボビンを取出す玉出し動作工程と、
前記糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を捕捉する糸出し動作工程と、
前記クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰する糸掛け動作工程と、
を備え、
前記糸出し動作工程で前記糸の捕捉に失敗した場合、
前記糸掛け動作工程の代わりに、前記糸掛け動作工程を経ることなく初期状態に復帰させる復帰工程を実行する、ものである。
【0009】
請求項2においては、
前記玉揚げ装置には、
単一のモータにより連動して駆動される、エア吸引式糸捕捉装置と、ボビン移載装置と、クレードル操作装置と、を備え、
前記玉出し動作工程では、前記モータを正転させて前記クレードル操作装置により前記クレードルよりパッケージ付きボビンを取出し、
前記糸出し動作工程では、前記モータを停止した状態で前記糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を前記エア吸引式糸捕捉装置で捕捉し、
前記糸掛け動作工程では、前記モータをさらに正転させて前記ボビン移載装置により前記クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記エア吸引式糸捕捉装置が捕捉する前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰させ、
前記復帰工程では、前記モータを逆転させて前記糸掛け動作工程を経ることなく初期状態に復帰させる、ものである。
【0010】
請求項3においては、
前記糸出し動作工程は、前記エア吸引式糸捕捉装置による前記糸の捕捉が成功するまで所定の複数回実行する、ものである。
【0011】
請求項4においては、
前記玉揚げ装置は、複数台の前記相手装置間を走行可能に構成されると共に、一台の玉揚げ装置が、前記相手装置からの玉揚げ動作要求に応じて、玉揚げ動作を実行する、ものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、
糸出し動作が失敗しているにも拘わらず、空のボビンが前記巻取装置に供給されて、ボビンの除去作業を作業者に強いることがない。
【0014】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
玉出し動作、糸出し動作、糸掛け動作に係る玉揚げ装置側に備える各装置を、同一の駆動源により駆動する構成として、装置構成の単純化が実現される。
【0015】
請求項3においては、請求項1または請求項2の効果に加えて、
玉揚げ装置による自動の玉揚げ動作の成功率が向上し、作業者のメンテナンスがなくても成功する場合に、作業者を煩わせることがない。
【0016】
請求項4においては、請求項1から請求項3のいずれかの効果に加えて、
玉揚げ動作を構成する工程中でそれなりの作業時間を要する糸出し動作工程を、玉揚げ動作の失敗時には実行しないでよく、特定の相手装置に玉揚げ装置が拘束される時間が短縮され、装置全体の作業効率の向上に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の自動玉揚げ動作方法の一実施の形態を、図面を用いて説明する。
本実施の形態は、紡績機1に適用される自動玉揚げ動作方法である。この紡績機1は、ドラフト装置7および空気式精紡装置8よりなる糸出し装置と、巻取装置10と、を備える装置である。
【0018】
図1を用いて、本実施の形態に係る紡績機1を説明する。
紡績機1は、一錘の紡績糸の製造に関わる紡績ユニット2を多数備えると共に、各紡績ユニット2に対して玉揚げ作業を行う複数錘共用の玉揚げ装置3を備えている。
ここで、図1は、紡績ユニット2の並設方向より見た図であり、紙面に対して垂直な方向に多数の紡績ユニット2が配置されると共に、この並設方向に沿って玉揚げ装置3が移動自在に設けられている。
【0019】
紡績ユニット2は、ケンス(図示せず)より供給されるスライバ4より紡績糸5を製造して、その紡績糸5の巻糸パッケージ6を製造する装置である。この紡績ユニット2には、ドラフト装置7、空気式精紡装置8、糸送り装置9、巻取装置10、が備えられている。
【0020】
ドラフト装置7は、4線式のドラフト装置であり、スライバ4をニップしてドラフト(延伸)するドラフトローラ対を四組備えている。
前記四組のドラフトローラ対は、空気式精紡装置8からケンスに向けて配置される次のドラフトローラ対、フロントローラ対11(1線)、セカンドローラ対12(2線)、サードローラ対13(3線)、バックローラ対14(4線)よりなる。
【0021】
空気式精紡装置8は、旋回空気流を利用して、スライバ4を構成する繊維より紡績糸5を生成する装置である。
【0022】
糸送り装置9は、空気式精紡装置8で製造された紡績糸5を巻取装置10へ送り出す装置であり、紡績糸5をニップして送り出すデリベリローラ15およびニップローラ16を備えている。
【0023】
糸巻取装置10は、空気式精紡装置8で製造された紡績糸5を、ボビン17の軸方向にトラバースして巻き取って巻糸パッケージ6を形成する装置である。
糸巻取装置10には、ボビン17を保持するクレードルアーム18と、ボビン17上のパッケージを接触回転させるフリクションローラ19と、トラバース装置(図示せず)と、が備えられている。
【0024】
図2に示すように、クレードルアーム18は支点軸61回りで、紡績ユニット2に揺動可能に支持されている。このクレードルアーム18の傾倒可能な位置には、開始位置C1と、満巻位置C2と、玉出し位置C3と、受取り位置C4と、がある。クレードルアーム18は、支点軸61回りに、開始位置C1から、受取り位置C4、満巻位置C2を経て、玉出し位置C3までの範囲で移動可能(傾倒可能)である。
【0025】
開始位置C1とは、クレードルアーム18に空のボビン17が保持された状態で、そのボビン17がフリクションローラ19に接触する際のクレードルアーム18の傾倒位置である。
満巻位置C2とは、クレードルアーム18に満巻の巻糸パッケージ6が保持された状態で、その巻糸パッケージ6がフリクションローラ19に接触する際のクレードルアーム18の傾倒位置である。
つまり、ボビン17上の巻糸パッケージ6の成長(径変化)に応じて、クレードルアーム18は、開始位置C1から満巻位置C2に至る傾倒範囲CR間を移動する。
また、玉出し位置C3とは、クレードルアーム18に保持されている満巻の巻糸パッケージ6を取り出す際における、クレードルアーム18の傾倒位置である。
受取り位置C4とは、玉出し位置C3から開始位置C1に戻る間際の位置で、新たに空のボビン17の供給を受ける際におけるクレードルアーム18の傾倒位置である。開始位置では、クレードルアーム18に保持される空のボビン17がフリクションローラ19に接触するが、受取り位置C4では、クレードルアーム18に保持される空のボビン17はフリクションローラ19に接触しない。
【0026】
クレードルアーム18には、ボビン17の両軸端を挟み込んで保持するためのボビンホルダ62が一対設けられると共に、ボビンホルダ62・62の間隔が開き得るように、クレードルアーム18は支点軸61の軸方向で開閉可能に構成されている。クレードルアーム18は閉状態にあるとき、前記一対のボビンホルダ62・62によるボビン17の挟み込みにより、巻糸パッケージ6(ボビン17)の保持が行なわれる。一方、クレードルアーム18が開状態にあるとき、前記一対のボビンホルダ62・62によるボビン17の挟み込みが解除されて、巻糸パッケージ6(ボビン17)がクレードルアーム18より取出される。
クレードルアーム18は、支点軸61の周方向の任意の傾倒位置で、支点軸の軸方向で開閉可能に構成されている。クレードルアーム18は、後述のクレードル操作アーム40による操作を受けると、開閉される。また、オペレーターによる操作によっても、クレードルアーム18を任意の傾倒位置で開閉させることが可能である。
【0027】
図1、図2を用いて、玉揚げ装置3を説明する。
玉揚げ装置3は、満巻の巻糸パッケージ6の玉揚げ動作を行う装置である。この玉揚げ動作は、玉出し動作、糸出し動作、糸掛け動作よりなる一連動作のことを指している。
玉出し動作とは、紡績ユニット2の巻取装置10より、満巻の巻糸パッケージ6の取り出しを行なう作業をいう。
糸出し動作とは、新たな空のボビン17へ糸掛けするための紡績糸5を、空気式精紡装置8から新たに紡出を開始し、その新たに紡出された紡績糸5を玉揚げ装置3(サクションパイプ21)で捕捉するまでの作業をいう。
糸掛け動作とは、新たな空のボビン17を巻取装置10に供給すると共に、そのボビン17に、糸出し動作において捕捉された紡績糸5を糸掛けする作業をいう。
この玉揚げ動作に要する基本時間は、本実施の形態では、13sec(秒)程度である。
【0028】
玉揚げ装置3には、紡績ユニット2側に対して進退動可能な装置として、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40、が備えられている。
サクションアーム20は、糸出し動作における糸捕捉や糸掛け動作における糸掛けに係るものであり、紡績糸5の糸端を吸込んで捕捉するサクションパイプ21や、ボビン17への糸掛けを行なうためのバンチ巻装置22、が備えられている。
ボビンチャッカ30は、糸掛け動作におけるボビン17の供給に係るものであり、ボビン17を把持して移載させることが可能な装置に構成されている。
クレードル操作アーム40は、玉出し動作における満巻の巻糸パッケージ6の取出しや、糸掛け動作における空のボビン17の供給に係るものであり、巻取装置10に備えるクレードルアーム18を傾倒させると共に開閉させる装置に構成されている。
【0029】
また、玉揚げ装置3には、ボビンチャッカ30が移載対象とする空のボビン17が多数収容されたボビン収容庫50も設けられている。
【0030】
サクションアーム20の移動する位置には、次の三位置がある。
玉揚げ装置3内に収容された位置である待機位置S1、糸送り装置9に接近させた位置である糸捕捉位置S2、巻取装置10側に接近させた位置である糸掛け位置S3、である。
サクションアーム20は、簡単には、これらの三位置S1・S2・S3間を移動するように、その動作が制御される。
【0031】
待機位置S1は、玉揚げ動作の待機状態(玉揚げ動作を実行していない状態)において、サクションアーム20を静止させておく位置のことである。サクションアーム20が待機位置S1にあるとき、サクションアーム20は玉揚げ装置3内に収容されているので、紡績ユニット2と干渉する恐れもなく、紡績ユニット2の並設方向に沿う玉揚げ装置3の移動にも差支えがない。
【0032】
糸捕捉位置S2は、玉揚げ動作の実行時において、巻取装置10に新たに供給された空のボビン17へ、糸掛けするための紡績糸5の糸端を捕捉すべく、糸送り装置9の(糸送出方向)下流側へサクションアーム20を接近させた際の位置である。この糸捕捉位置S2において、サクションアーム20に備えるサクションパイプ21の吸込み口が空気式精紡装置8の紡出口をむいている。この糸捕捉位置S2で、サクションパイプ21による吸引が開始されると、空気式精紡装置8より紡出された紡績糸5がデリベリローラ15およびニップローラ16間を経由して、サクションパイプ21に吸引されて捕捉される。
【0033】
糸掛け位置S3は、玉揚げ動作の実行時において、サクションパイプ21に捕捉されている紡績糸5を、巻取装置10に新たに供給された空のボビン17に、糸掛けすべく、サクションアーム20を巻取装置10に接近させた際の位置である。この糸掛け位置S3において、巻取装置10のクレードルアーム18に保持されているボビン17に、サクションパイプ21に捕捉されている紡績糸5の糸掛けが行なわれる。なお、サクションアーム20が糸掛け位置S3にあるとき、クレードルアーム18は受取り位置C4に位置している。
【0034】
ボビンチャッカ30の移動する位置には、次の三位置がある。
玉揚げ装置3内に収容された位置である待機位置B1、ボビン収容庫50に突入させた位置であるボビン取出し位置B2、巻取装置10側に接近させた位置であるボビン供給位置B3、である。
ボビンチャッカ30は、簡単には、これらの三位置B1・B2・B3間を移動するように、その動作が制御される。
【0035】
待機位置B1は、玉揚げ動作の待機状態(玉揚げ動作を実行していない状態)において、ボビンチャッカ30を静止させておく位置のことである。
【0036】
ボビン取出し位置B2は、玉揚げ動作の実行時において、巻取装置10へ新たに空のボビン17を供給すべく、ボビン収容庫50内に突入させて、このボビン収容庫50内のボビン17を把持させる際のボビンチャッカ30の位置である。このボビン取出し位置B2において、ボビンチャッカ30に備えるボビン17を把持するためのハンド31が駆動され、ボビン17がボビンチャッカ30に把持される。
【0037】
ボビン供給位置B3は、玉揚げ動作の実行時において、巻取装置10内のクレードルアーム18に、空のボビン17を受け渡すべく、クレードルアーム18にボビンチャッカ30が接近した際のボビンチャッカ30の位置である。このボビン供給位置B3において、ボビンチャッカ30によるボビン17の把持が解除されて、クレードルアーム18にボビン17が受け渡される。なお、ボビンチャッカ30がボビン供給位置B3にあるとき、クレードルアーム18は受取り位置C4に位置している。
【0038】
クレードル操作アーム40の移動する位置には、次の三位置がある。
玉揚げ装置3内に収容された位置である待機位置M1、空のボビン17をクレードルアーム18に供給する際の供給位置M2、満巻の巻糸パッケージ6をクレードルアーム18より取り出す際の取出位置M3、である。
クレードル操作アーム40は、第一には、クレードルアーム18に支点軸61の周方向で接触してクレードルアーム18を傾倒させる手段であるが、第二には、クレードルアーム18を支点軸61の軸方向に押圧して、クレードルアーム18を開閉させる手段でもある。
クレードル操作アーム40は、前記三位置M1・M2・M3間を移動するように制御されて、クレードルアーム18を傾倒させると共に開閉させるものである。
【0039】
待機位置M1は、玉揚げ動作の待機状態(玉揚げ動作を実行していない状態)において、クレードル操作アーム40を静止させておく位置のことである。
【0040】
供給位置M2は、クレードルアーム18に空のボビン17を供給する際の位置であるが、このとき、クレードルアーム18は受取り位置C4にある。また、クレードル操作アーム40に押されるクレードルアーム18が、開始位置C1や満巻位置C2にあるクレードルアーム18を玉出し位置C3へ向けて傾倒させる際に、供給位置M2を経て取出位置M3へ向けてクレードル操作アーム40を移動させる。
ここで、空のボビン17をクレードルアーム18に供給する際は、供給位置M2において、クレードル操作アーム40は支点軸61の軸方向にも移動して、クレードルアーム18を開放させ、ボビンチャッカ30によるクレードルアーム18への空のボビン17の供給が可能な状態とする。なお、玉揚げ動作の実行時において、クレードルアーム18を玉出し位置C3へ向けて傾倒させる際に、クレードル操作アーム40が供給位置M2を通過する際は、クレードル操作アーム40によるクレードルアーム18の開放は行なわれない。
【0041】
取出位置M3は、玉揚げ動作の実行時において、クレードル操作アーム40によりクレードルアーム18を押圧して玉出し位置C3まで揺動させた際のクレードル操作アーム40の位置である。
取出位置M3において、クレードル操作アーム40は支点軸61の軸方向にも移動して、クレードルアーム18を開放させ、クレードルアーム18に保持される満巻の巻糸パッケージ6を取り出させる。
クレードル操作アーム40がクレードルアーム18を開放させるのは、クレードル操作アーム40が供給位置M2および取出位置M3にあるときだけであり、他の位置では、クレードルアーム18は閉鎖状態に保たれている。
【0042】
図3に示すように、玉揚げ装置3に備える三つの駆動部材、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40は、玉揚げ装置3に備える単一のモータ70からの動力伝達を受けて、連動して駆動するように構成されている。
モータ70の出力軸は主駆動軸71に接続されており、この主駆動軸より動力が分岐されて、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40のそれぞれが駆動される。
このモータ70は正逆回転が可能に構成されており、主駆動軸71を必要に応じて正転、逆転させて、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40の駆動方向を正転・逆転させる。
【0043】
また、駆動源たるモータ70から各駆動部材に至る動力伝達経路上にはそれぞれ、カムと、このカムの従動体とが接触するように設けられており、前記カムはモータ70にリンクを介して動力伝達可能に接続され、前記従動体は各駆動部材に動力伝達可能に接続されている。
モータ70からサクションアーム20に至る動力伝達経路上には、サクション用カム72と、このサクション用従動体29と、が設けられている。このサクション用従動体29は、具体的には、サクションアーム20を支持すると共に駆動するリンクの末端もしくは中途に配置されるアーム等の部材である。
モータ70からボビンチャッカ30に至る動力伝達経路上には、チャッカ用カム73と、このチャッカ用従動体39と、が設けられている。
モータ70から操作アーム用従動体40に至る動力伝達経路上には、操作アーム用カム74と、この操作アーム用従動体49と、が設けられている。
【0044】
そして、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40は、カムを利用することにより間欠駆動が可能に構成されており、相互に連動して駆動される構成でありながら、実際の駆動のタイミングや駆動される時間幅が、それぞれ異なるものとなっている。
【0045】
ここで、ボビンチャッカ30およびクレードル操作アーム40は、モータ70のみを駆動源として駆動される構成である。
これに対して、サクションアーム20には、その駆動源として、前記モータ70に加えて、エアシリンダ75が設けられている。このエアシリンダ75は、玉揚げ装置3に備えるエア供給源であるエアコンプレッサ76からのエアの供給を受けて駆動し、サクションアーム20の先端部が後端部に対して進退するように(サクションアーム20の先端がより遠くまで届くように)制御する。
また、エアコンプレッサ76は、サクションアーム20に備えるサクションパイプ21の駆動源ともなっている。
【0046】
前記主駆動軸71はサクション用カム72に固定されており、主駆動軸71の一回転により、サクション用カム72が一回転する。サクション用カム72の一回転によるサクションアーム20の駆動は、玉揚げ動作におけるサクションアーム20の1サイクルの駆動を意味する。
同じく、主駆動軸71の一回転により、チャッカ用カム73や操作アーム用カム74も一回転するように構成されている。そして、主駆動軸71の一回転により、ボビンチャッカ30やクレードル操作アーム40が、玉揚げ動作における1サイクルの駆動を行なうものとなっている。
【0047】
主駆動軸71は、前述したように、一回の玉揚げ動作毎に一回転するものであるが、一回の玉揚げ動作において、主駆動軸71は一時停止されることが複数回あり、主駆動軸71自体も間欠駆動されるものとなっている。この停止される場合とは、主として、玉出しクレードル開放時と、糸出し動作時とである。
玉出しクレードル開放時と、糸出し動作時とには、玉揚げ装置3の外部装置において時間を要する動作が行なわれるため、主駆動軸71そのものを停止させて、作業時間が得られるようにしている。
また、主駆動軸71の回転位置において、玉揚げ動作の開始時の位置を待機時回転位置R1、玉出しクレードル開放時の位置を玉出し時回転位置R2、糸出し動作時の回転位置を糸出し時回転位置R3、とする。
【0048】
玉出しクレードル開放時とは、次の場合を意味する。
クレードルアーム18は、満巻の巻糸パッケージ6の取出しが行なわれる玉出し位置C3にある際と、新たな空のボビン17の供給が行なわれる受取り位置C4にある際と、の二回、開放される。
具体的には、クレードルアーム18は、当初満巻位置C2にあって、満巻の巻糸パッケージ6を保持した状態にあり、次いで玉出し位置C3に移動させられて満巻の巻糸パッケージ6の玉出しが行なわれる。その後、開始位置C1に戻される際に、その手前の受取り位置C4において、空のボビン17の供給を受ける。
つまり、玉出しクレードル開放時とは、クレードルアーム18の二回の開放時のうち、満巻の巻糸パッケージ6の取出し時(玉出し位置C3)のことを意味する。なお、空のボビン17の受取り時(受取り位置C4)を、ボビン供給クレードル開放時とする。
【0049】
玉出しクレードル開放時は、図示せぬ移載装置によって、満巻の巻糸パッケージ6の移載作業が行なわれるため、ボビンチャッカ30により空のボビン17を供給する際(ボビン供給クレードル開放時)に比べて、時間を要するものとなっている。
このため、玉出しクレードル開放時には、ボビン供給クレードル開放時よりも長く、クレードルアーム18の開放状態が保たれるように、主駆動軸71そのものを停止させて、前記移載装置による作業時間を確保するものとしている。
【0050】
本実施の形態では、玉出しクレードル開放時の時間は4.5sec(秒)程度であるのに対し、ボビン供給クレードル開放時の時間は3.5sec(秒)程度である。つまり、この差である1sec(秒)程度の時間が、主駆動軸71の停止時間に相当するものである。
【0051】
また、糸出し動作時とは、サクションアーム20が糸捕捉位置S2にあって、空気式精紡装置8から紡出された紡績糸5の捕捉が、サクションパイプ21により行なわれる時のことである。
糸出し動作時の停止時間は、本実施の形態では、1.5〜3.0sec(秒)程度である。
【0052】
次に、図4を用いて、本実施の形態における自動玉揚げ動作方法を概略的に説明する。
この自動玉揚げ動作方法は、玉出し動作工程1000、糸出し動作工程2000、糸掛け動作工程3000、を順に経て再び初期状態に復帰する循環過程となっている。つまり、糸掛け動作工程が終了した時点の状態は、玉出し動作工程の開始時点の状態に一致する。
この自動玉揚げ動作方法においては、糸出し動作工程に不具合があった場合、糸掛け動作工程を経ることなく、初期状態(玉出し動作工程の開始時点)への復帰が行なわれる。この復帰を行なう工程を、逆転復帰工程4000と称する。ここで、逆転と称するのは、玉揚げ装置3の各駆動部材(サクションアーム20等)を駆動する主駆動軸71(モータ70)の回転方向が、この逆転復帰工程4000においては逆転されるためである。
【0053】
また、糸掛け動作工程3000を中止して逆転復帰工程4000に進むかどうかの判定は、二段階で行なう。
まず、糸出し動作工程2000の後に、糸出し動作が成功したかどうかを判定する。糸出し動作が成功した場合は、そのまま糸掛け動作工程3000に進む。糸出し動作が失敗した場合は、その失敗回数が所定の複数回数(本実施の形態では二回)に達しているかどうかを判定する。一度目の失敗の場合は、再び、糸出し動作工程2000を行なう。二度目の失敗の場合は、逆転復帰工程4000に進む。
【0054】
図5および図6から図8を用いて、玉揚げ動作の手順を詳しく説明する。
図5には玉揚げ動作のフローが描かれており、図6から図7には玉揚げ動作の進展具合における特定時点の玉揚げ装置3の様子が描かれている。そこで、この図5と、フローの進展に応じた状態を示す図6から図8の各図とを対照しながら、玉揚げ動作を説明する。
【0055】
玉揚げ装置3は、複数台の紡績ユニット2の間を走行可能に構成されており、玉揚げ動作要求を発信した紡績ユニット2の正面に停止して、その紡績ユニット2との間で、玉揚げ動作を行うものである。
この玉揚げ動作要求は、ある紡績ユニット2において、巻糸パッケージ6が満巻となった場合に発せられる。
【0056】
図6は、玉揚げ動作の開始時の玉揚げ装置3の様子を示している。
このとき、サクションアーム20は待機位置S1にあり、ボビンチャッカ30は待機位置B1にあり、クレードル操作アーム40は待機位置M1にある。
この玉揚げ動作は、玉揚げ動作開始信号が、紡績機1の制御部より玉揚げ装置3の制御部に送信されると開始される(図5のステップ101)。
【0057】
この玉揚げ動作の開始前には、既に、糸出し動作(空気式精紡装置8からの紡績糸5の紡出)は一旦終了しており、玉揚げ動作を行なう対象の紡績ユニット2が作業を停止している状態にある。
【0058】
図7は、糸出し動作時における玉揚げ装置3の様子を示している。
図6に示される状態から、図7に示される状態となるまでに、ステップ102からステップ110まで(この間のステップの通し番号の全て)の動作が行なわれている。
【0059】
玉揚げ動作開始信号が前記制御部で受信される(ステップ101)と、前記主駆動軸71が、回転駆動される(ステップ102)。
前記玉出し動作の間に、主駆動軸71は、待機時回転位置R1(ステップ101)より、玉出し時回転位置R2(ステップ103)を経て、糸出し時回転位置R3(ステップ106)まで回転する。
これに応じて、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40の駆動が開始される。
【0060】
サクションアーム20は、主駆動軸71の回転開始(ステップ102)により、糸捕捉位置S2に向けて駆動される。糸捕捉位置S2に到達するまでに、前記玉出しクレードル開放時における主駆動軸71の一時停止(ステップ103)に応じて一時停止すると共に、前記エアシリンダ75の駆動開始(ステップ104)によりサクションアーム20が伸ばされる操作を受ける。ステップ103やステップ104を経た後、サクションアーム20が糸捕捉位置S2に到達(ステップ105)し、そのまま糸出し動作の待機状態となる(ステップ106)。このとき(ステップ106)、主駆動軸71は糸出し時回転位置R3にあって、その回転は一時停止される。
【0061】
ボビンチャッカ30は、主駆動軸71の回転開始(ステップ102)後、主駆動軸71の一時停止(ステップ103)の後、駆動を開始されて、ボビン取出し位置B2へと到達する(ステップ107)。
【0062】
クレードル操作アーム40は、主駆動軸71の回転開始(ステップ102)後、駆動されて、待機位置M1から供給位置M2を経て取出位置M3に到達する(ステップ108)。クレードル操作アーム40は、取出位置M3にある状態のまま、主駆動軸71の一時停止(ステップ103)に応じて停止状態を継続する。
前述したように、クレードル操作アーム40が取出位置M3にある状態では、クレードルアーム18が開放状態となっている。そして、満巻のパッケージ6の取出し(前記玉出しクレードル開放時)に差し支えがないように、この開放状態の継続時間を長くすべく、主駆動軸71の一時停止(ステップ103)が行なわれるものとなっている。
【0063】
また、紡績ユニット2の方では、主駆動軸71の回転の開始に応じて、糸出し準備動作が行なわれる(ステップ110)。この糸出し準備動作は、具体的には、空気式精紡装置8において、紡績糸5の紡出に備えて、エア噴射によるノズルのクリーニング等が行なわれることを意味する。
【0064】
主駆動軸71が糸出し時回転位置R3に到達して、その回転が一旦停止される(ステップ106)と、糸出し動作への移行が可能な状態となる。
この状態で、糸出し動作、つまり、空気式精紡装置8からの紡績糸5の紡出と、サクションパイプ21による前記紡績糸5の捕捉と、が行なわれる。
【0065】
この糸出し動作は、一回の玉揚げ動作において、最大、二回行なわれるものとなっている。第一回目の糸出し動作において、不具合がなかった場合、つまりサクションパイプ21での糸捕捉に成功した場合は、第二回目の糸出し動作は行なわれない。また、第二回目の糸出し動作も失敗した場合は、玉揚げ動作が中断されて、初期状態(待機状態)への復帰が行なわれる。
【0066】
そこでまず、空気式精紡装置8において、第一回目の糸出し動作(紡績糸5の紡出)が、行なわれる(ステップ111)。
このとき、糸捕捉位置S2にあるサクションアーム20で、紡績糸5を捕捉すべく、サクションパイプ21によりエア吸引が行なわれている。
【0067】
サクションパイプ21には糸検出センサ23が付設されており、この糸検出センサ23(図3)により、サクションパイプ21内に糸が吸引されているか否かを、検出可能である。
【0068】
第一回目の糸出し動作に応じて、糸検出センサ23により、サクションパイプ21内で糸検出に成功したか否かが判定される(ステップ112)。糸出しが成功であると判定された場合は、ステップ113へと処理が進み、糸出しが失敗したと判定された場合は、ステップ114へと処理が進む。
【0069】
ここで、サクションパイプ21内で糸検出に成功するとは、空気式精紡装置8による紡績糸5の紡出作業や、紡出された紡績糸5のサクションパイプ21による糸捕捉が、共に成功することを意味する。つまり、ボビン17への糸掛けに適した紡績糸5が、途中で切断されるなどの不具合なく、サクションパイプ21内に吸引されていることを意味する。
一方、サクションパイプ21内で糸検出に失敗した場合とは、紡績糸5の紡出作業や糸捕捉に失敗した場合に相当する。
【0070】
糸検出に成功した場合、糸出し時回転位置R3にある主駆動軸71が回転駆動されて(ステップ113)、初期状態の位置である待機時回転位置R1に戻る(ステップ115)。ステップ101で待機時回転位置R1にあった主駆動軸71が、ステップ115の時点で、一回転したことになり、玉揚げ動作が完了したことになる。
【0071】
ここで、問題なく玉揚げ動作が実行される際の主駆動軸71の回転方向を正転方向とする。問題がある場合とは、例えば、糸出し動作において、糸検出に最終的(本実施の形態では二回の実行)に失敗する場合であって、糸掛け動作が実行されない場合を意味する。
したがって、ステップ102からステップ106に至る際の主駆動軸71の回転方向や、ステップ113からステップ115に至る際の主駆動軸71の回転方向は、共に正転方向である。
【0072】
図8には、糸掛け動作時における玉揚げ装置3の様子を示している。
この糸掛け動作は、ステップ113からステップ115に至る間、つまり主駆動軸71が糸出し時回転位置R3から待機時回転位置R1に戻る際に、行なわれるものである。
【0073】
この糸掛け動作においては、次の作業が行なわれる。
まず、クレードル操作アーム40が取出位置M3から供給位置M2へと戻され、受取り位置C4に位置するクレードルアーム18を開放する。これに伴って、ボビンチャッカ30がクレードルアーム18に接近して空のボビン17を供給し、クレードルアーム18に保持される。
また、サクションアーム20がクレードルアーム18に接近し、受取り位置C4のクレードルアーム18に保持されるボビン17に対して、糸掛け作業を行なう。この糸掛け作業は、サクションアーム20に備えるバンチ巻装置22を利用して、玉揚げ装置3に備えるフリクションローラ(図示せず)により、クレードルアーム18の保持するボビン17を回転させることで行なわれる。
【0074】
クレードルアーム18に新たに保持されたボビン17に対する糸掛けが終了した後、主駆動軸71の待機時回転位置R1への復帰に伴って、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40は、それぞれ待機位置S1・B1・M1に戻る。なお、サクションアーム20の待機位置S1への復帰は、糸掛けが終了後に前記エアシリンダ75の駆動が停止されて、サクションアーム20が縮められた状態で行なわれる。
また、クレードル操作アーム40の待機位置M1への復帰に伴って、クレードルアーム18が開始位置C1に復帰する。
以上のようにして、玉揚げ動作が終了する。
【0075】
次いで、第一回目の糸出し動作の成否判定(ステップ112)で、糸検出に失敗した場合を説明する。
この場合、第二回目の糸出し動作が実行されるものであり、この実行時間に相当する時間の間、主駆動軸71は糸出し時回転位置に静止した状態に保たれ、前記ステップ110と同様に、糸出し準備動作が行なわれる(ステップ114)。
【0076】
次いで、第二回目の糸出し動作(紡績糸5の紡出)が、行なわれる(ステップ116)。ステップ111における第一回目の糸出し動作と同じ作業である。
【0077】
第二回目の糸出し動作に応じて、ステップ112での判定と同様に、サクションパイプ21内で糸検出に成功したか否かが判定される(ステップ117)。糸出しが成功であると判定された場合は、ステップ113へと処理が進み、糸出しが失敗したと判定された場合は、ステップ118へと処理が進む。
ステップ113へと処理が進んだ場合は、前述したのと同様の手順で、糸掛け動作が行なわれて、玉揚げ動作が終了する。
【0078】
第二回目の糸出し動作が失敗した場合、今回の玉揚げ動作では、糸掛け作業を諦めて、玉揚げ装置3を初期状態に復帰させる。つまり、糸出し時回転位置R3にある主駆動軸71を逆転させて(ステップ118)、待機時回転位置R1へと戻す(ステップ115)。
このとき主駆動軸71の回転方向は、問題なく玉揚げ動作が実行される際、つまり糸掛け動作が行われる場合の回転方向に対して逆である。
【0079】
本実施の形態では、正転時に待機時回転位置R1から糸出し時回転位置R3までの主駆動軸71の回転量は、1/3回転程度である。
【0080】
このため、糸出し動作で失敗して、糸掛け動作を行なうことなく、玉揚げ動作の待機状態に玉揚げ装置3を復帰させる際に、糸出し時回転位置R3にある主駆動軸71を正転させて戻すよりも逆転して戻した方が、回転量が少なく、効率的である。高速紡績を行なう紡績機1においては、復帰に要する数秒の差が大きな差を生み出すことになる。
【0081】
また、主駆動軸71を正転して、玉揚げ動作の待機状態に玉揚げ装置3を復帰させるとなると、必要もなく、糸出し動作の手順を実行することになる。そうすると、糸出し動作が失敗しているにも拘わらず、ボビンチャッカ30により空のボビンを巻取装置10に供給することになり、後に再び玉揚げ動作が行なわれる際に、巻取装置10より空のボビン17を取除いておくという作業が必要となる。このボビン17を取除いておかないと、この空のボビン17が、後に再び玉揚げ動作が行なわれた際に、通常の満巻の巻糸パッケージ6の搬送と同様にして搬送されてしまうためである。
【0082】
主駆動軸71を逆転させた場合でも、主駆動軸71が待機時回転位置R1に到達すれば(ステップ115)、サクションアーム20、ボビンチャッカ30、クレードル操作アーム40は、それぞれ待機位置S1・B1・M1に戻る。また、クレードルアーム18も開始位置C1に復帰する。
そして、玉揚げ装置3が初期状態に復帰する。
【0083】
次に、図9を用いて、玉揚げ動作の成功・不成功による必要時間の違いを説明する。
図9(a)は、第一回目の糸出し動作に成功して、玉揚げ動作が成功した場合のタイムチャートであり、本実施の形態の場合、この玉揚げ動作に要する必要時間は、仮に糸出し動作に要する時間を2.0sec(秒)とすると、13sec(秒)となっている。
玉揚げ動作は、前述したように、玉出し動作、糸出し動作、糸掛け動作、よりなるが、このうち、玉出し動作に4.5sec(秒)を要し、糸出し動作に2.0sec(秒)を要し、糸掛け動作に6.5sec(秒)を要するものとなっている。
【0084】
図9(b)は、第二回目の糸出し動作に成功して、玉揚げ動作が成功した場合、つまり第一回目の糸出し動作には失敗した場合のタイムチャートである。本実施の形態の場合、第二回目の糸出し動作で玉揚げ動作が成功した場合に、この玉揚げ動作に要する必要時間は、15sec(秒)となっている。
このうち、玉出し動作に4.5sec(秒)を要し、第一回目の糸出し動作に2.5sec(秒)を要し、第二回目の糸出し動作に2.0sec(秒)を要し、糸掛け動作に6.5sec(秒)を要するものとなっている。
つまり、糸出し動作を一回余計に行なう必要がある分、その糸出し動作に要する時間だけ、玉揚げ動作に要する必要時間が、第一回目の糸出し動作で玉揚げ動作が成功した場合よりも、長くなっている。
【0085】
図9(c)は、玉揚げ動作が失敗した場合、つまり、第一回目および第二回目の糸出し動作に共に失敗した場合のタイムチャートである。本実施の形態の場合、玉揚げ動作が失敗した場合に、初期状態(待機状態)に復帰するのに要する必要時間は、12sec(秒)となっている。
このうち、玉出し動作に4.5sec(秒)を要し、第一回目の糸出し動作に2.0sec(秒)を要し、第二回目の糸出し動作に2.0sec(秒)を要し、初期状態への復帰に3.5sec(秒)を要するものとなっている。
この初期状態への復帰に要する時間は、単純には、玉出し動作に要する時間に一致するものであるが、本実施の形態の玉出し動作においては、主駆動軸71を停止させる時間が含まれているため、前記復帰に要する時間の方が短いものとなっている。前述したように、玉出しクレードル開放時においては、満巻の巻糸パッケージ6の取出しのための作業時間を確保すべく、特別に主駆動軸71を停止させる時間を設けている。
【0086】
以上の三つのタイムチャートの比較により、次のことがわかる。
まず、玉揚げ動作が失敗した場合(図9(c))は、玉揚げ装置3において、糸掛け動作を行なうことなく、主駆動軸71を逆転させて初期状態へと復帰させるようにしているため、第二回目の糸出し動作で玉揚げ動作が成功した場合(図9(b))よりも、必要時間が短いものとなっている。もし、主駆動軸71の逆転を行なわず糸掛け動作を行なう場合と同じように、主駆動軸71を正転させて初期状態へと復帰させた場合は、玉揚げ動作が失敗した場合に要する時間は、第二回目の糸出し動作で玉揚げ動作が成功した場合と等しくなる。つまり、糸掛け動作に要する時間と、主駆動軸71の逆転による初期状態への復帰に要する時間と、の差の分だけ、必要時間が短縮されている。
【0087】
また、本実施の形態の場合は、玉揚げ動作に関わる各必要時間(玉出し動作に必要な時間等)の長さの関係上、玉揚げ動作が失敗した場合(図9(c))に要する時間(12sec)の方が、第一回目の糸出し動作で玉揚げ動作が成功した場合に要する時間(13sec)よりも、短くなっている。
【0088】
次に、玉揚げ動作が失敗した場合の処理について説明する。
ある紡績ユニット2に対する玉揚げ装置3による自動の玉揚げ動作が失敗した場合、その紡績ユニット2は、作業者等による外的なメンテナンスを必要とする状態にある。そこで、各紡績ユニット2には、自らが自動の玉揚げ動作不能状態にある場合に、その状態を警告する手段として、警報ランプ80が機体の正面に取り付けられている。
この警報ランプ80は、自らが取り付けられている紡績ユニット2が玉揚げ動作不能状態にあるときに、例えば赤色に点灯して、作業者に警告を発するものである。
【0089】
なお、玉揚げ動作不能状態の表示手段としては、前記警報ランプ80に限定するものではなく、紡績ユニット2の機体に取り付けた傾倒自在の板状部材を、通常は前記機体に沿わせる角度に保ち、玉揚げ動作不能時に機体に対して傾斜するように傾倒させるようにしてもよい。
また、紡績ユニット2における警報ランプ80の配設位置は、紡績ユニット2の機体の最上位置であってもよく、限定するものではない。
また、警報ランプの表示色も赤に限定するものではない。加えて、通常時には、消灯状態でもよければ、正常状態を意味する緑等の表示色に点灯させるものとしてもよい。
【0090】
ここで、本実施の形態に関わる紡績機1には、多数の紡績ユニット2が備えられると共に、これらの紡績ユニット2間を走行して玉揚げ動作を行う玉揚げ装置3が設けられている。
このため、ある特定の紡績ユニット2で玉揚げ動作が失敗することがあると、その紡績ユニット2に対する玉揚げ動作は中断されたことになるが、他の紡績ユニット2に対しては、玉揚げ動作を継続して行うことが可能である。
【0091】
本発明の自動玉揚げ動作方法をまとめる。
第一の発明たる自動玉揚げ動作方法は、糸出し装置と、クレードルを備える巻取装置と、を備える相手装置に対して、玉揚げ装置により行なう、自動玉揚げ動作方法である。
この自動玉揚げ動作方法には、前記クレードルよりパッケージ付きボビンを取出す玉出し動作工程と、前記糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を捕捉する糸出し動作工程と、前記クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰する糸掛け動作工程と、が備えられている。
そして、前記糸出し動作工程で前記糸の捕捉に失敗した場合、前記糸掛け動作工程の代わりに、前記糸掛け動作工程を経ることなく初期状態に復帰させる復帰工程を実行するものである。
【0092】
本実施の形態に係る紡績機1においては、次の構成である。
紡績機1には、玉揚げ装置3と、玉揚げ装置3の相手装置となる紡績ユニット2が多数備えられている。
この紡績ユニット2には、ドラフト装置7および空気式精紡装置8よりなる糸出し装置と、クレードルアーム18(前記クレードル)を備える巻取装置10と、が備えられている。
玉揚げ装置3の相手装置の構成としては、糸出し装置と巻取装置とを備える装置であれば良く、パッケージの巻返しを行なう自動ワインダーであってもよい。この自動ワインダーにおいては、前記糸出し装置が、巻糸パッケージの巻出し装置に相当する。
【0093】
玉揚げ装置3には、サクションアーム20、ボビン移載装置であるボビンチャッカ30、クレードル操作装置であるクレードル操作アーム40、が備えられている。サクションアーム20には、エア吸引式糸捕捉装置であるサクションパイプ21が備えられている。
玉出し動作工程では、クレードル操作アーム40によりクレードルアーム18より巻糸パッケージ6付きのボビン17が取出される。
糸出し動作工程では、空気式精紡装置8より紡績糸5を紡出し、その紡績糸5をサクションアーム20に備えるサクションパイプ21で捕捉する。
糸掛け動作工程では、ボビンチャッカ30によりクレードルアーム18に空のボビン17を供給し、そのボビン17にサクションパイプ21が捕捉する紡績糸5の糸掛けを行なって初期状態に復帰させる。
【0094】
以上構成により、糸出し動作の失敗時には、交換用の空のボビンの供給を行なう糸出し動作工程が省略される。
このため、糸出し動作が失敗しているにも拘わらず、空のボビンが前記巻取装置に供給されて、ボビンの除去作業を作業者に強いることがない。
【0095】
第二の発明たる自動玉揚げ動作方法は、第一の発明において、次の構成としたものである。
前記玉揚げ装置には、
単一のモータにより連動して駆動される、エア吸引式糸捕捉装置と、ボビン移載装置と、クレードル操作装置と、を備え、
前記玉出し動作工程では、前記モータを正転させて前記クレードル操作装置により前記クレードルよりパッケージ付きボビンを取出し、
前記糸出し動作工程では、前記モータを停止した状態で前記糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を前記エア吸引式糸捕捉装置で捕捉し、
前記糸掛け動作工程では、前記モータをさらに正転させて前記ボビン移載装置により前記クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記エア吸引式糸捕捉装置が捕捉する前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰させ、
前記復帰工程では、前記モータを逆転させて前記糸掛け動作工程を経ることなく初期状態に復帰させる、ものである。
【0096】
本実施の形態に係る紡績機1においては、玉揚げ装置3に備える次の各装置、サクションパイプ21を備えるサクションアーム20、ボビン移載装置であるボビンチャッカ30、クレードル操作装置であるクレードル操作アーム40は、単一のモータ70により連動して駆動される構成である。
【0097】
以上構成により、モータを正転させれば、本自動玉揚げ動作方法を構成する各工程が順番に進行し、モータを逆転させれば、本自動玉揚げ動作方法を構成する全工程を経なくても初期状態に復帰する。
このため、玉出し動作、糸出し動作、糸掛け動作に係る玉揚げ装置側に備える各装置を、同一の駆動源により駆動する構成として、装置構成の単純化が実現される。
【0098】
第三の発明たる自動玉揚げ動作方法は、第一または第二の発明において、次の構成としたものである。
前記糸出し動作工程は、前記エア吸引式糸捕捉装置による前記糸の捕捉が成功するまで所定の複数回実行するものである。
【0099】
本実施の形態では、糸出し動作工程において、サクションパイプ21を備えるサクションアーム20による紡績糸5の捕捉は、二回行なわれるものとなっている。
【0100】
このため、玉揚げ装置による自動の玉揚げ動作の成功率が向上し、作業者のメンテナンスがなくても成功する場合に、作業者を煩わせることがない。
【0101】
第四の発明たる自動玉揚げ動作方法は、第一から第三のいずれかの発明において、次の構成としたものである。
前記玉揚げ装置は、複数台の前記相手装置間を走行可能に構成されると共に、一台の玉揚げ装置が、前記相手装置からの玉揚げ動作要求に応じて、玉揚げ動作を実行するものである。
【0102】
このため、玉揚げ動作を構成する工程中でそれなりの作業時間を要する糸出し動作工程を、玉揚げ動作の失敗時には実行しないでよく、特定の相手装置に玉揚げ装置が拘束される時間が短縮され、装置全体の作業効率の向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本実施の形態に係る紡績機の側面図である。
【図2】玉揚げ装置の側面図である。
【図3】サクションアーム、ボビンチャッカ、クレードル操作アームの駆動機構を示す概略図である。
【図4】玉揚げ動作方法の概略手順を示すフロー図である。
【図5】玉揚げ動作のフロー図である。
【図6】待機時における玉揚げ装置の様子を示す側面図である。
【図7】糸出し動作時における玉揚げ装置の様子を示す側面図である。
【図8】糸掛け動作時における玉揚げ装置の様子を示す側面図である。
【図9】玉揚げ動作のタイムチャート図であり、(a)図は第一回糸出し動作での玉揚げ動作成功時、(b)図は第二回糸出し動作での玉揚げ動作成功時、(c)図は玉揚げ動作失敗時を示す。
【符号の説明】
【0104】
1 紡績機
2 紡績ユニット(相手装置)
3 玉揚げ装置
7 ドラフト装置(糸出し装置)
8 空気式精紡装置(糸出し装置)
10 巻取装置
18 クレードルアーム
20 サクションアーム
21 サクションパイプ
30 ボビンチャッカ
40 クレードル操作アーム
70 モータ
1000 玉揚げ動作工程
2000 糸出し動作工程
3000 糸掛け動作工程
4000 逆転復帰工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸出し装置と、クレードルを備える巻取装置と、を備える相手装置に対して、玉揚げ装置により行なう、自動玉揚げ動作方法であって、
前記クレードルよりパッケージ付きボビンを取出す玉出し動作工程と、
前記糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を捕捉する糸出し動作工程と、
前記クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰する糸掛け動作工程と、
を備え、
前記糸出し動作工程で前記糸の捕捉に失敗した場合、
前記糸掛け動作工程の代わりに、前記糸掛け動作工程を経ることなく初期状態に復帰させる復帰工程を実行する、
ことを特徴とする自動玉揚げ動作方法。
【請求項2】
前記玉揚げ装置には、
単一のモータにより連動して駆動される、エア吸引式糸捕捉装置と、ボビン移載装置と、クレードル操作装置と、を備え、
前記玉出し動作工程では、前記モータを正転させて前記クレードル操作装置により前記クレードルよりパッケージ付きボビンを取出し、
前記糸出し動作工程では、前記モータを停止した状態で前記糸出し装置より糸出しを開始して、その糸を前記エア吸引式糸捕捉装置で捕捉し、
前記糸掛け動作工程では、前記モータをさらに正転させて前記ボビン移載装置により前記クレードルに空のボビンを供給し、そのボビンに前記エア吸引式糸捕捉装置が捕捉する前記糸の糸掛けを行なって初期状態に復帰させ、
前記復帰工程では、前記モータを逆転させて前記糸掛け動作工程を経ることなく初期状態に復帰させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の自動玉揚げ動作方法。
【請求項3】
前記糸出し動作工程は、前記エア吸引式糸捕捉装置による前記糸の捕捉が成功するまで所定の複数回実行する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動玉揚げ動作方法。
【請求項4】
前記玉揚げ装置は、複数台の前記相手装置間を走行可能に構成されると共に、一台の玉揚げ装置が、前記相手装置からの玉揚げ動作要求に応じて、玉揚げ動作を実行する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動玉揚げ動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−225092(P2006−225092A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39766(P2005−39766)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】